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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002608
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法用のビーム成形体
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20221227BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20221227BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G21K5/08 N
A61N5/10 H
G21K5/08 C
G21K5/02 N
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161810
(22)【出願日】2022-10-06
(62)【分割の表示】P 2018532142の分割
【原出願日】2016-12-21
(31)【優先権主張番号】201610013472.X
(32)【優先日】2016-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201620017409.9
(32)【優先日】2016-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515153495
【氏名又は名称】南京中硼▲聯▼康医▲療▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Neuboron Medtech Ltd.
【住所又は居所原語表記】3rd Floor, Block 6, NO. 568, Longmian Ave, Jiangning District, Nanjing, Jiangsu 211112 China
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【弁理士】
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼渊豪
(72)【発明者】
【氏名】李珮▲儀▼
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ターゲットの耐用年数を向上させる中性子捕捉療法用のビーム成形体を提供する。
【解決手段】中性子捕捉療法用のビーム成形体(10)は、加速管(12)、ターゲット(13)、減速体(14)を含む。ビーム成形体の冷却装置は、ターゲットを冷却するための第一冷却部と、それぞれ加速管の軸方向と平行に延在し、かつ第一冷却部に連通する第二冷却部及び第三冷却部と、を含み、第一冷却部はターゲットと平面接触し、第一部はターゲットと直接接触する第一接触部を含み、第二冷却部は第一冷却部に冷却媒体を流入させ、第三冷却部は第一冷却部中の冷却媒体を流出させる。減速体は、少なくとも1つの錐体形状を有するとともに、第一端部及び第二端部を有し、錐体形状は、第一端部と第二端部との間に位置する第三端部と、第一端部と第三端部を接続する本体部とを有し、第一部はターゲットと第三端部との間に位置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子捕捉療法用のビーム成形体であって、
陽子ビームを加速させる加速管と、
ビーム入口と、
前記加速管内に配置されたターゲットと、
前記ターゲットに隣接する減速体と、
前記減速体の外を囲む反射体と、
前記減速体に隣接する熱中性子吸収体と、
前記ビーム成形体内に配置された放射シールド及びビーム出口と、
を含み、
前記ターゲットは前記ビーム入口から入射された陽子ビームと原子核反応して中性子を発生し、前記中性子は中性子ビームを形成し、前記減速体は前記ターゲットから発生した中性子を熱外中性子エネルギー領域まで減速させ、前記反射体は逸脱した中性子を前記減速体に戻して熱外中性子ビームの強度を増加させ、前記熱中性子吸収体は熱中性子を吸収し、治療時に浅層の正常組織による過度の線量を回避するために使用され、前記放射シールドは漏れた中性子及び光子をシールドして非照射領域の正常組織線量を低減するために使用され、
前記ビーム成形体は、さらに冷却装置を有し、
