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特開2023-26898アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器
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  • 特開-アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026898
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20230221BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20230221BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20230221BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20230221BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230221BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20230221BHJP
   B23K 35/28 20060101ALN20230221BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
B23K1/19 F
F28F21/08 A
F28F21/08 B
F28F19/06 B
B23K1/00 330L
B23K1/19 D
C22C21/00 J
C22C21/00 D
C22F1/04 B
B23K35/28 310A
C22F1/00 605
C22F1/00 612
C22F1/00 626
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132333
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東森 稜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(57)【要約】
【課題】チューブ肉厚を減少させることなく又は非常に減少量が少なくフィンとチューブが接合され、ろう付性が良好であり、且つ、長期間に亘ってフィンが脱落し難く、優れた耐食性を有する自動車用熱交換器に用いられる押出チューブ及び該押出チューブが用いられている熱交換器を提供する。
【解決手段】Mnを含有するアルミニウム合金からなるチューブ本体と、該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、を有し、該塗膜は、該Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が9.0~25.0g/mであり、該Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~9.0g/mであり、該Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~11.0g/mであり、該バインダの塗布量が1.0~13.0g/mであること、を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブであり、
Mnを含有するアルミニウム合金からなるチューブ本体と、
該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、
を有し、
該塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn含有フッ化物系フラックス粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダと、を含有しており、
該Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が9.0~25.0g/mであり、該Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~9.0g/mであり、該Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~11.0g/mであり、該バインダの塗布量が1.0~13.0g/mであること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、0.20~1.20質量%のMnと、0.10質量%以下のTiと、を含有し、残部Al及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項3】
Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンにろう付により接合したとき、自然電位測定において、前記押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mVとなることを特徴とする請求項1又は2記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項4】
600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後の前記チューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載された熱交換器用アルミニウム合金押出チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、のろう付け接合物であることを特徴とする熱交換器。
【請求項6】
Mnを含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金押出チューブと、該アルミニウム押出チューブにろう付接合されており、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、を有し、
該アルミニウム合金押出チューブは、チューブ表面にZn拡散層を有し、
自然電位測定において、該アルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mVであること、
を特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブ及びそれを用いて作製された熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
エバポレータ、コンデンサ等の自動車用熱交換器には、軽量であり、高い熱伝導性を有するアルミニウム合金が多用されている。熱交換器は、冷媒が流通するチューブと、冷媒とチューブ外側の空気との間で熱交換するためのフィンとを有しており、チューブとフィンとがろう付により接合されている。チューブとフィンとの接合には、フッ化物系のフラックスを用いることが多い。
