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特開2023-27559ロドコッカス属細菌の培養方法及び高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法
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  • 特開-ロドコッカス属細菌の培養方法及び高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027559
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】ロドコッカス属細菌の培養方法及び高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132730
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 範之
(72)【発明者】
【氏名】肥田野 美香
(72)【発明者】
【氏名】根岸 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】岩本 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 碧
(72)【発明者】
【氏名】上野 望
(72)【発明者】
【氏名】谷元 海斗
(72)【発明者】
【氏名】市河 拓巳
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA45X
4B065AC02
4B065BB04
4B065BB10
4B065BC03
4B065BD25
4B065BD31
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】ロドコッカス属細菌に高温耐性を付与することができる、ロドコッカス属細菌の培養方法、及び、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法を提供する。
【解決手段】疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)と、前記工程(i)の後、疎水性液体を含む培地で、80℃以上の温度条件下で、前記ロドコッカス属細菌を培養する工程(ii)とを含む、培養方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)と、
前記工程(i)の後、疎水性液体を含む培地で、80℃以上の温度条件下で、前記ロドコッカス属細菌を培養する工程(ii)と、
を含む、ロドコッカス属細菌の培養方法。
【請求項2】
前記疎水性液体が、アルカン及び油脂からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
【請求項3】
前記アルカンが、炭素数6~35のアルカンである、請求項2に記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
【請求項4】
前記油脂が、食用油である、請求項2に記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
【請求項5】
前記ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・グロベルラス、ロドコッカス・オパクス及びロドコッカス・ロドクロウスからなる群より選択される1種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
【請求項6】
疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)を含む、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロドコッカス属細菌の培養方法及び高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒分解菌であるロドコッカス属(Rhodococcus)細菌は、土壌や海洋にありふれて存在するグラム陽性細菌の一種であり、石油系炭化水素やポリ塩化ビフェニール類(PCB)をはじめとした数多くの難分解性化合物に対して分解及び資化能力を有する。ロドコッカス属には、アクリルアミドや有用酵素群、又は細胞外多糖をはじめとした機能性バイオポリマーなどの生産菌が多く存在することが知られている。
そのため、ロドコッカス属細菌は、産業的に重要な菌群として位置づけられており、低エネルギー化や環境負荷を削減できるバイオプロセスによる環境浄化又は物質生産への応用などが期待されている(例えば、特許文献1~4)。
【0003】
本発明者らは、Rhodococcus erythropolis PR4株(NBRC100887株)が有機溶媒中で生育できることを明らかにしてきた(特許文献1~4)。このことから、Rhodococcus erythropolis PR4株は、疎水性基質を用いた微生物発酵生産等のホワイトバイオテクノロジーにおいて非常に有用であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4877900号公報
【特許文献2】特許第5532474号公報
【特許文献3】特許第5747371号公報
【特許文献4】特許第6695612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高温発酵系は新たなエネルギー削減技術として期待されており、耐熱性発酵微生物の耐熱性機構が研究されている。ロドコッカス属細菌は、通常、30℃程度で生育する細菌であり、高温発酵系で利用することはできない。しかしながら、ロドコッカス属細菌の耐熱性を向上することができれば、高温発酵系に利用することができる。
そこで、本発明は、ロドコッカス属細菌に高温耐性を付与することができる、ロドコッカス属細菌の培養方法、及び、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)と、前記工程(i)の後、疎水性液体を含む培地で、80℃以上の温度条件下で、前記ロドコッカス属細菌を培養する工程(ii)と、を含む、ロドコッカス属細菌の培養方法。
[2]前記疎水性液体が、アルカン及び油脂からなる群より選択される1種以上である、
