(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026235
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】核酸増幅用反応槽、カートリッジ及び核酸増幅方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230216BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230216BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132051
(22)【出願日】2021-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】519363465
【氏名又は名称】株式会社Mirai Genomics
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】オベチキン ニキータ
(72)【発明者】
【氏名】プザンコフ ディミトリー
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029GB02
4B029GB10
4B063QA08
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS25
(57)【要約】
【課題】偽陽性の発生を抑制できる核酸増幅用反応槽、カートリッジ及び核酸増幅方法の提供。
【解決手段】縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間に反応液供給口及び排気口を有し、前記反応液供給口は、前記長手方向の排気口より下方に位置する、核酸増幅用反応槽。縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、前記反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、核酸増幅用反応槽。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間に反応液供給口及び排気口を有し、
前記反応液供給口は、前記長手方向の排気口より下方に位置する、核酸増幅用反応槽。
【請求項2】
排気口から外部に吸引することで反応液供給口から反応液供給用空間に反応液が供給される方法で用いるための、請求項1に記載の反応槽。
【請求項3】
縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、前記反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、核酸増幅用反応槽。
【請求項4】
前記反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、請求項1または2に記載の反応槽。
【請求項5】
前記突起部は、前記境界の全部に存在する、請求項3または4に記載の反応槽。
【請求項6】
反応槽の水平断面積を100としたときに、突起部を有する位置の水平断面積の比が30~95の範囲である、請求項3~5のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項7】
突起部を有する位置の水平断面における開口の面積が1~10mm2の範囲である、請求項3~6のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項8】
前記反応槽が前記反応液供給用空間に排気口を有する場合に、
前記反応液供給口は、前記排気口より下方であり、かつ前記突起部より上方に位置する、請求項4~7のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項9】
前記反応液収容用空間は、10~500μLの範囲の容積を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項10】
前記反応槽が前記反応液供給用空間に排気口を有する場合に、
排気口と反応液供給口との間の距離L1と、突起部と反応液供給口との間の距離L2と、突起部と反応液収容用空間の底部との間の距離L3の比L1:L2:L3は、例えば、1:0.1~1:0.1~1の範囲であることができ、L1+L2+L3を1としたとき、L2+L3は、例えば、0.3~0.7の範囲である、請求項4~9のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項11】
前記反応液収容用空間は、側壁の少なくとも一部が光透過性を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項12】
前記反応液収容用空間の水平断面積は、前記反応液供給用空間の水平断面積より小さい、請求項1~11のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項13】
前記反応槽の少なくとも一部または全部の内表面の表面粗さRaが25nm以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項14】
