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特開2023-26909電子機器用フイルムおよびプリント回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026909
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】電子機器用フイルムおよびプリント回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20230221BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20230221BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20230221BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230221BHJP
   C08F 132/08 20060101ALI20230221BHJP
   C08F 136/20 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
C08L45/00
C08L71/12
C08L101/00
C08F132/08
C08F136/20
H05K1/03 650
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132353
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】前岨 晋一
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 瑛大
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AA01W
4J002BK00X
4J002CF16W
4J002CH07W
4J002CM04W
4J002FD010
4J002GF00
4J002GQ01
4J100AR11P
4J100AR11R
4J100AS15Q
4J100BC43R
4J100FA04
4J100FA08
4J100FA19
4J100GC07
4J100JA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】組立工程での耐熱性及び接着性を確保し、低い誘電率および誘電正接を実現する電子機器用フイルム及びプリント回路基板を提供する。
【解決手段】電子機器用フイルムは、フイルム状に形成された主材料と、主材料中に分散している化合物と、を有し、化合物は、式(1)で表されるモノマー単位の単独重合体又は複数種類のモノマー単位の共重合体、であり、化合物の重量平均分子量を1000以上20000以下である。

式(1)中、R及びRを、水素原子及び炭素数1~30の炭化水素基からなる群から夫々独立に選択される何れかであるか又は共同してアルキリデン基を形成し、R及びRは、水素原子及び炭素数1~30の炭化水素基からなる群から夫々独立に選択される何れかであるか又は共同してアルキリデン基を形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フイルム状に形成された少なくとも一種類の主材料と、
前記主材料中に分散している化合物と、を有し、
前記化合物は、式(1)で表されるモノマー単位の単独重合体、または、複数種類の前記モノマー単位の共重合体、であり、
前記化合物の重量平均分子量は、1000以上20000以下である電子機器用フイルム。
【化1】
式中、
およびRは、水素原子、および、置換もしくは無置換の炭素数1~30の炭化水素基、からなる群からそれぞれ独立に選択されるいずれかであるか、または、共同してアルキリデン基を形成し、
およびRは、水素原子、および、置換もしくは無置換の炭素数1~30の炭化水素基、からなる群からそれぞれ独立に選択されるいずれかであるか、または、共同してアルキリデン基を形成する。
【請求項2】
前記化合物は、式(1)においてR、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位を含む請求項1に記載の電子機器用フイルム。
【請求項3】
前記化合物は、前記共重合体である請求項1または2に記載の電子機器用フイルム。
【請求項4】
前記主材料中に分散している粒子を有し、
前記粒子は、前記化合物を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の電子機器用フイルム。
【請求項5】
金属に対する接着性を有する接着層と、前記接着層を少なくとも部分的に覆う絶縁層と、を備え、
前記主材料は、絶縁性を有する材料であり、
前記絶縁層において、前記化合物が前記主材料中に分散している請求項1~4のいずれか一項に記載の電子機器用フイルム。
【請求項6】
金属に対する接着性を有する接着層と、前記接着層を少なくとも部分的に覆う絶縁層と、を備え、
前記主材料は、金属に対する接着性を有する材料であり、
