(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026432
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】虚像生成素子及びヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20230216BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20230216BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230216BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20230216BHJP
G02B 5/26 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
G02B5/30
G02B5/28
G02B5/26
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190116
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2021021624の分割
【原出願日】2013-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 琢麿
(57)【要約】
【課題】利用者に虚像を適切に視認させることが可能な虚像生成素子などを提供する。
【解決手段】虚像生成素子は、例えばコンバイナであり、第1光学素子と、第2光学素子とを有する。第1光学素子には、円偏光の画像光が入射する。第2光学素子は、円偏光二色性を有し、第1光学素子を透過した画像光が入射する。第1光学素子の面は、第2光学素子の面に対して傾斜している。第2光学素子は、第1光学素子を透過した画像光を反射させ、かつ、当該反射された画像光が第1光学素子により反射された光を透過させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置によって形成された画像を虚像として視認させる虚像生成素子であって、
前記画像に対応する円偏光の画像光が入射する第1光学素子と、
円偏光二色性を有し、前記第1光学素子を透過した画像光が入射する第2光学素子と、
を備え、
前記第1及び第2光学素子は、前記外部装置からの光を当該光の入射角度に応じて反射させ、
前記第1光学素子の面は、前記第2光学素子の面に対して傾いており、
前記第2光学素子は、前記第1光学素子を透過した前記画像光を反射させ、かつ、当該反射された画像光が前記第1光学素子により反射された光を透過させることを特徴とする虚像生成素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚像として画像を視認させる技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、虚像として画像を視認させるヘッドアップディスプレイ(以下では適宜「HUD」と表記する。)などの表示装置が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。通常、HUDでは、実像表示装置で形成された実像(各種ディスプレイの画面やプロジェクタで投影されたスクリーン上の画像)を、運転者の視界前方に置かれたコンバイナと呼ばれるハーフミラーによって虚像として運転者に視認させる。これにより、運転者は、前方を見たまま視線を下げることなく、計器類やナビゲーション情報等を景色に重畳した状態で視認することができる。また、特許文献3には、波長依存性を有する平面ミラーと凹面ハーフミラーを組み合わせた光学視準装置により虚像を認識させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-270716号公報
【特許文献2】特開2002-052953号公報
【特許文献3】特許第2905486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、運転者が視認する虚像の最大視野角は、コンバイナのサイズを固定すると、コンバイナと運転者との距離に応じて決まる。つまり、コンバイナが運転者に近ければ視野角は大きくなり、コンバイナが運転者に遠ければ視野角は小さくなる。したがって、できるだけ大きな虚像を視認させるためには、コンバイナをできるだけ運転者に近付けることが望ましいが、設置場所の関係からコンバイナはダッシュボード上に設けられることが多い(例えば特許文献1参照)。
【0005】
これに対して、近年、視野角を大きくするために、天井付近(サンバイザの近傍)にコンバイナを設置するHUDが提案されている(例えば特許文献2参照)。このHUDでは、実像の反射光を眼に入射させるため、実像表示装置をコンバイナよりも運転者側に設置する必要があり、基本的には、実像表示装置は天井に取り付けられる。この場合、運転者に圧迫感を与えてしまうといった課題や、天井まで電源を引き回さなければならず、取り付けが面倒であるといった課題があった。また、特許文献3に記載の構造を用いた場合、虚像の輝度が過度に減衰してしまうという課題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は上記のようなものが一例として挙げられる。本発明は、利用者に虚像を適切に視認させることが可能な虚像生成素子などを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項に記載の発明では、外部装置によって形成された画像を虚像として視認させる虚像生成素子であって、前記画像に対応する円偏光の画像光が入射する第1光学素子と、円偏光二色性を有し、前記第1光学素子を透過した画像光が入射する第2光学素子と、を備え、前記第1及び第2光学素子は、前記外部装置からの光を当該光の入射角度に応じて反射させ、前記第1光学素子の面は、前記第2光学素子の面に対して傾いており、前記第2光学素子は、前記第1光学素子を透過した前記画像光を反射させ、かつ、当該反射された画像光が前記第1光学素子により反射された光を透過させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】実施例に係る誘電体多層膜が有する特性を示す。