[1]に記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
[3]前記アルカンが、炭素数6~35のアルカンである、[2]に記載のロドコッカス属細菌の培養方法
[4]前記油脂が、食用油である、[2]に記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
[5]前記ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・オパクス及びロドコッカス・ロドクロウスからなる群より選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のロドコッカス属細菌の培養方法。
[6]疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)を含む、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ロドコッカス属細菌に高温耐性を付与することができる、ロドコッカス属細菌の培養方法、及び、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例1における、熱処理後の画線培養の結果である。
図2】実験例2における、熱処理後のLIVE/DEAD染色の結果である。
図3】実験例3における、熱処理後の生菌数を測定した結果を示すグラフである。
図4】実験例4において、熱処理の時間を変更して、熱処理後の生菌数を測定した結果を示すグラフである。
図5】実験例5における、熱処理後の生菌数を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[培養方法]
一実施形態において、本発明は、疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)と、工程(i)の後、疎水性液体を含む培地で、80℃以上の温度条件下で、ロドコッカス属細菌を培養する工程(ii)とを含む、ロドコッカス属細菌の培養方法を提供する。
【0010】
本実施形態に係る培養方法によれば、工程(i)において、疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養することにより、ロドコッカス属細菌に高温耐性を付与することができる。そのため、工程(i)の培養後のロドコッカス属細菌は、工程(ii)において、80℃以上の温度条件下で培養しても生存可能である。これにより、高温環境下でのホワイトバイオテクノロジー及びバイオレメディエーションに利用することができる。
【0011】
本実施形態に係る培養方法によれば、ロドコッカス属細菌は高温耐性が付与されるため、通常の培養方法で培養されたロドコッカス属細菌が生存できない高温条件でも生存できるようになる。
なお、「高温条件で生存できる」ことは、次のように確認することができる。まず、ロドコッカス属細菌を含む培養液の温度を、一定時間、高温に保持する(これを「熱処理」という場合がある)。熱処理したロドコッカス属細菌をLIVE/DEAD BacLightTM Bacterial Viability Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて染色することにより、熱処理後に生存したロドコッカス属細菌を確認することができる。あるいは、熱処理したロドコッカス属細菌を、通常の培養温度(例えば、25~30℃)で画線培養し、熱処理後のロドコッカス属細菌の生存を確認することができる。
【0012】
本明細書において、「高温」とは、通常の培養方法で培養したロドコッカス属細菌が生存できなくなる温度を意味し、通常、80℃以上であり、好ましくは90℃以上である。
また、「高温」とは、工程(i)を経たロドコッカス属細菌が死滅しない温度を意味し、120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが更に好ましい。
【0013】
(工程(i))
工程(i)では、ロドコッカス属細菌を、疎水性液体を含む培地で培養する。
【0014】
<ロドコッカス属細菌>
本実施形態に係る培養方法において、培養するロドコッカス属(Rhodococcus)細菌は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
ロドコッカス属細菌としては、例えば、ロドコッカス・アウストラリス(Rhodococcus australis)、ロドコッカス・コプロフィラス(Rhodococcus coprophilus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)、ロドコッカス・ペルコラタス(Rhodococcus percolatus)、ロドコッカス・ロドニ(Rhodococcus rhodnii)、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・ルーバー(Rhodococcus ruber)及びロドコッカス・ゾプフィ(Rhodococcus zopfii)等が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・グロベルラス、ロドコッカス・オパクス及びロドコッカス・ロドクロウスからなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0015】
ロドコッカス・アウストラリスの具体例としては、ATCC35215株が挙げられるが、これに限定されない。
ロドコッカス・コプロフィラスの具体例としては、ATCC29080株、JCM3200株等が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・エリスロポリスの具体例としては、ATCC27854株、ATCC47072株、DSM1069株、JCM3201株、NBRC15567株、NBRC100887株等が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・グロベルラスの具体例としては、ATCC14346株、ATCC15076株、ATCC21292株、ATCC25669株、ATCC25688株、ATCC3110株、ATCC14898株、NBRC14531株等が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・ジョスティの具体例としては、RHA1株が挙げられるが、これに限定されない。
