(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026414
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】導波素子
(51)【国際特許分類】
H01P 3/00 20060101AFI20230216BHJP
H01P 3/08 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
H01P3/00 100
H01P3/00 101
H01P3/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140662
(22)【出願日】2022-09-05
(62)【分割の表示】P 2022038249の分割
【原出願日】2021-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】谷 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
【テーマコード(参考)】
5J014
【Fターム(参考)】
5J014AA01
5J014CA42
5J014CA53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】周波数が30GHz以上である高周波数であっても、低伝搬損失性能を確保する導波素子を提供する。
【解決手段】導波素子100は、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波可能な導波部材10を備える。導波部材は、無機材料基板1と、無機材料基板の上部に設けられる導体層6と、を備える。無機材料基板の厚みtは、下記式(1)を満たす。
式中、tは、無機材料基板の厚みを表す。λは、導波部材に導波される電磁波の波長を表す。εは、無機材料基板の比誘電率を表す。aは、3以上の数値を表す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波可能な導波部材を備え、
前記導波部材は、
無機材料基板と、
前記無機材料基板の上部に設けられる導体層と、を備え、
前記無機材料基板の厚みtは、100μm以下であり、下記式(1)を満たす、導波素子。
【数1】
(式中、tは、無機材料基板の厚みを表す。λは、導波部材に導波される電磁波の波長を表す。εは、無機材料基板の比誘電率を表す。aは、3以上の数値を表す。)
【請求項2】
前記式(1)において、aが6以上の数値を表す、請求項1に記載の導波素子。
【請求項3】
前記無機材料基板の300GHzにおける比誘電率εと誘電正接(誘電体損失)tanδは、それぞれ3.5以上12.0以下、0.003以下である、請求項1または2に記載の導波素子。
【請求項4】
前記無機材料基板は、石英ガラス基板である、請求項3に記載の導波素子。
【請求項5】
前記導体層は、コプレーナ型電極である、請求項1から4のいずれかに記載の導波素子。
【請求項6】
前記導波部材を伝搬する電磁波の周波数が30GHz以上5THz以下において、前記無機材料基板の厚みは、10μm以上である、請求項5に記載の導波素子。
【請求項7】
前記無機材料基板において、前記導体層が形成される面とは反対側の面に接地電極を備えている、請求項5または6に記載の導波素子。
【請求項8】
前記導体層は、マイクロストリップ型電極であって、前記無機材料基板において、前記導体層が形成される面とは反対側の面に接地電極を備えている、請求項1から4のいずれかに記載の導波素子。
【請求項9】
前記導波部材の下部に設けられ、前記導波部材を支持する支持基板を備えている、請求項1から8のいずれかに記載の導波素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波~テラヘルツ波を導波する素子の1つとして、導波素子の開発が進められている。導波素子は、光導波路、次世代高速通信、センサ、レーザー加工、太陽光発電等の幅広い分野への応用および展開が期待されている。このような導波素子の一例として、厚み2mmの透明基板と、透明基板上に設けられるアンテナ導体と、透明基板におけるアンテナ導体と反対側の面に設けられる透明導電膜とを備えるマイクロストリップアンテナを用いた技術が提案されている(特許文献1)。
しかし、このような技術によれば、ミリ波~テラヘルツ波を導波すると、伝搬損失が顕著に増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、周波数が30GHz以上である高周波数の電磁波を導波する場合であっても、優れた低伝搬損失性能を確保できる導波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による導波素子は、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波可能な導波部材を備えている。前記導波部材は、無機材料基板と;前記無機材料基板の上部に設けられる導体層と;を備えている。前記無機材料基板の厚みtは、下記式(1)を満たしている。
