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特開2023-27644負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法
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  • 特開-負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027644
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230222BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132891
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 佳佳
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】岳 喜岩
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA17
5H050CB05
5H050GA02
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アルカリイオン電池用負極活物質であって、金属硫化物を含有し、当該金属硫化物は、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する。本発明の負極活物質の製造方法は、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する金属源と、有機配位子を含む原料とを混合して、金属有機構造体を得る工程1と、前記工程1で得られた金属有機構造体及び硫黄源を含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程2とを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリイオン電池用負極活物質であって、
金属硫化物を含有し、
当該金属硫化物は、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する、負極活物質。
【請求項2】
前記金属硫化物は粒子状である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の負極活物質を含む、負極材料。
【請求項4】
請求項3に記載の負極材料を備える、アルカリイオン電池。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の負極活物質の製造方法において、
Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する金属源と、有機配位子を含む原料とを混合して、金属有機構造体を得る工程1と、
前記工程1で得られた金属有機構造体及び硫黄源を含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程2と、
を備える、負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属硫化物は、優れた酸化還元反応特性と、熱安定性及び機械的性能を有するため、高性能ナトリウムイオン電池(SIB)等に代表されるアルカリイオン電池の負極材料を形成するための負極活物質として有望な化合物である。
【0003】
例えば、非特許文献1には、凍結乾燥法及び水熱プロセスによって合成された、スポンジ状カーボンマトリックスに固定されたコバルト硫化物を、ナトリウムイオン電池の負極材料として適用することが提案されている。斯かる負極材料によれば、ナトリウムイオン電池の貯蔵性能を大幅に向上させることができるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Chemical Engineering Journal 332 (2018) 370-376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の電池分野においては、従来よりもサイクル特性をさらに向上させることが強く求められており、これに伴い、優れたサイクル特性をもたらすことが可能な電池材料の開発が要求されている。この観点から、アルカリイオン電池の負極材料に適用したときに優れたサイクル特性をもたらすことができる負極活物質を開発することは、電池分野において極めて重要な位置づけであるといえる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の遷移金属を含む金属硫化物を使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
アルカリイオン電池用負極活物質であって、
金属硫化物を含有し、
当該金属硫化物は、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する、負極活物質。
項2
前記金属硫化物は粒子状である、項1に記載の負極活物質。
項3
項1又は2に記載の負極活物質を含む、負極材料。
項4
項3に記載の負極材料を備える、アルカリイオン電池。
項5
項1又は2に記載の負極活物質の製造方法において、
Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する金属源と、有機配位子を含む原料とを混合して、金属有機構造体を得る工程1と、
前記工程1で得られた金属有機構造体及び硫黄源を含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程2と、
を備える、負極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の負極活物質は、アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は実施例1で得られた負極活物質のSEM画像、(b)は実施例2で得られた負極活物質のSEM画像、(c)は実施例3で得られた負極活物質のSEM画像を示す。
