(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026908
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】精神ストレスの定量法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230221BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230221BHJP
G01N 33/70 20060101ALI20230221BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20230221BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230221BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20230221BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 D
G01N33/70
G01N33/50 B
A61B5/16 110
G01N30/72 C
G01N30/88 E
G01N33/493 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132351
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】591122956
【氏名又は名称】株式会社LSIメディエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田辺 和弘
(72)【発明者】
【氏名】横田 朝香
【テーマコード(参考)】
2G045
4C038
【Fターム(参考)】
2G045AA15
2G045AA25
2G045CB03
2G045DA02
2G045DA17
2G045DA35
2G045DA42
2G045DA80
2G045FA33
2G045FB06
4C038PP03
4C038PS09
(57)【要約】
【課題】本発明は、健常人の精神的ストレスを数値化することを課題とする。
【解決手段】本発明は、健常人被験者の精神ストレスを定量化する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。(1)健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1種または2種以上の神経伝達物質を測定する工程。(2
)測定された前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を組み合わせたストレスインデックス算出式に基づいて、ストレスインデックスを算出する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常人被験者の精神ストレスを定量化する方法であって、以下の工程を含む方法。
(1)健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA(ガンマアミノ酪酸)、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1種または2種以上の神経伝達物質を測定する工程。
(2)測定された前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を組み合わせたストレスインデックス算出式に基づいて、ストレスインデックスを算出する工程。
【請求項2】
前記係数が、神経伝達物質の濃度とストレス項目との相関が有意となるように算出されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を算出する方法が、ロジスティック回帰法、または線形回帰法である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数が、ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
係数を算出するための、ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値として、ストレスチェックの全ての質問への回答をスコア化した値を用いる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
係数を算出するための、ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値として、以下から選ばれる1種または2種以上を用いる、請求項4に記載の方法:
係数A:「生活・仕事の満足度」および「肉体的ストレス」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数B:「自分の周辺の環境」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数C:「消化器系」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数D:「心配」および「不安」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数E:「自身でコントロールできない環境」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数F:「将来に対する不安」に関する質問への回答をスコア化した値。
【請求項7】
神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数の組み合わせとして、以下(a)~(f)から選ばれる1種または2種以上
を用いる、請求項4に記載の方法:
(a)「生活・仕事の満足度」および「肉体的ストレス」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Aとドーパミン濃度の積の組み合わせ;
(b)「自分の周辺の環境」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Bとホモバニリル酸濃度の積の組み合わせ;
(c)「消化器系」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数CとGABA濃度の積の組み合わせ;
(d)「心配」および「不安」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Dとセロトニン濃度の積の組み合わせ;
(e)「自身でコントロールできない環境」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Eとバニリルマンデル酸濃度の積の組み合わせ;
(f)「将来に対する不安」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Fとセロトニンおよび/または5-ヒドロキシインドール酢酸濃度の積の組み合わ
せ。
【請求項8】
神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数を組み合わせたストレスインデックス算出式として、(a)~(f)から選ばれる1種または2種以上の組み合わせの和を用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数を組み合わせたストレスインデックス算出式として、(a)~(f)の全ての組み合わせの和を用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数を組み合わせたストレスインデックス算出式が下記式1で表される、請求項4~9のいずれか一項に記載の方法。
ストレスインデックス=A×(ドーパミン濃度)+
B×(ホモバニリル酸濃度)+
C×(GABA濃度)+
D×(セロトニン濃度)+
E×(バニリルマンデル酸濃度)+
F×(5-ヒドロキシインドール酢酸濃度)・・・(式1)
(式中、A、B、C、D、E、Fは、前記と同義である。)
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を用いた、うつ患者の回復を判定する方法。
【請求項12】
神経伝達物質の濃度を、液体クロマトグラフィー・質量分析装置(LC/MS)を使い、一斉に分析する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
神経伝達物質の濃度として、神経伝達物質の濃度と尿中クレアチニン濃度との比を用いる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1
種または2種以上の神経伝達物質の濃度データを取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、前記被験者の精神ストレスに関連する指標であるストレスインデックスを算出する算出部と、
前記算出部が算出した前記ストレスインデックスを出力する出力部とを備える、
ストレスインデックス算出装置。
【請求項15】
コンピュータが、
健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1
種または2種以上の神経伝達物質の濃度データを取得し、
取得された前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、前記被験者の精神ストレスに関連する指標であるストレスインデックスを算出し、
