(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000272
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】炭化水素系ポリマーの分解方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
C10G1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100991
(22)【出願日】2021-06-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発/石油化学原料化プロセス開発/石油化学原料化プロセス開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】片田 直伸
(72)【発明者】
【氏名】川谷 優也
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 学史
(72)【発明者】
【氏名】辻 悦司
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB04
4H129BC08
4H129BC14
4H129KA14
4H129KB02
4H129KC10Y
4H129KC16X
4H129KC16Y
4H129NA20
4H129NA21
4H129NA27
4H129NA37
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】炭化水素系ポリマーを分解して再生資源として有用な炭化水素を効率よく生成する炭化水素系ポリマーの分解方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ゼオライト触媒の存在下、溶媒中、加熱条件下、炭化水素系ポリマーを分解反応して炭化水素を生成する、炭化水素系ポリマーの分解方法であって、溶媒分子の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする、該方法に関する。炭化水素系ポリマーは、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリスチレンである。ゼオライトは、例えば、MFIゼオライト、または修飾型MFIゼオライトである。溶媒は、例えば、シクロオクタンなどの炭素数6~30の環状炭化水素である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト触媒の存在下、溶媒中、加熱条件下、炭化水素系ポリマーを分解反応して炭化水素を生成する、炭化水素系ポリマーの分解方法であって、
溶媒分子の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする、該方法。
【請求項2】
前記溶媒が、炭素数6~30の環状炭化水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒が、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン、シクロノナン、およびシクロデカンから選択される1種以上の分子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが、MFIゼオライトおよび修飾型MFIゼオライトから選択される1種以上のゼオライトである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素系ポリマーが、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリスチレンからなる群から選択される1種以上の炭化水素系ポリマー、またはその成形体および成形加工物のいずれかである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭化水素が、ナフサ、液化石油ガス、または軽油に相当する炭化水素から選択される少なくとも1種を含む炭化水素である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
炭化水素系ポリマーの分解反応に使用するための、ゼオライト触媒および炭素数6~30の環状炭化水素溶媒の組み合わせ使用であって、
該環状炭化水素溶媒の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする、該使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系ポリマーをゼオライト触媒により分解して炭化水素を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系プラスチック(特にポリオレフィンなどの炭化水素系ポリマー)は、成型が容易であるなどの理由から、需要が高まり続けている。しかしながら、プラスチックは、自然界で分解されにくいため、その処分(廃棄など)も問題となっている。したがって、持続可能な社会を実現するために、プラスチックのリサイクルが必要となる。リサイクルとしては、燃焼によるエネルギー回収、劣化したプラスチックの再利用、化学的分解による石油系物質の再生などがある。なかでも、石油系物質の再生はケミカルリサイクルとして有用であり、プラスチックからオレフィンおよびBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)などの有用な石油化学原料を生成することができれば、資源としてのサイクルの完成に寄与し得る。
【0003】
プラスチック(炭化水素系ポリマー)の分解反応として、ポリプロピレン(PP)の分解を、固体酸触媒である*BEAゼオライトの触媒下で行うことが試みられている。この反応は、無溶媒でも進行するが、ヘキサデカンを溶媒として添加すると、分解速度が上がることが報告されている(非特許文献1参照)。プラスチックの分解においては、さらに反応効率の向上、有用な物質の再生が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大道康平、酒井求、松方正彦、石油学会、第50回石油・石油化学討論会、2D03、発表要旨、「ゼオライト触媒による有機溶媒中のポリプロピレン分解反応の検討」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、炭化水素系ポリマーを分解して再生資源として有用な炭化水素を効率よく生成する炭化水素系ポリマーの分解方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記に挙げられる実施態様を含むが、これらに限定されるものではない。