【数1】
(式中、tは、無機材料基板の厚みを表す。λは、導波部材に導波される電磁波の波長を表す。εは、無機材料基板の比誘電率を表す。aは、3以上の数値を表す。)
1つの実施形態においては、上記式(1)において、aが6以上の数値を表す。
1つの実施形態においては、上記無機材料基板の300GHzにおける比誘電率εと誘電正接(誘電体損失)tanδは、それぞれ3.5以上12.0以下、0.003以下である。
1つの実施形態においては、上記無機材料基板は、石英ガラス基板である。
1つの実施形態においては、上記導体層は、コプレーナ型電極である。
1つの実施形態においては、上記導波部材を伝搬する電磁波の周波数が30GHz以上5THz以下において、上記無機材料基板の厚みは、10μm以上である。
1つの実施形態においては、上記導波素子は、上記無機材料基板において、上記導体層が形成される面とは反対側の面に接地電極を備えている。
1つの実施形態においては、上記導体層は、マイクロストリップ型電極であって、上記導波素子は、上記無機材料基板において、上記導体層が形成される面とは反対側の面に接地電極を備えている。
1つの実施形態においては、上記導波素子は、上記導波部材の下部に設けられ、上記導波部材を支持する支持基板を備えている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、周波数が30GHz以上である高周波数の電磁波を導波する場合であっても、優れた低伝搬損失性能を確保できる導波素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態による導波素子の概略斜視図である。
【
図2】
図1の導波素子のII-II´断面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による導波素子の概略斜視図である。
【
図4】
図3の導波素子のIV-IV´断面図である。
【
図5】本発明のさらに別の実施形態による導波素子の概略斜視図である。
【
図6】
図5の導波素子のVI-VI´断面図である。
【
図7】本発明のさらに別の実施形態による導波素子の概略斜視図である。
【
図8】
図7の導波素子のVIII-VIII´断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.導波素子の全体構成
A-1.導波素子100の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による導波素子の概略斜視図であり;
図2は、
図1の導波素子のII-II´断面図である。
図示例の導波素子100は、導波部材10を備えている。導波部材10は、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波、言い換えれば、ミリ波~テラヘルツ波の電磁波を導波可能である。なお、ミリ波とは、代表的には周波数が30GHz~300GHz程度の電磁波であり;テラヘルツ波とは、代表的には周波数が300GHz~20THz程度の電磁波である。
導波部材10は、無機材料基板1と;無機材料基板1の上部に設けられる導体層6と;を備える。無機材料基板1の厚みは、下記式(1)を満たす。
【数1】
(式中、tは、無機材料基板の厚みを表す。λは、導波部材に導波される電磁波の波長を表す。εは、無機材料基板の比誘電率を表す。aは、3以上の数値を表す。)
無機材料基板の厚みが上記式(1)を満足すると、導波部材が上記した高周波数の電磁波を導波する場合であっても、スラブモードの誘起を抑制でき、導波部材が支持基板に支持される構成では基板共振の発生を抑制できる。
そのため、上記導波素子は、上記した高周波数の電磁波を導波する場合であっても、伝搬損失が増大することを抑制でき、優れた低伝搬損失性能を確保できる。
また、導波素子は小型化の開発が進められており、将来的には回路の集積化が見込まれるため、導波部材(線路構造)もそれに伴う小型化が求められると予想される。上記の導波素子では、導波部材(線路構造)が備える無機材料基板の薄板化が図られているので、優れた低伝搬損失性能を確保しながら、小型化の要望にも対応することができる。
【0009】
1つの実施形態において、上記式(1)において、aは6以上の数値を表す。
無機材料基板の厚みが、aが6以上の数値を表す式(1)を満足すると、上記した高周波数の電磁波を導波する場合の伝搬損失の低減を安定して図ることができる。
【0010】
無機材料基板1の300GHzにおける比誘電率εは、代表的には3.5以上であり、代表的には12.0以下、好ましくは10.0以下、より好ましくは5.0以下である。
無機材料基板1の300GHzにおける誘電正接(誘電体損失)tanδは、代表的には0.0030以下、好ましくは0.0020以下、より好ましくは0.0015以下である。