前記反応槽の少なくとも一部または全部の内表面がワックス被覆されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項15】
マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路(30及び31)を介して前記チャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽(20)を含む核酸増幅用カートリッジ(10)であって、
前記反応槽(20)が、請求項1~14のいずれか1項に記載の反応槽である、前記カートリッジ。
【請求項16】
請求項15に記載のカートリッジを用いる核酸増幅方法であって、
排気口から吸引して反応槽内を陰圧にすることで、反応液供給口から増幅されるべき核酸を含有する反応液を反応液供給用空間に供給し、
反応液供給用空間から反応液収容用空間に自発的に移動した反応液を核酸増幅反応に供する、ことを含む前記核酸増幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅用反応槽、カートリッジ及び核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19の蔓延に伴って、ウイルス中の核酸を回収し、増幅し、検出して、ウイルス感染の有無を簡便にかつ確実に判定する技術に対する要求は日々高まっている。また、COVID-19の問題を解消した後にも、人類は様々なウイルスや細菌による疾病に直面していることから、同様の技術に対する要求は依然として存在する。
【0003】
核酸を増幅し、検出する技術は、サーモサイクラーを用いたPCR法の出現と、その後のサーモサイクルPCR法以外の様々な方法の発展により、方法論としてはほぼ確立され、実験室のみならず、病院の検査室などにおいても簡便に行われるようになってきた。しかし、それでも、ウイルス等の生体試料からの核酸回収をマニュアル操作で行った後に、核酸の増幅と検出を既存の増幅検出装置を用いて行うことが多かった。しかし、COVID-19の蔓延に伴って、既存の方法及び装置を用いて、保健所や検査会社に検体を持ち込んでの対応では深刻な自体に対応できないことは明らかである。多量の検体を、場所を選ばず短時間にかつ簡易に処理して、ウイルス感染の有無を、確実に判定することはできないのが現状である。
【0004】
特許文献1には、核酸の増幅と検出をより簡易に行える、携帯可能な小型の増幅検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置では、検体から核酸を別途回収した後、回収した核酸を増幅及び検出する装置である。しかし、この方法では、検体から核酸を別途回収する必要があり、検体から一度にウイルスの検出はできない。
【0007】
これに対し、本発明者らは、検体を前処理することなくそのまま用いて、検体からの核酸の回収、回収した核酸の増幅、及び増幅した核酸の検出を1つの装置で行うことを企画した。この装置は、上記工程をマイクロ流路で連絡したチャンバーにおいて逐次自動で実施することを想定するが、その中で、回収した核酸の増幅を行う核酸増幅用反応槽に起因して偽陽性が生じることを突き止めた。
【0008】
本発明が解決すべき課題は、偽陽性の発生を抑制できる核酸増幅用反応槽、それを含む核酸増幅用カートリッジ、及びこのカートリッジを用いる核酸増幅方法を提供することにあり、本発明は、偽陽性の発生を抑制できる核酸増幅用反応槽、それを含む核酸増幅用カートリッジ、及びこのカートリッジを用いる核酸増幅方法を提供することを目的とする。
【0009】
マイクロ流路で連絡した複数のチャンバーを有するカートリッジにおいて検体中のウイルスを検出する場合、核酸増幅反応液は、少量であればある程、酵素やプライマーの必要量を低減でき、かつ増幅した核酸濃度を高めることができることから、感度を向上させる可能性が高まる。その一方で、反応液量が少量になればなるほど、液の界面張力と反応槽の内面との相互作用により、所定の位置、通常は底部に反応液を位置させることが困難となる。特に、排気口から外部に吸引することで反応槽の反応液供給口から反応液供給用空間に反応液が供給される方法では、反応液供給時に泡が発生し、泡が残存すると所定の位置に反応液が位置しない状況が発生し、この状況での核酸増幅及び検出は、偽陽性の原因となり得る。反応液量が、例えば10~500μL、10~100μLである場合、この傾向は特に顕著である。
【0010】
図4は、上部に排気口51を有し、底部近傍に反応液供給口52を有する縦長形状の反応槽50において、反応槽内の壁面に反応液RSが停留し、長手方向の下部の反応液収容用空間に反応液RSが収納できていない状況を示す図である。この反応槽50内には、排気口51からの吸引により槽内を陰圧とし、別チャンバー内にある反応液を底部近傍の供給口に吸い出すことで、反応液が移送される。しかしながら、反応槽50内で反応液が飛び散ることで、
図4に示すように、反応槽内の壁面に反応液が付着して泡状となる場合がある。
【0011】