[1] ゼオライト触媒の存在下、溶媒中、加熱条件下、炭化水素系ポリマーを分解反応して炭化水素を生成する、炭化水素系ポリマーの分解方法であって、
溶媒分子の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする、該方法(以下、本発明方法とも称する)。
[2] 前記溶媒が、炭素数6~30の環状炭化水素である、[1]に記載の方法。
[3] 前記溶媒が、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン、シクロノナン、およびシクロデカンから選択される1種以上の分子である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記ゼオライトが、MFIゼオライトおよび修飾型MFIゼオライトから選択される1種以上のゼオライトである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5] 前記炭化水素系ポリマーが、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリスチレンからなる群から選択される1種以上の炭化水素系ポリマー、またはその成形体および成形加工物のいずれかである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6] 前記炭化水素が、ナフサ、液化石油ガス、または軽油に相当する炭化水素から選択される少なくとも1種を含む炭化水素である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[6-1] 前記修飾型MFIゼオライトが、シリカ塩基処理されたゼオライトである、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[6-2] 炭化水素系ポリマーの分解反応の加熱温度が、350~500℃の範囲である、[1]~[6-1]のいずれか1つに記載の方法。
[6-3] 前記炭化水素系ポリマーがポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリスチレンであり、前記ゼオライトが修飾型MFIゼオライトであり、前記溶媒がシクロオクタンである、[1]~[6-2]のいずれか1つに記載の方法。
[6-4] 炭化水素系ポリマー、溶媒、およびゼオライトの比率(炭化水素系ポリマー:溶媒:ゼオライト)が、重量比で、1:2~10:0.001~1である、[1]~[6-3]のいずれか1つに記載の方法。
[6-5] 前記炭化水素が、炭素数5~10の脂肪族炭化水素、および炭素数6~10の単環式芳香族炭化水素から選択される少なくとも1種を含む炭化水素である、[1]~[6-4]のいずれか1つに記載の方法。
[6-6] 前記炭化水素が、炭素数5~10の脂肪族炭化水素、および炭素数6~10の単環式芳香族炭化水素から選択される少なくとも1種を含む炭化水素である、[1]~[6-5]のいずれか1つに記載の方法。
[7] 炭化水素系ポリマーの分解反応に使用するための、ゼオライト触媒および炭素数6~30の環状炭化水素溶媒の組み合わせ使用であって、
該環状炭化水素溶媒の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする、該使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、炭化水素系ポリマーを分解して再生資源として有用な炭化水素を効率よく生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の炭化水素系ポリマー分解反応のメカニズムを説明する模式図である。
【
図2】
図2は、炭化水素系ポリマー分解反応の反応装置の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、炭化水素系ポリマー分解反応の実験の結果(転化率)を示すグラフである。
【
図4】
図4は、炭化水素系ポリマー分解反応の実験の結果(選択率)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、炭化水素系ポリマー分解反応の実験の結果(触媒量を変化させたときの転化率および選択率の変化)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の炭化水素系ポリマーの分解方法は、ゼオライト触媒の存在下、溶媒中、加熱条件下、炭化水素系ポリマーを分解反応して、明細書中で後述するより低分子の炭化水素(例えば、ナフサ等の成分)を生成する、炭化水素系ポリマーの分解方法であって、溶媒分子の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本願明細書中で使用する、炭化水素系ポリマーは、オレフィンまたはアルケン(すなわち、炭素-炭素二重結合を有する炭化水素)をモノマーとして合成されるポリマーを意味する。炭化水素系ポリマーは、例えば、1種の炭素数2~10のモノマー(例えば、オレフィン)の重合体であってもよく、2種以上の炭素数2~10のモノマー(例えば、オレフィン)の共重合体であってもよく、また、ベンゼン環などの芳香族環基をポリマーの主鎖または分岐鎖に含んでいてもよい。本発明方法では、酸素、窒素、硫黄およびリンなどのヘテロ原子およびハロゲン原子を含まない、炭素原子および水素原子からなる炭化水素系ポリマーを良好に分解することができる。炭化水素系ポリマー分解反応に使用されるポリマーとしては、具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリブテン(PB)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブタジエン、環状オレフィンコポリマー(COP;cyclic olefin copolymer)、ポリイソブチレン、ポリメチルスチレンなどが挙げられる。
