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特開2023-26528シアノバクテリア抽出物、その調製方法と利用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026528
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】シアノバクテリア抽出物、その調製方法と利用方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20230216BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20230216BHJP
   A61L 15/12 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230216BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230216BHJP
【FI】
C08B37/00 P
C08B37/00 G
A61K31/715
A61L15/12
A61P31/22
A61P31/14
A23L33/135
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211434
(22)【出願日】2022-12-28
(62)【分割の表示】P 2020534801の分割
【原出願日】2018-08-30
(31)【優先権主張番号】62/552,045
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520070013
【氏名又は名称】ファー・イースト・バイオ‐テック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FAR EAST BIO‐TEC CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】13F, NO. 3, YUAN CHIU STREET, NAN‐GANG DISTRICT, TAIPEI CITY 115, TAIWAN.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】チゥー,チュァン‐チュン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イー‐シャン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ギ‐クン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジン‐ユン
(72)【発明者】
【氏名】リャオ,ヤ‐チュン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シン‐ウェン
(72)【発明者】
【氏名】シー,シン・ル
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ウェイ
(57)【要約】
【課題】ウイルス感染を予防および/または治療するべく、様々なウイルス、特にエンテロウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルスおよびブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルスに対する広域スペクトルの抗ウイルス薬の提供。
【解決手段】本発明は、エンテロウイルス(EV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)等の広域スペクトルのウイルスに対して抗ウイルス活性を示す種々のシアノバクテリア抽出物に関する。シアノバクテリア抽出物は、A.マキシマ(またはスピルリナ・マキシマ)のバイオマスから調製される。本発明は、シアノバクテリア抽出物の調製方法およびシアノバクテリア抽出物の使用にも関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)抽出物(AM抽出物)であって、前記AM抽出物中少なくとも60%(重量%)の全糖を含み、かつ、前記AM抽出物中の全糖に基づいて、60%(重量%)~100%(重量%)の中性および/または正に荷電した多糖を含み、少なくとも50モル%のラムノースを含み、ここで、前記中性および/または正に 荷電した多糖はラムノースとフコースを含み、最も豊富なグリコシル結合は3-rhapであり、
前記AM抽出物は、100KDの分子量カットオフ(MWCO)を有するフィルター膜を使用して得られる高分子量フラクションに由来する、AM抽出物。
【請求項2】
請求項1に記載のAM抽出物であって、
アルスロスピラ・マキシマのバイオマスを80~120℃の熱湯で抽出して、粗抽出物を得、
前記粗抽出物から固形残留物を除去して熱水抽出物を得、そして
必要に応じて、前記熱水抽出物を乾燥させて熱水抽出物粉末を得、
さらに、前記熱水抽出物または前記熱水抽出物粉末を含む溶液を、100KDの分子量カットオフ値を有するフィルター膜を使用して濾過し、高分子量フラクションを得、
必要に応じて、前記高分子量フラクションを乾燥させて高分子量抽出物粉末を得、
さらに、前記高分子量フラクションまたは前記高分子量抽出物粉末を含む溶液を、陰イオン交換カラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにかけ、
前記陰イオン交換カラムを通って流れる流出物を収集し、ここで、前記流出物は、正に荷電したおよび/または中性の多糖が豊富なAM抽出物を含み、
前記陰イオン交換カラムを塩溶液で溶出して溶出物を収集し、ここで、前記溶出物は、負に荷電した多糖が豊富なAM抽出物を含み、そして、
必要に応じて、前記流出物または前記溶出物をそれぞれ乾燥して、正に荷電したまたは中性の多糖に富む抽出物粉末と、負に荷電した多糖に富む抽出物粉末を得ることにより得られる、AM抽出物。
【請求項3】
請求項1に記載のAM抽出物の調製方法であって、
アルスロスピラ・マキシマのバイオマスを80~120℃の熱湯で抽出して、粗抽出物を得る工程、
前記粗抽出物から固形残留物を除去して熱水抽出物を得る工程、そして、
必要に応じて、前記熱水抽出物を乾燥させて熱水抽出物粉末を得る工程、を有し、
さらに、前記熱水抽出物または前記熱水抽出物粉末を含む溶液を、100KDの分子量カットオフ値を有するフィルター膜を使用して濾過し、高分子量フラクションを得る工程、そして
必要に応じて、前記高分子量フラクションを乾燥させて高分子量抽出物粉末を得る工程、を有し、
さらに、前記高分子量フラクションまたは前記高分子量抽出物粉末を含む溶液を、陰イオン交換カラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにかける工程、
前記陰イオン交換カラムを通って流れる流出物を収集する工程であって、ここで、前記流出物は、正に荷電したおよび/または中性の多糖が豊富なAM抽出物を含む、工程、
前記陰イオン交換カラムを塩溶液で溶出し、溶出物を収集する工程、ここで、前記溶出物は、負に荷電した多糖が豊富なAM抽出物を含む、工程、そして、
必要に応じて、前記流出物または前記溶出物をそれぞれ乾燥して、正に荷電したまたは中性の多糖に富む抽出物粉末と、負に荷電した多糖に富む抽出物粉末を得る工程、を有する、方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換カラムは、ジエチルアミノエチル(DEAE)ベースのカラム、第四級アミノエチル(QAE)ベースのカラム、または、トリメチルアミノエタン(TMAE)ベースのカラムである、請求項3の記載の方法。
【請求項5】
エンテロウイルス(EV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、または、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)によって引き起こされるウイルス感染、または、前記ウイルス感染によって引き起こされる障害の治療に使用するための薬剤の製造における請求項1または2に記載のAM抽出物の使用。
【請求項6】
栄養補助食品的に許容される賦形剤と請求項1または2に記載のAM抽出物とを含む、栄養補助食品組成物。
【請求項7】
エンテロウイルス(EV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、または、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)によって引き起こされるウイルス感染、または、前記ウイルス感染によって引き起こされる障害を治療するための医薬組成物であって、請求項1または2に記載のAM抽出物、および、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項8】
固体支持体と、前記固体支持体の片面にコーティングされた付着層とを有する生体適合性包帯(dressing)であって、前記付着層は請求項1または2に記載のAM抽出物を含む、生体適合性包帯。
【請求項9】
宿主細胞におけるウイルスのウイルス複製をin vitroで阻害するための方法であって、前記ウイルスは、エンテロウイルス(EV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、または、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)であり、請求項1または2に記載のAM抽出物の有効量に前記宿主細胞を曝露する工程を含む、方法。
【請求項10】
前記宿主細胞は、哺乳動物の宿主細胞である請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容全体がここに参考文献として合体される2017年8月30日に出願された米国仮出願第62/552,045号の利益に関連し、それを主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、新規なシアノバクテリア抽出物、その調製方法およびその利用法に関する。特に、前記シアノバクテリア抽出物は、エンテロウイルス(EV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)等の広範囲のウイルスに対して抗ウイルス活性を示す。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
シアノバクテリアは、陸地および淡水、汽水、または海水に見られる微小細菌である。シアノバクテリアは酸素生成光合成を行う。それらは光合成性であるため、水生シアノバクテリアは一般的に藍藻と呼ばれる。現在、シアノバクテリア門下には2,000以上の種が記載されている。シアノバクテリアは、抗ウイルス作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗癌作用を持つ生物学的に活性な化合物の豊富な供給源として確認されている。シアノバクテリアから単離された化合物は、ポリケチド、アミド、アルカロイド、脂肪酸、インドール、およびリポペプチドのグループに属している。所望の治療効果を有する活性がある抽出物フラクションまたは化合物を同定するための努力がなされている。
