(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027452
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】射出成形機の成形支援装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
B29C45/76
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132547
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000227054
【氏名又は名称】日精樹脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小塚 誠
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AR06
4F206JA07
4F206JL02
4F206JP11
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP22
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】 正確で的確な溶融状態の推定を迅速に導出するとともに、精度の高い成形条件の設定して高い成形品質を確保する。
【解決手段】 樹脂データ設定部Fmrに設定された樹脂データDrから樹脂の種類に係わる項目Drc及びこの樹脂における所定の物性に係わる項目Drmを選択する樹脂項目選択部6と、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Emを入力する物性値入力部7と、任意の樹脂温度Etに対応する物性値Emを求める物性値変換部8と、溶融状態の推定時に当該推定時における樹脂温度Et及びこの樹脂温度Etに対応する物性値変換部8により求めた物性値Emを演算処理機能部Fcに付与するデータ変換処理機能部Feとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に関する樹脂データを設定する樹脂データ設定部と、成形機に関する成形機データを設定する成形機データ設定部と、成形条件に係わる成形条件データを設定する成形条件データ設定部と、前記樹脂データ,前記成形機データ及び前記成形条件データに基づいて可塑化した樹脂の溶融状態を推定する演算処理機能部と、当該演算処理機能部により推定した溶融状態をディスプレイに視覚的に表示する出力処理機能部とを備える射出成形機の成形支援装置であって、前記樹脂データ設定部に設定された樹脂データから樹脂の種類に係わる項目及びこの樹脂における所定の物性に係わる項目を選択する樹脂項目選択部と、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度及び各樹脂温度に対応する物性値を入力する物性値入力部と、任意の樹脂温度に対応する物性値を求める物性値変換部と、前記溶融状態の推定時に当該推定時における前記樹脂温度及びこの樹脂温度に対応する前記物性値変換部により求めた物性値を前記演算処理機能部に付与するデータ変換処理機能部とを備えてなることを特徴とする射出成形機の成形支援装置。
【請求項2】
前記データ変換処理機能部は、前記樹脂項目選択部及び前記物性値入力部を有する詳細データ入力画面を前記ディスプレイに表示する機能を備えることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項3】
前記物性値変換部は、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られる関数式若しくは修正した関数式,又は異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られるデータテーブル若しくは修正したデータテーブルを用いて変換する機能を備えることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項4】
前記演算処理機能部は、前記データ変換処理機能部を使用しないときは、前記物性値として予め設定した標準値を用いることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項5】
前記演算処理機能部は、可塑化した樹脂の溶融状態として、前記樹脂データ,前記成形機データ及び前記成形条件データに基づいて加熱筒内における溶融樹脂の固相率を推定する機能を含むことを特徴とする請求項1又は4記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項6】
前記演算処理機能部は、可塑化した樹脂の溶融状態として、前記樹脂データ,前記成形機データ及び前記成形条件データに基づいて成形時におけるスクリュ表面の樹脂分解率を推定する機能を含むことを特徴とする請求項1,4又は5記載の射出成形機の成形支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形する射出成形機に対する成形支援を行う際に用いて好適な射出成形機の成形支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形を行うため、溶融樹脂の溶融状態を適正な状態に維持できるか否かは、望ましい成形品質を確保する上で重要な要素となる。特に、可塑化が不十分の場合、溶融樹脂の可塑化不足により固相率(未溶融ポリマ分率)が高くなり、成形性の低下、更には成形品質の低下などの不具合を招くとともに、可塑化が過度に進行した場合、樹脂分解率(炭化発生率)が高くなり、溶融樹脂の変質や無用なガス発生の原因になるなどの不具合を招く。このため、加熱筒内における溶融樹脂の状態を把握して必要な対応処理を行うための技術も提案されている。
【0003】
従来、この種の技術としては、特許文献1に開示される可塑化シミュレーション装置及び特許文献2に開示される射出成形機の成形支援装置が知られている。特許文献1に開示の可塑化シミュレーション装置は、スクリュ式の可塑化装置において用いられる材料の樹脂物性と該可塑化装置の運転条件と該可塑化装置の構成データとを使用し、スクリュ特性式、質量保存の式及びエネルギー保存の式を用いて固相率、温度、圧力、可塑化能力のうち少なくとも1つの物理量を算出する物理量算出処理を行うようにした可塑化シミュレーション装置であり、特に、スクリュの回転状態における物理量を物理量算出処理により算出するとともに、算出された物理量を使用し、スクリュ特性式、質量保存の式及びエネルギー保存の式を用いることにより、スクリュの停止状態における物理量を算出する解析部を設けたものである。
【0004】