前記冷却装置は、前記ターゲットを冷却するための第一部と、それぞれ前記加速管の軸方向と平行に延在し、かつ前記第一部に連通する第二部及び第三部とを含み、前記第一部は前記ターゲットと平面接触し、前記第一部は、前記ターゲットと直接接触する第一接触部と、第二接触部と、を含み、前記第二部は前記第一部に冷却媒体を流入させ、前記第三部は前記第一部中の冷却媒体を流出させ、
前記第一接触部が前記ターゲットの熱を放出し、かつ、前記第一部が前記第一部を流れる冷却媒体によって熱を放出することで、前記ターゲットは冷却され、
前記減速体は、少なくとも1つの錐体形状を有し、前記減速体は、第一端部及び第二端部を有し、前記錐体形状は、前記第一端部と前記第二端部との間に位置する第三端部と、前記第一端部と前記第三端部を接続する本体部とを有し、前記第一部は前記ターゲットと前記第三端部との間に位置する、ことを特徴とする、
中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項2】
前記加速管は嵌入部及び延在部を含み、前記ターゲットは前記加速管の前記嵌入部の端部に配置され、前記嵌入部は前記減速体中に配置され、前記延在部は前記減速体の外側に配置されて前記反射体により囲まれ、前記第一部は前記ターゲットと前記減速体との間に位置し、前記第二部及び前記第三部は前記加速管の軸方向と平行に前記加速管の前記嵌入部の外側まで延在して前記ビーム成形体に位置する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項3】
前記第一部は前記加速管の端部に位置し、かつ前記ターゲットと平面接触し、前記第二部及び前記第三部はそれぞれ前記加速管の上下両側に位置し、かつ前記第一部とコの字型構造を形成する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項4】
前記第二部及び前記第三部はいずれも銅製の管状構造であり、前記第二部及び前記第三部はそれぞれ前記ターゲットと前記第一部との接触平面に垂直である、ことを特徴とする、
請求項1に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項5】
前記第一部は、前記第一接触部と、前記減速体と接触する前記第二接触部と、前記第一接触部と前記第二接触部との間に位置する冷却媒体が通過する冷却タンクと、を含み、前記冷却タンクは前記第二部に連通する流入タンク及び前記第三部に連通する流出タンクを有する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項6】
前記流入タンクの上端は前記第二部の上端の上方に位置し、前記流出タンクの下端は前記第三部の下端の下方に位置する、ことを特徴とする、
請求項5に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項7】
前記加速管の前記嵌入部は前記第一端部と前記第三端部との間に位置する、ことを特徴とする、
請求項2に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項8】
前記ターゲットはリチウムターゲット層と、前記リチウムターゲット層の片側に位置して前記リチウムターゲット層の酸化を防止する酸化防止層と、を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項9】
前記第一接触部は、熱伝導性材料、または、熱伝導性で発泡を抑制する材料で製造され、前記第二接触部は、発泡を抑制する材料で製造される、ことを特徴とする、
請求項1に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【請求項10】
前記酸化防止層はAlまたはステンレス鋼で製造され、前記第一接触部が熱伝導性で発泡を抑制可能な材料で製造されるときに、前記第一接触部はFe、TaあるいはVのうちのいずれか1つから選択され、前記第二接触部はFe、TaあるいはVのうちのいずれか1つで製造され、前記冷却媒体は水である、ことを特徴とする、
請求項8に記載の中性子捕捉療法用のビーム成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビーム成形体に関し、特に中性子捕捉療法用のビーム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
