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特開2023-2670認知障害を治療または予防するためのヒト化抗体、その製造プロセス、及びそれを用いた認知障害を治療または予防するための薬剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002670
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】認知障害を治療または予防するためのヒト化抗体、その製造プロセス、及びそれを用いた認知障害を治療または予防するための薬剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221227BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221227BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221227BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221227BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221227BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221227BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221227BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P43/00
A61P25/28
A61P25/00
A61P25/16
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166859
(22)【出願日】2022-10-18
(62)【分割の表示】P 2019545918の分割
【原出願日】2018-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2017035594
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519300231
【氏名又は名称】メルク シャープ アンド ドーメ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】江口 広志
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆
(72)【発明者】
【氏名】並木 直子
(72)【発明者】
【氏名】田野倉 章
(72)【発明者】
【氏名】ジャンヌ イー. ベイカー
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー パルメンティエル バッテウル
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ マリー ジャブロンスキ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ステファン マラショック
(72)【発明者】
【氏名】カール ミエクズコウスキ
(72)【発明者】
【氏名】ゴパラン ラグフ ラグフナサン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リン酸化タウに対して高い結合親和性を有するだけでなく、ヒトの体に対する抗原性を低下させたヒト化抗リン酸化タウ抗体を提供する。
【解決手段】a)特定の配列からなる重鎖可変ドメイン;ならびにb)別の特定の配列からなる軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer413タウ抗体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;ならびに
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号1
07、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号1
12、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメイン、を含む抗p
Ser413タウ抗体。
【請求項2】
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;ならびに
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号1
07、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号1
12、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗pS
er413タウ抗体であって、配列番号8のリン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性
の、配列番号69の非リン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性に対する比が少なくと
も約40である、前記抗pSer413タウ抗体。
【請求項3】
前記抗体が、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配
列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142及び配列番号143か
ら選択される重鎖定常ドメインを含む、請求項1又は2に記載の抗pSer413タウ抗
体。
【請求項4】
前記抗体が、配列番号79及び配列番号80から選択される軽鎖定常ドメインを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項5】
前記軽鎖可変ドメインが配列番号114を有し、前記重鎖可変ドメインが配列番号11
6を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項6】
前記抗体の軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号144を有する、
請求項5に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項7】
前記抗体の軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号152を有する、
請求項5に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項8】
前記重鎖及び前記軽鎖が、LC配列番号184及びHC配列番号144;LC配列番号
184及びHC配列番号145;LC配列番号184及びHC配列番号146;LC配列
番号184及びHC配列番号147;LC配列番号184及びHC配列番号148;LC
配列番号184及びHC配列番号149;LC配列番号184及びHC配列番号150;
LC配列番号184及びHC配列番号151;LC配列番号184及びHC配列番号15
2;LC配列番号184及びHC配列番号153;LC配列番号184及びHC配列番号
154;LC配列番号184及びHC配列番号155;LC配列番号184及びHC配列
番号156;LC配列番号184及びHC配列番号157;LC配列番号184及びHC
配列番号158;LC配列番号184及びHC配列番号159;LC配列番号184及び
HC配列番号160;LC配列番号184及びHC配列番号161;LC配列番号185
及びHC配列番号144;LC配列番号185及びHC配列番号145;LC配列番号1
85及びHC配列番号146;LC配列番号185及びHC配列番号147;LC配列番
号185及びHC配列番号148;LC配列番号185及びHC配列番号149;LC配
列番号185及びHC配列番号150;LC配列番号185及びHC配列番号151;L
C配列番号185及びHC配列番号152;LC配列番号185及びHC配列番号153
;LC配列番号185及びHC配列番号154;LC配列番号185及びHC配列番号1
55;LC配列番号185及びHC配列番号156;LC配列番号185及びHC配列番
号157;LC配列番号185及びHC配列番号158;LC配列番号185及びHC配
列番号159;LC配列番号185及びHC配列番号160、ならびにLC配列番号18
5及びHC配列番号161のペアから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の
抗pSer413タウ抗体。
【請求項9】
a)配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号1
66、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号1
71、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号1
76、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号1
81、配列番号182、配列番号183、配列番号184、及び配列番号185から選択
される軽鎖をコードする第1の核酸;ならびに
b)配列番号144、配列番号145;配列番号146;配列番号147;配列番号1
48;配列番号149;配列番号150;配列番号151;配列番号152;配列番号1
53;配列番号154;配列番号155;配列番号156;配列番号157;配列番号1
58;配列番号159;配列番号160及び配列番号161から選択される重鎖をコード
する第2の核酸を含む、核酸組成物。
【請求項10】
前記第1の核酸が第1の発現ベクターに含まれ、前記第2の核酸が第2の発現ベクター
に含まれる、請求項9に記載の核酸組成物を含む発現ベクター組成物。
【請求項11】
前記第1の核酸及び前記第2の核酸が発現ベクターに含まれる、請求項9に記載の核酸
組成物を含む発現ベクター組成物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の発現ベクター組成物を含む宿主細胞。
【請求項13】
前記抗体を発現させる条件下で請求項12に記載の宿主細胞を培養すること、及び前記
抗体を回収することを含む、抗pSer413タウ抗体の作製方法。
【請求項14】
対象におけるタウオパチーを治療するための医薬組成物であって、請求項1~8のいず
れか一項に記載の抗pSer413タウ抗体を含む、前記医薬組成物。
【請求項15】
前記タウオパチーが、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピッ
ク病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、初老期の認知症を伴う多系統タウオパチー(M
STD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP
-17)、神経原線維変化認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)
、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭
側頭葉変性症(FTLD-タウ)、嗜眠性脳炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎、及びボクサ
ー病からなる群から選択される、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
対象のタウオパチーを治療するための医薬の製造における、請求項1~8のいずれか一
項に記載の抗pSer413タウ抗体の使用。
【請求項17】
前記タウオパチーが、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピッ
ク病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、初老期の認知症を伴う多系統タウオパチー(M
STD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP
-17)、神経原線維変化認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)
、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭
側頭葉変性症(FTLD-タウ)、嗜眠性脳炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎、及びボクサ
ー病からなる群から選択される、請求項16記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月27日に出願された日本出願特願2017-035594の
利益を主張し、その内容の全体を参照により本明細書に明示的に援用する。
【0002】
II.配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体を参
照により本明細書に援用する。2018年2月27日に作成された前記ASCIIコピー
は、名称が063785-06-5002-WO-SeqLstg-_ST25.txt
であり、サイズが323,584バイトである。
【0003】
III.技術分野
本開示は、認知障害の治療的または予防的処置において使用するためのヒト化抗体、そ
のヒト化抗体の製造プロセス、その抗体を使用する認知障害治療薬または予防薬、ならび
に本明細書に開示する治療薬を用いた認知障害の治療方法または予防方法に関する。より
詳細には、本開示は、認知機能の改善に優れた効果を有する新規ヒト化抗リン酸化タウ抗
体、そのヒト化抗体の製造プロセス、そのヒト化抗体を含有する認知障害治療薬もしくは
予防薬、およびヒト化抗リン酸化タウ抗体を用いた認知障害の治療方法または予防方法に
関する。
【背景技術】
【0004】
IV.発明の背景
認知障害、すなわち認知症は、発達した知能が何らかの後天的原因により悪化し、その
結果、社会的適応に支障をきたす病態である。認知障害は、神経変性疾患、血管性認知疾
患、プリオン病、感染症、代謝性/内分泌疾患、精神的外傷及び脳外科疾患、中毒性疾患
に分類される(Toshifumi Kishimoto & Shigeki Tak
ahashi(Edit.),“STEP Series Seishinka”(Ja
panese document),2th Edition,Kaibashobo,
2008,pp.103-104参照)。2010年の時点で日本には約210万人の認
知症患者がおり、罹患率は約8~10%、または65歳超の高齢者の間で10%超である
。このことは、世界的な高齢化社会における深刻な問題として認識されている(Taka
shi Asada,“Igaku no Ayumi”(Japanese docu
ment),supplementary volume,“Cognitive di
sorders”,Ishiyaku Publishing,2011,pp.5-1
0)。認知障害の基礎疾患に関するデータは、大多数がアルツハイマー病(AD)及び前
頭側頭葉変性症(FTLD)などの神経変性疾患であり、約35%がADであり、約15
%がADと脳血管疾患の併発であり、5%がFTLD(同上)であることを示す。神経変
性疾患に関連する認知障害は、少なくとも6ヶ月以上の期間にわたって進行する記憶障害
及び/または人格の変化の潜行性の発症を特徴とする。神経変性プロセスは、認知機能の
障害の程度と高度に相関し、そしてそれに含まれる一貫した特徴は、神経原線維変化(N
FT)の存在である(Alistair Burns et al.(Edit.),D
ementia,3rd Edition,2005,CRC Press,pp.40
8-464)。
【0005】
タウタンパク質は、ヒトゲノムの第17染色体(17q21)に位置するMAPT遺伝
子によってコードされるタンパク質である。タウタンパク質は、中枢神経系において豊富
に発現する微小管結合タンパク質の1つである。タウは、最も顕著な神経変性疾患の1つ
であるADにおいてNFTを形成する対らせん状細線維及び直線状細線維における主要構
成タンパク質であることが見出されており、様々な神経病理学的病態においてその細胞内
蓄積が示されている。
【0006】
タウは、当初、MAPT遺伝子における突然変異と、第17番染色体に連鎖しパーキン
ソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)におけるタウの蓄積との間の
関連性に基づいて、神経変性疾患に関係付けられた。FTDP-17に関してMAPT遺
伝子に40を超える遺伝子変異が報告されている(Tetsuaki Arai,“Sh
inkei Naika”(Japanese document),Vol.72,s
pecial number,(Suppl.6),2010,pp.46-51)。こ
れらの遺伝子変異は、タウアイソフォームの割合を変化させ、または構造を変化させ、及
び変異タウと微小管との間の相互作用を変化させ、したがって病理の発達に寄与するもの
として示唆される。しかしながら、家族性神経変性疾患とは異なり、MAPTの変異はA
Dなどの散発性神経変性疾患ではめったに観察されることはない。さらに、神経変性疾患
において蓄積するタウは、リン酸化を介して高度に修飾されていることを特徴とする。さ
らに、軽度認知障害(MCI)を示す患者では、脊髄液中のリン酸化タウのレベルと下垂
体萎縮の程度との間に相関が観察され、このことはリン酸化タウがタウオパチー患者にお
ける神経変性の信頼性の高いバイオマーカーであることを示唆している(Wendy N
oble et al.,Expert Opinion on Drug Disco
very,2011,Vol.6,No.8,pp.797-810)。これらの知見に
基づいて、タウの過剰なリン酸化を阻害するために、リン酸化に関与する酵素であるキナ
ーゼに対する阻害剤、特にGSK-3βに対する阻害剤を使用する治療法を開発する試み
がなされてきた(同上)。しかしながら、GSK-3βのようなキナーゼは、病的状態だ
けでなく正常な生理学的プロセスにおける機能制御にも関与しているため、起こり得る副
作用についての懸念がある。実際、タウがGSK-3βによってリン酸化される部位のい
くつかは、胎児及び正常なヒトの脳において認められるタウリン酸化の部位と一致してお
り(Burnesら、前出)、この戦略が正常なタウ機能に影響を及ぼし得る可能性を示
唆している。
【0007】
細胞外タウは細胞死の結果としての変性神経細胞からの漏出に由来すると考えられてい
たが、最近の研究により、過剰な細胞内リン酸化の後にタウが処理され、次いで活発に細
胞外に分泌されることが示唆されている。細胞から分泌されたリン酸化タウは、特定のリ
ン酸化部位で脱リン酸化され、続いて周囲の細胞のムスカリン受容体M1及びM3に作用
し、細胞内タウリン酸化の促進及び細胞死への寄与などの様々な効果をもたらすと考えら
れる(Miguel Diaz-Hernandes et al.,Journal
of Biological Chemistry,2010,Vol.285,No.
42,pp.32539-32548及びVenessa Plouffe et al
.,PLoS ONE,2012,Vol.7,p.36873)。タウに対する特定の
作用を実行することを目的とした試みとして、タウタンパク質を標的とするタウオパチー
に対する免疫療法に関する実験が報告されている(Noble(前出)、Kishimo
to(前出)、Asada(前出)及びBurns(前出)参照)。
【0008】
ヒトの認知障害における主な症状は、記憶障害及び認知機能障害であり、認知機能障害
は、記憶に基づく判断、コミュニケーション及びパフォーマンスにおける認知機能の役割
を考えると、特に重要である。一方、運動機能は、第17番染色体に連鎖しパーキンソニ
ズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)及び末期アルツハイマー病におい
て認められる症状であるが、認知障害では必ずしも認められる主要な症状ではない。した
がって、認知障害を治療するために考慮すべき主な問題は、認知機能の改善である。しか
しながら、現在では、タウオパチー関連認知機能障害を試験するための適切な動物モデル
が存在し、それによって認知障害を治療するための治療薬または予防薬の同定が可能とな
るであろう。さらに、認知障害に対して特異的で優れた効果を示すそのような薬剤は存在
しない。
【0009】
ヒト対象における認知障害に対する治療的及び予防的適用の観点から、リン酸化タウに
対して高い結合親和性を有するだけでなく、ヒトの体に対する抗原性を低下させたヒト化
抗リン酸化タウ抗体が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
V.発明の概要
この背景に対して、本発明者らは、アルツハイマー病の状態において異常なリン酸化を
受け得るタウタンパク質中の多数のリン酸化部位のうち、413位のセリン残基のリン酸
化部位(Ser413)に注目し、Ser413リン酸化タウに特異的なポリクローナル
ウサギ抗体及びモノクローナルマウス抗体の作製に成功した。本発明者らはまた、リン酸
化タウタンパク質の異常発現を示した認知障害のモデルマウスにモノクローナルマウス抗
体を投与し、認知機能の改善が観察されたことを確認した(WO2013/180238
A)。
【0011】
いくつかの実施形態では、本開示は、セリン残基413でリン酸化されているタウタン
パク質(pS413-タウ)に特異的に結合する抗原結合部分を含む、抗体などのタンパ
ク質を提供する。いくつかの実施形態では、本開示はそれらのタンパク質をコードする核
酸を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、それらのタンパク質をコードするそ
のような核酸を含む細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に開
示するタンパク質、核酸、または細胞を、それを必要とする患者に投与することによる、
タウオパチー(例えば、アルツハイマー病)の治療方法を提供する。
【0012】
したがって、いくつかの態様では、本発明は、少なくとも配列番号1のSer413に
対応するアミノ酸残基においてリン酸化されたタウタンパク質またはタウペプチドと抗原
-抗体反応を引き起こすヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体を提供する。いくつか
の場合では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、タウタンパク質またはタウペ
プチドに対して1.86×10-8M以下の平衡解離定数を有する。
【0013】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、非リン酸化タウタン
パク質(またはタウペプチド、例えば、配列番号69)に比べて、リン酸化タウタンパク
質(またはタウペプチド、例えば配列番号8)に対してより高い選択的親和性を有する。
【0014】
さらなる態様では、本明細書に記載のヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、血
中に投与した場合に、脳に進入する能力がより高い。
【0015】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下のようなCDR
を含む:配列1Mに対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるCDR-H1
配列;CDR-H2配列として、配列2Mまたは2H1に対して84%以上の相同性を有
するアミノ酸配列;CDR-H3配列として、配列3Mに対して80%以上の相同性を有
するアミノ酸配列;CDR-L1配列として、配列4L1または4Mに対して87%以上
の相同性を有するアミノ酸配列;CDR-L2配列として、配列5Mに対して85%以上
の相同性を有するアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、配列6Mに対して77%
以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0016】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下のようなCDR
を含む:CDR-H1配列として、配列1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列として、
配列2H1のアミノ酸配列か、または15位のAlaがAspで置換されているという点
で配列2H1と異なるアミノ酸配列;CDR-H3配列として、配列3Mのアミノ酸配列
;CDR-L1配列として、配列4L1のアミノ酸配列、または5位のSerがAsnで
置換されている点で配列4L1と異なるアミノ酸配列;CDR-L2配列として、配列5
Mのアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、配列6Mのアミノ酸配列。
【0017】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下のようなCDR
を有する:(1)CDR-H1配列として、1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列とし
て、2H1のアミノ酸配列;CDR-H3配列として、3Mのアミノ酸配列;CDR-L
1配列として、4L1のアミノ酸配列;CDR-L2配列として、5Mのアミノ酸配列;
及びCDR-L3配列として、6Mのアミノ酸配列;または(2)CDR-H1配列とし
て、1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列として、2H1のアミノ酸配列;CDR-H
3配列として、3Mのアミノ酸配列;CDR-L1配列として、4Mのアミノ酸配列;C
DR-L2配列として、5Mのアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、6Mのアミ
ノ酸配列;または(3)CDR-H1配列として、1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配
列として、2Mのアミノ酸配列;CDR-H3配列として、3Mのアミノ酸配列;CDR
-L1配列として、4Mのアミノ酸配列;CDR-L2配列として、5Mのアミノ酸配列
;及びCDR-L3配列として、6Mのアミノ酸配列。
【0018】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は:重鎖可変領域として
、配列VH11、VH12、VH47、VH61、VH62、VH64、及びVH65か
ら選択される配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;ならびに軽鎖可変領域と
して、配列VL15、VL36、VL46、VL47、VL48、及びVL50から選択
される配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0019】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は:重鎖可変領域として
、配列VH65のアミノ酸配列、または28位のAlaからThrへの置換(Kabat
ナンバリング:H28)、30位のAsnからSerへの置換(Kabatナンバリング
:H30)、49位のValからGlyへの置換(Kabatナンバリング:H49)、
64位のAlaからAspへの置換(Kabatナンバリング:H61)、及び78位の
GlnからLysへの置換(Kabatナンバリング:H75)からなる群から選択され
る1つ以上の置換を含む点で配列VH65とは異なるアミノ酸配列を;ならびに軽鎖可変
領域として、配列VL47のアミノ酸配列、または17位のAspからGluへの置換(
Kabatナンバリング:L17)、28位のSerからAsnへの置換(Kabatナ
ンバリング:L27A)、42位のGlnからLeuへの置換(Kabatナンバリング
:L37)、50位のGlnからArgへの置換(Kabatナンバリング:L45)、
及び51位のArgからLeuへの置換(Kabatナンバリング:L46)からなる群
から選択される1つ以上の置換を含む点で配列VL47とは異なるアミノ酸配列を有する
【0020】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下の配列の組み合
わせのいずれかを含む:(a)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域とし
ての配列VL15;(b)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての
配列VL36;(c)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列
VL46;(d)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL
47;(e)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL48
;(f)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL50;(
g)重鎖可変領域としての配列VH12及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(h)
重鎖可変領域としての配列VH47及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(i)重鎖
可変領域としての配列VH61及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(j)重鎖可変
領域としての配列VH62及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(k)重鎖可変領域
としての配列VH64及び軽鎖可変領域としての配列VL47;(l)重鎖可変領域とし
ての配列VH64及び配列VL48、ならびに(m)重鎖可変領域としての配列VH65
及び軽鎖可変領域としての配列VL47。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のヒト化抗体またはその断片もしくは誘
導体を含む、認知症を治療または予防するための薬剤を提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻
痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、初老性認知症を伴う多系統タウオパチ
ー(MSTD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知
症(FTDP-17)、神経原線維変化を伴う認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維
変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タ
ウ病理学を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-タウ)を含む、認知症またはタウオパチー
を治療または予防するための方法及び薬剤を提供する。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のヒト化抗体またはその断片もしくは誘
導体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0024】
さらなる態様では、本発明は:a)配列番号86を有するvhCDR1、配列番号11
5を有するvhCDR2、及び配列番号88を有するvhCDR3を含む重鎖可変ドメイ
ン;ならびにb):i)配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するv
lCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;ii)配列番号91を有するvl
CDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3
;iii)配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;iv)配列番号93を有するvlCDR1、配列
番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;v)配列番号
94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有
するvlCDR3;vi)配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するv
lCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;vii)配列番号96を有するv
lCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR
3;viii)配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2
、及び配列番号83を有するvlCDR3;ix)配列番号98を有するvlCDR1、
配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;x)配列
番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83
を有するvlCDR3;xi)配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有
するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;xii)配列番号101を
有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するv
lCDR3からなる群から選択されるvlCDRのセットを含む軽鎖可変ドメインを含む
抗pSer413タウ抗体を提供する。いくつかの場合では、抗体は、配列番号69の非
リン酸化ペプチドに結合する抗体に対する、配列番号8のリン酸化ペプチドに結合する抗
体の比が少なくとも約40である。
【0025】
さらなる態様では、本発明は:a)配列番号116及び配列番号117から選択される
重鎖可変ドメイン、及びb)配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番
号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番
号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号114から選択される軽鎖可変
ドメインを含む抗pSer413タウ抗体を提供する。いくつかの場合では、抗体は、配
列番号69の非リン酸化ペプチドに結合する抗体に対する、配列番号8のリン酸化ペプチ
ドに結合する抗体の比が少なくとも約40である。
【0026】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号135、配列番号136、配列番号13
7、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号14
2及び配列番号144から選択される重鎖定常ドメインを含む。
【0027】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号79及び配列番号80から選択される軽
鎖定常ドメインを含む。
【0028】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号116及び配列番号117から選択され
る重鎖可変ドメインを含む。
【0029】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号103、配列番号104、配列番号10
5、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号11
0、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号114から選択され
る軽鎖可変ドメインを含む。
【0030】
さらなる態様では、抗体は、配列番号184のLCと配列番号144のHC;配列番号
184のLCと配列番号145のHC;配列番号184のLCと配列番号146のHC;
配列番号184のLCと配列番号147のHC;配列番号184のLCと配列番号148
のHC;配列番号184のLCと配列番号149のHC;配列番号184のLCと配列番
号150のHC;配列番号184のLCと配列番号151のHC;配列番号184のLC
と配列番号152のHC;配列番号184のLCと配列番号153のHC;配列番号18
4のLCと配列番号154のHC;配列番号184のLCと配列番号155のHC;配列
番号184のLCと配列番号156のHC;配列番号184のLCと配列番号157のH
C;配列番号184のLCと配列番号158のHC;配列番号184のLCと配列番号1
59のHC;配列番号184のLCと配列番号160のHC;配列番号184のLCと配
列番号161のHC;配列番号185のLCと配列番号144のHC;配列番号185の
LCと配列番号145のHC;配列番号185のLCと配列番号146のHC;配列番号
185のLCと配列番号147のHC;配列番号185のLCと配列番号148のHC;
配列番号185のLCと配列番号149のHC;配列番号185のLCと配列番号150
のHC;配列番号185のLCと配列番号151のHC;配列番号185のLCと配列番
号152のHC;配列番号185のLCと配列番号153のHC;配列番号185のLC
と配列番号154のHC;配列番号185のLCと配列番号155のHC;配列番号18
5のLCと配列番号156のHC;配列番号185のLCと配列番号157のHC;配列
番号185のLCと配列番号158のHC;配列番号185のLCと配列番号159のH
C;配列番号185のLCと配列番号160のHC;及び配列番号185のLCと配列番
号161のHCのペアから選択される重鎖と軽鎖を含む。
【0031】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号184を有するかまたはそれからなる軽
鎖、及び配列番号144を有するかまたはそれからなる重鎖を含む。
【0032】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号184を有するかまたはそれからなる軽
鎖、及び配列番号152を有するかまたはそれからなる重鎖を含む。
【0033】
さらなる態様では、本発明は:a)配列番号162、配列番号163、配列番号164
、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169
、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174
、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179
、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184
及び配列番号185から選択される軽鎖をコードする第1の核酸;ならびにb)配列番号
144;配列番号145;配列番号146;配列番号147;配列番号148;配列番号
149;配列番号150;配列番号151;配列番号152;配列番号153;配列番号
154;配列番号155;配列番号156;配列番号157;配列番号158;配列番号
159;配列番号160及び配列番号161から選択される重鎖をコードする第2の核酸
を含む核酸組成物を提供する。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、第1及び第2の核酸を含む発現ベクター組成物を提供し
、第1の核酸は第1の発現ベクターに含まれ、第2の核酸は第2の発現ベクターに含まれ
る。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、第1の核酸及び第2の核酸が単一の発現ベクターに含ま
