(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026992
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】水素を用いたミトコンドリア製剤、及び白色脂肪細胞や幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞を含む細胞の代謝および機能改善方法。
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20230221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230221BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230221BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230221BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230221BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20230221BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230221BHJP
A61K 35/19 20150101ALI20230221BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P43/00 107
A61P3/10
A61P3/06
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P3/00
A61K35/28
A61K35/30
A61K35/17 A
A61K35/19
A61P7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021151575
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】515014222
【氏名又は名称】H2bank株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石橋 徹
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA03
4C087AA04
4C087BB37
4C087BB38
4C087BB44
4C087BB45
4C087BB63
4C087BB64
4C087CA04
4C087DA32
4C087MA16
4C087MA52
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZA36
4C087ZA45
4C087ZA54
4C087ZB22
4C087ZB26
4C087ZC21
4C087ZC33
4C087ZC35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】機能を増強した治療用ミトコンドリア(製剤)、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ダメージを受けた細胞、機能不全に陥った細胞、あるいは老化した細胞などを回復させるために、ミトコンドリアの細胞間移動あるいは細胞外ミトコンドリアの取り込みによって受容細胞のミトコンドリア機能を改善させる場合において、水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、又は水素分子を含む水を作用させることによって、治療用ミトコンドリアの機能を向上させるものであり、また、治療用ミトコンドリア製剤の調整においても上記のように水素を作用させることによって、ミトコンドリア製剤の機能を向上させ、白色脂肪細胞の褐色化や、免疫細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞などのエネルギー代謝を改善し、細胞機能を向上させるための方法を与える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素によって機能を増強した治療用ミトコンドリア(製剤)。水素を作用させたミトコンドリアあるいは、水素を作用させた細胞に含まれるミトコンドリア粒子そのもの、あるいはrespiratory complexやmitochondrial DNA(ミトコンドリアDNA結合タンパク質などを含む構造体)など、ミトコンドリアの構成成分を含む。例えばミトコンドリア(mitochondria)のdonor cellすなわち、ミトコンドリアを他の細胞にtransferできる能力を高く強くした細胞であって、それらには水素によるアンカップリング作用あるいは電子伝達系における整流作用によってミトコンドリア機能を強化あるいは活性化した脂肪細胞や幹細胞、血液中の細胞、血管内皮細胞などの細胞が含まれる。
【請求項2】
生細胞存在下、水素を用いて細胞外でミトコンドリアを増殖させる、あるいは、水素を用い、死滅した細胞あるいは細胞成分存在下でミトコンドリアを増殖させて、細胞の正常化あるいは賦活化のために用いるミトコンドリア製剤を与える方法。
【請求項3】
細胞から抽出、血液中から抽出、あるいは培養細胞培養液から抽出、あるいは上記[請求項1―2]の方法にて調整あるいは培養したミトコンドリア製剤から水分を取り除き、あるいはトレハロースなどの保水性物質とわずかの水分子を含むミトコンドリア含有成分からなる細胞賦活剤であって、飲用、血液注射、皮下や筋肉内注射などによって、あるいはカテーテルにて血管から目的組織に直接投与することによって、あるいは脳・脊髄内、あるいはくも膜下や硬膜下に投与することによって、あるいは気道への噴霧などによって、気道粘膜あるいは肺胞などから吸収させることにより、細胞賦活化を目的とした、あるいはがん細胞への抗がん剤の効果を高めるためのミトコンドリア製剤。
