(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026318
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、液晶素子、重合体並びに化合物
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20230216BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094524
(22)【出願日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2021131212
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】田中 尊書
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
【テーマコード(参考)】
2H290
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA03
2H290AA15
2H290AA33
2H290BD01
2H290BF13
2H290BF23
2H290BF34
2H290DA01
2H290DA03
4J043PA04
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB02
4J043TA22
4J043TA71
4J043UA021
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4J043UA032
4J043UA041
4J043UA121
4J043UA131
4J043UA141
4J043UB221
4J043UB231
4J043VA021
4J043XA16
4J043ZA09
4J043ZA55
4J043ZB23
(57)【要約】
【課題】高いラビング耐性と良好な電圧保持特性とを両立できる液晶配向膜を形成でき、光配向法により液晶配向膜を製造した場合に昇華異物の発生を抑制でき、かつ振動耐性に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択され、かつ式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を液晶配向剤に含有させる。式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X
1は、単結合又は2価の有機基である。D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基である。「*」は、重合体主鎖を構成している原子に結合する結合手を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択され、かつ下記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X
1は、単結合又は2価の有機基である。D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基である。「*」は、重合体主鎖を構成している原子に結合する結合手を表す。)
【請求項2】
前記重合体[P]は、下記式(2)で表される部分構造及び下記式(3)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(2)及び式(3)中、Y
1は4価の有機基である。Y
2は、上記式(1)で表される部分構造を有する2価の基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6の1価の有機基である。)
【請求項3】
前記Y
2は、下記式(4)で表される2価の基である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(4)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。B
1、B
2及びB
3は、それぞれ独立して、単結合、-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-、-S-、炭素数1~12の直鎖状のアルカンジイル基、又は、炭素数2~12の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-NR
5-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-若しくは-S-に置き換えられてなる2価の基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。mは0又は1である。R
1、X
1及びR
2は上記式(1)と同義である。mが1の場合、式中の複数のR
1、複数のX
1及び複数のR
2はそれぞれ、同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【請求項4】
前記X1は単結合である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記R1は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記D
1は、下記式(5)で表される基である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化4】
(式(5)中、R
7は、炭素数1~20の1価の有機基である。「*」は窒素原子に結合する結合手を表す。)
【請求項7】
上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有しない重合体を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する工程と、
を含む、液晶配向膜の製造方法。
【請求項10】
前記光照射処理が施された塗膜を、120℃以上280℃以下の温度で加熱する工程を更に含む、請求項9に記載の液晶配向膜の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【請求項12】
下記式(2)で表される部分構造及び下記式(3)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する重合体。
【化5】
(式(2)及び式(3)中、Y
1は4価の有機基である。Y
2は、下記式(1)で表される部分構造を有する2価の有機基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6の1価の有機基である。)
【化6】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X
1は、単結合又は2価の有機基である。D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基である。「*」は、重合体主鎖を構成している原子に結合する結合手を表す。)
【請求項13】
下記式(6)で表される化合物。
【化7】
(式(6)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X
1は、単結合又は2価の有機基である。D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基である。A
1及びA
2は、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。B
1、B
2及びB
3は、それぞれ独立して、単結合、-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-、-S-、炭素数1~12の直鎖状のアルカンジイル基、又は、炭素数2~12の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-NR
5-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-若しくは-S-に置き換えられてなる2価の基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。mは0又は1である。mが1の場合、式中の複数のR
1、複数のX
1及び複数のR
2はそれぞれ、同一又は異なる。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、液晶素子、重合体並びに化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、テレビやモバイル機器、各種モニター等の各種デバイスとして広く利用されている。液晶素子においては、基板上に形成された有機膜である液晶配向膜によって液晶セル中の液晶分子が配向制御されている。液晶配向規制力を有する有機膜を得る方法としては、従来、重合体組成物を用いて形成した有機膜にラビング処理を施す方法、酸化ケイ素を斜方蒸着する方法、長鎖アルキル基を有する単分子膜を形成する方法、感光性の有機膜に光照射する方法(光配向法)などが知られている。
【0003】
ラビング法は、簡便であって、液晶分子の配向性が良好であることから一般に使用されている。また、光配向法は、静電気や埃の発生を抑えつつ感光性の有機膜に均一な液晶配向性を付与することができ、しかも液晶配向方向の精密な制御も可能であることから、近年、種々検討が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラビング法による液晶配向制御を採用する場合、ラビング処理時に液晶配向膜の削れが発生することを抑え、膜の削れに起因する表示品位の低下を抑制することが求められる。その一方で、ラビング耐性と電圧保持率とはトレードオフの関係にあることが多く、ラビングに対する削れ耐性が良好な従来の液晶配向剤は電圧保持率が低下しやすい傾向にある。
【0006】
また、光配向法による場合、通常、有機膜への光照射によって発生した分解物を加熱炉で加熱することにより分解物を除去することが行われている。こうした分解物の除去処理では、加熱により昇華した分解物が加熱炉の排気管の中で結晶化し、異物(以下、「昇華物」ともいう)として排気管内に付着しやすい。このため、昇華異物を除去するべく排気管内の清掃が必要となり、液晶パネルの生産効率が低下することが懸念される。
【0007】
更に近年では、車載用パネルのニーズが高まっており、振動等の負荷が液晶パネルに加わった場合にも、その負荷に伴う輝点の発生が抑制された液晶配向膜が求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高いラビング耐性と良好な電圧保持特性とを両立できる液晶配向膜を形成でき、光配向法により液晶配向膜を製造した場合に昇華異物の発生を抑制でき、かつ振動耐性に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解熱するべく本発明者らは鋭意検討し、その結果、特定構造を有する重合体を含む液晶配向剤によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、液晶素子、重合体並びに化合物が提供される。
【0010】
<1> ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択され、かつ下記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X
1は、単結合又は2価の有機基である。D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基である。「*」は、重合体主鎖を構成している原子に結合する結合手を表す。)
【0011】
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<1>の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
<4> 上記<2>の液晶配向膜を備える液晶素子。
【0012】
下記式(2)で表される部分構造及び下記式(3)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する重合体。
【化2】
(式(2)及び式(3)中、Y
1は4価の有機基である。Y
2は、上記式(1)で表される部分構造を有する2価の基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6の1価の有機基である。)
【0013】
下記式(6)で表される化合物。
【化3】
(式(6)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。B
1、B
2及びB
3は、それぞれ独立して、単結合、-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-、-S-、炭素数1~12の直鎖状のアルカンジイル基、又は、炭素数2~12の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-NR
5-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-若しくは-S-に置き換えられてなる2価の基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。mは0又は1である。R
1、X
1及びR
