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特開2023-2719固有の損傷抵抗を有する化学強化可能なリチウムアルミノケイ酸塩ガラス
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  • 特開-固有の損傷抵抗を有する化学強化可能なリチウムアルミノケイ酸塩ガラス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002719
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】固有の損傷抵抗を有する化学強化可能なリチウムアルミノケイ酸塩ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20221227BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20221227BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/097
C03C21/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169118
(22)【出願日】2022-10-21
(62)【分割の表示】P 2018535017の分割
【原出願日】2017-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ホールジー ビール
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ジョン デイネカ
(72)【発明者】
【氏名】チアン フゥ
(72)【発明者】
【氏名】シニュー ゴメス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート マイケル モレナ
(72)【発明者】
【氏名】シャーリーン マリー スミス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオン交換されたときに、高レベルの固有の損傷抵抗を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラスを提供する。
【解決手段】深い層の深さ(DOL)を生じるために短時間(2~4時間)で、NaNOまたはKNOの少なくとも一方を含有する1つまたは多数のイオン交換浴中で化学強化できるLiO・Al・SiO・B族の一群のガラス組成物が提供される。ある場合には、DOLは少なくとも70μmであり、他の例では、少なくとも100μmである。イオン交換されたガラスは、ナトリウムアルミノケイ酸塩ガラスの損傷抵抗よりもよいかまたは少なくとも匹敵する、高い損傷抵抗(10kgf(98N)超から50kgf(480N)超に及ぶ押込み破壊靭性)を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムアルミノケイ酸塩ガラスであって、
69モル%から75モル%のSiO
10モル%から14モル%のAl
2.4モル%から7.5モル%のB
7モル%から10モル%のLiO、
0.2モル%から4モル%のNaO、
0モル%から1モル%のKO、および
0モル%から4モル%のP
を含む、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項2】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、69.5モル%から75モル%のSiOを含む、請求項1記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項3】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、2.5モル%から7.5モル%のBを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項4】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、8モル%から10モル%のLiOを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項5】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0.6モル%から4モル%のNaOを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項6】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から1モル%のPを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項7】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から1モル%のKOを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項8】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から1モル%のMgOを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項9】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から1モル%のZnOを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項10】
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0.05モル%から0.5モル%のSnOを含む、請求項1または2記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2016年1月8日に出願された米国仮特許出願第62/276431号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【0002】
また、本願は、2017年1月6日に出願された特願2018-535017号の分割出願である。
【技術分野】
【0003】
本開示は、イオン交換可能なガラスに関する。より詳しくは、本開示は、イオン交換堪能なリチウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する。さらにより詳しくは、本開示は、イオン交換されたときに、高レベルの固有の損傷抵抗を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する。
【背景技術】
【0004】
溶融過程および成形過程を容易にしつつ、イオン交換特性およびより高い損傷抵抗を改善するために、新たなガラス組成物の開発において、持続的な努力が行われてきた。押込み閾値が高い多くのガラスは、SiO・Al・B・MgO・NaO・Pガラス系に基づく。ホウ素またはリンの存在により生じる開放構造(すなわち、高いモル体積)は、高い固有損傷抵抗(IDR)をもたらす。
【発明の概要】
【0005】
LiO・Al・SiO・B族の一群のガラス組成物が提供される。これらのガラスは、深い層の深さ(DOL)を生じるために短時間(2~4時間)で、NaNOまたはKNOの少なくとも一方を含有する1つまたは多数のイオン交換浴中で化学強化することができる。ある場合には、DOLは、少なくとも70μmであり、他の例では、少なくとも100μmである。イオン交換されたガラスは、ナトリウムアルミノケイ酸塩ガラスの損傷抵抗よりもよいかまたは少なくとも匹敵する、高い損傷抵抗(10kgf(98N)超から50kgf(480N)超に及ぶ押込み破壊靭性)を有する。
【0006】
したがって、本開示の1つの態様は、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスを提供することにある。そのガラスは、約55モル%から約75モル%のSiO、約9モル%から約18モル%のAl、約2.5モル%から約20モル%のB、約3モル%から約20モル%のLiO、および0モル%から約4モル%のPを含む。
【0007】
本開示の別の態様は、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスを提供することにある。そのガラスは、イオン交換されており、少なくとも1つの表面からガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有する。その圧縮層は、その表面で少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する。そのガラスは、少なくとも10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値および少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値も有する。
【0008】
本開示の第1の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。そのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約55モル%から約75モル%のSiO、約10モル%から約18モル%のAl、約3.5モル%から約9.5モル%のB、約7モル%から約14モル%のLiO、および0モル%から約4モル%のPを含み、LiO(モル%)/RO(モル%)は約0.1から約0.4の範囲にあり、式中、RO=LiO+NaO+KO+RbO+CsOである。
【0009】
本開示の第2の態様によれば、第1の態様のリチウムアルミノケイ酸塩ガラスはイオン交換されている。
【0010】
本開示の第3の態様によれば、第2の態様のイオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも1つの表面からガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、その圧縮層は少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する。
【0011】
