(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027309
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】4-メチル-3-キノリン-3-イルエチニル-安息香酸N’-(2-クロロ-6-メチル-ベンゾイル)ヒドラジドの新規非晶質分散体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/47 20060101AFI20230221BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230221BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230221BHJP
【FI】
A61K31/47
A61K9/20
A61P43/00 111
A61K47/34
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022201433
(22)【出願日】2022-12-16
(62)【分割の表示】P 2019550727の分割
【原出願日】2018-03-15
(31)【優先権主張番号】201721005414
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】507310592
【氏名又は名称】サン・ファーマ・アドバンスド・リサーチ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ザーラ,ヤショラジ
(72)【発明者】
【氏名】ハナマンナバー,ブラムハナンド
(72)【発明者】
【氏名】ダーマジカリ,ニチン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Ablチロシンキナーゼ阻害剤である化合物を含む、適切な生物学的利用能及び安定性を有する固体分散体を提供する。
【解決手段】式Iの化合物及び可融性ポリマー担体を含む固体分散体であって、前記式Iの化合物が非晶質状態である、固体分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、任意に薬学的に許容される賦形剤と、の混合物を含み、前記混合物が非晶質分散体である、経口固体剤形。
【化1】
【請求項2】
前記可融性ポリマー担体が、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体である、請求項1に記載の経口固体剤形。
【請求項3】
前記非晶質分散体は粉砕された形態であり、全ての粒子が500ミクロン未満のサイズを有する、請求項2に記載の経口固体剤形。
【請求項4】
前記可融性ポリマー担体と式Iの化合物との重量比が約7:1である、請求項1に記載の経口固体剤形。
【請求項5】
前記剤形が、前記非晶質分散体と薬学的に許容される賦形剤とで充填されたカプセルである、請求項3に記載の経口固体剤形。
【請求項6】
25℃、相対湿度60%で24ヶ月間保管したときに、N-オキシド及びステージV等の分解不純物が式Iの化合物の0.2重量%以下である、請求項4に記載の経口固体剤形。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-メチル-3-キノリン-3-イルエチニル-安息香酸N’-(2-クロロ-6-メチル-ベンゾイル)ヒドラジドの非晶質分散体、及びこの非晶質分散体を含む経口固体剤形に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、式Iの化合物(4-メチル-3-キノリン-3-イルエチニル-安息香酸N’-(2-クロロ-6-メチル-ベンゾイル)ヒドラジド)を開示している。
【0003】
【0004】
式Iの化合物は、Ablチロシンキナーゼの強力な阻害剤である。式Iの化合物の従来の経口固体剤形は、適切な生物学的利用能を提供できなかった。式Iの化合物を生物学的に利用可能な形態で提供する必要性が残っている。適切な生物学的利用能及び安定性を有する式Iの化合物の経口固体剤形が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、可融性ポリマー担体中の式Iの化合物の新規な非晶質分散体と、この非晶質分散体を含む経口固体剤形と、を発見した。非晶質分散体の経口固体剤形は、生物学的利用能及び安定性の向上をもたらす。
【0007】
好ましい実施形態では、本発明は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体との混合物を含む経口固体剤形であって、混合物が非晶質分散体である、経口固体剤形を提供する。経口の固体剤形は、任意に薬学的に許容される賦形剤を含む。本発明の経口固体剤形中の非晶質分散体は、溶融加工中に物理的及び化学的に安定であり、経口固体剤形は保管時に安定したままである。特に、経口固体剤形を室温で24ヶ月間保管したときに、ステージV不純物及びN-オキシド不純物等の各分解不純物は式Iの化合物の0.2重量%未満であり、既知の不純物と未知の不純物との合計である全不純物は式Iの化合物の2重量%未満である。更に、式Iの化合物は、保管期間中、非晶質状態のままであった。
