(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027672
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】全固体電池用電極及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230222BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230222BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230222BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230222BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230222BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132933
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦山 貴大
(72)【発明者】
【氏名】澤田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】全固体電池の高容量化と出力特性向上とを高いレベルで両立することができる、全固体電池用電極を提供する。
【解決手段】活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、前記活物質の粒子数に対する前記導電助剤の粒子数の比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が、4以上、80以下であり、前記導電助剤の元素分析をしたときに、前記導電助剤の酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)が、10以上、40以下である、全固体電池用電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、
前記活物質の粒子数に対する前記導電助剤の粒子数の比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が、4以上、80以下であり、
前記導電助剤の元素分析をしたときに、前記導電助剤の酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)が、10以上、40以下である、全固体電池用電極。
【請求項2】
前記導電助剤の粒子数が、500百万個/mg以上である、請求項1に記載の全固体電池用電極。
【請求項3】
前記導電助剤が、グラフェン積層構造を有する炭素材料である、請求項1又は2に記載の全固体電池用電極。
【請求項4】
前記導電助剤が、端縁から部分的にグラファイトが剥離した構造を有する、部分剥離型薄片化黒鉛である、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池用電極。
【請求項5】
全固体電池用正極である、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体電池用電極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体電池用電極を備える、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池用電極及び該全固体電池用電極を用いた全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンなどの民生用電子機器の需要拡大や、電気自動車、ハイブリッド自動車などの普及に伴い、高容量かつ高出力の二次電池が求められている。
【0003】
二次電池は、電解液の種類に応じて、水系電解質二次電池と非水系電解質二次電池に分類される。なかでも、駆動電圧を高め易いという観点から、非水系電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0004】
非水系電解質二次電池においては、可燃性の有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機系電解液が使用されることがある。しかしながら、有機系電解液は、可燃性であるため、短絡などの異常発生時には発火に繋がる可能性があり、安全性の向上が求められている。
【0005】
このような背景から、電解液に可燃性の有機溶媒を用いない全固体電池が注目されている。全固体電池は、従来の有機系電解液の代わりに、固体電解質を用いるものである。固体電解質を用いることにより、発火や液漏れの危険性が大幅に低減され、安全性の向上が期待される。
【0006】
全固体電池を設計するに際しては、活物質、固体電解質、及び導電助剤により、電子伝導パスとイオン伝導パスとを共に形成させることが重要である。
【0007】
例えば、下記の特許文献1には、親水性部分を有する粒子状導電助剤を用い、その配合量を最適化することにより、生産性が良好になり、かつ活物質と固体電解質との接触面を制御することで良好なイオン伝導パスを形成できることが記載されている。
【0008】
また、下記の特許文献2では、親水性部分を有する粒子状導電助剤に加え、アスペクト比が高い導電助剤を添加することにより、電子伝導パスとイオン伝導パスとを形成し、電池特性を向上させることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-39887号公報
【特許文献2】特開2021-57142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のように、全固体電池用電極に粒子状導電助剤を適用した場合は、電子伝導パスとイオン伝導パスとの両立が困難であり、所望の電池特性が得られにくいという問題がある。また、特許文献2のように、粒子状導電助剤に加え、アスペクト比が高い導電助剤を添加した場合は、電子伝導パスは発達するものの、アスペクト比が高い導電助剤は分散性に乏しいことから、均一な電極膜の作製が困難となり、所望の電池特性が得られにくいという問題がある。
【0011】
従って、従来、全固体電池の高容量化と出力特性向上とを高いレベルで両立することが難しいという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、全固体電池の高容量化と出力特性向上とを高いレベルで両立することができる、全固体電池用電極及び該全固体電池用電極を用いた全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る全固体電池用電極は、活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、前記活物質の粒子数に対する前記導電助剤の粒子数の比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が、4以上、80以下であり、前記導電助剤の元素分析をしたときに、前記導電助剤の酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)が、10以上、40以下である。
【0014】
本発明に係る全固体電池用電極のある特定の局面では、前記導電助剤の粒子数が、500百万個/mg以上である。なお、本明細書において、1百万個は100万個を示し、例えば、5百万個は500万個、100百万個は1億個を示す。
【0015】
