(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026355
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ビーム吸収構造体を有するビームパターン装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/09 20060101AFI20230216BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20230216BHJP
H01J 37/28 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
H01J37/09 Z
H01J37/09 A
H01J37/305 B
H01J37/28 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022125222
(22)【出願日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】21191090.6
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】509316578
【氏名又は名称】アイエムエス ナノファブリケーション ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】エルマー プラッツグマー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン エーデル-カプル
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101BB08
5C101BB10
5C101EE03
5C101EE04
5C101EE23
5C101EE65
5C101EE70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PD装置内でブロックされるビームレットの関連する電荷の除去を改善するようPD装置のレイアウトを改善する。
【解決手段】粒子ビーム加工又は検査装置において使用するためのマルチビームパターン画定装置7は荷電粒子のビームによって照射され、ビームを複数のアパーチャを通過させて、対応するビームレットを形成し、夫々のアパーチャアレンジメントに配置された複数のアパーチャの複数のセットに従って形成されているアパーチャアレイ装置701と、複数のアパーチャのサブセットによって形成されるビームレットを通過させるよう構成された複数の孔を有する吸収体アレイ装置702とを含む。吸収体アレイ装置は、高くされた領域によって包囲されかつアパーチャアレイ装置の他のアパーチャに対応する位置において衝突する荷電粒子を吸収するよう構成された吸収領域を含む荷電粒子吸収構造724を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビーム加工又は検査装置において使用するためのマルチビームパターン画定装置であって、
前記マルチビームパターン画定装置は、荷電粒子のビームによって照射され、前記ビームを複数のアパーチャを通過させて、対応する数のビームレットを形成するために適合されており、
前記マルチビームパターン画定装置は、
前記複数のアパーチャが形成されているアパーチャアレイ装置(701、901)、但し、該アパーチャアレイ装置は少なくとも2つのセットのアパーチャ(71、72)を含み、各セットは前記ビームに対し透過性の複数のアパーチャを含み、各セットのアパーチャは前記アパーチャアレイ装置上の実質的に規則的なアパーチャアレンジメントに配置されており、前記セット(複数)のアパーチャアレンジメント(複数)は少なくとも部分的にインタレースしており、前記アパーチャアレンジメント(複数)は、少なくとも当該アパーチャアレンジメントがインタレースする領域(以下「アパーチャアレンジメントインタレース領域」という。)において、夫々の変位ベクトルだけ互いに対しオフセットされた相互に等価なアレンジメントを構成すること、及び、
前記アパーチャアレイ装置の下流側に位置付けられ、かつ、前記アパーチャ(71)の少なくとも1つのサブセットによって形成されるビームレットを通過させるよう構成された複数の孔(70、90)を有する吸収体アレイ装置(702、902)
を含み、
前記吸収体アレイ装置は、吸収領域に対して高くされた吸収体フランクによって包囲されかつ吸収領域に衝突する荷電粒子を吸収するよう構成された吸収領域を含む荷電粒子吸収構造(724、924)を含み、前記吸収領域は少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域に対応する領域にアパーチャ(72)の前記セット(複数)の少なくとも1つのセットのアパーチャに対応する位置に位置付けられており、前記吸収体アレイ装置の前記複数の孔(70、90)は前記領域において前記アパーチャアレイ装置(701、901)のアパーチャ(71)の前記セット(複数)の少なくとも1つの他のセットのアパーチャアレンジメントに対応する実質的に規則的なアレンジメントに配置されている、
マルチビームパターン画定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記ビームレットの各々が複数のブランキング孔の1つを公称経路に沿って通過するよう配置された複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置を更に含み、
前記偏向アレイ装置は複数の静電型偏向電極を含み、各電極は、1つのブランキング孔に関係付けられており、かつ、活性化電圧が当該電極に印加されると、夫々のブランキング孔を通過するビームレットをその公称経路から逸らすために十分な大きさだけ当該ビームレットを偏向するよう構成されていること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収構造は複数の荷電粒子吸収装置を含み、各荷電粒子吸収装置はビームレットの1つが衝突しかつ当該ビームレットの荷電粒子を吸収するよう構成された場所に対応する前記吸収体アレイ装置の位置に位置付けられていること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収装置は前記吸収体アレイ装置の表面に形成された窪み又は止まり穴として構成されていること、前記窪みは好ましくは当該窪みに衝突するビームレットの対応する方向に沿って延伸していること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記窪み又は止まり穴は2より大きい深さ対幅比を有すること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収装置は前記吸収体アレイ装置の表面から突出する電極状構造体として構成されていること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項7】
請求項6に記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記電極状構造体は2より大きい深さ対幅比を有すること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項8】
請求項1~7の何れかに記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収構造は、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの横方向のサイズより2の倍数だけより大きい幅を有するトレンチ又は孔を含むこと
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置は、更に、前記アパーチャアレイ装置に対向する少なくともその側に形成された導電性被膜を含むこと
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記アパーチャアレイ装置及び前記吸収体アレイ装置の少なくとも一方は、前記吸収体アレイ装置に対する前記アパーチャアレイ装置の相対位置を調節するために前記ビームの伝搬方向に対する横方向の面内において可動であり、かつ、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の任意の選択セットを少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域において前記吸収体アレイ装置の複数の孔とアライメントされた状態に選択的にもたらすよう構成されていること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項11】
請求項10に記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置に対する前記アパーチャアレイ装置の相対位置を調節するために前記アパーチャアレイ装置及び前記吸収体アレイ装置の少なくとも一方を位置決めするための位置決め装置を更に含み、
前記位置決め装置は、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の選択セットを少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域にある前記吸収体アレイ装置の前記複数の孔とのアライメント状態へ選択的にもたらすよう構成されていること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【請求項12】