また、特許文献2に開示の成形支援装置は、初心者オペレータであっても成形品の歩留まり率や成形品質を高めることを目的としたものであり、具体的には、成形条件に係わる成形条件データ及びスクリュの形態に係わるスクリュデータを含む基本データを入力する基本データ入力部と、この基本データに基づいて加熱筒内における溶融樹脂の固相率を演算する固相率演算式データを設定した演算式データ設定部と、基本データ及び固相率演算式データに基づく演算処理により計量終了時における溶融樹脂の推定固相率を求める固相率演算処理部を有する演算処理機能部と、推定固相率に係わる情報をディスプレイに表示処理する出力処理機能部とを設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-123668号公報
【特許文献2】WO2019-188998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来における樹脂の溶融状態を把握(推定)する技術は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
即ち、比熱,熱伝導率,分解速度,吸水率等の樹脂固有の物性値を、溶融状態の推定に利用する場合、例えば、カタログ値としてメーカーサイドから公表されている標準値を使用する場合も少なくない。
【0008】
一方、実際の物性値は、加熱された樹脂温度の大きさにより変動するため、実際の樹脂温度に基づく溶融状態と標準値を使用した推定による溶融状態間では無視できない誤差を生じることになる。このため、従来は、推定固相率等により溶融状態を表す推定処理を行う場合、オペレータが補正(修正)することにより、その誤差をできるだけ少なくする処理を講じていた。
【0009】
しかし、このような補正(修正)処理は、オペレータの勘や経験などに頼る要素も多く、正確性や的確性、更には客観性や信頼性を確保する観点からは、必ずしも十分であるとはいえない難点があった。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の成形支援装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するため、樹脂に関する樹脂データDrを設定する樹脂データ設定部Fmrと、成形機に関する成形機データDmを設定する成形機データ設定部Fmmと、成形条件に係わる成形条件データDsを設定する成形条件データ設定部Fmsと、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて可塑化した樹脂の溶融状態を推定する演算処理機能部Fcと、当該演算処理機能部Fcにより推定した溶融状態をディスプレイ5に視覚的に表示する出力処理機能部Foとを備える射出成形機の成形支援装置1を構成するに際して、樹脂データ設定部Fmrに設定された樹脂データDrから樹脂の種類に係わる項目Drc及びこの樹脂における所定の物性に係わる項目Drmを選択する樹脂項目選択部6と、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Emを入力する物性値入力部7と、任意の樹脂温度Etに対応する物性値Emを求める物性値変換部8と、溶融状態の推定時に当該推定時における樹脂温度Et及びこの樹脂温度Etに対応する物性値変換部8により求めた物性値Emを演算処理機能部Fcに付与するデータ変換処理機能部Feとを備えてなることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、データ変換処理機能部Feには、樹脂項目選択部6及び物性値入力部7を有する詳細データ入力画面Vieをディスプレイ5に表示する機能を設けることができる。一方、物性値変換部8は、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られる関数式Fx又は修正した関数式Fxeを用いて変換する機能であってもよいし、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られるデータテーブル又は修正したデータテーブルを用いて変換する機能であってもよい。なお、演算処理機能部Fcにおいて、データ変換処理機能部Feを使用しないときは、物性値として予め設定した標準値を用いることができる。また、演算処理機能部Fcには、可塑化した樹脂の溶融状態として、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における溶融樹脂の固相率(Xcs)を推定する機能を含ませることができるとともに、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率(Xrs)を推定する機能を含ませることができる。
【発明の効果】
【0013】
このような本発明に係る射出成形機の成形支援装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 樹脂データ設定部Fmrに設定された樹脂データDrから樹脂の種類に係わる項目Drc及びこの樹脂における所定の物性に係わる項目Drmを選択する樹脂項目選択部6と、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Emを入力する物性値入力部7と、任意の樹脂温度Etに対応する物性値Emを求める物性値変換部8と、溶融状態の推定時に当該推定時における樹脂温度Et及びこの樹脂温度Etに対応する物性値変換部8により求めた物性値Emを演算処理機能部Fcに付与するデータ変換処理機能部Feとを備えるため、可塑化した樹脂の溶融状態を推定するに際し、樹脂温度に対応した正確な物性値を用いることができる。これにより、経験の浅い初心者オペレータ等であっても、マニュアル的な補正や修正等が不要となり、正確で的確な溶融状態の推定を迅速に導出できるとともに、精度の高い成形条件の設定、更には高い成形品質を確保することができる。
【0015】
(2) 好適な態様により、データ変換処理機能部Feに、樹脂項目選択部6及び物性値入力部7を有する詳細データ入力画面Vieをディスプレイ5に表示する機能を設ければ、オペレータ(ユーザー)によりデータを容易に入力することができるため、ユーザーの所有している詳細情報を、成形の品質向上等に活用することができる。
【0016】
(3) 好適な態様により、物性値変換部8に、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られる関数式Fx若しくは修正した関数式Fxeを用いて変換する機能を設け,又は異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られるデータテーブル若しくは修正したデータテーブルを用いて変換する機能を設ければ、成形機に搭載する成形機コントローラの演算機能等を利用できるため、関数式Fx(Fxe)やデータテーブル等を利用して容易に実施することができる。
【0017】
(4) 好適な態様により、演算処理機能部Fcにおいて、データ変換処理機能部Feを使用しないときは、物性値として予め設定した標準値を用いれば、樹脂に係わる詳細情報の有無に応じて臨機応変に実施できるため、特に、樹脂に係わる詳細情報が存在しない場合であっても成形処理を確実に行うことができる。
