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<図1>
  • -成膜装置と半導体装置の製造方法 図1
  • -成膜装置と半導体装置の製造方法 図2
  • -成膜装置と半導体装置の製造方法 図3
  • -成膜装置と半導体装置の製造方法 図4
  • -成膜装置と半導体装置の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027494
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】成膜装置と半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20230222BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20230222BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20230222BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20230222BHJP
   C30B 25/14 20060101ALI20230222BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H01L21/31 B
H01L21/365
H01L21/363
C23C16/455
C30B25/14
C30B29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132611
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永岡 達司
(72)【発明者】
【氏名】西中 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉本 昌広
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F103
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BB10
4G077DB02
4G077DB11
4G077EA01
4G077EA05
4G077HA06
4G077TG02
4G077TH02
4G077TH06
4G077TH13
4K030AA03
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA08
4K030BA42
4K030CA12
4K030EA01
4K030EA05
4K030EA06
4K030FA10
4K030GA02
4K030GA05
4K030JA09
4K030JA10
4K030KA23
4K030KA25
4K030LA12
5F045AA03
5F045AB40
5F045AC15
5F045DP03
5F045DP28
5F045EC09
5F045EE02
5F045EE07
5F045EF02
5F045EF09
5F045EK07
5F045EM10
5F103AA10
5F103BB60
5F103DD30
5F103GG01
(57)【要約】
【課題】 ミストを用いる成膜装置において、より効率的にミストを加熱する。
【解決手段】 成膜装置であって、基板を載置するステージと、前記基板を加熱するヒータと、溶媒に膜材料が溶解した溶液のミストを供給するミスト供給源と、前記溶媒と同じ材料の過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給源と、前記ミストと前記過熱蒸気を前記基板の表面に向かって送出する送出装置、を有する。前記基板の前記表面に前記膜材料を含む膜を成長させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置であって、
基板(12)を載置するステージ(16)と、
前記基板を加熱するヒータ(14)と、
溶媒に膜材料が溶解した溶液(21)のミスト(72)を供給するミスト供給源(20)と、
前記溶媒と同じ材料の過熱蒸気(43)を供給する過熱蒸気供給源(80)と、
前記ミストと前記過熱蒸気を前記基板の表面に向かって送出する送出装置、
を有し、
前記基板の前記表面に前記膜材料を含む膜を成長させる成膜装置。
【請求項2】
前記基板の前記表面に前記膜をエピタキシャル成長させる、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記溶媒が、HOであり、
前記過熱蒸気が、過熱水蒸気である、
請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ミストと前記過熱水蒸気の合流位置における前記過熱水蒸気の質量速度Gと、前記合流位置における前記過熱水蒸気の温度Tが、