本開示の第4の態様によれば、第3の態様のイオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスにおいて、圧縮層は、表面下50μmの深さで少なくとも約100MPaの圧縮応力を有する。
【0012】
本開示の第5の態様によれば、第2から第4の態様のいずれかのイオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値を有する。
【0013】
本開示の第6の態様によれば、第2から第5の態様のいずれかのイオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値を有する。
【0014】
本開示の第7の態様によれば、第1から第6の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約10kPの液相粘度を有する。
【0015】
本開示の第8の態様によれば、第1から第7の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約840℃以下の軟化点を有する。
【0016】
本開示の第9の態様によれば、第1から第8の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約510℃の徐冷点を有する。
【0017】
本開示の第10の態様によれば、第1から第9の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約68GPaの弾性率を有する。
【0018】
本開示の第11の態様によれば、RO(モル%)-A(モル%)が約-2モル%から約5.6モル%の範囲にある、第1から第10の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0019】
本開示の第12の態様によれば、Al(モル%)>B(モル%)である、第1から第11の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0020】
本開示の第13の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、約58モル%から約69モル%のSiO、約10モル%から約17モル%のAl、約3.5モル%から約9.5モル%のB、0モル%から約2.5モル%のP、約7モル%から約14モル%のLiO、約0.2モル%から約14モル%のNaO、0モル%から約2.5モル%のKO、0モル%から約5モル%のMgO、および0モル%から約4モル%のZnOを含み、LiO(モル%)/RO(モル%)は約0.1から約0.4の範囲にある、第1から第12の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0021】
本開示の第14の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、約5モル%から約9モル%のB、約7モル%から約10モル%のLiO、約4モル%から約14モル%のNaO、および0モル%から約1モル%のKOを含む、第1から第13の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0022】
本開示の第15の態様によれば、(Al(モル%)+B(モル%))/RO(モル%)が約0.9から約1.9の範囲にある、第1から第14の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0023】
本開示の第16の態様によれば、RO(モル%)+R’O(モル%)-Al(モル%)-B(モル%)-P(モル%)が約-10.5モル%から約-0.11モル%の範囲にあり、式中、R’O=MgO+CaO+SrO+BaOである、第1から第15の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0024】
本開示の第17の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが約5モル%から約12モル%のLiOを含む、第1から第16の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0025】
本開示の第18の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から約5モル%のNaO、0モル%から約4モル%のKO、0モル%から約8モル%のMgO、0モル%から約4モル%のZnO、0モル%から約5モル%のTiO、および0モル%から約3モル%のPを含む、第1から第17の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0026】
本開示の第19の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、約55モル%から約60モル%のSiO、約12モル%から約15モル%のAl、約3.5モル%から約7.5モル%のB、約7モル%から約10モル%のLiO、および0モル%から約3モル%のPを含む、第1から第18の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0027】
本開示の第20の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが約5モル%から約7モル%のBを含む、第1から第19の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0028】
本開示の第21の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、約0モル%から約5モル%のNaO、および約0.05モル%から約0.5モル%のSnOを含む、第1から第20の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0029】
本開示の第22の態様によれば、家庭用電化製品が提供される。その家庭用電化製品は、前面、背面および側面を有する筐体と;その筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品と;そのディスプレイを覆って配置されたカバーガラスとを備え、その筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも一方は、第1から第21の態様のいずれかによるリチウムアルミノケイ酸塩ガラスから作られている。
【0030】
本開示の第23の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。そのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約55モル%から約75モル%のSiO、約10モル%から約18モル%のAl、約2.5モル%から約7.5モル%のB、約5モル%から約14モル%のLiO、0モル%から約4モル%のP、および0モル%から約1モル%のKOを含み、LiO(モル%)/RO(モル%)は約0.1から約0.4の範囲にあり、RO=LiO+NaO+KO+RbO+CsOであり、RO(モル%)+R’O(モル%)-Al(モル%)-B(モル%)-P(モル%)が約-10.5モル%から約-0.11モル%の範囲にあり、R’O=MgO+CaO+SrO+BaOである。
【0031】
本開示の第24の態様によれば、第23の態様のリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、イオン交換されている。
【0032】
本開示の第25の態様によれば、第24の態様のイオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも1つの表面からガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、その圧縮層は少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する。
【0033】
本開示の第26の態様によれば、第25の態様のイオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスにおいて、圧縮層は、表面下50μmの深さで少なくとも約100MPaの圧縮応力を有する。
【0034】
本開示の第27の態様によれば、第23から第26の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値を有する。
【0035】
本開示の第28の態様によれば、第23から第27の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値を有する。
【0036】
本開示の第29の態様によれば、第23から第28の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約10kPの液相粘度を有する。
【0037】
本開示の第30の態様によれば、第23から第29の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約840℃以下の軟化点を有する。
【0038】
本開示の第31の態様によれば、第23から第30の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約510℃の徐冷点を有する。
【0039】
本開示の第32の態様によれば、第23から第31の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約68GPaの弾性率を有する。
【0040】
本開示の第33の態様によれば、RO(モル%)-A(モル%)が約-2モル%から約5.6モル%の範囲にある、第23から第32の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0041】
本開示の第34の態様によれば、Al(モル%)>B(モル%)である、第23から第33の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0042】
本開示の第35の態様によれば、(Al(モル%)+B(モル%))/RO(モル%)が約0.9から約1.9の範囲にある、第23から第34の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0043】
