(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026364
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の音階学習用シート
(51)【国際特許分類】
G09B 15/02 20060101AFI20230216BHJP
G09B 15/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G09B15/02 A
G09B15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125975
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021131833
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521358383
【氏名又は名称】Studio viva sol―La 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195970
【弁理士】
【氏名又は名称】本夛 伸介
(72)【発明者】
【氏名】永田 咲代子
(72)【発明者】
【氏名】永田 秀明
(57)【要約】
【課題】本発明は、発達障害児や未就学児の為の最適なピアノ教材の提供、とりわけ、対象者の指の発達状態、理解度を考慮しつつ、興味を引き出しながら鍵盤の成り立ちを促し、技能習得するプロセスを取り入れたツールや指導方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、鍵盤楽器の音階表記シートであって、当該音階表記シートは音階ドで始まって次の音階ドで終わり、かつ、白鍵部分に隣接する黒鍵部分が切り抜かれた形状で構成されることを特徴とする鍵盤楽器の音階学習用シートが提供され、当該シートの使用によって、幼児たちの鍵盤へ向かう能動意識が育まれるとともに、鍵盤上で出会った音階の数々によって、自然な技能鍛錬の実践を継続することができ、早いスキルアップを実現し得るものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤楽器の音階表記シートであって、当該音階表記シートは音階ドで始まって次の音階ドで終わり、かつ、白鍵部分に隣接する黒鍵部分が切り抜かれた形状で構成されることを特徴とする鍵盤楽器の音階学習用シート。
【請求項2】
前記音階表記シートには、音階ドレミファソラシドの文字が表記されたことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
【請求項3】
前記音階表記シートには、その右端か左端の少なくともいずれか一端に把持部が備えられたことを特徴とする請求項1乃至2のいずれか一項に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
【請求項4】
前記音階表記シートの把持部には、イラストで構成された図画を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の鍵盤楽器の音階学習用シートを用いて未就学児若しくは発達障害への音階学習を図る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器の音階学習用シートに関するものであり、さらに詳細には、未就学児若しくは発達障害がピアノ等の鍵盤楽器の音階を効果的に学べるように設計された情操教育用のシート教材およびこれを使用した学習方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
音楽の効用は、いわゆる音楽療法として広く知られているものであり、主には、音楽を聴いたり、自ら演奏したりする際の生理的・心理的・社会的な効果を応用して、心身の健康の回復、向上をはかる事を目的とする。音楽の効用はこれにとどまらず、情操教育にも抜群の効果を有し、その効果を期待して楽器やツールの開発がされている。
【0003】
楽器としては、鍵盤楽器がすぐれており、脳に心地よい刺激を与えることで、発達障害の子供たちにも情操教育上の大きな期待が寄せられている。特にピアノの効果は卓越している。ピアノの練習により、認知能力と知的能力も高まるといわれている。
つまり、空間認識や数学に使用されるのと同じ脳の領域が活性化され、知性が向上するというものである。また、ピアノの練習を通じて、記憶力、なかでも言語記憶が著しく向上し、集中力や粘り強さ、さらには創造性の獲得といった好ましい気質が無理なく自然な形で育まれることが期待されている。
【0004】