【0004】
スピルリナは、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)およびA.マキシマ(A. maxima)の乾燥バイオマスから作られる栄養補助食品を指す。A.マキシマ(またはスピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima))は、塩水およびアルカリ水域のある熱帯または亜熱帯地域で見られる。たとえば、それは、アフリカのチャド湖とメキシコのテスココ湖において一般的である。これら2種は、かつてスピルリナ(Spirulina)属に分類されていた。現在の分類法によると、これら2つの株のスピルリナという名称は不適切であり、アルスロスピラ(Arthrospira)属にA.プラテンシス(A. platensis)とA.マキシマが含まれるとの合意が存在するが、今日でも古い分類法が使用されており、そこから作成される栄養補助食品は、最も頻繁に使用されている名称、スピルリナと呼ばれている。スピルリナは、古代のアステカ時代から食料源として使用されてきた。栄養補助食品として使用される場合、スピルリナは、タンパク質と多糖が豊富で、ビタミンBや食用ミネラル(鉄やマンガンなど)などの多くの必須栄養素を含む乾燥粉末として多く提供されている。
【0005】
エンテロウイルス(EV)は、腸を通過するそれらの伝達経路によって名付けられたプラスセンス一本鎖RNAウイルスの属である。EVは、その病因に基づいて、先ず、ポリオウイルス、コクサッキーAウイルス(CA)、コクサッキーBウイルス(CB)、およびエコーウイルスに分類される。後に同定されたEVは、エンテロウイルスとして、EV68、EV69、EV70、EV71などの連続番号が後に付けられる。台湾における最初のヒトエンテロウイルス71型(EV71)のアウトブレイクは1998年に起こり、合計405例の重症患者と80例の死者を出した。中国では、2010年のEV71の急増により170万件を超える症例が発生し、27,000人の患者が重度の神経学的合併症と905人の死亡者を出した。EV71感染は手足口病(HFMD)を引き起こすことが知られており、2011年から2014年の間に、中国では数百万のHFMD症例が報告された。毎年、中国の何百人もの子供たちがEV71感染のために亡くなっている。したがって、関連技術において、効果的なワクチンならびに抗EV71薬を提供することが急務である。2014年の時点で、中国では3つの第III相臨床試験が完了しており、台湾とシンガポールではそれぞれ第I相試験が完了している。ワクチン防御効果はEV71誘発性HFMDで90%以上、EV71関連疾患で80%である。しかしながら、EV71は現在4つの遺伝子型(A、B、C、Dの遺伝子型)に分類され、さらに12のサブ遺伝子型に分類されている。したがって、他の流行しているウイルスに対する単一の遺伝子型を持つ特定の株に由来するEV71ワクチンの異種間防御効果は不確かである。上記に鑑みて、EV71の予防および治療のための広域スペクトルの抗EV71または抗エンテロウイルス薬が重要である。
【0006】
呼吸器合胞体ウイルス、またはRSVは、通常、軽度の風邪のような症状を引き起こす一般的な呼吸器ウイルスである。米国では、最初のRSVシーズン中に乳児の60%が感染し、ほぼすべての子供が2~3歳までにウイルスに感染しているであろう。RSVに感染した人の2~3%は細気管支炎を発症し、入院が必要となる。RSV用の新しいワクチンの開発に多くの活発な調査が行われているが、現在そのようなワクチンは存在しない。一方、RSVの治療は対処療法的措置に限定されている。市販のRSVワクチンの開発は、掴みどころがないので、RSVの予防と治療のための広域スペクトルの抗RSV薬が重要である。
【0007】
ヒトヘルペスウイルス(HHV)は、ヒトに感染するDNAウイルスであって、それには、単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2(HHV1およびHHV2とも呼ばれる)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZVまたはHHV-3)、エプスタインバーウイルス(EBVまたはHHV-4)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMVまたはHHV-5)、ヒトヘルペスウイルス6Aおよび6B(HHV-6AおよびHHV-6B)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHVまたはHHV-8)が含まれる。このウイルスのグループは、潜在的かつ繰り返し発生する感染に特徴がある。一部の抗ウイルス薬は、HHV感染に伴う症状を改善することが知られている。ただし、潜伏部位(ニューロン、T細胞、B細胞、単球など)からHSVを除去できる薬剤は存在しない。
【0008】
エボラウイルスは、モノネガウイルス目内に分類されるフィロウイルス科に属する。モノネガウイルス目のメンバーウイルスは、直鎖の非分節マイナスセンスの1本鎖RNAゲノムで構成されるエンベロープウイルスである。高い死亡率、人から人への感染の可能性、および効果的なワクチンまたは抗ウイルス療法の欠如のため、エボラウイルスはバイオセーフティレベル4(BSL-4)病原体として分類されている。エボラワクチンのリングワクチン(包囲)接種はある程度効果的であるように思えたが、その有効性の程度は不明であった。また、アフリカ周辺にはさらなるエボラウイルス株が蔓延しており、ウイルスRNAゲノムの遺伝子変異により、効果的なワクチンの開発がさらに困難になっている。したがって、予期しないアウトブレイクの緊急事態に備えてエボラ出血熱を治療および/または予防するために、抗エボラ出血熱活性を有する薬剤を開発することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
要するに、ウイルス感染を予防および/または治療するべく、様々なウイルス、特にエンテロウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルスおよびブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルスに対する広域スペクトルの抗ウイルス薬が、関連技術において緊急に必要とされている。一方、スピルリナ抽出物のさまざまな生物学的または生理学的特性が報告は一般的に説明されているが、これまで、これらのウイルスに対するスピルリナ抽出物の抗ウイルス活性を示唆する証拠は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
読者に対して基本的な理解を提供するために、以下に、本開示の簡略化された概要を提示する。この要約は、本開示の広範な概要ではなく、本発明の主要/重要な要素を特定したり、本発明の範囲を画定したりするものではない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明への前置きとして、ここに開示されるいくつかの概念を簡略化された形式で提示することにある。
【0011】
第1の態様において、本開示は、シアノバクテリア抽出物、特に、A.マキシマからの抽出物(以下、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)抽出物または略してAM抽出物)に関する。本発明のAM抽出物は、それらの抗ウイルス活性と正の相関がある全糖(特に、中性および/または正に荷電した多糖)の量の増加を有することを特徴とする。以下で考察するように、本発明のAM抽出物のこのユニークな組成は、広域スペクトルのウイルスに対して望ましい抗ウイルス活性をもたらす。さらに、以下に提供される実験データは、このAM抽出物が消化酵素での処理時においても、まだ満足のいく抗ウイルス活性を保持していることを示している。経口摂取がAM抽出物の最も一般的な投与経路であるため、消化酵素処理後の抗ウイルス活性は、AM抽出物が経腸投与(例えば、経口投与)で最初のパスを生き残り、生体内で抗ウイルス効果を示すしうる可能性が高いということを示唆するものである。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記AM抽出物は、少なくとも25%(重量%)の全糖を有する。例えば、本AM抽出物は、25~75%(重量%)の全糖を有しうる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記AM抽出物は、100KDの分子量カットオフ(MWCO)を有するフィルター膜を使用して得られる高分子量フラクションに由来する。
【0014】
特定の実施形態では、前記AM抽出物は、抽出物中の全糖に基づいて、少なくとも60%(重量%)の中性および/または正に荷電した多糖を含む。任意に、本AM抽出物は、抽出物中の全糖に基づいて、中性および/または正に荷電した多糖を60~100%(重量%)含んでもよい。
【0015】
本開示の様々な実施形態によれば、前記AM抽出物は、主要グリコシル成分としてラムノースを含む。例えば、ラムノースは、AM抽出物中の全グリコシル成分の少なくとも30モル%を占めうる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記AM抽出物中の多糖の最も豊富なグリコシル結合は、3-rhapである。
【0017】
特定の実施形態では、前記AMは、20%(重量%)未満のタンパク質含有率を有する。
【0018】
別の態様において、本開示は、本開示の上記の態様の実施形態によるAM抽出物を調製するための方法に関する。ここに提示されるユニークな抽出方法を使用することにより、従来の抽出方法によって得られる抽出物と比較して、糖含量が増加および/またはタンパク質含量が減少したAM抽出物を生成することができる。
【0019】
本開示の特定の実施形態によれば、前記AM抽出物を調製するための前記方法は、粗混合物を得るために、80~120℃の熱水中でアルスロスピラ・マキシマバイオマスを抽出する工程、前記粗抽出物から固形残留物を除去して熱水抽出物を得る工程、そして任意に、前記熱水抽出物を乾燥して熱水抽出物粉末を得る工程、を有する。前記熱水抽出物は、冷水抽出などの従来の抽出方法で得られる抽出物と比較して、糖分が豊富で、タンパク質含有量が少なくなっている。
【0020】
さらなる任意の実施形態では、前記方法は、前記熱水抽出物または熱水抽出物粉末を含む溶液を、100KDの分子量カットオフ値を有するフィルター膜を使用して濾過して高分子量フラクションを得る工程、そして必要に応じて、前記高分子量フラクションを乾燥させて、高分子抽出粉末を得る工程、を含みうる。ここに提示される実験データは、前記高分子量抽出物が前記熱水抽出物よりもさらに優れた抗ウイルス活性を示すのに対し、低分子量抽出物はウイルス感染の阻害には効果がないことを示している。
【0021】
