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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026145
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】セパレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0223 20160101AFI20230216BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20230216BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20230216BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20230216BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20230216BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20230216BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20230216BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230216BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230216BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20230216BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230216BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20230216BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230216BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20230216BHJP
【FI】
H01M8/0223
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/021
H01M8/0258
H01M8/0228
H01M50/414
H01M50/44
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/463 B
H01M50/434
H01M50/403 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131855
(22)【出願日】2021-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】本多 雅之
【テーマコード(参考)】
5H021
5H126
【Fターム(参考)】
5H021BB04
5H021CC01
5H021CC03
5H021CC04
5H021CC11
5H021EE02
5H021EE21
5H021EE23
5H021EE29
5H021HH01
5H126AA12
5H126DD04
5H126DD13
5H126DD14
5H126EE03
5H126EE11
5H126FF02
5H126GG02
5H126GG06
5H126GG18
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】
高導電性かつ金属溶出を抑制可能なセパレータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、グラファイトと、樹脂と、金属繊維と、を含むプレート2を備える蓄電デバイス用のセパレータ1であって、プレート2は、その表面に流路としての溝30,32を備え、金属繊維は、銅、チタン、ステンレス鋼のうち少なくとも1つからなるセパレータ1およびその製造方法に関する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトと、樹脂と、金属繊維と、を含むプレートを備える蓄電デバイス用のセパレータであって、
前記プレートは、その表面に流路としての溝を備え、
前記金属繊維は、銅、チタン、ステンレス鋼のうち少なくとも1つからなることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記金属繊維は、前記樹脂100質量部に対して40質量部以上1000質量部以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記溝と前記プレートの前記溝以外の表面とを含み前記プレートの厚さ方向の両側の表面に形成されている層であって、前記プレートよりガスバリア特性に優れたバリア層を、さらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記バリア層は、前記プレートと異なるフィルム状の被覆層であることを特徴とする請求項3に記載のセパレータ。
【請求項5】
前記バリア層は、樹脂若しくはゴムが前記プレートを構成する粒子若しくは繊維の間を充填している充填層であることを特徴とする請求項3に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記バリア層は、前記充填層と、前記プレートと異なるフィルム状の被覆層とを含むことを特徴とする請求項5に記載のセパレータ。
【請求項7】
前記バリア層は、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニレンスルファイドの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記プレートを構成する樹脂および前記バリア層を構成する樹脂は同一種類の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項3から7のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項9】
前記プレートを構成する樹脂および前記バリア層を構成する樹脂の少なくとも一方はポリフェニレンスルファイドを主材とすることを特徴とする請求項3から8のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項10】
燃料電池のセル同士の間に用いられる燃料電池用セパレータであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のセパレータを製造する方法であって、