請求項1~11の何れかに記載のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置は、前記アパーチャアレイ装置の下流側において前記アパーチャアレイ装置に対し所定の距離を置いて位置付けられていること
を特徴とする、マルチビームパターン画定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2021年8月12日に出願された欧州特許出願第21191090.6号についてのパリ条約上の優先権の利益を主張するものであり、当該出願の全内容は引照を以って本書に繰り込みここに記載されているものとする。
【0002】
本発明は、粒子ビーム加工又は検査装置において使用するためのマルチビームパターン画定装置(以下「PD装置」と称する)であって、荷電粒子の、とりわけ電子のビームによって照射され、該ビームを複数のアパーチャを貫通通過させて、対応する数のビームレットを形成するために適合されており、該複数のアパーチャが対応する数のビームレットを形成するために画定されているアパーチャアレイ装置を含む幾つかのコンポーネントを含む、装置に関する。
【背景技術】
【0003】
上記タイプのPD装置及びそのようなPD装置を含む荷電粒子マルチビーム加工装置は本出願人の米国特許第6,768,125号、同第8,546,767号及び同第9,269,543号に記載されている。これらの文献の教示は引用を以って本書に繰り込み本願の開示を構成するものとする。
【0004】
上記の文献はPML2(“Projection Mask-Less Lithography”(投射(投影)式マスクレスリソグラフィ)の略称)と称される荷電粒子リソグラフィ及び加工方法及び装置を記載している;本出願人による幾つかの文献はeMET(“electron multi-beam Mask Exposure Tool”(電子マスク露光ツール)の略称)と称される加工装置を記載している。これらの装置はマルチビーム描画コンセプトを実現しており、また、荷電粒子の単一ソースから抽出される粒子ビームを構造化するためのPD装置としてプログラマブルアパーチャプレートシステム(APS)を使用する。
【0005】
PD装置は、アパーチャアレイ装置、孔アレイ装置及び偏向アレイ装置を含み、US 8,546,767に応じて、アパーチャ(複数)のマルチプルアレイ(複数)を含む「マルチプルマルチビームアレイ(multiple multi-beam arrays)」を備え得る。これは、アパーチャアレイ装置(AAD:aperture array device)が少なくとも2セットのアパーチャ(複数)を含むためである。ここで、各セットはAAD上に(実質的に)規則的なアレンジメントで配置された複数のアパーチャを含み、これらの2つ以上のセットのアレンジメントは少なくとも部分的にインタレースしており(互いに対し所定間隔だけシフトされており:interlacing)、異なるセットのアパーチャは―少なくともアレンジメント(複数)がインタレースしている領域(アパーチャアレンジメントインタレース領域)において―共通の変位ベクトルに(実質的に)対応する変位だけ互いに対しずらされている(offset)。これに対応して及びアパーチャの複数のセットから1つのセットを選択する手段として、孔アレイ装置は、AADのアパーチャ(複数)によって形成されるビームレット(複数)の少なくとも1つのサブセットの経路のために形成された複数の孔を含み、少なくとも上記アパーチャアレンジメントインタレース領域に対応する領域において、孔アレイ装置は、当該領域におけるアパーチャ(複数)の複数のセットのうちの1つのセットのアレンジメントに対応する実質的に規則的なアレンジメントに配置された複数の孔を含むが、他方では、孔アレイ装置は、アパーチャ(複数)の(1つ以上の)他のセットのアパーチャ(複数)に対応する位置においては孔を欠いている(そのため孔アレイ装置はそこでは不透明(非透過性)である)。
【0006】
更に、例えばいわゆるブランキングプレートの形での、偏向アレイ装置は、しばしば、PD装置の付加的な分離されたコンポーネントとして存在し得る。偏向アレイ装置は、AADにおいて形成されかつ孔アレイ装置によって通過させられたビームレットの各々が公称経路に沿ってブランキング孔の1つを通過(縦断)するよう位置付けられた複数のブランキング孔を有し、また、偏向アレイ装置は複数の静電型偏向電極を含み、該電極の各々は1つのブランキング孔に関係付けられており、及び、活性化する電圧が当該電極に印加されると、夫々のブランキング孔を通過するビームレットをその公称経路から逸らすために十分な大きさだけ当該ビームレットを偏向する(逸らす)よう構成されている。
【0007】
更に、有利には、孔アレイ装置及び偏向アレイ装置に対し相対的にアパーチャアレイ装置の位置を調節するために、AADを位置決めできる位置決め装置(複数)が設けられ得る。これらの位置決め装置は、アパーチャ(複数)と(孔アレイ装置の)孔(複数)とブランキング孔(複数)が少なくともアパーチャアレンジメントインタレース領域においてアライメント(位置合わせ)された状態になるよう、AADのアパーチャの複数のセットのうちの1つのセット即ち選択セットを選択的に孔アレイ装置及びブランキングアレイ装置の複数の孔とのアライメント(位置合わせ)の状態にもたらすよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US6,768,125
【特許文献2】US8,546,767
【特許文献3】US9,269,543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の構成は大いに有用であることが証明されているが、本発明者は、或る状況においてはPD装置の使用中に問題(複数)が生じ得ることに気づいた。孔アレイ装置においては、ビームレット(複数)のサブセット(複数)は孔アレイ装置の(孔が無い)バルク部分によってブロックされる。(既述の荷電粒子の)ビームレットと孔アレイ装置のバルク部分との相互作用は、しばしば、二次粒子、例えば電子の生成を引き起こし得る。二次粒子(複数)の一部は(バルク)材料内に留まるであろうが、(二次粒子の)ある部分は0~90°の極角範囲及び0~360°の方位(アジマス)角範囲をカバーする角度方向(複数)において(バルク)材料から放出され得る。ここで、極角とは、放出方向と孔アレイ装置の面法線との間の角度であり、本質的に当該孔アレイ装置からAADの最近接部位へ向かう方向に向いている。二次粒子については、その(放出)角度分布は典型的には0°の極角において最大値を有する(極角に関する)余弦則に従うであろう。二次粒子のそのような放出は、典型的には、ビームレットが孔アレイ装置の表面に衝突する部位の周りの数μmの範囲内で(電子ビームレットの場合5keVのエネルギを有する)生じるであろう。
【0010】
荷電された二次粒子(とりわけ電子)が生じる場合、これらの粒子は、主に直観的に分かるように、場合によってはAAD及び孔アレイ装置の他の部位(複数)に堆積し、電荷を蓄積するであろう。電荷の蓄積は、これらの部位における、電荷が電気アースへと流出ないし放散することを妨げる局所的に顕著な低導電率によって促進される。蓄積された電荷は、(一次)ビームレットを偏向し(逸らし)得る電界を生成するであろうが、これはターゲット表面における不所望のビームレットの位置ズレを引き起こし得、その結果、パターン忠実性が低下し得る。これは、アパーチャアレイ装置又は孔アレイ装置の表面汚染物質によって引き起こされる局所的に顕著な低導電率も伴い得る。そのような汚染物質は、例えば、粒子又は製造プロセスの残留物によって、又は、一次ビームレット粒子による残留ガス分子(主として炭素を含むもの)の分解及びこれに続く(炭素含有固体材料の)堆積によって生じ得る。
【0011】
上記の観点から、本発明の目的は、上記のあり得る問題を克服するよう、とりわけ、荷電粒子及びPD装置内でブロックされるビームレットの関連する電荷の除去を改善するよう、PD装置のレイアウトを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の視点により、粒子ビーム加工又は検査装置において使用するためのマルチビームパターン画定装置が提供される。
前記マルチビームパターン画定装置は、荷電粒子のビームによって照射され、前記ビームを複数のアパーチャを通過させて、(前記アパーチャの数に)対応する数のビームレットを形成するために適合されており、
前記マルチビームパターン画定装置は、
前記複数のアパーチャが形成されているアパーチャアレイ装置、但し、該アパーチャアレイ装置は少なくとも2つのセットのアパーチャを含み、各セットは前記ビームに対し透過性の複数のアパーチャを含み、各セットのアパーチャは前記アパーチャアレイ装置上の実質的に規則的なアパーチャアレンジメントに配置されており、前記セット(複数)のアパーチャアレンジメント(複数)は少なくとも部分的にインタレースしており、前記アパーチャアレンジメント(複数)は、少なくとも当該アパーチャアレンジメントがインタレースする領域(以下「アパーチャアレンジメントインタレース領域」という。)において、夫々の変位ベクトルだけ互いに対しオフセットされた相互に等価なアレンジメントを構成すること、及び、
前記アパーチャアレイ装置の下流側に位置付けられ、かつ、前記アパーチャの少なくとも1つのサブセットによって形成されるビームレットを通過させるよう構成された複数の孔を有する吸収体アレイ装置
を含み、