T<530G-0.15
の関係を満たす、請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記過熱水蒸気の温度が175℃未満である、請求項3または4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記過熱水蒸気の温度が150℃未満である、請求項3~5のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記過熱水蒸気が流れる流路内の気圧が大気圧未満であり、
前記過熱水蒸気の温度が100℃未満である、
請求項3に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記送出装置が、前記ミストと前記過熱蒸気の混合体が流れる混合流路(45)を有しており、
前記混合体が、前記混合流路を通って前記基板の前記表面に送出される、
請求項1~7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記送出装置が、第1流路(24)と、前記第1流路から分離されている第2流路(42)を有しており、
前記ミストが、前記第1流路を通って前記基板の前記表面に送出され、
前記過熱蒸気が、前記第2流路を通って前記基板の前記表面に送出される、
請求項1~7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記過熱蒸気供給源が、前記溶媒と同じ材料によって構成された液体材料を前記液体材料の沸点よりも低い第1温度まで加熱し、その後、前記液体材料を減圧することによって前記液体材料の前記沸点を前記第1温度よりも低い温度まで低下させることによって前記過熱蒸気を発生させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項11】
成膜装置を用いて半導体装置を製造する製造方法であって、
前記成膜装置が、
基板を載置するステージと、
前記基板を加熱するヒータと、
溶媒に膜材料が溶解した溶液のミストを供給するミスト供給源と、
前記溶媒と同じ材料の過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給源と、
前記ミストと前記過熱蒸気を送出する送出装置、
を有し、
前記送出装置から前記基板の表面に向かって前記ミストと前記過熱蒸気を送出することによって、前記基板の前記表面に前記膜材料を含む膜を成長させる工程、を有する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、成膜装置と半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、基板の表面に膜を成長させる成膜装置が開示されている。この成膜装置は、溶媒に膜材料が溶解した溶液のミストと加熱ガスを基板の表面に供給する。これによって、基板の表面に膜を成長させる。この構成によれば、ミストから溶媒が蒸発することを抑制しながら加熱ガスによってミストを加熱することができる。高温のミストが基板の表面に供給されるので、基板の温度低下を抑制できる。したがって、基板の表面に安定した品質の膜をエピタキシャル成長させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-120034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、加熱ガスによるミストの加熱効率がそれほど高くないという問題があった。本明細書では、より効率的にミストを加熱することができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する成膜装置は、基板を載置するステージと、前記基板を加熱するヒータと、溶媒に膜材料が溶解した溶液のミストを供給するミスト供給源と、前記溶媒と同じ材料の過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給源と、前記ミストと前記過熱蒸気を前記基板の表面に向かって送出する送出装置、を有する。前記成膜装置は、前記基板の前記表面に前記膜材料を含む膜を成長させる。
【0006】
なお、過熱蒸気とは、沸点よりも高い温度を有するガスを意味する。
【0007】
この成膜装置では、ミストと過熱蒸気が基板の表面に向かって送出される。ミストと過熱蒸気が基板の表面に向かって送出されるときに、過熱蒸気によってミストが加熱される。蒸気の温度を沸点の温度よりも高くするためには潜熱分のエネルギーが必要であるため、過熱蒸気の分子エネルギーは飽和蒸気(すなわち、沸点と等しい温度を有するガス)の分子エネルギーよりもはるかに大きい。このため、過熱蒸気によれば、飽和蒸気よりも効率的にミストを加熱することができる。すなわち、過熱蒸気によれば、ミストから溶媒が蒸発することを抑制しながらミストを効率的に加熱することができる。したがって、この成膜装置によれば、基板の表面により安定した品質の膜を成長させることができる。
