(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026596
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】立体網状構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 3/033 20120101AFI20230216BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20230216BHJP
D04H 3/016 20120101ALI20230216BHJP
D04H 3/018 20120101ALI20230216BHJP
【FI】
D04H3/033
D04H3/011
D04H3/016
D04H3/018
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000282
(22)【出願日】2023-01-04
(62)【分割の表示】P 2022538462の分割
【原出願日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021058475
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷中 輝之
(72)【発明者】
【氏名】川野 史香
(72)【発明者】
【氏名】佐倉 大介
(72)【発明者】
【氏名】小淵 信一
(57)【要約】
【課題】圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性に優れた生分解性の立体網状構造体を提供する。
【解決手段】見かけ密度が0.005g/cm
3~0.30g/cm
3であり、厚みが10mm~100mmであり、線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmであり、結晶融解エンタルピーが16J/g以上であり、重量平均分子量が35000以上のポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂を含むことを特徴とする生分解性の立体網状構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
見かけ密度が0.005g/cm3~0.30g/cm3であり、
厚みが10mm~100mmであり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmであり、結晶融解エンタルピーが16J/g以上であり、重量平均分子量が35000以上のポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂を含むことを特徴とする生分解性の立体網状構造体。
【請求項2】
前記線状繊維は、三次元ランダムループ構造を形成している請求項1に記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項3】
前記結晶融解エンタルピーが30J/g以下である請求項1または2に記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項4】
クッションに用いられるものである請求項1~3のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項5】
前記ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の重量平均分子量は、150000以下である請求項1~4のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項6】
前記線状繊維は、融点が100℃以上、120℃以下である請求項1~5のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項7】
前記線状繊維は、中空断面形状を有している請求項1~6のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項8】
前記線状繊維の中空率は、1%以上、30%以下である請求項7に記載の生分解性の立体網状構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性の立体網状構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、種々の生分解性の立体網状構造体が知られている。例えば特許文献1では、生分解性熱可塑性樹脂を有する曲がりくねった多数の連続線状体が少なくとも一部で接合された三次元ランダムループを有する立体網状体からなる緑化用生分解性水生植物支持体が開示されている。特許文献2では、生分解性の立体網状繊材集合体であって、局所的接合が互いにもたらされた複数の繊材から構成されており、繊材は、生分解性樹脂、および、局所的接合のための接合促進樹脂を含んだ組成を少なくとも有する、立体網状繊材集合体が開示されている。また、特許文献3では、繊度が300~100000デニ-ルで、熱可塑性ポリ乳酸樹脂を主体としてなる線条が、繰返し屈曲して接触部の大部分で接合した生分解性を有する三次元構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-32236号公報
【特許文献2】特開2020-128608号公報
【特許文献3】特開2000-328422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、生分解性の網状構造体の植物保持性を向上する技術が開示されている。また、特許文献2には、生分解性の網状構造体の繊材の局所的接合を向上する技術が開示されている。また、特許文献3には、生分解性の三次元構造体中に、コイルバネ状やループ状の部分を形成することにより、圧縮応力に対しその部分が好適に変形して応力を分散する技術が開示されている。このように、これまでに生分解性の網状構造体の機能を向上させるための様々な試みがなされているが、圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性の両特性に優れた生分解性の網状構造体は未だ知られていない。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性に優れた生分解性の立体網状構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施の形態に係る生分解性の立体網状構造体は以下の通りである。