無機材料基板の比誘電率εおよび誘電正接(誘電体損失)tanδが上記の範囲であると、上記した高周波数の電磁波(特に300GHz以上の電磁波)を導波する場合の伝搬損失の低減をより安定して図り得る。なお、比誘電率εおよび誘電正接(誘電体損失)tanδは、テラヘルツ時間領域分光法によって測定できる。また、本明細書において、比誘電率および誘電正接に関して測定周波数の言及がない場合、300GHzにおける比誘電率および誘電正接を意味する。
【0011】
上記式(1)を満たす無機材料基板1の厚みは、具体的には1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、例えば1700μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。また、導波部材を伝搬する電磁波の周波数が30GHz以上5THz以下である場合、無機材料基板1の厚みは、好ましくは10μm以上である。
無機材料基板1の厚みが上記下限を下回ると、導波素子を構成する電極の厚みや幅が数μm程度まで小さくなり、表皮効果による影響で伝搬損失が大きくなることに加え、製造ばらつきによる線路性能のトレランスが著しく低下する。
無機材料基板1の厚みが上記上限以下であると、スラブモードの誘起や基板共振の発生が抑制され、広い周波数範囲にわたって伝搬損失が小さい(すなわち、広帯域の)導波素子を実現できる。
【0012】
図示例の導波部材10は、コプレーナ線路を構成する。すなわち、導波部材10の導体層6は、コプレーナ型電極2である。
コプレーナ型電極2は、無機材料基板1の上面に設けられている。コプレーナ型電極2は、信号電極2aと、第1接地電極2bと、第2接地電極2cとからなる。信号電極2aは、所定方向に延びる線形状を有している。信号電極2aの幅wは、例えば2μm以上、好ましくは20μm以上、例えば200μm以下、好ましくは150μm以下である。第1接地電極2bは、信号電極2aの長手方向と直交する方向に信号電極2aに対して間隔を空けて配置されている。第2接地電極2cは、信号電極2aの長手方向と直交する方向において、信号電極2aに対して第1接地電極2bの反対側に位置し、信号電極2aに対して間隔を空けて配置されている。これによって、信号電極2aと、接地電極2b、2cとの間には、信号電極2aの長手方向に延びる空隙部(スリット)が形成される。当該空隙部(スリット)の幅gは、例えば2μm以上、好ましくは5μm以上、例えば100μm以下、好ましくは80μm以下である。
【0013】
このようなコプレーナ線路では、コプレーナ型電極2に電圧が印加されると、信号電極2aと接地電極2b、2cとの間に電界が生じる。上記した高周波数の電磁波は、導波素子100に入力されると、信号電極2aと接地電極2b、2cとの間に生じた電界と結合して、無機材料基板1中を伝搬する。
【0014】
図示例の導波素子100は、導波部材10の下部に設けられ、導波部材10を支持する支持基板20をさらに備える。
導波素子が支持基板を備えると、導波素子の機械的強度を高めることができる一方、導波部材が上記した高周波数の電磁波を導波したときに、基板を含めた厚みで基板共振が起こり、伝搬損失が増加する場合がある。
しかし、上記の構成では、無機材料基板の厚みが上記式(1)を満足しており、かつ、支持基板と導波部材との誘電率が異なるので、導波部材が上記した高周波数の電磁波を導波する場合であっても、基板共振の発生も抑制できる。そのため、上記導波素子が、支持基板を備え、かつ、上記した高周波数の電磁波を導波する場合であっても、伝搬損失が増大することを抑制できる。
この観点から、導波部材と支持基板の誘電率は差が大きいほどよく、さらに支持基板の誘電率は導波部材の誘電率より小さい方がよい。また、支持基板の誘電率が、導波部材の誘電率よりも大きい場合には、誘電率の小さい層を導波部材と支持基板との間に設けてもよい。
さらに、完全に基板共振を抑制するために、後述のようにグランド付きコプレーナ線路やマイクロストリップ線路を採用することができる。
【0015】
図示例の導波素子100では、導波部材を支持する支持基板を備えているが、本発明の導波素子は、支持基板を備えなくてもよい。言い換えれば、導波素子は、導波部材のみからなってもよい。後述する導波素子101および導波素子102においても同様である。
【0016】
A-2.導波素子101の全体構成
図3は、本発明の別の実施形態による導波素子の概略斜視図であり;
図4は、
図3の導波素子のIV-IV´断面図である。
図示例の導波素子101では、導波部材11が、グランド付きコプレーナ線路を構成し、コプレーナ型電極2と、無機材料基板1と、接地電極3とを備えている。接地電極3は、無機材料基板1において、コプレーナ型電極2(導体層6)が形成される面とは反対側の面に設けられている。図示例の導波素子101において、接地電極3は、無機材料基板1と支持基板20との間に位置する。
