(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026512
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】緑内障予防又は治療のための薬物療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/551 20060101AFI20230216BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230216BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230216BHJP
A61K 31/5575 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
A61K31/551
A61P27/06
A61P27/02
A61K31/5575
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209257
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2021019519の分割
【原出願日】2012-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2011022619
(32)【優先日】2011-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 憲
(57)【要約】
【課題】眼圧下降作用が強力で且つその持続時間が延長された、緑内障予防若しくは高眼圧症の予防又は治療するための薬物療法の提供。
【解決手段】緑内障予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とラタノプロストを組み合わせてなる緑内障治療剤。
【請求項2】
配合剤である請求項1に記載の緑内障治療剤。
【請求項3】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを含有してなる薬剤とラタノプロストを含有してなる薬剤からなるキットである請求項1に記載の緑内障治療剤。
【請求項4】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とラタノプロストを組み合わせてなる高眼圧症治療剤。
【請求項5】
配合剤である請求項4に記載の高眼圧症治療剤。
【請求項6】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを含有してなる薬剤とラタノプロストを含有してなる薬剤からなるキットである請求項4に記載の高眼圧症治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための薬物療法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障とは、種々の病因により眼圧が上昇し、視神経が障害され萎縮し、視野異常を来たし、視力が低下していく病気である。一度萎縮を起こした視神経は回復しないため、緑内障を放置すると失明に至る上、治療に成功しても現状維持にとどまり、回復は望めない難治性の疾患である。また、視野異常は伴わないものの、長期的に緑内障に発展する可能性が高い高眼圧症も、同様の危険性を孕んでいる。
【0003】
緑内障は先天緑内障、続発緑内障、原発緑内障の3タイプに分けられる。先天緑内障は生まれつき隅角に発育不全があり、房水の排出が妨げられるために起こる緑内障である。続発緑内障は炎症やけがなど明らかな原因により起こる緑内障で、ぶどう膜炎や眼のけがなど眼に原因があるものの他、糖尿病による出血、他の病気の治療で使うステロイドホルモンの長期使用などによっても発症する。原発緑内障は原因がはっきりしないものの総称で、中高年の人に多くみられ、緑内障の中でも最も多いタイプである。原発緑内障と続発緑内障は、房水の流れのつまり方により、さらに開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障の2タイプに分けられる。また、眼圧の上昇を伴わない、正常眼圧緑内障を発症する患者も多数存在するが、いずれにせよ緑内障治療の第一目標は、眼圧を下降させることである。
【0004】
緑内障の治療方法は、薬物で眼圧を制御できない時や閉塞隅角緑内障患者が急性緑内障発作を起こした場合には、レーザー治療法(レーザー線維柱帯形成術)や手術療法(線維柱帯切除術と線維柱帯切開術)等が行われるが、薬物療法が第一選択として用いられる。緑内障の薬物療法には、交感神経刺激薬(エピネフリン等の非選択性刺激薬、アプラクロニジン等のα2刺激薬)、交感神経遮断薬(チモロール、ベフノロール、カルテオロール
、ニプラジロール、ベタキソール、レボブノロール、メチプラノール(Metipranolol)等のβ遮断薬、塩酸ブナゾシン等のα1遮断薬)、副交感神経作動薬(ピロカルピン等)、
炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド等)、プロスタグランジン類(イソプロピルウノプロストン、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト等)等が使用されている。
【0005】
これら薬剤の中で、プロスタグランジン類はぶどう膜強膜流出経路からの房水の流出を促進して眼圧を下げるタイプの薬剤であり、臨床的にも汎用されている(非特許文献1)。
【0006】
一方、新たな作用機序に基づく緑内障治療薬の候補として、Rhoキナーゼ阻害剤が見出されている(特許文献1~2)。Rhoキナーゼ阻害剤は、線維柱帯流出経路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させ(非特許文献2)、さらにその作用は線維柱帯細胞における細胞骨格の変化によることが示唆されている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0007】
さらに、緑内障や高眼圧症では、眼圧下降作用を増強する目的で、眼圧下降作用を有する薬剤を組み合わせて使用することも行われている。例えば、プロスタグランジン類と交感神経遮断薬との組み合わせの投与(特許文献3)や、眼圧下降作用を有する薬剤をいくつか組み合わせて眼に投与することによる緑内障の治療方法(特許文献4)などが報告されている。Rhoキナーゼ阻害剤においても、プロスタグランジン類との組み合わせによる緑内障治療剤の報告もある(特許文献5~7)。
