(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026085
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】電気化学セル、セルスタック及び電気化学セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/77 20210101AFI20230216BHJP
【FI】
C25B9/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131730
(22)【出願日】2021-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】菊池 勇
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021CA01
4K021DB49
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】流路板にヒビ割れが発生し難くなる電気化学セルを提供する。
【解決手段】一実施の形態によれば、電気化学セル1は、アノード電極11、カソード電極12、及び隔膜13を有する電極板10と、アノード電極11に一方の面で接するか又はカソード電極12に他方の面で接し、一方の面に複数のアノード側流路溝21が形成され、他方の面に複数のカソード側流路溝22が形成される流路板20と、電極板10に接合される電極板外枠100と、流路板20に接合される流路板外枠200と、を備える。流路板20は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ凸部及び凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、一方の面における波形状の表面でアノード側流路溝21を形成し、他方の面における波形状の表面でカソード側流路溝22を形成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に挟み込まれる隔膜を有する電極板と、
前記アノード電極に一方の面で接するか又は前記カソード電極に他方の面で接し、前記一方の面に複数のアノード側流路溝が形成され、前記他方の面に複数のカソード側流路溝が形成される流路板と、
前記電極板に接合される電極板外枠と、
前記流路板に接合される流路板外枠と、を備え、
前記流路板は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ前記凸部及び前記凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、前記一方の面における波形状の表面で前記アノード側流路溝を形成し、前記他方の面における波形状の表面で前記カソード側流路溝を形成する、電気化学セル。
【請求項2】
前記流路板は、前記凸部と前記凹部とが同一の周期で且つ同一の振幅で形成される波板状である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記凸部と前記凹部とが交互に形成される部分での前記流路板の厚さが、一定である、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記アノード側流路溝は、前記アノード電極に供給されるアノード側流体を流通させ、前記カソード側流路溝は、前記カソード電極にカソード側流体が供給される場合に、前記カソード側流体を流通させ、
前記流路板外枠は、複数の前記アノード側流路溝のうちの一部分から流出する前記アノード側流体を受け入れ、複数の前記アノード側流路溝のうちの他の部分に折り返して流入させる一つ又は複数のアノード側流体ターン部、及び、複数の前記カソード側流路溝のうちの一部分から流出する前記カソード側流体を受け入れ、複数の前記カソード側流路溝のうちの他の部分に折り返して流入させる一つ又は複数のカソード側流体ターン部のうちの少なくともいずれかを有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記電極板と前記電極板外枠の接合部の少なくとも一部は、厚さ方向に重ね合わされた状態で接合されている、請求項1乃至4のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記流路板と前記流路板外枠の接合部の少なくとも一部は、厚さ方向に重ね合わされた状態で接合されている、請求項1乃至5のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記流路板の前記凸部と前記凹部は、薄板状の部材を波形状に折り曲げることで形成されている、請求項1乃至6のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記流路板外枠は、複数のシート状の部材を重ね合わせて形成されている、請求項1乃至7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記流路板が導電性の材料で形成され、前記流路板外枠が絶縁性の材料で形成されている、請求項1乃至8のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の複数の電気化学セルを積層したセルスタック。
【請求項11】
前記流路板は、波形状における前記アノード電極側の端部を前記アノード電極に接触させ、波形状における前記カソード電極側の端部を前記カソード電極に接触させ、
隣り合う前記流路板のうちの一方の流路板の前記アノード電極に接触する波形状における前記端部と、他方の流路板の前記カソード電極に接触する波形状における前記端部とが、面内方向における同じ位置で前記電気化学セルの積層方向に向き合う、請求項10に記載のセルスタック。
【請求項12】
同じ形状の前記流路板を180度回転させて前記電極板を介して積層することで、隣り合う前記流路板のうちの一方の流路板の前記アノード電極に接触する波形状における前記端部と、他方の流路板の前記カソード電極に接触する波形状における前記端部とが、面内方向における同じ位置で前記電気化学セルの積層方向に向き合う、請求項11に記載のセルスタック。
【請求項13】
アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に挟み込まれる隔膜を有する電極板を作製する工程と、
前記アノード電極に一方の面で接するか又は前記カソード電極に他方の面で接し、前記一方の面に複数のアノード側流路溝が形成され、前記他方の面に複数のカソード側流路溝が形成される流路板を作製する工程と、を備え、
前記流路板は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ前記凸部及び前記凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、前記一方の面における波形状の表面で前記アノード側流路溝を形成し、前記他方の面における波形状の表面で前記カソード側流路溝を形成するように構成され、
前記流路板の前記凸部と前記凹部は、板材を波形状に折り曲げることで形成される、電気化学セルの製造方法。
【請求項14】
アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に挟み込まれる隔膜を有する電極板を作製する工程と、
