(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026105
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】NMR装置、及び、NMRプローブ内のガス置換方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20230216BHJP
G01R 33/30 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01N24/00 510Z
G01R33/30
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131777
(22)【出願日】2021-08-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(1)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム 産学共同(本格型))「細胞内直接構造解析のための次世代型高感度固体NMR装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願(2)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム「超高感度スピン相関高分解能NMR装置開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由宇生
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敏道
(72)【発明者】
【氏名】松木 陽
(57)【要約】
【課題】低温下で用いられるNMR装置において、試料管の交換に起因して試料管の回転機構にて発生し得る詰まりを防止すること。
【解決手段】NMR装置10は、NMRプローブ16内を減圧する減圧装置20と、NMRプローブ16内にガスを供給することでNMRプローブ16内を加圧するガス供給装置22と、制御装置24とを含む。制御装置24は、減圧装置20によるNMRプローブ16内の減圧とガス供給装置22によるNMRプローブ16内の加圧とを交互に繰り返す。これにより、NMRプローブ16内のガスが置換される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に試料が設置されるNMRプローブと、
前記NMRプローブ内、又は、試料交換用の付属装置内を減圧する減圧装置と、
前記NMRプローブ内にガスを供給することで前記NMRプローブ内を加圧するガス供給装置と、
前記減圧装置による減圧と前記ガス供給装置による加圧を制御する制御装置と、
を含み、
前記制御装置は、前記減圧装置による前記NMRプローブ内の減圧と前記ガス供給装置による前記NMRプローブ内の加圧とを交互に繰り返す、
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項2】
請求項1に記載のNMR装置において、
前記制御装置は、前記NMRプローブの耐圧の範囲内で減圧と加圧とを交互に繰り返す、
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のNMR装置において、
前記制御装置は、前記NMRプローブ内の残存空気量の割合が目標値になるまで、減圧と加圧とを交互に繰り返す、
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項4】
請求項3に記載のNMR装置において、
大気圧をP0、減圧時の前記NMRプローブ内の圧力をP1、加圧時の前記NMRプローブ内の圧力をP2、減圧と加圧の繰り返しの回数をNと定めた場合、
前記目標値は、{(P1/P0)(P0/P2)}N×100%によって定められる、
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のNMR装置において、
前記減圧装置と前記NMRプローブとの間に設置された第1バッファータンクと、
前記ガス供給装置と前記NMRプローブとの間に設置された第2バッファータンクと、
を更に含み、
前記制御装置は、減圧時に、前記第1バッファータンク内を減圧し、前記第1バッファータンク内の減圧を利用して前記NMRプローブ内を減圧し、加圧時に、前記第2バッファータンク内を加圧し、前記第2バッファータンク内の加圧を利用して前記NMRプローブ内を加圧する、
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNMR装置において、
前記ガス供給装置によって供給される前記ガスは、NMR測定時に前記NMRプローブ内に供給されるガスと同じ種類のガスである、
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項7】
NMR装置に設置され、内部に試料が設置されるNMRプローブの内部を減圧し、
前記減圧の後、前記NMRプローブ内にガスを供給することで前記NMRプローブ内を加圧し、
前記減圧と前記加圧とを交互に繰り返すことで、前記NMRプローブ内のガスを置換する、
NMRプローブ内のガス置換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)測定に用いられるNMR装置に関し、特に、NMRプローブ等の装置内のガスを置換する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置は、スピン磁気モーメントを有する原子核に静磁場を印加し、そのスピン磁気モーメントにラーモアの歳差運動を発生させて、そこに歳差運動と同じ周波数を有する高周波を照射して共鳴させることで、そのスピン磁気モーメントを有する原子核の信号を検出する装置である。