本開示の第36の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から約5モル%のNaO、0モル%から約8モル%のMgO、0モル%から約4モル%のZnO、0モル%から約5モル%のTiO、および0モル%から約3モル%のPを含む、第23から第35の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0044】
本開示の第37の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが約5モル%から約7モル%のBを含む、第23から第36の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0045】
本開示の第38の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、0モル%から約5モル%のNaO、および約0.05モル%から約0.5モル%のSnOを含む、第23から第37の態様のいずれかのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。
【0046】
本開示の第39の態様によれば、家庭用電化製品が提供される。その家庭用電化製品は、前面、背面および側面を有する筐体と;その筐体内に少なく部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品と;そのディスプレイを覆って配置されたカバーガラスとを備え、その筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも一方は、第23から第38の態様のいずれかによるリチウムアルミノケイ酸塩ガラスから作られている。
【0047】
本開示の第40の態様によれば、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが提供される。そのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、イオン交換されており、少なくとも1つの表面からガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、その圧縮層は少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有し、そのガラスは、少なくとも約10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値および少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値を有する。
【0048】
本開示の第41の態様によれば、家庭用電化製品が提供される。その家庭用電化製品は、前面、背面および側面を有する筐体と;その筐体内に少なく部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品と;そのディスプレイを覆って配置されたカバーガラスとを備え、その筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも一方は、第40の態様のリチウムアルミノケイ酸塩ガラスから作られている。
【0049】
本開示のこれらと他の態様、利点、および顕著な特色は、以下の詳細な説明、添付図面、および付随の特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】イオン交換されたガラス物品の断面図
図2】本開示のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス(A)およびガラスセラミック(B)に関するガラスの表面からガラスの内側部分のNa濃度プロファイルをプロットしたグラフ
図3】3.5時間に亘りNaNO中において390℃でイオン交換された本開示のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス、およびKNO中のイオン交換後のナトリウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する押込み破壊閾値をプロットしたグラフ
図4a】10kgf(98N)、30kgf(294N)、および50kgf(490N)の圧子の荷重下での、図3にプロットされたイオン交換済みのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスにおけるビッカース圧痕の光学顕微鏡画像
図4b】10kgf(98N)、30kgf(294N)、および50kgf(490N)の圧子の荷重下での、図3にプロットされたイオン交換済みのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスにおけるビッカース圧痕の光学顕微鏡画像
図4c】10kgf(98N)、30kgf(294N)、および50kgf(490N)の圧子の荷重下での、図3にプロットされたイオン交換済みのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスにおけるビッカース圧痕の光学顕微鏡画像
図5A】ここに開示された物品のいずれかを備えた例示の電子機器の平面図
図5B図5Aの例示の電子機器の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下の記載において、図面に示されたいくつかの図に亘り、同様の参照文字は、同様のまたは対応する部品を示す。「上部」、「下部」、「外方」、「内方」などの用語は、特に明記のない限り、便宜上の単語であり、制限用語と解釈すべきではないことが理解されよう。その上、群が、複数の要素およびその組合せの群の内の少なくとも1つを含むと記載されているときはいつでも、その群は、個別、または互いの組合せのいずれかで、列挙されたそれらの要素のいくつを含んでも、いくつから実質的になっても、またはいくつからなってもよいことが理解されよう。同様に、群が、複数の要素およびその組合せの群の内の少なくとも1つからなると記載されているときはいつでも、その群は、個別、または互いの組合せのいずれかで、列挙されたそれらの要素のいくつからなってもよいことが理解されよう。特に明記のない限り、値の範囲は、列挙された場合、その範囲の上限と下限の両方、並びにそれらの間のいずれの範囲も含む。ここに用いたように、名詞は、特に明記のない限り、「少なくとも1つ」または「1つ以上」の対象を指す。明細書および図面に開示された様々な特徴は、いずれの組合せおよび全ての組合せでも使用できることも理解されよう。
【0052】
ここに用いたように、「ガラス物品」という用語は、全体がまたは部分的にガラスから製造されたどの物体も含むように最も広い意味で使用される。特に明記のない限り、全ての組成物は、モルパーセント(モル%)で表される。熱膨張係数(CTE)は、10-7/℃で表され、特に明記のない限り、約20℃から約300℃の温度範囲に亘り測定された値を示す。
【0053】
特に明記のない限り、全ての温度は、摂氏温度(℃)で表される。ここに用いたように、「軟化点」という用語は、ガラスの粘度が約107.6ポアズ(P)である温度を称し、「徐冷点」という用語は、ガラスの粘度が約1013.2ポアズ(P)である温度を称し、「200ポアズ温度(T200P)」という用語は、ガラスの粘度が約200ポアズである温度を称し、「1ポアズ温度(T200P)」という用語は、ガラスの粘度が約200ポアズである温度を称し、「1011ポアズ温度」という用語は、ガラスの粘度が約1011ポアズである温度を称し、「35kP温度(T35kP)」という用語は、ガラスの粘度が約35キロポアズ(kP)である温度を称し、「160kP温度(T160kP)」という用語は、ガラスの粘度が約160kPである温度を称する。ここに用いたように、「液相温度」または「T」という用語は、溶融ガラスが溶融温度から冷めるときに、結晶が最初に現れる温度、または温度を室温から上昇させるときに、一番最後の結晶が溶ける温度を称する。
【0054】
「実質的に」および「約」という用語は、任意の定量的比較、値、測定、または他の表現に帰することがある不確定性の固有の程度を表すためにここに使用してよいことに留意のこと。これらの用語も、定量的表現が、問題となっている主題の基本機能を変化させずに、規定の基準から変動してもよい程度を表すためにここに使用される。それゆえ、「MgOを実質的に含まない」ガラスは、MgOが、ガラスに積極的に加えられていないまたはバッチ配合されていないが、汚染物質として非常に少量(例えば、0.1モル%未満)で存在するかもしれないものである。
【0055】
概して図面を、特に、図1を参照すると、図解は、特定の実施の形態を記載する目的のためであり、本開示または付随の特許請求の範囲をそれに制限する意図はないことが理解されよう。図面は、必ずしも、一定の縮尺で描かれておらず、図面の特定の特徴および特定の視野は、明確さおよび簡潔さのために、尺度および図式が誇張されて示されていることがある。
【0056】
化学強化されたときに、ビッカース亀裂発生閾値およびヌープ引掻き試験により特徴付けられるような-特有の損傷抵抗または固有の損傷抵抗とも称される-高レベルの損傷抵抗を示す、イオン交換可能なリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、ここに開示されている。これらのガラスは、概して、類似のナトリウムアルカリアルミノケイ酸塩ガラスがカリウム塩(例えば、KNO)中でイオン交換されるよりも速い速度で、ナトリウム塩(例えば、NaNO)中でイオン交換されるであろう。より深い圧縮の深さ(「層の深さ」または「DOL」とも称される)も、そのリチウム含有ガラスにより低い温度で達成されるであろう。ガラス中においてNaがLiを置き換える場合の拡散の速度は、ガラス中のNaのKによる交換よりも約10倍速いであろう。混合塩浴を使用すると、NaのKによる交換およびLiのNaによる交換の両方が生じる二重イオン交換が可能になり、LiのNaによる交換のために深い圧縮の深さおよびNaのKによる交換のために高い表面圧縮応力がもたらされるであろう。
【0057】
ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約55モル%から約75モル%のSiO(55モル%≦SiO≦75モル%)、約9モル%から約18モル%のAl(9モル%≦Al≦18モル%)、約2.5モル%から約20モル%のB(2.5モル%≦B≦20モル%)、約3モル%から約20モル%のLiO(3モル%≦LiO≦20モル%)、および0モル%から約4モル%のP(0モル%≦P≦4モル%)を含む、またはから実質的になる。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、0モル%から約5モル%のNaO、0モル%から約4モル%のKO、0モル%から約8モル%のMgO、0モル%から約4モル%のZnO、および0モル%から約5モル%のTiOの内の少なくとも1つをさらに含む。
【0058】
特別な実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約55モル%から約75モル%のSiO、約10モル%から約18モル%のAl、0モル%から約20モル%のB、約5モル%から約14モル%のLiO、0モル%から約5モル%のNaO、0モル%から約4モル%のKO、0モル%から約8モル%のMgO、0モル%から約4モル%のZnO、0モル%から約5モル%のTiO、0モル%から約4モル%のP、および約0.05モル%から約0.5モル%のSnOを含む、またはから実質的になる。さらに具体的には、そのガラスは、約55モル%から約60モル%のSiO(55モル%≦SiO≦60モル%)、約12モル%から約15モル%のAl(12モル%≦Al≦15モル%)、約2.5モル%から約7.5モル%のB(2.5モル%≦B≦7.5モル%)、約7モル%から約10モル%のLiO(7モル%≦LiO≦10モル%)、および0モル%から約3モル%のP(0モル%≦P≦3モル%)を含む、またはから実質的になる。Bが約5モル%から約7モル%の範囲にあることが最も好ましい。そのようなガラスの組成の非限定的例および基準組成(9667)が、表1に列挙されている。
【0059】
【表1】
【0060】
特別な実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約58モル%から約69モル%のSiO(58モル%≦SiO≦69モル%)、約9モル%から約17モル%のAl(9モル%≦Al≦17モル%)、約3.5モル%から約9.5モル%のB(3.5モル%≦B≦9.5モル%)、0モル%から約2.5モル%のP(0モル%≦P≦4モル%)、約2.5モル%から約12モル%のLiO(2.5モル%≦LiO≦12モル%)、約0.2モル%から約12モル%のNaO(0.2モル%≦NaO≦13モル%)、0モル%から約2.5モル%のKO(0モル%≦KO≦2.5モル%)、0モル%から約5モル%のMgO(0モル%≦MgO≦5モル%)、および/または0モル%から約4モル%のZnO(0モル%≦ZnO≦4モル%)を含む、またはから実質的になる。より詳しくは、そのガラスは、約5モル%から約9モル%のB(5モル%≦B≦9モル%)、約4モル%から約10モル%のLiO(4モル%≦LiO≦10モル%)、約4モル%から約14モル%のNaO(4モル%≦NaO≦14モル%)、0モル%から約1モル%のKO(0モル%≦KO≦1モル%)、0モル%から約3モル%のMgO(0モル%≦MgO≦3モル%)、および/または0モル%から約3モル%のZnO(0モル%≦ZnO≦3モル%)を含むことがある。これらのガラスは、約0.05モル%から約0.5モル%のSnO(0.05≦SnO≦0.5モル%)をさらに含むことがある。そのようなガラスの組成の非限定的例が、表2に列挙されている。
【0061】
いくつかの実施の形態において、(LiO(モル%)/RO(モル%))は約0.1から約0.5の範囲にあり(0.1≦(LiO(モル%)/RO(モル%))≦0.5)、式中、RO=LiO+NaO+KO+RbO+CsOである。
【0062】
いくつかの実施の形態において、RO(モル%)-Al(モル%)は、約-2モル%から約5.6モル%の範囲にあり、式中、RO=LiO+NaO+KO+RbO+CsOである。いくつかの実施の形態において、Al(モル%)>B(モル%)。いくつかの実施の形態において、(Al(モル%)+B(モル%))/RO(モル%)は、約0.9から約1.9の範囲にある。いくつかの実施の形態において、RO(モル%)+R’O(モル%)-Al(モル%)-B(モル%)-P(モル%)は、約-10.5モル%から約-0.11モル%の範囲にあり、式中、R’O=MgO+CaO+SrO+BaOである。
【0063】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、典型的に約900℃超の軟化点を有する、ナトリウムの類似物よりも低い軟化点を有する。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスの軟化点は約840℃以下である。特定の実施の形態において、そのガラスの軟化点は、約820℃以下、さらに他の実施の形態において、約800℃以下である。これらの低い軟化点は、ナトリウムの類似物の熱膨張係数(CTE)よりも低いCTEを伴う。より低いCTEは、ガラスシートを再成形するときに寸法安定性を維持する上で重要である。平らなプレートとしての使用に加え、本発明のガラスの比較的低いCTEにより、三次元物品としての使用および自動車用途における使用が可能になる。
【0064】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、少なくとも約500℃の徐冷点を有する。特定の実施の形態において、そのガラスの徐冷点は少なくとも約520℃であり、さらに他の実施の形態において、徐冷点は少なくとも約530℃である。
【0065】
選択されたガラス組成に関する密度、歪み点、軟化点、徐冷点、および熱膨張係数(CTE)が、表2に列挙されている。
【0066】
【表2-1】
【0067】
【表2-2】
【0068】
【表2-3】
【0069】
【表2-4】
【0070】
【表2-5】
【0071】
【表2-6】
【0072】
【表2-7】
【0073】
【表2-8】
【0074】
【表2-9】
【0075】
【表2-10】
【0076】
【表2-11】
【0077】
【表2-12】
【0078】
【表2-13】
【0079】
【表2-14】
【0080】
【表2-15】
【0081】
ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、いくつかの実施の形態において、少なくとも約68ギガパスカル(GPa)の弾性率を有することがある。
【0082】
リチウムケイ酸塩ガラスの例示の組成に加え、これらの例示のガラスの歪み点、徐冷点、および軟化点;CTE;並びに密度を含む物理的性質が、表2列挙されている。歪み点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法を使用して決定した。徐冷点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法を使用して決定した。軟化点は、ASTM C1351M-96(2012)の平行プレート粘度法を使用して決定した。温度範囲0~300℃に亘る線熱膨張係数(CTE)は、ppm/Kで表されており、ASTM E228-11にしたがうプッシュロッド膨脹計を使用して決定した。密度は、ASTM C693-93(2013)の浮力法を使用して決定した。
【0083】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約10,000ポアズ(P)超、特定の実施の形態において、100,000P超の液相粘度を有する。いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、フュージョンドロー法などのフュージョン法に適合しており、成形に使用されるジルコン製ハードウェアに適合している。しかしながら、いくつかの実施の形態(例えば、表1の例3)において、これらのガラスは、液相粘度が低く、したがって、フュージョン成形可能ではない。これらの場合には、ガラスは、スロットドロー法、フロート法、および当該技術分野で公知の他のシート形成法により形成されるであろう。
【0084】
ここに記載されたガラスは、以下に限られないが、約0.2mmから約2mmまで、いくつかの実施の形態において、約0.5mmから約1.5mmに及ぶ厚さを有する平らなプレートおよび三次元物品などの物品に形成されることがある。
【0085】
粘度および機械的性能は、ガラス組成に影響を受ける。ここに記載されたガラス組成において、SiOは、主要なガラス形成酸化物としての機能を果たし、網目構造を安定化させる働きをすることができる。民生用途に適した十分に高い化学的耐久性をガラスに与えるために、SiOの濃度は十分に高いべきである。しかしながら、純粋なSiOまたはSiOの含有量が高いガラスの溶融温度(200ポアズ温度)は高すぎて、ガラスを特定の方法により加工することができない。さらに、SiOが存在すると、イオン交換により生じる圧縮応力が低下する。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、約57モル%から約73モル%のSiO、約59モル%から約71モル%のSiO、約61モル%から約69モル%のSiO、約63モル%から約67モル%のSiO、約55モル%から約60モル%のSiO、約58モル%から約69モル%のSiO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのような約55モル%から約75モル%のSiOを含む。
【0086】
Alも、これらのガラスにおけるガラス形成材としての機能を果たすことがある。SiOのように、アルミナは、概して、溶融物の粘度を上昇させ、アルカリまたはアルカリ土類に対してAlを増加させると、概して、耐久性が改善される。アルミニウムイオンの構造的役割は、ガラス組成に依存する。アルカリ金属酸化物(RO)の濃度がアルミナ(Al)の濃度に近いかまたはそれより多い場合、全てのアルミニウムは、アルカリ金属イオンが荷電平衡体として働くことにより、四面体配位に見つかる。これは、ここに記載されたガラスの全てに当てはまる。一般に、Alは、アルカリイオンの比較的速い拡散性を可能にしつつ、強力な網目構造骨格(すなわち、高い歪み点)を可能にするので、イオン交換可能なガラスにおいて重要な役割を果たす。しかしながら、Alの濃度が高いと、概して、液相粘度が低下し、それゆえ、Alの濃度を妥当な範囲内に制御する必要がある。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、約10モル%から約18モル%のAl、約12モル%から約16モル%のAl、約12モル%から約15モル%のAl、約9モル%から約17モル%のAl、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように約9モル%から約18モル%のAlを含む。