反応槽内の壁面に付着した泡状反応液を解消して、反応槽内の所定の位置に反応液を格納するために、本発明では、1つの態様において、反応槽が反応液供給用空間に反応液供給口及び排気口を有し、反応液供給口が、反応槽の長手方向において排気口より下方に位置する。反応液供給口が排気口より下方に位置することで、反応液供給口から供給された反応液は下方に流れ、泡は上方に抜けやすくなる。
【0012】
さらに、反応槽内の壁面に付着した泡状反応液を解消して、反応槽内の所定の位置に反応液を格納するために、本発明では、別の態様において、反応槽の下部と上部の境界の少なくとも一部に、内部に向かう突起部を設ける。突起部の先端で泡が消滅しやすく、その結果、底部に液が集まり易い。
【0013】
さらに本発明では、反応液供給口が底部近傍に位置するよりは、排気口より下方であり、かつ突起部より上方に位置することで、泡発生がより抑制でき、突起部より下の空間に反応液が格納され易く、その結果、反応液が所定位置にないことでの偽陽性の発生をより抑制できることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の通りである。
[1]
縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間に反応液供給口及び排気口を有し、
反応液供給口は、前記長手方向の排気口より下方に位置する、核酸増幅用反応槽。
[2]
排気口から外部に吸引することで反応液供給口から反応液供給用空間に反応液が供給される方法で用いるための、[1]に記載の反応槽。
[3]
縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、核酸増幅用反応槽。
[4]
反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、[1]または[2]に記載の反応槽。
[5]
突起部は、前記境界の全部に存在する、[3]または[4]に記載の反応槽。
[6]
反応槽の水平断面積を100としたときに、突起部を有する位置の水平断面積の比が30~95の範囲である、[3]~[5]のいずれか1項に記載の反応槽。
[7]
突起部を有する位置の水平断面における開口の面積が1~10mm2の範囲である、[3]~[6]のいずれか1項に記載の反応槽。
[8]
反応槽が反応液供給用空間に排気口を有する場合に、
反応液供給口は、排気口より下方であり、かつ突起部より上方に位置する、[4]~[7]のいずれか1項に記載の反応槽。
[9]
反応液収容用空間は、10~500μLの範囲の容積を有する、[1]~[8]のいずれか1項に記載の反応槽。
[10]
反応槽が反応液供給用空間に排気口を有する場合に、
排気口と反応液供給口との間の距離L1と、突起部と反応液供給口との間の距離L2と、突起部と反応液収容用空間の底部との間の距離L3の比L1:L2:L3は、例えば、1:0.1~1:0.1~1の範囲であることができ、L1+L2+L3を1としたとき、L2+L3は、例えば、0.3~0.7の範囲である、[4]~[9]のいずれか1項に記載の反応槽。
[11]
反応液収容用空間は、側壁の少なくとも一部が光透過性を有する、[1]~[10]のいずれか1項に記載の反応槽。
[12]
反応液収容用空間の水平断面積は、反応液供給用空間の水平断面積より小さい、[1]~[11]のいずれか1項に記載の反応槽。
[13]
反応槽の少なくとも一部または全部の内表面の表面粗さRaが25nm以下である、[1]~[12]のいずれか1項に記載の反応槽。
[14]
反応槽の少なくとも一部または全部の内表面がワックス被覆されている、[1]~[12]のいずれか1項に記載の反応槽。
[15]
マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路(30及び31)を介してチャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽(20)を含む核酸増幅用カートリッジカートリッジ(10)であって、
反応槽(20)が、[1]~[14]のいずれか1項に記載の反応槽である、カートリッジ。
[16]
[15]に記載のカートリッジを用いる核酸増幅方法であって、
排気口から吸引して反応槽内を陰圧にすることで、反応液供給口から増幅されるべき核酸を含有する反応液を反応液供給用空間に供給し、
反応液供給用空間から反応液収容用空間に自発的に移動した反応液を核酸増幅反応に供する、ことを含む核酸増幅方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、核酸増幅した後の検出において偽陽性の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のカートリッジのうち、一例の反応槽を有する部分の概略説明図である。
【
図3-1】本発明の一例の反応槽の概略説明図である。
【
図3-2】本発明の一例の反応槽の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<核酸増幅用反応槽>
本発明の第一の態様の核酸増幅用反応槽は、縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間に反応液供給口及び排気口を有し、反応液供給口が、長手方向の排気口より下方に位置する、核酸増幅用反応槽に関する。