しかしながら、所望の教育効果を得るには一定の時間を要し、特に幼児にとっては、単純な反復練習の強制は、情操教育上逆効果であり、実効的な練習はその運用や指導方法に左右されるのが現実問題として深刻である。練習に取り組む幼児たちに対しては、如何に興味をもって継続的に取り組ませるかが大きな課題の一つである。
【0005】
この点、課題解決例として、わらべうたにみられるラ・ソ・ミの音(独特の抑揚)を応用した音楽療法が挙げられる。当該音楽療法は、幼児期から学童期にかけて習得する言語能力が、その後の成長段階の学習成果に直結するという観点から開発されたことばによる音楽療法であるが、特に学習障害児の療育や教育の現場では、児童のことば(発語・言語理解力)の障害のために指導が思うように進んでいない現状に鑑み、音楽領域の特性を融合させたものである。ドレミファソラシドの音階において「ラソ」の音程は、日本人に馴染みがある音程であり、障害を持った子供たちにおいても、脳にインプットされやすい音程の高さであることから、教育効果が高いという期待のもと、新たに着想された指導方法である。
【0006】
しかしながら、前記指導方法にも欠点がある。言葉を軸にした指導故に、興味を引くうえでもその言葉に対する個々人の理解力が律速となる場合が多く、いまだ実質的には短期的な効果を得るには至っていない。加えて、指導者の個別対応による指導負荷が大きいため、改善の余地がある。
【0007】
従来技術によれば、指導方法やツールの開発が検討され、ある程度の効果はおさめてきたが、健常人や成人対象をするものであり、未就学児の指の発達状態、理解度を考慮したものは、見当たらない。
特に、発達障害のある子どもや未就学児に対し、興味を引き出しながら、鍵盤の成り立ちを促し、技能習得するプロセスを取り入れたツールや指導方法については未開発の領域である。
【0008】
特許文献1には、音階学習用教材が開示されている。当該音階学習用教材は、ピアノやオルガンの鍵盤と同じ配置状態で鍵盤部が画された裏側板体と、この裏側板体の上に重なりこの裏側板体に対して箱対的に摺動可能な表側板体とから成り、この表側板体には摺動力向に適当な間隔おきに各音階に合った透視部が設けられ、表側板体のこの透視部の周りを半透明状とし、各透明視部を前記鍵盤部にあてがったときに、その透視部に合った音階を判別できるよう設計されたことを特徴とするものである。
考案の目的として、幼児や初心者が実際の運指練習に入る前に音階構造を容易に把握できるよう開発されたものであるが、実技前の音階インプットは容易ではなく、幼児等への実効的なツールとしては不十分である。
【0009】
特許文献2には、音楽教本は、その各曲の各音符に対応して音階を表示させる一方、ピアノ等の鍵盤より狹巾の薄片には音階を表示させ、該薄片裏面に粘着剤を塗布して樹脂膜面を有するシートに剥離自在に添着させ、該シートを音楽教本とセットとしたことを特徴とする音楽練習教本が開示されている。
当該教本は、従来の音を出す絵本で得ることができない実践的な練習に資するものであり、音階を表示させた薄片をピアノ等の鍵盤に添着させて音楽練習を容易にできるように開発されたものである。
しかしながら、記号、色及びシートとの関係性を理解させるための指導者側の仕掛けと準備が大変であり、学ぶ幼児の興味をと主体性を引き出す効果が低い。
また、鍵盤タッチのしづらさによって実践感覚醸成の指導阻害がある他、鍵盤を汚す問題も少なからずある。
【0010】
特許文献3乃至特許文献4には、これらを解決すべく提案された技術を開示するも、幼児や未発達障害児への情操教育を重視した点において全く不十分であり、指導目的のレベルも高い。
【0011】
特許文献5には、鍵盤楽器の演奏についての初心者であっても、コード記号に示されるコードを構成する音に対応する鍵盤の位置を、単に暗記することだけに頼ることなく、容易に認識することを可能にする鍵盤楽器の演奏習得用教材を提供するものであるところ、使用方法は煩雑であり、上記特許文献2乃至特許文献4の技術につき指摘した課題は解決されていない。
【0012】
このように、発達障害児や未就学児の為の最適なピアノ教材の提供はいまだ実現されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開昭58-172966号公報
【特許文献2】実用新案登録第3017860号公報
【特許文献3】実用新案登録第3044636号公報
【特許文献4】実用新案登録第3124054号公報
【特許文献5】特開2007-304307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の未達の問題に鑑みてなされたものであり、特に、発達障害児や未就学児の為の最適なピアノ教材の提供、とりわけ、対象者の指の発達状態、理解度を考慮しつつ、興味を引き出しながら鍵盤の成り立ちを促し、技能習得するプロセスを取り入れたツールや指導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、ピアノ等の鍵盤楽器の技能指導における幼児の興味の所在と引出しポイントを検討したところ、身近なビジュアル素材とのマッチングが効果的であるとの初期知見を得た。
