(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027330
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230221BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230221BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20230221BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20230221BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230221BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20230221BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C33/80
F16J15/447
F16J15/3232 201
F16J15/3256
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203821
(22)【出願日】2022-12-21
(62)【分割の表示】P 2018526731の分割
【原出願日】2017-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2016247464
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神前 剛
(57)【要約】
【課題】異物の侵入を阻止する機能が高い密封装置を提供する。
【解決手段】転がり軸受の回転する内側部材と固定された外側部材との間に配置される密封装置は、内側部材に固定される環状の回転シール部材と、外側部材の端部に固定される環状のシールカバーとを備える。シールカバーは、外側部材と内側部材との間の間隙に配置され、外側部材の端部に固定される固定部分と、回転シール部材よりも半径方向外側に配置され、外部から回転シール部材への異物の進行を阻止する保護部分とを備える。回転シール部材は、内側部材に固定される取付部分と、取付部分からシールカバーに向けて延びるシールリップとダストリップとを備える。ダストリップは、取付部分からシールカバーに向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の回転する内側部材と固定された外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の回転シール部材と、
前記外側部材の端部に固定される環状のシールカバーとを備え、
前記シールカバーは、
前記外側部材に固定される固定部分と、
前記回転シール部材よりも半径方向外側に配置され、外部から前記回転シール部材への異物の進行を阻止する保護部分とを備え、
前記回転シール部材は、
前記内側部材に固定される取付部分と、前記取付部分から前記シールカバーに向けて延びるシールリップとダストリップとを備え、
前記ダストリップは、前記取付部分から前記シールカバーに向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記シールカバーは、前記外側部材よりも半径方向内側に配置される、前記外側部材および前記内側部材と同心の筒状部分をさらに備え、
前記回転シール部材の前記シールリップは、前記取付部分から前記筒状部分に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記シールカバーの前記保護部分と前記回転シール部材の外縁部分との間隔が、半径方向外側に向かうほど小さくなっていることを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記回転シール部材の外縁部分は、前記外側部材の前記端部に最も近傍にある前記内側部材の第1の壁面と、前記第1の壁面よりも半径方向外側にあり前記第1の壁面よりも窪んだ前記内側部材の第2の壁面との間の傾斜面よりも、外側に配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記シールカバーは、
前記外側部材の前記端部に密着させられる外側壁部分と、
前記外側壁部分よりも半径方向内側、かつ前記転がり軸受の転動体側に配置された内側壁部分とをさらに備え、
前記回転シール部材は、二つのダストリップを備え、