金型内に、前記グラファイトと前記樹脂と前記金属繊維とを少なくとも含む被成形物を配置する被成形物配置工程と、
前記被成形物を配置した状態にて前記金型を閉じて成形を行う成形工程と、
を含むセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記金型は、その内側に前記溝の転写用の凹凸を備え、
前記成形工程は、前記凹凸を備えた前記金型を用いて、前記被成形物の成形および前記溝の形成を行うことを特徴とする請求項11に記載のセパレータの製造方法。
【請求項13】
前記被成形物配置工程に先立って、前記グラファイトと前記樹脂と前記金属繊維とを少なくとも含む混合物から半硬化状態の前記被成形物を得る前成形工程をさらに含み、
前記被成形物配置工程は、前記半硬化状態の被成形物を前記金型内に配置することを特徴とする請求項11または12に記載のセパレータの製造方法。
【請求項14】
前記被成形物配置工程に先立って、前記金型内に、前記プレートの厚さ方向の一方の表面に、前記プレートよりガスバリア特性に優れたバリア層を形成するためのフィルムを配置する第1フィルム配置工程と、
前記プレートの厚さ方向の他方の表面に前記バリア層を形成するためのフィルムを、前記被成形物配置工程にて前記金型内に配置された前記被成形物上に配置する第2フィルム配置工程と、
をさらに含み、
前記被成形物配置工程は、前記第1フィルム配置工程にて前記金型内に配置された前記フィルム上に前記被成形物を配置し、
前記成形工程は、前記被成形物を前記フィルムによって挟んだ状態にて前記金型を閉じて成形を行い、前記プレートの厚さ方向の両側の表面に前記バリア層を形成することを特徴とする請求項11から13のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の反応を利用してエネルギーを取り出す電池である。当該反応によって生成するのは水であるため、燃料電池は地球環境に優しい電池として知られている。特に、固体高分子型燃料電池は、高出力密度を可能とし、小型で軽量であることから、自動車、通信機器、電子機器等のバッテリーとして有力視され、一部実用化されている。燃料電池は、複数個のセルを積み重ねて構成されたセルスタックである。セルとセルとの間には、セパレータと称する板状部材が配置されている。セパレータは、隣同士になる水素と酸素の通路を仕切る隔壁板であり、水素と酸素がイオン交換膜の全面にわたって均一に接触して流れる役割を担っている。このため、セパレータには、その流路となる溝が形成されている。
【0003】
セパレータは、その構成材料の観点で、金属材料系と、炭素材料系とに大別される。金属材料系のセパレータには、一般的に、ステンレススチール、アルミニウム若しくはその合金、あるいはチタニウム若しくはその合金が使用される。金属材料系のセパレータは、金属特有の強度と延性に起因して、加工性に優れ、かつ薄型化が可能である。しかし、金属材料系のセパレータは、後述の炭素材料系のセパレータに比べて比重が大きく、燃料電池の軽量化に反する。さらに、金属材料系のセパレータは、耐腐食性が低く、材料によっては不動態皮膜を形成するという欠点を有する。金属材料の腐食あるいは不動態皮膜は、セパレータの電気抵抗の上昇につながるので、好ましくない。金属材料系のセパレータの耐食性を改善するために貴金属をめっきあるいはスパッタ等によるコートする場合には高コスト化を招くが、当該高コスト化を防ぐために、セパレータの表面に形成される流路の凸部をフォトレジスト膜で形成する方法が知られている(特許文献1を参照)。
【0004】
一方、炭素材料系のセパレータは、金属材料系のセパレータに比べて比重が小さく、耐食性にも優れるという利点を有する。しかし、炭素材料系のセパレータは、加工性および機械的強度に劣る。また、さらなる低電気抵抗化(すなわち、さらなる高導電性化)の要求もある。機械的強度の改善方法としては、例えば、熱可塑性樹脂に黒鉛粒子を分散させたセパレータが知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-090937号公報
【特許文献2】特開2006-294407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような炭素材料系のセパレータは、金属材料を含有させることにより、さらなる高導電性化に有効である。しかしながら、金属材料を含有させた炭素材料系セパレータは、燃料電池の動作環境で生成される強い酸等の腐食性物質の影響によって、金属がイオン化して溶出する虞がある。
【0007】
本発明は、高導電性かつ金属溶出を抑制可能なセパレータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係るセパレータは、グラファイトと、樹脂と、金属繊維と、を含むプレートを備える蓄電デバイス用のセパレータであって、前記プレートは、その表面に流路としての溝を備え、前記金属繊維は、銅、チタン、ステンレス鋼のうち少なくとも1つからなる。
(2)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記金属繊維は、前記樹脂100質量部に対して40質量部以上1000質量部以下含まれていても良い。
(3)別の実施形態に係るセパレータは、好ましくは、前記溝と前記プレートの前記溝以外の表面とを含み前記プレートの厚さ方向の両側の表面に形成されている層であって、前記プレートよりガスバリア特性に優れたバリア層を、さらに備えも良い。
(4)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記バリア層は、前記プレートと異なるフィルム状の被覆層であっても良い。
(5)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記バリア層は、樹脂若しくはゴムが前記プレートを構成する粒子若しくは繊維の間を充填している充填層であっても良い。
(6)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記バリア層は、前記充填層と、前記プレートと異なるフィルム状の被覆層とを含んでいても良い。
(7)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記バリア層は、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニレンスルファイドの内の少なくとも1つを含んでいても良い。
(8)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記プレートを構成する樹脂および前記バリア層を構成する樹脂は同一種類の熱可塑性樹脂であっても良い。