前記接着層において、前記化合物が前記主材料中に分散している請求項1~4のいずれか一項に記載の電子機器用フイルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電子機器用フイルムを含むプリント回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用フイルムおよびプリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波デバイスなどの用途にプリント回路基板が汎用されている。プリント回路基板は、典型的には、絶縁性の基板材料と、銅箔と、被覆材料とが積層された平板状の構造を有し、基板材料および被覆材料は主として樹脂材料によって構成されている。かかるプリント回路基板を電子機器に実装する際には、種々の素子とプリント基板上に設けられた配線(銅箔)とが、はんだ付けなどの方法により結線される。
【0003】
上記のように実装段階においてはんだ付けが行われる場合、プリント回路基板は一時的に高温(たとえば250℃)に晒される。そのため、プリント回路基板に使用される樹脂材料には、一定以上の耐熱性が求められる。そのような耐熱性を有する絶縁材料として、たとえば液晶ポリマーが使用されている(特許文献1、特許文献2)。また、そのような絶縁材料と、回路を形成する金属とを接着するために、接着性を有する材料が用いられる(特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-65061号公報
【特許文献2】国際公開第2020/179443号
【特許文献3】特開2020-90564号公報
【特許文献4】特開2021-66865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリント回路基板の性能を向上するためには、誘電率および誘電正接が低い材料を用いることが好適である。しかし、組立工程上の要求から、材料の耐熱性および接着性が優先して考慮され、誘電率および誘電正接が比較的高い材料を用いざるを得ない場合があった。そのため、プリント回路基板の性能には改善の余地があった。
【0006】
そこで、従来用いられている絶縁材料および接着材料の電気特性を簡便な方法で改善する手段、ならびに、当該手段が反映された電子機器用フイルムおよびプリント回路基板の実現が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電子機器用フイルムは、フイルム状に形成された少なくとも一種類の主材料と、前記主材料中に分散している化合物と、を有し、前記化合物は、式(1)で表されるモノマー単位の単独重合体、または、複数種類の前記モノマー単位の共重合体、であり、前記化合物の重量平均分子量は、1000以上20000以下であることを特徴とする。
【化1】
【0008】
式中、RおよびRは、水素原子、および、置換もしくは無置換の炭素数1~30の炭化水素基、からなる群からそれぞれ独立に選択されるいずれかであるか、または、共同してアルキリデン基を形成し、RおよびRは、水素原子、および、置換もしくは無置換の炭素数1~30の炭化水素基、からなる群からそれぞれ独立に選択されるいずれかであるか、または、共同してアルキリデン基を形成する。
【0009】
また、本発明に係るプリント回路基板は、上記の電子機器用フイルムを含むことを特徴とする。
【0010】
これらの構成によれば、主材料が有する好適な物性を大きく損なうことなく、上記の化合物が有する電気特性を電子機器用フイルムおよびプリント回路基板の性能に反映できる。これによって、従来用いられている絶縁材料および接着材料の電気特性を簡便な方法で改善した電子機器用フイルムおよびプリント回路基板を提供できる。
【0011】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0012】
本発明に係る電子機器用フイルムは、一態様として、前記化合物は、式(1)においてR、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、比較的入手しやすい無置換のノルボルネンを原料として、本発明に係る電子機器用フイルムを提供しうる。
【0014】
本発明に係る電子機器用フイルムは、一態様として、前記化合物は、前記共重合体であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、電子機器用フイルムの耐熱性、柔軟性および耐屈曲性が、プリント回路基板に特に適した水準になりやすい。また、共重合されるモノマー単位の比率を変更することで、化合物の物性を調整しやすい。
【0016】
本発明に係る電子機器用フイルムは、一態様として、前記主材料中に分散している粒子を有し、前記粒子は、前記化合物を含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、上記化合物を主材料中に分散させやすい。
【0018】
本発明に係る電子機器用フイルムは、一態様として、金属に対する接着性を有する接着層と、前記接着層を少なくとも部分的に覆う絶縁層と、を備え、前記主材料は、絶縁性を有する材料であり、前記絶縁層において、前記化合物が前記主材料中に分散していることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、従来、電気特性と接着性との両立が困難だった接着層に対して、上記化合物の電気特性を反映して、接着層の誘電率および誘電正接を低減しうる。これによって、フイルム全体の誘電率および誘電正接が低減されうる。
【0020】
本発明に係る電子機器用フイルムは、一態様として、金属に対する接着性を有する接着層と、前記接着層を少なくとも部分的に覆う絶縁層と、を備え、前記主材料は、金属に対する接着性を有する材料であり、前記接着層において、前記化合物が前記主材料中に分散していることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、絶縁層と接着層とを有する既存の電子機器用フイルムの基本的な設計を変更せず、または最低限の変更にて、絶縁層の電気特性を改善しうる。