【請求項4】
上記[請求項1―3]を目的とし、対象とする細胞の培養あるいは調整において、水素を含む、酸素、二酸化炭素と窒素などの含有比率を変えた混合ガスを複数種類用いて、細胞の選択淘汰を繰り返すことで、生体内環境におけるnormoxiaあるいはhypoxia条件において、優れたfunctional mitochondriaに富んだ、mitochondria-donor能力を示す細胞を調整する方法を用いて、脂肪組織あるいは骨髄由来を含む間葉系幹細胞、神経細胞、あるは単球あるいはマクロファージあるいはリンパ球をなどの白血球、血小板を、これらの細胞を用いたbiotherapyに適した細胞へと、その能力を向上させ、治療に用いる方法。
【請求項5】
上記[請求項1―4]を目的とし、Soluble cytosolic-hydrogenaseあるいは(O2-sensitive or O2-resistant)membrane bound hydrogenaseを、人を含めた哺乳類あるいは植物の細胞に発現させ、水素存在下あるいは嫌気的環境にて培養し、培養液あるいは細胞からミトコンドリアを抽出し、ミトコンドリア製剤として用いる方法。
【請求項6】
上記[請求項1―5]に記載の方法を用いてあるいはそれらに加えて、ミトコンドリアの(supercomplexを含む)respiratory complexあるいは、膜分画、あるいはDNA(mitochondrial DNA)のそれぞれあるいは混合物をミトコンドリア製剤として、細胞賦活化材として、老化した細胞や機能不全に陥った細胞などを賦活化し、正常化させる方法。例えば、老化細胞(senescent cell)をsenolysis、あるいはreprogramさせる方法を与える。
【請求項7】
上記[請求項1―6]に記載の方法において、ミトコンドリア製剤などを調整する過程のみならず、水素ガスの存在下、あるいは水素分子溶存液の存在下に、ミトコンドリア製剤などを細胞や生体に作用させる方法。
【請求項8】
上記[請求項1―7]に記載の方法を、脂肪細胞に対して作用させ、例えば脂質を細胞内に貯蔵する白色脂肪細胞を、ミトコンドリアにおけるアンカップリング作用で膜電位を下げることによってATP産生よりも熱を産生させる褐色あるいはベージュ化脂肪細胞に変化させ、メタボリックシンドロームなどの状態を改善させるために(白色脂肪細胞の褐色化のために)用いる方法。脂肪細胞代謝活性化物質として水素ガス又は水素ガスを含む混合ガスからなる分子を用いることを特徴とする。例えば摘出した白色脂肪細胞を、本発明の方法によって褐色化あるいはベージュ化させた上で生体内に戻し、個体全体のエネルギー代謝を改善し、糖尿病や高脂血症、動脈硬化、心臓血管障害を改善させる生活習慣病改善策を与える。上記[請求項1―7]方法を用いることによって、生体の脂質代謝を改善させ、COVID19など、脂質代謝や血管内皮細胞、血液凝固系の異常が増悪因子となる疾病に対する重症化予防方法を与える。
【請求項9】
水素分子を含む水からなることを特徴とする脂肪細胞における脂質酸化あるいは脂質合成を促進する代謝活性化物質。
【請求項10】
上記[請求項1―9]において、水素分子の作用によってキノン類を、respiratory complex I-III、特にそれらの複合体からなるsupercomplexおよび、ミトコンドリア内膜のキノン類プールへの取り込みを強化し、電子伝達系を強化したミトコンドリアを含む。同様にrespiratory complex III-IVにおけるシトクロムCやFe-S(鉄-硫黄)クラスターを還元状態にすることによって電子伝達系を強化したミトコンドリアを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダメージを受けた細胞、機能不全に陥った細胞、あるいは老化した細胞などを回復させるために、ミトコンドリアの細胞間移動あるいは細胞外ミトコンドリアの取り込みによって受容細胞のミトコンドリア機能を改善させる場合において、水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、又は水素分子を含む水を作用させることによって、治療用ミトコンドリアの機能を向上させるものであり、また、治療用ミトコンドリア製剤の調整においても上記のように水素を作用させることによって、ミトコンドリア製剤の機能を向上させ、白色脂肪細胞の褐色化や、免疫細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞などのエネルギー代謝を改善し、細胞機能を向上させるための方法を与える。
【背景技術】
【0002】
2019-2020年の論文報告によって(例えば、非特許文献1、2)、水素分子は、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝を適正化することによって、老化や慢性炎症などにおける、あるいはそれらを促進する不適切な活性酸素種の発生を抑制することが明らかとなってきた。
ガス状分子である水素を摂取する方法としては、水などの生体適応液に水素分子を含有させて飲むことが一般的であるが、他にも、水素分子含有気体の吸引や、水素分子含有液体を用いて直接的に電子あるいはプロトン供与を可能とする点滴や経皮吸収などの方法がある。
【0003】
水素による生命機能改善作用は、近年ますます注目され、特にヒトおよびペットの健康に不可欠となりつつあり、COVID19のパンデミックにおいても、例えば水素ガスの吸引による病態の改善に用いられつつある(例えば、非特許文献3、4)。
【0004】
