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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026889
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20230221BHJP
   C10M 117/00 20060101ALI20230221BHJP
   C10M 129/40 20060101ALI20230221BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230221BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230221BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230221BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230221BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M117/00
C10M129/40
C10N50:10
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:00 C
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132320
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正章
(72)【発明者】
【氏名】尾上 由樹
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB14B
4H104BB14C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB36A
4H104DA02A
4H104FA01
4H104FA02
4H104LA13
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】耐水性が優れたグリース組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油と、増ちょう剤として、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、金属清浄剤として、下記式(1)で表される脂肪酸亜鉛と、を含有し、式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛を含む、グリース組成物。式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数8~18の分岐鎖脂肪族炭化水素基を表す。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、
増ちょう剤として、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、
金属清浄剤として、下記式(1)で表される脂肪酸亜鉛と、を含有し、
前記式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛を含む、
グリース組成物。
【化1】


式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数8~18の分岐鎖脂肪族炭化水素基を表す。
【請求項2】
前記式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛を含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛を含む、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される脂肪酸亜鉛の合計の含有量が、グリース組成物の全質量に対して、0.5質量%~3.0質量%である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、トラック、自転車などの乗り物等は、あらゆる環境下で使用され、例えば、雨水に曝されることがある。このような水に接触する環境下で、乗り物等が使用され続けると、耐水性のないグリース組成物が軸受に使用されている場合、軸受からグリース組成物が漏れ出る場合がある。
【0003】
一般的に、車両のホイールベアリングに使われるグリース組成物は、リチウム石けん若しくはリチウム複合石けんグリースであるが、このようなグリースは、ブレーキ又はベアリングからの摩擦熱を受け、運転中は常に高温に曝されている。また、グリース組成物は、ベアリングが回転する際に生じる激しい攪拌によりせん断を受けるが、せん断安定性が十分でないと軟化してしまう場合がある。極端な場合には、長期の使用によりグリース漏れにつながる場合もある。
【0004】
よって、このような水又は熱に曝される状況下で使用されているグリース組成物等の潤滑油の分野においては、耐水性又は耐熱性の一層の向上が望まれており、基油や添加剤の配合技術による改良が試みられている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-46625号公報