【
図4】信号光がコンバイナに実像表示光と同一の入射角度により入射する場合のコンバイナの断面図を示す。
【
図5】コレステリック液晶層に代えて、誘電体多層膜を設けた場合の比較例に係るコンバイナの断面図を示す。
【
図9】
図8中の破線領域を拡大表示したコンバイナの側面図を示す。
【
図11】変形例6と変形例2とを組み合わせたコンバイナの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の1つの好適な実施形態では、外部装置によって形成された画像を虚像として視認させる虚像生成素子であって、前記画像に対応する円偏光の画像光が入射する第1光学素子と、円偏光二色性を有し、前記第1光学素子を透過した画像光が入射する第2光学素子と、を備え、前記第1及び第2光学素子は、前記外部装置からの光を当該光の入射角度に応じて反射させ、前記第1光学素子の面は、前記第2光学素子の面に対して傾いており、前記第2光学素子は、前記第1光学素子を透過した前記画像光を反射させ、かつ、当該反射された画像光が前記第1光学素子により反射された光を透過させる。
【0010】
上記の虚像生成素子は、例えばコンバイナであり、第1光学素子と、第2光学素子とを有する。第1光学素子には、円偏光の画像光が入射する。第2光学素子は、円偏光二色性を有し、第1光学素子を透過した画像光が入射する。また、第1及び第2光学素子は、画像光を当該光の入射角度に応じて反射させる。第1光学素子は、第2光学素子に対して傾斜して配置されている。例えば、第1及び第2光学素子が平板の場合、これらが非平行に配置される。第2光学素子は、第1光学素子を透過した画像光を反射させ、かつ、当該反射された画像光が第1光学素子により反射された光を透過させる。これにより、虚像生成素子は、画像光を直接観察者の目に入射させることなく、虚像を好適に観察者に視認させることができる。
【0011】
上記虚像生成素子の一態様では、前記第2光学素子は、前記第1光学素子を透過した前記画像光のうち特定の旋回方向の円偏光成分のみを反射する特性を有する。一方、前記第1光学素子は、前記第2光学素子によって反射された円偏光をその旋回方向を反転させて反射する。これにより、第2光学素子は、好適に、第1光学素子を透過した画像光を反射させ、かつ、当該反射された画像光が第1光学素子により反射された光を透過させることができる。
【0012】
上記虚像生成素子の他の一態様では、前記第1光学素子の反射率のピーク値は、特定の反射率である。これにより、第1光学素子は、信号表示の光などの背景光の少なくとも一部を観察者の目に到達させることができる。
【0013】
上記虚像生成素子の他の一態様では、前記第1光学素子は、前記画像光に対応する波長を有する光を、当該光の入射角度に応じて一部反射させ、前記画像光に対応する波長以外の波長を有する光を透過させる特性を有する。この態様により、虚像生成素子は、第2光学素子で反射された画像光を第1光学素子で反射させて観察者に到達させ、かつ、画像光と同一波長を有する背景光の少なくとも一部を観察者の目に到達させることができる。
【0014】
上記虚像生成素子の他の一態様では、前記第1光学素子は、前記第2光学素子の面に対して傾いた複数の面を有する鋸歯形状に構成されている。この態様により、虚像生成素子の厚みを好適に薄くすることができる。
【0015】
上記虚像生成素子の他の一態様では、前記第1光学素子は、曲面を有しており、前記画像光に対してレンズ作用を付与する。これにより、倍率を有した虚像生成素子を実現することができ、虚像距離を遠くにしたり近くにしたりすることが可能となる。
【0016】
上記虚像生成素子の他の一態様では、前記第1光学素子は、誘電体多層膜である。これにより、第1光学素子は、画像光を選択的に反射する波長選択性及び入射角度によって反射率を異ならせる入射角度依存性を有し、観察者に虚像及び背景を好適に視認させることができる。
【0017】
上記虚像生成素子の他の一態様では、前記第2光学素子は、前記画像光の波長に対応する螺旋ピッチを有するコレステリック液晶を積層した構造、又は、当該構造と同一機能を有するフィルムである。これにより、第2光学素子は、外部装置からの画像光を反射させ、かつ、第1光学素子でさらに反射して戻ってきた光を透過して観察者に虚像を視認させることができる。
【0018】
本発明の他の好適な実施形態では、ヘッドアップディスプレイは、外部装置と、前記外部装置によって形成された画像を虚像として視認させる上記記載の虚像生成素子と、を備える。この構成により、ヘッドアップディスプレイは、画像光を直接観察者の目に入射させることなく、虚像を好適に観察者に視認させることができる。
【0019】
上記ヘッドアップディスプレイの一態様では、外部装置は、直接円偏光の画像光を出射するか、直線偏光の画像光を出射する発光部と、前記発光部が出射した画像光を直線偏光から円偏光に変換する変換部とを有するとよい。これにより、円偏光の画像光を虚像生成素子に入射させることができる。
