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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026982
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】冷却媒体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
B23Q11/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132476
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】591033755
【氏名又は名称】エヌティーツール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 均
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛之
(57)【要約】
【課題】工作機械の主軸から供給される冷却媒体の圧力を高めることができる冷却媒体噴射装置を提供する。
【解決手段】工作機械10の主軸20に本体部材110が取り付けられた状態において、主軸20から供給される冷却媒体は、ポンプ300で増圧された後、ケース第2通路222を介してノズル242に送られる。リリーフ弁500は、ケース第2通路222内の冷却媒体の圧力Tが、リリーフスプリング540の弾性力Fに対応する圧力設定値Tsより上昇すると、冷却媒体を排出部511bから排出する。ポンプ300は、所定回転数Nsにおいて、圧力設定値Tsより高い所定値Trを有する冷却媒体を吐出部302から吐出する。排出部511bの断面積S2は、流入部511aの断面積S1より小さく設定され、ポンプ300が所定回転数Nsで回転している状態において、排出部511bからの冷却媒体の排出状態の変化を目視で判別することができるように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸から供給される冷却媒体を、圧力を高めて噴射する冷却媒体噴射装置であって、
本体部と、支持部と、ポンプと、キャップと、ノズルと、圧力制御装置と、を備え、
前記本体部は、前記主軸に着脱自在に取り付けられ、また、前記主軸に取り付けられた状態において、前記主軸から供給される冷却媒体が通される本体部通路を有し、
前記支持部は、前記本体部が回転可能に配置される支持部内側空間と、第1通路と、第2通路と、を有し、前記第1通路は、前記本体部通路に連通しており、
前記ポンプは、回転部と、吸入部と、吐出部と、を有し、前記回転部は、前記本体部に連結されているとともに、前記支持部の前記支持部内側空間内に回転可能に配置され、前記吸入部は、前記支持部の前記第1通路に連通し、前記吐出部は、前記支持部の前記第2通路に連通し、また、前記回転部が回転することによって、前記吸入部から吸入される冷却媒体の圧力を、前記回転部の回転数に対応する圧力に高め、圧力を高めた冷却媒体を前記吐出部から吐出し、
前記キャップは、前記支持部の、前記ポンプより軸方向一方側の箇所に、前記支持部の前記支持部内側空間を閉じるように設けられ、また、前記支持部の前記第2通路に連通しているキャップ通路と、前記キャップ通路に連通しているノズル取り付け孔を有し、
前記ノズルは、前記キャップの前記ノズル取り付け孔に取り付けられ、また、冷却媒体を噴射する噴射孔と前記ノズル取り付け孔とに連通しているノズル通路を有し、
前記圧力制御装置は、排出通路と、流入部と、排出部と、弁座と、弁体と、を有し、前記流入部は、前記排出通路の流入側に、前記第2通路に連通するように設けられ、前記排出部は、前記排出通路の流出側に設けられ、前記弁座は、前記流入部に設けられ、前記弁体は、前記弁座を開閉し、また、前記第2通路内の冷却媒体の圧力と圧力設定値に基づいて前記弁体が前記弁座を開閉することにより、前記第2通路内の冷却媒体の圧力が、前記圧力設定値より高くなるのを防止するように構成され、
前記ポンプは、前記回転部の回転数が所定回転数である時に、前記吐出部から吐出される冷却媒体の圧力が、前記圧力設定値より高い所定値となる特性を有するように構成されており、
前記排出部の断面積は、前記流入部の断面積より小さく設定され、前記ポンプの回転部が前記所定回転数で回転している状態において、前記排出部からの冷却媒体の排出状態の変化を目視で判別することができるように構成されていることを特徴とする冷却媒体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却媒体噴射装置であって、
前記圧力制御装置は、弾性力を発生する第1の弾性力発生部を有し、前記第1の弾性力発生部により発生する弾性力が、前記弁体を、前弁座が閉じる方向に移動させる力として作用し、前記第2通路内の冷却媒体の圧力が、前記弁体を、前記弁座が開く方向に移動させる力として作用するように構成されていることを特徴とする冷却媒体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷却媒体噴射装置であって、
前記圧力制御装置は、冷却媒体が、前記排出部から水平方向に排出されるように構成されていることを特徴とする冷却媒体噴射装置。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の冷却媒体噴射装置であって、
回り止め装置を備え、
前記回り止め装置は、前記支持部に設けられ、工作機械に設けられている嵌合部に嵌合可能なピンを有し、
前記回り止め装置は、前記本体部が前記主軸に取り付けられた状態において、前記ピンが前記嵌合部に嵌合することによって、前記支持部が、前記本体部回りに回転するのを阻止するように構成されていることを特徴とする冷却媒体噴射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の冷却媒体噴射装置であって、
前記本体部を、前記主軸に対して軸方向他方側に移動させることによって、前記本体部が前記主軸に取り付けられるように構成され、
前記回り止め装置は、更に、第2の弾性力発生部と、係合部と、係合部材と、を有し、
前記ピンは、前記支持部に対して軸方向に沿って移動可能であり、
前記第2の弾性力発生部は、前記ピンを、前記支持部に対して軸方向他方側に移動させる弾性力を発生し、
前記係合部は、前記本体部に設けられ、
前記係合部材は、前記ピンと連動して軸方向に沿って移動可能であるとともに、前記係合部と係合可能であり、
