(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026303
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】AlCr耐酸化耐摩耗性被膜及びその被覆物
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20230216BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230216BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C23C14/06
B23B27/14 A
C23C14/32
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065564
(22)【出願日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2021131399
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501377645
【氏名又は名称】株式会社オンワード技研
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(74)【代理人】
【識別番号】100213883
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕希
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF05
3C046FF10
3C046FF11
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4K029AA02
4K029BA03
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4K029BA35
4K029BA43
4K029BA58
4K029BB02
4K029BD05
4K029CA03
4K029DD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐熱性且つ耐摩耗性を有した被膜を提供し、当該被膜を被覆した被覆物を切削工具や金型工具等の工具として提供する。
【解決手段】本発明に係る被膜は、基材2の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.025≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり、前記組成比a、b、c、d、eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜11により前記被膜を構成して、前記被膜が耐酸化性且つ耐摩耗性を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c
、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元
素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記組成比a、
b、 c、 d、 eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成して、前記被膜が耐酸化性且つ耐摩耗性を有することを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項2】
前記酸窒化単位層の単位層厚が0.5 nm~50nmである請求項1に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項3】
前記酸窒化単位層の結晶構造がα型の酸化アルミニウムを有する請求項1又は2に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項4】
前記酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmである請求項1~3のいずれかに記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項5】
前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化すること
であり、前記酸窒化傾斜層には、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜
する酸窒化傾斜連続被膜の場合、また前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に
変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜の場合が少なくとも含まれることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項6】
前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に中間層を設け、当該中間層は組成式AlfCrgMhNiで表される窒化物被膜であり、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含む請求項1~4のいずれかに記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項7】
前記中間層は、前記組成比f, g, h, iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項6に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項8】
前記中間層は、第1中間層と第2中間層が積層されて構成され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は、前記組成比f, g, h, iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項6に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項9】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlfCrgMhNiを有し、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi,Hf,Bのいずれか1種類以上の
添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒
化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比f、 g、 h、 iが前
記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項6~8のいずれかに記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項10】
前記窒化傾斜層は、前記組成比f、 g、 h、 iが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾
斜連続被膜であるか、又は前記組成比f、 g、 h、 iの組合せが傾斜的に変化する2種類
以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜である請求項9に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項11】
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02
≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi
、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化す
ることを特徴とする請求項6~10のいずれかに記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項12】
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒
化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化す
る2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項11に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載されたAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を前記基材の表面の少なくとも一部又は全部に被覆したことを特徴とする被覆物。
【請求項14】
前記基材が硬質基材からなる被覆物であり、当該被覆物が高硬度工具として用いられる請求項13に記載の被覆物。
【請求項15】
前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼から選択された硬質基材であり、前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型又は切削具として用いられる請求項14に記載の被覆物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面の少なくとも一部又は全部に積層された酸窒化アルミニウムクロム膜を含むAlCr耐酸化耐摩耗性被膜及び当該AlCr耐酸化耐摩耗性被膜を基材表面の少なくとも一部又は全部に被覆した工具等の被覆物に関する。
【背景技術】
【0002】
生産現場において、金属や非金属からなる被加工物の加工に用いられるドリルやエンドミルなどの切削工具,パンチやダイ、プレス等の金型工具又は刃物等の工具の材料には超硬合金や高速度工具鋼が用いられている。それらの材料からなる基材の耐久性を一層に高めるために、基材の表面の少なくとも一部又は全部に被膜を積層した被覆部を備えた工具として用いることが殆どである。
前記被膜の中でも、窒化チタン(TiN)や窒化チタンアルミニウム(TiAlN)、窒化クロム(CrN)、窒化アルミニウムクロム(AlCrN)、炭窒化チタン(TiCN)等の非酸化物被膜は、緻密で、密着も良く安定した性能を発揮することから様々な加工を行う工具に用いられている。また、様々な添加元素を加えることで耐摩耗性や耐衝撃性、耐凝着性、潤滑性等の加工目的に応じた性能が付与されて用いられてきた。
【0003】
近年では金属や非金属を問わず材料の高強度化が目覚ましく、それに伴って被加工物も難削化している。難削材の加工では切削工具の刃先温度が1000℃近くに達することもあり、非酸化物被膜では耐熱性や耐酸化性の問題から十分な性能が得られないケースも増えてきた。
【0004】
上述した非酸化物被膜の性能を補うために、非酸化物被膜の上に酸化膜を被覆する試みが様々に行われている。特に、酸化アルミニウムに関して、特表2001-522725号公報(特許文献1)ではγ型酸化アルミニウム被膜が使用され、特開平07-216549号公報(特許文献2)ではα型酸化アルミニウム被膜が使用され、それらの有効性が示されている。
しかし、α型酸化アルミニウムはコランダム型(hcp)の結晶構造を持ち、硬度と熱安
定性は高いが結晶粒が粗大化し易く、切削時にクラックが進展し易い欠点を有する。また、γ型酸化アルミニウムはスピネル型(fcc)の結晶構造を持ち、微細な結晶粒を持つが
、α型に比べて硬度が低く熱安定性も劣る欠点がある。
【0005】
これらのα型酸化アルミニウムとγ型酸化アルミニウムの欠点を補う必要がある。特許第4921984号(特許文献3)では、γ型酸化アルミニウムを多層構造で配置することによって、亀裂の進展に起因する耐摩耗性の低下を低減する試みが為されている。しかし、γ型酸化アルミニウムだけではあくまで不安定な酸化物であり、γ型酸化アルミニウム多層構造であっても多層構造自体の不安定性は免れない。
また、特許第5074772号(特許文献4)では、α型酸化アルミニウムとγ型酸化アルミニウムを多層構造にすることによりα型酸化アルミニウムの結晶粒粗大化を抑制し、耐摩耗性や耐欠損性を向上させる試みが為されている。しかしながら、上述したようにγ型酸化アルミニウム多層構造はあくまで不安定な酸化物であり、多層構造体にしても不安定性は免れない。
【0006】
更に、特表2019-522721号(特許文献5)では、酸窒化アルミニウムの酸窒化物層と窒化アルミニウムの窒化物層を2段積層した0.1μm~1μm厚の交番層を多数回積層した多層構造を形成することで耐摩耗性を向上させる試みがなされている。しかし、その多層構造は、酸窒化物層と窒化物層が交互に積層された多層構造であり、異なる化合
物層である酸窒化物層と窒化物層が界面結合した多層構造を形成することになる。つまり、界面結合は異なる化合物である酸窒化物と窒化物の間で行われるから、同じ化合物同士の結合力と比較して、結合力がかなり弱いという欠点がある。換言すれば、酸窒化物層と窒化物層の反復多層構造であるため十分な耐摩耗性や耐酸化性が得られない欠点がある。
また、交番層の層厚は0.1μm~1μmとかなり厚いから、交番層を構成する酸窒化物層と窒化物層の層厚も厚くなる。従って、隣接する異物質である酸窒化物層と窒化物層の間の結合は接触面だけでの結合になり、結合力が厚い層の内部にまで到達せず、酸窒化物層と窒化物層の間の結合力が一層に弱い弱点がある。しかも、かなり厚い交番層を多数回積層するために、その回数分だけ全体としての密着性が低減する欠点を有する。
このように、酸化物と窒化物、酸窒化物と窒化物及び酸窒化物と酸化物のような異なる化合物層を多数回積層した場合には、各層間の密着力が低下することが懸念され、全体として十分な耐摩耗性を得られない。即ち、使用回数の増大に連れて、層が剥落して摩耗することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001-522725号公報
【特許文献2】特開平07-216549号公報
【特許文献3】特許第4921984号
【特許文献4】特許第5074772号
【特許文献5】特表2019-522721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来例が有する欠点を改善するために為されたものである。第1に、本発明は、耐酸化性を有する酸化アルミニウムと耐摩耗性を有する窒化クロムを混晶状態で結晶化した酸窒化アルミニウムクロム被膜からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現する。窒化クロムが酸化アルミニウムの弱点を補強し、酸化アルミニウムが窒化クロムの弱点を補強する相互関係にある。従って、酸化アルミニウムとして、α型でもγ型でもその用途に応じて使用することができる。但し、単体ではα型の方が高い安定性を有するから、α型酸化アルミニウムを使用することが好ましい。
第2に、この酸窒化アルミニウムクロム被膜(以下、酸窒化被膜と云う)を、ナノオーダーの薄層厚の酸窒化アルミニウムクロム単位層(以下、酸窒化単位層と云う)が多数積層した超多層構造で構成する。多数の酸窒化単位層は組成比が少し異なる酸窒化アルミニウムクロム単位層であるから、同種化合物の酸窒化単位層を多数積層した超多層構造を有する。従って、隣接する単位層同士は同種化合物層であるから、異種化合物層同士よりも層間の結合力は格段に強い。また、単位層厚が薄くなると、接触面同士は原子間力で結合し且つその原子間力は単位層内部にまで作用する。従って、隣接する単位層同士が原子間力で強力に結合し、極めて強力に一体結合した超多層構造が実現する。その結果、従来技術より一層に高い耐酸化性及び耐摩耗性を有するAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現できる。
従って、当該AlCr耐酸化耐摩耗性被膜を備えた切削工具・金型を実現するものである。
また、このような被膜は基材上の全面を被覆するものだけでなく、部分的に被膜が形成
されていない部分や一部の積層形態が異なるようなものも含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の形態は、基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合
を含み、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化
単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成して、前記被膜が耐酸化性且つ耐摩耗性を有することを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。