[1]見かけ密度が0.005g/cm3~0.30g/cm3であり、
厚みが10mm~100mmであり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmであり、結晶融解エンタルピーが16J/g以上であり、重量平均分子量が35000以上のポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂を含むことを特徴とする生分解性の立体網状構造体。
【0006】
上記構成により、圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができる。生分解性の立体網状構造体の好ましい態様は以下の通りである。
[2]前記線状繊維は、三次元ランダムループ構造を形成している[1]に記載の生分解性の立体網状構造体。
[3]前記結晶融解エンタルピーが30J/g以下である[1]または[2]に記載の生分解性の立体網状構造体。
[4]クッションに用いられるものである[1]~[3]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[5]前記ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の重量平均分子量は、150000以下である[1]~[4]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[6]前記線状繊維は、融点が100℃以上、120℃以下である[1]~[5]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[7]前記線状繊維は、中空断面形状を有している[1]~[6]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[8]前記線状繊維の中空率は、1%以上、30%以下である[7]に記載の生分解性の立体網状構造体。
[9]前記線状繊維の中空率は、2%以上、25%以下である[7]に記載の生分解性の立体網状構造体。
[10]前記結晶融解エンタルピーが17J/g以上である[1]~[9]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[11]前記結晶融解エンタルピーが28J/g以下である[1]~[10]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[12]前記ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の重量平均分子量は、37000以上である[1]~[11]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
[13]前記ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の重量平均分子量は、120000以下である[1]~[12]のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記構成により、圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性に優れた生分解性の立体網状構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、立体網状構造体に含まれる線状繊維の結晶融解エンタルピーを測定するための吸発熱曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る生分解性の立体網状構造体は、見かけ密度が0.005g/cm3~0.30g/cm3であり、厚みが10mm~100mmであり、線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmであり、結晶融解エンタルピーが16J/g以上であり、重量平均分子量が35000以上のポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂を含む。上記構成により圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができる。以下では、各構成について詳細に説明する。
【0010】
立体網状構造体の見かけ密度は0.005g/cm3~0.30g/cm3である。見かけ密度が0.005g/cm3以上であることにより立体網状構造体の硬度が向上する。その結果、立体網状構造体をクッション等に用いた場合に底付き感を低減できる。そのため見かけ密度は、好ましくは0.01g/cm3以上、より好ましくは0.02g/cm3以上、さらに好ましくは0.03g/cm3以上、さらにより好ましくは0.05g/cm3以上である。一方、見かけ密度が0.30g/cm3以下であると、柔軟性が向上して、クッション材等に好適に用いることができる。そのため見かけ密度は、好ましくは0.20g/cm3以下、より好ましくは0.15g/cm3以下である。立体網状構造体の見かけ密度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
立体網状構造体の厚みは10mm~100mmである。厚みが10mm以上であることにより、立体網状構造体をクッション材等として用い易くなる。厚みは、好ましくは15mm以上であり、より好ましくは20mm以上、さらに好ましくは22mm以上である。一方、製造装置の大きさを考慮すると、厚みは100mm以下、好ましくは90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらにより好ましくは50mm以下である。立体網状構造体の厚みは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