【0003】
NMR測定においては、試料を収容した試料管が設置されたNMRプローブが、超伝導磁石等の静磁場発生装置の細長い孔状の測定空間に挿入される。固体試料に対するNMR測定においては、通常、MAS(Magic Angle Spinning)法が採用される。MAS法においては、固体試料が収容された試料管を、静磁場方向に対してマジック角(概ね54.7°)をもって傾けつつ高速で回転させ、その状態でNMR信号を検出する。例えば、冷却されたガスがNMRプローブ内の試料管に供給されることで、試料管が高速で回転させられつつ試料が冷却される。
【0004】
上記のガスとして、目的温度に応じて、乾燥空気、窒素ガス又はヘリウムガス等が用いられる。特にヘリウムガス等のように高価なガスが用いられる場合、ガスの配管として閉回路が用いられ、ガスが循環して用いられることがある。
【0005】
特許文献1には、冷温ヘリウムガスを閉回路内で循環させることで、NMRプローブ内にて試料管を回転させる装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載の装置では、NMRプローブや試料管を交換する場合に閉回路を一度開放する必要がある。また、開放せずに試料交換できるシステムでも、装置の一部への空気の混入をゼロにはできない。このように閉回路を(たとえ一瞬でも)開放すると、空気がNMR装置内やNMRプローブ内に混入する。低温下で用いられるNMR装置では、空気に含まれる気体が液化又は固化し、その結果、閉回路を構成する配管が詰まることがある。特に試料管を回転させるモジュールに形成されている小さな孔が詰まると、試料管の回転が不安定になる。
【0008】
この点に関して、
図12を参照して詳しく説明する。
図12には、試料管及びその周囲の構成が示されている。試料管には、試料管を回転させるドライブガスと、試料管を軸受するベアリングガスが供給される。
【0009】
例えば、大きい氷がベアリングガスの給気孔に詰まったり、小さい氷が試料管と軸受との間に挟まったりする場合がある。更に小さい氷は、給気孔から出た後、試料管に衝突し、試料管に衝撃を与えつつ軸受の外に排出される。軸受と試料管との間に氷が詰まった場合、試料管の回転が止まる等の現象が発生することがある。給気孔を通る程度の大きさを有する氷が発生したり、試料管に氷がついたりした場合、試料管の回転が不安定になる、又は、試料管が回転しない。給気孔に詰まる程度の大きさを有する氷が発生した場合、試料管の保持力が低下し、又は、その保持力がなくなるため、試料管が不安定になり、試料管と軸受が接触する等の状態が生じ得る。
【0010】
また、小さい氷が、タービンノズルをすり抜けてタービンに衝突する場合がある。この場合、試料管に衝撃が加わるので、試料管が不安定になる。タービンノズルに詰まる程度の大きさを有する氷が発生した場合、ガスを加圧や印加してもタービンを回転させることができなくなるので、試料管の回転数が上がらない現象が生じ得る。
【0011】
閉回路を開放するときに発生し得る結露や、配管へのガスの吸い込み等を抑えるために、NMR装置内やNMRプローブ内の温度を常温にすることが考えられる。しかし、この方法では、装置の温度が低いほど、温度を常温にするまでに要する時間が増大することになる。
【0012】
本発明の目的は、低温下で用いられるNMR装置において、試料管やプローブの交換に起因して試料管の回転機構にて発生し得る詰まりを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様は、内部に試料が設置されるNMRプローブと、前記NMRプローブ内、又は、試料交換用の付属装置内を減圧する減圧装置と、前記NMRプローブ内にガスを供給することで前記NMRプローブ内を加圧するガス供給装置と、前記減圧装置による減圧と前記ガス供給装置による加圧を制御する制御装置と、を含み、前記制御装置は、前記減圧装置による前記NMRプローブ内の減圧と前記ガス供給装置による前記NMRプローブ内の加圧とを交互に繰り返す、ことを特徴とするNMR装置である。
【0014】
上記の構成によれば、減圧装置による減圧とガス供給装置による加圧とを交互に繰り返すことで、NMRプローブ内のガスが置換される。例えば、NMRプローブがNMR装置から取り外されて試料が交換され、交換後の試料が設置されたNMRプローブがNMR装置に取り付けられる。試料の交換時にNMRプローブ内に空気が混入するが、上記の構成によれば、NMRプローブ内の減圧と加圧とを交互に繰り返すことで、NMRプローブ内の空気が排出され、NMRプローブ内の空気が、ガス供給装置によって供給されるガスに置換される。このようなガス置換が実現されることで、低温下でNMR測定が行われる場合であっても、NMRプローブ内における空気の液化や固化を防止することができる。
【0015】
前記制御装置は、前記NMRプローブの耐圧の範囲内で減圧と加圧とを交互に繰り返してもよい。
【0016】
前記制御装置は、前記NMRプローブ内の残存空気量の割合が目標値になるまで、減圧と加圧とを交互に繰り返してもよい。
【0017】
大気圧をP0、減圧時の前記NMRプローブ内の圧力をP1、加圧時の前記NMRプローブ内の圧力をP2、減圧と加圧の繰り返しの回数をNと定めた場合、前記目標値は、{(P1/P0)(P0/P2)}N×100%によって定められてもよい。
【0018】