本発明に係る全固体電池用電極の他の特定の局面では、前記導電助剤が、グラフェン積層構造を有する炭素材料である。
【0016】
本発明に係る全固体電池用電極のさらに他の特定の局面では、前記導電助剤が、端縁から部分的にグラファイトが剥離した構造を有する、部分剥離型薄片化黒鉛である。
【0017】
本発明に係る全固体電池用電極のさらに他の特定の局面では、前記全固体電池用電極が、全固体電池用正極である。
【0018】
本発明に係る全固体電池は、本発明に従って構成される全固体電池用電極を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、全固体電池の高容量化と出力特性向上とを高いレベルで両立することができる、全固体電池用電極及び該全固体電池用電極を用いた全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、部分剥離型薄片化黒鉛の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例で作製したセル(全固体電池)の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0022】
[全固体電池用電極]
本発明の全固体電池用電極は、活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む。本発明においては、上記活物質の粒子数に対する上記導電助剤の粒子数の比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が、4以上、80以下である。また、上記導電助剤の元素分析をしたときに、上記導電助剤の酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)が、10以上、40以下である。
【0023】
本発明の全固体電池用電極では、比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が上記特定の範囲にあり、かつ導電助剤のC/O比が上記特定の範囲にあるため、電極内部に良好な電子伝導パスとイオン伝導パスとを兼ね備えることができる。そのため、活物質を有効に活用することができ、全固体電池の容量を大きくすることができる。また、良好な電子伝導パスとイオン伝導パスとを形成することにより、それぞれ電子抵抗とイオン拡散抵抗とを低減させることができるため、全固体電池の出力特性をも向上させることができる。
【0024】
従って、本発明の全固体電池用電極によれば、全固体電池の高容量化と出力特性向上とを高いレベルで両立することができる。
【0025】
なお、活物質及び導電助剤の粒子数は、例えば、画像解析により求めることができる。具体的には、まず、活物質又は導電助剤をN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPという)に分散させ、10ppm~20ppmの濃度に調整した後、超音波処理を30分間施すことにより分散液を得る。次に、得られた分散液について、例えば、シスメックス社製、フロー粒子像分析装置を用いて、粒子濃度を測定する。測定した粒子濃度を分散液の濃度で除すことにより、粒子数を求めることができる。
【0026】
なお、比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)は、導電助剤の粒子数と電極内の導電助剤の重量比率との積を、活物質の粒子数と電極内の活物質の重量比率との積により除した値である。
【0027】
また、上記C/O比を算出するための炭素原子数及び酸素原子数は、X線光電子分光法(XPS)により求めることができる。X線光電子分光法(XPS)は、例えば、X線光電子分光分析装置(アルバックファイ社製、品番「PHI5000 Versa ProbeII」)を用いて測定することができる。また、XPSは、例えば、下記の条件で測定することができる。
【0028】
X線源:単色化AlKα
光電子取出角:45°
分光器:静電同心半球型分析器
X線ビーム径:200μm
パスエネルギー:58.7eV
測定原子:炭素原子、酸素原子
【0029】
以下、本発明の全固体電池用電極の各材料の詳細について説明する。
【0030】
(活物質)
本発明に用いる活物質は、正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよい。
【0031】
正極活物質は、リチウムイオンなどのイオンの吸蔵、放出が進行するものであればよい。また、正極活物質は、負極活物質の電池反応電位よりも貴であればよい。
【0032】
この際、電池反応には、1族若しくは2族のイオンが関与していればよい。このようなイオンとしては、例えば、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、又はアルミニウムイオンが挙げられる。以下においては、リチウムイオンが電池反応に関与する系について詳細を例示する。
【0033】
リチウムイオンが電池反応に関与する場合、正極活物質としては、例えば、リチウム金属酸化物、リチウム硫化物、又は硫黄が挙げられる。
【0034】
リチウム金属酸化物としては、例えば、スピネル構造、層状岩塩構造、若しくはオリビン構造を有するもの、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
スピネル構造を有するリチウム金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
【0036】
層状岩塩構造を有するリチウム金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系などが挙げられる。
【0037】
オリビン構造を有するリチウム金属酸化物としては、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸コバルトなどが例示される。
【0038】
上記正極活物質には、所謂ドープ元素が含まれてもよい。また、上記正極活物質は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
正極活物質の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。正極活物質の平均粒子径が上記範囲内にある場合、電極をより一層容易に作製することができる。また、正極活物質自身の安定性をより一層向上させることができる。
【0040】
なお、正極活物質の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)や、粒子径分布測定により各粒子の大きさを測定し、その平均を算出した値である。上記粒子は、一次粒子であってもよいし、一次粒子を凝集させた造粒体であってもよい。また、正極活物質には、正極活物質と固体電解質との接触抵抗をより一層低減させることを目的として、LiNbO3やLi4Ti5O12などが被覆されていてもよい。これらの被覆層は、特に限定されない。
【0041】
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m2/g以上、好ましくは50m2/g以下である。正極活物質のBET比表面積が上記範囲内である場合、固体電解質とより接触し易くでき、全固体電池の出力特性をより一層高めることができる。
【0042】
負極活物質は、リチウムイオンなどのイオンの吸蔵、放出が進行するものであればよい。また、負極活物質は、正極活物質の電池反応電位よりも卑であればよい。
【0043】