導波部材11が接地電極3を備えていると、信号電極2aと接地電極2b、2cとの間に生じる電界が、無機材料基板1から支持基板20に漏洩することを抑制し、基板共振や浮遊容量発生による伝搬損失低減を抑制できる。
信号電極2aの幅wは、例えば2μm以上、好ましくは20μm以上、例えば300μm以下、好ましくは250μm以下である。空隙部(スリット)の幅gは、例えば2μm以上、好ましくは5μm以上、例えば200μm以下、好ましくは150μm以下である。
【0017】
また、
図7および
図8に示すように、接地電極2b、2cと、接地電極3とは導通していてもよい。接地電極2b、2cと接地電極3とが導通していると、グランドを強化でき、周囲の線路や素子による浮遊容量を抑制できる。
図示例では、無機材料基板1に複数のビアホールが形成されており、各ビアホール内に位置するビア5によって、第1接地電極2bおよび接地電極3と、第2接地電極2cおよび接地電極3とのそれぞれが、短絡されている。第1接地電極2bおよび接地電極3を短絡するビア5と、第2接地電極2cおよび接地電極3を短絡するビア5とは、信号電極2aの長手方向と交差する方向に互いに間隔を空けて配置されている。ビア5は、代表的には導電膜である。複数のビアホールの配置は特に制限されないが、図示例では、複数のビアホールが、信号電極2aの長手方向に並んでいる。
【0018】
A-3.導波素子102の全体構成
図5は、本発明のさらに別の実施形態による導波素子の概略斜視図であり;
図6は、
図5の導波素子のVI-VI´断面図である。
図示例の導波素子102では、導波部材12が、マイクロストリップ線路を構成し、導体層6としてのマイクロストリップ型電極4と、無機材料基板1と、接地電極3とを備えている。
マイクロストリップ型電極4は、所定方向に延びる平帯形状を有している。マイクロストリップ型電極4の幅wは、例えば100μm以上、好ましくは300μm以上、例えば800μm以下、好ましくは500μm以下である。
接地電極3は、無機材料基板1において、マイクロストリップ型電極4(導体層6)が形成される面とは反対側の面に設けられている。図示例の導波素子102において、接地電極3は、無機材料基板1と支持基板20との間に位置する。
【0019】
このようなマイクロストリップ線路では、マイクロストリップ型電極4および接地電極3に電圧が印加されると、マイクロストリップ型電極4と接地電極3との間に電界が生じる。上記した高周波数の電磁波は、導波素子102に入力されると、マイクロストリップ型電極4と接地電極3との間に生じた電界と結合して、無機材料基板1中を伝搬する。
【0020】
本明細書において「導波素子」は、少なくとも1つの導波素子が形成されたウエハー(導波素子ウエハー)および当該導波素子ウエハーを切断して得られるチップの両方を包含する。
【0021】
B.無機材料基板
無機材料基板1は、導体層6が設けられる上面と、複合基板内に位置する下面と、を有する。
無機材料基板1は、無機材料で構成されている。無機材料として、本発明の実施形態による効果が得られる限りにおいて任意の適切な材料が用いられ得る。そのような材料としては、代表的には、単結晶石英(比誘電率4.5、誘電正接0.0013)、アモルファス石英(石英ガラス、比誘電率3.8、誘電正接0.0010)、スピネル(比誘電率8.3、誘電正接0.0020)、AlN(比誘電率8.5、誘電正接0.0015)、サファイア(比誘電率9.4、誘電正接0.0030)、SiC(比誘電率9.8、誘電正接0.0022)、酸化マグネシウム(比誘電率10.0、誘電正接0.0012)、および、シリコン(比誘電率11.7、誘電正接0.0016)が挙げられる。無機材料基板1は、好ましくはアモルファス石英から構成される石英ガラス基板である。
無機材料基板1が石英ガラス基板であると、上記した高周波数の電磁波を導波する場合であっても、伝搬損失が増大することをより一層安定して抑制できる。さらに樹脂系の基板と比較して誘電率が大きいので基板サイズが小さくできる、また無機材料の中で比較的に誘電率が小さいので低遅延化で有利である。
【0022】
C.導体層および接地電極
導体層6は、代表的には金属で構成される。金属として、例えば、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)が挙げられる。金属は、単独でまたは組み合わせて使用できる。導体層6は、単一層であってもよく、2層以上が積層されて形成されてもよい。導体層6は、例えばスパッタリングによって無機材料基板1上に形成される。
導体層6の厚みは、例えば1μm以上、好ましくは4μm以上であり、例えば20μm以下、好ましくは10μm以下である。
また、接地電極3は、導体層6と同様の金属で構成され、接地電極3の厚みの範囲は、導体層6の厚みの範囲と同様である。
【0023】
D.支持基板
