(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027660
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】金属製の細管の放射性物質による汚染の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/169 20060101AFI20230222BHJP
G21F 9/00 20060101ALI20230222BHJP
G01T 1/00 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
G01T1/169 A
G21F9/00 Z
G01T1/169 C
G01T1/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132916
(22)【出願日】2021-08-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】506214460
【氏名又は名称】株式会社スリー・アール
(74)【代理人】
【識別番号】100134740
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 文雄
(72)【発明者】
【氏名】茂木 道教
(72)【発明者】
【氏名】昆 達郎
(72)【発明者】
【氏名】菅井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】菅井 弘
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA15
2G188AA16
2G188AA19
2G188BB05
2G188BB06
2G188CC08
2G188CC10
2G188EE25
2G188EE28
2G188JJ05
(57)【要約】
【課題】原子力施設等から出るNR廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を検査することができる検査方法を提供する。
【解決手段】本発明は、放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を検査するための検査方法であって、(a)複数の略直線部分を有する細管を台上に一体的に反転可能となるように載置する工程と、(b)載置された細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、(c)載置された細管の内側表面の汚染をβ線測定により検査する工程と、(d)載置された細管を反転させる工程と、(e)反転後の細管について、α線測定による検査工程(b)とβ線測定による検査工程(c)を実行する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を検査するための検査方法であって、
(a)複数の略直線部分を有する前記細管を台上に一体的に反転可能となるように載置する工程と、
(b)載置された前記細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、
(c)載置された前記細管の内側表面の汚染をβ線測定により検査する工程と、
(d)載置された前記細管を反転させる工程と、
(e)反転後の前記細管について、前記α線測定による検査工程(b)と、前記β線測定による検査工程(c)とを実行する工程と、を含む検査方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、外径が10mm以下で肉厚が0.6mm以下の金属製の一本の細管を、複数の略直線部分を有し当該略直線部分の各端部が折り曲げられた状態で載置することを含む、請求項1の検査方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、外径が10mm以下で肉厚が0.6mm以下の金属製の複数の細管を、略直線部分を有し当該略直線部分の少なくとも一端部を治具で固定した状態で載置することを含む、請求項1の検査方法。
【請求項4】
前記工程(c)は、プラスチックシンチレーション検出器を用いて前記β線測定を行うことを含む、請求項1~3のいずれか一項の検査方法。
【請求項5】
放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を検査するための検査方法であって、
(a)複数の略直線部分を有する前記細管を台上に一体的に反転可能となるように載置する工程と、
(b)載置された前記細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、
(c)載置された前記細管を反転させる工程と、
(d)反転後の前記細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、