前記アノード電極に一方の面で接するか又は前記カソード電極に他方の面で接し、前記一方の面に複数のアノード側流路溝が形成され、前記他方の面に複数のカソード側流路溝が形成される流路板を作製する工程と、を備え、
前記流路板は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ前記凸部及び前記凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、前記一方の面における波形状の表面で前記アノード側流路溝を形成し、前記他方の面における波形状の表面で前記カソード側流路溝を形成するように構成され、
前記流路板の前記凸部と前記凹部は、板材を金型によってプレス成型することで形成される、電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、電気化学セル、セルスタック及び電気化学セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルには、アノード電極、カソード電極及び隔膜を一体化した電極板を備えるものがある。この電極板では、アノード電極とカソード電極との間に隔膜が挟み込まれる。隔膜は、例えば電解質膜からなる。このような電気化学セルでは、アノード電極及びカソード電極のうちの少なくとも一方に、液体、または気体、または液体と気体の混合体から成る流体が供給される。この状態で、アノード電極とカソード電極との間に外部から電位差が負荷される。これにより、電気化学反応が発生し、イオン化した物質が電極間で隔膜を通過する。
【0003】
電気化学セルは、例えば水電解や二酸化炭素電解を行う場合に用いられ得る。水電解では、アノード電極側に水(H2O)が供給され、カソード電極側から水素(H2)が取り出される。二酸化炭素電解では、アノード電極側に水(H2O)が供給され且つカソード電極側に二酸化炭素(CO2)が供給され、カソード電極側から一酸化炭素(CO)が取り出される。
【0004】
アノード電極側に供給する流体またはカソード電極側に供給する流体としては、反応に必要な液体に少量のイオン性物質を溶解させた電解質溶液が用いられてもよい。この場合、電気化学反応が促進され得る。
【0005】
電気化学セルには、アノード電極側に供給する流体の流路を形成するアノード側流路溝を一方の面に有し、カソード電極側に供給する流体の流路を形成するカソード側流路溝を他方の面に有する流路板を備えるものがある。このような流路板を用いる場合には、複数の電気化学セルを積層してなる電気化学セルスタック(以下、セルスタック)を効率的に作製できる。
【0006】
具体的には、例えば電気化学セルが電極板のカソード電極でカソード側流路溝を覆うように電極板と流路板とを重ね合わせて構成される場合に、流路板のアノード側流路溝に、他の電極板のアノード電極が接するように他の電極板を重ね合わせる。このような重ね合わせを繰り返すことで、部品点数及び作業負荷を抑えてセルスタックを作製できる。
【0007】
上述のセルスタックでは、各層の電極が直列に接続されるように流路板が導電性の物質で構成される。流路板にはそれぞれ、外部からアノード電極に供給する流体及びカソード電極に供給する流体を各流路板の流路溝に導くための連通孔が形成される。連通孔は、流路板の積層方向に貫通し、各流路板の連通孔は互いに重なり合う。各流路板におけるアノード側流路溝及びカソード側流路溝は、対応する連通孔に接続されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アノード側流路溝及びカソード側流路溝は、プレス加工等で板材に形成した凹凸形状により形成できる。しかしながら、この場合、板材が曲げ伸ばしされる部位に強度不足が生じやすくなり、流路板のプレス加工時や、セルとしての使用時に、ヒビ割れ等の損傷が生じやすくなる。このような強度不足は、流路パターンが屈曲して折り返す形状や、流路溝の幅が狭かったり、流路溝が深かったりすると生じやすい。ヒビ割れが発生した場合には、流路板におけるアノード側流路溝とカソード側流路溝との間でクロスリークが発生する虞もある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、流路板にヒビ割れが発生し難くなる電気化学セル、セルスタック及び電気化学セルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施の形態に係る電気化学セルは、アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に挟み込まれる隔膜を有する電極板と、前記アノード電極に一方の面で接するか又は前記カソード電極に他方の面で接し、前記一方の面に複数のアノード側流路溝が形成され、前記他方の面に複数のカソード側流路溝が形成される流路板と、前記電極板に接合される電極板外枠と、前記流路板に接合される流路板外枠と、を備える。そして、前記流路板は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ前記凸部及び前記凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、前記一方の面における波形状の表面で前記アノード側流路溝を形成し、前記他方の面における波形状の表面で前記カソード側流路溝を形成する。
【0012】
一実施の形態に係るセルスタックは、複数の前記の電気化学セルを積層したセルスタックである。
【0013】
一実施の形態に係る電気化学セルの製造方法は、アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に挟み込まれる隔膜を有する電極板を作製する工程と、前記アノード電極に一方の面で接するか又は前記カソード電極に他方の面で接し、前記一方の面に複数のアノード側流路溝が形成され、前記他方の面に複数のカソード側流路溝が形成される流路板を作製する工程と、を備える。前記流路板は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ前記凸部及び前記凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、前記一方の面における波形状の表面で前記アノード側流路溝を形成し、前記他方の面における波形状の表面で前記カソード側流路溝を形成するように構成される。そして、前記流路板の前記凸部と前記凹部は、板材を波形状に折り曲げることで形成される。
また、一実施の形態に係る電気化学セルの製造方法は、アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に挟み込まれる隔膜を有する電極板を作製する工程と、前記アノード電極に一方の面で接するか又は前記カソード電極に他方の面で接し、前記一方の面に複数のアノード側流路溝が形成され、前記他方の面に複数のカソード側流路溝が形成される流路板を作製する工程と、を備える。前記流路板は、凸部と凹部とが交互に形成され且つ前記凸部及び前記凹部がそれぞれ互いに平行に延びる波板状であり、前記一方の面における波形状の表面で前記アノード側流路溝を形成し、前記他方の面における波形状の表面で前記カソード側流路溝を形成するように構成される。そして、前記流路板の前記凸部と前記凹部は、板材を金型によってプレス成型することで形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流路板にヒビ割れが発生し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施の形態に係る電気化学セルの斜視図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る電気化学セルの分解斜視図である。
