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特開2023-2772脂肪細胞および細胞分泌物を使用する治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002772
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】脂肪細胞および細胞分泌物を使用する治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/35 20150101AFI20221227BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221227BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20221227BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20221227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20221227BHJP
【FI】
A61K35/35
A61P29/00
A61K47/20
A61K35/16
A61P43/00 121
C12N5/077
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172507
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2021195358の分割
【原出願日】2012-09-21
(31)【優先権主張番号】2011903938
(32)【優先日】2011-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2012901350
(32)【優先日】2012-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2012903646
(32)【優先日】2012-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518197432
【氏名又は名称】レジニアス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グラハム・ヴェシー
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ・アン・ウェブスター
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・リリシュキス
(57)【要約】
【課題】炎症障害、靭帯および腱損傷を治療するための改良法、ならびに方法中で使用するための組成物が依然として必要とされる。集約的な動物飼育と関係がある有害な健康状態を治療および予防するための改良法が、依然として必要とされる。対象における疼痛の治療、および治療中で使用するための組成物が依然として必要とされる。
【解決手段】本発明は、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)脂肪組織由来細胞分泌物と、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを含む組成物、ならびに、様々な状態を治療するための医薬組成物および方法におけるそれらの使用に関する。本発明はさらに、細胞の低温保存用に改良した方法、作用物質および組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織から得られた細胞を培養する工程;
培養後の細胞を取得する工程;
脂肪組織に由来する細胞の分泌物を取得する工程;及び
前記培養後の細胞と前記細胞の分泌物とを混合して、混合物を取得する工程
を含む、薬剤の製造方法。
【請求項2】
前記細胞を培養する工程は、前記細胞を接着培養する工程を含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項3】
前記細胞を培養する工程は、前記細胞が融合状態になるまで培養する工程を含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項4】
前記細胞を培養する工程は、前記細胞を継代培養する工程を含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項5】
前記培養後の細胞を取得する工程は、前記培養後の細胞を剥離する工程を含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項6】
前記細胞の分泌物を取得する工程は、脂肪組織に由来する細胞を接着培養し、接着培養により得られた培養物から上清を取得する工程を含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項7】
前記細胞の分泌物を取得する工程は、前記上清を濾過する工程を更に含む、請求項6に記載の薬剤の製造方法。
【請求項8】
前記細胞の分泌物を取得する工程は、前記上清を遠心分離する工程を更に含む、請求項6に記載の薬剤の製造方法。
【請求項9】
前記細胞の分泌物を取得する工程は、前記上清を濃縮する工程を更に含む、請求項6に記載の薬剤の製造方法。
【請求項10】
前記混合する工程は、前記培養後の細胞を、DMSOと前記細胞の分泌物とを含む組成物に懸濁させる工程を含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項11】
前記混合する工程の後に、前記混合物を室温又は37度で30分以上保持する工程を更に含む、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項12】
脂肪組織から得られた細胞の培養物と、脂肪組織に由来する細胞の分泌物を含む組成物との混合物である、薬剤。
【請求項13】
疼痛又は炎症の低減のための、請求項12に記載の薬剤。
【請求項14】
前記組成物中の前記細胞の培養物の懸濁液である、請求項12に記載の薬剤。
【請求項15】
前記細胞の培養物は、前記脂肪組織から得られた細胞の継代培養物である、請求項12に記載の薬剤。
【請求項16】
前記脂肪組織から得られた細胞は、ヒト又は非ヒト哺乳動物の脂肪組織から得られた細胞である、請求項12に記載の薬剤。
【請求項17】
前記細胞の分泌物は、サイトカインを含む、請求項12に記載の薬剤。
【請求項18】
前記細胞の分泌物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物の脂肪組織に由来する細胞の分泌物である、請求項12に記載の薬剤。
【請求項19】