(e)反転後の前記細管の内側表面の汚染をスミヤ布を用いた間接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、を含む検査方法。
【請求項6】
前記工程(a)は、外径が10mm以上で肉厚が0.6mm以上の金属製の細管を、略直線部分を有し当該略直線部分の端部が略直角に曲げられた状態で載置することを含む、請求項5の検査方法。
【請求項7】
前記工程(a)は、外径が10mm以上で肉厚が0.6mm以上の金属製の複数の細管を、略直線部分を有し当該略直線部分の少なくとも一端部を治具で固定した状態で載置することを含む、請求項5の検査方法。
【請求項8】
前記工程(e)は、ステンレス針金またはステンレス棒の先端部にスミヤ布を巻き付けて、前記細管の内部に挿入して前記内側表面を拭き取ることを含む、請求項5~7のいずれか一項の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、金属管の放射性物質による汚染の検査方法に関し、より具体的には、原子力施設等から出る放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による汚染の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設等の核燃料物質または核原料物質(以下、核燃料物質等とも略して呼ぶ場合がある。)を扱う施設において放射線防御の観点から特別の管理を必要とする放射性廃棄物のほかに、放射性廃棄物でない廃棄物(以下、「NR廃棄物」と呼ぶ。)も大量に発生する。このNR廃棄物については、経済産業省がその取扱いについてのガイドライン(指示)を出しており(非特許文献1)、その内容に沿って廃棄物として判断し管理等を行う必要がある。例えば、NR廃棄物であると判断される、汚染の恐れがある管理区域に設置された資材等及び汚染の恐れがある管理区域で使用された物品は、念のための放射線測定評価を行うこと等が求められる。
【0003】
また、管理区域から持ち出す物品(廃棄物を含む)については、他の規定、例えば電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)等に沿って、汚染が無いことを確認した上で搬出等を行う必要がある。したがって、原子力施設等で発生するNR廃棄物を処理する際には、そうした各種の規制に従った適切な放射線測定を含む処理、管理を行うことが求められる。
【0004】
上述した念のための放射線測定等において、NR廃棄物の核燃料物質等の放射性物質による表面汚染(表面放射能密度)を検査するために、直接サーベイ法や間接サーベイ法(以下、スミヤ法とも呼ぶ。)によるα線測定が行われることが多い。こうしたα線測定では測定対象物の表面近傍にα線検出器を当てて、あるいは測定対象物の表面を拭き取ったスミヤろ紙にα線検出器を当てて測定する必要がある。
【0005】
NR廃棄物が金属管である場合も、基本的に放射性物質による表面汚染を検査するために直接または間接サーベイ法によるα線測定を用いることができる。しかし、金属管が細くスミヤろ紙を金属管内に挿入することが困難である場合、金属管の内側表面の汚染を間接サーベイ法によるα線測定によって検査することはできない。また、金属管を束ねて外側からのγ線測定により内部の平均的な放射性物質濃度を測定することもできるが、その場合金属管の局所的な放射性物質残留の有無の確認は困難である。
【0006】
そうした状況下において、例えば特許文献1では、原子力発電所内で使用された送液配管、電装被覆管、熱交換用細管等の小口径配管を除却する際に、配管内に放射性物質の汚染がないことを確認する必要があるが、小口径配管は管の内径が小さいのでサーベイメータ等によりそのまま管内の汚染を測定することは困難であることに鑑みて、小口径配管を長手方向に半割りする切断機を開示する。
【0007】
また、特許文献2では、小径で薄肉な管の管内面の除染確認検査が困難であることに鑑みて、低レベル放射性廃棄物が付着した薄肉管の廃棄物処理方法として、薄肉管を円周方向の一位置で縦切りする工程と、縦切りされた薄肉管を拡開し、平板材に加圧成形する工程と、平板材の放射能量を測定する工程とを開示する。
【0008】
しかし、特許文献1では、対象となる小径の配管として、JIS規格で約15A(外径約21mm)~40A(外径約50mm) 程度の管を半割り加工できるとしており(段落0032)、外径21mmより細い、例えば10mm以下のような細管を長手方向に半割りすることができることを開示してはいない。
【0009】
また、特許文献2では、本実施例で使用する薄肉管の対象は、肉厚1.6ミリメートル以下のものであり、代表的な薄肉管としては、給水加熱器伝熱管の材質および寸法はSUSS304で、外径15.9ミリメートルで肉厚は1.0ミリメートルであるとしているが(段落0018)、外径が15mmより小さく(例えば10mm以下)、肉厚が1.0mmよりも薄いような細管についても同様に円周方向の一位置で縦切りすることができることを開示してはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-7483