さらに任意に、本抽出は、前記高分子量フラクションまたは高分子量抽出物粉末を含む溶液を陰イオン交換カラムを使用する陰イオン交換クロマトグラフィーにかける工程、前記陰イオン交換カラムを通って流れる流出物を収集する工程、ここで、前記流出物は、正に荷電したおよび/または中性の多糖が豊富なAM抽出物を含む、前記陰イオン交換カラムを塩溶液で溶出し、溶出物を収集する工程、ここで、前記溶出物は、負に荷電した多糖が豊富なAM抽出物を含む、そして任意に、前記流出物または前記溶出物をそれぞれ乾燥して、正に荷電したまたは中性の多糖に富む抽出粉末と、負に荷電した多糖に富む抽出粉末を得る工程、を含みうる。前記正に荷電したおよび/または中性の多糖に富むAM抽出物は、前記高分子量抽出物および負に荷電した多糖に富む前記AM抽出物よりも、抗ウイルス活性の点でさらに効果が高い。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記陰イオン交換カラムは、ジエチルアミノエチル(DEAE)ベースのカラム、第四級アミノエチル(QAE)ベースのカラム、またはトリメチルアミノエタン(TMAE)ベースのカラム、またはその他の正に荷電したカラムである。
【0023】
別の態様では、本開示は、それを必要とする対象において、ウイルス感染またはウイルス感染によって引き起こされる障害を治療する方法に関する。ここで提供される実験データは、本開示の上記の態様/実施形態によるAM抽出物が、エンテロウイルス(EV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、エボラウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、およびブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)などの広域スペクトルのウイルスに対して有効であることを示す証拠である。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、有効量の本AM抽出物を対象に投与する工程を含む。
【0025】
様々な実施形態では、前記対象は、ヒトを含む哺乳動物である。
【0026】
さらに別の態様において、本発明は、宿主細胞における特定のウイルスのウイルス複製を阻害するための方法に関する。
【0027】
本開示の実施形態によれば、前記方法は、本開示の上記の態様/実施形態による有効量のAM抽出物に対して宿主細胞を曝露する工程を含む。様々な実施形態において、前記方法は、インビトロまたはインビボで実施され得る。前記宿主細胞は哺乳動物細胞であり得る。
【0028】
さらに別の態様では、本開示は、ウイルス感染またはウイルス感染によって引き起こされる障害を治療するための栄養補助食品または医薬組成物に関する。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、栄養補助食品組成物または医薬組成物は、有効量のAM抽出物、および任意選択で、栄養補助食品的にまたは薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0030】
本発明は、また、生体適合性マトリックス内または生体適合性マトリックスの表面全体に分布する生体適合性マトリックスおよびAM抽出物を含む生体適合性材料に関する。例えば、前記生体適合性材料は、生体適合性ビヒクルおよび生体適合性ビヒクル内に分配されたAM抽出物を含む、ゲルまたはスプレー溶液であり得る。別の例では、前記生体適合性ビヒクルは、AM抽出物ゲルまたは溶液で含浸され得る吸収性固体支持体を含むパッチであり得る。さらに別の例では、前記生体適合性材料のパッチの一方の表面を、接着剤層内に分布したAMを含む接着剤層でコーティングすることができる。
【0031】
本開示の他の態様にも含まれる主題は、ウイルス感染またはウイルス感染によって引き起こされる障害の治療に使用するための医薬品の製造におけるAM抽出物の利用法、さらに、ウイルス感染またはウイルス感染によって引き起こされる障害の治療用のAM抽出物、も含む。
【0032】
本開示の付随する特徴および利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
【0033】
本説明は、添付の図面に照らして読まれる以下の詳細な説明からよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本開示の様々な実施形態による様々なAM抽出物を調製するための方法を示すフローチャートである。
図2A】本開示の1つの実施例による、本AM抽出物中の多糖の分子量分布を示すクロマトグラフである。
図2B】本開示の1つの実施例による、本AM抽出物中の多糖の分子量分布を示すクロマトグラフである。
図2C】本開示の1つの実施例による、本AM抽出物中の多糖の分子量分布を示すクロマトグラフである。
図3A】本開示の一実施例による、本AM抽出物中の組成物成分の電荷を示すクロマトグラフである。
図3B】本開示の一実施例による、本AM抽出物中の組成物成分の電荷を示すクロマトグラフである。
図4A】本開示の1つの実施例による添加時間アッセイのスキームおよび結果を示す。
図4B】本開示の1つの実施例による添加時間アッセイのスキームおよび結果を示す。
図4C】本開示の1つの実施例による除去時間アッセイのスキームおよび結果を示す。
図4D】本開示の1つの実施例による除去時間アッセイのスキームおよび結果を示す。
図4E】本開示の1つの実施例によるプラーク形成アッセイの結果を示す。
図5A】本開示の1つの実施例によるEV71/MP4感染ICRマウスに対するSHD1の治療効果を示す。
図5B】本開示の1つの実施例によるEV71/MP4感染ICRマウスに対するSHD1の治療効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本例の説明として意図されており、本例が構成または利用され得る唯一の形態を表すことは意図されていない。記載は、例の機能と、例を作成および操作するための一連の工程の手順を説明している。しかしながら、同一または同等の機能およびシーケンスは、異なる例によって達成されうる。
【0036】
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で使用される特定の用語をここに集める。ここで、特に銘記されない限り、本開示で使用される科学的および技術的用語は、当業者によって一般に理解および使用される意味を有するものとする。文脈によって必要とされない限り、単数形の用語は、同じものの複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。具体的には、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」および「an」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照を含む。また、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「少なくとも1つ」および「1つ以上」という用語は同じ意味を有し、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上を含む。
【0037】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値ではあるが、それでも特定の実施例に示される数値は、可能な限り正確に報告されている。ただし、どの数値にも、それぞれの試験測定で見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差が本質的に含まれている。また、本明細書で使用する場合、「約」という用語は、一般に、所与の値または範囲の10%、5%、1%、または0.5%以内を意味する。あるいは、「約」という用語は、当業者によって考慮されるとき、平均の許容可能な標準誤差内であることを意味する。動作/動作例以外の場合、または特に明記されていない限り、すべての数値範囲、量、値、割合(材料の量、時間、温度、動作条件、量の比率など)本明細書に開示されているそれらの用語は、「約」という用語によってすべての場合に修飾されていると理解されるべきである。したがって、そうでないことが明示されていない限り、本開示および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、所望に応じて変化し得る近似である。少なくとも、各数値パラメータは、報告された有効数字の数を考慮して、通常の丸め手法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。範囲は、1つのエンドポイントから別のエンドポイントまで、または2つのエンドポイントの間として表現できる。本明細書に開示されているすべての範囲は、別段の指定がない限り、エンドポイントを含む。
【0038】
本明細書で使用される「治療」および「治療する」という用語は、防止的(例えば、予防的)、治癒的または緩和的措置を指す場合がある。特に、本明細書で使用される「治療する」という用語は、前記特定の疾患、障害、および/または状態の1つ以上の症状、または、特徴の、部分的または完全な緩和、改善、緩和、発症の遅延、進行の抑制、重症度の低下、および/または、発生の低減を目的とする、本AM抽出物またはそれを含む医薬組成物の、前記医学的状態、前記医学的状態に関連する症状、疾患または前記医学的状態に対する二次的な疾患または障害、または、前記医学的状態に対する体質、を有する対象への適用、または、投与を指す。前記治療は、疾患、障害、および/または状態の兆候を示さない対象、および/または疾患、障害、および/または状態の初期の兆候のみを示す対象に、その疾患、障害および/または状態に関連する病理を発症するリスクを低減する目的で、行うことができる。本開示において、前記疾患、障害および/または状態は、特定のウイルスによって引き起こされるウイルス感染、ならびにウイルス感染に関連するかまたはそれに由来する疾患、障害および/または状態をカバーすることを意図している。好ましい実施形態では、本AM抽出物を使用して、インビトロ(生体外)およびインビボ(生体内)の両方でウイルス複製を阻害することができる。したがって、本治療方法は、宿主生物において病原体が検出不能となるように宿主生物における感染性病原体を実質的に根絶するための手段を提供するものである。
【0039】
「対象」および「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用され、本発明のAM抽出物、医薬組成物、および/または本発明の方法によって治療可能なヒト種を含む動物を意味するものとする。「対象」または「患者」という用語は、特に1つの性別が具体的に示されていない限り、男性と女性の両方の性別を指すことが意図されている。
【0040】
「適用」および「投与」という用語は、本明細書では互換的に使用され、本発明のAM抽出物または本発明の医薬組成物の、その治療を必要とする対象への適用を意味する。
