(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027657
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】床スラブの耐火設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230222BHJP
E04B 5/32 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
E04B1/94
E04B5/32 ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132912
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新谷 祐介
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊彦
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA11
2E001GA12
2E001HA06
(57)【要約】
【課題】耐火実験により耐火性能を有することが確認された実験コンクリート床スラブの実験結果を反映させて床スラブを設計する床スラブの耐火設計方法を提供する。
【解決手段】床スラブの耐火設計方法は、設計床スラブ62を縮小化した実験床スラブ32の4辺を実験梁34で支持し、実験床スラブ32に規定荷重を載荷して加熱し、耐火性能を維持できる実験床スラブ32の実験たわみ量を測定する工程と、設計床スラブ62を支持する設計梁64のスパンと実験床スラブ32を支持する実験梁34のスパンの比であるスパン比を算出する工程と、スパン比から実験たわみ量により、設計床スラブ62のたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定する工程と、設計床スラブ62の予め設定された火災時の設計たわみ量を推定する工程と、を備え、設計たわみ量が規定した規定たわみ量以下になるように床スラブを設計する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲が耐火構造の梁で支持される鉄筋コンクリート造の床スラブの耐火設計方法であり、
設計する設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブの4辺を実験梁で支持し、前記実験コンクリート床スラブに規定荷重を載荷して加熱し、耐火性能を維持できる前記実験コンクリート床スラブの実験たわみ量を測定する工程と、
前記設計コンクリート床スラブを支持する設計梁のスパンと前記実験コンクリート床スラブを支持する実験梁のスパンの比であるスパン比を算出する工程と、
前記スパン比から前記実験たわみ量により、前記設計コンクリート床スラブのたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定する工程と、
前記設計コンクリート床スラブの予め設定された火災時の設計たわみ量を推定する工程と、を備え、
前記設計たわみ量が規定した前記規定たわみ量以下になるように床スラブを設計する、床スラブの耐火設計方法。
【請求項2】
前記スパン比は、前記設計梁の短辺スパンと前記実験梁の短辺スパンとの比である、請求項1に記載の床スラブの耐火設計方法。
【請求項3】
前記設計たわみ量が前記規定たわみ量を超える場合は、前記設計コンクリート床スラブの配筋を増加し、前記梁に連結される複数の小梁のうち無耐火被覆とする小梁を減らし、又は前記設計コンクリート床スラブの厚さを厚くする、請求項1又は請求項2に記載の床スラブの耐火設計方法。
【請求項4】
前記設計コンクリート床スラブの下側に防火区画壁が配置されているときは、前記防火区画壁の上側の前記設計コンクリート床スラブの設計たわみ量を予測し、
前記設計たわみ量が前記防火区画壁の許容鉛直変位を超える場合は、前記防火区画壁に近い位置に配置された小梁を耐火構造とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の床スラブの耐火設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床スラブの耐火設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、引張力伝達部材を含むスラブにおいて多角形状に区画された床部と、床部の周囲を下方から支持する耐火被覆梁と、床部の少なくとも1つの隅部に結合された耐火被覆が施された延長梁と、を備えた耐火構造物の設計方法が開示されている。この耐火構造物の設計方法では、耐火構造物が所定の条件で加熱された場合の床部のたわみの最大値を算出し、たわみの最大値が閾値未満であるか否かを判定している。閾値は、第1スパンの長さをL、床部の平面に沿うと共に第1スパンに交差する第2スパンの長さをlとしたときに、(L+l)/30の式で定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、床スラブの耐火設計においては、火災時に床スラブが大きく変形し、スラブ内の鉄筋が全引張状態となることで、曲げ耐力以上の耐力を発揮する、所謂メンブレン効果を考慮することで、床スラブを設計する場合がある。メンブレン効果を考慮した場合には、床スラブの変形が大きくなるほど、鉄筋内の引張力が鉛直荷重を効果的に支持することができるため、変形が大きくなるほど火災時の耐力が増加する。