【0016】
さらに、現場での鍵盤タッチに至る導入ツールの開発課題につき、鋭意検討を続けたところ、ロボットが合体する時の様な感覚から好奇心を促し、音階への成り立ちを促していくビジュアルツールの着想に至り、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明によれば、次の鍵盤楽器に適した音階学習用シートが提供されるものである。
(1)鍵盤楽器の音階表記シートであって、当該音階表記シートは音階ドで始まって次の音階ドで終わり、かつ、白鍵部分に隣接する黒鍵部分が切り抜かれた形状で構成されることを特徴とする鍵盤楽器の音階学習用シート。
(2)前記音階表記シートには、音階ドレミファソラシドの文字が表記されたことを特徴とする(1)に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
(3)前記音階表記シートには、その右端か左端の少なくともいずれか一端に把持部が備えられたことを特徴とする(1)乃至(2)のいずれか一に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
(4)前記音階表記シートの把持部には、イラストで構成された図画を含むことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
(5)(1)乃至(4)のいずれか一に記載の鍵盤楽器の音階学習用シートを用いて未就学児若しくは発達障害への音階学習を図る方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の音階学習シートは、88鍵ある鍵盤が、ドレミファソラシドの音が多数あり、ピアノ全体が構成されているという理解の促進とともに、これらの鍵盤を元に曲が出来上がっていくことの意識付けを通し、技能を段階的に高めることを優先し構成されたものであり、主役である幼児の興味が湧きおこるような仕掛けとして、好きな自分のイラストが鍵盤に合体する視覚イメージを取り入れたものである。
性別の違いに拘わらず、個々人の好きなイラストが、鍵盤に合体する音階学習シートの左右いずれか一方、又は双方の一端に存在することで、練習前には自己の鍵盤が実際のピアノ上に存在する意識を持たせつつ、レッスン教室では自分の鍵盤シートが鍵盤にジャンプして合体し、イラストとともに自分の安心した居場所が鍵盤上にある動機付けを図ることによって、楽しく鍵盤楽器の音階学習が進行する。その結果、鍵盤へ向かう能動意識とそこで出会った音階の数々によって、自然な技能鍛錬の実践を継続することができ、早いスキルアップを実現し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】中央に把持部を備えた本発明の音階学習シート(試作例)
【
図2】イラスト把持部を備えた本発明の音階学習シート(試作例)
【
図3】本発明の音階学習シートをピアノ鍵盤に設置した使用例
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明に係る音階学習シートの実施の形態について具体的に説明するが、本発明の範囲は当該実施形態の例に限定されるものではない。
【0021】
前述のとおり、本発明は、鍵盤楽器の音階学習用シートに関するものであり、さらに詳細には、未就学児若しくは発達障害がピアノ等の鍵盤楽器の音階を効果的に学べるように設計された情操教育用のシート教材を提供するものである。
【0022】
すなわち、本発明によれば、次の鍵盤楽器に適した音階学習用シートとこれを用いた学習方法が提供されるものである。
(1)鍵盤楽器の音階表記シートであって、当該音階表記シートは音階ドで始まって次の音階ドで終わり、かつ、白鍵部分に隣接する黒鍵部分が切り抜かれた形状で構成されることを特徴とする鍵盤楽器の音階学習用シート。
(2)前記音階表記シートには、音階ドレミファソラシドの文字が表記されたことを特徴とする(1)に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
(3)前記音階表記シートには、その右端か左端の少なくともいずれか一端に把持部が備えられたことを特徴とする(1)乃至(2)のいずれか一に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
(4)前記音階表記シートの把持部には、イラストで構成された図画を含むことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一に記載の鍵盤楽器の音階学習用シート。
