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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027437
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】ポリアミド系ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C07C 62/32 20060101AFI20230222BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20230222BHJP
   C07C 69/757 20060101ALI20230222BHJP
   C09J 177/06 20060101ALI20230222BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C07C62/32
C08G69/26
C07C69/757 Z CSP
C09J177/06
C09J5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132518
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】高田 健司
(72)【発明者】
【氏名】野田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓実
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
【テーマコード(参考)】
4H006
4J001
4J040
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB46
4H006BN30
4H006BS20
4H006KA31
4J001DA01
4J001DB01
4J001DD05
4J001EB08
4J001EB14
4J001EB64
4J001EB72
4J001EC04
4J001EC05
4J001EC06
4J001EC07
4J001EC08
4J001EC09
4J001EC14
4J001EC54
4J001EE06F
4J001EE35E
4J001EE65D
4J001EE76D
4J001EE76F
4J001FA01
4J001FB03
4J001FB06
4J001FC03
4J001FC06
4J001GA13
4J001JB07
4J001JB21
4J001JB50
4J040EG021
4J040JB01
4J040MA02
4J040PA42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】機械的強度および靭性が高く、塗工した後に容易に基材から除去することができるという接着後の剥離容易性に優れているポリアミド系ポリマー、当該ポリアミド系ポリマーの製造中間体として有用な多価フェノール化合物、ならびに前記ポリアミド系ポリマーが用いられている接着剤および成形材料を提供する。
【解決手段】式(II):

(式中、R3は、2価の有機基を示す)で表わされる繰り返し単位を有することを特徴とするポリアミド系ポリマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる多価フェノール化合物。
【請求項2】
式(II):
【化2】
(式中、R3は、2価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有することを特徴とするポリアミド系ポリマー。
【請求項3】
式(I):
【化3】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる多価フェノール化合物と、式(III):
2N-R3-NH2 (III)
(式中、R3は、2価の有機基を示す)
で表わされるジアミン化合物とを反応させることを特徴とする式(II):
【化4】
(式中、R3は前記と同じ)
で表わされる繰り返し単位を有するポリアミド系ポリマーの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のポリアミド系ポリマーを含有してなる接着剤。
【請求項5】
請求項2に記載のポリアミド系ポリマーを含有してなる成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系ポリマーに関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリアミド系ポリマーおよび当該ポリアミド系ポリマーの原料として有用な多価フェノール化合物に関する。本発明のポリアミド系ポリマーは、例えば、接着剤、成形材料などに使用することが期待される。
【背景技術】
【0002】
木質リグニンに含まれている桂皮酸類は、分子中に炭素-炭素不飽和二重結合およびカルボキシル基を有し、紫外線の照射を受けたときに二量化する性質を示すことから、機能性材料の原料として用いられている(例えば、非特許文献1~3参照)。
【0003】
桂皮酸に類似する化合物としてカフェ酸が知られている。カフェ酸が原料として用いられている材料として抗酸化作用、金属配位機能、接着性などの性質を有する材料が知られている(例えば、非特許文献4および5参照)。
【0004】
また、原料としてカフェ酸が原料に使用されているポリエステルは、接着性に優れていることが報告されている(例えば、特許文献1および非特許文献6参照)。
【0005】
しかし、前記ポリエステルは、接着性に優れている反面、分子間での絡み合いが弱いため、機械的強度および靭性が低いという欠点がある。また、前記ポリエステルを基材に塗工した後、当該基材から剥離させることが困難であるため、前記ポリエステルには基材に付着させた後に容易に除去することができる性質が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/102174号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kaneko, T. et al., Nature Mater. 2006, 5, 966-970