【0008】
しかしながら、上記で知られているような緑内障や高眼圧症の治療剤や治療方法は、眼圧下降効果の作用強度や持続時間の面において未だ満足できるものとは言い難い。特に正常眼圧緑内障の場合、正常眼圧を下降させることは、上昇した眼圧を下降させるより困難であって、上記の既存薬やそれらの組み合わせでは正常眼圧緑内障の治療には限界があり、医療現場からはさらなる眼圧下降作用の増強が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO00/09162号パンフレット
【特許文献2】特開平11-349482号公報
【特許文献3】特許第2726672号公報
【特許文献4】国際公開WO02/38158号パンフレット
【特許文献5】特開2004-107335号公報
【特許文献6】国際公開WO07/026664号パンフレット
【特許文献7】国際公開WO08/105058号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】あたらしい眼科,15(4),475-480(1998)
【非特許文献2】IOVS,42(1),137-144(2001)
【非特許文献3】IOVS,42(5),1029-1037(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、眼圧下降作用が強力で且つその持続時間が延長された、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための薬物療法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを組み合わせて投与することにより、強力な眼圧下降作用が発揮され、且つその持続時間が延長されることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明に係るものである。
1)緑内障予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせ。
2)プロスタグランジン類が、ラタノプロストである上記1)の組み合わせ。
3)配合剤である上記1)又は2)の組み合わせ。
4)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを含有してなる薬剤とプロスタグランジン類を含有してなる薬剤からなるキットである上記1)又は2)の組み合わせ。
5)高眼圧症予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせ。
6)プロスタグランジン類が、ラタノプロストである上記5)の組み合わせ。
7)配合剤である上記5)又は6)の組み合わせ。
8)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを含有してなる薬剤とプロスタグランジン類を含有してなる
薬剤からなるキットである上記5)又は6)の組み合わせ。
9)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを組み合わせて投与することを特徴とする緑内障予防又は治療方法。
10)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを組み合わせて投与することを特徴とする高眼圧症予防又は治療方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、眼圧下降作用が強力で、且つその持続時間が延長された緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】各投与群の眼圧の経時変化を示すグラフである。眼圧は初期眼圧からの変化値(平均値±標準誤差)で示す。□:ラタノプロスト(Latanoprostと記載)単独投与群、○:(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン(化合物1と記載)単独投与群、●:ラタノプロスト(Latanoprostと記載)と(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン(化合物1と記載)の併用投与群、統計解析:*p<0.05 vs. 化合物1群、#p<0.05, ##p<0.01 vs. ラタノプロスト群。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いる(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンは、サブスタンスP拮抗作用、ロイコトリエンD4拮抗作用及びRhoキナーゼ阻害作用を有する化合物であり、公知の方法、例えば、国際特許公開第99/20620号パンフレットに記載の方法により製造することができる。
【0017】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンの塩としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等の無機酸の塩、又は酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機酸との塩が挙げられ、特に塩酸塩が好ましい。
【0018】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン又はその塩は、未溶媒和型のみならず水和物又は溶媒和物としても存在することができる。水和物が好ましいが、本発明においては、全ての結晶型及び水和若しくは溶媒和物を含むものである。
【0019】
一方、プロスタグランジン類としては眼圧下降作用を有して緑内障治療に有用なものであればよい。眼圧下降作用を有するプロスタグランジン類の具体例としては、特開昭59-1418に開示されているプロスタグランジン類(特にプロスタグランジンF2αのような天然のプロスタグランジン)、特表平3-501025に開示されているラタノプロスト等のプロスタグランジン類、特開平2-108に開示されているイソプロピルウノプロストン等のプロスタグランジン類、特表平8-501310に開示されているビマトプロスト等のプロスタグランジン類、特開平10-182465に開示されているトラボプロスト等のプロスタグランジン類、特開平11-071344に開示されているタフルプロスト等のプルスタグランジン類などが例示され、特に緑内障治療薬として販売されているラタノプロスト((+)-Isopropyl(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-dihydroxy-2-[(3R)-3-hydr