前記吸収体アレイ装置は、吸収領域に対して高くされた(持ち上げられた)吸収体フランクによって包囲されかつ吸収領域に衝突する荷電粒子を吸収するよう構成された吸収領域を含む荷電粒子吸収構造を含み、前記吸収領域は少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域に対応する領域にアパーチャの前記セット(複数)の少なくとも1つのセットのアパーチャに対応する位置に位置付けられており、前記吸収体アレイ装置の前記複数の孔は前記領域において前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の少なくとも1つの他のセットのアパーチャアレンジメントに対応する実質的に規則的なアレンジメントに配置されている(形態1)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(形態1)上記本発明の第1の視点参照。
(形態2)形態1のマルチビームパターン画定装置において、
前記ビームレットの各々が複数のブランキング孔の1つを公称経路に沿って通過するよう配置された複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置を更に含み、
前記偏向アレイ装置は複数の静電型偏向電極を含み、各電極は、1つのブランキング孔に関係付けられており、かつ、活性化電圧が当該電極に印加されると、夫々のブランキング孔を通過するビームレットをその公称経路から逸らすために十分な大きさだけ当該ビームレットを偏向するよう構成されていることが好ましい。
(形態3)形態1又は2のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収構造は複数の荷電粒子吸収装置を含み、各荷電粒子吸収装置はビームレットの1つが衝突しかつ当該ビームレットの荷電粒子を吸収するよう構成された場所に対応する前記吸収体アレイ装置の位置に位置付けられていることが好ましい。
(形態4)形態1~3の何れかのマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収装置は前記吸収体アレイ装置の表面に形成された窪み又は止まり穴として構成されていること、前記窪みは好ましくは当該窪みに衝突するビームレットの対応する方向に沿って延伸していることが好ましい。
(形態5)形態4のマルチビームパターン画定装置において、
前記窪み又は止まり穴は2より大きい深さ対幅比(depth to width ratio)を有することが好ましい。
(形態6)形態1~5の何れかのマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収装置は前記吸収体アレイ装置の表面から突出する電極状構造体として構成されていることが好ましい。
(形態7)形態6のマルチビームパターン画定装置において、
前記電極状構造体は2より大きい深さ対幅比を有することが好ましい。
(形態8)形態1~7の何れかのマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収構造は、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの横方向のサイズより2の倍数だけより大きい幅を有するトレンチ又は孔を含むことが好ましい。
(形態9)形態1~8の何れかのマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置は、更に、前記アパーチャアレイ装置に対向する少なくともその側に形成された導電性被膜を含むことが好ましい。
(形態10)形態1~9の何れかのマルチビームパターン画定装置において、
前記アパーチャアレイ装置及び前記吸収体アレイ装置の少なくとも一方は、前記吸収体アレイ装置に対する前記アパーチャアレイ装置の相対位置を調節するために前記ビームの伝搬方向に対する横方向の面内において可動であり、かつ、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の任意の選択セットを少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域において前記吸収体アレイ装置の複数の孔とアライメントされた(位置合わせされた)状態に選択的にもたらすよう構成されていることが好ましい。
(形態11)形態10のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置に対する前記アパーチャアレイ装置の相対位置を調節するために前記アパーチャアレイ装置及び前記吸収体アレイ装置の少なくとも一方を位置決めするための位置決め装置を更に含み、
前記位置決め装置は、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の選択セットを少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域にある前記吸収体アレイ装置の前記複数の孔とのアライメント(位置合わせされた)状態へ選択的にもたらすよう構成されていることが好ましい。
(形態12)形態1~11の何れかのマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置は、前記アパーチャアレイ装置の下流側において前記アパーチャアレイ装置に対し所定の距離を置いて位置付けられていることが好ましい。
【0014】
上記の目的は冒頭に記載したようなタイプのマルチビームパターン画定装置によって達成される。該装置は、アパーチャアレイ装置と、好ましくはアパーチャアレイ装置の下流側に位置付けられかつ好ましくはアパーチャアレイ装置に対して所定の距離をおいて配置される、吸収体アレイ装置を含み、吸収体アレイ装置は、アパーチャアレイ装置によって形成されかつ吸収体アレイ装置に衝突(入射)するビームレット(複数)の幾つかの荷電粒子を吸収するよう構成された荷電粒子吸収構造を含む。
【0015】
より具体的には、アパーチャアレイ装置は、これは「アパーチャプレート」とも称されるが、ビームに対して透過性の少なくとも2セットのアパーチャ(複数)を含む(従ってビームはアパーチャを通ってアパーチャアレイ装置を横断(通過)する);アパーチャの各セットは、アパーチャアレイ装置に実質的に規則的なアレンジメントで配置されている複数のアパーチャを含み、これらのセットのアレンジメント(「アパーチャアレンジメント」)は少なくとも部分的にインタレースしており(互いに対し所定間隔だけシフトされて配置されており)、異なるセットのアパーチャは、少なくとも(アパーチャ)アレンジメント(複数)のインタレース領域(アパーチャアレンジメントインタレース領域)において、夫々の変位ベクトルだけ互いに対しオフセットされている(ずらされている)。吸収体アレイ装置は、上記アパーチャによって形成されるビームレット(複数)の少なくとも1つのサブセットの通過のために構成された複数の孔を有するが、既述のように、吸収体フランクによって包囲される吸収領域を含む荷電粒子吸収構造も含み、吸収体フランクはこれらの吸収構造、とりわけ吸収領域に衝突する荷電粒子を吸収するよう、吸収領域に対して高くされて(持ち上げられてないし隆起されて)いる;これらの吸収領域は、少なくとも上記アパーチャアレンジメントインタレース領域に対応する領域にある上記アパーチャ(複数)の(複数の)セットの少なくとも1つのセットのアパーチャ(複数)に対応する位置(複数)に位置付けられている;これに対し、吸収体アレイ装置の複数の孔は、上記領域の上記アパーチャ(複数)の複数のセットの少なくとも1つの他のセットのアパーチャアレンジメントに対応する実質的に規則的なアレンジメントで配置されている。典型的な実施形態(複数)では、(吸収体アレイ装置の)孔は、アパーチャ(複数)の複数のセットの1つのセット(のアパーチャ)に対応し、吸収構造は、アパーチャ(複数)の他のすべてのセットのアパーチャ(複数)を通ってアパーチャアレイ装置を横断(通過)する粒子を除去/吸収するよう構成されている。
【0016】
かくして、アパーチャ(複数)は、少なくともアパーチャアレンジメントインタレース領域において、互いに幾何学的に等価な「アパーチャアレンジメント」を構成(具現化)するマルチプル(multiple)セット(複数)に従って位置決めされている(なお、本書において「マルチプル」の語は、アパーチャアレンジメント等が単に複数存在するということではなく、インタレースされたアパーチャアレンジメント等が複数存在するということを意味している)。(アパーチャアレンジメント)インタレース領域は、通常は、アパーチャアレンジメントの各々のエリアのかなりの部分、即ち該エリアの過半部分、通常は大半にわたって延在し、そのため残されているのは例えばアパーチャアレンジメントのエリアの幾つかの又は全てのエッジにおける数行のアパーチャ(複数)のみであろう。アパーチャアレンジメントの各々は、(第1のアパーチャアレンジメントの中心部のアパーチャのような、何らかの任意の基準点に対する)異なる変位ベクトルに関係付けられている;明らかなことは、変位ベクトルは、これはアパーチャアレンジメント(複数)の他の1つのアパーチャアレンジメントに対する1つのアパーチャアレンジメントのオフセット(ズレ)を記述するものであるが、少なくとも上記アパーチャアレンジメントインタレース領域における同じアパーチャアレンジメントのすべてのアパーチャについて実質的に均一(uniform)である。
【0017】
