(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026236
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】核酸増幅用反応槽、カートリッジ及び核酸検出方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20230216BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20230216BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230216BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20230216BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20230216BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12Q1/6888 Z
B29C45/26
B29C45/00
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132052
(22)【出願日】2021-08-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519363465
【氏名又は名称】株式会社Mirai Genomics
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】臼井 健悟
(72)【発明者】
【氏名】プザンコフ ディミトリー
(72)【発明者】
【氏名】オベチキン ニキータ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA23
4B029BB13
4B029DD06
4B029DG10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR79
4B063QS25
4F202AA11
4F202AF01
4F202AF07
4F202AG05
4F202AH63
4F202AR13
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK12
4F206AA11
4F206AF01
4F206AF07
4F206AG05
4F206AH63
4F206AR13
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】偽陽性の発生を抑制できる核酸増幅用反応槽及びそれを含む核酸増幅用カートリッジ並びに核酸の検出方法を提供すること。
【解決手段】核酸増幅用反応槽であって、反応槽の内表面の表面粗さRaが25nm以下である、反応槽。マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路(30及び31)を介して上記チャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽(20)を含む核酸増幅用カートリッジ(10)であって、反応槽(20)が、上記本発明の反応槽である、カートリッジ。上記カートリッジの反応槽中で、複数のプライマーを用いて目的核酸を増幅し、増幅した核酸を検出する、核酸の検出方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅用反応槽であって、反応槽の内表面の表面粗さRaが25nm以下である、前記反応槽。
【請求項2】
前記反応槽は、反応槽本体と反応槽本体の開口を遮蔽するフィルムとで構成され、反応槽本体の内表面及びフィルムの表面粗さRaが25nm以下である、請求項1に記載の反応槽。
【請求項3】
反応槽本体は、反応槽本体の内表面形成用表面の表面粗さRaが25nm以下である射出成形用型を用いて成形された射出成形品である、請求項1または2に記載の反応槽。
【請求項4】
前記反応槽は、反応槽の内表面にワックス被覆を有する射出成形品であり、ワックス被覆した内表面の表面粗さRaが25nm以下である、請求項1または2に記載の反応槽。
【請求項5】
前記反応槽は、反応液収容用空間を有し、
前記反応液収容用空間は、10~500μLの範囲の容積を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項6】
核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応である、請求項1~5のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項7】
核酸の等温増幅反応は、核酸のLAMP法またはSmartAmp法である、請求項6に記載の反応槽。
【請求項8】
核酸の等温増幅反応を、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出する、請求項7に記載の反応槽。
【請求項9】
マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路(30及び31)を介して前記チャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽(20)を含む核酸増幅用カートリッジ(10)であって、
前記反応槽(20)が、請求項1~8のいずれか1項に記載の反応槽である、前記カートリッジ。
【請求項10】
請求項9に記載のカートリッジを用い、前記カートリッジの反応槽中で、複数のプライマーを用いて目的核酸を増幅し、増幅した核酸を検出する、核酸の検出方法。
【請求項11】
核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応である、請求項10に記載の核酸の検出方法。
【請求項12】
核酸の等温増幅反応は、核酸のLAMP法またはSmartAmp法である、請求項11に記載の核酸の検出方法。
【請求項13】
核酸の等温増幅反応を、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出する、請求項12に記載の核酸の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅用反応槽、カートリッジ及び核酸検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19の蔓延に伴って、ウイルス中の核酸を回収し、増幅し、検出して、ウイルス感染の有無を簡便にかつ確実に判定する技術に対する要求は日々高まっている。また、COVID-19の問題を解消した後にも、人類は様々なウイルスや細菌による疾病に直面していることから、同様の技術に対する要求は依然として存在する。
【0003】
核酸を増幅し、検出する技術は、サーモサイクラーを用いたPCR法の出現と、その後のサーモサイクルPCR法以外の様々な方法の発展により、方法論としてはほぼ確立され、実験室のみならず、病院の検査室などにおいても簡便に行われるようになってきた。しかし、それでも、ウイルス等の生体試料からの核酸回収をマニュアル操作で行った後に、核酸の増幅と検出を既存の増幅検出装置を用いて行うことが多かった。しかし、COVID-19の蔓延に伴って、既存の方法及び装置を用いて、保健所や検査会社に検体を持ち込んでの対応では深刻な自体に対応できないことは明らかである。多量の検体を、場所を選ばず短時間にかつ簡易に処理して、ウイルス感染の有無を、確実に判定することはできないのが現状である。
【0004】
特許文献1には、核酸の増幅と検出をより簡易に行える、携帯可能な小型の増幅検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置では、検体から核酸を別途回収した後、回収した核酸を増幅及び検出する装置である。しかし、この装置を用いる方法では、検体から核酸を別途回収する必要があり、検体から一度にウイルスの検出はできない。
【0007】
これに対し、本発明者らは、検体を前処理することなくそのまま用いて、検体からの核酸の回収、回収した核酸の増幅、及び増幅した核酸の検出を1つの装置で行うことを企画した。この装置では、上記核酸の回収、増幅、検出の工程を、マイクロ流路で連絡したチャンバーにおいて逐次自動で実施することを想定する。しかし、その中で、回収した核酸の増幅を行う核酸増幅用反応槽に起因して偽陽性が生じることを突き止めた。
【0008】
本発明が解決すべき課題は、偽陽性の発生を抑制できる核酸増幅用反応槽、それを含む核酸増幅用カートリッジ、及びこのカートリッジを用いる核酸検出方法を提供することにあり、本発明は、偽陽性の発生を抑制できる核酸増幅用反応槽、それを含む核酸増幅用カートリッジ、及びこのカートリッジを用いる核酸検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの検討の結果、偽陽性発生の原因となり得る、目的核酸以外の核酸増幅は、射出成形で作製した反応槽の内面の表面が粗く、その結果、核酸増幅反応においてプライマーがダイマ等を生成し、それが増幅されることが原因であると判明した。このことは、核酸増幅反応をSmartAmp法で行った場合に顕著であった。さらに、反応槽の内表面の表面粗さRaを25μm以下にすることで、目的核酸以外の核酸増幅を抑制できることを見いだして本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の通りである。
[1]
核酸増幅用反応槽であって、反応槽の内表面の表面粗さRaが25nm以下である、前記反応槽。
[2]
前記反応槽は、反応槽本体と反応槽本体の開口を遮蔽するフィルムとで構成され、反応槽本体の内表面及びフィルムの表面粗さRaが25nm以下である、[1]に記載の反応槽。
[3]
反応槽本体は、反応槽本体の内表面形成用表面の表面粗さRaが25nm以下である射出成形用型を用いて成形された射出成形品である、[1]または[2]に記載の反応槽。
[4]
前記反応槽は、反応槽の内表面にワックス被覆を有する射出成形品であり、ワックス被覆した内表面の表面粗さRaが25nm以下である、[1]または[2]に記載の反応槽。
[5]
前記反応槽は、反応液収容用空間を有し、