【非特許文献2】Macromolecules 2008, 41, 8167-8172
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 11143-11148
【非特許文献4】Messersmith, P. B. al., Science 2007, 318, 426-430
【非特許文献5】Kaneko, T. et al., Pure Appl. Chem.. 2012, 84, 2559-2568
【非特許文献6】Kaneko, T. et al., Plant Biotechnology, 2010, 27, 293-296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、機械的強度および靭性が高く、塗工した後に容易に基材から除去することができるという接着後の剥離容易性を有するポリアミド系ポリマー、当該ポリアミド系ポリマーの製造中間体として有用な多価フェノール化合物、ならびに前記ポリアミド系ポリマーが用いられている接着剤および成形材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1) 式(I):
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる多価フェノール化合物、
(2) 式(II):
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R3は、2価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有することを特徴とするポリアミド系ポリマー、
(3) 式(I):
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる多価フェノール化合物と、式(III):
2N-R3-NH2 (III)
(式中、R3は、2価の有機基を示す)
で表わされるジアミン化合物とを反応させることを特徴とする式(II):
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、R3は前記と同じ)
で表わされる繰り返し単位を有するポリアミド系ポリマーの製造方法、
(4) 前記(2)に記載のポリアミド系ポリマーを含有してなる接着剤、および
(5) 前記(2)に記載のポリアミド系ポリマーを含有してなる成形材料
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機械的強度および靭性が高く、塗工した後に容易に基材から除去することができる性質を有するポリアミド系ポリマー、当該ポリアミド系ポリマーの製造中間体として有用な多価フェノール化合物、ならびに前記ポリアミド系ポリマーが用いられている接着剤および成形材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例2で得られた多価フェノール化合物Aの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図2】実施例3で得られた多価フェノール化合物Bの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図3】実施例4で得られたポリアミドAの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例4で得られたポリアミドAのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図5】実施例5で得られたポリアミドBの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図6】実施例5で得られたポリアミドBのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図7】実施例6で得られたポリアミドCの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図8】実施例6で得られたポリアミドCのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図9】実施例7で得られたポリアミドDの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図10】実施例7で得られたポリアミドDのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図11】実施例8で得られたポリアミドEのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図12】実施例9で得られたポリアミドFのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図13】実施例10で得られたポリアミドGの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図14】実施例10で得られたポリアミドGのFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図15】実施例10で得られたポリアミドGを用いて引張試験を調べた結果を示すグラフである。
図16】実施例10で得られたポリアミドGを用いて接着性を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)多価フェノール化合物
本発明の多価フェノール化合物は、前記したように、式(I):
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる。本発明の多価フェノール化合物は、本発明のポリアミド系ポリマーの原料として有用である。
【0023】
式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基である。1価の有機基としては、置換基を有していてもよい1価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい1価の脂環構造を有する炭化水素基などが挙げられる。1価の脂肪族炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基および1価の脂環構造を有する炭化水素基は、いずれも本発明の目的が阻害されない範囲内で置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0024】