【特許文献2】特開2006-38502
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】原子力施設における「放射性廃棄物でない廃棄物」の取扱いについて(指示)、経済産業省原子力安全・保安院、NISA-111a-08-1、平成20年5月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであって、原子力施設等から出るNR廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を、細管を長手方向に半割りする(切り開く)ことなく、検査することができる検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を検査するための検査方法を提供する。その検査方法は、(a)複数の略直線部分を有する細管を台上に一体的に反転可能となるように載置する工程と、(b)載置された細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、(c)載置された細管の内側表面の汚染をβ線測定により検査する工程と、(d)載置された細管を反転させる工程と、(e)反転後の細管について、α線測定の検査工程(b)とβ線測定の検査工程(c)を実行する工程と、を含む。
【0014】
本発明の一態様は、放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる金属製の細管の放射性物質による表面汚染を検査するための検査方法を提供する。その検査方法は、(a)複数の略直線部分を有する前記細管を台上に一体的に反転可能となるように載置する工程と、(b)載置された細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、(c)載置された細管を反転させる工程と、(d)反転後の細管の外側表面の汚染を直接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、(e)反転後の細管の内側表面の汚染をスミヤ布を用いた間接サーベイ法によるα線測定により検査する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の検査方法のフローを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態の測定対象の金属製の細管を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態の測定対象の金属製の細管を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態の直接サーベイ法(α線検出)を用いた表面汚染の検査の様子を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態のβ線検出を用いた表面汚染の検査の様子を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態の検査方法のフローを示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態の測定対象の金属製の細管を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態のスミヤ法(α線検出)を用いた表面汚染の検査の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態の検査方法のフローを示す図である。工程S1において、測定対象となる金属製の細管を準備する。ここで言う金属製の細管は、核燃料物質等を扱う施設で発生するNR廃棄物の対象となる金属製の細管を意味する。金属には、鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、チタン等の金属管として利用可能な任意の金属が含まれる。核燃料物質等には、α線源やβ線源となるウラン、トリウム、及びそれらの化合物が含まれる。核燃料物質等を扱う施設には、原子力施設の他に原子力とは直接的には関係のない例えばウランを触媒として使用する化学工場等の製造施設、加工施設も含まれる。原子力施設には、例えば非特許文献1に記載される精錬施設、原子炉施設、再処理施設等が含まれる。さらに、NR廃棄物は、基本的に非特許文献1のガイドラインに沿って判断されるものを言うが、対象となる廃棄物が発生する施設には、原子力施設の他に上述した原子力とは直接的には関係のない化学工場等も含むものとする。
【0017】
NR廃棄物の対象となる金属製の細管は、その使用形態に応じて、例えば管径ごとに継ぎ手、ナット等が付属したまま曲げ畳まれた状態で袋に保管されている。その場合、袋から取り出した細管は、ケーブルカッター等の工具で所定の長さ(例えば60cm程度)に切断し、付属する継ぎ手、ナットを切り外して細管のみの状態にする。
【0018】
