(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026218
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】電気化学スタック用金属部材及び電気化学スタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20230216BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20230216BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20230216BHJP
H01M 8/0204 20160101ALI20230216BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20230216BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230216BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0215
H01M8/0204
H01M8/02
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132001
(22)【出願日】2021-08-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126AA15
5H126DD05
5H126DD14
5H126GG02
5H126GG12
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】片側が空気で、もう一方の側が水素を含む雰囲気に接触することによる金属腐食を抑制することを可能にした電気化学スタック用金属部材を提供する。
【解決手段】実施形態の電気化学スタック用金属部材1は、水素を含む雰囲気に晒される第1面2aと、酸素を含む雰囲気に晒される第2面2bとを有する金属基材2と、金属基材2の第1面2a上に設けられた水素透過抑制保護コーティング3とを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む雰囲気に晒される第1面と、酸素を含む雰囲気に晒される第2面とを有する金属基材と、
前記金属基材の前記第1面上に設けられた水素透過抑制保護コーティングと
を具備する電気化学スタック用金属部材。
【請求項2】
前記水素透過抑制保護コーティングは、アルミニウム、アルミニウム酸化物、アルミニウム-クロム複合酸化物、エルビニウム酸化物、ケイ素-クロム複合酸化物、ジルコニウム酸化物、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、チタン窒化物、チタン炭化物、及びケイ素炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電気化学スタック用金属部材。
【請求項3】
前記金属基材はクロムを含み、
前記水素透過抑制保護コーティングは、アルミニウム-クロム複合酸化物及びケイ素-クロム複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、前記アルミニウム-クロム複合酸化物及び前記ケイ素-クロム複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1つにおけるクロムの少なくとも一部は、前記金属基材中のクロムの拡散により構成される、請求項1に記載の電気化学スタック用金属部材。
【請求項4】
前記金属部材は導通部材として用いられ、かつ前記水素透過抑制保護コーティングは2μm以上30μm以下の厚さを有する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電気化学スタック用金属部材。
【請求項5】
水素を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された電解質層とを備える第1電気化学セルと、
水素を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された電解質層とを備える第2電気化学セルと、
前記第1電気化学セルの前記第1電極及び前記第2電気化学セルの前記第2電極と電気的に接続されるように、前記第1電極と前記第2電極との間に配置されたセパレータとを具備し、
前記セパレータは、前記第1電気化学セルの前記第1電極側に配置され、水素を含む雰囲気に晒される第1面と、前記第2電気化学セルの前記第2電極側に配置され、酸素を含む雰囲気に晒される第2面とを有する金属基材と、前記金属基材の前記第1面に設けられた水素透過抑制保護コーティングとを備える金属部材を具備する、電気化学スタック。