【
図3】第1の実施の形態に係る電気化学セルの平面図である。
【
図5】第1の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の平面図である。
【
図6】第1の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の底面図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の斜視図である。
【
図8】第2の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の平面図である。
【
図9】第2の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の底面図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の斜視図である。
【
図11】第3の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の分解斜視図である。
【
図12】第3の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の平面図である。
【
図13】第3の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠の底面図である。
【
図15】第4の実施の形態に係るセルスタックの斜視図である。
【
図16】第4の実施の形態に係るセルスタックの分解斜視図である。
【
図18】第1の実施の形態に係る電気化学セルを備える電気化学装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しつつ各実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る電気化学セル1の斜視図である。
図2は、電気化学セル1の分解斜視図である。
図3は、電気化学セル1の平面図である。
図1乃至
図3に示す電気化学セル1は、電極板10と、流路板20と、電極板外枠100と、流路板外枠200と、を備えている。
【0018】
電極板外枠100は、電極板10の周囲を囲むように電極板10に接合されている。流路板外枠200は、流路板20の周囲を囲むように流路板20に接合されている。電極板10と電極板外枠100とが接合された電極板接合体は板状をなす。流路板20と流路板外枠200とが接合された流路板接合体は板状をなす。これら接合体は、それぞれの厚さ方向が同じ方向を向く状態で重ね合わされる。これにより、電気化学セル1は全体として板状をなす。以下、電気化学セル1を構成する各部材について詳述する。
【0019】
(電極板)
図4は、
図3のIV-VI線に沿う電気化学セル1の断面図である。
図4に示すように、電極板10は、アノード電極11、カソード電極12、及びアノード電極11とカソード電極12との間に挟み込まれる隔膜13を有する。電極板10は矩形の板状である。アノード電極11、カソード電極12及び隔膜13もそれぞれ矩形状に形成されている。
【0020】
アノード電極11及びカソード電極12は、例えば導電体の薄膜、箔または薄板からなる。例えば、アノード電極11及びカソード電極12は、カーボンまたは金属を含むガス透過性を有する基材に触媒を付着させて構成され得る。触媒は、ニッケル、イリジウム、金、銀、または白金などの金属を含む触媒でもよいし、酸化ニッケル、二酸化イリジウムまたは酸化コバルトなどの金属酸化物を含む触媒でもよいし、これらの組合せでもよい。
【0021】
隔膜13は、例えば固体高分子膜(イオン交換膜)や、固体電解質膜(電解質膜)などのイオン濾過膜である。ただし、隔膜13の材料は特に限定されるものではない。
【0022】
(電極板外枠)
図2に示すように、電極板外枠100は矩形の枠状であり、言い換えると、厚さ方向に貫通する開口を内側領域に有する中空板状である。電極板外枠100は、その内周面で電極板10の電極板収納開口101を形成する。
図4に示すように、本実施の形態における電極板収納開口101は、アノード電極11を収納する第1収納部102と、カソード電極12を収納する第2収納部103と、を有している。
【0023】
第2収納部103は全周にわたって、第1収納部102の外周側に張り出し、第2収納部103の開口面積は、第1収納部102の開口面積よりも大きい。これにより、第1収納部102と第2収納部103との間には、電極板外枠100の面方向(板面方向)に延びる段差部104が形成される。
【0024】
第1収納部102には、アノード電極11が収納された状態で接合される。第2収納部103には、隔膜13が段差部104に接する状態で収納され、且つカソード電極12が隔膜13を覆い且つ第2収納部103に収納された状態で接合される。本実施の形態では、カソード電極12及び隔膜13を段差部104に重ね合わせるために、カソード電極12及び隔膜13が、アノード電極11よりも大きく形成されている。なお、接合とは、固定状態でつなぎあわされること、または、着脱自在につなぎあわされることを意味する。
【0025】
カソード電極12及び隔膜13は、電気化学セル1(電極板接合体)の厚さ方向で段差部104と重ね合わされ、これにより、電極板10と電極板外枠100の接合部の少なくとも一部は、厚さ方向に重ね合わされた状態で接合される。この構成によれば、電極板10と電極板外枠100の接合部でのシール性を高くすることができる。なお、本実施の形態では段差部104が電極板収納開口101の全周にわたって形成されるが、段差部104は、電極板収納開口101の全周に対して部分的に形成されてもよい。
【0026】
また、電極板外枠100における電極板収納開口101の外周側の部分には、
図2に示すようにアノード流体連通孔106及びカソード流体連通孔107が設けられている。アノード流体連通孔106は、アノード流体入口連通孔106Aと、アノード流体出口連通孔106Bと、を有する。カソード流体連通孔107は、カソード流体入口連通孔107Aと、カソード流体出口連通孔107Bと、を有する。アノード流体入口連通孔106A及びカソード流体入口連通孔107Aと、アノード流体出口連通孔106B及びカソード流体出口連通孔107Bは、電極板収納開口101を介して互いに対向するように配置されている。
【0027】
詳しくは、アノード流体入口連通孔106A及びアノード流体出口連通孔106Bは、平面視で電極板外枠100の中心に関して点対称に形成されている。カソード流体入口連通孔107A及びカソード流体出口連通孔107Bは、平面視で電極板外枠100の中心に関して点対称に形成されている。また、アノード流体入口連通孔106A、アノード流体出口連通孔106B、カソード流体入口連通孔107A及びカソード流体出口連通孔107Bはそれぞれ、同一の形状で且つ同一の寸法で形成されている。