2は上記式(1)と同義である。mが1の場合、式中の複数のR
1、複数のX
1及び複数のR
2はそれぞれ、同一又は異なる。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶配向剤によれば、高いラビング耐性と良好な電圧保持特性とを両立できる液晶配向膜を形成することができる。また、光配向法により液晶配向膜を製造した場合に、昇華異物の発生を抑制することができる。さらに、振動耐性に優れた液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]を含有する。また、本開示の液晶配向剤は、重合体[P]とともに、重合体[P]とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0016】
<重合体[P]>
重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択され、かつ下記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体である。
【化4】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。X
1は、単結合又は2価の有機基である。D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基である。「*」は、重合体主鎖を構成している原子に結合する結合手を表す。)
【0017】
ここで、本明細書において、重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。なお、この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。したがって、「式(1)で表される部分構造を主鎖に有する」とは、この部分構造が主鎖の一部分を構成することをいう。重合体の「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【0018】
式(1)において、R1及びR2で表される1価の有機基としては、置換又は無置換の1価の炭化水素基、及び置換又は無置換の1価の炭化水素基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR15-、-CO-NR15-又は-NR15-CO-(ただし、R15は水素原子又は1価の有機基である)等で置き換えられてなる基が挙げられる。
【0019】
ここで、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0020】
R1及びR2で表される1価の炭化水素基の具体例としては、鎖状炭化水素基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、及びヘキセニル基等を;脂環式炭化水素基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びビシクロヘキシル基等を;芳香族炭化水素基として、フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェニルエチル基、シクロヘキシルフェニル基、フェニルシクロヘキシル基、アルキルシクロヘキシルフェニル基、及びアルキルフェニルシクロヘキシル基等を、それぞれ挙げることができる。
【0021】
R1及びR2が1価の置換された炭化水素基である場合の具体例としては、上記で例示した1価の炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、-O-P(=O)(OR)2、-COOR、カルボキシ基、リン酸基、-COSR、アミド基(-CO-NH2)、ニトロ基、オルガノオキシ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、及びアルコキシカルボニルアミノ基のうちの1種以上によって置換された基(ただし、Rはそれぞれ独立して1価の炭化水素基)が挙げられる。
【0022】
R1が嵩高い構造である場合、得られる液晶素子の液晶配向性が低下する傾向がある。したがって、R1は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、水素原子又はメチル基が更に好ましく、水素原子がより更に好ましい。
【0023】
R2は、式(1)中の窒素含有基(-NR2D1)の反応性の観点から、水素原子又は炭素数1~20の1価の有機基であることが好ましい。ラビング耐性及び振動耐性に優れた液晶配向膜を得る観点から、R2は、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基が好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子又はメチル基が更に好ましい。
【0024】
式(1)において、D
1は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の基であればよく、その構造は特に限定されない。D
1は、少なくとも熱により脱離する1価の有機基であることが好ましく、例えば、カルバメート系脱離基、アミド系脱離基、イミド系脱離基、スルホンアミド系脱離基等が挙げられる。また、D
1の具体例としては更に、下記式(D-1)~(D-5)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【化5】
(式(D-1)~(D-5)中、Ar
1は、炭素数6~10の1価の芳香環基である。R
13は、炭素数1~12のアルキル基である。R
14は1価の有機基である。「*」は、窒素原子に結合する結合手を表す。)
【0025】
式(D-2)において、Ar1は、炭素数6~10の置換又は無置換の芳香環の環部分から1個の水素原子を取り除いた基である。Ar1で表される基の具体例としては、例えばフェニル基、メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0026】
式(D-4)において、R13で表される炭素数1~12のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、これらは直鎖状でも分岐状でもよい。
【0027】
式(D-5)において、R14で表される1価の有機基としては、例えば炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基等が挙げられる。これらの中でも、R14は、炭素数6~10のアリール基が好ましく、フェニル基やナフチル基等の芳香環基がより好ましい。なお、上記式(D-1)~(D-5)のそれぞれで表される基は、熱だけでなく光による脱離も可能である。
【0028】
熱による脱離性が高い点で、D
1は中でもカルバメート系脱離基が好ましく、具体的には、下記式(5)で表される基が好ましい。
【化6】
(式(5)中、R
7は、炭素数1~20の1価の有機基である。「*」は結合手を表す。)
【0029】
式(5)において、R7で表される炭素数1~20の1価の有機基としては、例えば炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、2,2,2-トリクロロエチル基、及び2-(トリメチルシリル)エチル基が挙げられる。
【0030】
カルバメート系脱離基の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、2-ニトロベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエチルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0031】
D1は、熱による脱離性が高い点で、中でも、tert-ブトキシカルボニル基又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基が好ましい。製膜時の加熱によって脱離したD1に由来する化合物を気体として膜外に十分に排出できる点で、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0032】
式(1)において、X
1は単結合又は2価の有機基である。X
1が2価の有機基の場合の具体例としては、例えば下記式(7)で表される基が挙げられる。
【化7】
(式(7)中、R
7は、単結合又は炭素数1~20の2価の炭化水素基である。R
8は炭素数1~20の2価の炭化水素基である。B
4は、単結合又は2価の連結基である。ただし、B
4が単結合の場合、R
7は単結合である。「*
1」は、式(1)中の炭素原子との結合手を表し、「*
2」は式(1)中の窒素原子との結合手を表す。)
【0033】
式(7)において、R7及びR8で表される炭素数1~20の2価の炭化水素基は、好ましくは1~10の2価の炭化水素基である。なお、R7は、重合体の主鎖に結合している。液晶素子の液晶配向性をより優れたものとする観点から、R7は、単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基、アルケニル基若しくはアルキニル基が好ましく、単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基がより好ましく、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基が更に好ましい。R8は、炭素数1~10のアルカンジイル基、アルケニル基若しくはアルキニル基が好ましく、炭素数1~10のアルカンジイル基がより好ましく、炭素数1~3のアルカンジイル基が更に好ましい。
【0034】
B
4で表される2価の連結基の具体例としては、下記式(B4-1)~式(B4-13)のそれぞれで表される基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【化8】
(式(B4-1)~式(B4-13)中、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~20の1価の置換若しくは無置換の炭化水素基である。R
11及びR
12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20の1価の置換若しくは無置換の炭化水素基、又は、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の脱離基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0035】
式(B4-1)~式(B4-3)において、R9及びR10で表される炭素数1~20の1価の置換又は無置換の炭化水素基の具体例としては、R1及びR2で表される1価の置換又は無置換の炭化水素基の例示を採用することができる。R9及びR10が芳香環や脂環構造等の嵩高い構造であると、液晶配向性が低下する傾向がある。このような観点から、R9及びR10は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0036】
式(B4-9)~式(B4-13)において、R11及びR12で表される炭素数1~20の1価の置換又は無置換の炭化水素基の具体例としては、R1及びR2で表される1価の置換又は無置換の炭化水素基の例示を採用することができる。R11及びR12で表される1価の脱離基の具体例としては、D1で表される基の例示を採用することができる。
【0037】
液晶素子の液晶配向性をより優れたものとする観点、及び液晶パネル面内における色ずれに影響を与えるチルト角を発現することを抑制する観点から、式(1)中のX1は中でも、単結合であるか、又は炭素数1~10のアルカンジイル基、アルケニル基若しくはアルキニル基が好ましく、単結合又は炭素数1~5のアルカンジイル基がより好ましく、単結合、メチレン基又はエチレン基が更に好ましく、単結合がより更に好ましい。
【0038】
重合体[P]は、上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有するテトラカルボン酸誘導体、及び上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有するジアミンよりなる群から選択される少なくとも1種の単量体を用いた重合により製造することができる。単量体の選択の自由度が高い点において、重合体[P]は、上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう)を用いた重合により製造されることが好ましい。具体的には、重合体[P]は、下記式(2)で表される部分構造及び下記式(3)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【化9】
(式(2)及び式(3)中、Y
1は4価の有機基である。Y
2は、上記式(1)で表される部分構造を有する2価の基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6の1価の有機基である。)
【0039】
式(2)及び式(3)において、Y1は、テトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基である。なお、本明細書において、「テトラカルボン酸誘導体」は、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を含む意味である。
【0040】