ロドコッカス・オパクスの具体例としては、ATCC17039株、ATCC170391株、ATCC51881株、ATCC51882株、JCM9703株等が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・ペルコラタスの具体例としては、JCM10087株が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・ロドニの具体例としては、ATCC35071株が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・ロドクラウスの具体例としては、ATCC271株、ATCC999株、ATCC4001株、ATCC13808株、ATCC14348株、ATCC14349株、ATCC15905株、ATCC15906株、ATCC184株、ATCC17041株、ATCC19150株、ATCC12674株、JCM2156株、JCM2157株、R-1株、R-2株、S-1株、S-2株等が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・ルーバーの具体例としては、IFO15591株が挙げられるが、これらに限定されない。
ロドコッカス・ゾプフィの具体例としては、ATCC51349株、JCM9919株等が挙げられるが、これらに限定されない。
上記の他、ロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) PG7-2株、ロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) JCM3376株、ロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) JCM3391株、ロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) S1、ロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) R2等も挙げられる。
これらの中でも、ロドコッカス・エリスロポリス NBRC100887株、ロドコッカス・エリスロポリス ATCC47072株、ロドコッカス・グロベルラス ATCC14346株、ATCC15076株、ロドコッカス・オパクス ATCC17039株、ロドコッカス・ロドクラウス ATCC12674株、ロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) S1、及びロドコッカス スピーシーズ(Rhodococcus sp.) R2からなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0016】
ロドコッカス属細菌としては、自然界から単離された株の変異株であってもよく、上記株の変異株であってもよい。ここで「変異株」とは、自然発生的又は人為的に、元の菌株の遺伝子に変異が生じた菌株を意味する。遺伝子変異を生じさせる人為的手法は、特に限定されず、紫外線照射、放射線照射、亜硝酸などによる化学的処理、遺伝子導入、ゲノム編集などの遺伝子工学的手法等を例示することができる。
変異株の好適な例としては、ミスセンス変異、サイレント変異等が生じた変異株;外来遺伝子が導入された変異株等が挙げられる。変異株と元の菌株との間のゲノムの配列同一性(相同性)は、97%以上であることが好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上がさらに好ましく、99.9%以上が特に好ましい。
【0017】
<疎水性液体>
工程(i)で用いる培地は、疎水性液体を含む。疎水性液体としては、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り、特に限定されない。水性媒体主体の培地に、疎水性液体が添加されると、疎水性液体相と培地相とが分離する。疎水性液体相と培地相とを含む液体において、ロドコッカス属細菌は疎水性液体相に存在する傾向がある。ロドコッカス属細菌は疎水性液体相に存在することにより、高温耐性となると考えられる。
【0018】
本明細書において、「疎水性」とは、水に不溶または難溶な性質をいい、化学的には極性が低いことをいう。また、「疎水性」は、ここでは「親油性」と同じ意味で用いられ、疎水性溶媒との親和性が、親水性溶媒との親和性よりも高いことをいう。
【0019】
疎水性液体は、後述する培地中で、分散可能であることが好ましい。
「疎水性液体が培地中で分散可能である」とは、「疎水性液体が、培地中で、油滴粒子を形成することが可能である」ことを意味する。疎水性液体が培地中で分散していることにより、疎水性液体の油滴内にロドコッカス属細菌が移動しやすくなる。
【0020】
前記油滴粒子の平均粒径としては、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り、特に限定されないが、例えば、1μm以上1mm以下であってもよく、1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
油滴粒子の平均粒径が上記範囲内であることにより、油滴粒子として安定して分散させることが可能となり、前記油滴粒子内にロドコッカス属細菌が封入することがより容易となる。
その結果、工程(i)の培養後のロドコッカス属細菌は、工程(ii)において、80℃以上の温度条件下で培養しても生存することがより容易となる。
【0021】
培地に添加する疎水性液体は、アルカン及び油脂からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0022】
疎水性液体は、工程(i)の培養温度において、液体であることが好ましい。
【0023】
《アルカン》
培地に添加する疎水性液体がアルカンである場合、前記アルカンとしては、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り、特に限定されない。
【0024】
前記アルカンとしては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。