1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数1~12のアルキル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数6~12のアリール基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。1価の脂環構造を有する炭化水素基としては、例えば、炭素数3~6のシクロアルキル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。R1およびR2は、後述するジアミンとの反応性を高める観点から、それぞれ水素原子であるか、または炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、それぞれ水素原子であるか、または炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。
【0025】
本発明の多価フェノール化合物は、出発物質としてカフェ酸を用いて調製することができる。カフェ酸は、コーヒーに含有されている芳香族カルボン酸であることから、コーヒーから抽出したものであってもよく、原料として石油を使用して合成されたものであってもよい。これらのなかでは、コーヒーから抽出されたカフェ酸は、原料として石油を使用して合成されたカフェ酸と対比して地球環境に優しいという利点を有する。カフェ酸は、例えば、東京化成工業(株)などから商業的に容易に入手することができる。
【0026】
本発明の多価フェノール化合物の原料としてカフェ酸のほか、カフェ酸誘導体を用いることができる。カフェ酸誘導体がカフェ酸エステルである場合、当該カフェ酸エステルは、例えば、カフェ酸を出発物質として用い、カフェ酸とアルコールとを反応させ、生成した水を必要により除去することにより、容易に調製することができる。アルコールは、脂肪族アルコールおよび芳香族アルコールのいずれであってもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。アルコールのなかでは、炭素数が1~8である1価の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数1~4の1価の脂肪族アルコールがより好ましい。
【0027】
式(I)においてR1およびR2がそれぞれ独立して1価の有機基である多価フェノール化合物は、例えば、前記方法によりカフェ酸誘導体を調製し、当該カフェ酸誘導体に紫外線を照射することにより、容易に調製することができる。また、式(I)において、R1およびR2がそれぞれ独立して水素原子である多価フェノール化合物は、例えば、式(I)においてR1およびR2がそれぞれ独立して1価の有機基である多価フェノール化合物を水酸化ナトリウムなどの還元剤で還元させることにより、容易に調製することができる。R1およびR2は、前記したように、ジアミンとの反応性を高める観点から、それぞれ水素原子であるか、または炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、それぞれ水素原子であるか、または炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。
【0028】
以上のようにして得られる式(I)で表わされる多価フェノール化合物は、本発明のポリアミド系ポリマーの原料として有用である。
【0029】
(2)ポリアミド系ポリマー
本発明のポリアミド系ポリマーは、前記したように、式(II):
【0030】
【化6】
【0031】
(式中、R3は、2価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する。
【0032】
式(II)において、R3は、2価の有機基は、本発明のポリアミド系ポリマーを調製する際に原料として用いられるジアミン化合物に由来の基であり、以下で詳述する。
【0033】
式(II)で表わされるポリアミド系ポリマーは、式(I)で表わされる多価フェノール化合物と式(III):
2N-R3-NH2 (III)
(式中、R3は、2価の有機基を示す)
で表わされるジアミン化合物とを反応させることにより、容易に調製することができる。
【0034】
式(III)で表わされるジアミン化合物において、R3は、2価の有機基である。2価の有機基としては、2価の脂肪族基および2価の芳香族基を挙げることができる。2価の芳香族基は、芳香環を有する2価の基を意味する。R3が2価の脂肪族基である場合、式(III)で表わされるジアミン化合物は、脂肪族ジアミンであり、R3が2価の芳香族基である場合、式(III)で表わされるジアミン化合物は、芳香族ジアミンである。脂肪族ジアミンおよび芳香族ジアミンは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0035】
2価の脂肪族基としては、例えば、分岐鎖を有していてもよい炭素数2~12のアルキレン基などが挙げられる。また、2価の芳香族基としては、例えば、炭素数6~12のアリーレン基などが挙げられる。2価の脂肪族基および2価の芳香族基のなかでは、機械的強度および靭性が高く、塗工した後に容易に基材から除去することができる性質を有するポリアミド系ポリマーを得る観点から、2価の脂肪族基が好ましく、分岐鎖を有していてもよい炭素数3~12のアルキレン基がより好ましい。
【0036】
式(III)においてR3が2価の脂肪族基であるジアミン化合物としては、式(IIIa):
2N-R4-NH2 (IIIa)
(式中、R4は、酸素原子を有していてもよい2価の脂肪族基を示す)
で表わされる脂肪族ジアミン化合物が挙げられる。R4は、酸素原子を有していてもよい2価の脂肪族基であるが、その例としては、前記と同様に、酸素原子または分岐鎖を有していてもよい炭素数2~12のアルキレン基などが挙げられる。
【0037】