算出された前記ストレスインデックスを出力することを実行するためのストレスインデックス算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神ストレスの定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内うつ発症者は年間100万人を超え、個人、家庭のみならず、企業や社会に対する経済的損失は計り知れない。精神的ストレスとうつの関係は未だ明確ではなく、医学的にこれらは異なるものであるが、大きなストレスを抱えた人ほどうつを発症しやすい事実を鑑みれば、早期にストレスを検知し、未然にその原因を取り除くことがうつ発症抑制の一助となることは疑う余地がない。
【0003】
このような状況下、厚生労働省は従業員50名以上の企業に57項目の「ストレスチェック」(以下BJSQと略す)実施を義務づけた。BJSQは被験者(従業員)の体調に関する質問、および労働環境に関する質問が含まれ、臨床の現場で使用される他のうつ判定テスト(CES-D等)に比べ、潜在的な精神ストレス判定に有効とされる。
【0004】
年1回のBJSQ実施により、企業はストレスを抱えた従業員を判定し、そのストレスに対する対策を講じることができるようになった。しかし、このBJSQには以下の問題が指摘されている。
【0005】
一つはセルフチェック方式であるため、ストレスを本人が正しく自覚していなかったり、逆に低ストレス下でありながら、過大に申告したりするケースが散見される。またストレスに対する個人の感受性差が反映されにくく、例えば「抱えきれないほどの仕事がある」という質問に対し「そうだ」と回答した人が、必ずしも皆同程度のストレスを感じているわけではない。
【0006】
このような状況を鑑み、ヒトの非侵襲的な体液(血液、血清、血漿、唾液、尿等)を使った客観的な判定指標の開発が過去多数行われてきた。
【0007】
Riedererらはホモバニリル酸(HVA)やバニリルマンデル酸(VMA)がうつ患者尿にて減少することを見出し、うつ検査への応用の可能性を示した(非特許文献1)。Tomeiらは日々強いストレスを受ける警察官306名とコントロール(一般市民)301名の
血漿中ドーパミンを比較したところ、警察官の血漿ドーパミンが有意に増加していることを見出した(非特許文献2)。一方、Chenらは、35人のうつ患者および33人の健常人の血清中のドーパミンを分析したが、両者に差を認めることはできず(非特許文献3)、またXieらも42名の産後うつ患者と42名の血漿ドーパミンを分析したが、両者に差を
認めることはできなかった(非特許文献4)。
【0008】
Xieらは42名の産後うつ患者と42名の健常人の血漿セロトニンを分析したところ、
セロトニンが有意に減少していることを見出した(非特許文献3)。またColleらは173名のうつ患者および214名の健常人の血漿中のセロトニンを分析したところ、同様にうつ患
者の血漿中セロトニンが減少していることを見出した(非特許文献5)。
【0009】
橋本らは、血液中のタンパク質MICBとPDGF-BBが、大うつ病性障害、および双極性障害患者にて診断に有効なマーカーとなることを発見した(特許文献1)。また福田らは血液中のIGHA1、THEM4、およびTNFRSF25の発現量を測定し、うつ病の発症の有無を判定する方法を開発した(特許文献2)。さらに三國らは血中のSTYXL1、SLC36A1、RNASE1、ARFRP1、BCL11B、SLC35F2、BANP、RAB11FIP4、FYCO1、NIPAL3、RP
L23A、RPS2およびSIGIRRからなる群の1種または2種以上の発現量を併せて測定するうつ病の重症度を判定する手法を開発した(特許文献3)。大西らは、精神・神経疾患患者の血液サンプルにおいて、免疫グロブリン遊離κ鎖、免疫グロブリン遊離λ鎖、およびそれらの断片を使う精神・神経疾患判定法を開発した(特許文献4)。森信らはBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を調べることにより、うつ病および統合失調症を判定することを見出した(特許文献5)。ビレロらは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インターロイキン、脂肪酸結合タンパク質(FABP)、およびコルチゾル等を組み合わせてうつを判定するパネルを開発した(特許文献6)。また川村らは生体試料中の、フィブリノーゲンAα鎖、フィブリノーゲンBβ鎖およびインターα-トリプシンインヒビター重鎖を組み合わせ、うつ病を判定する検査方法を発明した(特許文献7)。また六反らは被験者の末梢血全血を用いて18遺伝子の発現量を測定し、うつ病に罹患しているか否かを判定する方法を見出した(特許文献8)。さらに川村らはホスホエタノールアミンがうつ病のバイオマーカーとして有用であることを発見した(特許文献9)。
【0010】
このように、これまでうつの判定を目的とした多数の研究が行われたものの、いずれも臨床評価が不十分であり、実用化する程の精度を有し、かつ健常人のストレスを定量化できるものはない。
【0011】
そもそも、これまで研究された対象はいずれも精神疾患(うつ)に対するものであって、健常人のストレスを定量化する試みはこれまで行われてこなかった。これはBJSQが普及するまで、健常人の精神的ストレスを定義できる信頼に足る方法が無かったためである。また、上述の通り、ストレスチェックについても、セルフチェック方式であるため、個人の感受性の差に左右される可能性を排除できず、客観的な指標に基づくストレス定量法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特願2018-23766
【特許文献2】特開2017-63
【特許文献3】特願2015-562880
【特許文献4】特願2013-104124
【特許文献5】WO2012/017867
【特許文献6】特願2010-549863
【特許文献7】特願2009-551587
【特許文献8】特願2008-65185
【特許文献9】WO2011/019072
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Journal of neural transmission (1997)35(1),23-45.
【非特許文献2】Toxicol. Ind. Health. (2007)23(7):421-7.
【非特許文献3】J Pharm Biomed Anal(2021)doi: 10.1016/j.jpba.2020.113773.
【非特許文献4】Zhong Nan Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. (2018)43(3):274-281.
【非特許文献5】Psychiatry Clin. Neurosci. (2020)74(2):112-117.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
感受性の差が結果に影響を与えるストレスチェックでは、労働者に自分のストレス状況についての気づきを促し、メンタルヘルス不調のリスクを低減させるという効果があるが、一方で、強い自覚をしている人が抽出されやすいことから、客観的指標も加味したうえでストレスを定量できる方法が必要である。より精度が高いストレス定量が可能となれば
、一次予防を目的とするだけでなく、うつ病等を診断するためのスクリーニングとしての使用も可能となる。
【0015】
本発明者らは、被験者の尿を材料として使って、健常人を対象とした潜在的な精神的ストレスを数値化することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、精神的ストレスを高度に抱える被験者から採取された尿検体において、ドーパミン、ホモバニリルマンデル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、5-ヒドロキシインドール酢酸の尿中の値が変化し、それが被験者のストレスと相関することを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は、健常人の尿中の6種の神経伝達物質の1種以上、好ましくは全てを定量し、その値と神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を組み合わせてストレスインデックスを算出し、被験者のストレスの種類、度合いを判定する技術に関する。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0018】
[1] 健常人被験者の精神ストレスを定量化する方法であって、以下の工程を含む方法。
(1)健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA(ガンマアミノ酪酸)、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1種または2種以上の神経伝達物質を測定する工程。
(2)測定された前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を組み合わせたストレスインデックス算出式に基づいて、ストレスインデックスを算出する工程。
[2] 前記係数が、神経伝達物質の濃度とストレス項目との相関が有意となるように算出されたものである、[1]に記載の方法。