【0005】
一方で、床スラブには、火災時の荷重支持能力(すなわち、非損傷性)だけでなく、遮熱性(すなわち、裏面温度が許容温度以下となること)と遮炎性(すなわち、非加熱側に炎が噴出するひび割れがないこと)が要求される。非損傷性については、上記メンブレン効果により、変形が大きくなるほど火災時の耐力が増加するため、変形が大きくなる方が有利となる。しかし、遮熱性と遮炎性については、床スラブの変形が大きくなることでコンクリートに大きなひび割れが発生し、この部分が弱点となることで遮熱性と遮炎性が喪失する可能性がある。
【0006】
コンクリートのひび割れは、解析的に予測することは困難であり、遮熱性と遮炎性を確保するためには、耐火実験により性能確認を行う必要がある。その際、実大スケールで耐火実験を行うことは困難であることが多いため、縮小した試験体を用いて実験を行うことになる。
【0007】
上記特許文献1に記載の耐火構造物の設計方法では、設計された床スラブが、スパンに依らずに耐火性能を有するかどうかは定かではなく、設計する床スラブの耐火性能は、実スケールで逐次耐火実験により性能確認を行う必要があるという課題がある。すなわち、特許文献1に記載の耐火構造物の設計方法では、縮小実験体を用いて性能確認をした実験結果を反映させるものではない(縮小試験体での実験結果を、実際のスケールの床スラブにどのように適用できるかは明らかでない)。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、耐火実験により耐火性能を有することが確認された実験コンクリート床スラブの実験結果を反映させて床スラブを設計する床スラブの耐火設計方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様に記載の床スラブの耐火設計方法は、周囲が耐火構造の梁で支持される鉄筋コンクリート造の床スラブの耐火設計方法であり、設計する設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブの周囲を実験梁で支持し、前記実験コンクリート床スラブに規定荷重を載荷して下面を加熱し、耐火性能を維持できる前記実験コンクリート床スラブの実験たわみ量を測定する工程と、前記設計コンクリート床スラブを支持する設計梁のスパンと前記実験コンクリート床スラブを支持する実験梁のスパンの比であるスパン比を算出する工程と、前記スパン比から前記実験たわみ量により、前記設計コンクリート床スラブのたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定する工程と、前記設計コンクリート床スラブの予め設定された火災時の設計たわみ量を推定する工程と、を備え、前記設計たわみ量が規定した前記規定たわみ量以下になるように床スラブを設計する。
【0010】
第1態様に記載の床スラブの耐火設計方法によれば、床スラブの火災時には、鉄筋コンクリート造の床スラブに作用する載荷荷重や自重、下部からの加熱等により、床スラブの中央部が下方に向かって凸となるようにたわむ。ここで、床スラブの周囲が耐火構造の梁で支持されている場合、メンブレン効果により、床スラブの中央部が撓むことにより伸びた鉄筋がそれぞれ交差する方向に引張力を伝達する。このため、火災時の荷重支持能力が向上する。
【0011】
一方、床スラブのたわみが大きくなると、荷重支持能力は向上するが、床スラブにひび割れが発生し、遮熱性及び遮炎性を喪失する。
【0012】
このため、遮熱性と遮炎性が喪失する大きさのひび割れが生じない実験たわみ量を実験コンクリートスラブ床で測定する。
【0013】
そして、設計コンクリート床スラブを支持する設計梁のスパンと実験コンクリート床スラブを支持する実験梁のスパンの比であるスパン比を算出する。このスパン比から実験たわみ量により、設計コンクリート床スラブのたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定する。さらに、設計コンクリート床スラブの予め設定された火災時の設計たわみ量を推定する。次に、設計たわみ量が規定した規定たわみ量以下になるように床スラブを設計して、耐火性能を満たすようにする。このため、耐火実験により耐火性能を有することが確認された実験コンクリート床スラブの実験結果を反映させて床スラブを設計することができる。