前記反応液収容用空間は、10~500μLの範囲の容積を有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の反応槽。
[6]
核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の反応槽。
[7]
核酸の等温増幅反応は、核酸のLAMP法またはSmartAmp法である、[6]に記載の反応槽。
[8]
核酸の等温増幅反応を、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出する、[7]に記載の反応槽。
[9]
マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路(30及び31)を介して前記チャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽(20)を含む核酸増幅用カートリッジ(10)であって、
前記反応槽(20)が、[1]~[8]のいずれか1項に記載の反応槽である、前記カートリッジ。
[10]
[9]に記載のカートリッジを用い、前記カートリッジの反応槽中で、複数のプライマーを用いて目的核酸を増幅し、増幅した核酸を検出する、核酸の検出方法。
[11]
核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応である、[10]に記載の核酸の検出方法。
[12]
核酸の等温増幅反応は、核酸のLAMP法またはSmartAmp法である、[11]に記載の核酸の検出方法。
[13]
核酸の等温増幅反応を、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出する、[12]に記載の核酸の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、核酸増幅した後の検出において偽陽性の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
<核酸増幅用反応槽>
本発明は、反応槽の内表面の表面粗さRaが25nm以下である、核酸増幅用反応槽に関する。
【0014】
本発明においては、反応槽の内表面の表面粗さRaが25nm以下であることで、目的核酸以外の核酸増幅を抑制でき、核酸増幅した後の検出において偽陽性の発生を抑制することができる。
【0015】
図1は、本発明の核酸増幅用反応槽の一例を示すものであり、以下、
図1に基づいて、本発明の核酸増幅用反応槽について説明する。
【0016】
図1に示す反応槽20は、反応槽本体10と、反応槽本体10の反応槽空間の開口を遮蔽するフィルム40とで構成される。
図1では、反応槽本体10とフィルム40は別々に記載されているが、反応槽本体10の反応槽空間の開口を遮蔽するようにフィルム40が設けられることにより、反応槽20が形成される。
図1では4つの反応槽20が形成される。反応槽本体10の内表面及びフィルム(少なくとも反応槽空間側の表面)の表面粗さRaは、25nm以下であり、反応槽20の内表面の表面粗さRaは、25nm以下となる。
【0017】
反応槽本体は、例えば、反応槽本体の内表面形成用表面の表面粗さRaが25nm以下である射出成形用型を用いて成形された射出成形品であることができる。成形用表面の表面粗さRaが25nm以下である射出成形用型を用いて成形された射出成形品の表面粗さRaが25nm以下となる。反応槽本体の材料は、特に制限されず、一般の射出成形用樹脂を使用することができる。反応槽本体は、例えば、ポリプロピレン製であることができる。
【0018】
反応槽本体は、例えば、反応槽20の内表面にワックス被覆を有する射出成形品であり、ワックス被覆した内表面の表面粗さRaが25nm以下であることもできる。この場合は、射出成形に、成形用表面の表面粗さRaが25nm以下である射出成形用型を用いずとも、内表面の表面粗さRaが25nm以下手ある反応槽本体を得ることができる。
【0019】
フィルムは、樹脂製のフィルムであることができ、例えば、ポリプロピレン製フィルムであることができ、二軸延伸フィルムまたは無延伸フィルムであることができる。強度及び透明性を考慮すると二軸延伸フィルムであることが好ましいが、本発明においては表面粗さRaが25nm以下であれば、特に制限はない。
【0020】
反応槽本体10の反応槽空間の開口を遮蔽するようにフィルム40を設け、例えば、熱融着することにより、反応槽空間の開口がフィルム40で被覆されて個別の反応槽20を得ることができる。
【0021】
本発明の核酸増幅用反応槽20は、例えば、縦長形状の反応槽であって、長手方向の下部が反応液収容用空間21であり、上部が反応液供給用空間22であり、反応液供給用空間22に反応液供給口32及び排気口24を有することができる。さらに、反応液供給用空間22と反応液収容用空間21の境界近傍の少なくとも一部に、反応槽内部に向かう突起部25を有することもできる。
【0022】
<核酸増幅用カートリッジ>
本発明は、マイクロ流路で連絡されたチャンバーを有し、マイクロ流路30及び31を介して上記チャンバーと連絡する1つまたは2つ以上の核酸増幅用反応槽20を含む核酸増幅用カートリッジ10であって、反応槽20が、上記本発明の反応槽であるカートリッジに関する。
【0023】