Y1を与えるテトラカルボン酸誘導体としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの製造において使用可能なテトラカルボン酸誘導体として公知の化合物を使用することができる。光配向法により液晶配向膜を得る場合、Y1は、シクロブタン環構造を有する4価の基であることが好ましく、シクロブタン環の環部分に少なくとも1個の置換基を有することがより好ましい。シクロブタン環が有する置換基としては、例えばハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、チオアルキル基、「-COR30」(R30は、炭素数1~6のアルキル基、フッ素含有アルキル基、アルコキシ基又はフッ素含有アルコキシ基である)等が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、1~4個が好ましく、1又は2個がより好ましい。
【0041】
Y
1がシクロブタン環構造を有する4価の基である場合、Y
1は、下記式(8)で表される基であることが好ましい。
【化10】
(式(8)中、R
31、R
32及びR
33は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロゲン化アルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のチオアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は「-COR
30」(R
30は、炭素数1~6のアルキル基、フッ素含有アルキル基、アルコキシ基又はフッ素含有アルコキシ基である)である。R
34は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロゲン化アルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のチオアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は「-COR
30」である。ただし、R
31~R
34のうち隣接する基同士が結合して環構造を形成していてもよい。「*」は結合手を表す。)
【0042】
上記式(2)において、R3及びR4で表される炭素数1~6の1価の有機基としては、例えば、炭素数1~6の1価の炭化水素基が挙げられる。加熱によるイミド化のしやすさの点から、R3及びR4は、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0043】
上記式(2)及び式(3)において、Y
2は、上記式(1)で表される部分構造を有していればよく、その他の構造については特に限定されない。光配向処理を行う場合に昇華異物の発生を低減させる観点、及び振動が与えられた場合にも輝点発生が少ない液晶素子を得る観点から、Y
2は、下記式(4)で表される2価の基であることが好ましい。
【化11】
(式(4)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。B
1、B
2及びB
3は、それぞれ独立して、単結合、-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-、-S-、炭素数1~12の直鎖状のアルカンジイル基、又は、炭素数2~12の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-CO-NR
5-、-NR
5-CO-、-NR
5-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
5-CO-NR
6-、-NR
5-CO-O-、-O-CO-NR
5-、-O-若しくは-S-に置き換えられてなる2価の基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。mは0又は1である。R
1、X
1及びR
2は上記式(1)と同義である。mが1の場合、式中の複数のR
1、複数のX
1及び複数のR
2はそれぞれ、同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【0044】
式(4)において、A1及びA2で表される2価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基である。当該芳香環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環等の芳香族炭化水素環;ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環及びイミダゾール環等の窒素含有芳香族複素環;チオフェン環等の硫黄含有芳香族複素環等が挙げられる。芳香環が置換基を有する場合、当該置換基としては、炭素数1~6のアルキル基等が挙げられる。
【0045】
液晶配向性及び電圧保持特性を良好にする観点から、A
1及びA
2は、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環及びイミダゾール環よりなる群から選択される環構造を有していることが好ましい。A
1及びA
2の好ましい具体例としては、下記式(a-1)~式(a-11)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化12】
(式中、「*」は結合手を表す。)
【0046】
液晶配向性及び電圧保持特性に優れた液晶配向膜を形成できる点で、A1及びA2は、上記のうち、式(a-1)~式(a-6)で表される基が好ましく、式(a-1)及又は式(a-6)で表される基がより好ましい。
【0047】
B1、B2及びB3で表される炭素数1~12の直鎖状のアルカンジイル基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-へキシレン基、1,9-ノニレン基、1,12-ドデシレン基等が挙げられる。これらのうち、光配向処理に伴う昇華異物の発生を低減させる効果及び液晶素子が振動を受けた場合に輝点が発生しにくく表示品位の低下が生じにくい効果を十分に得つつ、液晶素子の液晶配向性をより優れたものとする観点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~3がより好ましい。
【0048】
B1、B2及びB3において、炭素数2~12の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基を置き換える基は、-CO-NR5-、-NR5-CO-、-NR5-、-CO-O-、-O-CO-、-O-又は-S-であることが好ましく、-CO-NR5-、-NR5-CO-、-O-又は-S-であることがより好ましい。なお、炭素数2~12の直鎖状のアルカンジイル基における複数のメチレン基が置き換えられる場合、互いに隣り合うメチレン基が同時に置き換えられることはない。
【0049】
R5及びR6で表される1価の有機基としては、炭素数1~20の1価の置換若しくは無置換の炭化水素基、並びに、熱、光、酸及び塩基の少なくともいずれかにより水素原子に置き換わる1価の脱離基が挙げられる。R5及びR6で表される炭素数1~20の1価の置換又は無置換の炭化水素基の具体例としては、R1及びR2で表される1価の置換又は無置換の炭化水素基の例示を採用することができる。R5及びR6で表される1価の脱離基の具体例としては、D1で表される基の例示を採用することができる。液晶配向性を良好にする観点から、R5及びR6は中でも、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基が好ましい。
【0050】
B1、B2及びB3は、光配向処理に伴う昇華異物が発生しにくく、かつ液晶素子が振動を受けた場合に輝点が発生しにくい効果を十分に得つつ、液晶素子の液晶配向性をより優れたものとする観点から、中でも、炭素数1~6の直鎖状のアルカンジイル基であるか、又は、炭素数2~6の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-CO-NR5-、-NR5-CO-、-NR5-、-CO-O-、-O-CO-、-NR5-CO-NR6-、-NR5-CO-O-、-O-CO-NR5-、-O-若しくは-S-に置き換えられてなる2価の基であることが好ましい。上記観点から、中でも特に、炭素数1~3の直鎖状のアルカンジイル基であるか、又は、炭素数2~3の直鎖状のアルカンジイル基における任意のメチレン基が隣り合わない条件で、-CO-NR5-、-NR5-CO-、-NR5-、-CO-O-、-O-CO-、-NR5-CO-NR6-、-NR5-CO-O-、-O-CO-NR5-、-O-若しくは-S-に置き換えられてなる2価の基であることが好ましい。
【0051】
B
1、B
2及びB
3の好ましい具体例としては、下記式(b-1)~式(b-20)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化13】
【0052】
mは0又は1であり、ラビング耐性の観点から0が好ましい。
式(4)において、R1、R2、X1及びD1の具体例及び好ましい例については、上記の説明を適用できる。
【0053】
重合体[P]において、式(2)で表される部分構造及び式(3)で表される部分構造の合計の含有割合は、3モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%%以上であることが更に好ましい。式(2)及び式(3)で表される部分構造の含有割合が上記範囲であると、ラビング処理により液晶配向制御を行う場合にラビング耐性と電圧保持特性とを両立できる点、光配向法により液晶配向制御を行う場合に昇華異物の発生を少なくできる点、及び振動耐性に優れた液晶素子を得ることができる点で好適である。また、重合体[P]において、式(2)で表される部分構造及び式(3)で表される部分構造の合計の含有割合は、100モル%以下であればよく、80モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましい。
【0054】
重合体[P]としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの製造方法は特に限定されず、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより製造できる。
【0055】
[ポリアミック酸]
重合体[P]としてのポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。
【0056】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。
【0057】
鎖状テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0058】
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物等が挙げられる。また、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、上記の他、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
光配向処理により塗膜に液晶配向能を付与する場合、特定ジアミンとの組合せにおいて塗膜の光反応性をより高くできる点で、ポリアミック酸(P)の合成に際し置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えば下記式(t-1)~式(t-6)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化14】
【0060】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を用いる場合、その使用割合は、塗膜の光反応性を十分に高くする観点から、合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の合計量に対して、10モル%以上とすることが好ましい。より好ましくは30モル%以上であり、更に好ましくは50モル%以上である。
【0061】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸(P)の合成に際しては特定ジアミンを好ましく使用できる。特定ジアミンは、上記式(1)で表される部分構造を有していればよく、その他の構造は特に限定されない。特定ジアミンの好ましい具体例としては、例えば下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【化15】
(式(6)中、R
1、X
1、R
2、A
1、A
2、B
1、B
2、B
3及びmは上記式(4)と同義である。)
【0062】
上記式(6)中のA
1、A
2、B
1、B
2、B
3、R
1、R
2、X及びDの具体例及び好ましい例については、上記式(4)の説明がそれぞれ適用される。特定ジアミンの具体例としては、例えば下記式(d-1)~式(d-28)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。式(d-14)中、nは1~20の整数である。なお、構造式中の「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を表し、「Fmoc」は9-フルオレニルメトキシカルボニル基を表し、「TMS」はトリメチルシリル基を表す(以下同じ)。下記式(d-1)~式(d-25)中にある不斉炭素は立体構造を規定するものではなく、R体及びS体のうちいずれか単一でもよく、R体とS体が任意の比率で混在していてもよい。