前記アルカンの炭素数の下限は、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り特に制限されないが、6以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、13以上であることが特に好ましい。
前記アルカンの炭素数の上限は、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り特に制限されないが、35以下であることが好ましく、33以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましい。
【0025】
前記アルカンが直鎖状である場合、前記アルカンの炭素数の下限は、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り特に制限されないが、6以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、13以上であることが特に好ましい。
前記アルカンが直鎖状である場合、前記アルカンの炭素数の上限は、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り特に制限されないが、20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましく、16以下であることが更に好ましい。
炭素数6以上の直鎖状の前記アルカンとしては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン(C14)、n-ペンタデカン(C15)、n-ヘキサデカン(C16)、n-ヘプタデカン(C17)、n-オクタデカン(C18)、n-ノナデカン(C19)、n-イコサン(C20)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
前記炭素数6以上の分岐鎖状の前記アルカンとしては、例えば、以下のようなもの等が挙げられるが、これらに限定されない。
炭素数6:2-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、3-メチルペンタン、3-メチルペンタン、ジメチルブタン、2,2‐ジメチルブタン
炭素数7:3-メチルヘキサン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、2,3-ジメチルペンタン、3-エチルペンタン、2-メチルヘキサン、2,2-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン
炭素数8:(3R,4S)-3,4-ジメチルヘキサン、2,2,3,3-テトラメチルブタン、(S)-3-メチルヘプタン、3,4-ジメチルヘキサン、3-メチルヘプタン、3-エチルヘキサン、3-メチル-3-エチルペンタン、2-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、イソオクタン、2-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,4-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン
炭素数9:2,2,4,4-テトラメチルペンタン、3-エチルヘプタン、3,3,4-トリメチルヘキサン、2,2-ジメチルヘプタン、2,4-ジメチルヘプタン、3-エチル-2,3-ジメチルペンタン、2,3,4-トリメチルヘキサン、2,2,3,4-テトラメチルペンタン、4-エチルヘプタン、3,5-ジメチルヘプタン
炭素数10:2,4-ジメチル-3-イソプロピルペンタン、2,3,5-トリメチルヘプタン、2,2-ジメチルオクタン、2,2,4,5-テトラメチルヘキサン、5-エチル-2-メチルヘプタン、2-メチル-3,3-ジエチルペンタン、2,3,3,5-テトラメチルヘキサン、2,2,5-トリメチルヘプタン、4-メチルノナン、2,4,5-トリメチルヘプタン、2,4,6-トリメチルヘプタン、3,4-ジエチルヘキサン 炭素数11:4-イソプロピルオクタン、3,6-ジメチルノナン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン、3,4-ジエチルヘプタン、2,6-ジメチルノナン、2,3,7-トリメチルオクタン、2,4,6-トリメチルオクタン、3,3,5,5-テトラメチルヘプタン、4-エチル-4-メチルオクタン、3,5-ジエチルヘプタン、2,3,6-トリメチルオクタン、2,2,6-トリメチルオクタン、2-メチルデカン、2,2,3,3,4,4-ヘキサメチルペンタン、3,3-ジエチルヘプタン、2,5,6-トリメチルオクタン
炭素数12:3,7-ジメチルデカン、5,6-ジメチルデカン、5-メチルウンデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、4-エチルデカン、2,3,5-トリメチルノナン、2,9-ジメチルデカン、5-プロピルノナン、2-メチルウンデカン、3,4-ジメチルデカン、2,2,7,7-テトラメチルオクタン、2,4,5,7-テトラメチルオクタン、2,2-ジメチルデカン、2,2,4,4,6-ペンタメチルヘプタン、2,2-ジブチルブタン
炭素数13:2,2,7-トリメチルデカン、2,6,8-トリメチルデカン、2,4,6-トリメチルデカン、3,5-ジメチルウンデカン、4,7-ジメチルウンデカン、2,5,5-トリメチルデカン、5,7-ジメチルウンデカン、2,8-ジメチルウンデカン、4,8-ジメチルウンデカン、2,3-ジメチルウンデカン、2,2,9-トリメチルデカン、5-メチル-5-プロピルノナン、2,5,6-トリメチルデカン、[R,(-)] -3-メチルドデカン、3,3,5-トリメチルデカン、3,3-ジエチル-4,5,5-トリメチルオクタン、4,4-ジプロピルヘプタン、2,2,3,3-テトラメチルノナン、2,4-ジメチル-3,3-ジイソプロピルペンタン
炭素数14:2-メチルトリデカン、7-メチルトリデカン、3,8-ジエチルデカン、(6R,7S)-6,7-ジメチルドデカン、3,3,4,4-テトラエチルヘキサン、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタメチルヘキサン、5-ブチルデカン、2,5-ジメチル-3,4-ジイソプロピルヘキサン、2,2,3,3,5,6,6-ヘプタメチルヘプタン、3-tert-ブチル-2,2,5,5-テトラメチルヘキサン