【0020】
上記ヘッドアップディスプレイの他の一態様では、前記外部装置は、車両のダッシュボード付近に設けられ、前記虚像生成素子は、前記車両の天井付近に設けられる。これにより、ヘッドアップディスプレイは、観察者に圧迫感や違和感を生じさせることなく所望の虚像を適切に視認させることができる。
【0021】
上記ヘッドアップディスプレイの他の一態様では、前記外部装置は、2輪車のダッシュボードもしくはメーター付近に設けられ、前記虚像生成素子は、ヘルメット型に構成されている。この場合であっても、ヘッドアップディスプレイは、画像光を直接観察者の目に入射させることなく、虚像を好適に観察者に視認させることができる。また、信号表示の光などの背景光の少なくとも一部を観察者の目に到達させることができる。
【実施例0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0023】
[ヘッドアップディスプレイの構成]
図1は、本実施例に係るHUD300の基本構成を示している。
図1に示すように、本実施例では、実像表示装置200をダッシュボード上に設置し、コンバイナ100のみを天井付近(サンバイザの近傍)に設置するといった構成を採用する。また、本実施例では、このような構成を適切に実現すべく、実像に対応する光を反射させる反射型のコンバイナではなく、実像に対応する光を透過させる透過型のコンバイナ100を用いる。具体的には、本実施例に係るコンバイナ100は、実像表示装置200からの光(以下では適宜「実像表示光」と呼ぶ。)に対してのみ光学的作用を付与することで、実像表示光を屈折させることにより運転者の頭部に導き、実像表示光以外の光(車両の前方風景に対応する光などであり、以下では適宜「背景光」と呼ぶ。)に対する光学的作用を最小限にして、背景光をなるべく透過させる。
【0024】
本実施例に係るHUD300によれば、運転者が視認する虚像の視野角を確保することができる。また、天井に虚像表示装置200を設置する場合と比較して、HUD300によれば、運転者に与える圧迫感を抑制することができると共に、天井まで電源を引き回す必要がないため、容易に取り付けることができる。
【0025】
なお、
図1に示したように実像表示装置200をダッシュボード上に設けることに限定はされず、実像表示装置200をインスツルメントパネルやセンターコンソールに設けても良い。つまり、実像表示装置200をオンダッシュ型に構成することに限定はされず、実像表示装置200をインダッシュ型に構成しても良い。
【0026】
なお、コンバイナ100は、本発明における「虚像生成素子」の一例に相当し、実像表示装置200は、本発明における「外部装置」の一例に相当する。
【0027】
以下では、上記したような本実施例に係るコンバイナ100の具体例について提示する。以後では、一例として、実像表示装置200は、3原色(RGB)の光により構成された実像表示光を出射するものとする。
【0028】
[コンバイナの構成]
図2は、コンバイナ100の構成を示す図である。
図2では、実像表示装置200からの光(即ち、実像表示光)の進行方向に沿って切断した、コンバイナ100の一部分についての断面図を示している。なお、後述するコンバイナの図についても同様とする。
【0029】
図2に示すように、コンバイナ100は、実像表示光が入射される側から順に、透明の基板23と、誘電体多層膜21と、透明の基板24と、コレステリック液晶層22とを有する。
【0030】
誘電体多層膜21は、反射特性として、実像表示光と同一の波長を有する光を選択的に反射する波長選択性及び入射角度によって反射率を異ならせる入射角度依存性を有する。また、後述するように、誘電体多層膜21は、反射率のピーク(最大値)が約50%になるように設計されている。これにより、誘電体多層膜21は、
図2に示すように、所定角度「α’」により入射した光を透過させ、その後に所定角度「β’」により入射するコレステリック液晶層22の反射光の一部を反射させる。誘電体多層膜21は、本発明における「第1光学素子」の一例である。
【0031】
コレステリック液晶層22は、反射特性として、波長選択性及び円偏光2色性を有する。具体的には、コレステリック液晶層22は、
図2に示すように、異なる螺旋ピッチを有する螺旋構造のコレステリック液晶27A~27Cがガラス基板28によって三層に分けられた構成を有する。コレステリック液晶27A~27Cは、螺旋のねじれと同じ方向の円偏光成分であって、螺旋ピッチと等しい波長を有する光のみを選択的に反射する。ここでは、コレステリック液晶27A~27Cは、それぞれ、赤色光(R)の波長(650nm)、緑色光(G)の波長(532nm)、及び青色光(B)の波長(450nm)と同じ長さの螺旋ピッチを有するものとし、かつ、右円偏光のみを選択的に反射するものとする。これにより、コレステリック液晶層22は、
図2に示すように、所定角度「θ
in’」により入射した右円偏光を100%反射させ、その後に所定角度「θ
out’」により入射する誘電体多層膜21の反射光である左円偏光を100%透過させる。コレステリック液晶層22は、本発明における「第2光学素子」の一例である。
【0032】
なお厳密には、コレステリック液晶層22の螺旋ピッチを「p」,実像表示光の波長を「λ」、入射角度を「θ」、コレステリック液晶層の平均屈折率を「n」とすると、コレステリック液晶層22が反射する光の波長は「p×n×cosθ」であるので、それを考慮して実像表示光の波長が反射されるようにコレステリック液晶層22の螺旋ピッチを決定するのが望ましい。
【0033】