立体網状構造体は、線状繊維を含む。線状繊維は、三次元ランダムループ構造を形成していることが好ましい。また線状繊維は連続線状体であることが好ましい。連続線状体とは、少なくとも5mm以上の連続した部分を有する線状のフィラメントである。連続線状体の交差部が接着してなる箇所を有することにより立体網状構造体を形成し易くなる。そのため、立体網状構造体は、線状繊維どうしの交差部が接着している接着部を有していることが好ましい。
【0013】
線状繊維は、シース・コア型、サイドバイサイド型、偏芯シース・コア型等の複合線状体であってもよい。複合線状体は、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とを組み合わせた複合線状であってもよい。線状繊維の断面形状は、中空断面、中実断面のいずれであってもよいが、軽量化できるため中空断面であることが好ましい。また線状繊維の断面形状が中空断面であることより、加熱圧縮後の圧縮回復性が向上する。また線状繊維の断面形状は、異型断面であることが好ましい。これにより、立体網状構造体に好適な硬さやクッション性を付与し易くすることができる。線状繊維の中空率は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%以上であって、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。線状繊維の中空率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmである。繊維径が0.2mm以上であることにより硬度が向上する。そのため繊維径は、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上である。一方、繊維径が2.0mm以下であることにより、網状構造の緻密性を向上して、クッション性等を向上することができ、また網状構造の感触をソフトにし易くすることができる。そのため繊維径は、好ましくは1.7mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.2mm以下である。線状繊維の繊維径は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。線状繊維の断面の輪郭の形状は、円形、楕円形、多角形、または角丸多角形であってもよい。当該輪郭が円形以外の形状である繊維の繊維径は、繊維の輪郭上の任意の2点間での最長距離に相当する。
【0015】
線状繊維のメルトフローレート(MFR)は3g/10分~60g/10分であることが好ましい。MFRが3g/10分以上であると、溶融粘度を向上し易くして、線状繊維の繊維径を大きくすることができる。MFRは、より好ましくは4g/10分以上、さらに好ましくは6g/10分以上、さらにより好ましくは8g/10分以上、特に好ましくは10g/10分以上である。一方、MFRが60g/10分以下であると、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上し易くすることができる。MFRは、より好ましくは50g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下であり、さらにより好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは25g/10分以下である。線状繊維のMFRは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
線状繊維を構成するポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂として市販の樹脂を用いる場合であって、樹脂のメルトフローレート(MFR)が低い場合には、樹脂に水分を加えて溶融押出し時に樹脂を加水分解させることにより、樹脂のMFRを向上することができる。これにより、線状繊維のMFRを向上することができる。一方、樹脂のMFRが高い場合には、樹脂を乾燥させてから溶融押出しすることにより樹脂のMFRを低減することができる。これにより、線状繊維のMFRを低減することができる。
【0017】
線状繊維は、結晶融解エンタルピーが16J/g以上である。結晶融解エンタルピーが16J/g以上であることにより、立体網状構造体の圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができる。結晶融解エンタルピーは、好ましくは17J/g以上であり、より好ましくは18J/g以上であり、さらに好ましくは19J/g以上であり、さらにより好ましくは20J/g以上、特に好ましくは21J/g以上である。一方、結晶融解エンタルピーは、30J/g以下であることが好ましい。これにより、立体網状構造体の柔軟性が向上し、圧縮時と回復時のノイズの発生を低減することができる。結晶融解エンタルピーは、より好ましくは28J/g以下、さらに好ましくは26J/g以下である。
【0018】
線状繊維の結晶融解エンタルピー(J/g)は、サンプル質量を2.0mg±0.1mgとし、示差走査熱量計を用いて、昇温速度20℃/分、窒素雰囲気下で測定した吸発熱曲線の吸熱ピーク(融解ピーク)の積分値から求めることができる。積分値は、当該吸熱ピーク(融解ピーク)に係る曲線が低温側のベースラインから離れ始める点を開始点とし、高温側のベースラインに接し始める点を終了点とし、当該開始点と終了点と結ぶ直線を引き、当該直線と曲線により囲まれた部分を積分することにより求めることができる。吸発熱曲線の一例を
図1に示す。
図1中の破線は、吸熱ピーク(融解ピーク)の上記開始点と終了点と結ぶ直線であり、破線と曲線により囲まれた部分が積分を行う積分領域である。
【0019】
線状繊維を構成するポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂として市販の樹脂を用いる場合であって、結晶融解エンタルピーが所望の範囲より低い場合には、後述するようにアニーリングを行うことにより、結晶融解エンタルピーを所望の範囲に制御することができる。