【0022】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第一の実施形態に係る電子機器用フイルムの構造を示す断面模式図である。
図2】第二の実施形態に係る電子機器用フイルムの構造を示す断面模式図である。
図3】電子機器用フイルムの広角X線散乱プロファイルの第一の例である。
図4】電子機器用フイルムの広角X線散乱プロファイルの第二の例である。
図5】プリント回路基板の構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る電子機器用フイルムおよびプリント回路基板の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る電子機器用フイルムを、プリント回路基板1用の電子機器用フイルムに適用した例について説明する。本明細書では、電子機器用フイルムの実施形態として二つの実施形態(電子機器用フイルム10(図1)および電子機器用フイルム20(図2))について説明するが、各実施形態の個別の説明であると明記してある事項以外は、双方の実施形態に共通する事項である。なお、双方の実施形態について総称するときは、符号を付さずに電子機器用フイルムと称する。
【0025】
〔化合物Iの構造〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、フイルム状に形成された少なくとも一種類の主材料と、主材料中に分散している化合物(以下、化合物Iと称する。)と、を有する。化合物Iは、式(1)で表されるモノマー単位の単独重合体、または、複数種類の前記モノマー単位の共重合体、である。
【化2】
【0026】
式(1)において、RおよびRは、水素原子、および、置換もしくは無置換の炭素数1~30の炭化水素基、からなる群からそれぞれ独立に選択されるいずれかであるか、または、共同してアルキリデン基を形成し、RおよびRは、水素原子、および、置換もしくは無置換の炭素数1~30の炭化水素基、からなる群からそれぞれ独立に選択されるいずれかであるか、または、共同してアルキリデン基を形成する。したがって、化合物Iは、ポリノルボルネン骨格を有する単独重合体または共重合体である。なお、ポリノルボルネン骨格の両末端には重合開始剤に由来する末端官能基が存在する。
【0027】
化合物Iは、式(1)においてR、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位を含むことが好ましい。このモノマー単位は、すなわち無置換ノルボルネン単位である。
【0028】
化合物Iは、R、R、およびRがいずれも水素原子であり、Rが、アルキル基、アルケニル基、およびシクロアルキル基からなる群から選択されるいずれかであるモノマー単位、ならびに、式(1)においてRおよびRがいずれも水素原子であり、RおよびRが共同してアルキリデン基を形成するモノマー単位、から選択されるいずれかのモノマー単位を含むことが好ましい。これらのモノマー単位は、すなわち置換ノルボルネン単位である。なお、上記のアルキル基、アルケニル基、およびシクロアルキル基、ならびにアルキリデン基は、炭素数20以下であることが好ましい。
【0029】
上記のアルキル基は特に限定されず、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など、またはより鎖長が長いアルキル基でありうる。ただし、アルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、アルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。
【0030】
上記のアルケニル基は特に限定されず、アリル基、ビニル基、エチニル基、プロペニル基、ブテニル基など、またはより鎖長が長いアルケニル基でありうる。なお、炭素数が3以上のアルケニル基において、二重結合の位置および数は限定されない。ただし、アルケニル基の炭素数は、2以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、アルケニル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。
【0031】
上記のシクロアルキル基は特に限定されず、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基など、またはより炭素数が多いシクロアルキル基でありうる。ただし、シクロアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、シクロアルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。
【0032】
上記のアルキリデン基は特に限定されず、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基など、またはより鎖長が長いアルキリデン基でありうる。ただし、アルキリデン基の炭素数は、2以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、アルキリデン基の炭素数は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。
【0033】
化合物Iは、たとえば以下の式(2)で表される共重合体(以下、共重合体IIと称する。)でありうる。共重合体IIは、二種類のモノマー単位を含む。第一のモノマー単位は、上記の無置換ノルボルネン単位であり、第二のモノマー単位は、上記の置換ノルボルネン単位である。共重合体IIは、第一のモノマー単位と第二のモノマー単位とをn:mのモル比で含む。