[3] 神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を算出する方法が、ロジスティック回帰法、または線形回帰法である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数が、ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 係数を算出するための、ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値として、ストレスチェックの全ての質問への回答をスコア化した値を用いる、[4]に記載の方法。
[6] 係数を算出するための、ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値として、以下から選ばれる1種または2種以上を用いる、[4]に記載の方法:
係数A:「生活・仕事の満足度」および「肉体的ストレス」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数B:「自分の周辺の環境」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数C:「消化器系」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数D:「心配」および「不安」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数E:「自身でコントロールできない環境」に関する質問への回答をスコア化した値;
係数F:「将来に対する不安」に関する質問への回答をスコア化した値。
[7] 神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数の組み合わせとして、以下(a)~(f)から選ばれる1種または2
種以上を用いる、[4]に記載の方法:
(a)「生活・仕事の満足度」および「肉体的ストレス」に関する質問への回答をスコア
化した値に基づいて算出される係数Aとドーパミン濃度の積の組み合わせ;
(b)「自分の周辺の環境」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Bとホモバニリル酸濃度の積の組み合わせ;
(c)「消化器系」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数CとGABA濃度の積の組み合わせ;
(d)「心配」および「不安」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Dとセロトニン濃度の積の組み合わせ;
(e)「自身でコントロールできない環境」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Eとバニリルマンデル酸濃度の積の組み合わせ;
(f)「将来に対する不安」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Fとセロトニンおよび/または5-ヒドロキシインドール酢酸濃度の積の組み合わせ。
[8] 神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数を組み合わせたストレスインデックス算出式として、(a)~(f)から選ばれる1種または2種以上の組み合わせの和を用いる、[7]に記載の方法。
[9] 神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数を組み合わせたストレスインデックス算出式として、(a)~(f)の全ての組み合わせの和を用いる、[7]に記載の方法。
[10] 神経伝達物質の濃度とストレスチェックの質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数を組み合わせたストレスインデックス算出式が下記式1で表される、[4]~[9]のいずれかに記載の方法。
ストレスインデックス=A×(ドーパミン濃度)+
B×(ホモバニリル酸濃度)+
C×(GABA濃度)+
D×(セロトニン濃度)+
E×(バニリルマンデル酸濃度)+
F×(5-ヒドロキシインドール酢酸濃度)・・・(式1)
(式中、A、B、C、D、E、Fは、前記と同義である。)
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の方法を用いた、うつ患者の回復を判定する方法。
[12] 神経伝達物質の濃度を、液体クロマトグラフィー・質量分析装置(LC/MS)を使い、一斉に分析する、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 神経伝達物質の濃度として、神経伝達物質の濃度と尿中クレアチニン濃度との比を用いる、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1種または2種以上の神経伝達物質の濃度データを取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、前記被験者の精神ストレスに関連する指標であるストレスインデックスを算出する算出部と、
前記算出部が算出した前記ストレスインデックスを出力する出力部とを備える、
ストレスインデックス算出装置。
[15] コンピュータが、
健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1
種または2種以上の神経伝達物質の濃度データを取得し、
取得された前記神経伝達物質の濃度、および前記神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、前記被験者の精神ストレスに関連する指標であるストレスインデックスを算出し、
算出された前記ストレスインデックスを出力することを実行するためのストレスインデ
ックス算出プログラム。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法により、企業は従業員のストレスの種類、度合いをより正確に把握することができる。具体的には、尿検体において、ドーパミン、ホモバニリルマンデル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選択される、尿中物質の値とBJSQ等のストレスチェックによるストレス項目から得られる係数と組み合わせることにより、より正確で総合的な判定を行うことができる。また、BJSQ等のストレスチェックによる結果、および本定量検査の両方の結果が「ハイリスク」と判定された従業員に対しては、これまで以上に強く業務改善を指導することができる。
【0020】
さらに、うつを発病した従業員が業務へ復帰するタイミングについて、これまで主治医、および産業医の本人に対する問診が主であったが、医師の主観による影響を必ずしも排除できず、早めに復帰した従業員が再発を繰り返す等、復帰タイミングの判断は極めて困難であった。しかし、本発明の実施により主治医や産業医はより正確な判断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】健常人を対象としたBJSQの総合スコアとCES-Dの総合スコアの相関図(散布図)である。
【
図2】本発明に使用する6種の神経伝達物質の化学構造式、およびその代謝ルートを示す図である。
【
図3】被験者をBJSQにより高ストレス群と低ストレス群に分類したときの、6種の神経伝達物質の尿中濃度、中央値、四分位点を求め作成した箱髭図である。A)5-HIAA、B)DA、C)GABA、D)HVA、E)5-HT、F)VMA、の箱髭図をそれぞれ示す。
【
図4】6種の神経伝達物質から2種を抽出し、すべての組合せ(15パターン)の相関図(散布図)を記した図である。
【
図5】被験者をBJSQにより高ストレス群と低ストレス群に分類したときの、6種の神経伝達物質の尿中濃度、中央値、四分位点を求め、作成した箱髭図(G)トレーニングセット、H)テストセット、I)全被験者)である。6種の神経伝達物質のクレアチニン補正値を対数変換し、さらに正規化(平均値ゼロ、分散1)になるよう変換した。次に各値に係数(重み)を乗じ、線形結合式を作成した。得られた値をストレスインデックスと称す。エクセルのソルバー(非線形最適化法)を使い、2群(高ストレス群、および低ストレス群)のストレスインデックスのStudent t-test p値が最小になるように、係数(重み)を変更した。変更後の6種の神経伝達物質のストレスインデックスの係数を図の下段に示す。
【
図6】実施形態のシステムの構成例を示す図である。
【
図7】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図8】ストレスインデックス算出装置の動作フローの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、本発明の、健常人ストレス定量化方法を使用してストレスの種類および重症度を評価する実施形態について詳細に説明するが、利用方法の態様についてはこれに限定されるものではない。
【0023】
本明細書において、「健常人」とは、少なくとも精神・神経疾患を有していない人、好ましくは、さらに重篤な疾患を有していない健康な人をいう。
【0024】
<健常人の精神ストレスを定量化する方法>
本発明は、(1)被験者尿中に含まれる神経伝達物質をマーカーとして、この濃度を測定する工程と、(2)測定されたマーカー濃度のうち少なくとも一つ、および前記マーカー濃度を変数とする予め設定した判別式であって前記マーカーのうち少なくとも一つと該マーカーに対応する、ストレス項目から得られる係数を組み合わせたストレスインデックス算出式に基づいて、ストレスインデックスを算出する工程とを備える健常人の精神ストレスを定量化する方法を提供する。本発明の方法によれば、ストレスの種類および重症度を簡便且つ正確に評価することができる。