負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、金属酸化物、チタン酸リチウム、又はシリコン系などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0044】
本発明において、活物質の粒子数は、好ましくは50百万個/mg以上、より好ましくは100百万個/mg以上、好ましくは2000百万個/mg以下、より好ましくは1000百万個/mg以下である。活物質の粒子数が上記範囲内にある場合、良好な電子伝導性とイオン伝導性とをより高いレベルで両立することができる。
【0045】
全固体電池用電極中における活物質の含有量は、例えば、50重量%以上、80重量%以下とすることができる。
【0046】
<固体電解質>
固体電解質としては、1族若しくは2族のイオンのイオン伝導性を有するものであればよい。固体電解質としては、例えば、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、又はポリマー電解質などを用いることができる。
【0047】
硫化物系固体電解質としては、例えば、アルジロダイト系のLi6PS5Cl、LGPS系のLi10GeP2S12、ガラス系固体電解質であるLiS―P2S5などが挙げられる。
【0048】
酸化物系固体電解質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリン酸化合物若しくはその一部を他の元素で置換した置換体、Li7La3Zr2O12系リチウムイオン伝導体等のガーネット型構造又はガーネット型類似の構造を有するリチウムイオン伝導体等が挙げられる。また、Li-La-Ti-O系リチウムイオン伝導体等のペロブスカイト構造又はペロブスカイト類似の構造を有する酸化物系固体電解質を用いることもできる。具体的に、酸化物系固体電解質としては、Li7La3Zr2O12、LiTi(PO4)3、LiGe(PO4)3、LiLaTiO3等が挙げられる。
【0049】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH4単体や、LiBH4とハロゲン化アルカリ金属との固溶体が挙げられる。上記ハロゲン化アルカリ金属としては、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化ルビジウム、ハロゲン化セシウムなどが挙げられる。
【0050】
ポリマー電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、又はポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0051】
これらの固体電解質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0052】
本発明において、固体電解質の含有量は、活物質100重量部に対して、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、好ましくは90重量部以下、より好ましくは80重量部以下である。固体電解質の含有量が上記下限値以上である場合、イオン伝導パスをより一層容易に形成でき、全固体電池の出力特性をより一層向上させることができる。また、固体電解質の含有量が、上記上限値以下である場合は、電極内の活物質量をより一層多くすることができ、全固体電池の電池容量をより一層大きくすることができる。
【0053】
<導電助剤>
本発明で用いる導電助剤としては、例えば、炭素材料が挙げられる。
【0054】
炭素材料の形状としては、特に限定されず、二次元に広がっている形状、球状、繊維状、又は不定形状等が挙げられる。上記炭素材料の形状としては、二次元に広がっている形状であることが好ましい。二次元に広がっている形状としては、例えば、鱗片状又は板状(平板状)が挙げられる。このような二次元的に広がっている形状を有する場合、電子伝導性をより一層高めることができる。なかでも、炭素材料の形状としては、鱗片状であることが好ましい。炭素材料が、鱗片状であることにより、電子伝導性をより一層高めることができる。
【0055】
上記炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料であることが好ましい。この場合、電子伝導性をより一層高めることができる。なお、炭素材料がグラフェン積層構造を有するか否かは、炭素材料のX線回折スペクトルについて、CuKα線(波長1.541Å)を用いて測定したときに、2θ=26度付近のピーク(グラフェン積層構造に由来するピーク)が観察されるか否かにより確認することができる。X線回折スペクトルは、広角X線回折法によって測定することができる。X線回折装置としては、例えば、SmartLab(リガク社製)を用いることができる。
【0056】
グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、例えば、黒鉛又は薄片化黒鉛などが挙げられる。
【0057】
黒鉛とは、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は、通常、10万層~100万層程度である。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛又は膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間距離が大きくなっている割合が高く、薄片化黒鉛の原料としてより好適に用いることができる。
【0058】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。なお、薄片化黒鉛は、酸化薄片化黒鉛であってもよい。
【0059】
薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、特に限定されないが、好ましくは2層以上、より好ましくは5層以上、好ましくは3000層以下、より好ましくは1000層以下、さらに好ましくは500層以下である。グラフェンシートの積層数が上記下限以上である場合、薄片化黒鉛の導電性をより一層高めることができる。グラフェンシートの積層数が上記上限以下である場合、薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0060】
また、薄片化黒鉛は、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であることが好ましい。
【0061】
「部分的にグラファイトが剥離されている」構造の一例としては、グラフェンの積層体において、グラフェン積層体において、端縁からある程度内側までグラフェン層間が開いており、すなわち端縁にてグラファイトの一部が剥離しており、中央側の部分ではグラファイト層が元の黒鉛と同様に積層した構造が挙げられる。この場合、端縁にてグラファイトの一部が剥離している部分は、中央側の部分に連なっている。さらに、部分剥離型薄片化黒鉛には、端縁のグラファイトが剥離され薄片化したものが含まれていてもよい。
【0062】
部分剥離型薄片化黒鉛では、中央側の部分において、グラファイト層が元の黒鉛と同様に積層しているため、従来の酸化グラフェンやカーボンブラックより黒鉛化度が高く、導電性に優れている。また、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有することから、比表面積が大きい。そのため、活物質や固体電解質との接触点数が増加することで、電極内の電子伝導性をより一層高めることが可能となる。
【0063】
図1は、部分剥離型薄片化黒鉛の一例を示す模式図である。