図2】各実施例で得られた負極活物質のX線回折測定(XRD)結果を示す。
図3】各作製例で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.負極活物質
本発明の負極活物質は、アルカリイオン電池に用いられる負極活物質であって、金属硫化物を含有する。当該金属硫化物は、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する。本発明の負極活物質は、アルカリイオン電池(例えば、ナトリウムイオン電池)を構成するための負極材料として使用することができ、アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる。
【0013】
金属硫化物は、少なくとも3種の前記遷移金属を含有する硫化物である。金属硫化物に含まれる遷移金属は、3種のみであってもよい。金属硫化物としては、例えば、複数の遷移金属元素を含む複合硫化物を挙げることができる。この複合硫化物では、硫化物のフレームワーク中に各々の遷移金属が存在することができ、具体的には、各遷移金属が硫黄と結合して存在することができる。複合硫化物は、一つの硫黄原子に異なる2種以上の遷移金属が結合することができる。また、負極活物質の他の実施形態としては、負極活物質は、複数種の金属硫化物を含むことができ、例えば、異なる3種以上の金属硫化物の混合物を含むことができ、あるいは2種の遷移金属で構成される複合硫化物と、1種の遷移金属で構成される硫化物との混合物を含むこともできる。
【0014】
アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらすことができ、かつ、簡便な方法で製造できるという点で、金属硫化物は複合硫化物であることが好ましく、3種又は3種以上の遷移金属で構成される複合硫化物であることがより好ましい。
【0015】
金属硫化物に含まれる遷移金属は、少なくともCo、Ni及びZnを含むことが好ましい。この場合、簡便な方法で負極活物質を製造することができ、また、アルカリイオン電池に特に優れたサイクル特性をもたらすことができる。金属硫化物に含まれる遷移金属は、Co、Ni及びZnの3種のみであってもよく、中でも、Co、Ni及びZnの複合硫化物であることが好ましい。ただし、この場合において、金属硫化物に不可避的に含まれる金属元素を排除するものではない。
【0016】
金属硫化物において、各遷移金属の含有割合は特に限定されず、少なくとも3種の遷移金属元素を有する限りは、あらゆる含有割合であっても目的の負極活物質になり得る。例えば、金属硫化物が前述のように、Co、Ni及びZnを含む場合、例えば、Niの100質量部に対するCoの含有量は10質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましく、100質量部以上であることが特に好ましい。また、Niの100質量部に対するCoの含有量は1000質量部以下であることが好ましく、800質量部以下であることがより好ましく、500質量部以下であることがさらに好ましく、300質量部以下であることがさらに好ましく、200質量部以下であることが特に好ましい。
【0017】
また、金属硫化物が前述のように、Co、Ni及びZnを含む場合、例えば、Niの100質量部に対するZnの含有量は質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以上であることが特に好ましい。また、Niの100質量部に対するZnの含有量は100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、40質量部以下であることが特に好ましい。
【0018】
金属硫化物の形状は特に限定されず、種々の形状を形成することができる。特に、金属硫化物は、粒子状であることが好ましい。この場合、金属硫化物は、多孔質状粒子、中空粒子、不定形粒子、球状粒子等、種々の形状をとることができる。
【0019】
金属硫化物が粒子状である場合、その平均粒子径は特に限定されず、例えば、500nm~100μmとすることができる。この場合、負極活物質は、アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらしやすい。金属硫化物が粒子状である場合、その平均粒子径は、1~50μmであることが好ましく、2~80μmであることがより好ましく、3~60μmであることがさらに好ましく、5~30μmであることが特に好ましい。ここでいう平均粒子径とは、金属硫化物の走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0020】
負極活物質は、前記金属硫化物の他、本発明の効果が阻害されない程度である限り、他の成分を含むことができ、あるいは、負極活物質は前記金属硫化物のみとすることもできる。負極活物質に含まれる前記金属硫化物の含有割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。負極活物質に前記金属硫化物が存在するかどうかは、負極活物質のXRDスペクトルから判断することができる。
【0021】
負極活物質を製造する方法は特に限定されない。例えば、後記する工程1及び工程2を備える製造方法によって、本発明の負極活物質を製造することができる。
【0022】
2.負極活物質の製造方法
本発明の負極活物質の製造方法は、例えば、下記の工程1及び工程2を備えることができる。
工程1:Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する金属源と、有機配位子を含む原料とを混合して、金属有機構造体を得る工程。
工程2:前記工程1で得られた金属有機構造体及び硫黄源を含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程。
【0023】
上記工程1及び工程2を備える製造方法により、負極活物質を製造することができ、例えば、前述の本発明の負極活物質を製造することができる。
【0024】
(工程1)
工程1では、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する金属源と、有機配位子を含む原料とを混合する。