【化16】
【化17】
【化18】
【0063】
特定ジアミンは、これらのうち、式(d-1)~式(d-21)のそれぞれで表される化合物が好ましく、式(d-1)~式(d-12)のそれぞれで表される化合物がより好ましく、式(d-1)~式(d-8)、式(d-20)及び式(d-21)のそれぞれで表される化合物が更に好ましく、式(d-1)、式(d-7)、式(d-8)、式(d-20)及び式(d-21)のそれぞれで表される化合物が特に好ましい。なお、特定ジアミンは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
特定ジアミンは、有機化学の定法を適宜組み合わせることによって合成することができる。その一例としては、上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンの1級アミノ基に代えてニトロ基を有するジニトロ中間体を合成し、次いで、得られたジニトロ中間体のニトロ基を適用な還元系を用いてアミノ化する方法が挙げられる。
【0065】
ジニトロ中間体を合成する方法は、目的とする化合物に応じて適宜選択することができる。例えば、上記式(1)で表される部分構造を有する水酸基含有化合物と、ハロゲン化ニトロベンゼンとを好ましくは有機溶媒中、必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;上記式(1)で表される部分構造を有する酸ハロゲン化物と、アミノ基含有化合物とを好ましくは有機溶媒中、必要に応じて触媒の存在下で縮合させる方法;上記式(1)で表される部分構造を有するカルボン酸と、アミノ基含有化合物とを好ましくは有機溶媒中、必要に応じて触媒の存在下で縮合させる方法、等が挙げられる。
【0066】
ジニトロ中間体の還元反応は、好ましくは有機溶媒中、触媒(例えば、パラジウム担持カーボン、酸化白金、亜鉛、鉄、スズ、ニッケル等)を用いて実施することができる。ここで使用する有機溶媒としては、例えば酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、アルコール系等が挙げられる。ただし、特定ジアミンの合成手順は上記方法に限定されるものではない。
【0067】
ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物は特定ジアミンのみであってもよい。また、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物としては、特定ジアミンと、上記式(1)で表される部分構造を有しないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)とを併用してもよい。
【0068】
その他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。
【0069】
その他のジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、例えばm-キシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を;脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、テトラデカノキシジアミノベンゼン、ペンタデカノキシジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、N-(2,4-ジアミノフェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)ベンズアミド、下記式(E-1)
【化19】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を表す)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物などの配向性基含有ジアミン:
パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、N,N’-ジ(5-アミノ-2-ピリジル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン、4,4’-(2,2’-オキシビス(エタン-2,1-ジイル)ビス(オキシ))ジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸、下記式(D-1)
【化20】
(式(D-1)中、R
41及びR
42は、それぞれ独立してアルカンジイル基である。X
41は、-COO-、-NR
43CO-又は-NR
43CONR
44-である。R
43及びR
44は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基である。n1は1~3の整数である。n1が2又は3の場合、複数のX
41は同一又は異なり、複数のR
42は同一又は異なる。)
で表される化合物等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。ポリアミック酸(P)の合成に使用するその他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0070】
上記式(E-1)における「-XI-(RI-XII)d-」で表される2価の基としては、炭素数1~3のアルカンジイル基、*-O-、*-COO-又は*-O-C2H4-O-(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。RIIIで表される基は直鎖状であることが好ましい。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4-位又は3,5-位にあることが好ましい。
【0071】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【化21】
【0072】
上記式(D-1)で表される化合物としては、例えば下記式(D-1-1)~式(D-1-5)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化22】
【0073】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対し、3モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。特定ジアミンの使用割合が上記範囲であると、ラビング処理により液晶配向制御を行う場合にラビング耐性と電圧保持特性とを両立できる点、光配向法により液晶配向制御を行う場合に昇華異物の発生を少なくできる点、及び振動耐性に優れた液晶素子を得ることができる点で好適である。また、ポリアミック酸(P)の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対し、100モル%以下であればよく、80モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましい。
【0074】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸(P)は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸(P)の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0075】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水イタコン酸等の酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン及びn-ブチルアミン等のモノアミン化合物;フェニルイソシアネート及びナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0076】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。また、反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0077】
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第1群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第1群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第2群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第2群の有機溶媒の使用割合は、第1群の有機溶媒及び第2群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0078】
特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒との混合物を、上記割合の範囲で使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(x)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計量(y)が、反応溶液の全量(x+y)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0079】
以上のようにして、ポリアミック酸(P)を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸(P)を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸(P)を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸(P)を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸(P)の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0080】
[ポリアミック酸エステル]
重合体[P]としてのポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸(P)とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。
【0081】
なお、本明細書において「テトラカルボン酸ジエステル」とは、テトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち2個がエステル化され、残りの2個がカルボキシ基である化合物を意味する。「テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物」とは、テトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち2個がエステル化され、残りの2個がハロゲン化された化合物を意味する。
【0082】
方法[I]で使用するエステル化剤としては、例えば水酸基含有化合物、アセタール系化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等が挙げられる。これらの具体例としては、水酸基含有化合物として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、フェノール、クレゾール等のフェノール類等を;アセタール系化合物として、例えばN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジエチルホルムアミドジエチルアセタール等を;ハロゲン化物として、例えば臭化メチル、臭化エチル、臭化ステアリル、塩化メチル、塩化ステアリル、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン等を;エポキシ基含有化合物として、例えばプロピレンオキシド等を、それぞれ挙げることができる。
【0083】
方法[II]で使用するテトラカルボン酸ジエステルは、例えばポリアミック酸(P)の合成の説明において例示したテトラカルボン酸二無水物を、メタノールやエタノール等のアルコール類を用いて開環することにより得ることができる。なお、方法[II]で使用するテトラカルボン酸誘導体はテトラカルボン酸ジエステルのみであってもよいが、テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。ジアミン化合物については、ポリアミック酸の合成で例示した特定ジアミンを単独で使用してもよいし、又はその他のジアミンを併用してもよい。
【0084】
方法[II]の反応は、有機溶媒中、適当な脱水触媒の存在下で行うことが好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水触媒としては、例えば4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムハライド、カルボニルイミダゾール、リン系縮合剤等が挙げられる。このときの反応温度は、-20~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0085】