【0028】
アノード流体入口連通孔106Aは、水(H2O)などの流体(以下、アノード側流体と呼ぶ。)を流通させ、流路板20における後述のアノード側流路溝21に送る。アノード流体出口連通孔106Bは、アノード側流路溝21から流出するアノード側流体を受け入れて流通させる。カソード流体入口連通孔107Aは、二酸化炭素(O2)などの流体(以下、カソード側流体と呼ぶ。)を流通させることが可能であり、カソード側流体を流路板20における後述のカソード側流路溝22に送ることができる。また、カソード流体出口連通孔107Bは、カソード側流路溝22から流出するカソード側流体を受け入れて流通させることが可能である。
【0029】
電極板外枠100の材質は特に限定されるものではないが、少なくとも電極板外枠100におけるアノード側流体及びカソード側流体との接触部分において絶縁性を確保することが望ましい。この場合、電極板外枠100は、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの樹脂材料またはフッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム材料などの電気絶縁性の材料から構成されてもよい。本実施の形態では、電極板外枠100の全体が絶縁性の材料で形成されることで、アノード側流体及びカソード側流体との接触部分に絶縁性を確保している。なお、電極板外枠100は、アノード側流体及びカソード側流体と接触し得る部分に絶縁性の材料が部分的に設けられてもよい。
【0030】
(流路板)
流路板20は板状であり、
図4に示すように一方の面(図における上側の面)に複数のアノード側流路溝21が形成され、他方の面(図における下側の面)に複数のカソード側流路溝22が形成されている。アノード側流路溝21は、アノード電極11に供給されるアノード側流体を流通させる部分である。カソード側流路溝22は、カソード電極12にカソード側流体が供給される場合に、カソード側流体を流通させることが可能である。
【0031】
本実施の形態に係る電気化学セル1は、流路板20の他方の面に形成されたカソード側流路溝22を電極板10のカソード電極12に接触させることで構成されている。電気化学セル1は、セルスタックの作製のために用いられることが想定されており、この場合、複数の電気化学セル1がアノード電極11を同じ方向に向けた状態で積層される。この際、流路板20の一方の面に形成されたアノード側流路溝21は、他の電気化学セル1の電極板10のアノード電極11と接触させられる。
【0032】
電気化学セル1では、セルスタックを構成した状態で例えば二酸化炭素電解を行う場合に、アノード側流路溝21にアノード側流体としての水(H2O)を流通させ、カソード側流路溝22にカソード側流体としての二酸化炭素(CO2)を流通させる。また、水電解を行う場合には、アノード側流路溝21にアノード側流体としての水(H2O)を流通させ、カソード側流路溝22にはカソード側流体を流通させなくてもよい。
また、電気化学セル1が燃料電池セルスタックにおいて用いられる場合には、アノード側流路溝21にアノード側流体としての水素(H2)を流通させ、カソード側流路溝22にカソード側流体としての酸素(O2)を流通させる。
【0033】
なお、本実施の形態に係る電気化学セル1は、流路板20に形成されたカソード側流路溝22を電極板10のカソード電極12に接触させることで構成されるが、電気化学セル1は、流路板20の一方の面に形成されたアノード側流路溝21を電極板10のアノード電極11に接触させることで構成されてもよい。
【0034】
流路板20の形状について詳述すると、流路板20は、
図4に示すように凸部23と凹部24とが交互に形成され且つ凸部23及び凹部24がそれぞれ互いに平行に延びる波板状である(
図2、
図3も参照)。そして、流路板20の一方の面(図における上側の面)における波形状の表面でアノード側流路溝21が形成されており、他方の面(図における下側の面)における波形状の表面でカソード側流路溝22が形成されている。なお、
図4では説明の便宜のために流路板20にドットが付されている。
【0035】
図4に示すように、流路板20は、波形状におけるカソード電極12側の端部22Eをカソード電極12に接触させ、これにより、カソード電極12とカソード側流路溝22との間にカソード側流体の流路を形成する。一方で、流路板20は、他の電気化学セルのアノード電極側となる波形状における端部21Eを他の電気化学セルのアノード電極に接触させ、これにより、他の電気化学セルのアノード電極とアノード側流路溝21との間にアノード側流体の流路を形成する。端部22Eは、隣り合うカソード側流路溝22の間に形成される。端部21Eは、隣り合うアノード側流路溝21の間に形成される。
【0036】
流路板20の波形状は、本実施の形態では台形波状であり、端部21E,22Eは、流路板20の板面方向に幅を有する。これにより、端部21E,22Eは、アノード電極11またはカソード電極12と面接触する。ただし、アノード側流路溝21及びカソード側流路溝22の波形状は、サインカーブ状等でもよい。また、本実施の形態における流路板20は、
図4に示すように凸部23と凹部24とが同一の周期で且つ同一の振幅で形成される波板状である。ただし、一部の凸部23及び/または凹部24の周期が他のものと異なるような形状が採用されてもよい。
【0037】
流路板20の材質は導電性を有するものであればよく、特に限定されるものでない。流路板20は、例えば金属、カーボン、カーボンと樹脂の混合物等から形成されてもよい。また、流路板20は、最表面に耐腐食性の向上や接触抵抗の低減を目的とするメッキ層やコーティングを有してもよい。流路板20を金属から形成する場合、曲げ加工やプレス加工で流路板20を形成してもよい。流路板20をカーボンや、カーボンと樹脂の混合物から形成する場合には、真空成型等で流路板20を形成してもよい。
【0038】
本実施の形態では、加工性及び強度の向上の観点で、板材である金属の薄板を曲げ加工により波形状に折り曲げることで、凸部23及び凹部24が形成される。曲げ加工による波形状の流路板20の形成は、流路板20の形状としてシンプルな波板状を採用することで可能となる。薄板を曲げ加工する場合、曲げ伸ばしにより薄板の厚さが局所的に小さくなることが抑制される。そのため、本実施の形態では、凸部23と凹部24とが交互に形成される部分での流路板20の厚さが、基本的に一定である。
【0039】
また、流路板20は、
図4に示すように凸23部と凹部24とが交互に形成される方向における両端にフランジ部25を有する。流路板20が曲げ加工により形成される場合、凸部23と凹部24とが交互に形成される部分の厚さは、フランジ部25の厚さと基本的に同じになる。
【0040】
なお、流路板20がシンプルな波板状である際には、プレス加工で形成された場合であっても曲げ伸ばしによる局所的な厚さの減少が抑制され得る。そのため、ヒビ割れが発生し難くなる。すなわち、凸部23と凹部24は、板材を金型によってプレス成型することで形成されてもよい。プレス加工を行った場合、フランジ部25の厚さは、通常、凸部23と凹部24とが交互に形成される部分の厚さよりも大きくなる。
【0041】
(流路板外枠)
図2に示すように、流路板外枠200は矩形の枠状であり、言い換えると、厚さ方向に貫通する開口を内側領域に有する中空板状である。流路板外枠200は、その内周面で流路板20の流路板収納開口201を形成し、流路板収納開口201に流路板20を収納する。