前記ダストリップのうち半径方向外側に配置されたダストリップは、前記取付部分から前記シールカバーの前記外側壁部分に向けて延び、
前記ダストリップのうち半径方向内側に配置されたダストリップは、前記取付部分から前記シールカバーの前記内側壁部分に向けて延びることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の内部を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば玉軸受のような転がり軸受は周知であり、例えば自動車のハブに使用されている。転がり軸受の内部を密封する密封装置としては、特許文献1に記載されたものがある。この密封装置は、転がり軸受の外輪に固定される環状体と、環状体から半径方向内側に延びるラジアルリップと、環状体から側方に延びる2つのサイドリップとを備える。ラジアルリップは、軸受の内輪の外周面または内輪に固定される部品の外周面に接触して、軸受内部の潤滑剤を密封する機能を有し、2つのサイドリップは、内輪のフランジ等に接触して、外部から水やダスト等の異物が軸受内部へ侵入しないように封止する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の密封装置については、軸受内部と外部を遮断する機能が重要である。また、水(泥水または塩水を含む)およびダスト等の多い環境で使用される場合には、これらの異物が軸受内部に侵入しないように保護する機能を高めることが要求される。
【0005】
そこで、本発明は、異物の侵入を阻止する機能が高い密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る密封装置は、転がり軸受の回転する内側部材と固定された外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、前記内側部材に固定される環状の回転シール部材と、前記外側部材の端部に固定される環状のシールカバーとを備え、前記シールカバーは、前記外側部材に固定される固定部分と、前記回転シール部材よりも半径方向外側に配置され、外部から前記回転シール部材への異物の進行を阻止する保護部分とを備え、前記回転シール部材は、前記内側部材に固定される取付部分と、前記取付部分から前記シールカバーに向けて延びるシールリップとダストリップとを備え、前記ダストリップは、前記取付部分から前記シールカバーに向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、密封装置は、環状の回転シール部材と、これに組み合わせられる環状のシールカバーとを備える。シールカバーの保護部分は、回転シール部材よりも半径方向外側に配置され、外部から回転シール部材への異物の進行を阻止する。回転シール部材は、シールカバーに向けて延びるシールリップとダストリップとを備え、ダストリップは、シールカバーに向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。したがって、シールカバーと回転シール部材との間隙を通って外部から異物が侵入したとしても、異物はダストリップに阻止され、回転シール部材の回転に伴って、ダストリップによって外部へ向けて跳ね飛ばされる。
【0008】
本発明の一態様における密封装置においては、前記シールカバーは、前記外側部材よりも半径方向内側に配置される、前記外側部材および前記内側部材と同心の筒状部分をさらに備え、前記回転シール部材の前記シールリップは、前記取付部分から前記筒状部分に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。この場合には、回転シール部材の回転に伴う遠心力によって、シールリップはシールカバーの筒状部分に強く押圧される。したがって、軸受内部の潤滑剤に内側部材の回転に伴う遠心力が働いても、シールリップによって潤滑剤の漏れが効果的に低減または防止される。
【0009】
本発明の一態様における密封装置においては、前記シールカバーの前記保護部分と前記回転シール部材の外縁部分との間隔が、半径方向外側に向かうほど小さくなっている。この場合には、シールカバーの保護部分と回転シール部材の外縁部分との間隔が、半径方向外側に向かうほど小さくなっているため、外部から異物が侵入しがたく、密封装置内部から外部へは異物を排出しやすい。
【0010】