(1つの)アパーチャアレンジメントのアパーチャ(複数)は、既述のように、実質的に規則的なアレンジメントに従って配置されている。ここで、規則的なアレンジメントとは、アパーチャ(複数)の公称位置(複数)(nominal locations)がアパーチャアレイ装置の表面上の規則的なグリッド(格子)に従っていることを意味する;例えば、グリッドは、方形グリッド、矩形グリッド、六角グリッド等であり得る。各アレンジメントが実質的に規則的であるとは、個別のアパーチャ(複数)の位置(複数)が厳密に規則的なグリッドの(公称)位置(複数)から小さな偏差だけ(この場合「小さな」とは同じアレンジメント内のアパーチャの相互間距離よりも少なくとも一桁だけより小さいことを意味する)ずれ得ること、及び/又は、アレンジメントが規則的なグリッドに適合しない少数のアパーチャ(ここで少数とはそのアレンジメントのアパーチャの総数より少なくとも一桁だけより少ないことである)を含み得るということである。上記の小さな偏差(ズレ)は、例えば、アパーチャアレイ装置のエリアにわたって変化する結像の収差、該装置における予測可能な歪み等の補正を可能にするために、提供され得る。アレンジメント間の変位ベクトルが実質的に均一(uniform)であるとは、2つのアレンジメントの夫々対応するアパーチャ間のオフセット(シフト)が、上記の小さな偏差(ズレ)を無視した場合―但しこれに関して考慮されるべきではない規則的なグリッドに適合しない少数のアパーチャを除く―同じであるということである。少なくとも(アパーチャアレンジメント)インタレース領域における、そのような実質的に均一な変位ベクトルだけことなる任意の2つのアレンジメントは、本書では、「等価アレンジメント」と称される。
【0018】
更に、吸収体アレイ装置に対するアパーチャアレイ装置の相対位置を調節するための、アパーチャアレイ装置及び/又は吸収体アレイ装置を位置決めするための位置決めアレンジメントが有利に設けられる。該位置決めアレンジメントは、アパーチャアレイ装置のアパーチャの複数のセットのうちの選択セット(a selected set)を少なくとも上記アパーチャアレンジメントインタレース領域において吸収体アレイ装置の複数の孔とアライメント(位置合わせ)された状態に選択的にもたらすよう構成されている。
【0019】
本発明の多くの実施形態では、マルチビームパターン画定装置は、ブランキングプレートとも称され、ビームレットの各々が公称経路に沿って複数のブランキング孔の1つを通過(縦断)するよう位置付けられたブランキング孔(複数)を有する偏向アレイ装置も含み得る。偏向アレイ装置は複数の静電型偏向電極を含み、該電極の各々は、(1つの)ブランキング孔に関係付けられており、及び、対応するブランキング孔を通過するビームレットを、活性化する電圧が対応する電極に印加されたとき、該ビームレットをその公称経路から逸らすのに十分な大きさだけ偏向する(逸らす)よう構成されている。このコンポーネントは、この種のブランキングを採用する特定の描画法における使用にとって有利である。
【0020】
本発明の多くの典型的実施形態では、荷電粒子吸収構造は複数の荷電粒子吸収装置を含み、各装置が、複数のビームレットの1つが衝突する場所に対応する(即ちアパーチャアレイ装置の1つのアパーチャに対応する)吸収体アレイ装置の位置に位置付けられ、かつ、当該ビームレットの荷電粒子を吸収するよう構成されていると有利であろう。
【0021】
更に、荷電粒子吸収装置(複数)は、吸収体アレイ装置の表面に、典型的にはアパーチャアレイ装置の方へ配向されたその表面に形成される窪み(recesses)又は止まり穴ないし袋穴(blind holes)(複数)として構成(具現化)され得る。好ましくは、これらの窪みはそれらに衝突するビームレットの夫々の方向に沿って延伸し得る。窪み(複数)ないし止まり穴(複数)は、好適には、2以上の、例えば3以上、更には4以上の、深さ対幅比(depth to width ratio)(アスペクト比)を有し得る。
【0022】
本発明の1つの有利なグループの実施形態(複数)では、荷電粒子吸収装置(複数)は、吸収体アレイ装置の表面(とりわけ、アパーチャアレイ装置に面する(向かい合う)表面)に形成される突出構造体(複数)(これは遮蔽電極とも称される)として構成(具現化)され得る。表面から突出するこれらの電極状構造体は、好適には、2以上の、例えば3以上の、更には4以上の深さ対幅比を有し得る。
【0023】
他の1つの有利なグループの実施形態(複数)(又は場合により上記のグループとの組み合わせたもの)では、荷電粒子吸収構造は、アパーチャアレイ装置のアパーチャの横方向のサイズより2の倍数だけ(この場合も、この倍数は2以上、例えば3以上、更には4以上であり得る)大きい幅を有するトレンチ(複数)及び/又は孔(複数)を含み得る。
【0024】
更に、吸収体アレイ装置は、有利には、少なくともアパーチャアレイ装置を指向するその側に(即ち少なくとも吸収体フランク(複数)に)形成される導電性被膜を含み得る。
【0025】
更に、アパーチャアレイ装置及び/又は吸収体アレイ装置は、吸収体アレイ装置に対するアパーチャアレイ装置の相対位置の調節を可能にするよう、粒子ビームの伝搬方向に対する横方向の面内において可動に構成され得る。かくして、アパーチャアレイ装置のアパーチャの複数のセットのうちの任意の1セットを選択することが可能になる。そのような位置調節の適切な方法を達成するために、吸収体アレイ装置に対するアパーチャアレイ装置の相対位置を調節するためにアパーチャアレイ装置と吸収体アレイ装置の少なくとも一方を位置決めするための、位置決め装置又は位置決めアレンジメントが設けられ得る。該位置決め装置は、アパーチャアレイ装置のアパーチャの複数のセットのうちの選択セットを少なくとも上記アパーチャアレンジメントインタレース領域にある吸収体アレイ装置の複数の孔とのアライメント(位置合わせされた)状態へ選択的にもたらすよう構成されている。有利には、アパーチャアレイ装置と吸収体アレイ装置との間の距離は、それらの間の自由な相対運動を可能にするよう適切に選択される;この距離の典型的な値は0.5mm~数mmのオーダーであり、好ましくは1~2mmである。
【0026】
以下に、本発明を更に説明するために、図面に示されているような、例示的かつ非限定的実施形態が議論(説明)される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のために好適な粒子ビーム露光装置の一例の概観の縦断面図。
【
図3】部分的に断面で示した(図の右半分)
図2のPDシステムの側面図。
【
図4】3枚プレート構造を有するPDセットアップの一例の細部の断面図。アパーチャプレートとして構成(具現化)されたAADは2セットのアパーチャ(複数)を含む;第1セットのアパーチャ(複数)は活性化されており、他方、第2セットは孔アレイ装置において(ビームレットの通過が)阻止される。
【
図5】本発明のPDシステムの一例のアパーチャプレートの一部分の平面図。
【
図6】
図4の一細部。これは、荷電二次粒子のあり得る生成及びこれに引き続くアパーチャアレイ装置及び孔アレイ装置の種々の部位における電荷の蓄積も示している。
【
図7】その上流側表面に形成された止まり穴と導電性薄膜とを有する吸収体アレイ装置を有する本発明の一実施形態(図示されているのはPDシステムの一部分のみである)。
【
図8】吸収体アレイ装置によってビームレット伝搬の改善された挙動を示す
図7の一細部。
【
図9】
図7の吸収体アレイ装置の平面図(図示されているのは
図7に対応する一部分のみである)。
【
図10】孔アレイ装置の上流側表面に形成された遮蔽電極を有する本発明の他の一実施形態(図示されているのはPDシステムの一部分のみである)。
【
図11】
図10の吸収体アレイ装置の平面図(図示されているのは
図10に対応する一部分のみである)。
【実施例0028】
以下においては、まず、本発明の技術的背景を―本発明の典型的な実施形態(複数)に関連する限りにおいて―議論し、次に、本発明の幾つかの例示的実施形態を詳細に提示する。
【0029】
以下に与えられる本発明の例示的実施形態(複数)の詳細な議論は本発明の基本的思想及び更なる有利な発展を開示する。本発明の特定の適用に好適であると認められるようなここで議論される実施形態(複数)の幾つか又は全てを任意に組み合わせることは当業者には明らかなはずである。この開示全体において、「有利な」、「例示的な」又は「好ましい」のような用語は、本発明又はその一実施形態に特に好適である(但し不可欠ではない)要素又は寸法を表し、当業者によって好適であると認められる場合であれば、明示的に要求されない限り、修正可能である。本発明は、本発明の可能な適用の1つを単に代表するに過ぎず、説明の目的のために与えられかつ単に本発明の好適な具体化例を提示するに過ぎない以下の実施形態(複数)又はPDシステムの特定のレイアウトに限定されるものではないことは当然である;また、本発明の実施形態(複数)はターゲットの露光のためのマルチビームセットアップを使用する他のタイプの加工システム(複数)にも適する。この開示の範囲内において、「上」又は「上流」/「下流」のような垂直(鉛直)方向又は垂直伝搬に関する用語は、縦方向(「垂直軸」)に沿って下方に進行すると考えられるビームの方向について理解されるべきである。この垂直軸は、更に、X方向とY方向が横切るZ方向と同一であると見なされる。
【0030】
荷電粒子マルチビームシステム
【0031】
本発明の実施形態(複数)を採用するタイプのeMETシステムの荷電粒子マルチビームマスク露光ツール(マスク描画機)100の一例の模式的概観を
図1に示す。以下においては、本発明の特定の実施形態(複数)を当業者が夫々実施できるように開示するために必要とされる詳細のみを与える;明確性のために、
図1においては、各コンポーネントは寸法どおりには記載されていない。とりわけ、粒子ビームの横幅は誇張されて示されている;更なる詳細については、米国特許第6,768,125号、同第8,546,767号及び同第7,781,748号参照。粒子ビーム装置及びPD装置のレイアウト全体についてのこれらの文献の教示は引照を以って本書に記載されているものとする。
【0032】
電子ビームを生成するために適切なソースがシステム100において使用される。一変形形態においては、ビームは他の荷電粒子によって、とりわけ、適切なイオン源を用いた正電荷のイオンによって構成(具現化)され得る。粒子光学照明システムは、該ビームから、ターゲット表面に投射されるべきビームパターンを定義するためのアパーチャ(複数)の規則的アレイを有するPD装置を照射するワイドビームを形成する。各アパーチャによって、以下においては通常「ビームレット」と称される小さなビームが画定されるが、各ビームレットによるある(1つの)アパーチャの貫通通過は、ビームの粒子(複数)がアパーチャ(複数)及び/又は後続する拡大型荷電粒子投射光学系を貫通通過してターゲットへ向かうことを許可(「スイッチオン」)する又は有効に不活性化(「スイッチオフ」)するよう制御されることができる。