【0003】
自動車用熱交換器に用いられるチューブは、前述の通り熱交換を行うために、ろう付によりフィンと接合され、フィン側またはチューブ側にろう材を設ける必要がある。フィン側にろう材を設ける場合、ろう材がクラッドされたクラッド材を用いてフィンが作製され、製造コストや材料コストの低減が困難である。チューブ側にろう材を設ける場合、例えばチューブの外表面に、Si粉末とZn含有フラックスとバインダとが含まれてなるフラックス層を形成させる技術が提案されている(特許文献1)。上記の組成を有するフラックス層は、ろう材成分、Zn及びフラックス成分の全てを一度の付着工程で同時に付着させることができる。また、フィン側にろう材を設ける必要がないため、ベアフィン材を用いてフィンを作製することができる。これらの結果、コスト低減を図ることができる。
【0004】
例えばKZnFをZn含有フラックスとして含むフラックス層を用いる場合、以下の反応式によりフラックス成分及びZnが生成される。
6KZnF+4Al→3KAlF+KAlF+6Zn (555℃以上)
【0005】
上記反応式から、Zn含有フラックスは、単体ではZn及びフラックス成分としては機能せず、チューブのAl(アルミニウム)との反応によりZnを析出すると共にフラックス成分であるフルオロアルミン酸カリウムを生成することにより、Zn及びフラックス成分として機能する。
【0006】
特許文献2では、ろう材粉末としてSiを含む合金粉末を使用した技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2011/090059号
【特許文献2】特許第6294537号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、環境負荷を低減させるために、構成部品の軽量化により自動車の燃費を向上させる要求や、部品の長寿命化により製品としての材料使用量を低減する要求が高まっている。かかる観点から、従来よりも肉厚の薄いチューブを用いることや、そのようなチューブを用いた熱交換器において従来よりも高い耐食性を有することが強く求められている。このことは、チューブの薄肉化が可能であることだけでなく、チューブ自体が優れた犠牲防食作用を有することと同時に、腐食環境にさらされた後でもフィンがチューブ表面から脱落することなく、長い期間に亘ってチューブ表面を防食する必要があることを意味する。
【0009】
しかしながら、特許文献1の手法では、塗料中に含まれる純Si粉末がチューブ表面を溶融させて液相ろうを生成することから、ろう付中のチューブ貫通を防ぐためにチューブ肉厚を一定以上確保する必要があり、チューブの薄肉化に貢献するとは言い難い。
【0010】
さらに、塗料中に含まれる純Si粉末は、チューブ表面のアルミニウムと共晶溶融して生成するAl-Si合金の液相ろうがフィンとチューブの接触部に流動してフィレットを形成することになる。このとき、粗大なSi粒が混入していると、粗大なSi粒の表面とチューブ表面のアルミニウムと共晶溶融した液相ろうが毛細管現象によって速やかにフィンとチューブの接触部に流動するため、小さくなったSi粒の周囲がチューブ表面から離れ、液相ろうが流出したチューブ表面に凹み部を形成し、Si粒と接する凹み部の底でさらなる共晶溶融が進行することになる。そうすると深い溶融穴を形成することになり、チューブ本体に貫通孔が発生するおそれが生じる。
【0011】
特許文献1では、それ以下の粒径を有する粒子の累積体積が全粒子の99%となる粒径(99%粒径、D99)の5倍以上となる粗大粒の含有量が1ppm未満であるSi粉末を用いて、上記課題を解決しようとしているが、粗大粒子の混入を1ppm未満にするための課題も生じていた。
【0012】
特許文献2の手法においては、ろう材粉末のうちSiを含む合金としてAl-Si合金粉末が例に挙げられている。塗装チューブにろう材としてAl-Si合金粉末を用いた場合、純Si粉末の場合と異なりチューブ表面にエロージョンを生じ、ろう付中に減肉する懸念がある。さらに、フラックスとしてZn含有フラックスが用いられている。前述したフラックスの反応により液相の生成直前にチューブ外表面でZnが析出する反応が進行していることから、生成した液相には高濃度のZnが含まれることとなる。このZnはチューブ外表面に拡散してZn拡散層を形成し、犠牲防食層として機能することでチューブにおける孔食の発生を抑制するが、Zn量が多く、チューブ表面とチューブ深部の電位差が大きい場合は腐食速度が大きくなり、チューブの減肉速度が速くなってしまう。また、ろう付中の液相に含まれたZnは、フィンとチューブの間に形成されるフィレット中にも濃縮する。この場合、フィレットの電位が最も卑になることで、腐食環境にさらされた際にフィレットが優先的に腐食して消耗し、フィンの脱落を生じ、早期に熱交換性能が低下するとともに、フィンによりチューブが防食されなくなることでチューブに早期貫通が生じ得ることを意味する。本技術ではそれらの対策が記載されておらず、実用的であるとは言い難いものである。
【0013】
また、熱交換器のチューブに従来よく使用されるZn溶射チューブにおいては、表面Zn量は通常は5~15g/mであり、チューブ表面とチューブ深部の電位差を小さくし、腐食速度を小さくするため、また、フィレットへのZn濃縮を低減するためにZn量を5g/m以下とした場合には、チューブ表面へ均一にZnを溶射することが困難であった。
【0014】
従って、本発明の目的は、ろう付けの際にチューブ肉厚を減少させることなく又は肉厚の減少量が非常に少なくフィンとチューブが接合され、ろう付性が良好であり、且つ、長期間に亘ってフィンが脱落し難く、優れた耐食性を有する、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブ及び該押出チューブが用いられている熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、チューブ本体と、チューブ表面に塗布された塗膜とを有するアルミニウム合金押出チューブにおいて、チューブの外表面に、Al-Si合金からなるろう材粉末と、Zn含有フッ化物系フラックス粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末とを、特定の塗布量で塗布することにより、ろう付中にチューブ表面が溶融されない又は溶融され難いため、ろう付中にチューブ肉厚が減少されず又は非常に減少量が少なく、ろう付中にチューブ外表面にZn拡散層が形成されるため、チューブ表層の犠牲防食層とフィンにより防食されることで耐食性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
上記本発明の課題は、以下の本発明によって解決される。
すなわち、本発明(1)は、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブであり、
Mnを含有するアルミニウム合金からなるチューブ本体と、
該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、
を有し、
該塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn含有フッ化物系フラックス粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダと、を含有しており、
該Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が9.0~25.0g/mであり、該Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~9.0g/mであり、該Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~11.0g/mであり、該バインダの塗布量が1.0~13.0g/mであること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを提供するものである。
【0017】
本発明(2)は、前記アルミニウム合金が、0.20~1.20質量%のMnと、0.10質量%以下のTiと、を含有し、残部Al及び不可避不純物からなることを特徴とする(1)の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを提供するものである。
【0018】
本発明(3)は、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンにろう付により接合したとき、自然電位測定において、前記押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mVとなることを特徴とする(1)又は(2)の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを提供するものである。
【0019】
本発明(4)は、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後の前記チューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを提供するものである。
【0020】
本発明(5)は、(1)~(4)のいずれか1の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンとがろう付により接合されていることを特徴とする熱交換器を提供するものである。
【0021】
本発明(6)は、Mnを含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金押出チューブと、該アルミニウム押出チューブにろう付接合されており、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、を有し、
該アルミニウム合金押出チューブは、チューブ表面にZn拡散層を有し、
自然電位測定において、該アルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mVであること、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ろう付けの際にチューブ肉厚を減少させることなく又は肉厚の減少量が非常に少なくフィンとチューブが接合され、ろう付性が良好であり、且つ、長期間に亘ってフィンが脱落し難く、ろう付によりチューブ表層に犠牲防食層としてのZn拡散層が形成され、チューブ表層の犠牲防食層とフィンにより防食されることで優れた耐食性を有する、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブ及び該押出チューブが用いられている熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例で作成するミニコアを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のアルミニウム合金押出チューブは、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブであり、
Mnを含有するアルミニウム合金からなるチューブ本体と、
該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、
を有し、
該塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn含有フッ化物系フラックス粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダと、を含有しており、
該Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が9.0~25.0g/mであり、該Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~9.0g/mであり、該Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が1.0~11.0g/mであり、該バインダの塗布量が1.0~13.0g/mであること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブである。
【0025】
本発明の熱交換器用押出チューブは、アルミニウム合金により形成されており、アルミニウム合金を押出成形することにより作製されたアルミニウム合金製のチューブである。そして、本発明のアルミニウム合金押出チューブは、フィン等とろう付されることにより、自動車用熱交換器において、冷媒が流通するチューブに用いられる。
【0026】
(チューブ)
本発明のアルミニウム合金押出チューブに係るチューブ本体は、Mnを含有するアルミニウム合金により形成されている。Mnは、アルミニウム母相中に固溶することにより、強度を向上させる作用を有し、また、電位を貴にする効果も有する。
【0027】
チューブ本体を形成するMnを含有するアルミニウム合金は、0.20~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなることが好ましい。
【0028】
チューブ本体を形成するMnを含有するアルミニウム合金中、Mn含有量は、好ましくは0.20~1.20質量%、特に好ましくは0.40~1.20質量%である。Mnを含有するアルミニウム合金中のMn含有量が上記範囲にあることにより、十分な強度向上効果及びチューブ深部における電位貴化効果を得ることができる。一方、アルミニウム合金中のMn含有量が、上記範囲未満だと、上記効果が得られ難く、また、上記範囲を超えると、後述する熱間加工以前の工程で母相中にAl-Mn析出物を生じ、これが粒界の移動を抑制することで、ろう付後の結晶組織が微細となり、ろう付不具合を生じ得、また、更に、押出加工における加工性が低くなり、チューブ本体の生産性が低くなるおそれがある。
【0029】