本発明の一態様における密封装置においては、前記回転シール部材の外縁部分は、前記外側部材の前記端部に最も近傍にある前記内側部材の第1の壁面と、前記第1の壁面よりも半径方向外側にあり前記第1の壁面よりも窪んだ前記内側部材の第2の壁面との間の傾斜面よりも、外側に配置される。この場合には、シールカバーの保護部分と内側部材の第2の壁面との間の間隙に異物が外部から侵入しても、回転シール部材の外縁部分が第1の壁面と第2の壁面との間の傾斜面よりも、外側に配置されるため、保護部分と回転シール部材の外縁部分との間の間隙を異物が通過しがたく、このため外部から密封装置の内部に異物が侵入しがたい。
【0011】
本発明の一態様における密封装置においては、前記シールカバーは、前記外側部材の前記端部に密着させられる外側壁部分と、前記外側壁部分よりも半径方向内側、かつ前記転がり軸受の転動体側に配置された内側壁部分とをさらに備え、前記回転シール部材は、二つのダストリップを備え、前記ダストリップのうち半径方向外側に配置されたダストリップは、前記取付部分から前記シールカバーの前記外側壁部分に向けて延び、前記ダストリップのうち半径方向内側に配置されたダストリップは、前記取付部分から前記シールカバーの前記内側壁部分に向けて延びる。この場合には、半径方向外側に配置されたダストリップとシールカバーの外側壁部分との間の間隙を異物が通過したとしても、半径方向内側に配置されたダストリップが異物を阻止する。半径方向内側に配置されたダストリップは、シールカバーの外側壁部分よりも転がり軸受の転動体側に配置された内側壁部分まで延びるため、半径方向外側に配置されたダストリップよりも長い。このため、半径方向内側に配置されたダストリップが異物を阻止する機能が高い。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、シールカバーの保護部分は、回転シール部材よりも半径方向外側に配置され、外部から回転シール部材への異物の進行を阻止する。また、保護部分と回転シール部材との間隙を通って外部から異物が侵入したとしても、異物はダストリップに阻止され、回転シール部材の回転に伴って、ダストリップによって外部へ向けて跳ね飛ばされる。したがって、本発明に係る密封装置は、異物の侵入を阻止する機能が高い。また、異物は、ダストリップによって跳ね飛ばされるので、ダストリップにとどまるおそれが少なく、ダストリップの望ましくない変質や損傷が低減される。さらに、ダストリップは、取付部分からシールカバーに向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びるため、回転シール部材の回転が高速になるほど、遠心力によってダストリップが変形し、シールカバーに対するダストリップの接触圧が小さくなる。したがって、ダストリップとシールカバーの接触に起因するトルクの増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例の部分断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
【
図3】
図2の密封装置の回転シール部材の部分断面図である。
【
図4】
図2の密封装置のシールカバーの部分断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。
第1実施形態
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例である自動車用のハブ軸受を示す。但し、本発明の用途はハブ軸受には限定されず、他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、以下の説明では、ハブ軸受は、玉軸受であるが、本発明の用途は玉軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、ころ軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。
【0015】
このハブ軸受1は、スピンドル(図示せず)が内部に挿入される孔2を有するハブ(内側部材)4と、ハブ4に取り付けられた内輪(内側部材)6と、これらの外側に配置された外輪(外側部材)8と、ハブ4と外輪8の間に1列に配置された玉10と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された玉12と、これらの玉を定位置に保持する複数の保持器14,15とを有する。
【0016】
外輪8が固定されている一方で、ハブ4および内輪6は、スピンドルの回転に伴って回転する。
【0017】
スピンドルおよびハブ軸受1の共通軸線は、
図1の左右方向に延びている。
図1においては、共通軸線に対する上側部分のみが示されている。
図1の右側は自動車の車輪(図示せず)が配置される外側(アウトボード側)であり、左側は差動歯車(図示せず)などが配置される内側(インボード側)である。ハブ軸受1の外輪8は、ハブナックル16に固定される。ハブ4は車輪を取り付けるためのアウトボード側フランジ18を有する。