前記本体部が前記主軸に取り付けられていない状態では、前記第2の弾性力発生部により発生する弾性力によって、前記ピンが、軸方向後他方側に移動するとともに、前記係合部材が、前記係合部と係合する係合位置に移動して、前記支持部に対する前記本体部の回転が阻止され、前記本体部が前記主軸に取り付けられた状態では、前記ピンが、工作機械に設けられている当接部に当接し、前記第2の弾性力発生部により発生する弾性力に抗して軸方向一方側に移動するとともに、前記係合部材が、前記係合部との係合が解除される係合解除位置に移動して、前記支持部に対する前記本体部の回転が可能となるように構成されていることを特徴とする冷却媒体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸から供給される冷却媒体を噴射する冷却媒体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製のワークの切削加工等を行う工作機械では、工作機械の主軸(「スピンドル」と呼ばれる)に取り付け可能な工具ホルダが用いられている。また、工具によりワークを加工する際には、ワークと工具との潤滑、ワークや工具の冷却、加工により発生した切り屑(「切粉」と呼ばれることもある)の除去(洗浄)等のために、油等の冷却媒体を工具の刃先等に供給する必要がある。このため、工作機械の主軸から供給される冷却媒体を通し、工具の刃先等に噴射する冷却媒体供給機構が設けられた工具ホルダが用いられている。さらに、冷却媒体を安定して噴射することができるようにするために、特許文献1(特開昭62-4550号公報)に開示されているような、主軸に連結される回転部を有するポンプにより構成される冷却媒体供給機構が設けられた工具ホルダが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-4550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な工作機械の主軸から供給される冷却媒体の圧力では、工具ホルダに設けられている冷却媒体供給機構から噴射される冷却媒体によって、ワークの加工時に発生する切り屑を十分に除去することができない。また、ワークの加工時に発生するバリも十分に除去することができない。
このため、作業員は、ワークを加工した後、ワークに残っている切り屑やバリを除去する作業(除去作業)を行っていた。
ここで、工具ホルダに設けられている冷却媒体供給機構から噴射される冷却媒体の圧力を高めることによって、切り屑やバリの除去効果を高めることが考えられる。
工具ホルダに設けられている冷却媒体供給機構から噴射される冷却媒体の圧力を高めるには、工作機械の主軸から供給される冷却媒体の圧力を高める必要がある。
しかしながら、工作機械の主軸から供給される冷却媒体の圧力を高めるためには、工作機械を高圧仕様に設計する必要があり、非常に高価となる。
また、特許文献1に開示されているような、主軸に連結される回転部を有するポンプにより構成される冷却媒体供給機構が設けられた工具ホルダを用い、ポンプの回転部の回転数を高めることによって、冷却媒体供給機構から噴射される冷却媒体の圧力を高めることが考えられる。
しかしながら、特許文献1に開示されている工具ホルダは、保持している工具を用いてワークを加工しながら、工具の刃先等に冷却媒体を噴射するものである。このため、工具ホルダの回転数を高めるには限界がある。
さらに、特許文献1に開示されている工具ホルダでは、冷却媒体供給機構の噴射孔が主軸とともに回転する。このため、噴射孔から噴射される冷却媒体の噴射方向が遠心力によって拡散し、冷却媒体を、所定箇所に集中的に噴射させることができない。すなわち、冷却媒体を、切り屑が残り易い箇所やバリが発生し易い個所に集中的に噴射させることができない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、工作機械の主軸から供給される冷却媒体の圧力を高めることができるとともに、所定個所に集中的に噴射することができる冷却媒体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の冷却媒体噴射装置は、本体部、支持部、ポンプ、キャップ、ノズルおよび圧力制御装置を備えている。
本体部は、工作機械の主軸に着脱自在に取り付けられる。また、本体部は、主軸に取り付けられた状態において、主軸から供給される冷却媒体が通される本体部通路を有している。本体部を主軸に取り付ける方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、本体部の後端側にプルスタッドを取り付け、プルスタッドを主軸側(後端側)に引き込む方法が用いられる。
支持部は、内側に支持部内側空間を有する筒状に形成される。支持部内側空間内には、本体部が回転可能に配置される。また、支持部は、冷却媒体を通す第1通路と第2通路を有している。第1通路は、本体部の本体部通路に連通している。第1通路を本体部通路に連通する方法としては、種々の方法を用いることができる。
ポンプは、回転部、吸入部および吐出部を有している。ポンプの回転部は、本体部に連結されているとともに、支持部の支持部内側空間内に回転可能に配置される。吸入部は、第1通路に連通し、吐出部は、第2通路に連通している。ポンプは、回転部が回転することによって、吸入部から吸入した冷却媒体の圧力を、回転部の回転数に対応する圧力に高め(増圧し)、圧力を高めた冷却媒体を吐出部から吐出する。ポンプとしては種々の構成のポンプを用いることができる。ポンプの回転部は、本体部の回転に連動して回転すればよく、本体部に直接連結してもよいし、他の部材を介して連結してもよい。
キャップは、支持部の、ポンプより軸方向一方側(先端側)の箇所に、支持部の支持部内側空間を閉じるように設けられる。また、キャップは、ノズルが取り付けられるノズル取り付け孔と、ノズル取り付け孔に連通しているキャップ通路を有している。キャップは、支持部に、キャップ通路が第2通路に連通するように取り付けられる。
ノズルは、噴射孔を有するノズル通路が形成されている。ノズルは、キャップのノズル取り付け孔に、ノズル通路がノズル取り付け孔に連通するように取り付けられる。
圧力制御装置は、排出通路と弁体を有している。排出通路は、流入側に、支持部の第2通路に連通している流入部を有し、流出側に排出部を有している。流入部は、弁座を有している。弁体は、第2通路内(流入部内)の冷却媒体の圧力Tと圧力設定値Tsに基づいて弁座を開閉する。弁体が、第2通路内の冷却媒体の圧力Tと圧力設定値Tsに基づいて弁座を開閉することにより、第2通路内の冷却媒体の圧力Tが圧力設定値Tsより上昇するのが防止される。弁座と弁体の形状は、弁体の移動によって弁座を開閉可能な種々の形状に設定することができる。圧力制御装置としては、公知の種々の構成の圧力制御装置を用いることができる。
ポンプは、回転部の回転数が所定回転数Nsである時に、吐出部から吐出される冷却媒体の圧力Tが、圧力制御装置の圧力設定値Tsより高い所定値Tr(>Ts)となる特性を有するように構成されている。
そして、本発明では、排出部の断面積S2は、流入部の断面積S1より小さく設定されている(S2<S1)。また、ポンプの回転部が所定回転数Nsで回転している状態において、圧力制御装置の排出部からの冷却媒体の排出状態の変化を目視で判別することができるように構成されている。「排出部からの冷却媒体の排出状態」は、例えば、冷却媒体の排出量、排出速度、排出軌跡等が対応する。「冷却媒体の排出状態の変化を目視で判別することができる」という記載は、例えば、正常時における排出状態と異常時の排出状態(例えば、ポンプの性能が低下した時の排出状態、ノズルの噴射孔が詰まった時の排出状態)を目視により判別することができることを意味する。