チューブ本体を形成するMnを含有するアルミニウム合金中、Ti含有量は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.001~0.08質量%である。Mnを含有するアルミニウム合金中のTi含有量が、上記範囲にあることにより、鋳造時の組織を微細にすることができる。一方、アルミニウム合金中のTi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大結晶物が生成し、健全なチューブ本体の製造が困難となるおそれがあり、また、押出多穴管の場合には、晶出したTiがダイスとの間に摩擦を生じさせ、生産性や工具寿命を低下させるおそれがある。
【0030】
チューブ本体としては、上記のMnを含有するアルミニウム合金の化学成分に調整され鋳造されたアルミニウム合金鋳塊、すなわち、0.20~1.20質量%、好ましくは0.40~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下、好ましくは0.001~0.08質量%であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の鋳塊に、以下の均質化処理が施されたアルミニウム合金を用いて、熱間押出加工されたものであることが好ましい。
均質化処理としては、以下の第一の形態の均質化処理及び第二の形態の均質化処理が挙げられる。
【0031】
第一の形態の均質化処理では、所定の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、400~650℃で2時間以上保持する。第一の形態の均質化処理における処理温度は、400~650℃、好ましくは430~620℃である。均質化処理の処理温度が、上記範囲にあることにより、鋳造時に形成される粗大な晶出物を分解あるいは粒状化させ、鋳造時に生じた偏析層などの不均一な組織を均一化させることができる。その結果、押出加工時の抵抗を低減して押出性を向上させることができ、また、押出後の製品の表面粗度を小さくすることができる。一方、均質化処理の処理温度が、上記範囲未満だと、粗大な晶出物や上記の不均一な組織が残存するおそれがあり、押出製の低下や表面粗度の増大を招くおそれがあり、また、上記範囲を超えると、鋳塊の溶融を招くおそれがある。均質化処理の処理時間は、2時間以上、好ましくは5時間以上である。均質化処理の処理時間が、上記範囲であることにより、均質化が十分となる。また、均質化処理の処理時間は、24時間を超えても、均質化の効果が飽和するため、24時間以下が好ましい。
【0032】
第二の形態の均質化処理では、所定の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、550~650℃で2時間以上保持する第一均質化処理を行い、第一均質化処理を行った後、アルミニウム合金鋳塊を、400~550℃で3時間以上保持する第二均質化処理を行う。
【0033】
第二の形態の均質化処理に係る第一均質化処理における処理温度は、550~650℃、好ましくは580~620℃である。第一均質化処理の処理温度が、上記範囲にあることにより、鋳造時に形成される粗大な晶出物を分解あるいは粒状化させ、また、積極的に再固溶させることができる。一方、第一均質化処理の処理温度が、上記範囲未満だと、再固溶が進み難くなり、また、上記範囲を超えると、鋳塊の溶融を招くおそれがある。第一均質化処理の処理時間は、2時間以上、好ましくは5時間以上である。均質化処理の処理時間が、上記範囲であることにより、上記効果が十分となる。また、均質化処理の処理時間は、24時間を超えても、均質化の効果が飽和するため、24時間以下が好ましい。
【0034】
第二の形態の均質化処理に係る第二均質化処理における処理温度は、400~550℃である。第二均質化処理の処理温度が、上記範囲にあることにより、母相中に固溶しているMnを析出させ、Mnの固溶度を低下させることができる。その結果、押出加工における変形抵抗を低下させ、押出性を向上させることができる。一方、第二均質化処理の処理温度が、上記範囲未満だと、Mnの析出量が少なくなるため、変形抵抗を低下させる効果が不十分となるおそれがあり、また、上記範囲を超えると、Mnが析出し難くなるため、変形抵抗を増加させるおそれがある。第二均質化処理の処理時間は、3時間以上、好ましくは5時間以上である。第二均質化処理の処理時間が、上記範囲未満だと、Mnの析出が十分となり、変形抵抗を低下させる効果が不十分となるおそれがある。また、均質化処理の処理時間は、長い方が反応が進むため効果があるが、長すぎても効果が飽和するため、24時間以下が好ましく、15時間以下が特に好ましい。
【0035】
第二の形態の均質化処理において、第一均質化処理と第二均質化処理とを、連続して行ってもよいし、あるいは、第一均質化処理を行った後、一旦、鋳塊を冷却してから、第二均質化処理を行ってもよい。なお、第一均質化処理と第二均質化処理とを連続して行うとは、第一均質化処理が完了した後に、鋳塊の温度を、第二均質化処理の処理温度よりも低い温度に冷却することなく、第二均質化処理の処理温度に達したときに、第二均質化処理を開始するという意味である。また、第一均質化処理を行った後、一旦、鋳塊を冷却してから、第二均質化処理を行う場合には、例えば、第一均質化処理を行った後、鋳塊を200℃以下まで冷却した後に再加熱し、第二均質化処理を行う。
【0036】
上記第一の形態の均質化処理又は第二の形態の均質化処理が施されたアルミニウム合金鋳塊を、熱間押出加工する方法は、特に制限されない。熱間押出加工の加工温度は、例えば、400~550℃である。
【0037】
チューブ本体の形態は、特に制限されず、用途や要求される特性に応じて、適宜選択される。チューブ本体としては、例えば、押出加工により形成され、内部に複数の冷媒流路を有し、押出方向に垂直な断面の形状が扁平な形状である押出扁平多穴管が挙げられる。また、チューブ本体は、例えば、単純な筒状等の形状であってもよい。筒状のチューブは、押出加工により製造されたものであってもよい。
【0038】
(塗膜)
本発明のアルミニウム合金押出チューブに係る塗膜は、チューブの外表面に形成されている。塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn含有フッ化物系フラックス粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダとを含有している。
【0039】
Al-Si合金ろう材粉末は、粉末状のAlとSiの合金である。Al-Si合金ろう材粉末は、ろう付時の加熱により、Al-Si合金ろう材粉末自身のみで溶融し、チューブ外表面に液相ろうを生じる。このことにより、チューブをフィンやヘッダと接合させることができる。Al-Si合金ろう材粉末は、Alを含有しているので、ろう付時のろう材によるチューブ外表面の溶融が起こり難い。
【0040】
Al-Si合金ろう材粉末を構成するAlとSiの合金中、Siの含有量は、好ましくは5.0~20.0質量%、特に好ましくは7.0~15.0質量%である。AlとSiの合金中のSiの含有量が上記範囲にあることにより、ろう付時にチューブ外表面の溶融によるチューブ肉厚の減少が起こり難くなると共に、ろう付性が良好になる。
【0041】