(9)別の実施形態に係るセパレータにおいて、好ましくは、前記プレートを構成する樹脂および前記バリア層を構成する樹脂の少なくとも一方はポリフェニレンスルファイドを主材としても良い。
(10)別の実施形態に係るセパレータは、好ましくは、燃料電池のセル同士の間に用いられる燃料電池用セパレータであっても良い。
(11)上記目的を達成するための一実施形態に係るセパレータの製造方法は、上述のいずれかに記載のセパレータを製造する方法であって、金型内に、前記グラファイトと前記樹脂と前記金属繊維とを少なくとも含む被成形物を配置する被成形物配置工程と、前記被成形物を配置した状態にて前記金型を閉じて成形を行う成形工程と、を含む。
(12)別の実施形態に係るセパレータの製造方法において、好ましくは、前記金型は、その内側に前記溝の転写用の凹凸を備え、前記成形工程は、前記凹凸を備えた前記金型を用いて、前記被成形物の成形および前記溝の形成を行っても良い。
(13)別の実施形態に係るセパレータの製造方法は、好ましくは、前記被成形物配置工程に先立って、前記グラファイトと前記樹脂と前記金属繊維とを少なくとも含む混合物から半硬化状態の前記被成形物を得る前成形工程をさらに含み、前記被成形物配置工程は、前記半硬化状態の被成形物を前記金型内に配置しても良い。
(14)別の実施形態に係るセパレータの製造方法は、好ましくは、前記被成形物配置工程に先立って、前記金型内に、前記プレートの厚さ方向の一方の表面に、前記プレートよりガスバリア特性に優れたバリア層を形成するためのフィルムを配置する第1フィルム配置工程と、前記プレートの厚さ方向の他方の表面に前記バリア層を形成するためのフィルムを、前記被成形物配置工程にて前記金型内に配置された前記被成形物上に配置する第2フィルム配置工程と、をさらに含み、前記被成形物配置工程は、前記第1フィルム配置工程にて前記金型内に配置された前記フィルム上に前記被成形物を配置し、前記成形工程は、前記被成形物を前記フィルムによって挟んだ状態にて前記金型を閉じて成形を行い、前記プレートの厚さ方向の両側の表面に前記バリア層を形成しても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高導電性かつ金属溶出を抑制可能なセパレータおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るセパレータの平面図を示す。
図2A図2Aは、図1のセパレータのA-A線断面図およびその一部Bの拡大図をそれぞれ示す。
図2B図2Bは、図2Aの一部Bにおける一部Cのバリエーションa,b,cの各拡大図を示す。
図3図3は、第1実施形態に係るセパレータの製造方法の主な工程のフローの一例を示す。
図4図4は、図3の製造方法の各工程の状況を断面視にて示す。
図5図5は、変形例に係るセパレータの製造方法において、半硬化状態のプリプレートに溝が形成されているときの状況を断面視にて示す。
図6図6は、第2実施形態に係るセパレータの図2Aと同様のA-A線断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
図7図7は、第2実施形態に係るセパレータの製造方法の主な工程のフローの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
<第1実施形態>
1.セパレータ
図1は、本発明の第1実施形態に係るセパレータの平面図を示す。図2Aは、図1のセパレータのA-A線断面図およびその一部Bの拡大図をそれぞれ示す。
【0013】
この実施形態に係るセパレータ1は、平面視で略矩形の板状体である。セパレータ1は、例えば、燃料電池において、電解質膜の両面を空気極と水素極によって挟んだ膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly: MEA)の両側から挟む板状体である。この実施形態では、セパレータ1は、水素極(「アノード電極」ともいう)側に配置されるアノード側セパレータと、空気極(「カソード電極」ともいう)側に配置されるカソード側セパレータと、を含むように広義に解釈される。この実施形態では、セパレータ1は、炭素材料系のセパレータである。また、セパレータ1は、燃料電池用に限定されず、他の電池(好ましくは蓄電池)のセルとセルとの間に配置される板状部材に用いることもできる。
【0014】
セパレータ1は、その厚さ方向に貫通する貫通孔11,12,21,22を備える。貫通孔11,21は、セパレータ1の一端側に配置されている。貫通孔12は、セパレータ1を平面視した際に、貫通孔21と対向して、セパレータ1の上記一端側と反対に位置する他端側に配置されている。貫通孔22は、セパレータ1を平面視した際に、貫通孔11と対向するように、セパレータ1の上記一端側と反対に位置する他端側に配置されている。セパレータ1の一面側(表面側)には、流路としての溝30が形成されている。溝30以外の表面31は、溝30に対して凸面となっている。また、セパレータ1の上記一面側の反対側の面(裏面側)には、流路としての溝32が形成されている。溝32以外の表面31は、溝32に対して凸面となっている。
【0015】
セパレータ1がカソード側セパレータの場合、貫通孔11は、酸化ガスの供給口である。貫通孔12は、酸化ガスの排出口である。貫通孔21は、水素ガスの排出口である。貫通孔22は、水素ガスの供給口である。酸化ガスは、例えば、空気であるが、酸素でも良い。セパレータ1の表面側の溝30は、酸化ガスを流すための流路である。セパレータ1の裏面側の溝32は、冷却水を流すための流路である。図1では、白矢印にて、酸化ガスの流れを示す。
【0016】
セパレータ1がアノード側セパレータの場合、貫通孔11は、水素ガスの供給口である。貫通孔12は、水素ガスの排出口である。貫通孔21は、酸化ガスの排出口である。貫通孔22は、酸化ガス供給口である。セパレータ1の表面側の溝30は、水素ガスを流すための流路である。セパレータ1の裏面側の溝32は、冷却水を流すための流路である。
【0017】
セパレータ1は、少なくともプレート2を備えている。この実施形態では、セパレータ1は、好ましくは、プレート2と、プレート2の厚さ方向の両側の表面に、オプションとして、バリア層3を備えている。
【0018】
(プレート)
