(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027505
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】多層管
(51)【国際特許分類】
F16L 9/12 20060101AFI20230222BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20230222BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20230222BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230222BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230222BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
F16L9/12
E04B1/94 V
E04B1/94 F
B32B1/08
B32B27/32 B
B32B27/18 Z
B32B18/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132636
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 一
(72)【発明者】
【氏名】小波 誉幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 誉大
【テーマコード(参考)】
2E001
3H111
4F100
【Fターム(参考)】
2E001DE04
2E001FA34
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2E001HD13
2E001HF12
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3H111EA12
4F100AA37
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4F100AK15C
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4F100AR00C
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4F100GB07
4F100GB51
4F100JK08
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】物性低下を抑制し、高い耐火性能を有する多層管を提供する。
【解決手段】内層1と、内層1の外側に配置された中間層2と、中間層2の外側に配置された外層3とを備え、中間層2は、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱膨張性黒鉛及びゼオライトを含み、熱膨張性黒鉛の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部~20質量部であり、ゼオライトの含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部~3.0質量部である、多層管。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、
前記内層の外側に配置された中間層と、
前記中間層の外側に配置された外層とを備え、
前記中間層は、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱膨張性黒鉛及びゼオライトを含み、
前記熱膨張性黒鉛の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部~20質量部であり、
前記ゼオライトの含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部~3.0質量部である、多層管。
【請求項2】
前記ゼオライトが有する空洞壁表面に熱膨張性材料が吸着しており、
前記熱膨張性材料を220℃~500℃に熱した際のガス総発生量が0.6mmol/g以上である、請求項1に記載の多層管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層管に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物において、建築技術の高度化に伴い用いられる配管材には多様な性質が求められ、多層となっている多層管が用いられている。配管材としての多層管は、例えば、防火区画に使用するために、高い耐火性能が要求される。
【0003】
配管材に要求される耐火性能の具体的な機能としては、火の熱により配管材が膨張して配管自体を閉塞させ、配管材を通じた火の燃え移りを防止する機能が求められている。このような配管材としては、熱膨張性黒鉛を含有する配管材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、配管材は、軽量で施工性が良い塩ビ管を用いることが近年主流になりつつある。さらに市場状況から、大きな口径が必要とされる立管の需要が高まっていることから、大口径の品揃えが必要となってきている。
塩ビ管は、燃焼して残渣となり管を閉塞することで耐火性を発現するが、一般的に口径が大きくなると火の熱が加わった際に、燃焼した塩ビ残渣で閉塞する面積が増えるため、耐火性発現が難しくなる。