【0018】
外輪8のアウトボード側の端部には、外輪8とハブ4との間の間隙を封止する密封装置20が配置されており、外輪8のインボード側の端部の内側には、外輪8と内輪6との間の間隙を封止する密封装置22が配置されている。これらの密封装置20,22の作用により、ハブ軸受1の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止されるとともに、外部からハブ軸受1の内部への異物の流入が防止される。
【0019】
密封装置20は、ハブ軸受1の回転するハブ4と固定された外輪8との間に配置される。具体的には、
図2に示すように、密封装置20は、ハブ軸受1の外輪8のアウトボード側の端部と、玉10と、ハブ4のアウトボード側フランジ18の近傍に配置される。密封装置20の大部分は、外輪8のアウトボード側の端部と、ハブ軸受1のハブ4の玉10の近傍の外周面4Aと、外周面4Aよりも外側に広がり外輪8の端面に対向するハブ4のフランジ面4Bと、外周面4Aとフランジ面4Bとを連結する円弧面4Cとで囲まれた空間内に配置される。密封装置20は環状であるが、
図2においては、その上側部分のみが示されている。
【0020】
図2に示すように、密封装置20は、ハブ4に固定される環状の回転シール部材24と、外輪8の端部に固定される環状のシールカバー26とを備える。
図3は、回転シール部材24の部分断面図であり、
図4はシールカバー26の部分断面図である。密封装置20は、回転シール部材24とシールカバー26の組み合わせであるアセンブリである。回転シール部材24とシールカバー26は協働して潤滑剤をハブ軸受1内に密封する。回転シール部材24は、固定シール部材26に嵌め合わせられており、密封装置1の軸線方向に沿って大きな力を与えると、その嵌め合わせが解除されて取り外されうる。
【0021】
シールカバー26は、剛体、例えば金属製の単一の部材であって、屈曲した断面形状を有する。シールカバー26は、固定部分28と、外側壁部分29と、保護部分30とを備える。固定部分28は、ハブ4および外輪8と同心の円筒であって、外輪8に固定される。固定の方式は、限定されないが、例えば締まり嵌めであってよい。外側壁部分29は、固定部分28の一端部から半径方向外側に向けて広がっており、外輪8の端面に密着させられる。
【0022】
保護部分30は、ほぼ円錐台の形状を有しており、外側壁部分29の外端から半径方向外側に向け、かつ外輪8の端面とアウトボード側フランジ18との間の間隙の大部分を覆うように、斜めに広がる。保護部分30は、外輪8のアウトボード側の端面とハブ4のフランジ面4Bとの隙間G1よりも半径方向外側に配置される。また、保護部分30は、回転シール部材24よりも半径方向外側に配置され、外部から回転シール部材24への(すなわち密封装置20の内部への)異物の進行を阻止する。但し、保護部分30の先端と、アウトボード側フランジ18との間には、隙間G2が設けられており、この隙間G2を異物(水(泥水または塩水を含む)およびダスト等を含む)が通過することが許容されている。
【0023】
さらにシールカバー26は、内側壁部分31と、筒状部分32とを備える。内側壁部分31は、固定部分28の外側壁部分29とは反対側の端部(玉10側の端部)から半径方向内側に向けて広がっている。筒状部分32は、内側壁部分31の内端から延びるハブ4および外輪8と同心(すなわち固定部分28と同心)の円筒である。
【0024】
他方、回転シール部材24は、弾性体、例えばエラストマーで形成された弾性環35と、弾性環35を補強する剛体、例えば金属製の断面がほぼL字形の補強環36とを有する二重構造である。補強環36は、弾性環35に密着しており、その一部が弾性環35に埋設されている。
【0025】
回転シール部材24は、ハブ4に固定される取付部分38と、取付部分38からシールカバー26に向けて延びるシールリップ39とダストリップ40,42とを備える。
【0026】
取付部分38は、ほぼL字形の断面を有する円環であって、弾性環35と補強環36から構成されている。取付部分38は、ハブ4の外周面4Aの周囲を覆う円筒部分38Aと、ハブ4のフランジ面4Bに対向する円板部分38Bと、ハブ4の円弧面4Cに対向する傾斜部分38Cとを有する。円筒部分38Aのうち補強環36に相当する部分は、ハブ4の外周面4Aに密着させられる。円板部分38Bのうち補強環36に相当する部分は、ハブ4のフランジ面4Bに密着させられる。傾斜部分38Cは円筒部分38Aと円板部分38Bを連結し、傾斜部分38Cのうち補強環36に相当する部分は、ハブ4の円弧面4Cに密着させられる。