【0042】
流路板外枠200における流路板収納開口201の外周側の部分には、アノード流体連通孔206及びカソード流体連通孔207と、第1流路板接続部211と、第2流路板接続部212と、第1アノード流体中継流路213と、第2アノード流体中継流路214と、第1アノード側流体ターン部215と、第2アノード側流体ターン部216と、が設けられている。
【0043】
アノード流体連通孔206は、アノード流体入口連通孔206Aと、アノード流体出口連通孔206Bと、を有する。カソード流体連通孔207は、カソード流体入口連通孔207Aと、カソード流体出口連通孔207Bと、を有する。
図5は、流路板外枠200の平面図であり、
図6は、流路板外枠200の底面図である。アノード流体入口連通孔206A及びカソード流体入口連通孔207Aとアノード流体出口連通孔206B及びカソード流体出口連通孔207Bは、電極板収納開口101を介して互いに対向するように配置されている。
【0044】
詳しくは、アノード流体入口連通孔206A及びアノード流体出口連通孔206Bは、平面視で流路板外枠200の中心に関して点対称に形成されている。カソード流体入口連通孔207A及びカソード流体出口連通孔207Bは、平面視で流路板外枠200の中心に関して点対称に形成されている。また、アノード流体入口連通孔206A、アノード流体出口連通孔206B、カソード流体入口連通孔207A及びカソード流体出口連通孔207Bはそれぞれ、同一の形状で且つ同一の寸法で形成されている。
【0045】
流路板外枠200は電極板外枠100に重ね合わされ、この際、アノード流体入口連通孔206Aは、電極板外枠100のアノード流体入口連通孔106Aと重なり、アノード流体出口連通孔206Bは、電極板外枠100のアノード流体出口連通孔106Bと重なる。一方で、カソード流体入口連通孔207Aは、電極板外枠100のカソード流体入口連通孔107Aと重なり、カソード流体出口連通孔207Bは、電極板外枠100のカソード流体出口連通孔107Bと重なる。
【0046】
第1流路板接続部211は、流路板外枠200の流路板収納開口201の周縁部におけるアノード流体入口連通孔206A側であって、カソード流体入口連通孔207A側の部分に設けられ、全体にわたり波形状に形成されている。第2流路板接続部212は、流路板外枠200の流路板収納開口201の周縁部におけるアノード流体出口連通孔206B側であって、カソード流体出口連通孔207B側の部分に設けられ、全体にわたり波形状に形成されている。
【0047】
第1アノード流体中継流路213は、第1流路板接続部211のうちのアノード流体入口連通孔206Aに面する部分と、アノード流体入口連通孔206Aとの間に設けられている。第2アノード流体中継流路214は、第2流路板接続部212のうちのアノード流体出口連通孔206Bに面する部分と、アノード流体出口連通孔206Bとの間に設けられている。
【0048】
第1アノード流体中継流路213は、流路板外枠200の一方の面(例えば
図1、
図2において上側を向く面)で厚さ方向にへこみ、アノード流体入口連通孔206Aと第1流路板接続部211とを流体的に接続する。同様に、第2アノード流体中継流路214は、流路板外枠200の一方の面(例えば
図1、
図2において上側を向く面)で厚さ方向にへこみ、アノード流体出口連通孔206Bと第2流路板接続部212とを流体的に接続している。
【0049】
また、第1アノード側流体ターン部215は、第2流路板接続部212から離れるように延びており、第2アノード側流体ターン部216は、第1流路板接続部211から離れるように延びている。第1アノード側流体ターン部215は、第1アノード流体中継流路213と流路板収納開口201を介して向き合うように位置している。また、第1アノード側流体ターン部215は、第1アノード流体中継流路213と向き合う方向に直交する方向で第1アノード流体中継流路213よりも幅広に形成されている。また、第2アノード側流体ターン部216は、第1アノード側流体ターン部215における第1アノード流体中継流路213を越える部分及び第2アノード流体中継流路214と流路板収納開口201を介して向き合うように位置している。
【0050】
第1アノード側流体ターン部215及び第2アノード側流体ターン部216もそれぞれ、上述の中継流路213,214と同様に、流路板外枠200の一方の面(例えば
図1、
図2において上側を向く面)で厚さ方向にへこむ。そして、第1アノード側流体ターン部215は、第2流路板接続部212に流体的に接続されており、第2アノード側流体ターン部216は、第1流路板接続部211に流体的に接続されている。
【0051】
ここで、流路板20は、
図2及び
図3に示すようにアノード側流路溝21及びカソード側流路溝22が延びる方向における一端部の波形状を第1流路板接続部211の波形状に重ね合わせ、且つ他端部の波形状を第2流路板接続部212の波形状に重ね合わせることで、流路板外枠200に接合される。また、流路板20のフランジ部25は、流路板20に形成された位置決め凹部218内に配置される。これにより、流路板20と流路板外枠200の接合部の少なくとも一部は、厚さ方向に重ね合わされた状態で接合される。この構成によれば、流路板20と流路板外枠200の接合部でのシール性を高くすることができる。
【0052】
以上のように流路板20が流路板外枠200に接合された状態では、
図3の矢印A,B,C,Dに示すように、アノード側流体が蛇行して流通し得る。
詳しくは、アノード側流体は、アノード流体入口連通孔206Aから第1アノード流体中継流路213に流入し、第1アノード流体中継流路213から第1流路板接続部211を介してアノード側流路溝21の一部分に流入する(矢印A)。そして、アノード側流路溝21の一部分から流出したアノード側流体は、第1アノード側流体ターン部215に受け入れられた後、第1アノード側流体ターン部215で折り返されてアノード側流路溝21の他の部分に流入する(矢印B)。
その後、アノード側流路溝21の他の部分から流出したアノード側流体は、第2アノード側流体ターン部216に受け入れられた後、第2アノード側流体ターン部216で折り返されてアノード側流路溝21のさらに他の部分に流入する(矢印C)。その後、アノード側流路溝21のさらに他の部分から流出したアノード側流体は、第2流路板接続部212を介して第2アノード流体中継流路214に流入し、アノード流体出口連通孔206Bに流入する(矢印D)。
なお、流路板外枠200は、第1アノード流体中継流路213等から第1流路板接続部211を介してアノード側流路溝21の一部分に流入するアノード側流体をカソード側流路溝22に流入させないように構成されている。
【0053】
同様に、流路板外枠200の他方の面(例えば
図1、
図2において下側を向く面)では、
図6に示すように、第1流路板接続部211のうちのカソード流体入口連通孔207Aに面する部分と、カソード流体入口連通孔207Aとの間に、第1カソード流体中継流路223が設けられている。第2流路板接続部212のうちのカソード流体出口連通孔207Bに面する部分と、カソード流体出口連通孔207Bとの間に、第2カソード流体中継流路224が設けられている。また、流路板外枠200には、第2流路板接続部212から離れるように延びる第1カソード側流体ターン部225と、第1流路板接続部211から離れるように延びる第2カソード側流体ターン部226と、がさらに設けられる。