方法[III]で使用するテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、例えば上記の如くして得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。なお、方法[III]で使用するテトラカルボン酸誘導体はテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物のみであってもよいが、テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。ジアミン化合物については、ポリアミック酸(P)の合成の説明において例示した特定ジアミンを単独で使用してもよいし、又はその他のジアミンを併用してもよい。
【0086】
方法[III]の反応は、有機溶媒中、適当な塩基の存在下で行うことが好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン等の3級アミン;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類等を好ましく使用することができる。このときの反応温度は、-20~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0087】
液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸エステルを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸エステルの単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0088】
[ポリイミド]
重合体[P]としてのポリイミドは、例えば、上記の如くして合成されたポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0089】
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20%以上であることが好ましく、30~99%であることがより好ましく、40~99%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0090】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0091】
ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン、1-メチルピペリジン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。
【0092】
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。その他、ポリイミドは、ポリアミック酸エステルのイミド化によって得ることもできる。
【0093】
以上のようにして得られる重合体[P]は、これを濃度15質量%の溶液としたときに、20~1,800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、50~1,500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、重合体の溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度15質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0094】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、重合体[P]につき、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは5以下であり、より好ましくは3.5以下である。重合体[P]のMw及びMw/Mnが上記範囲にあることで、液晶表示素子の良好な配向性及び安定性を確保することができる。
【0095】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]以外の成分(その他の成分)を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有しない重合体(以下、「その他の重合体」ともいう)、架橋性基含有化合物、官能性シラン化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤、酸発生剤、塩基発生剤、及びラジカル発生剤等が挙げられる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0096】
(その他の重合体)
その他の重合体は、電圧保持率の低下を抑制する目的や、液晶配向性の向上を図る目的で使用される。その他の重合体の主骨格は特に限定されないが、例えば、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリアセタール又は付加重合体を主骨格とする重合体が挙げられる。付加重合体は、重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体であり、例えば、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。その他の重合体は、これらのうち、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及び付加重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0097】
なお、光配向処理用の液晶配向剤とする場合、重合体[P]として感光性の重合体を含むとともに、その他の重合体として非感光性の重合体を含むものとしてもよい。あるいは、重合体[P]として非感光性の重合体を含むとともに、その他の重合体として感光性の重合体を含むものとしてもよい。また、重合体[P]及びその他の重合体の両方が感光性の重合体を含んでいてもよい。
【0098】
その他の重合体を液晶配向剤に含有させる場合、その他の重合体の含有割合は、液晶配向剤中の全重合体量に対して、1~95質量%が好ましく、5~90質量%がより好ましく、15~80質量%が更に好ましい。
【0099】
(架橋性基含有化合物)
架橋性基含有化合物は、ラビング耐性及び振動耐性の更なる向上を図る目的で使用される。架橋性基含有化合物が有する架橋性基としては、同種の基同士で反応して又は重合体[P]が有する官能基と反応して共有結合を形成して架橋構造を形成可能な基を挙げることができ、例えば、エポキシ基、カルボキシ基、環状カーボネート基、メチロール基、マレイミド基等が挙げられる。架橋性基含有化合物が有する架橋性基の数は、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましく、3~8個が更に好ましい。
【0100】
液晶配向剤が架橋性基含有化合物を含む場合、架橋性基含有化合物の割合は、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、架橋性基含有化合物の割合は、過剰量の添加に起因する性能低下を抑制する観点から、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。なお、架橋性基含有化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0101】
<溶剤>
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0102】
使用する有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0103】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。すなわち、液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1質量%以上である場合には、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜が得られやすい傾向がある。固形分濃度が10質量%以下である場合には、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また液晶配向剤の粘性の増大を抑制でき、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0104】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、液晶配向剤の用途や、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えば液晶表示素子用の液晶配向剤について、スピンナー法により基板に塗布する場合には、固形分濃度(液晶配向剤中の溶媒以外の全成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)が1.5~4.5質量%の範囲であることが特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3~9質量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12~50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1~5質量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3~15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10~50℃であり、より好ましくは20~30℃である。また、位相差フィルム用の液晶配向剤については、液晶配向剤の塗布性及び形成される塗膜の膜厚を適度にする観点から、液晶配向剤の固形分濃度が0.2~10質量%の範囲であることが好ましく、3~10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0105】
<液晶配向膜及び液晶素子>
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型といった種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0106】
(工程1:塗膜の形成)
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標 、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型、VA型又はPSA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、オフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行うことが好ましい。
【0107】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、必要に応じて、溶剤を完全に除去したり重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化したりすることを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~300℃であり、ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜、又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。
【0108】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、及び塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理が挙げられる。特に、本開示の液晶配向剤は、当該液晶配向剤を用いて形成された塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する光配向剤として好ましく適用できる。一方、垂直配向型(VA型)の液晶素子を製造する場合には、工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜はPSA型の液晶素子にも好ましく用いることができる。
【0109】
光配向処理における光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
【0110】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタ
ルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等を使用することができる。放射線の照射量は、好ましくは400~20,000J/m2であり、より好ましくは1,000~5,000J/m2である。塗膜に対する光照射は、反応性を高めるために塗膜を加温しながら行ってもよい。
【0111】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された塗膜を120℃以上280℃以下の温度範囲内で加熱してもよい。こうした加熱処理により、液晶配向性が更に改善され(加熱再配向)、表示品位がより改善された液晶素子が得られる点で好ましい。この加熱は、ポストベークであってもよく、ポストベークとは別にポストベーク後に行う加熱処理であってもよい。光照射処理が施された塗膜に対する加熱処理に際し、加熱温度は、加熱による分子鎖の再配向を促進させる観点から、140℃以上とすることが好ましく、150℃~250℃とすることがより好ましい。加熱時間は、好ましくは5分~200分、より好ましくは10分~60分である。