金属製の細管の放射性物質による表面汚染(表面放射能密度)を効率よく検査するためには、一度に比較的広い面積での表面汚染を検査できることが望まれる。また、表面の検査は細管の表側と裏側の両方で行う必要があることから、細管を一体的に移動可能に、より具体的には、一体的に反転可能となるように測定台上に載置する必要がある。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態の金属製の細管を示す図である。(a)は上面図であり、(b)は位置Aでの断面図である。細管1は、間隔を空けて並ぶ複数のほぼ同じ長さの略直線部分を有し、略直線部分の各端部が折り曲げられた形状(略円弧状の形状)を有している。この形状により、細管のどこかの箇所を持って容易に反転(裏返し)させることができる。すなわち、表側表面の測定後に反転させて確実に裏側表面の測定を行うことができる。複数の略直線部分の幅(面積)は、少なくとも放射線測定器(サーベイメータ)の検出面よりも長く(大きく)して、サーベイメータを細管に沿って移動させながら連続して測定できるようにする。
【0020】
細管のサイズは、特に定義があるわけではなく、比較的小口径の管(配管)を意味し、例えば外径(
図2(b)のD)で約20mm以下、より好ましくは約10mm程度以下の金属製の管が該当する。また、細管の肉厚(
図2(b)のT)も比較的薄い肉厚を意味し、詳細は後述するが、管の内側表面からのβ線(透過β線)が外側から測定可能となる肉厚を意味し、例えば約1mm以下、より好ましくは約0.6mm程度以下が該当する。
【0021】
図3は、本発明の他の一実施形態の金属製の細管を示す図である。(a)は上面図であり、(b)は位置Bでの断面図である。細管1は、間隔を空けて並ぶ複数のほぼ同じ長さの略直線部分を有し、略直線部分の各端部において両側から固定材2、3により挟まれている形状を有している。固定材2、3は、例えば木材やプラスチック等でできており、容易に脱着できるようになっている。なお、固定材2、3はいずれか一方の端部にのみ設けてもよい。この形状により、細管の固定材2、3の少なくとも一方を持って容易に反転(裏返し)させることができる。すなわち、表側表面の測定後に裏返して確実に裏側の表面の測定を行うことができる。複数の略直線部分の幅(面積)は、少なくとも放射線測定器(サーベイメータ)の検出面よりも長く(大きく)して、サーベイメータを細管に沿って移動させながら連続した測定ができるようにする。
【0022】
図1の工程S2において、細管の表側の表面における放射性物質による表面汚染の有無を検査するために直接サーベイ法を用いたα線測定を行う。
図4は、本発明の一実施形態の直接サーベイ法を用いた表面汚染の測定の模式図である。工程S1で準備した細管1の表面にサーベイメータ10の測定面(検出面)が当接され、通信ケーブル15を介してα線の検出値が表示器20に送られる。表示器20では、その表示画面17にリアルタイムに測定結果が表示され、同時に測定データとして内蔵するメモリに保管される。サーベイメータ10としては、例えばZnS(Ag)シンチレーション検出器(直接サーベイメータ)であって、検出限界が0.4Bq/cm
2以下である性能を有するα線検出器を用いて行う。
【0023】
放射性物質による表面汚染の有無の判定は、例えば汚染源となる核燃料物質等がウランである場合、α線検出器10による測定結果から表面汚染密度が0.4Bq/cm2以上である場合に汚染が有ると判断し、それ未満である場合に汚染が無いと判断する。この判断基準値である0.4Bq/cm2は、電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)の別表第3に定められている「α線を放出する放射線同位元素」による表面汚染の限度(4Bq/cm2)の1/10に相当し、当該物品を施設外に持ち出す際にその値(限度の1/10)を越えてはいけないとされているものである。核燃料物質等がウラン以外である場合は、判断基準値としてその物質(放射性同位元素)に対応した値を採用することができる。
【0024】
α線検出器10による測定が困難な箇所における表面汚染の有無の判定は、β線検出器による測定結果から表面汚染密度が0.4Bq/cm2以上である場合に汚染が有ると判断し、それ未満である場合に汚染が無いと判断する。この判断基準値である0.4Bq/cm2は、上述したα線における施設外に持ち出す際の基準値と同等であり、電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)の別表第3に定められている「α線を放出しない放射性同位元素」による表面汚染の限度(40Bq/cm2)の1/100に相当し、当該物品を施設外に持ち出す際にその値(4Bq/cm2)の限度の1/10に相当する。
【0025】