Al-Si合金ろう材粉末の塗布量は、9.0~25.0g/m、好ましくは12.0~20.0g/mである。Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が上記範囲にあることにより、ろう付性が良好になる。一方、Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が、上記範囲未満だと、液相ろうの量が不十分となり、接合不良を生じ易くなり、また、上記範囲を超えると、塗膜厚さが過度に厚くなり、ろう付後のコアの寸法変化が生じ、ろう付性が低くなり易くなる。
【0042】
Zn含有フッ化物系フラックスは、ろう付加熱中にチューブのAlとの反応によりZnを生成し、チューブ表面にZnの拡散層を形成する。Zn含有フラックスからZnが生成する際に、同時にZn非含有フッ化物系フラックスが生成する。当該Zn非含有フッ化物系フラックスはろう付加熱中に溶融して、Al-Si合金粉末やチューブ外表面の酸化皮膜を先んじて破壊し、液相ろう生成後にただちにろう付が進行することを可能とする。なお、本発明において、「Zn含有」、「Znを含有する」とは、電子線マイクロアナライザによる分析において、Zn量が検出されること(検出下限値以上であること)を指す。
【0043】
Zn含有フッ化物系フラックス粉末としては、例えば、KZnF、ZnFが挙げられる。
【0044】
Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量は、1.0~9.0g/m、好ましくは2.0~8.0g/mである。Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が上記範囲にあることにより、熱交換器が優れた耐食性を有するものとなる。一方、Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が、上記範囲未満の場合は、ろう付加熱後のチューブ表面とチューブ深部の電位差が小さくなるために、犠牲陽極効果が不十分となり、また、上記範囲を超える場合は、チューブ表面とチューブ深部の電位差が過度に大きくなるために、チューブの減肉速度が速くなり、また、フィレットへのZn濃縮の程度が大きくなり、耐食性が低下する。
【0045】
Zn非含有フッ化物系フラックス粉末は、ろう付時にフラックスとして機能し、ろう付加熱中に溶融して、Al-Si合金ろう材粉末やチューブ外表面の酸化皮膜を破壊し、液相ろう生成後に、直ちにろう付が進行することを可能にする。Zn非含有フッ化物系フラックス粉末は、粉末状であり且つZnを含有しないフッ化物である。なお、本発明において、「Zn非含有」、「Znを含有しない」とは、電子線マイクロアナライザによる分析において、Zn量が検出下限未満であることを指す。
【0046】
Zn非含有フッ化物系フラックス粉末を構成するZn非含有フッ化物としては、例えば、KAlF、KAlF、KAlF等のK-Al-F系化合物が挙げられる。また、これらの他に、Zn非含有フッ化物としては、CaF、LiF等のフラックスも挙げられる。
【0047】
Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量は、1.0~11.0g/mであり、好ましくは3.0~11.0g/mである。Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が上記範囲にあることにより、ろう付時の酸化皮膜の破壊効果が十分となる。一方、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が、上記範囲未満だと、フラックス成分が不足するため、酸化皮膜の破壊が不十分となり、ろう付性が低くなり易く、また、上記範囲を超えると、塗膜厚さが過度に厚くなり、ろう付後のコアの寸法変化が生じ、ろう付性が低くなり易くなる。
【0048】
ろう付性の観点から、Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量とZn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量の合計は3.0~15.0g/mであることが好ましく、5.0~13.0g/mであることが特に好ましい。Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量とZn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量の合計が上記範囲であることにより、十分なろう付性が得られる。一方、Zn含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量とZn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量の合計が上記範囲未満だと、フラックス成分が不足するため、酸化皮膜の破壊が不十分となり、ろう付性が低くなり易く、また、上記範囲を超えると、前述の酸化皮膜を破壊する効果が飽和する一方、フラックス溶融後の塗膜厚さの変化が過度に大きくなるため、ろう付中のコアの寸法変化を生じ、ろう付性が低下する懸念がある。
【0049】
バインダは、Al-Si合金ろう材粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を、チューブ本体の表面に付着させるものである。バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0050】
バインダの塗布量は、1.0~13.0g/mである。バインダの塗布量が上記範囲にあることにより、Al-Si合金ろう材粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を、チューブ本体の表面に良好に付着させることができる。一方、バインダの塗布量が、上記範囲未満だと、塗膜の剥離が生じ易くなり、また、上記範囲を超えると、バインダの熱分解が不十分となり、ろう付の際に未分解のバインダ等が残留し、ろう付性が低くなるおそれがある。
【0051】
チューブ本体の表面に、塗膜を形成させる方法としては、例えば、Al-Si合金ろう材粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末及びバインダを、溶剤に混合し、得られるペーストをチューブ本体の表面に塗布した後、溶剤を乾燥して除去することにより、塗膜を形成させる方法が挙げられる。Al-Si合金ろう材粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を、溶剤に混合する前に、予め、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn含有フッ化物系フラックス粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、を混合して、Al-Si合金ろう材粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末の混合粉末にしてから、得られる混合粉末をバインダと共に、溶剤に混合してもよい。チューブ本体の表面への上記ペーストの塗布には、例えば、ロールコート法等が用いられる。