【0010】
本発明の第2の形態は、前記第1形態において、前記酸窒化単位層の単位層厚が0.5 nm~50nmであるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。
【0011】
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2形態において、前記酸窒化単位層の結晶構造がα型酸化アルミニウムを有するAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。
【0012】
本発明の第4の形態は、前記第1~第3形態のいずれかにおいて、前記酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmであるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。
【0013】
本発明の第5の形態は、前記第1~第4形態のいずれかにおいて、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0
≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、
前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することであり、前記酸窒化
傾斜層には、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続
被膜の場合、また前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上
の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜の場合が少なくとも含まれることを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。
【0014】
本発明の第6の形態は、前記第1~第4形態のいずれかにおいて、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に中間層を設け、当該中間層は組成式AlfCrgMhNiで表される窒化物被膜であり、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上
の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含むAlCr耐
酸化耐摩耗性被膜である。また、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等を中
間層として構成しても良い。
【0015】
本発明の第7の形態は、前記第6形態において、前記中間層は、前記組成比f, g, h, iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成されるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。また、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等を窒化超多層被膜とし中間層として構成しても良い。
【0016】
本発明の第8の形態は、前記第6形態において、前記中間層は、第1中間層と第2中間層が積層されて構成され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は、前記組成比f、 g、 h、 iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は
略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成されるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。また、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒
化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等を第1中間層および第2中間層として構成しても良い。
【0017】
本発明の第9の形態は、前記第6~第8形態のいずれかにおいて、前記基材と前記中間
層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlfCrgMhNiを有し、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且
つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi,Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前
記基材と前記中間層の間において、前記組成比f、 g、 h、 iが前記組成比の範囲内にお
いて傾斜的に変化するAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。また、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等を窒化傾斜層とし中間層として構成しても良い。
【0018】
本発明の第10の形態は、前記第9形態において、前記窒化傾斜層は、前記組成比f、 g、 h、 iが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比f、 g、 h、 iの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜であるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。また、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等を窒化傾斜傾斜連続被膜および窒化傾斜多層被膜とし中間層として構
成しても良い。
【0019】
本発明の第11の形態は、前記第6~第10形態のいずれかにおいて、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか
1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を
含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化するAlCr耐酸化耐摩
耗性被膜である。
【0020】
本発明の第12の形態は、前記第11形態において、前記酸窒化傾斜層は、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記
組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を
積層した酸窒化傾斜多層被膜であるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜である。
【0021】
本発明の第13の形態は、前記第1~第12形態のいずれかのAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を前記基材の表面の少なくとも一部又は全部に被覆したことを特徴とする被覆物である。
【0022】
本発明の第14の形態は、前記第13形態において、前記基材が硬質基材からなる被覆物であり、当該被覆物が高硬度工具として用いられる被覆物である。
【0023】
本発明の第15の形態は、前記第14形態において、前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼から選択された硬質基材であり、前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型又は切削具として用いられる被覆物である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の形態によれば、基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜が提供される。このアルミニウムとクロムの酸窒化物とは、耐酸化性を有する酸化アルミニウムと耐摩耗性を有する窒化クロムが混晶状態にある結晶のことである。混晶状態にあるため、AlCr耐酸化耐摩耗性被膜が形成されるのである。酸化アルミニウムが窒化クロムの弱点を補強し、窒化クロムが酸化アルミニウムの弱点を補強する相互関係にある。酸化アルミニウムとしてα型、γ型又はα型とγ型の混合型がその用途に応じて選択される。
当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは
添加される場合と添加されない場合を含む。cの組成比が「0」を含んだ0≦c≦0.2であることが添加されない場合を含むことを示している。この時、添加元素Mは酸窒化アルミニ
ウムクロムに添加されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果が発揮すると考えられる。すなわち結晶粒が微細化することで、結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。
【0025】
第1形態の最大の特徴は、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが異なる少なくとも
2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成することである。従って、上下に隣接する単位層同士は組成比が異なったアルミニウムクロム酸窒化物であるから同種化合物単位層である。同種化合物同士は、単位層間の接触面で原子間力により結合し、同種化合物同士であるからその原子間力は単位層内部にまで深く作用する。この結合力は異種化合物同士よりも遥かに強いことは明らかである。 即ち、隣接する単位層同士が原子間力で強力に結合し、極めて強力に一体結合した
超多層構造が実現される。その結果、従来技術より一層に高い耐酸化性及び耐摩耗性を有するAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現できる。
【0026】
更に、第1の形態では、当該被膜の製造装置に使用されるターゲットのアルミニウムとクロムの比率を変化させることで、簡便に前記組成比a、b、c、d、eの組合せが異なる2
種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した超多層被膜を容易に形成することができる。その結果、従来の膜よりも耐酸化性・耐摩耗性を向上させることを特徴としている。
具体的には、2種類以上のアルミニウムとクロムの合金ターゲットを用いて同時放電することで超多層構造化を実現できる。周期的な積層の組合せに関しては、酸窒化単位層をA層、B層、C層、D層とすると、A層B層A層B層…のような繰り返しだけでなく、A層B層C層A層B層C層…のような繰り返しや、A層B層C層D層…のような繰り返しも含む。また、略周期的な積層の組合せに関しては,A層B層A層A層B層…のような場合、A層B層C層A層B層A層…
のような場合等が含まれる。本発明においては、略周期的であっても70%以上の周期性を有することが本発明の上記効果の発現に重要と考える。このような酸窒化超多層被膜により、従来よりも高度の耐酸化性と耐摩耗性を有した被膜を実現することができる。
上記被膜の組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せにおいて、より安定した酸窒化アルミニ
ウムクロム皮膜を実現するための組成比a、 b、 c、 d、 eは0.27≦a≦0.35、0.07≦b≦0.15、0≦c≦0.2、0.29≦d≦0.35、0.23≦e≦0.35の範囲内にあることが必要である。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、前記第1形態において、前記酸窒化単位層の単位層厚が0.5 nm~50nmであるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜が好適である。酸窒化単位層の単位層厚がナノオーダーであるから、上下に隣接する同種物質である酸窒化単位層同士の界面接合力が界面に作用するだけでなく、単位層内部にまで深く原子間力により結合し、AlCr酸窒化超多層被膜の構造安定性が飛躍的に高まることになる。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記第1又は第2形態において、前記酸窒化単位層の結晶構造がα型酸化アルミニウムを有するAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現できる。上述したように、α型酸化アルミニウムはコランダム型(hcp)の結晶構造を持ち、硬度と熱安定
性が高い特徴を有する。本形態では、このα型酸化アルミニウムが窒化クロムと混晶状態にあるため、両物質が束縛状態にあって分離することが無い。従って、相互に弱点補強し合いながら酸窒化アルミニウムクロムを構成するから、安定したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜
を実現できる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記第1~第3形態のいずれかにおいて、前記酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmであるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現することができる
。基材に被覆される酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmであるから、耐酸化性と耐
摩耗性を強力に発現できる。従って、多数回の使用に耐えるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜の長寿命性を実現できる。
【0030】
本発明の第5の形態によれば、前記第1~第4形態のいずれかにおいて、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設けることができ、当該酸窒化傾斜層の組成式及び組成比の条件は前記酸窒化超多層被膜とほぼ同一である。即ち、酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、特にdに関しては0at%から前記酸窒化多層被膜の組成比範囲50at%まで(0≦d≦0.5)を含むこととする。この時、添加元素Mは酸窒化アルミニウムクロムに添加されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果が発揮すると考えられる。すなわち結晶粒が微細化することで、結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。
特に、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することを特徴とす
る。傾斜的に変化する酸窒化傾斜層には、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しな
がら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜が含まれる。また、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組
合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜も含まれる。
酸窒化傾斜層が無い場合には、基材の表面に酸窒化超多層被膜が直接積層される。このとき基材表面と酸窒化超多層被膜の下面が強固に結合すればよいが、酸窒化超多層被膜の下面の化学的親和性が基材表面に対し弱い場合もある。このようなときに、酸窒化傾斜層を間に挟み、酸窒化傾斜層の下面の組成を基材表面と強固に結合するように前記組成比を調整し、酸窒化傾斜層の上面の組成を酸窒化超多層被膜の下面と強固に結合するように前記組成比を調整することができる。そして酸窒化傾斜層の下面と上面の間の組成を連続的又は多層的に傾斜変化させれば、基材と酸窒化傾斜層と酸窒化超多層被膜が三層で密結合したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現することが可能になる。
【0031】
本発明の第6の形態によれば、前記第1~第4形態のいずれかにおいて、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に中間層を設け、当該中間層は組成比f、 g、 h、 iを有した組