【0014】
第2態様に記載の床スラブの耐火設計方法は、第1態様に記載の床スラブの耐火設計方法において、前記スパン比は、前記設計梁の短辺スパンと前記実験梁の短辺スパンとの比である。
【0015】
設計する設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブでは、設計梁の短辺スパンと実験梁の短辺スパンとの比と、設計梁の長辺スパンと実験梁の長辺スパンとの比と、が異なる場合があり、設計梁の短辺スパンと実験梁の短辺スパンとの比の方が厳しい場合が多い。第2態様に記載の床スラブの耐火設計方法によれば、設計梁の短辺スパンと実験梁の短辺スパンとの比を用いることで、より厳しいスパン比から実験たわみ量により、設計コンクリート床スラブのたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定することが可能となる。
【0016】
第3態様に記載の床スラブの耐火設計方法は、第1態様又は第2態様に記載の床スラブの耐火設計方法において、前記設計たわみ量が前記規定たわみ量を超える場合は、前記設計コンクリート床スラブの配筋を増加し、前記梁に連結される複数の小梁のうち無耐火被覆とする小梁を減らし、又は前記設計コンクリート床スラブの厚さを厚くする。
【0017】
第3態様に記載の床スラブの耐火設計方法によれば、設計たわみ量が規定たわみ量を超える場合は、設計コンクリート床スラブの配筋を増加し、梁に連結される複数の小梁のうち無耐火被覆とする小梁を減らし、又は設計コンクリート床スラブの厚さを厚くする。これにより、設計たわみ量が規定した規定たわみ量以下になるように床スラブを設計することができる。
【0018】
第4態様に記載の床スラブの耐火設計方法は、第1態様から第3態様までのいずれか1つの態様に記載の床スラブの耐火設計方法において、前記設計コンクリート床スラブの下側に防火区画壁が配置されているときは、前記防火区画壁の上側の前記設計コンクリート床スラブの設計たわみ量を予測し、前記設計たわみ量が前記防火区画壁の許容鉛直変位を超える場合は、前記防火区画壁に近い位置に配置された小梁を耐火被覆する。
【0019】
第4態様に記載の床スラブの耐火設計方法によれば、設計コンクリート床スラブの下側に防火区画壁が配置されているときは、防火区画壁の上側の設計コンクリート床スラブの設計たわみ量を予測する。そして、設計たわみ量が防火区画壁の許容鉛直変位を超える場合は、防火区画壁に近い位置に配置された小梁を耐火被覆する。これにより、防火区画壁に近い位置に配置された小梁のたわみが抑制され、床スラブの変形により防火区画壁が破壊することを防止又は抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る床スラブの耐火設計方法によれば、耐火実験により耐火性能を有することが確認された実験コンクリート床スラブの実験結果を反映させて床スラブを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(A)は、第1実施形態に係る床スラブの耐火設計方法を用いて構築される床スラブを備えた建物の一例を示す平面図であり、(B)は、床スラブを備えた建物の一例を示す立面図である。
【
図2】第1実施形態に係る床スラブの耐火設計方法において、設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブを備えた試験体の一例であり、実験コンクリート床スラブに鉄筋を配筋した状態を示す平面図である。
【
図3】第1実施形態に係る床スラブの耐火設計方法において、設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブを備えた試験体の一例を示す立面図である。
【
図4】試験体の実験結果を用いて設計コンクリート床スラブの最大たわみに対応する規定たわみ量を規定する説明図である。
【
図5】第1実施形態に係る床スラブの耐火設計方法において、熱応力解析に使用する設計コンクリート床スラブを備えた設計モデルの一例を示す模式的な斜視図である。
【
図6】第1実施形態に係る床スラブの耐火設計方法において、熱応力解析における設計コンクリート床スラブの火災時の設計たわみ量と時間との関係を示すグラフである。
【
図7】熱応力解析における設計コンクリート床スラブの火災時の最大たわみ、裏面温度等と設計クライテリアとの関係を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る床スラブの耐火設計方法を用いて構築される建物であり、上階の設計コンクリート床スラブと下階の設計コンクリート床スラブとの間に防火区画壁を設けた建物を示す立面図である。
【
図9】第2実施形態に係る床スラブの耐火設計方法において、防火区画壁の位置での設計コンクリート床スラブの火災時の設計たわみ量と時間との関係を示す図である。
