(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027418
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法およびそれに用いる測定キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/72 20060101AFI20230222BHJP
G01N 33/573 20060101ALI20230222BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230222BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20230222BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230222BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
G01N33/72 A
G01N33/573 A
G01N33/48 B
G01N33/483 F
G01N27/416 336G
G01N27/327 353R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019224694
(22)【出願日】2019-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】PHCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 香織
(72)【発明者】
【氏名】羽田 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 太志
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA02
2G045AA13
2G045AA25
2G045BA13
2G045BB25
2G045BB29
2G045CA02
2G045CA25
2G045DA31
2G045DA45
2G045DA48
2G045DA51
2G045FB03
2G045FB06
2G045GC20
2G045HA09
2G045HA14
2G045JA07
(57)【要約】
【課題】総ヘモグロビン濃度の検出感度を向上させることで高精度の測定が可能な、糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法およびそれに用いる糖化ヘモグロビン用測定キットを提供すること。
【解決手段】本発明の糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法は、界面活性剤と、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物と、タンパク質分解酵素とを含む前処理液を用意する工程と、血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含む。ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤と、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物と、タンパク質分解酵素とを含む前処理液を用意する工程と、
血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、
前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含む、糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法。
【化1】
ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項2】
前記界面活性剤は、N-アシルアミノ酸塩である、請求項1に記載の電気化学測定方法。
【請求項3】
前記タンパク質分解酵素は、アクチナーゼEである、請求項1または2に記載の電気化学測定方法。
【請求項4】
界面活性剤とタンパク質分解酵素を含む前処理液を用意する工程と、血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含む糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法に用いる糖化ヘモグロビン用測定キットであって、
前記前処理液への添加剤として、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物を含む、糖化ヘモグロビン用測定キット。
【化2】
ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法およびそれに用いる測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野や臨床検査分野等の種々の分野で、生体試料内の検出対象物質を測定するためにバイオセンサが用いられている。バイオセンサの一例として、電気化学的測定法を用いたバイオセンサが知られている。このバイオセンサは、絶縁性基材上に作用極、対極および参照極を形成し、これらの電極に接して酵素と電子受容体(以下、メディエータという)とを含む酵素反応層(試薬部ともいう)を形成している。このようなバイオセンサによれば、原理的には、測定対象物質を基質とする酵素を選択することによって、様々な物質の測定が可能である。例えば、酵素にグルコースオキシダーゼを選択することで、試料液中のグルコース濃度を測定するグルコースセンサが実用化されている。
【0003】