また、コンバイナ100では、誘電体多層膜21とコレステリック液晶層22とが非平行になるように配置されている。具体的には、コレステリック液晶層22はコンバイナ100における水平面に沿って配置されているのに対して、誘電体多層膜21はコンバイナ100における水平面に対して角度φだけ傾斜して配置されている。つまり、誘電体多層膜21とコレステリック液晶層22との成す角度は「φ」となっている。
【0034】
さらに、実像表示装置200の発光面には、λ/4板フィルム250が貼り付けられている。これにより、実像表示装置200の発光面から発せられた直線偏光は、λ/4板フィルム250により右円偏光に変えられてコンバイナ100に入射する。
【0035】
次に、
図3を参照して、上記のような誘電体多層膜21の光学的作用を実現させるために、誘電体多層膜21に具備させる特性について説明する。
【0036】
図3(a)は、横軸に入射波長[nm]を示し、縦軸に反射率[%]を示しており、誘電体多層膜21の波長選択性反射特性を示している。具体的には、誘電体多層膜21に入射角度β(基板内部ではβ’)で入射する光に対する反射率の波長依存性を示している。
図3(a)に示すように、誘電体多層膜21は、RGB光である実像表示光(即ち、波長が450、532、650nm近傍の光)にのみ、光学的作用(具体的には50%の反射率による正反射作用)を与えるように構成されている。これにより、上記の3波長以外の光は、誘電体多層膜21による光学的作用を受けることはない。
【0037】
図3(b)は、横軸に入射角度[°]を示し(この入射角度は、空気との界面反射に換算した角度である)、縦軸に反射率[%]を示しており、誘電体多層膜21の実像表示光に対する反射率の入射角度依存性を示している。具体的には、実線のグラフG21は誘電体多層膜21の入射角度依存性を示している。なお、
図3(b)は、角度αが40.9[°]であり、角度βが19.8[°]である場合について例示している。
【0038】
グラフG21に示すように、誘電体多層膜21は、角度αで最初に入射する実像表示光を約100%透過し、コレステリック液晶層22で反射されて角度βで入射する実像表示光を約50%の反射率で反射するように構成されている。なお、誘電体多層膜21は、角度αで入射する実像表示光を透過し、角度βで入射する実像表示光を反射するといった特性を具備していれば、それ以外の角度ではどのような特性を具備していても良い。例えば、破線で表されたグラフG21’で示すような特性を具備していても良い。
【0039】
[光学的作用の詳細]
コンバイナ100は、波長選択性及び入射角度依存性を有する最大反射率が約50%の誘電体多層膜21及び円偏光二色性を有するコレステリック液晶層22を備える。これにより、コンバイナ100は、実像表示光の減衰率を約50%に抑えて運転者に視認させつつ、実像表示光と同一波長を有する信号機の光についても好適に運転者に視認させる。
【0040】
以下では、実像表示光への光学的作用と、信号機から発する光のうち実像表示光と同一波長の光(「信号光」とも呼ぶ。)への光学的作用とに分けて説明する。
【0041】
(1)実像表示光への光学的作用
誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22は、
図2中の矢印B1~B4に示すように、下方から入射角θ
inでコンバイナ100に入射する実像表示光に対し、所定の光学的作用を付与することで、約50%の明るさを保ったまま出射角θ
out(θ
out≠θ
in)でコンバイナ100から出射させて運転者の頭部に導く。
【0042】
具体的には、λ/4板フィルム250により右円偏光に変換された実像表示光は、入射角θ
inでコンバイナ100に入射後、基板23で屈折して角度θ
in’となり、入射角度α’により誘電体多層膜21へ入射する。ここで、誘電体多層膜21は、入射角度α(基板内部ではα’)で入射する光に対する反射率が約0%であるため(
図3参照)、矢印B1に示すように、入射光を100%の透過率により透過させ、入射角と同じ出射角α’で右円偏光のまま出射する。
【0043】
この後、誘電体多層膜21の透過光は、入射角θin’でコレステリック液晶層22に入射する。ここで、上述の入射光は、コレステリック液晶27A~27Cのいずれかの螺旋ピッチと波長が一致し、かつ、螺旋のねじれ方向と同一の方向(右方向)の円偏光になっている。従って、コレステリック液晶層22の入射光は、矢印B2に示すように、反射角θin’でコレステリック液晶層22にて約100%の反射率により正反射される。このように、コレステリック液晶層22は、約100%の反射率により上述の入射光を反射することで、実像表示装置200が表示する実像からの直接光が運転者の目に入射するのを好適に抑制する。また、このとき、コレステリック液晶層22は、上述の右円偏光である入射光を、そのまま右円偏光として反射する。
【0044】
そして、コレステリック液晶層22で正反射した右円偏光は、入射角β’で誘電体多層膜21に入射する。ここで、誘電体多層膜21は、入射角度β’(基板内部ではβ’)で入射する光に対する反射率が約50%であるため(
図3参照)、矢印B3に示すように、上述の入射光を、約50%の反射率により正反射する。このとき、誘電体多層膜21は、上述の右円偏光である入射光を、左円偏光に変換して反射する。この後、誘電体多層膜21で反射した左円偏光は、入射角θ
out’でコレステリック液晶層22に入射する。ここで、上述の入射光は、コレステリック液晶27A~27Cの螺旋のねじれ方向(右方向)と反対方向に回転する左円偏光であるため、矢印B4に示すように、コレステリック液晶層22を約100%の透過率により透過し、出射角θ