oxy-5-phenylpentyl]cyclopentyl]-5-heptenoate)、イソプロピルウノプロストン((+)-isopropyl(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-dihydroxy-2-(3-oxodecyl)cyclopentyl]hept-5-enoate)、ビマトプロスト((5Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-Dihydroxy-2-[(1E,3S)-3-hydroxy-5-phenylpent-1-en-1-yl]cyclopentyl]-N-ethylhept-5-enamide)、トラボプロスト(Isopropyl(5Z)-7-((1R,2R,3R,5S)-3,5-dihydroxy-2-[(1E,3R)-3-hydroxy-4-[3-(trifluoromethyl) phenoxy]but-1-enyl]cyclopentyl)hept-5-enoate)またはタフルプロスト(1-Methylethyl(5Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-2-[(1E)-3,3-difluoro-4-phenoxy-1-butenyl]-3,5-dihydroxycyclopentyl]-5-heptenoate)が好適に使用される。
【0020】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類を組み合わせて用いた場合、後記実施例に示すように、正常眼圧からでも強力且つ持続時間が延長された眼圧下降作用が認められる。従って、これらの組み合わせは、緑内障や高眼圧症の予防又は治療剤として有用である。また、これらの組み合わせは、緑内障や高眼圧症の予防又は治療剤を製造するために使用することができる。また、これらを組み合わせて緑内障や高眼圧症の予防又は治療を必要とするヒト(患者)に投与することにより、当該緑内障や高眼圧症を予防又は治療することができる。ここで、緑内障としては、例えば原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、房水産生過多緑内障、高眼圧症、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、plateau iris syndrome、混合型緑内障、ステロイド緑内障、水晶体の嚢性緑内障、色素緑内障、アミロイド緑内障、血管新生緑内障、悪性緑内障等が挙げられる。また、高眼圧症とは、眼性高血圧症とも呼ばれ、視神経に明確な病変が認められないにもかかわらず異常に高い眼圧を示す症状をいい、術後の高眼圧発現等、多くの高眼圧状態が包含される。
【0021】
本発明の緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせは、配合剤として、それぞれの有効量を適当な配合比において一の剤型に製剤化したものでも、またそれぞれの有効量を含有する薬剤を単独に製剤化したものを同時に又は間隔を空けて別々に使用できるようにしたキットであってもよい。
【0022】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを別々に製剤化する場合は、それぞれ公知の方法に準じて製剤を調製することができる。例えば、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の製剤は、前記の国際公開特許公報(WO00/09162、WO97/23222)に記載の製剤例を参考にして調製することができる。プロスタグランジン類の製剤としては、前記の日本公開特許公報または日本公表特許公報(特開昭59-1418、特表平3-501025、特開平2-108、特表平8-501310、特開平10-182465、特開平11-071344)に記載の製剤例を参考にして調製することができ、特に既に緑内障治療薬として販売されているラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト等については市販の製剤を使用することもできる。
【0023】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを配合した製剤を調製する場合も、公知の方法に準じて調製することができる。例えば点眼剤は、等張化剤、緩衝剤、界面活性剤、防腐剤などを必要に応じて使用して、調製することができる。pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよく、pH4~8の範囲が好ましい。
【0024】
上記製剤は、眼科用製剤、特に点眼用として用いるのが好ましく、斯かる点眼剤は、水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤、眼軟膏等のいずれでもよい。このような製剤は、投与形態に適した組成物として、必要に応じて薬学的に許容される担体、例えば等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等を配合し、当業者に公知の(製剤)方法により製造できる。
【0025】
点眼剤を調製する場合、例えば、所望な上記成分を滅菌精製水、生理食塩水等の水性溶剤、又は綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解又は懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。尚、眼軟膏剤を調製する場合は、前記各種の成分の他に、軟膏基剤を含むことができる。前記軟膏基剤としては、特に限定されないが、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン等の油性基剤; 油相と水相とを界面活性剤等により乳化させた乳剤性基剤; ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等からなる水溶性基剤等が好ましく挙げられる。