【0018】
(5) 好適な態様により、演算処理機能部Fcに、可塑化した樹脂の溶融状態として、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における溶融樹脂の固相率(Xcs)を推定する機能を含ませれば、特に、加熱筒4内における溶融樹脂の推定固相率Xcsに適用可能になるため、正確かつ的確な推定固相率Xcsを求めることができる。
【0019】
(6) 好適な態様により、演算処理機能部Fcに、可塑化した樹脂の溶融状態として、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率(Xrs)を推定する機能を含ませれば、特に、成形時におけるスクリュ表面3fの推定樹脂分解率Xrsに適用可能になるため、正確かつ的確な推定樹脂分解率Xrsを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る成形支援装置に備えるディスプレイの詳細データ入力画面図、
【
図2】同成形支援装置を備える射出成形機のブロック系統図、
【
図3】同成形支援装置に備えるディスプレイの基本データ入力画面図、
【
図4】同成形支援装置に備える関数式作成機能の説明図、
【
図5】同成形支援装置に備える関数式作成機能の修正時の説明図、
【
図6】同成形支援装置のデータ変更処理機能の処理手順を説明するためのフローチャート、
【
図7】同データ変更処理機能における関数式作成処理の処理手順を説明するためのフローチャート、
【
図8】同成形支援装置を用いた成形支援方法の一例に係る処理手順を説明するためのフローチャート、
【
図9】同成形支援装置を用いた成形支援方法の一例に基づくディスプレイの出力画面図、
【
図10】同成形支援装置を用いた成形支援方法の一例に用いる出力画面を説明するためのグラフ、
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態に係る成形支援装置1の理解を容易にするため、同成形支援装置1を利用できる射出成形機Mの概要について、
図2を参照して説明する。
【0023】
図2は、射出成形機M、特に、型締装置を省略した射出装置Miを示す。射出装置Miにおいて、4は加熱筒であり、この加熱筒4の前端部にはヘッド部4hを介してノズル4nを取付固定するとともに、加熱筒4の後端上部にはホッパー13を備える。ノズル4nは加熱筒4の内部における溶融した樹脂を仮想線で示す金型2に対して射出する機能を有するとともに、ホッパー13は樹脂材料(樹脂ペレット)を加熱筒4の内部に供給する機能を有する。
【0024】
また、加熱筒4の内部にはスクリュ3を回動自在及び進退自在に装填する。このスクリュ3の表面には、螺旋状のフライト部3mpが形成されているとともに、スクリュ表面3fには、耐久性等を考慮した所定の表面素材(金属)によるコーティング処理が施されている。このスクリュ3は、前側から後側に、メターリングゾーンZm,コンプレッションゾーンZc,フィードゾーンZfを有している。一方、スクリュ3の後端部は、スクリュ駆動部14に結合する。スクリュ駆動部14は、スクリュ3を回転させるスクリュ回転機構14r及びスクリュ3を前進及び後退させるスクリュ進退機構14mを備える。なお、スクリュ回転機構14r及びスクリュ進退機構14mの駆動方式は、油圧回路を用いた油圧方式であってもよいし電動モータを用いた電気方式であってもよく、その駆動方式は問わない。
【0025】
さらに、加熱筒4は、前側から後側に、加熱筒前部4f,加熱筒中部4m,加熱筒後部4rを有し、各部4f,4m,4rの外周面には、前部加熱部11f,中部加熱部11m,後部加熱部11rをそれぞれ付設する。同様に、ヘッド部4hの外周面には、ヘッド加熱部11hを付設するとともに、ノズル4nの外周面には、ノズル加熱部11nを付設する。これらの各加熱部11f,11m,11r,11h,11nはバンドヒータ等により構成できる。
【0026】
一方、21は射出成形機Mの全体制御を司る成形機コントローラである。成形機コントローラ21は、CPU及び付属する内部メモリ21m等のハードウェアを内蔵したコンピュータ機能を有するコントローラ本体22を備える。また、コントローラ本体22の接続ポートにはこのコントローラ本体22に付属するディスプレイ5を接続するとともに、各種アクチュエータを駆動(作動)させるドライバ24を接続する。この場合、ディスプレイ5は、必要な情報表示を行うことができるとともに、タッチパネル5tを備え、このタッチパネル5tを用いて、入力,設定,選択等の各種操作を行うことができる。さらに、ドライバ24には、前述したスクリュ回転機構14r及びスクリュ進退機構14mを接続するとともに、各加熱部11f,11m,11r,11h,11nを接続する。これにより、コントローラ本体22はドライバ24を介してスクリュ回転機構14r及びスクリュ進退機構14mを駆動制御できるとともに、各加熱部11f,11m,11r,11h,11nを通電制御できる。
【0027】
したがって、成形機コントローラ21は、HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御系及びPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御系を包含し、内部メモリ21mには、PLCプログラムとHMIプログラムを格納する。なお、PLCプログラムは、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等を実現するためのソフトウェアであり、HMIプログラムは、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等を実現するためのソフトウェアである。
【0028】
次に、このような射出成形機Mに利用できる本実施形態に係る成形支援装置1の構成について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0029】
本実施形態に係る成形支援装置1は、上述した成形機コントローラ21を構成するコントローラ本体22及びディスプレイ5を利用して構成される。このため、コントローラ本体22の内部メモリ21mには、成形支援装置1を機能させるアプリケーションプログラムによる支援プログラムPsを格納する。
【0030】
成形支援装置1は、
図3(
図2)に示す基本データを入力するための基本データ入力画面31を備え、この基本データ入力画面31は支援プログラムPsを起動させることによりディスプレイ5の画面に表示される。このディスプレイ5にはタッチパネル5tが付設されるため、このタッチパネル5tを用いて各種データの入力及び選択等を行うことができる。
【0031】