outでコンバイナ100から出射される。
【0045】
このように、コンバイナ100は、実像表示装置200から出射された実像表示光を、約50%の減衰率に抑制しつつ、運転者に虚像を視認させることができる。
【0046】
ここで、実像表示光の入射角度θin及び出射角度θoutと、誘電体多層膜21の傾斜角度φとの関係について説明する。
【0047】
入射角θinは、実像表示装置200とコンバイナ100との設置位置から決まり、出射角θoutは、頭部と虚像の表示位置とから決まる。角度θin’、θout’は、それぞれ角度θin、θoutの基板内部での角度であり、スネルの法則より式(1)、(2)から求められる。
【0048】
θin’=sin-1(sinθin/n) 式(1)
θout’=sin-1(sinθout/n) 式(2)
また、上記した角度α’、β’φは、それぞれ、角度θin’、θout’を用いて、式(3)、(4)、(5)で表される。
【0049】
α’=(3θin’-θout’)/2 式(3)
β’=(θin’+θout’)/2 式(4)
φ=(θin’-θout’)/2 式(5)
更に、角度α’、β’は、スネルの法則を用いて空気中での角度α、βに変換すると、式(6)、(7)で表される。
【0050】
α=sin
-1(n・sinα’) 式(6)
β=sin
-1(n・sinβ’) 式(7)
図2の例では、角度θ
inとして30[°]を用い、角度θ
outとして10[°]を用いている。この場合、式(1)、(2)から角度θ
in’、θ
out’を得て、角度θ
in’、θ
out’を式(3)に代入することで「α’≒25.9[°]」が得られ、また、角度θ
in’、θ
out’を式(4)に代入することで「β’≒13.1[°]」が得られる。そして、当該角度α’を式(6)に代入することで「α≒40.9[°]」が得られ、当該角度β’を式(7)に代入することで「β≒19.8[°]」が得られる。更に、角度θ
in’、θ
out’を式(5)に代入することで「φ≒6.4[°]」が得られる。よって、上記の例では、誘電体多層膜21を誘電体多層膜22に対して6.4[°]だけ傾斜させて配置すれば良い。
【0051】
このように、角度θin及び角度θoutを定めると、誘電体多層膜21の傾斜角度φを一意に決定することができる。なお、誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22は光を正反射させるため(つまり入射角と反射角とが等しくなるため)、そのような誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22によって、入射角θinで入射された光を当該入射角θinとは異なる出射角θoutで出射させるといった光学的機能を実現すべく、誘電体多層膜21をコレステリック液晶層22に対して傾斜させている。
【0052】
(2)信号光への光学的作用
次に、信号光への光学的作用について、
図4を参照して説明する。
図4は、上方から信号光がコンバイナ100に実像表示光と同一の入射角度θ
inにより入射する場合のコンバイナ100の断面図を示す。
【0053】
誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22は、
図4中の矢印B5~B6に示すように、上方から入射角θ
inでコンバイナ100に入射する信号光に対して、所定の光学的作用を付与することで、約25%の明るさを保ちつつ出射角θ
outでコンバイナ100から出射させて運転者の頭部に導く。
【0054】
具体的には、ランダム偏光である信号光は、入射角θ
inでコンバイナ100に入射後、基板23で屈折して角度θ
in’となり、入射角度β’により誘電体多層膜21へ入射する。ここで、誘電体多層膜21は、入射角度β(基板内部ではβ’)で入射する光に対する反射率がピークの反射率(約50%)であるため(
図3参照)、矢印B5に示すように、入射光を約50%の透過率により透過させ、入射角と同じ出射角β’でランダム偏光のまま出射する。
【0055】
この後、誘電体多層膜21を透過した光は、入射角θin’でコレステリック液晶層22に入射する。ここで、上述の入射光は、コレステリック液晶27A~27Cのいずれかの螺旋ピッチと波長が一致し、かつ、ランダムに偏光している。従って、この場合、矢印B6に示すように、上述の入射光の約50%に相当する左円偏光成分の光がコレステリック液晶層22を透過し、出射角θinでコンバイナ100から出射される。
【0056】
このように、誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22は、実像表示光と同一の入射角度θinにより上方から入射する信号光を、それぞれ約50%ずつ減衰させ、約25%の明るさにより運転者に信号機の表示を視認させる。従って、コンバイナ100は、実像表示装置200から出射された実像表示光を、約50%の減衰率に抑制して運転者に虚像を視認させ、かつ、実像表示光と同一の入射角度θinにより上方から入射する信号光についても好適に運転者の目に到達させることができる。
【0057】
なお、信号機から発する光のうち実像表示光とは異なる波長の光については、実像表示光と同じ入射角度(即ち、角度θin)でコンバイナ100に入射したとしても誘電体多層膜21、コレステリック液晶層22ともに反射率が約0%に設定されているため、ほぼ減衰することなく運転者に視認させることができる。
【0058】
さらに、実像表示光と異なる入射角度(即ち、角度θin以外の角度)でコンバイナ100に入射する信号光についても同様に、誘電体多層膜21の反射率は約0%に設定されているため、コレステリック液晶層22によってのみ約50%に減衰され、運転者に視認させることができる。