【0008】
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】式Iの化合物の結晶形に特徴的なピークを示すX線回折スペクトルを示す図である。
【
図2】可融性ポリマー担体、即ち、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図3】可融性ポリマー担体の物理的混合物、即ち、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体及び式Iの化合物のX線回折スペクトルを示す図である。グラフは、式Iの化合物の結晶形に特徴的なX線回折ピークを示す。
【
図4】可融性ポリマー担体、即ちポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体中の式Iの化合物の非晶質分散体のX線回折スペクトルを示す図である。グラフは、式Iの化合物の結晶形に特徴的なX線回折ピークを示さなかった。
【
図5】結晶形の式Iの化合物の示差走査熱量分析(DSC)を示す図である。
【
図6】実施例IVのカプセルの賦形剤ブレンド(プラセボ)の示差走査熱量分析(DSC)を示す図であり、非晶質分散体は、式Iの化合物を含まずに可融性ポリマー担体のみを含む。
【
図7】実施例IVの式Iの化合物、可融性ポリマー担体、及びその他の賦形剤の物理的混合物の示差走査熱量分析(DSC)を示す図である。
【
図8】実施例IVのカプセル充填の示差走査熱量分析(DSC)で、乾燥剤の入った密閉容器に40℃、相対湿度75%でカプセルを保管した初期時点を示す図である。
【
図9】乾燥剤を入れた密閉容器に40℃、相対湿度75%で6ヶ月間保管した、実施例IVのカプセル充填の示差走査熱量分析(DSC)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、任意に薬学的に許容される賦形剤との混合物を含み、前記混合物が非晶質分散体である経口固体剤形を提供する。
【0011】
【0012】
本発明によれば、式Iの化合物と可融性ポリマー担体との混合物は非晶質分散体である。式Iの化合物の分散体の非晶質性は、当技術分野で知られている技術によって決定することができる。一例では、非晶質性は、X線粉末回折(XRD)を記録するか、示差走査熱量分析(DSC)によって決定される。結晶形に特徴的なX線回折ピークを示す式Iの化合物のXRDスペクトルを
図1に示し、DSCを
図5に示す。可融性ポリマー担体、即ちポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体のXRDスペクトルを
図2に示す。
【0013】
本明細書で使用される「非晶質分散体」という用語は、式Iの化合物の結晶形に特徴的なX線回折ピークを示さない可融性ポリマー担体中の式Iの化合物の混合物の固体分散体、又は示差走査熱量分析(DSC)で式Iの結晶性化合物の融解ピークを示さない分散体を意味する。可融性ポリマー担体中の式Iの化合物の非晶質分散体のXRDスペクトルは
図4に示されており、式Iの化合物の結晶形に特徴的なX線回折ピークがないことを示している。これに対して、式Iの結晶性化合物と可融性ポリマー担体との物理的混合物のXRDは、
図3に示すように、式Iの化合物の結晶形に特徴的なX線回折ピークを示した。
図4は、可融性ポリマー担体中の式Iの化合物の非晶質状態を明確に示す。
【0014】
本明細書で使用される「安定」又は「安定性」という用語は、剤形が物理的及び化学的に安定であることを意味する。「化学的に安定」とは、経口固体剤形を室温で24ヶ月間保管したときに、ステージV不純物及びN-オキシド不純物等の各分解不純物が式Iの化合物の0.2重量%未満であり、既知の不純物と未知の不純物との合計である全不純物が式Iの化合物の2重量%未満であることを意味する。式Iの化合物の既知の分解不純物はN-オキシド不純物及びステージV不純物と呼ばれる。
【0015】
【0016】
「物理的に安定」とは、本発明の経口固体剤形を室温で保管する場合に式Iの化合物が非晶質状態のままであることを意味する。
【0017】