図1の工程S3において、細管の内側表面における放射性物質による表面汚染の有無を検査するためにβ線測定を行う。ここでβ線測定を行う理由は以下の通りである。すなわち、細管がより細くなり(例えば外径10mm以下)、スミヤろ紙(布)を細管内に入れることができない、あるいは手間がかかって容易には入れられないような場合、内側表面の汚染を間接サーベイ法によるα線測定によっても検査することはできない。また、背景技術の欄でも述べたように、細管を半割りする(切り開く)ことが困難または容易ではない場合に、内側表面の汚染を検査する方法として、α線の測定に代えて透過力の大きいβ線の測定が有効である可能性があるからである。
【0026】
ただし、β線の測定が有効であるとするためには、細管の内側表面から管壁を透過してくるβ線によって、上述した表面汚染密度の判断基準値(限界基準値)である0.4Bq/cm2以下の値をも検出可能であるか否か、言い換えれば、透過β線を測定する際の表面放射能密度の検出下限値が0.4Bq/cm2以下であるか、さらにそのための条件等を予め確認し特定しておく必要がある。そこで、本発明者らは、一例として放射性物質がウラン(238U)であり、細管の内側表面に付着したウランから管壁を透過してくるβ線(崩壊過程で発生するPa-234mが放出する最大エネルギー2.273MeV)を想定して、以下に述べるようにして検出可能な条件を見出した。
【0027】
細管の内側表面から透過するβ線(2.273MeV)を測定する際の表面放射能密度の検出下限値を求めるため、0.2mm厚チタン板を使用しチタンによる遮蔽厚(g/cm2)とβ線透過率の相関性を求めた。その際、β線源としてほぼ同じ最大エネルギー値2.280MeVを持つSr-90-Y-90校正用標準線源(放出面の面積10×10cm)を用いた。測定器(サーベイメータ)は、ATOMTEX社製BDPB-03(窓面積300cm2、機器効率0.486)を使用した。得られた遮蔽厚(g/cm2)とβ線透過率(%)の相関性からβ線測定による細管の内側表面の検出限界値の試算を行った。検出限界値(Bq/cm2)の試算結果を下記の表1に示す。
【0028】
【0029】
なお、検出限界値の試算には日本放射線安全管理学会「放射線施設廃止のための確認手順と放射能測定マニュアル」より、下記の式(1)を使用した。なお、式(1)中の機器効率と線源効率は、JIS Z4504に規定された直接法による表面放射能密度検査の計算方法に倣い、標準線源を用いて求めた。すなわち、標準線源として上述したSr-90-Y-90校正用標準線源を用いて、機器効率を求め、さらに上述した0.2mm厚チタン板を用いて得られたβ線透過率から線源効率を求めた。
【数1】
【0030】
表1の肉厚(mm)と検出限界値(Bq/cm2)との関係から、細管の肉厚が約0.6mm以下であれば、バックグラウンド(BG)計数率(cps)が比較的高い場合を想定した場合でも、管理区域外へのα線放射放出核種(例えばウラン)による放射能密度基準に相当する検出下限値0.4Bq/cm2以下を満たすことができることがわかった。その結果、スミヤろ紙(布)を内部に挿入できないあるいは挿入しにくいような細管(例えば外径10mm以下の細管)において、肉厚が約0.6mm以下であれば、透過β線の測定により内側表面での表面放射能密度を検出下限値以下で測定可能であることがわかった。
【0031】
図5は、本発明の一実施形態の透過β線測定の模式図である。工程S1で準備した細管1の表面に、
図4のα線測定の場合と同様に、β線測定器(サーベイメータ)16の測定面(検出面)18が当接される。β線測定器16としては、例えばプラスチックシンチレーション検出器を用いることができる。β線測定器16は、通信ケーブル19を介して表示器20へ検出信号を送る。表示器20は、そのβ線測定結果を表示することができ、さらにその測定データをパーソナルコンピュータ40に有線または無線で送信できるようにすることもできる。
【0032】
図1の工程S4において、測定対象の細管1を反転させて、裏側での測定が可能な状態にする。
図2の実施形態では、細管1のどこかの箇所を持って容易に反転(裏返し)させることができる。また、
図3の実施形態では、細管1の固定材2、3の少なくとも一方を持って容易に反転(裏返し)させることができる。
【0033】
図1の工程S5において、細管の裏側の表面における放射性物質による表面汚染の有無を検査するために直接サーベイ法を用いたα線測定を行う。α線測定は上述した工程S2の場合と同様に行うことができるので詳細は省略する。
【0034】
図1の工程S6において、細管の裏側表面から細管の内側表面における放射性物質による表面汚染の有無を検査するためにβ線測定を行う。工程S3の説明で述べたように、細管の肉厚が約0.6mm以下である場合に透過β線の測定により内側表面での表面放射能密度を検出下限値以下で測定可能である。β線測定は工程S3の場合と同様に行うことができるので詳細は省略する。
【0035】
図6は、本発明の他の一実施形態の検査方法のフローを示す図である。
図6の検査方法は、主として外径が約10mmより大きく、あるは肉厚が約0.6mmよりも厚いような細管である場合、言い換えれば、スミヤろ紙(布)を内部に挿入して間接サーベイ法によるα線測定ができる、あるいは細管の管壁を透過するβ線を検出することが困難であるような細管での放射性物質による表面汚染の有無を検査するためのものである。
