(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026273
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】導体部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/02 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
H01B5/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170497
(22)【出願日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】110129710
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】521457332
【氏名又は名称】高兆祥
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】高兆祥
【テーマコード(参考)】
5G307
【Fターム(参考)】
5G307BA05
5G307BA06
5G307BB02
5G307BB03
5G307CA02
5G307CB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高電圧を送配電する導体部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】筒状体100に成形される導体部材であって、筒状体の筒壁110の少なくとも片側に、筒状体の先端から末端まで延伸し、かつ、筒状体の軸線に平行である複数の凹溝120を形成する。
【効果】円柱導体又は円筒導体と比べて、外形が同じであっても表面積が大きいために導電が有効となる断面積が増加し、金属導体の許容電流量が増し、放熱能力も向上する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体に成形される導体部材であって、前記筒状体の筒壁の少なくとも方側に、前記筒状体の先端から末端まで延伸し、かつ前記筒状体の軸線に平行である複数の凹溝を形成した導体部材。
【請求項2】
前記凹溝の深さは、前記筒状体の筒壁の厚みよりも浅い請求項1に記載の導体部材。
【請求項3】
前記凹溝の径方向断面がU字状である請求項2に記載の導体部材。
【請求項4】
前記凹溝の径方向断面が漏斗状である請求項2に記載の導体部材。
【請求項5】
前記凹溝の径方向断面が弧状である請求項2に記載の導体部材。
【請求項6】
導体材料を筒状体に成形し、前記筒状体の筒壁の少なくとも片側に、前記筒状体の先端から末端まで延伸し、かつ前記筒状体の軸線に平行である複数の凹溝を形成する、導体部材を製造する方法。
【請求項7】
前記凹溝の深さは、前記筒状体の筒壁の厚みよりも浅い請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記凹溝の径方向断面がU字状である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記凹溝の径方向断面が漏斗状である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記凹溝の径方向断面が弧状である請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、送配電の技術分野に関し、具体的には、高電圧の送配電分野における導体部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送配電分野では、送電導線に交流電流が流れるために表皮効果が生じる。表皮効果に対応するため、送電ケーブルに多芯電線を採用して導線の導電が無効となる断面比を低下させている。しかし、多芯電線方式では、全体としての剛性が不十分となるために高電圧電器設備に応用することができない。40kV以上の高電圧である場合、通常、円柱又は円筒導体/導線を使用する。円柱又は円筒導体の外径は多芯電線と比べて2倍以上であり、ガス絶縁母線(Gas insulated Bus)に応用する場合には、絶縁距離の要求から外装も大きくなる。現在、送配電線路の送電流量を上げようとすると、外径サイズが大きい円柱又は円筒導体に変更する必要がある。従来の送配電線路において高電流を許容可能な新たな導体サイズを満たすようにするためには、取り外して再構築する或いは並列電線路を別途開設するほかなかった。
【0003】
以上の理由から、従来の円柱又は円筒導体を改良する方案が必要とされていた。
【発明の開示】
【0004】
前記従来技術の問題を解決するため、本発明は、導体部材およびその製造方法を提供し、前記導体部材は、従来の円柱又は円筒導体と比べて、外径が同じであっても表面積が大きいために導電が有効となる断面積が増加して、金属導体の許容電流量が増し、放熱能力も向上する。
【0005】