【
図10】(A)は、床スラブを備えた建物の他の例を示す平面図であり、(B)は、床スラブを備えた建物の他の例を示す立面図である。
【
図11】(A)は、比較例の床スラブを備えた建物を示す平面図であり、(B)は、床スラブを備えた建物の火災時の床スラブのたわみ変形の状態を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。なお、各図面において適宜示される矢印UPで示す方向を鉛直方向の上方側とする。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1~
図7等を用いて、第1実施形態に係る床スラブの耐火設計方法について説明する。
【0024】
<床スラブを備えた建物の構成>
まず、本実施形態に係る床スラブの耐火設計方法について説明する前に、床スラブを備えた建物について説明する。
図1(A)、(B)は、床スラブを備えた建物の一例(標準的な例)を示す平面図及び立面図である。
図1(A)、(B)に示されるように、建物10は、枠状に配置された4本の耐火被覆梁12と、対向する2本の耐火被覆梁12の間に長手方向と略直交する方向に複数掛け渡された無耐火被覆小梁16と、を備えている。さらに、建物10は、耐火被覆梁12と無耐火被覆小梁16によって支持された床スラブ18を備えている。
【0025】
図1(A)、(B)に示す建物10の例では、無耐火被覆小梁16は4本であるが、無耐火被覆小梁16の本数は変更可能である。なお、
図1では、耐火被覆梁12と無耐火被覆小梁16とを区別するため、耐火被覆梁12にトッドを付している(
図1(A)参照)。
【0026】
一例として、耐火被覆梁12は、表面に耐火被覆が施されたH型鋼である。耐火被覆梁12は、耐火構造の梁の一例である。H型鋼の表面の耐火被覆としては、例えば、ロックウールなどの断熱材が用いられている。また、無耐火被覆小梁16は、表面に耐火被覆が施されていないH型鋼であり、耐火被覆梁12よりも細い。
【0027】
床スラブ18は、耐火被覆梁12と無耐火被覆小梁16の上部側に配置されており、耐火被覆梁12と無耐火被覆小梁16に下方から支持されている。床スラブ18は、鉄筋コンクリート造の床スラブである。床スラブ18は、コンクリートを打設して硬化させた矩形状のコンクリート部20を備えており、コンクリート部20の内部に鉄筋(図示省略)が配筋されている。床スラブ18の周囲である4辺は、4本の耐火被覆梁12で支持されており、床スラブ18の中央部は、複数の無耐火被覆小梁16で支持されている。
【0028】
図10(A)、(B)は、床スラブを備えた建物の他の例(派生パターン)を示す平面図及び立面図である。
図10(A)、(B)に示されるように、建物100は、
図1に示す建物10の構造に代えて、対向する2本の耐火被覆梁12の間に長手方向と略直交する方向に複数掛け渡された耐火被覆小梁14及び無耐火被覆小梁16を備えている。
図10に示す例では、耐火被覆小梁14は1本であり、無耐火被覆小梁16は3本である。
図10では、耐火被覆梁12と耐火被覆小梁14と無耐火被覆小梁16とを区別するため、耐火被覆梁12と耐火被覆小梁14にトッドを付しており(
図10(A)参照)、小梁である耐火被覆小梁14と無耐火被覆小梁16の太さを変えている(
図10(B)参照)。
【0029】
一例として、耐火被覆小梁14は、表面に耐火被覆が施されたH型鋼であり、耐火被覆梁12よりも細い。
【0030】
床スラブ18は、耐火被覆梁12と耐火被覆小梁14と無耐火被覆小梁16に下方から支持されている。なお、建物100の他の構成は、
図1に示す建物10の構成と同様である。
【0031】
<床スラブの耐火設計方法の具体例>
次に、本実施形態の床スラブの耐火設計方法について説明する。
【0032】
本実施形態の床スラブの耐火設計方法は、周囲が耐火被覆された梁(
図1又は
図10に示す耐火被覆梁12を参照)で支持される鉄筋コンクリート造の床スラブ(
図1又は
図10に示す床スラブ18参照)を設計するための床スラブの耐火設計方法である。
【0033】
(加熱実験工程)
本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、加熱実験工程で、設計する設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブに規定荷重を載荷して加熱し、耐火性能を維持できる実験コンクリート床スラブの実験たわみ量を測定する。より具体的に説明すると、加熱実験工程では、設計する設計コンクリート床スラブを縮小化した実験コンクリート床スラブを用いて載荷加熱実験を行う。
図2は、載荷加熱実験に用いる試験体(すなわち、縮小試験体)30を示す平面図であり、
図3は、試験体30を示す立面図である。
【0034】