マイクロ流路で連絡されたチャンバーとマイクロ流路及び各マイクロ流路の連絡方法や構造には特に制限はない。本発明のカートリッジが有する反応槽20の数は、1つまたは2つ以上であることができ、2つ以上は、3、4、5、6、7、8、9又は10であることができるが、これらの数に限定されるものではない。
図1には、4つの反応槽20を有するカートリッジの例を示す。上流のチャンバーからのマイクロ流路30が途中で2つに枝分かれしてマイクロ流路31となり、マイクロ流路31がさらに2つに枝分かれして全部で4つの流路を形成し、これらの流路が、反応槽のそれぞれの反応液供給口32に連絡している。マイクロ流路30、31を介しての反応液の反応槽20への供給は、反応液供給用空間22内に位置する排気口24から反応液供給用空間22内に陰圧が付与されることにより、行われる。排気口24に、例えば、減圧ポンプを接続することで、陰圧は付与できる。減圧ポンプは、カートリッジとは別に設けることができる。
【0024】
<核酸の検出方法>
本発明は、本発明のカートリッジを用い、カートリッジの反応槽中で、複数のプライマーを用いて目的核酸を増幅し、増幅した核酸を検出する、核酸の検出方法に関する。
【0025】
核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応であることができる。
【0026】
増幅されるべき核酸は、特に制限はないが、例えば、RNAまたはDNAであることができる。核酸増幅反応は、核酸の等温増幅反応またはサーモサイクル増幅反応であることができる。等温増幅反応は、例えば、LAMP法またはSmartAmp法である。サーモサイクル増幅反応は、PCR増幅反応であることができる。
【0027】
核酸増幅用酵素は、特に制限されないが、例えば、核酸の等温増幅反応用酵素またはサーモサイクル増幅反応用酵素であることができる。核酸の等温増幅反応は、例えば、核酸のLAMP法またはSmartAmp法であることができ、鎖置換反応を利用した核酸の増幅反応用酵素であることができる。
【0028】
鎖置換活性を有する核酸増幅反応用酵素であるポリメラーゼは、公知の酵素を利用できる。例えば、国際公開第2004/040019号に記載のポリメラーゼを挙げることができるが、これに限定される意図ではない。鎖置換活性を有するポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ(Aac)であることもでき、国際公開第2009/054510号(日本特許第4450867号)に開示されている。
【0029】
鎖置換活性を有する核酸増幅反応に用いられるポリメラーゼとしては、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。このようなポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼが挙げられる。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。核酸増幅反応において使用するDNAポリメラーゼとしては、さらに、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS-2ファージDNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pfu turbo DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、9°Nm DNAポリメラーゼ、Therminator DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0030】
増幅されるべき核酸がRNAである場合は、DNAポリメラーゼに加えて逆転写酵素を併用するか、またはDNAポリメラーゼとして、逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼを用いることもできる。逆転写酵素は、RNAを鋳型としたcDNA合成活性を有するものであれば特に限定されず、例えば、トリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素(AMVRTase)、ラウス関連ウイルス2逆転写酵素(RAV-2RTase)、モロニーネズミ白血病ウイルス由来逆転写酵素(MMLV RTase)等、種々の起源の逆転写酵素が挙げられる。逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼとして、例えば、BcaBEST DNAポリメラーゼ、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ等を挙げることができる。
【0031】
プライマーは、核酸の増幅反応用酵素に応じて適宜選択される。核酸の増幅反応用酵素が、鎖置換反応を利用した核酸の増幅反応用酵素である場合は、国際公開第2004/040019号、特開2009-171935号公報、特開2011-50380号公報などに記載のプライマーを挙げることができる。
【0032】