【0008】
また、本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、成膜装置を用いて半導体装置を製造する。前記成膜装置が、基板を載置するステージと、前記基板を加熱するヒータと、溶媒に膜材料が溶解した溶液のミストを供給するミスト供給源と、前記溶媒と同じ材料の過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給源と、前記ミストと前記過熱蒸気を送出する送出装置、を有する。この製造方法は、前記送出装置から前記基板の表面に向かって前記ミストと前記過熱蒸気を送出することによって、前記基板の前記表面に前記膜材料を含む膜を成長させる工程を有する。
【0009】
この製造方法によれば、基板の表面により安定した品質の膜を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の成膜装置の構成図。
図2】気体の温度Tと、気体の質量速度Gと、水の蒸発速度Sの関係を示すグラフ。
図3】変形例の成膜装置の構成図。
図4】実施例2の成膜装置の構成図。
図5】実施例3の成膜装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書が開示する一例の成膜装置は、前記基板の前記表面に前記膜をエピタキシャル成長させてもよい。
【0012】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記溶媒が、HOであり、前記過熱蒸気が、過熱水蒸気であってもよい。
【0013】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記ミストと前記過熱水蒸気の合流位置における前記過熱水蒸気の質量速度Gと、前記合流位置における前記過熱水蒸気の温度Tが、T<530G-0.15の関係を満たしてもよい。
【0014】
この構成によれば、過熱水蒸気によるミストの加熱効率をより高めることができる。
【0015】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記過熱水蒸気の温度が175℃未満であってもよい。
【0016】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記過熱水蒸気の温度が150℃未満であってもよい。
【0017】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記過熱水蒸気が流れる流路内の気圧が大気圧未満であってもよい。前記過熱水蒸気の温度が100℃未満であってもよい。
【0018】
このように、流路内の気圧が大気圧未満の場合には、水の沸点が100℃未満となるので、過熱水蒸気の温度が100℃未満となり得る。
【0019】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記送出装置が、前記ミストと前記過熱蒸気の混合体が流れる混合流路を有していてもよい。前記混合体が、前記混合流路を通って前記基板の前記表面に送出されてもよい。
【0020】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記送出装置が、第1流路と、前記第1流路から分離されている第2流路を有していてもよい。前記ミストが、前記第1流路を通って前記基板の前記表面に送出されてもよい。前記過熱蒸気が、前記第2流路を通って前記基板の前記表面に送出されてもよい。
【0021】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、前記過熱蒸気供給源が、前記溶媒と同じ材料によって構成された液体材料を前記液体材料の沸点よりも低い第1温度まで加熱し、その後、前記液体材料を減圧することによって前記液体材料の前記沸点を前記第1温度よりも低い温度まで低下させることによって前記過熱蒸気を発生させてもよい。
【0022】
この構成によれば、大量の過熱蒸気を短時間で発生させることができる。
【実施例0023】
図1に示す実施例1の成膜装置は、基板12の表面に膜をエピタキシャル成長させる装置である。実施例1の成膜装置は、エピタキシャル成長させた膜を有する半導体装置の製造に用いられる。実施例1の成膜装置は、成膜炉15、ミスト発生槽20、及び、過熱水蒸気発生装置80を有している。
【0024】
成膜炉15内に、サセプタ16が配置されている。サセプタ16は、水平に配置された平坦な上面を有している。サセプタ16上には、基板12が載置される。サセプタ16は、ヒータ14を内蔵している。ヒータ14によって、基板12が加熱される。サセプタ16は、その中心軸回りに回転することができる。サセプタ16が回転することで、サセプタ16上の基板12が面内で回転する。
