(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027134
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】悪性腫瘍の治療のための薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230221BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230221BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230221BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230221BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20230221BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230221BHJP
【FI】
A61K39/395 E
A61P35/00
A61P37/02
A61K39/395 T
C07K16/28
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022189482
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2019567781の分割
【原出願日】2018-02-22
(31)【優先権主張番号】102017001875.8
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】519311411
【氏名又は名称】インテレクソン・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】ヴュルフェル,ヴォルフガング
【テーマコード(参考)】
4B063
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】悪性腫瘍を治療するための薬剤を調製する方法、それによって提供される抗体、およびそのような抗体の使用を提供する。
【解決手段】悪性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造が、胚HLA群の発現パターンの決定および免疫担当細胞上/内に存在する受容体タイプの決定によって確認され、ならびに少なくとも1つの決定された受容体タイプにリガンドとして特異的に結合し、結果として発現パターンの少なくとも一部がそれを見つけ出すことができないかまたはより低い作用でしかそこに結合できないように受容体をブロックまたはマスクするが、それ自体は関連する免疫担当細胞を抑制しない種類の抗体が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の個々の関連する免疫系を含む悪性腫瘍の治療のための薬剤を調製する方法であっ
て、
(a)前記悪性腫瘍と前記免疫系との間の個々のコミュニケーション構造を決定する工
程であって、
-前記悪性腫瘍上に存在する胚HLA群の少なくとも1つの発現パターンを決定するこ
とと、
-前記発現パターンの少なくとも一部にリガンドとして結合することができ、この結合
に基づいて免疫担当細胞に抑制作用を及ぼすことができる、前記免疫系の免疫担当細胞上
/内に存在する少なくとも1つの受容体タイプを決定すること
とを含む工程、および
(b)-前記少なくとも1つの決定された受容体タイプにリガンドとして特異的に結合
し、結果として前記発現パターンの少なくとも一部がそこに結合することができないかま
たはより小さな作用でしか結合できないように前記受容体をブロックまたはマスクする、
-ただし、それ自体は関連する前記免疫担当細胞を抑制しない
種類の抗体を提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの受容体タイプが、KIR受容体、NKG2受容体、LIL-R受
容体のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-免疫担当細胞の受容体に結合した後、前記免疫担当細胞に対する活性化作用を開始す
る種類の活性化抗体を提供する工程
をさらに含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