【化3】
【0034】
化合物Iが共重合体IIである場合、第一のモノマー単位(無置換ノルボルネン単位)と第二のモノマー単位(置換ノルボルネン単位)との比率は特に限定されず、したがって式(2)のnとmとの組合せは任意である。nとmとの組合せは、m/(n+m)が、0.05以上(置換ノルボルネン単位が5モル%以上)であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。また、nとmとの組合せは、m/(n+m)が、0.99以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。
【0035】
化合物Iの重量平均分子量は、1000以上20000以下である。本実施形態に係る電子機器用フイルムでは、化合物Iが主材料中に分散している。化合物Iの重量平均分子量が20000以下であると、化合物Iが主材料中に均一に分散しやすい。また、化合物Iの重量平均分子量がこのように比較的低い値であると、化合物Iがトルエン、デカン、シクロヘキサン、シクロヘキサノンなどの有機溶媒に溶解するか、またはこれらの溶媒に均一に分散しやすくなるので、化合物Iを含む溶液と主材料を含む溶液(ワニス)との液液混合を実施でき、これによって化合物Iの均一な分散状態が実現されやすい。なお、化合物Iの重量平均分子量が20000以下であることによって、化合物Iが有機溶媒中でゲル化する現象も抑制されうる。分散性の観点より、化合物Iの重量平均分子量は、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましい。
【0036】
また、化合物Iの重量平均分子量が1000以上であると、式(1)の化合物が有する耐熱性および電気特性が電子機器用フイルムの性能に反映されやすい。耐熱性および電気特性の観点より、化合物Iの重量平均分子量は、2000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましい。
【0037】
なお、化合物Iの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーなどの方法で特定されうる。
【0038】
〔化合物Iの製造方法〕
化合物Iは、対応するモノマーを出発原料とする公知の重合反応により得られうる。すなわち、式(1)で表されるモノマー単位(単独重合体の場合は一種類、共重合体の場合は複数種類)を、反応溶媒中で、重合触媒および連鎖移動剤の存在下で反応させる。反応温度は、特に限定されないが、たとえば25~200℃でありうる。
【0039】
反応溶媒は特に限定されないが、たとえばケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、非環式脂肪族アルコール系溶剤、芳香族系溶剤、などから選択される一種類または複数種類の混合物でありうる。
【0040】
重合触媒は特に限定されないが、たとえばパラジウム錯体やニッケル錯体などでありうる。これらの錯体に含まれる配位子は、ホスフィン系、ジイミン系、およびニトリル系などの配位子でありうる。また、カウンターアニオンが含まれていてもよい。重合触媒は一種類であってもよいし、複数種類の混合物であってもよい。触媒の使用量は、たとえば、モノマーに対して1ppmmol以上1000ppmmol以下でありうる。
【0041】
パラジウム錯体は特に限定されないが、パラジウム(II)(アセトニトリル)ビス(トリイソプロピルホスフィン)アセテートテトラキス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)ボレートやπ-アリルパラジウムクロリドダイマーなどのアリルパラジウム錯体、パラジウムの酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、およびナフトエ酸塩などのパラジウムの有機カルボン酸塩、酢酸パラジウムのトリフェニルホスフィン錯体、酢酸パラジウムのトリ(m-トリル)ホスフィン錯体、酢酸パラジウムのトリシクロヘキシルホスフィン錯体、および酢酸パラジウムのトリイソプロピルホスフィン錯体などのパラジウムの有機カルボン酸錯体、パラジウムのジブチル亜リン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩などのパラジウムの有機スルフォン酸塩、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム、ビス(ヘキサフロロアセチルアセトナート)パラジウム、ビス(エチルアセトアセテート)パラジウム、およびビス(フェニルアセトアセテート)パラジウムなどのパラジウムのβ-ジケトン化合物、ならびに、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス[トリ(m-トリルホスフィン)]パラジウム、ジブロモビス[トリ(m-トリルホスフィン)]パラジウム、およびアセトニルトリフェニルホスフォニウム錯体などのパラジウムのハロゲン化物錯体、などでありうる。
【0042】
ホスフィン配位子は特に限定されないが、トリフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、およびトリシクロヘキシルホスフィンなどでありうる。
【0043】
連鎖移動剤は特に限定されないが、たとえばトリメチルシラン、トリエチルシラン、トリブチルシランなどのトリアルキルシラン化合物や、ビシクロ[4.2.0]オクタ-7-エンなどのシクロブテン化合物などでありうる。