【0041】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の治療応答をもたらすのに十分な本AM抽出物の量を指す。有効量の薬剤は、疾患または状態を治癒(cure)するのに必要ではないが、疾患または状態の発症を遅延、妨害、または、防御するか、または疾患または状態の症状を改善するような疾患または状態の治療を提供するものである。有効量は、指定された期間にわたって1回、2回またはそれ以上の回数で投与されるのに適した形態で、1回、2回またはそれ以上の用量に分割することができる。具体的な有効量または十分量は、治療される特定の状態、患者の身体状態(例えば、患者の体重、年齢、または性別)、治療される哺乳動物または動物のタイプ、治療期間、併用療法(存在する場合)の性質、使用される特定の剤型、および、活性成分またはその誘導体の構造などの要因によって変化し得る。有効量は、例えば、AM抽出物の総質量(例えば、グラム、ミリグラムまたはマイクログラム)またはAM抽出物の質量と体重との比、例えばミリグラム/キログラム(mg/kg)として表すことができる。
【0042】
本明細書で使用される「栄養補助食品的または薬学的に許容可能な賦形剤」という語句は、1つの臓器または体の一部から別の臓器または体の一部へなどの、対象薬剤の運搬または輸送に関与する、液体または固体の充填剤、希釈剤、担体、溶媒またはカプセル化材料などの材料、組成物またはビヒクルを意味する。各賦形剤は、製剤の他の成分と適合性があるという意味で「許容可能」でなければならない。前記栄養補助食品または医薬製剤は、本発明のAM抽出物を、1つまたは複数の栄養補助的または薬学的に許容される成分と組み合わせて含む。賦形剤は、固体、半固体または液体の希釈剤、クリームまたはカプセルの形態であり得る。これらの栄養補助食品または医薬調製物は、本発明のさらなる課題である。通常、AM抽出物の量は、調製物の0.1~95重量%、好ましくは非経口使用の調製物では0.2~20重量%、好ましくは経口投与の調製物では1~50重量%である。本発明の方法の臨床使用のために、本発明の栄養補助食品または医薬組成物は、経口投与などの意図される投与経路に適した製剤に処方される。
【0043】
ここでの使用において、「バイオマス」という用語は、A.マキシマを含む培養物に由来するバイオマスを意味する。この用語には、生きている生物体と死んだ生物体、および、既製の、乾燥した、冷凍された、またはその他の方法で過去に機能したバイオマスが含まれる。
【0044】
本開示は、少なくとも部分的には、A.マキシマ抽出物(AM抽出物)が、EV、RSV、 HHV、エボラウイルス、PEDV、PRRSVなどの広範囲のウイルスによって引き起こされるウイルス感染を阻害することができるという発見に基づいている。上記に鑑みて、本開示は、特定のウイルスによって引き起こされるウイルス感染を治療するための方法を提案する。本開示のいくつかの実施形態は、そのようなウイルス感染によって引き起こされる障害を治療するための方法を対象とする。また、本明細書では、前記ウイルス感染の治療に使用するための、ならびに前記治療目的の医薬品の製造に使用するための前記AM抽出物の利用法も提供される。薬剤(すなわち、医薬組成物)は、もちろん、本出願の範囲によってカバーされる主題である。
【0045】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記AM抽出物は糖含量が豊富である。例えば、AM抽出物は、当該AM抽出物の総重量に基づく全糖の25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、および80%(重量%)など、少なくとも25%(重量%)の全糖を有する。以下に示す実験データは、このような糖に富んだAM抽出物がウイルスの複製の阻害に効果的であることを示している。一方、糖度の少ない従来のAM抽出物は、このような高レベルの抗ウイルス活性を示さない。
【0046】
本AM抽出物はまた、従来のAM抽出物と比較して、タンパク質の量が少ないという点で独特である。本開示の様々な実施形態によれば、前記AM抽出物のタンパク質レベルは、当該AM抽出物の総重量に基づき、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、および20%(重量%)など、20%(重量%)未満である。
【0047】
いくつかのさらなる実施形態によれば、前記AM抽出物は、分子サイズ分離手段から得られる高分子量フラクションに由来する高分子量AM抽出物である。いくつかの任意の実施形態では、前記高分子量フラクションは、100KDの分子量カットオフ(MWCO)を有するフィルター膜で糖に富んだAM抽出物を濾過することによって得られる。一般に、MWCOは、フィルター膜のコンテキストでは、濾過(または透析)プロセス中に、その分子の定義されたパーセンテージ(たとえば、80、85、90、または95%)がフィルター膜によって保持される最小分子量分子(ダルトン単位)を指す。したがって、高分子量フラクションは、低分子量フラクションと比較して、分子量が100 KDを超える構成要素の量が増加している。以下に示す実験データは、本高分子量AM抽出物が、前記糖分の豊富な熱水抽出物または低分子量AM抽出物と比較して、より満足できる抗ウイルス効果を引き出すことを示している。
【0048】
さらなる実施形態では、前記高分子量AM抽出物は、電荷分離手段を使用してさらに精製される。例えば、前記高分子量AM抽出物は陰イオン交換クロマトグラフィーにかけられ、抽出物の成分は分子の電荷に基づいてさらに分離される。陰イオン交換クロマトグラフィーは、正に荷電したおよび/または中性の多糖が豊富なフラクションと、負に荷電した多糖が豊富な別のフラクションを生成する。以下に含まれる実験データは、主に正に荷電したおよび/または中性多糖を含む前記AM抽出物が、高分子量AM抽出物および主に負に荷電した多糖を含むAM抽出物と比較して、特定のウイルスのウイルス複製を阻害するのにより効果的であることを立証している。
【0049】
本開示の様々な実施形態によれば、前記高分子量AM抽出物は、抽出物中の全糖に基づいて、中性および/または正に荷電した多糖を少なくとも60%(重量%)含む。例えば、中性および/または正に荷電した多糖は、抽出物中の全糖の60~100(重量%)を占め得る。例えば、前記AM抽出物は、全糖含有物に基づいて、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100(重量%)の中性および/または正に荷電した多糖を含む。
【0050】
本開示の特定の実施形態によれば、ラムノースは、前記AM抽出物中の多糖を構成するグリコシル成分のうちの主要なグリコシル成分である。一部の任意の実施形態では、前記AM抽出物は、当該AM抽出物中の総グリコシル成分に基づいて、少なくとも30モル%のラムノースを有する。例えば、ラムノースのモルパーセントは、30、32、34、36、38、40、42、44、45、46、48、50、52、54、55、56、58、60、62、64、65、66、68、または70 mol%とすることができる。
【0051】
また、本開示のいくつかの実施形態によれば、多糖に存在する最も豊富なグリコシル結合は3-rhapである。例えば、1つの実施例(working example)では、ラムノース残基の半分以上が3-rhap結合を持っている。
【0052】
理解され得るように、様々なAM抽出物がここに記載されている。例えば、いくつかの特許請求されているAM抽出物は、他の特許請求されているAM抽出物よりも優れた抗ウイルス活性を示す可能性があるが、これらの糖に富んだAM抽出物は、より高い糖含量で高い抗ウイルス活性をもたらしうる。さらに、以下に提供される実験データは、本AM抽出物が消化酵素での処理時にまだ満足のいく抗ウイルス活性を保持していることを立証し、これによって、in vivoで望ましい抗ウイルス効果を誘発する可能性があることが示唆される。さらに、経口摂取されたAM抽出物のバイオアベイラビリティおよび/または効力を増強するために、本AM抽出物を処方するための当該技術分野で既知の多くの手段および技術が存在する。
【0053】
上記のAM抽出物に加えて、本開示はまた、そのようなAM抽出物を調製するための方法を提供する。この方法は、熱水抽出工程で特徴付けられ、それによりAM抽出物の全糖含有量が増加し、抗ウイルス活性が向上する。本方法は、さらに、前記AM抽出物を精製するための追加工程を有し、それにより、抗ウイルス活性が増強された様々なAM抽出物を得る。
【0054】
本開示の様々な実施形態による例示的な抽出方法を、図1に示されるフローチャートを参照して説明する。本開示のいくつかの実施形態によれば、前記抽出方法は、熱水中でA.マキシマバイオマスを抽出して、粗抽出物を得る工程を有する(工程110)。例えば、前記バイオマスは、先ず、水(例えば、蒸留水または再蒸留水)に懸濁されてもよく、その後、一定時間、約80℃から120℃に加熱される。例えば、懸濁液は、約80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、または120℃に加熱することができる。様々な実施形態によれば、前記熱抽出工程110は、少なくとも1時間、例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、または4時間継続させることができる。いくつかの実施形態では、前記熱抽出時間はさらに長くすることができる。
【0055】
抽出に適したA.マキシマバイオマスには、培養系から取り出された、生きているA.マキシマ生物体が含まれる。あるいは、A.マキシマバイオマスは、(例えば、凍結乾燥、空気乾燥、または噴霧乾燥によって)乾燥されたものなどの死んだA.マキシマ生物体であってもよい。本明細書で提供されるいくつかの実施形態によれば、乾燥したA.マキシマバイオマスは、10%(w/v%)の濃度まで二回蒸留水(d.d.水)に懸濁される。しかしながら、当業者によって理解され得るように、懸濁液中のバイオマス。の濃度は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30%(w/v%)など、1%(w/v%)から30%(w/v%)の範囲であり得る。
【0056】
前記抽出方法は、さらに、前記粗抽出物中の固体残留物が除去される工程120を含む。固形残留物を除去するための一般的な方法の1つは、遠心分離である。例えば、前記粗抽出物は、十分な時間(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50分)など、1,000~5,000 rpm(例えば、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500または5,000 rpm)で遠心分離することができる。
【0057】
粗抽出物から固体残留物を除去した後、熱水AM抽出物(例えば、遠心分離管から収集された上清)を得ることができる。以下で説明するように、前記熱水抽出物(たとえば、以下の実施例によるSH抽出物)は、冷水抽出(FE-L-APO)によって調製された従来の抽出物と比較して、糖含量が増加している。また、熱水抽出物中のタンパク質レベルは、冷水抽出物中のタンパク質レベルよりも低い。
【0058】
任意の実施形態では、前記水性熱水抽出物を乾燥して、熱水抽出物粉末を得ることができる。例えば、前記水性熱水抽出物は、自由乾燥、噴霧乾燥、または風乾、または任意の適切なまたは同等の手段によって乾燥することができる。
【0059】