【0025】
金属源は、遷移金属単体であってもよいし、遷移金属の化合物であってもよいし、これらの混合物であってもよく、好ましくは、遷移金属の化合物を少なくとも3種含むことである。
【0026】
遷移金属の化合物の種類は特に限定されず、例えば、各種遷移金属の無機化合物、各種遷移金属の塩化物、各種遷移金属の有機化合物を挙げることができる。遷移金属の無機化合物としては、例えば、遷移金属の酸化物、遷移金属のオキソアニオンを含む化合物(金属酸塩)、遷移金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、クロリド錯体、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、遷移金属の無機化合物は、硝酸塩であることが好ましい。遷移金属の有機化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0027】
金属源は、Coの化合物、Niの化合物、Znの化合物、Moの化合物、Mnの化合物、Cuの化合物、Feの化合物及びVの化合物からなる群より選ばれる少なくとも3種の化合物を含むことが好ましく、中でもCoの硝酸塩、Niの硝酸塩、Znの硝酸塩、Moの硝酸塩、Mnの硝酸塩、Cuの硝酸塩、Feの硝酸塩及びVの硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも3種の硝酸塩を含むことが好ましい。この場合、より簡便な方法で負極活物質を製造することができる。例えば、工程1で使用する金属源は、Coの硝酸塩、Niの硝酸塩及び亜鉛の硝酸塩を含むことが好ましい。工程1で使用する金属源に含まれる遷移金属はCo、Ni及びZnの3種のみであってもよい。
【0028】
金属源は、溶媒に溶解又は分散させることができる。斯かる溶媒は、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒等が挙げられ、その他、N,N-ジメチルホルムアミド、グリセロール、エチレングリコール、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。溶媒は水と有機溶媒との溶媒であってもよい。金属源を溶媒に溶解又は分散させることで遷移金属を含有する金属源は溶液又は分散液である。
【0029】
金属源の溶液又は分散液の濃度は特に限定されず、例えば、遷移金属の全濃度を1~1000g/Lとすることができ、好ましくは5~500g/L、さらに好ましくは10~100g/Lである。
【0030】
金属源において、各遷移金属の含有割合は特に限定されず、少なくとも3種の遷移金属元素を有する限りは、あらゆる含有割合であっても目的の負極活物質が製造され得る。例えば、金属源に含まれる遷移金属がCo、Ni及びZnを含む場合、例えば、Niの100質量部に対するCoの含有量は10質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましく、100質量部以上であることが特に好ましい。また、Niの100質量部に対するCoの含有量は1000質量部以下であることが好ましく、800質量部以下であることがより好ましく、500質量部以下であることがさらに好ましく、300質量部以下であることがさらに好ましく、200質量部以下であることが特に好ましい。また、Niの100質量部に対するZnの含有割合は1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以上であることが特に好ましい。また、Niの100質量部に対するZnの含有量は100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、40質量部以下であることが特に好ましい。
【0031】
工程1で使用する有機配位子を含む原料において、有機配位子の種類は特に限定されず、遷移金属に配位することができる有機配位子を広く挙げることができる。例えば、配位子として機能することが知られている芳香族系カルボン酸化合物、イミダゾール化合物、アミノ化合物等を挙げることができる。
【0032】
具体的に有機配位子としては、p-ベンゼンジカルボン酸(H2BDC)、o-ベンゼンジカルボン酸、m-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4DOBDC)、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(H3BTC)、1,4-ベンゼンジカルボキシレート、2,4,6-トリス(4-カルボキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(H3TATB)、2-アミノテレフタル酸(NH2BDC)、2-メチルイミダゾール(2-MIM)、1-メチルイミダゾール(1-MIM)、1,4-ビス(イミダゾール-1-イル)ベンゼン(1,4-BIB)、4-(イミダゾール-1-イル)フタル酸(H2IPC)、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-オキシビス安息香酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、ビフェニル-3,4’、5-トリカルボン酸(BPTC)、4,4’-ビフェニルジカルボキシレート(BPDC)、2,5-ジオキシドテレフタレート(DOT)等を挙げることができる。有機配位子は1種単独であってもよいし、2種以上を使用することもできる。
【0033】
得られる負極活物質がアルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらしやすい点で、有機配位子はp-ベンゼンジカルボン酸(H2BDC)であることが特に好ましい。
【0034】
有機配位子を含む原料は溶媒を含むことができる。斯かる溶媒は、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒等が挙げられ、その他、N,N-ジメチルホルムアミド、グリセロール、エチレングリコール、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。溶媒は水と有機溶媒との溶媒であってもよい。有機配位子を含む原料が溶媒を含む場合、有機配位子を含む原料は溶液又は分散液である。
