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特開2023-27020成人T細胞白血病細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を導入したキメラ抗原受容体を含むナチュラルキラー細胞
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  • 特開-成人T細胞白血病細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を導入したキメラ抗原受容体を含むナチュラルキラー細胞 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027020
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】成人T細胞白血病細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を導入したキメラ抗原受容体を含むナチュラルキラー細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230221BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230221BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230221BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230221BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230221BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C07K16/30
C07K19/00
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128961
(22)【出願日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2021132120
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・小松克己氏および栗田英昭氏の両名へのメール送信 メールの送信日 令和4年7月19日 公開者 隅田 泰生
(71)【出願人】
【識別番号】307011381
【氏名又は名称】株式会社スディックスバイオテック
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】隅田 泰生
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4H045AA11
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】成人T細胞白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染により起こる白血病である。HTLV-1保因者の5%程度が30~50年の潜伏期間を経てATLを発症する。一旦発症すると、5年生存率が10%以下の極めて予後の悪い血液がんである。日本のHTLV-1保因者は、南九州を中心に全国で約108万人と推定され、毎年約1千人の患者が死亡している。標準的な治療法は未だに確立されておらず、新たな治療法の確立が求められている。
【解決手段】独自の糖鎖ナノテクノロジーとファージディスプレイ法を組み合わせて開発したATL細胞特異的に結合する一本鎖抗体の遺伝子を、キメラ抗原受容体の一部として遺伝子導入したナチュラルキラー細胞を製造し、その方法も確立した。この細胞は遺伝子導入していないナチュラルキラー細胞では排除できないATL細胞を効率よく死滅させ、ATLの免疫細胞療法に利用できる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成人T細胞白血病細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したキメラ抗原受容体を含む、ナチュラルキラー細胞。
【請求項2】
前記一本鎖抗体は、成人T細胞白血病細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体である、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項3】
前記キメラ抗原受容体は、
(a)イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド、
(b)C末端にMyc-tagを有する、成人T細胞白血病細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、
(c)CD28由来ヒンジ及び膜貫通タンパク質ドメイン、
(d)シグナル伝達のための4-1BB細胞内タンパク質ドメイン、および、
(e)シグナル伝達のためのCD3ζT細胞受容体ドメイン、
を含み、かつ、前記(a)~(e)が、N末端からC末端にかけて、この順に発現するキメラ抗原受容体である、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項4】
配列番号7、8または9として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、キメラ抗原受容体。
【請求項5】
請求項4に記載のキメラ抗原受容体をコードする、配列番号10、11または12として示される塩基配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成人T細胞白血病細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を導入したキメラ抗原受容体および当該キメラ抗原受容体を導入したナチュラルキラー細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は、生体内に普遍的に存在する生体分子で、糖タンパク質や糖脂質、プロテオグリカンのような複合糖質の形で存在する。細胞表層の糖鎖は、糖鎖-タンパク質間や糖鎖-糖鎖同士の相互作用を介して、細胞接着や情報伝達、ウイルスや細菌の感染などに関与し、生体内で極めて多様な生理機能を担う。
【0003】
糖鎖の構造や発現量は、炎症や疾患などの細胞内外の環境変化に応じて、動的に変化することが知られている。細胞のがん化においては、特定の糖鎖の過剰発現や欠損が起きたり、一部が欠損した不完全な構造の糖鎖が出現したりすることがある。また、正常細胞には存在しない糖鎖構造が発現することもあり、がんの進展に伴って、様々な糖鎖の発現変化が起こることが知られている。したがって、がんの進行度や転移性、患者の予後などが予測できると期待されており、疾患特異的に発現する糖鎖をバイオマーカーに利用するための研究が活発に行われている。
【0004】
疾患特異的な糖鎖は、がんマーカーとしての利用だけでなく、分子標的薬開発のための標的分子としても利用されている。疾患特異的な糖鎖に対する分子標的薬は、新たな診断薬や医薬品の開発にも繋がることから、近年盛んに研究されている。一方、抗糖鎖抗体の作製においては、(i)疾患特異的な糖鎖構造の同定が非常に難しいこと、(ii)糖鎖の抗原性が低く、実験動物に免疫してハイブリドーマを得る従来の手法では抗体の作製が難しいこと、(iii)糖鎖の抗原性を向上させるために、糖脂質への誘導や抗原性タンパク質との複合化などが必要なことなど、技術的に様々な課題があり、簡便且つ効率的に特異性の高い抗糖鎖抗体を作製可能な新たな手法の確立が求められている。
【0005】