【0054】
流路板20が流路板外枠200に接合された状態では、
図6の矢印A’,B’,C’,D’に示すように、カソード側流体も蛇行して流通し得る。カソード側流体が流通する経路の順序や接続構成は、上述のアノード側流体の場合と同様のため説明を省略する。
【0055】
流路板外枠200の材質は特に限定されるものではないが、少なくとも流路板外枠200におけるアノード側流体及びカソード側流体との接触部分において絶縁性を確保することが望ましい。この場合、流路板外枠200は、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの樹脂材料またはフッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム材料などの電気絶縁性の材料から構成されてもよい。本実施の形態では、流路板外枠200の全体が絶縁性の材料で形成されることで、アノード側流体及びカソード側流体との接触部分に絶縁性を確保している。なお、流路板外枠200は、アノード側流体及びカソード側流体と接触し得る部分に絶縁性の材料が部分的に設けられてもよい。
【0056】
流路板外枠200を金属から形成する場合、曲げ加工やプレス加工で流路板外枠200を形成してもよい。流路板外枠200を樹脂や、ゴム材料から形成する場合、真空成型等で流路板外枠200を形成してもよい。また、流路板外枠200における波形状の第1流路板接続部211及び第2流路板接続部212は、流路板20との接合の際に加熱することで流路板20の波形状に対応する波形状に形成されてもよい。
【0057】
本実施の形態では、流路板20を作製する工程と、流路板外枠200を作製する工程とが別々に行われ、流路板20と流路板外枠200とが分離して作製される。流路板20と流路板外枠200とが一体にプレス成型で形成される場合、流路板20の厚さが小さくなり、ヒビ割れの発生を抑制し難くなる場合がある。これに対して、本実施の形態では別工程で流路板20と流路板外枠200とが分離して作製されることで、流路板20にヒビ割れが発生し難くなる。例えば流路板20を曲げ加工で形成し、流路板外枠200をプレス加工や真空成型等で形成する場合には、生産効率を低下させることなく、流路板20にヒビ割れが発生し難くなる。
【0058】
(作用及び効果)
次に、本実施の形態に係る電気化学セル1の作用及び効果について説明する。以下では、複数の電気化学セル1を積層してセルスタックを形成した場合における電気化学セル1の電解動作を一例として説明しつつ、電気化学セル1の作用及び効果を説明する。
【0059】
電気化学セル1にアノード側流体及びカソード側流体を供給する場合、外部からアノード側流体がアノード流体入口連通孔106Aに供給され、カソード側流体がカソード流体入口連通孔107Aに供給される。アノード側流体は、アノード流体入口連通孔106Aから第1アノード流体中継流路213を介してアノード側流路溝21に流入し、アノード電極11と接触する。カソード側流体はカソード流体入口連通孔207Aから第1カソード流体中継流路223を介してカソード側流路溝22に流入し、カソード電極12と接触する。アノード電極11に接触したアノード側流体とカソード電極12に接触したカソード側流体の構成物質の少なくとも一部は電極に付着した触媒と反応してイオン化する。
【0060】
この状態で、積層されたセルスタックの積層両端に所定の電圧を付加すると、電極板10の電気絶縁性の隔膜13を挟んでアノード電極11とカソード電極12との間に電位差が生じ、流体中のイオン化した特定の物質が隔膜13を通過する現象が発生する。これにより、カソード側流体とアノード側流体の物質構成が変化する。
【0061】
例えば、アノード側に水(H2O)を供給し、カソード側に二酸化炭素(CO2)を供給した場合、カソード側から一酸化炭素(CO)を含む混合ガスを取り出す二酸化炭素電解などの反応が得られる。
【0062】
このとき、電極板10と流路板20を複数積層して外部から電圧を付加する場合には、積層されたそれぞれの電極板10の隔膜13を挟んだそれぞれのアノード電極11とカソード電極12との間に電位差が生じるが、流路板20を挟んで隣り合う2枚の電極板10のそれぞれが同一の流路板20に接しているアノード電極11とカソード電極12は、流路板20とアノード電極11とカソード電極12が導電性であることからほぼ同電位となる。そのため、電極板10を挟んだ異なる流路板20の間には、隔膜13を挟んだアノード電極11とカソード電極12との間に生じる電位差とほぼ同じ電位差が発生する。
【0063】
ここで、流路板20と流路板外枠200が1枚の導電性の材料で構成されている場合は、電極板外枠100を挟んで隣り合う流路板外枠200は、アノード流体入口連通孔206A、アノード流体出口連通孔206B、カソード流体入口連通孔207A及びカソード流体出口連通孔207Bに流通する流体に接する部分では、電極板外枠100の厚さ分の距離しか離れていない。そのため、電極板外枠100を挟んで隣り合う流路板外枠200の部分に電位差があると、各連通孔に流通する流体の導電率がゼロで無い場合には、電極板外枠100を挟んで隣り合う流路板外枠200の間でリーク電流が発生してしまう。特にアノード流体側またはカソード側流体のどちらかに水(H2O)などの液体に少量のイオン性物質を溶解させた電解質溶液を使用する場合には、電解質溶液の導電率はゼロではないことから、リーク電流が発生しやすくなる。
【0064】
さらに、純粋な水(H2O)などの導電率が比較的小さい流体を使用する場合でも、流体が電気化学セルの内外を循環する過程で微量の不純物が混入し、導電率が上昇することによりリーク電流が発生する場合がある。また、流体が主に気体の流体であっても、含有されている物質の一部が凝縮して連通孔の壁面に付着することで、液体の場合と同様にリーク電流が発生する場合がある。
【0065】
これに対して、本実施の形態に係る電気化学セル1では、電極板10と電極板外枠100とが別体であり、流路板20と流路板外枠200とが別体である。さらに、電極板外枠100及び流路板外枠200におけるアノード側流体及びカソード側流体との接触部分に絶縁性を確保している。これにより、リーク電流が抑制される。
【0066】
そして、本実施の形態では、流路板20が流路板外枠200と別体に形成され、且つ、流路板20が比較的単純な波板状で形成されている。そして、流路板20の一方の面における波形状の表面でアノード側流路溝21が形成され、他方の面における波形状の表面でカソード側流路溝22が形成される。これにより、流路板20の加工時のヒビ割れの発生が低減される。そして、例えばアノード側流体またはカソード側流体のクロスリークの発生を抑制できる。
【0067】
以上のようにして、本実施の形態では流路板20にヒビ割れが発生し難くなる。特に本実施の形態における流路板20は、凸部23と凹部24とが同一の周期で且つ同一の振幅で形成される波板状である。この場合、流路板20における流路溝(21,22)が形成される部分の厚さを一定の値に加工しやすくなる。さらには、局所的な応力変化も抑制できる。これにより、流路溝(21,22)におけるヒビ割れの発生を効果的に抑制できる。また、流路板20の板厚を抑えつつ、アノード側流路溝21及びカソード側流路溝22の流路断面積を大きくすることもできる。