脂肪族ジアミン化合物の具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどの直鎖を有する炭素数2~12の脂肪族ジアミン化合物、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-エチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-エチル-1,6-ヘキサンジアミン、3-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、3-エチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、3-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、2-エチル-1,8-オクタンジアミン、3-エチル-1,8-オクタンジアミン、4-エチル-1,8-オクタンジアミン、3-プロピル-1,8-オクタンジアミン、2-ブチル-1,8-オクタンジアミン、3-ブチル-1,8-オクタンジアミン、4-ブチル-1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,9-ノナンジアミン、3-メチル-1,9-ノナンジアミン、4-メチル-1,9-ノナンジアミン、2-エチル-1,9-ノナンジアミン、3-エチル-1,9-ノナンジアミン、4-エチル-1,9-ノナンジアミン、2-プロピル-1,9-ノナンジアミン、3-プロピル-1,9-ノナンジアミン、4-プロピル-1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,10-デカンジアミン、3-メチル-1,10-デカンジアミン、4-メチル-1,10-デカンジアミン、2-エチル-1,10-デカンジアミン、3-エチル-1,10-デカンジアミン、4-エチル-1,10-デカンジアミンなどの分岐鎖を有する炭素数3~12の脂肪族ジアミン化合物、トリエタノールジアミン、エチレングリコールジアミン、ジエチレングリコールジアミン、トリエチレングリコールジアミン、プロピレングリコールジアミン、ポリプロピレングリコールジアミンなどの炭素数3~12のエーテル系ジアミン化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのジアミン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
式(III)においてR3が2価の芳香族基であるジアミン化合物としては、式(IIIb):
2N-R5-NH2 (IIIb)
(式中、R5は、2価の芳香族基を有する基を示す)
で表わされる芳香族ジアミン化合物が挙げられる。芳香族ジアミン化合物としては、例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフチレンジアミン、ビフェニレンジアミンなどの炭素数6~12の芳香族ジアミン、式(IIIc):
【0039】
【化7】
【0040】
(式中、R6およびR7は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す)
で表わされるアミノ桂皮酸二量体およびそのエステル、式:
【0041】
【化8】
【0042】
で表わされる芳香族ジアミンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族ジアミン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
カルボキシル基を2個有する多価フェノール化合物とアミノ基を2個有するジアミン化合物とは、理論的には化学量論量で反応する。したがって、カルボキシル基を2個有する多価フェノール化合物1モルあたりのアミノ基を2個有するジアミン化合物の量は、理論的には1モルであるが、本発明においては多価フェノール化合物1モルあたりのジアミン化合物の量は、0.90~1.10モル程度であることが好ましく、0.95~1.05モル程度であることが好ましい。
【0044】
なお、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲内で、多価フェノール化合物の一部が他の化合物(以下、単に他の化合物という)と置換されていてもよい。他の化合物としては、例えば、ジカルボン酸化合物などが挙げられる。ジカルボン酸化合物には、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸がある。
【0045】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アゼライン酸などの炭素数が2~20の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの脂肪族ジカルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、オルトフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族ジカルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
多価フェノール化合物とジアミン化合物とは、有機溶媒中で反応させることができる。当該有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、トリフルオロ酢酸、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
前記有機溶媒の量は、多価フェノール化合物とジアミン化合物とを効率よく反応させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、多価フェノール化合物とジアミン化合物との合計量(質量)の1~20倍程度の量であることが好ましい。
【0049】
なお、多価フェノール化合物とジアミン化合物とを反応させる際には、ポリアミド系ポリマーを効率よく調製する観点から、縮合剤として亜リン酸トリフェニルとピリジンとを多価フェノール化合物とジアミン化合物との反応系内に添加するか、または亜リン酸トリフェニルとピリジンとからなる錯体を多価フェノール化合物とジアミン化合物との反応系内に添加することが好ましい。多価フェノール化合物とジアミン化合物との全量1モルあたりの縮合剤の量は、通常、1~2モル程度であることが好ましい。