プレート2は、グラファイトと、樹脂と、金属繊維と、を含むプレートであって、当該プレートの表面に流路としての溝30,32を備えている。プレート2は、グラファイトと樹脂と金属繊維とを含む成形体であり、溶融後に固化した樹脂および金属繊維中にグラファイトが分散した微細構造を有する。プレート2は、グラファイトと樹脂と金属繊維に加えて、当該樹脂とは別の繊維を備えていても良い。当該繊維は、樹脂繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等のいかなる種類の非金属繊維でも良いが、好ましくは樹脂繊維、さらに好ましくはアラミド繊維である。当該アラミド繊維の繊維径は、好ましくは5~20μm、より好ましくは9~15μmである。当該アラミド繊維の繊維長は、好ましくは1~15mm、より好ましくは3~9mmである。繊維径および繊維長は、顕微鏡(大きさにより光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を使い分けている)により独立した20本の繊維を選び、当該視野から計測した繊維径および繊維長をいう。平均繊維径または平均繊維長を求める場合には、20個の繊維径または繊維長を平均する。以下の繊維径、繊維長、平均繊維径および平均繊維長についても同様である。プレート2に繊維を加えることによって、プレート2の強度を高めることができる。プレート2の平面視における面積は、好ましくは10~1000cm、より好ましくは100~750cmである。プレート2の厚さは、好ましくは0.1~2.0mm、より好ましくは0.2~1.5mmである。
【0019】
プレート2を構成する樹脂は、特に制約されないが、好ましくは熱可塑性樹脂である。プレート2としてより好適な樹脂は、耐熱性に優れた樹脂であり、具体的には、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)およびポリスルフォン(PSU)を例示できる。これらの中でも、PPSまたはPEEKが特に好適である。PPSとしては、東レ(株)製のM2888、E2180、大日本インキ化学工業(株)製のFZ-2140、FZ-6600を例示できる。
【0020】
プレート2の成形前に用いられる樹脂の平均粒径は、好ましくは1μm以上300μm以下、より好ましくは5μm以上150μm以下、さらにより好ましくは10μm以上100μm以下である。ここで、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定法にて測定される粒径をいう。以後の平均粒径の測定方法も同様である。
【0021】
プレート2を構成するグラファイトは、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛等のいずれでも良い。ここで、膨張黒鉛とは、グラファイト(黒鉛)の正六角形平面を重ねた構造の特定の一面に他の物質層が入り込むこと(=インターカレーション)によって黒鉛層間を拡張させた黒鉛若しくは黒鉛層間化合物をいう。膨張黒鉛としては、例えば、富士黒鉛工業(株)製のBSP-60A(平均粒子径60μm)あるいはEXP-50SMを、人造黒鉛としては、例えば、オリエンタル産業(株)製の1707SJ(平均粒子径125μm)、AT-No.5S(平均粒子径52μm)、AT-No.10S(平均粒子径26μm)、AT-No.20S(平均粒子径10μm)、あるいは日本黒鉛工業(株)製PAG,HAGを、天然黒鉛としては、富士黒鉛工業(株)製のCNG-75N(平均粒子径43μm)あるいは日本黒鉛工業(株)製のCPB(鱗状黒鉛粉末、平均粒子径19μm)を、それぞれ用いることができる。また、黒鉛粒子の形状については、特に制約は無く、薄片状、鱗片状、球状等適宜選択することができる。さらに、グラファイトは、非晶質の炭素(アモルファスカーボン)を一部に含んでいても良い。
【0022】
プレート2の成形前に用いられるグラファイトの平均粒径は、好ましくは1μm以上500μm、より好ましくは3μm以上300μm以下、さらにより好ましくは10μm以上150μm以下である。
【0023】
グラファイトと樹脂とは、別々に粒径を調整してから混合してプレート2の成形用に用いても良く、あるいは先に混錬後、粉砕し、粒径を調整してプレート2の成形用に用いても良い。グラファイトと樹脂とを混錬後、粉砕し、粒径を調整する場合には、混合粉末の平均粒径は、好ましくは1μm以上500μm、より好ましくは3μm以上300μm以下、さらにより好ましくは10μm以上150μm以下である。
【0024】
プレート2を構成するグラファイトと樹脂の質量比は、グラファイト:樹脂=70~95質量部:30~5質量部である。例えば、5質量部の樹脂に対して、70質量部以上95質量部以下の範囲のグラファイトを混合してセパレータ1の構成材料とすることができる。また、例えば、30質量部の樹脂に対しても、同様に、70質量部以上95質量部以下の範囲のグラファイトを混合してセパレータ1の構成材料とすることができる。セパレータ1は、樹脂よりもグラファイトを質量比にて多く含むのが好ましい。グラファイトと樹脂とのより好適な質量比は、樹脂1質量部に対して、グラファイト10質量部、若しくはグラファイト10.1質量部以上20質量部以下である。上述のように、樹脂の質量部よりもグラファイトの質量部を多くすると、従来のセパレータよりも、グラファイト同士の接触部位が多くなり、もって、セパレータ1の電気抵抗をより低く(すなわち、導電性をより高く)することができる。セパレータ1の代表的なサンプルでは、体積抵抗値は3mΩ・cmまたはそれ以下である。
【0025】
プレート2を構成する金属繊維は、銅、チタン、ステンレス鋼のうち少なくとも1つからなる繊維、すなわち、銅、チタン、ステンレス鋼あるいはこれらの合金からなる繊維である。銅繊維としては、例えば、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:銅)(平均繊維径52.08μm、平均繊維長1.88mm)を用いることができる。チタン繊維としては、例えば、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:チタン)(平均繊維径51.82μm、平均繊維長1.72mm)を用いることができる。ステンレス鋼繊維としては、例えば、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:SUS316L)(平均繊維径32.23μm、平均繊維長1.29mm)を用いることができる。金属繊維の繊維径は、好ましくは5~80μm、より好ましくは20~60μmである。金属繊維の繊維長は、好ましくは0.5~3.5mm、より好ましくは1.5~2.5mmである。
【0026】
プレート2に金属繊維を備えることにより、導電性が高くなり、すなわち、体積抵抗値を低くすることができる。このような金属繊維を備えるプレート2からなるセパレータ1の代表的なサンプルでは、体積抵抗値は1.8mΩ・cmまたはそれ以下である。
【0027】
プレート2を構成する金属繊維は、樹脂100質量部に対して40質量部以上1000質量部以下含むのが好ましい。プレート2は、樹脂100質量部に対して金属繊維を40質量部以上含むことにより、セパレータ1の電気抵抗をより低く(すなわち、導電性をより高く)することができる。一方、プレート2は、樹脂100質量部に対して金属繊維を1000質量部以下含むことにより、セパレータ1の製造時における金属繊維による金型の損傷を抑制することができる。