【請求項6】
水素を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された電解質層とを備える第1電気化学セルと、
水素を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された電解質層とを備える第2電気化学セルと、
前記第1電気化学セルの前記第1電極及び前記第2電気化学セルの前記第2電極と電気的に接続されるように、前記第1電極と前記第2電極との間に配置されたセパレータと、
前記第1電極に水素を含むガスを供給する供給配管、及び前記第1電極から水素を含むガスを排出する排出配管の少なくとも一方を有する配管とを具備し、
前記配管は、前記供給ガス又は前記排出ガスと接触する内面と、酸素を含む雰囲気と接触する外面とを有する金属管と、前記金属管の前記内面に少なくとも設けられた水素透過抑制保護コーティングとを備える金属配管を備える、電気化学スタック。
【請求項7】
前記水素透過抑制保護コーティングは、アルミニウム、アルミニウム酸化物、アルミニウム-クロム複合酸化物、エルビニウム酸化物、ケイ素-クロム複合酸化物、ジルコニウム酸化物、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、チタン窒化物、チタン炭化物、及びケイ素炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項5又は請求項6に記載の電気化学スタック。
【請求項8】
前記金属基材又は前記金属管はクロムを含み、
前記水素透過抑制保護コーティングは、アルミニウム-クロム複合酸化物及びケイ素-クロム複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、前記アルミニウム-クロム複合酸化物及び前記ケイ素-クロム複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1つにおけるクロムの少なくとも一部は、前記金属基材又は前記金属管中のクロムの拡散により構成される、請求項5又は請求項6に記載の電気化学スタック。
【請求項9】
前記水素透過抑制保護コーティングは2μm以上30μm以下の厚さを有する、請求項5に記載の電気化学スタック。
【請求項10】
前記第1電気化学セルの前記電解質層及び前記第2電気化学セルの前記電解質層は、固体酸化物電解質を含む、請求項5ないし請求項9のいずれか1項に記載の電気化学スタック。
【請求項11】
前記第1電気化学セルの前記第1電極及び前記第2電気化学セルの前記第1電極は、供給された水素から水素イオンを生成するための電極であり、前記第1電気化学セルの前記第2電極及び前記第2電気化学セルの前記第2電極は、供給された酸素と前記第1電極から送られた前記水素イオンから水を生成するための電極である、請求項5ないし請求項10のいずれか1項に記載の電気化学スタック。
【請求項12】
前記第1電気化学セルの前記第1電極及び前記第2電気化学セルの前記第1電極は、供給された水から水素と酸化物イオンを生成するための電極であり、前記第1電気化学セルの前記第2電極及び前記第2電気化学セルの前記第2電極は、前記第1電極から送られた前記酸化物イオンから酸素を生成するための電極である、請求項5ないし請求項10のいずれか1項に記載の電気化学スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学スタック用金属部材及び電気化学スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギーの一つとして、水素が挙げられる。水素の利用分野としては、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池が注目されている。燃料電池は高いエネルギー利用効率を有し、大規模分散電源、家庭用電源、移動用電源として開発が進められている。燃料電池のうち、効率等の観点から、固体酸化物からなる電解質を使用して電気化学反応により電気エネルギーを得る固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)が注目されている。また、水素の製造においては、水の電気分解反応が知られている。水の電気分解反応のうち、高温で水蒸気の状態で電気分解する高温水蒸気電解法を適用した固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)の研究が進められている。SOECの動作原理はSOFCの逆反応であり、SOFCと同様に、固体酸化物からなる電解質が使用されている。
【0003】