【特許文献2】特開2001-247888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、グリース組成物には、耐水性の向上が求められている。グリース組成物における耐水性の向上として、ナフテン酸亜鉛が使用されることがあるが、原料であるナフテン酸は、原油から精製されて抽出される副産物であるため、耐水性を始めとする性能の技術的な制御が難しい。
【0007】
本開示は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態は、耐水性が優れたグリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、グリース組成物において、特定の構造を有する脂肪酸亜鉛を、金属清浄剤として含むことで、耐水性の向上を図ることができることを見出した。すなわち、上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0009】
<1> 潤滑油基油と、増ちょう剤として、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、金属清浄剤として、下記式(1)で表される脂肪酸亜鉛と、を含有し、式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛を含む、グリース組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数8~18の分岐鎖脂肪族炭化水素基を表す。
【0012】
<2> 上記式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛を含む、<1>に記載のグリース組成物。
<3> 上記式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛を含む、<1>又は<2>に記載のグリース組成物。
<4> 上記式(1)で表される脂肪酸亜鉛の含有量が、グリース組成物の全質量に対して、0.5質量%~3.0質量%である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態によれば、耐水性が優れたグリース組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に係るグリース組成物の具体的な実施形態について詳細に説明する。但し、本開示に係るグリース組成物は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0016】
[グリース組成物]
本開示に係るグリース組成物は、潤滑油基油と、増ちょう剤として、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、金属清浄剤として、下記式(1)で表される脂肪酸亜鉛と、を含有し、式(1)で表される脂肪酸亜鉛が、R及びの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛を含む。
【0017】
【化2】
【0018】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数8~18の分岐鎖脂肪族炭化水素基を表す。
【0019】
以下、式(1)で表される脂肪酸亜鉛を「特定脂肪酸亜鉛」とも称し、特定脂肪酸亜鉛のうち、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛を「特定脂肪酸亜鉛A」とも称する。
また、以下では、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、適宜、「特定増ちょう剤」とも称する。
【0020】
本開示に係るグリース組成物は、潤滑油基油と、増ちょう剤として、特定増ちょう剤と、金属清浄剤として、特定脂肪酸亜鉛と、を含有するグリース組成物であり、特定脂肪酸亜鉛が、特定脂肪酸亜鉛Aを含むことで、耐水性を向上することができる。この理由は明らかではないが、以下のように推察される。
【0021】
本開示に係るグリース組成物に含有される増ちょう剤は、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物(特定増ちょう剤)である。このため、グリース組成物に混入した水は、金属石けんの一態様である本開示に係る特定増ちょう剤とミセルを形成するように作用する。その結果、グリース組成物中の増ちょう剤繊維構造が崩れ、ちょう度軟化を引き起こす。グリース組成物におけるちょう度軟化は、例えば、ベアリングからのグリース漏れの原因となりうる。
【0022】
これに対し、本開示に係るグリース組成物は、金属清浄剤として、式(1)で表される脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛)を含有し、特定脂肪酸亜鉛は、式(1)におけるR及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛A)を含む。金属清浄剤である特定脂肪酸亜鉛は、グリース組成物に混入した水を細かく分散させ、ミセルを形成することができ、増ちょう剤よりも優先的にミセルを形成することで、水の混入による増ちょう剤繊維構造の破壊を抑制していると推察される。さらに、特定脂肪酸亜鉛が、アルキル鎖長の長いイソステアリル基を有する特定脂肪酸亜鉛Aを含むことは、水と特定脂肪酸亜鉛Aとのミセルをより強固に形成し、ちょう度軟化をより効果的に抑制することに寄与しているものと推察される。