(a’)HLA-Cが過剰発現しているかどうかを判定する工程であって、HLA-C
が過剰発現している場合は、
-HLA-C群のHLA-C発現パターンを決定することと、
-前記HLA-C発現パターンの少なくとも一部にリガンドとして結合することができ
、この結合に基づいて、免疫担当細胞に抑制または活性化作用を及ぼすことができる第二
の受容体タイプを決定すること
とを含む工程、および
(b’)-前記第二の受容体タイプに特異的に結合し、結果として前記HLA-C発現
パターンの少なくとも一部がそこに結合することができないかまたはより小さな作用でし
か結合できないように前記第二の受容体をブロックまたはマスクする、
-ただし、それ自体は前記関連する免疫担当細胞を抑制または活性化しない
種類の第二の抗体を提供する工程
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によって提供される抗体。
【請求項6】
悪性腫瘍の治療における薬剤としての、請求項5に記載の抗体の使用。
【請求項7】
-前記抗体によって免疫担当細胞上の前記少なくとも1つの決定された受容体タイプの
受容体をブロックまたはマスクする工程
を含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
-受容体が前記抗体によって特異的に結合される前記免疫担当細胞が1人のドナーに由
来する、請求項6または7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍の治療のための薬剤を提供する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍疾患の治療のための古典的な療法、例えば切除術、化学療法および放射線療法
に加えて、免疫応答を開始するためのワクチンまたは悪性腫瘍に結合するための抗体(断
片)の投与に基づく、能動または受動免疫療法がますます使用されている。悪性腫瘍を治
療するための薬剤は、高度に選択的であり、耐性を生じさせないものでなければならない
。
【0003】
それにもかかわらず、腫瘍疾患には免疫応答を回避するための機構がある。そのような
いわゆる逃避機構の1つは、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)、特に、ヒトにおける
細胞対話に役立つそのHLA群(ヒト白血球抗原)に基づく。文献では、HLAという略
語は、コード遺伝子またはそれらによって発現されるタンパク質を表すことができる。以
下で使用されるHLA群の概念は、本明細書では特に細胞表面の遺伝子によって発現され
る表面タンパク質を表すべきである。一般に、HLA群は、例えば次の4つのクラスに分
けることができる:
(i)本質的にすべての成熟細胞と体細胞を識別するHLA群A、BおよびC(MHC
-I);
(ii)免疫担当細胞および抗原の提示において重要な役割を果たすHLA群D(DR
、DP、DQなど、MHC-II);
(iii)特にいわゆる浸潤最前線の胚細胞を識別するHLA群E、FおよびG;
(iv)HLA群Hとそれに続く群、いわゆる偽遺伝子。
【0004】
悪性腫瘍細胞は、それらの表面に典型的な胚HLA群(すなわちHLA-E、HLA-
Fおよび/またはHLA-G)を発現することができる。胚HLA群は、悪性細胞が生物
自体の非特異的および/または特異的免疫防御の攻撃を回避するという事実に寄与し得る
。細胞の表面上のこれらの典型的なHLA群の発現の結果として、後者は免疫担当細胞の
対応する受容体を活性化することができるようになる。原則として、活性化後にこれらの
免疫担当細胞の機能を抑制する受容体、例えばナチュラルキラー細胞上のキラー免疫グロ
ブリン様受容体(KIR)またはリンパ球上の白血球免疫グロブリン様受容体(LILR
)が関与する。
【0005】
したがって、特に胚細胞上(特に胎盤および栄養膜細胞上)の抗原HLA-E、Fおよ
びGは、母親の免疫系が細胞を攻撃するのを防ぐ。このようにして、胚は免疫応答を回避
することができる。この逃避機構は、妊娠の免疫学的制御の骨格を構成する。拒絶反応は
起こらず、遺伝的に半異質(父親由来の異質部分50%)または異質の胚(単細胞ドナー
または胚ドナーまたは代理母の場合100%)が満期に至ることができる。
【0006】
大きく異なる組織の悪性腫瘍がこの胚の逃避機構を利用することができ、免疫防御を抑
制または回避する。結果として、それらはまた、いくつかの治療戦略に対抗する、すなわ