SOFCやSOECに用いられる電気化学セルは、少なくとも空気極(酸素極)と電解質層と燃料極(水素極)の積層体を有し、各々異なる特性の材料が用いられている。空気極と燃料極は多孔質であり、空気極と燃料極には緻密な電解質を境にそれぞれ異なるガスが供給される。空気極と燃料極は電気伝導体であり、電解質は電気を通さないイオン伝導体である。電気化学セルの形状としては、平板型、円筒型、円筒平板型等が知られている。例えば、平板型の電気化学セルは、空気極、電解質、燃料極等を平板状に積層した形状を有している。このようなセルを複数集積したものは、一般的にスタックと呼ばれる。例えば、平板型の電気化学セルの場合、スタックは複数の平板型セルを積層したものであり、各セルの空気極と燃料極に異なるガスが供給され、かつセル同士は電気的に直列に接続可能な構造を有する。セルとセルの間はセパレータにより隔てられ、このセパレータによりセル毎のガスが区切られる。セパレータは導電性なのでセル同士の電気的導通の役割も担う。各セルへのガスの供給流路及び排出流路も一般的にセパレータ中に形成される。
【0004】
SOFCやSOECに用いられる金属部材には、運転温度である600~1000℃といった高温で十分な強度や酸化耐性を持つこと、セルと熱膨張係数が近いこと等が求められる。このような特性を満たす材料として、フェライト系ステンレスが多く用いられている。SOFCやSOECに用いられる金属部材は、高温下で、片側が空気、もう一方の側が水素と水蒸気の混合ガス等に接触する特殊な環境下で使用される。例えば、上記したスタックのセパレータでは、空気極側の面は空気に接し、水素極側の面は水素と水蒸気の混合ガスのような水素を含む雰囲気に接する。また、水素と水蒸気の混合ガス用の配管は、内面が水素と水蒸気の混合ガスに接し、外面は空気に接する。
【0005】
上記したような金属に対して高温で、片側が空気で、もう一方の側が水素を含む雰囲気に接する特殊な環境下では、金属腐食が促進されることが、本願発明者らの研究で明らかになってきている。さらに、金属部材の中でも電気を通す必要のあるセパレータは、電気抵抗がSOFCやSOECの効率に直結するため、腐食による抵抗の増大も大きな課題となっている。また、ステンレス製のセパレータからのクロムの蒸発やセルへの付着によるセルの性能低下を防ぐために、セパレータの空気極側にはクロムの拡散抑制コーティングが施されることが多い。クロム拡散抑制コーティングは、セパレータの空気極側に塗布されるが、このコーティングも裏側に存在する水素が拡散してくる影響により劣化することが、本願発明者らの研究により明らかになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-122303号公報
【特許文献2】特許第5258381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、片側が空気で、もう一方の側が水素を含む雰囲気に接触することによる金属腐食を抑制することを可能にした電気化学スタック用金属部材及び電気化学スタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の電気化学スタック用金属部材は、水素を含む雰囲気に晒される第1面と、酸素を含む雰囲気に晒される第2面とを有する金属基材と、前記金属基材の前記第1の面上に設けられた水素透過抑制保護コーティングとを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態の電気化学スタック用金属部材を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態の電気化学スタックを示す断面図である。
【
図3】比較例による金属部材の腐食評価結果を示す断面SEM像である。
【
図4】実施例による金属部材の腐食評価結果を示す断面SEM像である。
【
図5】第2の実施形態の電気化学スタック用金属部材を示す断面図である。
【
図6】第2の実施形態の電気化学スタック装置の第1の例を示す図である。
【
図7】第2の実施形態の電気化学スタック装置の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の電気化学スタック用金属部材及び電気化学スタックについて、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態による電気化学スタック用金属部材の断面を示している。