炭素数15:4-メチルテトラデカン、2,7,10-トリメチルドデカン、7-メチルテトラデカン、6-プロピルドデカン、ファルネサン、[R,(-)]-3-メチルテトラデカン、2,6-ジメチル-3,5-ジイソプロピルヘプタン、5-ブチルウンデカン、5-ペンチルデカン
炭素数16:(R)-5-エチル-5-プロピルウンデカン、2,2,4,4,5,5,7,7-オクタメチルオクタン、3,5,9-トリメチルトリデカン、7-プロピルトリデカン、5,8-ジエチルドデカン、4-メチルペンタデカン、3,3,6,6-テトラエチルオクタン、2,4,6-トリメチルトリデカン、3-メチルペンタデカン、6-ペンチルウンデカン、4,6-ジエチルドデカン、2,2,4,4,6,6,7-ヘプタメチルノナン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン
炭素数17:4,6,8,10-テトラメチルトリデカン、5,9-ジメチルペンタデカン、2,5-ジメチルペンタデカン、(S)-3-メチルヘキサデカン、5,5-ジブチルノナン、4,4-ジプロピルウンデカン、6-ペンチルドデカン、2,6,10-トリメチルテトラデカン、2,2,4,4-テトラメチル-3,3-ジ-tert-ブチルペンタン、2-メチルヘキサデカン
炭素数18:2-メチルヘプタデカン、3-メチルヘプタデカン、2,3,4,5,6,7,8,9-オクタメチルデカン、7,9-ジメチルヘキサデカン、4,9-ジプロピルドデカン、2,2,5,5-テトラメチル-3,4-ジ-tert-ブチルヘキサン、4-メチルヘプタデカン、8-メチルヘプタデカン、2,2,4,9,11,11-ヘキサメチルドデカン、7-メチルヘプタデカン、4,5,6,7-テトラエチルデカン、7-ブチルテトラデカン
炭素数19:プリスタン、2,6-ジメチルヘプタデカン、3-メチルオクタデカン、3,3-ジメチルヘプタデカン、(7R,11S)-7,11-ジメチルヘプタデカン、5,9-ジメチルヘプタデカン、5-メチルオクタデカン、2,6,10,13-テトラメチルペンタデカン、7-ヘキシルトリデカン、5,5,7,7-テトラエチルウンデカン、2-メチルオクタデカン
炭素数20:フィタン、2-メチルノナデカン、3-メチルノナデカン、8-tert-ブチルヘキサデカン、4-メチルノナデカン、7,11-ジメチルオクタデカン、2,6-ジメチルオクタデカン、9-メチルノナデカン、4-プロピルヘプタデカン、3-メチル-3-エチルヘプタデカン、2,6,11,15-テトラメチルヘキサデカン、5-ブチルヘキサデカン
炭素数25:9-オクチルヘプタデカン、10-ヘキシルノナデカン、2,6,10,15,19-ペンタメチルイコサン、2,6,10,14,19-ペンタメチルイコサン、7,7-ジヘキシルトリデカン、9-(2-エチルヘキシル)ヘプタデカン、ハシアン、2-メチルテトラコサン、2,2,8,8-テトラメチル-5,5―ビス(3,3-ジメチルブチル)ノナン、2,6,10,14,18-ペンタメチルイコサン
炭素数30:スクワラン、2,10-ジメチルオクタコサン、7-メチルノナコサン、11-ノニルヘニコサン、(R)-3-メチルノナコサン、8,12-ジメチルオクタコサン、3-メチルノナコサン、9-オクチルドコサン、7,12-ジヘキシルオクタデカン、リザン、2,6-ジメチルオクタコサン
【0027】
前記炭素数6以上の環状の前記アルカンとしては、例えば、シクロヘキサン(C6)、シクロヘプタン(C7)、シクロオクタン(C8)、シクロノナン(C9)、シクロデカン(C10)、1,1,3,3-テトラメチルシクロヘキサン(C10)、1-メチル-2,4-ジエチルシクロペンタン(C10)、1,5-ジメチルシクロオクタン(C10)、シクロウンデガン(C11)、シクロドデカン(C12)、1-エチル-2-ペンチルシクロペンタン(C12)、1-メチルシクロウンデカン(C12)、ブチルシクロオクタン(C12)、シクロトリデカン(C13)、シクロテトラデカン(C14)、1,1,3,5-テトラメチルシクロヘキサン(C14)、1,2,4,5-テトラエチルシクロヘキサン(C14)、3-シクロヘキシル-4-メチルヘプタン(C14)、1,1,2-トリメチルシクロウンデカン(C14)、イソプロピルシクロウンデカン(C14)、シクロペンタデカン(C15)、シクロヘキサデカン(C16)、(1-プロピルヘプチル)シクロヘキサン(C16)、1-ブチルシクロドデカン(C16)、メチルシクロペンタデカン(C16)、シクロヘプタデカン(C17)、シクロオクタデカン(C18)、(1-ペンチルヘプチル)シクロヘキサン(C18)、ドデカメチルシクロヘキサン(C18)、シクロノナデカン(C19)、セムブラン(C20)、シクロイコサン(C20)、テトラデシルシクロヘキサン(C20)、シクロペンタコサン(C25)、(1-ノニルデシル)シクロヘキサン(C25)、9-(3-シクロペンチルプロピル)ヘプタデカン(C25)、シクロトリアコンタン(C30)、イコサメチルシクロデカン(C30)、ペンタコシルシクロペンタン(C30)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
培地中の前記アルカンの含有量は、培地の総質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましい。前記アルカンの含有量が上記下限値以上であることにより、高温条件下におけるロドコッカス属細菌の生存率を高めることができる。
培地中の前記アルカンの含有量の上限値は特に限定されず、ロドコッカス属細菌が生存できる含有量とすることができる。前記アルカンの含有量の上限は、培地の総質量に対して、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることが更に好ましい。
含有量の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0029】
《油脂》
培地に添加する疎水性液体が油脂である場合、前記油脂としては、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り、特に限定されない。
【0030】
本明細書において、「油脂」とは、脂肪酸とグリセリンとのエステルを意味する。前記エステルは、トリグリセリドであることが好ましい。
前記脂肪酸としては、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