【0025】
本発明は、被験者から採取された尿中に存在するセロトニン、ドーパミン、GABA、HVA、VMA、5-HIAAの少なくともいずれかを含むマーカーの濃度によって、健常人の精神ストレスの種類および程度を判定する方法である。
本発明の別の態様としては、被験者から採取された尿中のセロトニン、ドーパミン、GABA、HVA、VMA、5-HIAAの濃度が低いほど、ストレスが高いと判定する方法である。
【0026】
マーカーに対応する、ストレス項目から得られる係数としては、限定されないが、例えば、ストレスチェックの全ての質問に対するスコア、ストレスチェックの特定の質問群への回答のスコア等に基づいて算出される値を、マーカーの値と関連付けて算出される係数として用いることができる。ストレスチェックのスコアとしては、ストレスチェックの蓄積データから得られるスコア、被験者自身の属する群のストレスチェックの結果から得られるスコア等であってよい。被験者のより正確な精神ストレスを定量する観点では、被験者自身の属する群のストレスチェックの結果から得られる各マーカーに対応する、ストレス項目のスコアを用いることができる。
【0027】
[ストレスチェック実施工程]
本発明においては、蓄積されたストレスチェックの質問に対する回答をスコア化すること、あるいはストレスチェックを実施してその質問に対する回答をスコア化することで、本発明におけるストレスインデックスの算出に使用することができる。
ストレスチェックには、例えば、厚生労働省が義務付ける、57項目の質問からなる「ストレスチェック(BJSQ)」を使用することができる。このBJSQは、被験者の体調に関する質問、および労働環境に関する質問が含まれるため、BJSQの使用は、被験者の背景を把握して潜在的な精神ストレスの判定をするためにも好ましい。BJSQだけでなく、例えば、Hamilton Rating Scale for Depression(HAMD:うつ病用ハミルトン評価尺度)等)や自記式質問票(例えば、Patient Health Questionnaire(PHQ)-9、Beck Depression Inventory-II(BDI-2:ベック抑うつ質問票)等)によるうつ病の検査、うつ病と相関する遺伝子、タンパク質、および化合物を指標としたうつ病の検査、また、臨床の現場で使用されるうつ判定テストであるCES-D等を使用することができる。潜在的な精神ストレス判定に有効とされるBJSQの使用が好ましい。ストレスチェックは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
BJSQで設定されている質問内容は、「仕事についての質問」、「直近の状態に関する質問」、「周囲の環境に関する質問」、「満足度に関する質問」に分けられるが、具体的には、以下が挙げられる。
【0029】
例えば、「仕事に関する質問」としては、非常にたくさんの仕事をしなければならない、時間内に仕事が処理しきれない、一生懸命働かなければならない、かなり注意を集中する必要がある、高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ、勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない、からだを大変よく使う仕事だ、自分のペースで仕事が
できる、自分で仕事の順番・やり方を決めることができる、職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる、自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない、私の部署内で意見のくい違いがある、私の部署と他の部署とはうまが合わない、私の職場の雰囲気は友好的である、私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気等)はよくない、仕事の内容は自分にあっている、働きがいのある仕事だ、等である。
【0030】
また例えば、「直近の状態に関する質問(あるいは、最近1か月間の被験者の状態に関する質問)」としては、活気がわいてくる、元気がいっぱいだ、生き生きする、怒りを感じる、内心腹立たしい、イライラしている、ひどく疲れた、へとへとだ、だるい、気がはりつめている、不安だ、落着かない、ゆううつだ、何をするのも面倒だ、物事に集中できない、気分が晴れない、仕事が手につかない、悲しいと感じる、めまいがする、体のふしぶしが痛む、頭が重かったり頭痛がする、首筋や肩がこる、腰が痛い、目が疲れる、動悸や息切れがする、胃腸の具合が悪い、食欲がない、便秘や下痢をする、よく眠れない、等である。
【0031】
また例えば、「被験者の周囲の環境に関する質問」としては、上司、職場の同僚、配偶者、家族、友人等に対してどのくらい気軽に話ができるか、困った時、どのくらい頼りになるか、個人的な問題を相談したとき、どのくらいきいてくれるか、等である。
【0032】
また例えば、「満足度についての質問」としては、仕事に満足だ、家庭生活に満足だ、等の質問が設定されている。
【0033】
これらの質問を、マーカーと関連付けをしやすくするために内容によって任意に分類した上で使用してもよい。
【0034】
分類した質問群の例としては、「生活・仕事の満足度を見るための質問群」、「肉体的ストレスの状況を見るための質問群」、「自分の周辺の環境を見るための質問群」、「消化器系の状況を見るための質問群」、「心配および不安の状況を見るための質問群」、「自身でコントロールできない環境を見るための質問群」、「将来に対する不安の状況を見るための質問群」、等である。
【0035】
例えば、「生活・仕事の満足度を見るための質問群」として、この仕事は自分に向かない、憂鬱だ、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0036】
例えば、「肉体的ストレスの状況を見るための質問群」として、とても疲れている、ふしぶしが痛い、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0037】
例えば、「自分の周辺の環境を見るための質問群」として、私の仕事環境は悪い、よく眠れない、私がトラブルに会ったとき、家族の助けがない、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0038】
例えば、「消化器系の状況を見るための質問群」として、胃腸に問題がある、食欲がない、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0039】
例えば、「心配および不安の状況を見るための質問群」として、不安だ、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0040】
例えば、「自身でコントロールできない環境を見るための質問群」として、求められる時間内に仕事が終わらない、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0041】
例えば、「将来に対する不安の状況を見るための質問群」として、ふしぶしが痛い、胃腸に問題がある、不安だ、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0042】
別の分類した質問群の例としては、「生活・仕事に関する不満を見るための質問群」、「精神消耗の状況を見るための質問群」、「職場環境や不眠に関する状況を見るための質問群」、「孤独に関する状況を見るための質問群」、「食欲低下、胃腸の不良の状況を見るための質問群」、「過剰な業務量を見るための質問群」、「将来に対する不安に関する状況を見るための質問群」、等である。
【0043】
例えば、「生活・仕事に関する不満を見るための質問群」として、非常にたくさんの仕事をしなければならない、時間内に仕事が処理しきれない、一生懸命働かなければならない、かなり注意を集中する必要がある、高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ、勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない、からだを大変よく使う仕事だ、自分のペースで仕事ができる、自分で仕事の順番・やり方を決めることができる、職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる、自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない、私の部署内で意見のくい違いがある、私の部署と他の部署とはうまが合わない、私の職場の雰囲気は友好的である、私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気等)はよくない、仕事の内容は自分にあっている、働きがいのある仕事だ、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0044】
例えば、「精神消耗の状況を見るための質問群」として、非常にたくさんの仕事をしなければならない、時間内に仕事が処理しきれない、一生懸命働かなければならない、かなり注意を集中する必要がある、高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ、勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0045】