【0052】
本発明のアルミニウム合金押出チューブは、好ましくは、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンにろう付により接合したとき、自然電位測定において、ろう付接合後のアルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、好ましくは-180~-40mV、特に好ましくは-150~-40mVである。本発明のアルミニウム合金押出チューブでは、Zn含有フッ化物系フラックス粉末を含む塗膜によりチューブ表面にZn拡散層が形成されるため、チューブ表面とチューブ深部との間に電位差が形成され、該電位差が上記範囲であることにより、十分な犠牲防食効果を発揮し、チューブ単体として優れた防食性能を有する。なお、本発明において、アルミニウム合金押出チューブのチューブ深部の電位とは、ろう付後のアルミニウム合金押出チューブの表面から150μm以上深いの部分の電位を指す。
【0053】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、好ましくは、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後のチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上である。つまり、熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却することにより、チューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上となるような、結晶組織を有している。なお、熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験をしたときのチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であることにより、ろう付加熱中に、液相ろうが結晶粒界を侵食する所謂エロージョンが発生し難く、チューブ肉厚の減少やチューブの貫通が起こり難くなり、また、ろう量の減少による接合不良が起こり難くなるので、ろう付性が良好になる。
【0054】
熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに係る加熱試験は、先ず、熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを、加熱して昇温し、昇温過程において、600℃±10℃の保持温度まで加熱し、次いで、600℃±10℃で3分間保持し、次いで、室温まで冷却する加熱試験を行い、次いで、加熱試験後の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブのチューブ本体の平均結晶粒径を測定する試験である。なお、チューブ本体の平均結晶粒径の測定方法は、試験片を電解研磨した後、倍率50~100倍の偏光顕微鏡により、各断面の顕微鏡像を得て、円相当径を測定する方法が挙げられる。また、加熱試験の昇温過程における昇温温度については、500℃までの温度域が平均30±10℃/分の昇温速度であり、500℃以上の温度域が平均10±5℃/分の昇温速度である。
【0055】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、上記特定のアルミニウム合金よりなるチューブ本体を有している。そのため、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、チューブ本体に純アルミニウム系合金を採用する場合に比べて高い強度特性を有する。
【0056】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブの塗膜は、Al-Si合金粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を含んでいる。これらの粉末がそれぞれの特徴を発揮すると共に、相互に作用して相乗的な効果を発揮することにより、優れたろう付性及び耐食性を容易に実現することができる。
【0057】
すなわち、混合粉末に含まれるAl-Si合金粉末は、ろう付時の加熱によって溶融し、チューブ外表面に液相ろうを生じさせる。これにより、熱交換器用チューブとフィンとを接合させることができる。この際、チューブ外表面を溶融させることなくろう材粉末単体で液相ろうを生じるため、ろう付中にチューブ肉厚を減少させず又は非常に減少量が少なく、より薄肉のチューブを使用することができる。
【0058】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、塗膜中にZn含有フッ化物系フラックス粉末を1.0~9.0g/m、好ましくは2.0~8.0g/m含有している。例えば、Znをチューブ表面に溶射した熱交換器用チューブの場合、Zn量が少ない場合には、チューブ表面への均一なZn溶射が困難であり、Zn量が多い場合には、ろう付によりZn拡散層が形成された場合、チューブ表面とチューブ深部の電位差が大きくなり、チューブの減肉速度が速くなってしまう。また、Zn量が多い場合には、チューブ表面にろう付により形成される接合部であるフィレットのZn濃度が高くなり、フィレットが優先的に腐食し、早期のフィンの脱落を招く懸念がある。一方、Zn含有フッ化物系フラックス粉末を含む塗料を塗布して形成させた塗膜を有する熱交換器用チューブの場合、Zn含有フッ化物系フラックスの量によらずチューブ表面に均一に塗装を施すことが可能であるため、適切な量のZnをチューブ表面に付与することができる。この結果、Zn拡散層の形成により、チューブ表面とチューブ芯との間に適切な電位差が形成され、チューブ単体として優れた防食性能を有することができる。また、フィレットへのZn濃縮が低減され、耐食性が向上する。
【0059】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、塗膜中にZn含有フッ化物系フラックス粉末と共に、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末を含有し、Zn含有フッ化物系フラックス粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末は、ろう付時の加熱によって溶融し、ろう材粉末表面の酸化皮膜およびチューブ外表面の酸化皮膜を先んじて破壊することで、Al-Si合金粉末の溶融後ただちにろう付を可能にする。そして、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブでは、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末が、Zn含有フッ化物系フラックス粉末だけでは不足するろう材粉末表面の酸化皮膜およびチューブ外表面の酸化皮膜の破壊作用を補充するので、ろう付後のチューブ表面とチューブ深部の電位差を適切にし、ろう付時のフィレットへのZnの濃縮を少なくしつつも、ろう付性を良好にすることができる。