成式AlfCrgMhNiで表される窒化物被膜で構成される。
本形態で中間層を設ける理由は、本発明に係る酸窒化アルミニウムクロムは各種基材と密着力が比較的良いが、より一層に密着性を高めるために、基材と酸窒化アルミニウムクロムの間に窒化アルミニウムクロム被膜を中間層として導入する。その理由は、窒化アルミニウムクロムは酸窒化アルミニムクロムと組成比がかけ離れておらず、化学的親和性があることにより層間での密着性が向上すること、また製造装置において酸窒化アルミニウムクロムを成膜するターゲットと同じターゲットを使用出来るため生産性が高いことが挙げられる。
中間層の組成比に関しては、層間の密着性の観点から,酸窒化超多層被膜の組成比とかけ離れていない範囲にあることが好ましい。従って、中間層を構成する窒化物被膜の前記組成式AlfCrgMhNiにおいて、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bの
いずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含んでいる。この時、添加元素Mは窒化アルミニウムクロムの中に固溶されること
によって、結晶粒の粗大化を抑制する効果、すなわち結晶粒が微細化すると考えられ、これによって結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によ
って限定されるものではない。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等を中間層として構成しても良い。更にこの窒化物被膜は成膜時の基盤バイアス
を変化させ、結晶構造を連続的に変化させることで基材と界面との密着力向上を実現しても良い。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、前記第6形態において、前記中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成されるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を提供できる。
上下に隣接する窒化単位層同士は組成比が異なったアルミニウムクロム窒化物であるから同種化合物単位層である。同種化合物同士は、単位層間の接触面で原子間力により結合し、その原子間力は単位層内部にまで作用するから、隣接する窒化単位層同士が原子間力で強力に結合する。従って、極めて強力に一体結合した超多層構造の中間層を実現できる。
また、本発明被膜の製造装置に使用されるターゲットのアルミニウムとクロムの比率を変化させることで、簡単に組成比f、g、h、iの組合せが異なる2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した超多層被膜を形成することができる。
具体的には、2種類以上のアルミニウムとクロムの合金ターゲットを用いて同時放電することで超多層構造化を実現できる。周期的な積層の組合せに関しては、窒化単位層をE層、F層、G層、H層とすると、E層F層E層F層…のような繰り返しだけでなく、E層F層G層E層F層G層…のような繰り返しや、E層F層G層H層…のような繰り返しも含む。また、略周期的な積層の組合せに関しては,E層F層E層E層F層…であったり、E層F層G層E層F層E層…のような場合が含まれる。略周期的であっても70%以上の周期性を有することが本発明の上記効果の発現に必要と考えられる。このような中間層の窒化超多層被膜により、従来よりも高度の耐酸化性と耐摩耗性を有した被膜を実現することができる。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等で窒化超
多層被膜を構成し、中間層としても良い。更にこの窒化超多層被膜は成膜時の基盤バイアスを変化させ、結晶構造を連続的に変化させることで基材と界面との密着力向上を実現しても良い。
【0033】
本発明の第8の形態によれば、前記第6形態において、前記中間層は、第1中間層と第2中間層が積層されて構成され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成されるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜が提供できる。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等で第1中間層お
よび第2中間層を構成し、中間層としても良い。
上述したように、第6形態では中間層は窒化物被膜から構成され、第7形態では中間層は窒化超多層被膜で構成されている。この第8形態では、中間層を第1中間層と第2中間層に分割し、第1中間層を窒化物被膜で構成し、第2中間層を窒化超多層被膜で構成して
いる。窒化物被膜は窒化物の連続被膜とすることもできる。このように2段積層構成にすることにより、各種条件に適合するように中間層の多様性を広げることができる。更にこの第1中間層および第2中間層は各々、またはどちらかの成膜時の基盤バイアスを変化させ、結晶構造を連続的に変化させることで基材と界面との密着力向上を実現しても良い。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、前記第6~第8形態のいずれかにおいて、前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設けることができ、当該窒化傾斜層の組成式及び組成比の条件は前記中間層の窒化物被膜と同一である。即ち、窒化傾斜層は組成式AlfCrgMhNiを有し、組成比f、g、h、iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含む。この時、添加元
素Mは窒化アルミニウムクロムの中に固溶されることによって、結晶粒の粗大化を抑制す
る効果、すなわち結晶粒が微細化すると考えられ、これによって結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上すると考えられる。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるもので
はない。
特に、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比f、g、h、iが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することを特徴とする。傾斜的に変化する窒化傾斜層には、前記組成比f、g、h、iが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜が含まれ、また前記組成比f、g、h、iの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜が少なくとも含まれる。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタ
ンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等で窒化傾斜層を構成し、中間層としても良い。
窒化傾斜層が無い場合には、基材の表面に中間層が直接積層される。このとき基材表面と中間層の下面が強固に結合すればよいが、その下面が基材表面と化学的親和性が弱い場合もある。このようなときに、窒化傾斜層を間に挟み、窒化傾斜層の下面の組成を基材表面と強固に結合するように前記組成比を調整し、窒化傾斜層の上面の組成を中間層の下面と強固に結合するように前記組成比を調整する。そして窒化傾斜層の下面と上面の間の組成を連続的又は多層的に傾斜変化させれば、基材と窒化傾斜層と中間層が三層で密結合したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現することができる。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、前記第9形態において、前記窒化傾斜層は、前記組成比f、 g、 h、 iが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記
組成比f、 g、 h、 iの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層し
た窒化傾斜多層被膜であるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜が提供できる。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、選定される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)・窒化チタ
ンアルミ被膜(TiAlN)・窒化クロム皮膜(CrN)等で窒化傾斜層を構成し、中間層としても良い。
前記窒化傾斜連続被膜は、組成比が連続的に傾斜変化しながら堆積した窒化物被膜であり、多層性を有していない。他方、窒化傾斜多層被膜は窒化傾斜単位層が多層に積層された窒化物被膜であり、単一の窒化傾斜単位層内の組成比が積層されて行くに従って傾斜的に変化する窒化物被膜である。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、前記第6~第10形態のいずれかにおいて、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0
≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのい
ずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない
場合を含み、特にdに関しては0at%から前記酸窒化多層被膜の組成比範囲50at%まで(0≦d
≦0.5)を含むこととする。この時、添加元素Mは酸窒化アルミニウムクロムに添加される
ことによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果が発揮すると考えられる。すなわち結晶粒が微細化することで、結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素M
の添加によって限定されるものではない。前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内におい
て傾斜的に変化するAlCr耐酸化耐摩耗性被膜が提供できる。
傾斜的に変化する前記酸窒化傾斜層には、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化し
ながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜が含まれる。また、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの
組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜も含まれる。それ以外の酸窒化傾斜層も含まれる。
酸窒化傾斜層が無い場合には、中間層の表面に酸窒化超多層被膜が直接積層される。このとき中間層表面と酸窒化超多層被膜の下面が強固に結合すればよいが、酸窒化超多層被膜の下面の化学的親和性が中間層表面に対し弱い場合もある。このようなときに、酸窒化傾斜層を間に挟み、酸窒化傾斜層の下面の組成を中間層表面と強固に結合するように前記組成比を調整し、酸窒化傾斜層の上面の組成を酸窒化超多層被膜の下面と強固に結合するように前記組成比を調整することができる。そして酸窒化傾斜層の下面と上面の間の組成を連続的又は多層的に傾斜変化させれば、中間層と酸窒化傾斜層と酸窒化超多層被膜が三層で密結合したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を実現することが可能になる。
【0037】
本発明の第12の形態によれば、前記第11形態において、前記酸窒化傾斜層は、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又
は前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単
位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜であるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜が提供できる。
前記酸窒化傾斜連続被膜は、組成比が連続的に傾斜変化しながら堆積した酸窒化物被膜であり、多層性を有していない。他方、酸窒化傾斜多層被膜は酸窒化傾斜単位層が多層に積層された酸窒化物被膜であり、単一の酸窒化傾斜単位層内の組成比が積層されて行くに従って傾斜的に変化する酸窒化物被膜である。
【0038】
本発明の第13の形態によれば、前記第1~第12形態のいずれかのAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を前記基材の表面の少なくとも一部又は全部に被覆した被覆物が提供できる。
基材の表面の少なくとも一部とは、面状基材であれば片面だけや、片面や両面の一部だけでもよく、ブロック状基材であればその外表面の一部だけでも良い。基材の表面の全部とは全表面のことである。被覆物とは、基材と被膜からなる全体物を云う。
【0039】
本発明の第14の形態によれば、前記第13形態において、前記基材が硬質基材からなる被覆物であり、当該被覆物が高硬度工具として用いられる被覆物が提供できる。
基材には軟質基材や硬質基材や超硬質基材が含まれるが、その中でも本形態には硬質基材と超硬質基材が本形態に包含される。これらの硬質基材に被膜を形成した被覆物の中で、本形態は高硬度工具として用いられる被覆物を対象とする。
【0040】
本発明の第15の形態は、前記第14形態において、前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼から選択された硬質基材であり、前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型又は切削具として用いられる被覆物が提供できる。
本形態では、前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼又
はダイス鋼に限定され、且つ前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型又は切削具に限定されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、本発明に係る被覆物1の第1実施形態であり、酸窒化超多層被膜11からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の2段構成図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る被覆物1の第2実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の3段構成図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る被覆物1の第3実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と中間層13からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の3段構成図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る被覆物1の第4実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と中間層13と窒化傾斜層14からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の4段構成図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る被覆物1の第5実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12と中間層13からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の4段構成図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る被覆物1の第6実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12と中間層13と窒化傾斜層14からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の5段構成図である。
【
図7】