一方、近年、糖尿病診断の指標として、糖化ヘモグロビンや糖化アルブミン等の糖化タンパク質の測定が広く行われている。例えば、ヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと略す)は糖化ヘモグロビンの1つであり、HbA1c値は、赤血球中のヘモグロビンのうち、糖と結合しているヘモグロビンの割合を示す検査値である。HbA1c値は、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映するため、血液中のグルコース量と比較すると、検査前の食事の影響を受けにくく、糖尿病を管理する指標として重要である。HbA1c値は、光学的分光方法を用いて、HPLC法や免疫法により測定されている。その測定に際し、前処理として、血液検体に界面活性剤を含む溶血試薬を作用させる溶血処理が通常行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学測定方法を用いて糖化ヘモグロビン、例えばHbA1cの測定を行う場合、血液検体に溶血試薬とタンパク質分解酵素を作用させて被検液を調製し、その被検液について、HbA1c濃度と総ヘモグロビン濃度を電気化学的に測定する。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討する過程で、溶血試薬に用いる界面活性剤が、総ヘモグロビン濃度の検出感度を低下させることを見出した。前処理では、血液検体を、例えば100倍程度に希釈するため、被検液中の総ヘモグロビン濃度はμMオーダーとなる。このような低濃度の総ヘモグロビン濃度を測定するためには、総ヘモグロビン濃度の検出感度をさらに向上させることが必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、総ヘモグロビン濃度の検出感度を向上させることで高精度の測定が可能な、糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法およびそれに用いる糖化ヘモグロビン用測定キットを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法は、界面活性剤と、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物と、タンパク質分解酵素とを含む前処理液を用意する工程と、血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
【化1】
ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【0009】
また、本発明の糖化ヘモグロビン用測定キットは、界面活性剤とタンパク質分解酵素を含む前処理液を用意する工程と、血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含む糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法に用いる糖化ヘモグロビン用測定キットであって、前記前処理液への添加剤として、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物を含むことを特徴とする。
【0010】
【化2】
ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気化学測定方法によれば、総ヘモグロビン濃度の検出感度を向上させることで糖化ヘモグロビンのより高精度の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの一例である。
【
図2】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図3】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図4】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図5】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図6】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図7】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図8】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図9】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図10】本発明の実施例1における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの別の例である。
【
図11】本発明の実施例2における総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの一例である。
【
図12】界面活性剤が存在する場合と存在しない場合の、総ヘモグロビン濃度と測定電流値の間の関係を示すグラフの一例である。
【
図13】実施の形態1に用いる電気化学式バイオセンサAの構造の一例を示す斜視図である。
【
図14】
図13の電気化学式バイオセンサAの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面等を参照することで本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
実施の形態1
本実施の形態は、糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法に関するものであり、該電気化学測定方法は、界面活性剤と、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物と、タンパク質分解酵素とを含む前処理液を用意する工程と、血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0015】
【化3】
ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【0016】
本実施の形態に係る電気化学測定方法が測定対象とする糖化ヘモグロビンの例としては、HbA1cを挙げることができる。
【0017】
本実施の形態に係る電気化学測定方法で用いる前処理液は、界面活性剤と、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物と、タンパク質分解酵素とを含んでいる。界面活性剤は、血液検体の溶血処理を行い赤血球からヘモグロビンを溶出させる溶血試薬である。また、タンパク質分解酵素は、溶出したヘモグロビンを分解する。
【0018】