【0023】
さらに、本開示に係るグリース組成物の一態様は、特定脂肪酸亜鉛が、式(1)中のR及びRの少なくとも一方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛(以下、「特定脂肪酸亜鉛B」とも称する)を含むことが好ましい。また、別の一態様は、特定脂肪酸亜鉛が、式(1)中のR及びRの少なくとも一方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛(以下、「特定脂肪酸亜鉛C」とも称する)を含むことが好ましい。特定脂肪酸亜鉛B及び特定脂肪酸亜鉛Cは、それぞれ、特定定脂肪酸亜鉛Aに該当する脂肪酸亜鉛であってもよいし、特定定脂肪酸亜鉛Aと異なる構造を有する脂肪酸亜鉛であってもよい。特定脂肪酸亜鉛において、イソステアリル基が存在しかつ2-エチルヘキシル基及び/又はネオデカニル基が存在すること(好ましくは、イソステアリル基、2-エチルヘキシル基及びオデカン基が存在すること)により、グリース組成物の耐水性がより安定的に向上するものと推察される。
【0024】
<潤滑油基油>
本開示に係るグリース組成物は、潤滑油基油を含む。
潤滑油基油としては、特に限定されず、例えば、鉱油、合成油、又はこれらの混合油であってもよい。
潤滑油基油は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
鉱油としては、例えば、原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋などの精製法を適宜組合せて精製したものが挙げられる。また、鉱油としては、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋又は水素化脱蝋などの処理を施して高度に精製されたパラフィン系鉱油等が挙げられる。
【0026】
合成油としては、アルキルジフェニルエーテル等のエーテル系合成油;ジエステル、ポリオールエステル、コンプレックス型ポリオールエステル等のエステル系合成油;ポリアルファオレフィン等の合成炭化水素油;アルキルナフタレン系合成油などが挙げられる。
【0027】
潤滑油基油の40℃における動粘度の値は、1mm/s~1000mm/sが好ましく、特に好ましくは1mm/s~500mm/sである。基油の動粘度の値が、1mm/s~1000mm/sであれば、特にホイールベアリングに使用するグリース組成物として好適となる。
【0028】
本開示において、潤滑油基油の40℃における動粘度とは、JIS K 2283:2000「動粘度試験方法」により測定される値を示す。
【0029】
<増ちょう剤>
本開示に係るグリース組成物は、リチウム石けん及びリチウム複合石けんからなる群から選択される少なくとも1種の化合物(特定増ちょう剤)を含有する。
【0030】
リチウム石けんは、高級脂肪酸のリチウム塩である。リチウム複合石けんは、高級脂肪酸のリチウム塩とジカルボン酸のリチウム塩とを組み合わせた複合石けんである。
【0031】
リチウム石けんとしては、耐熱性の観点から、炭素数12~24のモノカルボン酸のリチウム塩であることが好ましい。
リチウム複合石けんとしては、耐熱性の観点から、炭素数12~24のモノカルボン酸のリチウム塩と、炭素数2~12のジカルボン酸のリチウム塩と、を組み合わせた複合体(コンプレックス)であることが好ましい。
好適なモノカルボン酸としては、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等が挙
げられる。また、好適なジカルボン酸としては、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、ピメ
リン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0032】
特定増ちょう剤としては、入手性及び取り扱い性の点から、リチウム石けんがより好ましい。
【0033】
特定増ちょう剤の含有率は、目的とする混和ちょう度に合わせて適宜調整でき、好ましくは、グリース組成物の全質量に対して、5質量%~20質量%であり、より好ましくは、5質量%~15質量%である。
【0034】
<金属清浄剤>
本開示に係るグリース組成物は、金属清浄剤として、下記式(1)で表される脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛)を含有する。特定脂肪酸亜鉛は、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛A)を含む。
本開示に係るグリース組成物は、特定脂肪酸亜鉛Aを含む特定脂肪酸亜鉛を含有することで、耐水性を向上させることができる。
特定脂肪酸亜鉛は、1種単独であってもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0035】
【化3】

【0036】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数8~18の分岐鎖脂肪族炭化水素基を表す。
又はRで表される分岐鎖脂肪族炭化水素基は、飽和基であっても不飽和基であってもよいが、飽和基であることが好ましい。