一本鎖抗体(scFv)は、抗体の抗原結合部位を含む領域であるFabの重鎖(VH)と軽鎖(VL)から構成される抗体の一種であり、リンカーペプチドによりVHとVL同士がつながった構造を持つ。目的のscFvを探索・単離する有効な手法としてファージディスプレイ法があり、ウイルスの一種であるバクテリオファージ表面にscFvを提示させ、多数のライブラリーの中から特定の抗原に結合するscFv提示ファージを効率的に選別・濃縮することが出来る。得られたscFv提示ファージは、大腸菌のタンパク質発現系を用いて、可溶性のscFvを発現させることができ、産生されたscFvは、ヒスチジンタグ(Hisタグ)等のエピトープタグを用いたアフィニティー精製により、簡便に精製することが出来る。さらには、IgG抗体へと誘導出来るため、特異性の高いヒト由来抗体を作製する技術として大きな注目を集めている。
【0006】
発明者は、効率的に疾患特異的な糖鎖に対する抗体を得る手法を確立するために、ファージライブラリー法と独自のシュガーチップ技術(特許文献1、2、非特許文献1、2)を用いて、成人T細胞白血病(ATL)に対する抗糖鎖抗体の開発を行ってきた。即ち、ATL患者より樹立した細胞株であるS1T細胞表層のO-型糖鎖を遊離させ、独自のリンカー化合物と複合化後、ファイバー型シュガーチップを作製し、S1T細胞表層のO-型糖鎖に結合するscFv提示ファージを選別することで、ATL細胞に強く結合するscFv(S1TSCFR3-1)を得ることに成功している(特許文献3、非特許文献3)。
【0007】
しかし、大腸菌のタンパク質発現系を用いてファージミドからscFvを調製すると、約1ヶ月後には、細胞への結合性を観察できなくなるため、構造安定性に欠けることが課題であった。また、S1TSCFR3-1が結合する糖鎖の構造を、有機化学的に合成されたO-型糖鎖部分二糖構造のライブラリーを固定化したシュガーチップを用いて解析したところ、高硫酸化されたグリコサミノグリカン(GAG)鎖の複数の構造に結合性を示し、その特異性が十分に高くないことも課題であった。
【0008】
一方、scFvのわずかな立体構造の変化(立体構造のゆらぎ)により、抗原結合部位となる相補性決定領域(CDR)の立体構造がゆらぐため、糖鎖への特異性が低下することが考えられた。したがって、これらを改善することで、scFvの安定性と糖鎖特異性を改善できると考えた。
【0009】
そこで、scFvの安定性を改善するために、pET発現システムを用いた遺伝子組み換えにより、エピトープタグの一部であるMycエピトープタグの一部を除去したscFvを調製した。また、バイオインフォマティクスにより、抗原結合部位となるCDRのアミノ酸配列は改変せず、構造安定性に寄与するフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を改変したscFvを設計し、遺伝子組み換えと大腸菌による発現システムを使用して、安定性を向上させたscFvを製造することができた(特許文献4)。
【0010】
成人T細胞白血病(以下「ATL」という。)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(以下「HTLV-1」という。)が起因する白血病である。潜伏期間は30~50年で、HTLV-1保因者の生涯発症率は2.5~5%程度だが、一旦発症すると、5年生存率が約10%と極めて予後の悪い血液がんである。
【0011】
日本のHTLV-1保因者は、南九州を中心に全国で約108万人と推定され、毎年約1千人の患者が死亡する。ATLの治療では、同種造血幹細胞移植や複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が中心に行われる。しかし、同種造血幹細胞移植は、50歳以下の体力のある患者に制限される。体力の衰えた患者にはミニ移植が行われるが、再発率が高い。化学療法においても治療抵抗性を示すことが多く、一旦症状が改善しても再発率が非常に高いため、薬物療法のみでは長期生存が難しい。したがって、新たな有効な治療法の開発が求められている。
【0012】
ATL、皮膚T細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、ホジキンリンパ腫または、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫といった膜タンパク質のCCR4のmRNAを産生する悪性腫瘍を有する対象を処置するための方法として、抗CCR4一本鎖抗体をキメラ抗原受容体(以下「CAR」という)の一部として担持させたT細胞(以下「CAR-T」という)が報告されている(特許文献5)。また、血液悪性腫瘍に対するCARの構成およびその使用方法として、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、およびCD52抗原に対する抗原認識ドメインを有するキメラ抗原レセプターポリペプチドを担持させたCAR-T細胞およびCAR-ナチュラルキラー(以下「NK」という)細胞が報告されている(特許文献6)。
【0013】
日本では、2019年にCAR-T細胞療法が臨床承認され、再発又は難治性B細胞性急性リンパ芽球性白血病を対象とした治療が行われている。
【0014】
CAR-T細胞療法では、T細胞の活性化に伴うサイトカイン放出症候群や、異なるドナー由来のT細胞を用いた場合に移植対片宿主病を引き起こすことが課題である(非特許文献4、非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4802309号
【特許文献2】特許第5278992号
【特許文献3】特開2014-100116
【特許文献4】特開2019-199472
【特許文献5】特表2019-536469
【特許文献6】特開2021-78514
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Wakao M.,et al.,Bioorg.Med.Chem. Lett.18:2499-2504(2008)
【非特許文献2】Wakao M.,et al.,Anal.Chem.17:1086-1091(2017)
【非特許文献3】Muchima K.,et al.,J.Biochem.163:281-291(2018)
【非特許文献4】Katsuya H.,et al.,Blood.126:2570-2577(2015)
【非特許文献5】Oelsner S.,et al.,Cytotherapy. 19:235-249(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のような状況にあって、本発明の一実施形態は、ATL細胞に対する優れた特異性を有し、かつ、安全性の高い免疫細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
免疫細胞の一種であるNK細胞は、T細胞と異なり、活性化に伴う炎症性サイトカインの放出がほぼなく、炎症性サイトカインによって起こるサイトカイン放出症候群を引き起こしにくい。また、異なるドナー由来のNK細胞またはNK細胞に由来する細胞株を治療時に摂取した場合であっても、移植対片宿主病を引き起こさない。そのため、CARを導入したNK(以下「CAR-NK」という。)細胞を用いれば、CAR-T細胞療法で問題となるサイトカイン放出症候群といった副反応を誘発せずに、安全性の高い免疫細胞療法を提供することが期待できる。
【0019】
したがって、本発明の一実施形態は、ATL細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したキメラ抗原受容体および当該キメラ抗原受容体を含むナチュラルキラー細胞に関する。
【0020】