【0087】
アルカリ酸化物(LiO、NaO、KO、RbO、およびCsO)は、低い溶融温度および低い液相温度を達成する上で補助の役割を果たす。他方で、アルカリ酸化物を添加すると、熱膨張係数(CTE)が劇的に増加し、化学的耐久性が低下してしまう。最も重要なことには、イオン交換を行うために、塩浴などのイオン交換媒体からのより大きいアルカリイオン(例えば、K)と交換するには、LiOおよびNaOなどの小さいアルカリ酸化物が少なくとも1種類存在する必要がある。一般に、三種類のイオン交換を行うことができる:深い層の深さをもたらすが、低い圧縮応力をもたらす、LiのNaによる交換;浅い層の深さをもたらすが、比較的大きい圧縮応力をもたらす、LiのKによる交換;および中位の層の深さと圧縮応力をもたらす、NaのKによる交換。圧縮応力は、ガラスから交換されて出て行くアルカリイオンの数に比例するので、ガラスに大きい圧縮応力を生じるためには、十分に高濃度の少なくとも1種類の小さいアルカリ酸化物が必要である。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、約3モル%から約20モル%のLiO、約4モル%から約18モル%のLiO、約5モル%から約16モル%のLiO、約6モル%から約14モル%のLiO、約5モル%から約14モル%のLiO、約7モル%から約10モル%のLiO、約2.5モル%から約12モル%のLiO、約4モル%から約10モル%のLiO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように約2.5モル%から約20モル%のLiOを含む。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、0モル%から約5モル%のNaO、約0.2モル%から約12モル%のNaO、約4モル%から約14モル%のNaO、約0.2モル%から約14モル%のNaO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約14モル%のNaOを含む。ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、0モル%から約2.5モル%のKO、0モル%から約1モル%のKO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約4モル%のKOを含むことがある。
【0088】
高い液相粘度を達成し、それゆえ、ダウンドロー法によって、特にフュージョンドロー法によって、成形を行うために、LiOガラスは、モル基準で全アルカリ酸化物含有量の半分未満を占めるべきである。LiO/(LiO+NaO+KO+RbO+CsO)が0.5を超えると、スポジュメンの液相線が上昇し、そのガラスはもはや、フュージョン技法には適合しない。それゆえ、いくつかの実施の形態において、LiO/(LiO+NaO+KO+RbO+CsO)は、0.1≦LiO/(LiO+NaO+KO+RbO+CsO)≦0.4、0.2≦LiO/(LiO+NaO+KO+RbO+CsO)≦0.4、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように、約0.1から約0.5の範囲にある。しかしながら、イオン交換後の深さで高い圧縮応力を達成するために、LiO含有量を最大にすることが望ましい。したがって、40μmより深い深さで100MPa超の圧縮応力を達成するために、LiO含有量は、約4モル%超、いくつかの実施の形態において、好ましくは約5モル%超であるべきであり、また約10モル%未満であるべきである。
【0089】
Oが存在すると、NaのKによるイオン交換の速度が上昇するが、イオン交換後の圧縮応力が劇的に低下する。いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、約2.5モル%未満のKOを含むべきであり、特定の実施の形態において、KO濃度は1モル%を超えないべきである。
【0090】
二価陽イオン酸化物(アルカリ土類酸化物および酸化亜鉛など)もガラスの溶融挙動を改善する。しかしながら、イオン交換性能に関して、二価陽イオンの存在は、アルカリ陽イオンの移動性を低下させる働きをする。このイオン交換性能に対するマイナスの効果は、より大きい二価陽イオンに関して特に著しい。さらに、より小さい二価陽イオン酸化物は、概して、より大きい二価陽イオン酸化物よりも、圧縮応力を増大させるのに役立つ。それゆえ、MgOは、アルカリの拡散性に対する悪影響を最小にしつつ、改善された応力緩和に関していくつかの利点を提示する。しかしながら、MgOの含有量が多いと、ガラスは、フォルステライト(MgSiO)を形成する傾向があり、これにより、MgOの濃度が特定のレベルより高く上昇するにつれて、液相温度が非常に急激に上昇してしまう。いくつかの実施の形態において、MgOは、ガラス中に存在する唯一の二価陽イオン酸化物である。他の実施の形態において、ここに記載されたガラスは、MgOおよびZnOの少なくとも一方を含有することがある。したがって、これらのガラスは、いくつかの実施の形態において、0モル%から約6モル%のMgO、0モル%から約5モル%のMgO、0モル%から約3モル%のMgO、0モル%から約1モル%のMgO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約8モル%のMgOを含むことがある。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、0モル%から約3モル%のZnO、0モル%から約2モル%のZnO、0モル%から約1モル%のZnO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約4モル%のZnOを含むことがある。
【0091】
ホウ素が、アルカリ酸化物または二価陽イオン酸化物により荷電平衡されていない場合、ホウ素は三方配位状態にあり、それゆえ、ガラス構造を開く。三方配位ホウ素の周りの網目構造は、四面体配位ホウ素を取り囲むものほど剛性ではない;それらの結合は、「柔軟(すなわち、弾性、可撓性、もしくは曲げまたは引き伸ばしが可能)」であり、したがって、ガラスが、亀裂形成前にある程度の変形を許容することができる。さらに、ホウ素は、溶融粘度を低下させ、ガラスのジルコン破壊粘度を抑制するのに効果的に役立つ。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、約2.5モル%から約20モル%のB、約3モル%から約18モル%のB、約3.5モル%から約16モル%のB、約4モル%から約16モル%のB、約4.5モル%から約14モル%のB、約5モル%から約12モル%のB、約2.5モル%から約7.5モル%のB、約5モル%から約7モル%のB、約3.5モル%から約9.5モル%のB、約5モル%から約9モル%のB、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約20モル%のBを含有する。
【0092】
は、損傷抵抗を改善し、イオン交換を妨げない。いくつかの実施の形態において、ガラスにリンを添加すると、シリカ(ガラス中のSiO)が、四面体配位アルミニウムとリンからなる、リン酸アルミニウム(AlPO)および/または四面体配位ホウ素とリンからなる、リン酸ホウ素(BPO)により置換された構造が生じる。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、0モル%から約3モル%のP、0モル%から約2.5モル%のP、0モル%から約1モル%のP、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約4モル%のPを含む。
【0093】
TiOは、ガラスセラミック物品が望ましい場合、内部核生成を生じる核形成剤としての機能を果たす。TiOの濃度が低すぎると、前駆体ガラスは結晶化しない。その濃度が高すぎると、前駆体ガラスの形成中の冷却の際に、失透を制御するのが難しくなり得る。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、0モル%から約4モル%のTiO、0モル%から約3モル%のTiO、0モル%から約2モル%のTiO、0モル%から約1モル%のTiO、またはその中に入る任意の部分的な範囲などのように0モル%から約5モル%のTiOを含むことがある。
【0094】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、以下に限られないが、SnO、As、Sbなどの清澄剤を少なくとも1種類さらに含むことがある。環境と毒性の懸念のために、AsおよびSbは典型的にガラスに含まれない。したがって、ここに記載されたガラスは、AsおよびSbを典型的に含まず、いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、約0.05モル%から約0.5モル%のSnOを含むことがある。
【0095】
希土類酸化物は、ガラスの硬度および弾性率を上昇させるであろうが、それらは、イオン交換を妨げ、ガラスの密度と費用を上昇させ、ガラスに色を与えることがある。したがって、希土類酸化物の全含有量は0.1モル%未満に制限することが望ましい。
【0096】
いくつかの態様において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、ガラスの表面に圧縮層を形成することによって強化される。特定の実施の形態において、これらのガラスは、化学強化され、特定の実施の形態において、イオン交換により化学強化される。
【0097】
イオン交換は、ガラス中のより小さい陽イオンが、溶融塩浴またはペーストなどのイオン交換媒体中に存在するより大きい陽イオンと交換される過程である。特定の実施の形態において、イオン交換は、そのより大きい陽イオンの塩を実質的に含む溶融塩浴中にガラスを浸漬することによって行われる。そのイオン交換浴は、ガラス中に存在するより小さい陽イオンの塩も含むことがある。ここに用いたように、「実質的に含む」という用語は、溶融塩浴中に他の成分も存在することがあることを意味する。そのような成分としては、以下に限られないが、溶融塩による浴の容器またはガラス物品の攻撃を低下させる働きをする化合物が挙げられるであろう。そのような追加の成分としては、以下に限られないが、ケイ酸、ゲル形態のアルミナ、ゲル形態のシリカなどのガラスの選択された成分が挙げられるであろう。