【0036】
工程S10において、測定対象となる金属製の細管を準備する。金属製の細管の概要及びその廃棄後の初期の態様は、
図1の工程S1の場合と同様であるのでここではその記載を省略する。工程S10で採用する金属製の細管は、スミヤ布を内部に挿入して間接サーベイ法によるα線測定が可能となるように、例えば
図3の一実施形態の金属製の細管と同様な形態とすることができる。細管1は、間隔を空けて並ぶ複数のほぼ同じ長さの略直線部分を有しているので、その略直線部分にスミヤ布が挿入可能である。
【0037】
図7は、本発明の他の一実施形態の金属製の細管を示す図である。細管1は、ほぼ同じ長さの略直線部分を有し、略直線部分の一端部が略直角方向に折り曲げられた形状を有している。この形状により、一本の細管1の2つの略直線部分の各々においてスミヤ布が挿入可能である。また、一本または複数の細管1のどこかの箇所(例えば長い略直線部分)を持って容易に反転(裏返し)させることができる。すなわち、表側表面の測定後に反転させて確実に裏側の表面の測定を行うことができる。
【0038】
図6の工程S20において、細管の表側の表面における放射性物質による表面汚染の有無を検査するために直接サーベイ法を用いたα線測定を行う。α線測定の内容は
図1の工程S2の場合と同様であり、
図4に示すように、工程S10で準備した細管1の表面にサーベイメータ10の測定面(検出面)が当接させ移動させながら測定を行う。
【0039】
図6の工程S30において、測定対象の細管1を反転させて、裏側での測定が可能な状態にする。
図3の実施形態では、細管1の固定材2、3の少なくとも一方を持って容易に反転(裏返し)させることができる。
図7の実施形態では、一本または複数の細管1のどこかの箇所(例えば長い略直線部分)を持って容易に反転(裏返し)させることができる。
【0040】
図6の工程S40において、細管の裏側の表面における放射性物質による表面汚染の有無を検査するために直接サーベイ法を用いたα線測定を行う。α線測定は上述した
図1の工程S2の場合と同様に行うことができるので詳細は省略する。
【0041】
図6の工程S50において、細管の内側表面の汚染をスミヤ布を用いた間接サーベイ法によるα線測定により検査する。スミヤ布による間接法α測定における検出限界値は、従来の間接法α測定と同様に、日本放射線安全管理学会「放射線施設廃止のための確認手順と放射能測定マニュアル」による下記の式(2)にて求める。
【数2】
【0042】
細管の内側表面のスミヤ採取を行う際に拭き取り面積100cm2以上を満たすための細管の最低ふき取り長さは、例えば、外径10.5mm、肉厚1.62mmの細管の場合で約44cmとなる。したがって、例えば外径10.5mm、肉厚1.62mmの細管の測定では、少なくとも一度に約44cm以上の細管の内部をスミヤ布で拭き取る必要がある。
【0043】
細管の内側表面を拭き取りに使用する治具として、例えば、針金ワイヤーやステンレス棒を用いることができる。針金ワイヤーを用いた方法では、例えば0.9mmのステンレス針金を撚り合わせてワイヤーを作成し、その先端に輪を設けておく。その輪にスミヤ布を通し所定の長さにした状態で、ワイヤーを先行させて細管内を通して引き抜くことにより、内部の拭き取りを行う。この方法は、例えば
図3の一実施形態の金属製の細管1のように、略直線部分のみの細管の拭き取りに有効である。
【0044】
ステンレス棒を用いた方法では、例えば外径φ1.6~2mmの超硬ステンレス棒の先端に外径φ0.6~1mmのステンレス棒を折り返したループを取り付ける。そのループ周りにスミヤ布を所定の長さ巻き付けて2か所で固定した上で、スミヤ布を先行させて細管内を通しながら内部の拭き取りを行う。この方法は、例えば
図7の一実施形態の金属製の細管1のように、略直線部分の一端部が略直角方向に折り曲げられた形状を有する場合の拭き取りに有効である。
【0045】
図8は、本発明の一実施形態のスミヤ法を用いた表面汚染の検査の模式図である。細管1の内側表面(内部)を拭き取った取ったスミヤ布7にα線検出器10の測定面(検出面)が当接され、通信ケーブル25を介してα線の検出値がパーソナルコンピュータ(PC)30に送られる。PC30では、その表示画面35にリアルタイムに測定結果が表示され、同時に測定データとして内蔵するメモリに保管される。なお、PC30に代えて
図4の表示器20を用いることもできる。α線検出器10は、直接サーベイ法による測定と同様に、例えばZnS(Ag)シンチレーション検出器(直接サーベイメータ)であって、検出限界が0.4Bq/cm2以下である性能を有するものを用いることができる。
【0046】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 金属製の細管
2、3 固定材
7 スミヤ布
10 α線測定器(サーベイメータ)
15、19、25 通信ケーブル
16 β線測定器(サーベイメータ)
17、35 表示画面
18 測定面(検出面)
20 表示器
30、40 パーソナルコンピュータ(PC)