【0025】
ミスト発生槽20は、密閉型の容器である。ミスト発生槽20は、基板12の表面にエピタキシャル成長させる膜の原料を水(HO)に溶かした溶液21を貯留している。例えば、酸化ガリウム(Ga)の膜をエピタキシャル成長させる場合には、溶液21として水にガリウムが溶解した溶液を用いることができる。また、溶液21中に、酸化ガリウム膜にn型またはp型のドーパントを付与するための原料(例えば、フッ化アンモニウム等)がさらに溶解していてもよい。また、溶液21中に、塩酸が含まれていてもよい。溶液21の水面21aとミスト発生槽20の上面の間には、空間26が設けられている。ミスト発生槽20の底面には、超音波振動子28が設置されている。超音波振動子28は、ミスト発生槽20内に貯留されている溶液21に超音波を印加する。溶液21に超音波が印加されると、溶液21の水面21aが振動して、溶液21の上部の空間26に溶液21のミスト(以下、溶液ミスト72という)が発生する。ミスト発生槽20の上面には、溶液ミスト供給路24の上流端が接続されている。ミスト発生槽20の外周壁の上部には、搬送ガス供給路22の下流端が接続されている。搬送ガス供給路22の上流端は、図示しない搬送ガス供給源に接続されている。搬送ガス供給路22は、搬送ガス供給源からミスト発生槽20内の空間26に搬送ガス23を導入する。搬送ガス23は、例えば、窒素等の不活性ガスである。搬送ガス供給路22から空間26内に導入された搬送ガス23は、空間26から溶液ミスト供給路24へ流れる。このとき、空間26内の溶液ミスト72が、搬送ガス23とともに溶液ミスト供給路24へ流れる。
【0026】
溶液ミスト供給路24は、成膜炉15の内部まで伸びている。溶液ミスト供給路24の下流端には、サセプタ16の上面に向かって伸びるノズル34が形成されている。溶液ミスト供給路24の下流端まで流れた溶液ミスト72は、ノズル34からサセプタ16上の基板12の上面に向かって吐出される。
【0027】
過熱水蒸気発生装置80は、水貯留槽60と加熱炉40を有している。
【0028】
水貯留槽60は、密閉型の容器である。水貯留槽60は、水(より詳細には、純水(HO))61を貯留している。水61の水面61aと水貯留槽60の上面との間には、空間66が設けられている。水貯留槽60の底面には、超音波振動子68が設置されている。超音波振動子68は、水貯留槽60内に貯留されている水61に超音波を印加する。水61に超音波が印加されると、水61の水面61aが振動して、水61の上部の空間66に水61のミスト(以下、水ミスト70という)が発生する。水貯留槽60の上面には、水ミスト供給路64の上流端が接続されている。水貯留槽60の外周壁の上部には、搬送ガス供給路62の下流端が接続されている。搬送ガス供給路62の上流端は、図示しない搬送ガス供給源に接続されている。搬送ガス供給路62は、搬送ガス供給源から水貯留槽60内の空間66に搬送ガス63を導入する。搬送ガス63は、例えば、窒素等の不活性ガスである。搬送ガス供給路62から空間66内に導入された搬送ガス63は、空間66から水ミスト供給路64へ流れる。このとき、空間66内の水ミスト70が、搬送ガス63とともに水ミスト供給路64へ流れる。
【0029】
加熱炉40は、上流端40aから下流端40bまで延びる管状炉である。加熱炉40の外側に、ヒータ44が配置されている。ヒータ44は、電熱線式のヒータであって、加熱炉40の外周壁に沿って配置されている。ヒータ44は加熱炉40の外周壁を加熱し、それによって加熱炉40の内部が加熱される。加熱炉40の上流端40aには、水ミスト供給路64の下流端が接続されている。加熱炉40の下流端40bには、過熱水蒸気供給路42の上流端が接続されている。加熱炉40には、水ミスト供給路64から水ミスト70と搬送ガス63が導入される。水ミスト70と搬送ガス63は、加熱炉40内を上流端40aから下流端40bまで流れる。水ミスト70と搬送ガス63は、加熱炉40内で加熱される。水ミスト70は、加熱炉40内を流れる間に蒸発して水蒸気となる。加熱炉40内で発生した水蒸気が流れる流路(すなわち、加熱炉40、過熱水蒸気供給路42、及び、成膜炉15)の内部の気圧は、略大気圧である。加熱炉40内において、水蒸気は100℃(すなわち、大気圧下における水の沸点)よりも高温まで加熱される。したがって、加熱炉40内で過熱水蒸気43が発生する。過熱水蒸気43は、加熱炉40から過熱水蒸気供給路42へ流れる。過熱水蒸気43は、溶液21の溶媒である水(HO)と同じ材料の過熱蒸気である。
【0030】
過熱水蒸気供給路42は、成膜炉15の内部まで伸びている。過熱水蒸気供給路42の下流端には、サセプタ16の上面に向かって伸びるノズル32が形成されている。過熱水蒸気供給路42の下流端まで流れた過熱水蒸気43は、ノズル32からサセプタ16上の基板12の上面に向かって吐出される。