【0068】
また、流路板20は、複数のアノード側流路溝21のうちの一部分から流出するアノード側流体を受け入れ、複数のアノード側流路溝のうちの他の部分に折り返して流入させるアノード側流体ターン部215,216と、複数のカソード側流路溝22のうちの一部分から流出するカソード側流体を受け入れ、複数のカソード側流路溝22のうちの他の部分に折り返して流入させるカソード側流体ターン部225,226とを有する。これにより、アノード側流体とアノード電極11との反応の促進及びカソード側流体とカソード電極12との反応の促進を図ることができる。また、流体を折り返して流通させる流路溝はプレス加工であれば、流路板上に容易に形成でき、このような流路板は多く存在する。ただし、このような既存の流路板は、流路溝のパターンが複雑であるため、プレス加工をするとヒビ割れが発生しやすい。このような流体の折り返し経路を形成する既存の流路板に比べて、本実施の形態における流路板20はヒビ割れ抑制の観点で有利となる。
【0069】
なお、本実施の形態では、アノード側流体ターン部215,216とカソード側流体ターン部225,226とが形成されるが、いずれかが設けられなくてもよい。アノード側流体ターン部215,216は複数設けられたが、一つでもよい。同様に、カソード側流体ターン部225,226も複数設けられたが、一つでもよい。
【0070】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。
図7は第2の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠200’の斜視図である。
図8は流路板外枠200’の平面図であり、
図9は流路板外枠200’の底面図である。第2の実施の形態の構成部分のうちの第1の実施の形態の構成部分と同一のものについては同一の符号が付され、説明は省略する。また、第2の実施の形態に係る電気化学セルの電極板10及び電極板外枠100は、第1の実施の形態と同一のため図示も省略している。
【0071】
第2の実施の形態に係る電気化学セルは、流路板外枠200’に第1の実施の形態で説明したアノード側流体ターン部215,216と、カソード側流体ターン部225,226とが設けられていない。
【0072】
一方で、
図7及び
図8に示すように、第1アノード流体中継流路213’は、アノード流体入口連通孔206Aから延び、第1流路板接続部211の全体に接続されている。第2アノード流体中継流路214’は、アノード流体出口連通孔206Bから延び、第2流路板接続部212の全体に接続されている。
【0073】
図9に示すように、第1カソード流体中継流路223’は、カソード流体入口連通孔207Aから延び、第1流路板接続部211の全体に接続されている。第2カソード流体中継流路224’は、カソード流体出口連通孔207Bから延び、第2流路板接続部212の全体に接続されている。
【0074】
第2の実施の形態に係る電気化学セルでは、流路板20におけるアノード側流路溝21の全体でアノード側流体が同じ方向に流通する。同様に、流路板20におけるカソード側流路溝22の全体でカソード側流体が同じ方向に流通する。この構成では、流路板外枠200の形状が簡素になるため、生産性を向上できる。
【0075】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。
図10は第3の実施の形態に係る電気化学セルが備える流路板外枠200’’の斜視図である。
図11は流路板外枠200’’の分解斜視図である。
図12は流路板外枠200’’の平面図であり、
図13は流路板外枠200’’の底面図である。
図14は、
図12のXIV-XIV線に沿う断面図である。第3の実施の形態の構成部分のうちの第1及び第2の実施の形態の構成部分と同一のものについては同一の符号が付され、説明は省略する。また、第3の実施の形態に係る電気化学セルの電極板10及び電極板外枠100は、第1の実施の形態と同一のため図示も省略している。
【0076】
本実施の形態における流路板外枠200’’の基本的な形状は、第1の実施の形態と同じであるが、流路板外枠200’’が複数のシート状の部材301~304を重ね合わせて形成される点で第1の実施の形態と異なる。詳しくは、流路板外枠200’’は、第1流路板外枠シート材301と、第2流路板外枠シート材302と、第3流路板外枠シート材303と、第4流路板外枠シート材304と、をこの順で重ね合わせることで形成される。符号305は、第1流路板外枠シート材301と第2流路板外枠シート材302と間に形成される空間を埋めるスペーサ部材である。
【0077】
図10、
図11及び
図13を参照し、第1流路板外枠シート材301は、流路板収納開口201、アノード流体入口連通孔206A、アノード流体出口連通孔206B、カソード流体入口連通孔207A、カソード流体出口連通孔207B、第1カソード流体中継流路223、第2カソード流体中継流路224、第1カソード側流体ターン部225及び第2カソード側流体ターン部226を形成するための開口パターンを有している。
【0078】
第2流路板外枠シート材302は、流路板収納開口201、アノード流体入口連通孔206A、アノード流体出口連通孔206B、カソード流体入口連通孔207A及びカソード流体出口連通孔207Bを形成するための開口パターンを有するとともに、第1流路板接続部211及び第2流路板接続部212を有している。
【0079】
第3流路板外枠シート材303は、流路板収納開口201、アノード流体入口連通孔206A、アノード流体出口連通孔206B、カソード流体入口連通孔207A、カソード流体出口連通孔207B、第1アノード流体中継流路213、第2アノード流体中継流路214、第1アノード側流体ターン部215及び第2アノード側流体ターン部216を形成するための開口パターンを有している。
【0080】
第4流路板外枠シート材304は、流路板収納開口201、アノード流体入口連通孔206A、アノード流体出口連通孔206B、カソード流体入口連通孔207A、カソード流体出口連通孔207B、第1アノード流体中継流路213、第2アノード流体中継流路214、第1アノード側流体ターン部215及び第2アノード側流体ターン部216を形成するための開口パターンを有している。
【0081】
図11に示すように、第2流路板外枠シート材302における流路板収納開口201を形成するための矩形の開口部分の四辺のうちの2の辺部に第1流路板接続部211及び第2流路板接続部212が互いに対向して設けられる。
図4に示すように、第1流路板接続部211及び第2流路板接続部212の間に位置する四辺のうちの残り2つの辺部には厚さ方向に逆U字状に立ち上がる膨出部302Aが設けられる。
【0082】
第2流路板外枠シート材302が第1流路板外枠シート材301上に重ね合わされた際に、膨出部302Aと第1流路板外枠シート材301の上面との間に空間が生じる。この空間にスペーサ部材305が設けられる。
【0083】
流路板外枠200’’の材質は特に限定されるものではないが、少なくとも流路板外枠200’’におけるアノード側流体及びカソード側流体との接触部分において絶縁性を確保することが望ましい。この場合、流路板外枠200’’は、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの樹脂材料またはフッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム材料などの電気絶縁性の材料から構成されてもよい。また、流路板外枠200’’は、アノード側流体及びカソード側流体と接触し得る部分に絶縁性の材料が部分的に設けられる構成でもよい。