れる発現ベクター組成物を提供する。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、発現ベクター組成物を含む宿主細胞、及び前記抗体が発
現する条件下で宿主細胞を培養し、前記抗体を回収することを含む抗pSer413タウ
抗体の作製方法を提供する。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、本発明の抗体を投与することを含む、対象のタウオパチ
ーの治療方法を提供する。
【0038】
VI.図面の簡単な説明
本発明は、添付の図面と併せて通読する場合に、以下の詳細な説明から最もよく理解さ
れ得る。図面には以下の図が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1A】ClustalWを用いて作成した、タウタンパク質の様々なヒトアイソフォームのアラインメントをまとめて示す。
図1B】ClustalWを用いて作成した、タウタンパク質の様々なヒトアイソフォームのアラインメントをまとめて示す。
【0040】
図2A】本開示のいくつかの実施形態による軽鎖可変領域配列のアラインメントを示し、Kabatナンバリングシステムにより、いくつかの抗pS413-タウ結合タンパク質のCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3配列を強調している。
【0041】
図2B】本開示のいくつかの実施形態による重鎖可変領域配列のアラインメントを示し、Kabatナンバリングシステムにより、いくつかの抗pS413-タウ結合タンパク質のCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3配列を強調している。
【0042】
図3】本開示のいくつかの実施形態による、非リン酸化ペプチドPD17と比較した、リン酸化ペプチドPD17Pに対する、いくつかの抗pS413-タウ抗体の選択的結合親和性を示す。
【0043】
図4】本開示のいくつかの実施形態による、アルツハイマー病患者由来の脳ホモジネート中のリン酸化タウに対する、いくつかの抗pS413-タウ抗体の結合親和性を示す。
【0044】
図5A】マウス血漿中のヒト化抗体変異体の経時的な薬物動態を示す。5つの初期ヒト化抗体変異体2、5、6、9、及び10が、マウス血漿からの迅速な排出を示したことを示す。
図5B】マウス血漿中のヒト化抗体変異体の経時的な薬物動態を示す。後に開発された3つのヒト化抗体変異体L15H11、L46H11、及びL47H65が、キメラ抗体に匹敵する薬物動態特性を示したことを示す。
【0045】
図6A】異なるヒト化抗体変異体が異なる脳内移動を有することを示す。脳ホモジネート中の様々なヒト化抗体の濃度を示す。
図6B】異なるヒト化抗体変異体が異なる脳内移動を有することを示す。脳中の代表的なヒト化抗体のレベルと血漿中の対応する抗体のレベルとの比を示す。
【0046】
図7A】代表的なヒト化抗体変異体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列と親マウス抗体とのアラインメントを示す。
図7B】代表的なヒト化抗体変異体の重鎖可変領域のアミノ酸配列と親マウス抗体とのアラインメントを示す。
【0047】
図8】A~Dは、親マウス抗体(図8A及び8B)及びキメラ抗体(図8C及び8D)がリン酸化ペプチド(図8A及び8C)に結合するが、非リン酸化ペプチド(図8B及び8D)には結合しないことを示す。
【0048】
図9】A~Cは、pS413ペプチドに対する代表的なヒト化抗体変異体の結合を示す。
【0049】
図10】A~Eは、アルツハイマー病患者由来の脳ホモジネートにおける、S413リン酸化タウタンパク質への、親マウス抗体(図10A)、キメラ抗体(図10B)、及び選択されたヒト化抗体変異体(図10C~10E)の結合特性が同等であることを示す。
【0050】
図11A】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
図11B】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
図11C】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
図11D】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
図11E】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
【0051】
図12】抗pSer413タウ抗体の可変重鎖及び可変軽鎖の組み合わせに利用可能な多くの異なるヒトIgG定常ドメインを示す。「ヒト_IgG1_」は、ヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_L234A_L235A」は、エフェクター機能を低減/消去する2つのアミノ酸置換L234A及びL235A(場合により「LALA」変異と呼ばれる)を有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_L234A_L235A_D265S」は、エフェクター機能を低減/消去する3つのアミノ酸置換L234A、L235A及びD265Sを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_YTE_」または「ヒトIgG1_YTE(M252Y_S254T_T256E)」は、血清中の抗体の半減期を延ばす3つのアミノ酸置換M252Y、S254T、T256Eを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_N297A_」は、アミノ酸置換N297Aを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)であり、この置換はグリコシル化部位を排除し、エフェクター機能を低減/消去する。「ヒトIgG1_N297Q_」は、アミノ酸置換N297Qを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)であり、この置換はグリコシル化部位を排除し、エフェクター機能を低減/消去する。「_ヒトIgG2」は、ヒト野生型IgG2の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「_ヒトIgG4」は、ヒト野生型IgG4の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG4_S228P_」は、アーム交換を防ぐためのアミノ酸置換S228Pを有するヒト野生型IgG4の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。
【0052】
図13図12の主鎖と共に、H11及びH65可変領域の全長重鎖を示す。「スラッシュ」(「/」)は、可変ドメインと定常ドメインとの接合部を示し、CDRには下線が引かれている。
【0053】
図14】12種類の異なる可変軽鎖ドメインについて、ヒトκまたはλ軽鎖定常ドメインのいずれかを含む全長軽鎖を示す。「スラッシュ」(「/」)は、可変ドメインと定常ドメインとの接合部を示し、CDRには下線が引かれている。
【0054】
図15】本発明の重鎖及び軽鎖の可能な組み合わせのマトリックスを示す。ボックス内の「A」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_」が使用されていることを示す。ボックス内の「B」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_L234A_L235A」が使用されていることを示す。ボックス内の「C」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1__L234A_L235A_D265S」が使用されていることを示す。ボックス内の「D」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_YTE_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「E」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_N297A_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「F」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_N297Q_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「G」は、重鎖定常ドメイン「_ヒト_IgG2」が使用されていることを意味する。ボックス内の「H」は、重鎖定常ドメイン「_ヒト_IgG4」が使用されていることを意味する。ボックス内の「I」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG4_S228P_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「J」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸置換を有するヒトIgG1定常ドメインが使用されていることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
VII.詳細な説明
A.概説
本開示は、セリン残基413でリン酸化されているタウタンパク質(pSer413-
タウ)に特異的に結合する抗原結合部分を含む抗体を提供する。そのタンパク質をコード
する核酸、及びそのような核酸を含む細胞もまた提供する。いくつかの実施形態では、提
供する方法及び組成物を、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病)の治療に使用する
【0056】
タウをコードするMAPT遺伝子は、ゲノム上に配置された13個のエキソンからなる
ものとして同定されており、選択的スプライシングを介して複数の異なるタンパク質アイ
ソフォームとして発現可能である(前出のArai参照)。タウタンパク質は、エキソン
2及びエキソン3の選択的スプライシングに応じて29個のアミノ酸からなる0~2個の
反復配列(N)(N0~N2)を含むN末端酸性ドメイン、プロリンに富む中間ドメイン
、ならびに微小管結合に寄与する3個(3R)または4個(4R)の反復配列(R)を含
むC末端微小管結合ドメイン(エキソン9~12によりコードされる)(Burns(前
出)及びArai(前出))を含む。したがって、ヒトタウは、ヒトタウが含む29個の
アミノ酸反復配列(N)及び微小管結合反復配列(R)の数に応じて、6つの代表的なア
イソフォームを有する:3R0N(352アミノ酸)、3R1N(381アミノ酸)、3
R2N(410アミノ酸)、4R0N(383アミノ酸)、4R1N(412アミノ酸)
、及び4R2N(441アミノ酸)。これらのアイソフォームのうち、3R0Nのみが胎
児脳に存在し、一方、成人のヒトの脳には6個全てのアイソフォームが存在し、4Rが最
も豊富である(Burns、前出)。3Rアイソフォームと4Rアイソフォームとの間の
相違は、エキソン10が選択的スプライシングを介して除去される(3R)かまたは存在
する(4R)かによって生じる。これらのタウアイソフォームのいずれにおいてもアミノ
酸残基の位置を明確に同定するために、最も長いアイソフォーム、すなわち4R2N(配
列番号1に定義される)のアミノ酸番号(1~441)を、参照として用いる。例えば、
「Ser413」は、4R2N(配列番号1に定義される)の413番目のアミノ酸位置
のセリン残基を指し、これは4R1N(配列番号2に定義される)の384番目、4R0
N(配列番号3に定義される)の355番目、3R2N(配列番号4に定義される)の3
82番目、3R1N(配列番号5に定義される)の353番目、3R0N(配列番号6に
定義される)の324番目のセリンに対応する。
【0057】
タウは、配列番号1に定義されるアミノ酸配列の413位のセリン残基(Ser413
、リン酸化されている場合は本明細書中で「pSer413」と呼ばれる)に対応する位
置にリン酸化されたアミノ酸残基を有し(したがって、Ser413でリン酸化されたタ
ウタンパク質は、「pSer413タウ」または「pSer413-タウ」である)、こ
れはADにおいて特異的にリン酸化される部位である。WO2013/180238にお
いて以前に示されたように、PSer413-タウとの特異的抗原-抗体反応に関与する
抗体を、成熟中に認知機能障害を発症するトランスジェニックマウスに投与した結果、対
照群とほぼ同じレベルまで認知機能が回復した。興味深いことに、配列番号1に定義され
るアミノ酸配列のSer396に対応する位置にリン酸化アミノ酸残基を有するタウタン
パク質に、同等の抗原に対して上記抗体に比べてより強い親和性を有するモノクローナル
抗体を同様の濃度で投与しても、認知機能の十分な改善は得られなかった。タウの構造及
び機能に関して、配列番号1に定義されるアミノ酸配列のSer413に対応する位置の
アミノ酸残基を含む領域に関する具体的な情報がなかったため、この領域に結合する抗体
がそのような強力な認知機能改善効果を有していたことは全く予想外の結果であった。
【0058】
したがって、本発明は、ヒト対象におけるタウオパチーなどの認知障害を治療するため
の治療薬または予防薬として有用な、ヒト化及び最適化された抗pSer413タウ抗体
に関する。
【0059】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、リン酸化タウに対して高い結合親和性を示
す一方で、ヒトの体に対する抗原性が有意に低下しており、ヒト対象におけるタウオパチ
ーなどの認知障害の治療薬または予防薬として有効に使用することができる。さらに、C
DR内のアミノ酸修飾は、マウスCDRに比べて、アミド分解を低減し、安定性を高める
;実施例8、9及び10参照。
【0060】
B.定義
本明細書中で使用する場合、以下の用語のそれぞれは、本節においてその用語に関連付
ける意味を有するものとする。
【0061】
冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(すなわち、少な
くとも1つ)を指すために本明細書中で使用される。例えば、「an element」
は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0062】
本明細書中で使用する「約」は、それが量、持続時間などの測定可能な値を指す場合、
指定する値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1
%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味するが、そのような変
動は開示された方法を実施するのに適切である。
【0063】
本明細書における「消去」とは、活性の減少または除去を意味する。したがって、例え
ば、「FcγR結合の消去」とは、特定の変異体を含まないFc領域に比べて、Fc領域
アミノ酸変異体が50%未満の開始結合を有し、70~80~90~95~98%未満の
活性の喪失が好ましく、一般的には、活性がBiacoreアッセイにおける検出可能な
結合のレベル未満であることを意味する。
【0064】
本明細書中で使用する「ADCC」または「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」とは、F
cγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的
細胞の溶解を引き起こす細胞介在性の反応を意味する。ADCCは、FcγRIIIaへ
の結合と相関しており;FcγRIIIaへの結合の増加はADCC活性の増加をもたら
す。本明細書中で論じるように、本発明の多くの実施形態はADCC活性を完全に消去す
る。
【0065】
本明細書中で用いられる「ADCP」または抗体依存性細胞介在性食作用とは、Fcγ
Rを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞
の食作用を引き起こす細胞介在性の反応を意味する。
【0066】
本明細書における「抗原結合ドメイン」または「ABD」とは、ポリペプチド配列の一
部として存在する場合、本明細書中で論じるように標的抗原に特異的に結合する6つの相
補性決定領域(CDR)のセットを意味する。したがって、「抗原結合ドメイン」は、本
明細書中に概説するように標的抗原に結合する。当技術分野で公知のように、これらのC
DRは、通常、可変重鎖CDR(vhCDRまたはVCDRまたはCDR-HC)の第
1のセット及び可変軽鎖CDR(vlCDRまたはVCDRまたはCDR-LC)の第
2のセットとして存在し、それぞれのセットは、3つのCDR:重鎖についてはvhCD
R1、vhCDR2、vhCDR3、軽鎖についてはvlCDR1、vlCDR2及びv
lCDR3を含む。CDRは、それぞれ可変重鎖及び可変軽鎖ドメインに存在し、一緒に
なってFv領域を形成する。したがって、いくつかの場合では、抗原結合ドメインの6つ
のCDRに可変重鎖と可変軽鎖が寄与する。「Fab」形態では、6つのCDRのセット
に、2つの異なるポリペプチド配列、可変重鎖ドメイン(vhまたはV;vhCDR1
、vhCDR2及びvhCDR3を含む)及び可変軽鎖ドメイン(vlまたはV;vl
CDR1、vlCDR2及びvlCDR3を含む)が寄与し、vhドメインのC末端は重
鎖のCH1ドメインのN末端に結合し、vlドメインのC末端は定常軽鎖ドメインのN末
端に結合する(したがって軽鎖を形成する)。scFv形態では、vh及びvlドメイン
は、通常、本明細書中に概説するようなリンカーの使用を介して、単一のポリペプチド配
列に共有結合し、それは(N末端から開始して)vh-リンカー-vlまたはvl-リン
カー-vhのいずれかであり得るが、一般的には前者が好ましい(使用する形態に応じて
、各々の側にオプションのドメインリンカーを含む。当技術分野において理解されるよう
に、CDRは可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインのそれぞれにおいて、フレームワー
ク領域によって分離されており:軽鎖可変ドメインに関しては、これらはFR1-vlC
DR1-FR2-vlCDR2-FR3-vlCDR3-FR4であり、重鎖可変ドメイ
ンに関しては、これらはFR1-vhCDR1-FR2-vhCDR2-FR3-vhC
DR3-FR4であり、これらのフレームワーク領域は、ヒト生殖系列の配列に高い同一
性を示す。本発明の抗原結合ドメインには、Fab、Fv及びscFvが含まれる。
【0067】
本明細書における「修飾」とは、ポリペプチド配列中のアミノ酸の置換、挿入、及び/
または欠失、あるいはタンパク質に化学的に結合している部分への改変を意味する。例え
ば、修飾は、タンパク質に結合した改変炭水化物またはPEG構造であってもよい。本明
細書における「アミノ酸修飾」とは、ポリペプチド配列中のアミノ酸の置換、挿入、及び
/または欠失を意味する。明確にするために、特に明記しない限り、アミノ酸修飾は常に
、DNAによってコードされるアミノ酸、例えば、DNAとRNAにコドンを有する20
個のアミノ酸に対するものとする。
【0068】
本明細書における「アミノ酸置換」または「置換」とは、親ポリペプチド配列中の特定
の位置にあるアミノ酸を異なるアミノ酸で置き換えることを意味する。特に、いくつかの
実施形態では、置換は、特定の位置に天然には存在せず、その生物内または任意の生物内
に天然には存在しないアミノ酸に対するものである。例えば、置換M252Yは、変異体
ポリペプチド、この場合はFc変異体を指し、252位のメチオニンがチロシンで置換さ
れている。明確にするために、核酸コード配列を変更するが最初のアミノ酸から変えない
ように操作されたタンパク質(例えば、CGG(アルギニンをコードする)をCGA(依
然としてアルギニンをコードする)に変換して宿主生物での発現レベルを高める)は「ア
ミノ酸置換」ではない;すなわち、同じタンパク質をコードする新規遺伝子を作成するに
もかかわらず、そのタンパク質が特定の位置に最初と同じアミノ酸を有する場合、それは
アミノ酸置換ではない。
【0069】
本明細書中で使用する「変異型タンパク質」または「タンパク質変異体」、または「変
異体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾により、親タンパク質のタンパク質とは異な
るタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質自体、タンパク質を含む組成
物、またはそれをコードするアミノ配列を指す場合がある。好ましくは、タンパク質変異
体は、親タンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば、親と比較して、
約1~約70個のアミノ酸修飾、好ましくは約1~約5個のアミノ酸修飾を有する。以下
に記載するように、いくつかの実施形態では、親ポリペプチド、例えばFc親ポリペプチ
ドは、ヒト野生型配列、例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のF
c領域などである。本明細書中のタンパク質変異体配列は、好ましくは、親タンパク質配
列に対して少なくとも約80%の同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の同一性、
より好ましくは少なくとも約95%~98%~99%の同一性を有する。変異体タンパク
質は、変異体タンパク質自体、タンパク質変異体を含む組成物、またはそれをコードする
DNA配列を指し得る。
【0070】
したがって、本明細書中で使用する「抗体変異体」または「変異型抗体」とは、少なく
とも1つのアミノ酸修飾により親抗体と異なる抗体を意味し、本明細書中で使用する「I
gG変異体」または「変異型IgG」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾により親Ig
Gと異なる抗体を意味し(ここでも、多くの場合、ヒトIgG配列由来である)、本明細
書中で使用する「免疫グロブリン変異体」または「変異型免疫グロブリン」とは、少なく
とも1つのアミノ酸修飾により親免疫グロブリン配列の配列と異なる免疫グロブリン配列
を意味する。本明細書中で使用する「Fc変異体」または「変異型Fc」とは、Fcドメ
イン中にアミノ酸修飾を含むタンパク質を意味する。本発明のFc変異体は、それらを構
成するアミノ酸修飾に従って定義される。したがって、例えばM252Yまたは252Y
は、親Fcポリペプチドと比較して252位に置換チロシンを有するFc変異体であり、
その場合のナンバリングはEUインデックスに従う。同様に、M252Y/S254T/
T256Eは、親Fcポリペプチドと比較して置換M252Y、S254T及びT256
Eを有するFc変異体を定義する。WTアミノ酸の同一性は特定されていなくてもよく、
その場合、前述の変異体は252Y/254T/256Eと呼ばれる。置換を示す順序は
任意であることに留意されたく、すなわち、例えば、252Y/254T/256Eは、
254T/252Y/256Eと同じFc変異体であり、以下同様である。抗体に関して
本発明で考察する全ての位置について、特に明記しない限り、アミノ酸位置のナンバリン
グは、可変ドメインのナンバリングについてはKabatに従い、Fcドメインを含む定
常ドメインについてはEUインデックスに従うものとする。EUインデックスまたはKa
batに記載のEUインデックスまたはEUナンバリングスキームとは、EU抗体のナン
バリングを指す(Edelman et al.,1969,Proc Natl Ac
ad Sci USA 63:78-85、全体を参照により本明細書に援用する)。修
飾は、付加、欠失、または置換である。置換は、天然アミノ酸、及びいくつかの場合では
、合成アミノ酸を含み得る。
【0071】
本明細書中で使用する場合、本明細書中の「タンパク質」とは、タンパク質、ポリペプ
チド、オリゴペプチド及びペプチドを含む、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意
味する。ペプチジル基は、天然アミノ酸及びペプチド結合を含み得る。
【0072】
本明細書中で使用する「Fab」または「Fab領域」とは、VH、CH1、VL、及
びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単独でのこの
領域を、または全長抗体、抗体断片もしくはFab融合タンパク質に関してのこの領域を
指す場合がある。
【0073】
本明細書中で使用する「Fv」または「Fvフラグメント」または「Fv領域」とは、
単一の抗原結合ドメイン(ABD)のVLドメイン及びVHドメインを含むポリペプチド
を意味する。当業者には理解されるように、これらは通常、2本の鎖で構成されているか
、または(一般的に本明細書中で論じるようなリンカーを用いて)組み合わせてscFv
を形成することができる。
【0074】
本明細書中で使用する「アミノ酸」及び「アミノ酸同一性」とは、DNA及びRNAに
よってコードされる20種の天然アミノ酸のうちの1つを意味する。
【0075】
本明細書中で使用する「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域とFc受容体または
リガンドとの相互作用から生じる生化学的事象を意味する。エフェクター機能には、AD
CC、ADCP、及びCDCが含まれるがこれらに限定されない。
【0076】
本明細書で使用する「Fcガンマ受容体」、「FcγR」または「FcガンマR」は、
IgG抗体のFc領域に結合し、FcγR遺伝子によってコードされるタンパク質ファミ
リーの任意のメンバーを意味する。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォーム
FcγRIa、FcγRIb、及びFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソ
フォームFcγRIIa(アロタイプH131及びR131を含む)、FcγRIIb(
FcγRIIb-1及びFcγRIIb-2を含む)、及びFcγRIIcを含むFcγ
RII(CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及
びF158を含む)及びFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIb-NA1及びFc
γRIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferis e
t al.,2002,Immunol Lett 82:57-65、全体を参照によ
り援用する)、ならびに、任意の未発見のヒトFcγRまたはFcγRアイソフォームま
たはアロタイプが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの場合では、本明細書中
に概説するように、1つ以上のFcγR受容体への結合を低減または消去する。例えば、
FcγRIIIaへの結合を低下させるとADCCが低下し、いくつかの場合では、Fc
γRIIIa及びFcγRIIbへの結合を低下させることが望ましい。
【0077】
本明細書中で使用する「FcRn」または「新生児Fc受容体」とは、IgG抗体のF
c領域に結合し、少なくとも部分的にFcRn遺伝子によってコードされるタンパク質を
意味する。FcRnは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルを含むがこれらに限定
されない任意の生物由来であり得る。当技術分野において公知のように、機能的FcRn
タンパク質は、多くの場合に重鎖及び軽鎖と呼ばれる2つのポリペプチドを含む。軽鎖は
β-2-ミクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によってコードされる。本明細
書において特段の記載がない限り、FcRnまたはFcRnタンパク質とは、FcRn重
鎖とβ-2-ミクログロブリンとの複合体を指す。
【0078】
本明細書中で使用する「親ポリペプチド」とは、その後に修飾を加えて変異体を生成す
る出発ポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、天然ポリペプチド、または天然ポリ
ペプチドの変異体もしくは改変型であってもよい。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体
、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指す場合がある
。したがって、本明細書中で使用する「親免疫グロブリン」とは、変異体を生成するよう
に修飾される未修飾免疫グロブリンポリペプチドを意味し、本明細書中で使用する「親抗
体」とは、変異抗体を生成するように修飾される未修飾抗体を意味する。「親抗体」には
、以下に概説するように、公知の市販の組換え産生抗体が含まれることに留意されたい。
【0079】
本明細書における「重鎖定常領域」とは、通常、ヒトIgG1、IgG2またはIgG
4由来の、抗体のCH1-ヒンジ-CH2-CH3部分を意味する。
【0080】
本明細書中で使用する「標的抗原」とは、所与の抗体の可変領域によって特異的に結合
される分子を意味する。この場合、標的抗原は、Ser413位でリン酸化されているタ
ウタンパク質(「pSer413-タウ」)である。
【0081】
本明細書中で使用する「標的細胞」とは、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0082】
本明細書中で使用する「可変領域」とは、それぞれ、κ、λ、及び重鎖免疫グロブリン
遺伝子座を構成する、Vκ、Vλ、及び/またはVH遺伝子のいずれかによって実質的に
コードされる1つ以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。
【0083】
本明細書における「野生型またはWT」とは、対立遺伝子変異を含む、天然に見出され
るアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質は、意図的に修飾さ
れていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0084】
本明細書中で使用する用語「タウタンパク質」とは、配列番号1~6に定義されるアミ
ノ酸配列、すなわち、4R2N(配列番号1に定義される)、4R1N(配列番号2に定
義される)、4R0N(配列番号3に定義される)、3R2N(配列番号4に定義される
)、3R1N(配列番号5に定義される)、及び3R0N(配列番号6に定義される)を
有する、ヒトタウタンパク質の6つのアイソフォームのいずれか1つ、ならびにその遺伝
子変異体を意味する。上記の「発明の背景」の節で説明したように、認知障害に関連する
家族性神経変性疾患であるFTDP-17には40を超える突然変異が関与しているとさ
れてきた。しかしながら、タウタンパク質における突然変異の部位を、FTDP-17と
関係がある部位に限定すべきではない。配列番号1~6のアミノ酸配列に導入するアミノ
酸変異の数は限定すべきでないが、1~50、特に1~30、さらに特に1~10であっ
てもよい。しかしながら、配列番号1の413位のセリン残基(Ser413)に定義さ
れるアミノ酸配列に対応するアミノ酸残基は、好ましくは保存されるべきである。本発明
によるタウタンパク質はまた、BLAST法(PBLASTのデフォルト条件はNCBI
によって提供される)に従って、配列番号1で定義されるヒトタウタンパク質のアミノ酸
配列に対して80%以上の類似性または同一性を有するタンパク質、及びそれらのアイソ
フォームを包含する。そのようなタウタンパク質は、チンパンジー、マカク、ウマ、ブタ
、イヌ、マウス、ウサギ、及びラットなどの非ヒト種に由来するタウを含む。標的動物の
認知機能を改善する目的で、そのような非ヒト動物由来のタウを標的とする治療薬または
予防薬を製造することが可能である。
【0085】
本明細書中で使用する用語「タウペプチド」とは、タウタンパク質のアミノ酸配列の一
部を含むペプチドを意味する。タウタンパク質に由来するタウペプチドのアミノ酸配列の
位置及び長さは限定すべきでないが、好ましくは、少なくともSer413に対応するア
ミノ酸を含む、配列番号1のアミノ酸番号410~421に対応するアミノ酸残基に由来
する、例えば一連の少なくとも3つの連続アミノ酸、特に少なくとも5つの連続アミノ酸
、より特別には少なくとも8つの連続アミノ酸を有するべきである。タウペプチドの長さ
もまた限定すべきでないが、好ましくは4以上、特に6以上、より特別には8以上のアミ
ノ酸長を有するべきである。
【0086】
本明細書中で使用する用語「タウ」は、総じて、タウタンパク質またはタウペプチドを
意味する。
【0087】
用語「抗pSer413タウタンパク質」とは、本明細書中に記載するように、413
位でセリンがリン酸化されていないタウタンパク質の結合と比較して、413位でセリン
がリン酸化されているタウタンパク質に優先的に結合する抗体を意味する。Ser413
でリン酸化されたタウタンパク質は、ヒト及び/またはマウスのものであり得る。
【0088】
本明細書中で使用する「位置」とは、タンパク質の配列中の位置を意味する。位置は、
連続的に、または確立されたフォーマット、例えば抗体ナンバリングのためのEUインデ
ックスに従ってナンバリングしてもよい。
【0089】
本明細書中で使用する「残基」とは、タンパク質中の位置及びそれに関連するアミノ酸
同一性を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297またはN297とも呼ば
れる)は、ヒト抗体IgG1の297位の残基である。
【0090】
本発明に関して、タウタンパク質またはタウペプチド中のアミノ酸残基の位置は、明確
にするために、配列番号1に定義されるアミノ酸配列に基づいて識別されるアミノ酸番号
によって示される。例えば、配列番号1のSer413に対応するアミノ酸残基は、配列
番号1(4R2N)の413位、配列番号2(4R1N)の384位、配列番号3(4R
0N)の355位、配列番号4(3R2N)の382位、配列番号5(3R1N)の35
3位、または配列番号6(3R0N)の324位のセリン残基を意味する。タウアイソフ
ォーム間のアミノ酸残基の位置の対応を、以下の表1に示す。
表1.ヒトタウタンパク質のアイソフォーム
【表1】
【0091】
表1が、配列番号1で定義されるアミノ酸配列の410~421位に対応する、これら
のアイソフォームのアミノ酸残基の位置を示す一方で、例えば、図1A及び図1Bに基づ
いて、他の領域におけるアミノ酸残基の位置の対応も容易に認識することができる。当業
者であれば、Needleman-Wunsch法またはSmith-Waterman
法などのペアワイズ配列アラインメント、またはClustalW法またはPRRP法な
どの多重配列アラインメントを使用して、アイソフォームまたは相同体におけるアミノ酸
の対応する位置を決定することができよう。対応位置の解析の一例として、図1A及び1
Bは、ClustalWに基づく6つのヒトアイソフォームのアミノ酸配列のアラインメ
ント(1文字コードで示す)を示す。これらの図は、配列番号1に定義されるアミノ酸配
列のSer413に対応するアミノ酸残基を囲む構造が6つのアイソフォーム間で保存さ
れていることを示している。
【0092】
本発明の抗体は一般的に単離されているかまたは組換え体である。「単離された」とは
、本明細書中に開示する様々なポリペプチドを記載するために使用する場合、それを発現
していた細胞または細胞培養物から同定及び分離及び/または回収したポリペプチドを意
味する。通常、単離されたポリペプチドは、少なくとも1つの精製工程によって調製され
るであろう。「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含
まない抗体を指す。「組換え」とは、外来性宿主細胞において組換え核酸技術を用いて抗
体を生成することを意味する。
【0093】
タンパク質配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列をアライ
ンメントし、さらに最大の配列同一性パーセントを達成するために必要であればギャップ
を導入した後の、そしていかなる保存的置換も配列同一性の一部とみなさない場合の、特
定の(親)配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の百分率として
定義される。アミノ酸配列同一性パーセントの決定を目的としたアラインメントは、例え
ばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)
ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピューターソフトウェアを使用して、当技術分
野の範囲内にある様々な方法で達成することができる。当業者であれば、比較しようとす
る配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアル
ゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することがで
きる。1つの特定のプログラムは、参照により本明細書に援用される米国公開第2016
0244525号の段落[0279]~[0280]に概説されているALIGN-2プ
ログラムである。核酸配列についての別の近似的アラインメントは、Smith and
Waterman,Advances in Applied Mathematic
s,2:482-489(1981)の局所相同性アルゴリズムによって提供される。こ
のアルゴリズムは、Dayhoff,Atlas of Protein Sequen
ces and Structure,M.O.Dayhoff ed.,5 supp
l.3:353-358,National Biomedical Research
Foundation,Washington,D.C.,USAによって開発され、
Gribskov,Nucl.Acids Res.14(6):6745-6763(
1986)によって正規化されたスコアリングマトリックスを使用することによって、ア
ミノ酸配列に適用することができる。
【0094】
配列同一性パーセントを決定するためのこのアルゴリズムの実施の例は、「BestF
it」実用新案出願のGenetics Computer Group(Madiso
n,WI)によって提供されている。この方法のデフォルトパラメータは、Wiscon
sin Sequence Analysis Package Program Ma
nual,Version 8(1995)(Genetics Computer G
roup,Madison,WIから入手可能)に記載されている。本発明に関して同一
性パーセントを確立する別の方法は、John F.Collins及びShane S
.Sturrokによって開発され、IntelliGenetics,Inc.(Mo
untain View,CA)によって配布されている、エジンバラ大学によって著作
権で保護されているMPSRCHプログラムパッケージを使用することである。この一連
のパッケージのうち、スコアリングテーブルにデフォルトパラメータを使用する場合では
Smith-Watermanアルゴリズムを使用することができる(例えば、ギャップ
オープンペナルティ12、ギャップ拡張ペナルティ1、及びギャップ6)。生成されたデ
ータの「一致」値は「配列同一性」を反映するものである。配列間の同一性パーセントま
たは類似性を計算するための他の適切なプログラムは、当技術分野で一般的に公知であり
、例えば、別のアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを用いるBLAST
である。例えば、BLASTN及びBLASTPは、以下のデフォルトパラメータを用い
て使用することができる:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;ストランド=両鎖;
カットオフ=60;期待値=10;マトリックス=BLOSUM62;記述=50配列;
ソート順=HIGH SCORE;データベース=非冗長、GenBank+EMBL+
DDBJ+PDB+GenBank CDS translation+Swiss p
rotein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、blast.
ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiの前にhttp://を配置す
ることによって位置するインターネットアドレスにおいて見出すことができる。
【0095】
本発明のアミノ酸配列(「本発明の配列」)と親アミノ酸配列との間の同一性の程度は
、2つの配列のアラインメントにおける正確な一致の数を、「本発明の配列」の長さか、
または親配列の長さのうちのどちらか短い方の長さで割った数として計算される。結果は
同一性パーセントで表される。
【0096】
いくつかの実施形態では、2つ以上のアミノ酸配列は、少なくとも50%、60%、7
0%、80%または90%同一である。いくつかの実施形態では、2つ以上のアミノ酸配
列は、少なくとも95%、97%、98%、99%、さらには100%同一である。
【0097】
「特異的結合」または特定の抗原もしくはエピトープに「特異的に結合する」もしくは
「特異的な」とは、非特異的相互作用とは測定可能な程度に異なる結合を意味する。特異
的結合は、例えば、分子の結合を、一般的に類似の構造の分子であるが結合活性を有さな
い対照分子の結合と比較して決定することによって測定することができる。例えば、特異
的結合は、標的に類似している対照分子との競合によって決定することができる。
【0098】
本明細書中で使用する用語「Kassoc」または「K」は、特定の抗体-抗原相互
作用の会合速度を指すことを意図し、一方、本明細書中で使用する用語「Kdis」また
は「K」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図する。本明細書中
で使用する用語「K」は、K対Kの比(すなわち、K/K)から得られ、モル
濃度(M)として表される解離定数を指すことを意図する。抗体のK値は、当技術分野
において十分に確立されている方法を用いて決定することができる。いくつかの実施形態
では、抗体のKを決定する方法は、表面プラズモン共鳴の使用による、例えばBIAC
ORE(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムの使用によるものである。特
定の実施形態では、リン酸化タウタンパク質を用いてK値を測定する。いくつかの実施
形態では、リン酸化ペプチドを用いてK値を測定する。いくつかの実施形態では、固定
化した抗原(例えば、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化ペプチド)を用いてK
を測定する。他の実施形態では、固定化した抗体(例えば、親マウス抗体、キメラ抗体、
またはヒト化抗体変異体)を用いてK値を測定する。さらに他の実施形態では、分析物
としてリン酸化タウタンパク質を用いてK値を測定する。さらに他の実施形態では、分
析物としてリン酸化ペプチドを用いてKD値を測定する。特定の実施形態では、二価結合
様式でKD値を測定する。他の実施形態では、一価結合様式でKD値を測定する。
【0099】
「疾患」は、ヒトを含む動物の健康状態を含み、その場合、動物は恒常性を維持するこ
とができず、疾患が改善されない場合、動物の健康は悪化し続ける。
【0100】
対照的に、ヒトを含む動物における「障害」は、その動物が恒常性を維持することがで
きるが、その動物の健康状態は、障害を有さない場合のその動物の健康状態に比べて好ま
しくない健康状態を含む。未治療のままにしておいた場合に、障害は必ずしも動物の健康
状態をさらに低下させるわけではない。
【0101】
用語「治療」、「治療すること」、「治療する」などは、所望の薬理学的及び/または
生理学的効果を得ることを指す。その効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部
分的に予防するか、または疾患もしくはその症状の可能性を低減するという点で予防的で
あってもよく、及び/または疾患及び/または疾患に起因する有害作用を部分的にもしく
は完全に治療するという点で治療的であってもよい。本明細書中で使用する場合、「治療
」は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の任意の治療を含み:(a)疾患にかかりやすいが
まだ疾患を有すると診断されていない対象における疾患の発生を予防し;(b)疾患を抑
制、すなわちその発症または進行を阻止し;(c)疾患を軽減、すなわち、疾患の後退を
引き起こし、及び/または1つ以上の疾患の症状を軽減することを含む。「治療」はまた
、疾患または病態の非存在下で薬理学的効果をもたらすために薬剤を送達することを包含
することを意味する。例えば、「治療」は、例えばワクチンの場合のように、疾患状態の
非存在下で免疫応答を誘発するかまたは免疫を付与することができる組成物を送達するこ
とを包含する。
【0102】
本明細書中で使用する場合、用語「哺乳類」とは、マウス及びハムスターなどのRod
entia目の哺乳類、及びウサギなどのLogomorpha目の哺乳類を含むがこれ
らに限定されない、任意の哺乳類を指す。いくつかの実施形態では、哺乳類は、ネコ科(
ネコ)及びイヌ科(イヌ)を含むCarnivora目に由来する。いくつかの実施形態
では、哺乳類は、ウシ属(ウシ)及びブタ類(ブタ)を含むArtiodactyla目
に由来するか、またはウマ科(ウマ)を含むPerssodactyla目の哺乳類であ
る。哺乳類が、霊長目、広鼻下目、もしくはシモイド目(サル)、または類人猿目(ヒト
及び類人猿)の哺乳類であることが最も好ましい。いくつかの実施形態では、哺乳類はヒ
トである。
【0103】
本明細書中で使用する場合、用語「退行」、及びそれに由来する用語は、必ずしも10
0%または完全な退行を意味するわけではない。むしろ、当業者が潜在的な利益または治
療効果を有すると認識する様々な程度の退行がある。これに関して、開示する方法は、哺
乳類におけるタウオパチーの任意の量の任意のレベルの退行を提供することができる。さ
らに、本発明の方法によって提供する退行は、疾患、例えばタウオパチーの1つ以上の病
態または症状の退行を含み得る。また、本明細書の目的のために、「退行」は、疾患の発
症を遅らせ、症状の発症を遅らせ、及び/またはその病態の発症を遅らせることを包含し
得る。進行性の疾患及び障害に関して、「退行」は、疾患もしくは障害の進行を遅らせ、
疾患もしくは障害の症状の進行を遅らせ、及び/またはその病態の進行を遅らせることを
包含し得る。
【0104】
組成物の「有効量」または「治療有効量」は、組成物を投与する対象に有益な効果を提
供するのに十分な組成物の量を含む。送達ビヒクルの「有効量」は、組成物を効果的に結
合または送達するのに十分な量を含む。
【0105】
「個体」または「宿主」または「対象」または「患者」とは、診断、治療、または療法
が望まれる任意の哺乳類対象、特にヒトを意味する。他の対象として、ウシ、イヌ、ネコ
、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどが挙げられ得る。
【0106】
本明細書中で使用する用語「~と併用して」とは、例えば、第2の療法の投与の全過程
の間に第1の療法を投与する場合の使用を指し;その場合、第1の療法を第2の療法の投
与と重複する期間にわたって投与し、例えば、第2の療法の投与の前に第1の療法の投与
が始まり、第2の療法の投与が終わる前に第1の療法の投与が終わり;第1の療法の投与
の前に第2の療法の投与が始まり、第1の療法の投与が終わる前に第2の療法の投与が終
わり;第2の療法の投与が始まる前に第1の療法の投与が始まり、第1の療法の投与が終
わる前に第2の療法の投与が終わり;第1の療法の投与が始まる前に第2の療法の投与が
始まり、第2の療法の投与が終わる前に第1の療法の投与が終わる。そのように、「併用
して」はまた、2つ以上の療法の投与を含むレジメンを指し得る。本明細書中で使用する
「~と併用して」とは、同じまたは異なる製剤で、同じまたは異なる経路で、ならびに同
じまたは異なる剤形タイプで投与してもよい2つ以上の療法の投与も指す。
【0107】
「コードする」は、定義されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA及び
mRNA)または定義されたアミノ酸配列のいずれか、及びそれから生じる生物学的特性
を有し、生物学的プロセスにおいて他のポリマー及び高分子を合成するための鋳型として
機能する、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチド
の特定の配列の固有の性質を含む。したがって、例えば、遺伝子に対応するmRNAの転
写及び翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はタ
ンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、
多くの場合、配列表に提供されているコード鎖)、及び非コード鎖(遺伝子またはcDN
Aを転写するための鋳型として使用される非コード鎖)のいずれも、その遺伝子またはc
DNAのタンパク質または他の産物をコードすると呼ぶことができる。
【0108】
用語「核酸」は、一本鎖、二本鎖、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む
任意の形態の複数のヌクレオチドを有するRNAまたはDNA分子を含む。用語「ヌクレ
オチド配列」は、一本鎖形態の核酸中のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドにお
けるヌクレオチドの順序を含む。
【0109】
「核酸構築物」とは、天然においては一緒に見出されることのない1つ以上の機能単位
を含むように構築された核酸配列を意味する。例として、環状、直鎖状、二本鎖、染色体
外DNA分子(プラスミド)、コスミド(ラムダファージ由来のCOS配列を含むプラス
ミド)、非天然核酸配列を含むウイルスゲノムなどが挙げられる。
【0110】
本明細書中で使用する用語「作動可能に連結された」とは、第2のポリヌクレオチドと
機能的な関係にあるポリヌクレオチド、例えば、2つのポリヌクレオチドのうちの少なく
とも一方が、それによって特徴付けられる生理学的効果を他方に対して発揮することがで
きるような様式で核酸部分内に配置された2つのポリヌクレオチドを含む一本鎖または二
本鎖核酸部分を含む。例として、遺伝子のコード領域に作動可能に連結されたプロモータ
ーは、コード領域の転写を促進することができる。作動可能な連結を示すときに特定され
る順序は重要ではない。例えば、語句:「プロモーターはヌクレオチド配列に作動可能に
連結される」及び「ヌクレオチド配列はプロモーターに作動可能に連結される」は、本明
細書中では同じ意味で使用され、同等とみなされる。いくつかの場合では、所望のタンパ
ク質をコードする核酸がプロモーター/調節配列をさらに含む場合、そのプロモーター/
調節配列は、細胞内で所望のタンパク質の発現を駆動するように所望のタンパク質コード
配列の5’末端に位置する。
【0111】
本明細書中で同じ意味で使用する用語「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」
、及び「核酸分子」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかの
、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、この用語には、一本鎖
、二本鎖、もしくは多重鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-
RNAハイブリッド、またはプリン及びピリミジン塩基を含むポリマー、あるいは他の天
然の、化学的または生化学的に修飾された、非天然の、または誘導体化されたヌクレオチ
ド塩基が含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、糖及びリン酸
基(一般的にRNAまたはDNAに見出され得るような)、または修飾もしくは置換され
た糖もしくはリン酸基を含み得る。
【0112】
ポリヌクレオチドに適用される用語「組換え」とは、そのポリヌクレオチドが、天然に
見出されるポリヌクレオチドとは区別される及び/または異なる構築物をもたらすような
、クローニング、制限またはライゲーション工程、及び他の手順の様々な組み合わせの産
物であることを意味する。この用語には、元のポリヌクレオチド構築物の複製物及び元の
ウイルス構築物の子孫がそれぞれ含まれる。
【0113】
本明細書中で使用する用語「プロモーター」は、転写される核酸配列、例えば所望の分
子をコードする核酸配列に作動可能に連結されたDNA配列を含む。プロモーターは一般
的に、転写される核酸配列の上流に位置し、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子による
特異的結合のための部位を提供する。
【0114】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に導入することができる。一般的には、「ベク
ター構築物」、「発現ベクター」、及び「遺伝子導入ベクター」とは、目的の遺伝子の発
現を指示することができ、遺伝子配列を標的細胞に導入することができる任意の核酸構築
物を意味し、導入は、ベクターの全部もしくは一部をゲノムへ組み込むか、または染色体
外エレメントとしてベクターを一過性にもしくは遺伝性に維持することによって達成する
ことができる。したがって、この用語には、クローニング、及び発現ビヒクル、ならびに
組込みベクターが含まれる。
【0115】
本明細書中で使用する用語「調節エレメント」は、核酸配列の発現のいくつかの態様を
制御するヌクレオチド配列を含む。調節エレメントの例として、例えば、核酸配列の複製
、転写、及び/または転写後プロセシングに寄与する、エンハンサー、配列内リボソーム
進入部位(IRES)、イントロン、複製起点、ポリアデニル化シグナル(pA)、プロ
モーター、エンハンサー、転写終結配列、及び上流調節ドメインが挙げられる。場合によ
っては、調節エレメントはまた、シス調節DNAエレメントならびに転位因子(TE)を
含み得る。当業者であれば、日常的な実験だけで、発現構築物中のこれら及び他の調節エ
レメントを選択し、使用することができる。発現構築物は、遺伝子組換えアプローチを用
いて、または周知の方法論を使用して合成的に生成することができる。
【0116】
「制御エレメント」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、複製、転写、ス
プライシング、翻訳、または分解を含む、ポリヌクレオチドの機能的調節に寄与する分子
の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。調節は、プロセスの頻度、速度、または
特異性に影響を及ぼす場合があり、本質的に促進性または抑制性であり得る。当技術分野
において公知の制御エレメントとして、例えば、プロモーター及びエンハンサーなどの転
写調節配列が挙げられる。プロモーターは、特定の条件下でRNAポリメラーゼと結合し
、多くの場合プロモーターの下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始するこ
とができるDNA領域である。
【0117】
本明細書中で使用する記述、アミノ酸残基が「リン酸化される」とは、リン酸基がアミ
ノ酸残基の側鎖にエステル結合することを意味する。リン酸化され得る一般的なアミノ酸
残基として、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、及びチロシン(Tyr)が挙げ
られる。
【0118】
VIII.抗体
本発明は、413位でリン酸化されたヒトタウタンパク質に結合する抗体及び抗原結合
断片に関する。
【0119】
伝統的な抗体構造単位は、一般的に四量体を含む。各四量体は、通常、2つの同一のペ
アのポリペプチド鎖からなり、各ペアは1つの「軽」鎖(通常、約25kDaの分子量を
有する)及び1つの「重」鎖(通常、約50~70kDaの分子量を有する)を有する。
ヒト軽鎖は、κ及びλ軽鎖として分類される。本発明は、通常IgGクラスに基づく抗体
に関し、これは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むがこれらに限定さ
れない、いくつかのサブクラスを有する。一般的に、IgG1、IgG2、及びIgG4
は、IgG3よりも高頻度で使用される。IgG1は、356(DまたはE)及び358
(LまたはM)に多型を有する異なるアロタイプを有することに留意すべきである。本明
細書中に示す配列は356D/358Lアロタイプを使用するが、他のアロタイプも本明
細書中に含まれる。すなわち、本明細書に含まれるIgG1 Fcドメインを含む任意の
配列は、356D/358Lアロタイプの代わりに356E/358Mを有することがで
きる。
【0120】
当業者には理解されるように、CDRの正確なナンバリング及び配置は、異なるナンバ
リングシステム間で異なり得る。しかしながら、可変重鎖及び/または可変軽鎖配列の開
示は、関連する(固有の)CDRの開示を含むことを理解すべきである。したがって、各
可変重鎖領域の開示はvhCDR(例えばvhCDR1、vhCDR2及びvhCDR3
)の開示であり、各可変軽鎖領域の開示はvlCDR(例えばvlCDR1、vlCDR
2及びvlCDR3)の開示である。
【0121】
抗体のCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及
びCDR-L3のそれぞれの配列の同定方法として:Kabatの方法(Kabat e
t al.,The Journal of Immunology,1991,Vol
.147,No.5,pp.1709-1719)及びChothiaの方法(Al-L
azikani et al.,Journal of Molecular Biol
ogy,1997,Vol.273,No.4,pp.927-948)が挙げられる。
これらの方法は、当業者にとって技術的な常識の範囲内であり、その概要は、例えば、A
ndrew C.R.Martin博士のグループのウェブサイト(http://ww
w.bioinf.org.uk/abs/)で入手可能である。
【0122】
CDRナンバリングの有用な比較は以下の通りである(Lafranc et al.