ち攻撃に基づく戦略を抑制することができる。この理由から、悪性腫瘍を治療するために
は免疫系を含むことが有利であり得る。
【0007】
抗腫瘍薬の製造方法は欧州特許出願公開第2561890A1号明細書から公知であり
、その中では、悪性腫瘍細胞の発現パターンの決定後に、そこで発現された胚HLA群が
マスクまたは破壊される。マスクまたは破壊されたHLA群は、もはや免疫系を抑制する
ことができないので、免疫担当細胞の攻撃が考慮されることになる。このためには、でき
るだけ多くの悪性腫瘍細胞をマスクすることが必要である。しかし、HLA群をマスクす
ることは、やはり胚HLA群を発現する他の非悪性組織にも影響を及ぼし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2561890A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この背景を考慮して、本発明は、悪性腫瘍を治療するための薬剤、抗体、およびそのよ
うな抗体の使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、独立請求項に記載の方法、抗体およびそれらの使用によって解決される。
従属請求項は、好ましい実施形態を説明する。
【0011】
特定の個々に関連する免疫系を含む、悪性腫瘍を治療するための薬剤を提供する本発明
による方法は、悪性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造の決定、ならび
に抗体の提供を含む。
【0012】
悪性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造を決定するために、悪性腫瘍
上に存在する胚HLA群の少なくとも1つの発現パターン、ならびに免疫系の免疫担当細
胞上/内に存在する少なくとも1つの受容体の状態または受容体タイプを決定する。組織
病理学的に同一と分類される腫瘍または転移でさえも、個体間で、または個体内のある場
所と別の場所で異なる発現パターンを有し得る。治療法、例えば化学治療剤またはホルモ
ン拮抗薬の投与は、発現パターンにさらに影響を及ぼし得る。個々の表現パターンの決定
はこれらの違いに対処する。
【0013】
少なくとも1つの受容体の状態、特に受容体のタイプの決定は、リガンドとして発現パ
ターンの少なくとも一部に結合することができ、この所見に基づいて、免疫担当細胞に抑
制作用を及ぼすことができる少なくとも1つの受容体のタイプに関係する。特定の受容体
状態のこれらの受容体タイプは、それらの表面の免疫担当細胞によって発現され、シグナ
ル伝達によってシグナル経路を開始する表面タンパク質または膜貫通タンパク質のクラス
である。
【0014】
抑制作用は、本明細書では免疫担当細胞の細胞傷害活性を低下させるまたは妨げる免疫
調節作用を表すべきである。このシグナル経路は、例えば免疫受容体チロシン依存性抑制
モチーフ(ITIM)、すなわち細胞質リン酸化を介して開始され得る。
【0015】
抗体の提供とは、一方では少なくとも1つの決定された受容体タイプにリガンドとして
特異的に結合するが、関連する免疫担当細胞を抑制せず、他方で発現パターンの少なくと
も一部がそこに結合することができないかまたはわずかな作用でしか結合できないように
受容体をブロックまたはマスクする種類の抗体を指す。受容体をマスクまたはブロックす
ること、したがって、この受容体上の胚HLA群の発現パターンの結合を防ぐことは、そ
れらの抑制作用を回避することができる。
【0016】
一般に、本発明によって提供される抗体は、受容体に結合することによって、免疫担当
細胞に抑制作用を及ぼすことができない、すなわち固有の活性を持たない。上記とは対照
的に、悪性腫瘍細胞の胚HLA群の発現パターンは、受容体に結合した場合に免疫担当細
胞に抑制作用を及ぼす。
【0017】
いくつかの実施形態では、発現パターンの決定は、胚HLA群が好ましくは存在するか
否かを調べるための検査を含む。さらに、発現パターンの決定は、好ましくは発現レベル
の定量的決定を含む。例えば、発現パターンまたは発現レベルは、RNA配列決定、DN
Aマイクロアレイ、定量PCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)、発現プロファイリング
、SAGE(遺伝子発現の連続解析、連続遺伝子発現解析)などの公知の方法によって決
定することができる。
【0018】
悪性腫瘍細胞の概念は、原発性悪性腫瘍の転移細胞も含む。本発明による方法は、転移