図3に一例として示す基本データ入力画面31のレイアウトは、上段にデータ入力部Fiを備える。このデータ入力部Fiは、樹脂データDrとして、樹脂の種類を選択して樹脂データを入力する樹脂選択部31a,溶融樹脂の流動性(MFR)を入力する流動性入力部31b,強化繊維に関する情報を入力する強化繊維入力部32を備える。そして、入力した樹脂データDrは、内部メモリ21mにおける樹脂データ設定部Fmrに設定される。
【0032】
また、強化繊維入力部32には、強化繊維の種類を入力する繊維種入力部32a,添加量入力部32b,繊維長入力部32cを備え、これにより、強化繊維データDrgが入力される。このように、強化繊維データDrgに、強化繊維の種類,樹脂に対する添加量,及び繊維長を含ませれば、強化繊維の視覚化のための要素として十分にカバーできるため、溶融樹脂の溶融状態に含む強化繊維の変化状況(破損状況等)を的確に把握することができる。
【0033】
一方、成形機データDmとして、スクリュの種別を選択するスクリュ選択部33a,成形機の種類を選択する成形機選択部33bを備える。成形機の種類を選択することにより、成形機に係わる加熱筒データ等が選択される。なお、スクリュデータDmsにより、スクリュ外径,スクリュフライト幅,固体とスクリュの摩擦係数,スクリュ溝深さ,スクリュ幅方向長さ,スクリュリード,フライト係数,スクリュフライトのねじれ角,ピッチ数等の各種ディメンションに係わるデータ、更にはスクリュ表面3fの材質の種類に係わるデータなど、スクリュに関係する複数の各種データが選択される。特に、スクリュデータDmsに、スクリュ表面3fの材質の種類に係わるデータを含ませれば、スクリュ表面3fの金属材質による溶融樹脂に対する触媒効果や接着し易さによる劣化要因を、推定樹脂分解率Xrsの演算に反映できるため、より的確(正確)な推定樹脂分解率Xrsを得ることができる。そして、入力した成形機データDmは、内部メモリ21mにおける成形機データ設定部Fmmに設定される。
【0034】
ところで、このような基本データ入力画面31により樹脂データDrを設定する場合、樹脂選択部31aにより樹脂の種類を選択することができるとともに、従来の場合、樹脂の種類を選択することにより、同時に、樹脂の持つ固有の物性値、即ち、各樹脂に対して対応する比熱,熱伝導率等の物性値は、メーカーサイドから公表されるカタログ値等に基づいて標準値が設定される。
【0035】
しかし、実際の物性値は、樹脂が置かれた環境、特に、樹脂温度の大きさにより変動するため、実際の樹脂温度に基づく溶融状態と標準値を使用した推定による溶融状態間では無視できない誤差を生じることになる。
【0036】
そこで、本発明(本実施形態)では、
図3に示す基本データ入力画面31上に、樹脂詳細情報入力キーKiを設け、この樹脂詳細情報入力キーKiをタッチ(ON)することにより、
図1に示す詳細データ入力画面Vieを表示させ、この詳細データ入力画面Vieを利用することにより、異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Emを入力可能にするとともに、これらの入力に基づき、溶融状態を推定する際には、
図2に示すように、成形機コントローラ21に備えるデータ変換処理機能部Feにより、任意の樹脂温度Etに対応する正確な物性値Emが得られるようにした。
【0037】
図1に示す詳細データ入力画面Vieは、画面の上段に樹脂項目選択部6を備え、この樹脂項目選択部6により、樹脂データ設定部Fmrに設定された樹脂データDrから樹脂の種類に係わる項目Drcを選択することができるとともに、この選択した樹脂における所定の物性に係わる項目Drmを選択することができる。また、画面の下段となる樹脂項目選択部6の下方には物性値入力部7を備え、この物性値入力部7により、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度Et…を入力することができるとともに、各樹脂温度Et…に対応する物性値Emを入力することができる。
【0038】
このように、データ変換処理機能部Feを設けるとともに、このデータ変換処理機能部Feに、樹脂項目選択部6及び物性値入力部7を有する詳細データ入力画面Vieをディスプレイ5に表示する機能を設ければ、オペレータ(ユーザー)によりデータを容易に入力することができるため、ユーザーの所有している詳細情報を、成形の品質向上等に活用することができる。
【0039】
一方、成形機コントローラ21には、
図2に示すように、データ変換処理機能部Feの一部を構成する物性値変換部8を備え、この物性値変換部8により任意の樹脂温度Etに対応する物性値Emを求めることができる。即ち、物性値変換部8は、複数の樹脂温度に対応する物性値から得られる関数式Fx若しくは修正した関数式Fxeを用いることにより、任意の樹脂温度Etに対応する物性値Emを得ることができるようにした。これにより、標準値により設定された物性値は、関数式Fx(Fxe)に基づいて樹脂温度Etに対応した正確な物性値Emに変換されるとともに、変換された物性値Emは、溶融状態を推定する処理を行う演算処理機能部Fcに付与されるため、正確な物性値Emが演算処理機能部Fcによる推定処理に利用されることになる。
【0040】
次に、データ変換処理機能部Feの機能について、
図1-
図5を参照しつつ、
図6及び
図7に示すフローチャートに従って説明する。
【0041】
今、ユーザー(オペレータ)が、一例として、樹脂「PP(ポリプロピレン)」の比熱〔J/kg・K〕に関する詳細情報を所有している場合を想定する。このような詳細情報は、ユーザー自身が実験等により求めたデータ或いはメーカーサイド等から入手して得られる情報等が含まれる。したがって、ユーザーが成形品の品質等に大きく影響する情報として認識し、樹脂の溶融状態を知るための推定時の重要なデータとして利用したい場合などが想定される。
【0042】
オペレータは、まず、支援プログラムPcを実行(起動)させる(ステップS1)。これにより、ディスプレイ5には、
図3に示す基本データ入力画面31が表示される(ステップS2)。本発明(本実施形態)では、基本データ入力画面31上に、樹脂詳細情報入力キーKiを設けたため、オペレータは、この樹脂詳細情報入力キーKiをタッチ(ON)する(ステップS3)。これにより、ディスプレイ5には、
図1に示す詳細データ入力画面Vieがウィンドウ表示される(ステップS4)。
【0043】
オペレータは、詳細データ入力画面Vieの選択キー41をタッチし、目的とする樹脂の種類に係わる項目Drcを選択する(ステップS5)。例示は「PP(Grade L1225)」を選択した場合を示す。樹脂の種類に係わる項目Drcには、他の各種樹脂及びこの樹脂に対応するグレードを含ませることができる。また、選択した樹脂における所定の物性に係わる項目Drmを選択する(ステップS6)。例示は「比熱」を選択した場合を示す。この所定の物性に係わる項目Drmには、「比熱」をはじめ、「熱伝導率」,「示差熱・熱重量測定(TG/DTA)」,「示差走査熱量測定(DSC)」,「分解速度」,「吸水率」,「比重」等を含ませることができる。これにより、