図7は、本発明において、酸窒化超多層被膜11を構成する2種類以上の酸窒化単位層の積層が周期的な場合(7A)と略周期的な場合(7B)・(7C)を示す酸窒化超多層被膜11の構成図である。
【
図8】
図8は、本発明において、中間層13が窒化物被膜13xの場合(8A)と、窒化超多層被膜13yの場合(8B)と、窒化物被膜13xと窒化超多層被膜13yの積層被膜の場合(8C)を示す中間層13の構成図である。
【
図9】
図9は、本発明において、酸窒化傾斜層12が酸窒化傾斜連続被膜12xの場合(9A)と酸窒化傾斜多層被膜12yの場合(9B)、並びに窒化傾斜層14が窒化傾斜連続被膜14xの場合(9C)と窒化傾斜多層被膜14yの場合(9D)を示す傾斜層12・14の構成図である。
【
図10】
図10は、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に成膜するための成膜装置構成模式図である。
【
図11】
図11は、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10の製造実験例に使用したターゲット組成比一覧及び実験例で成膜した被膜一覧を表1・2にまとめた一覧図である。
【
図12】
図12は、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10の製造実験例で得られた被膜をX線光電子分光分析装置で分析した膜組成比分析図である。
【
図13】
図13は、本発明の製造実験例で得られた本発明被膜中のアルミニウムの結合エネルギー図である。
【
図14】
図14は、本発明の製造実験例で得られた本発明被膜中のクロムの結合エネルギー図である。
【
図15】
図15は、本発明被膜に対しX線回折装置により得られた酸化アルミニウムのX線回折位置図である。
【
図16】
図16は、本発明被膜に対し高分解能分析走査電子顕微鏡により得られた断面観察図である。
【
図17】
図17は、本発明被膜に対するX線光電子分光分析のエッチングレートから算出する超多層一層当たりの層厚関連図である。
【
図18】
図18は、本発明被膜を有した切削チップで被工作物を切削する場合の切削説明図である。
【
図19】
図19は、本発明被膜を有した切削チップによる切削試験の実施写真図及びそのクレータ摩耗の説明図である。
【
図20】
図20は、本発明被膜を有した切削チップによる切削試験に関するクレータ摩耗量と切削距離の相関を示す切削試験評価図である。
【
図21】
図21は、切削距離277mと切削距離492mでのクレータ摩耗観察写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜及びその被覆物の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0043】
図1は、本発明に係る被覆物1の第1実施形態であり、酸窒化超多層被膜11からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の2段構成図である。
図(1A)において、基材2は硬質基材から構成され、具体的にはWC超硬基材、サーメット、セラミック、高速度工具鋼、ダイス鋼などの硬質材料からなる硬質基材を所定形状に形成したものである。外層被膜層として、本発明被膜であるアルミニウムAlとクロムCrの酸窒化物を超多層状に積層した酸窒化超多層被膜11からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10が形成されている。換言すれば、酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態で被膜を形成し、酸化アルミニウムの耐酸化性と窒化クロムの耐摩耗性が同時的に発現するため、強力なAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10が構成される。
酸窒化超多層被膜11の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比
率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当
該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含んでいる。添加される場合がAlCrMONであり、添加されない場合がAlCrONである。添加元素Mは酸窒化アルミニウムクロムに
添加されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果が発揮すると考えられる。すなわち結晶粒が微細化することで、結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。
特に、超多層被膜とは、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが異なる少なくとも2
種類以上の酸窒化単位層(後述する
図7の11a等)を周期的又は略周期的に積層した被膜のことであり、本発明ではこの被膜を酸窒化超多層被膜11と称する。この酸窒化超多層被膜11は強力な耐酸化性且つ耐摩耗性を有しており、本発明では、この特性を有した被膜をAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10と称する。
図(1B)では、基材2の全表面にAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10が形成されている。図(1C)及び図(1D)では、基材2の一部表面にAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10が形成されている場合が図示されている。このように、本発明では、基材2の表面の少なくとも一部又は全部にAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を適材適所に被覆形成する場合を含む。
上述した基材2と酸窒化超多層被膜11の特徴、及び当該酸窒化超多層被膜11を少なくとも配置したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10の特徴は、
図1~
図7を通して共通している。
【0044】
図7で後述するが、前記酸窒化単位層の単位層厚は0.5 nm~50nmの範囲に調整される。各単位層は同種化合物であり、しかも単位層厚がナノオーダーであるから、上下に隣接する単位層と単位層の相互の結合力は面間及び層内部にまで及び、その結合力は極めて大きく、強力な耐酸化性と耐摩耗性を有する安定した酸窒化超多層被膜11が形成される。
また、上述したように、本発明の被膜では、酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態で被膜を構成するから、酸化アルミニウムと窒化クロムが相互の弱点を補強し合う関係性
を有する。従って、酸化アルミニウムとしてα型酸化アルミニウムやγ型酸化アルミニウムを用途に応じて使用することができる。その中でも、特に硬度と熱安定性が高いα型酸化アルミニウムを使用することが望ましい。
更に、本発明に係る酸窒化超多層被膜11の膜厚は、高硬度工具としての実用性を確保するために0.2μm~10μmの範囲に調整することが望ましい。
【0045】
図2は、本発明に係る被覆物1の第2実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の3段構成図である。
基材2及び酸窒化超多層被膜11については
図1で説明したので、以下では主として酸窒化傾斜層12について説明する。この第2実施形態の特徴は、基材2と酸窒化超多層被膜11の間に酸窒化傾斜層12が設けられていることである。最外層である外層被膜層としての酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12が2段積層状態でAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を構成している。
当該酸窒化傾斜層12の組成式及び組成比の条件は前記酸窒化超多層被膜11とほぼ同一である。即ち、酸窒化傾斜層12は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、e
は原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4
且つa+b+c+d+e=1を満足しており、特にdに関しては0at%から前記酸窒化多層被膜の組成比範囲50at%まで(0≦d≦0.5)を含むこととする。MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含む。添加される
場合がAlCrMONであり、添加されない場合がAlCrONである。添加元素Mは酸窒化アルミニウムクロムに添加されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果が発揮すると考えられる。すなわち結晶粒が微細化することで、結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。
特に、当該酸窒化傾斜層12の特徴は、基材2と酸窒化超多層被膜11の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することを特徴と
する。
図9で後述するが、傾斜的に変化する酸窒化傾斜層12には、前記組成比a、b、c
、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜12xが含まれる。また、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層
(
図9の12a等)を積層した酸窒化傾斜多層被膜12yも含まれる。
酸窒化傾斜層12が無い場合には、基材2の表面に酸窒化超多層被膜11が直接積層される。このとき基材2の上面と酸窒化超多層被膜11の下面が強固に結合すればよいが、酸窒化超多層被膜11の下面の化学的親和性が基材下面に対し弱い場合もある。このようなときに、酸窒化傾斜層12を間に挟み、酸窒化傾斜層12の下面の組成を基材上面と強固に結合するように前記組成比を調整し、酸窒化傾斜層12の上面の組成を酸窒化超多層被膜11の下面と強固に結合するように前記組成比を調整することができる。そして酸窒化傾斜層12の下面と上面の間の組成を連続的又は多層的に傾斜変化させれば、基材2と酸窒化傾斜層12と酸窒化超多層被膜11が三層で密結合したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を実現することが可能になる。
【0046】
図3は、本発明に係る被覆物1の第3実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と中間層13からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の3段構成図である。
この第3実施形態の特徴は、基材2と酸窒化超多層被膜11の間に中間層13を介装した点である。基材2と酸窒化超多層被膜11については既に
図1で説明しているから、茲では主として中間層13について詳述する。
第3実施形態で中間層13を設ける理由は、本発明に係る酸窒化アルミニウムクロムは各種基材と密着力が比較的良いが、より一層に密着性を高めるために、基材2と酸窒化超
多層被膜11(即ち、酸窒化アルミニウムクロム)の間に窒化アルミニウムクロム被膜を中間層13として導入する。つまり、窒化アルミニウムクロムは酸窒化アルミニウムクロムと組成比がかけ離れておらず、化学的親和性があることにより層間での密着性が向上すること、また製造装置において酸窒化アルミニウムクロムを成膜するターゲットと同じターゲットを使用出来るため生産性が高いことが挙げられる。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、選択される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタンアル
ミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等を中間層13として構成しても良い。
【0047】
前記中間層13は3種類の実施態様を有している。第1は窒化物被膜であり、第2は窒化超多層被膜であり、第3は窒化物被膜と窒化超多層被膜の積層被膜である。これらは後述する
図8に示されている。
第1の窒化物被膜は、層間の密着性の観点から,酸窒化超多層被膜11の組成比とかけ離れていない範囲にあることが好ましい。従って、当該窒化物被膜の組成式はAlfCrgMhNiであり、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の
添加元素であり、且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含んでいる
。添加される場合がAlCrMNであり、添加されない場合がAlCrNである。添加元素Mは窒化アルミニウムクロムの中に固溶されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果、すなわち結晶粒が微細化すると考えられ、これによって結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上すると考えられる。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。
第2の窒化超多層被膜は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成されている。上下に隣接する窒化単位層同士は組成比が異なったアルミニウムクロム窒化物であるから同種化合物単位層である。同種化合物同士は、単位層間の接触面で原子間力により結合し、その原子間力は単位層内部にまで作用するから、隣接する窒化単位層同士が原子間力で強力に結合する。従って、極めて強力に一体結合した超多層構造の中間層13を実現できる。
第3の積層被膜では、中間層13が第1中間層と第2中間層に分割され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は窒化超多層被膜から構成されている。
また、これら第1~第3の全ての中間層において、選択される基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等を中間層13として構成しても良く、更に成膜時の基盤バイアスを変化さ
せ、結晶構造を連続的に変化させることで基材と界面との密着力向上を実現しても良い。
【0048】
図4は、本発明に係る被覆物1の第4実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と中間層13と窒化傾斜層14からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の4段構成図である。
第4実施形態の特徴は、基材2と中間層13の間に窒化傾斜層14を介装したことである。基材2と酸窒化超多層被膜11と中間層13については
図3で既に説明したから、茲では窒化傾斜層14について詳述する。
窒化傾斜層14が無い場合には、基材2の上面に中間層13が直接積層される。このとき基材2の上面と中間層13の下面が強固に結合すればよいが、その下面が基材上面と化学的親和性が弱い場合もある。このようなときに、窒化傾斜層14を間に挟み、窒化傾斜層14の下面の組成を基材上面と強固に結合するように組成比を調整し、窒化傾斜層14の上面の組成を中間層13の下面と強固に結合するように組成比を調整する。そして窒化傾斜層14の下面と上面の間の組成を連続的又は多層的に傾斜変化させれば、基材2と窒化傾斜層14と中間層13を三層で密結合させることができる。
当該窒化傾斜層14の組成式及び組成比の条件は、前記中間層13と密接合させるために、前記中間層13の窒化物被膜と同一である。即ち、窒化傾斜層14は組成式AlfCrgMhNiを有し、組成比f、g、h、iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含む。添加され
る場合がAlCrMNであり、添加されない場合がAlCrNである。添加元素Mは窒化アルミニウムクロムの中に固溶されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果、すなわち結晶粒が微細化すると考えられ、これによって結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上すると考えられる。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。