【0011】
炭化水素系ポリマーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリスチレンが好ましい。本発明方法においては、炭化水素系ポリマーとして、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリスチレンを効率よく分解して、有用な炭化水素を生成することができる。また、これらのポリマーは、産業上の使用量が多く、再生資源として有用である。炭化水素系ポリマーは、プラスチックの廃棄物などから得ることができる。なお、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)であってもよいし、低密度ポリエチレン(LDPE)であってもよい。また、炭化水素系ポリマーは、上記した炭化水素系ポリマーの2種以上の混合物であってもよい。また、分解に用いる炭化水素系ポリマーは、炭化水素系ポリマー(ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリスチレンなど)の成形体および成形加工物であってもよい。成形体および成形加工物としては、例えば、ポリマーを成形加工した積層体(例えば、ラミネート加工したフィルム)、プラスチック製品、プラスチック部品、およびそれらの粉砕物などが挙げられる。本発明方法では、産業製品として製造、使用および廃棄されたポリマーを原料として、ポリマーの分解をすることができる。
【0012】
炭化水素系ポリマーの分子量は、限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量(Mw)が10,000~1,000,000の範囲であってよい。本発明方法では、分子量を問わず、炭化水素系ポリマーの分解を行うことができる。また、プラスチック製品の再資源化の観点からいうと、さまざまな分子量の炭化水素系ポリマーが混在したもの(混合物)を原料として使用して、分解反応を行うことも可能である。
【0013】
本願明細書中で使用する、ゼオライト触媒は、炭化水素系ポリマー分解反応において、ポリマーの分解を促進する触媒として機能する。ゼオライトとしては、特に限定されるものではないが、例えば、MFI、*BEA、LTA、FAU、FER、MWW、MOR、および、LTLなどが挙げられる。ゼオライトに関する一般的な知識は、一般社団法人 日本ゼオライト学会のホームページの記載を参照することができる。なお、アルファベットの大文字3つは、構造コードと呼ばれ、例えば、MFIは、MFIゼオライト(MFI型ゼオライト)のことである。ゼオライトは、結晶の骨格構造が定まっており、前記の構造コードは骨格構造に付与される。ゼオライトは、本発明の炭化水素系ポリマー分解反応の触媒として、酸性型であることが好ましい。ゼオライトは、固体酸触媒として機能し得る。
【0014】
ゼオライトは、多数の細孔を有しており、この細孔が、触媒活性をもたらすことができる。細孔は、結晶構造によって形成され、前記の構造コードごとに、細孔のサイズ、すなわち、細孔径が定まる。細孔径は、骨格中の細孔を形成する環の相対する酸素同士の原子間距離から酸素(イオン)の半径(r(O2-))の2倍を引いた値、として求められる。例えば、MFIゼオライトの細孔径は、0.53~0.56nmであり、*BEAゼオライトの細孔径は、0.71~0.73nmである。MFIゼオライトは、10員環の細孔を有しており、*BEAゼオライトは、12員環の細孔を有している。細孔径については、窪田好浩、辰巳敬、J.Vac.Soc.Jpn.、2006、Vol.49、p.205-212、「ゼオライト開発の現状」、の記載を参照することができる。後述する溶媒との組み合わせの使用を考慮すると、ゼオライトは、細孔径が小さい方が好ましい。例えば、ゼオライトは、細孔を構成する環が、12員環以下が好ましく、10員環以下がより好ましい。この観点から、MFIゼオライトがより好ましいが、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明の方法についての好ましい一態様によれば、ゼオライトは、修飾型ゼオライトである。修飾型とは、ゼオライトに触媒活性を高めるための化学的処理を行ったものを意味する。修飾型への処理としては、塩基処理、およびシリカ塩基処理などが挙げられる。塩基処理とは、塩基性の溶液で処理することを意味する。また、シリカ塩基処理とは、シリカを含む塩基性の溶液で処理することを意味する。塩基処理またはシリカ塩基処理によって、ゼオライトの表面が改質され得る。修飾型ゼオライトの例としては、修飾型MFIゼオライトが挙げられる。
【0016】
ゼオライトは、シリカ塩基処理された修飾型ゼオライトであることが好ましい。シリカ塩基処理によって、ゼオライトの表面が少し粗化され得る。この粗化により、ゼオライトの細孔よりも大きな穴(空洞)が形成されてもよい。シリカ塩基処理されたゼオライトは、粗化や穴の形成などによって、炭化水素系ポリマーが細孔に接近しやすくなり、分解反応の反応性が向上し得る。シリカ塩基処理は、例えば、塩基性水溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)にシリカ(SiO2)を加えて、シリカ塩基性水溶液を調製し、この溶液にゼオライトを加えて、水熱合成装置などの加熱装置により、高温(例えば150~200℃)で加熱することによって行うことができる。シリカ塩基処理後のゼオライトは、塩基性型(例えばNa型)となっているため、酸性型に変換することが好ましい。例えば、シリカ塩基処理後のゼオライトを、NH4NO3などのアンモニウム塩の水溶液に入れて撹拌して、NH4型ゼオライトに変換し、さらに、このゼオライトを高温(例えば焼成温度;400℃以上など)で加熱することにより、酸性型に変換することができる。このように酸性型に変換されたゼオライトは、H型ゼオライトとなっている。好ましくは、修飾型MFIゼオライトが、シリカ塩基処理されたゼオライト(「SB-MFI」と略す)である。
【0017】