【0020】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂は、生分解性の樹脂であり、アジピン酸と、テレフタル酸と、ブタンジオールとの共重合体である。ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂が生分解性の樹脂であることにより、ごみの廃棄問題やマイクロプラスチック問題に対する一つの解決策となることが期待される。アジピン酸、テレフタル酸、及びブタンジオールは、同時に共重合させる必要は無く、多段階的に共重合させてもよい。またポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0021】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂を合成するに当たって、アジピン酸、テレフタル酸、ブタンジオールの他に、微量の他の共重合成分を加えてもよい。他の共重合成分として、テレフタル酸とアジピン酸以外の他のジカルボン酸、鎖延長や末端封鎖等を目的とした改質剤等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
他のジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
改質剤としては、ポリイソシアネート化合物、グリコール化合物等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物として、ジイソシアネート化合物が挙げられる。ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、カルボジイミド変性MDI、ポリメチレンフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。グリコール化合物としては、ブタンジオール以外の他のジオール、ポリアルキレングリコールが挙げられる。他のジオールとしては、メタンジオール、エタンジオール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール(ポリテトラメチレングリコール)等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂として、日本バイオプラスチック協会のグリーンプラ(生分解性プラスチック)の分類番号A-1のポジティブリストに記載された生分解性合成高分子化合物が挙げられる。具体的には、BASFジャパン株式会社製のエコフレックス(登録商標)、株式会社GSIクレオス(Novamont社)製のEastar Bio,GP、Eastar Bio,Ultra、KINGFA株式会社製のA400(ECOPOND KD 1024)、XINJIANG BLUE RIDGE TUNHE CHEMICAL INDUSTRY JOINT STOCK社製のTUNHE PBAT TH-801Tが挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の重量平均分子量(g/mol)は、35000以上である。これにより、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができる。重量平均分子量は、好ましくは37000以上、より好ましくは40000以上である。一方、重量平均分子量が150000以下であることにより、柔軟性を向上することができる。重量平均分子量は、好ましくは150000以下である。また、重量平均分子量が120000以下であることにより、ポリマー溶融粘度を低減することができる。重量平均分子量は、より好ましくは120000以下である。また線状繊維を構成する樹脂の重量平均分子量(g/mol)も当該範囲内であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等で求めることができる。
【0026】
線状繊維は、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂以外の他の生分解性樹脂を含んでいてもよい。他の生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース等が好ましい。これらは単独でまたは2種類以上組み合わせて用いてもよい。これらの詳細は、日本バイオプラスチック協会のグリーンプラ(生分解性プラスチック)の分類番号A-1のポジティブリストを参照すればよい。線状繊維は、生分解性樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。当該樹脂として、ポリウレタン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0027】
線状繊維を構成する樹脂を合成するためのモノマーとして、石油由来のモノマーを用いてもよいが、バイオマス由来のモノマーを用いることが環境負荷を低減できるため好ましい。バイオマス由来のモノマーについては、例えば日本バイオプラスチック協会の分類番号A(バイオマスプラスチック)のポジティブリストに記載のモノマーを参照すればよい。
【0028】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂を構成する全成分100モル%中、アジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分の含量の合計は70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることがさらにより好ましく、99モル%以上であることが特に好ましい。
【0029】
線状繊維は、防臭剤、抗菌剤、防カビ剤、防ダニ剤、消臭剤、防黴剤、芳香剤、難燃剤、吸放湿性剤、酸化防止剤、滑剤等を含んでいてもよい。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
線状繊維100質量%中、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の含量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがさらにより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、98質量%以上であることが最も好ましい。また線状繊維は、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂からなるものであってもよい。