支持基板20は、複合基板内に位置する上面と、外部に露出する下面と、を有する。支持基板20は、複合基板の強度を高めるために設けられており、これにより、無機材料基板の厚みを、上記式(1)を満たすように薄くすることができる。支持基板20としては、任意の適切な構成が採用され得る。支持基板20を構成する材料の具体例としては、インジウムリン(InP)、シリコン(Si)、ガラス、サイアロン(Si3N4-Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2,2Al2O3・3SiO2)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、スピネル(MgAl2O4)、サファイア、石英、水晶、窒化ガリウム(GaN)、シリコンカーバイド(SiC)、シリコンナイトライド(Si3N4)、酸化ガリウム(Ga2O3)が挙げられる。
支持基板20は、好ましくはインジウムリン、シリコン、窒化アルミニウム、シリコンカーバイドおよびシリコンナイトライドからなる群から選択される少なくとも1種から構成され、より好ましくはシリコンから構成される。
導波素子100に発振器や受信器等の能動素子を実装する場合、無機材料基板が加熱し、その他の能動素子や実装部品の特性が劣化してしまう恐れがある。これを防ぐために、支持基板には熱伝導率の高い材料を使用することができる。この場合、熱伝導率は150W/Km以上であることが好ましく、この観点において支持基板20は、シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、シリコンカーバイド(SiC)、シリコンナイトライド(Si3N4)が挙げられる。
なお、支持基板20を構成する材料の線膨張係数は、無機材料基板1を構成する材料の線膨張係数に近いほど好ましい。このような構成であれば、複合基板の熱変形(代表的には、反り)を抑制することができる。好ましくは、支持基板20を構成する材料の線膨張係数は、無機材料基板1を構成する材料の線膨張係数に対して50%~150%の範囲内である。
また、コプレーナ線路では支持基板20を構成する材料の誘電正接は小さいほうが好ましい。コプレーナ線路の場合、導波部材の厚みが小さくなると、伝搬する電磁波が支持基板に染み出すことがあり、誘電正接を小さくすることで伝搬損失を抑制することができる。この観点で、誘電正接は0.07以下であることが好ましい。
【0024】
支持基板20は、代表的には、導波部材(導波部材10、11、12)と直接接合することにより、導波部材(導波部材10、11、12)を支持している。本明細書において「直接接合」とは、接着剤を介在させることなく2つの層または基板が接合していることを意味する。直接接合の形態は、互いに接合される層または基板の構成に応じて適切に設定され得る。
直接接合によりそれらを一体化することで、導波素子における剥離を良好に抑制することができ、結果として、このような剥離に起因する無機材料基板の損傷(例えば、クラック)を良好に抑制することができる。
図示しないが、導波素子(導波素子100、101、102のそれぞれ)は、導波部材(導波部材10、11、12)と、支持基板20との間に設けられ、導波部材10と支持基板20とを接合する接合部をさらに備えていてもよい。
具体的には、
図1および
図2に示す導波素子100では、接合部は、無機材料基板1と支持基板20との間に位置し、それらを一体化してもよい。また、
図3および
図4に示す導波素子101では、接合部は、接地電極3と支持基板20との間に位置し、それらを一体化してもよい。また、
図5および
図6に示す導波素子102では、接合部は、接地電極3と支持基板20との間に位置し、それらを一体化してもよい。
【0025】
接合部は、1層であってもよく、2層以上が積層されていてもよい。接合部として、例えば、SiO2層、アモルファスシリコン層、酸化タンタル層が挙げられる。接合部の厚みは、例えば0.1μm以上3μm以下である。
【0026】
直接接合は、例えば、以下の手順で実現され得る。高真空チャンバー内(例えば、1×10-6Pa程度)において、接合される構成要素(層または基板)のそれぞれの接合面に中性化ビームを照射する。これより、各接合面が活性化される。次いで、真空雰囲気で、活性化された接合面同士を接触させ、常温で接合する。この接合時の荷重は、例えば100N~20000Nであり得る。1つの実施形態においては、中性化ビームによる表面活性化を行う際には、チャンバーに不活性ガスを導入し、チャンバー内に配置した電極へ直流電源から高電圧を印加する。このような構成であれば、電極(正極)とチャンバー(負極)との間に生じる電界により電子が運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、好ましくは不活性ガス元素(例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N))である。ビーム照射による活性化時の電圧は例えば0.5kV~2.0kVであり、電流は例えば50mA~200mAである。なお、直接接合の方法は、これに限定されることはなく、FAB(Fast Atom Beam)やイオンガンによる表面活性化法、原子拡散法、プラズマ接合法等も適用できる。