界面活性剤は特に限定されず、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤のいずれかを用いることができる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩型や第4級アンモニウム塩型を挙げることができる。第4級アンモニウム塩型としては、ベンジルドデシルジメチルアンモニウム二水和物、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド等を挙げることができる。また、アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルアミノ酸塩や、アルカンスルホン酸塩等のスルホン酸塩型や、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸酸塩等のアルキル硫酸エステル型、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル型を挙げることができる。また、両性界面活性剤としては、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート等のスルホベタイン型を挙げることができる。また、ノニオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル型、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル‐ポリエチレングリコール(TritonX-100)等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを含むエーテル型、ポリオキシエチレンソルビタンモノラルレート(Tween)等の脂肪族ポリオキシエチレンソルビタンを含むエステルエーテル型、アルカノールアミド型、ドデシルマルトシド等のグルコシド型を挙げることができる。特に限定されるものではないが、上記の一般式(I)で示されるピラゾール化合物との組み合わせで好ましい界面活性剤は、N-アシルアミノ酸塩である。また、前処理液中の界面活性剤の濃度は、1~10重量%、好ましくは2.5~5重量%である。ここで、N-アシルアミノ酸塩(アルカノイルアミノ酸塩ともいう)のアシル基は、炭素数8~24の直鎖または分岐鎖の脂肪族アシル基であり、例えば、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基等を挙げることができる。また、N-アシルアミノ酸塩のアミノ基は、例えば、グリシン、サルコシン、アラニン、グルタミン酸等を挙げることができる。また、N-アシルアミノ酸塩の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。好ましいN-アシルアミノ酸塩としては、アルカノイルサルコシン塩を挙げることができる。アルカノイルサルコシン塩の具体例としては、N-ドデカノイルサルコシンナトリウムやN-ミリストイルサルコシンナトリウム等を挙げることができる。
【0019】
タンパク質分解酵素としては、タンパク質分解活性やペプチド分解活性を有するものであれば特に限定されないが、糖化ジペプチドを効率よく遊離させるものが好ましい。このようなタンパク質分解酵素としては、プロテアーゼ、トリプシン、パパイン等を挙げることができる。例えば、アクチナーゼE(科研製薬社製)等を挙げることができる。用いるタンパク質分解酵素の濃度は、血液検体中の糖化ヘモグロビンの量や処理条件により異なるが、例えば、アクチナーゼEでは、前処理液中、100~10000U/mL、好ましくは1000~5000U/mLである。
【0020】
なお、前処理液のpHは、タンパク質分解酵素に適したpHであれば特に制限されないが、pH5.5~10に調整することが好ましい。緩衝液には、例えば、リン酸緩衝液(pH6.5)を用いることができる。緩衝液の濃度も特に制限されないが、5~300mMが好ましい。
【0021】
また、上記の一般式(I)で示されるピラゾール化合物としては、3-エチルピラゾール、4-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3,4,5-トリメチルピラゾール等を挙げることができるが、ピラゾールが好ましい。溶血試薬中のピラゾール化合物の濃度は、10~80重量%、好ましくは40~80重量%である。10重量%より少ないと総ヘモグロビン濃度の検出感度を向上させる効果が充分ではなく、80重量%より多くしても検出感度はそれほど向上しないからである。ここで、本発明において、総ヘモグロビン濃度の検出感度とは、後述の電気化学式バイオセンサによる検出電流値と総ヘモグロビン濃度から得られる回帰直線の傾きの大小で規定され、傾きが大きいほど検出感度が高いものとする。
【0022】
また、被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度は、電気化学式バイオセンサを用いて測定することができる。電気化学式バイオセンサとしては、例えば、少なくとも、絶縁性基材と、絶縁性基材上に形成され、1対の作用極と対極からなる第1電極対および1対の作用極と対極からなる第2電極対と、第1電極対に接してあるいはその近傍に配置され、検出酵素を含む第1試薬部と、第2電極対に接してあるいはその近傍に配置され、メディエータを含む第2試薬部と、を有するものを用いることができる。
【0023】
図13は本実施の形態に用いる電気化学式バイオセンサの一例を示す斜視図であり、
図14はその分解斜視図である。電気化学式バイオセンサAは、導電部4を有する絶縁性基材1とカバー2とが、スペーサ3を介して積層されている。
図13では、X方向を長手方向とし、Y方向を幅方向とする長矩形片形状を有する例を示している。
【0024】
対向する一対の主面を有する絶縁性基材1の一方の主面には導電部4が形成されている。導電部4は、導電性部分であり、第1電極対41と第2電極対42、絶縁性基材1の一端部に形成された端子部43、第1電極対41および第2電極対42と端子部43とを接続するリード部44を有している。第1電極対41は、長手方向に配置され、互いに導通する一対の作用極41a,41aと、平面視で各作用極41aを挟むように微小空隙を介して各作用極41aと対向する一対の対極41b、41bを2対、有している。また、第2電極対42は、第1電極対41と離間するように長手方向に配置された作用極42aと、平面視で作用極42aを挟むように微小空隙を介して作用極42aと対向する一対の対極42b、42bを有している。一対の作用極41a,41aはリード44aを介して端子43aに接続され、2対の対極41b,41bはリード44dを介して端子43dに接続され、作用極42aはリード44bを介して端子43bに接続され、一対の対極42b、42bはリード44cを介して端子43cに接続されている。なお、