図1に示すように、部分剥離型薄片化黒鉛10では、エッジ部11が剥離されている構造を有する。一方、中央部12では、元の黒鉛と同様のグラファイト構造を有する。また、
図1では、エッジ部11において、剥離されているグラフェン層間に樹脂13が配置されている。このように、部分剥離型薄片化黒鉛10は、部分剥離型薄片化黒鉛と、樹脂との複合体であってもよい。なお、樹脂13は、一部又は全部が炭化されていてもよい。
【0064】
本発明において、部分剥離型薄片化黒鉛におけるグラファイト層の積層数(グラフェン積層数)は、5層以上、3000層以下であることが好ましく、5層以上、1000層以下であることがより好ましく、5層以上、500層以下であることがさらに好ましい。
【0065】
グラファイト層の積層数が上記範囲内にある場合、全固体電池の電池特性をより一層高めることができる。グラファイト層が上記積層数以下の場合は、板状構造がロールし、筒状になることが想定され、その結果、電極内の電子伝導パスが断絶され、電池特性の低下が起こることがある。また、グラファイト層の積層数が多すぎると、導電助剤の粒子数が少なくなることから、電極内部での電子伝導パスの形成が不十分となり、電池特性が悪化することがある。
【0066】
グラファイト層の積層数の算出方法は、特に限定されないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等で目視観察することによって算出することができる。
【0067】
部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、黒鉛または一次薄片化黒鉛と、樹脂とを含み、樹脂が黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフトまたは吸着により固定されている組成物を用意し、該組成物中に含まれている樹脂を、熱分解することにより得ることができる。なお、樹脂を熱分解させる際には、樹脂の一部を残存させながら熱分解する。
【0068】
部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法と同様の方法で製造することができる。すなわち、例えば、黒鉛または一次薄片化黒鉛と、樹脂とを含む組成物を作製する工程と、上記組成物を開放系にて熱分解する工程とを経ることにより、製造することができる。なお、一次薄片化黒鉛とは、各種方法により黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。
【0069】
使用する黒鉛又は一次薄片化黒鉛は、薄層化処理を施したものであってもよい。薄層化処理に用いる装置の例としては、高圧乳化装置、真空乳化装置、真空ビーズミル、撹拌装置が挙げられる。導電助剤の粒子数をより一層増大させる観点からは、高圧乳化装置又は撹拌装置が特に好ましい。
【0070】
上記樹脂の熱分解における加熱の温度としては、樹脂の種類にもより、特に限定されないが、例えば、250℃~1000℃とすることができる。加熱時間としては、例えば、20分~5時間とすることができる。残存する樹脂量の調整がより一層容易であることから、加熱の温度としては、350℃~600℃であることが好ましく、加熱時間としては、40分~3時間であることが好ましい。また、上記加熱は、大気中や低酸素雰囲気下で行ってもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。もっとも、得られる部分剥離型薄片化黒鉛の導電性をより一層高める観点からは、上記加熱を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。また、上記加熱工程を複数回行ってもよい。
【0071】
樹脂としては、特に限定されないが、ラジカル重合性モノマーの重合体であることが好ましい。この場合、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であってもよく、複数種のラジカル重合性モノマーの共重合体であってもよい。ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性の官能基を有するモノマーである限り、特に限定されない。
【0072】
ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α-エチルアクリル酸メチル、α-ベンジルアクリル酸メチル、α-[2,2-ビス(カルボメトキシ)エチル]アクリル酸メチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジシクロヘキシル、α-メチレン-δ-バレロラクトン、α-メチルスチレン、α-アセトキシスチレンからなるα-置換アクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートなどのグリシジル基や水酸基を持つビニルモノマー;アリルアミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノ基を有するビニルモノマー、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ユニケミカル社製、ホスマー(登録商標)M、ホスマー(登録商標)CL、ホスマー(登録商標)PE、ホスマー(登録商標)MH、ホスマー(登録商標)PPなどのリン酸基を有するモノマー;ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマー;アルキル基やベンジル基などを有する(メタ)アクリレート系モノマーなどが挙げられる。
【0073】
用いられる樹脂の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール(ブチラール樹脂)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリエステルなどが挙げられる。
【0074】
なお、樹脂種は使用する溶媒との親和性を鑑み、適宜選定を行うことが可能である。
【0075】
黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定される熱分解前の樹脂の含有量は、樹脂分を除く黒鉛または一次薄片化黒鉛1重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。熱分解前の樹脂の含有量が上記範囲内である場合、熱分解後の残存樹脂の含有量をより一層制御しやすい。また、熱分解前の樹脂の含有量が上記上限値以下である場合、コスト面で、より一層有利である。
【0076】
熱分解後の残存樹脂の含有量は、樹脂分を含む部分剥離型薄片化黒鉛100重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。熱分解後の残存樹脂の含有量が上記下限値以上である場合、表面官能基の量をより一層多くすることができる。また、熱分解後の残存樹脂の含有量が上記上限値以下である場合、電池抵抗をより一層低めることができる。さらに、上記範囲内の残存樹脂が存在することで、導電助剤としての分散性をより一層高めることができ、より均一な電極の作製が可能になる。
【0077】
なお、熱分解前の樹脂の含有量及び部分剥離型薄片化黒鉛に残存している残存樹脂量は、例えば熱重量分析(以下、TG)によって加熱温度に伴う重量変化を測定し、算出することができる。
【0078】
部分剥離型薄片化黒鉛の製造方法は、上記製造方法に加えて、ガス賦活処理を施し、細孔を形成したものであってもよい。ガス賦活処理の例としては、水蒸気賦活、二酸化炭素賦活、酸素賦活が挙げられる。
【0079】