ジメチルスルホキシド又は血清を更に含む、請求項12に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年9月23日に出願された「治療法および組成物」という表題のオーストラリア仮特許出願第2011903938号から、および2012年4月4日に出願された「治療法および組成物」という表題のオーストラリア仮特許出願第2012901350号から、および2012年8月23日に出願された「治療法および組成物」という表題のオーストラリア仮特許出願第2012903646号からの優先権を主張するものであり、これら各々の全容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを含む組成物、ならびに、哺乳動物対象において、炎症障害、靭帯損傷、腱損傷などの様々な状態を治療するため、またはこのような状態、炎症障害、靭帯損傷もしくは腱損傷と関連した疼痛を軽減するための医薬組成物および方法におけるそれらの使用に関する。本発明の方法では、炎症障害または状態に冒された部位から離れた患者の部位に組成物を投与する。本発明は、広く飼育されている動物における疾患を治療または予防するための医薬組成物および方法での、このような組成物の使用に関するものでもあり、前記投与は皮下または筋肉内注射による。本発明は、対象における疼痛の治療に関するものでもあり、その治療は皮下注射または筋肉内注射による。本発明はさらに、対象における神経障害性疼痛の治療に関する。本発明はさらに、細胞の低温保存用に改良した方法、作用物質および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
脂肪組織は、多量の脂質が充填された脂肪細胞の細胞集団、ならびに様々な結合繊維と結合した細胞と、毛細血管および大きな血管と結合した細胞とを含む、非脂肪細胞の細胞集団を含有する。非脂肪細胞の細胞集団は脂肪由来成体幹細胞の集団を含むとも考えられ、したがって、様々な治療用途の単離幹細胞の供給源としての脂肪組織の使用に関心が存在している。
【0004】
一般に、脂肪組織由来の推定幹細胞を得るための方法は、脂肪由来非脂肪細胞の細胞集団から脂肪細胞を枯渇させることを含み、これはコラゲナーゼなどの酵素で脂肪組織を消化すること、および次いで消化サンプルの遠心分離により遊離細胞を分離することを必要とする。遠心分離中、脂肪由来非脂肪細胞を脂肪細胞と分離してペレットを形成し、一方で脂質含有脂肪細胞は浮遊する。次いで非脂肪細胞分画を組織幹細胞の供給源として使用する。
【0005】
本発明者らは、対象における炎症障害の治療または炎症障害と関連した疼痛の軽減、ならびに軟骨または骨障害などの状態の疼痛の治療および軽減において使用するための、医薬組成物の調製用の脂肪細胞を含む脂肪組織由来細胞懸濁液の使用を以前に記載している。これは、その内容が相互参照により本明細書に組み込まれる、オーストラリア特許出願第2009201915号、および国際公開第WO2010/020005号中に記載される。本発明者らは、このような状態と関連した疼痛の軽減を含めた様々な状態および疾患の治療において使用するための、組成物の調製用の脂肪組織由来細胞分泌物の使用も以前に記載している。
【0006】
食肉用に飼育する動物における急速な成長、効率良い飼料変換および筋肉多量蓄積、または乳用動物における乳の質および量などの、特定の望ましい形質のための選択的動物品種の作製も、野生型集団などの集約性が低い品種または選択動物より、しばしば有害な健康状態の発生率が高い傾向にある現代動物品種をもたらしている。このような有害な形質の臨床的発生率または影響は、集約的飼育操作などの、動物を飼育する形式によって悪化する可能性がある。集約的条件下で飼育した現代のブタ品種は、例えば、骨軟骨炎(OCD)、関節炎など脚部が弱く、顕性および不顕性細菌感染のリスクが高い傾向があり、これらはいずれも動物の一般的健康状態に悪影響を与える、したがって飼育操作に悪影響を与える可能性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】オーストラリア特許出願第2009201915号
【特許文献2】国際公開第WO2010/020005号
【特許文献3】同時係属出願PCT/AU2012/000272
【特許文献4】同時係属出願PCT/AU2012/000274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炎症障害、靭帯および腱損傷を治療するための改良法、ならびに方法中で使用するための組成物が依然として必要とされる。集約的な動物飼育と関係がある有害な健康状態を治療および予防するための改良法が、依然として必要とされる。対象における疼痛の治療、および治療中で使用するための組成物が依然として必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
脂肪組織由来細胞懸濁液および無細胞組成物を使用する、炎症障害の治療に関して以前に記載された方法は、関節接合の場合関節内注射などによる、罹患部位への組成物または懸濁液の投与を教示する。驚くことに、本発明者は現在、罹患部位への治療用組成物の直接投与は必要とされないことを確認している。驚くことに本発明者は、脂肪組織由来細胞懸濁液からの分泌物を含む組成物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物の遠隔送達、またはこれらの組合せもこのような状態の治療において有効であり得ることを確認している。
【0010】
驚くことに本発明者らは、間葉系幹細胞など、脂肪組織由来幹細胞などの凍結幹細胞を、様々な状態の治療における治療剤として使用することができることを確認している。驚くことに、このような凍結細胞は、凍結保存からの回収後の細胞培養を必要とせずに使用することができる。本発明者らは、細胞由来分泌物の存在下での細胞の保存によって、脂肪組織由来の細胞を含めた低温保存幹細胞の、生存能力および増殖能力が向上することも確認している。
【0011】
したがって、本発明の第一の態様では、対象において、炎症障害、靭帯損傷および腱損傷からなる群から選択される状態を治療する、または炎症障害、靭帯損傷もしくは腱損傷と関連した疼痛を軽減する方法であって、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む医薬組成物を対象に投与するステップを含み、前記対象への前記投与が前記状態の部位から離れた部位である方法を提供する。一実施形態では、対象は哺乳動物対象である。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、細胞の凝集体を含む、およびまたは脂肪組織片を含む。一実施形態では、細胞懸濁液は脂肪細胞を含む。一実施形態では、細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は、細胞培養培地と蒸留水から選択される液状担体を含む。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せは、DMEMなどの細胞培養培地である液状担体を含む。
【0012】
一実施形態では、炎症障害または状態は、骨関節炎、後膝疾患、ウォブラー病、腱損傷および靭帯損傷からなる群から選択される。一実施形態では、炎症障害はアトピー性皮膚炎である。一実施形態では、炎症障害または状態は、関節リウマチ、背部痛、および多発性硬化症からなる群から選択される。一実施形態では、炎症障害または状態は免疫誘導性疾患である。一実施形態では、方法は脂肪組織由来細胞分泌物の投与を含む。一実施形態では、方法は脂肪組織由来細胞懸濁液の投与を含む。一実施形態では、投与は皮下投与である。一実施形態では、投与は筋肉内投与である。一実施形態では、投与は臀部、腕、または尻中である。一実施形態では、投与は対象の頸部、対象の首筋など、対象がイヌまたはネコであるときは頸部のうなじなどである。
【0013】