耐火性向上のため、熱膨張性黒鉛の添加部数を増やすと、熱膨張性黒鉛がクラック起点となりひびが入ったりするなどにより引張強度が低下したり、熱膨張性黒鉛の偏平性の増加により機械的強度が低下したりする等の多層管の物性低下が生じてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような事情に鑑み、本発明は、物性低下を抑制し、高い耐火性能を有する多層管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、中間層に所定量の熱膨張性黒鉛を配合し、外層に所定の凹凸部を設けることで、物性低下を抑制し、高い耐火性能を有する多層管とすることが可能であることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]内層と、前記内層の外側に配置された中間層と、前記中間層の外側に配置された外層とを備え、前記中間層は、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱膨張性黒鉛及びゼオライトを含み、前記熱膨張性黒鉛の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部~20質量部であり、前記ゼオライトの含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部~3.0質量部である、多層管。
[2]前記ゼオライトが有する空洞壁表面に熱膨張性材料が吸着しており、
前記熱膨張性材料を220℃~500℃に熱した際のガス総発生量が0.6mmol/g以上である、[1]に記載の多層管。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物性低下を抑制し、高い耐火性能を有する多層管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る多層管の模式的断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る多層管の製造装置の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る多層管の製造装置の一例を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る多層管の製造装置に使用する金型と多層管外面成形用チューブの一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[多層管]
本発明の実施形態に係る多層管10は、
図1に示すように、内層1、中間層2及び外層3を備える。内層1は多層管10の最内層を構成し、外層3は多層管10の最外層を構成する。
図1に示す多層管10は、内層1、中間層2及び外層3がこの順に多層管の内側から積層された多層構造を有する。なお、多層管10の構成は三層に限られず、例えば、中間層2が複数層であってもよい。
【0012】
多層管10の全体厚さは、3.5mm~9.0mmであることが好ましく、3.7mm~8.8mmであることがより好ましく、4.0mm~8.5mmであることがさらに好ましい。多層管10の全体厚さが上記範囲内であることで、一般的なVP呼び径40~呼び径150相当厚さがあり、一般的な継手との接合にも対応可能となる。
【0013】
内層1の厚さは、0.5mm~3.2mmであることが好ましく、0.7mm~3.0mmであることがより好ましく、0.9mm~2.5mmであることがさらに好ましい。
中間層2の厚さは、0.5mm~4.0mmであることが好ましく、0.7mm~3.5mmであることがより好ましく、0.9mm~3.2mmであることがさらに好ましい。
外層3の厚さは、0.5mm~3.2mmであることが好ましく、0.7mm~3.0mmであることがより好ましく、0.9mm~2.5mmであることがさらに好ましい。
【0014】
多層管10を構成する内層1、中間層2及び外層3は、ポリ塩化ビニル系樹脂を含む。中でも、中間層2は、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱膨張性黒鉛及びゼオライトを含む。中間層2に、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱膨張性黒鉛及びゼオライトを含むことで、高い耐火性能を有する多層管10とすることができる。中間層2に、熱膨張性黒鉛を含むことで、熱膨張性黒鉛がクラック起点となりひびが入ったりするなどにより引張強度が低下することを抑制することができ、熱膨張性黒鉛の偏平性の増加により機械的強度が低下することを抑制することができる。また、中間層2に、熱膨張性材料が吸着しているゼオライトを含むことで、燃焼残渣の強度を上げ、かつ、ゼオライトの空洞を構成する空洞壁に吸着している熱膨張性材料であるアンモニア等が熱により気化することにより残渣を膨らますことで耐火性を向上させることができる。
【0015】
(ポリ塩化ビニル系樹脂)
内層1、中間層2及び外層3を構成する材料としては、ポリ塩化ビニル系樹脂が好適に用いられる。
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、(1)ポリ塩化ビニル単独重合体;(2)塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体;(3)塩化ビニル以外の(共)重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、必要に応じて上記ポリ塩化ビニル系樹脂を塩素化してもよい。
【0016】
上記(2)塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類などが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0017】
上記(3)塩化ビニルをグラフト共重合する共重合体としては、塩化ビニルをグラフト共重合するものであれば、特に限定されず、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート-一酸化炭素共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0018】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、小さくなると成形体の物性低下が起こり、大きくなると溶融粘度が高くなって成形が困難になるので、400~1,600が好ましく、500~1,500がより好ましく、600~1,400がさらに好ましい。