図1に示す金属部材1は、第1面2aと第2面2bとを有する金属基材2を具備する。金属部材1を例えば電気化学スタックのセパレータとして用いる場合、金属基材2の第1面2aは燃料極(水素極)側に配置される面であり、水素を含む雰囲気に晒される面である。金属基材2の第2面2bは空気極(酸素極)側に配置される面であり、空気に晒される面である。なお、第2面2b側には空気を流すことに限らず、例えばSOECでは何も流さない、もしくは酸素を流す場合もある。従って、第2面2bは酸素を含む雰囲気に晒される面であればよい。金属基材2の第1面2aには、水素透過抑制保護コーティング3が設けられている。金属基材2の第2面2bには、クロム拡散抑制コーティング4が設けられている。なお、クロム拡散抑制コーティング4は必要に応じて設けられるものであり、場合によっては設けられていなくてもよい。
【0012】
図1に示す金属部材1は、例えば
図2に示す電気化学スタック10に用いられる。
図2に示す電気化学スタック10は、第1電気化学セル11と第2電気化学セル12とを、セパレータ13を介して積層した構造を有している。なお、
図2は第1電気化学セル11と第2電気化学セル12とを積層した構造を示しているが、電気化学セル12の積層数は特に限定されるものではなく、3個以上の電気化学セルを積層した構造を有していてもよい。3個以上の電気化学セルを積層する場合、隣接する2個のセル間にはそれぞれセパレータが配置され、各セル間はセパレータにより電気的に接続される。
【0013】
第1電気化学セル11及び第2電気化学セル12は同一構成を有し、それぞれ燃料極(水素極)として機能する第1電極13と空気極(酸素極)として機能する第2電極14とこれら電極13、14間に配置された電解質層15とを有している。第1及び第2電極13、14は、それぞれ多孔質な電気伝導体により形成されている。第1電極13は、多孔質な支持体16上に配置されている。電解質層15は、例えば緻密質な固体酸化物電解質等からなり、電気を通さないイオン伝導体である。第1及び第2電気化学セル11、12は、それぞれ第1電極13、第2電極14、電解質層15、及び支持体16により構成されている。第1及び第2電気化学セル11、12の周囲には、ガス流路17が設けられている。すなわち、第1及び第2電極13、14には、必要に応じて電気化学スタック10の使用用途に応じた気体が供給ガスとしてガス流路17の一部を介して供給され、また第1及び第2電極13、14で生成されて排出される排出ガスはガス流路17の他の一部を介してセル11、12から排出される。
【0014】
電気化学スタック10をSOFC等の燃料電池として使用する場合、燃料極(水素極)としての第1電極13には水素(H+)が供給され、空気極(酸素極)としての第2電極14には空気(酸素)が供給される。また、電気化学スタック10を高温水蒸気電解法を適用したSOEC等の電解セルとして使用する場合、水素極としての第1電極13には水蒸気(H2O)や必要に応じて水素(H+)を含む水蒸気(H2O)が供給される。
【0015】
電気化学セル11、12において、燃料極(水素極)としての第1電極13と空気極(酸素極)としての第2電極14とは、緻密な電解質層15により雰囲気が隔離されている。電気化学セル11、12の外周部分や隣接するセル11、12間等についても、何らかの緻密な部材で第1電極13と第2電極14の雰囲気を隔離する必要がある。この実施形態において、隣接する第1電気化学セル11と第2電気化学セル12との間は、緻密なセパレータ13により雰囲気が隔離されている。
【0016】
さらに、1つの電気化学セル11、12の外周部分には、第1電極13と第2電極14の雰囲気を隔てる隔て板18が、緻密な電解質層15の外周部上に設けられており、これらによって第1電極13と第2電極14の雰囲気が隔てられている。隔て板18とセパレータ13の接面、隔て板18とセル11、12の接面、セパレータ13が複数のパーツからなる場合の接合面等には、ガスリークの防止のために、シール材19が用いられることが多く、例えばガラスシールやコンプレッシブシール等が用いられる。また、
図2に示す電気化学スタック10では、セル11、12の空気極としての第2電極14側に空気等を流すための空間を確保するため、第2電極14の外周部分に所望の厚さを有するシール材20が配置されている。
【0017】
図1に示す金属部材1は、
図2に示す電気化学スタック10におけるセパレータ13として用いられる。セパレータ13として用いられる金属部材1において、金属基材2の第1面2aは燃料極としての第1電極13側に配置され、金属基材2の第2面2bは空気極としての第2電極14側に配置される。このため、金属基材2の第1面2aは、燃料極としての第1電極13に供給される水素、水素と水蒸気との混合ガスのような水素を含む雰囲気、もしくは第1電極13から排出される同様な水素を含む雰囲気に晒される。金属基材2の第2面2bは空気極としての第2電極13に供給される空気のような酸素を含む雰囲気に晒される。そこで、金属基材2の第1面2aには水素透過抑制保護コーティング3が設けられている。
【0018】