【0027】
シールリップ39およびダストリップ40,42は、弾性体のみから形成されており、弾性環35から延びる薄板状の円環である。シールリップ39は、取付部分38の円筒部分38Aからシールカバー26の筒状部分32に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延び、シールリップ39の先端はシールカバー26の筒状部分32に接触させられている。
図2および
図3を比較すると明らかなように、回転シール部材24が固定シール部材26に嵌め合わせられると、シールリップ39は筒状部分32から反力を受けて元の形状から弾性変形させられる。シールリップ39は、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担う。
【0028】
ダストリップ40,42のうち半径方向外側に配置されたダストリップ40は、取付部分38の円筒部分38Aからシールカバー26の外側壁部分29に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。半径方向内側に配置されたダストリップ42は、取付部分38からシールカバー26の内側壁部分31に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。ダストリップ40,42は、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担う。
【0029】
図2および
図3を比較すると明らかなように、回転シール部材24が固定シール部材26に嵌め合わせられると、ダストリップ42は、これが接触する内側壁部分31から反力を受けて元の形状から大きく弾性変形させられる。したがって、ダストリップ42の異物阻止機能が高い。
【0030】
他方、回転シール部材24が固定シール部材26に嵌め合わせられても、ダストリップ40は、ほとんどまたはまったく弾性変形させられない。すなわち、ダストリップ40は、シールカバー26の外側壁部分29にわずかな締め代で接触させられてもよいし、ダストリップ40と外側壁部分29の間に僅かな隙間があってもよい。この場合には、ダストリップ40と外側壁部分29の接触に起因するトルクの増大が防止または抑制される。
【0031】
但し、ダストリップ42と同様に、ダストリップ40は、回転シール部材24が固定シール部材26に嵌め合わせられると、外側壁部分29から反力を受けて元の形状から大きく弾性変形させられるように、より長く形成されてもよい。この場合には、ダストリップ40の異物阻止機能を高めることができる。
【0032】
この実施形態では、2つのダストリップ40,42が設けられているが、ダストリップの数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0033】
図2に示すように、ハブ4は、外周面4Aとフランジ面4Bと円弧面4Cとを有する。外周面4Aは、玉10の近傍にある。フランジ面(第1の壁面)4Bは、外周面4Aよりも半径方向外側に、ハブ軸受1の軸線方向に垂直に広がり、外輪8の端面に対向する。円弧面4Cは、外周面4Aとフランジ面4Bとを連結する。フランジ面4Bはアウトボード側フランジ18の一部をなす。
【0034】
また、ハブ4は、第2のフランジ面(第2の壁面)4Dと傾斜面4Eとを有する。第2のフランジ面4Dは、フランジ面4Bよりも半径方向外側にあり、フランジ面4Bよりも窪んでいる(すなわちハブ軸受1の軸線方向に平行な方向において、第2のフランジ面4Dは、フランジ面4Bに比較して外輪8から遠い)。第2のフランジ面4Dはアウトボード側フランジ18の一部をなす。傾斜面4Eは、フランジ面4Bと第2のフランジ面4Dとを連結する。
【0035】
回転シール部材24の外縁部分44は、外輪8のアウトボード側の端面とハブ4のフランジ面4Bとの隙間G1よりも半径方向外側に配置される。外縁部分44の大部分は、弾性体から構成され、補強環36の外縁を覆っている。外縁部分44は、外輪8の端部に最も近傍にあるハブ4のフランジ面(第1の壁面)4Bと、フランジ面4Bよりも半径方向外側にありフランジ面4Bよりも窪んだハブ4の第2のフランジ面4Dとの間の傾斜面4Eよりも、外側に配置される。この配置によって、外縁部分44と傾斜面4Eと第2のフランジ面4Dとにより、異物の貯留空間48が形成される。
【0036】
外縁部分44にはテーパが形成されている。このテーパ面とシールカバー26の保護部分30の間には、異物が通過することが可能な隙間G3が設けられている。この隙間G3、すなわちシールカバー26の保護部分30と回転シール部材24の外縁部分44との間隔は、半径方向外側に向かうほど小さくなっている。