【0033】
アパーチャアレイを横断するビームレット(複数)は、アパーチャ(複数)の空間配置によって表され、個別ビームレットのためのオンオフ定義(決定)についての情報を含むパターン化粒子ビームを形成する。パターン化ビームは、次いで、縮小型荷電粒子光学投射システムによってターゲット(例えば、マスクブランク又は半導体ウェハ基板)へ投射され、かくして、ターゲットにおいて、対応するビームが逸らされないアパーチャの像が形成されて、照射位置においてターゲットを露光するか又は修正する。基板へ投射されるビームレット(複数)によって形成される像(複数)は「パターン画像」を形成するが、これは、一方向において機械的に運動する基板上のストレートなパス(「ストライプ」)に沿って露光される;基板の(ラージスケールの)動きは通常はターゲットステージの連続的運動によって、場合によっては同時に投射システムの精細調節によって、達成される。ステージに対し相対的な画像の運動の方向は(主)スキャン方向とも称される。主スキャン方向に対し直角をなす方向におけるビームの付加的スキャンは、例えば、本出願人の米国特許第9,053,906号により詳細に説明されているように、スキャンステージの横方向(lateral)進行運動エラーを補償するために及び/又は(限定的な)複数の平行ピクセル行を含むよう、小さな横方向の(lateral)範囲内においてのみ実行される。なお、この文献(の開示)は引照を以って本書に含まれているものとする。
【0034】
装置100の主コンポーネントは―この例においては
図1の垂直(上下)方向の下側に延伸するビームlb、pbの方向に見た順に―照明システム101、PDシステム102、投射システム103、及び、ターゲット又は基板14を有するターゲットステーション104である。荷電粒子光学システム101、103は静電及び/又は電磁レンズを用いて構成(具現化)される。装置100の荷電粒子光学部101、102、103及びターゲットステーション104は、装置の光軸に沿ってビームビームlb、pbの障害のない伝播を確保するために高真空に保持された真空ハウジング(不図示)内に含まれている。
【0035】
照明システム101は、例えば、電子又はイオン源(ソース)11、仮想ソースの位置を定義する抽出器(extractor)構造体、イオンビームを使用する場合粒子フィルタとしても使用され得る汎用ブランカ(blanker)12、及び、粒子光学コンデンサレンズシステム13によって構成(具現化)される荷電粒子照明光学系を含む。
【0036】
図示の実施形態では、粒子源11は、例えば5keVのような適切な運動エネルギを有するエネルギ電子を放出する;他の具現化例(複数)では、例えばΔE=1eVの比較的小さなエネルギの広がりを有し典型的には数keV(例えばPDシステム102では5keV)の定義された(運動)エネルギを有する水素イオン又はAr+イオンのような、主として特定の種のイオンのような他の荷電粒子が使用され得る。ソース11において生成もされ得る不所望の他の粒子種をフィルタ除去するために、速度/エネルギ依存フィルタ(不図示)が設けられ得る;フィルタは、ビームレット(複数)の再配置中にビームを全体としてブランキング(遮断)するためにも使用され得る。コンデンサレンズシステム13によって、ソース11から放出された荷電粒子(複数)から、ワイドエリアの(大断面の)実質的にテレセントリックなビーム(「照明ビーム(illuminating beam)」)lbが形成される。
【0037】
ビームlbは、次いで、その位置(不図示)を維持するために必要とされる装置(複数)と共にPDシステム(装置)102を形成するブランキング装置を照射する。PDシステム102については、以下において
図2~
図4を参照してより詳細に説明する。PD装置はビーム1bの経路中の特定の位置に保持されており、従って、ビーム1bは複数のアパーチャ21によって形成されるアパーチャアレイパターンを照射する。既述のように、各アパーチャは「スイッチオン」又は「スイッチオフ」されることができる。「スイッチオン」されたないしは「オープン」の状態では、アパーチャは、当該アパーチャを貫通通過するビームレットがターゲットに到達することを可能にする;この場合、アパーチャは入射ビームに対して透過性(透明)であるといえる。それ以外の場合では、アパーチャは「スイッチオフ」ないしは「クローズ」されており、この場合、対応するビームレットのビーム経路は、ビームレットが、ターゲットに到達できる前に、吸収されるか、そうでなければ、(例えば横断(transverse)電圧が印加される偏向電極によって;
図4のビームレットb2参照)ビーム経路から外されるよう影響を受ける;従って、アパーチャはビームに対して実質的に非透過性ないし不透明である。
【0038】
スイッチオンされるアパーチャのパターンは基板に露光されるべきパターンに応じて選択される。なぜなら、これらのアパーチャはビームlbに対して透過性であるPD装置の唯一の部分(複数)であり、従って、当該アパーチャから出射する(即ち
図1においてPDシステム102の下方にある)パターン化ビームpbをビームlbから形成する部分だからである。PD装置のアーキテクチャ及び動作(オペレーション)は、とりわけそのブランキングプレートについては、以下において詳細に議論される。
図1には、パターン化ビームpbにおいて示されているビームレットは5本のみであるが、ビームレットの実際の本数は遥かに多いこと、即ち典型的には数千本、ないしは数百万のオーダーですらあることは明らかであろう;図示のビームレットのうち、左から2番目に示されているものはスイッチオフされており、そのため、該ビームレットはPD装置102の内部において偏向され、荷電粒子投射光学系の第2のクロスオーバーc2に又はその近くに位置付けられたストッププレート17において吸収される;スイッチオンされている他のビームレットは、ストッププレート17の中央部の穴を貫通通過し、かくして、ターゲットに投射される。
【0039】
パターン化ビームpbによって表されるパターンは、荷電粒子光学投射システム103によって(レジスト被膜を備えた6”(インチ)マスクブランクのような)基板14へ投射される;スイッチオフされたビームレットはストッププレート17において吸収されるため、スイッチオンされたビームレットのみがスイッチオンされたアパーチャ(複数)の像を形成することになる。投射システム103は、本出願人によって実現されているような、例えば200:1の縮小を実行する。基板14は、例えば、eMETタイプのシステムの場合、レジスト層で被覆された、6インチマスクブランク又はナノインプリント1xマスク又はマスターテンプレートであり得、他方、PML2システムの場合、基板14は、粒子感応性レジスト層で被覆されたシリコンウェハであり得る。基板14はターゲットステーション104の基板ステージ(不図示)によって保持されかつ位置決めされる。
【0040】
投射システム103は、例えば、夫々クロスオーバーc1及びc2を有する2つの連続する荷電粒子光学プロジェクタ部分から構成される。プロジェクタ(複数)を構成(具現化)するために使用される(例えば、1つの静電型マルチ電極加速レンズ30と2つの磁気レンズ31を含む)粒子光学レンズ30、31は、静電型イメージングシステムの技術的構成(具現化)は先行技術において周知であるので、
図1には象徴的な形でのみ示されている;本発明の他の実施形態(複数)では、磁気及び/又は電磁レンズも好適なものとして含まれ得る。第1プロジェクタ部分は、PD装置のアパーチャ(複数)の面を結像して中間像を生成し、次いで、中間像は第2プロジェクタ部分によって基板表面へと結像される。第1部分及び第2部分は両者ともにクロスオーバーc1、c2を介した縮小イメージングを採用している;従って、中間像は反転されており、他方、基板に生成される最終像は正立している(非反転)。縮小率は両ステージ(部分)において凡そ14:1であり、その結果、全体としての縮小率は200:1となる。このオーダーの縮小は、PD装置についての小型化の問題を棚上げするために、リソグラフィセットアップ(装置)についてとりわけ好適である。荷電粒子光学レンズは主として静電電極(複数)から構成されるが、磁気レンズも使用し得る。
【0041】
荷電粒子光学システムの更なる詳細については、上掲した先行技術において見出すことができる。
【0042】
小さな横方向シフト、即ち光軸cxに対し直角をなす方向に沿った小さなシフトを像に導入する手段として、プロジェクタ部分の一方又は両方(部分)に偏向手段16が設けられる。そのような偏向手段は、例えば、米国特許第6,768,125号において議論されているような、マルチポール電極システムとして構成(具現化)されることができる。付加的に、軸方向(アキシャル)磁気コイルは、必要に応じ基板面においてパターンを回転を引き起こすために使用され得る。横方向(ラテラル)偏向は、通常は、パターン化ビームそれ自体の横幅と比べてかなり小さく、大抵の場合、単一のビームレットの幅の数倍又は隣り合うビームレット間の距離のオーダーであるが、それでもなお、ビーム幅未満の大きさ(複数)の少なくとも1つのオーダーである(この意味において、ビームレット間の横方向距離はビームbpの全幅よりもかなり小さいことが理解される)。
【0043】
PD装置102に形成されるパターンによって、任意のビームパターンを生成し、基板へ転写することができる。
【0044】
PDシステム及びプレートアーキテクチャ
【0045】
図2及び
図3は、装置100のPDシステム102の一実施形態を示す。具体的には、
図2には平面図が、
図3には側面図と縦断面図の組み合わせが示されている。