また、本発明の一実施形態は、配列番号7、8または9として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、キメラ抗原受容体に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞によれば、(I)ATL細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したCARを含むため、ATL細胞に対する優れた特異性を有し、かつ、(II)前記CARが、NK細胞に導入されているため、CAR-T細胞療法で問題となる、移植対片宿主病、および、サイトカイン放出症候群といった、臓器不全や死に至ることもある副反応を誘発せずに、直接腫瘍細胞を排除できる、安全性が高いCAR-NK細胞を提供できる。このような特異性および安全性に優れる免疫細胞である、本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞は、ATLの免疫細胞療法に好適に利用できると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】NK-92 MI細胞に導入するCAR遺伝子の概略図である(SFFV: spleen focus-forming virus由来プロモーター領域、 SP: CD8-leader シグナルペプチド、S1TSCFR3-1: scFv、 L: リンカー部、 M: Myc-tag、 CD28h: ヒンジ領域、CD28 TM: 膜貫通タンパク質ドメイン、4-1BB: 細胞内タンパク質ドメイン、CD3ζ: T細胞受容体ドメイン、CMV: cytomegarovirus由来プロモーター領域、EGFP: 蛍光性タンパク質)。
図2】NK-92 MI細胞に導入する3種のCARタンパク質の概略図である。
図3】NK-92 MI細胞およびS1TSCFR3-1を導入したCARを含むNK-92 MI細胞(FR3-1-CAR-NK-92 MI細胞)のS1T細胞に対する細胞傷害性の検証結果を示す図である(エフェクター細胞:NK-92 MI細胞もしくはFR3-1-CAR-NK-92 MI細胞、ターゲット細胞:S1T細胞)。
図4】急性期のATL患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)に対するscFv(S1TSCFR3-1)の結合活性についての検討結果を示す図である。
図5】ATL患者由来のPBMCに対する、本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞の細胞傷害性の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係るNK細胞(以下、「本NK細胞」という)は、成人T細胞白血病(ATL)細胞に特異的に結合するscFvを抗原認識部位として導入した(有する)CARを含む、NK細胞である。本NK細胞は、CARを導入したNK細胞(CAR-NK)であるとも言える。
【0024】
CARは、抗原を特異的に認識する抗体の抗原認識部位とT細胞受容体(TCR)の細胞内ドメインから構成され、抗原の認識により、強力な免疫応答を誘導するため、免疫細胞療法に導入されている。
【0025】
本NK細胞は、上記のように、ATL細胞に特異的に結合するscFvを抗原認識部位として導入したCARを含むため、ATL細胞に対して、特異的かつ強力な免疫応答が誘導される。その結果、本NK細胞は、ATL細胞に対して強い細胞傷害性を発揮できるため、ATLの免疫細胞療法に好適に利用できると期待できる。
【0026】
本NK細胞が含むCARを構成するscFvは、ATL細胞に特異的に結合できる限り特に限定されないが、ATL細胞に対する特異性に優れ、健常細胞に対する細胞障害性が低いことから、ATL細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合するscFvであることが好ましい。
【0027】
ATL細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合するscFvとしては、本発明者らが開発した、ATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合する(抗原とする)scFvを好適に利用することができる。より具体的に、本NK細胞が含むCARに導入されるscFvは、以下のいずれかであることが好ましい:
(1)配列番号1、2または3に示されるアミノ酸配列からなるscFv。
(2)配列番号1、2または3に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(3)配列番号1、2または3に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(4)配列番号4、5または6に示される塩基配列にコードされるscFv。
(5)配列番号4、5または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるscFvであって、かつATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(6)配列番号4、5または6に示される塩基配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるscFvであって、かつATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(7)配列番号4、5または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるscFvであって、かつATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
【0028】
(1)に関して、配列番号1、2または3で示されるアミノ酸配列は、本発明者らによって特定された、ATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合する3種類のscFvのアミノ酸配列である。配列番号1はS1TSCFR3-1のアミノ酸配列に、配列番号2はTM-2のアミノ酸配列に、配列番号3はTM-5のアミノ酸配列に、それぞれ対応する。(2)および(3)は、(1)のバリアントを表している。(4)は、対応する塩基配列により特定された、ATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv(S1TSCFR3-1、TM-2またはTM-5)である。(a)~(7)は、(4)のバリアントの塩基配列により特定された、ATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFvである。
【0029】
前記(2)に関して、アミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加される数の上限は、例えば、25個、20個、15個、10個、5個、3個、2個または1個でありうる。
【0030】
前記(3)に関して、アミノ酸配列の同一性は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%である。なお、アミノ酸配列の同一性は、例えば、BLASTXを利用して決定することができる。
【0031】
前記(5)に関して、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、6×SSCの塩濃度のハイブリダイゼーション溶液中、50~60℃にて16時間ハイブリダイゼーションを行い、0.1×SSCの塩濃度の溶液中で洗浄した後に、ハイブリダイズする条件を言う。
【0032】