本発明は、工作機械の主軸から供給される冷却媒体の圧力を、ワークの加工時に発生する切り屑やバリを除去可能な圧力に高めることができるとともに、冷却媒体を所定方向に集中的に噴射させることができる。このため、本発明の冷却媒体噴射装置を用いることにより、工具を用いて加工作業を行った後にワークに残っている切り屑やバリを、安価に、簡単な構成で、確実に除去することができる。また、冷却媒体噴射装置の状態を、目視により容易に判別することができる。
本発明の異なる形態では、圧力制御装置は、弾性力を発生する第1の弾性力発生部を有している。そして、第1の弾性力発生部により発生する弾性力が、弁体を、弁座が閉じる方向に移動させる力として作用し、第2通路内の冷却媒体の圧力が、弁体を、弁座が開く方向に移動させる力として作用するように構成されている。
第1の弾性力発生部を有する圧力制御装置としては、例えば、排出通路、流入部、弁座、弁体、リリーフスプリング、排出部を有するリリーフ弁により構成される圧力制御装置を用いることができる。
本形態では、圧力制御装置を安価に構成することができる。
本発明の異なる形態では、圧力制御装置は、冷却媒体が排出部から水平方向に排出されるように構成されている。「冷却媒体を排出部から水平方向に排出されるように構成されている」という記載は、「冷却媒体が水平方向に排出されるように調整可能に構成されている」を含む。「水平方向」という記載は、厳密に水平方向である必要はない。「水平方向に排出する」という記載は、「水平方向に対して斜め下方に排出する」構成も含まれる。
本形態では、冷却媒体の排出状態の変化を、より容易に判別することができる。
本発明の異なる形態では、回り止め装置を備えている。
回り止め装置は、支持部に設けられ、工作機械に設けられている嵌合部に嵌合可能なピンを有している。そして、回り止め装置は、本体部が主軸に取り付けられた状態において、ピンが嵌合部に嵌合することによって、支持部が、本体部回りに回転するのを阻止するように構成されている。
本形態では、ポンプの回転部を容易に回転させることができる。
本発明の異なる形態では、本体部を、主軸に対して軸方向他方側(後端側)に移動させることによって、本体部が主軸に取り付けられるように構成されている。
また、回り止め装置は、更に、第2の弾性力発生部、係合部、係合部材を有している。
ピンは、支持部に対して軸方向に沿って移動可能である。第2の弾性力発生部は、ピンを、支持部に対して軸方向他方側(後端側)に移動させる弾性力を発生する。
係合部は、本体部に設けられている。係合部材は、ピンと連動して軸方向に沿って移動可能であるとともに、係合部と係合可能である。
そして、本体部が主軸に取り付けられていない状態では、第2の弾性力発生部により発生する弾性力によって、ピンが、軸方向他方側(後端側)に移動するとともに、係合部材が、係合部と係合する係合位置に移動する。これにより、支持部に対する本体部の回転が阻止される。また、本体部が主軸に取り付けられた状態では、ピンが、工作機械に設けられている当接部に当接し、第2の弾性力発生部により発生する弾性力に抗して軸方向一方側(先端側)に移動する。同時に、係合部材が、係合部との係合が解除される係合解除位置に移動する。これにより、支持部に対する本体部の回転が可能となる。
本形態では、本体部が主軸に取り付けられていない状態において、本体部と支持部を容易に管理することができ、本体部が主軸に取り付けられた状態では、本体部および本体部に連結されているポンプの回転部を、容易に回転させることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の冷却媒体噴射装置を用いることにより、冷却媒体の圧力を高めることができるとともに、所定個所に集中的に照射することができ、加工後のワークに残っている切り屑やバリを容易に、確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態の冷却媒体噴射装置の断面図である。
図2】一実施形態の冷却媒体噴射装置を工作機械に取り付ける動作を説明する図である。
図3図1の要部を拡大した拡大図である。
図4】一実施形態の冷却媒体噴射装置を工作機械に取り付けた状態を示す図である。
図5】一実施形態の冷却媒体噴射装置で用いられているリリーフ弁の一実施例の断面図である。
図6】通常のリリーフ弁の断面図である。
図7】一実施形態の冷却媒体噴射装置の動作を説明するグラフである。
図8】一実施形態の冷却媒体噴射装置における、リリーフ弁の排出部からの冷却媒体の排出状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の冷却媒体噴射装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下では、冷却媒体噴射装置の中心線Pに沿った方向を「軸方向」といい、ノズルが配置されている側(図1図4では矢印B側)を「軸方向一方側」、「先端側」あるいは「軸方向先端側」といい、ノズルが配置されている側と反対側(本体部材が配置されている側)(図1図4では矢印A側)を「軸方向他方側」、「後端側」あるいは「軸方向後端側」という。勿論、「軸方向一方側」および「軸方向他方側」は、逆方向であってもよい。
【0009】
本発明の冷却媒体噴射装置の一実施形態を、図1図5を参照して説明する。
図1は、一実施形態の冷却媒体噴射装置100の断面図である。図2は、一実施形態の冷却媒体噴射装置100を工作機械10に取り付ける動作を説明する図である。図3は、図1の要部の部分拡大図である。図4は、一実施形態の冷却媒体噴射装置100を工作機械10に取り付けた状態を示す図である。図5は、一実施形態の冷却媒体噴射装置100で用いられているリリーフ弁の一例を示す図である。
【0010】
一実施形態の冷却媒体噴射装置100は、本体部、支持部、キャップ230、ノズル240、ポンプ300、回り止め装置400、圧力制御装置500を有している。
【0011】
本体部は、本体部材110とアダプタ140により構成されている。
本体部材110は、後端側に、工作機械10の主軸20に取り付けられるシャンク部112を有している。シャンク部112に対応する本体部材外周面部分112aは、先端側から後端側に向かって外径が小さくなるように傾斜しているテーパー面に形成されている。本体部材外周面部分112aのテーパー面は、後述する、工作機械10の主軸20の主軸内周面部分21aのテーパー面とテーパー嵌合可能に形成されている。また、本体部材110は、後述する、カバー210に設けられている回り止めレバー440が係合可能な係合孔113を有している。
また、本体部材110は、中心側に軸方向に沿って延在する本体部材通路111を有している。本体部材通路111は、本体部材110のシャンク部112が主軸20に取り付けられた状態において、主軸20から供給される冷却媒体が通るように形成されている。
フィルタ130は、本体部材通路111内に配置され、本体部材通路111を通る冷却媒体に含まれている異物を除去する。フィルタ130としては、冷却媒体に含まれている異物を除去可能な公知の種々のフィルタを用いることができる。
【0012】