【0044】
反応後、公知の方法で化合物Iを単離できる。ただし、次工程の妨げにならない場合は、化合物Iを単離せずに次工程に供してもよい。
【0045】
〔化合物Iの物性〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムにおいて、化合物Iの、JIS K 7120-1987に従う昇温速度5℃/分の条件の熱重量測定(TG:Thermogravimetry)により測定した5%重量減少温度が、300℃以上であることが好ましい。化合物Iの5%重量減少温度が300℃以上であると、電子機器用途において要求される水準の耐熱性を達成しやすい。たとえば、本実施形態に係る電子機器用フイルムが電子基板に用いられる場合、当該基板上で行われるはんだ付けに耐えうる耐熱性が要求される。化合物Iの5%重量減少温度は、350℃以上であることがより好ましい。
【0046】
本実施形態に係る電子機器用フイルムにおいて、化合物Iの、JIS C 2565-1992に従って周波数10GHzにおいて測定した比誘電率が、3.0以下であることが好ましい。化合物Iの比誘電率が3.0以下であると、本実施形態に係る電子機器用フイルムを用いた高周波デバイスにおいて信号の伝送が速くなるので、高速通信用の電子機器に特に好適に使用できる。化合物Iの比誘電率は、2.5以下であることがより好ましい。
【0047】
本実施形態に係る電子機器用フイルムにおいて、化合物Iの、JIS C 2565-1992に従って周波数10GHzにおいて測定した誘電正接が、0.003以下であることが好ましい。化合物Iの誘電正接が0.003以下であると、本実施形態に係る電子機器用フイルムを用いた高周波デバイスにおいて信号の損失が抑制されるので、高速通信用の電子機器に特に好適に使用できる。化合物Iの誘電正接は、0.002以下であることがより好ましい。
【0048】
化合物Iをフイルム状に成形した試料について、SPring8(公益財団法人 高輝度光科学研究センター)に設置された試験装置「BL03XUビームラインX線散乱計測システム」を用い、検出器「Pilatus 1M」、カメラ距離0.3m、X線照射時間5s、積算回数1回として、波長0.1nmのX線をフィルムサンプル表面に対して垂直に入射し、広角X線散乱(WAXS)プロファイルを測定した。測定された広角X線散乱プロファイルについて、散乱ベクトルqが2nm-1以上8nm-1以下の第一領域、および10nm-1以上20nm-1以下の第二領域の範囲における散乱パターンを評価した。なお、散乱ベクトルqは、以下の式(3)で与えられる。ここで、λは測定に用いるX線の波長であり、2θは散乱角である。
【数1】
【0049】
化合物Iの散乱ベクトルqは、第一領域の範囲に少なくとも一つのピークを有することが好ましい。なお、化合物Iの散乱ベクトルqは、第一領域および第二領域の各範囲に、各々少なくとも一つずつのピークを有することがより好ましい。また、第一領域の範囲に少なくとも二つのピークを有することがより好ましい。
【0050】
第一領域のピークは、化合物Iの結晶性を有する部分に由来する。したがって、第一領域に現れるピークの位置、強度、および数は、化合物Iの結晶構造により変化する。かかる結晶構造は、置換基R、R、R、およびRの種類、化合物Iが共重合体である場合は各モノマー単位のモル比率(たとえば共重合体IIにおける比率m/(n+m))、化合物Iの製造方法などの要素に左右されうる。
【0051】
第二領域のピークは、化合物Iの結晶性を有さない部分(非晶成分)に由来する。
【0052】
図3および図4は、化合物Iの広角X線散乱プロファイルの例である。図3は、第一領域に二つのピークを有する例であり、散乱ベクトルqが3.5付近および7.0付近(第一領域)、ならびに13.5付近(第二領域)にピークが存在する。また、図4は、第一領域に一つのピークを有する例であり、散乱ベクトルqが7.0付近(第一領域)、および13.5付近(第二領域)にピークが存在する。
【0053】
〔電子機器用フイルムの構成〕
(第一の実施形態)
第一の実施形態に係る電子機器用フイルム10は、金属に対する接着性を有する接着層11と、接着層を覆う絶縁層12と、を備える(図1)。第一の実施形態では、主材料は絶縁性を有する材料であり、ポリイミド、変性ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)などが例示される。化合物Iは、絶縁層12において主材料中に分散している。より詳細には、化合物Iは主材料と相溶しており、絶縁層12において化合物Iと主材料とは明確な境界を有さない。
【0054】
なお、絶縁性を有する材料とは、電気絶縁材料として通常用いられる材料である限りにおいて特に限定されないが、たとえば、JIS K6911-1995に従って測定した体積抵抗率が1×1013Ω・m以上の材料でありうる。
【0055】
(第二の実施形態)
第二の実施形態に係る電子機器用フイルム20は、金属に対する接着性を有する接着層21と、接着層を覆う絶縁層22と、を備える(図2)。第二の実施形態では、主材料は金属に対する接着性を有する材料であり、エポキシ樹脂、ポリイミド、変性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)などが例示される。化合物Iは、接着層21において主材料中に分散している。
【0056】
より詳細には、接着層21は、主材料により構成された分散媒部分23と、分散媒部分23中に分散している粒子24と、を有し、粒子24は化合物Iを含む。この場合、当該粒子の粒子径は、たとえば0.05~5μmでありうる。かかる粒子は、たとえば溶融法などによって製造されうる。
