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特開2023-26826空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池
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  • 特開-空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026826
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】空気二次電池用触媒、空気極及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20230221BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230221BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230221BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/86 B
H01M4/86 H
H01M12/08 K
H01M12/08 S
H01M4/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132213
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】井上 実紀
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
(72)【発明者】
【氏名】渡部 芳克
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB11
5H018BB12
5H018BB13
5H018DD01
5H018DD03
5H018DD06
5H018DD08
5H018EE04
5H018EE06
5H018EE08
5H018EE10
5H018EE13
5H018EE16
5H018EE18
5H018EE19
5H018HH00
5H032AA00
5H032CC06
5H032CC11
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE05
5H032EE13
5H032EE15
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA20
5H050CA12
5H050CB16
5H050DA10
5H050DA16
5H050EA02
5H050EA12
5H050EA24
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】従来よりも放電反応における過電圧を低減し放電電圧を高めることに貢献することができる空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】電池2は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含む電極群10と、電極群10をアルカリ電解液82とともに収容している容器4と、を備え、空気極16は、空気二次電池用触媒を含んでおり、この空気二次電池用触媒は、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物であって、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅が、0.350deg以上、0.713deg以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物であって、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅が、0.350deg以上、0.713deg以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む、空気二次電池用触媒。
【請求項2】
空気極用基体と、
前記空気極用基体に保持された空気極合剤と、を備えており、
前記空気極合剤は、請求項1に記載の空気二次電池用触媒、及び前記空気二次電池用触媒を担持する触媒担持導電材を含んでいる、空気極。
【請求項3】
前記触媒担持導電材は、ニッケルである、請求項2に記載の空気極。
【請求項4】
前記空気極合剤は、撥水剤を更に含んでいる、請求項2又は3に記載の空気極。
【請求項5】
前記撥水剤は、フッ素樹脂である、請求項4に記載の空気極。
【請求項6】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンである、請求項5に記載の空気極。
【請求項7】
容器と、
前記容器内に配設された電極群と、
前記容器内に注入されたアルカリ電解液と、を備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、
前記空気極は、請求項2~6の何れかに記載の空気極である、空気二次電池。
【請求項8】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項7に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH→O+2HO+4e・・・(I)
放電(酸素還元反応):O+2HO+4e→4OH・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水酸化物イオンが生成される。
【0008】
上記した空気二次電池の正極である空気極としては、上記した充放電反応を促進させる触媒が用いられている。空気二次電池においては、エネルギー効率の向上や高出力化を図るため、空気極の充放電反応における過電圧を低減することが望まれている。このため、空気極に用いられる触媒となる材料に関しては、過電圧の低減に有効な材料の検討がなされている。そのような過電圧の低減に有効な材料としては、貴金属、金属酸化物、金属錯体が挙げられる。そのような材料のなかでも、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素還元及び酸素発生の2元機能を有しており、充電時の過電圧及び放電時の過電圧を低減することができるため、空気二次電池用の触媒として有望である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-179592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、空気二次電池においては、様々な用途への応用が期待されていることから、更なる高出力化が望まれている。更なる高出力化のためには、特に放電電圧を現状よりも高める必要がある。
【0011】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも放電反応における過電圧を低減し放電電圧を高めることに貢献することができる空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によればパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物であって、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅が、0.350deg以上、0.713deg以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む、空気二次電池用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る空気二次電池用触媒は、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物であって、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅が、0.350deg以上、0.713deg以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む。X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅が、0.350deg以上、0.713deg以下の範囲にあると、触媒活性が高くなり、この空気二次電池用触媒を空気極に用いた空気二次電池は、従来の空気二次電池よりも放電反応における過電圧を低減できる。よって、本発明によれば、従来よりも放電電圧を高めることができる空気二次電池用触媒、この空気二次電池用触媒を含む空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