本発明の目的を踏まえて、筒状体に成形される導体部材であって、前記筒状体の筒壁の少なくとも片側に、前記筒状体の先端から末端まで延伸し、かつ前記筒状体の軸線に平行である複数の凹溝を形成した導体部材を提供する。
【0006】
本発明の一実施例において、前記凹溝の深さは、前記筒状体の筒壁の厚みよりも浅い。
【0007】
本発明の一実施例において、前記凹溝の径方向断面がU字状である。
【0008】
本発明の一実施例において、前記凹溝の径方向断面が漏斗状である。
【0009】
本発明の一実施例において、前記凹溝の径方向断面が弧状である。
【0010】
本発明の目的を踏まえて、導体材料を筒状体に成形し、前記筒状体の筒壁の少なくとも片側に、前記筒状体の先端から末端まで延伸し、かつ前記筒状体の軸線に平行である複数の凹溝を形成する、導体部材を製造する方法を提供する。
【0011】
本発明の一実施例において、前記凹溝の深さは、前記筒状体の筒壁の厚みよりも浅い。
【0012】
本発明の一実施例において、前記凹溝の径方向断面がU字状である。
【0013】
本発明の一実施例において、前記凹溝の径方向断面が漏斗状である。
【0014】
本発明の一実施例において、前記凹溝の径方向断面が弧状である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、本発明の導体部材の第1の実施例を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の導体部材の第1の実施例を示す径方向断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の導体部材の第2の実施例を示す斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の導体部材の第2の実施例を示す径方向断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の導体部材の第3の実施例を示す斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の導体部材の第3の実施例を示す径方向断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の導体部材を製造する方法を示す流れ図である。
【
図5】
図5は、従来の円筒導体の表皮効果を示す図である。
【
図6】
図6は、従来の多芯電線の表皮効果を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施例の導体の表皮効果を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施例の導体の表皮効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の前記及びその他の目的、特徴、長所をより明確かつ容易に理解できるように、以下、本発明の好ましい実施例を例に挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
まず、
図1A及び
図1Bを参照する。
図1Aは、本発明の導体部材の第1の実施例を示す斜視図である。
図1Bは、本発明の導体部材の第1の実施例を示す径方向断面図である。本発明の第1の実施例の導体部材は筒状体100に成形する。ここで言う筒状体とは、その内径領域が中空となったものを意味する。筒状体100の筒壁110の少なくとも片側に複数の凹溝120を形成する。本実施例では、筒壁110の外側に複数の凹溝120を形成しており、これはつまり筒状体100の外周表面上に形成しているということになる。各凹溝120は、筒状体100の先端から末端まで延伸し、かつ筒状体100の軸線に平行である。つまり、凹溝120は、細長い凹溝である。言い換えると、複数の細長い凹溝は、筒状体100の外周表面全体を囲って筒壁に形成される。本実施例において、前記凹溝120の深さは、筒状体100の筒壁110の厚さよりも浅く、前記厚さは、導体材料の表皮効果の深さと同じかそれよりもやや厚い。例えば60Hzの場合、アルミニウムで11mm、銅で8.5mmである。つまり、前記凹溝120の最大深さは、筒壁110の径方向に貫通孔を形成する(即ち凹溝120が中空領域に連通する)ものであってはならず、或いは、言い換えると、筒状体100が周方向において不連続となるものであってはならない。本発明の第1の実施例では、導体部材の凹溝120は径方向断面においてU字状となっている(前記凹溝120は筒状体100を囲うように設置されているため、角度0°の位置ではU字状、角度180°の位置では逆U字状であるが、いずれの角度においてもU字状と解釈する)。具体的には、導体部材に形成する凹溝120は細長いU字状凹溝であることから、導体部材の筒壁110は径方向断面において歯車に類似する外観となる。
【0018】
次いで、
図2Aおよび
図2Bを参照する。
図2Aは、本発明の導体部材の第2の実施例を示す斜視図である。