ここで、「縮小化」とは、設計コンクリート床スラブに応じて実験コンクリート床スラブの配筋、厚み、及び断面形状等を縮小化するという意味である。すなわち、「縮小化」には、設計コンクリート床スラブの各構成を正確な割合で縮小化した実験コンクリート床スラブに限られず、設計コンクリート床スラブに対して、実験コンクリート床スラブの配筋や厚みや断面形状等が変わっている場合も含まれ、また、配筋やスラブの厚み、断面形状等が同じで、スパンのみが変わっているような場合も含まれる。
【0035】
図2及び
図3に示されているように、試験体30は、実験床スラブ32を備えている。実験床スラブ32は、設計する設計コンクリート床スラブとしての設計床スラブ62(
図5参照)を縮小化した実験コンクリート床スラブの一例である。また、試験体30は、実験床スラブ32の周囲の4辺を支持する4本の実験梁34と、4本の実験梁34をそれぞれ第1炉壁36に固定するブラケット35と、を備えている(
図3参照)。また、試験体30は、第1炉壁36の下側に配置されて第1炉壁36を支持すると共に幅が第1炉壁36の幅よりも大きい第2炉壁38と、を備えている(
図3参照)。さらに、試験体30は、実験床スラブ32の長手方向の中央部に配置されると共に実験床スラブ32を支持する小梁40を備えている。小梁40は、実験床スラブ32の長手方向と交差(本実施形態では直交)する方向に配置されており、両側の実験梁34に掛け渡されている。
図2では、実験梁34と小梁40は実線で示している。
【0036】
実験床スラブ32は、略矩形状に形成されたコンクリート部42と、コンクリート部42の内部に配筋された鉄筋44と、を備えている(
図2参照)。鉄筋44は、コンクリート部42の長手方向と直交する方向(短手方向)に配置された複数の主筋46と、コンクリート部42の長手方向に配置された複数の配力筋48と、を備えている(
図2参照)。複数の主筋46及び複数の配力筋48は、それぞれ間隔をおいて配置されており、略格子状とされている。
【0037】
実験床スラブ32の上部には、予め定められた載荷用の積載部材(図示省略)が載せられることで、規定荷重が載荷される。規定荷重は、例えば、4900N/m2である。本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、実験床スラブ32に規定荷重を載荷して加熱する載荷加熱実験を行い、耐火性能を維持できる実験床スラブ32の実験たわみ量を測定する。図示を省略するが、試験体30では、実験床スラブ32の長手方向及び長手方向と直交する方向(短手方向)にワイヤを張架し、ワイヤに設けられた変形計により実験たわみ量を測定する。
【0038】
載荷加熱実験では、一例として、実験床スラブ32の下面側から火炎して実験床スラブ32を加熱する。実験床スラブ32の加熱時間は、設計床スラブ62の予め設定された加熱時間(例えば、108分)と同等以上の加熱時間とされている。一例として、実験床スラブ32の加熱時間は、8時間である。
【0039】
図4に示されるように、一例として、試験体30の実験床スラブ32では、長手方向と交差する方向における実験梁34の短辺スパンL1(
図2中のL1参照)は、3.5mであり、長手方向における実験梁34の長辺スパンL2(
図2中のL2参照)は、6.2mである。また、実験床スラブ32の加熱終了時(一例として、8時間経過時)の最大たわみは、150mmである。この実験床スラブ32の加熱終了時の最大たわみは、実験たわみ量の一例である。
【0040】
(スパン比算出工程)
本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、スパン比算出工程で、設計床スラブ62を支持する設計耐火被覆梁64(
図5参照)のスパンと実験床スラブ32を支持する実験梁34のスパンの比であるスパン比を算出する。設計床スラブ62は、設計する設計コンクリート床スラブの一例である。設計耐火被覆梁64は、設計梁の一例である。なお、スパン比算出工程は、必ずしも加熱実験工程の後に実施する必要はない。
【0041】
図4に示されるように、設計床スラブ62(
図5参照)では、設計耐火被覆梁64の短辺スパンは、7.2mであり、設計耐火被覆梁64の長辺スパンは、10.3mである。
【0042】
本実施形態では、スパン比は、設計耐火被覆梁64の短辺スパンと実験梁34の短辺スパンとの比としている。
図4に示す例では、スパン比は、設計耐火被覆梁64の短辺スパンと実験梁34の短辺スパンL1との比である「7.2/3.5」となる。
【0043】
(規定たわみ量の設定工程)
本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、規定たわみ量の設定工程で、上記のスパン比から実験たわみ量により、設計床スラブ62のたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定する。規定たわみ量は、クライテリア(すなわち、基準値である設計クライテリア)である。