【0031】
線状繊維は、融点が100℃以上、120℃以下であることが好ましい。これにより、立体網状構造体の加熱圧縮後の圧縮回復性を向上し易くすることができる。融点は、より好ましくは115℃以下である。後述するアニーリング処理を行うことにより、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の融点が低減され、その結果、線状繊維の融点を120℃以下にまで低減し易くすることができる。
【0032】
立体網状構造体は、多層構造を有していてもよい。多層構造としては、表層と裏層を異なった繊度の線状繊維で構成したもの、表層と裏層を異なった見かけ密度を持つ構造体で構成したものや、長繊維不織布や短繊維不織布等を積層して多層化したもの等が挙げられる。多層化方法としては、加熱により溶融固着する方法、接着剤で接着させる方法、縫製やバンド等で拘束する方法等が挙げられる。
【0033】
立体網状構造体の形状は、特に限定されず、例えば、板状、三角柱、四角柱等の多角体、円柱、球状、これらの組み合わせ形状等が挙げられる。立体網状構造体を成形するに当たっては、樹脂の溶融押出し時に規制板を用いて成形してもよいし、カット、熱プレス等により成形してもよい。
【0034】
立体網状構造体は、70℃圧縮残留歪みが30%以下であることが好ましい。これにより、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができる。より好ましくは25%以下、さらに好ましくは23%以下である。また70℃圧縮残留歪みは、1%以上であってもよく、5%以上であってもよい。70℃圧縮残留歪みは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
立体網状構造体の25%圧縮時硬度は、好ましくは5.0N/φ50mm以上、100N/φ50mm以下である。5.0N/φ50mm以上であることより、立体網状構造体をクッション材等に用いた場合の底付き感を低減することができる。そのため、より好ましくは5.4N/φ50mm以上、さらに好ましくは6.0N/φ50mm以上、さらにより好ましくは7.0N/φ50mm以上である。一方、100N/φ50mm以下であることにより、クッション性を向上することができる。そのため、より好ましくは80N/φ50mm以下であり、さらに好ましくは60N/φ50mm以下、さらにより好ましくは30N/φ50mm以下である。25%圧縮時硬度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
立体網状構造体は、接合促進剤を含まない方が好ましい。これにより、接合促進剤による立体網状構造体内の過剰接合による過剰な硬化を防止し易くすることができる。また、1つの接点あたりの接合範囲が増えすぎることに伴う立体網状構造体の緻密性の低下を防止し易くすることができる。接合促進樹脂として、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンセバセートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート等が挙げられる。
【0037】
立体網状構造体は、着色されていてもよい。着色には、顔料や染料等の着色剤を用いることができる。着色剤を溶融紡糸前に樹脂に含有させてもよいし、立体網状構造体を形成してから、浸漬や塗布によって着色剤を線状繊維に被覆させてもよい。
【0038】
立体網状構造体は、クッションに用いられるものであることが好ましい。クッションは、物を支える弾力のある物、または衝撃を少なくするものであればよい。クッションとして、オフィスチェア、家具、ソファー、ベッド等の寝具、電車、自動車、二輪車、チャイルドシート、ベビーカーなどの車両用座席等に用いられるクッション、フロアーマットや衝突、挟まれ防止部材等の衝撃吸収用マット等に用いられるクッションが挙げられる。
【0039】
立体網状構造体は、例えば以下の方法により形成することができる。まず複数のオリフィスを持つ多列ノズルより、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂をノズルオリフィスに分配し、該樹脂の((融点+20℃)以上~(融点+180℃)未満)の紡糸温度でノズルより下方に向け吐出させる。次いで、溶融状態で互いに連続線状体を接触させて融着させて3次元網状構造を形成しつつ、引取りコンベアネットで挟み込み、冷却槽中の冷却水で冷却する。上記ノズル面と冷却水の水面との距離は、好ましくは15cm以上、より好ましくは20cm以上である。これにより繊維の中空率と網状構造の緻密性を向上することができる。一方当該距離は好ましくは40cm以下、より好ましくは35cm以下である。これにより適度な見かけ密度と繊維径を有する立体網状構造体が得られ易くなる。冷却後、固化した立体網状構造体を引出し、水切り後または乾燥して、両面または片面が平滑化した立体網状構造体を得る。これらの紡糸、冷却工程については、特開平7-68061号公報の記載を参照することができる。片面のみを平滑化させる場合は、傾斜を持つ引取ネット上に連続線状体を吐出させて、溶融状態で互いに接触させて融着させればよい。その際、3次元網状構造を形成しつつ、引取ネット面のみ形態を緩和させつつ冷却すればよい。得られた立体網状構造体に対して、アニーリング処理を行う。なお立体網状構造体の乾燥処理をアニーリング処理としてもよい。
【0040】
ノズルから吐出する前の樹脂に対して水を加えることが好ましい。樹脂の固形分100質量%に対する水の仕込み量は0.005質量%以上であることが好ましい。これにより立体網状構造体の製造工程における樹脂の分解を促進することができり、樹脂の柔軟性を向上することができる。一方、水の仕込み量は2.0質量%以下であることが好ましい。これにより、立体網状構造体の製造工程における樹脂の過剰な分解を防止して、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上し易くすることができる。水の仕込み量は、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.2質量%以下である。また、樹脂に水を加える方法は特に限定されないが、例えば、樹脂を加ノズルから吐出する前に、樹脂を100℃で12時間以上、真空乾燥して絶乾させて、絶乾した樹脂100質量%に対して、所定の量の純水を加えればよい。