図1に示す具体的な物性値入力部7が表示されるため、ファイル選択部42から、より詳細なファイル名を選択する。例示の場合、No.1の「PP比熱(CSVファイル)」を選択した場合を示す。なお、ファイルは、CSVファイルをはじめ、TXTファイル等の各種ファイル形式を利用できるため、各ファイルに対応した物性の種類を選択することができる。これにより、データ入力欄44が表示されるため、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Em…等に係わるデータを入力する(ステップS7)。
【0044】
この場合、データの入力は、CSVファイルを選択したため、例えば、USBメモリ等に保存されたデータから転送により入力することができる。具体的には、上述した「PP比熱(CSVファイル)」を選択した後、入力キー43をタッチすれば、データ入力欄44に、異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Emが入力される。入力方法は、その他、オペレータによるマニュアル入力,外部からの無線通信手段による送信,USBメモリ以外の各種メディアからの転送等による各種入力方法を利用可能である。そして、データの入力が全て終了したなら(ステップS8)、関数式Fxを作成する関数式作成処理を行う(ステップS9)。
【0045】
図7に、
図6に示した関数式作成処理(ステップSG)の具体的処理手順(サブルーチン)をフローチャートで示す。
【0046】
上述した詳細データ入力画面Vieによるデータの入力が全て終了したなら(ステップS8)、詳細データ入力画面Vieの最下部に備える精度選択部45を用いて関数式に変換する際の精度を選択する(ステップS91)。例示する精度選択部45は、精度の高い順から、「A」,「B」,「C」…にランク分けした場合を示すが、「1次式」,「2次式」,「3次式」…「6次式」等のように関数式によりランク付してもよい。精度選択部45により精度ランクを選択したならグラフ作成キー46をタッチ(ON)する(ステップS92)。これにより、
図4に示すグラフが自動作成される。
図4及び
図5は関数式を作成する機能を説明するためのグラフを示しており、
図4は樹脂温度〔℃〕対比熱〔J/kg・K〕特性グラフをそのまま関数式Fxに変換する例、
図5は、
図4を修正して関数式Fxeに変換する例を示す。
【0047】
一例として示す
図4は、最高ランクの「A」ランクを選択した場合であり、
図2に示す物性値変換部8では、このグラフに基づいて二つの一次関数「mx+kb」と「nx+ka」が組合わされた関数式Fxとして作成され、この関数式Fxは
図4に示すようにグラフ表示される場合を示している(ステップS94)。そして、オペレータは、
図4に示すグラフ表示を確認する(ステップS95)。この結果、オペレータが表示された関数式Fxを良しと判断すれば、図示を省略したランク登録キーをタッチしてランク登録(一時登録)する(ステップS96,S98,S99。
【0048】
これに対し、オペレータがグラフ表示を確認し、修正したい場合、例えば、オペレータが樹脂の種類や成形品等を考慮し、「B」ランクを再選択したい場合には、
図1の詳細データ入力画面Vieに戻り、「B」ランクを選択すれば、修正された
図5に示す関数式Fxeを表示させることもできる(ステップS96,S97)。一例として示す
図5は、より簡略化された一次関数「nx+ka」のみの関数式Fxeに修正される。
【0049】
このような関数式Fxは、単一のランクとして設定してもよいし、成形品のグレード等の応じて複数の異なるランクとして設定し、必要に応じて選択して使用できるようにしてもよい。このため、関数式Fx(Fxe)…は、精度選択部45を用いて順次ランクを選択し、同様の関数式作成処理を行うことによりランクの異なる複数の関数式Fx(Fxe)…を登録することができる(ステップS100,S91…)。
【0050】
図4及び
図5は、一例として、最もシンプルなケースを例示したものであり、
図1とは一致しない。実際には、一次関数のみならず二次関数やn次関数等が組合わさるため、オペレータにより異なるランクを選択して使用することができる。なお、
図4及び
図5は、関数式Fx又は修正した関数式Fxeを利用する場合を示したが、同様に変換することができるデータテーブル、即ち、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られるデータテーブル又は修正したデータテーブルを用いて変換してもよい。このように、物性値変換部8に、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られる関数式Fx若しくは修正した関数式Fxeを用いて変換する機能を設け,又は異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られるデータテーブル若しくは修正したデータテーブルを用いて変換する機能を設ければ、成形機に搭載する成形機コントローラの演算機能等を利用できるため、関数式Fx(Fxe)やデータテーブル等を利用して容易に実施することができる。
【0051】
そして、以上の関数式Fx(Fxe)やデータテーブルが作成されたなら、図示を省略した変更登録キーをタッチして変更登録処理を行う(ステップS10,S11)。なお、変更登録処理を行わない場合、即ち、本実施形態に係るデータ変換処理機能部Feを使用しない場合には、例えば、「比熱」の物性値を使用する場合、標準値として登録されている単一の物性値が使用されるが、データ変換処理機能部Feに基づく変更登録処理が行われた場合には、「比熱」の物性値を使用する時点の樹脂温度〔℃〕が取り込まれ、関数式Fx(Fxe)により、当該樹脂温度〔℃〕に対応する正確な「比熱」が算出されるため、算出された正確な物性値が可塑化された樹脂の溶融状態を推定(推定固相率Xcs,推定樹脂分解率Xrs等)処理する際などに利用される。
【0052】
このように、演算処理機能部Fcにおいて、データ変換処理機能部Feを使用しないときは、物性値として予め設定した標準値が用いられる。即ち、樹脂に係わる詳細情報の有無に応じて臨機応変に実施できるため、特に、樹脂に係わる詳細情報が存在しない場合であっても成形処理を確実に行うことができる。
【0053】
他方、本実施形態に係る成形支援装置1は、基本的な機能として、可塑化した樹脂の溶融状態を推定することにより、より望ましい成形条件の設定を支援する機能を備える。
【0054】
このため、成形機コントローラ21の内部メモリ21mには、成形条件に係わる成形条件データDsを設定する成形条件データ設定部Fmsを備え、ディスプレイ5には、成形条件を設定するための設定画面35(
図2参照)が表示される。この設定画面35の具体的なレイアウト等の図示は省略したが、この設定画面35は、成形条件設定部Fmiとして機能し、例えば、スクリュ回転数,計量時間,背圧,計量位置,前部温度,中部温度,後部温度,サイクル時間等の各種成形条件データDsを設定する。これらの設定は、タッチパネル5tを介して必要な数値の入力や選択等により行うことができる。