【0050】
また、多価フェノール化合物とジアミン化合物とを効率よく反応させる観点から、触媒を適量で用いることが好ましい。触媒としては、例えば、塩化リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。触媒のなかでは、塩化リチウムが好ましい。
【0051】
多価フェノール化合物とジアミン化合物とを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、反応効率を高める観点から40~80℃程度であることが好ましい。また、多価フェノール化合物とジアミン化合物とを反応させる際の反応時間は、使用される有機溶媒の量、反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、10~30時間程度である。多価フェノール化合物とジアミン化合物とを反応させる際の雰囲気は、空気中に含まれている酸素による影響を回避する観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0052】
反応終了後、得られた反応混合物からポリアミド系ポリマーを晶析させる。反応混合物からポリアミド系ポリマーを析出させる方法としては、例えば、反応混合物をメタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1~3の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸エチル、テンラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、フェノール、クレゾールなどの貧溶媒に添加する方法、反応混合物に含まれている溶媒を徐々に蒸発させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。
【0053】
析出したポリアミド系ポリマーは、濾過などの方法によって回収することができる。回収されたポリアミド系ポリマーは、必要により、0~25℃程度の温度を有する貧溶媒で洗浄してもよい。
【0054】
以上のようにして得られるポリアミド系ポリマーは、必要により、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶媒に溶解させた後、アセトンなどのケトン化合物で沈殿させることによって精製してもよい。また、前記で得られたポリアミド系ポリマーは、例えば、減圧乾燥などにより、乾燥させてもよい。
【0055】
前記で得られたポリアミド系ポリマーの数平均分子量は、特に限定されないが、遠紫外線の照射によるポリアミド系ポリマーの分解性を高めるとともに接着性および耐熱性を向上させる観点から、12000~200000であることが好ましく、15000~100000であることがより好ましい。なお、ポリアミド系ポリマーの数平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0056】
本発明のポリアミド系ポリマーには、必要により、その用途に応じて添加剤を適量で含有させてもよい。添加剤としては、例えば、顔料、染料などの着色剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、抗酸化剤、防錆剤、抗菌剤、可塑剤、防藻剤、防カビ剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。添加剤の量は、当該添加剤の種類によって異なるので一概には決定することができないことから、当該添加剤の種類に応じて適宜決定することが好ましい。
【0057】
(3)ポリアミド系ポリマーの用途
本発明のポリアミド系ポリマーは、機械的強度および靭性が高く、塗工した後に容易に基材から除去することができる性質を有しており、各種基材に対する接着性に優れている。したがって、本発明のポリアミド系ポリマーは、接着剤に好適に用いることができる。本発明のポリアミド系ポリマーを接着剤に用いる場合、本発明のポリアミド系ポリマーを80~100℃程度の温度に加熱して軟化させ、2つの基材の間に軟化したポリアミド系ポリマーを挟んだ後、当該ポリアミド系ポリマーを冷却することにより、基材同士を接着することができる。また、本発明のポリアミド系ポリマーは、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、トリフルオロ酢酸、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒で膨潤する性質を有することから、当該有機溶媒で膨潤させたポリアミド系ポリマーを2つの基材の間に挟んだ後、前記有機溶媒を揮散除去することにより、基材同士を接着することができる。
【0058】
前記基材としては、例えば、SUS304、SUS430などのステンレス鋼板、ガラス板、木板、セラミック板、煉瓦、モルタル板、コンクリート板、紙などの無機系基材、ABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂製基板などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0059】
本発明のポリアミド系ポリマーは、例えば、波長が10~220nm程度の遠紫外線などの光線の照射を受けたとき、分解して低分子量化し、接着性が低下する性質を有することから、本発明のポリアミド系ポリマーを含有する接着剤を基材に適用した後、当該接着剤を剥離する必要が生じたとき、接着剤層に遠紫外線などの光線を当該ポリアミド系ポリマーに照射することにより、当該ポリアミド系ポリマーを分解させて当該基材から容易に除去することができる。
【0060】
したがって、本発明のポリアミド系ポリマーが用いられている接着剤は、接着剤の剥離作業が簡便化されるだけでなく、例えば、ガラス基材、紙などの被着材の損傷、劣化などを格段に軽減させることができ、さらに当該ポリアミド系ポリマーの分解物を再利用することができる。
【0061】
また、本発明のポリアミド系ポリマーを有機溶媒に溶解させて得られるポリアミド系ポリマー溶液は、フィルム成形材料、射出成形材料などの各種成形材料に好適に用いることができる。