ガス賦活処理の温度としては、例えば、400℃~950℃とすることができる。また、その温度における保持時間は、例えば、15分~3時間とすることができる。なかでも、ガス賦活処理の温度としては、低酸素雰囲気下の場合は400℃~600℃であることが好ましく、二酸化炭素雰囲気下の場合は800℃~1000℃であることが好ましい。また、その温度における保持時間は、30分~2時間であることが好ましい。
【0080】
また、得られた部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、ミルミキサー、ブレンダーミル、ジェットミルやボールミルなどのミルによる粉砕、分級、あるいは、水や、メタノール、エタノール、N-メチルピロリドン(NMP)に代表される有機溶媒に入れた後に超音波処理をして用いてもよい。例えば、ミキサーで粉砕する場合は、粉砕時間により粒径を調整することができる。
【0081】
本発明において、導電助剤の上記C/O比は、10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは13以上、40以下、好ましくは38以下、より好ましくは36以下、さらに好ましくは35以下である。
【0082】
導電助剤のC/O比が、上記下限値以上である場合、高導電性をより確実に維持することができる。他方、C/O比が上記上限値以下である場合、酸素原子の比率が多いため、より良好なイオン伝導パスを形成することができる。また、C/O比が上記上限値以下である場合、酸素原子の比率が多いため、親水性部分をより一層多くすることができ、電極密度をより一層高めることができる。
【0083】
また、部分剥離型薄片化黒鉛の作製工程において、例えば、樹脂配合量を増加させたり、焼成温度を低下させたり、焼成時間を短縮したりすることにより、残存樹脂量を多くすることで、C/O比を大きくすることができる。また、例えば、樹脂配合量を低減したり、焼成温度を上昇させたり、焼成時間を延長したりすることにより、残存樹脂量を少なくすることで、C/O比を小さくすることも可能である。さらには、賦活処理、又は薄層化前処理によってもC/O比の範囲を調整することができる。
【0084】
本発明において、導電助剤の粒子数は、好ましくは500百万個/mg以上、より好ましくは1000百万個/mg以上、さらに好ましくは1500百万個/mg以上である。粒子数が大きい程、電極内により良好な電子伝導パスの形成が可能となる。なお、部分剥離型薄片化黒鉛の作製工程においては、例えば、薄層化前処理の条件を変更したり、溶媒に分散させた後に超音波処理を施したりすることにより、導電助剤の粒子数を多くすることができる。なお、上述したように、本明細書において、1百万個は100万個を示し、例えば、5百万個は500万個、100百万個は1億個を示す。以下、同様とする。
【0085】
また、導電助剤の粒子数は、好ましくは10000百万個/mg以下、より好ましくは9000百万個/mg以下とすることができる。この場合、電極内により良好なイオン伝導パスの形成が可能となる。
【0086】
本発明において、導電助剤の含有量は、活物質100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。導電助剤の含有量が上記下限値以上である場合、電子伝導パスをより一層容易に形成することができ、全固体電池の出力特性をより一層向上させることができる。他方、導電助剤の含有量が上記上限値以下である場合、イオン伝導パスをより一層容易に形成することができ、全固体電池の電池容量をより一層大きくすることができる。
【0087】
本発明の全固体電池用電極では、上記導電助剤に加えて、他の導電助剤が含まれていてもよい。他の導電助剤の形状としては、球状、繊維状、平面上、または不定形状が挙げられる。他の導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、VGCF 、黒鉛、グラフェンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0088】
(バインダー)
本発明の全固体電池用電極は、さらにバインダーを含有していてもよい。もっとも、全固体電池用電極は、バインダーを含有しなくともよい。
【0089】
バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド、ポリビニルブチラール、変性ポリビニルブチラール、変性ポリオレフィン、又はそれらの誘導体などの樹脂を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0090】
バインダーを使用する場合、バインダーの含有量は、活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、好ましくは3重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。充放電に関与する物質の配合量をより一層多くできるという観点からは、全固体電池用電極がバインダーを含まないことが最も好ましい。
【0091】
(全固体電池用電極)
本発明の全固体電池用電極は、少なくとも活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む。全固体電池用電極は、乾式法により作製したペレットのような成型体であってもよい。
【0092】
乾式法としては、例えば、少なくとも活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む電極部材を乳鉢もしくはミキサーで混合した後、プレス成形などにより電極を得る方法が挙げられる。なお、プレス成形の方法は、特に限定されず、例えば、ロールプレスや金型によるプレスが挙げられる。
【0093】
また、全固体電池用電極は、湿式法により、電極部材を含む電極合材層を集電体上に塗工したものであってもよい。湿式法としては、例えば、少なくとも活物質、固体電解質、及び導電助剤、好ましくはバインダーを含む電極部材を溶媒に分散させることでスラリーを作製し、該スラリーを集電体の表面に塗工し、乾燥させる方法が挙げられる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、酪酸ブチル、酪酸ヘキシル、アニソール等が挙げられる。
【0094】
また、全固体電池用電極は、集電体の両面に同じ電極を形成させた形態であってもよく、集電体の片面に正極、他方の面に負極を形成させた形態、すなわち、バイポーラ電極であってもよい。
【0095】
全固体電池用電極の上記電極合材層の厚みは、特に限定されず、例えば、5μm以上、1000μm以下とすることができる。もっとも、目標とする電池性能に応じて適宜変更してもよい。
【0096】
本発明の全固体電池用電極では、活物質の粒子数に対する導電助剤の粒子数の比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が、4以上、好ましくは4.2以上、より好ましくは4.4以上、さらに好ましくは4.6以上、80以下、好ましくは79以下、より好ましくは78以下、さらに好ましくは77以下である。
【0097】
比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が4未満である場合は、電極内部の導電助剤量が不足して、電子伝導パスの形成が不十分となる場合がある。一方で、比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)が80より大きい場合は、導電助剤が活物質と固体電解質の接触を阻害し、イオン伝導パスの形成が困難となる場合がある。
【0098】