前記(6)に関して、塩基配列の同一性は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%である。
【0033】
前記(7)に関して、塩基が置換、欠失、挿入および/または付加される数の上限は、例えば、75個、50個、37個、25個、15個、10個、8個、5個、3個、2個または1個でありうる。
【0034】
本発明の一実施形態において、ATL細胞特異的な結合性を有するscFvを抗原認識部位に有するCARを導入するNK細胞としては、特に限定されず、患者由来NK細胞、または、NK細胞の細胞株である、NK-92 MI細胞、NK-92細胞、もしくは、KHYG-1細胞などにも導入可能である。中でも、安定して安価に培養が可能であることから、NK細胞としては、細胞株を使用することが好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態において、CAR遺伝子をNK細胞に導入する方法は特に限定されないが、例えば、非増殖性ウイルスベクター(レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなど)、増殖性ウイルスベクター(腫瘍溶解性ウイルスベクターなど)、非ウイルスベクター(プラスミド、Naked DNAを内包するリポソームなど)、または、バクテリアベクター等のCAR遺伝子を有する各種のベクターを用いて導入することができる。
【0036】
以下、本発明の一実施形態に係るCAR(「本CAR」ともいう)および本NK細胞の一例について、図1および図2を用いてより具体的に説明するが、本CARおよび本NK細胞は、係る態様に限定されるものではない。
【0037】
図1は、設計した、CARコンストラクト遺伝子の概略図を、scFvがS1TSCFR3-1である場合について示すものであり、図2は発現するCARタンパク質の概略図である。
【0038】
設計したCARコンストラクトは、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド-抗原認識部位(scFv)-リンカー部-ヒンジ領域-膜貫通タンパク質ドメイン-細胞内タンパク質ドメイン-T細胞受容体ドメインから構成される。イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドは、細胞内で発現したCARを細胞表層に輸送するシグナルペプチドであり、例えば、CD8-leaderタンパク質を用いることができる。
【0039】
抗原認識部位には、ATL細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を、好ましくは、本発明者らが開発した、ATL細胞表層の糖鎖を抗原とするscFv(S1TSCFR3-1、TM-2またはTM-5)を用いることができる。また、このscFv領域には、CARの検出を容易にするため、エピトープタグの一つであるMyc-tagを連結させてもよい。
【0040】
ヒンジ領域、膜貫通タンパク質ドメインにはCD28タンパク質を用いることができ、膜貫通タンパク質ドメインには4-1BBシグナル伝達タンパク質を用いることができる。また、T細胞受容体ドメインには、CD3ζタンパク質を用いることができる。また、設計したCARは、SFFV(spleen focus-forming virus)プロモーターを転写開始領域にもつ。
【0041】
本発明の一実施形態に係るキメラ抗原受容体としては、以下の配列番号7、8または9に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むキメラ抗原受容体を好適に使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態において、以下の配列番号7、8または9に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むキメラ抗原受容体を提供する。
【0042】
MALPVTALLLPLALLLHAARPMAEVQLLQSGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFDDYAMHWVRQAPGKGLEWVSGISWNGGNIDYADSVRGRFTISRDNAKNSLYLQMDSLRAEDTALYYCAKAPGMLIYYSYMDVWGKGTMVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQPVLTQPPSVSVSPGQTARITCSGDRLPRQYVYWYQQKPGQAPVLLIYKDIERPSGIPERFSGSTSGTTVTLTINGVQAEDEADYSCQSADSSETYPVFGGGTKVTVLGAAAGGEQKLISEEDLIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号7)。
【0043】
配列番号7で示される配列中、(a)1~21位の配列は、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドである、CD8-Leaderのアミノ酸配列に対応し、(b)22~269位の配列は、ATL細胞特異的な結合性を有するscFv(S1TSCFR3-1)のアミノ酸配列に対応し、270~274位の配列はリンカー部に対応し、275~284位の配列は、Myc-tagのアミノ酸配列に対応し、(c)285~324位の配列は、CD28由来のヒンジのアミノ酸配列に、325~351位の配列は、CD28由来膜貫通タンパク質ドメインのアミノ酸配列にそれぞれ対応し、(d)352~393位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列に対応し、(e)394~504位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列に対応する。
【0044】
MALPVTALLLPLALLLHAARPGSMAEVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFDDYAMHWVRQAPGKGLEWVSAISWNGGNIDYADSVRGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKAPGMLIYYSYMDVWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQPVLTQPPSVSVAPGQTARITCSGDRLPRQYVHWYQQKPGQAPVLVIYKDIERPSGIPERFSGSNSGNTATLTISGVEAGDEADYYCQSADSSETYPVFGGGTKLTVLGAAATGEQKLISEEDLIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号8)。
【0045】
配列番号8で示される配列中、(a)1~21位の配列は、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドである、CD8-Leaderのアミノ酸配列に対応し、22~23位の配列はリンカー部に対応し、(b)24~271位の配列は、ATL細胞特異的な結合性を有するscFv(TM-2)のアミノ酸配列に対応し、272~276位の配列はリンカー部に対応し、277~286位の配列は、Myc-tagのアミノ酸配列に対応し、(c)287~326位の配列は、CD28由来のヒンジのアミノ酸配列に、327~353位の配列は、CD28由来膜貫通タンパク質ドメインのアミノ酸配列にそれぞれ対応し、(d)354~395位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列に対応し、(e)396~506位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列に対応する。