【0028】
(バリア層)
バリア層3は、必須の構成ではないが、この実施形態では、溝30,32とプレート2の溝30,32以外の表面31とを含み、プレート2の少なくとも表側の面および裏側の面を被覆している。すなわち、バリア層3は、溝30,32の内側の面も含めてプレート2の表側の面および裏側の面の両面を被覆している。バリア層3は、例えば、プレート2と異なるフィルム状の被覆層であり、表側の面を被覆するバリア層の一例であるフィルム4および裏側の面を被覆するバリア層の一例であるフィルム5の2種類を分離して、あるいは融着して成る。この実施形態では、バリア層3は、フィルム4とフィルム5とに分かれ、プレート2の厚さ方向の両側の面にそれぞれ付着したものである。しかし、バリア層3は、フィルム4とフィルム5とを接合した状態にてプレート2の外側表面を包む袋形状であっても良い。
【0029】
図2Bは、図2Aの一部Bにおける一部Cのバリエーションa,b,cの各拡大図を示す。
【0030】
形態aは、プレート2の表面に、好ましくは樹脂またはゴムを主材とするフィルムを備えた形態である。形態aでは、バリア層3は、プレート2と異なるフィルム状の被覆層Fである。また、形態bは、プレート2の表面近傍に樹脂またはゴムが含侵したバリア層3を備えた形態である。形態bでは、バリア層3は、樹脂若しくはゴムがプレート2を構成する粒子若しくは繊維の間を充填している充填層Mである。さらに、形態cでは、バリア層3は、充填層Mと、被覆層Fとを含む。このように、バリア層3は、好ましくは、a、bまたはcの形態をとる。ただし、バリア層3は、プレート2よりもガスバリア特性に優れている限り、形態a,b,c以外の形態をとっていても良い。本願における「ガスバリア特性」または「ガスバリア性能」とは、ガスの透過を防ぐ性質を意味する。以下、形態aのバリア層3を主体に説明する。
【0031】
バリア層3は、好ましくは、樹脂またはゴムである。バリア層3は、プレート2を構成する樹脂の上記好適な選択肢の内の1または2以上を主材とし、より好ましくは、PEEKおよびPPSの内の少なくとも1つを主材とする。ここで、「主材」とは、バリア層3の50質量%を超える比率を占める材料を意味する。主材は、バリア層3の質量に対して50質量%を超える限り、例えば、51質量%、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、95質量%または100質量%でも良い。
【0032】
バリア層3の厚さは、好ましくは2μm以上50μm以下、より好ましくは4μm以上35μm以下である。バリア層3の厚さを2μm以上、さらには4μm以上とすると、セパレータ1のガスバリア性をより高く、かつ強度(曲げ強度)をより高くすることができ、取り扱いやすさが向上する。一方、バリア層3の厚さを50μm以下、さらには35μm以下とすると、セパレータ1の体積抵抗値をより低く(すなわち、導電性をより高く)できる。この実施形態では、強度は、JIS K7171にて測定される曲げ強さを意味する。
【0033】
プレート2を構成する樹脂と、バリア層3を構成する樹脂とを同一種の熱可塑性樹脂とすることもできる。その場合、プレート2の表面近くの樹脂と、プレート2を被覆するバリア層3とを部分的に一体化できるので、セパレータ1のさらなる強度向上を図ることができる。当該熱可塑性樹脂としては、好ましくはPEEKまたはPPSである。
【0034】
2.セパレータの製造方法
次に、本発明の実施形態に係るセパレータの製造方法について説明する。
【0035】
セパレータ1の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)は、グラファイトと樹脂と金属繊維とを少なくとも含む被成形物を金型内に配置する被成形物配置工程と、被成形物を配置した状態にて金型を閉じて成形を行う成形工程と、を含む。また、セパレータ1の製造方法は、好ましくは、被成形物配置工程に先立って、グラファイトと樹脂と金属繊維とを少なくとも含む混合物から半硬化状態の被成形物を得る前成形工程をさらに含む。また、セパレータ1の製造方法は、好ましくは、被成形物配置工程に先立って、フィルム4を金型内に配置する第1フィルム配置工程と、被成形物配置工程にて金型内に配置された被成形物上にフィルム5を配置する第2フィルム配置工程と、をさらに含む。セパレータの製造方法は、以下の実施形態では、好ましくは、燃料電池のセル同士の間に用いられる燃料電池用セパレータを製造する方法である。また、セパレータ1は、好ましくは炭素材料系のセパレータである。ただし、セパレータ1は、燃料電池用に限定されず、他の電池(好ましくは蓄電池)のセルとセルとの間に配置される板状部材に用いることもできる。
【0036】
図3は、第1実施形態に係るセパレータの製造方法の主な工程のフローの一例を示す。図4は、図3の製造方法の各工程の状況を断面視にて示す。
【0037】
セパレータ1は、混合物形成工程(S100)と、前成形工程(S110)と、第1フィルム配置工程(S200)と、被成形物配置工程(S210)と、第2フィルム配置工程(S220)と、成形工程(S230)と、を経て製造可能である。以下、S100~S230について、図3および図4を参照して詳述する。
【0038】
(1)混合物形成工程(S100)
この工程は、グラファイトと樹脂と金属繊維とを少なくとも含む混合物を形成する工程である。具体的には、グラファイトと樹脂と金属繊維とを水またはアルコール水溶液中で混合分散してスラリーを作製する。この工程において、グラファイト、樹脂および金属繊維に、さらに当該樹脂とは別の繊維を加えてスラリーを作製しても良い。
【0039】
(2)前成形工程(S110)
この工程は、混合物から半硬化状態の被成形物を得る工程である。具体的には、混合物をメッシュ構造のシート機により液体をろ過分離した湿潤シートに形成し、この湿潤シートをプレス機にて加熱しながら加圧する。これにより、半硬化状態の被成形物(以下、「プリプレート」ともいう。)を得ることができる。グラファイトと樹脂と金属繊維とを少なくとも含むプレートを製造せずに、購入等の手法によって入手可能な場合には、混合物形成工程(S100)および前成形工程(S110)を省略可能である。
【0040】
(3)第1フィルム配置工程(S200)
この工程は、バリア層3を形成するためのフィルム4を金型60内に配置する工程である。具体的には、金型60を構成する下金型40を用意し、下金型40の凹部41にフィルム4を敷く(図4(a)を参照)。下金型40は、凹部41の内底面に、溝32を転写形成可能な凹凸42を備える。
【0041】
(4)被成形物配置工程(S210)
この工程は、半硬化状態の被成形物であるプリプレート70をフィルム4上に配置する工程である。具体的には、下金型40に敷かれたフィルム4上に、プリプレート70を配置する(図4(b)を参照)。
【0042】