【0055】
一方、成形支援装置1には、内部メモリ21mに格納した演算式データ設定部Fsを備え、この演算式データ設定部Fsには、固相率演算式データDsc及び分解率演算式データDsrを設定する。固相率演算式データDscは、前述した入力データDi及び成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における溶融樹脂の固相率Xcを演算するための演算式に係わるデータであり、分解率演算式データDsrは、前述した入力データDi及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率Xrを演算するための演算式に係わるデータである。固相率演算式データDscに加え、分解率演算式データDsrを設定するようにすれば、固相率演算式データDscの演算処理に利用する入力データDiを、分解率演算式データDsrの演算処理にも利用できるなど、推定樹脂分解率Xrsを容易に求めることができる。
【0056】
まず、固相率演算式データDscの基礎となる固相率Xcを求めるための固相率演算式は、既に、本出願人が提案した再公表特許公報WO2019-188998に記載の固相率演算式を利用することができる。即ち、[式101]を用いることができる。
固相率Xc=Cx/Cw
=(Cx´/Cw)・(1-ka・Φi) … [式101]
ただし、Φi=f(Tr,Tc)・Φe
【0057】
これらの式において、Cxは現位置における固体の幅、Cwはピッチ幅からフライト幅を引いた長さ、Cx´は1ピッチ前の固体の幅、kaは調整係数、Φiは射出における溶融速度、Φeは押出における溶融速度、Trは計量時間、Tcはサイクル時間をそれぞれ示す。
【0058】
また、分解率演算式データDsrの基礎となる樹脂分解率Xrを求めるための分解率演算式も、既に、本出願人が提案した再公表特許公報WO2019-188998に記載の分解率演算式を利用することができる。即ち、[式102]を用いることができる。
樹脂分解率Xr=E・Wa・kb … [式102]
ただし、E=f(W,L,σ,γ,ζ)
Wa∝f(Φm,Φc,Qs)
【0059】
これらの式において、Eは、Tadmorのモデル式から算出した剪断発熱量〔MJ〕であり、完全溶融位置からスクリュ3の先端までの剪断発熱量を積算した総剪断発熱量である。Waは溶融樹脂と金属の接着仕事〔MJ/平方メートル〕、kbは金属の触媒効果を考慮した調整係数をそれぞれ示す。剪断発熱量Eの算出において、Wはピッチ幅からフライト幅を引いた長さ、Lはスクリュ螺旋長さ、σは剪断応力、γは剪断速度、ζは無次元深さをそれぞれ示す。接着仕事Waの算出において、Φmは母材金属の仕事関数、Φcは母材金属の上にコーティングした金属の仕事関数、Qsは最表面金属に付着している酸素量をそれぞれ示す。酸素量QsはX線分析装置(EDX装置)により測定可能である。接着仕事Waは、溶融樹脂と金属の接着し易さを示す。
【0060】
このように、演算式データ設定部Fsに、入力データDi及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率Xrを求める分解率演算式データDsrを設定すれば、固相率演算式データDscの演算処理に利用する入力データDiを、分解率演算式データDsrの演算処理にも利用できるなど、推定樹脂分解率Xrsを容易に求めることができる。
【0061】
さらに、成形支援装置1には、上述した固相率演算式データDsc及び分解率演算式データDsrを利用して演算処理を行う
図2に示す演算処理機能部Fcを備え、この演算処理機能部Fcには、計量終了時における強化繊維の推定最終繊維長Yf及び推定破損率Ynを求める繊維状態演算処理部Fcfが含まれる。
【0062】
この場合、入力データDi及び固相率演算式データDscに基づく演算処理により計量終了時における溶融樹脂の固相率Xc、即ち、推定固相率Xcsを求めるための固相率演算処理部Fcpを備える。得られる推定固相率Xcsは、実用上、必ずしも0である必要はない。この判断基準は、「0.06」に選定することが望ましく、この数値は実験の結果により確認した。これにより、推定固相率Xcsが、「Xcs≦0.06」の場合には、良好な溶融状態にあると判断できるとともに、「Xcs>0.06」の場合には、溶融が不十分(可塑化不足)と判断できる。このように、推定固相率Xcsの大きさは、溶融樹脂の可塑化不足などの溶融状態を示す指標となる。なお、推定固相率Xcsとは、溶融樹脂の溶融レベルを示すものであるため、未溶融ポリマ分率を用いてもよい。演算処理機能部Fcに、可塑化した樹脂の溶融状態として、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における溶融樹脂の固相率(Xcs)を推定する機能を含ませれば、特に、加熱筒4内における溶融樹脂の推定固相率Xcsに対して樹脂の正確な物性値を適用可能になるため、正確かつ的確な推定固相率Xcsを求めることができる。
【0063】
また、入力データDi及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理により溶融樹脂の樹脂分解率Xr、即ち、推定樹脂分解率Xrsを求める分解率演算処理部Fcrを備える。得られる推定樹脂分解率Xrsは、0.00よりも大きい値の場合、溶融樹脂は劣化状態(劣化状態に移行するリスクが高い場合を含む)にあることを把握できる。具体的には、推定樹脂分解率Xrsが、「Xrs=0.00」の場合には、劣化のない良好な溶融状態にあると判断できるとともに、「Xrs>0.00」の場合には、劣化状態又は劣化状態に移行するリスクが高いと判断できる。このように、推定樹脂分解率Xrsの大きさは、可塑化が過度に進行することにより生じる溶融樹脂の劣化状態を示す指標として利用できる。
【0064】
このように、演算処理機能部Fcに、入力データDi,成形条件データDs及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理により推定樹脂分解率Xrsを求める分解率演算処理部Fcrを設ければ、推定樹脂分解率Xrsを演算処理により容易に得れるため、推定樹脂分解率Xrsにより溶融樹脂の劣化状態を的確に把握することができる。したがって、推定固相率Xcsによる溶融状態の一方側(可塑化不足側)の限界点に加え、推定樹脂分解率Xrsによる溶融状態の他方側(可塑化過度側)の限界点の双方により、溶融状態の適正範囲を設定可能となるため、成形性及び成形品質をより高めることができる。演算処理機能部Fcに、可塑化した樹脂の溶融状態として、樹脂データDr,成形機データDm及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率(Xrs)を推定する機能を含ませれば、特に、成形時におけるスクリュ表面3fの推定樹脂分解率Xrsに対して樹脂の正確な物性値を適用可能になるため、正確かつ的確な推定樹脂分解率Xrsを求めることができる。