前記脂肪酸の炭素数の下限は、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り特に制限されないが、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、12以上であることがより好ましい。
前記脂肪酸の炭素数の上限は、ロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される限り特に制限されないが、35以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましい。
【0031】
前記脂肪酸としては、例えば、酪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等が挙げられる。
【0032】
油脂は、例えば、食用油であってもよい。
前記食用油は、例えば、植物油又は動物油のいずれであってもよく、植物油であることが好ましい。
植物油としては、例えば、オリーブ油、こめ油、ごま油、コーン油、サラダ油、紅花油、綿実油、菜種油、白絞油、パーム油、ひまわり油、えごま油、アマニ油等が挙げられる。
動物油としては、例えば、魚油、豚脂、牛脂、鶏油、羊油、乳脂等が挙げられる。
【0033】
油脂は、上述の油脂に、水素添加を行うことにより得られる油脂であってもよい。
【0034】
油脂は、工程(i)の培養温度において、液体であることが好ましい。
【0035】
<培地>
培地としては、液体培地が好ましい。培地は、炭素源、窒素源、及び無機塩類等の細菌の生存に必要な成分を含む公知の培地を用いることができる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストラン、スターチ、牛肉エキス、ピルビン酸、酢酸等が挙げられる。窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン、カザミノ酸、尿素、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、モリブデンナトリウムなどのナトリウム塩;リン酸カリウム、塩化カリウムなどのカリウム塩;塩化カルシウム、リン酸カルシウムなどのカルシウム塩;塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩;塩化鉄などの遷移金属塩;等が挙げられる。
培地の具体例としては、例えば、IB2液体培地、IB液体培地(特許第4877900号公報参照)、YG液体培地、LB液体培地、マリンブロス、ニュートリエントブロス、トリプトソイブロス等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、培養用培地としては、IB2液体培地及びIB液体培地を好適に用いることができる。
【0036】
工程(i)において用いられる培地のpHとしては、pH6.0~8.0が挙げられ、pH7~7.5が好ましい。
【0037】
工程(i)の培養温度は、20℃以上が好ましく、23℃以上がより好ましく、26℃以上が更に好ましい。また、培養温度は、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましい。前記培養温度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0038】
工程(i)の培養時間は、30分以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、1日以上が更に好ましく、2日以上が特に好ましい。培養時間が上記下限値以上であることにより、高温条件下におけるロドコッカス属細菌の生存率を高めることができる。
培養時間は、培地中に増殖な必要な栄養分が枯渇する観点から、5日以下が好ましく、3日以下がより好ましい。
前記培養時間の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0039】
(工程(ii))
工程(i)の後、工程(ii)では、疎水性液体を含む培地で、80℃以上の温度条件下で、ロドコッカス属細菌を培養する。
【0040】
工程(ii)において用いる培地は、工程(i)において用いた培地と同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。工程(ii)において用いる培地としては、工程(i)において例示した培地と同様のものを挙げることができる。
【0041】
工程(ii)において培地に添加する疎水性液体は、工程(i)において用いた培地に添加する疎水性液体と同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。工程(ii)において添加する疎水性液体としては、工程(i)において例示した疎水性液体と同様のものを挙げることができる。
【0042】
工程(ii)の培養温度は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、95℃以上であることが更に好ましく、100℃以上であってもよい。培養温度が上記下限値以上であることにより、高温耐性が付与されたロドコッカス属細菌を選択することができる。
工程(ii)の培養温度は、ロドコッカス属細菌を死滅させない観点から、120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが更に好ましい。
【0043】
工程(ii)の培養時間は、特に限定されない。
工程(ii)において、ロドコッカス属細菌を用いて、高温発酵を行ってもよい。より具体的には、ロドコッカス属細菌により、例えば、石油系炭化水素、ポリ塩化ビフェニール類等の難分解性化合物を分解させてもよいし、アクリルアミド、有用酵素群、細胞外多糖等の機能性バイオポリマーを産生させてもよい。
【0044】
大部分の微生物は、高温耐性を有しないため、80℃以上の温度条件において生存することができずに死滅する。そのため、工程(i)において意図しない微生物が培養液に混入した場合でも、工程(ii)において混入微生物を死滅させることができ、混入微生物により意図しない反応が進行するリスクを低減することができる。
【0045】
本発明の培養方法によりロドコッカス属細菌に高温耐性が付与される理由は明らかではないが、ロドコッカス属細菌は疎水性液体に接触するとストレス応答遺伝子を発現するため、これにより高温耐性が付与される可能性がある。