【0059】
[効果]
次に、本実施形態に係るコンバイナ100の効果について、
図5を参照して補足説明する。
【0060】
図5は、コレステリック液晶層22に代えて、誘電体多層膜22xを設けた場合の比較例に係るコンバイナ100xの断面図を示す。ここで、誘電体多層膜22xは、RGB光の各波長の近傍の波長を有する光のみを反射させ、かつ、角度θ
out(基板内部ではθ
out’)で入射する光を約100%の透過率で透過し、角度θ
in(基板内部ではθ
in’)で入射する光を約50%の最大反射率により反射するといった特性を具備しているものとする。また、比較例では、実像表示装置200には、λ/4板フィルム250が貼り付けられていない。
【0061】
図5に示す比較例に係るコンバイナ100xは、角度θ
inで上方から入射した信号光(信号機から発する光のうち実像表示光と同じ波長の光)を誘電体多層膜21で約50%透過させ、その後に角度θ
in’で誘電体多層膜22xに入射した光を約50%透過させる。このように、コンバイナ100xは、コンバイナ100と同様に、信号光に基づく信号表示を25%以上の明るさにより運転者に視認させている。
【0062】
一方、実像表示光が入射角度θinによりコンバイナ100xに入射した場合、誘電体多層膜21を100%の透過率により透過した実像表示光は、誘電体多層膜22xで約50%の反射率により反射される。その結果、比較例の場合、実施例の場合の半分である約25%の実像表示光しか運転者の目に到達せず、運転者が視認する虚像が暗くなってしまう。さらに、比較例の場合、誘電体多層膜22xに入射する実像表示光の約50%は透過するため、その透過光である実像表示光が直接運転者の目に入射する。この場合、運転者の目に入射する実像表示光は、約50%の明るさを保っているため、虚像の明るさ(約25%)よりも明るくなり、視認性が悪化することになる。
【0063】
また、他の比較例として、上述の比較例に係る誘電体多層膜21及び誘電体多層膜22xの反射率のピークを約100%にした場合について考察する。この場合、実像表示光が直接運転者の目に入射せず、虚像の明るさを保つことができる一方、実像表示光と同一角度θinにより上方から入射する信号光は、誘電体多層膜21及び誘電体多層膜22xの両方で約100%反射されてしまう。従って、この場合、信号表示への視認性が著しく低下する。
【0064】
以上を勘案し、本実施例に係るコンバイナ100は、波長選択性及び入射角度依存性を有する最大反射率が約50%の誘電体多層膜21と、円偏光二色性を有するコレステリック液晶層22とを備える。これにより、コンバイナ100は、実像表示光の減衰率を約50%に抑制して運転者に虚像を視認させつつ、実像表示光と同一の波長を有する信号光についても好適に運転者の目に到達させることができる。
【0065】
[変形例]
次に、実施例の変形例について説明する。なお、下記の変形例は、任意に組み合わせて実施することができる。
【0066】
(変形例1)
図6は、変形例1に係るコンバイナ100aの構成を示す図である。
図6に示すように、コンバイナ100aは、誘電体多層膜21の代わりに、鋸歯形状を有する誘電体多層膜21aを用いる点で、コンバイナ100と異なる。この誘電体多層膜21aは、複数の傾斜面21aを有し、上記した誘電体多層膜21と同様の機能を実現することが可能である。例えば、誘電体多層膜21aが有する傾斜面21aの傾きを、誘電体多層膜21の面と同様の傾きに設定すれば良い。つまり、コレステリック液晶層22の面に対して角度φだけ傾いた傾斜面21aを適用すれば良い。
【0067】
このように、変形例1では、全体が傾いた誘電体多層膜21の代わりに、それ自体は傾いていない誘電体多層膜21aを用いることで、コンバイナ100aの厚みを上記したコンバイナ100の厚みよりも薄くすることができる。
【0068】
(変形例2)
変形例2は、上記したコンバイナ100に対して、実像表示光に与える光学的作用としてレンズ作用を更に具備させる。例えば、光の集光機能や拡散機能などをコンバイナ100に具備させる。そのようなコンバイナ100は、誘電体多層膜21の面(即ち、基板内部に存在する反射面)を緩やかな曲面にて構成することで実現することができる。そして、変形例2によれば、倍率を有したコンバイナ100を実現することができ、虚像距離を遠くにしたり近くにしたりすることが可能となる。
【0069】
なお、上記のように緩やかな曲面にて構成した誘電体多層膜21に対して、変形例1を更に適用しても良い。つまり、誘電体多層膜21を、曲面にて構成すると共に、鋸歯形状に構成しても良い。その場合、誘電体多層膜21は、フレネルレンズ形状になる。
【0070】
(変形例3)
図7は、変形例3に係るコンバイナ100bの構成を示す図である。
図7に示すように、変形例3に係るコンバイナ100bは、上記した誘電体多層膜21に対応する誘電体多層膜21bをコンバイナ100bの表面に形成し、上記したコレステリック液晶層22に対応するコレステリック液晶層22bをコンバイナ100bの内部に形成している点で、実施例に係るコンバイナ100と異なる。具体的には、このコンバイナ100bでは、誘電体多層膜21bはコンバイナ100bの入射面としてコンバイナ100bに沿って配置されているのに対して、コレステリック液晶層22bはコンバイナ100b及び誘電体多層膜21bに対して角度φだけ傾斜して配置されている。
【0071】