NMR装置は、前記減圧装置と前記NMRプローブとの間に設置された第1バッファータンクと、前記ガス供給装置と前記NMRプローブとの間に設置された第2バッファータンクと、を更に含み、前記制御装置は、減圧時に、前記第1バッファータンク内を減圧し、前記第1バッファータンク内の減圧を利用して前記NMRプローブ内を減圧し、加圧時に、前記第2バッファータンク内を加圧し、前記第2バッファータンク内の加圧を利用して前記NMRプローブ内を加圧してもよい。
【0019】
前記ガス供給装置によって供給される前記ガスは、NMR測定時に前記NMRプローブ内に供給されるガスと同じ種類のガスであってもよい。
【0020】
本発明の1つの態様は、NMR装置に設置され、内部に試料が設置されるNMRプローブの内部を減圧し、前記減圧の後、前記NMRプローブ内にガスを供給することで前記NMRプローブ内を加圧し、前記減圧と前記加圧とを交互に繰り返すことで、前記NMRプローブ内のガスを置換する、NMRプローブ内のガス置換方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低温下で用いられるNMR装置において、試料管やプローブの交換に起因して試料管の回転機構にて発生し得る詰まりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係るNMR装置を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係るNMR装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係るNMR装置を示す図である。
【
図6】第3実施形態に係るNMR装置を示す図である。
【
図7】第4実施形態に係るNMR装置を示す図である。
【
図9】第5実施形態に係るNMR装置を示す図である。
【
図10】試料管及びその周囲の構成を示す図である。
【
図11】第5実施形態に係るNMR装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図12】試料管及びその周囲の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1を参照して、第1実施形態に係るNMR装置について説明する。
図1には、第1実施形態に係るNMR装置の一例が示されている。第1実施形態に係るNMR装置10は、試料中の観測核により生じたNMR信号を測定する装置である。
【0024】
静磁場発生装置12は静磁場を発生させる装置であり、その中央部には、垂直方向に延びる空洞部としてのボア14が形成されている。NMRプローブ16は、それ全体として垂直方向に延びる円筒形状を有し、静磁場発生装置12のボア14内に挿入される。
【0025】
NMRプローブ16は、例えば、MAS法を実施するための装置であり、送信用及び受信用の検出コイルを含み、試料が収容される試料管をマジック角に傾斜させて支持する。試料管は例えば円柱状の形状を有し、固体試料を収容する。もちろん、液体試料が用いられてもよい。試料管は、NMRプローブ16内において、静磁場に対してマジック角を持って傾斜した回転軸上で、その周囲を精密な気体軸受によって支持され、測定中は高速で回転する。目的温度に応じて、乾燥空気、窒素ガス又はヘリウムガス等のガスが、NMRプローブ内の試料管に供給され、そのガスによって試料管が高速で回転させられる。また、目的温度に冷却されたガス(例えば窒素ガスやヘリウムガス)が試料管に供給されることで、試料管内の試料が冷却される。
【0026】
また、NMR装置10は、ガス循環装置18、減圧装置20、ガス供給装置22及び制御装置24を含む。
【0027】
ガス循環装置18は、閉回路によってガスを循環させることで、ガスをNMRプローブ16内に供給し、NMRプローブ16からガスを回収する装置である。ガスは、乾燥空気、窒素ガス又はヘリウムガス等である。
【0028】
具体的には、ドライブ用配管26、ベアリング用配管28及びリターン用配管30によって閉回路が形成される。
【0029】
ドライブ用配管26は、ガス循環装置18からNMRプローブ16内に掛けて配置され、NMRプローブ16内に設置されている試料管を回転させるガス(つまりドライブガス)をNMRプローブ16内に供給するために用いられる配管である。
【0030】
ベアリング用配管28は、ガス循環装置18からNMRプローブ16内に掛けて配置され、NMRプローブ16内に設置されている試料管を支持するガス(つまりベアリングガス)をNMRプローブ16内に供給するために用いられる配管である。ベアリングガスは、試験管の気体軸受に用いられるガスである。
【0031】
リターン用配管30は、ガス循環装置18からNMRプローブ16内に掛けて配置され、NMRプローブ16内に供給されたガスをガス循環装置18に戻すために用いられる配管である。
【0032】
ガス循環装置18は、ドライブ用配管26を介してドライブガスをNMRプローブ16内に設置されている試料管に供給することで、試料管を回転させる。また、ガス循環装置18は、ベアリング用配管28を介してベアリングガスをNMRプローブ16内に設置されている試料管に供給する。ベアリングガスによって試料管が支持される。
【0033】
ドライブガス及びベアリングガスは、リターン用配管30を介してガス循環装置18によって回収される。回収されたガスは、ドライブ用配管26及びベアリング用配管28を介してNMRプローブ16内に設置されている試料管に供給され、リターン用配管30を介してガス循環装置18によって回収される。このように、ガスがガス循環装置18によって循環させられて、試料管がガスによって支持されて回転させられる。また、目的温度に冷却されたガスが試料管に供給されることで、試料管に収容されている試料が冷却される。例えば、極低温のヘリウムガスや窒素ガスが用いられる。
【0034】