【0098】
イオン交換されたガラス物品の断面図が、図1に示されている。ガラス物品100は、厚さt、第一面110、および第二面112を有する。ガラス物品100は、いくつかの実施の形態において、約1mmまでの厚さtを有する。図1に示された実施の形態は、平らな平面シートまたはプレートとしてガラス物品100を示しているが、ガラス物品は、三次元形状または非平面形態などの他の形態を有してもよい。ガラス物品100は、第一面110からガラス物品100の内部への層の深さ(DOL)dまで延在する第1の圧縮層120を有する。図1に示された実施の形態において、ガラス物品100は、第二面112から第2の層の深さdまで延在する第2の圧縮層122も有する。第1と第2の圧縮層120、122の各々は、圧縮応力CS下にある。いくつかの実施の形態において、第1と第2の圧縮層120、122の各々は、それぞれ、第一面110と第二面112で最大の圧縮応力を有する。ガラス物品は、dからdまで延在する中央領域130も有する。中央領域130は、引張応力または中央張力(CT)下にあり、これが、層120および122の圧縮応力を打ち消すまたは相殺する。第1と第2の圧縮層120、122の層の深さd、dは、ガラス物品100の第一面と第二面110、112に対する鋭い衝撃により生じる傷の伝播からガラス物品100を保護し、一方で、少なくとも約900PMaの圧縮応力が、第1と第2の圧縮層120、122の深さd、dを貫通する傷の可能性を最小にする。
【0099】
ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、イオン交換されると、典型的に、そのナトリウム類似物に対して、深い層の深さおよび低い中央張力を示し、それゆえ、ガラスの非常に薄い(すなわち、0.5mm未満)シートを、壊れやすい挙動を受けやすくせずに、化学強化することができる。
【0100】
圧縮応力(表面CSを含む)は、有限会社折原製作所(日本国)により製造されているFSM-6000などの市販の計器を使用して表面応力計(FSM)によって測定される。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する、応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する。SOCは、次に、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題する、ASTM基準C770-16に記載された手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。
【0101】
ここに用いたように、DOLは、ここに記載された化学強化済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品における応力が圧縮から引張に変化する深さを意味する。DOLは、イオン交換処理に応じて、FSMまたは散乱光偏光器(SCALP)によって測定してよい。ガラス物品中の応力が、カリウムイオンをガラス物品中に交換することによって生じた場合、DOLを測定するために、FSMが使用される。応力が、ナトリウムイオンをガラス物品中に交換することによって生じた場合、DOLを測定するために、SCALPが使用される。ガラス物品中の応力が、カリウムイオンとナトリウムイオンの両方をガラス中に交換することによって生じた場合、DOLは、SCALPによって測定される。何故ならば、Naイオンの交換深さ(「ナトリウムDOL」)がDOLを表し、カリウムイオンの交換深さが、圧縮応力の大きさの変化を表す(しかし、圧縮から引張への応力の変化ではない)と考えられるからである。Kイオンの貫通深さ(「カリウムDOL」)は、イオン交換過程の結果としてのカリウム貫通深さを表す。カリウムDOLは、典型的に、ここに記載された物品のDOLより小さい。カリウムDOLは、CS測定に関して先に記載されたように、応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する、株式会社ルケオ(日本国、東京都)により製造されている市販のFSM-6000表面応力計などの表面応力計を使用して測定される。
【0102】
ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスに、ナトリウム塩、カリウム塩、またはナトリウム塩とカリウム塩の両方のいずれかを含有する少なくとも1つの溶融塩浴中におけるイオン交換過程を施してもよい。このイオン交換過程に、硝酸塩のNaNOおよびKNOが一般に使用される。ガラスは、表面上と物品中のある程度の深さまでイオン交換が行われるのに十分な時間に亘り塩浴中に保持される。1つの実施の形態において、ガラスは、所望のレベルのイオン交換を達成するために所定の期間に亘るNaNOを含む溶融塩浴中の浸漬によって化学強化される。イオン交換の結果として、両方ともLiよりイオン半径が大きいNaまたはKイオンによって、ガラス表面層内に含まれるLiイオンの置換によって、表面圧縮層が形成される。1つの実施の形態において、溶融塩浴の温度は約390℃であり、所定の期間は約1から4時間の範囲にある。他の実施の形態において、イオン交換は、約370℃から約390℃に及ぶ温度で少なくとも1つの溶融塩浴中で行われる。
【0103】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、一価銀陽イオンによるイオン交換を経ることがあり、よって、ガラス表面に抗菌特性が与えられる。Agのイオン半径はLiまたはNaのいずれのものより大きいので、これらのガラスの銀イオン交換により、ナトリウムとカリウムのみを含有するイオン交換済みガラスに観察されるよりも、圧縮応力の低下が小さくなる。
【0104】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスをイオン交換して、約7時間未満の期間に亘りイオン交換したときに、少なくとも約70μmの層の深さが達成されることがある。その上、これらのガラスをイオン交換して、ガラスの表面に、一段階イオン交換過程で少なくとも約500MPaの、または二段階イオン交換過程で少なくとも約600MPaの最大圧縮応力が達成されることがあり、あるガラスでは、一段階イオン交換過程で840MPaほど高く、二段階イオン交換過程で1000MPaほど高い最大圧縮応力がガラス表面で達成される。一段階または二段階いずれかのイオン交換過程を使用して、少なくとも700MPa、または少なくとも約800MPa、または少なくとも約900MPaの圧縮応力が達成されることがある。いくつかの実施の形態において、これらのイオン交換済みガラスにおける圧縮応力は、表面下100μm以上の深さで約50MPa以上であることがある。
【0105】
ここに記載されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスをイオン交換して、一段階または二段階いずれかのイオン交換過程により、少なくとも約70μm、いくつかの実施の形態において、少なくとも約100μm、さらに他の実施の形態において、少なくとも約150μmの圧縮層の深さが達成されることがある。一段階または二段階いずれかのイオン交換過程によってこれらの層の深さを達成するのに必要な370℃から約390℃に及ぶ温度でのイオン交換時間は、約7時間未満である。
【0106】
その圧縮層のプロファイルおよび深さは、イオン交換過程に関与するより大きい陽イオンの濃度プロファイルから決定されることがある。NaNO溶融塩浴中で3.5時間に亘り390℃でイオン交換された、1)リチウムアルミノケイ酸塩ガラス(表1の例3)およびガラスセラミック(4時間に亘り975℃でセラミック化されたコーニングコード9667;表1に列挙された公称組成)のガラスの表面から内部までのNa濃度プロファイルが、図2に示されている。いくつかの実施の形態において、NaO濃度プロファイルから決定された、少なくとも100μmの層の深さDOLが、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスに達成されることがある(図2の1)。
【0107】
表3には、表2から選択された組成に関する、一段階イオン交換の条件、CS、ガラス中のK貫通深さ、およびガラス中のNa貫通深さが列挙されている。表2から選択された組成に関する二段階イオン交換条件、仮想温度T、CS、およびDOLが、表4に列挙されている。
【0108】
【表3-1】
【0109】
【表3-2】
【0110】
【表4】
【0111】
ここに記載されたビッカース亀裂発生閾値は、圧子押込み荷重を0.2mm/分の速度でガラス表面に印加し、次いで、取り除くことによって決定される。最大圧子押込み荷重は10秒間に亘り保持される。圧子押込み亀裂閾値は、10個の圧痕の内の50%が、圧痕の角から広がる放射状/中央亀裂をいくつでも示す圧子押込み荷重で規定される。その閾値が既定のガラス組成について満たされるまで、最大荷重が増加させられる。全ての圧子押込み測定は、50%の相対湿度の室温で行われる。この試験は、ビッカース圧子と称される、小平面の間の角度が136°である正方形のピラミッド形ダイヤモンド製圧子の使用を含む。このビッカース圧子は、標準型微小硬さ試験(基準ASTM-E384-11)に使用されるものと同じであった。
【0112】
ここに用いたように、「ヌープ引掻き閾値」という用語は、横断亀裂の開始を指す。ヌープ閾値試験において、機械試験機がヌープダイヤモンドを保持し、横断亀裂の開始を決定するために、荷重を増加させながら、ガラスが引っ掻かれる。ここに用いたように、ヌープ引掻き閾値は、横断亀裂の開始である(5の圧子押込み事象の内の3つ以上)。ヌープ引掻き横断亀裂閾値試験において、最初に、ガラス物品および物品の試料を、試料集団に関する横断亀裂が開始する荷重範囲を特定するために、動的または上昇荷重下でヌープ圧子により引っ掻く。適用できる荷重範囲が一旦特定されたら、一連の増加する定荷重引掻き(荷重当たり最低で3以上)を行って、ヌープ引掻き閾値を特定する。ヌープ引掻き閾値範囲は、試験片を以下の3つの破損モードの内の1つと比較することによって決定できる:1)溝の幅の2倍超の、維持された横断表面亀裂、2)損傷は、溝内に含まれるが、溝の幅の2倍未満の横断表面亀裂があり、裸眼で見られる損傷がある、または3)溝の幅の2倍超の大きい表面下の横断亀裂の存在および/または引掻き傷の頂点での中央亀裂がある。