の個々の相違、特にそれらの胚HLA群の個々の発現パターンを調べるために、好ましく
はいくつかの、特に好ましくはすべての転移に対して個々に行われる。
【0019】
少なくとも1つの受容体タイプは、好ましくは免疫担当細胞の表面上の膜貫通タンパク
質として発現される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの受容体タイプは、KI
R受容体(キラー免疫グロブリン様受容体)、NKG2受容体、LIL受容体(白血球免
疫グロブリン様受容体)のうちの1つ以上を含む。
【0020】
いくつかのNKG2受容体、特にNKG2 A、NKG2 B、NKG2 C、NKG
2 D、NKG2 EおよびNKG2 Fは、例えばHLA-Eに結合することができる
。いくつかのLIL受容体、特にLIL B1、LIL B2およびLIL B4は、例
えばHLA-Fに結合することができる。KIR 2DL3またはLIL A2は、例え
ばHLA-Gに結合することができる。
【0021】
提供される抗体は、少なくとも1つの受容体タイプに結合する種類のものである。した
がって、例えば抗KIR 2DS1と表される抗体は、KIR 2DS1型の受容体にリ
ガンドとして結合する。抗KIR 2DS4と表される抗体は、KIR 2DS4型の受
容体に結合することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、受容体タイプの決定は、どの受容体が個体に配置されたかを
考慮することもできる。どの受容体が個体に配置されたかを確認する検査は、例えば遺伝
子分析または発現分析によって実施することができる。特定の受容体タイプが個体に存在
しない場合、この抵抗型に対する抗体の投与は指示されない。
【0023】
いくつかの実施形態では、免疫担当細胞は、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)および
/またはリンパ球を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、この方法は、免疫担当細胞の受容体に結合した後、後者に対
する活性化作用を開始するタイプの活性化抗体を提供することをさらに含む。
【0025】
さらに、いくつかの実施形態では、方法は、HLA-Cが過剰発現されているかどうか
の判定を含み得る。HLA-Cの過剰発現の場合、その発現パターンおよびこの発現パタ
ーンの第2の受容体タイプ、すなわちHLA-C発現パターンの少なくとも一部にリガン
ドとして結合することができ、この結合に基づいて、免疫担当細胞に活性化作用を及ぼす
ものを決定することができる。例えば、第2の受容体タイプは、NK細胞に対して活性化
作用を及ぼすことができるKIR DS受容体の群からの受容体タイプであり得る。HL
A-Cに結合する活性化受容体の例は、KIR 2DS1、KIR 2DS2またはKI
R 2DS4である。そのようなKIR-DS型の受容体は、免疫担当細胞を活性化する
ことができ、それにより、例えばサイトカインまたは成長因子などの成長活性物質または
さらには腫瘍増殖物質を産生する。
【0026】
あるいは、第2の受容体タイプは、HLA-C発現パターンの少なくとも一部にリガン
ドとして結合することができ、この結合に基づいて、免疫担当細胞に抑制作用を及ぼすこ
とができる。例えば、第2の受容体タイプは、NK細胞に抑制作用及ぼすことができるK
IR-DL受容体の群からの受容体タイプであり得る。HLA-Cに結合する抑制性受容
体の例は、KIR 2DL1、KIR 2DL2、KIR 2DL3またはKIR 3D
L3である。
【0027】
第2の受容体タイプから出発して、第2の受容体タイプに特異的に結合するが、関連す
る免疫担当細胞を抑制または活性化せず、同時にHLA-C発現パターンの少なくとも一
部がそこに結合することができないかまたはわずかな作用でしか結合できないように第2
の受容体をブロックまたはマスクするタイプの第2の抗体を提供することができる。
【0028】
さらに、本発明は、本発明による方法によって利用可能にされた抗体を提供し、さらに
、悪性腫瘍の治療における薬剤としての本発明による抗体の使用が提供される。
【0029】
いくつかの実施形態では、本発明による方法は、免疫担当細胞上の少なくとも1つの決
定された受容体タイプの受容体を抗体によってブロックまたはマスクすることを含む。抗
体のそのような使用法では、悪性腫瘍細胞上に発現された胚HLA群の、免疫担当細胞上