【0037】
図5は、この実施形態に係る密封装置20の使用形態を示す。特に、
図5は、密封装置20の内部に水W(泥水または塩水を含む)が侵入してしまった状態を示す。上記のように、この実施形態によれば、密封装置20は、環状の回転シール部材24と、これに組み合わせられる環状のシールカバー26とを備える。シールカバー26の保護部分30は、回転シール部材24よりも半径方向外側に配置され、外部から回転シール部材24への異物(水およびダスト等を含む)の進行を阻止する。回転シール部材24は、シールカバー26に向けて延びるシールリップ39とダストリップ40,42とを備え、ダストリップ40,42は、シールカバー26に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。したがって、シールカバー26と回転シール部材24との間隙(この実施形態では隙間G2,G3)を通って外部から異物が侵入したとしても、異物はダストリップ40,42に阻止され、回転シール部材24の回転に伴って、ダストリップ40,42によって外部へ向けて跳ね飛ばされる。
図5は、跳ね飛ばされた水滴Dを示している。水滴Dを示す異物は、隙間G2,G3を再び通過して、密封装置20から外部に出てゆく。したがって、この実施形態に係る密封装置20は、異物の侵入を阻止する機能が高い。また、異物は、ダストリップ40,42によって跳ね飛ばされるので、ダストリップ40,42にとどまるおそれが少なく、異物の残存に起因するダストリップ40,42の望ましくない変質や損傷が低減される。
【0038】
この実施形態では、半径方向外側に配置されたダストリップ40は、回転シール部材24の取付部分38からシールカバー26の外側壁部分29に向けて延び、半径方向内側に配置されたダストリップ42は、取付部分38からシールカバー26の内側壁部分31に向けて延びる。半径方向外側に配置されたダストリップ40とシールカバー26の外側壁部分29との間の間隙を異物が通過したとしても、半径方向内側に配置されたダストリップ42が異物を阻止する。半径方向内側に配置されたダストリップ42は、シールカバー26の外側壁部分29よりもハブ軸受1の玉10側に配置された内側壁部分31まで延びるため、半径方向外側に配置されたダストリップ42よりも長い。このため、半径方向内側に配置されたダストリップ42が異物を阻止する機能が高い。
【0039】
さらに、ダストリップ40,42は、取付部分38からシールカバー26に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びるため、回転シール部材24の回転が高速になるほど、遠心力によってダストリップ40,42が変形し、シールカバー26に対するダストリップ40,42の接触圧が小さくなる。したがって、ダストリップ40,42とシールカバー26の接触に起因するトルクの増大が抑制される。また、この実施形態において、ダストリップ40,42のうち半径方向外側に配置されたダストリップ40は、シールカバー26の外側壁部分29にわずかな締め代で接触させられてもよいし、ダストリップ40と外側壁部分29の間に僅かな隙間があってもよい。ダストリップ42により跳ね飛ばされた異物は、ダストリップ40と外側壁部分29との間の隙間を通じて半径方向外側に排出されると予期される。
【0040】
不可欠ではないが、回転シール部材24の外縁部分44は、外輪8の端部に最も近傍にあるハブ4のフランジ面4Bと、フランジ面4Bよりも半径方向外側にありフランジ面4Bよりも窪んだハブ4の第2のフランジ面4Dとの間の傾斜面4Eよりも、外側に配置される。したがって、シールカバー26の保護部分30とハブ4の第2のフランジ面4Dとの間の隙間G2を通じて異物が外部から侵入しても、回転シール部材24の外縁部分44がフランジ面4Bと第2のフランジ面4Dとの間の傾斜面4Eよりも、外側に配置されるため、保護部分30と回転シール部材24の外縁部分44との間の隙間G3を異物が通過しがたく、このため外部から密封装置20の内部に異物が侵入しがたい。
図5は、外縁部分44と傾斜面4Eと第2のフランジ面4Dとで形成された貯留空間48に水Wが貯留された状態を示す。貯留空間48内の異物(例えば水W)は、重力によって例えば貯留空間48を周方向に伝わって排出されると予想される。
【0041】
不可欠ではないが、シールカバー26の保護部分30と回転シール部材24の外縁部分44との間隔、すなわち隙間G3は、半径方向外側に向かうほど小さくなっている。したがって、外部から異物が隙間G3を通じて侵入しがたく、密封装置20内部から外部へは隙間G3を通じて異物を排出しやすい。