図14では、第1試薬部と第2試薬部を除いた構造を示しているが、第1試薬部は第1電極対に接してあるいはその近傍に配置され、第2試薬部は第2電極対に接してあるいはその近傍に配置される。第1電極対41と第2電極対42の2つの電極対は、被検液中の異なる2種の被検出物質を測定する場合に用いることができる。2種の被検出物質を測定する場合としては、例えば、HbA1c値を測定する場合であり、第1電極対41でHbA1cの濃度を測定し、第2電極対42でHbの濃度を測定することができる。
【0025】
スペーサ3には、少なくとも1つの開口部があればよいが、電気化学式バイオセンサAは長手方向に沿って互いに離間して形成された2つの開口部3a,3bを有している。また、スペーサ3は、端子部43が露出するように、絶縁性基材1よりも長さを短くしている。また、カバー2は、長手方向の一端部に開口部2a、他端部に開口部2cを有するとともに、開口部2aと開口部2cとの中間部に開口部2bを有している。また、カバー2も、スペーサ3の場合と同様に、端子部43が露出するように、絶縁性基材1よりも長さを短くしている。ここで、スペーサ3の開口部とカバー2の開口部とは、スペーサ3とカバー2とを積層した時に、カバー2の中央部の開口部2bが、スペーサ3の開口部3aの中央側端部と開口部3bの中央側端部の両方と一部が重なるように配置され、またカバー2の一端部の開口2aがスペーサ3の開口部3aの側端部と少なくとも一部が重なり、カバー2の他端部の開口2cがスペーサ3の開口部3bの側端部と少なくとも一部が重なるように配置される。なお、カバー2の中央部の開口部2bは、被検液の導入開口として用いることができる。開口部2bに被検液を滴下すると、被検液は第1試薬部と第2試薬部と接し、被検液と第1試薬部および第2試薬部との反応が進行する。
【0026】
前処理において、タンパク質分解酵素によりヘモグロビンが分解されるが、その際糖化ヘモグロビンは糖化部分が切り出されて、糖化ジペプチドが生成する。第1電極対の作用極には糖化ジペプチドと特異的に反応する検出酵素が担持されており、糖化ジペプチドはその検出酵素により酸化され、過酸化水素が生成する。第1電極対の作用極と対極との間に所定の電圧を印加すると、過酸化水素濃度に応じた電流値が検出される。過酸化水素濃度は、糖化ジペプチドの濃度と相関するため、過酸化水素濃度に応じた電流値を検出することで糖化ヘモグロビンの濃度を測定することができる。一方、第2電極対には、ヘモグロビンと反応するメディエータが担持されている。メディエータは酸化還元体であり、ヘモグロビンを酸化することで、自身は還元体となり、第2電極対の作用極と対極との間に所定の電圧を印加すると、還元体濃度に応じた電流値が検出される。還元体濃度は、総ヘモグロビン濃度と相関するため、還元体濃度に応じた電流値を検出することで総ヘモグロビン濃度を測定することができる。
【0027】
検出酵素としては、糖化ジペプチド(例えば、フルクトシルバリルヒスチジン)を酸化して過酸化水素を生成させるものを用いることができる。具体的には、フルクトシルペプチドオキシダーゼを挙げることができる。検出酵素の量は、例えば、センサ1個当り、もしくは1回の測定当り、例えば、0.01~100U、好ましくは0.05~10Uである。
【0028】
メディエータは、特に限定されるものではないが、金属錯体(例えば、オスミウム錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体等)、キノン化合物(例えば、ベンゾキノン、ナフトキノン、フェナントレンキノン、フェナントロリンキノン、アントラキノン、及びそれらの誘導体等)、フェナジン化合物、ビオロゲン化合物、フェノチアジン化合物、及びフェノール化合物が挙げられる。より具体的にはフェリシアン化カリウム、ヘキサアンミンルテニウム、フェロセン、ポリ(1-ビニルイミダゾール)-ビス(ビピリジン)クロロオスミウム、ヒドロキノン、2-メチル-1,4-ベンゾキノン、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸塩、9,10-フェナントレンキノン-2-スルホン酸塩、9,10-フェナントレンキノン-2,7-ジスルホン酸塩、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン、アントラキノン-2-スルホン酸塩、1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート、メチルビオロゲン、ベンジルビオロゲン、メチレンブルー、メチレングリーン、2-アミノフェノール、2-アミノ-4-メチルフェノール、及び2,4-ジアミノフェノールからなる群から選ばれる1種以上が用いられる。メディエータの配合量は、特に制限されず、1回の測定当り若しくは生体物質検出用センサ1個当り、例えば、0.1pmol~100μmolであり、好ましくは、10pmol~10μmolであり、より好ましくは、50pmol~1μmolである。
【0029】
本実施の形態によれば、前処理液が界面活性剤を含んでいても、総ヘモグロビン濃度の検出感度を向上させることができる。これにより、糖化ヘモグロビンのより高精度の測定が可能となる。
【0030】
実施の形態2
本実施の形態は、実施の形態1に係る糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法に用いる糖化ヘモグロビン用測定キットに関するものであり、界面活性剤とタンパク質分解酵素を含む前処理液を用意する工程と、血液検体に前記前処理液を接触させて被検液を調製する工程と、前記被検液に含まれる糖化ヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度を測定する工程と、を含む糖化ヘモグロビンの電気化学測定方法に用いる糖化ヘモグロビン用測定キットであって、前記前処理液への添加剤として、以下の一般式(I)で示されるピラゾール化合物を含むことを特徴とするものである。