図2】実施例1~7及び比較例1に係る空気二次電池用触媒のXRDプロファイルである。
図3図2における2θ=30°付近を拡大したXRDプロファイルである。
図4】222面の半値全幅と放電中間電圧との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、一実施形態に係る空気二次電池用の空気極触媒を含む空気水素二次電池(以下、電池とも表記する)2について図面を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
【0017】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0018】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0019】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛の粉末、カーボンブラックの粉末等を用いることができる。
【0020】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgNib-c-dAl・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0021】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0022】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0023】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0024】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、粒子間に隙間があり、全体として多孔質構造をなしている。
【0025】
次に、空気極16は、網目構造を有する導電性の空気極用基体と、前記した空気極用基体に保持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極用基体としては、例えば、ニッケルメッシュを用いることができる。
【0026】
空気極合剤は、酸化還元触媒(空気二次電池用触媒)、導電材、及び結着剤を含む。更に、空気極合剤には、撥水剤を添加することが好ましい。
【0027】
酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素発生及び酸素還元の2元機能を有している。
【0028】
ビスマスルテニウム複合酸化物は、組成式がBi2-xRu7-z(ただし、0≦x≦1、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)で表されるパイロクロア型の結晶構造を有している。そして、本実施形態において用いられるビスマスルテニウム複合酸化物としては、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅が、0.350deg以上、0.713deg以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を用いる。
【0029】
ここで、一般的に、酸化物触媒の触媒反応は固体表面で起こるが、表面構造を支えるのはバルクの結晶構造であり、結晶構造の違いが鋭敏に電池特性に表れることが多い。しかし、結晶性と電池特性との最適な条件は材料によって多様に変化する。このため、全ての材料に関して結晶性と電池特性との関係は未だ明らかになってはおらず、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶性と電池特性との関係についての研究例は本願の発明者の知る限りでは存在していない。そこで、本願の発明者は、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶構造と電池特性との関係について検討を重ねた。その結果、空気二次電池用触媒としてのビスマスルテニウム複合酸化物の結晶性がある範囲内にある場合に空気二次電池の放電反応の過電圧を著しく低減させることができることを見出した。ここで、本実施形態において結晶性とは、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶中においてアモルファス化された領域の割合の程度を意味することとする。例えば、結晶性が高いほど、アモルファス化された領域の割合が少なく、結晶性が低いほど、アモルファス化された領域が多いことを表す。そして、この結晶性について具体的に数値で表す手段として、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られる222面に対応する回折ピークの半値全幅の大小関係を用いることとした。つまり、この半値全幅が小さいほど結晶性が高く、半値全幅が大きいほど結晶性が低くアモルファス化が進んでいることを意味する。
【0030】
上記した半値全幅が、0.350deg以上であれば、得られる空気二次電池の放電反応における過電圧の低減効果が得られることを確認した。一方、上記した半値全幅が0.713degを超えると放電反応の過電圧の低減効果が急激に低下することを確認した。
【0031】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0032】
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを準備する。そして、モル比でRuが1.00に対し、Biが0.50以上0.80未満となるように、Bi(NO・5HOと、RuCl・3HOとを計量する。計量されたBi(NO・5HO及びRuCl・3HOを所定の溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製する。このとき、所定の溶液としては、蒸留水、希硝酸水溶液等が挙げられ、これらの溶液の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加えて前駆体を析出させる(共沈工程)。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌する。この撹拌操作は、酸素バブリングをともなって12時間~60時間行う。ここで、撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHが10~12となるように維持するとともに、温度が60℃以上、90℃以下になるように維持する。撹拌操作の終了後、混合水溶液を12時間~60時間静置する。静置した後、生じた沈殿物を吸引ろ過して回収する。回収された沈殿物は、80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、5時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。得られたペーストの乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、前駆体の粉末を得る。
【0033】
次に、前駆体の粉末を、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、4時間以下保持することにより熱処理を施す(焼成工程)。熱処理が終了した粉末は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後、乾燥処理が施される。この乾燥処理は、水洗後の粉末を60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持することにより行われる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2-xRu7-z)が得られる。
【0034】
次に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0035】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0036】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間撹拌した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