アダプタ140は、本体部材110の先端側に取り付けられている。本実施形態では、アダプタ140の後端側の部分が、本体部材110の本体部材通路111内に、本体部材110の先端側から挿入されてネジ結合されている。また、アダプタ140の先端側の部分は、本体部材110の先端側端面から飛び出ている。本体部材110とアダプタ140の間には、Oリング等のシール部材が配置されている。
アダプタ140は、冷却媒体が通るアダプタ通路141を有している。本実施形態では、アダプタ通路141は、軸方向に沿って延在する第1通路部分と、第1通路部分の先端側に接続され、径方向に沿って延在する第2通路部分を有している。第1通路部分の後端側は、本体部材通路111と連通し、第2通路部分は、アダプタ140の先端側の部分の外周面に開口している。
本体部材110とアダプタ140によって、本発明の「本体部」が構成され、本体部材通路111とアダプタ通路141によって、本発明の「本体部通路」が形成されている。
【0013】
支持部は、本体部(本体部材110、アダプタ140)およびポンプ300の回転部を回転可能に支持する。支持部は、カバー210、ケース220、リング部材250により構成されている。
【0014】
カバー210のカバー内側空間内には、ベアリング(軸受け)211を介して本体部材110が回転可能に配置されている。これにより、本体部材110は、カバー210に対して相対的に回転可能である。
また、カバー210は、本体部材110が配置されるカバー内側空間と径方向(軸方向と直交する方向)に離間する位置に軸方向に沿って延在し、後端側が開口している孔212を有している。
孔212内には、回り止めピン410が、孔212の延在方向に沿って移動可能に挿入されている。回り止めピン410は、軸方向に沿って延在し、先端側が開口している孔411を有している。
そして、孔411の底面411aと孔212の底面212aとの間にスプリング420が配置されている。
これにより、回り止めピン410は、スプリング420により発生する弾性力によって、孔212から抜け出る方向(後端側)に移動する力が加えられる。
【0015】
回り止めピン410の後端側には、回り止めレバー430が固定されている。回り止めレバー430の軸方向に沿った位置は、回り止めピン410にネジ結合されているナット431によって調整される。
本体部材110が主軸20に取り付けられていない状態(カバー210が工作機械10に固定されてない状態)では、回り止めピン410は、スプリング420の弾性力によって、孔212から抜け出る方向(後端側)に移動するとともに、回り止めレバー430が、本体部材110の係合孔113に係合する係合位置(図2に破線で示されている状態)に移動する。これにより、カバー210に対する本体部材110の回転が阻止される。このように、本体部材110が主軸20に取り付けられていない状態では、カバー210に対する本体部材110の回転が阻止されるため、主軸20の回転と連動して回転する回転部(本体部材110、アダプタ140、ポンプ300の回転部)と、工作機械10に固定される固定部(カバー210,ケース220、キャップ230、ノズル240)を容易に管理することができる。
一方、本体部材110が主軸20に取り付けられた状態(カバー210が工作機械10に固定された状態)では、回り止めピン410が、スプリング420の弾性力に抗して、孔212内に挿入される方向(先端側)に移動するとともに、回り止めレバー430が、本体部材110の係合孔113との係合が解除される係合解除位置(図2に実線で示されている状態)に移動する。これにより、カバー210に対する本体部材110の回転が可能となる。
【0016】
ケース220は、ボルト等によってカバー210の先端側に固定されている。なお、ケース220は、カバー210に対する、中心線P回りの位置を調整可能である。これにより、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出方向を調整することができる(この点については後述する)。
ケース220は、ケース第1通路221とケース第2通路222を有している。
リング部材250は、ケース220の後端側の部分とアダプタ140の先端側の部分との間に配置されている。リング部材250は、径方向に延在し、リング部材250の内周面および外周面に開口しているリング部材通路251を有している。リング部材250は、リング部材通路251とアダプタ通路141(詳しくは、アダプタ通路141の第2通路部分)およびケース第1通路221が連通するように配置される。
リング部材250とアダプタ140の間およびリング部材250とケース220の間にはシール部材(例えば、Oリング)が配置される。
【0017】
ポンプ300は、ケース220のケース内側空間内に回転可能に配置されている回転部を有している。ポンプ300としては、回転部を有する、公知の種々のポンプを用いることができる。本実施形態では、内接型ギヤポンプを用いている。
ポンプ300の回転部は、後端側が本体部材110に連結されている。本実施形態では、ポンプ300の回転部の後端側は、本体部材110に連結されているアダプタ140に、ノックピン150を介して連結されている。また、ポンプ300の回転部の先端側の部分は、後述するキャップ230に形成されている凹部内に回転可能に支持されている。すなわち、ポンプ300の回転部は、ケース220のケース内側空間内に回転可能に配置されている。これにより、主軸20に取り付けられる本体部材110の回転に連動して、ポンプ300の回転部が回転する。
ポンプ300は、吸入部301と吐出部302を有している。ポンプ300は、回転部の回転によって、吸入部301から吸入した冷却媒体の圧力を高め、圧力を高めた冷却媒体を吐出部302から吐出する。
吐出部302は、ケース第2通路222に連通している。
【0018】
カバー210、ケース220、リング部材250によって、本発明の「支持部」が構成されている。また、リング部材通路251とケース第1通路221によって、本発明の「支持部の第1通路」が構成され、ケース第2通路222によって、本発明の「支持部の第2通路」が構成されている。また、ケース220、回転部、吸入部301、吐出部302によって、本発明の「ポンプ」が構成されている。
【0019】
キャップ230は、ボルト等によって、ケース220の先端側に、ケース220の内側空間を塞ぐように固定される。
キャップ230は、ノズル240が取り付けられるノズル取り付け孔231と、ノズル取り付け孔231に連通しているキャップ通路232を有している。
キャップ230は、キャップ通路232がケース第2通路222に連通するように、ケース220に固定される。
ノズル240は、噴射孔242に連通しているノズル通路241を有している。
ノズル240は、ノズル通路241がノズル取り付け孔231に連通するように、キャップ230のノズル取り付け孔231に取り付けられる。
【0020】
なお、工作機械10には、固定部40が設けられている。
固定部40には、本体部材110が主軸20に取り付けられた状態で、回り止めピン410の後端部が嵌合される(挿入される)嵌合孔41が設けられている。