【0035】
有機配位子を含む原料が溶媒を含む場合、有機配位子の全濃度は、例えば、0.1~100g/Lとすることができ、好ましくは1~50g/L、さらに好ましくは3~30g/Lである。
【0036】
工程1において、溶媒に溶解又は分散した金属源を使用し、かつ、有機配位子を含む原料が溶媒を含む場合、互いの溶媒は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
工程1で、金属源及び有機配位子を含む原料を混合処理することで、金属源と有機配位子とが反応し、金属有機構造体が生成する。金属有機構造体は、例えば、各種の金属有機構造体(MOF;Metal Organic Frameworks)を例示することができる。
【0038】
前記混合処理の方法は特に限定されず、例えば、公知の混合手段を用いて混合処理を行うことができる。混合処理における温度は、80~400℃、好ましくは100~300℃、より好ましくは120~200℃とすることができ、また、温度に応じて混合時間は適宜選択され、例えば、1~10時間である。
【0039】
工程1の前記混合処理において、遷移金属元素と、有機配位子との使用比率は特に限定されず、例えば、遷移金属元素の全質量に対して、有機配位子の使用量を1~150質量%とすることが好ましく、5~100質量%とすることがより好ましく、10~80質量%とすることがさらに好ましく、20~50質量%とすることが特に好ましい。
【0040】
工程1の前記混合処理により、少なくとも3種の遷移金属元素を有する金属有機構造体(MOF)が、例えば、固形分として得られる。斯かる固形分は適宜の方法で分離及び洗浄することができる。
【0041】
工程1で得られる金属有機構造体は、金属源に含まれる遷移金属元素を構成元素として形成される構造を有する。
【0042】
(工程2)
工程2では、前記工程1で得られた金属有機構造体(MOF)及び硫黄源を含む原料を加熱処理する。この加熱処理により得られる生成物は、前記金属硫化物である。
【0043】
工程2で使用する硫黄源は硫黄単体(硫黄粉末や昇華硫黄)であってもよいし、硫黄を含む化合物であってもよいが、硫黄を含む化合物であることが好ましい。
【0044】
硫黄を含む化合物としては、例えば、公知の硫黄化合物を広く挙げることができ、例えば、チオアセトアミド(CHCSNH)、チオ尿素(SC(NH)、システイン(CNOS)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、硫化アンモニウム((NHS)、硫化ナトリウム(NaS)等を挙げることができる。なお、硫黄を含む化合物としては、硫黄元素の一部が、Se及び/又はTe元素に置き換えられてもよい。硫黄源は1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を併用することもできる。
【0045】
工程2において、前記工程1で得られた金属有機構造体(MOF)及び硫黄源を含む原料を加熱処理する方法は特に限定されない。例えば、固体上の金属有機構造体(MOF)と、硫黄源とを反応器に収容し、所定温度で加熱処理する方法を挙げることができる。この加熱処理は、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下等で行うことができる。加熱処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0046】
工程2において、加熱処理の温度も特に限定されず、例えば、200~2000℃とすることができ、好ましくは250~1000℃、より好ましくは300~800℃である。加熱処理の時間は温度に応じて適宜選択され、例えば、1~10時間である。
【0047】
工程2で使用する原料中の金属有機構造体(MOF)及び硫黄源の割合は特に限定されない。例えば、遷移金属の硫化物が形成されやすく、所望の負極活物質が得られやすいという点で、金属有機構造体(MOF)100質量部あたりの硫黄源の使用量を、50~1000質量部とすることが好ましく、80~800質量部とすることがより好ましく、100~600質量部とすることがさらに好ましい。
【0048】
工程2で得られる生成物は、例えば、少なくとも3種の前記遷移金属元素を含む金属硫化物である。工程2で得られた生成物を適宜の方法で処理することで精製した金属硫化物を得ることもできる。
【0049】
工程2で得られた金属硫化物を本発明の負極活物質として得ることができ、あるいは必要に応じてその他の成分を配合することで、本発明の負極活物質として得ることもできる。
【0050】
上記工程1及び工程2を備える製造方法によれば、簡便な工程によって、容易に本発明の負極活物質を得ることができ、低エネルギーな製造方法となる。また、製造時に使用する原料も安価で、かつ、豊富な資源から入手することができる。
【0051】
3.負極材料
本発明の負極材料は、上記負極活物質を含む限り、他の成分を含むこともでき、例えば、アルカリイオン電池(例えば、ナトリウムイオン電池)の負極材料に使用されている公知の成分を挙げることができる。例えば、本発明の負極材料は、上記負極活物質の他、導電助剤及びバインダーを含むことができる。
【0052】
導電助剤は、例えば、各種電池の電極材料を形成するために使用されている公知の導電助剤を広く挙げることができる。導電助剤としては、例えば、各種の炭素材料が例示され、硬質炭素、軟質炭素、グラフェン、還元型酸化グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、導電性カーボンブラック、炭素繊維等を挙げることができる。炭素繊維としては、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電助剤は、その他、銅、ニッケル等の金属粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等を使用することもできる。
【0053】