【0041】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、溶融押出しをする前の時点で、所望の立体網状構造体のMFRよりも0.5以上、20.0未満小さいことが好ましい。溶融押出し時に樹脂の熱劣化やせん断劣化が誘起されるため、溶融押出し前のMFRを上記のように制御することにより、所望のMFRを有する立体網状構造体が得られ易くなる。
【0042】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂は、溶融成形した後の冷却は、冷却水を用いることが好ましい。ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂は、冷却固化されるまでに成形収縮が生じる場合がある。そのため、成形収縮を考慮した幅と厚みの立体網状構造体を形成すればよいが、溶融固化温度を低くすることにより成形収縮を低減することができる。そのため、冷却水の水温は20℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。また冷却水による冷却時間は30秒以上が好ましい。当該冷却固化は水槽内で行うことが好ましい。
【0043】
アニーリングは、市販の熱風乾燥炉を用いて行ってもよく、温水浴中で行ってもよい。アニーリング温度は70℃以上である。これにより、結晶融解エンタルピーを向上することができる。好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上である。一方、アニーリング温度は105℃以下である。これによっても結晶融解エンタルピーを向上することができる。
【0044】
アニーリング時間は1分以上であることが好ましい。これにより結晶融解エンタルピーを向上することができる。アニーリング時間は、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましく、15分以上であることがさらにより好ましい。一方、アニーリング時間は60分以下であることが好ましい。これにより、アニーリング時のポリマーの分解や劣化等に伴うポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂の黄変、臭気、分子量低下等を低減することができる。さらに生産性を向上することもできる。アニーリング時間は、50分以下であることがより好ましい。
【0045】
冷却固化後、アニーリング前に20℃~50℃の温度にて1分以上保持することが好ましい。アニーリング処理では自重によって厚みが変化する場合があるが、冷却固化後に20℃~50℃の温度で保持することにより、アニーリングによる厚みの変化を低減することができる。例えば、水槽で冷却固化した後に、連続式乾燥機を用いて、オーブンの前半の温度を低くして保持し、更にオーブンの後半の温度を高くしてアニーリングを行ってもよい。
【0046】
アニーリング前の立体網状構造体の含水率は15%以下であることが好ましい。これにより樹脂の分解等を低減することができる。含水率は、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。当該含水率は下記式で算出される。式中の真空乾燥後の質量は、90℃で真空乾燥を2時間行った後の質量とする。
立体網状構造体の含水率(%)={(真空乾燥前の立体網状構造体の質量)―(真空乾燥後の立体網状構造体の質量)}/(真空乾燥前の立体網状構造体の質量)×100
【0047】
立体網状構造体の樹脂の製造工程から成形工程までの任意の段階で、樹脂に防臭抗菌性、防カビ性、防ダニ性、消臭性、防黴性、芳香性、難燃性、吸放湿性等の機能を付与してもよい。また、立体網状構造体を製造するに当たって、原料であるポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂に、酸化防止剤、滑剤などの機能付与材を含有させてもよい。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。樹脂の溶融後の色調や品位に応じて、溶融押出し時に各種の機能付与材を樹脂に混練りして機能付与材の含有量を調整することが好ましい。
【0048】
酸化防止剤としては、公知のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、N-H型ヒンダードアミン系光安定剤、N-CH3型ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含有させることが好ましい。
【0049】
フェノール系酸化防止剤としては、1,3,5-トリス[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、Sumilizer AG 80、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン等が挙げられる。
【0050】
ホスファイト系酸化防止剤としては、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g]「1,3,2」ジオキサホスホシン、亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、亜リン酸トリス(4-ノニルフェニル)、4,4’-Isopropylidenediphenol C12-15 alcohol phosphite、亜りん酸ジフェニル(2-エチルヘキシル)、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリイソデシル ホスファイト、亜りん酸トリフェニル等が挙げられる。
【0051】