また、嵌合孔41の壁面41a(回り止めピン410の後端部が嵌合孔41に嵌合した状態で、回り止めピン410の回り止めピン後端面412と対向する面)に、回り止めピン後端面412と当接する当接部が設けられている。本実施形態では、嵌合孔41の壁面41aが当接部として用いられている。
【0021】
本体部材110の係合孔113が、本発明の「係合部」に対応し、回り止めピン410に固定されている回り止めレバー430が、本発明の「係合部材」に対応し、スプリング420が、本発明の「第2の弾性力発生部」あるいは「回り止め用弾性力発生部」に対応する。
回り止めピン410、スプリング420、回り止めレバー430、係合孔113、嵌合孔41、嵌合孔41の壁面41aによって、本発明の「回り止め装置400」が構成される。
【0022】
また、ケース220には、リリーフ弁500が配置されている。
リリーフ弁500は、図3図5に示されているように、リリーフ弁本体部510、スチールボール520、弁体支持部材530、リリーフスプリング540を有している。
リリーフ弁本体部510には、リリーフ弁通路511が設けられている。リリーフ弁通路511は、流入側に流入部511aを有し、流出側に排出部511bを有している。流入部511aは、ケース第2通路222に連通している。また、流入部511aには、弁座512が設けられている。
スチールボール520は、弁座512を開閉可能に形成されている。
スチールボール520は、弁体支持部材530により支持されている。弁体支持部材530は、リリーフ弁通路511の延在方向に沿って移動可能に配置されている。さらに、リリーフスプリング540により発生する弾性力が、弁体支持部材530を流入部511a方向に移動させる力として作用するように構成されている。これにより、スチールボール520は、リリーフスプリング540により発生する弾性力によって、弁座512を閉じる方向に移動する力を受ける。
また、流入部511a(ケース第2通路222)内の冷却媒体の圧力が、スチールボール520を、弁座512が開く方向に移動させる力として作用するように構成されている。
【0023】
スチールボール520は、流入部511a(ケース第2通路222)内の冷却媒体の圧力Tとリリーフスプリング540により発生する弾性力Fに対応する圧力設定値Tsに基づいて移動し、弁座51を開閉する。
すなわち、ケース第2通路222内の冷却媒体の圧力Tが圧力設定値Tsに達すると、スチールボール520および弁体支持部材530が、リリーフスプリング540により発生する弾性力に抗して、弁座512を開く方向(図4図6において、下方)に移動する。これにより、ケース第2通路222内の冷却媒体が、流入部511a、弁座512および排出部511bを介して排出され、ケース第2通路222内の冷却媒体の圧力Tが低下する。
流入部511a内(ケース第2通路222内)の冷却媒体の圧力Tが低下すると、リリーフスプリング540により発生する弾性力によって、スチールボール520および弁体支持部材530が、弁座512を閉じる方向(図4図6において、上方)に移動する。
【0024】
本実施形態では、リリーフ弁500の排出部511bの断面積S2は、流入部511aの断面積S1より小さく設定されている(S2<S1)。図5には、流入部511aの直径M1と、排出部511bの直径M2(<M1)が示されている。
なお、図7に、一般的なリリーフ弁600が示されている。リリーフ弁600の排出部611bの断面積s2は、流入部611aの断面積s1より小さく設定されている(s2<s1)。図6には、流入部611aの直径m1と、排出部611bの直径m2(>m1)が示されている。
この点については後述する。
【0025】
リリーフ弁500により、本発明の「圧力制御装置」が構成され、リリーフ弁通路511が、本発明の「排出通路」に対応し、弁座512が、本発明の「弁座」に対応し、スチールボール520が、本発明の「弁体」に対応し、リリーフスプリング540が、本発明の「第1の弾性力発生部」あるいは「圧力制御用弾性力発生部」に対応する。
【0026】
次に、本実施形態の冷却媒体噴射装置100を工作機械10に取り付ける動作の一例を、図2を参照して説明する。
本体部材110の後端側に、プルスタッド120が取り付けられる。例えば、プルスタッド120の外周面に形成されている雄ネジと、本体部材通路111を形成する本体部材内周面に形成されている雌ネジをネジ結合させる。プルスタッド120は、中心側に、軸方向に沿って延在し、両端が開口しているプルスタッド通路121を有している。プルスタッド120が本体部材110の後端側に取り付けられることによって、プルスタッド通路121と本体部材通路111が連通する。
プルスタッド120の後端側の部分を、工作機械10の主軸20の主軸内周面21により形成される主軸内側空間20a内に挿入する。そして、工作機械10側に設けられている引き込み部材30によりプルスタッド120を工作機械10側(後端側)に引き込む。主軸内周面21の先端側の主軸内周面部分21aは、内径が先端側から後端側に向かって小さくなるように傾斜しているテーパー面に形成されている。これにより、プルスタッド120が主軸内側空間20a内に引き込まれると、本体部材外周面部分112aと主軸内周面部分12aがテーパー嵌合し、本体部材外周面部分112a(シャンク部112)が主軸内周面部分21aにより挟持される。すなわち、本体部材110が主軸20に取り付けられる。
【0027】
また、本体部材110が後端側に移動することによって、カバー210も後端側に移動する。そして、カバー210に設けられている回り止めピン410の回り止めピン後端面412が、工作機械10側に設けられている嵌合孔41に嵌合すると、回り止めピン後端面412が嵌合孔41の壁面41aに当接する。これにより、回り止めピン410が、リリーフスプリング420により発生する弾性力に抗して、孔212内に挿入される方向(先端側)に移動する。
なお、回り止めピン410の回り止めピン後端面412が嵌合孔41に嵌合される(挿入される)ことによって、回り止めピン410が工作機械10に固定され、カバー210およびケース220の、本体部材110回り(中心線P回り)の回転が阻止される。
また、回り止めピン410が先端側に移動すると、回り止めピン410に固定されている回り止めレバー430も先端側に移動する。そして、本体部材110が主軸20に取り付けられた状態では、回り止めレバー430は、本体部材110の係合孔113との係合が解除される係合解除位置(図2に実線で示されている状態)に移動する。回り止めレバー430と係合孔113との係合が解除されると、本体部材110、本体部材110に連結されているアダプタ140およびポンプ300の回転部が、カバー210およびカバー210に固定されているケース220(支持部)に対して回転可能となる。
【0028】
このような状態において、主軸20が回転すると、本体部材110、アダプタ140およびノックピン150を介して主軸20に連結されている、ポンプ300の回転部が回転する。
ポンプ300の回転部が回転すると、主軸20から供給される冷却媒体が、プルスタッド通路121、本体部材通路111(フィルタ130を含む)、アダプタ通路141、リング部材通路251、ケース第1通路221を介して、ポンプ300の吸入部301に送られる。そして、ポンプ300によって圧力が高められた(増圧された)冷却媒体が、ポンプ300の吐出部302、ケース第2通路222、キャップ通路232、ノズル取り付け孔231を介してノズル通路241に送られ、噴射孔242から噴射される。