【0060】
以上のように、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、より薄肉であっても外表面の溶融を生じず又は生じ難く優れたろう付性を有する。また、熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、塗膜に含まれたZn含有フッ化物系フラックス粉末がろう付加熱中にチューブと反応することでZnを生成し、チューブ表面からZnが拡散することで犠牲層を有しチューブ単体として犠牲防食効果を発揮し、同時にフィレットへのZn濃縮が低減され、優れた耐食性を有する。
【0061】
(熱交換器)
本発明の第一の形態の熱交換器は、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブとがろう付により接合されたものである。
【0062】
本発明の第一の形態の熱交換器に係るZnを含有するアルミニウム合金からなるフィンは、アルミニウム合金により形成されている。フィン材を形成するアルミニウム合金は、特に制限されず、熱交換器用として十分な強度及び耐食性を有するものであればよいが、例えば、Mn含有量が0.80~2.00質量%、Zn含有量が0.50~2.50質量%、Cu含有量が0.30質量%以下であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。また、前記フィン材用アルミニウム合金は、更に、Siを1.50質量%以下、及び/又はZrを0.30質量%以下含有してもよい。また、本発明の熱交換器に係るZnを含有するアルミニウム合金からなるフィンは、熱交換器用として十分な強度及び耐食性を有するものであれば、公知のフィンであってもよい。
【0063】
本発明の第一の形態の熱交換器は、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンを当接させた後、ヘッダ等の他の部材を組み付け、これらを加熱して、ろう付することにより作製される。ろう付に際しての加熱温度、加熱時間、雰囲気は、特に制限されず、ろう付方法も、特に制限されない。ろう付の加熱温度は、例えば、590~610℃であり、また、ろう付の加熱時間は、例えば、15分~45分であり、また、ろう付の雰囲気は、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等である。
【0064】
本発明の第一の形態の熱交換器では、自然電位測定において、アルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mV、好ましくは-150~-40mVである。アルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差が、上記範囲にあることにより、押出チューブのチューブ表面近傍に形成されているZn拡散層が十分な犠牲防食効果を発揮し、チューブ単体として優れた防食性能を有する。
【0065】
本発明の第一の形態の熱交換器は、チューブ材として、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを用いて、ろう付されたものなので、ろう付時にチューブ肉厚を減少させることなく又は非常に肉厚の減少量が少なくフィンと接合されたものである。そのため、本発明の熱交換器は、薄肉であっても強度が高い。また、ろう付後のチューブ表面とチューブ深部の電位差が適切であるため、犠牲陽極効果により孔食が抑制されつつも、チューブの減肉速度が速すぎず、優れた耐食性を有する。
【0066】
本発明の第一の形態の熱交換器は、本発明の熱交換器用チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンとがろう付により接合されている。ろう付の際にはチューブとフィンとの間にフィレットを形成する。一般に塗膜中に純Zn粉末等を含む場合には、前述の通りフィレット形成時に溶融ろう中のZnが濃縮し、フィレットの電位が最も卑になる。この場合、熱交換器が腐食環境下にさらされるとフィレット部分の腐食が最も早く進行するため、フィレットが消失することでフィンがチューブ表面から脱落する。その結果、熱交換性能が大きく低下し、さらにフィンによるチューブの防食作用が失われるため、早期にチューブの貫通を生じ得る。
【0067】
一方、本発明においては熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに塗装された塗膜中にZn成分が含有されているものの、従来技術に比べフィレットへのZn濃縮を生じない。すなわち、フィレットが優先的に腐食しないため長期間に亘ってチューブ表面からフィンが脱落せず、熱交換性能の低下を防止できるだけでなく、フィンによるチューブの防食作用が長期間得られる。それ故、上述したように、過酷な腐食環境下にさらされても優れた耐食性を有する。
【0068】
また、本発明の第二の形態の熱交換器は、Mnを含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金押出チューブと、該アルミニウム押出チューブにろう付接合されており、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、を有し、
該アルミニウム合金押出チューブは、チューブ表面にZn拡散層を有し、
チューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mVであること、
を特徴とする熱交換器である。
【0069】
本発明の第二の形態の熱交換器に係るアルミニウム合金押出チューブは、Mnを含有するアルミニウム合金からなり、本発明の第二の形態の熱交換器に係るアルミニウム合金押出チューブ中のMn含有量は、好ましくは0.20~1.20質量%、特に好ましくは0.40~1.20質量%である。また、本発明の第二の形態の熱交換器に係るアルミニウム合金押出チューブは、Tiを含有することができ、本発明の第二の形態の熱交換器に係るアルミニウム合金押出チューブ中のTi含有量は、好ましくは0.10質量%以下、特に好ましくは0.001~0.08質量%である。また、本発明の第二の形態の熱交換器に係るアルミニウム合金押出チューブは、チューブ表面にZn拡散層を有する。
【0070】
本発明の第二の形態の熱交換器に係るフィン材を形成するアルミニウム合金は、特に制限されず、熱交換器用として十分な強度及び耐食性を有するものであればよいが、例えば、Mn含有量が0.80~2.00質量%、Zn含有量が0.50~2.50質量%、Cu含有量が0.30質量%以下であるアルミニウム合金が挙げられる。前記フィン材用アルミニウム合金は、Siを1.50質量%以下及び/又はZrを0.30質量%以下含有してもよい。
【0071】