(5)第2フィルム配置工程(S220)
この工程は、被成形物配置工程(S210)の後に、金型60内のプリプレート70上にバリア層3を形成するためのフィルム5を配置する工程である。具体的には、下金型40の凹部41に配置されたプリプレート70上にフィルム5を配置する(図4(c)を参照)。
【0043】
(6)成形工程(S230)
この工程は、プリプレート70をフィルム4,5によって挟んだ状態にて金型60を閉じて成形を行う工程である。具体的には、金型60を構成する上金型50を用意し、下金型40の凹部41側に重ね、下金型40と上金型50とを閉める(図4(d),(e)を参照)。上金型50は、下金型40の凹部41と対向する面に凹部51を有する。凹部51は、その内底面に、溝30を転写形成可能な凹凸52を備える。金型60の型締後、加温して、プリプレート70の成形を行う。この結果、プリプレート70は硬化してプレート2を形成する。また、凹凸41,51の転写によって、バリア層3(フィルム4およびフィルム5)にて覆われた状態の溝30,32が形成される(図4(f)を参照)。
【0044】
成形工程(S230)後に、金型60を開き、セパレータ1が完成する。なお、セパレータ1の製造方法において、第1フィルム配置工程(S100)または第2フィルム配置工程(S120)のいずれか一方の工程を行わなくとも良い。
【0045】
図5は、変形例に係るセパレータの製造方法において、半硬化状態のプリプレートに溝が形成されているときの状況を断面視にて示す。
【0046】
この変形例では、プリプレート70に代えて、厚さ方向の両側の表面に溝が形成されたプリプレート70aを用いてセパレータ1が製造される。具体的には、前成形工程(S110)において、混合物形成工程(S100)にて形成された混合物から、厚さ方向の両側の表面に溝が形成されたプリプレート70aを得る。より具体的には、混合物をメッシュ構造のシート機により液体をろ過分離した湿潤シートに形成し、内底面に凹凸が形成された金型内に当該湿潤シートを配置した状態でプレス機にて加熱しながら加圧する。これにより、厚さ方向の両側の表面に溝が形成されたプリプレート70aを得ることができる。そして、被成形物配置工程(S210)において、プリプレート70aの溝が凹凸42に合うように、フィルム4上にプリプレート70aが配置される(図5を参照)。その後、プリプレート70aの溝に上金型50の凹凸52を合わせて、上金型50と下金型40とを閉め、金型60を型締めする。その後は、上述の製造方法の成形工程(S230)が実行され、セパレータ1が完成する(図4(e),(f)を参照)。
【0047】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係るセパレータおよびその製造方法において、第1実施形態と共通する部分については、重複した説明を省略し、第1実施形態における説明を代用する。
【0048】
1.セパレータ
図6は、第2実施形態に係るセパレータの図2Aと同様のA-A線断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
【0049】
この実施形態に係るセパレータ1aは、プレート2を備える。この実施形態に係るセパレータ1aは、第1実施形態に係るセパレータ1と異なり、バリア層3(フィルム4およびフィルム5)を備えていない。セパレータ1aは、バリア層3を備えていない点以外については、セパレータ1と同一である。
【0050】
2.セパレータの製造方法
図7は、第2実施形態に係るセパレータの製造方法の主な工程のフローの一例を示す。
【0051】
セパレータ1aは、グラファイトと樹脂と金属繊維とを少なくとも含む混合物を形成する混合物形成工程(S300)と、混合物から半硬化状態の被成形物を得る前成形工程(S310)と、当該被成形物を金型内に配置する被成形物配置工程(S400)と、被成形物を配置した状態にて金型を閉じて成形を行う成形工程(S410)と、を含む。混合物形成工程(S300)および前成形工程(S310)は、混合物形成工程(S100)および前成形工程(S110)と共通する。被成形物配置工程(S400)は、フィルム4を金型60に配置せずに行われる点以外は、被成形物配置工程(S210)と共通する。成形工程(S410)は、フィルム4,5を配置せずに行われる点以外は、成形工程(S230)と共通する。したがって、ここでは、先述の第1実施形態に係るセパレータ1の製造方法と重複した説明を省略する。
【0052】
<その他の実施形態>
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0053】
セパレータ1,1aの溝30は、図1の白矢印で示す方向にガスを流す流路以外の流路を形成する溝でも良い。また、溝32は、如何なる形態の流路を形成する溝でも良い。例えば、溝30をセパレータ1,1aの一端から他端に向かう直線的な流路を形成する溝とし、溝32を溝30に対して略直角方向の直線的な流路を形成する溝としても良い。また、セパレータ1,1aは、溝30および溝32の少なくとも一方を形成していないものでも良い。
【0054】
成形工程の後に、フィルム4および/またはフィルム5の余分な領域をトリミングするトリミング工程を行っても良い。
【0055】
セパレータ1は、プレート2の厚さ方向の両側の表面にバリア層3を備えているが、当該厚さ方向の一方の表面のみにバリア層3を備えても良い。当該一方の表面のみにバリア層3を形成する場合、第2フィルム配置工程(S220)または第1フィルム配置工程(S200)を省略すれば良い。
【0056】
第1実施形態の製造方法では、バリア層3が樹脂またはゴムの層である燃料電池用セパレータの製造方法であるが、バリア層3が図2Bの形態bまたは形態cの層の燃料電池用セパレータの製造方法であっても良い。
【実施例0057】
次に、本発明の実施例を、比較例と比較しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
1.プレートの主な原料
(1)グラファイト
セパレータのプレートの構成材料となるグラファイト粉末には、オリエンタル工業(株)製の品番:1707SJ(人造黒鉛,平均粒径125μm)およびオリエンタル工業(株)製の品番:AT-No.5S(人造黒鉛、平均粒径52μm)の2種類のグラファイト粉末を用いた。
(2)樹脂
セパレータのプレートの構成材料となる樹脂として、ポリフェニレンフルファイ(PPS)の粉末を用いた。PPSには、東レ(株)製のトレリナM2888のフレーク状のPPS粉末を冷凍粉砕して平均粒径50μmに調整したPPS微粉末を用いた。
(3)アラミド繊維
セパレータのプレートの構成材料となるアラミド繊維には、帝人(株)製のテクノーラT32PNW 3-12(平均繊維長3.2mm、平均繊維径18μm)および帝人(株)製のトワロン(登録商標)D8016(平均繊維長0.8mm)の2種類のアラミド繊維を用いた。