図2Bは、本発明の導体部材の第2の実施例を示す径方向断面図である。本発明の第2の実施例の導体部材も筒状体200に成形する。第2の実施例の導体部材は第1実施例と類似しており、凹溝の形状にしか違いがない。本発明の第2の実施例では、導体部材の凹溝220は径方向断面において漏斗状となっている(前記凹溝220は筒状体200を囲うように設置されているため、角度0°の位置では漏斗状であり、いずれの角度においても漏斗状と解釈する)。言い換えると、導体部材の凹溝220は、径方向断面において、凹溝底部が凹溝開口に比して徐々に拡張したものである。具体的には、導体部材の凹溝220は細長い漏斗状凹溝である。
【0019】
次いで、
図3Aおよび
図3Bを参照する。
図3Aは、本発明の導体部材の第3の実施例を示す斜視図である。
図3Bは、本発明の導体部材の第3の実施例を示す径方向断面図である。本発明の第3の実施例の導体部材は筒状体300に成形する。筒状体300の筒壁310の両側それぞれに複数の凹溝320を形成する。本実施例では、前記2つの実施例とは異なり、筒壁310の外側および内側ともに複数の凹溝320を形成し、かつ筒壁の内側凹溝と外側凹溝は互い違いになっている。前記2つの実施例に類似して、本実施例の凹溝320は筒状体300の先端から末端まで延伸し、かつ筒状体300の軸線に並行であり、さらに、凹溝320の深さは、筒状体300の筒壁310の厚さよりも浅い。本発明の第3の実施例では、導体部材の凹溝220は径方向断面において弧状となっている。具体的には、導体部材の凹溝320は細長い弧状凹溝であり、筒壁310の両側に互い違いに形成されるので、導体部材の筒壁310は径方向断面において波状に類似する外観となる。
【0020】
最後に、
図4を参照する。
図4は、本発明の導体部材を製造する方法の流れ図である。まず、第1工程410では、導体材料を筒状体に成形する。本発明の全ての実施例において、導体部材を筒状体に成形している。ここで言う筒状体とは、その内径領域が中空となったものを意味する。次に、第2工程420では、筒状体の筒壁の少なくとも片側に、筒状体の先端から末端まで延伸し、かつ筒状体の軸線に並行である複数の凹溝を形成する。ある実施例では、筒壁の外側のみに複数の凹溝を形成し、つまり筒状体の外周表面に形成する。凹溝は筒状体の先端から末端まで延伸しているため、各凹溝は細長い凹溝となる。全体としてみると、細長い凹溝が筒状体の外周表面全体を囲っている。前記実施例の一実施例では、凹溝は径方向断面においてU字状であり(
図1B参照)、前記実施例のうち別の実施例では、凹溝は径方向断面において漏斗状である(
図2B参照)。別の実施例では、筒状体の筒壁の両側それぞれに複数の凹溝を形成する(
図3B参照)。つまり、筒壁の外側および内側ともに複数の凹溝を形成し、かつ内側凹溝と外側凹溝が互い違いとなっている。本発明の全ての実施例において、凹溝の深さは筒状体の筒壁の厚みよりも浅く、つまり前記凹溝120の最大深さは、筒壁110の径方向に貫通孔を形成する(即ち凹溝120が中空領域に連通する)ものであってはならない。本発明の全ての実施例において、どの凹溝を形成するにしても、その最終的な目的は、本発明の導体の筒壁の表面積を、凹溝がない円柱体または円筒体の筒壁の表面積よりも大きくすることにある。
【0021】
以下、本発明の実施例の導体と従来の導体とを比較説明する。
図5から
図8を参照する。
図5は、従来の円筒導体の表皮効果を示す図である。
図6は、従来の多芯電線の表皮効果を示す図である。円筒導体の外径と多芯電線が集合した外径はともに180mmである。円筒導体の外周縁部の濃色部分は表皮効果深さの範囲を示している。多芯電線の各電線の径(濃色部分)にはいずれも表皮効果が生じている。
図7は、本発明の第1の実施例の導体の表皮効果を示す図である。
図8は、本発明の第2の実施例の導体の表皮効果を示す図である。同様に、両者の外径も180mmで、濃色部分は表皮効果の深さの範囲を示している。実験データから表1の結果が得られた。
【表1】
【0022】
表1から分かるように、外径が同じであっても、本願の第1の実施例と第2の実施例の導電面積は大きく、かつ導電条件が同じであっても、電流密度が低くなっている。このため、同じ条件において、本願実施例の導体は、円筒導体や多芯電線と比較して、表皮効果における導体表面の電流密度を緩和することができる。
【0023】
以上の内容を総合し、本発明の導体部材は、従来の円柱導体又は円筒導体と比べて、外径が同じであっても表面積が大きいために導電が有効となる断面積が増加して、金属導体の許容電流量が増し、放熱能力も向上する。送配電線路の電流量を上げる必要がある場合に、従来の円柱導体又は円筒導体を外径が同じ本発明の導電部材に直に取り替えることで、外装を替えなくても導体部材を新しくすることができ、再構築する或いは並列電線を別途開設するコストを削減することができる。
【0024】
以上、例を挙げて説明をしたが、これに限定されるものではない。本発明の精神と範疇を逸脱しないことを前提として行われる効果均等な修正又は変更はすべて後述する特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
100:筒状体
110:筒壁
120:凹溝
200:筒状体
210:筒壁
220:凹溝
300:筒状体
310:筒壁
320:凹溝
410:工程の流れ
420:工程の流れ