【0112】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された塗膜を、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒に接触させる工程を更に含んでいてもよい。ここで、水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロペンタノンが挙げられる。本工程で用いる溶媒は、これらのうち、水、イソプロパノール及びこれらの混合物が好ましい。塗膜と溶媒との接触方法としては、例えば噴霧(スプレー)処理、シャワー処理、浸漬処理、液盛り処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。塗膜と溶媒との接触時間は特に限定されないが、例えば5秒~15分である。溶媒との接触後には塗膜の加熱処理を行ってもよい。
【0113】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、(1)液晶配向膜が対向するように間隙(スペーサー)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、(2)液晶配向膜を形成した一方の基板上の所定の場所にシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げる方法(ODF方式)等が挙げられる。製造した液晶セルにつき更に、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0114】
シール剤としては、例えば、硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。スペーサーとしては、フォトスペーサー、ビーズスペーサー等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができる。これらの中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等を用いることができる。また、これらの液晶に、コレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶等を添加して使用してもよい。
【0115】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSA型の液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、例えば0.01~3質量部、好ましくは0.05~1質量部である。
【0116】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。これにより液晶素子が得られる。
【0117】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA 、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子は位相差フィルムに適用することもできる。
【0118】
以上説明した本開示によれば、以下の手段が提供される。
〔手段1〕 ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択され、かつ上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
〔手段2〕 前記重合体[P]は、上記式(2)で表される部分構造及び上記式(3)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する、〔手段1〕に記載の液晶配向剤。
〔手段3〕 前記Y2は、上記式(4)で表される2価の基である、〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段4〕 前記X1は単結合である、〔手段1〕~〔手段3〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段5〕 前記R1は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である、〔手段1〕~〔手段4〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段6〕 前記D1は、上記式(5)で表される基である、〔手段1〕~〔手段5〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段7〕 上記式(1)で表される部分構造を主鎖に有しない重合体を更に含有する、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段8〕 〔手段1〕~〔手段7〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔手段9〕 〔手段1〕~〔手段7〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
〔手段10〕 前記光照射処理が施された塗膜を、120℃以上280℃以下の温度で加熱する工程を更に含む、〔手段9〕に記載の液晶配向膜の製造方法。
〔手段11〕 〔手段8〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
〔手段12〕 上記式(2)で表される部分構造及び上記式(3)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する重合体。
〔手段13〕 上記式(6)で表される化合物。
【実施例0119】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
以下の例で使用した主な化合物の構造と略号は以下のとおりである。化合物(DA-5)としては、n=7のジアミンを使用した。
【0121】
(テトラカルボン酸二無水物)
TA-1;ピロメリット酸二無水物
TA-2;1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
TA-3;2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
TA-4;(1R,2R,3S,4S)-1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物
【化23】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
(溶剤)
NMP;N-メチル-2-ピロリドン
BC;ブチルセロソルブ
GBL;ガンマブチルラクトン
DMF;N,N-ジメチルホルムアミド
EtOH;エタノール
DCM;ジクロロメタン
【0127】
ポリイミドのイミド化率、並びにスチレン-マレイミド系共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドを含有する溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(EX-1)を用いてイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=(1-((A1/A2)×α))×100 …(EX-1)
(数式(EX-1)中、A1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、A2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
Mw及びMnは、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm2
【0128】
<化合物の合成>
以下の合成例において化合物(DA-1)~(DA-9)を合成した。なお、以下に示す化合物は、公知の有機合成反応を組み合わせることによって得られる。
【0129】
[合成例1;化合物(DA-1)の合成]
窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、N-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ニトロ-D-フェニルアラニン(0.20mol)、4-ニトロベンジルアミン塩酸塩(0.20mol)、及びDMF(200mL)を入れた。氷浴下で1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(0.22mol)を加え、室温で6時間撹拌した。反応終了後、反応溶液に水(200mL)を加え撹拌し、懸濁液をろ過した。得られた析出物を水100mL中で撹拌して洗浄した後、真空乾燥することにより、下記式(DA-1-a)で表される化合物(収率89%)を得た。
続いて、100mLのオートクレーブに、(DA-1-a)(10.0mmol)、パラジウム担持カーボン(パラジウム5%/カーボン95%)(0.16g)、及びエタノール(30mL)を入れて0.4MPaまで水素ガスを吹き込み、50℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をセライトろ過して減圧濃縮した。得られた析出物をエタノールにより洗浄して真空乾燥することにより、下記式(DA-1)表されるジアミン(収率72%)を得た。
【化28】
【0130】
[合成例2;化合物(DA-2)の合成]
窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、2-アミノ-1,3-プロパンジオール(0.30mol)、二炭酸ジ-tert-ブチル(0.33mol)及びDCM(200mL)を入れ、室温で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液に1N塩酸(200mL)を加え、分液した。得られた有機層を水(200mL)で分液し、溶媒を留去することにより、下記式(DA-2-a)で表される化合物(収率67%)を得た。
次に、窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、(DA-2-a)(0.15mol)、2-フルオロ-5-ニトロピリジン(0.30mol)、炭酸カリウム(0.30mol)及びDMFを加え、60℃で4時間加熱撹拌した。反応終了後、反応溶液に水(200mL)を加え撹拌し、懸濁液をろ過した。得られた析出物を水100mL中で撹拌して洗浄した後、真空乾燥することにより、下記式(DA-2-b)で表される化合物(収率78%)を得た。
続いて、100mLのオートクレーブに、(DA-2-b)(30.0mmol)、パラジウム担持カーボン(パラジウム5%/カーボン95%)(0.30g)、及びエタノール(60mL)を入れて0.4MPaまで水素ガスを吹き込み、50℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をセライトろ過して減圧濃縮した。得られた析出物をエタノールにより洗浄して真空乾燥することにより、下記式(DA-2)表されるジアミン(収率72%)を得た。
【化29】
【0131】
[合成例3;化合物(DA-3)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-3)を合成した。アミノ基の保護は合成例2と同様に行い、続く縮合反応及びニトロ基の還元反応は合成例1と同様に行った。
【化30】
【0132】
[合成例4;化合物(DA-4)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-4)を合成した。窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、2-アミノ-1,3-プロパンジオール(0.30mol)、DMF(200mL)を加え、0℃に冷却した後、水素化ナトリウム(0.75mol、60% in oil)を少しずつ加えた。その後、4-フルオロニトロベンゼン(0.60mol)を少しずつ滴下し、室温で5時間撹拌した。反応終了後、反応溶液に水(200mL)を加え撹拌し、懸濁液をろ過した。得られた析出物を水100mL中で撹拌して洗浄した後、真空乾燥することにより、下記式(DA-4-a)で表される化合物(収率65%)を得た。続く縮合反応は合成例1と同様に行い、アミド基の保護反応は合成例2と同様に行い、ニトロ基の還元反応は合成例1と同様に行った。
【化31】
【0133】
[合成例5;化合物(DA-5)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-5)を合成した。
【化32】
【0134】
[合成例6;化合物(DA-6)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-6)を合成した。
【化33】
【0135】
[合成例7;化合物(DA-7)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-7)を合成した。
【化34】
【0136】
[合成例8;化合物(DA-8)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-8)を合成した。アミノ基の保護は合成例2と同様に行い、ニトロ基の還元反応は合成例1と同様に行った。
【化35】
【0137】
[合成例9;化合物(DA-9)の合成]