の少なくとも1つの特定の受容体タイプの受容体への結合が防止または低減される。抗体
は、好ましくは受容体タイプに対して高い親和性、特に悪性腫瘍細胞の胚HLA群の親和
性に匹敵するか、より高いまたは実質的により高い親和性を示す。親和性は、好ましくは
抗体の拡散および/または競合的置換を防ぐのに十分な高さである。
【0030】
特に、ブロッキングまたはマスキングは、インビボで、例えば患者の生体内で起こり得
る。いくつかの実施形態では、抗体の使用は局所的または全身的に起こり得る。局所使用
は、例えば悪性腫瘍またはその周辺への注射を含む。全身使用は、例えば経口、経鼻、舌
下、直腸、皮下、静脈内、経皮などの方法の1つでの投与を含む。
【0031】
インビボでの遮断の代わりに、例えば全身的な副作用を回避するために、インビトロで
ブロッキングまたはマスキングを行って、その後免疫担当細胞を輸血することができる。
インビトロでの遮断の場合、免疫担当細胞を除去し、抗体に暴露して、マスキングが行わ
れた後に輸血して戻すことができる。
【0032】
本発明による使用のいくつかの実施形態では、例えば全身的な副作用を回避するために
、その発現パターンが決定された細胞および/またはその受容体が抗体によって特異的に
結合される免疫担当細胞は、同一の患者に由来する。そのような実施形態は、胚HLA群
の発現の個体間変動が大きい場合に特に好ましい可能性がある。
【0033】
いくつかの実施形態では、その受容体が抗体によって特異的に結合される免疫担当細胞
は、1人のドナーに由来する。ドナーは、悪性腫瘍を患っていない第三者であり得る。免
疫担当細胞は、例えば受容体の遮断またはマスキングの後に注射することができ、胚HL
A群からその発現が決定された悪性腫瘍を治療するのに使用される。
例示的な実施形態の以下の説明において添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態による方法のフローチャートを示す。
【
図2】
図2は、例示的な実施形態による方法を実施することができる異なる個体の3つの悪性腫瘍細胞の概略図を示す。
【
図3】
図3は、胚HLA群と免疫担当細胞の受容体との間の結合を伴う、悪性腫瘍細胞および免疫担当細胞の概略図を示す。
【
図4】
図4は、例示的な実施形態による方法を実施することができる悪性腫瘍細胞および免疫担当細胞の概略図を示す。
【
図5】
図5は、例示的な実施形態による方法を実施することができる悪性腫瘍細胞および免疫担当細胞の概略図を示す。
【
図6】
図6は、例示的な実施形態による方法を実施することができる悪性腫瘍細胞および2つの免疫担当細胞の概略図を示す。
【
図7】
図7は、例示的な実施形態による抗体による免疫担当細胞の受容体のマスキングを伴う、悪性腫瘍細胞および免疫担当細胞の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、薬剤を提供するための方法10のフローチャートを示す。方法10は、発現パ
ターンの決定12、少なくとも1つの受容体タイプの決定14、および抗体の提供16を
含む。
【0036】
悪性腫瘍上に位置する胚HLA群の発現が、発現パターンの決定12の間に決定される
。
【0037】
少なくとも1つの受容体タイプの決定14の間に、胚HLA群の発現パターンの少なく
とも一部にリガンドとして結合することができ、この結合に基づいて免疫担当細胞に抑制
作用を及ぼすことができる受容体タイプが決定される。
【0038】
工程16で提供される抗体は、免疫担当細胞の少なくとも1つの特定の受容体タイプに
リガンドとして特異的に結合し、胚HLA群の発現パターンの少なくとも一部がそこに結
合することができないかまたはより小さな作用でしか結合できないように受容体をブロッ
クまたはマスクするが、それ自体は関連する免疫担当細胞を抑制することができない種類
のものである。
【0039】
図2は、本発明による方法を実施することができる異なる個体A、BおよびCの3つの
悪性腫瘍細胞20a、20b、20cの概略図を示す。特に、特定の発現パターンは、示
されている3つの悪性腫瘍細胞20a、20b、20cのそれぞれ、特に特定の個体につ
いてのものまたは特定の悪性腫瘍についての個々の発現パターンを使用して決定すること
ができる。3つの悪性腫瘍細胞20a、20b、20cは、免疫系との個々のコミュニケ
ーション構造が異なる。
【0040】
第一の悪性腫瘍細胞20aは、個体Aから採取された。この悪性腫瘍細胞20aは、個