特に、当該窒化傾斜層14の特徴は、前記基材2と前記中間層13の間において、前記組成比f、 g、 h、 iが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することである。また
、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒
化チタンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等の組成を傾斜的に変化させ窒化傾斜層14として構成しても良い。
【0049】
茲で、窒化傾斜層14については、
図9で後述するが、2種類の実施態様がある。第1は、窒化傾斜層14は、前記組成比f、 g、 h、 iが連続的に変化しながら傾斜する窒化
傾斜連続被膜14xである。第2は、窒化傾斜層14は、前記組成比f、 g、 h、 iの組
合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層(14a等)を積層した窒化傾斜多層被膜14yである。前記窒化傾斜連続被膜14xは、組成比が連続的に傾斜変化しながら堆積した窒化物被膜であり、多層性を有していない。他方、窒化傾斜多層被膜14yは窒化傾斜単位層が多層に積層された窒化物被膜であり、単一の窒化傾斜単位層内の組成比が積層されて行くに従って傾斜的に変化する窒化物被膜である。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等で14xおよび14yを構成しても良い。
【0050】
図5は、本発明に係る被覆物1の第5実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12と中間層13からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の4段構成図である。
既に、
図3において、酸窒化超多層被膜11と中間層13と基材2の3段構成を説明した。第5実施形態の特徴は、前記酸窒化超多層被膜11と前記中間層13の間に
図2で説明した酸窒化傾斜層12を介装させることである。
前述したように、酸窒化傾斜層12の組成は、酸窒化超多層被膜11の組成とほぼ同一である。即ち、当該酸窒化傾斜層12は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、特にdに関しては0at%から前記酸窒化多層被膜の組成比範囲50at%まで(0≦d≦0.5)を含むこととする。MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含んでいる。添加
される場合がAlCrMONであり、添加されない場合がAlCrONである。添加元素Mは酸窒化アルミニウムクロムに添加されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果が発揮すると考えられる。すなわち結晶粒が微細化することで、結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上する。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。特に、当該酸窒化
傾斜層12の特徴は、前記中間層13と前記酸窒化超多層被膜11の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することである。
酸窒化傾斜層12が無い場合には、中間層13の上面に酸窒化超多層被膜11が直接積層される。このとき中間層13の上面と酸窒化超多層被膜11の下面が強固に結合すればよいが、酸窒化超多層被膜11の下面の化学的親和性が中間層上面に対し弱い場合もある。このようなときに、酸窒化傾斜層12を間に挟み、酸窒化傾斜層12の下面の組成を中間層上面と強固に結合するように前記組成比を調整し、酸窒化傾斜層12の上面の組成を酸窒化超多層被膜11の下面と強
固に結合するように前記組成比を調整することができる。そして酸窒化傾斜層12の下面と上面の間の組成を連続的又は多層的に傾斜変化させれば、中間層13と酸窒化傾斜層12と酸窒化超多層被膜11が三層で密結合したAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を実現することが可能になる。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等で中間層1
3を構成しても良い。
【0051】
当該酸窒化傾斜層12の構成には、
図9で後述するように、2種類の実施態様がある。第1に、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜
12xである。第2に、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種
類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜12yである。
前記酸窒化傾斜連続被膜12xは、組成比が連続的に傾斜変化しながら堆積した酸窒化物被膜であり、多層性を有していない。他方、酸窒化傾斜多層被膜12yは酸窒化傾斜単位層が多層に積層された酸窒化物被膜であり、単一の酸窒化傾斜単位層内の組成比が積層されて行くに従って傾斜的に変化する酸窒化物被膜
である。
【0052】
図6は、本発明に係る被覆物1の第6実施形態であり、酸窒化超多層被膜11と酸窒化傾斜層12と中間層13と窒化傾斜層14からなるAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に被覆した被覆物1の5段構成図である。
既に、本発明の第4実施形態である
図4で詳述したように、酸窒化超多層被膜11と中間層13と窒化傾斜層14と基材2からなる4段構成の被覆物1が存在する。この4段構成の被覆物1の中で、酸窒化超多層被膜11と中間層13の間に酸窒化傾斜層12を介装するだけで当該第6実施形態になる。
当該酸窒化傾斜層12については、
図5で説明したが、茲では第6実施形態として再記する。まず、酸窒化傾斜層12の組成は、酸窒化超多層被膜11の組成と同一である。即ち、当該酸窒化傾斜層12は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比
率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、dに関しては0at%から前記酸窒化多層被膜の組成比範囲50at%まで(0≦d≦0.5)を含むこととする。MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且
つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含んでいる。添加される場合がAlCrMONであり、添加されない場合がAlCrONである。添加元素Mは窒化アルミニウムクロム
の中に固溶されることによって、結晶粒の粗大化を抑制する効果、すなわち結晶粒が微細化すると考えられ、これによって結晶内に圧縮応力が加わり耐摩耗性が向上すると考えられる。ただし、これは副次的な効果であって、本発明ではあくまでも上述の酸化アルミニウムと窒化クロムが混晶状態にある結晶によって耐酸化耐摩耗性を発現するものであり、前述のように添加元素Mの添加によって限定されるものではない。特に、当該酸窒化傾斜
層12の特徴は、前記中間層13と前記酸窒化超多層被膜11の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することである。また、本発
明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタ
ンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等で中間層13を構成しても良い。
【0053】
当該酸窒化傾斜層12の構成には、
図9で後述するように、2種類の実施態様がある。第1に、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜
12xである。第2に、前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種
類以上の酸窒化傾斜単位層(12a等)を積層した酸窒化傾斜多層被膜12yである。
前記酸窒化傾斜連続被膜12xは、組成比が連続的に傾斜変化しながら堆積した酸窒化物被膜であり、多層性を有していない。他方、酸窒化傾斜多層被膜12yは酸窒化傾斜単位層が多層に積層された酸窒化物被膜であり、単一の酸窒化傾斜単位層内の組成比が積層されて行くに従って傾斜的に変化する酸窒化物被膜である。
【0054】
図7は、本発明において、酸窒化超多層被膜11を構成する2種類以上の酸窒化単位層の積層が周期的な場合(7A)と略周期的な場合(7B)・(7C)を示す酸窒化超多層被膜11の構成図である。
図(7A)では、酸窒化超多層被膜11を構成する2種類の酸窒化単位層の積層が周期的な場合が示されている。図中、2種類の酸窒化単位層11a、11bが11a、11b、11a、11b・・・11a、11bと完全に周期的に積層されている。3種類や4種類の酸窒化単位層でも同様に周期化できる。
図(7B)では、酸窒化超多層被膜11を構成する3種類の酸窒化単位層の積層が略周期的な場合が示されている。図中、3種類の酸窒化単位層11a、11b、11cが11a、11b、11a、11b、11c、11a、11b・・・11a、11bのように積層され、途中に酸窒化単位層11cが入って周期性が不完全になる。従って、略周期的な積層が示されている。
図(7C)では、酸窒化超多層被膜11を構成する3種類の酸窒化単位層の積層が略周期的な場合が示されている。図中、3種類の酸窒化単位層11a、11b、11cが11a、11b、11c、11a、11b、11a、11b、11c・・・11a、11b、11cのように積層され、途中で酸窒化単位層11cが欠落して周期性が不完全になる。従って、略周期的な積層が示されている。
本発明では、酸窒化単位層が略周期的に積層されていても、70%以上の周期性があれば本発明の技術的効果を奏することができる。
【0055】
図8は、本発明において、中間層13が窒化物被膜13xの場合(8A)と、窒化超多層被膜13yの場合(8B)と、窒化物被膜13xと窒化超多層被膜13yの積層被膜の場合(8C)を示す中間層13の構成図である。
図(8A)では、中間層13の全体が窒化物被膜13xで構成され、多層性を有していない。
図(8B)では、中間層13の全体が窒化超多層被膜13yで構成されている。当該窒化超多層被膜13yとして、窒化単位層の積層が周期的な場合と70%以上の周期性を有する略周期的な場合がある。特に、図(8B)では、2種類の窒化単位層の積層が周期的な場合が示されている。図中、と完全に周期的に積層されている。3種類以上の窒化単位層でも同様に周期化できる。
また、図示はされていないが、略周期的な場合も存在する。例えば、窒化単位層が13a、13b、13c、13a、13b・・・13a、13bのように一部不規則になる場合もある。しかし、全体として70%以上の周期性があれば、本発明の技術的効果を奏することができる。
図(8C)では、中間層13が第1中間層と第2中間層に2分され、第1中間層は多層性の無い
図8Aの窒化物被膜13xで構成され、第2中間層は周期的又は略周期的な
図8Bの窒化超多層被膜13yから構成されている。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等で13xおよび13yを構成しても良い。
【0056】
図9は、本発明において、酸窒化傾斜層12が酸窒化傾斜連続被膜12xの場合(9A)と酸窒化傾斜多層被膜12yの場合(9B)、並びに窒化傾斜層14が窒化傾斜連続被膜14xの場合(9C)と窒化傾斜多層被膜14yの場合(9D)を示す傾斜層12・14の構成図である。
図9Aでは、酸窒化傾斜層12が多層性を有さない酸窒化傾斜連続被膜12xの場合が示されている。酸窒化物としてその組成比が底面から上面に至るまで連続的に傾斜しながら変化している。
図9Bでは、酸窒化傾斜層12が多層性を有した酸窒化傾斜多層被膜12yの場合が示されている。酸窒化傾斜多層被膜12yは、その下面から上面に至るまで酸窒化傾斜単位層が12a、12b・・・12nのように積層されている。単一の酸窒化傾斜単位層の内部の組成比は同一であり、下面から上面に至るまで酸窒化傾斜単位層毎に次第に組成比が傾斜的に変化するのである。
図9Cでは、窒化傾斜層14が多層性を有さない窒化傾斜連続被膜14xの場合が示されている。窒化物としてその組成比が底面から上面に至るまで連続的に傾斜しながら変化している。
図9Dでは、窒化傾斜層14が多層性を有した窒化傾斜多層被膜14yの場合が示されている。窒化傾斜多層被膜14yは、その下面から上面に至るまで窒化傾斜単位層が14a、14b・・・14nのように積層されている。単一の窒化傾斜単位層の内部の組成比は同一であり、下面から上面に至るまで窒化傾斜単位層毎に次第に組成比が傾斜的に変化するのである。
【0057】
<製造方法>
本発明品は成膜方法において制限を受けるものではない。しかし、本発明品を成膜する方法としては物理蒸着法による成膜が望ましい。物理蒸着法は緻密で結晶性のある膜を形成することが可能な手法で、成膜中の温度も600℃程度以下であるから、鉄系の焼鈍や焼き戻し等の基材の劣化を抑制出来るため、比較的幅広い材料に適用することが可能である。その他の利点として、本発明に係る酸窒化アルミニウムクロムを構成するためのアルミニウムクロム合金ターゲットが一般的に出回っており入手性が良いこと、更にアルミニウムクロム合金ターゲットに各種元素を添加することで比較的容易に酸窒化アルミニウムクロム皮膜に添加元素を含有出来ることが挙げられる。
【0058】
物理蒸着法にはスパッタリング法やアークイオンプレーティング法などが存在する。アークイオンプレーティング法はスパッタリング法に比べてイオン化率が高いため成膜速度が速く、生産性も高い。一方でスパッタリング法は平滑な表面が得られ、加工品の仕上げ面精度が良くなる利点があるが、成膜速度が遅く生産性では劣る。本発明品ではどちらの手法を用いることも可能である。
本発明品をアークイオンプレーティング法やその他成膜方法によって形成する場合、既知である具体的条件は特に限定なく使用出来るものである。
【0059】
特に本発明では、耐酸化性且つ耐摩耗性が発現できる酸窒化アルミニウムクロム皮膜を成膜するため、物理蒸着法の中でも、アークイオンプレーティング法によって成膜されることが好ましい。従って、上記被膜はアークイオンプレーティング法、又はフィルタードアークイオンプレーティング法で成膜することを特徴とする。
茲で、アークイオンプレーティング法(即ち、AIP 法)とは、真空雰囲気において、カソード(陰極)であるターゲット(皮膜形成材料)とアノード(陽極)との間で真空アーク放電を発生させ、ターゲット表面から材料 を蒸発させてイオン化し、負のバイアス電
圧を印加したワー ク(被コーティング物)表面にイオンを堆積させることにより、皮膜
を形成する薄膜コーティング方法である。
また、フィルタードアークイオンプレーティング法(即ち、FAIP 法)とは、上記AIP法で生成した真空アークプラズマ中からドロップレットを除去し、クリーンにしたプラズマ
で成膜を行う方法である。 一般に、フィルタードアーク蒸着法(FAD:Filtered Arc Deposition)又はフィルタードアークイオンプレーティング法(上記FAIP 法)等と呼ばれる。
【0060】
以下、本発明品である被膜の実施例と成膜装置について詳細に説明する。
<被膜構成:
図3の基材+中間層+酸窒化超多層被膜>
本発明品の実施例として製造される被膜は、上述した
図3の被膜、即ち基材2+中間層13+酸窒化超多層被膜11(外層被膜層)である。
勿論、
図4のように中間層13の下側に窒化傾斜層14を設けても良く、また
図5のように中間層13の上側に酸窒化傾斜層12を設けても良く、更に
図6のように中間層13の下側に窒化傾斜層14を設け且つ上側に酸窒化傾斜層12を設けても良い。また、中間層13に関しては必ずしも必要では無く、
図1のように基材2+酸窒化超多層被膜11でも良いし、
図2のように基材2+酸窒化傾斜層12+酸窒化超多層被膜11でも良いことは当然である。
後述の実施例においては、本発明出願人の既存被膜との比較の為、基材2+中間層13+酸窒化超多層被膜11(外層被膜層)を用いる。
【0061】
<成膜装置:アークイオンプレーティング装置>
図10は、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10を基材2に成膜するための成膜装置構成模式図である。
本発明品を成膜するために使用した成膜装置は既知のアークイオンプレーティング装置20である。真空チャンバ21には真空排気システム22が接続されている。当該真空排気システム22には、粗排気用のロータリーポンプRP、高排気用のターボ分子ポンプTMPとクライオポンプCPが接続されている。成膜可能な到達真空(約5.0×10