図4は
図3の断面図の詳細であって、PDシステム102を横断する5つのビームレット(他の5つの潜在(prospective)ビームレットは内部において排除される)の経路に沿ったPDシステム102のプレート(複数)の一断面を示す。
【0046】
PDシステム102は、上下配置(積重ね)構造で取り付けられた複数のプレート22を含み、そのコンポーネント(複数)が、アパーチャプレート201、ビーム選択プレート202及びブランキングプレート203のためのものを含む、夫々の機能を果たす複合装置を構成(具現化)する。ビームレット経路の個別の微調節のための調節プレート(不図示;米国特許第6,768,125号参照)のような、更なるコンポーネントプレート(複数)も含まれ得る。各プレート22は、その構造(複数)が当業界において既知の微細構造化(microstructuring)技術によって形成された半導体(とりわけシリコン)ウェハとして、とりわけ
図2にクロスハッチングによって象徴的に示されている複数の孔を有するPDフィールドpfを表すプレートの中央領域に形成されたメンブレン部分として、構成(具現化)される。リソグラフィビームは、以下において更に説明されるPDフィールドpfの(上下に)連続する孔(複数)を通ってプレート(複数)を横断する。
【0047】
プレート(複数)22は、既知のタイプのピエゾアクチュエータ又はナノポジショニング要素として構成(具現化)され、屈曲(ないし可撓)ジョイント(flexure joints)によって(対応する)チャックに取り付けられ、PDシステムの支持構造体24に固定されるアクチュエータ装置241、242、243によって互いに対し位置決めされるチャック(複数)23によって保持される。垂直(上下)方向において、チャック(複数)はスライド可能なベアリング25を用いて結合される。プレート(複数)22とチャック(複数)23は同じ材料、例えばシリコンで、又は、作動温度領域において同じ熱膨張挙動(特性)を有する材料で製造されることが好ましい。チャックはブランキングプレート203の電力供給も提供する;なお、明確性のために、電気ラインは図示されていない。
【0048】
プレート22には、基準ビーム(複数)の定義(規定)のための基準マーク(複数)26も設けられ得る。基準ビームrbの形状は、例えば、複数のプレート22の1つ、例えばアパーチャプレート201に形成された(1つの)孔において画定(定義)され、他方、他のプレートの対応する孔は、基準ビームの放射を通過させるために十分な幅を有する。基準ビームは、次いで、パターン化ビームpbと一緒に結像される;しかしながら、パターン化ビームとは異なり、基準ビームは基板41には到達せず、アライメントシステム(米国特許第7,772,574号参照)において測定される。更に、チャック23は、チャック(複数)23及びこれらが保持するプレート(複数)22の相対的位置決めのためのアライメントマーカーとして役立つアライメント孔(複数)236を有し得る。
【0049】
各プレート22のメンブレン部分の厚みはおよそ30~100μmである;ブランキングプレートのメンブレンは、より良好な熱伝導の観点から適切であれば、より厚みがあってもよい。プレート(複数)の枠部分は十分により厚みがあり、0.750mmのオーダーである。プレート間の相互距離は0.5~数mmのオーダーである。なお、
図4においては、縦軸(装置の光軸に平行なz軸)における寸法は縮尺通りではないことに注意すべきである。
【0050】
図4は
図3のプレート(複数)22のメンブレン部分の縦断面における詳細を示す;但し、PDフィールドpfの多数のビームレットのうち10本の潜在ビームレット(これらのうち5本のみが最終ビームレットとして選択される)の経路に対応する部分のみが示されている。既述のように、図示の実施形態は、3つのプレート201、202、203から構成される3枚(3段)プレート構造を構成(具現化)している。これらのプレートのうち、第1プレート201はAAD(アパーチャプレート)を構成(具現化)し、第2プレート202は孔アレイ装置(ビーム選択プレート)を構成(具現化)し、第3プレート203は偏向アレイ装置(ブランキングプレート)として役立つ(機能する)。第1プレートは、以下において更に説明するような異なるサイズ及び/又は形状のアパーチャ211、212のマルチプルセット(複数)を有するアパーチャプレート201として構成(具現化)されるアパーチャアレイ装置である。アパーチャ211は潜在ビームレットb1...b5を画定(定義)し、他方、アパーチャ212は潜在ビームレットb1’...b5’を画定(定義)する;そのようにして形成される潜在ビームレットは全てビーム選択プレート202へ向かって進行する。ビーム選択プレートは、1セットの潜在ビームレット、この場合アパーチャ211を通過するビームレットb1...b5のみが更に進行でき、他方、他の潜在ビームレット(この場合b1’...b5’)はビーム選択プレートにおいて実質的に吸収されることによって除去されるように、アパーチャ(複数)220が設けられている。この目的のために、ビーム選択プレートの孔220はアパーチャ211、212よりも大きい幅を有する。
【0051】
図5は、アパーチャプレート201の一部分の平面図を示す。図示の部分はアパーチャ(複数)の3×3グループのみを含み、各グループはアパーチャの3つの異なるタイプ211、212、213を含む。(
図5の)4-4線は
図4の断面図の切断線を示す。矢印d12は、一方のタイプのアパーチャ211と他方のタイプのアパーチャ212の間の相対オフセットを示し、このオフセットだけ、アパーチャプレートはアパーチャ211ではなくアパーチャ212を選択するためにシフトされる。
【0052】
PDシステム102の第3プレート203は偏向アレイプレートであり、通常はブランキングプレートと称される。このプレートは、それらの位置がアパーチャプレート201によって決定されるようなビームレットb1...b5の経路に対応する1セットの孔230を有する;但し、孔(複数)230は、ビームレットがブランキングプレートの材料に影響を及ぼすことなく孔230を貫通通過するよう、アパーチャ211、212の幅よりもより大きい幅を有する(換言すれば孔230はより大きい)。各孔230には電極231、232が設けられており、これらによって、各対の電極231、232間に選択的に印加される電圧に依存して、対応するビームレットに対し小さいが十分な偏向(逸れ)を与えることができる;例えば、一方の電極232はアース電位に維持されかつ対向(counter)電極として機能し、他方の電極231は、選択された(1つ以上の)ビームレットb1...b5を偏向するための電位(電圧)を印加するためのブランキングプレート203の回路層に接続される活性電極として機能する。各ビームレットは、そのようにして個別に偏向されることができる。ブランキングプレートは、電子制御及び電極の電力供給のための回路も含む。ブランキングプレートの回路の詳細を含むPD装置の更なる詳細については、本譲受人/本出願人の米国特許第6,768,125号、同第7,781,748号及び同第8,222,621 B2号において議論されている。
【0053】
そのようにして選択された各ビームレットb1...b5は、対応するブランキング電極231、232が通電されない場合、その公称経路に沿ってプレート(複数)22の次の孔を横断(縦断)する;これはアパーチャの「スイッチオン」状態に対応する。「スイッチオフ」アパーチャは電極の通電によって、即ち横断(transverse)電圧を印加することによって実現(具現化)される。この状態では、ビームレットb2によって示されているように、対応するブランキング電極231、232はビームレットb2をその公称経路から逸らし、かくして、該ビームレットは、最終的に何らかの吸収性の表面へ、好ましくは2つのクロスオーバーc1、c2(
図1)の一方の辺りに配置されたブロックアパーチャ17へ到達する(僅かであるが十分に)異なる経路へと逸らされる。
図4の例示的記載では、偏向ビームレットb2の偏向(逸れ)の角度はより良好に視認できるよう誇張されて示されている。
【0054】
アパーチャプレート及びマルチプルアパーチャグリッド
【0055】
アパーチャ(複数)211、212は、及び好ましくはビーム選択プレートの対応する孔(複数)220及びブランキングプレートの対応する孔(複数)230も、定義されたグリッド(複数)に沿って系統的に配置される。各グリッドは、例えば、規則的矩形アレイ又は米国特許第6,768,125号に記載されているようなターゲットにわたるアパーチャ(複数)の像(複数)の相対運動に対応する方向に平行に延在するジグザグなライン(複数)を形成する規則的アレイである。該配置(アレンジメント)の各ラインにおいて、同じタイプの連続する(隣り合う)アパーチャ間のオフセットは、本発明の一実施形態についての
図5に示されているような、アパーチャアレンジメントの基礎をなすグリッド幅(1つのグリッドを構成する隣接するグリッドライン間の幅)の倍数であることが好ましい。
図5に示されている孔(複数)は、夫々そのようなアレンジメントを代表する3つの(3種類の)インタレース(interlaced:互いに対し所定間隔だけシフトされて配置された)グリッドを示す。一般的には、アパーチャ(複数)は、実質的に規則的な二次元格子のポイント(交点)(複数)に位置付けられるであろうが、格子は、付加的に、結像システムにおいてあり得る歪みを許容する(計算に入れる:account for)ために正確な規則的格子からの小さなずれを有してもよく、そのため、アパーチャ(複数)の位置(複数)における小さなずれによってそのような結像エラーは補償され、そして、ターゲット上の夫々のアパーチャ像(複数)の補償された正確な位置が達成される。
【0056】