図2に示す電気化学スタック10にセパレータ13として用いられる金属部材1において、金属基材2には例えばSUS430のようなセル11、12と熱膨張率が近いフェライト系ステンレスが用いられる。金属基材2にステンレス等を用いた場合、金属基材2に含まれるクロムが、SOFCやSOECの運転温度である600~1000℃程度の高温により蒸発することで、セル11、12に付着して性能を低下させるおそれがある。そこで、金属基材2の第2面2bにはクロム拡散抑制コーティング4が設けられている。クロム拡散抑制コーティング4には、例えばコバルト系のスピネル酸化物やペロブスカイト酸化物等が用いられる。金属基材2やクロム拡散抑制コーティング4の構成材料は、上記したような材料に限られるものではなく、SOFCやSOEC等に用いられている各種の材料を適用することが可能である。
【0019】
図2に示す電気化学スタック10をSOFCやSOECとして使用する場合、いずれにおいても600~1000℃程度の高温で動作される。このような高温下において、金属基材2の一方の面(第2面2b)は空気等の酸素を含む雰囲気に晒されて接し、もう一方の面(第1面2a)は水素を含む雰囲気に晒されて接する特殊な環境下では、金属腐食が促進される。空気等に接する側では、裏側に水素、特に水素と水蒸気が存在することによって、単純な空気曝露の何十倍もの腐食が進むことが、本願発明者らの研究で明らかになった。この腐食促進の理由としては、水素雰囲気中に存在する水素が金属中を拡散して酸素を含む雰囲気側まで到達することが挙げられる。このような金属中を水素が拡散することで金属基材2の腐食が進行すると、金属部材の機械的強度の低下を招くことになる。
【0020】
さらに、金属部材の中でも電気を通す必要のあるセパレータ13では、電気抵抗がSOFCやSOEC等の効率に直結するため、腐食による抵抗増大も大きな問題となる。このようなことから、金属基材2の水素の拡散により促進される腐食を防ぐためには、金属基材2中の水素の拡散を抑制することが重要となる。また、ステンレス等からなるセパレータ13からのクロムの蒸発やセル11、12への付着による性能低下を防ぐために、セパレータ13の空気極としての第2電極14側にクロム拡散抑制コーティング4を形成する場合、クロム拡散抑制コーティング4もその裏側に水素が拡散してくる影響により劣化が促進されることが、本願発明者らの研究により明らかになった。
【0021】
そこで、金属基材2の水素を含む雰囲気に晒される第1面2aには、水素透過抑制保護コーティング3が設けられている。水素透過抑制保護コーティング3には、水素透過性の低い材料、具体的にはアルミニウム(Al)、アルミニウム酸化物(AlO)、アルミニウム-クロム複合酸化物(AlCrO)、エルビニウム酸化物(ErO)、ケイ素-クロム複合酸化物(SiCrO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、リン酸マグネシウム(MgPO4)、リン酸アルミニウム(AlPO4)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭化物(TiC)、及びケイ素炭化物(SiC)からなる群より選ばれる少なくとも1つが用いられる。上記した材料群より選ばれる少なくとも1つは水素透過性が低いことから、そのような材料を含む水素透過抑制保護コーティング3を金属基材2の第1面2aに設けることによって、金属基材2の第1面2a側に存在する水素を含む雰囲気から水素が金属基材2中に拡散することが抑制される。従って、金属基材2中を水素が拡散することによる金属基材2の空気等に晒される第2面2b側の腐食を抑制することができる。
【0022】
図3及び
図4に、水素透過抑制保護コーティングが設けられていない金属基材2(金属基材A)と、表面にアルミナコーティングを設けた金属基材2(金属基材B)とを、第1面2a側を10%の水素と90%の水蒸気の混合雰囲気に晒すと共に、第2面2b側を空気に晒した場合における腐食の程度を評価した結果を示す。腐食の評価試験は、750℃に加熱した上記した雰囲気に金属基材2(金属基材A、B)を曝露し、その状態で500時間保持した後に、金属基材2の第2面2b側の断面状態を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、第2面2b側の腐食状態を評価した。
図3は水素透過抑制保護コーティングが設けられていない金属基材Aの第2面2b側の断面SEM像を示している。
図4はアルミナコーティングを設けた金属基材Bの第2面2b側の断面SEM像を示している。
【0023】
図3の断面SEM像に示すように、水素透過抑制保護コーティングが設けられていない金属基材Aでは、第2面2b側に腐食が明確に生じていることが分かる。このような腐食が生じると、金属基材の機械的強度の低下を招くと共に、抵抗も増大する。これに対して、