炭素数8~18の分岐鎖脂肪族炭化水素基としては、例えば、2-エチルヘキシル基、ネオデカニル基、及び、イソステアリル基が挙げられる。
【0037】
本開示に係るグリース組成物は、耐水性の観点から、特定脂肪酸亜鉛が、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛A)を含む。特定脂肪酸亜鉛Aは、R及びRの一方のみがイソステアリル基であってもよく、R及びRの両方がイソステアリル基であってもよい。
【0038】
本開示に係るグリース組成物が含有する特定脂肪酸亜鉛は、特定脂肪酸亜鉛Aのみであってもよい。特定脂肪酸亜鉛が、特定脂肪酸亜鉛Aのみを含む態様である場合、特定脂肪酸亜鉛Aはイソステアリン酸亜鉛(すなわち、R及びRがイソステアリル基である脂肪酸亜鉛)であることが好ましい。
特定脂肪酸亜鉛は、特定脂肪酸亜鉛Aと特定脂肪酸亜鉛A以外の脂肪酸亜鉛との混合物であってもよい。
【0039】
特定脂肪酸亜鉛中の特定脂肪酸亜鉛Aの含有量は、耐水性の観点から、特定脂肪酸亜鉛の全質質量に対して10質量%~100質量%であることが好ましく、20質量%~85質量%であることがより好ましく、30質量%~70質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
特定脂肪酸亜鉛は、耐水性の観点から、特定脂肪酸亜鉛Aと、R及びRの少なくとも一方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛B)とを含むことが好ましい。特定脂肪酸亜鉛Bは、R及びRの一方のみが2-エチルヘキシル基あってもよく、R及びRの両方が2-エチルヘキシル基であってもよい。
【0041】
特定脂肪酸亜鉛Bは、特定脂肪酸亜鉛Aに該当する脂肪酸亜鉛(すなわち、R及びRにおいて、一方がイソステアリル基であり、他方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛)であってもよい。
特定脂肪酸亜鉛Bは、特定脂肪酸亜鉛Aとは構造の異なる脂肪酸亜鉛(すなわち、R及びRにおいて、一方が2-エチルヘキシル基あり、他方がイソステアリル基以外の分岐鎖脂肪族炭化水素基である脂肪酸亜鉛)であってもよい。
【0042】
特定脂肪酸亜鉛は、特定脂肪酸亜鉛A及び特定脂肪酸亜鉛Bを含む態様である場合、イソステアリン酸亜鉛及び2-エチルヘキサン酸亜鉛の混合物に相当する態様であることが好ましい。この場合において、特定脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸亜鉛の含有比率は、イソステアリン酸亜鉛(X)及び2-エチルヘキサン酸亜鉛(Y)としての換算比率(X:Y)が、質量基準で、X:Yが、1:1~2:1であることが好ましく、1.5:1~1.7:1であることがより好ましい。
【0043】
特定脂肪酸亜鉛は、耐水性の観点から、特定脂肪酸亜鉛Aと、特定脂肪酸亜鉛Bと、R及びRの少なくとも一方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛C)と、を含むことがより好ましい。特定脂肪酸亜鉛Cは、R及びRの一方のみがネオデカニル基であってもよく、R及びRの両方がネオデカニル基であってもよい。
【0044】
特定脂肪酸亜鉛Cは、特定脂肪酸亜鉛Aに該当する脂肪酸亜鉛(すなわち、R及びRにおいて、一方がイソステアリル基であり、他方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛)であってもよい。
【0045】
特定脂肪酸亜鉛Cは、特定脂肪酸亜鉛Bに該当する脂肪酸亜鉛(すなわち、R及びRにおいて、一方がネオデカニル基であり、他方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛)であってもよい。
【0046】
特定脂肪酸亜鉛Cは、特定脂肪酸亜鉛A及び特定脂肪酸亜鉛Bとは構造の異なる脂肪酸亜鉛(すなわち、R及びRにおいて、一方が、ネオデカニル基あり、他方がイソステアリル基及び2-エチルヘキシル基以外の分岐鎖脂肪族炭化水素基である脂肪酸亜鉛)であってもよい。
【0047】
特定脂肪酸亜鉛は、特定脂肪酸亜鉛A、特定脂肪酸亜鉛B及び特定脂肪酸亜鉛Aを含む態様である場合、イソステアリン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛及びネオデカン酸亜鉛の混合物に相当する態様であることが好ましい。この場合において、特定脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸亜鉛の含有比率は、イソステアリン酸亜鉛(X)、2-エチルヘキサン酸亜鉛(Y)及びネオデカン酸亜鉛(Z)としての換算比率(X:Y:Z)が、質量基準で、X:Y:Zが、1:1:1~2:1:1であることが好ましく、1.2:1:1~1.8:1:1であることがより好ましい。
【0048】
特定脂肪酸亜鉛の合計の含有量は、耐水性の観点から、グリース組成物の全質量に対して、0.5質量%~3.0質量%であることが好ましく、1.0質量%~2.0質量%がより好ましい。
【0049】
<その他の添加剤>