【0018】
本発明の第二の態様の核酸増幅用反応槽は、縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、核酸増幅用反応槽に関する。
【0019】
本発明の好ましい核酸増幅用反応槽は、第一と第二の態様の共通部分である、縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間であり、上部が反応液供給用空間であり、反応液供給用空間に反応液供給口及び排気口を有し、反応液供給口は、上記長手方向の排気口より下方に位置し、かつ、反応液供給用空間と反応液収容用空間の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部を有する、核酸増幅用反応槽に関する。
【0020】
図1及び2は、本発明の核酸増幅用反応槽の一例についての概略説明図である。
図1及び2に基づいて、本発明の核酸増幅用反応槽について説明する。
【0021】
本発明の核酸増幅用反応槽20は、縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間21であり、上部が反応液供給用空間22である。反応液供給用空間22に反応液供給口32及び排気口24を有する。反応液供給用空間22と反応液収容用空間21の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部25を有する。
図2のAは
図1と同じ面での断面を示し、Bは、垂直軸(長手方向の軸)に対して90°回転させた時の反応槽20の断面を示す。この図から、反応液供給用空間22の突起部25までの空間は直方体であることが分かる。但し、反応液供給用空間22は、円筒形であることもでき、突起部25は中心に円形の開口を有する円形形状であることもできる。反応液供給用空間22は、反応液供給口32又は突起部25の近傍に、反応槽20内の側壁から伸びる柱状部23を有していてもよい。
【0022】
反応液収容用空間は、反応液を収容して反応液に含まれる核酸を増幅するための空間であり、その容積は特に限定はないが、微量の試料中の核酸を増幅して感度良く検出できるという観点からは、例えば、10~500μLの範囲であり、好ましくは10~100μLの範囲である。但し、この数値範囲に限定される意図ではない。
【0023】
反応液供給用空間22と反応液収容用空間21の境界近傍の突起部25は、境界の一部または全部に存在し、全部に存在することが好ましい。突起部25の存在により反応液供給の際に生じる泡をより容易に消滅させることができ、反応液を反応液収容用空間21に格納し易くなる。さらに、突起部25により形成される開口26は、反応液供給用空間22に供給された反応液が反応液収容用空間21に移動する入り口となり、かつ反応液収容用空間21に移動した後の反応液の液面が反応液供給用空間22中の空気と接する面積を確定する機能を有する。反応液量を、反応液の液面が開口26とほぼ同一の高さに位置する量とすることで、反応液の液面は、開口26の面積にほぼ等しくなり、突起部25がない場合に比べて、小さくなり、それによって、反応液が反応液収容用空間21内に止まり易くなる。
図3-1に示すように、突起部25がある場合、反応液は表面積を界面張力により最小化するように、反応液収容用空間21内に止まり易くなる。
【0024】
反応槽の水平断面積(例えば、反応液供給口32がある位置での断面積)を100としたときに、突起部を有する位置の水平断面、即ち開口26の面積の比は、好ましくは30~95の範囲であり、より好ましくは60~80の範囲である。突起部25を有する位置の水平断面における開口26の面積は、反応槽の水平断面積にもよるが、例えば、1~10mm2の範囲であることができる。反応槽の水平断面積は、例えば、2~20mm2の範囲であることができる。但し、これらの数値範囲に限定される意図ではない。
【0025】
反応液供給口32は、排気口24より下方であり、かつ突起部25より上方に位置することが、反応液が反応液収容用空間21内に一塊で格納されやすくなるという観点から好ましい。反応液供給口32が反応液収容用空間21内に位置すると、排気口24は最上部付近に位置することから、
図5に示すように反応液供給口32から供給された反応液が、反応液収容用空間21以外の空間内に止まり、反応液収容用空間21内に一塊で格納され難くなる傾向がある。
図2に示すように、排気口24と反応液供給口32との間の距離L1、突起部25と反応液供給口32との間の距離L2、突起部25と反応液収容用空間21の底部との間の距離L3の比L1:L2:L3は、例えば、1:0.1~1:0.1~1の範囲であることができ、1:0.3~0.8:0.3~0.8の範囲であることができる。L1+L2+L3を1としたとき、L2+L3は、例えば、0.3~0.7の範囲であることができる。但し、これらの数値範囲に限定される意図ではない。
【0026】