図4の断面SEM像に示すように、アルミナコーティングが設けられた金属基材Bでは、第2面2b側の腐食が抑えられている。従って、水素透過抑制保護コーティング3を設けることによって、金属基材の機械的強度の低下や抵抗の増大を抑制することができる。さらに、クロム拡散抑制コーティング4の劣化も抑制される。なお、前述した特許文献2は金属セパレータのアノード面に酸化防止層を設けることを開示しているが、この酸化防止層はNi、Pt、Ti、Au、又はAgのいずれかであり、水素透過抑制効果を有していない。従って、NiやPt等からなるコーティングを金属基材に設けても、水素拡散抑制効果を得ることはできない。
【0024】
水素透過抑制保護コーティング3の形成には、例えばAlのような金属コーティングであればめっき法、蒸着法、スパッタ法等の薄膜形成法を適用することができる。また、AlO、ZrO、AlCrO等の酸化物、TiNのような窒化物、TiCやSiC等の炭化物からなる化合物コーティングは、蒸着法、スパッタ法等の薄膜形成法を適用して形成することができる。水素透過抑制保護コーティング3に酸化物を適用する場合、まず金属基材2上に金属膜をめっき法等により形成した後、酸素を含む雰囲気中にて焼成して金属酸化物膜を形成してもよい。さらに、AlCrOやSiCrO等のCrを含む複合酸化物からなる水素透過抑制保護コーティング3の形成において、金属基材2がCrを含む合金等からなる場合には、金属基材2上に金属Al膜や金属Si膜をめっき法により形成した後、焼成して金属Al膜や金属Si膜中に金属基材2のCrを拡散させることによって、AlCrOやSiCrOを含む水素透過抑制保護コーティング3を形成してもよい。AlCrOやSiCrOの少なくとも一部のCrは、金属基材2中のCrにより構成される。このような酸化物膜の形成方法は、施工が簡便で、低コスト化することができると共に、AlCrOやSiCrO等の酸化物をイン・サイチュ(in situ)で形成することにより、水素透過抑制保護コーティング3の密着性を高めることができる。金属基材2にコーティングを施す場合、剥離は大きな課題となるため、密着性の向上は重要である。
【0025】
上記した金属部材1を電気化学スタック10のセパレータ13に適用する場合、セパレータ13は電気を通す必要がある。水素透過抑制保護コーティング3に金属Alのような良導電性材料を適用する場合には問題とならないが、酸化物や窒化物のように導電性が低い材料を適用する場合には、水素透過抑制保護コーティング3の形成による電気抵抗の増加を抑制する必要がある。このような場合には、水素透過抑制保護コーティング3をできるだけ薄く形成し、水素透過抑制保護コーティング3による電気抵抗の増加を抑制することが好ましい。具体的には、水素透過抑制保護コーティング3の厚さは、2μm以上30μm以下とすることが好ましい。水素透過抑制保護コーティング3の厚さが2μm未満であると、水素の拡散抑制効果が低下するおそれがあり、水素透過抑制保護コーティング3の厚さが30μmを超えると、電気抵抗が増加しやすくなる。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態による電気化学スタック用金属部材について、
図5、
図6、及び
図7を参照して説明する。
図5は第2の実施形態による電気化学スタック用金属部材を金属配管に適用した径方向断面を示している。
図5に示す金属配管21は、内面(第1面)22aと外面(第2面)22bとを有する金属管22を具備する。金属配管21を例えば電気化学スタックにおける供給ガスや排出ガスの配管に用いるにあたって、金属配管21内に水素を含む供給ガスや排出ガスを流通させる場合、金属管22の内面22aは水素を含む雰囲気に晒され、金属管22の外面22bは空気に晒される。これは、第1の実施形態で詳述した金属の腐食が促進される条件に相当する。そこで、金属管22の内面22a及び外面22bには、水素透過抑制保護コーティング23A、23Bが設けられている。水素透過抑制保護コーティング23A、23Bは、金属管22の内面22a及び外面22bの少なくとも一方に形成されていればよいが、水素を含む雰囲気に直接晒される金属管22の内面22aに少なくとも形成されていることが好ましい。
【0027】
図5に示す金属配管21は、例えば
図6及び
図7に示す電気化学スタック装置30に用いられる。
図6及び
図7に示す電気化学スタック装置30は、第1の実施形態と同様に、複数の電気化学セル11A、11B、11Cを、それぞれ隣接するセル間に配置されたセパレータ13A、13Bを介して積層した構造を有する電気化学スタック10を備える。電気化学スタック装置30は、電気化学スタック10に原料ガス等を供給する第1供給配管31及び第2供給配管32と、電気化学スタック10で生成されたガスや余剰のガスを排出する第1排出配管33及び第2排出配管34とを備えている。