体Aの悪性腫瘍の組織試料の一部として採取されたと考えられる。悪性腫瘍細胞20aは
、その表面に複数の膜タンパク質(図示していない)を含む。これらの膜タンパク質のい
くつかは、胚HLA群に属する。悪性腫瘍細胞20aは、特にHLA-E型およびHLA
-G型の胚HLA群24aを含む(ただしHLA-F型のものは含まない)。したがって
、悪性腫瘍細胞20aによって発現される胚HLA群24aの発現パターン26aを決定
することができる。
【0041】
個体Bから採取された第二の悪性腫瘍細胞20bは、それによって発現された胚HLA
群24bが第一の悪性腫瘍細胞20aによって発現されたものと一致するか、部分的に逸
脱するか、または完全に逸脱し得る。示されている場合では、第二の悪性腫瘍細胞20b
は、HLA-F型の胚HLA群24bを発現する。したがって、悪性腫瘍細胞20bによ
って発現される胚HLA群24bの発現パターン26bも決定することができる。
【0042】
悪性腫瘍細胞20cによって発現された胚HLA群24cの発現パターン26cも、個
体Cから採取された第三の悪性腫瘍細胞20cについて決定することができる。示されて
いる場合では、発現パターン26cは、HLA-F型およびHLA-G型の胚HLA群2
4cを含む。
【0043】
特定の発現パターンから出発して、発現パターンに含まれる胚HLA群の1つにリガン
ドとして結合することができ、この結合に基づいて免疫担当細胞に抑制作用を及ぼすこと
ができる少なくとも1つの受容体タイプが決定される。
【0044】
受容体とリガンドの結合が確立され、受容体が第一の細胞(例えば免疫担当細胞)上で
発現され、リガンドが第二の細胞(例えば悪性腫瘍細胞)上で発現されると、細胞対話が
起こり、この協力は、例えば活性化または抑制作用を発現させることができる。細胞の同
定でさえも、そのような受容体-リガンド結合に基づく。
【0045】
図3は、悪性腫瘍細胞20の胚HLA群24と免疫担当細胞30の受容体32との間の
結合を伴う、悪性腫瘍細胞20および免疫担当細胞30の概略図を示す。示されている胚
HLA群24の結合に基づいて、悪性腫瘍細胞20は免疫担当細胞30に抑制作用28を
及ぼす。悪性腫瘍細胞20の発現パターンと免疫担当細胞の受容体との間のこの相互作用
は、悪性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造に特徴的である。この抑制
作用は、免疫担当細胞30の免疫応答が実質的に起こらないという結果をもたらす。
【0046】
図4は、本発明による方法を実施することができる悪性腫瘍細胞20および免疫担当細
胞30の概略図を示す。この例示的な実施形態は、特に、特定の発現パターンを使用して
少なくとも1つの受容体タイプを決定することができる方法を説明する。この決定は、悪
性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造の決定に寄与する。
【0047】
したがって、胚HLA群の発現パターン26は、そのパターンがHLA-F型のHLA
群を含む悪性腫瘍細胞20上で決定することができる。
【0048】
決定された発現パターン26に基づいて、発現された胚HLA群の1つ、すなわちHL
A-F型のHLA群24にリガンドとして結合することができ、胚HLA群24の結合に
基づいて、免疫担当細胞30に抑制作用を及ぼすことができる少なくとも1つの受容体タ
イプ32が決定される。免疫担当細胞30はリンパ球である。上記の前提条件を満たす受
容体タイプ32は、LILR B1(白血球免疫グロブリン様受容体B1)である。
【0049】
本発明による方法を実施することなく、悪性腫瘍細胞20は、HLA群24によってリ
ンパ球30の抑制性受容体32に結合することができ、したがって免疫系の抑制を生じさ
せることができると考えられる。これは、免疫系の攻撃を回避するために、悪性腫瘍細胞
の逃避機構を構成する。
【0050】
この逃避機構を抑制する抗体を、決定された発現パターン26および決定された受容体
タイプ32に基づいて本発明による方法で提供することができる。抗体の提供は、例えば
公知の作製方法またはハイブリドーマ技術などの単離方法に従って実施することができる
。
【0051】
図5は、薬剤を提供するための方法を実施することができる別の悪性腫瘍細胞20およ
びリンパ球30の概略図を示す。悪性腫瘍細胞によって発現される胚HLA群によって、
悪性腫瘍細胞20上で発現パターン26を再び決定することができる。発現パターン26