【0046】
MALPVTALLLPLALLLHAARPGSMAEVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFDDYAMHWVRQAPGKGLEWVSAISWNGGNIDYADSVRGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKAPGMLIYYSYMDVWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQPVLTQPPSVSVSPGQTARITCSGDRLPRQYVYWYQQKPGQAPVLVIYKDIERPSGIPERFSGSNSGNTATLTISGTQAGDEADYYCQSADSSETYPVFGGGTKLTVLGAAATGEQKLISEEDLIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号9)。
【0047】
配列番号9で示される配列中、(a)1~21位の配列は、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドである、CD8-Leaderのアミノ酸配列に対応し、22~23位の配列はリンカー部に対応し、(b)24~271位の配列は、ATL細胞特異的な結合性を有するscFv(TM-5)のアミノ酸配列に対応し、272~276位の配列はリンカー部に対応し、277~286位の配列は、Myc-tagのアミノ酸配列に対応し、(c)287~326位の配列は、CD28由来のヒンジのアミノ酸配列に、327~353位の配列は、CD28由来膜貫通タンパク質ドメインのアミノ酸配列にそれぞれ対応し、(d)354~395位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列に対応し、(e)396~506位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列に対応する。
【0048】
本発明の一実施形態に係るキメラ抗原受容体としては、以下の配列番号10、11または12に示される塩基配列によりコードされるポリペプチドを含むキメラ抗原受容体を好適に使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態において、本キメラ抗原受容体をコードする、以下の配列番号10、11または12に示される塩基配列を提供する。
【0049】
ATGGCCTTACCAGTGACCGCCTTGCTCCTGCCGCTGGCCTTGCTGCTCCACGCCGCCAGGCCGATGGCCGAGGTGCAGCTGTTGCAGTCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGCAGGTCTCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTTGATGATTATGCCATGCACTGGGTCCGGCAAGCTCCAGGGAAGGGCCTGGAGTGGGTCTCAGGTATTAGTTGGAATGGTGGTAACATAGACTATGCGGACTCTGTGAGGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAACGCCAAGAACTCCCTCTATCTGCAAATGGACAGTCTGAGAGCTGAGGACACGGCCTTGTATTACTGTGCAAAAGCCCCCGGAATGCTTATCTACTACTCCTACATGGACGTCTGGGGCAAAGGGACAATGGTCACCGTCTCTTCAGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGCGGTGGCGGATCGCAGCCTGTGCTGACTCAGCCCCCCTCGGTGTCAGTGTCCCCAGGACAGACGGCCAGGATCACCTGCTCTGGAGATCGATTGCCAAGACAATATGTTTATTGGTACCAACAGAAGCCAGGCCAGGCCCCTGTTTTACTAATATATAAGGATATTGAGAGGCCCTCAGGAATTCCTGAGCGATTCTCCGGCTCCACTTCAGGGACAACAGTCACGTTGACCATCAATGGAGTCCAGGCGGAAGACGAGGCTGACTATTCCTGTCAATCAGCGGACAGTAGTGAAACTTATCCGGTGTTCGGCGGGGGGACCAAGGTCACCGTCCTAGGTGCGGCCGCAGGCGGAGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGATTGAAGTTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACAATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCATGTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCCTATTTCCCGGACCTTCTAAGCCCTTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGC(配列番号10)。
【0050】
配列番号10で示される配列中、(a’)1~63位の配列は、CD8-Leaderを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(b’)64~807位の配列は、ATL細胞特異的な結合性を有するscFvを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、808~822位の配列はリンカー部に対応し、823~852位の配列は、Myc-tagを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(c’)853~969位の配列は、CD28由来ヒンジのアミノ酸配列をコードする塩基配列に、970~1050位の配列は、CD28由来膜貫通タンパク質ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(d’)1051~1176位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(e’)1177~1512位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応する。
【0051】
ATGGCCTTACCAGTGACCGCCTTGCTCCTGCCGCTGGCCTTGCTGCTCCACGCCGCCAGGCCGGGATCCATGGCCGAGGTGCAGCTGTTGGAATCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGCGGTTCTCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTTGATGATTATGCCATGCACTGGGTCCGGCAAGCTCCAGGGAAGGGCCTGGAGTGGGTCTCAGCTATTAGTTGGAATGGTGGTAACATAGACTATGCGGACTCTGTGAGGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAACTCTAAGAACACTCTCTATCTGCAAATGAATAGTCTGAGAGCTGAGGACACGGCCGTTTATTACTGTGCAAAAGCCCCCGGAATGCTTATCTACTACTCCTACATGGACGTCTGGGGCCAAGGGACACTTGTCACCGTCTCTTCAGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGCGGTGGCGGATCGCAGCCTGTGCTGACTCAGCCCCCCTCGGTGTCAGTGGCTCCAGGACAGACGGCCAGGATCACCTGCTCTGGAGATCGATTGCCAAGACAATATGTTCATTGGTACCAACAGAAGCCAGGCCAGGCCCCTGTTTTAGTTATATATAAGGATATTGAGAGGCCCTCAGGAATTCCTGAGCGATTCTCCGGCTCCAATTCAGGGAATACAGCTACGTTGACCATCAGTGGAGTCGAAGCGGGTGACGAGGCTGACTATTATTGTCAATCAGCGGACAGTAGTGAAACTTATCCGGTGTTCGGCGGGGGGACCAAGCTCACCGTCCTAGGTGCGGCCGCGACCGGTGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGATTGAAGTTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACAATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCATGTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCCTATTTCCCGGACCTTCTAAGCCCTTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGC(配列番号11)。
【0052】
配列番号11で示される配列中、(a’)1~63位の配列は、CD8-Leaderを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、64~69位の配列は、リンカーのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(b’)70~813位の配列は、ATL細胞特異的な結合性を有するscFv(TM-2)を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、814~828位の配列はリンカー部に対応し、829~858位の配列は、Myc-tagを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(c’)859~975位の配列は、CD28由来ヒンジのアミノ酸配列をコードする塩基配列に、976~1056位の配列は、CD28由来膜貫通タンパク質ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(d’)1057~1182位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(e’)1183~1518位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応する。
【0053】
ATGGCCTTACCAGTGACCGCCTTGCTCCTGCCGCTGGCCTTGCTGCTCCACGCCGCCAGGCCGGGATCCATGGCCGAGGTGCAGCTGTTGGAATCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGCGGTTCTCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTTGATGATTATGCCATGCACTGGGTCCGGCAAGCTCCAGGGAAGGGCCTGGAGTGGGTCTCAGCTATTAGTTGGAATGGTGGTAACATAGACTATGCGGACTCTGTGAGGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAACTCTAAGAACACTCTCTATCTGCAAATGAATAGTCTGAGAGCTGAGGACACGGCCGTTTATTACTGTGCAAAAGCCCCCGGAATGCTTATCTACTACTCCTACATGGACGTCTGGGGCCAAGGGACACTTGTCACCGTCTCTTCAGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGCGGTGGCGGATCGCAGCCTGTGCTGACTCAGCCCCCCTCGGTGTCAGTGAGTCCAGGACAGACGGCCAGGATCACCTGCTCTGGAGATCGATTGCCAAGACAATATGTTTATTGGTACCAACAGAAGCCAGGCCAGGCCCCTGTTTTAGTTATATATAAGGATATTGAGAGGCCCTCAGGAATTCCTGAGCGATTCTCCGGCTCCAATTCAGGGAATACAGCTACGTTGACCATCAGTGGAACTCAAGCGGGTGACGAGGCTGACTATTATTGTCAATCAGCGGACAGTAGTGAAACTTATCCGGTGTTCGGCGGGGGGACCAAGCTCACCGTCCTAGGTGCGGCCGCGACCGGTGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGATTGAAGTTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACAATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCATGTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCCTATTTCCCGGACCTTCTAAGCCCTTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGC(配列番号12)。
【0054】
配列番号12で示される配列中、(a’)1~63位の配列は、CD8-Leaderを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、64~69位の配列は、リンカーのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(b’)70~813位の配列は、ATL細胞特異的な結合性を有するscFv(TM-5)を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、814~828位の配列はリンカー部に対応し、829~858位の配列は、Myc-tagを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(c’)859~975位の配列は、CD28由来ヒンジのアミノ酸配列をコードする塩基配列に、976~1056位の配列は、CD28由来膜貫通タンパク質ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(d’)1057~1182位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(e’)1183~1518位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応する。
【0055】
CARコンストラクト遺伝子の組み込まれたレンチウイルスベクターは、CAR遺伝子とは別に、蛍光性タンパク質であるEGFP(enhanced green fluorescence protein)を発現する遺伝子も有していてもよい。EGFPは、CMV(cytomegarovirus)プロモーターを転写開始領域にもつ。EGFP遺伝子を有する場合、CAR遺伝子導入細胞は、EGFP遺伝子も共に遺伝子導入されるため、EGFPの発現による蛍光の有無から、CARの導入が予測可能となる。