【0031】
次に、実施例1の成膜装置を用いた成膜方法について説明する。ここでは、基板12として、β型酸化ガリウム(β-Ga)の単結晶によって構成された半導体基板を用いる。また、溶液21として、水に塩化ガリウム(GaCl、GaCl)が溶解した水溶液を用いる。また、搬送ガス23、63として窒素ガスを用いる。
【0032】
まず、サセプタ16上に基板12を設置する。次に、サセプタ16を回転させるとともに、ヒータ14によって、基板12を加熱する。基板12の温度が安定したら、超音波振動子68を動作させることによって、水貯留槽60の空間66内に水ミスト70を発生させる。さらに、搬送ガス供給路62から水貯留槽60に搬送ガス63を導入する。すると、水ミスト70が水ミスト供給路64を通って加熱炉40内に流入し、加熱炉40内で過熱水蒸気43が生成される。過熱水蒸気43は、過熱水蒸気供給路42を通ってノズル32へ流入する。したがって、ノズル32から基板12の上面に向かって過熱水蒸気43が吐出される。また、超音波振動子68を動作させるのと略同時に、超音波振動子28を動作させる。これによって、ミスト発生槽20の空間26内に溶液ミスト72を発生させる。さらに、搬送ガス供給路22からミスト発生槽20に搬送ガス23を導入する。すると、溶液ミスト72が溶液ミスト供給路24を通ってノズル34へ流入する。したがって、ノズル34から基板12の上面に向かって溶液ミスト72が吐出される。
【0033】
ノズル32から吐出された過熱水蒸気43とノズル34から吐出された溶液ミスト72は、基板12の上部で合流する。ノズル32の吐出方向とノズル34の吐出方向の間の角度は、90°未満に設定されている。このため、合流位置における過熱水蒸気43と溶液ミスト72の相対速度Vrは、ノズル32から吐出される過熱水蒸気43の流速V43よりも低い。過熱水蒸気43と溶液ミスト72は、基板12の上部で混合される。したがって、過熱水蒸気43と溶液ミスト72の混合体が、基板12の上面に供給される。
【0034】
過熱水蒸気43と溶液ミスト72が混合されると、溶液ミスト72が過熱水蒸気43によって加熱される。過熱水蒸気43が高いエネルギーを有しているので、溶液ミスト72を効率的に加熱することができる。
【0035】
過熱水蒸気43と溶液ミスト72の混合体が基板12の上面に向かって吐出されると、溶液ミスト72が基板12の上面に付着する。基板12の温度が溶液ミスト72の温度よりも高いので、溶液ミスト72(すなわち、溶液21)が基板12上で化学反応を起こす。その結果、基板12上に、β型酸化ガリウム(β-Ga)が生成される。基板12の表面に継続的に溶液ミスト72が供給されるので、基板12の上面に酸化ガリウム膜が成長する。基板12の表面に単結晶の酸化ガリウム膜がエピタキシャル成長する。このように形成された酸化ガリウム膜を用いて、半導体装置を製造することができる。溶液21がドーパントの原料を含む場合には、酸化ガリウム膜にはドーパントが取り込まれる。例えば、溶液21がフッ化アンモニウム(NHF)を含む場合には、フッ素がドープされた酸化ガリウム膜が形成される。
【0036】
溶液ミスト72が基板12の上面に付着するときに、基板12から熱が奪われる。これによって基板12の温度が低下すると、酸化ガリウム膜の膜質が低下する。これに対し、実施例1では、溶液ミスト72が過熱水蒸気43によって加熱されているので、溶液ミスト72が基板12の上面に付着するときに基板12から熱が奪われ難い。したがって、基板12を適切な温度に安定して維持することができる。したがって、基板12の上面に、好適に酸化ガリウム膜をエピタキシャル成長させることができる。
【0037】
また、溶液ミスト72が加熱されるときに溶液ミスト72から水(すなわち、溶媒)が蒸発すると、溶液ミスト72の各液滴を構成する溶液21の濃度が上昇する。このように、各液滴を構成する溶液21の濃度が変化すると、成長させる膜の特性の制御が困難となる。また、各液滴を構成する溶液21から水が過度に蒸発すると、溶液21が固体微粒子に変化する。このような固体微粒子が発生すると、成長させる膜に固体微粒子が付着して膜質が悪化する。しかしながら、実施例1の成膜装置では、過熱水蒸気43によって溶液ミスト72を加熱するので、溶液ミスト72の周囲で水蒸気の分圧が高く、溶液ミスト72から水が蒸発し難い。このため、適切な濃度の溶液21を溶液ミスト72として基板12の上面に供給できる。このため、基板12の上面に高品質な膜を成長させることができる。
【0038】