理解され得るように、水性形態の前記熱水抽出物および前記乾燥熱水抽出物粉末の両方が、本開示の「A.マキシマ抽出物」の範囲に含まれ、そのいずれかを、ここに記載の栄養補助食品または医薬組成物を調製するために使用することができる。
【0060】
次に、工程130において、前記熱水抽出物(または熱水抽出物粉末)は、分子サイズ分離にかけられる(工程130)。例えば、前記熱水抽出物は、100KDの分子量カットオフ(MWCO)を有する半透膜で濾過することができ、それにより熱水抽出物を低分子量フラクションと高分子量フラクションに分離する。これにより、前記高分子量フラクションは、100KDを超える分子量を有する成分の増加した量を含み、一方、前記低分子量フラクションは、100KD未満の分子量を有する成分の増加した量を含むものとなる。以下に示す実験データは、前記高分子量抽出物(例:下記の実施例によるSH1抽出物)が、糖分豊富な熱水抽出物または低分子量AM抽出物と比較して、より優れた抗ウイルス効果を引き出すことを示している。
【0061】
前記熱水抽出物粉末を濾過の出発材料として使用する場合、当該熱水抽出物粉末は、先ず、濾過に先立って、適切な量(10~50倍)のd.d.水と混合される。例えば、その含水量は、乾燥した前記熱水抽出物粉末の重量に対して、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50とすることができる。
【0062】
前記濾過プロセスは、製造業者の指示に従って実行されてもよく、オペレータは、彼または彼女自身の裁量で、状況を考慮して特定の変更が必要かどうかを決定してもよい。
【0063】
上記の熱水抽出物と同様に、前記高分子量抽出物を乾燥させて、高分子量抽出物粉末を生成することができる。水性形態および固体粉末形態の両方の生成物が、ここに記載のAM抽出物としての使用に適している。
【0064】
次に、工程140において、前記高分子量抽出物(または前記高分子量抽出物粉末)中の成分が、分子の電荷に基づいてさらに分離される。本開示の実施形態によれば、電荷分離は、陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して実施される。例えば、陰イオン交換クロマトグラフィーは、ジエチルアミノエチル(DEAE)ベースのカラム、第四級アミノエチル(QAE)ベースのカラム、またはトリメチルアミノエタン(TMAE)ベースのカラム、またはその他の正に荷電したカラムを使用することができる。
【0065】
いくつかの任意の実施形態において、前記高分子量抽出物(または前記高分子量抽出物粉末を含む溶液)の塩分を、先ず、約0.5ないし2.0%(例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、または2.0%)に調節することができる。前記高分子量抽出物粉末は、前記熱水抽出物粉末との関連で記載したのと同様の方法で希釈することができる。場合によっては、前記高分子量抽出粉末は、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、65、70、75、80、85、90、95、または100倍、またはそれ以上などの50倍以上に希釈されることがあり得る。
【0066】
さらに任意に、前記水溶液(塩分調整有りまたは無し)を遠心分離によってさらに処理して、そこから固体残留物を除去する。例えば、いくつかの実施形態では、前記水溶液は、十分な時間(10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50分)等、5,000~10,000 rpm(例えば、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500、8,000、8,500、9,000、9,500、または10,000 rpm)で遠心分離される。
【0067】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーは、製造業者の指示に従って実施することができ、もちろん、必要に応じて適切な変更を加えることも可能である。
【0068】
一般的なクロマトグラフィーの実践によれば、カラムをまず適当な量のd.d.水によって濯ぎ、次に、クロマトグラフィーサンプル(すなわち、前処理された水性AM抽出物)をカラムに流し、最初の流出物を収集する。必要に応じて、前記カラムを、d.d.水によって再度濯ぎ、その後、前記カラムを流れる二次流出物も収集しこれを一次流出物と混合する。前記一次および二次および複合流出物は、個別に、または、集合的に、正に荷電したおよび/または中性の多糖に富むAM抽出物と呼ばれ、そのようなAM抽出物から得られる乾燥粉末が、前記正に荷電したまたは中性多糖である。
【0069】
次に、前記カラムを、適切な量の塩溶液(例えば、1M NaCl)で溶出する。この工程で収集される溶出物が、負に荷電した多糖が豊富なAM抽出物であり、そのようなAM抽出物から得られる乾燥粉末が、負に荷電した多糖が豊富な抽出物粉末である。
【0070】
陰イオン交換クロマトグラフィー中に使用または収集される塩の一部は、細胞毒性でありうるので、したがって、いくつかの任意の実施形態では、正に荷電した、および/または、中性の多糖に富むAM抽出物、および、負に荷電した多糖に富むAM抽出物は、乾燥前に、その抽出物から前記塩を除去するべく、別の分子サイズ分離に供される。
【0071】
以下の実験データは、正に荷電したおよび/または中性の多糖に富む前記AM抽出物(いくつかの実施例によるSHD1抽出物など)は、前記高分子量抽出物(例えば、SH1抽出物)や負に荷電した多糖が豊富な前記AM抽出物(いくつかの実施例によるSHR1抽出物など)よりも抗ウイルス活性において強力であることを示している。
【0072】
理解できるように、正に荷電したおよび/または中性の多糖に富むAM抽出物および負に荷電した多糖に富む前記AM抽出物、ならびに、それらから誘導される粉末が、本発明のAM抽出物の範囲内に含まれる。
【0073】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、ウイルス感染またはウイルス感染に関連する障害を治療するために、有効量の本AM抽出物を対象に投与する工程を含む。場合によっては、対象におけるウイルス複製は、投与された前記AM抽出物により実質的に阻害され、それにより対象におけるウイルス感染を根絶することができる。
【0074】
当業者によって理解され得るように、前記有効量は、治療される特定の状態、状態の重症度、個々の患者パラメータ(年齢、身体状態、サイズ、性別、体重、を含む)、治療期間、併用療法の性質(存在する場合)、特定の投与経路、および、医療従事者の知識と専門知識内の類似の要因に応じて変化し得る。本開示のいくつかの実施形態によれば、本AM抽出物の有効量は、ヒト対象について1日あたり0.01から1,000 mg/Kg体重、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230,240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、または、1,000 mg/Kg体重/日、である。
【0075】
特定の実施形態によれば、EV感染を治療するための本AM抽出物の有効量は、マウスについて、0.375から125 mg/kg/日、好ましくは1~60 mg/kg/日、より好ましくは3~30 mg/kg/日である。例えば、マウスの1日の用量は0.375、0.75、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、または125 mg/kgとすることができる。
【0076】
特定の実施形態によれば、前記対象は成人であり、EV感染を治療するための本AM抽出物の有効量は、0.01~10mg/kg/日、好ましくは、0.8~4.8mg/kg/日、より好ましくは、0.24~2.4mg/kg/日である。たとえば、ヒト対象における1日の用量は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.12、0.15、0.2、0.24、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.4、2.5、3、3.5、3.6、4、4.5、4.8、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10 mg/kgとすることができる。理解され得るように、本AM抽出物またはそれを含む医薬組成物のヒト等価用量(HEQ)は、以下の実施例で提供される動物用量に基づいて当業者により計算され得る。たとえば、ヒト対象における使用のための最大安全開始用量の推定において、「成人の健康なボランティアにおける治療のための初期臨床試験における最大安全開始用量の推定(2005年7月)」と題する米国食品医薬品局(FDA)が発行した業界のガイダンスに従うことができる。例えば、上記のヒト対象の有効量の範囲は、60 kgのヒトを想定して、上記のFDAガイダンスの表1に提供されている換算係数を使用して、ラットの有効量に由来するものとできる。
【0077】
本AM抽出物は、全身的(例えば、経口またはi.P.(腹腔内))または局所的(例えば、膜貫通または経粘膜的)経路を介して投与され得る。
【0078】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、ウイルス感染を消毒剤として防御または治療するため、有効濃度のAM抽出物を空気に噴霧する工程、または、対象に噴霧する工程を含む。前記製剤中のAM抽出物の濃度は、1~100000 μg/mlとすることができる。
【0079】
本開示のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、HSV-1/2によって引き起こされるヘルペスやエンテロウイルスによって引き起こされる手足口病などのウイルス感染症、または、ウイルス感染症に関連する障害を治療するために、対象にAM抽出物の有効濃度を局所的に噴霧またはパッチする工程を含む。また、前記製剤は、ゼリーまたは軟膏の形態での、生体適合性マトリックスと当該マトリックス内または当該マトリックスの表面にわたって分布したAM抽出物を含む、生体適合性材料とされるであろう。前記製剤中のAM抽出物の濃度は、1~100000 μg/mlとすることができる。
【0080】
例えば、本発明のAM抽出物は、栄養補助食品的または薬学的に許容される賦形剤と共に、所望の投与様式に適した栄養補助食品または医薬組成物に処方され得る。ここに開示され、特許請求されている発明の概念に従って調製された特定の栄養補助食品または医薬組成物は、患者への経口投与に適した単一単位剤形である。本栄養補助食品または医薬組成物は、固体、半固体、または液体の形態に処方することができる。前述の投与経路に適した剤形の例には、錠剤、カプレット、カプセル、カシェ剤、トローチ、ロゼンジ、粉末、溶液、分散剤、懸濁剤(例えば、水性または非水性液体懸濁液、水中油型エマルジョン、または油中水型液体エマルジョン)およびエリキシルが含まれるが、これらに限定されない。理解できるように、これらの栄養補助食品または医薬組成物もまた、本開示の範囲内に含まれる。
【0081】