【0031】
【化4】
ここで、一般式(I)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【0032】
本測定キットの構成例としては、例えば、電気化学式バイオセンサ、緩衝液、タンパク質分解酵素、界面活性剤、および一般式(I)で示されるピラゾール化合物等を挙げることができる。
【0033】
本実施の形態によれば、測定キットが、ピラゾール化合物を含んでいるので、ピラゾール化合物を含まない場合に比べて、総ヘモグロビン濃度の検出感度を向上させることができる。これにより、糖化ヘモグロビンのより高精度の測定が可能となる。
【実施例0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
本実施例では、電気化学式バイオセンサを用いて、種々の界面活性剤の存在下、ピラゾール化合物の総ヘモグロビン濃度の検出感度への影響を検討した。
【0036】
(実験方法)
<電気化学式バイオセンサの第2試薬部の組成>
フェリシアン化カリウム 2重量%
タウリン 1重量%
アクパーナ 0.06重量%
MVE/MVA 0.02重量%
ヨード 180μM
ドデシルマルトシド 0.005重量%
ここで、フェリシアン化カリウムは(和光純薬社製)、タウリンは(和光純薬社製)、アクパーナはポリアクリル酸部分中和物(住友精化社製)、MVE/MVAは(三晶社製)、ヨードは(東京化成社製)、ドデシルマルトシドはノニオン性界面活性剤(同仁化学社製)である。
【0037】
<前処理液の組成>
リン酸緩衝液(PB)(pH6.5) 5mM
アクチナーゼE 1200U/mL
界面活性剤 2.5重量%
ピラゾール 40mM
【0038】
ピラゾールは、(東京化成社製)を用いた。また、アクチナーゼEは、科研製薬社製を用いた。界面活性剤は、以下のものを用いた。
・アニオン性界面活性剤
ドデシル硫酸ナトリウム(略号:SDS)(和光純薬社製)
N-ラウロイルサルコシン(略号:NDDS)(和光純薬社製)
・カチオン性界面活性剤
ベンジルドデシルジメチルアンモニウム二水和物(東京化成社製)
デシルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成社製)
テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(略号:TTAB)(東京化成社製)
・ノニオン性界面活性剤
4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル‐ポリエチレングリコール(TritonX-100)(和光純薬社製)
ポリオキシエチレンソルビタンモノラルレート(Tween)(和光純薬社製)
N-ドデシル-β-D-マルトシド(同仁化学社製)
・両性界面活性剤
ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩(東京化成社製)
3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート(略号:CHAPS)(同人化学社製)
【0039】
血液検体が25倍希釈されるように、血液検体に前処理液を混合し、被検液を調製した。被検液を電気化学式バイオセンサに点着し、電気化学測定を行った。電気化学測定は、電気化学式バイオセンサをビー・エー・エス社製ポテンショスタットに接続し、第2電極対の作用極-対極間に0.4Vの電圧を印加し、15秒経過後の電流値を測定した。総ヘモグロビン濃度を0~120μMの範囲で変化させた。総ヘモグロビン濃度と測定電流値の回帰直線(以下、検量線という)の傾きを算出し、ピラゾールが存在しない場合の検量線の傾きより大きい場合を、総ヘモグロビン濃度の検出感度が向上したと判定した。
【0040】
(結果)
図12は、SDSが存在する場合と存在しない場合の、検量線の一例である。前処理液にSDSが存在すると、存在しない場合に比べて検量線の傾きが小さくなり、検出感度が低下した。なお、総ヘモグロビン濃度は0~2782.95μMの範囲で測定した。一方、
図1~
図10に、前処理液がピラゾールを含む場合の検量線の測定結果を示す。前処理液にピラゾールが存在すると、用いた界面活性剤すべてにおいて、検出感度が向上した。以下の表1に検量線の傾きの値を示す。
【0041】
【0042】
実施例2
本実施例では、ピラゾール濃度を変化させて、総ヘモグロビン濃度の検出感度への影響を検討した。用いた前処理液の組成は、以下の通りである。
【0043】
<前処理液の組成>
リン酸緩衝液(PB)(pH6.5) 135mM
アクチナーゼE 1200U/mL
界面活性剤NDDS 1重量%
グルタミン酸ナトリウム 300mM
ピラゾール 10、40、80、120、200mM
【0044】
(結果)
図11は、ピラゾール濃度を変化させた時の、検量線の測定結果である。ピラゾール濃度の増加とともに検出感度は向上し、80mM以上ではほぼ一定となった。
【0045】
比較例1
本比較例では、ピラゾールに代えて一般式(I)で示されるピラゾール以外の複素5員環化合物(以下、比較添加剤という)を用いた。用いた前処理液の組成は以下の通りである。
【0046】
<前処理液の組成>
リン酸緩衝液(PB)(pH6.5) 135mM
アクチナーゼE 1200U/mL
界面活性剤NDDS 1重量%
グルタミン酸ナトリウム 300mM
9,10-フェナントレンキノン-2-スルホン酸ナトリウム(PQSA) 12mM
比較添加剤 10、30mM
【0047】
比較添加剤は、以下のものを用いた。
・イミダゾール類
イミダゾール(東京化成社製)
エチルイミダゾール(東京化成社製)
1-ブチルイミダゾール(東京化成社製)
・アミノメチルピラゾール(シグマアルドリッチ社製)
・トリアゾール(東京化成社製)
・4-アミノ-1,2,4-トリアゾール(シグマアルドリッチ社製)
・1H-テトラゾール(シグマアルドリッチ社製)
なお、アミノメチルピラゾールとトリアゾールの濃度は、10、40mMである。また、4-アミノ-1,2,4-トリアゾールと1H-テトラゾールの場合、濃度は40mMであり、PQSAは添加しなかった。
【0048】
(結果)
用いた比較添加剤のいずれの場合も、これら比較添加剤を添加しない場合と比較して、検量線の傾きはほとんど変化せず、検出感度の向上は認められなかった。