-3Pa)以下まで排気し、保持できるようになっている。
真空チャンバ21には、加熱用ヒーター23、成膜前のボンバードトリートメント(基
材表面のクリーニング)用のフィラメント放電システム24、電圧を印加してアルミニウ
ムクロムターゲットからイオンを引き出すためアーク放電用電源25a~25dに接続されたA~Dのカソードシステム25が設けられている。A~Dのカソードシステム25の夫々には、上下方向にターゲットを3個ずつ設置が可能である。
そして、基材2を取付けて回転させる回転基盤機構26が搭載されている。当該回転基盤機構26には、矢印a方向に回転する大テーブル26aの上に連動して矢印c方向に回転する6本の軸26cがセットされている。各軸26cには回転する小円盤26bが搭載されており、その小円盤26bにスプロケットを搭載して矢印b方向に回転させることが出来る。更に、当該回転基盤機構26にはバイアス電源26dが接続されており、負のバイアス電圧を印加することが出来るようになっている。また、真空チャンバ21の内部に反応用ガス(窒素、酸素、アルゴン)を導入するガス導入用システム27が配置されている。当該ガス導入用システム27はガス配管、ガス用ストップバルブ、ガスボンベを含み、ガス導入用ポートも接続されている。従って、必要に応じたガス種を流量調整しつつ導入することで被膜の窒素量、酸素量の調整を行うことが出来るようになっている。
【0062】
成膜の前段階である脱ガス処理を兼ねて、加熱用ヒーター23を用いて450℃の加熱を120分間行った。次にボンバード工程としてアルゴンガスをチャンバ内圧力2.6Paになるように導入した。その後フィラメント放電システム24に40V、回転基盤機構26に400~500Vの負の電圧を印加してプラズマを発生させ、基材表面のクリーニングを行った。
【0063】
図11は、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10の製造実験例に使用したターゲット組成比一覧及び実験例で成膜した被膜一覧を表1・2にまとめた一覧図である。
表1は、本発明品である酸窒化アルミニウムクロム皮膜を形成するために用いた5種類
の組成比を有したアルミニウムクロム合金ターゲットを示している。この中から組成比の違うターゲットを2種類組合せて、
図3に示すような基材2+中間層13+酸窒化超多層被膜11(外層被膜層)の構造を有する被膜を形成した。尚、基材2には一般的に普及しているSKH51材(高速度工具鋼)の12mm×12mm×5mmの正方形切削チップを用いた。
【0064】
<中間層13の成膜:窒化超多層被膜13y>
ボンバードによる基材表面のクリーニング後、表1に示すターゲットの組合せを用いて
基材2への成膜を行った。 まず反応ガスとして窒素をチャンバ内圧力5.0Paになるよ
うに導入し、ターゲットを取り付けたA~Dのカソードシステムに150V、回転基盤機構26に50Vの負の電圧を印加した。これにより、アーク放電によってイオンを引き出して、基材2に中間層13となる窒化アルミニウムクロム多層膜(即ち、窒化超多層被膜13y)を堆積させる。
<酸窒化超多層被膜11の成膜>
その後、反応ガスとして窒素と酸素の混合ガスをチャンバ内圧力3.9Paになるように導入し、ターゲットを取り付けたA~Dのカソードシステムに150V、回転基盤機構26に75Vの電圧を印加した。これにより、中間層13の上に外層被膜層となる酸窒化アルミニウムクロム超多層膜(即ち、酸窒化超多層被膜11)を堆積させる。この時、基盤回転機構26を用いて基盤、即ち大テーブル26aと小円盤26bを回転させながら、2種類のターゲットを同時にアーク放電させることにより、本発明品が有する特徴である傾斜層を伴った超多層膜を成膜することが出来る。この時、基盤回転機構26の回転数を調整することで、超多層膜1層1層の厚みを調整することが可能である。尚、今回の成膜ではどの条件も大テーブル26aと小円盤26bの回転数、即ち基盤回転数を2rpmと設定した。
【0065】
このようにして、
図11の表2に示される実施例1~5と比較例1~3の被膜が成膜された。実施例1~5では、酸窒化AlCr層が酸窒化AlCr超多層、即ち本発明の酸窒化超多層被膜11である。 比較例1では酸窒化AlCr層が酸窒化AlCr単層、比較例2では酸窒化AlCr層が酸窒化AlCrSi単層であり、共に本発明とは異なる。比較例3は比較検討用に製作し
た酸窒化AlCr層の無い中間層13だけであり、即ち窒化アルミニウムクロム超多層被膜(即ち、窒化超多層被膜13y)である。これらの実施例1~5及び比較例1~3は前述の製造方法によって成膜されたものであり、組成比の異なるターゲットを使用していること以外はすべて同等の条件で成膜されているものである。
【0066】
以下の
図12、
図13、
図14は、本発明品である酸窒化アルミニウムクロム皮膜を高性能X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ製PHI5000Versa P
robe)によって組成分析したデータの一例を示したものである。
<酸窒化アルミニウムクロム皮膜>
図12は、本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜10の製造実験例で得られた被膜をX線光電子分光分析装置で分析した膜組成比分析図である。縦軸は組成比(原子比)で横軸はエッチング時間である。
X線光電子分光法は試料表面にX線を照射することで試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測し、試料表面から数nm領域での元素情報を得ることが出来る手法である。そのため本発明における数nm~数十nmオーダーの超多層構造を分析するのに適正であると判断した。またこの手法では、分析対象の原子周辺の電子結合状態によって起こる結合エネルギー(binding energy)の変化を観察することで化学結合状態を判別することも可能である。
【0067】
図12-Aのドット線、破線、一点鎖線、実線で示される各ラインはAl、Cr、O、Nの各
元素に対応しており、被膜表面からエッチング処理をしながら超多層被膜の超多層構造について分析を行った。グラフが右に進むほど超多層被膜内部の元素組成比率を示している
。グラフ上の各ラインが形成する山谷部分のpoint1~6に着目すると、Al:25~33at%、Cr:7~17at%、O:19~45at%、N:15~35at%の範囲で各元素比率が変化
している。即ち、グラフ上に引かれた上下方向の点線が超多層被膜の1層目・2層目・3層目・・に対応しており、各ラインが形成している山谷部分の各々のpointが超多層被膜
の1層1層を示している。超多層構造の各層毎の組成比が
図12の中に表として示されている。この測定データ及び後述のFE-SEMによる断面観察から、本発明品が超多層構造を持つ超多層被膜であることが特定された。同時に、上記表に示されるように、超多層被膜1層ごとの各元素組成比を特定することが出来た。
図12-BはAlの比率が最大となるターゲットの組合せ(実施例4、Al:Cr=9:1とAl:Cr=8:2の組合せ)で成膜した本発明品の膜組成比分析図である。グラフの構成は
図12-Aと
同様となっており、グラフ上の各ラインが形成する山谷部分のpoint1~4に着目すると
、Al:37~43at%、Cr:2~5at%、O:24~42at%、N:14~28at%の範囲で各元素比率が変化している。成膜に使用したターゲットのAlとCrの比率に着目しても、高性能X線光電子分光分析装置の測定による5%程度の測定誤差があるものの、その比率が膜組成のAlとCrの比率と同程度を示していることが分かる。
図12-Aの結果と併せて、本発明品のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を構成し得る元素組成比率の範囲がAl:20~45at%
、Cr:2~20at%、O:15~50at%、N:10~40at%の範囲であることを特定する
ことが出来た。
【0068】
図13は、本発明の製造実験例で得られた本発明被膜中のアルミニウム結合エネルギー図である。
図13には、本発明品中のアルミニウムの結合エネルギー状態が示されている。
図13に示されるピーク位置の結合エネルギーは119(eV)である。既知のデータベースによ
るとアルミニウムが118.2(eV)、酸化アルミニウムが119(eV)を示すことから、本発明品では酸化アルミニウムが形成されていることが分かる。
【0069】
図14は、本発明の製造実験例で得られた本発明被膜中のクロム結合エネルギー図である。
図14において、ピーク位置の結合エネルギーは575(eV)付近である。 他方、既知
のデータベースによるとクロムが574(eV)、酸化クロム及び窒化クロムが575(eV)付近を示すことから、本発明品では酸化クロム又は窒化クロムが形成されていることが分かる。先述したように、酸化アルミニウムが形成されているため、酸素はアルミニウムと優先的に結合していると考えられ、クロムに関しては窒化クロムが優先的に形成されていると考えられる。これらのことから、本発明品では酸化アルミニウムと窒化クロムの混晶が形成されていることが分かる。被膜が酸化アルミニウムと窒化クロムの混晶状態にあることで、α型の酸化アルミニウムの欠点とされる結晶粒の粗大化が抑制され、耐酸化性及び耐摩耗性の向上に寄与していると考えられる。
【0070】
上記X線光電子分光分析の結果から、本発明品である酸窒化アルミニウムクロムの組成比は組成式AlaCrbMcOdNe(a、b、c、d、eは原子比率とし0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4かつa+b+c+d+e=1)を満足している。また、
図12の表から分かるように、より好ましくはa、 b、 c、 d、 eが0.27≦a≦0.35、0.07≦b≦0.15、0≦c≦0.2、0.29≦d≦0.35、0.23≦e≦0.35の範囲内にあることが望まれる。即ち、これらの組成範囲が本発明の特徴でもある。MはSi,Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元
素である。
【0071】
図15は、本発明被膜に対しX線回折装置により得られた酸化アルミニウムのX線回折位置図である。
図15には、本発明品をX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製のD2
PHASER)で分析した結果が示されている。X線回折は、材料にX線を照射して原子の周り
にある電子によって散乱され干渉した結果起こる回折現象である。従って、この回折現象を分析することにより、材料の構成元素を特定し、その結晶構造を解析することが可能な手法である。
図15において、X軸が回折角度2θであり、Y軸が回折強度となっている
。既知のデータベースから、α型の酸化アルミニウムでは、2θ=43.35°付近の位置に
結晶面(113)、2θ=57.5°付近の位置に結晶面(116)のピークが存在することが分かっている。
図15-Aにおいて本発明品の酸化アルミニウム被膜は2θ=43.5°を示している
ことから、α型酸化アルミニウムの結晶構造を有していることが分かる。
図15-BはAl
の比率が最大となるターゲットの組合せで成膜した実施例4におけるX線回折位置図である。この結果からは2θ=43.35°の近傍位置(43.5°)だけでなく、2θ=57.5°の近傍
位置((58.3°)にピークが存在することから、膜中のAl量を増加させることでα型の酸化
アルミニウムの結晶構造比率も増加しα型の結晶構造が強く発現したことが分かる。後述の切削試験結果を見るとAl量を増加させた実施例3および4の切削性能は向上しており、Al量を増やすことによってα型の酸化アルミニウムの結晶構造が強く発現すると同時に、酸化アルミニウムと窒化クロムとの混晶状態によってα型の酸化アルミニウムの欠点を補いつつ安定した性能が実現することが出来た。これ以上のアルミニウム比率の増加は更にα型の酸化アルミニウムの結晶構造を強く発現し得るが、膜中のα型の酸化アルミニウム比率の増加に伴う窒化クロムの比率の減少により、α型の酸化アルミニウムの欠点(結晶
粒が粗大化し易く、切削時にクラックが進展し易い)も強く発現すると考えられる。この
ことからも酸窒化アルミニウムクロムの組成比は組成式AlaCrbMcOdNe(a、b、c、d、eは
原子比率)においてa、 b、 c、 d、 eが0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4かつa+b+c+d+e=1の範囲にあることが望まれ、より安定した性能を発現させるために0.27≦a≦0.35、0.07≦b≦0.15、0≦c≦0.2、0.29≦d≦0.35、0.23≦e
≦0.35の範囲内にあることが好ましい。
【0072】
図16は、本発明被膜に対し高分解能分析走査電子顕微鏡により得られた断面観察図である。
<酸窒化アルミニウムクロム超多層被膜>
図16は、酸窒化超多層被膜11を有する本発明品を被覆した試験片を切断し、その被膜断面を高分解能分析走査電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7001F)で観
察したものである。観察結果から超多層構造が形成されていることが確認出来る。また、1層の厚みが数nm~10nm程度であることが分かる。このような超多層被膜を構成することで被膜に圧縮応力が導入され、耐摩耗性が向上する。
他方、過度な圧縮応力の導入は逆に被膜が割れてしまうチッピング現象を引き起こすことが良く知られている。しかし、
図12で示されたように、各層の元素比率は連続的に傾斜して変化しており、一種の傾斜層のような役割をしていると考えられる。このことが通常の多層膜とは異なる適度な圧縮応力の導入に寄与し、耐摩耗性を向上させつつチッピングを抑制していると考えられる。本発明では、このような組成比が連続的に変化する傾斜層に関して、アルミニウム、クロム、酸素、窒素の各元素の組成比を独立して変化させることが可能である。例えば放電に用いるアルミニウムクロムターゲットの組成比を変化させたターゲットを複数設置し同時放電させてもよく、また、ターゲットに印加する電圧を制御することによってアルミニウムとクロムの変化量を制御しても良いし,酸素および窒素のチャンバ内への導入流量や圧力を変化させることで変化量を制御することもできる。
図16から分かるように、上記超多層膜の1層1層の厚みは0.5nm~50nm程度であるこ
とが望ましい。この範囲から逸脱している場合、適切な圧縮応力が導入されず,耐摩耗性が得られない可能性がある。また、1層1層の厚みは上記範囲内であれば同じ厚みを有していても良いし、異なる厚みを有していても良い。また、前記の観察結果から、1層1層の厚みは5nm~20nm程度であることがより好ましい。
【0073】
図17は、本発明被膜に対するX線光電子分光分析のエッチングレートから算出する超多層一層当たりの厚み関連図である。
図17の右図はFE-SEM像であり、WC基材の上に酸化膜と膜表面が形成されていることが分かる。FE-SEMとは電界放出型走査電子顕微鏡であり、対象試料に電子線を照射した際に放出される二次電子等を用いて微小な物質を観察する顕微鏡で、主に試料表面の微細構造の観察に用いられる。このFE-SEM像の分析から酸化膜の膜厚は約278nmである。
被膜を1min刻みでエッチングしながら、超硬基材のWが検出されるまでXPS測定を
行う。ここで、XPSとは、X線照射により放出される光電子の運動エネルギー分布を測定し、試料表面(数nm程度の深さ)に存在する元素の種類・存在量・化学結合状態に関する知見を得る手法である。約85minでWが検出され始めたので、85minで基材に到達したと考える。従って、膜厚278nmをエッチング時間85minで割ると、エッチング率は
3nm/minとなる。
図17の左図により、1層エッチングするのに約4min掛かっているか
ら、超多層1層当りの膜厚は4min×3nm/minから約12nmであることが分かった。
従って、
図16から超多層1層の層厚が約10nmであり、
図17から約12nmであるから、両測定の結果はほぼ一致していることが分かる。
【0074】
<中間層:窒化アルミニウムクロム超多層被膜>
本発明品である酸窒化アルミニウムクロム超多層被膜(酸窒化超多層被膜11)は基材2の上に直接成膜しても密着力の低下等は見られず,良好な性能を示しているため,必ずしも中間層13を必要とはしない。しかし、酸窒化アルミニウムクロム層が比較的厚い単層の場合には基材(非酸化層)との密着性が良くない場合もある。そこで、本発明品の性能を更に安定化させるために、基材2と本発明品である酸窒化アルミニウムクロム超多層被膜(酸窒化超多層被膜11)の間に窒化アルミニウムクロム超多層被膜を中間層13として導入する。