本発明の経口固体剤形の非晶質分散体に使用される可融性ポリマー担体は、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との混合物が溶融加工によって処理されるときに式Iの化合物を含む非晶質分散体を形成する任意の可融性ポリマー担体であり得る。特定の一実施形態によれば、本発明の非晶質分散体中に存在する可融性ポリマー担体は、両親媒性であり、水性媒体並びにアルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に可溶である。そのようなポリマーの例には、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、室温で固体である分子量1000以上のポリエチレングリコール、又はそれらの混合物が含まれる。一実施形態によれば、可融性ポリマーは、1000、2000、1450、1540、2000、3000、3350、4000、4600、8000等の1000を超える平均分子量を有するポリエチレングリコール及びそれらの混合物等である。好ましい一実施形態では、可融性ポリマー担体は、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体である。可融性ポリマー担体は水、アセトン、メタノール、エタノール、及びジメチルホルム
アミドに可溶性であり、1,000g/mol~約5,000,000g/molの範囲の平均分子量で入手可能である。ポリマーは、溶融加工時にいかなる化学的分解も示さない。好ましくは、分子量は約10,000g/mol~約500,000g/molの範囲である。好ましい一実施形態では、分子量は約90,000g/mol~約140,000g/molの範囲である。更に別の好ましい実施形態では、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体は、約140,000g/mol~500,000g/molの範囲の分子量を有する。本発明の好ましい一実施形態によれば、非晶質分散体はいかなる他の賦形剤も含まない。他の実施形態によれば、追加の賦形剤が限られた量で非晶質分散体に存在してもよい。可融性ポリマー担体は、式Iの化合物と可融性ポリマー担体との混合物を溶融加工し、X線回折又は示差走査熱量測定等の適切な試験を行って非晶質分散体が形成されていることを確認することによって最初に選択され得る。式Iの化合物の融点付近で加熱すると実質的に減成又は分解するポリマーは、「可融性ポリマー担体」という用語の範囲内にない。そのようなポリマーの例には、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のセルロース誘導体、例えばポリ(メタクリル酸コエチルアクリレート 1:1)、ポリ(ブチルメチルアクリレートコジメチルアミノエチルメタクリレートコメチルメタクリレート(1:2:1)等のアクリレートポリマー、及び同様のポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
好ましい一実施形態では、非晶質分散体は式Iの化合物を、非晶質分散体の0.1~30重量%の範囲、例えば非晶質分散体の0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30重量%で含有する。可融性ポリマー担体は、非晶質分散体の10~99重量%の範囲、例えば非晶質分散体の10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、又は99重量%で存在する。特定の一実施形態では、式Iの化合物に対する可融性ポリマー担体の重量比は、1~20の範囲、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13等で存在する。好ましくは、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との重量比は、4:1から14:1の範囲で存在する。より好ましくは、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との重量比は約7:1である。
【0019】
好ましい実施形態によれば、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体との非晶質分散体は、2つの成分、即ち式Iの化合物と可融性ポリマー担体との混合物をホットメルト押出等の適切な技術で溶融する方法により調製される。
【0020】
【0021】
非晶質分散体を調製する好ましい方法は溶融加工によるものであり得るが、本明細書に記載の他の方法によって非晶質分散体を調製することも可能であり、本発明の範囲内である。溶融方法は、一般に、式Iの化合物を可融性ポリマー担体と混合し、加熱して溶融溶液を形成することを含む。別の実施形態によれば、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との混合物は、溶融した可融性ポリマー担体中に式Iの化合物を溶解するために混合又は撹拌しつつ、可融性ポリマー担体の融点付近の温度まで加熱してもよい。次いで、高温の溶融溶液を冷却して、非晶質分散体を得る。別の実施形態では、式Iの化合物と可融性ポリマー担体との混合物を、246±2℃の融点を有する式Iの化合物の融点付近の温度まで加熱する。別のより特に好ましい実施形態では、非晶質分散体は、ホットメルト押出により得ることができる。可融性ポリマー担体を、治療有効量の式Iの化合物と混合し、ホットメルト押出に供する。ホットメルト押出は、混合物の温度を100℃で開始して300℃まで徐々に上昇させ、続いて周囲温度で冷却することにより実施することができる。混合物を溶融する実施形態によれば、得られた溶融溶液を冷却して固化し、固体塊を適切なミルで押しつぶし粉砕して、顆粒又は粉末の形態の非晶質分散体を得る。