【0057】
なお、金属に対する接着性を有する材料とは、たとえば、Cold-Hotプレス機を用いて温度180℃、圧力3MPaで45分プレスしたサンプル片を、角度180°、引張速度50mm/minで剥離することにより測定した剥離強度が0.1N/mm以上の材料でありうる。また、特に銅、ポリイミドなどに対する接着性を有することが好ましい。
【0058】
(変形例)
化合物Iと主材料とが存在する層と、化合物Iの分散形態と、の組み合わせについて、上記の二つの実施形態は例示にすぎない。したがって、絶縁層において化合物Iが粒子の態様で主材料中に分散している構成、および、接着層において化合物Iが主材料と相溶している構成も、採用されうる。
【0059】
〔電子機器用フイルムを構成する他の成分〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、主材料および化合物Iの他の成分を含みうる。各成分の含有量は特に限定されないが、化合物Iの含有量が重量比率で40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。また、化合物Iの含有量が重量比率で95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。
【0060】
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、比誘電率が10以下であるフィラーを含むことが好ましい。この場合、当該フィラーの含有量は、重量比率で50%以下であることが好ましい。かかるフィラーとしては、低誘電シリカ、アルミナなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0061】
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、公知の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、撥水材、撥油材などが例示されるが、これらに限定されない。
【0062】
〔電子機器用フイルムの物性〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、引張荷重10mN、温度範囲25~250℃、および昇温速度5℃/分、の条件の熱機械分析における、50~100℃の傾きとして特定される線膨張係数が、40ppm以下であることが好ましい。電子機器用フイルムの線膨張係数が30ppm以下であると、銅箔と貼り合わせて用いる用途(たとえばプリント回路基板の基板材料および被覆材料)に好適に使用できる。電子機器用フイルムの線膨張係数は、25ppm以下であることがより好ましい。また、当該線膨張係数の下限は特に限定されないが、たとえば10ppm以上でありうる。なお、熱機械分析は、たとえばTMA7100(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて実施されうる。
【0063】
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、JIS C 2565-1992に従って周波数10GHzにおいて測定した比誘電率が、3.0以下であることが好ましい。電子機器用フイルムの比誘電率が3.0以下であると、高速通信用の電子機器に特に好適に使用できる。電子機器用フイルムの比誘電率は、2.5以下であることがより好ましい。化合物Iは当分野において従来用いられている物質に比べて比誘電率が低いため、電子機器フイルムとして好適な比誘電率を実現しやすい。
【0064】
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、JIS C 2565-1992に従って周波数10GHzにおいて測定した誘電正接が、0.003以下であることが好ましい。電子機器用フイルムの誘電正接が0.003以下であると、高速通信用の電子機器に特に好適に使用できる。電子機器用フイルムの誘電正接は、0.002以下であることがより好ましい。化合物Iは当分野において従来用いられている物質に比べて誘電正接が低いため、電子機器フイルムとして好適な誘電正接を実現しやすい。
【0065】
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、JIS K 7127:1999に従って測定したヤング率が、0.5GPa以上であることが好ましい。電子機器用フイルムのヤング率が0.5GPa以上であると、電子機器用フイルムの耐屈曲性が高くなるため、プリント基板用途に特に好適に使用できる。電子機器用フイルムのヤング率は、1.0GPa以上であることがより好ましい。なお、電子機器用フイルムのヤング率の上限は特に限定されないが、たとえば10GPa以下でありうる。
【0066】
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、JIS K 7127:1999に従って測定した破断伸びが、3%以上であることが好ましい。電子機器用フイルムの破断伸びが3%以上であると、電子機器用フイルムの耐屈曲性が高くなるため、プリント基板用途に特に好適に使用できる。電子機器用フイルムの破断伸びは、5%以上であることがより好ましい。なお、電子機器用フイルムの破断伸びの上限は特に限定されないが、たとえば50%以下でありうる。
【0067】