既述のように、アパーチャプレートはアパーチャ(複数)のマルチプル(multiple)セット(複数)を含み、アパーチャ(複数)の各セットはターゲットに結像されるよう選択されることができる。アパーチャ(複数)の特定のセットの選択及びアパーチャプレートとビーム選択プレートとブランキングプレートの相互位置合わせ(アラインメント)に関するPD装置の更なる詳細については、米国特許第6,768,125号において議論されている。
【0057】
図6は本発明者が気付いたような及び既に説明した([背景技術]及び[発明が解決しようとする課題])ようなPD装置の使用における諸問題を示す。
図6は
図4の一部を拡大した図である。ビームレットb6’(これは
図4のビームレットb1’...b5’の何れか1つであり得る)は、ビーム選択プレート202のバルク材料(部分)と相互作用し、二次粒子221、例えば電子を生成するであろう。二次粒子(複数)のある部分は該材料内部に留まるであろうが、他の部分は該材料から放出されるであろう。主に直観的に分かるように、二次粒子(とりわけ電子)は、
図6の図面参照符号222及び213によって示されているように、ビーム選択プレート及びアパーチャプレートの近傍において堆積して電荷の蓄積を引き起こし得る。そのような電荷が蓄積されると、該電荷は、
図6に破線の電気力線223によって象徴的に示されている電界を形成することになるが、この電界はビームレットb6(これは
図4のビームレットb1...b5の何れか1つであり得る)を偏向する(逸らす)効果を有し得、かくして、ターゲット表面における不所望のビームレット位置ズレを引き起こし得、従って、パターン忠実性を低下させ得る。
【0058】
吸収体構造を有するビーム選択プレート
【0059】
図7~
図9は本発明に応じた吸収体アレイ装置の一例を含むPD装置の一例の一実施形態を示す。この実施形態では、PD装置7はアパーチャプレート701、ビームレット選択プレート702及びブランキングプレート703を含む。(アパーチャプレート701とブランキングプレート703は既述の夫々対応するコンポーネント201、203と同じレイアウトで構成(具現化)可能である。)より具体的には、
図7は
図4に類似する縦断面を示し、
図8は潜在ビームレットと選択されたビームレットの1つのグループについて
図7の一部の詳細を示し、
図9はビームレット選択プレート702の平面図を示す;(
図9の)8-8線は
図7に示した断面図のための切断線を示す。ビームレット選択プレート702は本発明に応じた吸収体アレイ装置を構成(具現化)する;これは、アパーチャプレート701における複数の(アパーチャ)セットの1つのセットのアパーチャ(複数)71に対応する複数の孔70を含む。更に、ビームレット選択プレート702は、(1つ以上の)他のセットのアパーチャ(複数)72の潜在ビームレットb1’...b5’を、これらがブランキングプレート703に衝突できる前に、吸収するよう構成された荷電粒子吸収構造724が設けられている。荷電粒子吸収構造724はビームレット選択プレート702のバルク材料(部分)の内部において構成(具現化)されることが好ましい。
【0060】
一般的に、荷電粒子吸収構造は、当該吸収領域に面し(対向し)、吸収体フランクと称される壁部(複数)を形成する隆起領域(複数)によって包囲される複数の吸収領域を含む;これらの壁部は、既知の加工法によって達成できるように、垂直に又は90°に近い傾きでほぼ垂直に形成される。多くの実施形態では、
図7及び
図8に示されているように、例えば、構造724は止まり穴又はトレンチとして形成される複数の吸収装置として構成(具現化)可能である。そのような止まり穴及び/又はトレンチは、例えば、既知のタイプの反応性エッチング法を用いて形成可能である。ここで、用語「止まり穴(ないし袋穴:blind hole)」は、X-Y方向において限定された寸法を有し、1つのビームレットが衝突する領域に対応する窪み(有底穴)状(recess-like)構造を示す。用語「トレンチ」は、2つ、3つ又は4つのビームレットから相当な数のビームレット、更にはしかも1つの列の全部のビームレットのような1つより多くのビームレットの衝突(入射)領域を包囲するより幅の広い構造を意味する。複数の止まり穴(又は窪み)として荷電粒子吸収構造を構成(具現化)することは、この構造はビームレットによって蓄積される電荷や任意の二次粒子が全ての側部において包囲されかつ制限される(閉じ込められる)ことを保証(確保)するため、好ましい。
【0061】
止まり穴又はトレンチは、ビームレットb1’...b5’の全量が構造724において吸収されることが可能になるよう、アパーチャプレート701内部に形成されるビームレット画定アパーチャ(複数)(
図5のアパーチャ211、212参照)のサイズより大きい横方向幅とあり得る公差及び偏差を包含するよう決定され得るマージンとを有するよう構成(具現化)されることが好ましい。止まり穴の横方向幅の付加的なマージンは、アパーチャプレート701とビームレット選択プレート702の間の横方向のある程度の(certain)大きさの位置ズレを許容するためにも役立つ。本出願人により計算されたシミュレーションは、有利には、止まり穴又はトレンチは2より大きい深さ対幅比を有するよう構成(具現化)され得るが、1.5以上又は3以上の他のアスペクト比も有利であることが予期されることを示した。これは、
図8を参照すれば、ビームレットb7’によって生成され得る荷電汚染物質726の放射起因蓄積や二次粒子727が、二次粒子727及び関連する任意の電界を完全に又は少なくとも大部分(大幅に)構造724の内部に閉じ込めるよう吸収領域として機能する構造724の底面に位置付けられることを保証する。
【0062】
上述のように、二次粒子の角度分布は本質的に余弦則によって説明され得る。止まり穴の底部に二次粒子が生成される場合、これは、止まり穴の側壁に対するある程度の量の二次粒子の衝突を引き起こすであろう。二次粒子の他の部分は依然として止まり穴の頂部の開口部から逃れるであろう。深さ対幅比が2に近い止まり穴の場合、二次粒子の50%超が止まり穴の内部に閉じ込められるであろう。より大きいアスペクト比はそれに応じて閉じ込められる二次粒子の割合を大きくするであろう。従って、(
図6の部位213のような)他の部位におけるあり得る電荷蓄積、及び、吸収されたビームレットb7’によって引き起こされる、汚染物質726から生じる電界728に起因するビームレットb7の偏向(逸れ)は、有効に低減されるであろう。
【0063】
更に、導電性被膜725をプレート702の表面に適用することは有利であり得、この薄膜は該プレートの両側又は少なくとも上流側に設けられ得る。これは、蓄積される電荷の放散を保証し、残留電界を更に低減するであろう。そのような導電性被膜は、例えば、数nm、例えば10nmのAu又はPtのような本質的に高導電性の金属によってビームレット選択プレートをスパッタコーティングすることによって、構成(具現化)することができる。
【0064】
更に、
図7のPD装置7は、
図2及び
図3に示されているもののような位置決め装置を含む、位置決めアレンジメント(
図7に不図示)を備え得る。位置決めアレンジメントは、一方ではアパーチャプレート701と他方ではビームレット選択プレート702(及びブランキングプレート703)との間のX-Y面における相対位置を調節するために役立つ。幾つかの実施形態では、該相対位置は外部の装置によって又は手作業で調節され得、この場合、位置決めアレンジメントは、本発明に応じたPD装置の構成要素から省かれ得る。
【0065】
アパーチャプレート701とビームレット選択プレート702との間の距離は、これらのプレート間の自由な相対運動が可能になるよう適切に選択される。この距離(即ちZ方向に沿って得られる対応するプレート間の自由空間)の典型的な値は、0.5mmから最大値で凡そ20mm又は好ましくは凡そ5mmのオーダーであり、より好ましくは、該距離は1~2mmであり得る。
【0066】
図10及び
図11に示した本発明の他の一実施形態に応じ、PD装置9は、荷電粒子吸収構造929が当該ビームレット選択プレート902のバルク材料(部分)に形成された複数の突出特徴として構成(具現化)されるビームレット選択プレート902を含み得る。(この実施形態のアパーチャプレート901とブランキングプレート903は夫々
図7の実施形態の対応するコンポーネント701、703及び(
図4の)対応するコンポーネント201、203と同じであり得る。)例えば、吸収構造924は、例えば導電性金属材料で作られるか又は少なくともその表面が導電性薄膜でコーティングされた、以下において「シールド電極」又は「遮蔽(screening)電極」と称される、自立型(free standing)プリズム状(角柱状)物体(複数)929として構成(具現化)され得る。遮蔽電極(複数)は、矩形状の横断面形状を有する「吸収体チューブ(absorber tube)」に実質的に対応する配置を形成するような態様で配置され得る。当業界において周知であるようなガルバニック析出(galvanic deposition)法もビームレット選択プレートの表面に遮蔽電極を作製するために使用され得る。
図10は
図4及び
図7に類似する縦断面を示し、
図11はビームレット選択プレート902の平面図を示す;(
図11の)A-A線は
図10に示した断面図の切断線を示す。
【0067】
遮蔽電極(複数)929の互いに向い合う壁部(複数)は、この実施形態における吸収領域923のエリアを包囲する吸収体フランクを構成(具現化)する。吸収されるべきビームレット(複数)の位置を横切って測定されるこれらの遮蔽電極(複数)の向かい合う壁部の相互間の横方向距離w9は、好ましくは、選択されないビームレットb1’...b5’の全量が遮蔽電極間の表面部分において消滅(吸収)されることが可能になるよう(従って該部分は吸収領域として役立つ)、アパーチャプレート901内部に形成されるビームレット画定アパーチャ(複数)(