気体によって水を加熱するときの水の蒸発速度S(kg/(m・hr))は、気体の種類、気体の質量速度G(kg/(m・hr))、及び、気体の温度T(℃)によって異なる。なお、質量速度Gは、水に向かって気体を流すときに単位時間あたりに流れる気体の質量である。図2は、静止状態の水を気体(空気または過熱水蒸気)によって加熱するときの水の蒸発速度Sを示している。図2に示すように、空気と過熱水蒸気のそれぞれにおいて、質量速度Gが高いほど蒸発速度Sが高くなる。また、各質量速度Gにおいて、温度Tが高くなるほど蒸発速度Sが高くなる。各質量速度Gにおいて、過熱水蒸気では空気よりも、温度Tに対する蒸発速度Sの上昇率(すなわち、グラフの傾き)が大きい。このため、各質量速度Gにおいて、過熱水蒸気と空気の間で蒸発速度Sの大きさが逆転する逆転点温度Trが存在する。すなわち、各質量速度Gにおいて、温度Tが逆転点温度Trよりも低い場合には過熱水蒸気で空気よりも蒸発速度Sが小さくなり、温度Tが逆転点温度Trよりも高い場合には過熱水蒸気で空気よりも蒸発速度Sが大きくなる。したがって、過熱水蒸気で水を加熱する場合には、過熱水蒸気の温度Tが逆転点温度Trよりも低いと、より効率的に加熱することができる。図2の実験結果から、逆転点温度Trを質量速度Gの関数とみなすことができる。逆転点温度Trは、Tr=530G-0.15の関係を満たす。したがって、T<530G-0.15となる温度範囲内の過熱水蒸気であれば、水の蒸発を効果的に抑制しながら水を加熱することができる。
【0039】
実施例1の成膜装置においては、ノズル32から吐出される過熱水蒸気43の質量速度G43と温度T43が、T43<530G43 -0.15の関係を満たす。上述したように、過熱水蒸気43と溶液ミスト72の合流位置における過熱水蒸気43と溶液ミスト72の相対速度Vrは、ノズル32から吐出される過熱水蒸気43の流速V43よりも低い。したがって、合流位置における過熱水蒸気43の溶液ミスト72に対する相対的な質量速度Grは、ノズル32から吐出される過熱水蒸気43の質量速度G43よりも低い。したがって、T43<530G43 -0.15の関係が満たされれば、T43<530Gr-0.15の関係が満たされる。したがって、実施例1の成膜装置において、合流位置における過熱水蒸気43の温度T43を、逆転点温度Trよりも低い温度とすることができる。したがって、実施例1の成膜装置によれば、溶液ミスト72からの水の蒸発を効果的に抑制しながら、過熱水蒸気43によって溶液ミスト72を加熱することができる。なお、温度T43は、175℃未満であってもよい。温度T43を175℃未満とすることで、実用的な質量速度Grの範囲内において温度T43を逆転点温度以下とすることができる。特に、温度T43は、150℃未満であってもよい。
【0040】
なお、実施例1では、過熱水蒸気供給路42と溶液ミスト供給路24が分離されていた。しかしながら、図3に示すように、過熱水蒸気供給路42と溶液ミスト供給路24がこれらの下流部で合流することによって混合流路45が形成されていてもよい。混合流路45の下流端に、基板12の上面に向かって伸びるノズル30が形成されている。この構成では、混合流路45の上流端で過熱水蒸気43と溶液ミスト72が合流する。混合流路45内で過熱水蒸気43と溶液ミスト72が混合され、これらの混合体73がノズル30から基板12の上面に向かって吐出される。この構成でも、過熱水蒸気43によって、溶液ミスト72からの水の蒸発を抑制しながら、溶液ミスト72を加熱することができる。この場合、過熱水蒸気43と溶液ミスト72の合流位置(すなわち、混合流路45の上流端)において、T43<530G43 -0.15の関係を満たされるように過熱水蒸気43の温度T43と質量速度G43を設定することで、溶液ミスト72からの水の蒸発をより効果的に抑制できる。
【実施例0041】
図4に示す実施例2の成膜装置では、過熱水蒸気発生装置80が、液体材料気化システム90とリフィルシステム92によって構成されている。実施例2の成膜装置のその他の構成は、図3の成膜装置と等しい。リフィルシステム92は、液体材料気化システム90に水を供給する。液体材料気化システム90は、リフィルシステム92から供給された水に対して、加熱処理と減圧処理を順に実行する。加熱処理では、液体材料気化システム90は、大気圧よりも高い気圧P1下において水を加熱する。ここでは、液体材料気化システム90は、沸点よりも低い温度まで水を加熱する。減圧処理では、液体材料気化システム90は、水に加わる気圧を気圧P1から気圧P2まで低下させる。すると、水の沸点が水の温度よりも低い温度まで低下する。すなわち、水の温度が沸点よりも高い状態となる。したがって、水が急速に蒸発し、過熱水蒸気43が発生する。
【0042】
例えば、加熱処理では、水の沸点が約130℃となる気圧P1を水に印加した状態で、水を100℃よりも高いとともに沸点(すなわち、約130℃)よりも低い120℃まで加熱することができる。その後、水を大気圧と略等しい気圧P2の下へ移送すると、水の沸点が約100℃まで低下する。すると、水の温度(約120℃)が沸点(約100℃)よりも高くなるので、水が急速に蒸発する。その結果、沸点(約100℃)よりも高い温度の過熱水蒸気43が発生する。