本発明の方法は、核酸増幅操作後に、反応槽内で増幅された核酸を、光学的に検出する工程、電気的に検出する工程、または表面プラズモン共鳴により検出する工程をさらに含むことができる。増幅された核酸の検出は、プライマーとしてフルオロジェニックプライマーを用い、フルオロジェニックプライマーの標識を用いておこなうことができる。増幅された核酸の検出は、増幅反応においてエキシトンプライマーまたはエキシトンプローブを用いて、エキシトン効果を利用して行うことができる。核酸を光学的に検出する方法は、インターカレート色素を利用した方法でもよい。
【0033】
本発明の方法において、核酸増幅反応をSmartAmp法またはLAMP法で行い、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出することが好ましい。或いは、核酸増幅反応をPCR法で行い、エキシトンプライマーまたはエキシトンプローブで標識検出することが好ましい。
【0034】
核酸増幅反応に引き続き、核酸融解曲線を描き、融解曲線により、偽陽性や真の陽性の判定など、増幅産物の性質について判定することもできる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0036】
反応槽1の調製
ポリプロピレンを射出成形して反応槽本体を作製した。射出成形用成形型の表面はポリッシングされたものである。AFM分析により決定した反応槽本体の内表面における複数箇所の表面粗さRaは、9~13nmの範囲であった。この反応槽本体の反応槽空間の開口部にポリプロピレン製フィルムを熱融着して反応槽を形成した。この反応槽を反応槽1とする。反応槽の全体の容量は200μLである。
【0037】
反応槽2の調製
表面をポリッシングしていない射出成形用成形型を用いて、反応槽1と同様にポリプロピレンを射出成形して核酸増幅用反応槽の本体を作製した。この反応槽本体の反応槽空間の開口部に反応槽1と同様のポリプロピレン製フィルムをレーザー融着して反応槽を形成した。この反応槽を反応槽2とする。
【0038】
反応槽3の調製
反応槽2と同様にポリプロピレンを射出成形して反応槽本体を作製した。反応槽の全体の容量は200μLである。次に、反応槽本体の内表面を、ワックス被覆した。AFM分析により決定したワックス被覆内表面の複数箇所の表面粗さRaは、9~13nmの範囲であった。この反応槽本体の反応槽空間の開口部に反応槽1と同様のポリプロピレン製フィルムを熱融着して反応槽を形成した。この反応槽を反応槽3とする。
【0039】
SmartAmp法による核酸増幅により核酸増幅反応1~4を実施した。SmartAmp法による核酸増幅は、以下の条件で実施した。反応容量は40μLとした。
【0040】
酵素
DNAポリメラーゼ(Aac) 34 U/reaction、
転写酵素(AMV-RT) 2U/reaction
【0041】
プライマー
Folding primer(FP)
Outer boost primer(oBP)
Turn-back primer(TP),turn-back site
Internal boost primer(iBP)
Turn-back primer(TP),annealing site
Outer primer(OP)
【0042】
サンプルRNA
インターナルポジティブコントロールとして2*105 Rubisco RNA (n=3)を用いた。
目的核酸(RNA)としてSARS-Cov-2のRNAを用いた。
【0043】
増幅反応用バッファー
Trizma, pH 8.0 20 mM 、CH3COOK 60 mM、(NH4)2SO4 20 mM、MgSO4 16 mM、Tween 20 0.2% (w/v)、dNTP 1.4 mM、 RNase free-water)
【0044】
核酸増幅反応1
反応槽1を用い、目的核酸(RNA)の代わりに同量の水(ネガティブコントロール)と内部標準核酸(インターナルポジティブコントロール)のみを用いたSmartAmp法による核酸増幅(5回)を実施した。結果を
図2に示す。内部標準核酸の増幅のみが確認された。
【0045】
核酸増幅反応2
反応槽1を用い、目的核酸(RNA)及び内部標準核酸のみを用いたSmartAmp法による核酸増幅(3回)を実施した。結果を
図3に示す。内部標準核酸の増幅及び目的核酸の増幅(ポジティブコントロールと表示した3つのライン)が確認された。但し、
図3には、目的核酸は用いず、内部標準核酸のみを用いたSmartAmp法による核酸増幅結果も示されている。
【0046】
核酸増幅反応3
反応槽2を用い、目的核酸(RNA)の代わりに同量の水と内部標準核酸のみを用いたSmartAmp法による核酸増幅(6回)を実施した。結果を
図4に示す。6回の内、3回の増幅反応で、内部標準核酸の増幅のみならず、その他の核酸増幅も確認され、偽陽性発生を示唆した。
【0047】
核酸増幅反応4
反応槽3を用い、目的核酸(RNA)の代わりに同量の水と内部標準核酸のみを用いたSmartAmp法による核酸増幅(4回)を実施した。結果を
図5に示す。内部標準核酸の増幅のみが確認された。
【0048】
以上の結果から、反応槽の内表面の表面粗さRaが25nm以下、好ましくは5~20nmの範囲、より好ましくは7~17nmの範囲、さらに好ましくは8~15nmの範囲であることが、偽陽性発生の原因と考えられる、目的核酸以外の増幅を抑制できることが分かる。