原子科学の発展に従って、コバルト60、線形加速器、電子ビームなどの放射線療法は、すでにがん治療の主な手段の一つとなった。しかし、従来の光子または電子療法は、放射線そのものの物理的条件の制限で腫瘍細胞を殺すとともに、ビーム経路上の数多くの正常組織に損傷を与える。また、腫瘍細胞により放射線に対する感受性の度合いが異なっており、従来の放射線療法では、放射線耐性の高い悪性腫瘍(例、多形神経膠芽腫(glioblastoma multiforme)、黒色腫(melanoma))に対する治療効果が良くない。
【0003】
腫瘍の周囲の正常組織への放射線損傷を軽減するすために、化学療法(chemotherapy)における標的療法が、放射線療法に用いられている。また、放射線耐性の高い腫瘍細胞に対し、現在では生物学的効果比(relative biological effectiveness, RBE)の高い放射線源が積極的に開発されている(例えば、陽子線治療、重粒子治療、中性子捕捉療法など)。このうち、中性子捕捉療法は、上記の2つの構想を結びつけたものである。例えば、ホウ素中性子捕捉療法では、ホウ素含有薬物が腫瘍細胞に特異的に集まり、高精度な中性子ビームの制御と合わせることで、従来の放射線と比べて、より良いがん治療オプションを提供する。
【0004】
加速器ホウ素中性子捕捉療法において、加速器ホウ素中性子捕捉療法は加速器で陽子ビームを加速させ、前記陽子ビームはターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つのに十分なエネルギーまで加速され、前記ターゲットと核反応して中性子を発生させる。したがって、中性子を発生させる過程において、ターゲットは非常に高いエネルギーレベルの加速された陽子線の照射を受け、ターゲットの温度が大幅に上昇し、それがターゲットの耐用年数に影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって,上記問題を解決する新しい技術的解決手段を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様では、中性子捕捉療法用のビーム成形体を提供する。前記ビーム成形体は、陽子ビームを加速させる加速管を含み、前記ビーム成形体は、ビーム入口と、加速管内に配置されたターゲットと、前記ターゲットに隣接する減速体と、前記減速体の外を囲む反射体と、前記減速体に隣接する熱中性子吸収体と、前記ビーム成形体内に配置された放射シールド及びビーム出口と、を含む。前記ターゲットは、前記ビーム入口から入射された陽子ビームと原子核反応して中性子を発生し、前記中性子は中性子ビームを形成し、前記減速体は前記ターゲットから発生した中性子を熱外中性子エネルギー領域まで減速させ、前記反射体は、逸脱した中性子を前記減速体に戻して熱外中性子ビームの強度を増加させ、前記熱中性子吸収体は熱中性子を吸収し、治療時に浅層の正常組織による過度の線量を回避するために使用され、前記放射シールドは漏れた中性子及び光子をシールドして非照射領域の正常組織線量を低減するために使用される。前記ビーム成形体は、さらに冷却装置を有し、前記冷却装置は、ターゲットを冷却するための第一冷却部と、それぞれ加速管の軸方向と平行に延在し、かつ第一冷却部に連通する第二冷却部及び第三冷却部とを含み、前記第一冷却部はターゲットと平面接触し、前記第二冷却部は第一冷却部に冷却媒体を流入させ、第三冷却部は第一冷却部中の冷却媒体を流出させる。
【0007】
“加速管の軸方向と平行に延在する”とは、冷却部(第二冷却部または第三冷却部に関わらず)の全体としての延在方向が加速管の一端(以下に述べるような加速管の嵌入部の端部)から他端(以下に述べるような加速管の嵌入部から離れる延在部の端部)へ延在傾向があることを意味する。例えば、冷却部は波形の管路で加速管の一端から他端へ延在しても、または冷却部は螺旋形の管路で加速管の一端から他端へ延在してもよい。
【0008】
さらに、前記加速管は嵌入部及び延在部を含み、前記ターゲットは加速管の嵌入部の端部に配置され、前記嵌入部は減速体中に配置され、前記延在部は減速体の外側に配置されて反射体により囲まれ、前記第一冷却部はターゲットと減速体との間に位置し、前記第二冷却部及び第三冷却部は加速管の軸方向と平行に加速管の嵌入部の外側まで延在してビーム成形体に位置する。
【0009】