,Dev.Comp.Immunol.27(1):55-77(2003)参照):
表1
【表2】
【0123】
本明細書を通して、可変ドメイン中の残基(おおよそ、軽鎖可変領域の残基1~107
及び重鎖可変領域の残基1~113)を指す場合にはKabatナンバリングシステムを
、Fc領域などの定常領域に対してはEUナンバリングシステムを、通常用いる(例えば
、Kabat et al.、前出(1991))。
【0124】
本発明は多くの異なるCDRセットを提供する。この場合、「完全CDRセット」は、
3つの可変軽鎖CDRと3つの可変重鎖CDR、例えば、vlCDR1、vlCDR2、
vlCDR3、vhCDR1、vhCDR2及びvhCDR3を含む。これらは、それぞ
れ、より大きい可変軽鎖または可変重鎖ドメインの一部であり得る。さらに、本明細書に
おいてより十分に概説するように、可変重鎖及び可変軽鎖ドメインは、重鎖及び軽鎖を使
用する場合(例えば、Fabを使用する場合)、別々のポリペプチド鎖上に、またはsc
Fv配列の場合、単一のポリペプチド鎖上にあり得る。
【0125】
CDRは、抗原結合、またはより具体的には抗体のエピトープ結合部位の形成に寄与す
る。「エピトープ」とは、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域中の特異的抗原
結合部位と相互作用する決定基を指す。エピトープは、アミノ酸または糖側鎖などの分子
のグループであり、通常、特定の構造的特徴及び特定の電荷特性を有する。単一の抗原が
複数のエピトープを有していてもよい。
【0126】
この場合、エピトープは、本発明の抗体の結合に直接関与するアミノ酸残基だけでなく
、Ser413でのリン酸化も含む。
【0127】
各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定する。
Kabatらは、重鎖及び軽鎖の可変領域の多数の一次配列を収集した。それらの配列の
保存度に基づいて、個々の一次配列をCDRとフレームワークとに分類し、そのリストを
作成した(全体を参照により援用する、SEQUENCES OF IMMUNOLOG
ICAL INTEREST,5th edition,NIH publicatio
n,No.91-3242,E.A.Kabat et al.参照)。
【0128】
免疫グロブリンのIgGサブクラスにおいて、重鎖にはいくつかの免疫グロブリンドメ
インが存在する。本明細書における「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、異なる三
次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本発明において興味深いのは、定常重
鎖(CH)ドメイン及びヒンジドメインを含む重鎖ドメインである。IgG抗体に関して
は、IgGアイソタイプはそれぞれ3つのCH領域を有する。したがって、IgGに関す
る「CH」ドメインは、以下の通りである:「CH1」は、Kabatに記載のEUイン
デックスよる118~220位を指す。「CH2」は、Kabatに記載のEUインデッ
クスによる237~340位を指し、「CH3」は、Kabatに記載のEUインデック
スによる341~447位を指す。
【0129】
重鎖の別の種類のIgドメインはヒンジ領域である。本明細書における「ヒンジ」また
は「ヒンジ領域」または「抗体ヒンジ領域」または「免疫グロブリンヒンジ領域」とは、
抗体の第1の定常ドメインと第2の定常ドメインとの間のアミノ酸を含む柔軟なポリペプ
チドを意味する。構造的には、IgG CH1ドメインはEU220位で終わり、IgG
CH2ドメインはEU237位の残基で始まる。したがって、IgGに関して抗体ヒン
ジは、本明細書では221位(IgG1ではD221)~236位(IgG1ではG23
6)を含むものと定義され、その場合、ナンバリングはKabatに記載のEUインデッ
クスに従う。いくつかの実施形態では、例えばFc領域に関して、下側ヒンジが含まれ、
「下側ヒンジ」は通常、226位または230位を指す。本明細書に記載するように、ヒ
ンジ領域においてもpI変異体を作製することができる。
【0130】
軽鎖は一般的に、2つのドメイン、可変軽鎖ドメイン(軽鎖CDRを含み、可変重鎖ド
メインと共にFv領域を形成する)、及び定常軽鎖領域(しばしばCLまたはCκと呼ば
れる)を含む。
【0131】
下記に概説するさらなる置換についての別の関心のある領域は、Fc領域である。
【0132】
したがって、本発明は異なる抗体ドメインを提供する。本明細書中に記載され、当技術
分野において公知であるように、本発明の抗体は、重鎖及び軽鎖内に異なるドメインを含
み、それらもまた重複し得る。これらのドメインとして、Fcドメイン、CH1ドメイン
、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ヒンジドメイン、重鎖定常ドメイン(CH1-ヒン
ジ-FcドメインまたはCH1-ヒンジ-CH2-CH3)、可変重鎖ドメイン、可変軽
鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、Fabドメイン及びscFvドメインが挙げられるが、
これらに限定されない。
【0133】
したがって、「Fcドメイン」には、-CH2-CH3ドメイン、及び場合によりヒン
ジドメインが含まれる。重鎖は、可変重鎖ドメイン及び定常ドメインを含み、定常ドメイ
ンは、CH2-CH3を含むCH1-ヒンジ-Fcドメインを含む。軽鎖は、可変軽鎖及
び軽鎖定常ドメインを含む。scFvは、可変重鎖、scFvリンカー、及び可変軽鎖ド
メインを含む。本発明のいくつかの実施形態は、少なくとも1つのscFvドメインを含
み、それは天然には存在しないが、一般的にscFvリンカーによって連結された可変重
鎖ドメインと可変軽鎖ドメインを含む。本明細書に概説するように、scFvドメインは
、通常、N末端からC末端にかけてvh-scFvリンカー-vlという向きになるが、
任意のscFvドメイン(またはFab由来のvh及びvl配列を用いて構築されるもの
)について、これを逆向きにvl-scFvリンカー-vhとすることができる。
【0134】
本明細書中に示すように、組換え技術によって生成される、伝統的なペプチド結合を含
む、使用可能な多くの適切なscFvリンカーがある。リンカーペプチドは、主に以下の
アミノ酸残基:Gly、Ser、Ala、またはThrを含み得る。リンカーペプチドは
、それらが所望の活性を保持するように、それらが互いに対して正しい立体配座をとるよ
うに2つの分子を連結するのに十分な長さを有するべきである。一実施形態では、リンカ
ーは、約1~50アミノ酸長、好ましくは約1~30アミノ酸長である。一実施形態では
、1~20アミノ酸長のリンカーを使用してもよく、いくつかの実施形態では、約5~約
10アミノ酸を使用する。有用なリンカーとして、例えば(GS)n、(GSGGS)n
、(GGGGS)n、及び(GGGS)nを含むグリシン-セリンポリマー(式中、nは
、少なくとも1(そして一般的には3~4)の整数である)、グリシン-アラニンポリマ
ー、アラニン-セリンポリマー、及び他の柔軟なリンカーが挙げられる。あるいは、ポリ
エチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、ま
たはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体が挙げられるがこ
れらに限定されない様々な非タンパク質性ポリマーをリンカーとして利用してもよく、す
なわちリンカーとして利用し得る。
【0135】
他のリンカー配列は、任意の長さのCL/CH1ドメインの任意の配列;例えば、CL
/CH1ドメインの最初の5~12アミノ酸残基を含み得るが、CL/CH1ドメインの
全ての残基を含むことはできない。リンカーは、免疫グロブリン軽鎖、例えばCκまたは
Cλに由来し得る。リンカーは、例えばCγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cα1、Cα
2、Cδ、Cε、及びCμを含む任意のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖に由来し得る
。リンカー配列はまた、Ig様タンパク質(例えば、TCR、FcR、KIR)などの他
のタンパク質、ヒンジ領域由来の配列、及び他のタンパク質由来の他の天然配列に由来し
得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、リンカーは、本明細書に概説するように任意の2つのドメイ
ンを共に連結するために使用される「ドメインリンカー」である。任意の適切なリンカー
を使用することができるが、多くの実施形態は、例えば(GS)n、(GSGGS)n、
(GGGGS)n、及び(GGGS)nを含むグリシン-セリンポリマー(式中、nは少
なくとも1(そして一般的には3~4~5)の整数である)ならびに十分な長さと柔軟性
を有して2つのドメインの組換え結合を可能にする任意のペプチド配列を利用して、各ド
メインがその生物学的機能を保持できるようにする。
【0137】
A.キメラ抗体及びヒト化抗体
いくつかの実施形態では、本明細書の抗体は、異なる種由来の混合物に由来するもの、
例えば、キメラ抗体及び/またはヒト化抗体であり得る。一般的に、「キメラ抗体」及び
「ヒト化抗体」はいずれも、複数の種由来の領域を組み合わせた抗体を指す。例えば、「
キメラ抗体」は、伝統的にマウス(またはいくつかの場合ではラット)由来の可変領域(
複数可)とヒト由来の定常領域(複数可)を含む。「ヒト化抗体」は、一般的に、可変ド
メインフレームワーク領域をヒト抗体に見出される配列と交換した非ヒト抗体を指す。一
般的に、ヒト化抗体において、CDRを除く抗体全体は、ヒト起源のポリヌクレオチドに
よってコードされているか、またはそのCDR内を除いてそのような抗体と同一である。
その一部または全部が非ヒト生物由来の核酸によってコードされているCDRを、ヒト抗
体可変領域のβシートフレームワークに移植して抗体を作製する(その特異性は移植され
たCDRによって決定される)。そのような抗体の作製は、例えば、WO92/1101
8,Jones,1986,Nature 321:522-525、Verhoeye
n et al.,1988,Science 239:1534-1536に記載され
ており、これらはいずれも全体を参照により本明細書に援用する。初期の移植構築物にお
いて失われる親和性を取り戻すために、選択したアクセプターフレームワーク残基の対応
するドナー残基への「逆突然変異」が多くの場合に必要とされる(US5530101;
US5585089;US5693761;US5693762;US6180370;
US5859205;US5821337;US6054297;US6407213、
いずれもその全体を参照により本明細書に援用する)。ヒト化抗体はまた、最適には、免
疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、一般的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少
なくとも一部を含み、したがって一般的にはヒトFc領域を含む。ヒト化抗体はまた、遺
伝子改変した免疫系を有するマウスを用いて作製することもできる。Roque et
al.,2004,Biotechnol.Prog.20:639-654、その全体
を参照により援用する。非ヒト抗体をヒト化及び再形成するための様々な技術及び方法が
当技術分野において周知である(いずれも全体を参照により本明細書に援用するTsur
ushita & Vasquez,2004,Humanization of Mo
noclonal Antibodies,Molecular Biology of
B Cells,533-545,Elsevier Science(USA)、及
び前記文献中に引用されている参考文献参照)。ヒト化方法として、いずれも全体を参照
により援用するJones et al.,1986,Nature 321:522-
525;Riechmann et al.,1988;Nature 332:323
-329;Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1
534-1536;Queen et al.,1989,Proc Natl Aca
d Sci,USA 86:10029-33;He et al.,1998,J.I
mmunol.160:1029-1035;Carter et al.,1992,
Proc Natl Acad Sci USA 89:4285-9,Presta
et al.,1997,Cancer Res.57(20):4593-9;Gor
man et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 8
8:4181-4185;O’Connor et al.,1998,Protein
Eng 11:321-8に記載されている方法が挙げられるが、これらに限定されな
い。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低下させるヒト化または他の方法として、例えば、
全体を参照により援用するRoguska et al.,1994,Proc.Nat
l.Acad.Sci.USA 91:969-973に記載されているような表面再構
成法が挙げられ得る。
【0138】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、特定の生殖系列重鎖免疫グロブリン遺伝子由来
の重鎖可変領域及び/または特定の生殖系列軽鎖免疫グロブリン遺伝子由来の軽鎖可変領
域を含む。例えば、そのような抗体は、特定の生殖系列配列「の産物」または「由来」で
ある重鎖または軽鎖可変領域を含むヒト抗体を含むかまたはそれからなっていてもよい。
ヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の産物」または「由来」であるヒト抗体は、ヒト抗体
のアミノ酸配列をヒト生殖系列免疫グロブリンのアミノ酸配列と比較し、ヒト抗体の配列
に最も近い配列(すなわち、最大の同一性%)であるヒト生殖系列免疫グロブリン配列を
選択することによって、それ自体同定することができる。特定のヒト生殖系列免疫グロブ
リン配列「の産物」または「由来」であるヒト抗体は、生殖系列配列と比較して、例えば
、自然発生的な体細胞変異または意図的な部位特異的突然変異導入に起因するアミノ酸の
差異を含み得る。しかしながら、ヒト化抗体は、一般的には、アミノ酸配列において、ヒ
ト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも
80%同一であり、他の種の生殖系列免疫グロブリンアミノ酸配列(例えば、マウス生殖
系列配列)と比較した場合、抗体がヒト配列由来のものであると同定させるアミノ酸残基
を含む。特定の場合では、ヒト化抗体は、アミノ酸配列において、生殖系列免疫グロブリ
ン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも95、96、97、98
もしくは99%、またはさらに少なくとも96%、97%、98%、もしくは99%同一
であり得る。一般的には、特定のヒト生殖系列配列に由来するヒト化抗体は、ヒト生殖系
列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と10~20アミノ酸以下の
差異しか示さないであろう。特定の場合では、ヒト化抗体は、生殖系列免疫グロブリン遺
伝子によってコードされるアミノ酸配列と、5以下、またはさらには4、3、2、もしく
は1以下のアミノ酸の差異を示し得る。
【0139】
一実施形態では、当技術分野で公知のように、親抗体は親和性成熟している。例えば米
国特許第7,657,380号に記載されているように、構造に基づく方法をヒト化及び
親和性成熟のために使用してもよい。選択に基づく方法を用いて、抗体可変領域をヒト化
及び/または親和性成熟させてもよく、その方法として、いずれもその全体を参照により
本明細書に援用するWu et al.,1999,J.Mol.Biol.294:1
51-162;Baca et al.,1997,J.Biol.Chem.272(
16):10678-10684;Rosok et al.,1996,J.Biol
.Chem.271(37):22611-22618;Rader et al.,1
998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:8910-8915;
Krauss et al.,2003,Protein Engineering 1
6(10):753-759に記載されている方法が挙げられるが、これらに限定されな
い。他のヒト化方法は、いずれも全体を参照により本明細書に援用するTan et a
l.,2002,J.Immunol.169:1119-1125;De Pasca
lis et al.,2002,J.Immunol.169:3076-3084に
記載されている方法を含むがこれらに限定されない、CDRの一部分のみを移植すること
を含み得る。
【0140】
用語「抗体」は、最も広い意味で使用し、例えば、インタクトな免疫グロブリンまたは
抗原結合部分を含む。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな
抗体の酵素的もしくは化学的切断によって産生し得る。したがって、抗体という用語には
、伝統的な2つの重鎖と2つの軽鎖の四量体抗体、ならびにFv、Fab及びscFvな
どの抗原結合断片が含まれる。いくつかの場合では、本発明は、本明細書に概説するよう
に少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む二重特異性抗体を提供する。
【0141】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、好ましくは血漿中動態の向上を示すべきで
ある。本明細書におけるヒト化抗体の血漿中動態の向上とは、血漿中のヒト化抗体の動態
を表すパラメータが、ヒト化抗体に対応する非ヒト化抗体に比べて改変されていることを
意味する。血漿中動態を表すパラメータの例として:血漿内半減期、血漿中の平均滞留時
間、及び血漿クリアランスが挙げられる。そのようなパラメータが「改変された」とは、
そのパラメータが増加または減少したことを意味する。ヒト化抗体に「対応する」非ヒト
化抗体とは、ヒト化抗体を産生するための基礎として用いられる非ヒト化抗体、例えばマ
ウス抗体またはキメラ抗体を意味する。
【0142】
用語「キメラ抗体」とは、1つの抗体由来の1つ以上の領域と1つ以上の他の抗体由来
の1つ以上の領域とを含む抗体を指す。「CDR移植抗体」とは、特定の種またはアイソ
タイプの抗体に由来する1つ以上のCDR、及び同じまたは異なる種またはアイソタイプ
の別の抗体のフレームワークを含む抗体である。
【0143】
IX.組成物
本発明は、「抗原-抗体反応」において、Ser413でリン酸化された(pSer4
13)ヒトタウタンパク質に結合する多くの異なる抗原結合ドメイン(通常、抗体に組み
込まれる)を提供する。
【0144】
「抗原-抗体反応」は、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに対する
抗体の親和性、すなわち平衡解離定数(K)によって測定される。特定の実施形態では
、リン酸化タウタンパク質を用いてK値を測定する。いくつかの実施形態では、リン酸
化タウペプチドを用いてK値を測定する。一実施形態では、リン酸化タウペプチドは1
残基のみでリン酸化されている(例えば、配列番号75)。別の実施形態では、リン酸化
ペプチドは複数の残基でリン酸化されている(例えば、配列番号76または配列番号78
)。いくつかの実施形態では、固定化した抗原(例えば、リン酸化タウタンパク質または
リン酸化タウペプチド)を用いてK値を測定し、その場合、親和性測定は、結合活性成
分を含む、すなわち二価結合様式である。他の実施形態では、固定化した抗体(例えば、
マウス親抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体)を用いてK値を測定し、その場
合、親和性測定は結合活性成分を含まない、すなわち一価結合様式である。さらに他の実
施形態では、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化タウタンパク質を用いてK値を
測定する。さらに他の実施形態では、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化ペプチド
を用いてK値を測定する。特定の実施形態では、二価結合様式でK値を測定する。他
の実施形態では、一価結合様式でK値を測定する。
【0145】
したがって、特定の実施形態では、K値は5×10-8M以下であり;いくつかの実
施形態では、K値は5×10-9M以下であり;他の実施形態では、K値は5×10
-10M以下であり;さらに他の実施形態では、K値は1.86×10-8M以下であ
り;さらに他の実施形態では、K値は2×10-9M以下であり;さらに他の実施形態
では、K値は2×10-10M以下である。特定の実施形態では、本明細書に開示する
抗体は、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペ
プチドを用いて測定される5×10-8M以下のKでリン酸化タウタンパク質またはリ
ン酸化タウペプチドに結合する。別の特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、
固定化したリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を
用いて測定される5×10-9M以下のKでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タ
ウペプチドに結合する。さらに別の特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固
定化したリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用
いて測定される2×10-9M以下のKでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウ
ペプチドに結合する。別の特定の一実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化し
たリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用いて測
定される5×10-10M以下のKでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプ
チドに結合する。別の特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化したリン
酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用いて測定され
る2×10-10M以下のKでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに
結合する。
【0146】
さらに、本明細書に概説するように、本発明の抗体は、413位にリン酸を含まないタ
ンパク質またはペプチドよりも、S413位でリン酸化されているタウペプチドまたはタ
ンパク質に優先的に結合する。
【0147】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、本発明によるリン酸化タウタンパク質また
はリン酸化タウペプチドと抗原-抗体反応を引き起こすことができる抗体である。
【0148】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体が抗原-抗体反応を引き起こすことができるリ
ン酸化タウタンパク質及びタウペプチドは、ADなどの神経変性疾患において特異的にリ
ン酸化されるアミノ酸残基においてリン酸化されているタウタンパク質及びタウペプチド
である。具体的には、そのようなタウタンパク質及びタウペプチドは、配列番号1に定義
されるアミノ酸配列の少なくとも413位のセリン残基(Ser413)においてリン酸
化されており、またアミノ酸番号410~421に対応する1つ以上のアミノ酸残基、す
なわち、配列番号1に定義されるアミノ酸配列のうち、412位のセリン残基(Ser4
12)、414位のトレオニン残基(Thr414)、及び416位のセリン残基(Se
r416)に対応する1つ以上のアミノ酸残基においてリン酸化されていてもよい。一般
的なそのようなリン酸化ペプチドとして:配列番号7に定義されるアミノ酸配列を有する
pSer412/pSer413(Cys-);配列番号8に定義されるアミノ酸配列を
有するpSer413(Cys-)、及び配列番号9に定義されるアミノ酸配列を有する
pSer409/pSer412/pSer413(Cys-)が挙げられるが、これら
に限定されない。
【0149】
本発明によるリン酸化タウペプチドは、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体の製造
に、または反応性を研究するための抗原として使用することができる。
【0150】
本発明によるリン酸化タウペプチドは、当業者が適切な合成方法または遺伝子工学的方
法を用いることによって製造することができる。合成によりリン酸化ペプチドを製造する
方法として、Boc法(Wakamiya T.,Chemistry Letters
,Vol.22,p.1401,1993)、Fmoc法(Perich,J.W.,I
nternational Journal of Peptide and Prot
ein Research,Vol.40,pp.134-140,1992)及びJP
3587390B及びWO2013/180238が挙げられるが、当業者であれば、必
要に応じて他の任意の方法を使用することができる。遺伝子工学的にリン酸化ペプチドを
製造する方法の例として、製造しようとするペプチドまたはその前駆体をコードする核酸
配列を有する遺伝物質(DNAまたはRNA)を調製し、発現ベクターへの導入及びプロ
モーター配列の付加などの任意の工程の後に、発現のために適切な宿主に導入するか、ま
たは無細胞タンパク質合成系に供する方法が挙げられる。この場合、宿主固有のものでも
遺伝子工学的に発現させるものでもよいキナーゼなどの酵素を用いて宿主内でリン酸化反
応を引き起こすことにより、または目的とするペプチドを宿主から回収し、キナーゼなど
の酵素を用いてリン酸化反応を引き起こすことにより、所望の部位でペプチドをリン酸化
することができる。後者の場合、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)または
サイクリン依存性プロテインキナーゼ5(CDK5)などの、タウのリン酸化反応におい
て役割を果たすことが知られている酵素に標的ペプチドを供することにより、in vi
troでリン酸化反応を引き起こすことができる。上記の方法に従って宿主内またはin
vitroでリン酸化したペプチドの中から、例えば抗体-抗原反応を介して上記の抗
リン酸化タウ抗体に特異的に結合するものを選択することによって、所望のアミノ酸残基
でリン酸化されたペプチドを回収することができる。
【0151】
本発明によるリン酸化タウペプチドは、そのN末端配列及び/またはC末端配列におい
て、所望の目的に適した他の機能を有する物質で修飾することができる。例えば、本発明
によるリン酸化タウペプチドは、そのN末端及び/またはC末端に、例えばメチオニン残
基、アセチル基またはピログルタミン酸を付加するか、またはそのN末端及び/またはC
末端を、例えば蛍光物質で修飾することができる。あるいは、本発明によるリン酸化タウ
ペプチドのN末端及び/またはC末端を、例えばペプチドまたはタンパク質で修飾しても
よい。そのような修飾に使用可能なペプチドの例として、適切なタグ配列(一般的にはヒ
スチジンタグまたはFLAGタグ)、T細胞受容体(TCR)または主要組織適合遺伝子
複合体(MHC)によって認識され得るアミノ酸配列を有するペプチド、そのようなタン
パク質に由来する配列を有するウイルスまたは細菌またはペプチド由来のタンパク質が挙
げられる。さらに、本発明によるリン酸化タウペプチドには、N末端及びC末端以外のア
ミノ酸残基が他の任意の化合物またはペプチドで修飾された少なくとも1つのアミノ酸残
基を有するものが含まれる。当業者であれば、リン酸化タウペプチドへのそのような修飾
を、任意の公知の方法、例えば、Hermanson et al.,“Bioconj
ugate Techniques”,(US),Academic Press,19
96に記載されている方法を用いて実施することができよう。
【0152】
当業者であれば、固相または液相の系において適切な結合アッセイを選択することによ
り、抗原-抗体反応の測定を実行することができよう。そのようなアッセイの例として、
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、表面プラズモン
共鳴(SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、及び発光共鳴エネルギー移動(
LRET)が挙げられるが、これらに限定されない。抗原-抗体結合親和性の測定は、例
えば、抗体及び/または抗原を、例えば、酵素、蛍光物質、発光物質、または放射性同位
元素で標識し、使用する標識に特徴的な物理的及び/または化学的特性を測定するのに適
した方法を用いて抗原-抗体反応を検出することによって行うことができる。
【0153】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、好ましくは、非リン酸化タウタンパク質ま
たはタウペプチドに対するその結合親和性に比べて、リン酸化タウタンパク質またはタウ
ペプチドに対してより高い選択的結合親和性を有するべきである。これに関して、リン酸
化タウタンパク質またはタウペプチドへの抗体の選択的結合親和性の向上とは、リン酸化
タウタンパク質またはタウペプチドへの抗体の結合親和性の、対応する非リン酸化タウタ
ンパク質またはタウペプチドへのその結合親和性に対する比が増加することを意味する。
そのような選択的結合親和性は、例えば、リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドを
固定化したプレート及び対応する非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドを固定化
したプレートを用いて、例えば、ELISA(例えば、発光波長の吸光度OD値として)
によりこれらのタンパク質またはペプチドの各々に対する抗体の結合親和性を測定するこ
とにより、及びリン酸化タウタンパク質またはタウペプチドについて得られた結合親和性
の値(例えば、吸光度OD値)を、対応する非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチ
ドについて得られた値で割ることにより、分析できる。ELISAのための特定の条件は
、以下の実施例の節に記載するものであってもよい。
【0154】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、以下の実施例2に記載の方法に従って選択
的結合親和性を求める限りにおいて、好ましくは、リン酸化タウタンパク質またはタウペ
プチドへの選択的結合親和性の、非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドへの結合
親和性に対する比が、少なくとも約40以上、特に少なくとも約50以上、より特に少な
くとも約60以上であるべきである。一実施形態では、配列番号8などのリン酸化ペプチ
ドへの抗pSer413タウ抗体の結合親和性と、配列番号69の非リン酸化ペプチドへ
の結合親和性とを比較することによって比を計算する。
【0155】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、好ましくは、血中に投与した場合に、脳へ
の進入能力の向上を示すべきである。これに関連して、血中に投与した場合の抗体の脳へ
の進入能力の向上とは、抗体をヒトまたは他の任意の哺乳類(例えば、マウスまたはラッ
ト)の血中に投与した場合に、血漿中の抗体濃度に対する脳内の抗体濃度の比が増加する
ことを意味する。抗体の脳への進入能力は、例えば、血液を介して抗体を動物(例えば、
マウスまたはラット)に投与し、所定の期間(例えば、1週間)後に、血液を採取し、脳
ホモジネートを調製し、得られた血漿試料及び得られた脳ホモジネート試料それぞれの抗
体濃度を公知の方法(例えば、抗ヒトポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELIS
A)を用いて測定し、脳内の抗体濃度を血漿中の抗体濃度で割ることにより分析できる。
ELISAのための特定の条件は、以下の実施例の節に記載されているものであってもよ
い。脳へ進入する抗体の濃度は、一般的には血漿中の濃度の約0.1~0.3%であるこ
とが知られている。
【0156】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、以下の実施例の「[7]実施例7:脳内移
行の分析」の節に記載する方法に従ってその比を求める限りにおいて、好ましくは、脳内
の抗体濃度が血漿中の抗体濃度に対して、0.30%以上、特に0.35%以上、より特
別には0.40%以上、さらにより特別には0.45%以上の比を有するべきである。
【0157】
A.本発明の抗原結合ドメイン
本発明は、本明細書中に記載するように、Ser413でリン酸化されていないタウタ
ンパク質への結合よりもヒトpSer413タウタンパク質に優先的に結合する抗原結合
ドメインを提供する。
【0158】
一実施形態では、本発明は、配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0159】
一実施形態では、本発明は、配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0160】
一実施形態では、本発明は、配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0161】
一実施形態では、本発明は、配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0162】
一実施形態では、本発明は、配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0163】
一実施形態では、本発明は、配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0164】
一実施形態では、本発明は、配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0165】
一実施形態では、本発明は、配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0166】
一実施形態では、本発明は、配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有す
るvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR
1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含
む抗原結合ドメインを提供する。
【0167】
一実施形態では、本発明は、配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有
するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCD
R1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を
含む抗原結合ドメインを提供する。
【0168】
一実施形態では、本発明は、配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有
するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCD
R1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を
含む抗原結合ドメインを提供する。
【0169】
一実施形態では、本発明は、配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有
するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCD
R1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を
含む抗原結合ドメインを提供する。
【0170】
本発明は、ヒトpSer413タウタンパク質に対する抗原結合ドメインを提供する。
実施例に示すように、多くのヒト化可変重鎖及び可変軽鎖ドメインを提供し、これらは、
任意の組み合わせで組み合わせることができ、任意の組み合わせでヒトIgG定常ドメイ
ンに付加することができる。
【0171】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46(配列番号84)を可変重
鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせて、pSer413
タウに結合するFvドメインを形成する。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、
配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び1
26、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0172】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46(配列番号84)を可変重
鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態で
は、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、1
23、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52か
ら選択される。
【0173】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL47(配列番号104)を可変
重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態
では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、
123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52
から選択される。
【0174】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL47(配列番号104)を可変
重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態