【0037】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0038】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の焼成工程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0039】
ここで、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶性に影響を与える要素としては、上記した焼成工程の焼成条件が挙げられる。詳しくは、焼成温度や焼成時間を調整することによりアモルファス化された領域の割合が変化するので、ビスマスルテニウム複合酸化物の結晶性を制御することができる。
【0040】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は所定の粒径に調整すべく、必要に応じ機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
【0041】
粉砕の方法としては、特に限定されないが、例えば、湿式ビーズミル装置を用いて粉砕処理を施すことが好ましい。湿式ビーズミル装置を用いて粉砕処理を施す場合の手順としては、まず、ビスマスルテニウム複合酸化物にイオン交換水及び分散剤を添加して撹拌し、分散液を作製する。次いで、この分散液を、ポンプを用いて所定の流量で湿式ビーズミル装置の粉砕室内に送液する。この粉砕室内には、所定の直径、例えば、直径0.1mmのジルコニア製のビーズが投入されている。そして、粉砕室内の撹拌機構を所定の速度で駆動させることで発生した遠心力によって、エネルギーを与えられたビーズが被粉砕物であるビスマスルテニウム複合酸化物の粒子に作用する。これによりビスマスルテニウム複合酸化物の粒子は粉砕される。このように粉砕処理が施された分散液は、粉砕室から排出される。ここで、湿式ビーズミル装置においては、粉砕室から排出された分散液は、再度粉砕室内へ送液され、再度粉砕処理が施される。このように、分散液に対して、送液、粉砕処理、及び排出を行う手順を1パスとし、この1パスを繰り返すことによりビスマスルテニウム複合酸化物の粒子をより細かく粉砕することができる。
【0042】
湿式ビーズミル装置においては、撹拌機構の駆動速度及び上記した1パスを何回繰り返すかによりビスマスルテニウム複合酸化物の粒子の粉砕の程度を制御することができる。ここで、粉砕の度合いが高い強粉砕を行った場合、ビスマスルテニウム複合酸化物においては、負荷がかかりアモルファス化された領域が増える。つまり、撹拌機構の駆動速度及びパス数を調整することによりアモルファス化された領域の割合を変化させることができるので、粉砕の条件によってもビスマスルテニウム複合酸化物の結晶性を制御することができる。
【0043】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した酸化還元触媒を担持する担体として用いられる。
【0044】
このような導電材(触媒担持導電材)としては、例えば、黒鉛やニッケルが用いられる。特にニッケル粒子からなるニッケル粉末を用いることが好ましい。上記したニッケル粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、空気極に所望の導電性を付与できる大きさとすることが好ましい。
【0045】
上記したニッケル粉末は、空気極合剤中において、60質量%以上含有させることが好ましい。このニッケル粉末の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から80質量%以下とすることが好ましい。また、ニッケル粉末としては、カーボニルニッケルの粉末を用いることが好ましい。より好ましくは、フィラメント状のニッケル粉末を用いる。
【0046】
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させる働きをする。結着剤としては、一般的に用いられている結着剤を用いることが好ましい。
【0047】
撥水剤は、空気極16に適切な撥水性を付与する。ここで、撥水剤としては特に限定されるものではないが、例えばFEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカンポリマー)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PVF(ポリビニルフルオライド)などのフッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、PTFEが用いられる。PTFEは、せん断応力により繊維化する性質があり、空気極合材を結着させる働きもあるため、結着剤と兼ねることができる。
【0048】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としてのNi粒子の集合体である導電材粉末、撥水剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、撥水剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
【0049】
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート状に成形され、25℃程度の室温で乾燥処理が施される。これにより、空気極合剤シートを得る。その後、空気極合剤シートは、ニッケルメッシュ(空気極用基体)にプレス圧着され、これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0050】
次いで、得られた中間製品は、熱処理炉に投入され熱処理(焼成)が施される。この熱処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。熱処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、中間製品を熱処理炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、熱処理が施された中間製品が得られる。この熱処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多数の細孔を含む多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
【0051】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0052】
形成された電極群10は、容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
【0053】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0054】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0055】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0056】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0057】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0058】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0059】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0060】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
【0061】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0062】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0063】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0064】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気二次電池用触媒の合成
1)共沈工程