加速管が減速体に埋め込まれているので、嵌入式の加速管中のターゲットを冷却しやすいように、冷却装置をコの字構造に配置する。具体的には、前記第一冷却部は加速管の端部に位置し、かつ前記ターゲットと平面接触し、前記第二冷却部及び第三冷却部はそれぞれ加速管の上下両側に位置し、かつ第一冷却部とコの字構造を形成する。当業者であれば分かるように、第二冷却部及び第三冷却部が加速管の上下両側に配置されるのは好ましい実施例に過ぎない。もちろん、第二冷却部及び第三冷却部も加速管の上下両側に配置されなくてもよく、例えば、第二冷却部は加速管の片側に並んで配置されてもよい。
【0010】
さらに、前記第二冷却部及び第三冷却部はいずれも銅製の管状構造であり、前記第二冷却部及び第三冷却部はそれぞれターゲットと第一冷却部との接触平面に垂直である。
さらに、前記第一冷却部はターゲットと直接接触する第一接触部と、減速体と接触する第二接触部と、第一接触部と第二接触部との間に位置する冷却媒体が通過する冷却タンクと、を含み、前記冷却タンクは、第二冷却部に連通する流入タンク及び第三冷却部に連通する流出タンクを有する。
【0011】
冷却媒体を冷却タンクによりスムーズに流入または流出させるとともに、ある程度、冷却タンク中の冷却水の圧力を低くすることができるように、前記流入タンクの上端は第二冷却部の上端の上方に位置し、前記流出タンクの下端は第三冷却部の下端の下方に位置する。
【0012】
減速体のサイズを合理的に制御できるようにし、発生された中性子ビームがよりよい減速効果を得て、同時にビーム成形体がよりよいビーム品質を得るために、さらに、前記減速体を少なくとも1つの錐体形状を有する構造に配置する。減速体は、第一端部及び第二端部を有する。前記錐体形状は、第一端部と、第一端部と第二端部の間に位置する第三端部と、第一端部と第三端部を接続する本体部と、を有し、前記加速管の嵌入部は、第一端部と第三端部との間に位置し、前記第一冷却部はターゲットと第三端部との間に位置する。
【0013】
前記ターゲットはリチウムターゲット層と、リチウムターゲット層の片側に位置してリチウムターゲット層の酸化を防止する酸化防止層と、を含む。
ターゲットを冷却しやすいように、さらに、前記第一接触部は、熱伝導性材料または熱伝導性で発泡を抑制する材料で製造され、前記第二接触部は、発泡を抑制する材料で製造される。すなわち、第一接触部及び第二接触部は全体として熱伝導性で発泡を抑制する材料で製造されてもよく、または、第一接触部が発泡を抑制する材料の熱伝導性よりも熱伝導性が高い材料で製造され、第二接触部は発泡を抑制する材料で製造される。このように配置すれば、ターゲットの放熱及び発泡の抑制に有利である。
【0014】
前記酸化防止層はアルミニウムまたはステンレス鋼で製造され、前記第一接触部が熱伝導性で発泡を抑制可能な材料で製造されるときに、前記第一接触部はFe、TaあるいはVのうちのいずれか1つから選択され、前記第二接触部はFe、TaあるいはVのうちのいずれか1つで製造され、前記冷却媒体は水である。
【0015】
本発明の実施例に記載の“錐体”または“錐体形状”とは、図示方向の片側から他側の外輪郭に沿って全体的な傾向が次第に小さくなることを意味し、外輪郭の中の一本の輪郭線は例えば円錐体形状の対応する輪郭線のように線分であってもよく、また円弧であって、例えば球形のような対応する輪郭線であってもよく、外輪郭の全体表面は滑らかな遷移であってもよく、また滑らかではない遷移であってもよく、例えば円錐体形状であっても、または、球形の表面に多くの突起及び溝が形成されてもよい。
【0016】
本発明の実施例に記載の“接触”、“連通”などは2つまたは複数の部材との間の接続が直接的及び間接的の場合のいずれをも含み、すなわち“直接接触”及び“間接接触”、“直接連通”及び“間接連通”を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本願に係る中性子捕捉療法用のビーム成形体の概略図である。
図2図2は本願に係るコの字構造の冷却装置の概略図である。
図3図3は本願に係るI型構造の冷却装置の概略図である。
図4図4は本願に係るターゲット構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