では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、
123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52
から選択される。
【0175】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A(配列番号10
5)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0176】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A(配列番号10
5)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0177】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34S(配列番号10
6)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0178】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34S(配列番号10
6)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0179】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34T(配列番号10
7)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0180】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34T(配列番号10
7)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0181】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q(配列番号10
8)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0182】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q(配列番号10
8)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0183】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q_G34A(配
列番号109)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合
わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、12
0、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ド
メイン、配列番号52から選択される。
【0184】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q_G34A(配
列番号109)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合
わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、12
0、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ド
メイン、配列番号52から選択される。
【0185】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33D(配列番号11
0)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0186】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33D(配列番号11
0)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0187】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33S(配列番号11
1)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0188】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33S(配列番号11
1)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0189】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33T(配列番号11
2)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0190】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33T(配列番号11
2)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0191】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_S28N(配列番号11
3)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0192】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_S28N(配列番号11
3)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。こ
の実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121
、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配
列番号52から選択される。
【0193】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A_S28N(配
列番号114)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合
わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、12
0、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ド
メイン、配列番号52から選択される。
【0194】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A_S28N(配
列番号114)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合
わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、12
0、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ド
メイン、配列番号52から選択される。
【0195】
本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体はまた、具体的に後述するように、好ましくは特定
のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するべきである。
【0196】
重鎖可変領域として、本発明の抗体は、配列VH11(配列番号18に定義される)、
配列VH12(配列番号20に定義される)、配列VH47(配列番号22に定義される
)、VH61(配列番号24に定義される)、配列VH62(配列番号26に定義される
)、配列VH64(配列番号28に定義される)、及び配列VH65(配列番号30に定
義される)から選択される配列と、好ましくは、80%以上、特に85%以上、より特別
には90%以上、さらにより特別には95%以上、さらにより特別には100%の同一性
を有するアミノ酸配列を有するべきである。一実施形態では、本発明の抗体は、重鎖可変
領域として、配列VH65のアミノ酸配列、または:28位のAla(Kabat番号:
H28)からThrへの置換;30位のAsn(Kabat番号:H30)からSerへ
の置換;49位のVal(Kabat番号:H49)からGlyへの置換;64位のAl
a(Kabat番号:H61)からAspへの置換;及び78位のGln(Kabat番
号:H75)からLysへの置換からなる群から選択される1つ以上の置換による配列V
H65に由来するアミノ酸配列を含み得る。
【0197】
軽鎖可変領域として、本発明の抗体は、配列VL15(配列番号32に定義される)、
配列VL36(配列番号34に定義される)、配列VL46(配列番号36に定義される
)、VL47(配列番号38に定義される)、配列VL48(配列番号40に定義される
)、及び配列VL50(配列番号42に定義される)から選択される配列と、好ましくは
、80%以上、特に85%以上、より特別には90%以上、さらにより特別には95%以
上、さらにより特別には100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するべきである。一
実施形態では、本発明の抗体は、軽鎖可変領域として、配列VL47のアミノ酸配列、ま
たは:17位のAsp(Kabat番号:L17)からGluへの置換;28位のSer
(Kabat番号:L27A)からAsnへの置換;42位のGln(Kabat番号:
L37)からLeuへの置換;50位のGln(Kabat番号:L45)からArgへ
の置換;及び51位のArg(Kabat番号:L46)からLeuへの置換からなる群
から選択される1つ以上の置換による配列VL47に由来するアミノ酸配列を含み得る。
【0198】
別の実施形態では、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、以下から選択される任
意の組み合わせを含み得る:
【0199】
(1)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配
列VL15(配列番号32);
【0200】
(2)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配
列VL36(配列番号34);
【0201】
(3)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配
列VL46(配列番号36);
【0202】
(4)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配
列VL47(配列番号38);
【0203】
(5)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配
列VL48(配列番号40);
【0204】
(6)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配
列VL50(配列番号42);
【0205】
(7)重鎖可変領域として配列VH12(配列番号20)及び軽鎖可変領域として配列
VL48(配列番号40);
【0206】
(8)重鎖可変領域として配列VH47(配列番号22)及び軽鎖可変領域として配列
VL48(配列番号40);
【0207】
(9)重鎖可変領域として配列VH61(配列番号24)及び軽鎖可変領域として配列
VL48(配列番号40);
【0208】
(10)重鎖可変領域として配列VH62(配列番号26)及び軽鎖可変領域として配
列VL48(配列番号40);
【0209】
(11)重鎖可変領域として配列VH64(配列番号28)及び軽鎖可変領域として配
列VL47(配列番号38);
【0210】
(12)重鎖可変領域として配列VH64(配列番号28)及び軽鎖可変領域として配
列VL48(配列番号40);
【0211】
(13)重鎖可変領域として配列VH65(配列番号117)及び軽鎖可変領域として
配列VL47(配列番号37);
【0212】
上記のものから重鎖及び軽鎖のCDR及び/または可変領域のアミノ酸配列を選択し、
それらを必要に応じてヒト抗体の重鎖及び軽鎖のフレームワーク領域及び/または定常領
域のアミノ酸配列と組み合わせることによって、当業者であれば本発明によるヒト化抗リ
ン酸化タウ抗体を設計することができよう。ヒト抗体の重鎖及び軽鎖のフレームワーク領
域及び/または定常領域のアミノ酸配列は、例えば、ヒトIgG、IgA、IgM、Ig
E、及びIgDサブタイプまたはそれらの変異体のアミノ酸配列から選択することができ
る。
【0213】
B.特異的抗pSer413タウ抗体
本発明は、以下のような一対の配列、すなわち重鎖及び軽鎖を含む多くの特異的抗体を
提供する:
【0214】
mAb-aPT1:配列番号184のLC及び配列番号144のHC
【0215】
mAb-aPT2:配列番号184のLC及び配列番号145のHC
【0216】
mAb-aPT3:配列番号184のLC及び配列番号146のHC
【0217】
mAb-aPT4:配列番号184のLC及び配列番号147のHC
【0218】
mAb-aPT5:配列番号184のLC及び配列番号148のHC
【0219】
mAb-aPT6:配列番号184のLC及び配列番号149のHC
【0220】
mAb-aPT7:配列番号184のLC及び配列番号150のHC
【0221】
mAb-aPT8:配列番号184のLC及び配列番号151のHC
【0222】
mAb-aPT9:配列番号184のLC及び配列番号152のHC
【0223】
mAb-aPT10:配列番号184のLC及び配列番号153のHC
【0224】
mAb-aPT11:配列番号184のLC及び配列番号154のHC
【0225】
mAb-aPT12:配列番号184のLC及び配列番号155のHC
【0226】
mAb-aPT13:配列番号184のLC及び配列番号156のHC
【0227】
mAb-aPT14:配列番号184のLC及び配列番号157のHC
【0228】
mAb-aPT15:配列番号184のLC及び配列番号158のHC
【0229】
mAb-aPT16:配列番号184のLC及び配列番号159のHC
【0230】
mAb-aPT17:配列番号184のLC及び配列番号160のHC
【0231】
mAb-aPT18:配列番号184のLC及び配列番号161のHC
【0232】
mAb-aPT19:配列番号185のLC及び配列番号144のHC
【0233】
mAb-aPT20:配列番号185のLC及び配列番号145のHC
【0234】
mAb-aPT21:配列番号185のLC及び配列番号146のHC
【0235】
mAb-aPT22:配列番号185のLC及び配列番号147のHC
【0236】
mAb-aPT23:配列番号185のLC及び配列番号148のHC
【0237】
mAb-aPT24:配列番号185のLC及び配列番号149のHC
【0238】
mAb-aPT25:配列番号185のLC及び配列番号150のHC
【0239】
mAb-aPT26:配列番号185のLC及び配列番号151のHC
【0240】
mAb-aPT27:配列番号185のLC及び配列番号152のHC
【0241】
mAb-aPT28:配列番号185のLC及び配列番号153のHC
【0242】
mAb-aPT29:配列番号185のLC及び配列番号154のHC
【0243】
mAb-aPT30:配列番号185のLC及び配列番号155のHC
【0244】
mAb-aPT31:配列番号185のLC及び配列番号156のHC
【0245】
mAb-aPT32:配列番号185のLC及び配列番号157のHC
【0246】
mAb-aPT33:配列番号185のLC及び配列番号158のHC
【0247】
mAb-aPT34:配列番号185のLC及び配列番号159のHC
【0248】
mAb-aPT35:配列番号185のLC及び配列番号160のHC
【0249】
mAb-aPT36:配列番号185のLC及び配列番号161のHC
【0250】
C.結合を競合する抗体
413位でリン酸化された(pSer413)ヒトタウタンパク質に結合する抗原結合
ドメイン及びそれらを含む抗体に加えて、本発明は、本明細書中に記載の抗体と結合につ
いて競合する抗体を提供する。
【0251】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体と、pSer413タウへの競合的結合を引き
起こすヒト化抗体も本発明の範囲内に含まれる。本明細書中で使用する用語「競合的結合
」とは、抗原と共に2つ以上のモノクローナル抗体が存在する場合に、一方の抗体の抗原
への結合がそれ以外の抗体の抗原への結合によって阻害されることを意味する。競合的結
合は通常、例えば一定量(濃度)のモノクローナル抗体に対し、別のモノクローナル抗体
をその量(濃度)を変動させて添加し、一定量存在する前者のモノクローナル抗体の結合
量が減少する場合の、後者のモノクローナル抗体の量(濃度)を決定することによって測
定することができる。その阻害の程度は、IC50またはKiの単位で表すことができる
。本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体に対して競合的結合を引き起こすヒト化抗体とは、
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体を10nMで用いて本発明の抗原-抗体結合を測
定した場合に、IC50が1μM以下、特に100nM以下、より特別には10nM以下
である抗体を意味する。
【0252】
当技術分野で公知のように、一般的にSPR/Biacore(登録商標)またはOc
tet(登録商標)結合アッセイ、ならびにELISA及び細胞ベースのアッセイを用い
て競合的結合研究を行うことができる。
【0253】
いくつかの実施形態では、競合的結合抗体の可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインは
、本明細書に概説する可変領域の少なくとも1つに対して少なくとも85%、90%、9
5%、98%または99%の同一性を有し、定常ドメインにおいては、図13に概説する
ヒトIgG配列に対して少なくとも99または100%の同一性を有する。
【0254】
D.アミノ酸置換
【0255】
本明細書に概説する配列に加えて、本発明は、親の出発配列と比較して1つ以上のアミ
ノ酸置換を有し得る抗原結合ドメイン及びそれらを含む抗体を提供する。
【0256】
したがって、例えば、本明細書に列挙する可変重鎖及び軽鎖ドメインの全てについて、
さらなる変異体を作製することができる。本明細書に概説するように、いくつかの実施形
態では、6個のCDRのセットは、0、1、2、3、4または5個のアミノ酸修飾を有す
ることができる(特定の用途に利用可能なアミノ酸置換を有する)。これらの実施形態で
は、一般的に、単一のCDRは1または2以下のアミノ酸置換を有し、変異配列はpSe
r413タウタンパク質への結合を保持する。しかしながら、本明細書に概説する配列の
CDRにアミノ酸変異体を作製する場合、得られるCDRは、PCT/JP13/650
90に概説された、配列番号81、82及び83(可変軽鎖CDR)ならびに配列番号8
6、87及び88(可変重鎖CDR)に示されるマウスCDRとは異なる。
【0257】
いくつかの場合では、可変重鎖及び/または軽鎖ドメインのフレームワーク領域(複数
可)に変化を生じさせることができる。この実施形態では、フレームワーク領域(例えば
CDRを除く)中の好ましい変異体は、ヒト生殖系列配列に対して少なくとも約80、8
5、90または95%の同一性を保持している。したがって、例えば、フレームワーク領
域がヒト生殖系列配列に対して少なくとも80、85、90または95%の同一性を保持
する限り、本明細書に記載の同一のCDRを、ヒト生殖系列配列由来の異なるフレームワ
ーク配列と組み合わせることができる。
【0258】
いくつかの実施形態では、本明細書で概説するヒト化軽鎖について、最も近いヒト軽鎖
生殖系列は、本明細書の配列に対して81%の同一性を有するIGKV2-30である。
したがって、同一性がIGKV2-30に対して少なくとも80%、85%、90%また
は95%の同一性である限り、軽鎖フレームワーク領域においてさらなる変異体を作製す
ることができる。
【0259】
本明細書のヒト化重鎖について、重鎖について最も近いヒト生殖系列は、本明細書中の
配列に対して85%の同一性を有するIGHV3-73である。したがって、同一性がI
GHV3-73に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性である
限り、軽鎖フレームワーク領域においてさらなる変異体を作製することができる。
【0260】
あるいは、CDRは、アミノ酸修飾(例えば、CDRのセット中の1、2、3、4また
は5個のアミノ酸修飾)を有し得る(すなわち、CDRは、6つのCDRセット内の変化
の総数が6個未満のアミノ酸修飾である限り、CDRの任意の組み合わせを変化させてC
DRを改変することができ;例えば、vlCDR1に1個、vhCDR2に2個、vhC
DR3に0個、など))、ならびにフレームワーク領域がヒト生殖系列配列に対して少な
くとも80、85または90%の同一性を保持する限り、フレームワーク領域を変化させ
ることができ、得られるCDRはPCT/JP13/65090に概説された、配列番号
81、82及び83(可変軽鎖CDR)及び配列番号86、87及び88(可変重鎖CD
R)に示されるマウスCDRとは異なる。
【0261】
一般的に、抗pSer413タウ抗体間の比較のための同一性パーセントは、少なくと
も75%、少なくとも80%、少なくとも90%であり、少なくとも約95、96、97
、98または99%の同一性パーセントが好ましい。同一性パーセントは、全アミノ酸配
列、例えば全重鎖もしくは軽鎖にわたって、または鎖の一部にわたってのものであっても
よい。例えば、本発明の抗pSer413タウ抗体の定義内に含まれるのは、可変領域全
体にわたって(例えば、可変領域にわたって同一性が95%もしくは98%同一である場
合)、または定常領域全体にわたって同一性を共有する抗体である。
【0262】
X.本発明の核酸
本発明の抗pSer413タウ抗体をコードする核酸組成物、ならびにその核酸を含む
発現ベクター及びその核酸で形質転換した宿主細胞及び/または発現ベクター組成物も提
供する。当業者には理解されるように、本明細書中に示すタンパク質配列を、遺伝暗号の
縮重により、任意の数の可能な核酸配列によってコードすることができる。
【0263】
したがって、本発明はさらに、抗原結合ドメインをコードする核酸組成物及びそれらを
含有する抗体を提供する。当業者には理解されるように、抗原結合ドメインの場合、核酸
組成物は一般的に、可変重鎖ドメインをコードする第1の核酸及び可変軽鎖ドメインをコ
ードする第2の核酸を含む。scFvの場合、タンパク質様リンカーによって分離された
、可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインをコードする単一の核酸を作製することができ
る。伝統的な抗体の場合、核酸組成物は一般的に、重鎖をコードする第1の核酸及び軽鎖
をコードする第2の核酸を含み、これらは細胞内で発現すると自発的に2本の重鎖と2本
の軽鎖の「伝統的」な四量体形態になる。
【0264】
当技術分野で公知のように、本発明の成分をコードする核酸を、当技術分野で公知のよ
うに、及び本発明のヘテロ二量体抗体を産生するために使用する宿主細胞に応じて、発現
ベクターに組み込むことができる。当業者には理解されるように、これら2つの核酸を、
単一の発現ベクターまたは2つの異なる発現ベクターに組み込むことができる。一般的に
、核酸を、任意の数の調節エレメント(プロモーター、複製起点、選択マーカー、リボソ
ーム結合部位、インデューサーなど)に作動可能に連結させる。発現ベクターは、染色体
外ベクターまたは組込みベクターであり得る。
【0265】
次いで、本発明の核酸及び/または発現ベクターを、多くの実施形態に利用できる哺乳
類細胞(例えばCHO細胞)とともに、哺乳類細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞及び
/または真菌細胞を含む当技術分野で周知の任意の数の異なる種類の宿主細胞に形質転換
する。
【0266】
本発明の抗体は、当技術分野において周知であるように、発現ベクター(複数可)を含
む宿主細胞を培養することによって作製する。一旦製造した後は、伝統的な抗体精製工程
を行う。
【0267】
XI.生物学的及び生化学的アッセイ
本発明の抗pSer413タウ抗体を、その有効性についていくつかの方法でアッセイ
することができる。予備的事項として、ELISA技術(例えば実施例2(1)参照)、
Octet、BiacoreまたはFACSなどの当技術分野で公知の技術を使用して、
S413位でリン酸化されているヒトタウタンパク質またはペプチドへの結合について、
抗体を試験することができ、その場合、本明細書に概説するように、リン酸化ペプチド(
例えば配列番号8)への結合と非リン酸化ペプチド(例えば配列番号69)への結合とを
比較する。
【0268】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示する抗体の結合効率をBiacoreアッセ
イによって測定する。特定の実施形態では、リン酸化タウタンパク質を用いてK値を測
定する。いくつかの実施形態では、リン酸化タウペプチドを用いてK値を測定する。一
実施形態では、リン酸化タウペプチドは1残基のみでリン酸化されている(例えば、配列
番号75)。別の実施形態では、リン酸化ペプチドは複数の残基でリン酸化されている(
例えば、配列番号76または配列番号78)。いくつかの実施形態では、固定化した抗原
(例えば、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド)を用いてK値を測定
し、その場合、親和性測定は、結合活性成分を含む、すなわち二価結合様式である。他の
実施形態では、固定化した抗体(例えば、マウス親抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体
変異体)を用いてK値を測定し、その場合、親和性測定は、結合活性成分を含まない、
すなわち一価結合様式である。さらに他の実施形態では、固定化した抗体及び分析物とし
てリン酸化タウタンパク質を用いてK値を測定する。さらに他の実施形態では、固定化
した抗体及び分析物としてリン酸化ペプチドを用いてK値を測定する。特定の実施形態
では、二価結合様式でK値を測定する。他の実施形態では、一価結合様式でK値を測
定する。
【0269】
さらに、本発明の抗pSer413タウ抗体はまた、ヒトAD脳ホモジネートにおける
結合親和性についてアッセイすることもでき、ならびにHEC293 タウP301L凝
集アッセイにおけるAD由来au種子の中和試験において、及び/またはマイクロ流体チ
ャンバーにおけるヒトiPSCニューロンを用いたAD由来タウ接種及び伝播モデルにお
いてアッセイすることができる。
【0270】
さらに、本発明の抗pSer413タウ抗体はまた、AD患者の脳試料の免疫組織化学
的アッセイにおいても使用することができる。
【0271】
さらに、本発明の抗pSer413タウ抗体を、アルツハイマー病(AD)を含む認知
障害の動物モデルにおけるその有効性についてアッセイすることができる。本発明の認知
障害のための治療薬または予防薬を研究するための動物には、認知障害のための動物モデ
ル、特にタウオパチーの動物モデルが含まれる。タウオパチーの動物モデルは、脳内に正
常型または変異型タウを発現する動物、特に認知機能の障害を示す動物モデルである。脳
内で正常型または変異型タウを発現するそのような動物は、遺伝子工学によって調製する
ことができ、典型的な例はトランスジェニックマウス(Tgマウス)である。変異型タウ
を発現するTgマウスなどの動物モデルは、遺伝性家族性タウオパチーのモデルとして有
用であるが、ヒトの大多数の症例を構成する散発性タウオパチーに対する治療薬または予
防薬の薬効試験については、正常型タウを発現するTgマウスにおいて効果を示すのが好
ましい。正常型タウを発現するTgマウスとして最も適しているのは、本発明の製造例で
調製するマウスであるが、特にトランスジェニックマウスの作製及び使用についていずれ
も全体を参照により本明細書に援用するKambe et al.(Neurobiol
ogy of Disease,Vol.42,P.404-414,2011)及びK
imura et al.(The EMBO J.vol.26.P.5143-51
52,2007)によって報告されたTgマウスを使用してもよい。しかしながら、認知
機能障害はKambeら及びKimuraらのマウスに認められるが、それはそれぞれ1
4ヶ月齢及び20ヶ月齢後に出現するため、発症時にはかなり老齢に達しており、加齢効
果もまた一因となる可能性があるが、一方で長期繁殖の影響や労力も課題である。
【0272】
動物モデルにおいて本発明による認知障害に対する治療薬または予防薬の効果を試験す
る好ましい方法は、認知機能を試験する記憶学習試験などの方法である。そのような方法
は、モリス水迷路試験、ステップスルー学習試験または新奇物質認識試験であってもよい
が、好ましくは、行動量と動物の不安の条件を考慮するために、オープンフィールド試験
などの行動測定試験の組み合わせである。
【0273】
本発明による認知障害の治療薬または予防薬の効果を調べる方法としては、認知障害の
動物モデルへの投与中に、脳組織中のタウタンパク質またはリン酸化タウのレベルを調べ
る方法を使用することができる。AD及び他の神経変性疾患において、タウタンパク質の
発現レベルまたは異常なリン酸化タウの増加は病理と関連している(Khalid Iq
bal et al.,Curr.Alzheimer Res.,Vol.7,p65
4-664,2010)。いくつかの病理学的モデル動物においてタウ発現及び異常なリ
ン酸化タウレベルを低下させることが認知機能及び運動機能の改善をもたらすこともまた
よく知られている(K.Santa Cruz et al.,Science,30,
Vol.9,p.476-481,2005;Sylvie Le Corre et
al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,Vol.103,p.9673
-9678,2006)。タウタンパク質またはリン酸化タウの変化を調べる方法として
は、実施例に記載のように脳組織ホモジネートを用いたウエスタンブロッティングなどの
方法によって達成することができるが、当業者であれば、ELISA(Xiyun Ch
ai et al.,J.Biol.Chem.,Vol.286,p.34457-3
4467,2011)または免疫組織化学的方法(David J.Irwin et
al.,BRAIN,Vol.135,p.807-818,2012)などの他の適切
な方法を選択することができる。
【0274】
XII.製剤
本発明に従って使用する抗体の製剤は、所望の純度の抗体を任意の薬学的に許容される
担体、賦形剤または安定化剤と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態
で保存用に調製される(Remington’s Pharmaceutical Sc
iences 16th edition,Osol,A.Ed.[1980]において
一般的に概説されているように)。
【0275】
本発明による認知障害の治療薬または予防薬は、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗
体に加えて、薬学的に許容される担体及び/または他の賦形剤を含有する医薬組成物の形
態で製剤化してもよい。薬学的に許容される担体及び/または他の賦形剤を用いた製剤化
は、例えばUniversity of the Sciences in Phila
delphia,“Remington:The Science and Pract
ice of Pharmacy,20th EDITION”,Lippincott
Williams & Wilkins,2000に記載される方法を用いて実施する
ことができる。そのような治療薬または予防薬は、成分を滅菌水性媒体もしくは油性媒体
に溶解、懸濁、もしくは乳化することによって調製される液体製剤として、またはそれら
の凍結乾燥製剤として提供してもよい。そのような製剤を調製するための媒体または溶媒
は、水性媒体であってもよく、その例として、注射用蒸留水及び生理食塩水溶液が挙げら
れ、これらを、場合により浸透圧調節剤(例えば、D-グルコース、D-ソルビトール、
D-マンニトール、及び塩化ナトリウム)を添加して使用してもよく、及び/または適切
な溶解助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プ
ロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)、または非イオン性界面活性剤(例
えば、ポリソルベート80またはポリオキシエチレン水添ヒマシ油50)と併用してもよ
い。そのような製剤を、油性媒体または油性溶媒を用いて調製することもでき、その例と
して、ゴマ油及びダイズ油が挙げられ、これらを、場合により溶解助剤、例えば安息香酸
ベンジル及びベンジルアルコールと併用することができる。そのような液体薬物は、多く
の場合、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤)、無痛化剤(例えば、塩化ベン
ザルコニウム及び塩酸プロカイン)、安定化剤(例えば、ヒト血清アルブミン及びポリエ
チレングリコール)、保存剤(例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、及びそれらの
塩)、着色剤(例えば、銅クロロフィルβ-カロチン、赤#2及び青#1)、防腐剤(例
えば、パラオキシ安息香酸エステル、フェノール、塩化ベンゼトニウム、及び塩化ベンザ
ルコニウム)、増粘剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセル
ロース、及びそれらの塩)、安定化剤(例えば、ヒト血清アルブミンマンニトール及びソ
ルビトール)、及び矯味矯臭剤(例えば、メントール及び柑橘系香料)などの適切な添加
剤を用いて調製され得る。様々な形態の治療薬または予防薬として、散剤、錠剤、顆粒剤
、カプセル剤、丸剤、坐剤、及びロゼンジ剤などの固形製剤が挙げられる。経口剤形で投
与するための固体製剤については、賦形剤(例えば結晶セルロース、ラクトース及びデン
プン)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム及びタルク)、結合剤(ヒドロキシプ
ロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴールなど)、及び崩
壊剤(例えば、デンプン及びカルボキシメチルセルロースカルシウム)などの添加剤を使
用してもよい。必要に応じて、防腐剤(例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール
、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル)、酸化防止剤、着色剤、甘
味料などの添加剤を使用してもよい。他の代替形態として、粘膜上に塗布するための治療
薬または予防薬が挙げられ、そのような製剤は、多くの場合、主に粘膜吸着または保持特
性を付与する目的のために、感圧接着剤、感圧性増強剤、粘度調整剤、増粘剤などの添加
剤を含む(例えば、ムチン、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナト
リウム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、トラガカントガム、アラビアゴム、キ
トサン、プルラン、ワキシーデンプン、スクラルファート、セルロース及びその誘導体(
ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル
酸アルキル(メタ)アクリレート共重合体、またはそれらの塩及びポリグリセリン脂肪酸
エステル)。しかしながら、体に投与する治療薬または予防薬の形態、溶媒及び添加剤は
これらに限定されるものではなく、当業者が適宜選択してもよい。
【0276】
本発明の認知障害治療薬または予防薬は、本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体に加えて
、認知障害の治療または予防の効果を有する他の公知の薬物、特に認知障害の進行を抑制
する効果を有する特定の薬物を含有していてもよい。あるいは、本発明のヒト化抗リン酸
化タウ抗体を含有する本発明の認知障害治療薬または予防薬を、認知障害の治療または予
防効果を有する公知の薬物、特に認知障害の進行を抑制する効果を有する薬物を含有する
他の治療薬または予防薬と組み合わせて、キットの形態で製造してもよい。認知障害の進
行を抑制する効果を有する成分として、ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、及びリ
バスチグミンが挙げられるが、これらに限定されない。認知障害の進行を抑制する効果を
有する成分の用量及び認知障害の進行を抑制する効果を有する成分を含む治療薬または予
防薬の用量は、通常の治療に用いる用量の範囲内であってもよいが、条件に応じて増減さ
せることができる。
【0277】
本発明者らは、WO2013/180238A(特許文献4)において、腹腔内投与に
より末梢投与した場合でも抗体が血液脳関門を介して脳に作用して薬効を発揮することを
示す実験結果を示したが、本発明の認知障害治療薬または予防薬に含まれる本発明のヒト
化抗リン酸化タウ抗体を脳組織に効率よく供給する製剤を調製することも可能である。そ
のような製剤はまた、本発明による認知障害のための治療薬または予防薬に包含される。
血液脳関門を介して脳組織に抗体またはペプチドを効率的に供給する方法、例えば、標的
物質を添加する方法またはリポソームもしくはナノ粒子に封入する方法が公知である。標
的化に使用する物質として、抗体、または特定の受容体もしくは輸送体と結合する性質を
有するペプチド、タンパク質もしくは他の化合物との結合によって電荷特性が全体的また
は部分的に変化する物質が挙げられる。特定の受容体または膜タンパク質と結合する性質
を有するペプチド、タンパク質または他の化合物の例として、受容体リガンドまたは膜タ
ンパク質と結合するリガンド、及びそれらの類似体、ならびに受容体リガンドまたは膜タ
ンパク質と結合する抗体、アゴニスト化合物/アンタゴニスト化合物/アロステリック調
節薬、及びそれらの類似化合物が挙げられる。特定の受容体または輸送体に結合する性質
を有するペプチド、タンパク質または他の化合物の標的としての受容体リガンドまたは膜
タンパク質の例として、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)
、インスリン様増殖因子受容体(IGFR)、LDL受容体関連タンパク質(LRP)及
びジフテリア毒素受容体(HB-EGF)が挙げられるが、これらに限定されない(An
gela R.Jones et al.,Pharm.Res.,2007,Vol.