なお、変形例3は、変形例1及び/又は変形例2と組み合わせて実施しても良い。つまり、コレステリック液晶層22bを、曲面にて構成したり、鋸歯形状に構成したりしても良い。コレステリック液晶層22bを曲面にて構成すると共に鋸歯形状に構成した場合には、当該コレステリック液晶層22bはフレネルレンズ形状になる。
【0072】
また、更に他の例では、誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22の両方を、コンバイナ100の内部に形成しても良い。その場合、誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22の一方のみをコンバイナ100に対して傾斜させることに限定はされず、誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22の両方をコンバイナ100に対して傾斜させても良い。
【0073】
(変形例4)
変形例4では、上記した誘電体多層膜21の代わりに、体積型HOE(Holographic Optical Element)を用いる。その場合、
図3(a)及び(b)に示したような特性を体積型HOEに具備させれば良い。また、光学的作用として正反射作用を実像表示光に対して付与するように、体積型HOEを構成すれば良い。
【0074】
(変形例5)
上記した実施例では、波長選択透過膜又は波長選択性反射膜として誘電体多層膜21を用いる例を示した。これに代えて、誘電体多層膜以外の種々の波長選択透過膜又は波長選択性反射膜を、誘電体多層膜21に代えて用いてもよい。
【0075】
同様に、実施例では、コレステリック液晶層22は、螺旋ピッチの異なるコレステリック液晶27A~27Cが三層に重なって形成されていた。これに代えて、反射特性としてコレステリック液晶層22と同様の円偏光二色性及び波長選択性を有するフィルムを、コレステリック液晶層22に代えて用いてもよい。このようなフィルムとして、例えば、国際公開番号WO2011/078055に記載されているコレステリック液晶フィルムを用いるとよい。
【0076】
(変形例6)
誘電体多層膜21とコレステリック液晶層22とを基板23、24と共に一体に成形するのに代えて、誘電体多層膜21とコレステリック液晶層22との相対位置が変更自在となるように、これらを別々の部材として構成してもよい。
【0077】
図8は、変形例6に係るコンバイナ100cの構成を示す図である。
図8に示すように、変形例6に係るコンバイナ100cは、誘電体多層膜21cと、コレステリック液晶層22cと、透明の基板33、34と、保持部35、36と、を有する。誘電体多層膜21cは、実像表示光が入射される面と反対側の基板33の面に形成されており、コレステリック液晶層22cは、実像表示光が入射される側の基板34の面に形成されている。基板33、34は、平行平板として構成されている。
【0078】
誘電体多層膜21c及び基板33は保持部35によって保持されており、コレステリック液晶層22c及び基板34は保持部36によって保持されている。保持部35と保持部36とは、共通の軸を用いて回転可能に取り付けられている。これにより、保持部35によって保持された誘電体多層膜21c及び基板33は矢印Ar1で示す方向に回動し、保持部36によって保持されたコレステリック液晶層22c及び基板34は矢印Ar2で示す方向に回動する。そのため、誘電体多層膜21cとコレステリック液晶層22cとの成す角度φを適宜変えることが可能となる。
【0079】
なお、誘電体多層膜21c及びコレステリック液晶層22cの両方が回動するようにコンバイナ100cを構成することに限定はされず、誘電体多層膜21c及びコレステリック液晶層22cの一方を固定し、誘電体多層膜21c及びコレステリック液晶層22cの他方のみが回動するようにコンバイナ100cを構成しても良い。
【0080】
図9は、
図8中の破線領域R1を拡大表示したコンバイナ100cの側面図を示している。
図9に示す誘電体多層膜21cは、RGB光の各波長の近傍の波長を有する光のみを反射させ、かつ、角度「θ
in+φ」で入射する光を透過し、角度「θ
in-φ」で入射する光を最大反射率である約50%の反射率により反射するといった特性を具備する。
【0081】
本変形例でも、
図9中の矢印C1~C4に示すように、実像表示光に対して誘電体多層膜21c及びコレステリック液晶層22cによって所定の光学的作用を付与することで、実像表示装置200から入射角「θ
in+φ」でコンバイナ100cに入射された実像表示光を、出射角θ
outでコンバイナ100cから出射させて、約50%の明るさを保ったまま運転者の頭部に導く。
【0082】
具体的には、実像表示装置200から入射角「θin+φ」でコンバイナ100cに入射された右円偏光は、矢印C1に示すように、誘電体多層膜21cを約100%の透過率により透過して、コレステリック液晶層22cに入射する。その後、入射角θinでコレステリック液晶層22cに入射した光は、矢印C2に示すように、反射角θinでコレステリック液晶層22cにて約100%の反射率にて反射する。そして、コレステリック液晶層22cで正反射した光は、入射角「θin-φ」で誘電体多層膜21cに入射し、矢印C3に示すように、反射角「θin-φ」で左円偏光に変換されて約50%の反射率により誘電体多層膜21cにて反射する。そして、誘電体多層膜21cで反射した光は、矢印C4に示すようにコレステリック液晶層22cを透過して、出射角θout(θout=θin-2φ)でコンバイナ100cから出射される。
【0083】
また、コンバイナ100cは、実施例と同様、上方からコンバイナ100に入射する信号光の明るさを少なくとも約25%保ったまま、運転者の頭部に導く。従って、本変形例によっても、運転者は、虚像を視認しつつ、信号表示についても好適に視認することができる。