バインダー例えば、各種電池の電極材料を形成するために使用されている公知のバインダーを広く挙げることができる。バインダーとしては、例えば、各種樹脂材料を挙げることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0054】
負極材料において、負極活物質の含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、負極活物質が50~95質量%含まれることが好ましく、60~90質量%含まれることがより好ましい。
【0055】
負極材料において、導電助剤の含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、導電助剤が3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0056】
負極材料において、バインダーの含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、バインダー3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0057】
負極材料は、負極活物質、導電助剤及びバインダーのみで構成されていてもよいし、その他の成分が含まれていてもよい。
【0058】
負極材料の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の負極材料の調製方法を広く採用することができる。例えば、負極活物質、導電助剤及びバインダーを所定の割合にて、適宜の方法で混合することで、負極材料を調製することができる。負極材料を調製するにあたっては、負極活物質、導電助剤及びバインダーを分散させるべく、溶媒を使用することもできる。溶媒としては、水の他、各種の有機溶媒、例えば、炭素数1~3の低級アルコール化合物、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等を挙げることができる。負極材料が溶媒を含む場合は、例えば、スラリー状やペースト状となる。
【0059】
4.アルカリイオン電池
本発明のアルカリイオン電池は、前記負極材料を備える限り、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知のアルカリイオン電池と同様の構成とすることができる。アルカリイオン電池の種類は特に制限されず、例えば、ナトリウム二次電池、リチウムイオン電池、カリウム二次電池等を挙げることができる。本発明のアルカリイオン電池は、ナトリウム電池であることが好ましく、ナトリウムイオン二次電池であることがさらに好ましい。
【0060】
アルカリイオン電池は、例えば、正極、負極、電解質及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、その用途に応じて適宜決定することができる。
【0061】
正極は、例えば、金属箔と正極材料で構成された構造を有することができる。金属箔を形成するための金属としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。正極材料は公知の正極材料を広く適用することができ、例えば、正極材料を構成する材料としては、ナトリウム金属、リチウム金属、NaFePO、Na(PO、NaMO(M=Co、Mn、V、Fe)、LiTiS、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.8Mn0.15Al0.05、LiMn、LiFePO等が挙げられる。正極は公知の方法で作製することができ、例えば、金属箔上に正極材料を塗布する方法が挙げられる。
【0062】
負極は、例えば、金属箔に本発明の負極活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。負極は公知の方法で作製することができる。
【0063】
アルカリイオン電池において、電解質の種類も特に限定されず、例えば、公知の電解質を使用することができる。電解質は固体電解質及び液体電解質のいずれでもよい。
【0064】
液体電解質としては、電解質が溶媒に溶解した溶液を挙げることができる。電解質としては電池の種類に応じて各種アルカリ塩を挙げることができ、例えば、NaPF、NaClO、NaCFSO、NaFSI、NaTFSI、LiPF、LiClO、LiBF、LiBOB、LiAsF、LiCFSO、LiTFSI、LiFSI、KPF、KFSI、KTFSI、KBF等が挙げられ、その他、公知のマグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等も挙げられる。溶媒は水、ジグライム、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸プロピル、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が例示される。
【0065】
固体電解質としては、硫化物系や酸化物系等の無機物材料や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料が挙げられる。
【0066】
セパレータとしては、二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等で形成された材料を挙げることができる。セパレータは、多孔質膜、不織布、織布等の形態とすることができる。その他、セパレータとしては、各種の高分子膜、および無機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、例えば、LiLaTiO、LiLaZr12(LLZO)、NaZrSiPO12、Na11SnPS12、NaPSe等が挙げられる。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