【0043】
このように、減圧によって水の沸点を低下させる方法によれば、単純に水を加熱する方法よりも、過熱水蒸気43を急速に発生させることができる。
【0044】
液体材料気化システム90で生成された過熱水蒸気43は、過熱水蒸気供給路42を介して混合流路45へ送られる。また、ミスト発生槽20で発生した溶液ミスト72は、溶液ミスト供給路24を介して混合流路45へ送られる。混合流路45内で、過熱水蒸気43と溶液ミスト72が混合され、混合体73がノズル30から基板12の上面に向かって吐出される。したがって、図3の成膜装置と同様に、基板12の上面に効率的に膜を成長させることができる。
【0045】
図4のように混合流路45内で過熱水蒸気43と溶液ミスト72が混合される構成では、過熱水蒸気43による溶液ミスト72の加熱時間が長いので、溶液ミスト72を均一に加熱することができる。他方、加熱時間が長いと、溶液ミスト72から水が蒸発して溶液ミスト72を構成する溶液21の濃度が変化し易い。実施例2では、150℃未満の過熱水蒸気43を用いると、溶液ミスト72に凝集する水分子の数と溶液ミスト72から蒸発する水分子の数がバランスし易く、溶液ミスト72を構成する溶液21の濃度の変化を抑制できる。
【0046】
なお、実施例2において、図1と同様に、過熱水蒸気供給路42と溶液ミスト供給路24が分離されていてもよい。
【実施例0047】
図5は、実施例3の成膜装置を示している。実施例3では、ノズル30に過熱水蒸気43と溶液ミスト72の混合体73が供給される。ノズル30は、一方向に長い直方体の形状を有している。ノズル30の下面に、一列に並ぶ複数の吐出口30aが形成されている。ノズル30は、各吐出口30aからサセプタ16に向かって混合体73を吐出する。また、実施例3では、サセプタ16上に複数の基板12を載置することができる。基板12は、サセプタ16の中心軸16aの周りに配置されている。矢印81に示すように、ノズル30から下方向に吐出された混合体73は、サセプタ16の直径方向全体に当たることができる。サセプタ16は、中心軸16aの周りに回転する。また、実施例3では、成膜炉15の排気口に排気ポンプ98が設置されている。排気ポンプ98が作動することによって、成膜炉15内が減圧される。すなわち、実施例3では、成膜炉15内の気圧が大気圧未満である。
【0048】
ノズル30から混合体73を吐出しながらサセプタ16を回転させると、基板12の上面に沿って混合体73が層状に流れる。したがって、各基板12の上面に酸化ガリウム膜を均一に成長させることができる。
【0049】
また、実施例3では、成膜炉15内の気圧が大気圧よりも低いので、成膜炉15内の水の沸点が100℃未満である。例えば、成膜炉15内の水の沸点が約80℃となるように成膜炉15内の気圧を制御することができる。また、実施例3では、ノズル30から成膜炉15内に供給される過熱水蒸気43の温度が、成膜炉15内における水の沸点より高く、100℃よりも低い。例えば、成膜炉15内に供給される過熱水蒸気43の温度を、約90℃とすることができる。このように、100℃よりも低い温度を有する水蒸気であっても、減圧雰囲気中においては過熱水蒸気となる。この構成でも、過熱水蒸気43によって、溶液ミスト72から水の蒸発を抑制しながら溶液ミスト72を加熱することができる。したがって、好適に膜をエピタキシャル成長させることができる。
【0050】
なお、実施例3と同様にして、実施例1、2において過熱水蒸気43が流れる流路の気圧を大気圧未満としてもよい。この場合、過熱水蒸気43の温度を100℃未満とすることができる。
【0051】
なお、上述した各実施例では、溶液21の溶媒が水であったが、水以外の液体を溶媒として用いてもよい。この場合、溶媒と同じ材料の過熱蒸気によって溶液ミストを加熱することができる。
【0052】
また、上述した各実施例では、基板の上面に酸化ガリウム膜をエピタキシャル成長させたが、他の膜をエピタキシャル成長させてもよい。また、エピタキシャル成長以外の成長方法で膜を成長させてもよい。
【0053】
各実施例のサセプタ16は、ステージの一例である。各実施例のミスト発生槽20は、ミスト供給源の一例である。各実施例の過熱水蒸気発生装置80は、過熱蒸気供給源の一例である。各実施例の過熱水蒸気供給路42、溶液ミスト供給路24、混合流路45は、送出装置の一例である。各実施例の溶液ミスト供給路24は、第1流路の一例である。各実施例の過熱水蒸気供給路42は、第2流路の一例である。
【0054】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0055】
12:基板、15:成膜炉、16:サセプタ、20:ミスト発生槽、40:加熱炉、43:過熱水蒸気、60:水貯留槽、72:溶液ミスト、80:過熱水蒸気発生装置
図1
図2
図3
図4
図5