下記スキームにしたがって化合物(DA-9)を合成した。縮合反応及びニトロ基の還元反応は合成例1と同様に行った。
【化36】
【0138】
<重合体の合成>
[合成例10]
ジアミン化合物として化合物(DA-1)をNMPに溶解し、ジアミン化合物に対して0.95当量のテトラカルボン酸二無水物(TA-1)を加え、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(重合体(PA-1))の15質量%溶液を得た。
【0139】
[合成例11~合成例35]
反応に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1のとおりに変更した以外は合成例10と同様にしてポリアミック酸(重合体(PA-2)~重合体(PA-26))を得た。なお、表1中、酸二無水物の数値は、重合体(ポリアミック酸、ポリイミド)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の使用割合を示す。ジアミン化合物の数値は、重合体(ポリアミック酸、ポリイミド)の合成に使用するジアミン化合物の全量100モル部に対する各化合物の使用割合を示す。
【0140】
[合成例36]
ジアミン化合物として化合物(DA-1)80モル部及び化合物(DB-6)20モル部をNMPに溶解し、ジアミン化合物に対して0.95当量のテトラカルボン酸二無水物(TA-4)を加え、室温で6時間反応を行いポリアミック酸の溶液を得た。得られた溶液に、ポリアミック酸のカルボキシ基に対して0.8当量の1-メチルピペリジン及び無水酢酸を加え、60℃で3時間加熱撹拌した。得られた溶液に対して、減圧濃縮とNMPによる希釈を繰り返して、ポリイミド(重合体(PI-1)) の15質量%溶液を得た。重合体(PI-1)のイミド化率は80%であった。
【0141】
[合成例37~合成例58]
反応に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1のとおりに変更した以外は合成例36と同様にしてポリイミド(重合体(PI-2)~重合体(PI-23))を得た。
【0142】
【0143】
<付加重合体の合成>
[合成例59]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-1)を重合モノマー100質量部に対して10モル部、化合物(M-2)を同45モル部、及び化合物(M-3)を同45モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)3モル部、並びに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)50mLを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することによりスチレン-マレイミド系共重合体(これを重合体(MI-1)とする)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は65,300、分子量分布(Mw/Mn)は4.11であった。
【0144】
[合成例60]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-4)を重合モノマー100質量部に対して10モル部、化合物(M-5)を同10モル部、化合物(M-6)を同30モル部、化合物(M-7)を同10モル部、化合物(M-8)を同20モル部、及び化合物(M-9)を同20モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)3モル部、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン50mLを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することによりスチレン-マレイミド系共重合体(これを重合体(MI-2)とする)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は82,200、分子量分布(Mw/Mn)は4.71であった。
【0145】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:ラビング配向法によるFFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
合成例10で得た重合体(PA-1)を含む溶液にNMP及びBCを加え、溶剤組成がNMP:BC=80:20(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-1)を調製した。
【0146】
(2)ラビング配向法による液晶配向膜の形成
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(R-1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間乾燥した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度25mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmにてラビング処理を行った。上記ラビング配向処理が施された塗膜を超純水中で1分間超音波洗浄した後、100℃のオーブンで10分間乾燥を行い、液晶配向膜を形成した。
【0147】
(3)液晶表示素子の製造
上記(2)で作製した液晶配向膜を有する一対の基板について、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に偏光板を貼り合わせてFFS型液晶表示素子を製造した。
【0148】
(4)ラビング耐性の評価(異物量による評価)
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(R-1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間乾燥した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、コットン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロール回転数1000rpm 、ステージ移動速度25mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmにてラビング処理を20回行い、異物量評価用基板を得た。得られた異物量評価用基板上の異物を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の異物数を数えた。500μm×500μmの領域内の異物数が5個未満のものを「優良」、5個以上10個未満のものを「良好」、10個以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では異物は確認されず「優良」の評価であった。
【0149】
(5)電圧保持率の評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子につき、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から1,000ミリ秒後の電圧保持率(VHR)を測定した。電圧保持率が99.8%以上を「優良」、98.0%以上99.8%未満を「良好」、98.0%未満を「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」であった。なお、測定装置としては、(株)東陽テクニカ製、VHR-1を使用した(以下の電圧保持率の評価についても同じ)。
【0150】
(6)振動試験後の輝点評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子に3kgの重りを貼り付け、振動試験装置を用いて1時間、200Hzの振動を与えた。FFS型液晶表示素子を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の輝点数を数えた。500μm×500μmの領域内の輝点数が5個未満のものを「優良」、5個以上10個未満のものを「良好」、10個以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では輝点は確認されず「優良」の評価であった。なお、振動試験装置としては、IMV(株)製、m030/MA1-CEを使用した(以下の振動試験後の輝点評価についても同じ)。
【0151】
[実施例2、6~17、20、23及び比較例1、2、6~10]
実施例1において、液晶配向剤に含有させる重合体及び溶剤を表2に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤を調製してラビング配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表2に示した。なお、表2中、溶剤の数値は、液晶配向剤の調製に使用する溶剤の全量100質量部に対する各化合物の配合割合を示す。
【0152】
[実施例3、18、19、21、22及び比較例3]
実施例1において、液晶配向剤に含有させる重合体を表2に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤を調製してラビング配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表2に示した。なお、実施例3、18、19、21,23及び比較例3では、2種類の重合体(重合体1及び重合体2)を重合体1:重合体2=40:60(固形分換算質量比)の配合比率で液晶配向剤に含有させた。
【0153】
[実施例4、5及び比較例4、5]
実施例1において、液晶配向剤に含有させる重合体を表2に示すとおりに変更した点、及び表2に示す種類の添加剤を加えた点以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤を調製してラビング配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表2に示した。なお、実施例4、5及び比較例4、5では、添加剤(AD-1又はAD-2)を重合体1:添加剤=90:10(固形分換算質量比)の配合比率で液晶配向剤に含有させた。
【0154】
【0155】
[実施例24:光配向法によるFFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
合成例36で得た重合体(PI-1)を含む溶液にNMP及びBCを加え、溶剤組成がNMP:BC=80:20(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-24)を調製した。
【0156】
(2)光配向法による液晶配向膜の形成
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(R-24)を膜厚が0.1μmになるようにスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分乾燥(プレベーク)して塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線400J/m2を基板法線方向から照射して光配向処理を行った。光配向処理が施された塗膜を、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱して熱処理(ポストベーク)を行い、液晶配向膜を形成した。
【0157】
(3)液晶表示素子の製造
上記(2)で作製した液晶配向膜を有する一対の基板について、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に偏光板を貼り合わせてFFS型液晶表示素子を製造した。
【0158】
(4)昇華異物評価
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(R-24)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間乾燥した。その後、この塗膜表面に、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線(露光量:400J/m2)を基板法線方向から照射して光配向処理を行った。基板全面を覆うようにガラス製のシャーレを被せ、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行った。オーブンから取り出した後、シャーレを被せたまま室温で30分放置した。シャーレ上の異物を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の異物数を数えた。500μm×500μmの領域内の異物数が10個未満のものを「優良」、10個以上20個未満のものを「良好」、20個以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では異物は確認されず「優良」の評価であった。
【0159】
(5)電圧保持率の評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子につき、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から1,000ミリ秒後の電圧保持率(VHR)を測定した。電圧保持率が99.8%以上を「優良」、98.0%以上99.8%未満を「良好」、98.0%未満を「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」であった。