本実施形態では、カバー210は、工作機械10に固定され、ケース220は、カバー210に固定され、キャップ230は、ケース220に固定され、ノズル240は、キャップ230に取り付けられている。すなわち、ノズル240は、キャップ230、ケース220、カバー210を介して工作機械10に回転不能に固定される。このため、ノズル240の噴射孔242から噴射される冷却媒体は、従来技術のような噴射孔の回転による遠心力の影響を受けることがなく、所定箇所に集中的に噴射可能である。
冷却媒体に含まれている異物は、本体部材通路111に配置されているフィルタ130によって除去される。
【0029】
工具を用いてワークを加工する際の動作の一例を以下に説明する。以下では、工具を保持している複数の工具ホルダを収容可能なツールマガジンを備え、加工プログラムにより、ツールマガジンに収納されている複数の工具ホルダの中から選択した工具ホルダを主軸に取り付け、選択した工具ホルダに保持されている工具を用いてワークを加工する工作機械(「マシニングセンター」と呼ばれている)について説明する。なお、主軸20から、主軸20に取り付けられている工具ホルダに冷却媒体を供給可能に構成されている。
本実施形態の冷却媒体噴射装置100は、複数の工具ホルダとともにツールマガジンに収納される。
工作機械に、ワークを取り付ける。
ツールマガジンに収容されている工具ホルダの中から、加工に必要な工具を保持している工具ホルダを選択し、主軸20に取り付ける。主軸20に取り付けられた工具ホルダに保持されている工具を用いてワークを加工する。
ワークの加工を行った後、ツールマガジンに収容されている冷却媒体噴射装置100を使用可能な状態に設定する。詳しくは、冷却媒体噴射装置100の本体部材110を主軸20に取り付け、カバー210を工作機械10(主軸20を回転可能に支持する本体側)に固定する。これにより、主軸20から供給される冷却媒体を、ノズル240の噴射孔242から噴射可能な状態にすることができる。
そして、冷却媒体噴射装置100の本体部材110が取り付けられている主軸20の回転数を、冷却媒体噴射装置100のノズル240の噴射孔242から噴射される冷却媒体の圧力が切り屑やバリを除去可能な圧力となるように設定する。
そして、ノズル240の噴射孔242から、加工が終了したワークの、切り屑が残っている個所(あるいは、切り屑が残り易い箇所)やバリが発生している個所(あるいは、バリが発生し易い箇所)に冷却媒体を噴射させながら、冷却媒体噴射装置100(またはワーク)を移動させる。
以上のように、本実施形態の冷却媒体噴射装置100を用いることにより、加工後のワークに残っている切り屑や加工時に形成されたバリを、主軸20から供給される冷却媒体を簡素な構成で所定方向に集中的に噴射させて、また、作業員による除去作業を必要とすることなく、確実に除去することができる。
なお、冷却媒体噴射装置100を用いて切り屑やバリを除去する動作は、前記説明した動作に限定されない。
【0030】
前述したように、ポンプ300は、吸入部301から吸入した冷却媒体の圧力を、回転部の回転数に対応する圧力に高め、圧力を高めた冷却媒体を吐出部302から吐出する。また、リリーフ弁500は、ケース第2通路222(流入部511a)内の冷却媒体の圧力Tとリリーフスプリング540の弾性力Fに対応する圧力設定値Tsに基づいてスチールボール520により弁座512を開閉することによって、冷却媒体の圧力Tが圧力設定値Ts以上になるのを防止する。
ポンプ300の特性およびリリーフ弁500の圧力設定値Tsは、ワークの加工時に発生する切り屑やバリ等を除去可能な圧力を有する冷却媒体がノズル240の噴射孔242から噴射されるように設定される。
ここで、冷却媒体噴射装置100の使用にともなって、ポンプ300の性能低下やノズル240の噴射孔242の詰まり等が発生する。ポンプ300の性能が低下した場合や、ノズル240の噴射孔242が詰まった場合等には、冷却媒体噴射装置100(ポンプ300、ノズル240等)の点検、補修あるいは交換が必要となる。
【0031】
本実施形態では、ポンプ300の性能が低下している状態やノズル240の噴射孔242が詰まっている状態等を含む冷却媒体噴射装置100の状態を、簡単な構成で、容易に判別することができるように構成されている。
すなわち、一般的なリリーフ弁600では、図6に示されているように、排出部611bの断面積s2は、流入部611aの断面積s1より大きく設定されている(s2>s1)。
これに対して、本実施形態で用いているリリーフ弁500では、図5に示されているように、排出部511bの断面積S2は、流入部511aの断面積S1より小さく設定されている(S2<S1)。
また、ポンプ300は、ワークに残っている切り屑やバリを除去する際の所定回転数Nsにおいて、リリーフ弁500の圧力設定値Tsより高い所定値Trの冷却媒体を吐出する特性を有するように構成されている。
これにより、本実施形態では、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出状態を目視することによって、冷却媒体噴射装置100の状態を判別することができる。
【0032】
リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出状態を、図7図8を参照して説明する。
図7は、ポンプ300の吐出特性(「回転数ー吐出圧力特性」)と、リリーフ弁500の動作特性を示している。
なお、図7に示されているポンプ300の吐出特性は、噴射孔242の径が0.4mmであるノズル240が取り付けられ、リリーフ弁500が取り付けられていない状態のものである。図7に示されている吐出特性は、ノズル240の噴射孔242の径等に応じて変化する。
図8は、図4のVIII-VIII線断面図である。図8では、リリーフ弁500が、リリーフ弁500の排出部511bから冷却媒体が水平方向に排出されるように配置されている。前述したように、ケース220は、カバー210に対する、中心線P回りの位置を調整可能である。これにより、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出方向を、中心線P回りの任意の位置に調整することができる。
なお、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出方向は、排出部からの冷却媒体の排出状態(排出流量、排出速度、排出軌跡等)の変化を目視により判別することができればよい。例えば、冷却媒体の排出方向を、水平方向に対して斜め下方に設定することもできる。
「冷却媒体を排出部から水平方向に排出する」という記載は、「冷却媒体を、水平方向に対して斜め方向に排出する」構成を含む。
【0033】
本実施形態では、リリーフ弁500は、図7に示されている動作特性を有するように構成されている。