例えば、「職場環境や不眠に関する状況を見るための質問群」として、勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない、自分のペースで仕事ができる、自分で仕事の順番・やり方を決めることができる、職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる、自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない、私の部署内で意見のくい違いがある、私の部署と他の部署とはうまが合わない、私の職場の雰囲気は友好的である、私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気等)はよくない、よく眠れない、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0046】
例えば、「孤独に関する状況を見るための質問群」として、私の部署内で意見のくい違いがある、私の部署と他の部署とはうまが合わない、私の部署の雰囲気は友好的である、上司、職場の同僚、配偶者、家族、友人等に対してどのくらい気軽に話ができるか、困った時、どのくらい頼りになるか、個人的な問題を相談したとき、どのくらいきいてくれるか、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0047】
例えば、「食欲低下、胃腸の不良の状況を見るための質問群」として、胃腸の具合が悪い、食欲がない、便秘や下痢をする、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0048】
例えば、「過剰な業務量を見るための質問群」として、非常にたくさんの仕事をしなければならない、時間内に仕事が処理しきれない、一生懸命働かなければならない、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0049】
例えば、「将来に対する不安に関する状況を見るための質問群」として、活気がわいてくる、元気がいっぱいだ、生き生きする、怒りを感じる、内心腹立たしい、イライラして
いる、ひどく疲れた、へとへとだ、だるい、気がはりつめている、不安だ、落着かない、ゆううつだ、何をするのも面倒だ、物事に集中できない、気分が晴れない、仕事が手につかない、悲しいと感じる、上司、職場の同僚、配偶者、家族、友人等に対してどのくらい気軽に話ができるか、困った時、どのくらい頼りになるか、個人的な問題を相談したとき、どのくらいきいてくれるか、等を分類した質問群から選択して使用することができる。
【0050】
これらは、質問の内容からその意図を類推できるものについて、類似した内容ごとに同じグループを形成するように分類して使用することができる。類似した質問をまとめてスコア化することで、マーカーとの相関がより明確なものとなるため、好ましい。
【0051】
これら全ての質問は、予め当てはまるかどうかを点数で回答することとされているため、係数の算出にあたっては、このスコアをそのまま使用することができる。本発明において、主観が排除しきれない可能性が残るストレスチェックの回答をそのままストレス定量に使用するのではなく、生体内の物質を測定して客観的な値として組み合わせてストレス定量に使用するため、より正確に健常人のストレス定量を実施することができるため、好ましい。
【0052】
[測定工程]
本発明の方法においては、健常人被験者である測定対象の試料中のドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1種または2種以上の神経伝達物質を測定する。
【0053】
測定対象試料は尿を使用する。本発明において用いられる尿は、被験者から採取された尿だけでなく、それを前処理して得られるものも含む。前記尿を処理して得られるものとしては、例えば、静置、または遠心分離等の前処理をしたものが挙げられる。これらの前処理は、公知の方法を用いて行えばよい。また、尿試料は、適宜、希釈または濃縮して用いてもよい。サンプリングのタイミングは朝が望ましいが、朝以外でもよい。前日の夜より絶食することが望ましいが、必ずしも必要ではない。
【0054】
検査値は6種のマーカーの尿中濃度を使用してもよいし、例えばクレアチニン等の生体試料中の物質の値で補正してもよい。クレアチニン濃度を使用する場合、市販の測定試薬を用いて測定することが可能である。該補正値は、任意の数値で、例えば、ある基準値または特定の物質の量の値等で、加算された値、減算された値、乗算された値、または除算された値(比の値)であってよい。尿では、単位体積当たりのマーカー量は被験者の腎機能等に依存する可能性がある。したがって、尿生産が減少した状態では、尿中の物質は濃縮され、人為的に高い蓄積の単位体積あたりの測定値が得られる。そのようなアーティファクトを減少させることができるため、このような補正を行うことが好ましい。反対に、利尿中等の、尿生産量が増大している状況では、マーカーが薄められて、人為的に低い蓄積の測定値が生成される可能性があるが、試料中のマーカーの真の蓄積または質量と関連しない、マーカー蓄積の変動を生成する可能性がある利尿薬の使用、水分摂取量および他の因子による影響を、補正することができるため、このような補正を行うことが好ましい。使用する尿は単回でもよいし、24時間蓄尿でもよい。
【0055】
まず、被験者から採取した尿に含まれる上述のマーカーの濃度を測定する。本発明は6種のマーカーを個々に使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。上述のセロトニン、ドーパミン、GABA、HVA、VMA、5-HIAAのクレアチニン補正濃度のうち少なくとも2種以上が測定されることが好ましく、これらの全てを測定することがさらに好ましい。
【0056】
複数のマーカーを組み合わせて測定することで、ストレスの種類および重症度の評価の
精度を向上することができる。
【0057】
各種マーカー濃度の測定方法としては、マーカーの種類に応じて適宜公知の方法を選択することができる。例えば、核磁気共鳴法(NMR)による定量、酸アルカリ中和滴定による定量、アミノ酸分析計による定量、酵素法による定量、核酸アプタマーやペプチドアプタマー等のアプタマーを利用した定量、比色定量、キャピラリー電気泳動、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析計等から測定対象のマーカーに応じた定量法を選択、組み合わせて利用することによりマーカーの濃度を測定することができる。測定対象のマーカーに応じた市販の定量キットを用いてマーカーの濃度を測定してもよい。液体クロマトグラフィー-質量分析の使用は、正確な測定ができる上多くの検体を迅速に処理できるため、好ましい。
【0058】
健常人被験者尿中のドーパミン濃度としては、限定されないが、例えば、0.674~0.847μg/mLであってよい。
ホモバニリル酸濃度としては、限定されないが、例えば、12.0~14.6μg/mLであってよい。
セロトニン濃度としては、限定されないが、例えば、0.242~0.289μg/mLであってよい。
バニリルマンデル酸濃度としては、限定されないが、例えば、6.76~8.50μg/mLであってよい。
GABA濃度としては、限定されないが、例えば、0.302~0.412μg/mLであってよい。
【0059】
[ストレスインデックス値算出工程]
次いで、測定したマーカーの濃度のうち少なくとも一つのマーカーの濃度、および前記マーカーの濃度を変数とする予め設定した判別式であって前記マーカーに対応する、ストレス項目から得られる係数を組み合わせたストレスインデックス算出式に基づいて、ストレスインデックスを算出する。ここで、ストレスの程度をさらに精度よく評価することができる場合、ストレスインデックス算出を行う前に、測定されたマーカー濃度のデータから欠損値または外れ値等のデータを除去してもよい。
【0060】
ストレスインデックス算出式導出のために、各神経伝達物質の濃度、および該神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数を算出する方法はロジスティック回帰、線形回帰、主成分分析、OPLS-DA、機械学習等特に限定しない。データの前処理は、データをそのまま使ってもよく、もしくは対数変換する方法、正規化する方法、またはこれらを組み合わせる方法がある。
ここで、一態様では、係数は、神経伝達物質の濃度とストレス項目との相関が有意となるように算出されたものである。係数を算出する場合の「有意」とは、例えば、p値が<
0.05、好ましくはp値が<0.01になることである。
神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数の算出方法として、具体的には、例えば、ストレスチェック(BJSQ等)の質問への回答をスコア化した値に基づき、高ストレス群、低ストレス群を設定し、高ストレス群、低ストレス群のストレスインデックス差が最も顕著になる(スチューデントTテストのp値が最小になるように)係数を設定することができる。より具体的には、例えば、後述の実施例に記載の方法に基づいて行うこともできる。
【0061】
ストレスインデックスは6種類のマーカーのうちいずれかを選択して算出してもよく、1種類のみで使用することも、複数種類を組み合わせて使用することも可能である。1種類のマーカーでストレスインデックスを算出する場合、例えば、ドーパミン濃度を使用する場合には、ストレスインデックス=A×(ドーパミン濃度)のような形で健常人のストレスを定量化して判定に使用することができる。マーカーとしてホモバニリル酸を使用す