核酸増幅後または増幅中に、そのまま増幅した核酸を検出するという観点から、反応液収容用空間の側壁の少なくとも一部が光透過性を有することが好ましい。さらに、反応液収容用空間の水平断面積(例えば、最大の断面積)は、反応液供給用空間の水平断面積より小さいことができる。特に、側壁の少なくとも一部が光透過性を有する場合、光透過性を有する側壁と対面する壁の内面までの距離を短くすることで、反応液収容用空間の水平断面積を反応液供給用空間の水平断面積より小さくすることが好ましい。反応液収容用空間に収容すべき反応液量を低減でき、かつ増幅した核酸を含む反応液への検出光(励起光)を効率的に利用することができる。
【0027】
反応液収容用空間21の少なくとも一部または全部の内表面の表面粗さRaが25nm以下であることが、偽陽性発生をより抑制するという観点から、さらに好ましい。反応液供給用空間22の少なくとも一部または全部の内表面の表面粗さRaが25nm以下であることが、偽陽性発生をより抑制するという観点から、さらに好ましい。但し、この数値範囲に限定される意図ではない。
【0028】
反応液収容用空間21の少なくとも一部または全部の内表面がワックス被覆されていることが表面粗さを制御して、偽陽性発生をより抑制するという観点から、好ましい。反応液供給用空間22の少なくとも一部または全部の内表面がワックス被覆されていることも、偽陽性発生をより抑制するという観点から好ましい。
【0029】
<核酸増幅用カートリッジ>
本発明は、マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路30及び31を介して上記チャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽20を含む核酸増幅用カートリッジ10であって、反応槽20が、上記本発明の反応槽であるカートリッジに関する。
【0030】
マイクロ流路で連絡されたチャンバーとマイクロ流路及び各マイクロ流路の連絡方法や構造には特に制限はない。本発明のカートリッジが有する反応槽20の数は、1つまたは2つ以上であることができ、2つ以上は、3、4、5、6、7、8、9又は10であることができるが、これらの数に限定されるものではない。
図1には、4つの反応槽20を有するカートリッジの例を示す。上流のチャンバーからのマイクロ流路30が途中で2つに枝分かれしてマイクロ流路31となり、マイクロ流路31がさらに2つに枝分かれして全部で4つの流路を形成し、これらの流路が、反応槽のそれぞれの反応液供給口32に連絡している。マイクロ流路30、31を介しての反応液の反応槽20への供給は、反応液供給用空間22内に位置する排気口24から反応液供給用空間22内に陰圧が付与されることにより、行われる。排気口24に、例えば、減圧ポンプを接続することで、陰圧は付与できる。減圧ポンプは、カートリッジとは別に設けることができる。
【0031】
本発明のカートリッジが2つ以上の反応槽20を有する場合であっても、反応槽20が本発明の反応槽であれば、何れの反応槽においても所定の位置に反応液を収納することができる。例えば、
図3-2に示す4つの反応槽を有するカートリッジであっても、何れの反応槽においても所定の位置に反応液を収納することができる。
【0032】
<核酸増幅方法>
本発明は、上記本発明のカートリッジを用いる核酸増幅方法を包含する。この方法は、(1)排気口から吸引して反応槽内を陰圧にすることで、反応液供給口から増幅されるべき核酸を含有する反応液を反応液供給用空間に供給し、(2)反応液供給用空間から反応液収容用空間に自発的に移動した反応液を核酸増幅反応に供する、ことを含む。
【0033】
(1)の工程では、反応液供給口から、増幅されるべき核酸を含有する反応液を反応液供給用空間に供給する。反応液の供給は、排気口から吸引して反応槽内を陰圧にすることで行う。反応液の反応液供給用空間への供給は、排気口24より下方であり、かつ突起部25より上方に位置する反応液供給口32から行うことで、反応液の泡の発生を抑制でき、核酸増幅後の検出において偽陽性発生をより抑制することができる。さらに、反応液供給用空間に供給される反応液の量を、反応液収容用空間の容積に相当する容積とすることが好ましい。これにより、突起部の作用によって反応液収容用空間内に反応液が一塊で格納され易くなり、核酸増幅後の検出における偽陽性発生をより抑制することができる。
【0034】
(2)の工程では、反応液供給用空間から反応液収容用空間に自発的に移動した反応液を核酸増幅反応に供する。反応液は、増幅されるべき核酸を含有するが、それに加えて、核酸増幅用酵素及び核酸増幅用プライマーまたはプローブを含有する。酵素及びプライマーまたはプローブは、反応槽に供給される前に事前に反応液に加えることもできるが、反応槽内で、加えることもできる。反応槽内での添加は、反応液供給用空間の反応液供給口と突起部の間に、核酸増幅用酵素を含有する水溶性ビーズ及び核酸増幅用プライマーまたはプローブを含有する水溶性ビーズを配置することで行うことができる。
【0035】
反応液中の増幅されるべき核酸は、特に制限はなく、本発明のカートリッジの利用目的に応じて適宜選択することができる。また、核酸増幅用酵素、核酸増幅用プライマー及びプローブには特に制限はなく、核酸増幅方法に応じた適切な材料を適宜用いることができる。
【0036】