【実施例0027】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
1-1.導波素子(コプレーナ線路)の作製
図1および
図2に示す導波素子を作製した。
【0029】
0.5mm厚みの石英ガラスウエハー(石英ガラス基板、無機材料基板)を用意して、石英ガラスウエハー上に、0.2μmのアモルファスシリコン膜をスパッタにて形成した。成膜後、アモルファスシリコン膜を研磨して、平坦化処理をした。ここで、原子間力顕微鏡を用いて、アモルファスシリコン膜の表面の□10μmの算術平均粗さを測定したところ、0.2nmであった。
【0030】
また、厚み525μmのシリコンウエハー(支持基板)を用意した。原子間力顕微鏡を用いて、シリコンウエハーの表面の□10μmの表面の算術平均粗さを測定したところ、0.2nmであった。
【0031】
石英ガラスウエハーのアモルファスシリコン面とシリコンウエハーとを、以下のように直接接合した。まず石英ガラスウエハーとシリコンウエハーとを真空チャンバーに投入し、10-6Pa台の真空中で、双方の接合面(石英ガラスウエハーのアモルファスシリコン面とシリコンウエハーの表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70秒間照射した。照射後、10分間放置して石英ガラスウエハーおよびシリコンウエハーを放冷したのち、石英ガラスウエハーとシリコンウエハーの接合面(石英ガラスウエハーとシリコンウエハーの表面ビーム照射面)を接触させ、4.90kNで2分間加圧して石英ガラスウエハーとシリコンウエハーとを接合した。接合後、石英ガラスウエハーの厚みが150μmになるまで研磨加工し複合ウエハーを形成した。得られた石英ガラス/シリコン複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0032】
次いで、石英ガラスウエハーにおけるシリコンウエハーと反対側の表面(研磨面)にレジストを塗布して、フォトリソグラフィーによって、コプレーナ型電極パターンを形成する部分を露出するようにパターニングした。その後、レジストから露出する石英ガラスウエハーの上面に、スパッタによって、Cr膜50nm厚、Ni膜100nm厚を成膜して下地電極を形成した。さらに、下地電極上に電界メッキによって銅を成膜して、コプレーナ型電極パターンを形成した。信号電極の導波方向の長さは、10mmであった。
以上によって、コプレーナ型電極および無機材料基板を備える導波部材と、支持基板とを備える導波素子を得た。
【0033】
1-2.伝搬損失の算出
導波素子の伝搬損失を測定するために、上記と同様にして、信号電極の長さが30mm、40mm、および50mmの3つ導波素子を作製した。
次いで、導波部材の入力側にプローブにてRF信号発生機を結合し、導波部材の出力側にプローブに設置してRF信号受信機に電磁波を結合した。
次いで、RF信号発生機に電圧を印加して、RF信号発生機に、表1に示す周波数の電磁波を送信させた。これによって、電磁波が、コプレーナ線路(導波部材)に伝搬された。RF信号受信機は、コプレーナ線路から出力される電磁波のRFパワーを測定した。信号電極の長さが異なる3つの導波素子の測定結果から、伝搬損失(dB/cm)を算出して、下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
◎:0.5dB/cm未満
〇:0.5dB/cm以上1dB/cm未満
△:1dB/cm以上2dB/cm未満
×:2dB/cm以上
【0034】
<実施例2>
2-1.導波素子(グランド付きコプレーナ線路)の作製
図3および
図4に示す導波素子を作製した。
【0035】
0.5mm厚みの石英ガラスウエハー(石英ガラス基板、無機材料基板)を用意して、石英ガラスウエハー上に、スパッタによって、Cr膜50nm厚、Ni膜100nm厚を成膜して下地電極を形成した。さらに、下地電極上に電界メッキによって銅を成膜して、接地電極を形成した。次いで、接地電極上に0.2μmのアモルファスシリコン膜をスパッタにて形成した。成膜後、アモルファスシリコン膜を研磨して、平坦化処理をした。ここで、原子間力顕微鏡を用いて、アモルファスシリコン膜の表面の□10μmの算術平均粗さを測定したところ、0.2nmであった。
【0036】
また、厚み525μmのシリコンウエハー(支持基板)を用意した。原子間力顕微鏡を用いて、シリコンウエハーの表面の□10μmの表面の算術平均粗さを測定したところ、0.2nmであった。
【0037】
その後、接地電極上に形成されたアモルファスシリコン面とシリコンウエハーとを直接接合した。直接接合は、実施例1と同様に実施した。得られた石英ガラス/接地電極/シリコン複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