は、HLA-E型およびHLA-G型のHLA群24を含む。この例示的な実施形態は、
特に、悪性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造に特徴的な特定の発現パ
ターンを使用して、いくつかの受容体タイプを決定することができる方法を説明する。
【0052】
2つの受容体タイプ32、すなわち受容体NKG2およびKIRは、発現パターン26
に基づいて決定される。これらの2つの受容体タイプ32は、発現された胚HLA群24
の1つにリガンドとして結合することができ、胚HLA群の結合に基づいて、免疫担当細
胞30に抑制作用を及ぼすことができる。したがって、NKG2受容体は、HLA-E型
のHLA群にリガンドとして結合することができ、HLA-E群の結合に基づいて、リン
パ球30に抑制作用を及ぼすことができる。さらに、KIR受容体は、HLA-G型のH
LA群にリガンドとして結合することができ、HLA-G群の結合に基づいて、リンパ球
30に抑制作用を及ぼすことができる。
【0053】
示されている例のように、いくつかの受容体タイプが決定されると、これらのいくつか
の受容体タイプまたはそれらの少なくとも一部をブロックまたはマスクすることができ、
遮断の特定の階層を観察できる。したがって、例えばKIR 2DL4の受容体は、抑制
作用にとって特に重要であると考えられる。したがって、副作用を回避するために、最も
重要な受容体タイプへの限定が好ましい、特にインビボでのマスキングの場合、全身性の
副作用を回避するために好ましいことがあり得る。
【0054】
いくつかの例示的な実施形態では、例えばいくつかの受容体タイプの抑制作用の相対的
分類が個々の場合にまだ知られていない場合、個々の受容体タイプを段階的にブロックす
ることができる。免疫応答が欠如しているまたは不十分である場合、1つ以上のさらなる
または他の受容体タイプをさらなる段階でブロックすることができる。そのような手順は
、全身性副作用を回避するために、特にインビボマスキングにおいて好ましいことがあり
得る。このようにして、免疫系のマスキングおよび応答の精巧に低減された制御を実施す
ることができる。
【0055】
他の実施形態では、例えばいくつかの受容体タイプの抑制作用の相対的な分類がまだ知
られていない場合、すべてまたは少なくとも多数の受容体タイプを同時にマスクすること
ができる。そのような手順は、とりわけ、抗体による全身性副作用がそこで起こる可能性
が一般に低いため、インビトロマスキングにおいて特に好ましいことがあり得る。さらに
、インビトロマスキングでは、典型的にはすべての免疫担当細胞の一部のみが使用される
ため、この点で免疫系に対するマスキングの影響は限定される。
【0056】
図6は、薬剤を提供するための方法を実施することができる、悪性腫瘍細胞20および
2つの免疫担当細胞、すなわちリンパ球30aおよびNK細胞30bの概略図を示す。再
び、悪性腫瘍細胞によって発現される胚HLA群の発現パターン26は、悪性腫瘍細胞2
0上で決定することができる。発現パターン26は、HLA-F型およびHLA-G型の
HLA群24を含む。この例示的な実施形態は、特に、決定された受容体タイプが、リン
パ球およびNK細胞などの異なる免疫担当細胞に対して抑制作用を有し得ることを説明す
る。悪性腫瘍と免疫系との間の個々のコミュニケーション構造はこのようにして決定され
る。
【0057】
2つの発現されたHLA群に基づいて、2つの受容体タイプ32、すなわちLIL-R
(白血球免疫グロブリン様受容体)およびKIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体)
が決定される。LIL受容体は、HLA-F型のHLA群にリガンドとして結合すること
ができ、HLA-F群の結合に基づいて、リンパ球30aに抑制作用を及ぼすことができ
る。さらに、KIR受容体は、HLA-G型のHLA群にリガンドとして結合することが
でき、HLA-G群の結合に基づいて、NK細胞30bに抑制作用を及ぼすことができる
。したがって、2つの受容体タイプ32は、発現された胚HLA群24の1つにリガンド
として結合することができ、胚HLA群の結合に基づいて、異なる免疫担当細胞30a、
30bに対して抑制作用を及ぼすことができる。
【0058】
図7は、HLA群24を有する悪性腫瘍細胞20および受容体32を有する免疫担当細
胞30の概略図を示す。さらに、本発明による抗体34が示されている。この例示的な実
施形態は、特に、本発明による抗体がどのようにして受容体をブロックまたはマスクする