(4)金属繊維
セパレータのプレートの構成材料となる金属繊維として、銅繊維、チタン繊維、ステンレス鋼繊維およびアルミニウム繊維を用いた。銅繊維には、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:銅)(平均繊維長1.88mm、平均繊維径52.08μm)を用いた。チタン繊維には、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:チタン)(平均繊維長1.72mm、平均繊維径51.82μm)を用いた。ステンレス鋼繊維には、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:SUS316L)(平均繊維長1.29mm、平均繊維径32.23μm)を用いた。アルミニウム繊維には、虹技株式会社製のメタルファイバー(品種:アルミニウム)(平均繊維長1.73mm、平均繊維径61.83μm)を用いた。
(5)金属粒子
セパレータのプレートの構成材料となる金属粒子として、銅粒子、チタン粒子およびステンレス粒子を用いた。銅粒子には、福田金属箔粉工業株式会社製のCu-At-100 At2(平均粒径97.98μm)を用いた。チタン粒子には、トーホーテック株式会社製のTC-150(平均粒径103.13μm)を用いた。ステンレス粒子には、株式会社二コラ製のSUS316L粉末(平均粒径127.51μm)を用いた。
【0059】
2.フィルム
セパレータ用のフィルムには、PPS製のフィルムを用いた。PPS製のフィルムには、東レ(株)製の厚さ9μmのフィルム(品番:トレリナ9-3071)を用いた。
【0060】
3.金型
金型としては、上下分割式の大同特殊鋼(株)製プリハードン鋼NAK80を工材とした金型を用いた。閉じた状態の金型内部には、セパレータを成形可能な空間(約63cm)が形成されている。また、上下各金型の内側の底部には、セパレータの溝を形成するための凹凸が形成されている。
【0061】
4.評価方法
(1)体積抵抗率
セパレータの体積抵抗率は、JIS K7194に基づき、三菱ケミカルアナリテック(株)製の装置(Loresta-GX T-700)を用いて測定した。体積抵抗率が1.8mΩ・cm以下を合格B(表では“〇”)とし、0.5mΩ・cm以下を合格A(表では“◎”)と評価した。
(2)溶出試験
セパレータの溶出試験は、セパレータをフラスコに入れ、pH3に調整した希硫酸400mlを加え、蓋をして80℃で10日間浸漬した後、セパレータを取り出し、溶液に溶出および析出した溶出物を全量酸分解により溶液とし、ICP分析装置により溶出物の定量分析を行った。金属イオン濃度が200ppm以上を不合格(表では“×”)とし、100ppm以上200ppm未満を合格C(表では“△”)とし、1ppm以上100ppm未満を合格B(表では“〇”)とし、1ppm未満を合格A(表では“◎”)と評価した。例えば、チタン繊維の場合は、溶出したチタンのイオン濃度を溶出試験の測定値として採用した。また、ステンレス繊維の場合は、ステンレス繊維由来の鉄、マンガン等のイオン濃度の合計値を溶出試験の測定値として採用した。すなわち、溶出試験においては、金属繊維若しくは金属粒子の種類に応じて、当該金属繊維若しくは金属粒子に由来するイオンのイオン濃度の合計値を溶出試験の測定値として採用した。
(3)総合評価
各特性値評価のすべてが合格と評価された場合に、合格(表では“○”)と評価した。また、各特性値評価のうち少なくとも1つの特性値評価が不合格と評価された場合に、不合格(表では“×”)と評価した。
【0062】
5.セパレータの製造
<実施例>
(1)実施例1
人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)977.8質量部、PPS粉末100質量部、アラミド繊維(品番:T32PNW 3-12)62.5質量部、アラミド繊維(品番:トワロン(登録商標)D8016)4.17質量部およびチタン繊維244.4質量部を用意し、これらを水中で混合分散して固形分1%のスラリーを作製した。ここで、1質量部は0.1gに相当する。以後の実施例の記載においても同様である。このスラリーを25cm角の投入口を備えるろ過機へ投入し、ろ過によって得られる残渣であるシート状の湿潤シートを成形した。その湿潤シートを150℃に加熱したプレス機にセットして面圧13.4MPaの圧力で約20分間加圧加熱し、湿潤シートを乾燥させて水分を除去することにより、人造黒鉛粒子、PPS粒子、アラミド繊維、チタン繊維が分散した厚さ2.0mm、坪量1435g/mのプリプレートを製造した。
次に、分割式の金型を構成する下金型の内側の凹部に、上記プリプレートを供した。次に、分割式の金型を構成する上金型と、上記下金型とを閉じて成形を行った。成形は、面圧13.4MPaにて、金型の温度が340℃迄上昇するまで加圧し、面圧53.7MPaまで昇圧して、1分間保持した。その後、圧力をそのまま保ちながら金型を30℃になるまで加圧冷却した。成形終了後に、金型を開き、成形体を取り出し、セパレータの製造を終了した。このセパレータは、プレートのみの単層構造である。セパレータは、上記評価方法にて評価した。
(2)実施例2
チタン繊維244.4質量部に代えて、ステンレス鋼繊維244.4質量部を用いた以外、実施例1と同様の条件でプリプレートを製造した。次に、分割式の金型を構成する下金型の内側の凹部に、PPSフィルムを敷き、当該フィルム上に、上記プリプレートを供した。そして、当該プリプレートの上からPPSフィルムを載せた。次に、分割式の金型を構成する上金型と、上記下金型とを閉じて成形を行った。成形は、面圧13.4MPaにて、金型の温度が340℃迄上昇するまで加圧し、面圧53.7MPaまで昇圧して、1分間保持した。その後、圧力をそのまま保ちながら金型を30℃になるまで加圧冷却した。成形終了後に、金型を開き、成形体を取り出し、セパレータの製造を終了した。このセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。セパレータは、上記評価方法にて評価した。
(3)実施例3
チタン繊維244.4質量部に代えて、銅繊維244.4質量部を用いた以外、実施例1と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。このセパレータは、プレートのみの単層構造である。
(4)実施例4
人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)977.8質量部およびチタン繊維244.4質量部に代えて、人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)1102.22質量部およびチタン繊維120質量部を用いた以外、実施例1と同様の条件でプリプレートを製造した。そして、当該プリプレートを用いて実施例2と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。このセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