【0028】
電気化学スタック10をSOFCに適用する場合、
図6に示すように、セル11の燃料極(水素極)としての第1電極には水素タンク35から第1供給配管31を介して水素(H
2)が供給され、空気極(酸素極)としての第2電極にはコンプレッサ36から第2供給配管32を介して空気及び空気中の酸素(O
2)が供給される。第1電極においては、以下に示す式(1)の反応が起こる。
H
2+O
2- → H
2O+2e
- …(1)
このとき発生する酸化物イオン(O
2-)はセル11の電解質層を通って、第2電極に送られる。また、電子(e
-)は外部回路を通って第2電極に達する。第1電極では水(H
2O)が発生する。
1/2O
2+2e
- → O
2- …(2)
第1排出配管33から排出される余剰の水素は、回収配管37を介して第1供給配管31に返送される。供給配管31、32及び排出配管33、34には、必要に応じてバルブ38が設けられている。このようなSOFCを備える電気化学スタック装置30においては、少なくとも第1供給配管31に第2の実施形態の金属配管21が用いられる。
【0029】
電気化学スタック10をSOECに適用する場合、
図7に示すように、セル11の水素極としての第1電極には加熱水蒸気発生器39から第1供給配管31を介して10体積%程度の水素を含む水蒸気(H
2O)が供給される。第1電極と第2電極との間に電圧を印加すると、第1電極においては以下に示す式(3)の反応が起こる。
H
2O+2e
- → H
2+O
2- …(3)
このとき発生する酸化物イオン(O
2-)はセル11の電解質層を通って、第2電極に送られる。第2電極では以下に示す式(4)の反応により酸素(O
2)が発生する。
O
2- → 1/2O
2+2e
- …(4)
第1電極で生成された水素(H
2)及び余剰の水蒸気(H
2O)は、第1排出配管33を介して冷却及び水素と水蒸気の分離機能を有する分離器40に送られる。このようなSOECを備える電気化学スタック装置30においては、第1供給配管31及び第1排出配管33に第2の実施形態の金属配管21が用いられる。第1電極に供給する水蒸気に水素を添加しない場合、金属配管21は第1排出配管33のみに適用してもよい。
【0030】
図6及び
図7に示す電気化学スタック装置30の供給配管31、32や排出配管33、34の少なくとも一部として用いられる金属配管21において、金属管22には例えばSUS316やSUS304等の汎用の高耐熱ステンレスが用いられる。ただし、金属管22の構成材料は、上記した高耐熱ステンレスに限られるものではなく、SOFCやSOEC等に用いられている各種の耐熱材料を適用することが可能である。
【0031】
図2に示す電気化学スタック10をSOFCやSOECとして使用する場合、いずれにおいても600~1000℃程度の高温で動作される。さらに、電気化学スタック10に供給される水蒸気も600~1000℃程度の高温に加熱される。このような高温下において、金属管22の内面(第1面)22aが水素を含む雰囲気に晒されて接し、外面(第2面)22bが空気に晒されて接する特殊な環境下では、金属管22の金属腐食が促進される。金属管22の水素の拡散により促進される腐食を防ぐためには、金属管22中の水素の拡散を抑制することが重要となる。
【0032】
そこで、金属管22の内面22a及び外面22bの少なくとも一方には、水素透過抑制保護コーティング23が設けられている。水素透過抑制保護コーティング23には、第1の実施形態と同様に、水素透過性の低い材料、具体的にはアルミニウム(Al)、アルミニウム酸化物(AlO)、アルミニウム-クロム複合酸化物(AlCrO)、エルビニウム酸化物(ErO)、ケイ素-クロム複合酸化物(SiCrO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、リン酸マグネシウム(MgPO4)、リン酸アルミニウム(AlPO4)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭化物(TiC)、及びケイ素炭化物(SiC)からなる群より選ばれる少なくとも1つが用いられる。上記した材料群より選ばれる少なくとも1つの材料は水素透過性が低いことから、そのような材料を含む水素透過抑制保護コーティング23を金属管22の内面22a及び外面22bの少なくとも内面22aに設けることによって、金属管22の内面22a側に存在する水素を含む雰囲気から水素が金属管22中に拡散することが抑制される。従って、金属管22中を水素が拡散することによる金属管22の空気に晒される外面22b側の腐食を抑制することができる。
【0033】