チオエーテル系酸化防止剤としては、ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[「3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ」メチル]-1,3-プロパンジイル、3,3’-チオビスプロピオン酸ジトリデシル等が挙げられる。
【0052】
樹脂の熱劣化を防ぐためには、フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤を混合して使用することが好ましい。これらの2種の酸化防止剤の含有量は樹脂組成物100質量%に対して0.05質量%以上、1.0質量%以下であることが好ましい。
【0053】
滑剤は、炭化水素系ワックス、高級アルコール系ワックス、アミド系ワックス、エステル系ワックス、金属石鹸系等が挙げられる。必要に応じて、樹脂組成物100質量%に対して滑剤を質量基準で0.5質量%以下含有させることが好ましい。
【0054】
本願は、2021年3月30日に出願された日本国特許出願第2021-058475号に基づく優先権の利益を主張するものである。2021年3月30日に出願された日本国特許出願第2021-058475号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0056】
後記する実施例1~7、比較例1~3の立体網状構造体の特性値の測定及び評価は、下記の方法に基づいて行った。なお試料の大きさは以下に記載の大きさを標準としたが、試料が不足した場合には可能な大きさの試料を用いて測定を行った。
【0057】
(1)繊維径
立体網状構造体を10cm×10cmの大きさに切断し、それぞれ10箇所から線状繊維を約5mmの長さで採集した。次いで、光学顕微鏡を用いて採集した線状繊維の繊維径測定箇所にピントを合わせて径を測定し、10箇所の繊維径の平均値(n=10)を求めた。
【0058】
(2)中空率
立体網状構造体からランダムに10本の線状繊維を取り出した。次いで線状繊維を輪切りにし、繊維軸方向に立てた状態でスライドガラスに載せ、光学顕微鏡で輪切り方向の繊維断面を観察した。この際、繊維断面が中空断面である線状繊維のみを選択し、繊維の外周線内の面積(a)と中空面積(b)をそれぞれ算出し、下記式に基づいて中空率を算出し、選択した中空線状繊維の中空率の平均値を求めた。
中空率(%)=(b)/(a)×100
【0059】
(3)厚み、見かけ密度
立体網状構造体を縦横方向に10cm×10cmの大きさに切断し、得られた試料を無荷重で24時間放置した後、高分子計器株式会社製の高分子計器製FD-80N型測厚器にて中心1か所の高さを測定し、その試料の高さを立体網状構造体の厚みとした。更に、試料を電子天秤に載せて試料重さを計測した。試料の高さと縦横の面積(100cm2)を乗じて試料の体積を求め、試料の重さを体積で除して、見かけ密度を求めた。当該操作を3回行って、立体網状構造体の厚みと、見かけ密度との平均値(n=3)を求めた。
【0060】
(4)融点(Tm)
TAインスツルメント社製の示差走査熱量計Discovery DSC25を用い、立体網状構造体からサンプルを採取し、サンプル質量は2.0mg±0.1mgに秤量し、昇温速度20℃/分、窒素雰囲気下の条件で測定した吸発熱曲線から、吸熱ピーク(融解ピーク)温度を求めた。当該操作を3回行って、融点の平均値(n=3)を求めた。
【0061】
(5)融解エンタルピー
立体網状構造体からサンプルを採取し、サンプル質量は2.0mg±0.1mgに秤量し、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計Discovery DSC25を用い、昇温速度20℃/分、窒素雰囲気下の条件で測定した吸発熱曲線から吸熱ピーク(融解ピーク)の積分値から結晶融解エンタルピー(J/g)を求めた。詳細には、吸熱ピーク(融解ピーク)の積分値は、当該吸熱ピーク(融解ピーク)に係る曲線が低温側のベースラインから離れ始める点を開始点とし、高温側のベースラインに接し始める点を終了点とし、当該開始点と終了点と結ぶ直線を引き、当該直線と曲線により囲まれた部分について積分することにより求めた。当該操作を3回行って、結晶融解エンタルピーの平均値(n=3)を求めた。また上記開始点を融解開始オンセット温度(℃)とした。
【0062】
(6)メルトフローレート(MFR)
立体網状構造体を細かく切り刻んで原料とし、80℃で2時間以上、真空乾燥した後に、空気中の水分を出来るだけ含まないように、手早くメルトフローレート(MFR)測定を実施した。東洋精機製作所社製のメルトインデックサ F-F01機を用いて、ISO1133に準拠してメルトフローレートの測定を行った。測定温度は190℃、荷重は2.16kgとした。当該操作を3回行って、メルトフローレートの平均値(n=3)を求めた。
【0063】
(7)重量平均分子量
立体網状構造体からサンプルを採取し、試料のばらつきを軽減するため、試料は通常の10倍の40mgを細かく裁断し、溶解させた。試料溶液を、クロロホルムで希釈して試料濃度を0.05%に調製した。0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、得られた試料溶液のGPC分析を以下の条件で実施した。分子量は標準ポリスチレン換算で算出した。
装置:TOSOH HLC-8320GPC
カラム:TSKgel SuperHM-H×2+TSKgel SuperH2000(TOSOH)
溶媒:クロロホルム
流速:0.6ml/min
濃度:0.05%
注入量:20μL
温度:40℃
検出器:RI, UV254nm
(8)70℃圧縮残留歪み
立体網状構造体を10cm×10cmの大きさに切断し、得られた試料について上記(2)に記載の方法で処理前の厚み(c)を測定した。厚みを測定したサンプルを50%圧縮状態に保持できる冶具に挟み、70℃に設定した乾燥機に入れて22時間放置した。その後、サンプルを取り出し、冷却して圧縮歪みを除いて30分放置した後の厚み(d)を求めた。これらの厚みを、{(c)-(d)}/(c)×100の式に当てはめて70℃圧縮残留歪みを求めた。当該操作を3回行って、70℃圧縮残留歪みの平均値(n=3)を求めた。
【0064】
(9)25%圧縮時硬度