【0065】
次に、本実施形態に係る成形支援装置1を用いた成形支援方法の一例について、各図を参照しつつ
図8に示すフローチャートに従って説明する。
【0066】
この成形支援装置1を用いた成形支援方法は、基本的に、生産開始前における成形条件の設定時に利用することができ、内部メモリ21mに格納された支援プログラムPsにより実行される。
【0067】
まず、オペレータは支援プログラムPsを立ち上げる(ステップS21)。これにより、ディスプレイ5には、設定機能を兼ねる
図3の入力画面31が表示される(ステップS22)。オペレータは、入力画面31におけるデータ入力部Fiを用いて必要な各種データ、即ち、樹脂データDrを入力するとともに(ステップS23)、成形機データDmを入力する(ステップS24)。
【0068】
さらに、樹脂データDrとして、強化繊維入力部32により強化繊維に関する情報を入力又は選択する。即ち、繊維種入力部32aにより強化繊維の種類を選択し(ステップS25)、また、添加量入力部32bにより強化繊維の添加量を入力するとともに(ステップS26)、繊維長入力部32cにより繊維長を選択又は入力する(ステップS27)。この後、射出成形機Mにより成形する際における成形条件の設定処理を行う(ステップS28)。この場合、通常の設定手順に従い、ディスプレイ5に所定の設定画面35(詳細図は省略)を表示し、スクリュ回転数,計量時間,背圧,計量位置,前部温度,中部温度,後部温度,サイクル時間等の各種物理量に係わる成形条件(成形条件データDs)を設定する。
【0069】
そして、一連のデータ入力処理及び成形条件の設定処理が終了したなら、
図3の入力画面31に表示された「流動解析開始」キー38をON(タッチ)する(ステップS29)。これにより、固相率演算処理部Fcpにおいて、入力された入力データDi,設定された成形条件データDs及び固相率演算式データDscに基づく演算処理が行われる(ステップS30)。この演算処理により、入力データDi及び成形条件データDsに基づく推定固相率Xcsが算出される。また、分解率演算処理部Fcrにおいて、入力データDi,成形条件データDs及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理が行われる(ステップS31)。この演算処理により、入力データDi及び成形条件データDsに基づく推定樹脂分解率Xrsが算出される。
【0070】
さらに、繊維状態演算処理部Fcfにより、計量終了時の排出樹脂における強化繊維の推定最終繊維長Yf及び推定破損率Ynが求められる。この場合、入力データDiに基づき、予め設定した算出式又はデータテーブル等により強化繊維の破損率Ynが推定されるとともに、最終繊維長Yfが推定される(ステップS32)。
【0071】
この場合、繊維状態演算処理部Fcfでは、入力データDiに基づき、予め設定した算出式又はデータテーブル等により強化繊維の破損率Ynを推定する。この推定処理は次のように行われる。
図10は、スクリュ位置に対する加熱筒4内における破損率Yn〔%〕を支援プログラムPsによりシミュレーションした結果を示す。同図中、グラフP1(サンプル1)は、ポリプロピレン樹脂(PP)に「ガラスロング繊維」を30〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP2(サンプル2)は、PPに「ガラスロング繊維」を10〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP3(サンプル3)は、PPに「ガラスショート繊維」を30〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP4(サンプル4)は、PPに「ガラスショート繊維」を10〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP5(サンプル5)は、ポリアミド66樹脂(PA66)に「ガラスショート繊維」を30〔wt%〕を添加したグラフをそれぞれ示している。
図10の場合、サンプル5が最も破損しにくい状況を示しており、この理由は、粘度が低く、可塑化時間が短いことが要因として考えられる。
【0072】
したがって、繊維状態演算処理部Fcfに、このような特性グラフを、樹脂の種類,強化繊維の種類,強化繊維の添加量,成形条件等をそれぞれ紐付けし、データテーブルとして登録すれば、入力データDiに基づき、対応する特性グラフP1…を選択して表示することができる。
【0073】
さらに、繊維状態演算処理部Fcfは、計量終了時における強化繊維の推定最終繊維長Yfを求める機能を備える。このような推定最終繊維長Yfを求める機能を設ければ、推定破損率Ynと組合わせることにより強化繊維の変化状況を的確に把握することができるため、成形品における強化繊維の状況を最適化することにより成形品の強度や品質をより高めることができる。推定最終繊維長Yfのデータに関しては、排出樹脂の最後の部分を採取し、灰化法により残った繊維を実測により求めた。
【0074】
また、他の各種出力情報、具体的には、炭化発生確率〔%〕,発熱量〔℃〕,残留固体量〔%〕,可塑化時間〔s〕等の出力情報が演算処理等により求められる(ステップS33)。
【0075】
以上の出力情報に係わる推定処理を含む算出処理が終了したなら、判定処理部Fcjにおいて、所定の判定基準に従って、推定固相率Xcs,推定樹脂分解率Xrs,推定最終繊維長Yf,推定破損率Yn及び各種出力情報に対する判定処理を行う(ステップS34)。このように、演算処理機能部Fcに、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理し、この判定処理の判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdを出力する判定処理部Fcjを設ければ、オペレータは、判断の難しい溶融樹脂の溶融状態を容易に把握できるとともに、必要な対応処理を迅速に行うことができる。
【0076】
さらに、この判定処理の判定結果mjに基づき、この判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdが選択されて出力する(ステップS35)。そして、判定処理部Fcjから出力した支援メッセージデータmdに基づく支援メッセージmddをディスプレイ5のメッセージ表示部5vに表示される。即ち、ディスプレイ5には、出力処理機能部Foにより、
図9の出力画面36が表示されるため、オペレータは、得られた各種出力情報について確認することができる(ステップS36)。このように、出力処理機能部Foに、判定処理部Fcjから出力した支援メッセージデータmdに基づく支援メッセージmddをディスプレイ5のメッセージ表示部5vに表示する機能を設ければ、オペレータは、視覚的手段により、判断の難しい溶融樹脂の溶融状態を容易に把握できるとともに、必要な対応処理を迅速に行うことが可能となり、成形品生産の効率化及び能率化を図ることができる。