一方例えば、各種創傷や変性疾患に対して、間葉系幹細胞や、血小板由来の成分(PRPを含む)が機能を発揮する際に、ミトコンドリアが重要な役割を果たし、ミトコンドリア自体あるいはミトコンドリアDNAが、治療対象となる細胞のエネルギー代謝を改善することによって、その治療効果を発揮することが明らかになりつつある。
本発明では、治療用のミトコンドリアを、水素存在下に強化あるいは変化させることによって、これらの治療効果を増強させるものである。これは、すでに出願中の特許における水素のミトコンドリア活性化機能を、さらにミトコンドリア移植に応用するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Current Pharmaceutical Design,2019,25,946-955
【非特許文献2】Biochemical and biophysical Research Communications,2020,522,965-970
【非特許文献3】Vascular Health and Risk Management,2014,10,591-597
【非特許文献4】Current Pharmaceutical Design,2013,19,6375-6381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題と解決手段、発明の効果】
【0006】
本発明は、医学・医療・健康産業・農業・畜産・水産業の各分野において、水素分子が生命代謝および機能を改善させるための、ミトコンドリアの機能改善を図り、脂肪組織あるいは骨髄由来を含む間葉系幹細胞、神経細胞、あるは単球あるいはマクロファージあるいはリンパ球をなどの白血球、血小板を、これらの細胞を用いたbiotherapyに適した細胞へと、血管内皮細胞改善方法及び脂肪細胞など細胞の代謝改善方法を与えることを目的とするものである。
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水素が、ミトコンドリアにおける電子伝達における電子およびプロトンに対する整流作用と、それに付随するミトコンドリア内膜を隔てたマトリックスとミトコンドリア内膜外との電位差を変化させることによって、活性酸素発生量を調整し、細胞代謝を改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
水素分子は非常に安定で、分子は生体内の通常の状態では解離しないが、本発明者等が見いだしたところによれば、特にミトコンドリアのcomplex IとIIIにおいて、水素分子が電子とプロトンに解離することによって、逆流あるいは停滞することによって活性酸素の発生源となっている電子の流れに整流作用を与えるものである。また、水素によるミトコンドリアの電子の流れの整流作用は、活性酸素の発生自体を抑制する結果として、生体の血管内皮細胞機能を改善することが分かった。
【0009】
上記水素の生体内機能については、ミトコンドリアのハイドロゲナーゼ活性が起動されたことによるとも考えられること、ミトコンドリアにおいて電子の運搬を行うキノンおよびキノール及び、中間体のセミキノンが、水素分子存在下に電子あるいはプロトンの授受を介して、細胞内全体への酸化還元状態に影響を与え、代謝を適正化させ、その結果、例えばCOVID-19によって引き起こされるcytokine stormと呼ばれる命にかかわる危険な過剰炎症を鎮静化させることが期待され、本発明を完成するに至った。本発明の水素分子によるミトコンドリアの電子伝達系における水素分子の整流作用、ハイドロゲナーゼ活性の亢進作用、血液凝固の改善作用およびそれを利用した血管内皮細胞機能改善剤、血液凝固改善剤、脂肪代謝改善剤、白色脂肪細胞の褐色化あるいはベージュ化剤、装置は、従来説明されてきた水素分子による活性酸素種のスカベンジャーとしての機能では説明することができない、ミトコンドリアにおけるキノン類の酸化還元反応とミトコンドリア膜電位調整作用、有害レベル活性酸素発生抑制作用を介した新たな作用・用途である。
【0010】
本発明とその背景となる新規知見は、水素摂取による生体作用をより明快に解明でき、新たな水素の摂取方法などに寄与することができる。さらに重要なことは、これにより、これまで細胞外からのコントロールが困難であったミトコンドリアが担う電子伝達機能という生命のエネルギー代謝の根源をなす部分について、その病的状態を健全化するための創薬にも役立つので、その産業上の有効性は計り知れない。
【0011】
[請求項1-11]の水素分子が持つ生体内特性を活かした方法を用いることによって、脂肪滴など資質を蓄えた白色脂肪細胞を、褐色あるいはベージュ脂肪細胞に変換あるいは分化させ、例えば摘出した白色脂肪細胞を褐色化あるいはベージュ化させた上で生体内に戻し、個体全体のエネルギー代謝を改善し、老化、糖尿病や高脂血症、動脈硬化、心臓血管障害などに対する改善策とする方法を、その重症化のリスクとなるCOVID-19感染症に対する予防および重症化阻止、あるいは治療法として与える応用は、2020年現在極めて重要である。
【0012】
すなわち、[請求項1-11]の水素分子が持つ生体内特性を活かした方法をもたらす水素分子を摂取することによって、老化、糖尿病や高脂血症、動脈硬化、心臓血管障害などに対して、その個体全体のエネルギー代謝を改善するための根拠を与える本発明は、副作用のない医療あるいは健康増進方法として、極めて有効であり、特に、代謝障害、血管内皮機能不全状態にあるリスクの高い人々に危険な過剰炎症状態を引き起こし、生命予後を増悪させるCOVID-19感染が引き起こす重症化を予防し、あるいは炎症状態と相互関連するACE2レセプターを介した感染確立への抑制作用などが期待され、今後も流行しうる代謝状態の弱者を重症化させる感染症対策にとって基本的な情報を与えるものであり、健康上の利点のみならず、その公衆衛生状、医療対策上、そして医療および健康維持産業上の有効性は計り知れない。