立体網状構造体を10cm×10cmの大きさに切断し、得られた試料を23℃±2℃の環境下に無荷重で24時間放置した。次いで、23℃±2℃の環境下で島津製作所製オートグラフ AG-X plusを用いて、ISO2439(2008)E法に準拠して計測した。具体的には、直径(φ)50mmの加圧板を試料の中心位置に配置して、荷重が0.5Nになったときの厚みを計測し、それを初期厚みとした。このときの加圧板の位置をゼロ点として、速度100mm/分で初期厚みの75%まで予備圧縮を1回行い、同じ速度で加圧板をゼロ点まで戻した後、そのままの状態で4分間放置した。その後、即座に速度100mm/分で初期厚みの25%まで圧縮を行って、その際の荷重を測定し、その加重を25%圧縮時硬度(N/φ50mm)とした。当該操作を3回行って、25%圧縮時硬度の平均値(n=3)を求めた。
【0065】
ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂として、XINJIANG BLUE RIDGE TUNHE CHEMICAL INDUSTRY JOINT STOCK社製のTH-801Tを用いた。樹脂の重量平均分子量は12.3×104g/molであり、メルトフローレート(MFR)は4g/10分であった。
【0066】
[実施例1]
溶融樹脂を吐出用のノズルのノズル面より17cm下に冷却水面が位置するように水槽を配置し、水温12℃とし、水槽内に一対の引取りコンベアを水面上に一部が出るように配置した。引取りコンベアは幅20cmのステンレス製エンドレスネットを有しており、ノズル面の幅方向とコンベアを平行に配置し、エンドレスネットの開口幅を30mmとし、側面部を成形するためにアルミ板をネット方向に対して90度の向きで配置させ水を1.0L/分の速度で流し側面部とした。
【0067】
上記溶融樹脂を吐出用のノズルとして、幅方向96mm、厚み方向の幅31mmのノズル有効面に、外径0.5mmで丸孔形状のオリフィスを孔間ピッチ6mmの千鳥配列で形成したノズルを用いた。原料である樹脂を乾燥させて絶乾し、樹脂の固形分100質量%に対して水0.01質量%を加えた後、紡糸温度260℃、単孔吐出量1.0g/分の速度でノズル下方に溶融樹脂を吐出させた。
【0068】
上記コンベアのネットの開口部、上記コンベアのネット上、並びに上記側面部のアルミ板に、上記溶融樹脂を線状に吐出して、連続線状体を落下させて曲がりくねらせル-プを形成し、接触部分を融着させつつ3次元網状構造を形成した。該溶融状態の3次元網状構造の両面を引取りコンベアで挟み込みつつ0.86m/分の速度で冷却水中へ引込み、固化させることで厚み方向と側面方向のそれぞれの両面をフラット化した後、所定の大きさに切断した。次いで、25℃の空間にて1時間静置した。得られた3次元網状構造の含水率は9%であり、80℃熱風にて20分間乾燥熱させることによりアニーリングし、幅が100mmの立体網状構造体を得た。当該立体網状構造体の線状繊維の断面形状は丸形であった。
【0069】
[実施例2]
樹脂の固形分100質量%に対して仕込み量0.30質量%で水を加えたこと、外径5.0mm、内径4.4mmでトリプルブリッジの中空形成断面のオリフィスを孔間ピッチ8mmの千鳥配列で形成したノズルを用いて、紡糸温度を231℃、単孔吐出量を1.5g/分、引き取り速度を0.92m/分、乾燥温度を105℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして立体網状構造体得た。当該立体網状構造体の線状繊維の断面形状は中空形状であった。
【0070】
[実施例3]
樹脂の固形分100質量%に対して仕込み量0.40質量%で水を加えたこと、紡糸温度を230℃、乾燥温度を90℃にしたこと以外は、実施例2と同様にして立体網状構造体を得た。
【0071】
[実施例4]
樹脂の固形分100質量%に対して仕込み量0.01質量%で水を加えたこと、紡糸温度を240℃、ノズル面-冷却水距離を25cmにしたこと以外は、実施例3と同様にして立体網状構造体を得た。
【0072】
[実施例5]
原料である樹脂を乾燥させた後に水を加え無かったこと、単孔吐出量を0.5g/分、引き取り速度を0.64m/分にしたこと以外は、実施例1と同様にして立体網状構造体を得た。
【0073】
[実施例6]
樹脂の固形分100質量%に対して仕込み量0.20質量%で水を加えたこと、紡糸温度を190℃、ノズル面-冷却水距離を30cmとしたこと以外は、実施例3と同様にして立体網状構造体を得た。
【0074】
[実施例7]
紡糸温度を210℃、単孔吐出量を1.0g/分、引き取り速度を1.28m/分にしたこと以外は、実施例5と同様にして網状構造体を得た。
【0075】
[比較例1]
樹脂の固形分100質量%に対して水2.5質量%を加えたこと、単孔吐出量を0.9g/分、ノズル面-冷却水距離を18cm、引き取り速度を0.52m/分にしたこと以外は、実施例1と同様にして立体網状構造体を得た。
【0076】
[比較例2]
樹脂の固形分100質量%に対して仕込み量0.02質量%で水を加えたこと、アニーリングを行わずに乾燥を20~25℃で2日間行ったこと以外は、実施例4と同様にして立体網状構造体を得た。
【0077】
[比較例3]
紡糸温度を230℃、引き取り速度を1.54m/分、乾燥温度を107℃にしたこと以外は、実施例2と同様にして網状構造体を得た。
【0078】
実施例1~7、比較例1~3における製造条件と、得られた立体網状構造体の特性を表1に示す。なお表1中、複数回評価を行った特性の数値は平均値である。
【0079】
【0080】
実施例1~7で得られた立体網状構造体は、圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性に優れていた。更に、実施例1~6は、吐出時のポリマー溶融粘度を低減できたため、精緻なループを作製することができ、表面と外観品位が優れていた。
【0081】
比較例1で得られた網状構造体は、重量平均分子量が低く、加熱圧縮後の圧縮回復性が劣っていた。また、比較例1で得られた網状構造体は若干黄変していた。これは、アニーリング前の立体網状構造体の含水率が高かったことが影響していると考えられる。
【0082】
比較例2、3で得られた網状構造体は、結晶融解エンタルピーが低く、圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性とが劣っていた。