具体的には、リリーフ弁500は、流入部501a(ケース第2通路222)内の冷却媒体の圧力Tが圧力設定値Ts(=15MPa)以上になるのを防止する。リリーフ弁500の動作特性は、ワークに残っている切り屑やバリ等を除去することができる、冷却媒体の圧力に基づいて設定される。
また、ポンプ300は、図7に示されている吐出特性を有するように構成されている。
具体的には、ポンプ300の回転部が所定回転数Ns(=6000rpm)で回転する時に、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tが、リリーフ弁500の圧力設定値Tsより高い所定値Tr(=20MPa)となるように構成されている。
なお、圧力設定値Ts、所定回転数Nsおよび所定値Trは、適宜設定可能である。
【0034】
冷却媒体噴射装置100を用いてノズル240の噴射孔242から冷却媒体を噴射させる場合には、主軸20(ポンプ300の回転部)を所定回転数Nsで回転させる。
ポンプ300は、所定回転数Nsにおいて、圧力Tが所定値Tr(>Ts)を有する冷却媒体を吐出部302から吐出するように構成されている。このため、所定回転数Nsにおいて、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体(吐出圧力値Trに対応する流量Qr)は、ノズル240の噴射孔242から噴射される(流量Vn)とともに、リリーフ弁500の排出部511bから排出される(流量Vr=Qr-Vn)。
正常時には、リリーフ弁500の排出部511bから、図8(a)に示されている排出軌跡に沿って冷却媒体が排出される。
【0035】
ポンプ300の能力が低下した状態で、ポンプ300の回転部が所定回転数Nsで回転すると、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tが、所定値Trより低下する。例えば、図7に一点鎖線で示されている吐出特性となった場合には、ポンプ300の吐出部302から圧力値Tr1(<Tr)を有する冷却媒体が吐出される。この場合、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体(吐出圧力値Tr1に対応する流量Qr1)(Qr1<Qr)は、ノズル240の噴射孔242から噴射される(流量Vn)とともに、リリーフ弁500の排出部511bから排出される(流量Vr1=Qr1-Vn)(Vr1<Vr)。すなわち、リリーフ弁500の排出部511bから排出される冷却媒体の流量が減少する。
このように、本実施形態では、ポンプ300の性能が低下した場合には、リリーフ弁500の排出部511bから、図8(b)に示されている排出軌跡に沿って冷却媒体が排出される。すなわち、図8(b)に示されている排出軌跡は、図8(a)に示されている排出軌跡(正常時の排出軌跡)より、排出部511b側の位置(近い位置)で落下する放物線を描く。
このため、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出軌跡が、図8(a)に示されている排出軌跡から、図8(b)に示されている排出軌跡に変化したことを目視で判別することにより、ポンプ300の能力が低下している可能性があることを判別することができる。
【0036】
なお、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出軌跡は、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tが所定値Trから低下するにしたがって、図8(a)に示されている排出軌跡から図8(b)に示されている排出軌跡に連続的に変化する。このため、ポンプ300の吐出部302からの冷却媒体の排出軌跡を目視で判別することにより、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tが、所定値Trに対してどれくらい低下しているか、すなわち、ポンプ300の能力が正常時の能力に対してどれくらい低下しているかを判別することができる。
【0037】
ノズル240の噴射孔242が詰まった状態で、ポンプ300の回転部が所定回転数Nsで回転すると、ノズル240の噴射孔242から噴射される冷却媒体の流量が減少する。例えば、図7に二点鎖線で示されているように、ノズル240の噴射孔242から噴射される流量がVn2(<Vn)に減少する。
この場合、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体(吐出圧力値Trに対応する流量Qr)は、ノズル240の噴射孔242から噴射される(流量Vn2<Vn)とともに、リリーフ弁500の排出部511bから排出される(流量Vr2=Qr-Vn2)(Vr2>Vr)。すなわち、リリーフ弁500の排出部511bから排出される冷却媒体の流量が増加する。
ここで、ノズル240の噴射孔242が詰まった時における、排出部511bからの冷却媒体の排出状態は、吐出部502から吐出される冷却媒体の圧力Tが上昇した時(図7に、二点鎖線で示されている吐出特性)における、排出部511bからの冷却媒体の排出状態に対応する。図7に、二点鎖線で示されている吐出特性は、所定回転数Nsにおいて、吐出部502から吐出される冷却媒体の圧力Tが吐出圧力値Tr2(>Tr)であり、また、吐出圧力値Tr2に対応する流量Qr2(>Qr)の冷却媒体を吐出することを示している。
このように、本実施形態では、ノズル240の噴射孔242が詰まった場合には、リリーフ弁500の排出部511bから、図8(c)に示されている排出軌跡に沿って冷却媒体が排出される。すなわち、図8(c)に示されている排出軌跡は、図8(a)に示されている排出軌跡(正常時の排出軌跡)より、排出部511bと反対側の位置(遠い位置)で落下する放物線を描く。
このため、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出軌跡が、図8(a)に示されている排出軌跡から、図8(c)に示されている排出軌跡に変化したことを目視で判別することにより、ノズル240の噴射孔242が詰まっていること(ポンプ300から吐出される冷却媒体の圧力が上昇した)可能性があることを判別することができる。
すなわち、の冷却媒体の排出軌跡が、図8(a)に示されている排出軌跡から、図8(c)に示されている排出軌跡に変化したことを目視で判別することにより、ノズル240の噴射孔242が詰まっている可能性があることを判別することができる。
【0038】
なお、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出軌跡は、ノズル240の噴射孔242の詰まりの程度が進むにしたがって(ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tが所定値Trから上昇するにしたがって)、図8(a)に示されている排出軌跡から図8(c)に示されている排出軌跡に連続的に変化する。このため、ポンプ300の吐出部302からの冷却媒体の排出軌跡を目視で判別することにより、ノズル240の噴射孔242の詰まりの程度(ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tが、所定値Trに対してどれくらい上昇しているか)を判別することができる。