る場合には、ストレスインデックス=B×(ホモバニリル酸濃度)として、マーカーとしてGABAを使用する場合には、ストレスインデックス=C×(GABA濃度)として、マーカーとしてセロトニンを使用する場合には、ストレスインデックス=D×(セロトニン濃
度)として、マーカーとしてバニリルマンデル酸を使用する場合には、ストレスインデッ
クス=E×(バニリルマンデル酸濃度)として、マーカーとして5-ヒドロキシインドール酢酸を使用する場合には、ストレスインデックス=F×(5-ヒドロキシインドール酢酸
濃度)として、ストレスインデックスを算出することができる。上記各種スコアに基づく
係数と、測定された各種マーカーの濃度を当てはめて算出されるストレスインデックス値を利用することにより、ストレスの定量化を精度よく行うことができるため、好ましい。複数種類を組み合わせて使用する場合には、これら1種類のストレスインデックスを足し合わせて算出することができる。複数種類、好ましくは4種以上、より好ましくは5種以上、特に好ましくは6種全て、を組み合わせて使用することで、より正確にストレスの定量を行うことができるため、好ましい。
複数種類のインデックスを組み合わせる場合、一態様として、同一代謝経路上にある物質を組み合わせること等が考えられる。例えば、5-HIAAとセロトニンとはトリプトファンを出発物質とする代謝物であるため、関連性が大きいことが考えられる。従って、5-HIAAとセロトニンの比(バランス)により、被験者のストレスをより正確に判定できる可能性がある。この組み合わせは例示であり、5-HIAAとセロトニンとの組み合わせに限定されるものではなく、当業者であれば公知の知見も参考にしてこれらの組み合わせを決定して使用することが可能である。
【0062】
例えば、全てのマーカーを使用してストレスインデックスを算出する場合、具体的には、下記式1であらわされる判別式であってよい。
【0063】
ストレスインデックス=A×(ドーパミン濃度)+
B×(ホモバニリル酸濃度)+
C×(GABA濃度)+
D×(セロトニン濃度)+
E×(バニリルマンデル酸濃度)+
F×(5-ヒドロキシインドール酢酸濃度)・・・(式1)
【0064】
(式中、A、B、C、D、E、Fは、それぞれ独立して係数を表し、例えば、ストレスチェック(BJSQ等)の質問への回答をスコア化したものに基づいて算出される係数である。)
BJSQ等のストレスチェックの質問への回答をスコア化したものに基づいて算出される係数にそれぞれ独立して各種マーカーの濃度を掛け合わせる。
【0065】
ストレスチェックの質問への回答をスコア化した値として、ストレスチェックの全ての質問への回答をスコア化した値を用いることもでき、ストレスチェックの特定の質問への回答をスコア化した値を用いることもできる。
一態様では、上述したストレスチェック実施工程において得られたスコアを個々のストレス要因として、神経伝達物質単独の変動と相関させる手段として、BJSQの質問から、被験者が回答した数字をスコアとして使用することができる。
【0066】
例えば、Aを「この仕事は自分に向かない」「憂鬱だ」等、生活や仕事の満足度、「とても疲れている」「ふしぶしが痛い」等、肉体的ストレスに関連する質問に分類して得られた回答に対するスコアに基づいて算出される係数を、ドーパミンと掛け合わせて使用することができる。
Bを「私の仕事環境は悪い」「よく眠れない」「私がトラブルに会ったとき、家族の助けがない」等、自分の周辺の環境に関連する質問に分類して得られた回答に対するスコア
に基づいて算出される係数を、HVAと掛け合わせて使用することができる。
Cを「胃腸に問題がある」「食欲がない」等、消化器系に関連する質問に分類して得られた回答に対するスコアに基づいて算出される係数を、GABAと掛け合わせて使用することができる。
Dを「不安だ」等、心配、不安に関連する質問に分類して得られた回答に対するスコアに基づいて算出される係数を、セロトニンと掛け合わせて使用することができる。
Eを「求められる時間内に仕事が終わらない」等、自身でコントロールできない環境に関連する質問に分類して得られた回答に対するスコアに基づいて算出される係数を、VMAと掛け合わせて使用することができる。
Fを「ふしぶしが痛い」「胃腸に問題がある」「不安だ」等、将来に対する不安に関連する質問に分類して得られた回答に対するスコアに基づいて算出される係数を、セロトニンまたは/かつ5-ヒドロキシインドール酢酸と掛け合わせて使用することができる。
【0067】
Aの値としては、限定されないが、例えば、0.5~1.0であってよい。
Bの値としては、限定されないが、例えば、0.1~0.6であってよい。
Cの値としては、限定されないが、例えば、-0.1~0.4であってよい。
Dの値としては、限定されないが、例えば、-0.4~0.1であってよい。
Eの値としては、限定されないが、例えば、-0.8~-0.3であってよい。
Fの値としては、限定されないが、例えば、-0.2~0.2であってよい。
一態様として、A、B、Cが正であり、D、E、Fが負である態様が挙げられる。
【0068】
また、さらに、前記多変数判別式における変数として、前記マーカーおよびストレスチェックのスコア以外に、被験者のその他の情報(例えば、ミネラル、ホルモン等の生体代謝物; 性別、年齢、食習慣、飲酒習慣、運動習慣、肥満度、疾患歴、問診データ等)を
使用してもよい。
【0069】
[評価工程]
算出されたストレスインデックスに基づいて、被験者の精神ストレスを定量化することができる。被験者のストレスの種類および重症度を評価してもよい。その場合、それぞれの神経伝達物質のストレスインデックス値を比較することにより、被験者のストレスの種類を判別することができる。また、ストレスインデックス値と、予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、ストレスの重症度を判別することができる。例えば、ストレスインデックス値がカットオフ値よりも大きいほどストレスの重症度が高く、ストレスインデックス値がカットオフ値に近いほどストレスの重症度が低いと評価することができる。また、複数のステージに分類して、ストレスの重症度を評価する手法をとってもよい。
【0070】
このようなカットオフ値は、当業者であれば適宜設定して使用することができる。カットオフ値は、症例被験者と対照被験者とでマーカーを測定し、算出された両方のストレスインデックス値に基づいて決定するのが好ましい。対照被験者は、測定されるマーカーと相関する疾患(精神・神経疾患)には罹患していないことが好ましい。
【0071】
例えば、測定値がカットオフ値以上である場合にストレス重症度が高いマーカーの場合は、症例被験者がカットオフ値以上に所定の割合(100%でもよい)含まれ、且つ、対照被験者がカットオフ値未満に所定の割合(100%でもよい)含まれるようにカットオフ値を決定することができる。測定値がカットオフ値以下である場合にストレス重症度が高いマーカーの場合は、症例被験者がカットオフ値以下に所定の割合(100%でもよい)含まれ、且つ、対照被験者がカットオフ値超に所定の割合(100%でもよい)含まれるようにカットオフ値を決定することができる。
また、カットオフ値は、被験者における以前の値であってもよい。この場合、以前の状
態からの変化(悪化、回復等)を判断することができる。
【0072】
本発明の方法により、企業は従業員のストレスの種類、度合いをより正確に把握することができる。具体的にはBJSQの結果と、尿検査の結果を組み合わせることにより、より正確な判定を行うことができる。BJSQおよび尿検査の両方の結果が「ハイリスク」と判定された従業員に対しては、これまで以上に強く業務改善を指導することができる。
【0073】
さらにうつを発病した従業員が業務へ復帰するタイミングについて、これまで主治医、および産業医の本人に対する問診が主であったが、医師の主観によるものであったため、早めに復帰した従業員が再発を繰り返す等、復帰タイミングの判断は極めて困難であった。しかし、本検査の併用により主治医や産業医はより正確な判断を行うことができる。すなわち、例えば、BJSQ等のストレスチェックの結果と、うつ患者の尿中マーカー濃度より、ストレスインデックスを求め、カットオフ値との比較により、うつの回復をより正確に判定することができる。
また、本発明の被験者のストレスを定量化する方法を複数回実施することで、被験者のストレスを経時的な記録として利用することもできる。例えば、複数回実施して定量化されたストレス量を追うことで、復帰タイミングの判断の補助として使用されることが期待され好ましい。経時的に被験者のストレスを記録することで、単純にストレス量を把握するだけでなく、背景にある原因の検討に資すること、被験者ごとに異なるストレスに対する個人の感受性差といった特性をあぶり出す効果などが期待される。このとき、上述のカットオフ値の設定などと組み合わせて被験者のストレスを経時的に定量化する方法をとってもよい。
【0074】
[ストレスインデックス算出装置およびシステム]
図6は、本実施形態のシステムの構成例を示す図である。本実施形態のシステムは、神経伝達物質の濃度測定装置10、ストレスインデックス算出装置20を含む。神経伝達物質の濃度測定装置10は、健常人被験者から採取された尿中に存在するドーパミン、ホモバニリル酸、セロトニン、バニリルマンデル酸、GABA、および5-ヒドロキシインドール酢酸から選ばれる1種または2種以上の神経伝達物質の濃度等を測定する。ストレス