【0113】
ここに記載されたガラスは、NaNO中でイオン交換された場合、高い特有の損傷抵抗を示す、いくつかの実施の形態において、50キログラム重(kgf)(490N)を超えるビッカース亀裂発生閾値を達成することができる。このレベルの損傷抵抗は、例えば、6モル%のLiOを含有するここに記載されたガラスについて、3.5時間に亘るNaNO浴中の390℃でのイオン交換後に達成されるであろう。このビッカース亀裂発生閾値は、高レベルの固有の損傷抵抗を有する類似のナトリウムアルミノケイ酸塩ガラスが示すものと匹敵する-またはそれより大きい。図3は、本発明のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス(表1の例3、3.5時間に亘りNaNO浴中において390℃でイオン交換した)(図3のC)、並びに15~20kgf(147~196N)のIFTを有するフュージョン成形されたナトリウムアルミノケイ酸塩ガラスAおよびE(公称組成:67.6モル%のSiO、3.7モル%のB、12.7モル%のAl、13.7モル%のNaO、0.01モル%のKO、2.3モル%のMgO、および0.1モル%のSnO);30~40kgf(294~392N)のIFTを有するガラスB(公称組成:64.7モル%のSiO、5.1モル%のB、13.9モル%のAl、13.7モル%のNaO、2.4モル%のMgO、および0.08モル%のSnO);および15kgf(147N)のIFTを有するガラスD(公称組成:64.7モル%のSiO、5.1モル%のB、13.9モル%のAl、13.7モル%のNaO、2.4モル%のMgO、および0.08モル%のSnO)に関する、KNO中のイオン交換後に決定された押込み破壊閾値(IFT)をプロットしたグラフである。10kgf(98N)(図4のa)、30kgf(294N)(b)、および50kgf(490N)(c)の圧子の荷重下での、図3にプロットされたイオン交換済みのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスにおけるビッカース圧痕の光学顕微鏡画像が、図4に示されている。図4の画像は、横断亀裂が形成されない著しいガラスの緻密化を示し、そのガラスが高レベルの固有の損傷抵抗を有することを示す。
【0114】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、先に詳述されたようにイオン交換された場合、少なくとも10kgf(98N)、いくつかの実施の形態において、少なくとも15kgf(147N)、さらに他の実施の形態において、少なくとも約20kgf(196N)のビッカース亀裂発生閾値(VIT)を示すことがある。特定の実施の形態において、ビッカース亀裂発生閾値は、約10kgf(98N)から約35kgf(343N)の範囲にあり、ヌープ引掻き閾値(KST)は、約10ニュートン(N)から約20Nの範囲にある。
【0115】
一段階と二段階のイオン交換過程でイオン交換されたガラスに関するビッカース亀裂発生閾値(VIT)およびヌープ引掻き閾値(KST)が、それぞれ、表3および4に列挙されている。
【0116】
ここに開示された物品は、ディスプレイを備えた物品(またはディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む家庭用電化製品)、建築物品、輸送物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電気器具、またはある程度の透明性、引掻き抵抗性、耐摩耗性、またはその組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込むことができる。ここに開示された強化物品のいずれかが組み込まれた例示の物品が、図5Aおよび5Bに示されている。詳しくは、図5Aおよび5Bは、前面204、背面206、および側面208を有する筐体202;その筐体内に少なくとも部分的に内部にあり、または完全に中にあり、少なくとも制御装置、メモリ、および筐体の前面またはそれに隣接してあるディスプレイ210を含む電子部品(図示せず);およびそのディスプレイを覆うように筐体の前面にあるまたはそれを覆うカバー基板212を含む家庭用電子機器200を示している。いくつかの実施の形態において、カバー基板212および/または筐体は、ここに開示された強化物品のいずれかを含むことがある。
【0117】
典型的な実施の形態を説明目的のために述べてきたが、先の記載は、本開示の範囲または添付の特許請求の範囲に対する限定と考えるべきではない。したがって、本開示および付随の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱せずに、様々な改変、適用および代替手段が当業者に想起されるであろう。
【0118】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0119】
実施形態1
リチウムアルミノケイ酸塩ガラスであって、
約55モル%から約75モル%のSiO
約10モル%から約18モル%のAl
約3.5モル%から約9.5モル%のB
約7モル%から約14モル%のLiO、および
0モル%から約4モル%のP
を含み、
LiO(モル%)/RO(モル%)は約0.1から約0.4の範囲にあり、RO=LiO+NaO+KO+RbO+CsOである、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0120】
実施形態2
イオン交換されている、実施形態1に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0121】
実施形態3
前記イオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、少なくとも1つの表面から該ガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、該圧縮層は少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する、実施形態2に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0122】
実施形態4
前記圧縮層が、表面下50μmの深さで少なくとも約100MPaの圧縮応力を有する、実施形態3に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0123】
実施形態5
少なくとも約10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値を有する、実施形態2から4いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0124】
実施形態6
少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値を有する、実施形態2から4いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0125】
実施形態7
少なくとも約10kPの液相粘度を有する、実施形態1から6いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0126】
実施形態8
約840℃以下の軟化点を有する、実施形態1から7いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0127】
実施形態9
少なくとも約510℃の徐冷点を有する、実施形態1から8いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0128】
実施形態10
少なくとも約68GPaの弾性率を有する、実施形態1から9いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0129】
実施形態11
O(モル%)-A(モル%)が約-2モル%から約5.6モル%の範囲にある、実施形態1から10いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0130】
実施形態12
Al(モル%)>B(モル%)である、実施形態1から11いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0131】
実施形態13
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
約58モル%から約69モル%のSiO
約10モル%から約17モル%のAl
約3.5モル%から約9.5モル%のB
0モル%から約2.5モル%のP
約7モル%から約14モル%のLiO、
約0.2モル%から約14モル%のNaO、
0モル%から約2.5モル%のKO、
0モル%から約5モル%のMgO、および
0モル%から約4モル%のZnO、
を含み、
LiO(モル%)/RO(モル%)は約0.1から約0.4の範囲にある、実施形態1から12いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0132】
実施形態14
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
約5モル%から約9モル%のB
約7モル%から約10モル%のLiO、
約4モル%から約14モル%のNaO、および
0モル%から約1モル%のKO、
を含む、実施形態13に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0133】
実施形態15
(Al(モル%)+B(モル%))/RO(モル%)が約0.9から約1.9の範囲にある、実施形態1から14いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0134】
実施形態16
O(モル%)+R’O(モル%)-Al(モル%)-B(モル%)-P(モル%)が約-10.5モル%から約-0.11モル%の範囲にあり、式中、R’O=MgO+CaO+SrO+BaOである、実施形態1から15いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0135】
実施形態17