【0042】
不可欠ではないが、回転シール部材24の外縁部分44とハブ4の第2のフランジ面4Dとの間隔G4は、シールカバー26の保護部分30とハブ4の第2のフランジ面4Dとの間の隙間G2よりも大きい。したがって、外部から異物が隙間G2を通じて侵入する場合に、貯留空間48に異物が溜まり、重力によって例えば貯留空間48を周方向に伝わって排出し、隙間G3に侵入しにくい。
【0043】
不可欠ではないが、回転シール部材24のシールリップ39は、取付部分38からシールカバー26の筒状部分32に向けて、かつ半径方向外側に向けて斜めに延びる。このため、回転シール部材24の回転に伴う遠心力によって、シールリップ39はシールカバー26の筒状部分32に強く押圧される。したがって、ハブ軸受1内部の潤滑剤にハブ4の回転に伴う遠心力が働いても、シールリップ39によって潤滑剤の漏れが効果的に低減または防止される。
【0044】
第2実施形態
図6は、本発明の第2実施形態に係る密封装置50を示す。
図6において、第1実施形態と共通する構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
【0045】
この密封装置50のシールカバー26の外側壁部分29には、弾性体、例えばエラストマーで形成された弾性環51が取り付けられている。密封装置50の使用時に、弾性環51は、外輪8のアウトボード側の端面と外側壁部分29との間に配置され、これらの間の隙間に異物が侵入することを防止または抑制する。シールカバー26に固着された弾性環51の代わりに、シールカバー26とは別個の弾性体部品、例えばOリングが外輪8のアウトボード側の端面と外側壁部分29との間に配置されてもよい。
【0046】
また、密封装置50の回転シール部材24の円板部分38Bの補強環36の部分には、弾性体、例えばエラストマーで形成された弾性環52が取り付けられている。密封装置50の使用時に、弾性環52は、密封装置50の円板部分38Bの補強環36の部分と、アウトボード側フランジ18との間に配置され、これらの間の隙間に異物が侵入することを防止または抑制する。この密封装置では、弾性環52は、回転シール部材24の外縁部分44と連続しているが、外縁部分44からは離間していてもよい。また、回転シール部材24の一部である弾性環52の代わりに、回転シール部材24とは別個の弾性体部品、例えばOリングが円板部分38Bの補強環36の部分と、アウトボード側フランジ18との間に配置されてもよい。
【0047】
以上、本発明の様々な実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【符号の説明】
【0048】
1 ハブ軸受
2 孔
4 ハブ(内側部材)
4A 外周面
4B フランジ面(第1の壁面)
4C 円弧面
4D 第2のフランジ面(第2の壁面)
4E 傾斜面
6 内輪(内側部材)
8 外輪(外側部材)
10,12 玉
14,15 保持器
16 ハブナックル
18 アウトボード側フランジ
20,22,50 密封装置
24 回転シール部材
26 シールカバー
28 固定部分
29 外側壁部分
30 保護部分
31 内側壁部分
32 筒状部分
35 弾性環
36 補強環
38 取付部分
38A 円筒部分
38B 円板部分
38C 傾斜部分
39 シールリップ
40,42 ダストリップ
44 外縁部分
48 貯留空間
51,52 弾性環
G1,G2,G3 隙間
W 水
D 水滴
【手続補正書】
【提出日】2023-01-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の回転する内側部材と固定された外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の回転シール部材と、
前記外側部材の端部に固定される環状のシールカバーとを備え、
前記シールカバーは、
前記外側部材に固定される固定部分と、
前記回転シール部材よりも半径方向外側に配置された保護部分とを備え、
前記シールカバーの前記保護部分と前記回転シール部材の外縁部分との間に異物が通過することが可能な間隔が設けられ、当該間隔は、前記外側部材の前記端部の端面と当該端面に対向する前記内側部材の面との隙間よりも半径方向外側に位置していると共に、外部まで連通していることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記シールカバーの前記保護部分の先端は、前記転がり軸受の軸線方向において前記回転シール部材の外縁部分よりも前記転がり軸受の外部側に位置している、請求項1に記載の密封装置。