増幅されるべき核酸は、特に制限はないが、例えば、RNAまたはDNAであることができる。核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応であることができる。等温増幅反応は、例えば、LAMP法またはSmartAmp法である。サーモサイクル増幅反応は、PCR増幅反応であることができる。
【0037】
核酸増幅用酵素は、特に制限されないが、例えば、核酸の等温増幅反応用酵素またはサーモサイクル増幅反応用酵素であることができる。核酸の等温増幅反応は、例えば、核酸のLAMP法またはSmartAmp法であることができ、鎖置換反応を利用した核酸の増幅反応用酵素であることができる。
【0038】
鎖置換活性を有する核酸増幅反応用酵素であるポリメラーゼは、公知の酵素を利用できる。例えば、国際公開第2004/040019号に記載のポリメラーゼを挙げることができるが、これに限定される意図ではない。鎖置換活性を有するポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ(Aac)であることもでき、国際公開第2009/054510号(日本特許第4450867号)に開示されている。
【0039】
鎖置換活性を有する核酸増幅反応に用いられるポリメラーゼとしては、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。このようなポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼが挙げられる。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。核酸増幅反応において使用するDNAポリメラーゼとしては、さらに、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS-2ファージDNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pfu turbo DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、9°Nm DNAポリメラーゼ、Therminator DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0040】
増幅されるべき核酸がRNAである場合は、DNAポリメラーゼに加えて逆転写酵素を併用するか、またはDNAポリメラーゼとして、逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼを用いることもできる。逆転写酵素は、RNAを鋳型としたcDNA合成活性を有するものであれば特に限定されず、例えば、トリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素(AMVRTase)、ラウス関連ウイルス2逆転写酵素(RAV-2RTase)、モロニーネズミ白血病ウイルス由来逆転写酵素(MMLV RTase)等、種々の起源の逆転写酵素が挙げられる。逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼとして、例えば、BcaBEST DNAポリメラーゼ、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ等を挙げることができる。
【0041】
プライマーは、核酸の増幅反応用酵素に応じて適宜選択される。核酸の増幅反応用酵素が、鎖置換反応を利用した核酸の増幅反応用酵素である場合は、国際公開第2004/040019号、特開2009-171935号公報、特開2011-50380号公報などに記載のプライマーを挙げることができる。
【0042】
本発明の方法は、核酸増幅操作後に、反応槽内で増幅された核酸を、光学的に検出する工程、電気的に検出する工程、または表面プラズモン共鳴により検出する工程をさらに含むことができる。増幅された核酸の検出は、プライマーとしてフルオロジェニックプライマーを用い、フルオロジェニックプライマーの標識を用いて行うことができる。増幅された核酸の検出は、増幅反応においてエキシトンプライマーまたはエキシトンプローブを用いて、エキシトン効果を利用して行うことができる。核酸を光学的に検出する方法は、インターカレート色素を利用した方法でもよい。
【0043】
本発明の方法において、核酸増幅反応をSmartAmp法またはLAMP法で行い、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出することが好ましい。或いは、核酸増幅反応をPCR法で行い、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出することが好ましい。
【0044】
核酸増幅反応に引き続き、核酸融解曲線を描き、融解曲線により、偽陽性や真の陽性の判定など、増幅産物の性質について判定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、核酸増幅及び検出に関連する分野において有用である。
【符号の説明】
【0046】
10 カートリッジ
20 反応槽
21 反応液収容用空間
22 反応液供給用空間
23 柱状部
24 排気口
25 突起部
26 開口
30,31 流路
32 反応液供給口