内面22aに水素透過抑制保護コーティング23を設けた金属管22によれば、内面22aに水素透過抑制保護コーティング3を設けていない金属管22と比べて、
図3及び
図4に示した結果と同様に、水素と水蒸気を含む雰囲気と接する内面22a側に設けられた水素透過抑制保護コーティング3が水素の透過及び拡散、さらに水素の拡散による空気と接する外面22b側における腐食の発生を抑制することによって、金属管22の機械的強度の低下を抑制することができる。従って、金属配管21の機械的強度の低下等による電気化学スタック装置30の信頼性や耐久性等の低下を抑制することが可能になる。
【0034】
水素透過抑制保護コーティング23の形成には、第1の実施形態と同様に、例えばAlのような金属コーティングであればめっき法、蒸着法、スパッタ法等の薄膜形成法を適用することができ、AlO、ZrO、AlCrO等の酸化物、TiNのような窒化物、TiCやSiC等の炭化物からなる化合物コーティングは、蒸着法、スパッタ法等の薄膜形成法を適用することができる。水素透過抑制保護コーティング23に酸化物を適用する場合、まず金属管22の表面(22a、22b)に金属膜をめっき法等により形成した後、酸素を含む雰囲気中にて焼成して金属酸化物膜を形成してもよい。
【0035】
さらに、AlCrOやSiCrO等のCrを含む複合酸化物からなる水素透過抑制保護コーティング23の形成において、金属管22がCrを含む合金からなる場合、金属管22の表面(22a、22b)に金属Al膜や金属Si膜をめっき法により形成した後、酸素を含む雰囲気中で焼成して金属Al膜や金属Si膜を酸化しつつ、金属管22中のCrを金属Al膜や金属Si膜中に拡散させることによって、AlCrOやSiCrOを含む水素透過抑制保護コーティング23を形成してもよい。この場合、水素透過抑制保護コーティング23の素膜の形成時にCrを含む材料を用いなくてもよい。このような酸化物膜の形成方法は、施工が簡便で、低コスト化することができると共に、AlCrOやSiCrO等の酸化物をイン・サイチュ(in situ)で形成することにより、水素透過抑制保護コーティング23の密着性を高めることができる。金属管22にコーティングを施す場合、剥離は大きな課題となるため、密着性の向上は重要である。
【0036】
上記した金属配管21を電気化学スタック装置30に適用する場合、金属配管21には電気を通すことが求められないため、第1の実施形態のセパレータに用いられる金属部材1のように、水素透過抑制保護コーティング3の形成による電気抵抗の増加を抑制する必要はない。このため、金属管22に設けられる水素透過抑制保護コーティング23は、金属基材2に設けられる水素透過抑制保護コーティング3より厚く形成してもよい。これによって、水素透過抑制保護コーティング23の耐久性や信頼性等を高めることができる。ただし、水素透過抑制保護コーティング23の厚さが厚すぎると、剥離等が生じやすくなるおそれがあるため、水素透過抑制保護コーティング3の厚さは100μm以下とすることが好ましい。水素透過抑制保護コーティング3の厚さは2μm以上とすることが好ましく、水素の拡散抑制効果を高める上で5μm以上とすることがより好ましい。
【0037】
上述した第1及び第2の実施形態においては、電気化学セル及び電気化学スタックを燃料電池又は電解セルに適用した例を示したが、電気化学セル及び電気化学スタックはこれらに限らず、例えば二酸化炭素(CO2)の電解装置や、二酸化炭素と水蒸気の混合ガスの共電解装置であってもよい。例えばCO2電解装置において、第1電極では供給された二酸化炭素(CO2)を還元して一酸化炭素(CO)及び酸化物イオン(O2-)が生成される。第2電極では、第1電極から送られてきた酸化物イオン(O2-)により酸素が生成される。このようなCO2電解装置に実施形態の金属部材や金属配管を適用してもよい。第1電極の反応は以下に示す式(5)及び式(6)であり、CO2電解の場合には式(6)の反応のみが起こり、共電解の場合には式(5)及び式(6)の反応が起こる。第2電極の反応は以下に示す式(7)である。
H2O+2e- → H2+O2- …(5)
CO2+2e- → CO+O2- …(6)
2O2- → O2+4e- …(7)
【0038】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0039】
1…金属部材、2…金属基材、2a…第1面、2b…第2面、3…水素透過抑制保護コーティング、4…クロム拡散抑制コーティング、10…電気化学スタック、11,11A,11B,11C,12…電気化学セル、13…セパレータ、13…第1電極、14…第2電極、15…電解質層、21…金属配管、22…金属管、22a…内面、22b…外面、23,23A,23B…水素透過抑制保護コーティング、30…電気化学スタック装置、31,32…供給配管、33,34…排出配管。