なお、上記平均重合度とは、塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K 6720-2:1999「プラスチック-塩化ビニルホモポリマー及びコポリマー(PVC)-第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0019】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を採用することができ、例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。
【0020】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の塩素化方法は、特に限定されず、従来公知の塩素化方法を採用することができ、例えば、熱塩素化方法、光塩素化方法等が挙げられる。
【0021】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂はいずれも、樹脂組成物としての耐火性能を阻害しない範囲で、架橋、変性して用いてもよい。この場合、予め架橋、変性した樹脂を用いてもよく、添加剤等を配合する際に、同時に架橋、変性してもよいし、あるいは樹脂に上記成分を配合した後に架橋、変性してもよい。上記樹脂の架橋方法についても、特に限定はなく、ポリ塩化ビニル系樹脂の通常の架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物を使用する架橋、電子線照射による架橋、水架橋性材料を使用した方法等が挙げられる。
【0022】
(熱膨張性黒鉛)
中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中に含まれる熱膨張性黒鉛は、鱗片状及び球状等の熱膨張性黒鉛である。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張するものであり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、無機酸と、強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。無機酸としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等が挙げられる。また、強酸化剤としては、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。
また、上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の中和剤で中和してもよい。脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
本発明で使用する熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、火災発生時以外に膨張することを防止する観点から、150℃以上が好ましく、155℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。また、火災発生時には、熱膨張性黒鉛の体積増加率を高くし、耐火性を効果的に発揮する観点から、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下がさらに好ましい。
【0024】
中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部~20質量部である。中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量がポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部未満であると、中間層2の熱膨張性が不十分となり、十分な耐火性が得られない。また、中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量がポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、20質量部超であると、熱膨張性黒鉛がクラック起点となりひびが入ったりするなどにより引張強度が低下したり、熱膨張性黒鉛の偏平性の増加により機械的強度が低下したりする。中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、6質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることがさらに好ましい。熱膨張性黒鉛の含有量が上記下限値以上であることで、中間層2の熱膨張性が十分となる。また、中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、18質量部以下であることが好ましく、16質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。熱膨張性黒鉛の含有量が上記上限値以下であることで、多層管10の機械的強度が十分となる。
【0025】
(ゼオライト)
中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中に含まれるゼオライトの骨格構造は、特に限定はない。本発明で使用するゼオライトの骨格構造としては、具体的に、A型、フェリエライト、MXM-22、ZSM-5、モルデナイト、L型、Y型、X型、ベータ型等が挙げられ、上記群より選択される1種類以上である。
また、上記ゼオライトの多孔質構造の空洞を構成する空洞壁表面には予め気体、液体等の熱膨張性材料が吸着していてもよい。吸着している熱膨張性材料の種類は、1種類以上であれば、何種類でもよい。ゼオライトの空洞を構成する空洞壁表面に熱膨張性材料が吸着している場合、ゼオライトに吸着している熱膨張性材料が、塩化ビニル系樹脂内で熱により気化することで、膨張倍率を上げることが可能となる。