本発明の第二の形態の熱交換器では、自然電位測定において、アルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差(チューブ表面の電位-チューブ深部の電位)が、-180~-40mV、好ましくは-150~-40mVである。アルミニウム合金押出チューブのチューブ表面とチューブ深部との電位差が、上記範囲にあることにより、押出チューブのチューブ表面近傍に形成されているZn拡散層が十分な犠牲防食効果を発揮し、チューブ単体として優れた防食性能を有する。
【0072】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0073】
(実施例及び比較例)
表1に示す化学成分を有する合金を用いてチューブ本体を作製し、次いで、得られたチューブ本体の表面に表2に示す組成の塗膜を形成させて、アルミニウム合金押出チューブを作製した。その後、得られたアルミニウム合金押出チューブを用いて図1に示すような熱交換器を模擬したミニコアを組み立て、得られた3種のミニコアの耐食性について評価を行った。
【0074】
<チューブ本体の作製>
表1に示す化学成分を有するビレットを600℃で10時間加熱して均質化処理を行った。均質化処理が完了したビレットを室温まで冷却した後、450℃まで再加熱し、熱間押出加工を行った。以上により、幅が16mm、高さが1.0mmの押出方向に垂直な断面が扁平な形状を呈し、複数の冷媒流路を備えたチューブ本体を作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
<塗膜の形成>
チューブ本体の作製とは別に、塗膜を形成するためのペーストを準備した。Al-Si合金ろう材粉末、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末、Zn含有フッ化物系フラックス粉末およびバインダを溶剤に混合し、塗膜形成用のペーストを調整した。次いで、得られたペーストを、上記チューブ本体の平坦面に、ロールコーターを用いて塗布し、塗装チューブを得た。塗装後のペーストの組成は表2の通りとした。
【0077】
【表2】
【0078】
なお、Al-Si合金ろう材粉末は、Si含有量12.00質量%であり、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末は、K-Al-F系フラックスであり、Zn含有フッ化物系フラックスは、KZnFであり、バインダはアクリル樹脂とした。
【0079】
<フィンの作製>
Mn:1.20質量%、Zn:1.50質量%のアルミニウム合金からなる厚さ0.1mmの板材にコルゲート加工を施し、コルゲート形状を有するフィンを作製した。なお、フィンピッチは3mmとし、フィン高さは7mmとした。
【0080】
<ミニコア作製および加熱試験>
フィンの上下をアルミニウム合金押出チューブで挟む形で積層し、図1に示す所定の形状に組み付けた。この状態で、窒素ガス雰囲気下で、チューブおよびフィンを400℃以上の領域を平均10℃毎分の昇温速度で600℃まで昇温させ、600℃の温度を3分間保持した後室温まで降温させることにより、ろう付を行うことにより、長さ40mmに切断したチューブおよびフィンを接合し、熱交換器を模擬したミニコアを得た。
なお、ミニコア作製のための熱履歴は、加熱試験の熱履歴に相当する。
【0081】
以上により得られた3種のミニコア(試験体A~C)を用いて、ろう付性評価、自然電位測定、腐食試験を行った。
【0082】
<ろう付性評価>
ろう付後のチューブの断面観察を行い、目視観察により、フィンの接合状態、変色等の外観不良の有無、フィンの溶融の有無、チューブ表面のエロージョンの有無を判定した。また、エッチングを施し、平均結晶粒径を測定した。平均結晶粒径の測定は、チューブ表面を電解研磨した後、倍率25倍の偏光顕微鏡により、チューブ表面から深さ10μm以下の断面の顕微鏡像を得て、チューブ長手方向と平行方向および直角方向に1mmの線分を各3本引き、線分の長さ1mmを、各線分と交差する結晶粒界の数で割った値の平均値を、平均結晶粒径とした。
【0083】
<自然電位測定>
ろう付後の各試験体のチューブ表面、チューブ深部の自然電位を測定した。各部位を適切な大きさに切断し、測定する部分以外をシーラントにてマスキングし、5%NaCl溶液に24h浸漬し、18hから24hまでの平均値より各部位の自然電位を求めた。アルミニウム合金押出チューブのチューブ深部の電位については、アルミニウム合金押出チューブの外表面から深さ150μmの位置の電位を測定した。
「チューブ表面の電位(A)-チューブ深部の電位(B)」については、-180~-40mVの場合を「合格」、-180mVより小さい場合又は-40mVより大きい場合を「不合格」とした。
【0084】
<腐食試験>
各試験体にASTM-G85-Annex A3に規定されたSWAATを1320時間実施した。試験完了後の試験材を目視で観察することにより、フィンの剥離の有無を判定した。また、焦点深度測定により選定したチューブの最大腐食部について、機械研磨により断面を出し、倍率50倍の金属顕微鏡により、チューブ長手方向と平行方向の断面の顕微鏡像を得て、最大腐食部を含むチューブ長手方向に2mmの領域のチューブ断面積を、腐食試験前のチューブ断面積で割った値を、チューブ断面積減少率とした。
フィン剥がれについては、チューブとフィンが固定されており、力を加えてもチューブとフィンが固定されている場合を「◎:合格、フィン剥がれが非常に少ない」とし、チューブとフィンの接合部が一部剥離しているものの、チューブとフィンが分離していない場合を「〇:合格、フィン剥がれが少ない」とし、チューブとフィンの接点でフィンが分離している場合を「×:不合格、フィン剥がれが多い」とした。
チューブ断面積減少率が、20%以下の場合を「合格」、20%を超える場合を「不合格」とした。
【0085】
<評価結果>
ろう付性評価結果を表3に示す。
試験例A、B、Cはろう付不具合を生じず、ろう付性に関しては合格であった。また、ろう付後組織の平均結晶粒径は、150μm以上と充分に大きく、エロージョンも生じず、合格であった。また、ろう付後のチューブの肉厚は、ろう付前の肉厚と比べて、大きく変化していないことから、顕著な溶融が起こっていないことが確認された。
【0086】
【表3】
【0087】
自然電位測定結果および腐食試験結果を表4に示す。
試験体A、Bは、チューブ表面の自然電位がチューブ深部より40mV以上卑であり、チューブ表面の優先腐食によりチューブ深部を防食可能であり、且つ、チューブ表面の自然電位とチューブ深部の自然電位の差が180mV以内であり、チューブ表面の自然電位がチューブ深部より卑になり過ぎておらず適度な電位差であり、腐食試験前後のチューブ断面積減少率は20%以下となり、合格であった。また、試験例Aは、フィン剥がれは極めて軽微であり合格であった。試験体Bは、フィン剥がれは軽微であり合格であった。いずれの試験体においても、塗装中のZn含有フラックス量が適切であり、フィレットの優先腐食が生じにくかった。
試験体Cは、フィン剥がれは軽微であり合格であったが、チューブ表面の自然電位とチューブ深部の自然電位の差が180mVより大きいためにチューブの腐食速度が大きく、腐食試験前後のチューブ断面積減少率は20%より大きくなり、不合格であった。
【0088】
【表4】
図1