【0022】
別の実施形態によれば、式Iの化合物の非晶質分散体は、式Iの化合物及び可融性ポリマー担体を共通の溶媒に溶解し、透明な無溶媒膜が形成されるまで蒸発させることによって調製することもできる。非晶質分散体の他の調製方法は、式Iの化合物を適切な液体溶媒に溶解し、次に溶液を可融性ポリマー担体の溶融物に直接組み込むことであり、次にそれを透明な無溶媒膜が形成されるまで蒸発させる。膜は、従来の技術によって適切なサイズに更に粉砕されてもよい。上記の方法のいずれかによって得られた非晶質分散体は、外観が透明で透き通っている。本発明の非晶質分散体は一般に粉砕される。非晶質分散体の粉砕は、任意の従来の技術によって行われ得る。粉砕された非晶質分散体は自由流動性であり、許容可能な圧縮率を有する。本発明の粉砕された非晶質分散体のかさ密度は、0.7g/ml未満、好ましくは0.4、0.5、0.6g/mlである。特定の一実施形態では、かさ密度は0.52、0.53、0.54、0.55、0.56g/mlである。
【0023】
一実施形態では、非晶質分散体は固体形態で得られる。塊は、粉末を得るために既知の技術を使用して粉砕される。粉砕された非晶質分散体の粒径は、1000ミクロン未満、好ましくは750ミクロン未満、最も好ましくは500ミクロン未満であり得る。特定の一実施形態では、粒径は約75ミクロン~425ミクロンの範囲である。好ましい一実施形態では、粉砕された非晶質分散体のサイズは、600ミクロン未満、好ましくは425ミクロン未満、より好ましくは180ミクロン未満である。好ましくは、粒子のサイズは425ミクロン未満である。一実施形態によれば、粉砕された非晶質分散体の粒子の約100%は、425ミクロン未満のサイズである。別の実施形態によれば、粒子の約85%は250ミクロン未満のサイズである。別の実施形態によれば、粒子の約65%は180ミクロン未満のサイズである。別の実施形態によれば、粒子の約45%は150ミクロン未満のサイズである。更に別の実施形態によれば、粒子の約15%は75ミクロン未満のサイズである。
【0024】
特定の一実施形態では、本発明は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、任意に薬学的に許容される賦形剤との混合物を含み、前記混合物は非晶質分散体であり、更に前記可融性ポリマー担体はポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体である、経口固体剤形を提供する。好ましい実施形態では、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との重量比は約7:1である。一般に、非晶質分散体は微粉化された形態である。非晶質分散体は、粉砕された形態の場合、全ての粒子のサイズが750ミクロン未満、好ましくは500ミクロン未満である。
【0025】
【0026】
別の特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、任意に薬学的に許容される賦形剤との混合物を含み、前記混合物は非晶質分散体であり、更に前記可融性ポリマー担体がポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体であり得る、経口固体剤形を提供する。好ましい実施形態では、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との重量比は約7:1である。一般に、非晶質分散体は微粉化された形態である。非晶質分散体は、粉砕された形態の場合、全ての粒子のサイズが750ミクロン未満、好ましくは500ミクロン未満である。なお、可融性ポリマー担体は、式Iの化合物の融点付近で加熱したときに実質的な減成又は分解を伴って融解するポリマーではない。式Iの化合物の融点付近の温度で融解又は加熱すると実質的に減成又は分解するポリマーには、限定されるものではないが、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のセルロース誘導体、ポリ(メタクリル酸コエチルアクリレート1:1)、ポリ(ブチルメチルアクリレートコジメチルアミノエチルメタクリレートコメチルメタクリレート(1:2:1)等のアクリレートポリマー、及び類似のそのようなポリマーが含まれる。
【0027】
【0028】