【0084】
なお、本変形例の場合、1つの例では、角度φとして「10±5[°]」が用いられ、入射角「θin+φ」として「40±5[°]」が用いられ(この場合、θin=30[°])、出射角θoutとして「10±10[°]」が用いられる。
【0085】
ここで、本変形例の効果について説明する。コンバイナ100cは、コンバイナ100cからの出射角θoutが「θout=θin-2φ」となり、かつ、誘電体多層膜21cとコレステリック液晶層22cとの成す角度φを変えられるように構成されている。従って、コンバイナ100cは、運転者の座高の高さの違いを好適に吸収することができる。つまり、本変形例によれば、運転者の座高の高さなどが変化しても、当該変化に応じて角度φを運転者等が手動により変えることで、実像表示光を運転者の頭部に適切に到達させることができる。また、本変形例によれば、誘電体多層膜21cと基板33とから成る部材(例えば平行平板)及びコレステリック液晶層22cと基板34とから成る部材(例えば平行平板)を薄く構成することができるので、コンバイナ100c自体の重量を減らすことが可能となる。
【0086】
(変形例7)
変形例7は、変形例6に示すコンバイナ100d内の誘電体多層膜21c及び基板33の配置と、コレステリック液晶層22c及び基板34の配置とを変換した例を示す。
【0087】
図10は、変形例7に係るコンバイナ100c1~100c3の構成を示す図である。
図10(a)~(c)に示すように、コンバイナ100c1~100c3は、基板33、34において誘電体多層膜21c及びコレステリック液晶層22cのそれぞれが形成されている位置が、
図9に示す変形例6に係るコンバイナ100cと異なる。
【0088】
図10(a)に示すコンバイナ100c1では、実像表示光が入射される側の基板33の面に誘電体多層膜21cが形成されており、実像表示光が入射される面と反対側の基板34の面にコレステリック液晶層22cが形成されている。
図10(b)に示すコンバイナ100c2では、実像表示光が入射される面と反対側の基板33の面に誘電体多層膜21cが形成されており、実像表示光が入射される面と反対側の基板34の面にコレステリック液晶層22cが形成されている。
図10(c)に示すコンバイナ100c3では、実像表示光が入射される側の基板33の面に誘電体多層膜21cが形成されており、実像表示光が入射される側の基板34の面にコレステリック液晶層22cが形成されている。
【0089】
なお、変形例6、7は、変形例2と好適に組み合わせることができる。
図11は、変形例6と変形例2とを組み合わせたコンバイナ100c4の構成を示す図である。
図11に示すように、コンバイナ100c4は、平行平板で構成された誘電体多層膜21cの代わりに、緩やかな曲率を有する形状(メニスカスレンズ形状)にて構成された誘電体多層膜21caを用いる点で、コンバイナ100cと異なる。そのような誘電体多層膜21caを用いる場合、誘電体多層膜21caが貼り付けられる基板33aも、緩やかな曲率を有する形状となる。
【0090】
このようなコンバイナ100c4によれば、上記したコンバイナ100cが有する光学的作用に加えて、レンズ作用を実像表示光に対して更に与えることができる。したがって、
図11の例によれば、倍率を有したコンバイナ100c4を実現することができ、虚像距離を遠くにしたり近くにしたりすることが可能となる。
【0091】
(変形例8)
上記した実施例では、コンバイナ100を車両の天井付近に設けているが、その代わりに、
図12に示すように、コンバイナ100を、2重バイザー構造をしたヘルメット型とし、運転者に装着させてもよい。
【0092】
この場合、例えば、HUD300は、二輪車に搭載され、実像表示装置200が二輪車のダッシュボードもしくはメーター付近に設置される。他の例では、コンバイナ100は、実像表示装置200とコンバイナ100とが一体となった装着型のヘッドマウントディスプレイに用いられてもよい。これらの場合、好適には、出射角度θoutが0°に設定されるように、誘電体多層膜21とコレステリック液晶層22との傾斜角度φを設定するとよい。
【0093】
このように、眼鏡型のコンバイナ100であっても、実施例に示した誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22を有することで、実像表示光に基づく虚像を適切な明るさで運転者に視認させつつ、実像表示光と同様の入射角度で上方から入射する信号光に基づく信号表示についても好適に運転者に視認させることができる。また、実像表示光が直接運転者の目に入射することによる視認性の悪化も好適に抑制することができる。
【0094】
(変形例9)
実施例では、誘電体多層膜21の反射率のピークが約50%に設定されていたが、本発明が適用可能な誘電体多層膜21の反射率の範囲は、これに限定されない。これに代えて、実際の視認性等を勘案し、実験等により0%及び100%以外の特定の適合値に設定されてもよい。
【0095】
(変形例10)
実施例では、実像表示装置200は、450、532、650nmの各波長を有するRGB光からなる実像表示光を出射するものとしたが、本発明はこれに限定されない。これに代えて、実像表示光は、他の波長を有する光から構成されてもよい。この場合であっても、誘電体多層膜21及びコレステリック液晶層22は、実像表示光が有する波長に応じた波長選択性を有するように構成される。これにより、コンバイナ100は、実像表示光に基づく虚像を適切な明るさで運転者に視認させつつ、実像表示光と同一波長を有する背景光を運転者の目に好適に到達させることができる。