【0026】
中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中に含まれるゼオライト含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部~3.0質量部である。中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中に含まれるゼオライト含有量がポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部未満であると、多層管の膨張性、及び膨張後の残渣強度が不十分となり、十分な耐火性が得られない。また、中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中のゼオライトの含有量がポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、3.0質量部超であると、無機物の添加量が多くなり機械的強度の低下に繋がる。中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中に含まれるゼオライト含有量がポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましく1.0質量部以上であることがさらに好ましい。ゼオライトの含有量が上記下限値以上であることで、多層管の膨張性、及び膨張後の残渣強度が十分になる。また、中間層2を構成する塩化ビニル系樹脂組成物中に含まれるゼオライト含有量がポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、3.0質量部以下であることが好ましく、2.7質量部以下であることがより好ましく、2.5質量部以下であることがさらに好ましい。ゼオライトの含有量が上記上限値以下であることで、無機物の添加量を抑制することになり機械的強度の低下を抑制することができる。
【0027】
<熱膨張性材料>
本発明における熱膨張性材料は、熱により気化することで、中間層を構成する材料の残渣を膨らまして耐火性を向上させる材料を採用する。熱膨張性材料としては、成形時(例えば、220℃)にはガス化せず、燃焼時(例えば、500℃)にガス化させることができるものを採用することが好ましく、例えば、アンモニア(NH3)及び窒素(N2)の少なくともいずれかの含窒素化合物が挙げられる。
【0028】
ゼオライトが有する空洞壁表面に吸着している熱膨張性材料の量は、0.6mmol/g以上であることが好ましく、0.9mmol/g以上であることがより好ましく、1.2mmol/g以上であることがさらに好ましい。ゼオライトが有する空洞壁表面に吸着している熱膨張性材料の量が上記下限値以上であることで、多層管の膨張性が十分となり、耐火性を向上させることができる。また、ゼオライトが有する空洞壁表面に吸着している熱膨張性材料の量は、0.9mmol/g以下であることが好ましく、1.2mmol/g以下であることがより好ましく、1.5mmol/g以下であることがさらに好ましい。ゼオライトが有する空洞壁表面に吸着している熱膨張性材料の量が上記上限値以下であることで、多層管の過度な膨張性を抑制することができ、膨張後の残渣強度が十分になる。
なお、ゼオライトが有する空洞壁表面に吸着している熱膨張性材料の量は、熱膨張性材料を220℃~500℃に熱した際のガス総発生量とみなすことができ、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
(添加剤)
本発明の多層管10の内層1、中間層2及び外層3を構成する材料には、その物性を損なわない範囲内で、無機充填材、滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、可塑剤、熱可塑性エラストマー等の添加剤が添加されていてもよい。
【0030】
無機充填剤としては、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブ溝デン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッュ、及び脱水汚泥等からなる群より選択される一種以上を挙げることができる。
【0031】
滑剤としても、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤が挙げられる。内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。上記内部滑剤としては特に限定されず、例えば、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エポキシ大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、及びビスアミドからなる群より選択される一種以上を使用することができる。また、外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。外部滑剤としては特に限定されず、例えば、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス、モンタン酸ワックスからなる群より選択される一種以上を使用することができる。
【0032】
加工助剤としても、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。例えば、重量平均分子量10万~200万のアルキルアクリレート-アルキルメタクリレート共重合体等のアクリル系加工助剤などを挙げることができる。上記アクリル系加工助剤としては特に限定されず、例えば、n-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