更に別の特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、任意に薬学的に許容される賦形剤とから本質的に構成される混合物を含み、前記混合物が非晶質分散体であり、更に前記可融性ポリマー担体がポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体であり得る、経口固体剤形を提供する。この実施形態では、式Iの化合物と可融性ポリマー担体との混合物である非晶質分散体は、可融性ポリマー担体のみを含み、式Iの化合物の融点近くで加熱したときに実質的に減成又は分解することが見出された任意の他の賦形剤又はポリマーを含まない。そのようなポリマー又は賦形剤には、限定されるものではないが、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のセルロース誘導体、ポリ(メタクリル酸コエチルアクリレート1:1)、ポリ(ブチルメチルアクリレートコジメチルアミノエチルメタクリレートコメチルメタクリレート(1:2:1)等)等のアクリレートポリマーが含まれる。
【0029】
【0030】
好ましい実施形態では、可融性ポリマー担体と式Iの化合物との重量比は約7:1である。一般に、非晶質分散体は微粉化された形態である。非晶質分散体は、粉砕された形態の場合、全ての粒子のサイズが750ミクロン未満、好ましくは500ミクロン未満である。
【0031】
別の特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、任意に薬学的に許容される賦形剤とで構成される混合物を含み、前記混合物が非晶質分散体であり、更に前記可融性ポリマー担体がポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体であり得る、経口固体剤形を提供する。
【0032】
【0033】
あるいは、非晶質分散体は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体と、を含む混合物であって、混合物は、式Iの化合物の融点付近の加熱に曝されたときに実質的に減成又は分解することが見出された賦形剤を実質的に含まない。
【0034】
【0035】
式Iの化合物及び可融性ポリマー担体の非晶質分散体は、錠剤に直接圧縮するか、カプセル、サシェ、又はパウチに充填することができる。より好ましくは、非晶質分散体は、薬学的に許容される賦形剤を使用して錠剤又はカプセルに変換される。使用される方法には、非晶質分散体を薬学的に許容される賦形剤と混合し、直接圧縮することによって錠剤に変換するか、混合物をカプセルに充填することによってカプセルに変換するか、あるいは湿式造粒又は乾式造粒によって顆粒に変換し、顆粒をカプセルに充填するか錠剤に圧縮する等の従来の方法が含まれる。本発明の経口固体剤形は、上記方法のいずれか1つにより得られた非晶質分散体と、崩壊剤、吸上剤、潤滑剤、界面活性剤、緩衝剤、希釈剤等の他の従来の賦形剤とを混合し、混合物を経口固体剤形に変換することにより得ることができ、例えば、それを硬ゼラチンカプセル、パウチ、サシェに充填するか、錠剤に圧縮することができる。一実施形態によれば、経口固体剤形は、式Iの化合物と可融性ポリマー担体としてのポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体とを含む粉砕非晶質分散体で充填された硬ゼラチンカプセルである。別の実施形態によれば、経口固体剤形は、式Iの化合物と、可融性ポリマー担体としてのポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体と、他の従来の医薬賦形剤との粉砕非晶質分散体を含む圧縮錠剤である。好ましい一実施形態では、これらの充填された硬ゼラチンカプセル又は錠剤は、乾燥剤と共に密閉容器に詰められ、25℃、相対湿度60%で保管される。
【0036】
本発明の経口固体剤形は、物理的に安定している。即ち、式Iの化合物は非晶質状態のままであり、周囲条件で保管した場合、貯蔵期間中に結晶状態に変換されない。経口固体剤形中の式Iの化合物の非晶質性は、X線回折又は示差走査熱量分析(DSC)のいずれかにより決定され得る。式Iの化合物の結晶形のXRDスペクトルは特徴的な回折ピークを示し、DSCは約246±2℃で特徴的な融解ピークを示す。本発明の経口固体剤形のDSCは、初期時点及び40℃、相対湿度75%で6ヶ月間保管したときに、式Iの結晶性化合物に特徴的な約246±2℃での融解ピークを示さない。非晶質性を確認するために、プラセボ賦形剤ブレンドのXRD又はDSCも記録する。式Iの結晶性化合物の特徴であるXRDスペクトルの特徴的な回折ピーク、又はDSCスペクトルの約246±2℃での融解ピークの不在は、式Iの化合物が保管時に本発明の経口固体剤形で非晶質状態にあることを証明する。
【0037】