【0046】
本実施形態に係る培養方法によれば、ロドコッカス属細菌を80℃以上の高温条件下で培養することができる。そのため、ロドコッカス属細菌を高温発酵系に利用することができる。また、ロドコッカス属細菌に任意の有用物質合成遺伝子等を導入すれば、当該ロドコッカス属細菌を用いて、高温発酵系で任意の有用物質を生産することも可能となる。
【0047】
また、工程(ii)において、ロドコッカス属細菌を用いて、食用油等の廃油を高温で分解処理してもよい。
廃食用油の分解処理工程では、まず、グリーストラップ等を用いて廃食用油を回収し、得られた廃食用油が分解処理される。このとき、グリーストラップでは、廃食用油の流動性を高めるために、高温で保持することが好ましいとされている。
本実施形態に係る培養方法によれば、ロドコッカス属細菌を用いて、回収した廃食用油を高温で分解処理することが可能となる。
【0048】
[製造方法]
一実施形態において、本発明は、疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)を含む、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法を提供する。
【0049】
疎水性液体を含む培地でロドコッカス属細菌を培養する工程(i)は、上述の[培養方法]において説明した工程(i)と同一のものである。
【0050】
本実施形態に係る製造方法によれば、高温耐性を有するロドコッカス属細菌を得ることができる。当該ロドコッカス属細菌は、高温発酵系、高温下での廃油処理等で利用することができる。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[材料及び方法]
(培地:IB2培地)
800mlの蒸留水に、8gのglucose(SIGMA-ALDRICH)、8gのYE(Becton,Dickinson and company)、0.16gのMgCl・7HO(富士フィルム和光純薬)、0.08gのCaCl・2HO(富士フィルム和光純薬)、0.08gのNaCl(富士フィルム和光純薬)、0.016gのFeCl・6HO(富士フィルム和光純薬)、0.4gの(NHSO(富士フィルム和光純薬)を加え、pH7.2に調整し、オートクレーブで滅菌し、IB2液体培地を作製した。
IB2寒天培地の場合は、上述した液体培地に終濃度1.5%(12g)になるように寒天末(国産化学)を加え、121℃で15分間オートクレーブした。その後、滅菌済みのプラスチックシャーレに分注してIB2寒天培地を作製した。
【0053】
(アルカン)
以下の実験例において使用したアルカンは次の通りである。
n-ヘプタン(以下、「C7」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-オクタン(以下、「C8」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-ノナン(以下、「C9」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-デカン(以下、「C10」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-ウンデカン(以下、「C11」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-ドデカン(以下、「C12」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-トリデカン(以下、「C13」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-テトラデカン(以下、「C14」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-ペンタデカン(以下、「C15」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-ヘキサデカン(以下、「C16」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
n-トリアコンタン(以下、「C30」ともいう。)(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0054】
(前培養)
各株をIB2液体培地に播種し、28℃で2~3日間培養して、前培養液を得た。前培養液の生菌数は、およそ、1×10cfu/mLであった。
【0055】
(IB2液体培地による本培養)
予め滅菌したφ24の試験管に10mLのIB2液体培地を入れ、0.1mLの全培養液を添加した。その後、28℃、110rpmの条件で、2~3日間、振盪培養を行った。
【0056】
(アルカン又は食用油を含有するIB2液体培地による本培養)
予め滅菌したφ24の試験管に10mLのIB2液体培地、及び、500μLのアルカン又は食用油を入れ、0.1mLの前培養液を添加した。その後、28℃、110rpmの条件で、2~3日間、振盪培養を行った。
【0057】
(加熱培養:熱処理)
本培養後の試験管を、100℃の温浴に入れて10分間静置することにより熱処理を行った。この操作中、試験管の本培養液の温度は95℃以上に保たれていることを確認した。
【0058】
(生死細胞の判別:画線培養)
熱処理前及び熱処理後の本培養液をIB2寒天培地に画線し、28℃で2日間、培養した。
【0059】
(生死細胞の判別:LIVE/DEAD染色)
熱処理後の本培養液中の細菌を、LIVE/DEAD BacLightTM Bacterial Viability Kit(Thermo Fisher Scientific)用いて染色し、システム顕微鏡BX53(OLYMPUS)を用いて蛍光観察することにより、細菌の生死を判別した。
【0060】
(生菌数の評価)
熱処理前及び熱処理後の本培養液をIB2寒天培地に播種し、28℃で2日間、培養し、生菌数を算出した。
【0061】
[実験例1]
C13を含有する培地でRhodococcus erythropolis NBRC100887株を培養し、熱処理後のコロニー形成能を検証した。
【0062】
IB2液体培地又はアルカン含有IB2液体培地を用いて、NBRC100887株の本培養を行った。本培養後の培養液に対して熱処理を行った後、画線培養を行った。
【0063】