【実施例0062】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
なお、以下の各実施例および各比較例で得られたポリマーの物性は、以下の方法に基づいて調べた。
【0064】
〔ポリマーの構造〕
ポリマーの構造は、核磁気共鳴(1H-NMR)およびフーリエ変換赤外分光(FT-IR)によって決定した。
【0065】
核磁気共鳴(1H-NMR)は、核磁気共鳴分光装置〔ブルカー(BRUKER)社製、商品名:AVANCE III HD NMRスペクトロメーター 400MHz〕を用い、サンプル(ポリマー)5mgをジメチルスルホキシド-d60.5mLに溶解させ、得られた溶液をガラス製サンプルチューブに移し、25℃の温度で積算回数16回にて測定した。
【0066】
フーリエ変換赤外分光(FT-IR)は、赤外分光分析装置〔パーキン・エルマー(Perkin Elmer)社製、商品名:Spectrum 100、ATR法〕を用い、測定波数領域を400~4000cm-1とし、積算回数4回にて測定した。
【0067】
〔ポリマーの数平均分子量〕
ポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ-(GPC)によって測定した。より具体的には、装置として送液ポンプユニット〔日本分光(株)製、品番:PU-2080〕、カラムオーブン〔ジーエルサイエンス(株)製、品番:CO631A、設定温度:40℃〕、紫外可視検出器〔日本分光(株)製、品番:UV-2075〕、示差屈折計〔日本分光(株)製、品番:RI-2031〕、カラム〔昭和電工(株)製、商品名:Shodex SB-806M HQ2本〕、標準物質(ポリメチルメタクリレートスタンダード、分子量:3070、7360、18500、68800、211000、569000、1050000)を用い、移動相をLiBrの濃度が0.01mol/LであるN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、当該溶液の流速を1.0mL/minに調節した。
【0068】
実施例1〔カフェ酸メチルエステルの調製〕
【化9】
【0069】
カフェ酸40g(0.22mol)および98%濃硫酸1.2mLをメタノール500mLに溶解させ、得られた溶液を70℃で17時間撹拌した。
【0070】
次に、前記溶液からメタノールをエバポレーターで留去し、残渣を酢酸エチルに溶解させた後、得られた溶液を蒸留水および飽和食塩水で分液を行ない、有機相を回収し、当該有機層から酢酸エチルをエバポレーターで留去することにより、カフェ酸メチルエステル30.7gを褐色固体として得た(収率:72%)。
【0071】
実施例2〔多価フェノール化合物Aの調製〕
【化10】
【0072】
実施例1と同様にして調製したカフェ酸メチルエステル20g(0.103mol)をヘキサン1000mLに添加して分散させ、得られた分散液に波長が200~380nmの紫外線(強度:100μW/cm2)を24時間照射した。
【0073】
次に、前記で紫外線を照射した分散液を吸引濾過することにより、多価フェノール化合物A19gを白色固体として得た(収率:95%)。
【0074】
前記で得られた多価フェノール化合物Aの1H-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルは、以下に示すとおりであり、1H-NMRスペクトルを図1に示す。
【0075】
1H-NMRスペクトル〕
1H-NMR(400MHz, DMSO-d6) δ3.30(s, 6H, CH), 3.70(dd, 2H, CH), 4.08(dd, 2H, CH), 6.53(dd, 2H, ArH), 6.64(s, 2H, ArH), 6.66(d, 2H, ArH), 8.80(brs, 4H, OH)
【0076】
13C-NMRスペクトル〕
13C-NMR(400MHz, DMSO-d6) 40.5, 46.4, 51.2, 114.8, 115.3, 118.1, 129.6, 144.1, 144.9, 172.0
【0077】
実施例3〔多価フェノール化合物Bの調製〕
【化11】
【0078】
実施例2と同様にして調製した多価フェノール化合物A19g(0.049mol)を2mol/L水酸化ナトリウム水溶液73.5mLに溶解させ、得られた溶液を窒素ガス雰囲気下で60℃の温度で15時間撹拌することにより、反応溶液を得た。前記で得られた反応溶液に塩酸を添加して当該反応溶液を酸性にした後、酢酸エチルで有機層を抽出した。抽出された有機相を水洗した後、当該有機層に含まれている酢酸エチルをエバポレーターで留去することにより、多価フェノール化合物B9.36gを淡黄色粉末として得た(収率:53%)。
【0079】
前記で得られた多価フェノール化合物Bの1H-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルは、以下に示すとおりであり、1H-NMRスペクトルを図2に示す。
【0080】
1H-NMRスペクトル〕
1H-NMR(400MHz, DMSO-d6) δ3.56(dd, 2H, CH), 4.00,(dd, 2H, CH), 6.54(dd, 2H, ArH), 6.64(d, 2H, ArH), 6.67(d, 2H, ArH), 8.71-8.79(m, 4H, OH), 11.96(s, 2H, COOH)
【0081】
13C-NMRスペクトル〕
13C-NMR(400MHz, DMSO-d6) 40.6, 46.8, 115.1, 115.3, 118.4, 130.39, 144.1, 144.9, 173.1
【0082】
実施例4〔ポリアミドAの調製〕
【化12】
【0083】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN,N-ジメチルアセトアミド2mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B382mg(1.06mmol)、エチレンジアミン63.7mg(1.06mmol)、亜リン酸トリフェニル0.71mL(2.71mmol)、ピリジン0.97mL(12.0mmol)および塩化リチウム90mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0084】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドA331.0mgを得た(収率:81.2%)。得られたポリアミドAの数平均分子量は、21000であった。前記で得られたポリアミドAの1H-NMRスペクトルを図3に、FT-IRスペクトルを図4に示す。