インデックス算出装置20は、神経伝達物質の濃度測定装置10の測定結果に基づいて、ストレスインデックス等を算出する。ここでは、神経伝達物質の濃度測定装置10およびストレスインデックス算出装置20は、別体であるが、一体化して1つの神経伝達物質の濃度測定装置として動作してもよい。
【0075】
神経伝達物質の濃度測定装置10は、特に限定されず、前記測定装置を用いることができる。神経伝達物質の濃度測定装置10は、ストレスインデックス算出装置20に制御されてもよい。
【0076】
ストレスインデックス算出装置20は、取得部21、算出部22、出力部23を備える。ストレスインデックス算出装置20は、神経伝達物質の濃度測定装置10で算出された神経伝達物質の濃度、および神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、ストレスインデックスを算出する。取得部21は、神経伝達物質の濃度測定装置10から、被験者の尿中の神経伝達物質の濃度を取得する。算出部22は、取得部21が取得した神経伝達物質の濃度、および神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、ストレスインデックスを算出する。出力部23は、算出部22が算出したストレスインデックスを出力する。
ここで、ストレスインデックスを算出する際のストレスインデックス算出式の好ましい一態様は、前記式1で示されるストレスインデックス算出式が挙げられる。
【0077】
[ストレスインデックス算出プログラム]
本発明は、上述したストレスインデックスの算出を実行するコンピュータプログラムや、当該プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を含む。当該プログラムが記録された記録媒体は、プログラムをコンピュータに実行させることにより、上述のストレスインデックスの算出が可能となる。
【0078】
図7は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図7に示す情報処理装置90は、一般的なコンピュータの構成を有している。ストレスインデックス算出装置20は、
図7に示すような情報処理装置90を用いることによって、実現される。
図7の情報処理装置90は、プロセッサ91、メモリ92、記憶部93、入力部94、出力部95、通信制御部96を有する。これらは、互いにバスによって接続される。メモリ92および記憶部93は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。情報処理装置のハードウェア構成は、
図7に示される例に限らず、適宜構成要素の省略、置換、追加が行われてもよい。
【0079】
情報処理装置90は、プロセッサ91が記録媒体に記憶されたプログラムをメモリ92の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等が制御されることによって、所定の目的に合致した機能を実現することができる。
【0080】
プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)である。
【0081】
メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。メモリ92は、主記憶装置とも呼ばれる。
【0082】
記憶部93は、例えば、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスク
ドライブ(HDD、Hard Disk Drive)である。また、記憶部93は、リムーバブルメデ
ィア、即ち可搬記録媒体を含むことができる。リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、あるいは、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)のようなディスク記録媒体である。記憶部93は、二次記憶装置とも呼ばれる。
【0083】
記憶部93は、情報処理装置90で使用される、各種のプログラム、各種のデータおよび各種のテーブルを読み書き自在に記録媒体に格納する。記憶部93には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。記憶部93に格納される情報は、メモリ92に格納されてもよい。また、メモリ92に格納される情報は、記憶部93に格納されてもよい。
【0084】
オペレーティングシステムは、ソフトウェアとハードウェアとの仲介、メモリ空間の管理、ファイル管理、プロセスやタスクの管理等を行うソフトウェアである。オペレーティングシステムは、通信インタフェースを含む。通信インタフェースは、通信制御部96を介して接続される他の外部装置等とデータのやり取りを行うプログラムである。外部装置等には、例えば、他の情報処理装置、外部記憶装置等が含まれる。
【0085】
入力部94は、キーボード、ポインティングデバイス、ワイヤレスリモコン、タッチパネル等を含む。また、入力部94は、カメラのような映像や画像の入力装置や、マイクロフォンのような音声の入力装置を含むことができる。
【0086】
出力部95は、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)パ
ネル、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、PDP(Plasma Display Panel)等の表示装置、プリンタ等の出力装置を含む。また、出力部95は、スピーカのような音声の
出力装置を含むことができる。
【0087】
通信制御部96は、他の装置と接続し、情報処理装置90と他の装置との間の通信を制御する。通信制御部96は、例えば、LAN(Local Area Network)インタフェースボード、無線通信のための無線通信回路、有線通信のための通信回路である。LANインタフェースボードや無線通信回路は、インターネット等のネットワークに接続される。
【0088】
情報処理装置90は、プロセッサが補助記憶部に記憶されたプログラムを主記憶部の作業領域に実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器等の制御を行う。これにより、情報処理装置は、所定の目的に合致した機能を実現することができる。主記憶部および補助記憶部は、情報処理装置が読み取り可能な記録媒体である。
【0089】
(動作例)
ここでは、ストレスインデックス算出装置20の動作例について説明する。
図8は、ストレスインデックス算出装置の動作フローの例を示す図である。ストレスインデックス算出装置20は、神経伝達物質の濃度測定装置10で算出された神経伝達物質の濃度等に基づいて、ストレスインデックスを算出する。神経伝達物質の濃度測定装置10では、あらかじめ、被検者の尿中の神経伝達物質の濃度が算出されている。
【0090】
S101では、ストレスインデックス算出装置20の取得部21は、神経伝達物質の濃度測定装置10から、被検者の尿中の神経伝達物質の濃度データを取得する。取得部21は、入力手段等によって利用者に入力させること、あらかじめ格納されている記憶手段から抽出すること、他の情報処理装置から取得すること等により、被検者の神経伝達物質の濃度を取得してもよい。取得部21は、神経伝達物質の濃度と等価のパラメータの値を取得してもよい。
【0091】
S102では、ストレスインデックス算出装置20の算出部22は、取得部21で取得された情報、および神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数に基づいて、ストレスインデックスを算出する。ストレスインデックスは、例えば、上述のように、神経伝達物質の濃度×神経伝達物質に対応する、ストレス項目から得られる係数(およびその和)で求められる。
【0092】
S103では、ストレスインデックス算出装置20の出力部23は、算出部22で算出されたストレスインデックスを、ディスプレイ等の出力装置に出力する。また、出力部23は、ストレスインデックスを他の情報処理装置等に出力してもよい。利用者は、出力されるストレスインデックスにより、被検者のストレスの種類および重症度を認識することができる。
【0093】
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0094】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体内には、CPU、メモリ等のコンピュータを構成する要素を設け、そのCPUにプログラムを実行させてもよい。
【0095】
また、このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、D
AT、8mmテープ、メモリカード等がある。
【0096】
また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【実施例0097】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0098】
《実施例1:全ストレスの判定方法》
(1)検体の準備
【0099】
健常人100名に対して医師が問診し、重篤な疾病(深刻な腎臓、肝臓、肺、心臓の機能低下を有する症例)は研究対象から除外した。被験者からは尿10mL、唾液1mL,血清5mLを採取し、すべての患者からインフォームドコンセントを得た。
【0100】
また、すべての被験者は厚生労働省が発行する57項目の「ストレスチェック」(BJSQ)およびうつの判定に使われるCES-D(The Center for Epidemiologic Studies