このため、比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)を、4以上、80以下とすることで、従来の課題であった電子伝導パスとイオン伝導パスとがともに形成でき、電池特性を向上させることができる。
【0099】
[全固体電池]
本発明の全固体電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に存在する固体電解質層とを有する。上記正極及び上記負極のうち少なくとも一方が、本発明の全固体電池用電極である。そのため、全固体電池の高容量化と出力特性向上とを高いレベルで両立することができる。
【0100】
上記全固体電池では、正極と、負極と、正極及び負極の間に存在する固体電解質層とからなる積層体を倦回、又は複数積層した後に、ラミネートフィルムで外装してもよいし、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形、又はシート形の金属缶で外装してもよい。なお、外装には発生したガスを放出するための機構が備わっていてもよい。また、上記積層体の積層数は、特に限定されず、所望の電圧値、電池容量を発現するまで積層させることができる。
【0101】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
導電助剤の製造例1;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)30gと、カルボキシメチルセルロース(CMC、Aidrich社製)の1%水溶液90gと、超純水810gとを混合し作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、200MPaの圧力で50回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した
【0103】
続けて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度3%)120gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG-600」)10.8g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0104】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、商品名「MBA-2040D-SP」)にて、370℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理することにより、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。焼成により得られたサンプルを粉砕機を用いて1分間粉砕する工程を経た後、同じマッフル加熱装置にて、420℃で20分間、5%酸素を含む窒素雰囲気下で加熱処理することにより、2回目焼成品(2nd焼成品)を得た。最後に粉砕機を用いて3分間粉砕する工程を経て、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤(第1の導電助剤)を作製した。
【0105】
導電助剤のC/O比を算出するための炭素原子数及び酸素原子数は、X線光電子分光分析装置(アルバックファイ社製、品番「PHI5000 Versa ProbeII」)を用い、下記測定条件にて評価を行ったところ、C/O比は、18.6であった。
【0106】
X線源:単色化AlKα
光電子取出角:45°
分光器:静電同心半球型分析器
X線ビーム径:200μm、
パスエネルギー:58.7eV
測定原子:炭素原子、酸素原子
【0107】
また、導電助剤を10ppmとなるようにNMPに分散させた後に、超音波処理装置(ASONE社製、品番「VS-100III」)を用い、100W、発振周波数:28kHzで、超音波を30分間照射し、フロー粒子像分析装置(シスメックス社製、FPIA300S)を用いて粒子数の測定を行ったところ、導電助剤の粒子数は、1867百万個/mgであった。
【0108】
固体電解質の作製;
固体電解質の作製は、Li2S粉末と、P2S5粉末とのメカノケミカルミリング処理により行った。Li2S粉末と、P2S5粉末とを80:20のモル比で秤量し、乳鉢で混錬した。その後、アルミナ製の容器に入れ、直径が10mmのアルミナボールとトルエンとを加えて容器を密閉した。なお、上記の操作はアルゴンガス雰囲気中で行った。容器を遊星ボールミル装置にセットし、400rpmの回転数で40時間処理した。得られたスラリー状の材料を、アルゴンガス雰囲気下でろ過した後、真空乾燥を行うことで、固体電解質を得た。
【0109】
全固体電池用電極の作製;
アニソールにスチレンーブタジエンゴム(SBR)を分散させたバインダー溶液に対して、上記のようにして作製した導電助剤を添加し、撹拌機(練太郎)にて2000rpmで10分間混錬を行った。続いて、準備した混錬溶液に対し、上記のようにして作製した固体電解質を投入し、再び、撹拌機(練太郎)にて2000rpmで10分間混錬した。さらに、活物質として平均粒径が10μmのLiNi5Mn3Co2Oの粉末を投入し、撹拌機(練太郎)にて2000rpmで10分間混錬することにより、電極スラリーを作製した。なお、上記電極スラリーにおいて、活物質、固体電解質、導電助剤、及びバインダーの重量比が67:29:3:1の割合となるように混合した。作製した電極スラリーをアルミ集電箔上に塗工し、自然乾燥させることで全固体電池用電極(全固体電池用正極)を得た。
【0110】
なお、上記活物質の粒子数は、活物質を20ppmとなるようにNMPに分散させた後に、超音波処理装置(ASONE社製、品番「VS-100III」)を用い、100W、発振周波数:28kHzで超音波処理を30分間行った溶液をフロー粒子像分析装置を用いて測定したところ、8.97百万個/mgであった。
【0111】
全固体電池の作製;
続いて、
図2に示すセル(全固体電池)20を作製した。具体的には、Li金属とIn金属とをそれぞれ円柱状に成型し、貼り合わせることで負極22を作製した。この負極22の上に、固体電解質23としてLi
2S―P
2S
5、さらにその上に、上記のようにして作製した全固体電池用正極24を載せ、加圧を行い、セル20を作製した。セル20の組み立ては、露点が-60℃以下、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。なお、セル20では、負極22、固体電解質23、及び全固体電池用正極24の積層体が、ポリカーボネート板21及びSUS基材25により覆われている。
【0112】
(実施例2)
製造例1の導電助剤の代わりに、以下に示す製造例2の導電助剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0113】
導電助剤の製造例2;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS15L」)30gと、カルボキシメチルセルロース(CMC、Aidrich社製)の1%水溶液90gと、超純水810gとを混合して作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、200MPaの圧力で50回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した。
【0114】