24,No.9,pp.1759-1771)。本発明の認知障害治療薬または予防薬に
用いる抗体に標的物質を化学的に添加してもよく、その方法は当業者であれば公知の方法
、例えば、Hermanson et al.,Bioconjugate techn
iques,USA,Academic Press,1996に記載されている方法を
適宜参照して実施することができる。標的物質はまた、抗体またはペプチドを封入してい
るリポソームまたはナノ粒子に結合させてもよい(Sonu Bhaskar et a
l.,Particle and Fibre Toxicology,2010,7:
3)。さらに、標的物質がペプチドまたはタンパク質である場合は、当業者が遺伝子工学
技術を用いて、ペプチド化学合成により融合ペプチドを製造するか、またはペプチドもし
くはタンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸と、使用する抗
体もしくはペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を組み合わ
せるかのいずれかにより、適切な融合タンパク質として製造することができる。
【0278】
本発明による治療薬または予防薬は、症状の改善を目的として、それを必要とする患者
に経口的または非経口的に投与してもよい。経口投与の場合、顆粒剤、散剤、錠剤、カプ
セル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤またはエリキシル剤などの剤形を選択してもよ
い。非経口投与の場合、経鼻剤を調製してもよく、また、液剤、懸濁剤または固体製剤を
選択してもよい。異なる形態の非経口投与として注射剤を調製してもよく、注射は、皮下
注射、静脈内注射、注入、筋肉内注射、脳室内注射または腹腔内注射として選択される。
非経口投与に使用する他の製剤として、坐剤、舌下剤、経皮剤及び経鼻剤以外の経粘膜投
与剤が挙げられる。さらに、ステントまたは血管内閉塞具へ添加するかまたはコーティン
グする方式での血管内局所投与が可能である。
【0279】
本発明による治療または予防のための薬剤の用量は、患者の年齢、性別、体重及び症状
、治療効果、投与方法、治療時間、または医薬組成物中に含まれる有効成分の種類に応じ
て異なるであろうが、通常、成人への投与あたり0.1mg~1g、好ましくは0.5m
g~200mgの活性化合物の範囲で投与してもよい。しかしながら、用量は様々な条件
によって変化するため、上記の用量より少ない用量で十分であるか、またはこれらの範囲
を超える用量が必要な場合もある。本発明の治療薬または予防薬は、短い投与期間のうち
に効果を発揮することができる。
【0280】
XIII.抗体の投与
【0281】
一旦作製すると、本発明の抗体は、タウオパチーなどの認知障害の治療に利用すること
ができる。本明細書中で考察するように、タウタンパク質の細胞内蓄積が様々な神経病理
学的病態において示されている。そのようなタウの細胞内蓄積によって引き起こされる疾
患は、まとめて「タウオパチー」と呼ばれる(全体を参照により本明細書に援用するとと
もに、障害について概説している前出のArai参照)。タウオパチーとして、神経変性
疾患、例えば、アルツハイマー病(AD)、皮質基底核変性症(CBD)または皮質基底
核症候群(CBS)、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、
認知症を伴う多系統タウオパチー(MSTD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズ
ムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)、神経原線維変化認知症、石灰化を
伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー
(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-タウ)などが挙げ
られる。タウオパチーには:嗜眠性脳炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎などの感染症;ボク
サー病などの外傷による病態を含む、非神経変性疾患も含まれる。
【0282】
認知障害は、一旦発達したまたは獲得した知的機能が低下した状態を含む一種の知的障
害として定義されるが(“New Psychiatry(Nankodo’s Ess
ential Well-Advanced Series)”(日本語文献),Kun
itoshi Kamijima and Shin-ichi Niwa(編),Na
nkodo Co.,Ltd.,2008,pp.69-70)、広義には、知的障害及
び/または記憶障害を示す疾患であると考えられている。ADなどの神経変性疾患の診断
において、病態が「神経変性」であるかどうかは、例えば、死後の組織学的分析によって
神経原線維変化(NFT)が存在するかどうかについて分析することによって判定するが
、その一方で、医師は、様々な手段、例えば:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HD
S-R)及びミニメンタルステート検査(MMSE)などの問診による神経心理学的検査
;臨床認知症評価(CDR)または機能的評価病期分類(FAST)などの観察による神
経心理学的検査;例えば、タウ及びリン酸化タウのレベルの増加、または脳脊髄液中のA
βのレベルの増加に基づく生化学的検査;ならびに、例えば頭部CT、頭部MRI、SP
ECT、またはPETを介して得られた情報に基づく画像検査を用いて、認知障害、特に
神経変性疾患であると診断する。本発明の認知障害治療薬または予防薬は、神経変性疾患
の診断指標の少なくとも1つに基づいて、医師が認知障害を患っていると診断した患者に
対して投与され、投与前の病態に比べて患者の病態を改善するか、投与を介して病態の進
行を制御するか、または投与前の病態を維持するか、または投与前の病態に回復させる効
果を有する。
【0283】
本発明による認知障害の治療薬または予防薬は、ヒトまたはヒト以外の動物において、
認知機能を改善するか、または認知機能の低下を阻害するか、または認知機能を維持する
効果も有し得る。そのような非ヒト動物の例は、好ましくは、ヒトタウと高い相同性を有
するタウを発現する動物であるべきであり:チンパンジー、マカク、ウマ、ブタ、イヌ、
マウス、ウサギ、ラット及びネコが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0284】
XIV.実施例
A.実施例1:抗体の産生
1.マウス抗体(親抗体)
キメラ抗体及びヒト化抗体の親抗体としてマウス抗体Ta1505を使用した。マウス
抗体Ta1505の詳細は、国際公開第WO2013/180238A号の実施例に記載
されている。マウス抗体Ta1505の軽鎖(L鎖)のアミノ酸配列は配列番号44に定
義され、それをコードするヌクレオチド配列は配列番号45に定義される。マウス抗体T
a1505の重鎖(H鎖)のアミノ酸配列は配列番号46に定義され、それをコードする
ヌクレオチド配列は配列番号47に定義される。
【0285】
2.キメラ抗体
マウス抗体Ta1505の軽鎖(L鎖)及び重鎖(H鎖)の可変領域を、それぞれヒト
免疫グロブリン(Ig)G1(κ)のL鎖及びH鎖の定常領域と組み合わせることにより
、キメラ抗体を産生した。キメラ抗体の軽鎖(L鎖)のアミノ酸配列は配列番号48に定
義され、それをコードするヌクレオチド配列は配列番号49に定義される。キメラ抗体の
重鎖(H鎖)のアミノ酸配列は配列番号50に定義され、それをコードするヌクレオチド
配列は配列番号51に定義される。本明細書を通して、このキメラ抗体は、「キメラ抗体
」または「キメラ抗体Ta1505」と呼ばれる。
【0286】
3. ヒト化抗体
a.VL及びVHの設計
ヒト生殖系列から高い相同性を有する一次配列を選択し、相補性決定領域(CDR)の
移植によってヒト化を実施し、様々なヒト化抗体を設計した。
【0287】
詳細には、高い相同性を有するヒトフレームワークをデータベースから選択し;マウス
抗体Ta1505のCDR領域を各フレームワークに挿入し;例えば活性を維持しながら
免疫原性を低下させるために、アミノ酸置換を行った。それにより、様々な軽鎖可変領域
(VL)及び重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を設計した。VLのアミノ酸配列の配
列番号及びそれらをコードする遺伝子のヌクレオチド配列の配列番号を表2Aに示し、V
Hのアミノ酸配列及びそれらをコードする遺伝子のヌクレオチド配列の配列番号を表2B
に示す。VL及びVHのアミノ酸配列のアラインメントをそれぞれ図2A及び図2Bに示
す。
表2A:軽鎖可変領域(VL)
【表3】
表2B:重鎖可変領域(VH)
【表4】
【0288】
b.免疫原性スコアに基づくVLとVHの組み合わせの選択
上記の手順によって設計したVL及びVHを任意に組み合わせ、各組み合わせの免疫原
性スコア(DRB1スコア)をin vitroアッセイソフトウェアEpibase(
Lonza)によって計算した。以降の実験で使用するVLとVHの組み合わせは、免疫
原性スコアが所定値以下(DRB1スコア:1500)の低免疫原性を示す組み合わせか
ら選択した。選択したVLとVHの組み合わせを表3Aに示し、これらの組み合わせの免
疫原性スコア(DRB1スコア)を表3Bに示す。
表3A:選択したVLとVHの組み合わせ
【表5】
表3B:免疫原性スコア(DRB1スコア)
【表6】
【0289】
c.ヒト化抗体の発現培養及び精製
上記の手順によって選択したVL及びVHの各組み合わせについて、VL及びVHのア
ミノ酸配列をコードする遺伝子を調製した。VL遺伝子をヒト免疫グロブリンκL鎖定常
領域(CL)遺伝子にインフレームで融合させ(そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列
はそれぞれ配列番号52及び配列番号53に定義される)、VH遺伝子をヒト免疫グロブ
リンγ-1H鎖定常領域(CH)遺伝子にインフレームで融合させ(そのアミノ酸配列及
びヌクレオチド配列は、配列番号54及び配列番号55に定義される)、それにより、各
結合部位に突然変異または欠失は生じないはずである。VL遺伝子及びVH遺伝子の5’
末端を、それぞれヒト免疫グロブリンκL鎖遺伝子由来のシグナル配列(そのアミノ酸配
列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号56及び配列番号57に定義される)及び
ヒト免疫グロブリンγ-1H鎖遺伝子由来のシグナル配列(そのアミノ酸配列及びヌクレ
オチド配列は、それぞれ配列番号58及び配列番号59に定義される)にインフレームで
融合させ、それにより、各結合部位に突然変異または欠失は生じないはずである。
【0290】
上記手順で設計したシグナル配列融合L鎖及びH鎖をそれぞれコードする核酸構築物を
動物細胞発現用の発現ベクターに組み込み、ExpiCHO(Thermo Fishe
r Scientific K.K.製)を用いて、抗体を発現させるための標準的なプ
ロトコルに従って培養した。各培養物を遠心分離により清澄化し、得られた培養上清をプ
ロテインAアフィニティーカラムに供してヒト化抗体を精製した。pH2.8~3.5の
酸性溶液で溶出した画分を速やかに中和し、濃縮し、ゲルろ過カラムにかけて凝集物を除
去した。緩衝液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に変えて主要画分を集め、これを溶媒
で適切な濃度に希釈した後、以下の試験に用いた。
【0291】
以下の記載において、上記の手順によって産生した各ヒト化抗体は、そのVL及びVH
のコード名の組み合わせを使用して略記され得る。例えば、VLとしてL15及びVHと
してH11を使用して産生したヒト化抗体は、L15H11と呼ばれる。
【0292】
以下の試験では、特に指定しない限り、3%BSA/PBSを抗体濃度を調整するため
の溶媒として使用した。
【0293】
B.実施例2:抗原ペプチド結合親和性のELISA分析
1.抗原ペプチドに対する結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するいくつかのヒト化抗体を、酵素結合免疫
吸着測定法(ELISA)によって抗原ペプチドに対する結合親和性について分析した。
【0294】
非リン酸化タウペプチドPD17(Ser413)、及びSer413がリン酸化され
ているリン酸化タウペプチドPD17P(pSer413)をそれぞれ冷PBSで1μg
/mLに希釈し、得られた溶液を、それぞれプレートに50μL/ウェルで分注し、4℃
で一晩静置した。溶液を除去した後、ブロッキング緩衝液(3%ウシ血清アルブミン(B
SA)-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置した。溶液
を除去した後、抗体溶液を3%BSA-PBSで段階的に希釈し、次いで50μL/ウェ
ルでプレートに添加し、室温で90分間反応させた。非リン酸化タウペプチドPD17(
Ser413)及びリン酸化タウペプチドPD17P(pSer413)のアミノ酸配列
は、それぞれ配列番号60及び配列番号8に定義される。
【0295】
0.05%のTween20を含有するTween20含有トリス緩衝食塩水(TBS
-T)で各ウェルを洗浄した。希釈緩衝液(3%BSA-PBS)で2000倍に希釈し
たヤギ抗ヒトIgG-アルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co
.LLC製)を、50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で60分間反応させた。T
BS-Tで洗浄した後、発色溶液(1mg/mLのp-ニトロフェニルリン酸(pNPP
)溶液)を100μL/ウェルでプレートに添加して40分間発色させた。405nmの
波長で吸光度(光学濃度(OD)値)を測定した。
【0296】
各抗体のOD値と0.25nMキメラ抗体のOD値との比を決定し、得られた比を以下
の3点尺度で評価することにより、反応性を評価した。
【0297】
+:十分な反応性(0.6≦OD比)、
【0298】
±:非常にわずかな反応性(0.15<OD比<0.6)、及び
【0299】
-:反応性なし(OD比≦0.15)。
【0300】
表4Aは、抗体とリン酸化タウペプチドPD17Pとの反応性の評価結果を示す。表4
Bは、抗体と非リン酸化タウペプチドPD17との反応性の評価結果を示す。キメラ抗体
に比べて、全てのヒト化抗体はリン酸化タウペプチドPD17Pとより高い反応性を示し
たが、非リン酸化タウペプチドPD17とはより低い反応性を示した。これらの結果は、
ヒト化抗体がリン酸化タウペプチドと選択的反応性を有することを示している。
表4A:リン酸化ペプチドPD17Pとの反応性のELISA分析
【表7】
表4B:非リン酸化ペプチドPD17との反応性のELISA分析
【表8】
【0301】
2.リン酸化タウペプチドへの選択的結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVL及びVHの組み合わせを有するヒト化抗体のいくつかを、キメラ抗体
Ta1505を参照抗体として用いて、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって
、抗タウヒト化抗体のリン酸化タウペプチドに対する選択的結合親和性について分析した
【0302】
1μg/mLの非リン酸化ペプチドPD17またはリン酸化ペプチドPD17Pを含有
する溶液を50μL/ウェルでプレートに分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した
後、ブロッキング緩衝液(3%ウシ血清アルブミン(BSA)-PBS)を270μL/
ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置し、それにより各ウェルに非リン酸化ペプチ
ドPD17またはリン酸化ペプチドPD17Pを固定化したプレートを調製した。
【0303】
一連の5つの濃度の各抗体を、0.6μg/mL(4nM)の初期濃度から始めて、4
倍連続希釈によって調製した。各溶液を50μL/ウェルでプレートのウェルに添加して
、室温で1時間反応させた。洗浄工程後、ヤギ抗ヒトIgGアルカリホスファターゼ標識
(Sigma-Aldrich Co.LLC.製)を2000倍に希釈した後、50μ
L/ウェルで各ウェルに添加してさらに一時間反応させた。
【0304】
洗浄工程後、1mg/mLのp-ニトロフェニルリン酸(pNPP)溶液を各ウェルに
100μL/ウェルずつ添加して20分間反応させた。405nmの波長で吸光度(OD
)を測定した。
【0305】
調製した各抗体の各濃度における吸光度ODのデータを、SoftMax Proソフ
トウェアVer.6.5(Molecular Devices Corporatio
n)を用いて分析し、下記の4つのパラメータロジスティック回帰曲線に割り当てられた
以下の数値A~Dを決定した:
【0306】
【数1】
式中、
xは抗体の濃度を表し、及び
yは吸光度(OD値)を表す。
【0307】
1nMの濃度の非リン酸化ペプチドPD17の吸光度OD値を発現に入力して、OD値
に対応する各抗体の濃度xを計算した。PD17の濃度は1nMであったため、各ペプチ
ドについてのPD17への結合親和性に基づくリン酸化タウペプチドPD17Pへの結合
親和性のスケールファクターを1/xで計算し、リン酸化タウペプチドへの選択的結合親
和性の指標として使用した。
【0308】
結果を図3のグラフに示す。リン酸化タウペプチドPD17Pに対するキメラ抗体Ta
1505の結合親和性は、非リン酸化ペプチドPD17に対する親和性の30倍であった
。対照的に、ヒト化抗体における選択的結合親和性は、高い選択性を示し、スケールファ
クターは40~210倍であった。この結果は、ヒト化抗体がリン酸化ペプチドに対して
特異的結合親和性を有することを示している。
【0309】
3.リン酸化タウペプチドを用いたSer413リン酸化部位への選択的結合親和性の
ELISA分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するヒト化抗体を、様々なリン酸化ペプチド
を用いたELISAにより、タンパク質の主要リン酸化部位のうちSer413リン酸化
部位に選択的に結合する能力について、それぞれ分析した。
【0310】
表5に示すように、12個のリン酸化ペプチドを使用した。「エピトープ」と命名され
た列は、4R2N型タウタンパク質のリン酸化部位(複数可)を示しており(例えば、ペ
プチド番号1の「pS46」は、Ser46の部位がリン酸化エピトープであることを示
し、複数のエピトープの記載は、1つのペプチドが2つまたは3つのリン酸化部位を有す
ることを示す)、例外として、ペプチド番号12は、Ser413部位を含むエピトープ
を有するがリン酸化されていない(PD17)。
表5:タウタンパク質Ser413リン酸化部位への特異的結合を分析するためのペプチ

【表9】
【0311】
表5に示した12個のペプチド、すなわちペプチド番号1~12、またはこれらのペプ
チドとウシ血清アルブミン(BSA)もしくはキーホールリンペットヘモシアニン(KL
H)との複合体を、4℃に冷却したPBSでそれぞれ希釈して1μg/mLとし、得られ
た溶液を50μL/ウェルでプレートに分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した後
、ブロッキング緩衝液(3%BSA-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレート
を4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、精製抗体を3%BSA-PBSで150ng
/mLに希釈し、次いで50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で90分間反応させ
た。0.05%Tween20を含むトリス緩衝食塩水(TBS-T)で各ウェルを洗浄
した。希釈緩衝液(3%BSA-PBS)で2000倍希釈したヤギ抗ヒトIgG(H+
L)-アルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co.LLC.製)
を50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で60分間反応させた。TBS-Tで洗浄
した後、発色溶液(1mg/mL pNPP溶液)を100μL/ウェルでプレートに添
加し、40分間発色させた。測定波長405nm、基準波長550nmで吸光度(OD値
)を測定した。
【0312】
反応性は、以下の3点尺度で評価した。
+:十分な反応性(1.0≦OD値)、
±:非常にわずかな反応性(0.5≦OD値<1.0)、及び
-:反応性なし(OD値<0.5)。
【0313】
結果を表6に示す。全てのヒト化抗体は、ペプチド番号9(pSer412/pSer
413:PRHLSNV(pS)(pS)TGSIDMVD)、ペプチド番号10(pS
er413:PRHLSNVS(pS)TGSIDMVD)、及びペプチド番号11(p
Ser409/pSer412/pSer413:PRHL(pS)NV(pS)(pS
)TGSIDMVD)に対してのみ強い結合親和性を示したが、タウタンパク質のSer
413に対応する部位がリン酸化されていなかった他のペプチドには結合しなかった。結
合のパターン及び強度は、キメラ(キメラ抗体Ta1505)と実質的に同じであった。
これらの結果は、ヒト化抗体がリン酸化Ser413部位を有するタウタンパク質に特異
的な結合親和性を有することを示している。
表6:様々なリン酸化タウペプチドとの反応性のELISA分析の結果
【表10】
【0314】
C.実施例3:抗原タンパク質に対する結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するいくつかのヒト化抗体を、ELISAに
より、抗原タンパク質に対する結合親和性について分析した。
【0315】
リン酸化タウタンパク質pTauを調製するために、バキュロウイルス系を用いて昆虫
細胞中でタウタンパク質4R2Nを発現させた。また、高リン酸化タウタンパク質hpT
auを作製するために、タウタンパク質とGSK3βを同時に発現することが可能な組換
えバキュロウイルスを作製した。
【0316】
組換えバキュロウイルスの製造において、pFastBac1及びpFastBac
Dualベクターを使用した。リン酸化タウタンパク質pTauについては、Hisタグ
付加C末端を有するタウタンパク質4R2NをコードするcDNAをpFastBac1
に挿入した。高リン酸化タウタンパク質hpTauについては、Hisタグ付加C末端を
有するタウタンパク質4R2NをコードするcDNA及びGSK3βをコードするcDN
AをpFastBac Dualに挿入した。Hisタグ付加タウタンパク質4R2Nの
アミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号70及び71に定義される。G
SK3βのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号72及び73に定義
される。
【0317】
得られたベクターを、それぞれリポフェクションにより細胞株Sf9に導入し、細胞を
培養して組換えバキュロウイルスを調製した。次いで、得られた組換えバキュロウイルス
を用いて細胞株Sf9またはTn5を感染させ、それによってリン酸化タウタンパク質(
pTau)及び高リン酸化タウタンパク質(hpTau)を発現させた。
【0318】
所望のタンパク質を発現する細胞を収集し、超音波処理及び遠心分離にかけて細胞溶解
物を得て、次いでこれをNi-NTAカラムにかけてタウタンパク質を精製した。精製タ
ウタンパク質の濃度は、標準試料としてウシ血清アルブミン(BSA)を用いて、ビシン
コニン酸(BCA)アッセイにより決定した。
【0319】
得られた高リン酸化タウタンパク質(hpTau)及びリン酸化タウタンパク質(pT
au)を、冷却したPBSを用いて1μg/mLに希釈し、希釈液を50μL/ウェルで
プレートに分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、ブロッキング緩衝液(3%
BSA-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置した。緩衝
液を除去した後、3%BSA-PBSで段階希釈して調製した一連の抗体溶液を50μL
/ウェルでプレートに添加し、室温で90分間反応させた。
【0320】
その後、0.05%Tween20を含むトリス緩衝食塩水(TBS-T)でウェルを
洗浄した。希釈緩衝液(3%BSA-PBS)で2000倍希釈したヤギ抗ヒトIgG-
アルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co.LLC.製)を50
μL/ウェルでプレートに添加し、室温で60分間反応させた。TBS-Tで洗浄した後
、発色溶液(1mg/mL pNPP溶液)を100μL/ウェルでプレートに添加し、
40分間発色させた。405nmの波長で吸光度(OD値)を測定した。
【0321】
各抗体のOD値と0.25nMキメラ抗体のOD値との比を決定し、得られた比を以下
の3点尺度で評価することによって反応性を評価した。
+:十分な反応性(0.6≦OD比)、
±:非常にわずかな反応性(0.15<OD比<0.6)、及び
-:反応性なし(OD比≦0.15)。
【0322】
表7Aは、ヒト化抗体と高リン酸化タウタンパク質hpTauとの反応性を評価した結
果を示す。表7Bは、ヒト化抗体とリン酸化タウタンパク質pTauとの反応性を評価し
た結果を示す。結果は、全てのヒト化抗体が、キメラ抗体の反応性に比べて、高リン酸化
タウタンパク質hpTau及びリン酸化タウタンパク質pTauの両方に対して高い反応
性を有することを示している。
表7A:高リン酸化タウタンパク質hpTauとの反応性のELISA分析の結果
【表11】
表7B:リン酸化タウタンパク質pTauとの反応性のELISA分析の結果
【表12】
【0323】
D.実施例4:SPRによる結合親和性の分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するいくつかのヒト化抗体を、参照抗体とし
てキメラ抗体Ta1505を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)による結合親和性分
析に供した。
【0324】
抗原タンパク質として高リン酸化タウタンパク質4R2N(hpTau:実施例3参照
)を用い、陰性対照としてEscherichia coliにより産生した非リン酸化
タウタンパク質(Tau:Hisタグ付加非リン酸化タウタンパク質4R0N:ATGe
n Co.Ltd.、カタログ番号:ATGP0795)を用いた。使用した抗原ペプチ
ドは、Ser413のみがリン酸化されたモノリン酸化タウペプチド(1×P)、及びS
er413に加えてSer409及びSer412がさらにリン酸化されたトリリン酸化
タウペプチド(3×P)であった。これらのペプチドのアミノ酸配列を表8に示す。使用
した陰性対照ペプチドは非リン酸化タウペプチド(Non P)であり、そのアミノ酸配
列も表8に示す。Hisタグ付加非リン酸化タウタンパク質4R0Nのアミノ酸配列は、
配列番号74に定義される。モノリン酸化タウペプチド1×P、トリリン酸化タウペプチ