本発明の炭化水素系ポリマー分解反応は、溶媒中で進行することができ、また、反応基質が溶媒中に溶解することにより、反応がより進行しやすくなるため、溶媒中で反応させることが好ましい。ここで、溶媒とは、室温(例えば20℃)で液体である物質であり得るが、それに加えて、炭化水素系ポリマー分解反応の際に液体となり、炭化水素系ポリマーを分散または溶解させるものであってもよい。したがって、室温(例えば20℃)で固体である物質も溶媒となり得る。例えば、融点が50~350℃の物質(化合物)でも、炭化水素系ポリマー分解反応の際に加熱温度が350℃以上であると、液体となるため、溶媒として機能し得る。一方、炭化水素系ポリマー分解反応の際の加熱温度よりも沸点が低い物質(分子)も溶媒となり得る。例えば、分解反応の加熱温度よりも沸点が低い溶媒分子であっても、密閉系などの気化が制限される条件においては、溶媒の液体状態が維持されて、溶媒として機能し得る。
【0018】
溶媒としては、有機化学の分野において一般に知られる有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、炭素数6~30の炭化水素が好ましく、炭素数6~30の環状炭化水素がより好ましい。また、炭素数6~30の飽和炭化水素が好ましく、炭素数6~30の環状飽和炭化水素がより一層好ましい。炭化水素は、炭素原子と水素原子からなる化合物である。環状炭化水素には、環状飽和炭化水素および芳香族炭化水素が含まれる。溶媒としては、特に、炭素数6~30の環状飽和炭化水素(明細書中、「シクロアルカン」と呼称することがある)が好ましい。例えば、溶媒として、炭素数6~20のシクロアルカンを用いてもよい。環状となることによって、溶媒の分子径をより大きくすることができ、ゼオライトの細孔径よりも大きくなり、本発明の分解反応を効率よく行うことができる。環状炭化水素には、単環式、および多環式(例えば、二環式、三環式、または四環式)の炭化水素が含まれ、また二環以上の多環が縮合された縮合環、およびスピロ環のものであってもよい。単環式のシクロアルカンとしては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、シクロトリデカン、シクロテトラデカン、シクロペンタデカン、シクロヘキサデカン、シクロヘプタデカン、シクロオクタデカン、シクロノナデカン、およびシクロイコサンが挙げられる。特に、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、およびシクロデカンが好ましく、シクロオクタンがさらに好ましい。これら以外の環状飽和炭化水素としては、アダマンタン、およびデカヒドロナフタレンなどが挙げられる。また、アルキル基で置換された環状飽和炭化水素(例えば、アルキル置換シクロアルカン)を溶媒として用いることもできる。環状飽和炭化水素の置換は、一置換でもよいし、多置換(例えば、二置換、三置換、四置換)であってもよい。アルキル置換シクロアルカンとしては、例えば、メチルシクロヘキサン、メチルシクロオクタン、ジメチルシクロヘキサン、およびエチルシクロヘキサンなどが挙げられる。また、溶媒として、芳香族炭化水素基を含む環状炭化水素も使用することができる。例えば、一置換、または多置換(例えば、二置換、三置換、四置換)の芳香族炭化水素等を使用することができる。その例として、例えば、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン、および1-メチルナフタレンなどが挙げられるが、炭化水素系ポリマーの転化率の向上および有用な炭化水素の割合を増加させる観点からは、これら芳香族炭化水素基を含まない飽和炭化水素の方が好ましい。環状でない炭化水素の場合、分岐鎖を有する炭化水素が、分子径を大きくすることができるため、より好ましい。溶媒となる炭化水素は、不飽和結合(炭素-炭素二重結合、または炭素-炭素三重結合)を有していてもよいが、芳香族の不飽和結合以外の不飽和結合を有さないものが好ましく、不飽和結合を全く有さないもの(すなわち完全に飽和)がより好ましい。
【0019】
本発明の炭化水素系ポリマー分解反応では、溶媒として、溶媒分子の分子径がゼオライトの細孔径よりも大きい溶媒を用いる。溶媒分子の分子径がゼオライトの細孔径よりも大きいことにより、炭化水素系ポリマー分解反応の際に、溶媒が反応することが抑制され、炭化水素系ポリマーを効率よく分解することが可能になる。
【0020】
以下、本発明の炭化水素系ポリマー分解反応の、推測されるメカニズムを説明する。ただし、本発明の反応は、このメカニズムに限定されるものではない。
図1に、反応のメカニズムを説明する模式図を示す。
図1は、炭化水素系ポリマー(図ではポリプロピレン)が、溶媒(図ではシクロオクタンまたはヘキサデカン)の存在下、ゼオライトの細孔で触媒作用を受ける状態を模式的に表している。炭化水素系ポリマー分解反応では、ゼオライトの細孔が活性部位となり、細孔においてポリマーの分解が活発に進行すると考えられる。炭化水素系ポリマーは、ポリマー全体としては大きいが、鎖状となっており、幅(分子径)はそれほど大きくないため、細孔に入り込み、触媒の作用を受けることができる(
図1Aの矢印)。あるいは、炭化水素系ポリマーは、細孔に入り込まなくても、細孔付近に存在することで、触媒の作用を受けることができる。ここで、ゼオライトの細孔よりも小さい分子からなる溶媒である場合、溶媒分子は、ゼオライトの細孔に入り込むことが可能になる(
図1Bおよび
図1C)。そのため、ポリマーが細孔に入り込んだり、近づいたりすることが妨げられ、ポリマーは触媒の作用を受けにくくなる。したがって、ゼオライトの細孔径よりも小さい分子径の溶媒では、ポリマーの分解の効率(転化率)が低下する。なお、このとき、溶媒は、触媒の作用を受けて、分解または他の物質に変換され得る。ポリマーの転化よりも、溶媒の転化が優先されてしまうといえる。一方、ゼオライトの細孔よりも大きい分子径を有する分子からなる溶媒である場合、溶媒分子は、ゼオライトの細孔に入り込むことができない(
図1A)。そのため、細孔に溶媒分子が存在しないことから、ポリマーは細孔に入り込んだり、近づいたりすることが容易になり、ポリマーは触媒の作用を受けることが容易になる。したがって、ゼオライトの細孔径よりも大きい分子径の溶媒では、細孔径よりも小さい分子径の溶媒に比べて、ポリマーの分解の効率が著しく向上するのである。このような反応性の向上は、溶媒分子の大きさ(嵩高さ)と、細孔の大きさとの関係によるものであると考えられる。例えば、