また、ドライブ用配管26上にバルブV1が設置されており、ベアリング用配管28上にバルブV2が設置されており、リターン用配管30上にバルブV3が設置されている。バルブV1の開閉が制御されることで、NMRプローブ16内へのドライブガスの供給が制御される。バルブV2の開閉が制御されることで、NMRプローブ16内へのベアリングガスの供給が制御される。バルブV3の開閉が制御されることで、ガス循環装置18によるガスの回収が制御される。
【0035】
配管32の一端が、リターン用配管30の途中の箇所に接続されている。配管32上にはバルブV4が設置されている。
【0036】
減圧用配管34の一端及び加圧用配管36の一端が、配管32の他端に接続されている。減圧用配管34の他端は減圧装置20に接続され、加圧用配管36の他端はガス供給装置22に接続されている。
【0037】
減圧用配管34上にバルブV5と圧力計P1とが設置され、加圧用配管36上にバルブV6と圧力計P2とが設置されている。
【0038】
圧力計P1によって、減圧用配管34内の圧力が測定される。圧力計P2によって、加圧用配管36内の圧力が測定される。
【0039】
圧力計P1,P2はそれぞれ制御装置24に接続されており、圧力計P1,P2のそれぞれの測定結果が制御装置24に出力される。
【0040】
また、制御装置24は、バルブV5,V6に接続され、バルブV5,V6の開閉を制御する。なお、バルブV1,V2,V3が制御装置24に接続され、バルブV1,V2,V3の開閉が、制御装置24によって制御されてもよい。
【0041】
減圧装置20は、例えばポンプであり、減圧用配管34、配管32及びリターン用配管30の内部を減圧し、それらの配管を介してNMRプローブ16内を減圧する。
【0042】
ガス供給装置22は、加圧用配管36、配管32及びリターン用配管30の内部にガスを供給し、これらの配管を介してNMRプローブ16内にガスを供給する。ガス供給装置22は、ガスを供給することで、加圧用配管36、配管32及びリターン用配管30の内部、及び、NMRプローブ16内を加圧する。ガス供給装置22によって供給されるガスは、NMR測定時にNMRプローブ16内に供給されるガスと同じ種類のガスが用いられる。つまり、ガス供給装置22によって供給されるガスは、ガス循環装置18によって循環されるガスと同じ種類のガスが用いられる。例えば、乾燥空気、窒素ガス又はヘリウムガス等のガスが用いられる。また、目的温度に応じた温度を有するガスが用いられる。例えば、極低温に冷却されたヘリウムガスや窒素ガスが用いられる。
【0043】
制御装置24は、バルブV5,V6の開閉を制御する。制御装置24は、減圧装置20及びガス供給装置22の動作を制御してもよい。また、制御装置24は、バルブV1,V2,V3,V4の開閉を制御してもよい。
【0044】
制御装置24は、例えばコンピューターであり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、メモリやハードディスクドライブ等の記憶装置とを含む。例えば、記憶装置にプログラムが記憶され、そのプログラムがプロセッサによって実行されることで、制御装置24の機能が実現される。具体的には、バルブV5,V6の開閉や、減圧装置20及びガス供給装置22の動作等が制御される。電子回路等のハードウェアや、プログラマブル回路等によって、制御装置24の機能が実現されてもよい。
【0045】
NMR測定時には、バルブV1,V2,V3が開かれ、バルブV4が閉じられる。ドライブガスが、ドライブ用配管26を介してガス循環装置18からNMRプローブ16内に供給されることで、NMRプローブ16内に設置されている試料管が回転させられる。ベアリングガスが、ベアリング用配管28を介してガス循環装置18からNMRプローブ16内に供給されることで、NMRプローブ16内に設置されている試料管が支持される。ドライブガスとベアリングガスは、リターン用配管30を介してガス循環装置18によって回収される。ドライブガス及びベアリングガスによって、試料管内に収容されている試料が目的温度(例えば極低温)に冷却され、その状態で、NMR測定が行われる。
【0046】
以下、
図2を参照して、NMRプローブ16を交換するときのNMR装置10の動作について説明する。
図2には、その動作の流れを示すフローチャートが示されている。
【0047】
NMRプローブ16を交換する場合、バルブV1,V2,V3,V4が閉じられる(S01)。バルブV1,V2,V3,V4は、作業者によって閉じられてもよいし、制御装置24によって自動的に閉じられてもよい。
【0048】
次に、静磁場発生装置12のボア14に挿入されているNMRプローブ16が交換される(S02)。例えば、NMRプローブ16が静磁場発生装置12のボア14から取り外され、NMRプローブ16内の試料管が交換される。試料管が交換されたNMRプローブ16が、静磁場発生装置12のボア14内に挿入される。NMRプローブ16自体が交換されてもよい。
【0049】
交換後のNMRプローブ16内には空気が混入しているため、以下に説明するガス置換が行われる。
【0050】
バルブV1,V2,V3が閉じられたまま、バルブV4が開けられる(S03)。バルブV4は、作業者によって開けられてもよいし、制御装置24によって自動的に開けられてもよい。
【0051】
次に、減圧装置20とガス供給装置22がオンされる(S04)。例えば、制御装置24は、作業者の指示に従って、減圧装置20とガス供給装置22をオンする。
【0052】
次に、制御装置24は、バルブV6を閉じた状態で、バルブV5を開ける(S05)。これにより、減圧装置20によってNMRプローブ16内が減圧される。圧力計P1によって測定される圧力P1が目標圧力Paになるまで減圧される。目標圧力Paは、作業者等によって予め設定される。