【0085】
実施例5〔ポリアミドBの調製〕
【化13】
【0086】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN-メチル-2-ピロリドン1mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B360.3mg(1.00mmol)ヘキサメチレンチレンジアミン116.2mg(1.00mmol)、亜リン酸トリフェニル0.61mL(2.20mmol)、ピリジン0.89mL(11.0mmol)および塩化リチウム166mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0087】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドB398.0mgを得た(収率:90.0%)。得られたポリアミドBの数平均分子量は、31000であった。前記で得られたポリアミドBの1H-NMRスペクトルを図5に、FT-IRスペクトルを図6に示す。
【0088】
実施例6〔ポリアミドCの調製〕
【化14】
【0089】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN,N-ジメチルアセトアミド4mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B719mg(2.00mmol)、1,10-ジアミノデカン344mg(2.00mmol)、亜リン酸トリフェニル1.41mL(5.38mmol)、ピリジン1.94mL(24.0mmol)および塩化リチウム188mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0090】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドC795mgを得た(収率:80.2%)。得られたポリアミドCの数平均分子量は、18000であった。前記で得られたポリアミドCの1H-NMRスペクトルを図7に、FT-IRスペクトルを図8に示す。
【0091】
実施例7〔ポリアミドDの調製〕
【化15】
【0092】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN-メチル-2-ピロリドン2mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B360.3mg(1.00mmol)、式:
【0093】
【化16】
【0094】
で表わされる4-アミノ桂皮酸二量体ジメチルエステル(以下、単に4-アミノ桂皮酸二量体ジメチルエステルという)354.4mg(1.00mmol)、亜リン酸トリフェニル0.61mL(2.20mmol)、ピリジン0.89mL(11.0mmol)および塩化リチウム166mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0095】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドD672mgを得た(収率:99.0%)。得られたポリアミドDの数平均分子量は、20000であった。前記で得られたポリアミドDの1H-NMRスペクトルを図9に、FT-IRスペクトルを図10に示す。
【0096】
実施例8〔ポリアミドEの調製〕
【化17】
【0097】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN,N-ジメチルアセトアミド3.0mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B270.2mg(0.75mmol)、4-アミノ桂皮酸二量体ジメチルエステル354.4mg(1.00mmol)、アジピン酸36.5mg(0.25mmol)、亜リン酸トリフェニル0.49mL(6.06mmol)、ピリジン0.49mL(6.06mmol)および塩化リチウム151mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0098】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドE600mgを得た(収率:96.0%)。得られたポリアミドEの数平均分子量は、30000であった。前記で得られたポリアミドEのFT-IRスペクトルを図11に示す。
【0099】
実施例9〔ポリアミドFの調製〕
【化18】
【0100】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN,N-ジメチルアセトアミド3.0mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B180.2mg(0.50mmol)、4-アミノ桂皮酸二量体ジメチルエステル354.4mg(1.00mmol)、アジピン酸731mg(0.50mmol)、亜リン酸トリフェニル0.49mL(6.06mmol)、ピリジン0.49mL(6.06mmol)および塩化リチウム151mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0101】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドF550mgを得た(収率:96.2%)。得られたポリアミドFの数平均分子量は、29000であった。前記で得られたポリアミドFのFT-IRスペクトルを図12に示す。
【0102】
実施例10〔ポリアミドGの調製〕
【化19】
【0103】
窒素ガス置換されたフラスコ内にN,N-ジメチルアセトアミド5.0mLを仕込んだ後、当該フラスコ内に実施例3と同様にして調製された多価フェノール化合物B45.0mg(0.125mmol)、4-アミノ桂皮酸二量体ジメチルエステル177.2mg(0.50mmol)、アジピン酸54.8mg(0.375mmol)、亜リン酸トリフェニル0.35mL(1.34mmol)、ピリジン0.49mL(6.06mmol)および塩化リチウム151mgを添加し、フラスコの内容物を攪拌下で60℃の温度で24時間反応させた。