特定の任意の実施形態によれば、前記栄養補助食品的または薬学的に許容可能な賦形剤の例には、デンプン、シクロデキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、カルボメトキシセルロース、およびキサンタンガムが含まれるが、これらに限定されない。また、本栄養補助食品または医薬組成物は、以下の成分、溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、接着遅延剤(adhesion delaying agents)、安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、および、色素の1つまたは複数をさらに含み得る。
【0082】
本発明の前記AM抽出物を含む栄養補助食品組成物について、それは、ビタミン、ミネラル、繊維、脂肪酸、またはアミノ酸などの追加の栄養成分をさらに含み得る。
【0083】
様々な実施形態において、前記対象は哺乳動物であり、これは、本開示の治療方法から利益を得ることができる。ここでの使用において、「哺乳動物」は、ヒト、霊長類(サル、チンパンジーなど)、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(cow)、ウマ、ウシ(cattle)などの家畜、また、動物園、スポーツ、ペット動物、および、マウス、ラット、モルモットなどのげっ歯類を含む哺乳綱のすべてのメンバーを指す。例示的な実施形態では、前記患者はヒトである。
【0084】
いくつかの実施形態では、本方法は、本AM抽出物の投与前、投与と同時、または投与後に、ウイルス感染の症状を治療または改善するための有効量の薬剤を対象に投与する工程をさらに含む。
【実施例0085】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を明らかにし、当業者が本発明を実施するのを補助するべく提供される。これらの実施例は、決して本発明の範囲を限定すると考えられるべきではない。さらに詳述するまでもなく、当業者は、本明細書の説明に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。
【0086】
比較例:冷水AM抽出物の調製および組成分析
乾燥したA.マキシマバイオマス(10 g)を、攪拌しながらd.d.水(100 ml)中に懸濁した。この懸濁液を0℃未満の冷蔵庫に少なくとも8時間置き、懸濁液を氷塊の断片へと凍結させた。次に、氷塊を0~37℃で穏やかな振動または撹拌下で解凍し、氷塊がゆっくりと溶けるようにした。凍結および解凍プロセスを少なくとも2回行い、その後、解凍した懸濁液を高速で1時間遠心分離して、固形残留物を除去した。このようにして得られた冷水AM抽出物を、FE-L-APO抽出物と呼ぶ。このFE-L-APO抽出物を凍結乾燥して、さらなる分析のためにFE-L-APO粉末を得た。
【0087】
前記冷水FE-L-APO抽出物を分析して、タンパク質の重量パーセント(重量%)(ウシ血清アルブミン(BSA)を標準として使用するBio-radタンパク質アッセイ試薬)、全糖、(標準としてグルコースを使用するフェノール-硫酸アッセイ)、核酸(OD260吸光度)、水(乾燥減量によって決定)および灰分(600°Cで7時間の焼却によって決定)を測定した。そして、それぞれの結果を表1に示す(3つの独立したバッチからの平均±SDとして表される。)。
【0088】
【表1】
【0089】
FE-L-APO抽出物のグリコシル組成は、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GS-MC)分析によって決定され、FE-L-APO抽出物の3つのバッチの結果を表2に要約した。
【0090】
【表2】
【0091】
前記FE-L-APO抽出物を、アロフィコシアニン(APC)、C-フィコシアニン(C-PC)、FE-L-APO(H)、およびFE-L-APO(T)のフラクションにさらに分離した。APCおよびCPCフラクションは、FE-L-APO抽出物をさらにDEAEおよびHAカラム分離に供することにより得られたタンパク質フラクションであった。FE-L-APO(H)およびFE-L-APO(T)フラクションは多糖フラクションであった。FE-L-APO(H)抽出物は、FE-L-APOの熱水抽出によってタンパク質フラクションを変性させ、遠心分離によってタンパク質フラクションを分離することによって調製された。前記FE-L-APO(L)抽出物は、FE-L-APO抽出物のタンパク質含有物をトリクロロ酢酸で変性することによって調製され、次いで遠心分離によりタンパク質フラクションを沈殿および分離した。
【0092】
熱水AM抽出物の調製および組成分析
乾燥したA.マキシマバイオマス(10 g)を、攪拌しながらd.d.水(100 ml)中で懸濁させ、懸濁液を約80℃~120℃に少なくとも1時間加熱して、粗抽出物を得た。粗抽出液を3,500rpmで約20~30分間遠心分離し、これによって得られた上澄みが熱水AM抽出液(SH抽出液)である。前記水性SH抽出物を凍結乾燥して、さらなる分析のためのSH粉末を得た。
【0093】
分子サイズ分離のために、前記SH粉末を10~50倍のd.d.水中に溶解し、次に、Ultracel-100メンブレン(MWCO:100 KD)を使用するAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unitで濾過した。保持フラクション(すなわち、サンプル側に保持されたもの)、を高分子量AM抽出物(SH1抽出物)として収集し、その後の使用のために、凍結乾燥してSH1粉末とした。
【0094】
電荷分離のために、陰イオン交換クロマトグラフィーにはDEAEゲル(Sepharose(商標)Fast Flow)を使用した。簡単に説明すると、前記SH1粉末を、少なくとも50倍の希釈でd.d.水中で溶解させ、50 mLの希釈液に0.4~0.5 gのNaClを追加して、塩分を0.8~1.0%に調整した。次に、希釈液を8,000 rpmで30分間遠心分離し、上澄みを1μmのメッシュで濾過して不純物を除去し、クロマトグラフィー用のサンプル溶液を得た。200 mlのDEAEゲルを使用して調製したDEAEカラムを、最初に5~10カラム容量(CV)のd.d.水で平衡した。その後、サンプル溶液(50 ml)を4 ml/分の流速でカラムに注入し、そしてカラムを下降通過する最初の流出物を収集した。次に、前記カラムを500 mLのd.d.水で濯ぎ、前記カラムを通過して流れる流出物を二次流出物として収集した。前記最初の流出物と二次流出物とを組み合わせて、正に荷電したおよび/または中性の多糖が豊富なAM抽出物(SHD1抽出物)を得た。リンス後、前記DEAEカラムを1 MのNaClの1~3 CVで溶出し、溶出物を回収することにより、負に荷電した多糖に富むAM抽出物(SHR1抽出物)を得た。
【0095】
次に、前記水性SHD1およびSHR1抽出物を、Ultracel-100膜を使用するAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unitで濾過して、そこから塩および他の不純物を除去した。次に、さらなる分析のために、保持フラクションを凍結乾燥して、SHD1粉末とSHR1粉末を得た。
【0096】
前記SH粉末、SH1粉末、SHD1粉末、およびSHR1粉末を一連の組成分析にかけた。これは、全糖含有量(標準としてAM抽出物の単糖組成を使用するフェノール-硫酸分析)、酸性糖含有量(グルクロン酸を標準として使用するm-ヒドロキシジフェニル法)、デオキシ糖(ラムノースを標準として使用するメチルペントースアッセイの測定)、核酸(OD260吸光度)、総タンパク質(BSAを標準として使用するBio-radタンパク質アッセイ試薬)、粗脂肪(A.O.A.C.-960.39)、水(乾燥減量により測定)、および灰分(600℃で7時間の焼却により測定)、を含み、それぞれの結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
さらに、高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)を利用して、全糖含有物中の多糖を分離し、次いで、それらのフラクションの分子量を屈折率(R1)検出で測定した。簡単に説明すると、TSKゲルG4000PWカラム(7.5 mm×30 cm)およびTSKゲルG3000PWカラム(7.5 mm×30 cm)と組み合わせたTSKガードカラムPWH(7.5 mm×7.5 cm)を使用して、前記多糖を分離した。0.02%のNaN3を含む0.3 NのNaNO3を使用して、カラムを0.5 mL/分の流速で溶出した。図2A図2B、および図2Cは、それぞれSH抽出物、SH1抽出物、およびSHD1抽出物における多糖の分子量分布曲線を示し、定量結果を表4~表6に要約する。
【0099】
【表4】
【0100】
図2Aおよび表4に提供されるデータによれば、SH抽出物粉末中の多糖の約2/3は、100KD未満の分子量を有していた。一方、高分子量AM抽出物に由来するSH1抽出物粉末の場合、分子量が100 KDを超える多糖が全糖含有物のほぼ半分を占める(図2Bおよび表5を参照)。
【0101】
【表5】
【0102】
前記高分子量SH1粉末をさらに陰イオン交換クロマトグラフィーで処理し、それによって得られた主に正に荷電した、および、中性の多糖を含む得られたフラクションは、より高分子量の多糖を有していた。図2Cと表6のデータは、SHD1抽出粉末中の75%を超える多糖が100 KDを超える分子量を有したことを示している。
【0103】
【表6】
【0104】
本AM抽出物の単糖組成を、パルスアンペロメトリック検出を備えた高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)を使用して分析し、それぞれの結果を表7に示す(3つの独立したバッチからの平均±SDとして表す)。
【0105】
【表7】
【0106】
表7のデータは、本発明による3つの熱水AM抽出物中の最も豊富な単糖が、全単糖に基づいて約40から60モル%を占めるラムノースであったことを示している。対照的に、表2のデータは、冷水抽出を使用して調製された抽出物で最も豊富な単糖がマンノース(約46~56 mol%)であり、ラムノースが2番目(約18~27 mol%)であることを示している。一方、マンノースは、本熱水抽出ベースのAM抽出物のごく一部(5 mol%未満)しか構成していない。
【0107】
SHD1抽出物粉末をさらにグリコシル結合分析にかけた。簡単に説明すると、過メチル化、加水分解、NaBD4による還元、およびアセチル化のシーケンスの後、GC-MSスペクトルを使用してグリコシル結合を解明し、得られたO-メチル化アルジトールアセテート製品のHP5-MSカラムの保持インデックスを記録した。結果を表8に要約する。
【0108】
表8のデータは、最も重要なグリコシル結合が3-rhap結合(32.59%)であり、続いて4-rhap(14.76%)および2、3-rhap(6.12%)であることを示している。合わせて、上位3つのグリコシル結合は、グリコシル結合の半分以上を占めている。
【0109】
【表8】
【0110】