図1Aおよび
図1Cのように、同じ溶媒(シクロオクタン)を使用したとしても、
図1Cのように、細孔が大きいゼオライトの場合では、溶媒分子が細孔に入りやすくなり、ポリマーに対する触媒作用を阻害する。また、
図1Aおよび
図1Bのように、細孔の大きさが同じであっても、
図1Bのように、溶媒分子の分子径が小さい場合、溶媒分子が細孔に入りやすくなり、ポリマーに対する触媒作用を阻害する。
【0021】
本明細書において、溶媒分子の分子径を表すときの分子径は、直径(速度論的直径;kinetic diameter)を意味する。速度論的直径は、狭い穴の中を拡散するとき、およそこの直径を持っているものとして振る舞うものとして定められる。分子径は、いわば分子の幅であり、例えば、炭素鎖が長い分子であっても、その炭素鎖の伸びる方向に対して垂直な方向の長さ(幅)は小さくなり得、分子径が小さくなり得る。分子径については、D.W.Breck、Zeolite Molecular Sieves:Structure,Chemistry,and Use、John Wiley&Sons(1974)、に記載されている。それによると、シクロヘキサンの分子径(速度論的直径)は、0.6nmであり、ブタンの分子径(速度論的直径)は、0.43nmである。このことから、シクロヘキサンと類似のシクロアルカンであるシクロオクタンは、分子径が約0.6nmであると考えられ、ブタンと類似の直鎖アルカンであるヘキサデカンは、分子径が約0.4nmであると考えられる。上述したように、MFIゼオライトの細孔径は、0.53~0.56nmであり、*BEAゼオライトの細孔径は、0.71~0.73nmである。したがって、シクロオクタン(溶媒)とMFIゼオライト(触媒)との組み合わせが、溶媒分子径>細孔径の関係を満たしており、好ましい組み合わせとなる。一方、シクロオクタンと*BEAゼオライトとの組み合わせ、ヘキサデカンとMFIゼオライトとの組み合わせ、およびヘキサデカンと*BEAゼオライトとの組み合わせは、溶媒分子径<細孔径の関係となっており、反応性が低下する。これらの反応性の結果については、後述の実施例において実証されており、上記のメカニズムが裏付けられている。なお、炭化水素系ポリマーも分子径が小さいと触媒の作用を受けやすくなると考えられ、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリスチレンは、上記の炭化水素系ポリマー分解反応によって、良好に分解され得る。
【0022】
好ましい一態様によれば、炭化水素系ポリマー分解反応では、炭化水素系ポリマーが、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリスチレンであり、ゼオライトが修飾型MFIゼオライトであり、溶媒がシクロオクタンであること(組み合わせ)が好ましい。
【0023】
なお、ゼオライト以外のシリカアルミナ触媒、例えば、アモルファスシリカアルミナは、炭化水素系ポリマー分解反応の触媒となり得るが、ゼオライトに比べて、触媒活性が低い。また、アモルファスシリカアルミナは、細孔の大きさ(アモルファスのため細孔の大きさは不定であるが平均した大きさを意味する)が、溶媒分子よりも大きいため、溶媒の分解が進行することが確認されている(実施例において、細孔径平均3.6nmのアモルファスシリカアルミナで確認)。そのため、上記の炭化水素系ポリマー分解反応では、ゼオライトを用いる。
【0024】
炭化水素系ポリマー分解反応において、炭化水素系ポリマーと溶媒の比率(ポリマー:溶媒)は、重量比で、1:2~10であることが好ましい。炭化水素系ポリマーと溶媒の比率がこの範囲になることにより、炭化水素系ポリマーを溶媒で良好に溶解または分散させて、反応性を向上することができる。炭化水素系ポリマーと溶媒の比率は、1:3~6であることがより好ましい。また、炭化水素系ポリマーとゼオライトの比率(ポリマー:ゼオライト)は、重量比で、1:0.001~1であることが好ましい。炭化水素系ポリマーとゼオライトの比率がこの範囲になることにより、炭化水素系ポリマーに効率よくゼオライトの触媒作用を働かせることができ、反応性を向上することができる。そして、炭化水素系ポリマー分解反応において、炭化水素系ポリマー、溶媒、およびゼオライトの比率(ポリマー:溶媒:ゼオライト)は、重量比で、1:2~10:0.001~1であることが好ましい。炭化水素系ポリマー、溶媒、およびゼオライトの比率がこの範囲になることにより、溶媒の溶解または分散性が良好になり、触媒作用の効率も向上するため、炭化水素系ポリマー分解反応の反応性を格段に向上することができる。炭化水素系ポリマー、溶媒、およびゼオライトの比率は、重量比で、1:3~6:0.001~1であることがより好ましい。
【0025】
炭化水素系ポリマー分解反応は、加熱条件下で進行する。炭化水素系ポリマー分解反応の加熱温度は、350~500℃の範囲であることが好ましい。加熱温度が350℃以上になることにより、炭化水素系ポリマーの分解がスムーズに進行され得る。また、加熱温度が500℃以下になることにより、炭化水素系ポリマー自体の熱分解を妨げて、目的とする有用な炭化水素を得やすくすることができる。その観点から、炭化水素系ポリマー分解反応の加熱温度は、380~480℃の範囲であることがより好ましく、350~450℃の範囲であることがさらに好ましい。炭化水素系ポリマー分解反応の時間は、例えば、0.1分~6時間、好ましくは0.1分~3時間など、適宜の時間に設定することができるが、これに限定されるものではない。例えば、流通法によって連続して分解反応を行う場合は、短時間(例えば、0.1~1分)での反応もあり得る。
【0026】
炭化水素系ポリマー分解反応は、適宜の反応装置により、適宜の反応容器を用いて行うことができる。好ましい一態様では、密閉系の反応容器を用いることができる。例えば、ステンレス管などの金属製容器を反応容器として使用することが可能である。密閉系においては、加熱によって、内部の圧力が上昇し得る。金属容器では、その圧力に対抗することが可能である。密閉系では、加熱および加圧(自然加圧)の条件で、炭化水素系ポリマーが分解され得る。反応容器の内部は、目的としない副反応物の生成を抑制するために、反応に影響を与えないガス(N2、He、Arなどの不活性ガス、または、H2など)を充填することが好ましい。反応容器の内部から、酸素を除去することが特に好ましく、それにより、副反応物の生成を抑制することができる。