(5)実施例5
人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)1102.22質量部およびチタン繊維120質量部に代えて、人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)742.22質量部およびチタン繊維480質量部を用いた以外、実施例4と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。このセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
(6)実施例6
人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)1102.22質量部およびチタン繊維120質量部に代えて、人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)1173.611質量部およびチタン繊維48質量部を用いた以外、実施例4と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。このセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
(7)実施例7
人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)1102.22質量部およびチタン繊維120質量部に代えて、人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)502.22質量部およびチタン繊維720質量部を用いた以外、実施例4と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。このセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
(8)実施例8
ステンレス鋼繊維244.4質量部に代えて、チタン繊維122.2質量部およびステンレス鋼繊維122.2質量部を用いた以外、実施例2と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。このセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
【0063】
<比較例>
(1)比較例1
ステンレス鋼繊維244.4質量部に代えて、銅粒子244.4質量部を用いた以外、実施例2と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。比較例1は、金属繊維に代えて金属粒子の一例である銅粒子を用いて実施した。比較例1のセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
(2)比較例2
人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)977.8質量部およびステンレス鋼繊維244.4質量部に代えて、人造黒鉛粒子(品番:1707SJ)977.8質量部および人造黒鉛粒子(品番:AT-No.5S)244.4質量部を用いた以外、実施例2と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。比較例2は、金属繊維を用いずに実施した。比較例2のセパレータは、プレートのみの単層構造である。
(3)比較例3
チタン繊維244.4質量部に代えて、アルミニウム繊維244.4質量部を用いた以外、実施例1と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。比較例3は、銅、チタン、ステンレス鋼のうち少なくとも1つからなる金属繊維を用いずに実施した。比較例3のセパレータは、プレートのみの単層構造である。
(4)比較例4
ステンレス鋼繊維244.4質量部に代えて、チタン粒子244.4質量部を用いた以外、実施例2と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。比較例4は、金属繊維に代えて金属粒子の一例であるチタン粒子を用いて実施した。比較例4のセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
(5)比較例5
ステンレス鋼繊維244.4質量部に代えて、ステンレス粒子244.4質量部を用いた以外、実施例2と同様の条件でセパレータを製造し、評価した。比較例5は、金属繊維に代えて金属粒子の一例であるステンレス粒子を用いて実施した。比較例5のセパレータは、フィルム、プレート、フィルムの3層構造である。
【0064】
7.結果
表1~4に、実施例および各比較例の製造条件および評価結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
比較例1~5については、体積抵抗率および溶出試験のうち少なくとも1つは不合格であった。これに対して、実施例1~8については、すべての特性が合格となった。
【0070】
以上の結果から、実施例1~8と比較例2との比較から、プレートの構成材料として、金属繊維を含む効果が確認できた。また、実施例2,4~8と比較例1,4,5との比較から、プレートの構成材料として、金属粒子ではなく金属繊維を含む効果が確認できた。また、実施例1~8と比較例3との比較から、プレートの構成材料として、他の金属からなる金属繊維ではなく銅、チタン、ステンレス鋼のうち少なくとも1つからなる金属繊維を含む効果が確認できた。また、実施例2と実施例8との比較から、銅、チタン、ステンレス鋼のうち2種類以上の金属繊維を含む場合にも、銅、チタン、ステンレス鋼のうち1種類の金属繊維を含む場合と同様の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係るセパレータは、電池、特に蓄電池におけるセル間のセパレータに利用できる。
【符号の説明】
【0072】
1,1a・・・セパレータ、2・・・プレート、3・・・バリア層、4,5・・・フィルム、30,32・・・溝、31・・・表面、40・・・下金型(金型の一構成部品)、41,51・・・凹部、42,52・・・凹凸、50・・・上金型(金型の一構成部品)、60・・・金型、70,70a・・・プリプレート(被成形物の一例)、F・・・被覆層、M・・・充填層。

図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7