ド3×P、及び非リン酸化タウペプチドNon Pのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号
75、76、及び77に定義される。
表8:SPRに使用する抗原ペプチド
【表13】
【0325】
高リン酸化タウタンパク質4R2N(hpTau)、非リン酸化タウタンパク質4R0
N、モノリン酸化タウペプチド1×P、トリリン酸化タウペプチド3×P、及び非リン酸
化タウペプチドNon Pと、各抗体との結合親和性を、SPRシステムBiacore
T200(GE Healthcare Japan)を用いて、そのシステムに添付
された評価用の取扱説明書に従って測定した。
【0326】
結合親和性を:NTAセンサーチップ(ニトリロ三酢酸(NTA)が既に固定化されて
いるカルボキシメチルデキストラン層を含む:コード番号BR-1005-32)を調製
し;アミンカップリングキット(GE Healthcare Japan、コード番号
BR-1006-33)を用いたアミンカップリング反応を介して、His-tagと融
合した上記各ペプチド及び表8に示す各抗原ペプチドを共有結合によりセンサーチップ上
に固定化し;及び固定化したタンパク質及びペプチドに対する抗体の結合速度を測定する
ことを含む方法により測定した。
【0327】
固定化反応溶液としてHBS-N緩衝液(コード番号BR-1003-69)を用い、
塩化ニッケル溶液と、NiをNTAに結合させるためのNTAセンサーチップとを反応さ
せることにより、Hisタグ付加hpTauまたはTauタンパク質をそれぞれセンサー
チップ上に固定化した。続いて、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-
カルボジイミド塩酸塩(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミ
ド塩酸塩:EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の混合溶液でセンサーチ
ップを活性化した。4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(
HEPES)緩衝液(0.01M HEPES、150mM KCl、2mM DTT、
1mM EDTA、pH7.2)で100~500ng/mLの濃度に調整した、各Hi
sタグ付加タンパク質の溶液をセンサーチップに塗布し、それによってタンパク質をNi
-NTAとの共有結合によりセンサーチップ上に固定化した。残りの活性NHSをエタノ
ールアミンでブロックし、NiイオンをEDTA溶液で除去した(Ni-親和性アミンカ
ップリング:国際公開第WO2005/022156号参照)。NTAセンサーチップを
N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)塩酸塩
とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の混合溶液で活性化することにより、抗原ペ
プチド(1×P、3×P、及びNon P)をそれぞれセンサーチップ上に固定化し、そ
の後、10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4~4.5)で1~10μMに希釈した抗原
ペプチドの溶液をセンサーチップに塗布し、それにより、ペプチドをセンサーチップ上に
共有結合させた。残りの活性NHSをエタノールアミンでブロックした。このようにして
、上記のタンパク質及びペプチドをそれぞれ固定化したセンサーチップを作製した。
【0328】
CAPS緩衝液(pH 10.5)をこれらのセンサーチップに37℃で塗布して、タ
ンパク質またはペプチドで固定化したセンサーチップ表面を安定化させた。特異的結合反
応溶液としてHEPES緩衝液(pH7.2)を用いて調製した各抗体の溶液を、反応さ
せるために150秒間(同じ評価では一様)、センサーチップ表面に0.2~1nMの範
囲(推定結合解離定数[KD]付近)の濃度で塗布し、結合速度を測定した。得られたデ
ータを、Biacore分析ソフトウェア(Biacore T200評価ソフトウェア
、バージョン3.0)を用いて分析した。
【0329】
各抗体の結合速度は、抗原タンパク質4R2N(hpTau)のセンサーチップへの結
合速度から陰性対照としての非リン酸化タンパク質4R0Nのセンサーチップへの結合速
度を差し引くことによって補正した。各抗原ペプチドの結合速度は、抗原ペプチド1×P
及び3×Pのそれぞれの結合速度から陰性対照としての非リン酸化ペプチドNon Pの
センサーチップへの結合速度を差し引くことによって補正した。測定に供した試料濃度の
範囲内で、非リン酸化タウタンパク質4R0Nまたは非リン酸化ペプチドNon Pへの
各抗体の結合は観察されなかった。
【0330】
表9Aは、リン酸化タウタンパク質4R2N(hpTau)に対するヒト化抗体の結合
活性を示す。表9Bは、モノリン酸化タウペプチド1×P及びトリリン酸化タウペプチド
3×Pに対するヒト化抗体の結合活性の結果を示す。結果は、各ヒト化抗体が、高リン酸
化タウタンパク質hpTau、モノリン酸化タウペプチド1×P、及びトリリン酸化タウ
ペプチド3×Pの全てに対して高い結合活性を示したことを示している。
表9A:リン酸化タウタンパク質(hpTau)に対するヒト化抗体の結合活性(1:1
結合モデル)
【表14】
表9B:リン酸化ペプチド(1×P、3×P)に対するヒト化抗体の結合活性(1:1結
合モデル)
【表15】
【0331】
E.実施例5:AD患者脳ホモジネート中のpSer413-タウの結合親和性分析
参照抗体としてマウス抗体Ta1505及びキメラ抗体を用いて、表3Aに示すVL及
びVHの組み合わせを有するヒト化抗体のうち、L15H11、L46H11、及びL4
7H65を、液相中のアルツハイマー病(AD)患者臨床試料由来のSer413リン酸
化タウタンパク質(pSer413-タウ)への結合親和性について評価した。
【0332】
ヒト化抗体、マウス抗体、及びキメラ抗体を、N-ヒドロキシスクシンイミド-LC-
ビオチン(NHS-LC-ビオチン)(Thermo Fisher Scientif
ic K.K.)を用いてそれぞれビオチン化し、続いてPBSで透析した。
【0333】
Braak病期V/VIのAD患者の脳由来の凍結海馬組織(160mg)を0.8m
LのTBS-I(トリス緩衝食塩水、プロテアーゼ阻害剤カクテル、ホスファターゼ阻害
剤カクテル)に添加し、氷水中で超音波処理した。超音波処理した溶液を4℃、3000
×gで10分間遠心し、上清を回収し、さらに4℃、100000×gで15分間超遠心
して脳ホモジネートを取得した。Innotest pTau(pT181)キット(F
ijirebio Inc.)をSer413リン酸化タウタンパク質(pSer413
-タウ)のELISAシステムとして使用したが、キットに含まれるビオチン化抗体(C
ONJ1と表示)を上記で生成したビオチン化抗体で置換した。
【0334】
上記で作製したビオチン化抗体のそれぞれを0.1nMの濃度で溶液にし、1000倍
希釈の脳ホモジネートと共にHT7抗体固定化MTプレート(キットに含まれる)に添加
した。得られた試料を混合し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを洗浄し
、HRP標識ストレプトアビジン(キットにCONJ2として含まれる)をプレートに添
加し、続いて1時間インキュベートした。洗浄後、発色試薬TMBを加え、遮光下室温で
30分間インキュベートした。次いで反応停止剤溶液(キット中にSTOP溶液として含
まれる)を用いて反応を停止させ、450nmの波長での吸光度を測定した。
【0335】
結果を図4に示す。図4のグラフに示すように、ヒト化抗体L15H11、L46H1
1、及びL47H65は全て、AD患者の臨床試料由来のSer413リン酸化タウタン
パク質(pSer413-タウ)に対して高い結合親和性を示した。
【0336】
F.実施例6:血中速度試験
5つの初期ヒト化抗体変異体を、正常マウスにおけるその薬物動態について、市販の抗
体ハーセプチン(Genentech,south San Francisco,CA
)及びキメラTa1505抗体と比較して試験した。各ヒト化抗体変異体の軽鎖及び重鎖
を以下の表10にまとめる。
【0337】
表10.いくつかの初期ヒト化抗体変異体の軽鎖及び重鎖
【表16】
【0338】
11週齢のオスのC57BL/6Jマウス(Charles River Labor
atories Japan,Inc.)に10mg/kgの用量で抗体を腹腔内注射し
た。投与後1、3、8、24、及び72時間に収集した血液から血漿を得た。試料サイズ
は、抗体あたり動物2匹であった。
【0339】
抗ヒトIgGポリクローナル抗体によるサンドイッチELISAを用いて血漿抗体濃度
を決定した。マウス血漿を用いて各抗体を段階希釈することにより検量線をプロットした
【0340】
血漿を1,000倍に希釈し、抗体濃度を測定した。
【0341】
ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体の1μg/mLのPBS溶液を96ウェ
ルプレート(MaxSorp(NUNC))にピペットで移し、4℃で一晩静置した。そ
の後、3%BSA/PBSでブロッキングを行い、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリ
クローナル抗体を含むプレートを調製した。マウス血漿を用いて抗体を段階希釈し、標準
物質を得た。血漿及び標準物質を3%BSA/PBSで希釈し、固定化ヤギ抗ヒトIgG
(Fc)ポリクローナル抗体を含むプレートに50μL/ウェルで、ピペットで移した。
混合物を室温で1.5時間反応させ、次いでプレートをTBS-T(TBS、0.05%
Tween20)で洗浄した。その後、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+
L)ポリクローナル抗体(Southern Biotech、カタログ番号2087-
04)を3%BSA/PBSで2000倍に希釈した溶液を50μL/ウェルで、ピペッ
トで移し、反応を室温で1時間進行させた。次にプレートをTBS-Tで洗浄し、発色試
薬を100μL/ウェルで添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。その後
、プレートリーダーを用いて405nmと550nmの吸光度を測定した。
【0342】
検量線を標準物質でプロットし、これを用いて血漿抗体濃度を計算した。結果を図5A
に示す。
【0343】
試験した最初のヒト化変異体(変異体2、5、6、9、及び10)は、投与後8時間で
、ハーセプチン及びキメラ抗体のレベルに比べて血漿濃度の急速な減少を示し、これは注
射後最大3日間、高く安定していた。これらの初期ヒト化抗体は、キメラ抗体に比べてよ
り短い半減期及び低いPK特性を示したが、これは、これらの変異体の高いpI値に起因
する可能性が高い。キメラ抗体のPKに達するためにはさらなる改良が必要であった。
【0344】
【0345】
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するヒト化抗体のうち、L15H11、L4
6H11、及びL47H65を血中動態の試験に供した。使用した参照抗体は、特許情報
またはデータベース情報に開示されているアミノ酸配列情報に基づく組換え発現により作
製した、AD治療の臨床試験に使用するキメラ抗体Ta1505及び公知のヒト化抗体で
ある。具体的には、international ImMunoGeneTics in
formation system(登録商標)(IMGT)(http://www.
imgt.org)のデータベースをソラネズマブ(抗A□抗体、Eli Lilly
and Company)について参照し;IPN007(抗タウN末端抗体、Bris
tol-Myers Squibb iPierian)には、WO2014/2009
21A1に開示されているVH2Vk3のアミノ酸配列を使用し;また、MAb3221
(抗タウ-pS422抗体、Roche Diagnostics K.K.)には、W
O2015/091656A1に開示されているVH32VL21のアミノ酸配列を使用
した。
【0346】
各抗体を11週齢のオスのC57BL/6Jマウス(Charles River L
aboratories Japan,Inc.)にそれぞれ10mg/kgの濃度で腹
腔内投与した。投与後1、3、8、及び24時間時点、さらには3日目及び7日目に血液
を採取して血漿を収集した。各抗体を3回試験した(N=3)。
【0347】
血漿中の抗体濃度は、抗ヒトポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAによ
り測定した。具体的には、96ウェルプレート(Max Sorp(NUNC))に1μ
g/mLのヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体(Southern Biot
ech)を含むPBS溶液を加え、4℃で一晩固定化し、3%BSA-PBSでブロッキ
ングし、これによりヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体固定化プレートを作製
した。
【0348】
これとは別に、既知濃度の一連の標準抗体試料を、抗体を投与しなかったマウスから採
取した血漿で各抗体を段階希釈することにより調製し、検量線の作成のために測定した。
【0349】
測定対象の血漿試料及び標準試料をそれぞれ10000倍に希釈し、ヤギ抗ヒトIgG
(Fc)ポリクローナル抗体固定化プレートに50μL/ウェルで添加し、室温で1時間
30分反応させ、その後、プレートをTBS-T(トリス緩衝食塩水、0.05%Twe
en20)で洗浄した。その後、3%BSA-PBSで2000倍に希釈したアルカリホ
スファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Southern Bi
otech)の溶液を50μL/ウェルでプレートに添加して室温で1時間反応させた。
TBS-Tで洗浄後、発色溶液(1mg/mL pNPP溶液)を100μL/ウェルで
プレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。次いで、プレートリーダーを用い
て405nmの測定波長及び550nmの基準波長で吸光度を測定した。標準試料の測定
結果に基づいて検量線を作成し、この検量線を用いて各血漿試料中の抗体濃度を算出した
【0350】
図5Bは、血漿中の抗体濃度の経時変化を示すグラフである。グラフから明らかなよう
に、ヒト化抗体L15H11(LC配列番号32 HC配列番号18)、L46H11(
LC配列番号36、HC配列番号18)、及びL47H65(LC配列番号38、HC配
列番号30)(全てヒトIgG1(配列番号135)及びヒトκ(配列番号79)を使用
)は、キメラ抗体Ta1505と実質的に同じ血中動態を示した。これらのヒト化抗体L
15H11、L46H11、及びL47H65の血中動態は、公知のヒト化抗体IPN0
07及びMAb3221の血中動態に匹敵し、公知のヒト化抗体ソラネズマブの血中動態
より有意に優れていた。
【0351】
G.実施例7:脳内移行の分析
血漿中薬物動態を向上させたヒト化変異体の脳内濃度を分析する試験を実施した。
【0352】
抗体の注射の1週間後に、親マウス抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体(L1
5H11、L36H11、L46H11、L48H12、L48H47、L48H64、
L47H65、またはL48H11)を注射したマウスから血液を採取した。次に、動物
を3種麻酔カクテルで麻酔し、開腹し、そして腹部大動脈を介して放血させた。その後、
脳組織を採取した。この採取した脳組織を左右の半球に分け、ドライアイス/エタノール
で凍結させ、-80℃で保存した。凍結させた各半球を秤量し、2mLチューブに移した
。次に、0.8mLのTBS-I(トリス緩衝食塩水、プロテアーゼ阻害剤カクテル及び
ホスファターゼ阻害剤カクテル)を加え、混合物を氷水中で超音波処理した。超音波処理
した混合物を3000×g、4℃で10分間遠心分離し、上清を集めた。上清をさらに1
00,000×g、4℃で15分間遠心して脳ホモジネートを得た。
【0353】
ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体の10μg/mLのPBS溶液を96ウ
ェルプレート(MaxSorp(NUNC))にピペットで移し、4℃で一晩静置した。
その後、3%BSA/PBSでブロッキングを行い、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポ
リクローナル抗体を含むプレートを作製した。抗体を注射していないマウスから得た脳ホ
モジネートを用いて抗体を段階希釈し、標準物質を得た。
【0354】
脳ホモジネート及び標準物質を10倍に希釈し、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリ
クローナル抗体を含むプレートに50μL/ウェルで、ピペットで移した。混合物を室温
で2時間反応させ、次いでプレートをTBS-T(TBS、0.025%Tween20
)で洗浄した。次に、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナ
ル抗体(Sigma、カタログ番号SAB3701337-1MG)を3%BSA/PB
Sで2000倍に希釈した溶液を50μL/ウェルで、ピペットで移し、反応を室温で1
時間進行させた。次に、プレートをTBS-Tで洗浄し、発色試薬pNPP(Sigma
、カタログ番号P7998)を100μL/ウェルで加え、プレートを室温で1時間イン
キュベートした。その後、プレートリーダーを用いて405nmと550nmの吸光度を
測定した。
【0355】
標準物質を用いて検量線をプロットし、これを用いて脳ホモジネート中の抗体濃度を計
算した。脳重量(全脳容積)あたりの抗体濃度を決定し、血漿濃度に対する比を計算した
【0356】
図6Aは、良好な薬物動態を有するヒト化抗体変異体(例えば、図5BによるL15H
11、L46H11、及びL47H65)の脳内濃度が向上していたことを示す。
【0357】
AD治療のための臨床試験に使用したキメラ抗体Ta1505及び公知のヒト化抗体ソ
ラネズマブ、IPN007、及びMAb3221を参照抗体として用いて、ヒト化抗体L
15H11、L46H11、及びL47H65のそれぞれの脳内移行を分析した。
【0358】
実施例6における各抗体の投与の1週間後、マウスから血液を採取し、次いでマウスを
3種類の混合麻酔薬による麻酔下で開腹術に供した。腹部大静脈からの放血による死亡後
、脳組織を採取した。収集した脳組織を左右の半球に分け、それらをドライアイスエタノ
ール中で凍結させ、-80℃で保存した。凍結させた半球のそれぞれを秤量し、2mLの
チューブに移し、そこに0.8mLのTBS-I(トリス緩衝食塩水、プロテアーゼ阻害
剤カクテル、及びホスファターゼ阻害剤カクテル)を加えた。次いで各半球を氷水中で超
音波処理した。超音波処理した溶液を4℃、3000×gで10分間遠心し、上清を回収
し、さらに4℃、100000×gで15分間超遠心して脳ホモジネートを得た。
【0359】
脳ホモジネート中の抗体レベルを、抗ヒトポリクローナル抗体を用いた抗原ELISA
によって測定した。具体的には、10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG Fcを含むPBS
溶液を96ウェルプレート(Max Sorp(NUNC))に添加し、4℃で一晩固定
化した後、3%BSA-PBSでブロッキングし、それによって固定化プレートを製造し
た。
【0360】
これとは別に、既知濃度の一連の抗体標準試料を、抗体を投与していないマウスから採
取した脳ホモジネートで各抗体を段階希釈することによって調製し、検量線の作成のため
に測定した。
【0361】
脳ホモジネート及び測定する標準試料をそれぞれ0.1%スキムミルク-3%BSA-
PBSで10倍希釈し、50μL/ウェルでPD17(P)固定プレートに添加し、室温
で2時間反応させた。次にプレートをTBS-T(TBS、0.05%Tween20)
で洗浄した。続いて、0.1%スキムミルク-3%BSA-PBSで2000倍に希釈し
たアルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Sigma
-Aldrich Co.LLC.、カタログ番号SAB3701337:1mg)の溶
液を50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で1時間反応させた。プレートをTBS
-Tで洗浄した後、pNPP(Sigma-Aldrich Co.LLC.、カタログ
番号P7998:100mL)を発色基質として100μL/ウェルで添加し、続いて室
温で1時間インキュベートした。次いで、プレートリーダーを用いて405nmの測定波
長及び550nmの参照波長で吸光度を測定した。標準試料の測定結果に基づいて検量線
を作成し、その検量線を用いて各脳ホモジネート試料中の抗体レベルを求め、脳内抗体レ
ベルとして評価した。
【0362】
さらに、開腹前に採取した血液を用いて実施例6と同様にして血漿中の抗体レベルを測
定し、血漿中の抗体レベルに対する脳内の抗体レベルの比を算出した。
【0363】
図6Bは、脳内の各抗体のレベルの、血漿中の対応する抗体のレベルに対する比を示す
グラフである。ヒト化抗体L15H11、L46H11、及びL47H65の血漿中の抗
体濃度に対する脳内の抗体濃度の比は、キメラ抗体Ta1505及び公知のヒト化抗体I
PN007、MAb3221、及びソラネズマブの抗体濃度比に比べて高かった。この結
果は、これらのヒト化抗体が脳への高い移行性を有することを示している。
【0364】
実施例8:選択的ヒト化抗体のさらなる開発
VL46のCDR1配列にさらなる変異を導入し、脱アミド化ホットスポットを除去し
、及び/またはCDR配列を親マウス配列に戻した。表11は、VL46 CDR1に導
入した変異をまとめたものである。
表11.VL46 CDR1に導入した変異
【表17】
【0365】
さらに、新たに生成されたヒト化抗体変異体において、S228P変異を有するIgG
1及びIgG4を含む異なるIgGアイソタイプを試験した。表12は、親マウス抗体及
びキメラ抗体とともに、新たに生成されたヒト化抗体変異体の軽鎖及び重鎖をまとめたも
のである。
表12.特異的抗体の軽鎖及び重鎖
【表18】
【0366】
H.実施例9:新たに生成されたヒト化抗体変異体のBiacore(商標)結合分析
新たに生成されたヒト化抗体変異体の結合親和性を、Biacore(商標)T200
及び4000のバイオセンサー(GE Healthcare、Chicago、IL)
を用いて測定した。以下のランニング緩衝液:10mM HEPES(GE Healt
hcare、BR100671)、150mM NaCl(GE Healthcare
、BR100671)、0.05%v/v界面活性剤P20(GE Healthcar
e、BR100671)、2mM DTT(Sigma、10708984001、St
.Louis,MO)、及び1mM EDTA(GE Healthcare、2899
5043)を、以下に特に記載のない限り、固定化、試料希釈及びデータ収集に使用した
【0367】
固定化したタンパク質とは、チップ上に固定化した組換えヒトリン酸化タウタンパク質
を指し;固定化した1×Pペプチドとは、チップ上に固定化したリン酸化ペプチド(TS
PRHLSNVS(pS)TGSIDMVDSPC、配列番号75)を指す。これらの方
法は両方とも、親和性測定に対する結合活性成分を有する。4×Pペプチド分析物は、チ
ップ上に捕捉された抗体及び溶液中の4×リン酸化ペプチド(GAEIVYK(pS)P
VVSGDT(pS)PRHLSNVS(pS)TGSIDMVD(pS)PQLATL
ADEVSASLAKQGL、配列番号78)を有する。
【0368】
固定化したリン酸化タウタンパク質への抗体の結合を、シリーズSセンサーチップNT
A(GE Healthcare、BR100034)を用いて測定した。固定化のため
のランニング緩衝液は、10mM HEPES、150mM NaCl、0.05%v
/v界面活性剤P20、pH7.4(GE Healthcare、BR100671)
であり、流速は10μL/分であった。350mMのEDTAを1分間注入してチップを
洗浄し、続いて0.5mMのNiCl(GE Healthcare、NTA試薬キッ
ト)を2分間注入して、hisタグ付加タンパク質を捕捉するためのチップを調製した。
アミンカップリングキット(GE Healthcare、BR100633)を使用し
て製造元の指示に従ってチップを活性化し、次に300nMのリン酸化タウタンパク質(
80AWB)を所望の量のタンパク質が固定化されるまで注入した。アミンカップリング
キットのエタノールアミンでチップをブロックした。各実験は、複数レベルの固定化リン
酸化タウタンパク質を使用した。最低レベルは54レゾナンスユニット(RU)~452
RUの範囲で様々であり、最高レベルは463RU~1020RUの範囲で様々であった
。固定化リン酸化タウタンパク質に結合するTa1505抗体の親和性を測定するために
、0.37nM~30nMの濃度が得られる、各抗体の5点構成の3倍希釈系列を調製し
た。各濃度及びいくつかの緩衝液のブランクを流速45μl/分で3分間注入した。抗体
の解離を15分間モニタリングした後、100mM CAPS(Sigma、C6070
)、1M KCl(Sigma、P9541)、1mM EDTA、2mM DTT、p
H10.5を30秒~1分注入して表面を再生させた。
【0369】
固定化したリン酸化タウペプチドへの抗体結合を、シリーズSセンサーチップCM3(
GE Healthcare、BR100536)を用いて測定した。アミンカップリン
グキットを使用してチップを活性化し、次いで、10mM酢酸ナトリウム、pH5.0中
の30μg/mLリン酸化タウペプチド(配列番号75)を、51RUが固定化されるま
で注入した。チップをエタノールアミンでブロックした。非リン酸化タウペプチド(TS
PRHLSNVSSTGSIDMVDSPC、配列番号77)を用いて、陰性対照の参照
表面を同様に調製した。固定化リン酸化タウペプチドに結合するTa1505抗体の親和
性を測定するために、0.37nM~30nMの濃度が得られる、各抗体の5点構成の3
倍希釈系列を調製した。各濃度及び数種類の緩衝液ブランクを流速45μL/分で3分間
注入した。抗体の解離を15分間モニタリングした。100mM塩酸(Fisher S
cientific、SA56-1、Waltham,MA)の30秒間の注入により、
表面を再生させた。
【0370】
固定化抗体へのリン酸化タウペプチドの結合を、シリーズSセンサーチップCM5(G
E Healthcare、29149603)を用いて測定した。アミンカップリング
キットを用いてチップを活性化し、次いで、10mM酢酸ナトリウム、pH5.0中の1
~3μg/mlの抗体(Ge Healthcare、BR100351)を、280~
9100RUの抗体が固定化されるまで注入した。チップをエタノールアミンでブロック
した。固定化Ta1505抗体に結合するリン酸化タウペプチド(配列番号78)の親和
性を測定するために、5.1nM~500nMの濃度が得られる、ペプチドの6点構成の
2.5倍希釈系列を調製した。試料と数種類の緩衝液ブランクを30~50μL/分で3
分間注入し、解離を15分間モニタリングした。調整をせずに、または塩酸でpHを3.