(5)(1)乃至(4)のいずれか一に記載の鍵盤楽器の音階学習用シートを用いて未就学児若しくは発達障害への音階学習を図る方法。
【0023】
図1は、中央に把持部を備えた本発明の音階学習シート(試作例)を示したものであるが、鍵盤に合体できるように、白鍵部分に隣接する黒鍵部分が切り抜かれた形状を有し、中央の把持部を掴んで音階に設置する。中央把持部には特に鍵盤へ飛ぶイメージを持つ乗り物や動物のイラストを描くことで、幼児等に鍵盤との親近感を持たせている。
【0024】
図2は、イラスト把持部を右側に備えた本発明の音階学習シート(試作例)であり、把持部は両サイドに備えることも任意である。
【0025】
さらに、当該イラスト把持部に加え、指穴を備えることも任意である。最終的には幼児の興味が変化することを狙ったものであるが、指を指穴に入れることで鍵盤への移動バリエーションが増え、その過程で、タイプが異なる楽しさを幼児が実感することで鍵盤へ向かう意識に変化をもたらすことができる。
【0026】
図3は、本発明の音階学習シートをピアノ鍵盤に設置した使用の様子であるが、ピアノであれば、88鍵の鍵盤の位置が変わっても、「ドレミファソラシド」の基本構成が変わらないという体験学習により、音階と鍵盤の関係性を体感することができる。
【0027】
本発明に係る音階シートを活用した幼児の体感トレーニングを説明する。
一連の手順は、次のステップで構成される。
1.レッスン室で幼児が好きな音階シートを選択(音階シートは多数種常備)
2.選んだ音階シートを、鍵盤にフィットさせる。
3.鍵盤をタッチしながら、音階とシートの関係性を体感させる。
4.上記を繰り返すとともに、音階の理解を促進すべく、講師が個々人の行動様式を確認し、実践指導を行う。
【0028】
このように、理論実践より体感とトレーニングにより、幼児や発達障害であったとしても自然な音階理解が進み、応用力が無理なく身につく。
【0029】
以下に、発明品を使用した実施例を開示する。
(試験例1)5歳男児
鍵盤を全く触った事がなく、鍵盤全体を手のひらで叩いて遊んでいる男児にシートを置いてオクターブの位置を促したところ、色、形に反応し、指1本からシートの場所を押し始めた。88鍵盤を認識するのに3回のレッスンで理解した。現在は、10本の指で自由に両手奏を楽しんでいる。
【0030】
(試験例2)3歳女児
鍵盤には、保育所の鍵盤ハーモニカに触れた程度の幼児に本発明品を提供した。最初はピアノの鍵盤の硬さに緊張した様子だったが、シートの色、キャラに緊張が解れ、オクターブを丁寧に意識させ続けた結果、2ヶ月ほどで88鍵盤を認識した。指の筋肉の成長と共に、今もピアノレッスンを継続している。
【0031】
(試験例3)4歳男児
鍵盤経験としては、保育所のピアノを叩くように遊んでいた程度。入会時、知的な遅れが見られた。音楽に合わせて体を動かすのは得意。ピアノの前にじっと座り話を集中して聴くことが困難だったが、タイミングを見て座った時にシートのキャラ、色を意識させ「うさぎがジャンプしてきましたー」と譜面台の後ろから、指導する側も声のトーンをソラの音程で声かけすると集中力が芽生え、指1本からシートの位置を押し始めた。今現在もゆっくりではあるが、シートを使いながら鍵盤を意識する力は芽生えてきている。
【0032】
次に、発明品を使用したことによる評価テスト(5段階評価による使用効果の確認)を行った。その結果を示す。
評価基準は、次のとおりである。
ランク1;自分で音階シートを鍵盤に差し込むことができる。 ランク2;自分で音階シートをセットして指で白鍵を弾いてみることができる。 ランク3;自分で音階シートをセットして指で黒鍵を弾いてみることができる。 ランク4;自分で音階シートをセットして指で白鍵、黒鍵を弾いてみることができる。 ランク5;自分で音階シートをセットして簡単な曲を弾いてみることができる。
【0033】
(評価テスト1)5歳男児
誕生後、心臓手術をしたのち療育施設で過ごした。満3歳には幼稚園にも入学し、通園を始めた。満4歳の時に、初めてピアノ鍵盤に触れる。
【0034】
【0035】
(評価テスト2)5歳男児
ADHD(男の子に多く見られがちだが、小学高学年で落ち着いてくることが多い)。多動性、注意欠陥の症状が有り、母親によると、ひとときもじっとすることが出来ず、落ち着きがないとのことだった。
【0036】
【0037】
(評価テスト3)4歳女児
リズムに乗って体を動かすのが好きだが、やや集中力を欠き、指の筋力もまだ弱い。
【0038】
【0039】
以上の結果から明らかなように、障害を持ち一般的に集中力を欠く幼児でも、本発明品の活用によって、興味を引き起こすきっかけ(刺激)を与えることができ、そのことが各児童の主体性と持続的な行動を生むことに繋がった。
その結果、発達障害児や未就学児への大きな課題(ピアノを演奏するまでの鍵盤理解と自発的技能習得)に対しても、短期の成果を上げることが確認できた。