本開示に係るグリース組成物は、必要に応じて、上記した基油、特定増ちょう剤、金属清浄としての特定脂肪酸亜鉛以外に、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、極圧剤等の添加剤を適宜配合することができる。その他の添加剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等のアルキルフェノール類、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール類、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェノール)プロピオネート等のフェノール系化合物、ナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類等の芳香族アミン化合物、チオリン酸亜鉛化合物などが挙げられる。
【0051】
腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0052】
防錆剤としては、スルホン酸金属塩系化合物、ソルビタン化合物等が挙げられる。
【0053】
極圧剤としては、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、ポリサルファイド等が挙げられる。
【0054】
~グリース組成物の性状~
<混和ちょう度>
グリース組成物の混和ちょう度は、好ましくは205~310、より好ましくは220~295である。
【0055】
~グリース組成物の特性(耐水性)~
本開示に係るグリース組成物の耐水性は、含水ロール安定度試験(ASTM D1831)、及び、水洗耐水度(79℃)(JIS K 2220:2013)に準拠して評価する。
【0056】
本開示に係るグリース組成物は、含水ロール安定度試験による混和ちょう度の変化量が、150以下であることが好ましく、135以下であることがより好ましく、120以下であることが更に好ましい。
【0057】
本開示に係るグリース組成物は、水洗耐水度(79℃)の値が20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0058】
本開示に係るグリース組成物は、含水ロール安定度試験及び水洗耐水度(79℃)のいずれもが、上記範囲内であることが好ましい。
【0059】
~グリース組成物の調製方法~
本開示に係るグリース組成物の調製方法は、特に限定されず、従来公知の方法により調製することができる。本開示に係るグリース組成物は、例えば、潤滑油基油、特定増ちょう剤、及び、金属清浄剤としての特定脂肪酸亜鉛に加えて、必要に応じて、その他の添加成分を適宜混合することにより、調製することができる。
【0060】
~グリース組成物の使用対象~
本開示に係るグリース組成物は、軸受(ベアリング)等に適用することができる。本開示に係るグリース組成物は、耐水性に優れることから、例えば、車両のホイールベアリングに、特に好適に適用することができる。
【実施例0061】
以下、本開示に係るグリース組成物を、実施例により具体的に説明する。なお、本開示に係るグリース組成物は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0062】
グリースの組成物が含有する各成分の詳細は、以下のとおりである。
【0063】
(金属清浄剤)
金属清浄剤は、脂肪酸亜鉛と鉱油(40℃動粘度:10mm/s)との混合物の形態で用いた。表1に、鉱油中に含有される脂肪酸亜鉛の組成を示す。金属清浄剤として用いた脂肪酸亜鉛は、原料となる脂肪酸と亜鉛塩の前駆体とを一度に反応させて得た脂肪酸亜鉛である。表1中、イソステアリン酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛及び2-エチルヘキサン酸亜鉛の各含有率(質量%)は、混合物中における各脂肪酸亜鉛としての換算量に対応する含有率(質量%)を示す。なお、比較例1では金属清浄剤を用いなかった。
【0064】
【表1】

【0065】
金属清浄剤として用いた脂肪酸亜鉛の調製の詳細は、以下に示すとおりである。
【0066】
-金属清浄剤の調製-
実施例1では、鉱油中のイソステアリン酸亜鉛量が51質量%になるように、イソステアリン酸と亜鉛塩の前駆体とを反応させて脂肪酸亜鉛を得た。
すなわち、実施例1に用いた特定脂肪酸亜鉛は、式(1)中のR及びRの両方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛である。
【0067】
実施例2では、鉱油中の含有量が、2-エチルヘキサン酸亜鉛換算で15質量%、及び、イソステアリン酸亜鉛換算で25質量%になるように、2-エチルヘキサン酸とイソステアリン酸と亜鉛塩の前駆体と一度に反応させて脂肪酸亜鉛を得た。
すなわち、実施例2に用いた特定脂肪酸亜鉛は、式(1)中のR及びRの両方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛、R及びRの両方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛、及び、R及びRの一方がイソステアリル基であり、他方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛の混合物である。
【0068】
実施例3では、鉱油中の含有量が、2-エチルヘキサン酸亜鉛換算で5質量%、ネオデカン酸亜鉛換算で5質量%、及び、イソステアリン酸亜鉛換算で10質量%になるように、2-エチルヘキサン酸とネオデカン酸とイソステアリン酸と亜鉛塩の前駆体と一度に反応させて脂肪酸亜鉛を得た。