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが約5モル%から約12モル%のLiOを含む、実施形態1から12、15、および16いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0136】
実施形態18
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
0モル%から約5モル%のNaO、
0モル%から約4モル%のKO、
0モル%から約8モル%のMgO、
0モル%から約4モル%のZnO、
0モル%から約5モル%のTiO、および
0モル%から約3モル%のP
を含む、実施形態1から12、および15から17いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0137】
実施形態19
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
約55モル%から約60モル%のSiO
約12モル%から約15モル%のAl
約3.5モル%から約7.5モル%のB
約7モル%から約10モル%のLiO、および
0モル%から約3モル%のP
を含む、実施形態18に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0138】
実施形態20
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが約5モル%から約7モル%のBを含む、実施形態1から19いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0139】
実施形態21
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
約0モル%から約5モル%のNaO、および
約0.05モル%から約0.5モル%のSnO
を含む、実施形態1から12、15から17、および20いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0140】
実施形態22
家庭用電化製品において、
前面、背面および側面を有する筐体と;
前記筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および該筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品と;
前記ディスプレイを覆って配置されたカバーガラスと;
を備え、
前記筐体の一部または前記カバーガラスの少なくとも一方は、実施形態1から21いずれか1つのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスから作られている、家庭用電化製品。
【0141】
実施形態23
リチウムアルミノケイ酸塩ガラスであって、
約55モル%から約75モル%のSiO
約10モル%から約18モル%のAl
約2.5モル%から約7.5モル%のB
約5モル%から約14モル%のLiO、
0モル%から約4モル%のP、および
0モル%から約1モル%のKO、
を含み、
LiO(モル%)/RO(モル%)は約0.1から約0.4の範囲にあり、RO=LiO+NaO+KO+RbO+CsOであり、RO(モル%)+R’O(モル%)-Al(モル%)-B(モル%)-P(モル%)が約-10.5モル%から約-0.11モル%の範囲にあり、R’O=MgO+CaO+SrO+BaOである、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0142】
実施形態24
イオン交換されている、実施形態23に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0143】
実施形態25
前記イオン交換されたリチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、少なくとも1つの表面から該ガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、該圧縮層は少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する、実施形態24に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0144】
実施形態26
前記圧縮層が、表面下50μmの深さで少なくとも約100MPaの圧縮応力を有する、実施形態25に記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0145】
実施形態27
少なくとも約10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値を有する、実施形態24から26いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0146】
実施形態28
少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値を有する、実施形態24から27いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0147】
実施形態29
少なくとも約10kPの液相粘度を有する、実施形態23から28いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0148】
実施形態30
約840℃以下の軟化点を有する、実施形態23から29いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0149】
実施形態31
少なくとも約510℃の徐冷点を有する、実施形態23から30いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0150】
実施形態32
少なくとも約68GPaの弾性率を有する、実施形態23から31いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0151】
実施形態33
O(モル%)-A(モル%)が約-2モル%から約5.6モル%の範囲にある、実施形態23から32いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0152】
実施形態34
Al(モル%)>B(モル%)である、実施形態23から33いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0153】
実施形態35
(Al(モル%)+B(モル%))/RO(モル%)が約0.9から約1.9の範囲にある、実施形態23から34いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0154】
実施形態36
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
0モル%から約5モル%のNaO、
0モル%から約8モル%のMgO、
0モル%から約4モル%のZnO、
0モル%から約5モル%のTiO、および
0モル%から約3モル%のP
を含む、実施形態23から35いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0155】
実施形態37
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが約5モル%から約7モル%のBを含む、実施形態23から36いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0156】
実施形態38
前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスが、
0モル%から約5モル%のNaO、および
約0.05モル%から約0.5モル%のSnO
を含む、実施形態23から37いずれか1つに記載のリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0157】
実施形態39
家庭用電化製品であって、
前面、背面および側面を有する筐体と;
前記筐体内に少なく部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および該筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品と;
前記ディスプレイを覆って配置されたカバーガラスと;
を備え、
前記筐体の一部または前記カバーガラスの少なくとも一方は、実施形態23から38いずれか1つのリチウムアルミノケイ酸塩ガラスから作られている、家庭用電化製品。
【0158】
実施形態40
リチウムアルミノケイ酸塩ガラスであって、該リチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、イオン交換されており、少なくとも1つの表面から該ガラス中に少なくとも約70μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、該圧縮層は少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有し、前記ガラスは、少なくとも約10kgf(98N)のビッカース亀裂発生閾値および少なくとも約8Nのヌープ引掻き閾値を有する、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0159】
実施形態41
家庭用電化製品であって、
前面、背面および側面を有する筐体と;
前記筐体内に少なく部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品と;
前記ディスプレイを覆って配置されたカバーガラスと;
を備え、
前記筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも一方は、実施形態40のリチウムアルミノケイ酸塩ガラスから作られている、家庭用電化製品。
【符号の説明】
【0160】
100 ガラス物品
110 第一面
112 第二面
120 第1の圧縮層
122 第2の圧縮層
130 中央領域
200 家庭用電子機器
202 筐体
204 前面
206 背面
208 側面
210 ディスプレイ
212 カバー基板
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5A
図5B