〔電子機器用フイルムの製造方法〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、たとえば、主材料中に化合物Iを分散させて前駆体を得る分散工程と、分散工程で得られた前駆体からフイルムを形成するフイルム化工程と、を含む方法によって製造されうる。
【0068】
(1)分散工程
本実施形態では、化合物Iがトルエン、デカン、シクロヘキサン、シクロヘキサノンなどの有機溶媒に溶解するか、またはこれらの溶媒に均一に分散しやすい。そのため、分散工程を、第一に化合物Iを有機溶媒に溶解(または分散)させるステップを実施し、第二に化合物Iを含む溶液と主材料を含む溶液(ワニス)とを液液混合するステップを実施する、という手順で実施しうる(第一の手順例)。
【0069】
また、化合物Iが粒子の態様で主材料中に分散している構成の電子機器用フイルム(たとえば電子機器用フイルム20)を得ようとするときは、分散工程を、第一に化合物Iの粒子を製造するステップを実施し、第二に主材料を含む溶液(ワニス)と当該粒子とを混合するステップを実施する、という手順で実施しうる(第二の手順例)。化合物Iの粒子は、前述のようにたとえば溶融法などによって製造されうる。なお、粒子を有機溶媒に分散させるステップを設けてもよい。
【0070】
そのほか、分散工程を、化合物Iと主材料とを乾式混合で混合する方法で実施してもよい(第三の手順例)。
【0071】
(2)フイルム化工程
フイルム化工程を実施する方法は特に限定されず、たとえばキャスト法、溶融押出法などの方法でありうる。キャスト法が採用される場合は、分散工程において、化合物Iと主材料とが液中に溶解または分散した前駆体が得られることが好ましく、たとえば上記の第一または第二の手順例が採用されうる。
【0072】
溶融押出法が採用される場合は、化合物Iと主材料との固体混合物が前駆体として得られることが好ましく、たとえば上記の第三の手順例が採用されうる。また、分散工程を設けずに、化合物Iと主材料との混合を、単一の溶融押出プロセスとして実施してもよい。
【0073】
また、本実施形態に係る電子機器用フイルムが主材料および化合物Iの他の成分を含む場合、上記の分散工程またはフイルム化工程において、かかる他の成分が混合されうる。
【0074】
〔電子機器用フイルムの用途〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、たとえば、当該電子機器用フイルムを含むプリント回路基板1に使用されうる。図5にはプリント回路基板1の構造を示す断面模式図を示している。プリント回路基板1は、基板材料2、銅箔3、および被覆材料4を有し、被覆材料4が本実施形態に係る電子機器用フイルムにより構成されている。なお、基板材料2は、プリント回路基板用材料として公知の材料によって構成されており、詳細な説明は省略する。
【0075】
プリント回路基板1を製造するときは、基板材料2、銅箔3、および被覆材料4(電子機器用フイルム)をこの順で重ねた状態で熱プレスする。これによって、基板材料2、銅箔3、および被覆材料4が熱融着する。このとき、電子機器用フイルムの接着層(接着層11または接着層21)が銅箔3に当接するようにしてあるので、銅箔3と被覆材料4との接着強度が高くなりやすい。このように、接着層を設けてあるので、接着層を設けない場合に比べて、銅箔3と被覆材料4とを接着する工程の条件を穏やかにする変更が許容され、たとえば加工温度を低下させうる。
【0076】
〔電子機器用フイルムの作用効果〕
本実施形態に係る電子機器用フイルムは、主材料に起因する物性(機械特性、耐熱性、接着性、絶縁性など)とともに、主材料に比べて改善された電気的特性(主材料より低い誘電率および誘電正接)を発現する。電気的特性の改善は、化合物Iが有する低い誘電率および誘電正接に起因する。
【0077】
また、化合物Iは、単体でも電子機器用フイルム用材料として用いられうる水準の物性(ガラス転移点、線膨張係数など)を有する。そのため、化合物Iを添加することによって、主材料が有する電子機器用フイルムとして好ましい物性が損なわれにくい。
【0078】
以上のことから、本実施形態によれば、特定の主材料を用いて構成されている既存の電子機器用フイルムの設計を大きく変更することなく、電気的特性のみを効果的に向上できる。接着層においては、従来、電気的特性と接着性との両立が困難だったが、本実施形態によれば、接着層の電気的特性を向上しうる。また、絶縁層は電子機器用フイルムの主たる部分であり、絶縁層の設計変更は電子機器用フイルムの性能に大きな影響を及ぼしうるが、本実施形態によれば既存の電子機器用フイルムの基本的な設計を変更せず、または最低限の変更にて、絶縁層の電気特性を改善しうる。
【0079】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る電子機器用フイルムおよびプリント回路基板のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0080】
上記の実施形態では、絶縁層と接着層とを有する電子機器用フイルムの例について説明した。しかし、本発明に係る電子機器用フイルムは、単一の層からなっていてもよいし、三つ以上の層を有していてもよい。たとえば、接着性を有する樹脂を主材料とする本発明に係る電子機器用フイルムを金属箔の上に形成し、当該電子機器用フイルムの上に絶縁材料製のフイルムを接着する、という態様も実施可能である。
【0081】
上記の実施形態では、本実施形態に係る電子機器用フイルムを、プリント回路基板1に使用する例について説明した。しかし、本発明に係る電子機器用フイルムの用途はプリント回路基板に限定されず、たとえば、カバーレイフィルム、ボンディングシートなどの電子機器周辺部材でありうる。