すなわち、実施例3に用いた特定脂肪酸亜鉛は、式(1)中のR及びRの両方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛、R及びRの両方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛、R及びRの両方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛、R及びRの一方がイソステアリル基であり、他方が2-エチルヘキシル基である脂肪酸亜鉛、R及びRの一方がイソステアリル基であり、他方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛、及び、R及びRの一方が2-エチルヘキシル基であり、他方がネオデカニル基である脂肪酸亜鉛の混合物である。
【0069】
実施例4~実施例8、及び、比較例2~比較例4についても、上記と同様にして脂肪酸亜鉛を得た。
【0070】
(潤滑油基油)
基油:溶剤精製鉱油(40℃動粘度:175mm/s)
【0071】
(増ちょう剤)
増ちょう剤(リチウム石けん、リチウム複合石けん):下記の製造手順で、増ちょう剤の原料を基油に混合して、基油中で原料を反応させて増ちょう剤を合成した。
【0072】
<製造手順(リチウム石けん)>
耐熱容器に基油と増ちょう剤原料として12-ヒドロキシステアリン酸を張り込み、約90℃まで加熱攪拌したのち、水酸化リチウム水溶液を投入し、約60分間けん化反応させる。その後、攪拌しながら200℃に加熱し脂肪酸リチウム塩を溶解させたのち急冷し、リチウムグリースを調製した。
【0073】
<製造手順(リチウム複合石けん)>
耐熱容器に基油と増ちょう剤原料として12-ヒドロキシステアリン酸を張り込み、約90℃まで加熱攪拌したのち、水酸化リチウム水溶液を投入し、約60分間けん化反応させる。さらに水酸化リチウム水溶液とアゼライン酸を加え約60分反応させ、複合体リチウム石けんを生成させる。その後、攪拌しながら230℃に加熱し、半溶融させたのち急冷し、リチウム複合グリースを調製した。
【0074】
(その他の添加剤)
その他の添加剤は、下記の3成分を含む(合計添加量:1.03質量%)。
・2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール ・・・ 0.5質量%
・フェノール系酸化防止剤(製品名:Irganox L57、BASF社製)
・・・ 0.5質量%
・腐食防止剤(製品名:チオライトB-1001、千代田ケミカル(株)製)
・・・ 0.03質量%
【0075】
[実施例1~8、比較例1~4]
表2の組成欄に示す組成となるように、グリース組成物を構成する各成分を混合して、実施例及び比較例の各グリース組成物を調製した。なお、グリース組成物は、各成分を所定量含有するように調製した後に、ミル処理を行って、グリース組成物中に増ちょう剤を均一に分散させ、最終的な組成物とした。
【0076】
[測定及び評価]
得られた各グリース組成物について、下記の測定及び評価を行った。結果を表2に併記する。
【0077】
(1)混和ちょう度
JIS K 2220:2013に基づき、混和ちょう度を測定した。
【0078】
(2)含水ロール安定度
ASTM D1831に基づき、含水ロール安定度試験を行い、下記の判定基準により評価した。
-試験条件-
試料の含水率は10質量%(グリース組成物45g、水5g)とし、試験温度:80℃、試験時間:2h、ロール回転速度:165rpm(revolutions per minute)とした。試験後のグリース組成物の混和ちょう度を測定した。試験後のグリース組成物の混和ちょう度の値から、上記(1)で測定した試験前の混和ちょう度値を減じて算出した混和ちょう度の差の値を、ちょう度変化量とした。
-判定基準-
A:ちょう度変化量が120以下の値である。
B:ちょう度変化量が120より大きい値である。
【0079】
(3)水洗耐水度(79℃)
JIS K 2220:2013に基づき、水洗耐水度(79℃)を測定した。判定は下記基準により行った。
-判定基準-
A:試料の減失量が15以下の値である。
B:試料の減失量が15より大きい値である。
【0080】
耐水性評価については、(2)含水ロール安定度、及び、(3)水洗耐水度(79℃)の両方の判定結果がA判定である場合に、グリース組成物は耐水性に優れると判断した。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示すように、潤滑油基油と、特定増ちょう剤と、金属清浄剤として、式(1)におけるR及びRの少なくとも一方がイソステアリル基である脂肪酸亜鉛を含む特定脂肪酸亜鉛と、を含有する実施例1~8のグリース組成物は、耐水性に優れていた。
これに対して、金属清浄剤として脂肪酸亜鉛を含有しない比較例1のグリース組成物は、含水ロール安定度、及び水洗耐水度(79℃)の両方とも良好ではなく、耐水性が劣っていた。
また、金属清浄剤として、R及びRの少なくとも一方がイソステアリル基ある脂肪酸亜鉛(特定脂肪酸亜鉛A)を含有しない比較例2~4のグリース組成物は、水洗耐水度(79℃)は良好であったが、含水ロール安定度が良好ではなく、耐水性が劣っていた。
【0083】
以上より、本開示に係るグリース組成物は、耐水性に優れていることが分かる。