続いて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度3%)120gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG-600」)10.8g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0115】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、商品名「MBA-2040D-SP」)にて、370℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理することにより、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。最後に、粉砕機を用いて3分間粉砕する工程を経て、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤(第2の導電助剤)を作製した。
【0116】
作製した導電助剤のC/O比を実施例1と同様にして測定すると、C/O比は22.0であった。また、作製した導電助剤を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、914百万個/mgであった。
【0117】
(実施例3)
製造例1の導電助剤の代わりに、以下に示す製造例3の導電助剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0118】
導電助剤の製造例3;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)3gと、カルボキシメチルセルロース(CMC、Aidrich社製)の1%水溶液9gと、超純水810gとを混合し作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、200MPaの圧力で150回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した。
【0119】
続けて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度0.3%)120gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG-600」)1.08g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0120】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、商品名「MBA-2040D-SP」)にて、370℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理することにより、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。その後、粉砕機を用いて1分間粉砕する工程を経て、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤(第3の導電助剤)を作製した。
【0121】
作製した導電助剤のC/O比を実施例1と同様に測定したところ、C/O比は、13.4であった。また、作製した導電助剤を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、1859百万個/mgであった。
【0122】
(実施例4)
製造例1の導電助剤の代わりに、以下に示す製造例4の導電助剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0123】
導電助剤の製造例4;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)30gと、カルボキシメチルセルロース(CMC、Aidrich社製)の1%水溶液180gと、超純水750gとを混合して作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、150MPaの圧力で50回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した。
【0124】
続けて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度3%)120gと、ポリ酢酸ビニル56%水溶液(日本カーバイド社製、商品名「ニカゾール」)19.3g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0125】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、品番「MBA-2040D-SP」)にて、430℃で2時間、窒素雰囲気下で加熱処理することにより、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。さらに、1st焼成品を同じマッフル加熱装置にて、530℃で100分間、5%酸素を含む窒素雰囲気下で加熱処理することにより、2nd焼成品を得た。続いて、粉砕機を用いて3分間粉砕する工程を経て、最後に、粉砕後の炭素材料を用いて5重量%のNMP分散液を作製し、超音波を6時間照射した後に、NMP溶媒を除去することで、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤(第4の導電助剤)を作製した。
【0126】
作製した導電助剤のC/O比を実施例1と同様にして測定すると、C/O比は32.3であった。また、作製した導電助剤を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、3949百万個/mgであった。
【0127】
(実施例5)
製造例1の導電助剤の代わりに、以下に示す製造例5の導電助剤を用いたこと、さらには、電極における活物質、固体電解質、導電助剤、バインダーの重量比を65:29:5:1としたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0128】
導電助剤の製造例5;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)3gと、カルボキシメチルセルロース(CMC、Aidrich社製)の1%水溶液9gと、超純水810gとを混合し作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、200MPaの圧力で150回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した。
【0129】
続けて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度0.3%)120gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG-600」)1.08g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0130】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、商品名「MBA-2040D-SP」)にて、370℃で1時間、窒素雰囲気下で加熱処理することにより、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。焼成により得られたサンプルを粉砕機を用いて1分間粉砕する工程を経た後、同じマッフル加熱装置にて、420℃で20分間、5%酸素を含む窒素雰囲気下で加熱処理することにより、2回目焼成品(2nd焼成品)を得た。最後に粉砕機を用いて3分間粉砕する工程を経て、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤(第5の導電助剤)を作製した。