中性子捕捉療法は効果的ながん治療の手段として、近年ではその適用が増加しており、そのうち、ホウ素中性子捕捉療法が最も一般的なものとなった。ホウ素中性子捕捉療法に用いられる中性子は原子炉または加速器で供給できる。本発明の実施形態は加速器ホウ素中性子捕捉療法(Accelerated-based Boron Neutron Capture Therapy)を例とする。加速器ホウ素中性子捕捉療法の基本モジュールは、一般的に荷電粒子(陽子、デューテリウム原子核など)の加速に用いられる加速器、ターゲット、熱除去システム及びビーム整形アセンブリを含む。加速後の荷電粒子と金属ターゲットとの作用により中性子が生成され、必要な中性子収率及びエネルギー、提供可能な加速荷電粒子のエネルギー及び電流、及び、金属ターゲットの物理的・化学的特性などにより、適切な原子核反応が選定される。よく検討されている原子核反応は7Li(p,n)7Be及び9Be(p,n)9Bであり、この両方はすべて吸熱反応でエネルギー閾値がそれぞれ1.881MeVと2.055MeVである。ホウ素中性子捕捉療法の理想的中性子源はkeVエネルギーレベルの熱外中性子なので、理論的には、エネルギーが閾値よりやや高い陽子によるリチウムターゲットへの衝撃で、比較的低いエネルギーの中性子が生成され、あまり多くの減速処理を要しないで臨床適用が可能になる。しかし、リチウム(Li)及びベリリウム(Be)の2種のターゲットは、閾値エネルギーの陽子と作用する断面が大きくないので、十分な中性子束を確保するために、一般的には比較的高いエネルギーを持つ陽子で原子核反応を引き起こされる。
【0019】
理想的なターゲットには、中性子収率が高く、生成した中性子のエネルギー分布が熱外中性子エネルギー領域(後ほど詳細に説明)に近く、強い透過性のある放射線をあまり多く生成せず、安全かつ簡単で操作しやすく、耐高温性を持つなどの特性が必要とされるが、実際にすべての要件を満たす原子核反応は見つからないので、本発明の実施形態ではリチウムターゲットを採用する。ただし、この分野の技術者がよく知っていることとして、ターゲットの材料に、上記の金属材料を除くその他の金属材料を採用できる。
【0020】
熱除去システムに対する要求は、選択された核反応によって異なる。例えば、7Li(p,n)7Beが金属ターゲット(リチウム)の場合、融点及び熱伝導率が低いため、熱除去システムへの要求は9Be(p,n)9Bより高い。本願の実施例では、7Li(p,n)7Beの核反応を採用する。これにより、高エネルギーレベルの加速陽子ビームによって照射されたターゲットの温度は著しく上昇し、それによりターゲットの耐用年数に影響する。
【0021】
ホウ素中性子捕捉療法の中性子源は、原子炉或いは加速器による荷電粒子とターゲットとの核反応から由来するかにかかわらず、発生するのはいずれも混合放射場である。すなわち、ビームは低エネルギーから高エネルギーまでの中性子及び光子を含む。深部腫瘍のホウ素中性子捕捉療法について、熱外中性子を除くその他の放射線量が多いほど、正常組織の非選択的な線量沈着の割合も大きくなりので、これらの不必要な線量を引き起こす放射線をできる限り低減する必要がある。エアービームの品質要素の他、中性子による人体中の線量分布をさらに理解するために、本願の実施例は、人間の頭部組織の人工器官を用いて線量を算出し、そして人工器官におけるビームの品質要素を中性子ビームの設計の参考とする。後ほど詳細に説明する。
【0022】
国際原子力機関(IAEA)は、臨床的ホウ素中性子捕捉療法の中性子源について、5つの空気ビーム品質係数を提案し、これらの5つの提案は、異なる中性子源の長所と短所とを比較するために利用できる他、中性子発生経路を選定及びビーム成形体の設計をする時の参考として利用できる。これらの5つの提案は、それぞれ以下のとおりである:
熱外中性子束 Epithermal neutron flux > 1 x 109 n/cm2s
高速中性子汚染 Fast neutron contamination < 2 x 10-13 Gy-cm2/n
光子汚染 Photon contamination < 2 x 10-13 Gy-cm2/n
熱中性子束と熱外中性子束との比 thermal to epithermal neutron flux ratio < 0.05
熱外中性子流と熱外中性子束との比 epithermal neutron current to flux ratio > 0.7
注:熱外中性子エネルギー領域は0.5eV~40keVにあり、熱中性子エネルギー領域は0.5eV未満であり、高速中性子エネルギー領域は40keV以上である。
【0023】
1.熱外中性子束:
中性子束と腫瘍中のホウ素含有薬物の濃度とで臨床治療の時間が決まる。腫瘍中のホウ素含有薬物の濃度が高い場合、中性子束の必要量を低減することができ、逆に、腫瘍中のホウ素含有薬物の濃度が低い場合、高フラックスの熱外中性子で腫瘍に十分な線量を与える必要がある。IAEAが熱外中性子束への要件は、1秒あたりの平方センチメートル当たりの熱外中性子の数が109個以上上であり、このフラックス下での中性子ビームで、現在のホウ素含有薬物では、治療時間を大まかに1時間以内に制御することができる。短い治療時間は患者のポジショニングと快適さの利点に加えて、ホウ素含有薬物が腫瘍内にある限られた滞留時間を効果的に利用することができる。
【0024】
2.高速中性子汚染:
高速中性子は、正常組織への不必要な線量を引き起こす可能性があるため、汚染とみなされる。この線量と中性子エネルギーとには正の相関があるので、中性子ビームは、高速中性子線量を最小限に抑えるように設計する必要がある。高速中性子汚染は、単位熱外中性子束に伴う高速中性子の線量と定義され、IAEAは高速中性子汚染に対し2 x 10-13 Gy-cm2/n未満を推奨している。
【0025】
3、光子汚染(γ線汚染):
γ線は強通過放射線であり、非選択的にビーム経路上のすべての組織に線量堆積を引き起こす可能性があるので、γ線の含有量を低減することも中性子ビーム設計の必要条件である。γ線汚染は、単位熱外中性子束に伴うγ線線量と定義される。IAEAは、γ線汚染に対して2 x 10-13 Gy-cm2/n未満を推奨している。
【0026】
4.熱中性子束と熱外中性子束との比:
熱中性子は、減衰速度が速く、通過能力が低く、人体に入るとエネルギーの大部分は皮膚組織に沈着するので、黒色腫などの皮膚腫瘍にホウ素中性子捕捉療法の中性子源として熱中性子を使用する場合以外、脳腫瘍のような深部腫瘍に対しては熱中性子の含有量を低減する必要がある。IAEAは熱中性子束と熱外中性子束との比に対して0.05未満を推奨している。
【0027】
5.熱外中性子流と熱外中性子束との比:
熱外中性子電流と熱外中性子束との比は、熱外中性子ビームの指向性を表す。その比が大きいほど、中性子束の前向性は高く、高い前向性の中性子ビームは、中性子の発散による周囲の正常組織への線量を低減させることができる他、治療可能な深さ及び配置姿勢の柔軟性を改善することができる。IAEAは、中性子流と線束との比に対して0.7以上を推奨している。
【0028】
中性子捕捉療法のビーム成形体がターゲット冷却という問題を解決する同時に、よりよい中性子ビーム品質を得るために、本願は中性子捕捉療法用のビーム成形体10を提供する。前記ビーム成形体10内にターゲットを冷却するための冷却装置20が配置される。
【0029】
図1に示すように、前記ビーム成形体10は、ビーム入口11と、ビーム成形体10に位置する加速管12と、加速管12に配置されたターゲット13と、前記ターゲット13に隣接する減速体14と、前記減速体14の外を囲む反射体15と、前記減速体14に隣接する熱中性子吸収体16と、前記ビーム成形体10内に配置された放射シールド17及びビーム出口18と、を含む。前記ターゲット13は、前記ビーム入口11から入射された陽子ビームと原子核反応して中性子を発生し、前記中性子は中性子ビームを形成し、前記中性子ビームは主軸Xを規定する。前記減速体14は、前記ターゲット13から発生した中性子を熱外中性子エネルギー領域まで減速させ、前記反射体15は、中性子ビームの主軸Xから逸脱した中性子を前記減速体14に戻して熱外中性子ビームの強度を増加させる。前記熱中性子吸収体16は、熱中性子を吸収し、治療時に浅層の正常組織による過度の線量を回避するために使用される。前記放射シールド17は漏れた中性子及び光子をシールドして非照射領域の正常組織線量を低減するために使用される。
【0030】
加速器ホウ素中性子捕捉療法は加速器で陽子ビームを加速させ、好ましい実施例として、ターゲット13はリチウム金属で製造され、陽子ビームはターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つのに十分なエネルギーまで加速され、ターゲット13と7Li(p,n)7Be核反応で中性子を発生し、ビーム成形体10は中性子を熱外中性子エネルギー領域に減速させ、かつ熱中性子及び高速中性子の線量を低減させることができる。
【0031】