ことができるかを説明する。
【0059】
受容体タイプ32は、基本的に悪性腫瘍細胞20の胚HLA群24にリガンドとして結
合することができ、胚HLA群24の結合に基づいて、免疫担当細胞30に抑制作用を及
ぼすことができる。しかしながら、免疫担当細胞30の受容体32は抗体34によってマ
スクされている。
【0060】
抗体34は、受容体32にリガンドとして特異的に結合し、結果として、一方では胚H
LA群24が受容体32に結合できないかまたはわずかな作用でしか結合できないように
受容体32をブロックまたはマスクし、他方で関連する免疫担当細胞には抑制作用を及ぼ
さない種類のものである。受容体に結合し、活性化されないリガンドの原理は、例えば生
殖医学で使用される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)受容体Gに対する薬理学
から公知である。GnRHアンタゴニストは、受容体に結合し、それを活性化しないリガ
ンドの例である。
【0061】
抗体34がなければ、悪性腫瘍細胞20はHLA群24によって免疫担当細胞30の抑
制性受容体32に結合されることができず、このようにして免疫系の抑制を生じさせる。
これは、免疫系を回避するための悪性腫瘍細胞の逃避機構を構成する。
【0062】
抗体24の存在下では、抑制性受容体32はマスクされ、逃避機構が抑制され得る。免
疫担当細胞30の免疫応答は抑制されない。したがって、抗体は、特定の個々に関連する
免疫系を含む悪性腫瘍の治療に役立ち得る。
【0063】
抑制性受容体32のマスキングに使用される抗体を、免疫担当細胞の抑制性受容体タイ
プに対するヒト化抗体のライブラリに含めることができる。それは、ライブラリの多様性
が異なる抑制性受容体タイプの数に依存することを意味する。これらの受容体タイプ(そ
の抗体はすでにライブラリの一部である)への別の発現パターン、例えばHLA偽遺伝子
の結合をブロックまたはマスクしようとする場合、ライブラリの拡張(例えば新たなヒト
化抗体を作製することによる)は必要なく、むしろ既存のライブラリを抗体の提供に使用
することができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の個々の関連する免疫系を含む悪性腫瘍の逃避機構を回避するための方法であって、
(a)前記悪性腫瘍と前記免疫系との間の個々のコミュニケーション構造を決定する工程であって、
-前記悪性腫瘍上に存在する胚HLA群の少なくとも1つの発現パターンを決定することと、
-前記発現パターンの少なくとも一部にリガンドとして結合することができ、この結合に基づいて免疫担当細胞に抑制作用を及ぼすことができる、前記免疫系の免疫担当細胞上/内に存在する少なくとも1つの受容体タイプを決定すること
とを含む工程、および
(b)-前記少なくとも1つの決定された受容体タイプにリガンドとして特異的に結合し、結果として前記発現パターンの少なくとも一部がそこに結合することができないかまたはより小さな作用でしか結合できないように前記受容体をブロックまたはマスクする、
-ただし、それ自体は関連する前記免疫担当細胞を抑制しない
種類の抗体を提供する工程
を含み、前記少なくとも1つの受容体タイプが、KIR受容体、NKG2受容体、LIL-R受容体のうちの1つ以上を含む、方法。
【請求項2】
-免疫担当細胞の受容体に結合した後、前記免疫担当細胞に対する活性化作用を開始する種類の活性化抗体を提供する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a’)HLA-Cが過剰発現しているかどうかを判定する工程であって、HLA-Cが過剰発現している場合は、
-HLA-C群のHLA-C発現パターンを決定することと、
-前記HLA-C発現パターンの少なくとも一部にリガンドとして結合することができ、この結合に基づいて、免疫担当細胞に抑制または活性化作用を及ぼすことができる第二の受容体タイプを決定すること
とを含む工程、および
(b’)-前記第二の受容体タイプに特異的に結合し、結果として前記HLA-C発現パターンの少なくとも一部がそこに結合することができないかまたはより小さな作用でしか結合できないように前記第二の受容体をブロックまたはマスクする、
-ただし、それ自体は前記関連する免疫担当細胞を抑制または活性化しない
種類の第二の抗体を提供する工程
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【外国語明細書】