図4に示す例では、スパン比(すなわち、7.2/3.5)から実験たわみ量(すなわち、150mm)により、設計床スラブ62のたわみ量の上限に対応する規定たわみ量は、308mm〔=105×(7.2/3.5)〕となる。
【0044】
(設計たわみ量の推定工程)
本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、設計たわみ量の推定工程で、設計床スラブ62の予め設定された火災時の設計たわみ量を推定する。一例として、設計床スラブ62の予め設定された火災時の設計たわみ量は、熱応力解析により推定する。また、「予め設定された火災時」としては、例えば、設計床スラブ62を下面側から火炎し、加熱時間(すなわち、設計加熱時間)を108分としている。
【0045】
図5には、設計床スラブ62を備えた設計モデル60の一例が斜視図にて示されている。
図5に示されるように、設計モデル60は、設計床スラブ62と、設計床スラブ62の周囲の4辺を支持する設計梁の一例としての4本の設計耐火被覆梁64と、を備えている。設計耐火被覆梁64は、耐火構造の設計梁である。また、設計モデル60は、設計床スラブ62の長手方向と交差(本実施形態では、直交)する方向に配置されると共に2本の設計耐火被覆梁64に掛け渡された耐火被覆小梁66(本例では1本)及び複数(本例では3本)の無耐火被覆小梁68を備えている。4本の設計耐火被覆梁64の4隅は、柱70に接合されている。柱70は、例えば、耐火被覆された柱である。
【0046】
図5に示す設計床スラブ62を備えた設計モデル60のたわみは、有限要素解析ソフトウェアによる熱応力解析や、応力状態を仮定した簡易計算などにより変形状態を算定する。
【0047】
図6には、加熱時間と設計床スラブ62の最大たわみとの関係が示されている。
図6の例では、設計床スラブ62の最大たわみは、設計床スラブ62と
図5中の手前側の2本の無耐火被覆小梁68のうちの真ん中付近の相対たわみの最大値である。
図6に示すグラフから、設計床スラブ62の予め設定された加熱時のたわみ量が推定される。本実施形態では、設計加熱時間は、108分である。設計加熱時間の108分の時点では、設計床スラブ62の最大たわみは、300mmである(
図7参照)。
【0048】
(設計手法)
次に、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、設計床スラブ62の設計たわみ量が規定した規定たわみ量以下になるように床スラブを設計する。これにより、設計床スラブ62が耐火性能を満たすようにする。
【0049】
対象となる床スラブの下階からの出火時の床スラブの耐火性としては、床スラブの最大たわみが、下記の数1の式を満たすことが好ましい。また、床スラブの裏面温度の最大値が、許容温度(設計クライテリア、例えば、160℃)以下であることが好ましい。ここで、床スラブの裏面温度は、床スラブの火炎側に対して反対側の温度である。
【0050】
【0051】
本実施形態の床スラブの耐火設計方法において、
図4に示す例では、設計床スラブ62の規定たわみ量(最大たわみ、すなわち、設計クライテリア)は、308mmである(
図4及び
図7参照)。
図6に示されるように、設計床スラブ62の加熱時のたわみ変形においては、設計加熱時間の108分時点において設計床スラブ62の最大たわみ量(すなわち、300mm)は、規定たわみ量(すなわち、設計クライテリア)である308mmに達していないことが確認できる。
【0052】
また、
図7に示されるように、熱伝導解析により火災時の設計床スラブ62の裏面温度を測定したところ、設計加熱時間の108分の時点の設計床スラブ62の裏面温度は、70℃である。この設計床スラブ62の裏面温度は、規定裏面温度(すなわち、設計クライテリア)である160℃よりも小さいことが確認できる。
【0053】
一方、火災時の設計床スラブの設計たわみ量が規定たわみ量を超える場合は、設計床スラブの配筋を増加してもよいし、梁(例えば、設計耐火被覆梁64)に連結される複数の小梁のうち無耐火被覆小梁を減らしてもよい。また、これらに代えて、設計床スラブの厚さを厚くしてもよい。
【0054】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0055】
まず、本実施形態の床スラブの耐火設計方法を説明する前に、建物に設けられた床スラブの火災時の状態について説明する。床スラブの火災時には、鉄筋コンクリート造の床スラブに作用する載荷荷重や自重等により、床スラブの中央部が下方に向かって凸となるようにたわむ。ここで、床スラブの周囲の4辺が耐火被覆した梁で支持されている場合、メンブレン効果により、床スラブの中央部が撓むことにより伸びた鉄筋がそれぞれ交差する方向に引張力を伝達する。このため、火災時の荷重支持能力が向上する。
【0056】
一方、床スラブのたわみが大きくなると、荷重支持能力は向上するが、床スラブにひび割れが発生し、遮熱性及び遮炎性を喪失する。