前記減速体14は、高速中性子の作用断面が大きく、熱外中性子の作用断面が小さい材料で製造され、前記反射体15は中性子反射能力が強い材料で製造され、熱中性子吸収体16は熱中性子との作用断面が大きい材料で製造される。好ましい実施例として、減速体14は、DO、AlF、フルエンタルTM、CaF、LiCO、MgF及びAlのうちの少なくとも1つで製造され、反射体15は、PbまたはNiのうちの少なくとも1つで製造され、熱中性子吸収体16は、Liで製造される。放射シールド17は光子シールド171及び中性子シールド172を含み、好ましい実施例として、放射シールド17は、鉛(Pb)製の光子シールド171と、ポリエチレン(PE)製の中性子シールド172と、を含む。
【0032】
前記加速管12は嵌入部121及び延在部122を含み、前記ターゲット13は加速管12の嵌入部121の端部に配置される。前記嵌入部121は、減速体14中に組み込まれ、前記延在部122は、減速体14の外側に延びて反射体により囲まれる。本実施形態において、加速管12は減速体14中に組み込まれ、冷却装置20が嵌入式の加速管12中のターゲット13を冷却させると同時にビーム成形体10がよりよい中性子ビーム品質を得るために、冷却装置20を以下のように配置する。
【0033】
前記冷却装置20は、ターゲット13を冷却するための第一冷却部21と、加速管12の軸方向に延在し、かつ加速管12の両側に位置する第二冷却部22及び第三冷却部23と、を含み、前記第二冷却部22は第一冷却部21に冷却媒体を流入させ、第三冷却部23は第一冷却部21中の冷却媒体を流出させる。前記第一冷却部21はターゲット13と減速体14との間に位置し、前記第一冷却部21の片側はターゲット13と接触し、他側は減速体14と接触する。前記第二冷却部22及び第三冷却部23はそれぞれ加速管12の延在部122の外側から加速管12の嵌入部121の外側まで延在し、それぞれ第一冷却部21と連通し、かつ減速体14中に位置する。すなわち、第一冷却部21は加速管12の嵌入部121の端部に位置し、ターゲット13の片側に位置し、かつターゲット13と直接接触する。前記第二冷却部22及び第三冷却部23はそれぞれ加速管12の上下両側に位置し、かつそれぞれ第一冷却部21と連通し、それにより冷却装置20全体をコの字構造に配置させる。本実施形態において、前記第一冷却部21はターゲット13と平面接触し、第二冷却部22及び第三冷却部23はいずれも銅製の管状構造であり、かつ第二冷却部22及び第三冷却部23は、それぞれ前記第一冷却部21とターゲット13との接触平面に垂直である(図2参照)。
【0034】
前記第一冷却部21は、第一接触部211と、第二接触部212と、第一接触部211と第二接触部212との間に位置する冷却媒体が通過する冷却タンク213と、を含む。前記第一接触部211は、ターゲット13と直接接触し、前記第二接触部212は、減速体14と直接接触してもよいし、空気間接接触してもよい。前記冷却タンク213は、第二冷却部22に連通する流入タンク214及び第三冷却部23に連通する流出タンク215を有する。前記第一接触部211は熱伝導性材料で製造される。前記流入タンク214の上端は、第二冷却部22の上端の上方に位置し、前記流出タンク215の下端は、第三冷却部23の下端の下方に位置する。このように配置する利点は、冷却装置20において、冷却水を冷却タンク213によりスムーズに流入させ、ターゲット13を速やかに冷却させ、加熱された冷却水を冷却タンク213からスムーズに流出させることができ、同時に、冷却タンク213内の冷却水の水圧をある程度小さくすることができる。
【0035】
当然、冷却装置をI型構造に配置して、嵌入式の加速管12中のターゲット13を冷却させることができる。前記I形冷却装置20中の第一冷却部21’は、コの字型冷却装置20の第一冷却部21と配置が同じであり、異なる点は、前記I形冷却装置20中の第二冷却部22’及び第三冷却部23’が、第一冷却部21’と同じ平面に位置し、かつ第二冷却部22’及び第三冷却部23’はそれぞれ加速管12の軸方向に垂直な方向に沿って減速体14から突出する、すなわち上記I型構造(図3参照)である。前記I型構造の冷却装置20はターゲット13の冷却を実現できるが、減速体14上に第二冷却部22’及び第三冷却部23’が通過するタンク24を配置しなければならず、アセンブリが複雑になる。かつ冷却装置をI型構造のように配置した際のビーム成形体10の中性子線束及び空気中のビーム品質係数は、冷却装置をコの字型構造のように配置した際のビーム成形体10の中性子線束及び空気中のビーム品質係数より低い。
【0036】