【0027】
炭化水素系ポリマー分解反応は、例えば、反応容器に、炭化水素系ポリマー、ゼオライト触媒、および溶媒を入れて、混合し、次に、反応容器に窒素などのガスを充填し、そして、容器を密閉した後、加熱器によって加熱することにより、行うことができる。加熱器としては、例えば、管形電気炉を用いることができるが、これに限定されるものではない。密閉の際の圧力は、常圧(例えば、1気圧)であってよい。密閉系による反応は、バッチ式であり得る。密閉系で反応を行った場合、通常、炭化水素系ポリマーの分解によって、気体(有用な炭化水素を含むガス)が生成するため、反応容器内は加圧となっている。反応終了後は、反応器を開栓して、反応器から流れ出る気体を収集することができる。また、反応容器内には、生成した液体の炭化水素が、溶媒とともに存在しており、その混合液から炭化水素を収集することができる。もちろん、炭化水素系ポリマー分解反応の実施方法は、これに限定されるものではなく、連続式であってもよい。例えば、連続式では、反応を進行させながら、炭化水素系ポリマー分解反応によって生成した炭化水素を取り出したり、原料となる炭化水素系ポリマーを追加したりすることもできる。
【0028】
炭化水素系ポリマー分解反応により、炭化水素が生成される。炭化水素は、再生資源として有用な炭化水素であることが好ましい。好ましくは、炭化水素は、ナフサ、液化石油ガス、または軽油に相当する炭化水素から選択される少なくとも1種を含む炭化水素である。炭化水素系ポリマー分解反応により生成される炭化水素は、例えば、次のように分類することができる:C1-2脂肪族炭化水素、C3-4脂肪族炭化水素、C5-10脂肪族炭化水素、単環芳香族炭化水素、C11-20脂肪族炭化水素、C21-30脂肪族炭化水素、二環芳香族炭化水素、三環芳香族炭化水素、四環芳香族炭化水素、およびその他(C30以上の重質炭化水素など)。ここで、Cの後の数字は炭素数を意味し、例えば、C5-10脂肪族炭化水素は、炭素数5~10の脂肪族炭化水素を意味する。このうち、炭化水素としては、C3-4脂肪族炭化水素、C5-10脂肪族炭化水素、単環芳香族炭化水素、C11-20脂肪族炭化水素、が好ましく、これらが有用である。さらに、C5-10脂肪族炭化水素、および単環芳香族炭化水素は、ナフサの成分に相当し、特に有用である。C5-10脂肪族炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンが挙げられる。単環芳香族炭化水素は、置換または非置換の単環式の芳香族炭化水素を意味し、これには、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。C3-4脂肪族炭化水素も、液化石油ガス(LPG)に相当し、有用となり得、これには、プロパン、ブタンが挙げられる。また、C11-20脂肪族炭化水素も、軽油の成分に相当し、有用となり得る。一方、C1-2脂肪族炭化水素、および、C21-30脂肪族炭化水素、二環芳香族炭化水素、三環芳香族炭化水素、四環芳香族炭化水素、およびC30以上の重質炭化水素は、再生資源として利用がしにくく、生成量をできるだけ少なくした方が好ましい。炭化水素系ポリマー分解反応では、炭化水素として、炭素数5~10の脂肪族炭化水素、および炭素数6~10の単環式芳香族炭化水素から選択される少なくとも1種を含む炭化水素を生成することが好ましい。それにより、有用な炭化水素を効率よく得ることができる。
【0029】
ところで、炭化水素系ポリマー分解反応では、上記のように、炭化水素系ポリマーの分子鎖が分断されて形成される構造の成分以外に、単環式または多環式の芳香族などの成分も生成し得る。これは、炭化水素系ポリマー分解反応によって生成した成分が、再度、反応し、結合するなどして、新たな炭化水素を生成するからであると考えられる。すなわち、ゼオライトは、炭化水素系ポリマーの分解とともに炭化水素の生成(再生)の触媒としても機能し得る。なお、芳香族系生成物の発生、すなわち炭素-炭素の不飽和結合が生じていることから、水素も同時に生成しているのではないかと考えられる。また、溶媒の分解、およびその分解物の再結合なども生じ得ると考えられる。
【0030】
本明細書では、また、炭化水素系ポリマーの分解反応に使用するための、ゼオライト触媒および炭素数6~30の環状炭化水素溶媒の組み合わせ使用であって、該環状炭化水素溶媒の分子径はゼオライトの細孔径よりも大きいことを特徴とする、該使用、が開示される。上記のようなゼオライトと溶媒の組み合わせによって、上述したように、有用な炭化水素を効率よく生成することができる。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0032】
1.材料
(1)触媒
炭化水素系ポリマー分解反応の触媒として、下記の触媒を用いた。
MFIゼオライト
MFIゼオライト(以下「MFI」とも記す)として、NH4型MFIゼオライト(Ex-122、SiO2/Al2O3=30)を水澤工業化学(株)から入手した。MFIゼオライトの細孔径は、0.53~0.56nmである。
【0033】
修飾型MFIゼオライト
上記のMFIゼオライトについて、以下のシリカ塩基性処理を含む処理を行い、修飾型MFIゼオライト(SB-MFI;以下「m-MFI」とも記す;なお、mはmodifiedの略である)を得た。修飾型MFIゼオライトの細孔径も、上記と同様に、0.53~0.56nmである(シリカ塩基性処理によって細孔径は変化しない)。
1)シリカ塩基性溶液による処理
テフロンビーカーに撹拌子を入れ、イオン交換水60mL、および水酸化ナトリウム(NaOH)3.0gを加えた。その後、スターラーで撹拌しながら、4.0gのSiO2を加えた。これにより、シリカ塩基性溶液が得られた。この溶液を撹拌しながら、上記のNH4型MFIゼオライト(Ex-122)5.96gを加えた後、ウォーターバスにより約90℃で15分、加熱を行った。その溶液(ゼオライトの分散液)をオートクレーブ(密閉容器)に入れ、水熱合成装置(ヒロ株式会社 KH-01型、回転式)により、180℃、15.0rpmで、2時間加熱した。その後、水熱合成装置からオートクレーブを取り出して自然冷却した。冷却後、混濁液をイオン交換水で3回吸引ろ過して洗浄した。その後、ろ別されたろ物(残渣)を蒸発皿にのせて送風乾燥機により、110℃で一晩乾燥させた。