衝撃改質剤としても、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。例えば、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、塩素化ポリエチレン、及びアクリルゴム等からなる群より選択される一種以上を使用することができる。
【0034】
耐熱向上剤としても、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。例えば、α-メチルスチレン系、N-フェニルマレイミド系樹脂等を使用することができる。
【0035】
酸化防止剤としては特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
【0036】
光安定剤としては特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。例えば、ヒンダードアミン系等の光安定剤等が挙げられる。
【0037】
紫外線吸収剤としては特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
顔料としては特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料;酸化物系、クロム酸モリブ溝デン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアニン化物系などの無機顔料等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
また、上記ポリ塩化ビニル系樹脂には可塑剤が添加されていてもよい。可塑剤としては特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。例えば、ジブチルフタレート、ジー2―エチルヘキシルフタレート、及びジー2―エチルヘキシルアジペートからなる群より選択される一種以上を使用することができる。
【0040】
熱可塑性エラストマーとしては特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。例えば、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体(EVACO)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体や塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体等の塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びポリアミド系熱可塑性エラストマーからなる群より選択される一種以上を使用することができる。
【0041】
上述した熱膨張性黒鉛、ゼオライト及び添加剤をポリ塩化ビニル系樹脂に混合する方法としては、公知の方法を広く採用することが可能である。具体的には、ホットブレンドによる方法、コールドブレンドによる方法等が挙げられる。
【0042】
<多層管の使用用途>
以上にしてなる本発明の多層管10は、物性低下を抑制し、かつ、高い耐火性能を有するので、建築物の排水管、ダクト及び電線管等の配管として好適に使用可能である。また、本発明の多層管10は、配管本体の構成材料として好適に使用可能であるだけでなく、配管の継手の構成材料としても、好適に使用可能である。
【0043】
<多層管の製造方法>
図2は、本発明の一実施形態に係る多層管10を製造するために用いられる製造装置20を模式的に示す平面図である。
図3、本発明の一実施形態に係る多層管10を製造するために用いられる製造装置20の模式的に示す正面図である。
多層管10を製造するための製造装置20は、
図2,3に示すように、内外層押出機11と、中間層押出機12と、金型13と、冷却水槽15と、引取機16と、切断機17とを備える。内外層押出機11及び中間層押出機12には、金型13が接続されている。金型13には、冷却水槽15が接続されている。冷却水槽15には、引取機16が接続されている。引取機16には、切断機17が接続されている。
【0044】
本発明の多層管の製造方法は、まず、内層の材料及び外層の材料を、ホッパーを利用して内外層押出機11へ投入し、内外層押出機11内で内層の材料及び外層の材料を溶融混練し、金型13に押し出す。また、中間層の材料を、ホッパーを利用して中間層押出機12へ投入し、中間層押出機12内で中間層の材料を溶融混練し、金型13に押し出す。
【0045】
次いで、金型13において、内層の材料及び外層の材料を溶融混練したもの、及び、中間層の材料を溶融混練したものを加熱し、3層構造を有する未硬化の多層管を成型する。
金型13での加熱温度は、内層の材料及び外層の材料の流動性を向上させる観点から、160℃以上200℃以下であることが好ましく、170℃以上195℃以下であることがより好ましく、180℃以上190℃以下であることがさらに好ましい。
金型13での加熱時間は、内層の材料及び外層の材料が金型13に存在する時間であり、内層の材料及び外層の材料の流動性を向上させる観点から、3分以上10分以下であることが好ましく、4分以上9分以下であることがより好ましく、5分以上8分以下であることがさらに好ましい。
【0046】
次いで、金型13の出口から、3層構造を有する未硬化の多層管が押し出され、冷却水槽15へ送られる。
冷却水槽15には、未硬化の多層管を所定寸法に成形するための管外面成形用チューブ14が取り付けられており、未硬化の多層管の外面を、管外面成形用チューブ14と接触した状態で冷却する。
図4は、製造装置における金型13及び管外面成形用チューブ14を拡大して示す断面図である。
図4に示すように、内外層押出機11により溶融混練された内層の材料21及び外層の材料23と、中間層押出機12により溶融混練された中間層の材料22とを、中間層の断面形状の外周縁の形状が真円となるように設計された金型13に注入し、未硬化の多層管10´を成形する。未硬化の多層管10´は、未硬化の内層31及び未硬化の外層33と、中間層の材料22により形成される未硬化の中間層32とを備える。中間層の材料22は、未硬化の多層管10´を金型13より吐出されると発泡し、未硬化の中間層32が形成される。未硬化の多層管10´を管外面成形用チューブ14内に挿入し、未硬化の多層管10´は所定寸法に型成形されながら冷却水槽15内で冷却される。