ここで減速体14がAlF(2.78g/cm3)で製造されることを例にして、MCNPソフトウェア(米国ロスアラモス国立研究所(LosAlamos National Laboratory)により開発されたモンテカルロ法に基づく三次元複合幾何学的構造における中性子、光子、荷電粒子、または結合した中性子/光子/荷電粒子輸送問題を計算するための汎用ソフトウェアパッケージ)を採用して、それぞれコの字型及びI型冷却装置を配置した際のビーム成形体に対してシミュレーション計算を行う。
【0037】
以下の表1は、空気中のビーム品質係数のこの2つの実施例を示す:
【0038】
【表1】
【0039】
以下の表2は、中性子線束のこの2つの実施例を示す:
【0040】
【表2】
【0041】
前記ターゲット13は、リチウムターゲット層131と、リチウムターゲット層131の片側に位置してリチウムターゲット層131の酸化を防止するための酸化防止層132と、を含む。前記ターゲット13の酸化防止層132は、Alまたはステンレス鋼で製造される。第一接触部211は、熱伝導性材料(例えばCu、Fe、Alなどの熱伝導性の高い材料)または熱伝導性で発泡を抑制可能な材料で製造され、第二接触部は発泡を抑制する材料で製造される。発泡を抑制する材料または熱伝導性で発泡を抑制可能な材料は、Fe、TaあるいはVのうちのいずれか1つで製造される。ターゲット13は、高エネルギーレベルの加速陽子ビーム照射を受けて温度が上昇して発熱し、前記第一接触部211は熱を放出し、かつ冷却タンク213で流れる冷却媒体によって熱を放出し、それによりターゲット13を冷却する。本実施形態において、前記冷却媒体は水である。
【0042】
好ましい実施形態として、前記減速体14を少なくとも1つの錐体形状140を有する構造に配置する。前記減速体14は第一端部141及び第二端部142を有し、前記錐体形状140は、第一端部141と第二端部142との間に位置する第三端部143と、第一端部141及び第三端部143を接続する本体部144を有する。前記加速管12の嵌入部121は錐体形状140の第一端部141と第三端部143との間に位置し、前記第一冷却部21はターゲット13と錐体形状140の第三端部143との間に位置する。このように配置する利点は、減速体14のサイズを合理的に制御することができ、発生した中性子ビームがより良好な減速効果を達成しつつ、ビーム成形体が良好なビーム品質を達成できる点にある。具体的に言えば、第一冷却部21がターゲット13と錐体形状140の第三端部143との間に位置するため、第三端部143の後に位置する部分の減速体14の前向性は高くかつエネルギーの高い中性子を減速させることができる。すなわち、このような配置では、前向性が高くかつエネルギーの高い中性子について、中性子を完全に減速させるのに十分に長いサイズを有することができる。中性子ビーム主軸Xからずれた中性子については、ビーム主軸Xから逸脱した中性子が本体部144で減速された後に反射体15に移動し、反射体15は減速体14の錐体形状設計によって、ある角度でビーム主軸Xから逸脱した中性子が中性子ビーム主軸Xに反射し戻される。同時に、錐体形状設計はエネルギーの低い中性子が中性子ビーム主軸Xに反射し戻される経路上での過剰減速を回避することができ、前向性の中性子の減速効果を向上させるとともに、中性子ビームの強度を維持することができ、さらに、ビーム成形体10が良好な中性子ビーム品質を得ることが保証される。
【0043】
本願の実施例における前記減速体の“錐体”または“錐体形状”構造とは、減速体が図示方向の片側から他側の外輪郭に沿って全体的な傾向が次第に小さくなる構造を意味し、外輪郭の中の一本の輪郭線は例えば円錐体形状の対応する輪郭線のように線分であってもよく、また円弧であって、例えば球形のような対応する輪郭線であってもよく、外輪郭の全体表面は滑らかな遷移であってもよく、また滑らかではない遷移であってもよく、例えば円錐体形状であっても、または、球形の表面に多くの突起及び溝が形成されてもよい。
【0044】
本発明の開示する中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリは、以上の実施例に記載の内容及び図面に示す構造に限定されるものではない。本出願に基づく、本明細書に開示された構成要素の材料、形状、および位置における明らかな変更、置換、または修正は、いずれも本発明の特許請求の保護範囲内にある。
図1
図2
図3
図4