【0160】
(6)振動試験後の輝点評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子に3kgの重りを貼り付け、振動試験装置を用いて1時間、200Hzの振動を与えた。FFS型液晶表示素子を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の輝点数を数えた。500μm×500μmの領域内の輝点数が5個未満のものを「優良」、5個以上10個未満のものを「良好」、10個以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では輝点は確認されず「優良」の評価であった。
【0161】
[実施例25、29~40及び比較例11、12、16~20]
実施例24において、液晶配向剤に含有させる重合体及び溶剤を表3に示すとおりに変更した以外は実施例24と同様にして、液晶配向剤を調製して光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表3に示した。なお、表3中、溶剤の数値は、液晶配向剤の調製に使用する溶剤の全量100質量部に対する各化合物の配合割合を示す。
【0162】
[実施例26、41及び比較例13]
実施例24において、液晶配向剤に含有させる重合体を表3に示すとおりに変更した以外は実施例24と同様にして、液晶配向剤を調製して光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表3に示した。なお、実施例26、41及び比較例13では、2種類の重合体(重合体1及び重合体2)を重合体1:重合体2=40:60(固形分換算質量比)の配合比率で液晶配向剤に含有させた。
【0163】
[実施例27、28及び比較例14、15]
実施例24において、液晶配向剤に含有させる重合体表3に示すとおりに変更した点、及び表3に示す種類の添加剤を加えた点以外は実施例24と同様にして、液晶配向剤を調製して光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表3に示した。なお、実施例27、28及び比較例14、15では、添加剤(AD-1又はAD-2)を重合体1:添加剤=90:10(固形分換算質量比)の配合比率で液晶配向剤に含有させた。
【0164】
[実施例42]
実施例24において、液晶配向剤に含有させる重合体を表3に示すとおりに変更した点、及び、プレベーク後に、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行ってから紫外線照射により光配向処理を施し、その後230℃のクリーンオーブンで30分加熱処理を行った点以外は実施例24と同様にして、液晶配向剤を調製して光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型の液晶表示素子及び液晶セルを製造して各種評価を行った。評価結果を表3に示した。なお、実施例42では、2種類の重合体(重合体1及び重合体2)を重合体1:重合体2=40:60(固形分換算質量比)の配合比率で液晶配向剤に含有させた。
【0165】
【0166】
[実施例43:光垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
合成例30で得た重合体(PA-21)を含む溶液に、合成例59で得た重合体(MI-1)を、固形分換算で、重合体(PA-21)100質量部に対して重合体(MI-1)が10質量部になるように加え、NMP及びBCにより希釈して、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-43)を調製した。
【0167】
(2)光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(R-43)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/m2を、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。
【0168】
(3)昇華異物評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(R-43)を用いた点以外は実施例24と同様の操作を行うことにより、異物数による昇華異物の評価を行った。評価は実施例24と同様の基準により行った。その結果、この実施例では異物は確認されず「優良」の評価であった。
【0169】
(4)電圧保持率の評価
上記(2)で製造した光垂直型液晶表示素子につき、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から1,000ミリ秒後の電圧保持率(VHR)を測定した。電圧保持率が99.8%以上を「優良」、98.0%以上99.8%未満を「良好」、98.0%未満を「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」であった。
【0170】
(5)振動試験後の輝点評価
上記(2)で製造した光垂直型液晶表示素子に3kgの重りを貼り付け、振動試験装置を用いて1時間、200Hzの振動を与えた。光垂直型液晶表示素子を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の輝点数を数えた。500μm×500μmの領域内の輝点数が5個未満のものを「優良」、5個以上10個未満のものを「良好」、10個以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では輝点は確認されず「優良」の評価であった。
【0171】
【0172】
[実施例44:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
合成例58で得た重合体(PI-23)を含む溶液に、合成例60で得た重合体(MI-2)を、固形分換算で、重合体(PI-23)90質量部に対して重合体(MI-2)が10質量部になるように加え、NMP及びBCにより希釈して、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-44)を調製した。
【0173】
(2)液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1)で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物を0.3質量%添加して混合し、液晶組成物LC1を得た。
【化37】
【0174】
(3)PSA型液晶表示素子の製造
上記で調製した液晶配向剤(R-44)を、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、窒素に置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して溶媒を除去することにより、膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、このラビング処理は、液晶の倒れ込みを制御し、配向分割を簡易な方法で行う目的で行った弱いラビング処理である。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、重ね合わせて圧着し、150℃で1時間加熱して接着剤を熱硬化した。次いで、液晶注入口より基板の間隙に液晶組成物LC1を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、更に液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で10分間加熱した後に室温まで徐冷した。
次いで、得られた液晶セルに対し、電極間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、紫外線を50,000J/m2の照射量にて照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。これにより、PSA型液晶セルを製造した。
【0175】
(4)昇華異物評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(R-44)を用いた点以外は実施例24と同様の操作を行うことにより、異物数による昇華異物の評価を行った。評価は実施例24と同様の基準により行った。その結果、この実施例では異物は確認されず「優良」の評価であった。
【0176】
(5)電圧保持率の評価
上記(3)で製造したPSA型液晶表示素子につき、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から1,000ミリ秒後の電圧保持率(VHR)を測定した。電圧保持率が99.8%以上を「優良」、98.0%以上99.8%未満を「良好」、98.0%未満を「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」であった。
【0177】
(6)振動試験後の輝点評価
上記(3)で製造したPSA型液晶表示素子に3kgの重りを貼り付け、振動試験装置を用いて1時間、200Hzの振動を与えた。PSA型液晶表示素子を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の輝点数を数えた。500μm×500μmの領域内の輝点数が5個未満のものを「優良」、5個以上10個未満のものを「良好」、10個以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では輝点は確認されず「優良」の評価であった。
【0178】
【0179】
表2、表3、表4及び表5に示すように、実施例1~44の液晶配向剤は、ラビング耐性評価又は昇華異物評価が「優良」又は「良好」であり、かつ電圧保持率及び振動試験後の輝点評価が「優良」又は「良好」であり、各種特性のバランスが取れていた。これに対して、比較例1~20の液晶配向剤は、ラビング耐性、昇華異物評価、電圧保持率及び振動試験後の輝点評価の少なくともいずれかが「不良」であり、実施例よりも劣っていた。
【0180】
ここで、実施例及び比較例の結果について考察すると、ラビング耐性に関しては、実施例1~23は「良好」又は「優良」であった。これらは、ポリマー側鎖に分子間架橋が可能なアミノ基を含むため、このアミノ基がポリマー中のカルボキシ基やマレイミド基と反応し、液晶配向膜の靱性が向上した結果、ラビング処理による膜削れが抑制され、異物数が低減したと推測される。
【0181】
これに対し、ポリマーが有する窒素含有基が環状アミノ基である比較例1~6、及びポリマー主鎖中にアミノ基を有する比較例9はラビング耐性が「不良」であった。これは、立体障害や分子運動性の観点から、比較例1~6、9はアミノ基の反応性が乏しく、架橋反応が比較的進行しにくいため、より厳しいラビング条件においてはラビング耐性が向上しなかったものと推測される。また、ポリマー中に反応性官能基を含まない比較例10のラビング耐性は「不良」であった。
【0182】
昇華異物評価に関しては、実施例24~42は「良好」又は「優良」であった。これらは、ポリマー側鎖に分子間架橋が可能なアミノ基を含むため、アミノ基がポリマー中のカルボキシ基やマレイミド基と反応し、光分解物の昇華性が低下したためと推測される。また、実施例24~42は、ポリマー主鎖中にアルキル鎖を含む(すなわち、剛直成分が少ない)ため、πスタック等といった相互作用が小さく、昇華した光分解物が再び固体に戻りにくいと考えられる。その結果、光分解物の昇華性が低く、また昇華した光分解物の炉への付着性が低いため、昇華異物が少なかったものと推測される。
【0183】
一方、比較例11~20は、昇華異物評価が「不良」であった。比較例11~16で使用したポリマーが有する窒素含有基は環状アミノ基であり、また比較例19はポリマー主鎖中にアミノ基を有するため、アミノ基の反応性が乏しく、光分解物の昇華性が抑制されなかったと推測される。また、比較例17、18は、ポリマー主鎖中に剛直性の高い構造を含むため、光分解物の炉への付着が抑制されなかったものと考えられる。ポリマー中にアミノ基を含まない比較例20は、光分解物の昇華性が抑制されず、昇華異物評価は「不良」であった。
【0184】
電圧保持率に関しては、実施例1~44は「優良」又は「良好」であった。これは、式(1)中のアミノ基による分子間相互作用により分子運動性が抑制され、その結果、誘電分極が抑制され、電圧保持率が向上したことによるものと推測される。
【0185】
振動試験後の輝点評価に関しては、実施例1~44は「優良」又は「良好」であった。実施例1~44で用いた重合体は、ポリマー側鎖に分子間架橋が可能なアミノ基を含むため、アミノ基がポリマー中のカルボキシ基やマレイミド基と反応し、液晶配向膜の靱性が向上したものと考えられる。また、ポリマー主鎖中にアルキル鎖を含むことにより、ポリマーの柔軟性が高いと考えられる。こうした高い靭性と柔軟性とにより、振動による液晶配向膜の破壊が起こりにくく、振動試験後の輝点数が減少したと推測される。
【0186】
一方、比較例1~20は、振動試験後の輝点評価が「不良」であった。比較例1~6、9、11~16、19は、上述のとおりアミノ基の反応性が乏しく、ポリマーの靭性が向上しなかったと考えられる。また、比較例7、8、17、18は、ポリマー主鎖中に剛直性が高い構造を含むため、ポリマーの柔軟性が向上しなかったと考えられる。なお、上記考察はあくまでも推測であり、本開示の内容を何ら限定するものではない。