【0053】
圧力計P1によって測定される圧力P1が目標圧力Paに達した場合、制御装置24は、バルブV5を閉じる(S06)。
【0054】
次に、制御装置24は、バルブV5を閉じた状態で、バルブV6を開ける(S07)。これにより、ガス供給装置22からNMRプローブ16内にガスが供給される。圧力計P2によって測定される圧力P2が目標圧力Pbになるまで加圧される。目標圧力Pbは、作業者等によって予め設定される。
【0055】
圧力計P2によって測定される圧力P2が目標圧力Pbに達した場合、制御装置24は、バルブV6を閉じる(S08)。
【0056】
制御装置24は、ステップS05~S08の動作をN回繰り返し実行する。このように、制御装置24は、減圧装置20による減圧とガス供給装置22による加圧を交互にN回繰り返す。N回は、作業者等によって設定されてもよいし、予め設定されてもよいし、NMRプローブ16内の目標圧力に基づいて算出されて設定されてもよい。
【0057】
ステップS05~S08の動作がN回繰り返し実行された後、制御装置24は、バルブV4を閉じる(S09)。
【0058】
次に、制御装置24は、バルブV1,V2,V3を開ける(S10)。
【0059】
その後、NMR装置10は、NMR測定を行う(S11)。
【0060】
以上のようにして、交換後のNMRプローブ16内のガスが置換される。つまり、試料を交換した直後においては、NMRプローブ16内には空気(例えば、窒素ガスや酸素ガス)が混入しているが、減圧装置20による減圧とガス供給装置22による加圧とを交互に繰り返すことで、NMRプローブ16内の空気はNMRプローブ16外に排出され、NMRプローブ16内は、NMR測定に用いられるガスで満たされる。このようにして、NMRプローブ16内のガスが置換される。
【0061】
以下、圧力P1,P2について説明する。圧力P1が、以下に示す式(1)を満たし、圧力P2が、以下に示す式(2)を満たすように、減圧及び加圧が制御される。
X<P1<P0・・・(1)
P0<P2<Y・・・(2)
【0062】
圧力P0は大気圧である。圧力X,Yは、NMRプローブ16の耐圧、試料管の耐圧、及び、試料の状態の中の少なくとも1つによって定められる。以下、圧力X,Yについて詳しく説明する。
【0063】
圧力Xは、試料の沸騰や試料の漏れ等に関係する値である。液体試料が測定される場合、圧力Xは、試料管内に試料を密閉できる設計値又は実験値に基づいて決定される。例えば、試料管が試料を密閉する性能が1Paまでであれば、圧力Xとして1Paが用いられる。固体試料が測定される場合において、固体試料に含有する水分が抜けることで固体試料が壊れない場合、圧力Xとして、真空ポンプの減圧性能値、又は、配管の耐真空圧力値が用いられる。
【0064】
圧力Yは、NMRプローブ16において設計的に求められる耐圧によって決定される値であり、圧力Yとして、構造的に一番弱い部分の設計値が用いられる。例えば、NMRプローブ16を構成する部品が500kPaの圧力に耐えられる場合、この圧力よりも低い圧力(例えば250kPa)が、圧力Yとして用いられる。
【0065】
また、圧力が加えられたときに試料管が回転すると、試料管と軸受が接触し、双方に摩擦傷が生じる可能性がある。摩擦傷が生じると、その度合によって、試料管が回転時に破損する可能性がある。また、軸受が試料管を支える力が減少し、試料管の回転が不安定になる。したがって、圧力は、その圧力が加えられたときに、試料管が回転しない圧力であることが望ましい。
【0066】
減圧装置20による減圧、及び、ガス供給装置22による加圧の両方が行われてもよいし、いずれか一方のみが行われてもよい。
【0067】
図3には、圧力の時間変化を表すグラフが示されている。
図3において、横軸は時間tを示しており、縦軸は、圧力計P1又は圧力計P2によって測定された圧力Pを示している。減圧時の圧力Pは、圧力計P1によって測定された圧力である。加圧時の圧力Pは、圧力計P2によって測定された圧力である。圧力Pは、NMRプローブ16内の圧力の推定値に相当する。つまり、圧力計P1,P2によって、NMRプローブ16内の圧力が推定される。
【0068】
図3に示す例では、ある基準の圧力(例えば大気圧)を間にして、減圧と加圧とが繰り返されている。例えば、圧力Pが目標圧力Paになるまで減圧が行われ、圧力Pが目標圧力Pbになるまで加圧が行われる。目標圧力Pa,Pbは、一定時間の間、維持されてもよい。目標圧力Paが維持される時間の長さと目標圧力Pbが維持される時間の長さは、同じであってもよいし、異なってもよい。また、各回における当該時間の長さは、同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、制御装置24は、減圧及び加圧の繰り返しの回数が増えるほど、目標圧力Paが維持される時間の長さや目標圧力Pbが維持される時間の長さを長くしてもよいし、これらの時間の長さを短くしてもよい。制御装置24は、各回におけるこれらの時間の長さを一定の長さに維持してもよい。目標圧力Pa,Pbは、一定時間の間、維持されずに、圧力Pが目標圧力Paに達した時点で加圧が行われ、圧力Pが目標圧力Pbに達した時点で減圧が行われてもよい。
【0069】
各減圧及び各加圧において、減圧及び加圧の速度(つまり、グラフの傾き)は同じであってもよいし、異なってもよい。減圧毎に減圧の速度を変えてもよいし、加圧毎に加圧の速度を変えてもよい。
【0070】
ある基準の圧力(例えば大気圧)以下の圧力の範囲内において、減圧及び加圧が繰り返し行われてもよいし、ある基準の圧力を超える圧力の範囲内において、減圧及び加圧が繰り返し行われてもよい。
【0071】