【0104】
反応終了後、フラスコ内の反応混合物をメタノール中に添加し、生成した沈殿物を吸引濾過することにより、ポリアミドG219mgを得た(収率:84.5%)。得られたポリアミドGの数平均分子量は、27000であった。前記で得られたポリアミドGの1H-NMRスペクトルを図13に、FT-IRスペクトルを図14に示す。
【0105】
次に、前記で得られた各ポリマーの物性として、5%重量損失温度(Td5)、10%重量損失温度(Td10)、ガラス転移温度、引張強度、破断時の伸び〔元の長さに対する伸び率(%)〕、ヤング率および靭性を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
【0106】
〔ポリマーの5%重量損失温度(Td5)、10%重量損失温度(Td10)およびガラス転移温度〕
ポリマーの5%重量損失温度(Td5)および10%重量損失温度(Td10)は、熱重量分析(TGA)によって調べた。熱重量分析(TGA)は、示差熱熱重量同時測定装置〔(株)日立ハイテクサイエンス製、品番:STA7200〕およびプラチナパンを用い、サンプル(ポリマー)量を4~8mgとし、窒素ガス雰囲気下(窒素ガスの流速:250mL/min)でリファレンスをブランク(サンプルなし)とした。測定温度は25~800℃であり、昇温速度を10℃/minとした。サンプルの重量が5%減少したときの温度(5%重量損失温度)および10%減少したときの温度(10%重量損失温度)をそれぞれTd5およびTd10とした。
【0107】
ポリマーのガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)によって調べた。示差走査熱量測定(DSC)は、示差走査熱量計〔(株)日立ハイテクサイエンス製、品番:X-DSC7000T〕およびアルミニウムパンを用い、サンプル(ポリマー)量を3~5mgとし、窒素ガス雰囲気下(窒素ガスの流速:40mL/min)でリファレンスをブランク(サンプルなし)とした。測定温度は25℃から開始し、昇温速度を10℃/minとし、サンプルの分解温度に応じて200~300℃までサンプルを加熱し、最高温度で5分間保持した後、最高温度から25℃まで降温速度を10℃/minでサンプルを冷却し、25℃で10分間保持する一連のサイクルを3回繰り返し、2回目または3回目のサイクル試験で得られたデータを使用した。示差走査熱量測定の結果に基づいてポリマーのガラス転移温度を求めた。
【0108】
〔引張強度、破断時の伸びおよびヤング率〕
各ポリマー100mgをN,N-ジメチルアセトアミド(1mL)に溶解させ、ガラス基板上で湿式紡糸することにより、縦50mm、厚さ50μmの繊維状の試験片を作製した。当該試験片の一端の縦5mm、横5mmの長方形の部分を引張部分とし、引張試験機〔インストロン(INSTRON)社製、万能材料試験機、品番:3365-L5〕のチャックに取り付けて引張強度、破断時の伸び〔元の長さに対する伸び率(%)〕およびヤング率を調べた。ポリマーの一例としてポリアミドGの引張強度の測定結果を図15に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示された結果から、各実施例で得られたポリアミドは、いずれも10%重量損失温度が300℃以上であることから良好な耐熱性を有することがわかる。また、各実施例で得られたポリアミドは、いずれも引張強度(機械的強度)が高く、破断時の伸びが小さく、ヤング率が高く、靭性に優れているが、ポリアミドG以外のポリアミドについては、これらの物性の測定が困難であった。
【0111】
次に、ポリアミドGを用いて以下の接着性の評価方法に基づいてポリアミドの接着性を評価した。その結果を図16に示す。図16は、ポリアミドGを用いて接着性を調べた結果を示すグラフである。図16に示された結果から、前記ポリアミドは、5MPa以上の接着強度を有することから、市販されている瞬間接着剤と同程度の接着強度を有することがわかる。また、ポリアミドA~FについてもポリアミドGと同様に接着強度に優れていることが確認された。
【0112】
〔接着性の評価方法〕
縦100mm、横25mmの長方形のステンレス鋼板(SUS304)を2枚用意し、当該ステンレス鋼板の短辺を5mmの長さだけずらしてチャックの挟みしろとし、当該ステンレス鋼板の間にポリアミドを挟み、ホットプレスで200℃の温度で5MPaの圧力にて当該ステンレス鋼板を5分間加圧した後、室温まで冷却することにより、試験片を作製した。
【0113】
引張試験機〔インストロン(INSTRON)社製、品番:3365-L5)にて室温で1mm/secのクロスヘッド速度にて前記で得られた試験片の両短辺の挟みしろをそれぞれチャックに固定して引っ張ることにより、ステンレス鋼板がずれ動くときの最大応力を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のポリアミド系ポリマーは、機能性ポリマーにみられる複雑な合成工程を要しなくとも容易に調製することができる。
【0115】
また、従来、接着剤を基材から剥離させるとき、加熱によって接着剤を軟化させた後に当該接着剤を拭き取って除去したり、接着剤を溶剤で溶解ないし膨潤させた後に当該接着剤を拭き取って除去したり、ヘラ等でこそげて接着剤を除去したりするという、煩雑で手間のかかる物理的な除去法が採用されている。
【0116】
これに対して、本発明のポリアミド系ポリマーが用いられている接着剤は、光線(遠紫外線)を照射することにより、当該ポリアミド系ポリマーが分解するので、前記物理的な除去方法を必要とすることなく、容易に除去することができる。
【0117】
したがって、本発明のポリアミド系ポリマーを接着剤に用いることにより、接着剤の剥離作業が簡便化されるだけでなく、例えば、ガラス基材、紙などの被着材の損傷、劣化などを格段に軽減させることができ、さらに当該ポリアミド系ポリマーの分解物を再利用することができるので、本発明のポリアミド系ポリマーは、持続可能社会に貢献することが期待される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16