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを準備した。そして、モル濃度比でRuが1.00に対し、Biが0.75となるように、Bi(NO・5HOと、RuCl・3HOとを計量した。計量されたBi(NO・5HO及びRuCl・3HOをあわせて75℃の希硝酸水溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて前駆体を析出させた。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌した。この撹拌操作は、酸素バブリングを行いながら48時間行った。この撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHを10.7に維持するとともに、温度を75℃に維持した。撹拌操作の終了後、当該混合水溶液を48時間静置した。静置した後、生じた沈殿物をろ過することにより回収した。回収された沈殿物は、85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。得られた前駆体の乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末状とした。
【0065】
2)焼成工程
得られた前駆体の粉末を、空気雰囲気下で500℃の焼成温度に加熱し3時間保持する焼成処理を施した。当該焼成処理が終了した後の前駆体の粉末を、70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間保持する乾燥処理を施した。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)を得た。
【0066】
3)酸処理工程
ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gに対して20mLの割合となるように硝酸水溶液を準備した。そして、この硝酸水溶液とビスマスルテニウム複合酸化物の粉末とをスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0067】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、75℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0068】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の空気極触媒の粉末を得た。得られた空気二次電池用触媒においては、上記したように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物が除去された。
4)分析
得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末につき、粉末X線回折法による分析を行った。このX線回折(XRD)分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が40kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、得られたXRDプロファイルを図2に、図2の2θ=30°付近を拡大したXRDプロファイルを図3に示す。これら図2及び図3には、BiRuのピーク位置を併記してある。得られたXRDプロファイルから、BiRuのピーク位置に対応する位置に回折ピークが存在しているため、焼成された粉末の主相はBiRuのパイロクロア型結晶及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有することが確認できた。
【0069】
更に、得られたXRDプロファイルより、2θ=30°付近に位置する222面に対応する最強線の回折ピークの半値全幅を求めた。その結果、222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.676degであった。
【0070】
(2)空気極の製造
ニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を準備した。このニッケル粒子としては、カーボニルニッケル粒子を採用した。このカーボニルニッケル粒子は、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した体積平均粒径(MV)が3μmであり、見掛密度が0.50~0.65g/mLであった。
【0071】
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン(三井・ケマーズフロロプロダクツ社製、31-JR)及びイオン交換水を準備した。
【0072】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気二次電池用触媒)に、ニッケル粉末(カーボニルニッケル粉末)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を加えて混合した。このとき、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は20質量部、カーボニルニッケル粉末は70質量部、PTFEのディスパージョンは10質量部、イオン交換水は10質量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
【0073】
得られた空気極合剤のペーストをローラプレスによりシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストを25℃の室温で乾燥させた後、メッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。これにより、空気極の中間製品を得た。
【0074】
次に、得られた中間製品を熱処理(焼成)した。熱処理(焼成)の条件は、中間製品を窒素ガス雰囲気下で340℃の熱処理温度に加熱し、この温度で13分間保持した。熱処理された中間製品は、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。この空気極16の厚さは0.24mmであった。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気二次電池用触媒)の量は0.28gであった。
【0075】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0076】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、25℃の室温まで冷却した。冷却後、当該インゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0077】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0078】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2質量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04質量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0質量部、カーボンブラックの粉末0.5質量部、及び水22.4質量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0079】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約300g/m、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.77mmであった。なお、負極の設計容量は2500mAhである。
【0080】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m)であった。
【0081】
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、調整部材36としての発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0082】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0083】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0084】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0085】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、図1に示すような電池2を製造した。