次いで、石英ガラスウエハーを研磨して、厚みを150μmとした。
【0038】
次いで、実施例1と同様にて、石英ガラスウエハーにおけるシリコンウエハーと反対側の表面(研磨面)に、コプレーナ型電極パターンを形成した。信号電極の導波方向の長さは、10mmであった。
以上によって、コプレーナ型電極、無機材料基板および接地電極を備える導波部材と、支持基板とを備える導波素子を得た。
【0039】
2-2.伝搬損失の算出
また、導波素子の伝搬損失を測定するために、上記と同様にして、信号電極の長さが30mm、40mm、および50mmの3つの導波素子を作製した。次いで、実施例1と同様に、RF信号受信機によって、コプレーナ線路から出力される電磁波のRFパワーを測定した。実施例2の導波素子の伝搬損失を、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
<実施例3>
3-1.導波素子(マイロストリップ線路)の作製
図5および
図6に示す導波素子を作製した。
【0041】
実施例2と同様にして、石英ガラス/接地電極/シリコン複合基板を得た。
次いで、石英ガラスウエハーにおけるシリコンウエハーと反対側の表面(研磨面)にレジストを塗布して、フォトリソグラフィーによって、マイクロストリップ型電極を形成する部分を露出するようにパターニングした。その後、レジストから露出する石英ガラスウエハーの上面に、スパッタによって、Cr膜50nm厚、Ni膜100nm厚を成膜して下地電極を形成した。さらに、下地電極上に電界メッキによって銅を成膜して、マイクロストリップ型電極を形成した。マイクロストリップ型電極の導波方向の長さは、10mmであった。
以上によって、マイクロストリップ型電極および無機材料基板を備える導波部材と、支持基板とを備える導波素子を得た。
【0042】
3-2.伝搬損失の算出
また、導波素子の伝搬損失を測定するために、上記と同様にして、マイクロストリップ型電極の長さが30mm、40mm、および50mmの3つの導波素子を作製した。次いで、実施例1と同様に、RF信号受信機によって、コプレーナ線路から出力される電磁波のRFパワーを測定した。実施例3の導波素子の伝搬損失を、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
<実施例4~6>
研磨後の石英ガラスウエハー(無機材料基板)の厚みを表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1~3のそれぞれと同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0044】
<実施例7>
無機材料基板としての石英ガラスウエハーを単結晶シリコンウエハーに変更したこと、および、研磨後のシリコンウエハーの厚みを表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0045】
<実施例8>
無機材料基板としての石英ガラスウエハーをサファイアウエハーに変更したこと、および、研磨後のサファイアウエハーの厚みを表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
<実施例9>
無機材料基板としての石英ガラスウエハーを多結晶AlNウエハーに変更したこと、および、研磨後のAlNウエハーの厚みを表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0047】
<実施例10>
研磨後の石英ガラスウエハー(無機材料基板)の厚みを表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
<実施例11~14>
研磨後の石英ガラスウエハー(無機材料基板)の厚みを表1に示す値に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0049】
<比較例1>
厚さ2100μmの石英ガラスウエハー(石英ガラス板、無機材料基板)を用意して、研磨後の石英ガラスウエハーの厚みを2000μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、導波素子を作製した。
得られた導波素子について、実施例1と同様にして伝搬損失を算出および評価した。その結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1から明らかなように、無機材料基板の厚みが上記式(1)を満たす場合、30GHzを超える高周波数の電磁波を導波しても、伝搬損失が小さく、優れた低伝搬損失性能を確保できることがわかる。
本発明の実施形態による導波素子は、導波路、次世代高速通信、センサ、レーザー加工、太陽光発電等の幅広い分野に用いられ得、特に、ミリ波~テラヘルツ波の導波路として好適に用いられ得る。このような導波素子は、例えば、アンテナ、バンドパスフィルタ、カプラ、遅延線(位相器)、またはアイソレータに用いられ得る。