5に調整して、20mM酢酸ナトリウム、pH4.5を30秒間注入して表面を再生させ
た。
【0371】
Biacore(商標)T200評価ソフトウェアバージョン2.0またはBiaco
re(商標)4000評価ソフトウェアバージョン1.1(GE Healthcare
)を使用して、データを処理し、フィッティングした。陰性対照フローセルから反応を差
し引き、及び緩衝液注入から反応を差し引くかまたは2回の緩衝液の注入結果から反応の
平均を差し引くことによって、データを「二重参照」した。次いで、データを「1:1結
合」モデルに当てはめて、会合速度定数k(M-1-1、式中「M」はモル濃度に等
しく、「s」は秒に等しい)及び解離速度定数k(s-1)を決定した。これらの速度
定数を用いて平衡解離定数、K(M)=k/kを計算した。表13は、新たに生成
されたヒト化抗体変異体のK値を、親マウス抗体及びキメラ抗体のK値と比較してま
とめたものである。
表13.リン酸化タウタンパク質またはペプチドに対する抗体のK(nM)値
【表19】
【0372】
I.実施例10:親マウス抗体、キメラ抗体、及びいくつかのヒト化抗体変異体のEL
ISA結合分析
親マウス抗体、キメラ抗体、及び新たに生成されたヒト化抗体変異体の、リン酸化ペプ
チド(PRHLSNVS(pS)TGSIDMVD、配列番号79)及び対応する非リン
酸化ペプチド(PRHLSNVSTGSIDMVD、配列番号80)への結合をELIS
Aによって分析した。
【0373】
PBS中の1μg/mlのリン酸化または非リン酸化ペプチド50μLをELISAプ
レートの各ウェルに添加し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレート
を3回洗浄し、4℃で一晩、200μLのsuperblockでブロッキングした。3
日目に、プレートを3回洗浄した。次に、10μg/mLから開始して1:3で段階希釈
したELISA緩衝液中の50μLの抗体をプレートの各ウェルに加え、室温で1時間イ
ンキュベートし、次いで3回洗浄した。親マウス抗体の測定については、1:3000希
釈した50μLのヤギ抗マウスHRP(Southern Biotech、1030-
05)を添加した。キメラ抗体及びヒト化抗体の測定については、1:3000希釈した
50μLのヤギ抗ヒトHRP(Jackson Immunologics、109-0
36-098)を添加した。ELISAプレートを室温で45分間インキュベートし、3
回洗浄し、次いで室温で5分間、ABTSで発色させた。その後、プレートリーダーを用
いて405nmの吸光度を測定した。
【0374】
図8A及び8Bは、ハイブリドーマまたは組換え法によって生成した親抗体は、リン酸
化ペプチドに結合したが(図8A)、非リン酸化ペプチドには結合しなかった(図8B
ことを示す。同様に、キメラ抗体(IgG1またはIgG4骨格のいずれかを有する)は
、リン酸化ペプチドに結合したが(図8C)、非リン酸化ペプチドには結合しなかった(
図8D)。
【0375】
図9A~9Cは、新たに生成されたヒト化抗体変異体のほとんどが、キメラIgG4抗
体に匹敵する親和性でリン酸化ペプチドに結合したが、その一方でいくつかの変異体はリ
ン酸化ペプチドに対する結合親和性を失ったことを示す。特に図9Bでは、アミノ酸N3
3からDへの完全な脱アミド化を模倣するヒトVL46/VH11_N33D_IgG4
変異体が、リン酸化ペプチドへの結合を大幅に減少させ、完全に脱アミド化された抗体が
リン酸化タウタンパク質への結合親和性を劇的に失わせるであろうことを示唆する。した
がって、ヒト化抗体変異体におけるN33での脱アミド化の減少は不可欠である。
【0376】
XV.実施例11:アルツハイマー病患者の脳ホモジネート中の新たに生成されたヒト
化抗体変異体の抗原結合分析
親マウス抗体、キメラ抗体、及び選択したヒト化抗体変異体を、液相中のアルツハイマ
ー病(AD)患者臨床試料由来のSer413リン酸化タウタンパク質(pSer413
-タウ)へのそれらの結合力について評価した。
【0377】
図10A~10Eに記載するように、それぞれ、濃度を増大させた対照ヒトIgG(S
igma、カタログ番号I2511)及び選択した抗体変異体と共にAD脳試料をインキ
ュベートした後に、マウスビオチン化Ta1505 IgG2a抗体を用いて検出した全
抗原結合と遊離抗原結合との差によって、pSer413-タウ上の抗体占有率を決定し
た。
【0378】
同じマウスビオチン化Ta1505 IgG2a抗体を用いた検出により、抗体変異体
間の結合力価の直接比較が可能である。N-ヒドロキシスクシンイミド-LC-ビオチン
(NHS-LC-ビオチン)(Thermo Fisher Scientific K
.K.)を用いてマウスTa1505 IgG2a抗体をビオチン化し、続いてPBSで
透析した。
【0379】
AD患者の脳由来の凍結前頭前皮質組織(100mg)を、プロテアーゼ及びホスファ
ターゼ阻害剤カクテル(Thermo Fisher Scientific、カタログ
番号1861281)を含有する1mLのTBS-I(Tris緩衝食塩水、カタログ番
号BP2471-1、Thermo Fisher Scientific)に添加し、
Qiagen Tissue Lyzer IIを使用して氷水上で溶解させた。ホモジ
ナイズした試料をBeckman Coulter Optima Max-XP超遠心
機で27,000g(TLA-55ローター)、4℃で20分間遠心分離し、上清を回収
し、さらにBeckman Coulter Optima Max-XP 超遠心機で
150,000×g(TLA-55ローター)、4℃で20分間遠心分離し、P2画分と
呼ばれるペレットを得た。超音波処理によってP2画分を均質化緩衝液TBS-Iに再懸
濁した。P2画分のタンパク質濃度は、Pierce(商標)BCAタンパク質アッセイ
キット(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号23225
)を製造元の指示に従って使用して決定した。タンパク質濃度は4μg/mLに調整した
【0380】
INNOTEST(登録商標)pTau(pT181)キット(Fijirebio
Inc.、カタログ番号81581)を、Ser413リン酸化タウタンパク質(pSe
r413-タウ)のためのELISAシステムとして使用したが、キットに含まれるビオ
チン化抗体(CONJ1と表示)を上記で作製したビオチン化マウスTa1505 Ig
G2a抗体に置き換えた。
【0381】
親マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体変異体、または対照ヒトIgGを、試料希釈緩
衝液(INNOTEST(登録商標)キットにより提供される)中でストックから200
nMに希釈した。抗体溶液を次いで段階希釈し、アッセイプレート中で1/1000に予
め希釈したAD脳P2画分と共に室温で4時間インキュベートした。次いで、抗体-抗原
混合物を、希釈したビオチン化抗体マウスTa1505 IgG2a(INNOTEST
(登録商標)キットにより提供されるCONJ DIL1中1/10)と共にHT7抗体
固定化MTプレート(キットに含まれる)に加えた。得られた試料を混合し、4℃で一晩
インキュベートした。翌日、プレートを洗浄し、HRP標識ストレプトアビジン(CON
J2としてキットに含まれる)をプレートに添加し、続いて1時間インキュベートした。
洗浄後、発色試薬TMBを加え、遮光下室温で30分間インキュベートした。次いで反応
停止剤溶液(STOP溶液としてキットに含まれる)を用いて反応を停止させ、450n
mの波長での吸光度を測定した。
【0382】
図10A~10Eに示す濃度反応曲線の非線形分析により、AD脳ホモジネート中のタ
ウ pSer413の50%占有率に必要な各抗体の濃度、及び各抗体の最大占有率の割
合を決定することができる。図10A~10Eは、AD患者の脳ホモジネートにおける親
マウス抗体、キメラ抗体、及び選択したヒト化抗体変異体について、in vitroで
の占有率レベル及びpSer413タウ抗原の最大結合などの結合特性が同等であること
を示す。
【0383】
XVI.実施例12:新たに生成されたヒト化抗体変異体の安定性及び純度分析
ナノDSFを介して融解温度(Tml)及び凝集温度(Tagg)を測定することによ
って、様々な抗体の安定性を決定した。各抗体の純度は、SEC及び非還元キャピラリー
SDS(NR-cSDS)によって測定した。
【0384】
Tm及びTaggの決定:PR.ThermControl v2.0.4ソフトウェ
アによって制御されるPrometheus NT.48示差走査蛍光光度計(Nano
temper Technologies)を使用してナノDSFによってTm及びTa
ggを決定した。励起電力は40%であり、温度は1℃/分の速度で20℃から95℃に
上昇させた。TmとTaggは自動的に測定した。試料を、20mM酢酸ナトリウム、p
H5.5の緩衝液中で1mg/mLに希釈することによって調製し、毛管現象によってP
rometheusガラス毛細管(PR-L002)中に引き入れた。
【0385】
SECによる純度の決定:ACQUITY UPLC H-Classシステム上でS
ECを実施した。使用したカラムは、Waters(Milford,MA)のACQU
ITY UPLC Protein BEH SECカラム(部品番号18600522
5、1.7μm、200A、4.6mm×150mm)であった。カラム温度は25℃で
、1mg/mLの試料10μLを0.5mL/分のシステム流量で注入した。移動相は1
00mMリン酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウム、及び0.02%アジ化ナトリウ
ム、pH7.0であった。データを214及び280nmの両方で定量し、Empowe
r3ソフトウェアを使用して分析した。Waters(Milford,MA)のBEH
200 SECタンパク質標準混合物(部品番号186006518)を10μgで注入
し、USP分解能、理論段、及びテーリングを測定した。
【0386】
NR-cSDSによる純度の決定:NR-cSDSによる純度の評価のために、1mg
/mLの各試料5μLを、50mMのヨードアセトアミドを含むローディングバッファー
(HT Protein Express Sample Buffer(Perkin
Elmer))35μLと96ウェルプレートで混合した。プレートを70℃で20分
間インキュベートし、75μLの水を各ウェルに加えた。各試料を、HT Protei
n Express Chip(Perkin Elmer)を用いてLabChip
GXIIシステム(Perkin Elmer)上で分析した。試料の蛍光を経時的に測
定することによってエレクトロフェログラムを収集し、LabChip GXソフトウェ
アV4.1.1619.0 SP1(Perkin Elmer)を使用して統合した。
【0387】
表14は、試験した抗体の安定性及び純度をまとめたものである。
表14.様々な抗体の安定性と純度
【表20】
【0388】
新たに生成されたヒト化抗体変異体は全て、親マウス抗体またはキメラ抗体に比べて安
定性及び純度が維持されるかまたは向上していた。元のヒト化変異体であるヒトVL47
/VH65_IgG1のうちの1つは、Tml/Taggによって測定されるように安定
性の低下が際立っていた。
【0389】
XVII.実施例13:新たに生成されたヒト化抗体変異体の脱アミド化分析
様々な抗体の軽鎖CDR1中のアミノ酸N33の脱アミド化レベルを測定した。50℃
またはpH10でのインキュベーションなどのストレス条件を試験した。対照として4℃
でのインキュベーションを行った。
【0390】
4℃及び50℃でのインキュベーション:20mM酢酸ナトリウム、pH5.5中に配
合した2mg/mlの試料を、温度制御下の安定チャンバー内に50℃で1週間保持した
。比較用の4℃対照については、試料を4℃に保持した。
【0391】
pH10でのインキュベーション:20mM酢酸ナトリウム、pH5.5中に配合した
2mg/mLの試料を、0.5M NaOHを用いてpH10に調整し、温度制御下の安
定チャンバー内に25℃で1週間保持した。その後、Zeba Spin脱塩カラム(7
K MWCO、Thermo Fisher 2mL、89890)を用いて、試料を2
0mM酢酸ナトリウム、pH 5.5の緩衝液中にバッファー交換した。
【0392】
ペプチドマッピングによる脱アミド化分析:質量分析によるペプチドマッピングのため
に、100μgの各試料を30μLの8Mグアニジン/1Mトリス塩酸塩溶液(15:1
)で変性させ、1M DTT 2μLで60℃で、30分間還元し、1Mヨードアセトア
ミド5μLで、暗所において45分間アルキル化した。消化の前に、7キロダルトンの分
子量カットオフのZEBAカートリッジを用いて試料を50mM重炭酸アンモニウムにバ
ッファー交換した。試料を異なるチューブに分け、2μgのトリプシンとキモトリプシン
で並行して37℃で2時間消化した。各試料に3μLの5M塩酸塩を添加することによっ
て消化を停止させた。40℃に維持したPeptide BEH-C18-1x50mm
Waters UPLCカラム(部品番号186005592)に2μLの試料を注入
した。Dionex/QE plus MSにおいて、0.1%ギ酸中2%~36%のア
セトニトリルの50分間にわたる線形勾配を用いてデータを取得した。データベース検索
についてはPEAKS DB(Bioinformatics Solutions I
nc.)、ならびにパーセント変化評価についてはPepFinder(Thermo
Fisher Scientific)及び手動検証を用いて試料を分析した。表15は
、試験した抗体の軽鎖CDR1中のアミノ酸N33の脱アミド化の割合をまとめたもので
ある。
表15.様々な条件下での軽鎖CDR1中のN33の脱アミド化割合(%)
【表21】
【0393】
親マウス抗体及び元のヒト化変異体(VL46/VH11)IgG1またはIgG4抗
体に比べて、新たに生成されたヒト化抗体変異体は、軽鎖CDR1中のN33の脱アミド
化レベルの有意な減少を示した。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;及び
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号1
07、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号1
12、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメイン、を含む抗p
Ser413タウ抗体。
(態様2)
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;及び
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号1
07、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号1
12、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗pS
er413タウ抗体であって、配列番号8のリン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性
の、配列番号69の非リン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性に対する比が少なくと
も約40である、前記抗pSer413タウ抗体。
(態様3)
前記抗体が、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配
列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142及び配列番号144か
ら選択される重鎖定常ドメインを含む、態様1又は2に記載の抗pSer413タウ抗体

(態様4)
前記抗体が、配列番号79及び配列番号80から選択される軽鎖定常ドメインを含む、
態様1~3のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様5)
前記可変軽鎖ドメインが配列番号114を有し、前記可変重鎖ドメインが配列番号11
6を有する、態様1~4のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様6)
前記抗体の軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号144を有する、
態様5に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様7)
前記軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号152を有する、態様5
に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様8)
前記重鎖及び前記軽鎖が、LC配列番号184及びHC配列番号144;LC配列番号
184及びHC配列番号145;LC配列番号184及びHC配列番号146;LC配列
番号184及びHC配列番号147;LC配列番号184及びHC配列番号148;LC
配列番号184及びHC配列番号149;LC配列番号184及びHC配列番号150;
LC配列番号184及びHC配列番号151;LC配列番号184及びHC配列番号15
2;LC配列番号184及びHC配列番号153;LC配列番号184及びHC配列番号
154;LC配列番号184及びHC配列番号155;LC配列番号184及びHC配列
番号156;LC配列番号184及びHC配列番号157;LC配列番号184及びHC
配列番号158;LC配列番号184及びHC配列番号159;LC配列番号184及び
HC配列番号160;LC配列番号184及びHC配列番号161;LC配列番号185
及びHC配列番号144;LC配列番号185及びHC配列番号145;LC配列番号1
85及びHC配列番号146;LC配列番号185及びHC配列番号147;LC配列番
号185及びHC配列番号148;LC配列番号185及びHC配列番号149;LC配
列番号185及びHC配列番号150;LC配列番号185及びHC配列番号151;L
C配列番号185及びHC配列番号152;LC配列番号185及びHC配列番号153
;LC配列番号185及びHC配列番号154;LC配列番号185及びHC配列番号1
55;LC配列番号185及びHC配列番号156;LC配列番号185及びHC配列番
号157;LC配列番号185及びHC配列番号158;LC配列番号185及びHC配
列番号159;LC配列番号185及びHC配列番号160、ならびにLC配列番号18
5及びHC配列番号161のペアから選択される、態様1~7のいずれか一項に記載の抗
pSer413タウ抗体。
(態様9)
a)配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号1
66、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号1
71、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号1
76、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号1
81、配列番号182、配列番号183、配列番号184、及び配列番号185から選択
される軽鎖をコードする第1の核酸;ならびに
b)配列番号144、配列番号145;配列番号146;配列番号147;配列番号1
48;配列番号149;配列番号150;配列番号151;配列番号152;配列番号1
53;配列番号154;配列番号155;配列番号156;配列番号157;配列番号1
58;配列番号159;配列番号160及び配列番号161から選択される重鎖をコード
する第2の核酸を含む、核酸組成物。
(態様10)
前記第1の核酸が第1の発現ベクターに含まれ、前記第2の核酸が第2の発現ベクター
に含まれる、態様9に記載の核酸組成物を含む発現ベクター組成物。
(態様11)
前記第1の核酸及び前記第2の核酸が発現ベクターに含まれる、態様9に記載の核酸組
成物を含む発現ベクター組成物。
(態様12)
態様10または11に記載の発現ベクター組成物を含む宿主細胞。
(態様13)
前記抗体を発現させ、前記抗体を回収する条件下で態様12に記載の宿主細胞を培養す
ることを含む、抗pSer413タウ抗体の作製方法。
(態様14)
態様1~8のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体を対象に投与することを
含む、前記対象におけるタウオパチーの治療方法。
(態様15)
a)配列番号86を有するvhCDR1、配列番号115を有するvhCDR2、及び
配列番号88を有するvhCDR3を含む重鎖可変ドメイン;ならびに
b)
i)配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
ii)配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
iii)配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;
iv)配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
v)配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配
列番号83を有するvlCDR3;
vi)配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
vii)配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;
viii)配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、
及び配列番号83を有するvlCDR3;
ix)配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
x)配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配
列番号83を有するvlCDR3;
xi)配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;ならびに
xii)配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、
及び配列番号83を有するvlCDR3
からなる群から選択される一組のvlCDRを含む軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer
413タウ抗体。
(態様16)
a)配列番号86を有するvhCDR1、配列番号115を有するvhCDR2、及び
配列番号88を有するvhCDR3を含む重鎖可変ドメイン;ならびに
b)
i)配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
ii)配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
iii)配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;
iv)配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
v)配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配
列番号83を有するvlCDR3;
vi)配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
vii)配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;
viii)配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、
及び配列番号83を有するvlCDR3;
ix)配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び
配列番号83を有するvlCDR3;
x)配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配
列番号83を有するvlCDR3;
xi)配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及
び配列番号83を有するvlCDR3;ならびに
xii)配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、
及び配列番号83を有するvlCDR3
からなる群から選択される一組のvlCDRを含む軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer
413タウ抗体であって、
配列番号8のリン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性の、配列番号69の非リン酸化
ペプチドへの前記抗体の結合親和性に対する比が少なくとも約40である、前記抗pSe
r413タウ抗体。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A-B】
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
【配列表】
2023002670000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に実質的に記載された、新規な物、方法及び製造方法。