窒化アルミニウムクロムを中間層13として選定する理由として、窒化アルミニウムクロム自体は既知の被膜としてこれまでにも利用されており本件出願人の製品としても基材2との密着等で安定した性能を発揮していること、更には酸窒化アルミニムクロムと組成比がかけ離れておらず化学的親和性があるため層間での密着性が向上するであろうこと、製造工程において酸窒化アルミニウムクロムを成膜するターゲットと同じものを使用出来るため生産性が高いことが挙げられる。
また、この中間層13は膜の内部応力を制御し耐摩耗性を高めるために基盤バイアスを傾斜させることも可能である。更に化学的親和性の観点から、密着率を更に向上させるために中間層13と酸窒化超多層被膜11(外層被膜層)の間に前記組成比a、 b、 c、 d
、 eを連続的に変化させた酸窒化アルミニウムクロム傾斜層(酸窒化傾斜層12)を導入したり、基材2と中間層13の間に前記組成比f, g, h, iを連続的に変化させた窒化アルミニウムクロム傾斜層(窒化傾斜層14)を導入することも可能である。また、各々の傾斜層12、14を超多層構造にすることも可能である。これらの傾斜層12、14を含めて広義の中間層とすることもできる。即ち、中間層13―酸窒化傾斜層12―酸窒化超多層被膜11及び基材2―窒化傾斜層14―中間層13のどちらか一方、又は両方を含むことが出来る。
【0075】
組成比が連続的に変化する傾斜層に関しては、アルミニウム、クロム、酸素、窒素の各元素を独立で変化させることが可能である。例えば、放電に用いるアルミニウムクロムターゲットの組成比を変化させたターゲットを複数設置して同時放電させても良く、ターゲットに印加する電圧を制御することによってアルミニウムとクロムの変化量を制御しても良いし、酸素および窒素のチャンバ内への導入流量や圧力を変化させることで変化量を制御しても良い。
中間層13の組成比に関しては、前述のように層間の密着性の観点から、酸窒化アルミニウムクロムとの組成比がかけ離れていない範囲にあることが好ましい。従って、中間層13の組成式AlfCrgMhNiにおいて、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1であることが望ましい。Mは
Si,Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元素である。また、本発明である酸窒化アルミニウムクロムの性能を十分に発揮するために中間層を設けるのであって、基材との親和性によっては既知の被膜技術である窒化チタン被膜(TiN)、窒化チタンアルミ被膜(TiAlN)、窒化クロム皮膜(CrN)等で中間層13を構成しても良い。
【0076】
図18は、本発明被膜を有した切削チップで被工作物を切削する場合の切削説明図である。
被工作物40を矢印r方向に自転させた状態で、切削チップ30の切削面であるすくい面31を切り込み深さtの状態で押し当てながら切削方向33に切削距離fだけ前進させる。このとき切削チップ30の逃げ面32は被工作物40の外周面とある角度で離隔した状態に設定される。
従って、切削チップ30の切削面であるすくい面31は、多重回の切削により摩耗する傾向にある。後述するように、このすくい面31の摩耗をクレータ摩耗と称する。本発明における耐摩耗性とは当該クレータ摩耗に対する耐性のことである。
【0077】
図19は、本発明被膜を有した切削チップによる切削試験の実施写真図及びそのクレータ摩耗の説明図である。
<切削試験の内容>
茲で、切削条件は次の通りである。即ち、被削材:SCM440H(HRC25に調質)、切削速度:30m/min、送り速度:0.15mm/rev、切り込み(半径方向):1mmである。
上記条件でNC旋盤(高松機械工業製XC-100)を用いて切削試験を実施した。
この切削試験は切削速度を30m/minと遅くして切り込み量を1mmと大きく取る重切削条件になっている。この切削試験の評価方法として切削チップのすくい面に発生するクレータ摩耗と呼ばれる摩耗形態を観察するのが一般的である。
図19により切削試験の様子とクレータ摩耗の概要説明を示す。
写真には、切削チップの取付け場所と、切削チップすくい面を押し当てて削っていくことが示されている。平坦な切削チップすくい面が、摩耗によって表面が窪み、切削チップすくい面が窪んでクレータ摩耗が発生していることが図示されている。
【0078】
図20は、本発明被膜を有した切削チップによる切削試験に関するクレータ摩耗量と切削距離の間の切削試験評価図である。
図11に示された実施例1~5及び比較例1~3によって製作された被膜を有した切削チップにより上記条件で切削試験を行った結果を示す。図中、No.1は比較例1、No.2は比較例2、No.8は比較例3である。No.3は実施例1、No.4は実施例2、No.5は実施例3、No.6は実施例4、No.7は実施例5である。
No.8の比較例3である既知の窒化アルミニウムクロム皮膜については、切削距離492m
でクレータ摩耗が90mm発生している。また、No.1の比較例1とNo.2の比較例2では、クレータ摩耗が35~45mm発生している。ところが、本発明品であるNo.3~No.6の実施例1~4では、クレータ摩耗が25mm以下に抑えられている。特に、No.5およびNo.6の実施例3、4では、クレータ摩耗が全く発生していないことが明白である。更に、No.
7の実施例5では本発明品である、酸窒化超多層被膜層11を0.2μmという極薄膜状態に成膜したものである。ただし、全体の膜厚に関しては、実施例1~4と同等になるように中間層13の膜厚の割合を増やし、膜厚による寿命の差が出ないように考慮してある。このような実施例5の場合であっても、距離277mでクレータ摩耗が15μm、距離492mでクレ
ータ摩耗が46μmと、極薄膜の状態であってもNo.8の比較例3である既知の窒化アルミニウムクロム皮膜よりもクレータ摩耗が抑えられていることが分かる。これらの実験事実から、本発明品が耐摩耗性に関して劇的な効果を発揮していることが分かる。
第1に、外層被膜層である酸窒化アルミニウムクロム層を形成することで耐酸化性/耐摩耗性が劇的に向上していることが分かる。
第2に、No.1~2の単層の酸窒化アルミニウムクロム皮膜とNo.3~6の超多層酸窒化
アルミニウムクロム皮膜を比較すると、切削距離492m時点でのクレータ摩耗量で優位な差が出ており、超多層化することによって耐摩耗性が格段に向上していることが確認出来る。
第3に、No. 5、6に関しては切削距離492mでクレータ摩耗が全く発生しておらず、No. 7と比較して著しく性能の向上が見られた。No. 3~No. 6にかけてアルミニウム量が増加しており、被膜中のα型酸化アルミニウムの比率が増えることで性能が向上することが確認出来た。
尚、本実施例では正方形切削チップを用いたが、菱形形状やその他の形状のもの、更にはチップブレーカーを有するもの、切削工具の表面が研磨されたもの、更には切削工具以外の金型工具等も本実施例と同じような効果を得ることが出来る。基材にはSKH51を用い
たが、WC超硬合金、サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼等の硬質基材を用いても本実施例と同じような効果を得ることが出来る。
【0079】
図21は、切削距離277mと切削距離492mでのクレータ摩耗観察図である。クレータ摩耗を観察するだけでも、外層被膜層として本発明の酸窒化AlCr超多層被膜を有することの効果が確認できる。
中間層だけのNo.8では、どんな切削距離でもクレータ摩耗が現れている。外層被膜層
として酸窒化AlCr単層被膜のNo.1・2では、切削距離277mでクレータ摩耗は極少で
あるが、切削距離492mではクレータ摩耗が大きく現れてしまう。
実施例1・2であるNo.3~4では、切削距離492mでクレータ摩耗がやや現れてい
る。しかし、実施例3・4であるNo.5・6では、切削距離277mと492mの両方で
クレータ摩耗が全く出現していない。このように実施例の中でも効果に差があるのは、AlとCrの組成比に依存していると考えられる。Alの組成比が増加するとα型酸化アルミニウムの結晶構造が強く発現し、窒化クロムとの混晶を形成することでα型酸化アルミニウムの欠点を補い、性能が向上することを確認出来た。
しかし、外層被膜層として酸窒化AlCr超多層被膜を有することは、従来被膜と比較しても格段の効果が確認できることが分かった。
【0080】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更、別の実施例などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。即ち、本発明の範囲は上記した説明に制限されるものでは無く、特許請求の範囲によって示された範囲内の全ての技術的事項が含まれることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るAlCr耐酸化耐摩耗性被膜及びその被覆物は、金属や非金属からなる被加工物の加工に用いられるドリルやエンドミルなどの切削工具、パンチやダイ、プレス等の金型工具又は刃物等の工具として使用されるものである。 即ち、本発明に係るAlCr耐酸
化耐摩耗性被膜をWC超硬合金、サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼などからなる基材の表面に被膜形成すると、その被覆物が各種切削工具や金型工具等の工具として広く活用できる利点がある。
【符号の説明】
【0082】
1 被覆物
2 基材
10 AlCr耐酸化耐摩耗性被膜
11 酸窒化超多層被膜
11a 酸窒化単位層
11b 酸窒化単位層
11c 酸窒化単位層
12 酸窒化傾斜層
12a 酸窒化傾斜単位層
12b 酸窒化傾斜単位層
12m 酸窒化傾斜単位層
12n 酸窒化傾斜単位層
12x 酸窒化傾斜連続被膜
12y 酸窒化傾斜多層被膜
13 中間層
13a 窒化単位層
13b 窒化単位層
13x 窒化物被膜
13y 窒化超多層被膜
14 窒化傾斜層
14a 窒化傾斜単位層
14b 窒化傾斜単位層
14c 窒化傾斜単位層
14d 窒化傾斜単位層
14m 窒化傾斜単位層
14n 窒化傾斜単位層
14x 窒化傾斜連続被膜
14y 窒化傾斜多層被膜
20 アークイオンプレーティング装置
21 真空チャンバ
22 真空排気システム
23 加熱用ヒーター
24 フィラメント放電システム
25 カソードシステム
25a アーク放電用電源a
25b アーク放電用電源b
25c アーク放電用電源c
25d アーク放電用電源d
26 回転基盤機構
26a 大テーブル
26b 小円盤
26c 軸
26d 基盤バイアス電源
27 ガス導入用システム
30 切削チップ
31 すくい面
32 逃げ面
33 切削方向
40 被工作物
RP 粗排気用のロータリーポンプ
TMP 高排気用のターボ分子ポンプ
CP クライオポンプ
f 切削距離
t 切り込み深さ
【手続補正書】
【提出日】2022-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記組成比a、b、c、d、eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成し、前記被膜は耐酸化性を有する酸化アルミニウムと耐摩耗性を有する窒化クロムが混晶状態にあるから、前記被膜は耐酸化性且つ耐摩耗性を有しており、
前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つ a+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することであり、前記酸窒化傾斜層には、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜の場合、また前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜の場合が少なくとも含まれることを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項2】
基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記組成比a、b、c、d、eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成し、前記被膜は耐酸化性を有する酸化
アルミニウムと耐摩耗性を有する窒化クロムが混晶状態にあるから、前記被膜は耐酸化性且つ耐摩耗性を有しており、
前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に中間層を設け、当該中間層は組成式AlfCrgMhNiで表される窒化物被膜であり、組成比f、g、h、iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含むことを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項3】
前記中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項2に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項4】
前記中間層は、第1中間層と第2中間層が積層されて構成され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項2に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項5】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlfCrgMhNiを有し、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi,Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比f、 g、 h、 iが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項2~4のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項6】
前記窒化傾斜層は、前記組成比f、 g、 h、 iが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比f、 g、 h、 iの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜である請求項5に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項7】
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項2~4のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項8】
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項7に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項9】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlfCrgMhNiを有し、組成比f、 g、 h、 iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi,Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比f、 g、 h、 iが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することであり、
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組
成式AlaCrbMcOdNeを有し、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比a、b、c、d、eが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項2~4のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項10】
前記窒化傾斜層は、前記組成比f、 g、 h、 iが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比f、 g、 h、 iの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜であり、
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比a、b、c、d、eが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比a、 b、 c、 d、 eの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項9に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項11】