【0026】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とのプロスタグランジン類の組み合わせを、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のためのキットとする場合、以上のごとく製剤化された(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有してなる薬剤とプロスタグランジン類を含有してなる薬剤をそれぞれ別個にパッケージして、投与時にそれぞれのパッケージから各々の医薬品製剤を取り出して使用するように設計することができる。また、それぞれの医薬品製剤を、1回毎の併用投与に適した形態でパッケージしておくこともできる。
【0027】
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを組み合わせて緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のために用いる場合、その投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物として、1日0.025~10000μg、好ましくは0.025~2000μg、より好ましくは0.1~2000μgの範囲が挙げられ、プロスタグランジン類として、1日0.1~1000μg、好ましくは1~300μgの範囲が挙げられる。プロスタグランジン類について具体例を挙げれば、例えばラタノプロストの場合1日1~5μg、イソプロピルウノプロストンの場合1日30~300μgが通常使用される。
尚、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを配合した製剤として投与する場合には、1日の投与量が上記の各成分の量またはそれ以下になるように、配合割合を適宜選択した製剤を調製すればよい。
【0028】
また、投与回数は、特に限定されないが、1回又は数回に分けて投与するのが好ましく、液体点眼剤の場合は、1回に1~数滴点眼すればよい。キットとする場合は、それぞれ単独の製剤を同時に投与してもよいし、5分~24時間の間隔を空けて投与してもよい。
以下、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0029】
実施例1
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1
,4-ホモピペラジンとプロスタグランジン類との組み合わせによる有用性を調べるため、実験動物に両薬物を単独又は併用投与した時の眼圧下降効果を比較検討した。
【0030】
1.被験化合物溶液の調製
A.(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液の調製
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン一塩酸塩・二水和物を生理食塩水に溶解した後、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウムを加えて溶液を中和し(pH6.0)とし、所望の濃度の(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液を調製した。
【0031】
B.プロスタグランジン類の調製
市販のラタノプロスト(ファイザー社、0.005%点眼液)をそのまま使用した。
【0032】
2.試験方法
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンとラタノプロストとを併用投与した時の眼圧下降効果を検討した。比較対照として、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを単独投与又はラタノプロストを単独投与した時の眼圧下降効果についても検討した。
【0033】
A.試験に使用した薬剤及び動物
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液:0.4%溶液(点眼量:20μl)
ラタノプロスト:0.005%点眼液(点眼量:20μl)
実験動物:カニクイザル(性別:雄性、一群5匹)
【0034】
B.投与方法及び測定方法
(1)両薬剤の併用投与
1)4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(商品名:ベノキシール0.4%液)を実験動物の両眼に一滴点眼し局所麻酔をした(データは点眼側のみ)。
2)被験化合物溶液投与直前に眼圧を測定し初期眼圧とした。
3)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液を実験動物の片眼に点眼し、続いてラタノプロスト溶液を同一眼に点眼した。
4)両薬剤点眼の1時間、2時間,4時間及び6時間後に0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を一滴ずつ両眼に点眼し局所麻酔後、眼圧を測定した。
(2)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンの単独投与
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン単独点眼を行い,上記併用投与試験と同じ測定時間で試験をした。
【0035】
(3)ラタノプロストの単独投与
上記(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン単独投与の被検溶液をラタノプロストに代え、他は上記単独投与試験と同じ方法で試験をした。
【0036】
3.結果及び考察
試験の結果を
図1に示す。眼圧は初期眼圧からの変化値を示す。なお、統計処理には、Microsoft Excel 2000 SP-3、Paired t-testを用いた。
図1から明らかなように、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンとラタノプロストの併用群は、薬剤単独投与群、すなわち、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン投与群又はラタノプロスト投与群よりも優れた眼圧下降作用を示し、また、その作用の持続性の向上を示した。
以上から、ラタノプロストと(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを組み合わせることにより、より強い眼圧下降効果、並びに持続効果の向上が得られることがわかった。
本発明の(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせは、優れた眼圧下降効果、並びに持続効果を有しており、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための医薬として有用である。