【0086】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0087】
(実施例2)
酸処理工程が終了して得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に湿式ビーズミル装置を用いて粉砕処理を施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0088】
ここで、粉砕処理の工程について説明する。まず、酸処理工程を経たビスマスルテニウム複合酸化物の粉末の重量当たりの固形分比が10wt%となる量のイオン交換水、及び同じく酸処理工程を経たビスマスルテニウム複合酸化物の粉末の重量に対して1wt%となる量の分散剤(サンノプコ社、SNディスパーサント5468)を準備した。そして、所定量のビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に上記のように準備したイオン交換水及び分散剤を添加し、これらを混合することにより触媒分散液を作製した。次いで、得られた触媒分散液をポンプにより所定の流量で湿式ビーズミル装置(アシザワファインテック製、ラボスターミニ、DMS65)の粉砕室の投入口から粉砕室内へ投入した。この粉砕室内には、直径0.1mmのジルコニア製のビーズが予め入れられている。そして、粉砕室内の撹拌機構を周速8m/sで駆動することにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子に第1段階の粉砕処理を施した。その後、粉砕室の排出口から排出された触媒分散液を粉砕室の投入口から再度粉砕室内へ投入し、第2段階の粉砕処理を施した。このように、触媒分散液の投入、粉砕処理、排出の手順を1パスとし、この1パスを合計20回繰り返した(20パス)。そして、触媒分散液を70℃の雰囲気下で12時間保持することにより乾燥させ、粉末状のビスマスルテニウム複合酸化物を得た。
【0089】
ここで、実施例2のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.648degであった。
【0090】
(実施例3)
触媒分散液の投入、粉砕処理、排出の繰り返し回数を5回(5パス)としたことを除いて実施例2と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0091】
ここで、実施例3のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.635degであった。
(実施例4)
焼成工程において、前駆体の粉末の焼成温度を460℃としたことを除いて実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0092】
ここで、実施例4のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.687degであった。
(実施例5)
焼成工程において、前駆体の粉末の焼成温度を540℃としたことを除いて実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0093】
ここで、実施例5のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.553degであった。
(実施例6)
焼成工程において、前駆体の粉末の焼成温度を600℃としたことを除いて実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0094】
ここで、実施例6のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.350degであった。
(実施例7)
湿式ビーズミル装置として高負荷タイプの装置(アシザワファインテック製、ラボスターミニ、LMZ015)を用い、撹拌機構の周速を12m/sとし、触媒分散液の投入、粉砕処理、排出の繰り返し回数を10回(10パス)としたことを除いて実施例2と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0095】
ここで、実施例7のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.713degであった。
(比較例1)
湿式ビーズミル装置として高負荷タイプの装置(アシザワファインテック製、ラボスターミニ、LMZ015)を用い、撹拌機構の周速を12m/sとし、触媒分散液の投入、粉砕処理、排出の繰り返し回数を60回(60パス)としたことを除いて実施例2と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0096】
ここで、比較例1のビスマスルテニウム複合酸化物(空気二次電池用触媒)における222面に対応する回折ピークの半値全幅は0.784degであった。
【0097】
2.空気水素二次電池の評価
(1)電池特性の評価
実施例1~7、及び比較例1の空気水素二次電池については、上記構成の電池を、60℃にて12時間エージングを行った後、室温まで冷却し、負極容量の80%に相当する2000mAhを1Itとし、0.1It×10時間の充電と、0.2Itの放電(放電終止電圧E.V.=0.4V)を繰り返し実施した。ここで、1サイクル目の放電容量を求めた。更に、1サイクル目において、電池の容量が1サイクル目の放電容量の半分の容量に到達した時の電池電圧を放電中間電圧として測定した。そして、1サイクル目における放電容量及び放電中間電圧の結果を表1にまとめた。また、XRDで得られた半値全幅の結果も併せて表1に示した。更に、放電中間電圧と半値全幅との関係を図4にまとめた。
【0098】
なお、上記した充放電操作において、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、33mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。
【0099】
【表1】
【0100】
(2)考察
実施例1~7及び比較例1に係る空気二次電池用触媒のXRDプロファイルを示した図2、及び実施例1~7及び比較例1に係る空気二次電池用触媒の最強線付近のXRDプロファイルを拡大して示した図3から、BiRuの回折ピークの位置に対応する位置に回折ピークが存在していることから、実施例1~7及び比較例1の触媒は、何れもBiRuのパイロクロア型結晶及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有することがわかる。更に、図2及び図3より、製造条件が異なっている実施例1~7及び比較例1のビスマスルテニウム複合酸化物においては、ピークの強度や半値全幅がそれぞれ鋭敏に変化していることから、製造条件により結晶性が大きく異なることがわかる。
【0101】
半値全幅及び電池特性の結果を示した表1より、実施例1~7の電池では安定的に放電ができたが、比較例1の電池では放電過電圧が大きく、ほとんど放電できずに放電終止電圧に到達してしまった。また、半値全幅及び放電中間電圧の相関関係をまとめた図4から、半値全幅と放電中間電圧とは火山型の序列を示しており、0.350~0.676degまでは放電中間電圧が緩やかに増加したが、0.676degを超えると放電中間電圧が急落している。また、最もアモルファス化が進行している0.784degにおいては過電圧が高く、ほとんど放電することができなかった。以上のことから、ビスマスルテニウム複合酸化物触媒の222面の半値全幅が電池特性に大きな影響を及ぼすことは明らかであり、結晶構造を適度にアモルファス化させることで放電過電圧を低減させることができることがわかった。
【0102】
空気極での酸素還元反応は2電子反応経路と4電子反応経路が考えられている。2電子反応の場合は触媒の活性サイトに酸素が吸着後、解離せずに電子を受け取り、水と反応して過酸化水素イオンと水酸化物イオンを形成する。一方で4電子反応の場合は水酸化物イオンのみが生成され、酸素同士の結合は反応過程で切断される必要がある。ビスマスルテニウム複合酸化物触媒の結晶構造に適度なアモルファス化を付与することで活性サイト表面の原子配列の規則性が乱れるなどの格子欠陥が生じ、電子状態が変化することで酸素分子の切断や反応中間体である過酸化水素イオンの分解を促進させたと考えられる。
【符号の説明】
【0103】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材
図1
図2
図3
図4