前記SHD1粉末を再びDEAEカラムクロマトグラフィーにかけ、それらの電荷密度に基づいてその中の成分をさらに分離した。結果は、図3A(全糖含量)および図3B(SHD1に対する重量(%)、すべての糖に対するウロン酸の含量)のクロマトグラフに示されている。流出物の組成分析およびクロマトグラフィーからの溶出を上記のように分析し、その結果を表9に要約する。
【0111】
【表9】
【0112】
実施例3:エンテロウイルスに対するAM抽出物の抗ウイルス活性
前記AM抽出物の抗ウイルス効力および細胞毒性を、それぞれ中和試験およびMTTアッセイにより調査した。結果は、特に指定のない限り、4つのウェルからの平均±SDとして表されている。
【0113】
RD細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。EV71/TWN/4643/1998は、National Cheng Kung大学(台湾、台南)のJen-Ren Wangから入手した。EV71/CA/BrCr/1970、EV71(ATCCアクセッション番号:VR 784)のプロトタイプは、ATCC、EV71/TWN/1743/1998およびTWN/2231/1998から入手した。
【0114】
中和試験のために、RD細胞におけるエンテロウイルスによって誘発された細胞変性効果の阻害を測定した。96ウェルプレートのRD細胞の単層(6,000細胞/ウェル)をEV71ウイルスに感染させ、一連の濃度のAM抽出物で処理した。接着のために、細胞を37℃で1時間インキュベートした。吸着後、感染した細胞プレートに50μlのDMEMを37℃で48時間、重ねた。次に、100μlの0.5%ホルムアルデヒドを室温で1時間加えてプレートを固定した。その後、ホルムアルデヒドを除去し、サンプルを0.1%クリスタルバイオレットにより室温で15分間染色した。プレートを洗浄して乾燥させ、各ウェルの細胞密度を570 nmで測定した。ウイルスのみの陰性対照と比較してウイルスにより誘発された細胞変性効果を50%低減するために必要なAM抽出物の濃度を50%有効量(EC50)として表した。
【0115】
MTTアッセイのために、RD細胞を96ウェルマイクロプレートに播種し(30,000細胞/ウェル)、加湿インキュベータで24時間培養した。次に、培養培地を、0.048~50 mg/mlの範囲の濃度のAM抽出物を含む培地と交換した。AM抽出物を含まないDMEMで培養された陰性対照群、および細胞も培養培地も含まないブランク群も含まれた。細胞を72時間インキュベートした後、培養液を廃棄し、20μlの3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)溶液(DMEMで1 mg/mL)を各ウェルに追加した。細胞をさらに4時間インキュベートし、MTT溶液を除去した。続いて、200μlの0.04N HCl/イソプロパノールを各ウェルに添加して、ホルマザン結晶を溶解させた。次に、プレートをマイクロプレートリーダー(BIOtAK、英国ブリストル)で570 nm(OD570)で読み取った。CC50、未処理の対照と比較して50%の細胞死をもたらす濃度、を、リード・ミュンヒ法に従って計算した。
【0116】
以下の表10に要約されるのは、EC50およびCC50、並びに選択指数(SI)と、本発明のAM抽出物と前記冷水抽出物のCC50のEC50に対する比率である。
【0117】
【表10】
【0118】
表10のデータは、本開示によるAM抽出物(例えば、SH、SH1、SHD1およびSHR1抽出物)が、従来のFE-L-APO抽出物と比較して著しく低いEC50値によって証明されているように、より優れた抗ウイルス効果を示したことを実証している。比較例および例1で上記に提示された組成分析を参照すると、本AM抽出物の抗ウイルス活性は、主にその中の多糖含有物に由来すると推測される。さらに、SH抽出物とSH1抽出物の抗ウイルス活性を比較すると、高分子量(たとえば、100KDを超える)の多糖含有物がウイルス感染の阻害により効果的であるように思われる。また、中性で正に荷電した多糖含有物は、試験したすべてのグループの中で最も低いEC50値からみて、さらに強力である。
【0119】
なお、負に荷電した多糖を主体とするSHR1抽出物のEC50値は、SH1抽出物およびSHD1抽出物よりも高いが、SH抽出物よりは低い。これらの結果は、より高い分子量(例えば、100KDを超える)を有する多糖が、EV感染から宿主細胞を防御するのにより効果的であることをもう一度示唆している。一方、我々の結果はまた、大部分が低分子量成分(例えば、分子量が100 KD未満の分子)を含むフラクションがEV71に対して抗ウイルス活性を示さなかったことも示している(データは示さず)。
【0120】
さらに、表10のデータは、存在するすべてのAM抽出物がEVウイルスに対して高度に選択的であるが、選択指数が1,000のRD細胞に対しては、そうではないことを示しており、これは、そのようなAM抽出物はそれらの有効量で細胞毒性ではないことを示唆している。
【0121】
上記で調製したSHD1溶出フラクションおよびSHD1溶出フラクションを中和試験にかけて、それらの抗ウイルス効果を測定した。2回の反復からの結果を表11に要約する。表11のデータは、SHD1抽出物の成分が表面電荷密度に基づいてさらに分離された場合、主に正に荷電した成分と中性成分(SHD1流出物)は、主に負に荷電した成分(SHD1溶出物)を含むフラクションよりも、EV感染から宿主細胞を防御するのに効果的であったことを示唆している。一方、SHD1溶出物のほとんどの成分は100KDを超える分子量を有しているため(このフラクションはSH1およびSHD1抽出物に由来するため)、SHD1溶出物のEC50値はSH抽出物のEC50値よりも低かった。
【0122】
【表11】
【0123】
感染の初期段階におけるエンテロウイルス感染の臨床症状には、HFMDおよびヘルパンギーナが含まれる。上記の症状は、他のエンテロウイルスによって引き起こされる感染症に共通している。したがって、広域スペクトルの抗エンテロウイルス効力を有する抗ウイルスAM抽出物を提供することが望ましい。EV71/4643以外に、中和試験で、EV71/CA/BrCr/1970(遺伝子型A)、EV71/TWN/1743/1998(遺伝子型B)、EV71/TW/2231/1998(遺伝子型C)、コクサッキーA6、コクサッキーA10、コクサッキーA16、コクサッキーB3、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス1型および2型(HSV-1、HSV-2)、に対するSHD1抽出物の抗ウイルス効果も評価し、その結果を表12に要約している(3つの独立した反復からの平均±SDとして表示)。コクサッキーウイルスA6、A10、A16、B3、HSV-1およびHSV-2は、Chang Gung記念病院(Linkou、台湾)のClinicalVirology Laboratoryで臨床検体から単離された。
【0124】
【表12】
【0125】
表12のデータは、本SHD1を除いて、EVウイルスの様々な株に対して満足のいく阻害効果および選択性を示したことを示している。また、本SHD1抽出物は、コクサッキーA10、コクサッキーA16、HSV-1、およびHSV-2の阻害に非常に効果的である。HSV-1(86.58±11.91μg/ml)およびHSV-2(10.03±0.54μg/ml)に対するSHR1のEC50値はSHD1のEC50値よりも高いことに注目すべきであり、これはSHD1抽出物がHSV-1およびHSV-2のウイルス感染の阻害により効果的であることを示唆している。また、コクサッキーB3およびインフルエンザA/WSN/33に対するSHD1抽出物のEC50も許容範囲であった。
【0126】
本AM抽出物が標的とするウイルスのライフサイクルの可能な段階を決定するために、添加時間(time-of-addition)および除去時間(time-of-removal)アッセイを行った。
【0127】
添加時間アッセイ(図4Aを参照)については、時点-1で、6ウェルプレート中のRD細胞をEV71/TW/4643/1998ウイルスと接触させた(感染多重度(MOI)=2)、そして1時間の付着を許容し、そして時点“0”を感染時間として指定した。前記RD細胞を6μg/mlのSHD1抽出液で指定の間隔で処理した。感染後8時間で上清とペレットを採取し、プラークアッセイによりウイルス収量を測定した。結果は、図4Bに要約したように、SHD1抽出物がウイルス感染の初期段階でウイルス複製を有意に阻害したことを示している。SHD1抽出物を感染の2時間前(時点-2)と1時間前(時点-1)に追加した場合、SHD1はウイルス対照と比較してウイルス収量の89%と90%を軽減することができた。一方、感染時に追加されたSHD1抽出物(時点0)および感染後1-、3-、5-時間の場合、各グループの阻害効果はそれぞれ24%、13%、11%および18%にすぎなかった。
【0128】
除去時間アッセイ(図4Cを参照)のために、細胞が感染する前に6μg/mlのSHD1を加えた。次に、培地を新しいE2培地と交換することにより、AM抽出物を指定された間隔で除去した。細胞は8時間後に回収され、ウイルス収量はプラークアッセイによっても測定された。結果を図4Dに要約する。図4Dを参照すると、SHD1抽出物が時点-1(例えば、ウイルス付着前)に除去された場合、ウイルス収量は、ウイルス対照と比較して114%であった。一方、「0」、「+1」、「+3」、「+5」の時点でSHD1抽出物が削除された場合、ウイルスの収率はそれそれぞれ20%、20%、20%、および16%であった。
【0129】
総合すると、これらの結果は、本AM抽出物(例えば、SHD1抽出物)がEV感染の初期段階に対して有意な阻害効果を示したことを示唆している。
【0130】
本AM抽出物の阻害効果がEVウイルスに直接作用する(例えば、ウイルス自体を排除する)ことから生じるのか、あるいは初期感染プロセスに作用する(例えば、ウイルスと宿主細胞間の相互作用)のかをさらに明らかにするために以下のアッセイを行った。
【0131】
初期段階の間、1×105 P.F.U.のEV71/TW/4643/1998を、24μg/mlのSHD1抽出物と、またはSHD1抽出物なしで、室温で3時間混合した。次に、第2フェーズで、プラークアッセイの前に前記混合物を10,000倍に希釈した。
【0132】
図4Eに要約されているように、結果は、SHD1処理群において、ウイルス収量が、SHD1抽出物で処理されなかった対照群と比較して114%であったことを示している。理解できるように、SHD1処理グループでは、ウイルスは最初に抽出物のEC50(約2~3μg/ml)よりも高い濃度(24μg/ml)のSHD1抽出物で処理され、希釈後、SHD1抽出物の濃度はEC50よりもはるかに低かった。したがって、もしもSHD1抽出物がEVウイルス自体に直接作用するとすれば、ほとんどのウイルスは高用量のSHD1抽出物の初期処理で感染力を失うため、処理グループでのウイルス収量は大幅に減少するであろう。しかしながら、前記プラークアッセイの結果はそうでないこと示唆している。SHD1処理グループで観察された有意なウイルス収量は、SHD1抽出物がEVウイルス自体には作用しなかったことを示している。
【0133】