冷却水槽15での冷却温度は、未硬化の多層管10´を十分に硬化させる観点から、14℃以上26℃以下であることが好ましく、16℃以上24℃以下であることがより好ましく、18℃以上22℃以下であることがさらに好ましい。
冷却水槽15での冷却時間は、未硬化の多層管10´が冷却水槽15に存在する時間であり、内層の材料及び外層の材料を十分に硬化させる観点から、4分以上16分以下であることが好ましく、6分以上14分以下であることがより好ましく、8分以上12分以下であることがさらに好ましい。
【0047】
次いで、引取機16を用いて、冷却水槽15で冷却された多層管10を引き取り、また、切断機17を用いて、引取機16から送られてきた多層管10を所定の長さに切断する。このようにして、所定の長さを有する多層管10を得る。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0049】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例及び比較例)
下記表1に示した配合に基づき、190℃の8インチミキシングロール(安田精機製作所製)で3分間ロール混錬し、更に200℃のプレス機(東邦マシナリー株式会社製)で3分間プレス成形した後、20℃の冷却プレス機(東邦マシナリー株式会社製)で3分間冷却し、厚さ3.1mmの各実施例及び比較例の試験片を作製した。
【0051】
<使用原料>
実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
〈ポリ塩化ビニル系樹脂〉
・徳山積水株式会社「TS1000R」(平均重合度:1,000)
〈光安定剤〉
・日東化成株式会社「TVS-8832」
〈滑剤〉
・三井化学株式会社「ハイワックス220RKT」
〈熱膨張性黒鉛〉
・鈴裕化学株式会社「GREP-EG」
〈ゼオライト〉
・水澤化学株式会社「ミズカライザーDS」
・東ソー株式会社「HSZ-300 341NHA」、熱膨張性材料「NH3」(220℃~500℃ガス総発生量:1.4mmol/g)
・東ソー株式会社「HSZ-700 720NHA」、熱膨張性材料「NH3」(220℃~500℃ガス総発生量:1.7mmol/g)
【0052】
<熱膨張性材料のガス発生量>
熱膨張性材料を含むゼオライトを1.0g入れた試験管を、測定温度に設定したオイルバス中に挿入して5分間加熱し、熱分解して発生するガスをガラス器具で採集し、20℃、1気圧の状態における発生ガスの体積から、ガス発生量を算出した。
【0053】
(膨張倍率評価試験)
ロールプレスにより板状にした試験片を直方体状に切り出し、厚さ、縦、横の三箇所をノギスで測定した。その後各実施例及び比較例の試験片を500℃の昇温した電気炉に3分間入れて、膨張させた。その後電気炉から取り出した常温で放冷した。放冷した膨張後試験片の厚さ、縦、横をノギスで測定し次の式によって膨張倍率Rを算出した。膨張倍率Rが10以上であれば、実用上十分な熱膨張率を有すると判断した。
熱膨張率R=(a1×b1×c1)/(a0×b0×c0)
a0:膨張前の試験片厚さ(mm)
b0:膨張前の試験片縦長さ(mm)
c0:膨張前の試験片横長さ(mm)
a1:膨張後の試験片厚さ(mm)
b1:膨張後の試験片縦厚さ(mm)
c1:膨張後の試験片横長さ(mm)
<判定基準>
A:膨張倍率Rが10以上
B:膨張倍率Rが5以上10未満
C:膨張倍率Rが5未満
【0054】
(残渣強度試験)
ロールプレスにより板状にした試験片を長さ30±1mm、幅30±1mm、厚さ3±0.1mmに直方体状に切り出す。そのサンプルの端に1mm程度の穴を空け針金を通し金属架台にぶら下げ500℃に昇温した電気炉に3分間入れ燃焼残渣を作成し取出した。それぞれ5回繰り返し、残渣強度が低いと架台から落下する。
<判定基準>
A:落下回数0回
B:落下回数1~2回
C:落下回数3~5回
【0055】
(引張強度評価試験)
JIS K 7161-1:2014「プラスチック-引張特性の求め方-第1部」に則り、試験体から各実施例及び比較例の試験片を作成し、5mm/分で引張降伏強さを測定した。この時の測定雰囲気は23℃とした。なお、試験片が破断するまでの最大荷重をP(N)、試験片の断面積をS(mm2)として引張降伏強さF(MPa)は、以下の式で算出した。
引張降伏強さ:F=P/S
<判定基準>
A:引張降伏強さFが40(MPa)以上
B:引張降伏強さFが35(MPa)以上40(MPa)未満
C:引張降伏強さFが35(MPa)未満
【0056】
(アンモニア昇温脱離測定(NH3-TPD測定))
得られた試験片1gを切りだした。切り出した試験片をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、遠心分離した後、上澄み液を除去した。不要物を乾燥後、試験片とした。ゼオライトとその他無機成分が混ざっている場合は既知の分離法(沈殿、濾過等)で分離させ、ゼオライトのみ抽出した抽出試験片とした。
抽出試験片0.1gを500℃のヘリウム流通下に1時間静置してこれを前処理とした。1時間の前処理後の試料について、室温で、5体積%のアンモニア及び95体積%のヘリウムを含む混合ガスを流通させて、抽出試験片にアンモニアを飽和吸着させた。混合ガスを1時間流通した後、混合ガスに代え、ヘリウムガスを流通しながら試料を100℃まで昇温した。昇温後、100℃、0.5時間、ヘリウムガスを流通させることで雰囲気中に残存するアンモニアを除去した。
残存アンモニアの除去後、流速30mL/分のヘリウム流通下、昇温速度10℃/分で500℃まで昇温し、TCD検出器を使用して、当該昇温過程で測定された220℃~500℃に熱した際のガス総発生量(mmol/g)をもって、試料に吸着されたアンモニア量とした。
【0057】