【0084】
本実施の形態では、流路板外枠200’’の全体が絶縁性の材料で形成され、詳しくは、各シート材301~304が絶縁性の樹脂から形成される。第1流路板外枠シート材301、第3流路板外枠シート材303及び第4流路板外枠シート材304は平板状であるため、容易に作製され得る。第2流路板外枠シート材302は立体的な波形状の第1流路板接続部211及び第2流路板接続部212を有するため、真空成型で形成することが望ましい。または、第2流路板外枠シート材302における波形状の第1流路板接続部211及び第2流路板接続部212は、流路板20との接合の際に加熱することで流路板20の波形状に対応する波形状に形成されてもよい。
【0085】
本実施の形態によれば、流路板外枠200’’の製造コストを抑制できる。なお、電極板外枠100も複数のシート状の部材を重ね合わせて形成されてもよい。
【0086】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態について説明する。
図15は第4の実施の形態に係るセルスタックCSの斜視図である。
図16はセルスタックCSの分解斜視図である。
図17は
図15のXVII-XVII線に沿う断面図である。第4の実施の形態の構成部分のうちの第1~3の実施の形態の構成部分と同一のものについては同一の符号が付され、説明は省略する。
【0087】
本実施の形態に係るセルスタックCSは、第1の実施の形態で説明した電気化学セル1を積層して構成されている。セルスタックCSでは、
図17に示すように、流路板20が、波形状におけるアノード電極11側の端部21Eをアノード電極11に接触させ、波形状におけるカソード電極12側の端部22Eをカソード電極12に接触させている。そして、本実施の形態では、アノード電極11に接触する端部21Eと、カソード電極12に接触する端部22Eとが、面内方向における同じ位置で電気化学セル1の積層方向に向き合う。
【0088】
詳しくは、セルスタックCSは、隣り合う2つの電気化学セル1の一方の流路板20及び流路板外枠200の向きと、他方の流路板20及び流路板外枠200の向きとを面内方向で180度反転させている。これにより、隣り合う2つの電気化学セル1の一方の流路板20のアノード電極11側の端部21Eと、他方の流路板20のカソード電極12側の端部22Eとが面内方向における同じ位置で電気化学セル1の積層方向に向き合う状態が形成されている。より詳しくは、一種類の流路板20の向きを交互に面内方向に180度回転させながら積層することで、端部21Eと、端部22Eとが面内方向における同じ位置で積層方向に向き合う。
図17に示すように、本実施の形態では、凸部23と凹部24とが交互に形成される方向における流路板20の両辺のうちの一方の辺から一つ目の凹部24までの距離L1と、他方の辺から一つ目の凹部24までの距離L2が、1組の凸部23及び凹部24が形成される周期Pに対して半周期(P/2)ずれる。これにより、一種類の流路板20の向きを交互に面内方向に180度回転させて端部を揃えたときに、端部21Eと、端部22Eとが面内方向における同じ位置で電気化学セル1の積層方向に向き合う。なお、凸部23と凹部24とが交互に形成される方向における流路板20の両辺のうちの一方の辺から一つ目の凸部23までの距離が、他方の辺から一つ目の凸部23までの距離が半周期ずれてもよい。
【0089】
本実施の形態によれば、電極板10と流路板20とを互いに近づく方向に締付けた際における電極板10の割れを抑制できる。また、電極板10の割れが抑制されることでセルスタックCSに対する積層方向への締付力を増加させることが可能となり、部材間の接触抵抗も低減できる。なお、セルスタックCSは第2または第3の実施の形態に係る電気化学セルで構成されてもよい。また、一種類の流路板20を180度回転させながら交互に積層して、隣り合う2つの電気化学セル1の一方の流路板20のアノード電極11側の端部21Eと、他方の流路板20のカソード電極12側の端部22Eとが面内方向における同じ位置で電気化学セル1の積層方向に向き合う状態を形成することで、2種類の流路板を準備して同様の状態を形成する場合に比べて、生産コストを抑制できる。
【0090】
<電気化学装置>
次に、電気化学装置ECについて説明する。
図18は第1の実施の形態に係る電気化学セル1を備える電気化学装置ECの概略図である。
【0091】
電気化学装置ECは、例えば、水素製造装置でもよいし、一酸化炭素製造装置でもよい。電気化学装置ECは、電気化学セル1を積層させたセルスタックCSと、セルスタックCSを積層方向両側から締め付ける一対の締付板400と、電圧印加手段(電源)401と、制御手段402とを有している。電源401は、積層方向の一端に位置するアノード電極11および他端に位置するカソード電極12に電気的に接続されている。
【0092】
電気化学装置ECでは、制御手段402が電源401を制御し、セルスタックCSに電圧を印加する。これにより、各電気化学セル1において、アノード電極11とカソード電極12との間に電圧が負荷され、電気化学反応が開始される。なお、電気化学装置ECは、第2の実施の形態または第3の実施の形態に係る電気化学セルを備えてもよい。
【0093】
以上、各実施の形態を説明したが、上記実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述の実施の形態及びその他の変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1…電気化学セル、10…電極板、11…アノード電極、12…カソード電極、13…隔膜、100…電極板外枠、101…電極板収納開口、102…第1収納部、103…第2収納部、104…段差部、106…アノード流体連通孔、106A…アノード流体入口連通孔、106B…アノード流体出口連通孔、107…カソード流体連通孔、107A…カソード流体入口連通孔、107B…カソード流体出口連通孔、20…流路板、21…アノード側流路溝、21E…端部、22…カソード側流路溝、22E…端部、23…凸部、24…凹部、25…フランジ部、200,200’,200’’…流路板外枠、201…流路板収納開口、206…アノード流体連通孔、206A…アノード流体入口連通孔、206B…アノード流体出口連通孔、207…カソード流体連通孔、207A…カソード流体入口連通孔、207B…カソード流体出口連通孔、211…第1流路板接続部、212…第2流路板接続部、213,213’…第1アノード流体中継流路、214,214’…第2アノード流体中継流路、215…第1アノード側流体ターン部、216…第2アノード側流体ターン部、218…位置決め凹部、223,223’…第1カソード流体中継流路、224,224’…第2カソード流体中継流路、225…第1カソード側流体ターン部、226…第2カソード側流体ターン部、301…第1流路板外枠シート材、302…第2流路板外枠シート材、302A…膨出部、303…第3流路板外枠シート材、304…第4流路板外枠シート材、305…スペーサ部材、CS…セルスタック、EC…電気化学装置