以上のように減圧及び加圧が繰り返されることで、NMRプローブ16内のガスが置換される。例えば、NMRプローブ16内の残存空気量の割合が目標値になるまで、減圧及び加圧が繰り返される。残存空気は、例えば、窒素ガス及び酸素ガスである。
【0072】
ガスが置換された後のNMRプローブ16内に残る空気(例えば、窒素ガス及び酸素ガス)の割合は、以下の式(3)で表される。
{(P1/P0)(P0/P2)}
N×100%・・・(3)
Nは、
図2中のステップS05~S08の動作を繰り返す回数である。
【0073】
図4には、回数Nと残存空気量の割合との関係を表すグラフが示されている。
図4において、横軸は回数Nを示しており、縦軸は残存空気量の割合(%)を示している。回数Nを多くなるほど、残存空気量の割合は減少する。
【0074】
例えば、式(3)から得られる値が、1%以下、0.1%以下、又は、0.01%以下になるまで、減圧及び加圧が繰り返される。なお、これらの値は一例であり、目的に応じて値が設定される。
【0075】
図1中のM点にガスクロマトグラフや酸素濃度計を接続し、実際の空気(例えば、窒素ガスや酸素ガス)の割合を測定し、その測定結果が目標値になるまで、減圧及び加圧が繰り返されてもよい。
【0076】
また、ユーザーが、残存空気量の割合の目標値を決定した場合、その目標値が、残存空気量の割合として式(3)に代入されて、その目標値を達するための回数Nが演算されてもよい。この場合、ステップS05~S08の動作を繰り返す回数として、その演算された回数Nが制御装置24に設定される。制御装置24は、その演算された回数であるN回、ステップS05~S08の動作を繰り返す。
【0077】
なお、第1実施形態では、減圧及び加圧に用いられる配管32は、試料管の回転や軸受に寄与しないリターン用配管30に接続されている。こうすることで、試料管の回転や軸受に与える影響を抑制しつつ、減圧及び加圧を行うことができる。
【0078】
<第2実施形態>
以下、
図5を参照して、第2実施形態に係るNMR装置について説明する。
図5には、第2実施形態に係るNMR装置10Aが示されている。第2実施形態に係るNMR装置10Aにおいては、減圧及び加圧に用いられる配管32の一端が、ベアリング用配管28の途中の箇所に接続されている。これ以外の構成は、第1実施形態に係るNMR装置10の構成と同じである。また、減圧時及び加圧時における動作は、第1実施形態に係る動作と同じである。第2実施形態に係るNMR装置10Aによっても、第1実施形態に係るNMR装置10と同じ効果を奏することができる。
【0079】
<第3実施形態>
以下、
図6を参照して、第3実施形態に係るNMR装置について説明する。
図6には、第3実施形態に係るNMR装置10Bが示されている。第3実施形態に係るNMR装置10Bにおいては、冷却用配管38が用いられる。冷却用配管38は、ガス循環装置18からNMRプローブ16内に掛けて配置され、試料管を冷却するための冷却ガスをNMRプローブ16内に供給するために用いられる配管である。冷却用配管38上にはバルブV7が設置されており、バルブV7の開閉が制御されることで、NMRプローブ16内への冷却ガスの供給が制御される。冷却用配管38及びバルブV7以外の構成は、第1実施形態に係るNMR装置10の構成と同じである。
【0080】
減圧時及び加圧時における動作は、第1実施形態に係るNMR装置10の動作と基本的に同じである。バルブV7は、バルブV1,V2,V3と同様に開閉される。つまり、バルブV1,V2,V3が開けられるときは、バルブV7も開けられ、バルブV1,V2,V3が閉じられるときは、バルブV7も閉じられる。
【0081】
第3実施形態に係るNMR装置10Bによっても、第1実施形態に係るNMR装置10と同じ効果を奏することができる。
【0082】
<第4実施形態>
以下、
図7を参照して、第4実施形態に係るNMR装置について説明する。
図7には、第4実施形態に係るNMR装置10Cが示されている。第4実施形態に係るNMR装置10Cにおいては、バッファータンク40,42が用いられる。
【0083】
バッファータンク40は、減圧用配管34に設けられたタンクである。バッファータンク42は、加圧用配管36に設けられたタンクである。バッファータンク40,42内の容量は同じであってもよいし、異なってもよい。
【0084】
バッファータンク40と減圧装置20とを接続する配管にはバルブV8が設置されている。バッファータンク42とガス供給装置22とを接続する配管にはバルブV9が設置されている。バルブV8,V9の開閉は、制御装置24によって制御されてもよいし、作業者によって行われてもよい。
【0085】
バッファータンク40,42及びバルブV8,V9以外の構成は、第1実施形態に係るNMR装置10の構成と同じである。なお、バッファータンク40が、第1バッファータンクの一例に相当し、バッファータンク42が、第2バッファータンクの一例に相当する。
【0086】
第4実施形態においては、制御装置24は、加圧時に、バッファータンク42内を加圧し、バッファータンク42内の加圧を利用してNMRプローブ16内を加圧する。また、制御装置24は、減圧時に、バッファータンク40内を減圧し、バッファータンク40内の減圧を利用してNMRプローブ16内を減圧する。つまり、加圧時には、バッファータンク42内が予め加圧され、その加圧を利用してNMRプローブ16内が加圧される。減圧時には、バッファータンク40内が予め減圧され、その減圧を利用してNMRプローブ16内が減圧される。
【0087】
以下、NMR装置10Cの動作について詳しく説明する。
【0088】