Depression Scale)20項目に回答した。ストレスチェックおよびCES-Dの多くの
項目は「非常にたくさんの仕事をしなければならない」等、ストレスを問う項目が主であるが、中には「元気がいっぱいだ」のようにストレスと反比例する項目も含まれる。全ストレス項目を合計する際、ストレスと反比例する項目はスコアを事前に反転させた。
【0101】
ストレスチェック57項目、およびCES-D20項目のスコアを合計し、それぞれの合計値を得た。被験者ごとにそれぞれの合計値を散布図にプロットした(
図1)。ストレスチェックは被験者自身の主観を記入するアンケートであるため、正確に記入しないケース、被験者が自身のストレスを正しく理解していないケースが想定される。ストレスチェックおよびCES-Dには似た質問が多く含まれるため、被験者が真摯にアンケートに答えた場合、これら両者は正の相関を示すはずである。
図1の散布図をみるとこれら相関係数は0.69であり、また異常値は認められなかった。以上の結果をもち、ストレスチェックの回答は解析に値する信頼度であると判断した。
【0102】
すべての被験者は表1に示す36項目の生化学検査を実施した。100人の被験者をストレスチェックの総合点によって、高ストレス群(50名)と低ストレス群(50名)に割り振り、高ストレス群、および低ストレス群の36項目の生化学検査値の平均値、およびその有意差(スチューデントTテストp値)を検証した。表1にその結果を記す。その結果、高ストレス群、および低ストレス群の被験者はストレスチェックの総合値以外は差がない、すなわちストレス以外において健康状態に差がないことが確認された。
【0103】
【0104】
(2)質量分析装置を使った神経伝達物質の分析
図2に被験物質6成分とその関係(代謝)を示す。
【0105】
(3)前処理
尿(10 μL)、 水(230 μL)、および内部標準液(10 μL)を1.5 mLのマイクロチューブにいれ、ボルテクスにてよく混合した。検量線作成する場合はワーキング溶液(10 μL) を
尿の代わりに添加した。ワーキング溶液は6つの神経伝達物質(ドーパミン(DA)、セロトニン(5-HT)、ガンマアミノ酪酸(GABA)、バニリルマンデル酸(VMA)、ホモバニリル酸(HVA)、5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA))のそれぞれの濃度が100 μg/mL になるよう溶液A (50% methanol, 3% acetic acid, and 47% water (v/v))に溶解した。その後、各濃度が30, 10, 1, 0.3, 0.1, 0.03, 0.01 μg/mLに
なるように溶液Aにて希釈した。内部標準液はdopamine-d4, gamma-aminobutyric acid-d6, 5-hydroxtryptamine-d4, homovanillic acid-d3, 4-hydroxy-3-methoxymandelic acid-d3, creatinine-d3 をそれぞれ 10 μg/mLになるように溶液Aに溶解した。5-HIAAの重
水素標識化合物を購入できなかったため、5-HIAAの内部標準には5-hydroxtryptamine-d4
を使用した。
【0106】
次に混合溶液を限外ろ過膜(アミコン30K、ミリポア社)にて10,000 g 30分遠心濾過し、タンパク質等の高分子を除去した。上清をLC-MS用バイヤルに移し、LC-MSを測定した。
【0107】
(4)LC-MS分析
分析装置はアジレントテクノロジー製ULTIVOを使用した。液体クロマトグラフィーの分離カラムは島津製作所製・Shim-pack MAqC-ODS I column (2.1 mm × 150 mm 2.7 μm)を使用した。移動相にはAバッファー:0.1 %ギ酸水溶液、Bバッファー:0.05%ギ酸メタノール溶液を使用した。液体クロマトグラフィーの流速は0.2 mL/min、カラムオーブンは40℃に設定した。グラジエントは以下の通りに設定した。1% B buffer (0 to 0.5 min); 1% to 10% B buffer (0.5 to 4.0 min); 10% to 50% B buffer (4.0 to 10.0 min); 3 min hold at 100% B buffer。注入量は5.0 μL、オートサンプラー温度は4℃に設定し
た。質量分析装置のイオン化はエレクトロスプレー法を採用し、MRMの条件は表2の通り
設定した。精度管理用QC(quality control)は18人の健常人尿をプールし、10 μL
ずつ1.5 mLマイクロチューブに分注し、分析まで-80℃に保管した。QCの値が理論値の15%以内のときに、バッチ内の検査が成立したと判断した。
【0108】
【0109】
6種の神経伝達物質の尿中濃度、中央値、四分位点を求め、群ごとに箱髭図を作成した
(
図3)。被験者100名をBJSQの合計スコアによって、高ストレス群(50名)と低ストレス群(50名)に分類した。さらに二群間にてスチューデントTテスト(Student T-test)を実施し、p値が0.05を下回った場合にその値をグラフに記した。
その結果、ドーパミン(DA)およびHVAの尿中濃度は低ストレス群に対し、高ストレス群において有意に低下していることが確認された。
【0110】
6つの神経伝達物質から2成分抽出し、それぞれの濃度を散布図に示した。15種類のすべての組合せをグラフに示した(
図4)。その結果、いくつかの組合せにおいて高い相関(>0.7)が認められたものの、多くは相関係数が0.7を下回った。これはそれぞれの成分の発現がある程度独立であり、その関係は相補的であると言える。これはそれぞれが異なる要因にて増減しているためであり、よって6つの成分を総合的判定すれば、単独に比べストレスをより正確に判定できる可能性を示す。
【0111】
6つの神経伝達物質尿中濃度・クレアチニン比を常用対数変換し、さらに正規化(平均ゼロ、分散1)した。これらの値に係数(重み)を乗じ、線形結合したものを「ストレスインデックス(指標)」とした。
ここで、100人の被験者におけるストレスチェックの回答(スコア)の合計値を高い順に並び替え、上位50名を高ストレス群、下位50名を低ストレス群と定義した。
さらに100人の被験者を無作為に66人のトレーニングセットと、34人のテストセットに分けた。それぞれのセットには等数の高ストレス者と低ストレス者がいる。エクセルのソルバー(非線形制約付き最適化法)を使い、トレーニングセット内の高ストレス者、低ストレス者のストレスインデックス差が最も顕著になる(スチューデントTテストのp値が最小になるように)係数(A~F)を最適化した。各係数には二乗和が1となる制約条件を課した。トレーニングセットを使い得た係数を、テストセットに使い、計算したテストセットのストレスインデックスが有意な差を示すかを調べた。
【0112】
その結果、それぞれの係数は
図5のようになり、トレーニングセットのp値が0.012であったのに対し、テストセットのp値は0.016であった。6つの神経伝達物質のストレスインデックスを組み合わせると、神経伝達物質単一に比べ効果高くストレスを判定できることがわかった。
【0113】
《実施例2:神経伝達物質単独の変動と、個々のストレス要因との相関》
尿中神経伝達物質とストレス要因との相関を明らかにするために、各質問ごとに「高ストレス者(3,4を回答した人)」と「低ストレス者(1,2を回答した人)」に分類し、スチューデントTテストにより、2群間の相関を調べた。表3にp値が0.01を下回ったものを質問とともに列記した。その結果、ドーパミンは「この仕事は自分に向かない」「憂鬱だ」等、生活・仕事の満足度に応答することがわかった。さらに「とても疲れている」「ふしぶしが痛い」等、肉体的ストレスにも応答した。一方、GABAは「胃腸に問題がある」「食欲がない」等、消化器系の問題に応答した他、HVAは「私の仕事環境は悪い」「よく眠れない」「私がトラブルに会ったとき、家族の助けがない」等、自分の周辺の環境に応答した。VMAは「求められる時間内に仕事が終わらない」等、自身でコントロールできない環境に反応した。セロトニンは、「不安だ」「ふしぶしが痛い」「胃腸に問題がある」等、心配、不安、将来に対する不安に応答した。
なお、表3では、質問はすべてストレスを表すものに変換している。
以上の結果から、(a)「生活・仕事の満足度」および「肉体的ストレス」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Aとドーパミン濃度の組み合わせ;(b)「自分の周辺の環境」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Bとホモバニリル酸濃度の組み合わせ;(c)「消化器系」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数CとGABA濃度の組み合わせ;(d)「心配」および「不安」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数
Dとセロトニン濃度の組み合わせ;(e)「自身でコントロールできない環境」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Eとバニリルマンデル酸濃度の組み合わせ;(f)「将来に対する不安」に関する質問への回答をスコア化した値に基づいて算出される係数Fとセロトニン濃度および/または5-ヒドロキシインドール酢酸濃度の組み合わせ、を用いたストレスインデックス算出式により、ストレスの定量化をより正確に行うことができることが示された。
【0114】