本発明の経口固体剤形はまた、化学的に安定である。これはステージV不純物及びN-オキシド不純物等の各分解不純物が式Iの化合物の0.2重量%未満であることを意味する。また、既知の不純物と未知の不純物との合計である全不純物は、式Iの化合物の2重量%未満である。好ましい実施形態では、ステージV不純物及びN-オキシド不純物等の各分解不純物は式Iの化合物の0.2重量%未満、好ましくは0.001~0.15重量%の範囲、好ましくは0.01~0.1重量%である。また、全不純物は、式Iの化合物の2重量%未満、好ましくは0.001~1.5重量%又は0.01~1重量%未満である。
【0038】
更に、この非晶質分散体は改善された経口生物学的利用能を提供し、ビヒクル中の式Iの化合物の結晶形をイヌに投与した場合の血漿中濃度と比較して、式Iの化合物の吸収の速度及び程度は著しく向上した。生物学的利用能の向上は有意であり、即ち、ビヒクル中の式Iの化合物の結晶形を経口投与したときに得られた生物学的利用能と比較して、約3、5、10、20、30、40、50倍の大きさであることがわかった。従って、本発明の経口固体投与量は、化学的及び物理的の両方で安定であるだけでなく、経口で生物学的に利用可能になった。
【0039】
薬学的に許容される賦形剤は、従来使用され当技術分野で知られているものである。これには希釈剤、崩壊剤、吸上剤、及び界面活性剤が含まれる。使用される崩壊剤の例には、限定されるものではないが、天然デンプン、アルファ化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶セルロース、メチルセルロース、クロスカルメロース、架橋セルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロース、架橋クロスカルメロース、架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、架橋ポリビニルピロリドン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、寒天、グアー、イナゴマメ、カラヤ、ペクチン、トラガカント、デンプングリコール酸ナトリウム、ベントナイト、陽イオン交換樹脂、ラウリル硫酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせが含まれる。一実施形態では、経口固体剤形で使用される崩壊剤は、経口固体剤形の総重量の約0.1%~10%の範囲の量で存在する。一実施形態では、経口固体剤形に使用される界面活性剤は、経口固体剤形の総重量の約1%~10%の範囲の量で存在する。経口固体剤形に使用される潤滑剤又は流動促進剤は、限定されるものではないが、二酸化ケイ素、ステアリン酸、水酸化カルシウム、タルク、コーンスターチ、フマル酸ステアリルナトリウム、アルカリ金属及びアルカリ土類金属塩、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ワックス、ホウ酸、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール5000、ポリエチレングリコール6000、プロピレングリコール、オレイン酸ナトリウム、ベヘン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、安息香酸グリセリル、ラウリル硫酸マグネシウム又はラウリル酸ナトリウム等で構成される群から選択される。経口固体剤形で使用される流動促進剤は、経口固体剤形の総重量の約0.1%~3%の範囲の量で存在する。経口固体剤形で使用される希釈剤は、限定されるものではないが、ラクトース、デンプン、マンニトール、ソルビトール、デキストロース、微結晶セルロース、リン酸二カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム、無水ラクトース、噴霧乾燥ラクトース、アルファ化デンプン、圧縮糖、マンニトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸ステアリン酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ショ糖ベースの希釈剤、糖、一塩基性硫酸カルシウム一水和物、硫酸カルシウム脱水物、乳酸カルシウム三水和物、デキストレート、加水分解穀物固形物、アミロース、粉末セルロース、炭酸カルシウム、グリシン、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、イノシトール、ベントナイト、ケイ化微結晶セルロース、及びそれらの組み合わせで構成される群から選択される。経口固体剤形で使用される希釈剤は、経口固体剤形の総重量の約1%~90%の範囲の量で存在する。
【実施例0040】
ここで、本発明を以下の実施例により更に説明するが、これらは限定ではなく例示である。
【0041】
実施例I及び実施例II
【0042】
【0043】