【0077】
出力画面36は、上段に推定個相率表示部36aを、中段に強化繊維の推定破損率表示部36bを、下段に他のデータの表示部を含む最終データ表示部36cをそれぞれ備える。したがって、出力画面36は、推定固相率Xcs,推定破損率Ynの少なくとも一又は二以上に係わる情報をディスプレイ5に表示処理する出力処理機能部Foとして機能する。なお、出力画面36において、推定個相率表示部36aは、横軸がスクリュ位置となり、縦軸が演算により得た推定個相率Xcsとなる。
図9に例示する推定個相率Xcsのグラフは正常に近い特性となるが、他のパターンとして例示する仮想線のXcsdは溶融位置が早すぎることにより可塑化が過度に進行する状態を示しており、他方、仮想線のXcsuは溶融位置が遅すぎることにより可塑化不足が生じている状態を示している。
【0078】
また、
図9の推定破損率表示部36bも横軸がスクリュ位置となり、縦軸が演算により得た推定破損率Ynになる。出力画面36の推定破損率表示部36bに表示される推定破損率Ynは、前述の
図10に示したシミュレーション結果の特性グラフと同じになる。
【0079】
このように、推定個相率Xcsと推定破損率Ynはグラフィック表示されるため、そのグラフパターンにより適性か否かを容易に予測することができる。さらに、最終データ表示部36cには、上から順に、炭化発生確率36ca(推定樹脂分解率Xrs),発熱量36cb,残留固体量36cc,可塑化時間36cdが数値表示されるとともに、添加した強化繊維の状況として最終繊維長Yfが数値表示される。そして、これらの最終データ表示部36cの下方には、判定結果表示部36ceと支援メッセージ表示部36cfからなるメッセージ表示部5vを備える。この場合、判定結果表示部36ceには、各種データの推定(予測)に基づいた、「最良」,「良」,「可」,「不可」等により判定結果mj(例示の表示は「不可」)が表示されるとともに、この判定結果mjに基づく支援メッセージmddが表示される。例示は「全体的に条件を見直してください」の支援メッセージを示す。
【0080】
出力情報を確認し、例えば、判定処理の判定結果mjが「最良」,「良」又は「可」であって、オペレータが成形可能と判断した場合には、支援プログラムを終了させる(ステップS37,S38)。一方、判定処理の判定結果mjが「不可」となった場合には、成形条件データDsの修正又は入力データDiの変更等の修正処理を行う(ステップS39)。そして、修正が終了したなら「解析再開」キーをON(タッチ)する(ステップS40)。この「解析再開」キーは、上述した「流動解析開始」キー38と兼用してもよい。これにより、ステップS30以降の一連の処理が行われる(ステップS30…)。なお、
図1には一例として、判定処理の判定結果mjが「不可」、支援メッセージmddとして「全体的に条件を見直してください」の文字が表示された場合を示している。
【0081】
よって、このような本実施形態に係る成形支援装置1によれば、基本的な構成として、樹脂データ設定部Fmrに設定された樹脂データDrから樹脂の種類に係わる項目Drc及びこの樹脂における所定の物性に係わる項目Drmを選択する樹脂項目選択部6と、選択された樹脂に係わる異なる複数の樹脂温度Et…及び各樹脂温度Et…に対応する物性値Emを入力する物性値入力部7と、任意の樹脂温度Etに対応する物性値Emを求める物性値変換部8と、溶融状態の推定時に当該推定時における樹脂温度Et及びこの樹脂温度Etに対応する物性値変換部8により求めた物性値Emを演算処理機能部Fcに付与するデータ変換処理機能部Feとを備えるため、可塑化した樹脂の溶融状態を推定するに際し、樹脂温度に対応した正確な物性値を用いることができる。これにより、経験の浅い初心者オペレータ等であっても、マニュアル的な補正や修正等が不要となり、正確で的確な溶融状態の推定を迅速に導出できるとともに、精度の高い成形条件の設定、更には高い成形品質を確保することができる。
【0082】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,材料,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0083】
例えば、樹脂データDrには、樹脂自身のみならず樹脂に添加する例示した強化繊維等の樹脂に関連するデータを含むとともに、成形機データDmには、成形機のみならず金型や成形機の周辺機器等の成形機に関連するデータを含む概念である。また、データ変換処理機能部Feを構成するに際し、樹脂項目選択部6及び物性値入力部7を有する詳細データ入力画面Vieをディスプレイ5に表示する機能を設けることが望ましいが、ディスプレイ5に表示することなく内部メモリ21m等に直接書き込んだり転送してもよい。さらに、物性値変換部8として、異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られる関数式Fx又は修正した関数式Fxeを用いて変換する機能,異なる複数の樹脂温度に対応する物性値から得られるデータテーブル又は修正したデータテーブルを用いて変換する機能を挙げたが、他の同様の機能を有する手段、例えば、50~100〔℃〕は物性値K1,101~150〔℃〕は物性値K2,151~200〔℃〕は物性値K3,201~250〔℃〕は物性値K4…等のようなステップ的な数値設定であってもよい。一方、演算処理機能部Fcにおいて、データ変換処理機能部Feを使用しないときは、物性値として予め設定した標準値を用いることができるが、この標準値は、単一の標準値であってもよいし、選択できる複数の標準値であってもよい。演算処理機能部Fcに設ける推定機能として、推定固相率Xcsと推定樹脂分解率Xrsを挙げたが、例示した推定破損率Yn等のような樹脂に対する添加物,又は添加物を含む樹脂等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る成形支援装置は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形を行う各種射出成形機に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1:成形支援装置,3f:スクリュ表面,4:加熱筒,5:ディスプレイ,6:樹脂項目選択部,7:物性値入力部,8:物性値変換部,Dr:樹脂データ,Dm:成形機データ,Ds:成形条件データ,Drc:樹脂の種類に係わる項目,Drm:所定の物性に係わる項目,Et…:樹脂温度,Em…:物性値,Fc:演算処理機能部,Fo:出力処理機能部,Fe:データ変換処理機能部,Fmr:樹脂データ設定部,Fmm:成形機データ設定部,Fms:成形条件データ設定部,Fx:関数式,Fxe:修正した関数式,Vie:詳細データ入力画面,Xcs:(推定)固相率,Xrs:(推定)樹脂分解率