【0082】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0083】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0084】
〔化合物Iの合成例〕
化合物Iの合成例として、以下に示す各組成の化合物を合成した。なお、各化合物の合成方法は、上記の「化合物Iの製造方法」の項で説明した方法において、各化合物のモノマー単位を使用したものとした。
【0085】
(化合物Ia)
化合物Iaとして、無置換ノルボルネン単位(式(1)において、R、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位)のみを含む態様の化合物Iを合成した。重量平均分子量は1600であった。
【化4】
【0086】
(化合物Ib)
化合物Ibとして、無置換ノルボルネン単位30モル%と、ビニルノルボルネン単位(式(1)において、Rがビニル基であり、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位)70モル%と、を含む態様の化合物Iを合成した。重量平均分子量は9300であった。なお、化合物Ibは、式(2)において、Rがビニル基であり、Rが水素原子であり、m/(n+m)が0.7である例に該当する。
【化5】
【0087】
(化合物Ic)
化合物Icとして、無置換ノルボルネン単位50モル%と、ビニルノルボルネン単位30モル%と、フェニルエチルノルボルネン単位(式(1)において、Rがフェニルエチル基であり、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位)20%と、を含む態様の化合物Iを合成した。重量平均分子量は4900であった。
【化6】
【0088】
(化合物Id)
化合物Idとして、無置換ノルボルネン単位50モル%と、ヘキシルノルボルネン単位(式(1)において、Rがヘキシル基であり、R、R、およびRがいずれも水素原子であるモノマー単位)50モル%と、を含む態様の化合物Iを合成した。重量平均分子量は50000であった。なお、化合物Idは、式(2)において、Rがヘキシル基であり、Rが水素原子であり、m/(n+m)が0.5である例に該当する。
【化7】
【0089】
〔電子機器用フイルムの作成例〕
上記の「電子機器用フイルムの製造方法」の項の第一の手順例に従って、実施例1~4および比較例1~4の電子機器用フイルムを作成した。なお、化合物I(化合物Ia~Id)を溶解させる溶媒としては、トルエンを用いた。また、ワニスとしてポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)またはポリイミドを用いた。各例において原料として使用した材料は、表1の通りである。また、各例におけるワニスと化合物Iとの混合比は、後掲する表2および表3の通りである。
【0090】
表1:実施例および比較例において使用した材料
【表1】
【0091】
各例の電子機器用フイルムを作成する際に、分散工程を終えた段階の混合溶液について、化合物Iの分散状態を目視で評価した(化合物Iを添加していない比較例1および3を除く。)。後掲する表2および表3では、分散状態について下記A~Cの三水準で評価結果を示している。
A:ゲル化が認められず、良好な分散状態である。
B:わずかにゲル化が認められるが、塗工可能である。
C:ゲル化が生じており、塗工不可能である。
【0092】
また、得られた各例の電子機器用フイルムについて、「電子機器用フイルムの物性」の項で説明した方法に従って、比誘電率および誘電正接を測定した。各例の組成および評価結果を表2および表3に示した。
【0093】
表2:電子機器用フイルムの組成および評価結果(1)
【表2】
【0094】
表3:電子機器用フイルムの組成および評価結果(2)
【表3】
【0095】
実施例1~4では、いずれも、ワニスと化合物Iとを混合したときに、キャスト法によるフイルム成形を実施しうる程度に均一な混合溶液が得られた(表2、表3)。一方、比較例2および比較例4では、ワニスに対する化合物Iの分散が不均一であり、キャスト法によるフイルム成形を実施できなかった。比較例2および比較例4では、実施例1~4に比べて化合物Iの分子量が大きいため、化合物I(化合物Id)が分散しにくかったのだと考えられる。なお、比較例2および比較例4ではフイルムが得られなかったため、比誘電率および誘電正接の測定を行えなかった。
【0096】
また、ワニスとしてポリフェニレンエーテル樹脂を用いた例のうち、化合物Iを含む実施例1~3は、化合物Iを含まない比較例1に比べて、比誘電率および誘電正接が低かった。同様に、ワニスとしてポリイミドを用いた例のうち、化合物Iを含む実施例4は、化合物Iを含まない比較例3に比べて、比誘電率および誘電正接が低かった。すなわち、ワニスとしてポリフェニレンエーテル樹脂を用いた場合およびポリイミドを用いた場合のいずれにおいても、化合物Iの添加によって誘電率および誘電正接が低下することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、たとえばプリント回路基板などの電子機器に利用できる。
【符号の説明】
【0098】
10 :電子機器用フイルム(第一の実施形態)
11 :接着層
12 :絶縁層
20 :電子機器用フイルム(第二の実施形態)
21 :接着層
22 :絶縁層
23 :分散媒部分
24 :粒子
1 :プリント回路基板
2 :基板材料
3 :銅箔
4 :被覆材料
図1
図2
図3
図4
図5