【0039】
リリーフ弁500の流入部の断面積S1および排出部511bの断面積S2、ポンプ300の吐出特性(所定回転数Nsにおける吐出圧力値Tr)を、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出状態(排出速度、排出量、排出軌跡等)の変化を目視で判別することができるように設定する方法としては、適宜の方法を用いることができる。
例えば、以下の方法を用いることができる。
作業員は、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出速度が、「所定速度」から「0」に変化したこと、また、「所定速度」から「所定速度の1.5~2倍以上の速度」に変化したことを、目視で容易に判別することができる。
ここで、図7に示されているように、ポンプ300からの冷却媒体の吐出圧力Tが圧力設定値Tsより低下すると、リリーフ弁500の排出部5111bから冷却媒体が排出されなくなる。すなわち、冷却媒体の排出速度が「0」になる。
また、ポンプ300の吐出部302から吐出される冷却媒体の圧力Tに対して下限値と上限値を定める。
そして、リリーフ弁500の流入部の断面積S1および排出部511bの断面積S2、ポンプ300の吐出特性(所定回転数Nsにおける吐出圧力値Tr)を、冷却媒体の吐出圧力Tが下限値に達すると、リリーフ弁500の排出部511bからの冷却媒体の排出速度が「0」となり、冷却媒体の吐出圧力Tが上限値に達すると、リリーフ弁600の排出部511bからの冷却媒体の排出速度が、正常時の排出速度の1.5~2倍以上となるように設定する。
これにより、リリーフ弁600の排出部511bからの冷却媒体の排出状態を目視することによって、少なくとも、吐出圧力Tが下限値に達したことおよび上限値に達したこと(ノズル240の噴射孔242が詰まっていること)を判別することができる。
【0040】
図6に示されている一般的なリリーフ弁600は、排出部611bの断面積s2が流入部(611a)の断面積s1より大きく設定(s2>s1)されているため、ポンプ300の吐出部302からの冷却媒体の吐出圧力が変化しても、リリーフ弁600の排出部611bからの冷却媒体の排出状態は殆ど変化しない。
このため、リリーフ弁600の排出部611bからの冷却媒体の排出状態の変化を目視で判別することができない。
【0041】
本発明は、実施形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
圧力制御装置は、ケース第2通路(第2通路内)の冷却媒体の圧力が圧力設定値より上昇するのを防止することができればよく、リリーフ弁に限定されない。
本体部を、別体の本体部材とアダプタにより構成したが、一つの部材で構成することもできる。また、本体部の形状や構成は、種々変更可能である。
支持部を、カバー、ケース、リング部材により構成したが、一つの部材で構成することもできる。また、支持部の形状や構成は、種々変更可能である。
リリーフ弁(圧力制御装置)の排出部からの冷却媒体の排出状態は、排出量、排出速度、排出軌跡に限定されない。
リリーフ弁(圧力制御装置)の排出部からの冷却媒体の排出状態の変化を目視により判別したが、目視以外の方法で判別することもできる。例えば、リリーフ弁(圧力制御装置)の排出部からの冷却媒体の排出状態を撮像する撮像手段と、撮像手段から出力される撮像情報に基づいて冷却媒体の排出状態の変化を判別する判別手段により構成される排出状態判別装置を用いて判別することもできる。
本体部が主軸に取り付けられた状態において、支持部が本体部回りに回転するのを阻止する機構は、工作機械側に設けられている嵌合孔(嵌合部)と、支持部に設けられ、嵌合孔(嵌合部)に嵌合可能なピン(嵌合部材)により構成される機構に限定されない。
本体部が主軸に取り付けられていない状態において、支持部に対する本体部の回転を阻止し、本体部が主軸に取り付けられた状態において、支持部に対する本体部の回転を許可する機構は、本体部に設けられている係合孔(係合部)と、支持部に設けられ、係合孔(係合部)に係合可能な回り止め部材(係合部材)により構成される機構に限定されない。
ポンプとしては、回転部、吸入部および吐出部を有する、公知の種々の構成のポンプを用いることができる。
本体部とポンプの回転部を連結する方法としては、種々の方法を用いることができる。
キャップの形状や構成は、種々変更可能である。
ノズルとしては、種々の構成のノズルを用いることができる。
フィルタとしては、公知の種々のフィルタを用いることができる。なお、フィルタは、省略することもできる。
回り止め装置としては、少なくとも、本体部を工作機械の主軸に取り付けてポンプの回転部を回転させる際に、保持部を工作機械に固定できればよく、種々の構成の回り止め装置を用いることができる。また、本体部を工作機械の主軸に取り付けた状態で、主軸の回転に連動してポンプの回転部を回転させることができれば、回り止め装置を省略することもできる。
支持部を回り止めする方法としては、種々の方法を用いることができる。
冷却媒体噴射装置の構成は、実施形態で説明した構成に限定されない。
実施形態で説明した構成は、単独で用いることもできるし、適宜選択した複数を組み合わせて用いることもできる。
本発明の冷却媒体噴射装置は、好適には、複数の工具ホルダを収容可能なツールマガジンを備える工作機械に用いられるが、これ以外の種々の構成の工作機械に用いることもできる。
【符号の説明】
【0042】
10 工作機械
20 工作機械の主軸
20a 主軸内側空間
21 主軸内周面
21a 主軸内周面部分
30 引き込み部材
40 固定部
41 嵌合孔(嵌合部)
41a 壁面
100 冷却媒体噴射装置
110 本体部材
111 本体部材通路
112 シャンク部
112a 本体部外周面部分
113 係合孔(係合部)
120 プルスタッド
121 プルスタッド通路
130 フィルタ
140 アダプタ(接続部材)
141 アダプタ通路(接続部材通路)
150 ノックピン
210 カバー
211 ベアリング(軸受け)
212 孔
212a 底面
220 ケース
221 ケース第1通路
222 ケース第2通路
230 キャップ
231 ノズル取り付け孔
232 キャップ通路
240 ノズル
241 ノズル通路
242 噴射孔
250 リング部材
251 リング部材通路
300 ポンプ
301 吸入部
302 吐出部
400 回り止め装置
410 回り止めピン
411 孔
411a 底面
412 回り止めピン後端面
420 スプリング(回り止め用弾性力発生部)
430 回り止めレバー
431 ナット
500、600 リリーフ弁(圧力制御装置)
510、610 リリーフ弁本体部
511、611 リリーフ弁通路(排出通路)
511a、611a 流入部
511b、611b 排出部
512、612 弁座
520、620 スチールボール(弁体)
530、630 弁体支持部材
540、640 リリーフスプリング(圧力制御用弾性力発生部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8