図5のアパーチャ211、212参照)のサイズ又は場合によりこのサイズにあり得る公差及び偏差を包含するよう決定され得るマージンを加えたものより大きいことが可能である。遮蔽電極間の少々より大きい横方向距離w9は、付加的に、アパーチャプレート901とビームレット選択プレート902の間のある程度の大きさの横方向の位置ずれの原因となり得る。(ブランキングプレート903は既述の実施形態のブランキングプレート703と同等である。)構造724と同様に、遮蔽電極(複数)929によって包囲される空間(「吸収体チューブ」)は、有利には、2より大きい深さ対内幅比で構成(具現化)され得るが、上記したような他のアスペクト比も有利であり得る。二次粒子の封じ込め及び蓄積された電荷によって生成される電界の遮蔽の効率に関する検討は、本発明の上記の実施形態について議論したものと同じである。
【0068】
一変形形態では、吸収体構造924は、例えば導電性金属材料で作られるか又は少なくともその表面が導電性薄膜でコーティングされた、プリズム状(角柱状)形状又は円柱状形状の複数のチューブ(tubes)として構成(具現化)され得る。当業界において既知であるようなガルバニック析出(galvanic deposition)法もビームレット選択プレートの表面に円柱状/プリズム状チューブ(複数)を作製するために使用され得る。構造724と同様に、円柱状/プリズム状チューブ(複数)は、有利には、2より大きい深さ対内幅比を有するように構成(具現化)され得るが、上記したような他のアスペクト比も有利であり得る。二次粒子の封じ込め及び蓄積された電荷によって生成される電界の遮蔽の効率に関する検討は、本発明の上記の実施形態について議論したものと同じである。
【0069】
チューブ(即ち遮蔽電極(複数)によって形成される「チューブ」又はプリズム状/円柱状チューブ)の内径w9は、好ましくは、アパーチャプレート901の内部に形成されるビームレット画定アパーチャ(複数)(
図5のアパーチャ211、212参照)のサイズ又は場合によりこのサイズにあり得る公差及び偏差を包含するよう決定され得るマージンを加えたものに等しいか又は少々より大きいことが可能である。これによって、ビームレットb1’...b5’の全量が、チューブの内部における吸収領域923として役立つ構造の底面において消滅(吸収)されるであろう。チューブの少々より大きい内径w9は、アパーチャプレート901とビームレット選択プレート902の間のある程度の大きさの横方向の位置ずれを許容する(計算に入れる)ことを保証し得る。
【0070】
上記の実施形態の全部又は一部は以下の付記として記載可能であるが、それらに限定されない。
[付記1]粒子ビーム加工又は検査装置において使用するためのマルチビームパターン画定装置。
前記マルチビームパターン画定装置は、荷電粒子のビームによって照射され、前記ビームを複数のアパーチャを通過させて、(前記アパーチャの数に)対応する数のビームレットを形成するために適合されている。
前記マルチビームパターン画定装置は、
前記複数のアパーチャが形成されているアパーチャアレイ装置、但し、該アパーチャアレイ装置は少なくとも2つのセットのアパーチャ(アパーチャセット)を含み、各(アパーチャ)セットは前記ビームに対し透過性の複数のアパーチャを含み、各(アパーチャ)セットのアパーチャは前記アパーチャアレイ装置上の実質的に規則的なアパーチャアレンジメントに配置されており、前記(アパーチャ)セット(複数)のアパーチャアレンジメント(複数)は少なくとも部分的にインタレースしており、前記アパーチャアレンジメント(複数)は、少なくとも当該アパーチャアレンジメントがインタレースする領域(以下「アパーチャアレンジメントインタレース領域」という。)において、夫々の変位ベクトルだけ互いに対しオフセットされた相互に等価なアレンジメントを構成すること、及び、
前記アパーチャアレイ装置の下流側に位置付けられ、かつ、前記アパーチャの少なくとも1つのサブセットによって形成されるビームレットを通過させるよう構成された複数の孔を有する吸収体アレイ装置
を含む。
前記吸収体アレイ装置は、吸収領域に対して高くされた(持ち上げられた)吸収体フランクによって包囲されかつ吸収領域に衝突する荷電粒子を吸収するよう構成された吸収領域を含む荷電粒子吸収構造(体)を含み、前記吸収領域は少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域に対応する領域にアパーチャの前記(アパーチャ)セット(複数)の少なくとも1つの(アパーチャ)セットのアパーチャに対応する位置に位置付けられており、前記吸収体アレイ装置の前記複数の孔は前記領域において前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記(アパーチャ)セット(複数)の少なくとも1つの他の(アパーチャ)セットのアパーチャアレンジメントに対応する実質的に規則的なアレンジメントに配置されている。
[付記2]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記ビームレットの各々が複数のブランキング孔の1つを公称経路に沿って通過するよう配置された複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置を更に含む。
前記偏向アレイ装置は複数の静電型偏向電極を含み、各電極は、1つのブランキング孔に関係付けられており、かつ、活性化電圧が当該電極に印加されると、夫々のブランキング孔を通過するビームレットをその公称経路から逸らすために十分な大きさだけ当該ビームレットを偏向するよう構成されている。
[付記3]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収構造は複数の荷電粒子吸収装置を含む。各荷電粒子吸収装置はビームレットの1つが衝突しかつ当該ビームレットの荷電粒子を吸収するよう構成された場所に対応する前記吸収体アレイ装置の位置に位置付けられている。
[付記4]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収装置は前記吸収体アレイ装置の表面に形成された窪み又は止まり穴として構成されている。前記窪みは好ましくは当該窪みに衝突するビームレットの対応する方向に沿って延伸している。
[付記5]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記窪み又は止まり穴は2より大きい深さ対幅比(depth to width ratio)を有する。
[付記6]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収装置は前記吸収体アレイ装置の表面から突出する電極状構造体として構成されている。
[付記7]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記電極状構造体は2より大きい深さ対幅比を有する。
[付記8]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記荷電粒子吸収構造は、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの横方向のサイズより2の倍数だけより大きい幅を有するトレンチ又は孔を含む。
[付記9]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置は、更に、前記アパーチャアレイ装置に対向する少なくともその側に形成された導電性被膜を含む。
[付記10]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記アパーチャアレイ装置及び前記吸収体アレイ装置の少なくとも一方は、前記吸収体アレイ装置に対する前記アパーチャアレイ装置の相対位置を調節するために前記ビームの伝搬方向に対する横方向の面内において可動であり、かつ、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の任意の選択セットを少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域において前記吸収体アレイ装置の複数の孔とアライメントされた(位置合わせされた)状態に選択的にもたらすよう構成されている。
[付記11]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置に対する前記アパーチャアレイ装置の相対位置を調節するために前記アパーチャアレイ装置及び前記吸収体アレイ装置の少なくとも一方を位置決めするための位置決め装置を更に含む。
前記位置決め装置は、前記アパーチャアレイ装置のアパーチャの前記セット(複数)の選択セットを少なくとも前記アパーチャアレンジメントインタレース領域にある前記吸収体アレイ装置の前記複数の孔とのアライメント(位置合わせされた)状態へ選択的にもたらすよう構成されている。
[付記12]上記のマルチビームパターン画定装置において、
前記吸収体アレイ装置は、前記アパーチャアレイ装置の下流側において前記アパーチャアレイ装置に対し所定の距離を置いて位置付けられている。
【0071】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択(「非選択」を含む。)が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、本発明の技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【0072】
更に、特許請求の範囲に付記した図面参照符号は専ら発明の理解を助けるためのものであり、本発明を実施形態及び図示の実施例に限定することは意図していない。
【0073】
更に、上記の各文献の全内容は引照を以って本書に繰り込みここに記載されているものとする。