結果を図1に示す。アルカンを含有しない培地で培養されたNBRC100887株は熱処理後にIB2寒天培地上で増殖できなかった。一方、アルカンを含有する培地で培養されたNBRC100887株は熱処理後であってもIB2寒天培地上で増殖することができ、高温耐性を獲得したことが明らかになった。
【0064】
[実験例2]
C16を含有する培地でRhodococcus erythropolis NBRC100887株を培養し、熱処理後の細菌をLIVE/DEAD染色し、生存していることを確認した。
【0065】
まず、NBRC100887株の前培養液を用意し、C16を含有するIB2液体培地により本培養を行った。得られた本培養液を熱処理した後、LIVE/DEAD染色により細菌の生死を判別した。
【0066】
結果を図2に示す。図2(A)は細菌を含む油滴の位相差顕微鏡像であり、図2(B)は蛍光顕微鏡観察像である。油滴の中に含まれる細菌集団の一部が生存していることが確認された。
【0067】
[実験例3]
IB2液体培地、C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地でRhodococcus erythropolis NBRC100887株を培養し、熱処理後の生菌数を算出した。
【0068】
まず、NBRC100887株の前培養液を用意し、続いて、IB2液体培地、C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地を用いて本培養を行った。得られた本培養液を熱処理した後、生菌数を算出した。
【0069】
結果を図3に示す。IB2液体培地で培養したNBRC100887株は、熱処理後の生存が確認できず、高温耐性を有しないことが確認された。これに対し、C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地で培養したNBRC100887株は、熱処理後の生存が確認されたことから、高温耐性を有することが明らかになった。
【0070】
[実験例4]
C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地を用いてRhodococcus erythropolis NBRC100887株を本培養した後、熱処理を行った。熱処理の時間を、5分間、10分間、20分間に設定し、熱処理後の生菌数を算出した。
【0071】
結果を図4に示す。C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地で培養したNBRC100887株は、熱処理時間が5分、10分、20分のいずれの場合であっても、生存していることが明らかになった。
【0072】
[実験例5]
IB2液体培地、C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地でRhodococcus erythropolis NBRC100887株を本培養し、熱処理の温度を30℃、60℃、100℃に設定し、NBRC100887株の熱処理後の生菌数を算出した。
【0073】
結果を図5に示す。IB2液体培地で本培養したNBRC100887株は、30℃の熱処理、60℃の熱処理後には生存が確認されたが、100℃の熱処理後には生存が確認されなかった。C13含有IB2液体培地、C16含有IB2液体培地で本培養したNBRC100887株は、30℃の熱処理後、60℃の熱処理後及び100℃の熱処理後のいずれの場合にも生存が確認された。
【0074】
[実験例6]
Rhodococcus erythropolis NBRC100887株を、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15又はC30のアルカンを含む培地で本培養した後、熱処理を行い、画線培養により、生菌細胞を確認した。
【0075】
その結果、上記のアルカンのいずれを含む培地で本培養した場合でも、NBRC100887株は、LIVE/DEAD染色及び画線培養のいずれでも熱処理後に生存が確認された。この結果から、用いるアルカンの炭素数によらず、NBRC100887株に高温耐性が付与されることが明らかになった。
【0076】
[実験例7]
Rhodococcus erythropolis ATCC47072株、Rhodococcus globerulus ATCC15076株、Rhodococcus opacus ATCC17039株、Rhodococcus rhodochrous ATCC12674株、Rhodococcus sp.S1株、及び、Rhodococcus sp.R2株を、C13又はC16のアルカンを含む培地で本培養した後、熱処理を行い、画線培養により、生菌細胞を確認した。結果を表1に示す。
【0077】
判定基準:
-:菌の生育が確認できなかった。
+:菌の生育が確認できた。
++:菌の生育が良好であった。
【0078】
【表1】
【0079】
上記のアルカンのいずれを含む培地で本培養した場合でも、上記の全ての株は、熱処理後に生存が確認された。
この結果は、Rhodococcus erythropolis以外のロドコッカス属の種についても、アルカンを含む培地で培養することにより、高温耐性が付与されることを示している。
【0080】
[実験例8]
Rhodococcus erythropolis NBRC100887株を、食用油を含む培地で本培養した後、熱処理を行い、画線培養により、生菌細胞を確認した。食用油としては、オリーブ油、コメ油、ゴマ油、コーン油、サラダ油、紅花油、又は綿実油を用いた。結果を表2に示す。
【0081】
判定基準:
-:菌の生育が確認できなかった。
+:菌の生育が確認できた。
++:菌の生育が良好であった。
【0082】
【表2】
【0083】
上記の食用油のいずれを含む培地で本培養した場合でも、熱処理後に生存が確認された。
この結果は、用いる食用油の種類によらず、NBRC100887株に高温耐性が付与されることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、ロドコッカス属細菌に高温耐性を付与することができる、ロドコッカス属細菌の培養方法、及び、高温耐性を有するロドコッカス属細菌の製造方法が提供される。本発明の培養方法は、ロドコッカス属細菌による、高温環境下でのホワイトバイオテクノロジー及びバイオレメディエーションに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5