【0057】
図11(A)、(B)には、比較例の床スラブ218を備えた建物200が示されている。
図11(A)、(B)に示されるように、建物200は、床スラブ218と、床スラブ218の周囲の4辺を支持する4本の耐火被覆梁212と、を備えている。また、建物200は、2本の耐火被覆梁212に短手方向に沿って掛け渡されると共に床スラブ218を支持する耐火被覆小梁214及び無耐火被覆小梁216を備えている。床スラブ218は、コンクリート部220を備えており、コンクリート部220の内部に図示しない鉄筋が配筋されている。
【0058】
図11(B)に示されるように、床スラブ218の火災時には、耐火被覆梁212と耐火被覆小梁214の間の2箇所で、床スラブ218の中央部が下方に向かって凸となるようにたわむ。そして、床スラブ218のたわみが大きくなり、変形の上限D1を超えると、床スラブ218のコンクリート部220にひび割れ222が発生し、耐火性能(すなわち、遮熱性及び遮炎性)を喪失する。
【0059】
このため、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、遮熱性と遮炎性が喪失する大きさのひび割れが生じない実験たわみ量を実験床スラブ32で測定する。すなわち、設計床スラブ62を縮小化した実験床スラブ32の周囲の4辺を実験梁34で支持した状態で、実験床スラブ32に規定荷重を載荷して下面を加熱し、耐火性能を維持できる実験床スラブ32の実験たわみ量を測定する(加熱実験工程)。
【0060】
そして、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、設計床スラブ62を支持する設計耐火被覆梁64のスパンと実験床スラブ32を支持する実験梁34のスパンの比であるスパン比を算出する(スパン比算出工程)。このスパン比から実験たわみ量により、設計床スラブ62のたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定する(規定たわみ量の設定工程)。
【0061】
さらに、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、設計床スラブ62の予め設定された火災時の設計たわみ量を推定する(設計たわみ量の推定工程)。次に、設計床スラブ62の設計たわみ量が規定した規定たわみ量以下になるように床スラブを設計して、耐火性能を満たすようにする。このため、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、耐火実験により耐火性能を有することが確認された実験床スラブ32の実験結果を反映させて設計床スラブ62を設計することができる。
【0062】
また、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、スパン比は、設計耐火被覆梁64の短辺スパンと実験梁34の短辺スパンとの比である。
【0063】
設計床スラブ62を縮小化した実験床スラブ32では、設計耐火被覆梁64の短辺スパンと実験梁34の短辺スパンとの比(
図4では、7.2/3.5)と、設計耐火被覆梁64の長辺スパンと実験梁34の長辺スパンとの比(
図4では、10.3/6.2)と、が異なる場合がある。この場合、設計耐火被覆梁64の短辺スパンと実験梁34の短辺スパンとの比の方が厳しい場合が多い(
図4参照)。本実施形態の床スラブの耐火設計方法によれば、設計耐火被覆梁64の短辺スパンと実験梁34の短辺スパンとの比(
図4では、7.2/3.5)を用いることで、より厳しいスパン比から実験たわみ量により、設計コンクリート床スラブのたわみ量の上限に対応する規定たわみ量を規定することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、火災時の設計床スラブの設計たわみ量が規定たわみ量を超える場合は、設計床スラブの配筋を増加し、梁(例えば、設計耐火被覆梁64)に連結される複数の小梁のうち無耐火被覆小梁を減らし、又は設計床スラブの厚さを厚くする。これにより、火災時の設計床スラブの設計たわみ量が規定した規定たわみ量以下になるように床スラブを設計することができる。
【0065】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る床スラブの耐火設計方法について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0066】
図8は、設計する建物の一例としての設計建物80の一部を示す模式的な立面図である。
図8に示されるように、設計建物80は、下階の設計床スラブ82と、上階の設計床スラブ84と、設計床スラブ82と設計床スラブ84との間に設けられた防火区画壁86と、を備えている。言い換えると、設計建物80では、設計床スラブ84の下側に防火区画壁86が配置されている。設計床スラブ84は、設計コンクリート床スラブの一例である。設計床スラブ84は、