第1実施形態に係るNMR装置10と同様に、NMR測定時には、バルブV1,V2,V3が開かれ、バルブV4が閉じられる。ドライブガスが、ドライブ用配管26を介してガス循環装置18からNMRプローブ16内に供給されることで、NMRプローブ16内に設置されている試料管が回転させられる。ベアリングガスが、ベアリング用配管28を介してガス循環装置18からNMRプローブ16内に供給されることで、NMRプローブ16内に設置されている試料管が支持される。ドライブガスとベアリングガスは、リターン用配管30を介してガス循環装置18によって回収される。ドライブガス及びベアリングガスによって、試料管内に収容されている試料が目的温度(例えば極低温)に冷却され、その状態で、NMR測定が行われる。
【0089】
NMRプローブ16を交換する場合、バルブV1,V2,V3,V4が閉じられ、静磁場発生装置12のボア14に挿入されているNMRプローブ16が交換される。交換後のNMRプローブ16内には空気が混入しているため、以下に説明するガス置換が行われる。
【0090】
バルブV1,V2,V3が閉じられたまま、バルブV4が開けられる。次に、減圧装置20とガス供給装置22がオンされる。
【0091】
次に、バルブV5が閉じた状態でバルブV8が開けられる。これにより、減圧装置20によって、バッファータンク40内が減圧される。また、バルブV6が閉じた状態でバルブV9が開けられる。これにより、ガス供給装置22によって、バッファータンク42内が加圧される。制御装置24が、バルブV8,V9を開けてもよいし、作業者が、バルブV8,V9を開けてもよい。
【0092】
次に、制御装置24は、バルブV6が閉じた状態で、バルブV5を開ける。これにより、バッファータンク40内の減圧を利用して、NMRプローブ16内が減圧され、続けて、減圧装置20によってNMRプローブ16内が減圧される。圧力計P1によって測定される圧力P1が目標圧力Paになるまで減圧される。
【0093】
圧力計P1によって測定される圧力P1が目標圧力Paに達した場合、制御装置24は、バルブV5を閉じる。
【0094】
次に、制御装置24は、バルブV5を閉じた状態で、バルブV6を開ける。これにより、バッファータンク42内の加圧を利用して、NMRプローブ16内が加圧され、続けて、ガス供給装置22によってNMRプローブ16内が加圧される。圧力計P2によって測定される圧力P2が目標圧力Pbになるまで加圧される。
【0095】
圧力計P2によって測定される圧力P2が目標圧力Pbに達した場合、制御装置24は、バルブV6を閉じる。
【0096】
第1実施形態に係るNMR装置10の動作と同様に、制御装置24は、減圧と加圧を交互にN回繰り返し実行する。減圧と加圧がN回繰り返し実行された後、制御装置24は、バルブV4を閉じる。
【0097】
次に、制御装置24は、バルブV1,V2,V3を開ける。その後、NMR装置10は、NMR測定を行う。
【0098】
以上のようにして、交換後のNMRプローブ16内のガスが置換される。
【0099】
バッファータンク40が予め減圧され、バッファータンク42が予め加圧されているため、NMRプローブ16内の圧力の変化は、第1実施形態に係る圧力の変化と比べて急峻となる。つまり、NMRプローブ16内の圧力を目標圧力Paまで減圧するために要する時間が、第1実施形態における時間よりも短くなり、NMRプローブ16内の圧力を目標圧力Pbまで加圧するために要する時間が、第1実施形態における時間よりも短くなる。
【0100】
図8には、第3実施形態に係る圧力Pの時間変化を表すグラフが示されている。NMRプローブ16内の圧力の変化がより急峻となるため、
図8に示されているグラフは、
図3に示されている第1実施形態に係るグラフと比べて、より矩形に近い形を有する。
【0101】
図3を参照して説明したように、目標圧力Pa,Pbが維持される時間の長さは、同じであってもよいし、異なってもよいし、減圧及び加圧の回数に応じて変更されてもよい。
【0102】
<第5実施形態>
以下、
図9を参照して、第5実施形態に係るNMR装置について説明する。
図9には、第5実施形態に係るNMR装置10Dが示されている。NMR装置10Dは、サンプルキャッチャー44を含む。サンプルキャッチャー44は、NMRプローブ16内に試料管を導入し、NMRプローブ16から試料管を回収する機構である。
【0103】
試料交換用配管46の一端は、NMRプローブ16に接続されており、試料交換用配管46の途中の箇所にサンプルキャッチャー44が設置されている。試料交換用配管46の他端は、減圧用配管34の一端及び加圧用配管36の一端に接続されている。
【0104】
試料交換用配管46上には、バルブV11,V12が設置されている。バルブV11は、NMRプローブ16とサンプルキャッチャー44との間に設置されている。バルブV12は、サンプルキャッチャー44よりも、減圧用配管34及び加圧用配管36側に設置されている。バルブV11,V12の開閉は、制御装置24によって制御されてもよいし、作業者によって行われてもよい。
【0105】
第1実施形態に係るNMR装置10と同様に、NMR装置10Dは、減圧装置20、ガス供給装置22及び制御装置24を含む。減圧用配管34上にバルブV13と圧力計P1が設置され、加圧用配管36上にバルブV14と圧力計P2が設置されている。バルブV13,V14の開閉は、制御装置24によって制御される。
【0106】
図10には、試料管及びその周囲の構成が示されている。試料管48の周囲には、検出コイル等の含むMASモジュール50が設置されている。試料管48及びMASモジュール50は、プローブカバー52によって覆われ、プローブカバー52内に収容される。なお、
図10においては、バルブV11,V12の図示は省略されている。
【0107】
NMR測定時には、バルブV11が閉じられ、NMR測定が行われる。