2)Na型ゼオライトからNH4型ゼオライトへの変換
シリカ塩基性溶液処理によりゼオライトがNH4型からNa型に変換されたため、以下の手順で、再度NH4型への変換を行った。まず、500mLビーカーにNH4NO3を約24g入れ、脱塩水300mLを加えた。その溶液に、上記の乾燥物(処理後のMFIゼオライト)3.50gを加え、400rpm、65℃で、4時間、撹拌した。その後、200mLの脱イオン水により吸引ろ過を3回行った。この工程(加熱撹拌および吸引ろ過)を2回繰り返した。この工程の終了後、残渣を乾燥機に入れて、110℃で、一晩乾燥させた。翌日、乾燥機から取り出し、乾燥物を、めのう乳鉢によって粉砕した。
(3)NH4型ゼオライトからH型ゼオライトへの変換
上記の乾燥物を、マッフル炉を用いてH型に変換した。加熱の条件は、10℃/分で540℃(設定温度)まで加熱し、設定温度到達後、この温度で4時間保持した。これにより、ゼオライトがH型に変換された。
以上の処理により、シリカ塩基性処理された修飾型MFIゼオライトを得た。
【0034】
*BEAゼオライト
*BEAゼオライト(以下「*BEA」とも記す)として、*BEAゼオライト(SiO2/Al2O3=28、HSZ-930 NHA、OSDA)を東ソー(株)から入手した。*BEAゼオライトの細孔径は、0.71~0.73nmである。
【0035】
アモルファスシリカアルミナ
アモルファスシリカアルミナ(以下「ASA」とも記す)として、アモルファスシリカアルミナ(SiO2/Al2O3=11、N631-L)を日揮触媒化成(株)から入手した。このアモルファスシリカアルミナの細孔径は、平均3.6nmである。アモルファスシリカアルミナの細孔径は、77Kにおける窒素吸着等温線からBJH法によって計算した(E.P.Barrett、L.G.Joyner、P.P.Halenda、J.Am.Chem.Soc.,Vol.73、p.373、1951、参照)。
【0036】
(2)炭化水素系ポリマー
ポリプロピレン(PP、Mw:370,000)、ポリエチレン(LDPE:低密度ポリエチレン、Mw:110,000)、およびポリスチレン(PS、Mw:210,000)は、一般財団法人石油エネルギー技術センター(JPEC)から供給されたものを使用した。
【0037】
(3)溶媒
シクロオクタン(富士フィルム和光純薬(株))、および、ヘキサデカン(富士フィルム和光純薬(株))を使用した。シクロオクタンの分子径は約0.6nmであり、ヘキサデカンの分子径は約0.4nmである(上述した文献:D.W.Breck、Zeolite Molecular Sieves:Structure,Chemistry,and Use、参照)。
【0038】
2.炭化水素系ポリマー分解反応
(1)反応装置
図2に、炭化水素系ポリマーの分解を行う反応装置(実験装置)の概略図を示す。
図2に示すように、反応装置は、密閉可能な反応管を備えている。反応管は、三方開閉式のバルブ(弁)と繋がり、バルブの2つの口には、それぞれチューブが連結されている。一方のチューブは、窒素ボンベなどの窒素注入器と繋がっており、バルブを通して反応管に窒素ガスを注入することができる。また、他方のチューブは、途中(反応管の出口近傍)に配置されたチューブ用のユニオンティ(ステンレス管ジョイント)を経て、ガス取集用の注射器と繋がっている。ユニオンティは、異径ユニオンとなっており、ユニオンティと注射器との間のチューブは、サイズが1/16インチと小径になり、これにより、ロスを減少させ、収集するガスの量をより正確に測定することが可能になる。異径ユニオンの一部は開口しているが、開口はセプタムで閉じられており、このセプタムにガスシリンジの針を打ち込んで、ガスサンプルを採取することができる。ガス収集用の注射器は、筒とプランジャとの間にグリセリンが潤滑剤として塗布されており、注射器の先端からガスが内部に侵入して圧力がかかったときに、注射器のプランジャが動いて、注射器内部にガスを収容することができる。本実験では、反応管として、SUS管(ステンレス製の反応管、直径10mm、容積約3.6mL)を用いた。また、ガウス収集用の注射器として、100mLの注射器を使用し、ガスシリンジとして、5mLシリンジを使用した。
【0039】
(2)炭化水素系ポリマー分解反応の一般法
上記の反応装置を用い、まず、反応管に、炭化水素系ポリマー250mg、所定量(例えば、50mg)の触媒、および溶媒1gを入れて混合し、窒素(N2)を充填した。反応管内の圧力は、1気圧とした。次に、バルブを閉じて反応管を密閉し、チューブと接続したままの反応管を直径約3cmの管形電気炉に入れ、反応管のうち溶液などが入った部分を加熱できるようにして、所定温度(例えば、400℃)に加熱して、所定時間(例えば、1時間)、振動を加えて、分解反応を行った。その後、室温(例えば、25℃)になるまで自然冷却した。
【0040】
(3)ガス生成物の収集および分析
バルブを開いて、反応終了後の反応管とガス収集用の注射器との配管を繋げた。反応管内では反応により生成したガスが圧縮状態で存在しているため、バルブの開放により、ガスはチューブを通って、注射器に流れ込んだ。ガスによって注射器のプランジャは押され、注射器の内部にガスが集積された。ガスが一定量、注射器に流れ込むと、ガスの圧力が下がり、注射器のプランジャの動きが止まった。このようにして、注射器に収容されたガスについて、注射器の目盛りを読み取り、生成したガスの全体積を測定した。その後、ユニオンに配置されたセプタムにガスシリンジの針を刺し、1mLのガスを採取した。この収集したガスをGC-FID(水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフ)で分析した。
【0041】
(4)液体生成物の収集および分析
ガス生成物の収集後、反応管を取り外し、反応管に内部標準物質を滴下した。次に、軽く容器を振り、反応管に入った液体および固形物をすべてバイアル瓶に移した。その際、反応管の壁面に付着した固形物も擦り取ってすべて移した。その後、シリンジろ過器を用いて固形物の分離を行った。ろ過により得られた液体(ろ液)を2DGC-FID(水素炎イオン化検出器を備えた2次元ガスクロマトグラフ)で分析した。