前記酸窒化単位層の単位層厚が0.5 nm~50nmである請求項1~4のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項12】
前記酸窒化単位層の結晶構造がα型の酸化アルミニウムを有する請求項1~4のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項13】
前記酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmである請求項1~4のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項に記載されたAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を前記基材の表面の少なくとも一部又は全部に被覆したことを特徴とする被覆物。
【請求項15】
前記基材が硬質基材からなる被覆物であり、当該被覆物が高硬度工具として用いられ、前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼を含み、前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型、切削具を含む請求項14に記載の被覆物。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記組成比a、b、c、d、eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成し、前記被膜は耐酸化性を有する酸化アルミニウムと耐摩耗性を有する窒化クロムが混晶状態にあるから、前記被膜は耐酸化性且つ耐摩耗性を有しており、
前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に中間層を設け、当該中間層は組成式AlfCrgMhNiで表される窒化物被膜であり、組成比f、g、h、iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含むことを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項2】
前記中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項1に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項3】
前記中間層は、第1中間層と第2中間層が積層されて構成され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項1に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項4】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlαCrβMγNδを有し、組成比α、β、γ、δは原子比率であり、0.25≦α≦0.6、0.1≦β≦0.37、 0≦γ≦0.2、 0.15≦δ≦0.57且つα+β+γ+δ=1を満足しており、MはSi, Hf,Bのい
ずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比α、β、γ、δが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項5】
前記窒化傾斜層は、前記組成比α、β、γ、δが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比α、β、γ、δの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜である請求項4に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項6】
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlvCrwMxOyNzを有し、組成比v、w、x、y、zは原子比率であり、0.2≦v≦0.45、0.02≦w≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦0.5、0.1≦z≦0.4且つv+w+x+y+z=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比v、w、x、y、zが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項7】
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比v、w、x、y、zが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比v、w、x、y、zの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項6に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項8】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlαCrβMγNδを有し、組成比α、β、γ、δは原子比率であり、0.25≦α≦0.6、0.1≦β≦0.37、 0≦γ≦0.2、 0.15≦δ≦0.57且つα+β+γ+δ=1を満足しており、MはSi, Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比α、β、γ、δが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することであり、
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlvCrwMxOyNzを有し、組成比v、w、x、y、zは原子比率であり、0.2≦v≦0.45、0.02≦w≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦0.5、0.1≦z≦0.4且つv+w+x+y+z=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比v、w、x、y、zが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項9】
前記窒化傾斜層は、前記組成比α、β、γ、δが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比α、β、γ、δの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜であり、
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比v、w、x、y、zが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比v、w、x、y、zの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項8に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項10】
前記酸窒化単位層の単位層厚が0.5 nm~50nmである請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項11】
前記酸窒化単位層の結晶構造がα型の酸化アルミニウムを有する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項12】
前記酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmである請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載されたAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を前記基材の表面の少なくとも一部又は全部に被覆したことを特徴とする被覆物。
【請求項14】
前記基材が硬質基材からなる被覆物であり、当該被覆物が高硬度工具として用いられ、前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼のいずれかであり、前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型、切削具のいずれかである請求項13に記載の被覆物。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の少なくとも一部又は全部を被覆して保護するアルミニウムとクロムの酸窒化物で構成された被膜であり、当該被膜の組成式AlaCrbMcOdNeにおいて、組成比a、b、c
、d、eは原子比率であり、0.2≦a≦0.45、0.02≦b≦0.2、0≦c≦0.2、0.15≦d≦0.5、0.1≦e≦0.4且つa+b+c+d+e=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元
素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記組成比a、b、c、d、eの組合せが異なる少なくとも2種類以上の酸窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した酸窒化超多層被膜により前記被膜を構成し、前記被膜は耐酸化性を有する酸化アルミニウムと耐摩耗性を有する窒化クロムが混晶状態にあるから、前記被膜は耐酸化性且つ耐摩耗性を有しており、
前記基材と前記酸窒化超多層被膜の間に中間層を設け、当該中間層は組成式AlfCrgMhNiで表される窒化物被膜であり、組成比f、g、h、iは原子比率であり、0.25≦f≦0.6、0.1
≦g≦0.37、 0≦h≦0.2、 0.15≦i≦0.57且つf+g+h+i=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含むことを特徴とするAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項2】
前記中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項1に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項3】
前記中間層は、第1中間層と第2中間層が積層されて構成され、第1中間層は前記窒化物被膜で構成され、第2中間層は、前記組成比f、g、h、iの組合せが異なる少なくとも2種類以上の窒化単位層を周期的又は略周期的に積層した窒化超多層被膜から構成される請求項1に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項4】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlαCrβMγNδを有し、組成比α、β、γ、δは原子比率であり、0.25≦α≦0.6、0.1≦β≦0.37、 0≦γ≦0.2、 0.15≦δ≦0.57且つα+β+γ+δ=1を満足しており、MはSi, Hf,Bのい
ずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比α、β、γ、δが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項5】
前記窒化傾斜層は、前記組成比α、β、γ、δが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比α、β、γ、δの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜である請求項4に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項6】
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlvCrwMxOyNzを有し、組成比v、w、x、y、zは原子比率であり、0.2≦v≦0.45
、0.02≦w≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦0.5、0.1≦z≦0.4且つv+w+x+y+z=1を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素M
は添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比v、w、x、y、zが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項7】
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比v、w、x、y、zが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比v、w、x、y、zの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項6に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項8】
前記基材と前記中間層の間に窒化傾斜層を設け、当該窒化傾斜層は組成式AlαCrβMγNδを有し、組成比α、β、γ、δは原子比率であり、0.25≦α≦0.6、0.1≦β≦0.37、 0≦γ≦0.2、 0.15≦δ≦0.57且つα+β+γ+δ=1を満足しており、MはSi, Hf,Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記窒化傾斜層の特徴は、前記基材と前記中間層の間において、前記組成比α、β、γ、δが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化することであり、
前記中間層と前記酸窒化超多層被膜の間に酸窒化傾斜層を設け、当該酸窒化傾斜層は組成式AlvCrwMxOyNzを有し、組成比v、w、x、y、zは原子比率であり、0.2≦v≦0.45
、0.02≦w≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦0.5、0.1≦z≦0.4且つv+w+x+y+z=1
を満足しており、MはSi、Hf、Bのいずれか1種類以上の添加元素であり且つ当該添加元素Mは添加される場合と添加されない場合を含み、前記酸窒化傾斜層の特徴は、前記中間層
と前記酸窒化超多層被膜の間において、前記組成比v、w、x、y、zが前記組成比の範囲内において傾斜的に変化する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項9】
前記窒化傾斜層は、前記組成比α、β、γ、δが連続的に変化しながら傾斜する窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比α、β、γ、δの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の窒化傾斜単位層を積層した窒化傾斜多層被膜であり、
前記酸窒化傾斜層は、前記組成比v、w、x、y、zが連続的に変化しながら傾斜する酸窒化傾斜連続被膜であるか、又は前記組成比v、w、x、y、zの組合せが傾斜的に変化する2種類以上の酸窒化傾斜単位層を積層した酸窒化傾斜多層被膜である請求項8に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項10】
前記酸窒化単位層の単位層厚が0.5 nm~50nmである請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項11】
前記酸窒化単位層の結晶構造がα型の酸化アルミニウムを有する請求項1~3のいずれか1項に記載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項12】
前記酸窒化超多層被膜の膜厚が0.2μm~10μmである請求項1~3のいずれか1項に記
載のAlCr耐酸化耐摩耗性被膜。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載されたAlCr耐酸化耐摩耗性被膜を前記基材の表面の少なくとも一部又は全部に被覆したことを特徴とする被覆物。
【請求項14】
前記基材が硬質基材からなる被覆物であり、当該被覆物が高硬度工具として用いられ、前記硬質基材がWC超硬合金,サーメット、セラミックス、高速度工具鋼、ダイス鋼のいずれかであり、前記高硬度工具が切削チップ、ドリル、エンドミル、パンチ、金型、冷間金型、熱間金型、切削具のいずれかである請求項13に記載の被覆物。