金属源として100mgのNi(NO・6HO、200mgのCo(NO・6HO、及び、40mgのZn(NO・6HOからなる混合物を15mLのエチレングリコールに分散し、溶液1を得た。一方、90mgのp-ベンゼンジカルボン酸(H2BDC)を24mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に超音波処理により分散することで溶液2を得た。次に、溶液1と溶液2とを混合し、室温で1時間撹拌して混合液を得た後、この混合液を50mlのテフロン(登録商標)で裏打ちされた密封オートクレーブに移し、150℃で6時間にわたって加熱処理した。この加熱処理により生成した淡いピンク色の生成物を遠心分離によって収集し、得られた固形分をDMFとエタノールとを使用して数回洗浄した後、真空オーブン内にて60℃で12時間乾燥させ、Ni-Co-Znを含む金属有機構造体(MOF)を得た(工程1)。
【0069】
このMOFと、硫黄源としてチオアセトアミド(TAA)とを、質量比1:5(MOF:硫黄源)で含む原料を、アルゴン雰囲気中、350℃で2時間加熱処理した(工程2)。これにより黒色の生成物を得た。得られた黒色生成物(硫化物)を「Co-Ni-Zn-S-1」と命名し、これを負極活物質とした。
【0070】
(実施例2)
金属源として150mgのNi(NO・6HO、150mgのCo(NO・6HO、及び、40mgのZn(NO・6HOからなる混合物に変更したこと以外は実施例1同様の方法で黒色の生成物を得た。得られた黒色生成物(硫化物)を「Co-Ni-Zn-S-2」と命名し、これを負極活物質とした。
【0071】
(実施例3)
金属源として200mgのNi(NO・6HO、100mgのCo(NO・6HO、及び、40mgのZn(NO・6HOからなる混合物に変更したこと以外は実施例1同様の方法で黒色の生成物を得た。得られた黒色生成物(硫化物)を「Co-Ni-Zn-S-3」と命名し、これを負極活物質とした。
【0072】
(作製例1)
負極活物質として実施例1で得られた「Co-Ni-Zn-S-1」と、導電性添加剤としてsuperP(導電性カーボンブラック)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とからなる負極材料を準備した。この負極材料において、Co-Ni-Zn-S1:superP:PVDF=7.5:1.5:1(質量比)とした。この負極材料に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として添加し、12時間攪拌して均一に混合した。得られたスラリーを銅箔にコーティングし、真空中120℃で12時間乾燥させることで、負極を製作した。この負極と、正極(アルミニウム箔付きナトリウム金属)と、液体電解質と、この液体電解質をしみ込ませたセパレータ(Cytiva提供の「Whatman GF/Cガラス繊維ろ紙」)とを用い、公知の方法により、電池を組み立てた。電解質は、1Mトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム溶液とし、斯かる溶液の溶媒は、ジグライムとした。
【0073】
(作製例2)
負極活物質として実施例1で得られた「Co-Ni-Zn-S-1」の代わりに実施例2で得られた「Co-Ni-Zn-S2」に変更したこと以外は作製例1と同様の方法で電池を組み立てた。
【0074】
(作製例3)
負極活物質として実施例1で得られた「Co-Ni-Zn-S-1」の代わりに実施例3で得られた「Co-Ni-Zn-S-3」に変更したこと以外は作製例1と同様の方法で電池を組み立てた。
【0075】
(評価結果)
図1(a)は実施例1で得られた負極活物質(金属硫化物)のSEM画像、(b)は実施例2で得られた負極活物質のSEM画像、(c)は実施例3で得られた負極活物質のSEM画像を示す。これらのSEM画像から、各実施例で得られた負極活物質(Ni-Co-Zn硫化物)はナノロッドで組み立てられた構造を持つ中空、かつ、ミクロスフェア構造を有する粒子であることがわかった。
【0076】
図2は、各実施例で得られた負極活物質(金属硫化物)のX線回折測定(XRD)結果である。X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~100°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。
【0077】
得られたXRDパターンから、Ni-Co-Zn-S1、Ni-Co-Zn-S2及びNi-Co-Zn-S-3の回折ピークはすべてNi(JCPDSカードNO.43-1469)、Co(JCPDSカード番号42-1448)及びZnS(JCPDSカード番号05-0566)と一致していることがわり、他の回折ピークは認められなかった。この結果から、各実施例で得られた生成物(金属硫化物)は、Ni、Co及びZnを含む複合金属硫化物であることがわかった。
【0078】
図3は、各作製例で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果を示す。この測定には、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して測定した。ここで、測定温度は30℃、印加電圧は1.5~3.5V(5Ag-1)とした。
【0079】
図3から、300サイクルの試験後、実施例1(Ni-Co-Zn-S-1)及び実施例2(Ni-Co-Zn-S-2)の負極活物質を含む負極材料を備えた電池は、2Ag-1の高電流密度において450mAhg-1の比容量を提供することが観察された。また、実施例3(Ni-Co-Zn-S-3)の負極活物質を含む負極材料を備えた電池は、2Ag-1の高電流密度において388.5mAhg-1の比容量を提供することが観察された。また、実施例1~3の負極活物質を含む負極材料を備えた電池はいずれも300サイクル後のクーロン効率が90%を上回る水準であった。他方、従来公知の亜鉛のみからなる金属の硫化物、並びに、亜鉛及びコバルトのみからなる金属の硫化物はそれぞれ、300サイクルの試験後の2Ag-1の高電流密度における比容量が173.6及び37.6mAhg-1であった。
【0080】
以上より、実施例1~3で得られた金属硫化物を含む負極活物質は、優れたサイクル特性をアルカリイオン電池にもたらすことが明らかとなった。また、遷移金属がCo、Ni、Zn、Mo、Mn、Cu、Fe及びVからなる群より選ばれる少なくとも3種の遷移金属を含有する金属硫化物を含む限り、負極活物質は優れたサイクル特性をアルカリイオン電池にもたらすことができるものと推察される。
図1
図2
図3