【0042】
(5)未反応ポリマーの回収
液体生成物の収集後、シリンジろ過により得られた固形物(残渣)を収集し、固形物の周囲に存在する溶媒をペンタンで溶媒置換した後、固形物を乾燥させた。その後、固形物の重量を測定した。触媒以外の固形物が未反応の炭化水素系ポリマーであると仮定し、測定で得た重量から触媒重量を引いた値を、未反応ポリマー重量とした。
【0043】
(6)転化率の算出
炭化水素系ポリマーおよび溶媒の転化率(反応した割合)を以下の計算方法で算出した。
【数1】
【数2】
なお、上記の式中、C-molは、炭素原子(C)のモル数を意味する。
【0044】
(7)生成物の収率および選択率
反応により得た各生成物(炭化水素の各成分)の収率および選択率を以下の計算方法で算出した。
【数3】
なお、上記の式中、C-molは、炭素原子(C)のモル数を意味する。
【数4】
【0045】
(8)分析条件
[2DGC-FIDの条件]
・使用装置
ソフトウェア: GC image
ガスクロマトグラフ: 2次元GC Agilent 7890
・分析条件
カラム 1stカラム: DB-5ms (長さ:30 m,内径:0.25 mm,膜厚:0.25 μm)
2ndカラム: DB-17HT (長さ:5 m,内径:0.25 mm,膜厚:0.15 μm)
モジュレーションサイクル: 3.12 sec,サンプル時間:2.9 sec
カラム温度: 323 K → (2 K min-1) → 593 K, 4 min
注入口温度: 523 K
FID温度: 523 K
内部標準物質:Tetraethylene Glycol Dimethyl Ether (TGDE)
[GC-FIDの条件]
カラム: PoraBOND Q
INITIAL温度: 40 ℃ ( 9 min保持)
FINAL温度: 280 ℃
昇温速度: 15 ℃ min-1
入口圧: 50.0 kPa
全流量: 103.4 mLmin-1
キャリアガス: N2
カラム流量: 1.97 mLmin-1
【0046】
3.炭化水素系ポリマー分解反応の結果
表1に、ポリプロピレン(PP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、またはポリスチレン(PS)をサンプルとして用いたときの分解反応の結果(ポリマー転化率および溶媒転化率)を示す。また、
図3に、表1の結果を抜粋して作成したグラフを示す。サンプル(炭化水素系ポリマー)量は250mgとし、触媒量は50mg(使用する場合)、および溶媒量は1g(使用する場合)とした。反応時間は1時間とした。
【表1】
【0047】
比較例1で示すように、無触媒かつ無溶媒の条件でも、ポリマーの分解反応は進行し得るが、転化率は低い。また、比較例2で示すように、触媒を添加すると、ポリマーの転化率は上昇し、分解反応は促進する。しかしながら、無溶媒の条件では、有用な炭化水素があまり得られない(後記の表2および
図4参照)。なお、比較例3で示すように、溶媒の存在下、触媒を添加せずに反応を行った場合、ポリマーの転化率は非常に低くなっている。
触媒および溶媒の存在下の反応では、実施例1(触媒としてm-MFIと、溶媒としてシクロオクタンの組合せ)は、比較例4(
*BEAとシクロオクタンの組合せ)、比較例5(ASAとシクロオクタンの組合せ)、および比較例6(m-MFIとヘキサデカンの組合せ)よりも、ポリマーの転化率が高く、溶媒の転化率が低くなっている。これは、実施例1では、溶媒分子の分子径が触媒の細孔径よりも大きいために、溶媒の分解反応(転化)が抑制されたからと考えられる。一方、比較例4~6では、溶媒の分子径が触媒の細孔径よりも小さいため、溶媒が触媒によって作用(分解)を受けやすく、ポリマーの分解が阻害されたからと考えられる。なお、シリカ塩基処理をしたm-MFIゼオライトの方(実施例1)が、該処理を行っていないMFIゼオライト(実施例1A)よりもポリマー転化率が高くなっている。実施例2および3で示すように、ポリエチレンおよびポリスチレンの分解反応においても、ポリマー転化率が高く、溶媒の転化率が低いという結果が得られた。
また、反応温度を450℃にした場合(比較例7および実施例4)、ポリマーの転化率はさらに高くなる。ただし、無溶媒よりも溶媒を使用した場合の方が、有用な炭化水素の割合が向上する(後記の表2および
図4参照)
【0048】
表2に、実施例1~4、および比較例1、2、7の炭化水素系ポリマー分解反応によって得た、各成分の選択率、および有用成分の選択率を示す。また、
図4に、表2の結果を抜粋して作成したグラフを示す。
ここで、例えば、「C5-10脂肪族」は、炭素数5~10の脂肪族炭化水素を意味し、「単環芳香族」は、置換または非置換の単環式の芳香族炭化水素を意味する。「C5-10脂肪族」と「単環芳香族」の合計(C5-10脂肪族+単環芳香族)が、いわゆるナフサに相当する成分であり、特に有用な成分である。また、「C3-4脂肪族」もLPGに相当して有用となり得、「C11-20脂肪族」も軽油に相当して有用となり得る。これらを総合したもの(C3-20脂肪族+単環芳香族)も有用成分として認識され得る。
【表2】
【0049】
比較例1(無触媒かつ無溶媒)、および比較例2(無溶媒)では、有用成分の選択率は低い。一方、実施例1~3では、有用成分が高い選択率で得られている。また、反応温度を450℃にした場合(比較例7および実施例4)、有用成分の選択率が向上している。
なお、選択率の合計が100%とならないのは、未反応ポリマーの残存や、GCで検出不能な成分(C30以上の重質炭化水素など)の生成などが原因として考えられる。また、一部の例において、選択率の合計が100%を超えているが、これは、溶媒の分解およびその分解成分の再結合によって、炭化水素系ポリマーに含まれる炭素以外の炭素に由来する炭化水素が発生しているからと考えられる。
【0050】
4.触媒量の検討
触媒(修飾型MFIゼオライト)の量を変えて、それ以外は実施例1と同様に、炭化水素系ポリマー(PP)の分解反応を行った。触媒量は、実施例5では25mg(実施例1の半分の量)とし、実施例6では100mg(実施例1の2倍量)とした。
図5にその結果を示す。
図5に示すように、触媒量が増えるほど、転化率の増加、および有用成分の割合の増加の傾向がみられた。