式Iの化合物及びポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体の指定された量をふるいにかけ、ブレンダーで混合した(実施例IIはポリエチレングリコール4000を更に含んでいた)。次に、得られたブレンドをホットメルト押出機に投入して徐々に高温にし(100℃~230℃)、溶融押出物を得た。次に、2000~2400RPMの4.00mmスクリーンを備えた粉砕ミルで押出物を粉砕し、これをASTM#40を通してふるいにかけ、ブレンダーに入れた。最終内容物を適切な容器に集め、ふるい分析にかけた。粒子の約100%が425ミクロン未満であることが観察された。粉砕粒子は、約75ミクロンから425ミクロンの範囲のサイズであった。更に、粒子の約85%は250ミクロン未満のサイズであり、粒子の約65%は180ミクロン未満のサイズであり、粒子の約45%は150ミクロン未満のサイズであり、粒子の約15%は75ミクロン未満のサイズであった。非晶質分散体の粉砕粒子は、約0.52~0.56g/mlの範囲のかさ密度を有し、許容可能な流動特性を有していた。押出物はX線回折にもかけた。実施例Iの溶融押出物のX線回折(
図4)は、式Iの化合物の結晶形に特徴的ないかなるピークも示さないことが観察され、その非晶質性が確認された。
【0044】
実施例III
実施例Iの非晶質分散体の適切な量と、ビヒクルに懸濁した式Iの化合物の結晶形をイヌに経口投与した。様々な時間間隔で血液サンプルを採取し、式Iの化合物の血漿中濃度を記録した。血漿中のCmax、AUC0-t、及びAUC0-∞を下表に示す。
【0045】
【0046】
上表から、可融性ポリマー担体、即ちポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコール共重合体を含む非晶質分散体としての式Iの化合物を含まず、ビヒクル中に単純に分散された試験と比較して、式Iの化合物を含む非晶質分散体の経口投与が、式Iの化合物の有意に高い経口生物学的利用能(Cmax、AUC0-t、及びAUC0-∞)を示したことは明らかである。同量の式Iの化合物を経口投与した場合、経口生物学的利用能は約6倍に増加した。
【0047】
実施例IV
実施例Iの非晶質分散体を、崩壊剤、吸上剤、界面活性剤、潤滑剤、緩衝剤、希釈剤等の他の従来の賦形剤と混合し、硬ゼラチンカプセルに充填した。充填カプセルの形態の経口固体剤形を以下に示す:
【0048】
表3:非晶質分散体を充填したカプセルとしての経口固体剤形
【表3】
【0049】
手順:実施例Iで調製した非晶質分散体の粉砕押出物、二酸化ケイ素、及びラウリル硫酸ナトリウムをふるいにかけ、ブレンダーに入れて混合した。ケイ化微結晶セルロース及びクロスポビドンをそれぞれ別々にふるいにかけ、粉砕押出物、二酸化ケイ素、及びラウリル硫酸ナトリウムの混合物を含むブレンダーに入れ、ブレンドした。このブレンドを、目標充填重量に対して適切なサイズの硬ゼラチンカプセルに充填し、これを乾燥剤及び小児用安全クロージャを備えた適切な容量の高密度ポリエチレンボトルに充填した。
【0050】
実施例V
実施例IVのカプセルを25℃、相対湿度60%で24ヶ月間安定条件に曝し、不純物及び関連物質を測定した。また、これらのカプセルを40℃、相対湿度75%で3ヶ月間加速安定条件に曝した。不純物及び関連物質は、保管前(初期)及び保管後に測定した。結果を以下の表4に示す。
【0051】
表4:実施例IVの経口固体剤形の安定性データ
【表4】
【0052】
安定性研究データは、ステージV不純物、N-オキシド不純物、最大未知不純物、及び全不純物等の分解不純物が十分に許容範囲内であることを示した。このことは経口固体剤形中の式Iの化合物の非晶質分散体が化学的に安定であることを実証した。
【0053】
40℃、相対湿度75%で6ヶ月間、密閉容器内で乾燥剤と共に保管した実施例IVのカプセルのブレンドをDSC分析にかけた。賦形剤又は可融性ポリマー担体の干渉を除外するために、式Iの化合物を含まないプラセボの賦形剤ブレンドのカプセルもDSC分析にかけた(
図6)。
図5に示した式Iの化合物の結晶形のDSCは、式Iの化合物の結晶形に特徴的な約246±2℃での鋭い融解ピークを示している。この融解ピークは、保管前(
図8)及び40℃、相対湿度75%で6ヶ月間保管した後(
図9)の両方において実施例IVのカプセルのブレンドのDSCには存在しなかった。このことは式Iの化合物がその貯蔵寿命を通して保管時に非晶質状態のままであったこと、即ち、保管時に物理的に安定であったことを実証した。
25℃、相対湿度60%で24ヶ月間保管したときに、N-オキシド及びステージVからなる群から選択される分解不純物が式Iの化合物の0.2重量%以下である、請求項4に記載の固体分散体。
ヒトにおけるABLチロシンキナーゼの阻害のために使用される固体分散体を調製するための式Iの化合物であって、前記式Iの化合物が非晶質状態である、式Iの化合物。