【0108】
以下、
図11を参照して、試料を交換するときのNMR装置10Dの動作について説明する。
図11には、その動作の流れを示すフローチャートが示されている。
【0109】
試料を交換する場合、サンプルキャッチャー44内が減圧される(S21)。例えば、バルブV12,V13が開けられ、減圧装置20によってサンプルキャッチャー44内が減圧される。その減圧後、バルブV12,V13が閉じられる。
【0110】
次に、バルブV11が開けられる(S22)。その状態で、試料管48が、NMRプローブ16内からサンプルキャッチャー44まで移送させられ、試料が交換される(S23)。この作業によって、サンプルキャッチャー44内に空気が混入するため、以下に説明するガス置換が行われる。
【0111】
まず、バルブV11が閉じられ(S24)、バルブV12が開けられる(S25)。バルブV11,V12の開閉は、制御装置24によって行われてもよいし、作業者によって行われてもよい。
【0112】
次に、減圧装置20とガス供給装置22がオンされる(S26)。例えば、制御装置24は、作業者の指示に従って、減圧装置20とガス供給装置22をオンする。
【0113】
次に、制御装置24は、バルブV14を閉じた状態で、バルブV13を開ける(S27)。これにより、減圧装置20によってサンプルキャッチャー44内が減圧される。圧力計P1によって測定される圧力P1が目標圧力Paになるまで減圧される。目標圧力Paは、作業者等によって予め設定される。
【0114】
圧力計P1によって測定される圧力P1が目標圧力Paに達した場合、制御装置24は、バルブV13を閉じる(S28)。
【0115】
次に、制御装置24は、バルブV13を閉じた状態で、バルブV14を開ける(S29)。これにより、ガス供給装置22からサンプルキャッチャー44内にガスが供給される。圧力計P2によって測定される圧力P2が目標圧力Pbになるまで加圧される。目標圧力Pbは、作業者等によって予め設定される。
【0116】
圧力計P2によって測定される圧力P2が目標圧力Pbに達した場合、制御装置24は、バルブV14を閉じる(S30)。
【0117】
制御装置24は、ステップS27~S30の動作をN回繰り返し実行する。つまり、制御装置24は、減圧及び加圧を交互にN回繰り返し実行する。N回は、作業者等によって設定されてもよいし、予め設定されてもよいし、サンプルキャッチャー44内の目標圧力に基づいて算出されて設定されてもよい。
【0118】
ステップS27~S30の動作がN回繰り返し実行された後、制御装置24は、バルブV12を閉じる(S31)。
【0119】
次に、NMR測定のために、バルブV11が開けられ(S32)、試料が交換された試料管48が、サンプルキャッチャー44からNMRプローブ16内に導入される。
【0120】
試料管48がNMRプローブ16内に導入されて設置されると、バルブV11が閉じられる(S33)。
【0121】
その後、NMR装置10Dは、NMR測定を行う(S34)。
【0122】
以上のようにして、試料交換後のサンプルキャッチャー44内のガスが置換される。第5実施形態では、サンプルキャッチャー44を用いて試料管の回収及び導入が行われるので、試料交換のためにNMRプローブ16を静磁場発生装置12から取り外す必要がない。
【0123】
第5実施形態においても、第1実施形態と同様に、圧力P1が式(1)の条件を満たし、圧力P2が式(2)の条件を満たすように、圧力が制御される。また、サンプルキャッチャー44内に残る空気の割合は、式(3)によって表される。第1実施形態と同様に、式(3)から得られる値が、1%以下、0.1%以下、又は、0.01%以下になるまで、減圧及び加圧が繰り返される。
【0124】
図9中のM点にガスクロマトグラフや酸素濃度計を接続し、実際の空気(例えば、窒素ガスや酸素ガス)の割合を測定し、その測定結果が目標値になるまで、減圧及び加圧が繰り返されてもよい。
【0125】
なお、第5実施形態において、試料管48をNMRプローブ16内から回収するときに、減圧装置20によってNMRプローブ16内を減圧することで、NMRプローブ16内に設置されている試料管48をサンプルキャッチャー44側へ吸い上げてもよい。また、試料管48をNMRプローブ16内に導入するときに、ガス供給装置22によってNMRプローブ16内を加圧することで、NMRプローブ16内への試料管48の導入を補助してもよい。
【0126】
上述した第1から第5実施形態によれば、試料管の交換によって装置内に混入した空気(例えば、窒素ガスや酸素ガス)を、NMR測定に用いられるガスに置換することができる。例えば、試料の交換によってNMRプローブ16内やサンプルキャッチャー44内に混入した空気を、NMR測定に用いられるガスに置換することができる。これにより、低温下で用いられるNMR装置において、試料管を回転させるためのガスの配管や軸受用のガスの配管の詰まりの発生を防止することができる。つまり、試料管の交換に起因して試料管の回転機構に発生し得る詰まりを防止することができる。その結果、安定してNMR測定を行うことができる。
【0127】
また、ガス循環装置側の構成の内部を大気に開放する必要がないため、その開放によってガスが無駄に失われることを防止することができる。
【0128】
また、第5実施形態のように、サンプルキャッチャーを用いて試料管を交換することで、NMRプローブ16を大気に開放せずに試料を交換することができる。また、試料交換時にNMRプローブ16内の温度を室温に戻す必要がない。
【符号の説明】
【0129】
10 NMR装置、12 静磁場発生装置、14 ボア、16 NMRプローブ、18 ガス循環装置、20 減圧装置、22 ガス供給装置、24 制御装置。