希釈後におけるSHD1処理群におけるプラーク形成能から判断して、また、添加時間および除去時間アッセイの結果に鑑みると、本AM抽出物は、接着や付着工程などの初期プロセスを妨害するものである可能性が高いものと思われる。
【0134】
実施例4:EV71/MP4感染ICRマウスに対するSHD1の治療効果
0日目に、10日齢のICRマウスに、i.P.(腹腔内)ルートでEV71/MP4(3.0×106 PFU/マウス)を接種した。接種の1時間後、マウスに0.375、0.75、1.5、または3 mg/kg/日のSHD1抽出物を腹腔内投与した。1日1回、連続して10日間、1、5、または50 mg/kg/日のSHD1抽出物を注射または経口で投与した。臨床スコアと生存率を15日間(0日から14日まで)監視した。結果を図5A(SHD1抽出物の腹腔内注射)および図5B(SHD1抽出物の経口投与)に要約した。臨床スコア「0」は健康、「1」は衰弱、「2」は片足の麻痺、「3」は両足の麻痺、「4」は死を意味する。
【0135】
図5Aのデータは、1.5または3 mg/kg/日のSHD1抽出物で処置されたマウスが、ビヒクル処置された対照マウスと比較して、より良好な臨床スコアを示したことを実証している。一方、経口投与群では、5 mg/kgのSHD1抽出物を与えられたマウスは、ビヒクルで処理されたマウスよりも穏やかな改善は示したのに対して、50 mg/kgのSHD1抽出物で処理されたマウスでは、有意な改善が見られた。また、試験した投与量の治療効果に関して、用量依存的な有意な応答はなかった。
【0136】
実施例5:呼吸器合胞体ウイルスに対するAM抽出物の抗ウイルス活性
RSVウイルスに対する本AM抽出物の抗ウイルス活性(EC50)を、宿主細胞としてMA-104細胞を使用した一次細胞変性効果(CPE)減少アッセイを使用して調査した。ニュートラルレッド(NR)ベースのインビトロ(in vitro)毒性アッセイを使用してCC50を測定した。
【0137】
表13に要約されているデータは、本SH1抽出物がRSV感染に対して3.55倍、より防御力があったことを示している。
【0138】
【表13】
【0139】
実施例6:エボラウイルスに対するAM抽出物の抗ウイルス活性
本AM抽出物の抗エボラ活性(EC50)を、宿主細胞としてベロCCL81細胞を使用したプラーク減少アッセイを使用して測定した。ニュートラルレッド(NR)ベースのインビトロ(in vitro)毒性アッセイを使用してCC50を測定した。この例では、従来のFE-L-APO抽出物と抗ウイルス剤であるファビピラビルを対照として使用した。
【0140】
結果は、表14に要約されているように、SH1抽出物は500μg/mlでEC50でエボラウイルスの感染を阻害し、選択指数が20を超え、エボラウイルスに対するFE-L-APOのEC50は270で、選択指数は37を超える、ことを明らかにしている。
【0141】
【表14】
【0142】
抗エボラ活性とAM抽出物のフラクション成分との間の関係をさらに解明するために、FE-L-APO抽出物からのアロフィコシアニン(APC)、C-フィコシアニン(C-PC)、FE-L-APO(H)およびFE-L-APO(T)フラクション、並びに、SH1からのSHD1およびSHR1フラクションで処理されたエボラ感染のCellTiter96(MTS)細胞を、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を使用するウイルス収量減少アッセイにかけた。
【0143】
表15に要約したデータは、アロフィコシアニンフラクションが4つのFE-L-APOフラクションの中でエボラ感染を阻害するのに最も効果的であったことを示している。一方、SHD1のEC50はSHR1のEC50よりも大幅に低かった。さらに、SHR1とSHD1の両方のフラクションは、4つのFE-L-APOフラクションよりもエボラ感染の阻害に効果的であった。
【0144】
前記データはまた、SHD1およびSHR1抽出物が、それぞれ9.99μg/mlおよび30.4μg/mlでEC90(ウイルス複製が90%阻害される)を達成したことを示している。これに対して、すべてのFE-L-APOフラクションのEC90は400μg/mlを超えていた。
【0145】
【表15】
【0146】
実施例7:ブタ流行性下痢ウイルスに対するAM抽出物の抗ウイルス活性
この例では、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)に対するAM抽出物の阻害活性を調査した。この例において、AM抽出物を最初にウイルスと混合した。具体的には、DMEM(50μl/ウェル)、50μlのFE-L-APO(2 mg/ml)またはSH(20 mg/ml)、および、1,000 PFU、100 PFU、10 PFUを含む100μl/ウェルのPEDVウイルス溶液を96ウェルプレートの各ウェルに順次加えた。陽性対照の場合、100μl/ウェルのDMEMを100μl/ウェルの異なるウイルス濃度と混合し、陰性対照の場合は、200μlのDMEMを使用した。次に、プレートを37℃で60分間インキュベートした。その後、各ウェルからの混合物(200μl)を、一晩培養したベロ(Vero)細胞(1×105細胞/ウェル)を含む96ウェルプレートの各ウェルに加えた。次にプレートを37℃で5日間インキュベートした。一次細胞変性効果を測定し、結果を表16に要約する。
【0147】
その結果(3回の反復から)は、細胞が、1,000PFU、100PFU、10PFUでの、FE-L-APOの存在下ではウイルスプラークの形成を阻害できなかったことを示している。一方、SH抽出物は、陽性対照と比較して、ベロ細胞のPEDVウイルスプラークを55~75%大幅に減少させた。
【0148】
【表16】
【0149】
実施例8:ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルスに対するAM抽出物の抗ウイルス活性
この試験では、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)に対する本AM抽出物の阻害活性を調査した。この例では、AM抽出物を最初に宿主細胞と混合した。簡単に説明すると、ベロ細胞(1×105細胞/ウェル)を96ウェルプレートで一晩培養した。その後、50μlのFE-L-APO(2 mg/ml)およびSH(20 mg/ml)を各ウェルに加え、プレートを37℃で60分間置いた。次に、1,000 PFU、100 PFU、または、10 PFUを含むPRRSVウイルス溶液(100μl/ウェル)を各ウェルに加えた。陽性対照については、100μl/ウェルのDMEMを100μl/ウェルの異なる濃度のウイルスと混合し、他方、陰性対照については、200μlのDMEMを使用した。次にプレートを37℃で5日間インキュベートし、一次細胞変性効果を毎日測定した。
【0150】
表17に要約されている結果(3回の反復から)は、細胞が抽出物の添加前に1,000 PFUのPRRSVで感染された場合は、FE-L-APO抽出物もSH抽出物もウイルス感染を効果的に阻害できなかったことを示している。しかしながら、100 PFUのPRRSVで感染した細胞の場合は、本SH抽出物は宿主細胞の90%以上をPRRSV感染から防御した。
【0151】
【表17】
【0152】
この試験では、AM抽出物を最初にPRRSVと混合した。簡単に説明すると、AM抽出物は最初にウイルスと混合された。具体的には、DMEM(50μl/ウェル)、50μlのFE-L-APO(2 mg/ml)またはSH(20 mg/ml)、および1,000 PFU、100 PFU、または、10 PFUを含むPRRSVウイルス溶液を96ウェルプレートの各ウェルに順次加えた。陽性対照の場合、100μl/ウェルのDMEMを100μl/ウェルの異なるウイルス濃度と混合し、陰性対照の場合は、200μlのDMEMを使用した。次に、プレートを37℃で60分間インキュベートした。その後、各ウェルからの混合物(200μl)を、一晩培養したベロ細胞(1×105細胞/ウェル)を含む96ウェルプレートの各ウェルに加えた。次にプレートを37℃で5日間インキュベートした。一次細胞変性効果を測定し、結果を表18に要約する。
【0153】
結果は、ウイルスが本SH抽出物で前処理された場合、細胞が高濃度のPRRSVウイルス(例えば、1,000PFU)で感染された場合でさえ、ウイルス感染効力が約50%減少したことを示している。また、細胞がより低い濃度のPRRSV(例えば、100または10 PFU)で感染した場合には、PRRSV感染の完全な阻害が達成された。
【0154】
【表18】
【0155】
実施例9:消化酵素処理後のAM抽出物の抗ウイルス活性
この実施例では、本AM抽出物を消化酵素で処理し、そして当該AM抽出物が経口摂取された時に抗ウイルス活性を失うかどうかを解明するためにEC50を測定した。
【0156】
SH粉末を室温でd.d.水に溶解し、pHを6に調整した。α-アミラーゼ(100μl/1gサンプル)を95℃水浴(振とう速度:40 rpm)中のSH溶液に、(1-4)-α-D-グルカンを消化するために30分間で添加した。次に、前記サンプルを室温まで冷却し、6N NaOHを添加することによってpHを7.5に調整した。プロテアーゼ(50 mg/1gサンプル)を60℃の水浴(振とう速度:40 rpm)中のサンプルに、タンパク質含有物を除去するため30分間で添加した。サンプルを再び室温まで冷却し、6N HClを追加してpHを4.5に調整した。アミログルコシダーゼ(300μl/1gサンプル)を60℃の水浴(振とう速度:40 rpm)のサンプルに、消化可能なα-D-1,4、1,6グルカンを消化するため30分間で添加した。酵素活性を阻害するために、前記サンプルを100℃で30分間加熱した後、室温まで冷却した。サンプルを3,500 rpmで30分間遠心分離した。上清を4倍量のアルコールで沈殿させ、沈殿物をSH-EAサンプルとして回収した。前記SHおよびSH-EAサンプルは、RD細胞におけるEV71/TW/4643/1998によって誘発された細胞変性効果の阻害を測定するために、上記のように中和試験を受けた。
【0157】
表19に要約されているデータは、SH-EA(すなわち、様々な消化酵素で処理されたSH抽出物)が、SH抽出物よりも低いEC50を有することを示している。これらのデータは、本SH抽出物が消化された後でも、望ましい抗ウイルス活性を誘発する可能性があることを示唆している。したがって、前記AM抽出物は、経腸投与(例えば、経口投与)すると、インビボでその抗ウイルス活性を保持できる可能性が非常に高い。
【0158】
【表19】
【0159】
実施形態の上記の説明は、例としてのみ提供されるものであり、当業者によって様々な改変がなされ得ることが理解されよう。上記の仕様、例、およびデータは、本発明の例示的な実施形態の構造および使用の完全な説明を提供するものである。本発明の様々な実施形態を、ある程度の特殊性を伴って、または1つ以上の個々の実施形態を参照して記載したが、当業者は、本開示の精神または範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多くの変更を加えることが可能であろう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B