図5に示す第1実施形態の設計モデル60の設計床スラブ62と同様に、4本の設計耐火被覆梁64と、1本の耐火被覆小梁66と、3本の無耐火被覆小梁68によって支持されている。また、4本の設計耐火被覆梁64の4隅が柱70に接合されている。
【0067】
本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、第1実施形態の床スラブの耐火設計方法と同様の工程を備えているが、設計たわみ量の推定工程において、以下の工程を追加している。すなわち、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、第1実施形態の床スラブの耐火設計方法と同様に工程に加えて、防火区画壁86の上側の設計床スラブ84の設計たわみ量を予測する。
【0068】
図9に示されるように、防火区画壁86の位置での設計床スラブ84のたわみ量は、200mmであり、防火区画壁86近傍の耐火被覆小梁66の許容最大たわみ(許容鉛直変位、例えば近傍の小梁の耐火試験上の限界たわみをクライテリアとすると、L
2/400d=7200
2/400/486=265mm)より小さくなることが確認できる。ここで、Lは、実建物の評価対象床スラブの短辺スパン(本実施形態では、7200mm)であり、dは、防火区画壁86近傍の小梁せい(本実施形態では、486mm)である。
【0069】
一方、本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、例えば、設計床スラブ84の設計たわみ量が防火区画壁86の許容鉛直変位(すなわち、L2/400d)を超える場合は、防火区画壁86に近い位置に配置された小梁を耐火被覆などの耐火構造とする。
【0070】
本実施形態の床スラブの耐火設計方法では、第1実施形態の床スラブの耐火設計方法と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下のような作用及び効果が得られる。
【0071】
本実施形態の床スラブの耐火設計方法によれば、設計床スラブ84の下側に防火区画壁86が配置されているときは、防火区画壁86の上側の設計床スラブ84の設計たわみ量を予測する。そして、設計床スラブ84の設計たわみ量が防火区画壁86の許容鉛直変位を超える場合は、防火区画壁86に近い位置に配置された小梁を耐火被覆などの耐火構造とする。これにより、防火区画壁86に近い位置に配置された小梁(すなわち、耐火被覆された小梁)のたわみが抑制され、建物の床スラブの変形により防火区画壁86が破壊することを防止又は抑制することができる。
【0072】
〔補足説明〕
第1~第2実施形態の床スラブの耐火設計方法では、設計床スラブ62、84の周囲の4辺を支持する耐火構造の梁として、表面が耐火被覆されたH型鋼で構成された設計耐火被覆梁64が用いられているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、床スラブの周囲を支持する耐火構造の梁として、H型鋼以外の鉄骨梁、RC梁(鉄筋コンクリート造の梁)、又は合成構造の梁等の耐火構造の梁を用いてもよい。
【0073】
また、第1~第2実施形態の床スラブの耐火設計方法において、設計床スラブ62、84の周囲の4辺を支持する設計耐火被覆梁64の間に掛け渡される耐火被覆小梁66及び無耐火被覆小梁68の配置や数は変更可能である。
【0074】
第1~第2実施形態の床スラブの耐火設計方法では、設計たわみ量の推定工程で、設計床スラブ62の予め設定された火災時の設計たわみ量は、熱応力解析により推定しているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、設計床スラブ62の予め設定された火災時の設計たわみ量は、載荷加熱実験等による実験値から推定してもよい。
【0075】
また、第1~第2実施形態の床スラブの耐火設計方法では、「周囲が耐火構造の梁で支持される鉄筋コンクリート造の床スラブ」は矩形状であるが、本発明は、矩形状に限定されるものでない。例えば、「周囲が耐火構造の梁で支持される鉄筋コンクリート造の床スラブ」は、三角形や五角形の床スラブ、曲線上の梁を用いた床スラブ等でもよい。
【0076】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0077】
12 耐火被覆梁(耐火構造の梁)
14 耐火被覆小梁(小梁)
16 無耐火被覆小梁(小梁)
18 床スラブ
32 実験床スラブ(実験コンクリート床スラブ)
34 実験梁
40 小梁
62 設計床スラブ(設計コンクリート床スラブ)
64 設計耐火被覆梁(設計梁)
66 耐火被覆小梁(小梁)
68 無耐火被覆小梁(小梁)
80 設計建物
84 設計床スラブ(設計コンクリート床スラブ)
86 防火区画壁
L1 短辺スパン