【0056】
NK-92 MI細胞へのCAR遺伝子の導入は、本発明者らが開発したATL細胞に対し特異的に結合するscFvをCARの抗原認識部位として遺伝子的に組み込んだレンチウイルスベクターを用いることが好ましい。レンチウイルスベクターをパッケージングしたリコンビナントレンチウイルスを用いることで、ウイルスの感染を介したNK-92 MI細胞内へのCAR遺伝子の輸送と、NK-92 MI細胞遺伝子へのCAR遺伝子の導入を達成することができる。
【0057】
設計したレンチウイルスベクターをパッケージングしたリコンビナントレンチウイルスは、例えば、ベクタービルダー社より購入することができる。CAR遺伝子の導入に際しては、例えば、1×10個のNK-92 MI細胞に3×10 TUのレンチウイルスを接種させることでウイルスを感染させることができる。また、レンチウイルスを播種したNK-92 MI細胞は、例えば、MEMα培地(12.5% ウシ胎児血清, 1% ペニシリンストレプトマイシン含有)を用い、37℃、5%二酸化炭素ガス雰囲気下で培養することができる。
【0058】
レンチウイルスベクターとして、CARとは別に、蛍光性タンパク質であるEGFPも発現する遺伝子を有するレンチウイルスベクターを用いる場合、CAR遺伝子導入NK-92 MI細胞は、EGFPをCARと共に発現する。そのため、CAR導入細胞は、EGFPの蛍光を指標にセルソーターで分離することができる。分離した細胞は、例えば、MEMα培地(12.5% ウシ胎児血清, 1% ペニシリンストレプトマイシン含有)を用いて、37℃、5%二酸化炭素ガス雰囲気下で培養することで、高発現率のCAR-NK-92 MI 細胞を得ることができる。
【0059】
CAR-NK-92 MI 細胞の細胞傷害性は、例えば、ATL患者のT細胞から樹立したS1T細胞や、非ATLリンパ球癌細胞のMOLT-4細胞とCAR-NK-92 MI 細胞を共培養し、フローサイトメトリー解析により評価することができる。
【0060】
本発明者らが開発した、ATL患者のT細胞から樹立したS1T細胞やMT-2細胞には結合するが、MOLT4細胞など非ATLリンパ球癌細胞には結合しないscFv(S1TSCFR3-1、TM-2およびTM-5)は、糖鎖ナノテクノロジーとファージディスプレイ法、さらに遺伝子工学を組み合わせて確立することができる。
【0061】
本発明には、以下の態様が含まれる。
〈1〉成人T細胞白血病細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したキメラ抗原受容体を含む、ナチュラルキラー細胞。
〈2〉前記一本鎖抗体は、成人T細胞白血病細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体である、〈1〉に記載のナチュラルキラー細胞。
〈3〉前記キメラ抗原受容体は、
(a)イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド、
(b)C末端にMyc-tagを有する、成人T細胞白血病細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、
(c)CD28由来ヒンジ及び膜貫通タンパク質ドメイン、
(d)シグナル伝達のための4-1BB細胞内タンパク質ドメイン、および、
(e)シグナル伝達のためのCD3ζT細胞受容体ドメイン、
を含み、かつ、前記(a)~(e)が、N末端からC末端にかけて、この順に発現するキメラ抗原受容体である、〈1〉に記載のナチュラルキラー細胞。
〈4〉配列番号7、8または9として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、キメラ抗原受容体。
〈5〉〈4〉に記載のキメラ抗原受容体をコードする、配列番号10、11または12として示される塩基配列。また、本発明には、以下の態様も含まれる。
〈1’〉がん細胞への細胞傷害性を増強し、低副反応性を特徴とするATL細胞に特異的に結合する一本鎖抗体をCARの抗原認識部位として導入したNK細胞。
〈2’〉がん細胞の細胞表層糖鎖に対する一本鎖抗体をCARの抗原認識部位として導入することを特徴とする〈1’〉に記載のATL細胞に特異的に結合する一本鎖抗体をCARの抗原認識部位として導入したNK細胞。
〈3’〉(a)イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド
(b)請求項1に記載の成人T細胞白血病細胞の細胞表層糖鎖に対する一本鎖抗体であって、C末端にMyc-tagを有する一本鎖抗体
(c)CD28由来ヒンジ及び膜貫通タンパク質ドメイン
(d)シグナル伝達のための4-1BB細胞内タンパク質ドメイン
(e)シグナル伝達のためのCD3ζT細胞受容体ドメイン
を含むキメラ抗原受容体であり、(a)~(e)が、N末端からC末端の順に発現するCAR。
〈4’〉配列番号7として示されるアミノ酸配列を含む〈3’〉に記載のCAR。
〈5’〉配列番号10として示される〈3’〉に記載のCARを発現させる塩基配列。
【実施例0062】
〔実施例1〕
実施例1では、ATL細胞に特異的な結合性を有するscFvをCARの抗原結合部位として導入したCAR-NK細胞を開発し、その細胞傷害性について検討した。
【0063】
NK細胞には、NK-92 MI細胞を用い、図2に示す構造を有する配列番号7で示されるポリペプチド(S1TSCFR3-1)を含むCARをコードする、配列番号10で示される塩基配列を含む遺伝子(CAR遺伝子)を、レンチウイルスベクターを用いてNK-92 MI細胞に導入した。なお、前記レンチウイルスベクターは、CARとは別に、蛍光性タンパク質であるEGFPも発現する遺伝子を有していた。遺伝子導入率の高い細胞を、CARとは別に細胞内で発現する蛍光性タンパク質の蛍光強度を指標に、セルソーターで分離・回収することで、scFv(S1TSCFR3-1)を含むCAR遺伝子を導入したNK-92 MI細胞(以下、FR3-1-CAR-NK-92 MI細胞という)を得た。
【0064】
S1T細胞およびMOLT-4細胞をターゲット細胞として、得られたFR3-1-CAR-NK-92 MI細胞をエフェクター細胞としてそれぞれ用いて、得られたFR3-1-CAR-NK-92 MI細胞の細胞傷害性を評価した。結果を図3に示す。図3より明らかなように、FR3-1-CAR-NK-92 MI細胞とS1T細胞を1:1の比率で24時間共培養し、フローサイトメトリー解析を行ったところ、90%以上のS1T細胞が死滅した。
【0065】
また、CARを導入していないNK-92 MI細胞とS1T細胞との共培養では、10%程度の細胞傷害性しか示さなかった。
【0066】
一方、図示はしないが、MOLT-4細胞の場合、CARの導入前後で細胞傷害性は同程度であり、どちらも65%程度の細胞傷害性であった。
【0067】
以上から、NK-92 MI細胞へのS1TSCFR3-1を含むCARの導入は、NK-92 MI細胞の細胞傷害性を失うことなく、ATL細胞に対する特異性および細胞傷害性を増強可能であることが示唆された。
【0068】
〔実施例2〕
急性期のATL患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)に対するscFvの結合活性について検討した。実験の具体的な手順は、以下の通りであった。
1.凍結状態の急性期のATL患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)を湯浴(37℃)で半融解させ、予め37℃に温めたPBS(9mL)に加え、完全に融解させた。
2.得られたPBMC溶液を遠心分離(500×g、5min)後、培養上清を除去し、PBSで懸濁することで、細胞懸濁液中の細胞数が1×10個/mLとなるように調整した。