【0131】
作製した導電助剤のC/O比を、実施例1と同様にして測定するとC/O比は、16.6であった。また、作製した導電助剤を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、8903百万個/mgであった。
【0132】
(実施例6)
製造例1の導電助剤の代わりに、以下に示す製造例6の導電助剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0133】
導電助剤の製造例6;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)30gと、BYK190(DISPERBYK190、BYK社製)の1%水溶液150gと、超純水750gとを混合して作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、200MPaの圧力で50回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した。
【0134】
続けて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度3%)120gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG-600」)10.8g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0135】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、商品名「MBA-2040D-SP」)にて、370℃で1時間、窒素雰囲気下加熱処理することにより、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。焼成により得られたサンプルを粉砕機を用いて1分間粉砕する工程を経た後、同じマッフル加熱装置にて、420℃で20分間、5%酸素を含む窒素雰囲気下で加熱処理することにより、2回目焼成品(2nd焼成品)を得た。最後に粉砕機を用いて3分間粉砕する工程を経て、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤(第6の導電助剤)を作製した。
【0136】
作製した導電助剤のC/O比を実施例1と同様にして測定すると、C/O比は20.0であった。また、作製した導電助剤を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、3450百万個/mgであった。
【0137】
(比較例1)
製造例1の導電助剤の代わりに、カーボンブラック(IMERIS社製、SuperC65)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0138】
なお、カーボンブラックのC/O比を実施例1と同様にして測定すると、C/O比は513.6であった。また、カーボンブラックを実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、5014百万個/mgであった。
【0139】
(比較例2)
製造例1の導電助剤の代わりに、人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0140】
なお、上記人造黒鉛のC/O比を実施例1と同様にして測定すると、C/O比は46.3であった。また、人造黒鉛を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、841百万個/mgであった。
【0141】
(比較例3)
実施例1の全固体電池用電極を作製するに際し、活物質、固体電解質、導電助剤、バインダーの比率を69:29:1:1としたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0142】
(比較例4)
製造例1の導電助剤の代わりに、製造例5に記載の導電助剤を用い、かつ全固体電池用電極の作製に際し、活物質、固体電解質、導電助剤、バインダーの比率を60:29:10:1としたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0143】
(比較例5)
製造例1の導電助剤の代わりに、以下に示す製造例7の導電助剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0144】
導電助剤の製造例7;
人造黒鉛(IMERIS社製、商品名「KS6L」)30gと、カルボキシメチルセルロース(CMC、Aidrich社製)の1%水溶液90gと、超純水810gとを混合し作製した黒鉛分散液を、衝突型高圧乳化装置にて、200MPaの圧力で50回衝突を繰り返し、黒鉛前処理品を作製した。
【0145】
続けて、得られた黒鉛前処理品(黒鉛濃度3%)120gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG-600」)21.6g(黒鉛に対して3倍)とを混合し、原料組成物を用意した。
【0146】
次に、上記原料組成物をマッフル加熱装置(モトヤマ社製、商品名「MBA-2040D-SP」)にて、300℃で1時間、窒素雰囲気下加熱処理することで、1回目焼成品(1st焼成品)を得た。焼成により得られたサンプルを粉砕機を用いて1分間粉砕する工程を経た後、同じマッフル加熱装置にて、350℃で20分間、5%酸素を含む窒素雰囲気下で加熱処理することで、2回目焼成品(2nd焼成品)を得た。最後に粉砕機を用いて3分間粉砕する工程を経て、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)である導電助剤を作製した。
【0147】
作製した導電助剤のC/O比を、実施例1と同様にして測定すると、C/O比は、8.1であった。また、作製した導電助剤を実施例1と同様にして、フロー粒子像分析装置を用いて粒子数の測定を行ったところ、1450百万個/mgであった。
【0148】
充放電測定;
実施例及び比較例で得られた全固体電池について、Li-In対比で2.4V~3.7Vの電圧範囲にて、充放電評価装置(HJ1001SD8、北斗電工社製)を用いて、充放電測定を行った。本測定では、0.05C、0.1C、0.2C、0.5Cの順に各レートで5サイクルずつの充放電測定を行った。なお、0.05Cでの初回放電容量に対する、0.5Cでの初回充放電容量の割合を出力特性値とした。
【0149】
初回容量(初期容量)及び出力特性値の結果を下記の表1に示す。なお、下記の表1では、活物質の粒子数に対する前記導電助剤の粒子数の比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)と、導電助剤のC/O比の結果を併せて示している。比(導電助剤の粒子数/活物質の粒子数)は、導電助剤の粒子数と電極内の導電助剤の重量比率との積を、活物質の粒子数と電極内の活物質の重量比率との積により除することにより求めた。
【0150】
【0151】
表1より、本発明の実施例1~6の全固体電池は、比較例1~5の全固体電池よりも容量が大きく、良好な出力特性を示すことが確認できた。
【符号の説明】
【0152】
10…部分剥離型薄片化黒鉛
11…エッジ部
12…中央部
13…樹脂
20…セル(全固体電池)
21…ポリカーボネート板
22…負極
23…固体電解質
24…全固体電池用正極
25…SUS基材