3.得られた細胞懸濁液をマイクロチューブに1mLずつ分注し、遠心分離(500×g、5min)後、上清を除去した。
4.50μLのscFv(S1TSCFR3-1、10μg/mL)および、50μLのanti-humanSynCAM (TSLC-1/CADM1)モノクローナル抗体(以下、「mAb」ともいう)(×1/1000)を、前記マイクロチューブに加えた。また、一部のマイクロチューブについては、scFvを添加せず、anti-humanSynCAM (TSLC-1/CADM1)mAbのみを添加し、コントロールとした。
5.操作4で得たマイクロチューブを、4℃で30分間静置した。
6.静置後、400μLのFACS Buffer(1% BSA含有PBS)をマイクロチューブに加え、遠心分離(500×g、5min)後、上清を除去した。
7.50μLのAnti-His-tag mAb(×1/1000)、および、50μLのSheep anti-chicken IgYのBiotin conjugate(5μg/mL)をマイクロチューブに加えた。
8.操作7で得たマイクロチューブを、4℃で30分間静置した。
9.静置後、400μLのFACS Buffer(1% BSA含有PBS)をマイクロチューブに加え、遠心分離(500×g、5min)後、上清を除去した。
10.50μLのGoat Alexa Fluoro 647 anti-human CD4 ab(×1/20)もしくはGoat CF633 anti-mouse IgG (H+L)(×1/1000)および、50μLのStreptavidinR-PE conjugate(×1/1000)をマイクロチューブに加えた。
11.操作10で得たマイクロチューブを、4℃で30分間静置した。
12.静置後、400μLのFACS Buffer(1% BSA含有PBS)を加え、遠心分離(500×g、5min)後、上清を除去した。
13.1000μLのFACS Buffer(1% BSA含有PBS)を加え、得られた溶液を試料として、フローサイトメトリー解析(励起波長 488および633 nm、発光波長 575および675 nm)を行った。
【0069】
フローサイトメトリーによる解析結果を図4に示す。図4左図(コントロール)と、図4右図との比較より明らかなように、S1TSCFR3-1は、急性期のATL患者由来のPBMCに対して強い結合性を有することが示された。
【0070】
〔実施例3〕
ATL患者由来のPBMCに対するCAR-NK細胞の細胞傷害性について検討した。実験の具体的な手順は、以下の通りであった。
1.実施例1で作製したFR3-1-CAR-NK-92 MI細胞を培養液から回収し、遠心分離(300×g、5min)した。
2.培養上清を除去し、PBSで懸濁することで、細胞懸濁液中の細胞数が1×10個/30μLとなるように調整した。
3.得られた細胞懸濁液に、1μLのCalcein AM(0.5% DMSO 含有PBS)を、500μLのPBSで希釈して作製した細胞染色液15μLを加えた。
4.操作3で得た溶液を、37℃、5%CO雰囲気下で、30分間静置した。
5.静置後、1000μLのPBSを加え、遠心分離(300×g、5min)後、上清を除去した。
6.さらに、1000μLのPBSを加え、遠心分離(300×g、5min)後、上清を除去した。
7.1000μLのPBSを加え、共培養用の細胞懸濁液を調製した。
8.3×10個のエフェクター細胞(CAR-NK細胞(CAR-NK)もしくはCalcein染色したNK-92 MI細胞(NK))、および、1×10個のターゲット細胞(ATL患者由来PBMC)を、24wellプレートに播種した。また、コントロールとして、CAR-NKおよびNKのいずれのエフェクター細胞も播種せず、ターゲット細胞のみを播種したサンプルも作成した。
9.8の操作で播種したエフェクター細胞およびターゲット細胞を、37℃、5%CO雰囲気下で、6時間共培養した。
10.共培養後、各wellから細胞懸濁液をマイクロチューブに回収し、遠心分離(500×g、5min)後、上清を除去した。
11.操作10のマイクロチューブに100μLのヨウ化プロピジウムのPBS溶液(1μg/mL)を加え、細胞を懸濁した。
12.操作11で得たマイクロチューブを、室温、遮光下で15分間静置した。
13.静置後、1000μLのPBSを加え、フローサイトメトリー解析(励起波長 488 nm、発光波長 675 nm)を行った。
【0071】
フローサイトメトリーによる解析結果を図5に示す。図5より明らかなように、CAR-NK細胞を導入したPBMCは、コントロール(NK、CAR-NKなし)、および、NK(CARを導入していないNK)のみを導入したPBMCと比して、細胞生存率が有意に低い(p<0.001)ことが分かる。この結果より、本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞は、ATL患者由来のPBMCに対して高い細胞傷害性を有することが示された。
【0072】
〔まとめ〕
ATLは一度発症すると、5年生存率が10%程度であり、非常に予後の悪い疾患である。治療法は確立されておらず、国内においては年間約一千人がATLにより死亡している。
【0073】
本発明により開発した、ATL細胞に特異的な結合性を有するscFvを抗原認識部位に有するNK細胞である、CAR-NK-92 MI細胞は、CARを導入していないNK-92 MI細胞では不十分であった、ATL細胞に対する細胞傷害性を向上した。つまり、本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞は、ATL患者に用いた場合、ATL患者のATL細胞を死滅させることが出来る可能性があり、ATLに対する治療が可能となると考えられる。
【0074】
本発明により開発したCAR-NK-92 MI細胞は、ATLに対する免疫細胞療法の開発を可能とするものである。
【0075】
現在、国内で臨床利用される免疫細胞療法では、患者由来のT細胞に抗CD19抗体をCARの抗原認識部位として導入したCAR-T細胞が用いられる(製品名:キムリア)。
しかしながら、その薬価は3000万円を超え、非常に高額なものである。
【0076】
CAR-T細胞では、患者ごとにT細胞のヒト白血球抗原(HLA)が異なるため、他の患者由来のT細胞や細胞株を用いた場合、投与したCAR-T細胞が異物として免疫機能に認識されるため、移植対片宿主病(GVHD)を引き起こす。したがって、実際に患者に投与するCAR-T細胞には、ドナー由来のT細胞を単離して利用する必要があり、CAR-T細胞の調整に、時間と費用がかかる。
【0077】
しかし、NK細胞は、異なる患者のNK細胞や細胞株を別の患者に投与してもGVHDを引き起こさないことが知られている。したがって、本発明により開発したCAR-NK-92 MI細胞は、GVHDを引き起こさずに、ATLに対し安全な免疫細胞療法が可能である。
【0078】
さらに、本発明の一実施形態に係るNK-92 MI細胞は、細胞株であるため、開発したCAR-NK-92 MI細胞は安定して安価に培養が可能である。したがって、現在臨床利用されているT細胞ベースの免疫細胞療法よりも、安全かつ安価に利用可能であると予想される。治療効果の高い免疫細胞療法を低コスト化可能な点で、産業面にも貢献できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の一実施形態に係る、ATL細胞特異的な結合性を有するscFvを抗原認識部位に有するCAR-NK細胞は、ATLに対する新たな治療法として安全かつ効果的な免疫細胞療法の開発を導く。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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