第二の態様では、対象における関節の疾患または状態を治療する方法であって、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む医薬組成物を対象に投与するステップを含み、前記対象への前記投与が前記状態の部位から離れた部位である方法を提供する。一実施形態では、対象は哺乳動物対象である。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、細胞の凝集体を含む、およびまたは脂肪組織片を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は、細胞培養培地と蒸留水から選択される液状担体を含む。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せは、DMEMなどの細胞培養培地である液状担体を含む。一実施形態では治療は、皮下注射により前記哺乳動物に、脂肪組織由来細胞懸濁液を含む医薬組成物を投与するステップを含む。一実施形態では、皮下投与する細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、皮下投与する細胞懸濁液は脂肪細胞を含む。
【0014】
一実施形態では、哺乳動物対象はウマ科、ネコ科、イヌ科、ウシ科またはブタ科動物である。一実施形態では、対象はヒトである。一実施形態では、対象は家禽類である。
【0015】
一実施形態では、投与は皮下投与である。一実施形態では、投与は筋肉内投与である。一実施形態では、投与は臀部、腕、または尻中である。一実施形態では、投与は対象の頸部、対象の首筋など、対象がイヌまたはネコであるときは頸部のうなじなどである。
【0016】
本発明の第三の態様では、集約的飼育動物における疾患を治療または予防するための方法であって、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)脂肪組織由来細胞分泌物と、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを含む医薬組成物を動物に投与するステップを含み、前記投与が皮下注射または筋肉内注射による方法を提供する。
【0017】
一実施形態では、集約的飼育動物の疾患は整形発育疾患である。一実施形態では、集約的飼育動物の疾患は、脚部弱体化、跛行、関節炎、発育疾患および細菌感染からなる群から選択される。一実施形態では、発育疾患は骨軟骨炎(OCD)である。
【0018】
一実施形態では、疾患の臨床症状の発症前に、動物に医薬組成物を投与する。一実施形態では、集約的飼育動物はブタであり、骨軟骨炎などの整形発育疾患の臨床症状の発症前に、医薬組成物を投与する。
【0019】
一実施形態では、集約的飼育動物は、ブタ、ウシ、ヒツジ、および家禽類からなる群から選択される。
【0020】
一実施形態では、集約的飼育動物は品種改良したメスである。一実施形態では、集約的飼育動物は妊娠したメスである。一実施形態では、動物は妊娠したメスブタである。一実施形態では、妊娠したメスブタは、骨軟骨炎または関節炎の臨床症状を有する。
【0021】
一実施形態では、投与は皮下投与である。一実施形態では、投与は筋肉内投与である。一実施形態では、投与は対象の頸部、対象の首筋などである。
【0022】
以下の実施形態を、文脈が明らかに他のことを示さない限り、本明細書における本発明の全ての態様に適用する。
【0023】
一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は脂肪組織由来細胞懸濁液から調製する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞をさらに含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は成熟脂肪細胞を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は、脂肪組織由来細胞懸濁液の培養によって調製する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞をさらに含む。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は細胞の凝集体を含む、およびまたは脂肪組織片を含む。
【0024】
一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液の調製中に(i)脂肪細胞含有物の一部または(ii)実質的に全ての脂肪細胞含有物の除去を含む方法によって、脂肪組織由来細胞懸濁液を調製する。
【0025】
一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は濃縮調製物である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液またはその培養物から初期に採取した細胞分泌物と比較して、濃縮調製物を濃縮する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は約2倍と約20倍の間で濃縮された調製物である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は約10倍濃縮された調製物である。
【0026】
一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物はウシ科、イヌ科、ブタ科またはウマ科起源である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物はヒト起源である。
【0027】
一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物はレシピエント対象または動物自己由来の脂肪組織に由来する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物はレシピエント対象または動物と同種異系である脂肪組織に由来する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物はレシピエント対象または動物と異種の脂肪組織に由来する。
【0028】
一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は成熟脂肪細胞を含む。
【0029】
一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液はウシ科、イヌ科、ブタ科またはウマ科起源である。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、レシピエント対象または動物自己由来の脂肪組織に由来する。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、レシピエント対象または動物と同種異系である脂肪組織に由来する。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、脂肪組織由来細胞分泌物はレシピエント対象または動物と異種の脂肪組織に由来する。
【0030】
一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、培養中の細胞増量によって得る細胞懸濁液である。
【0031】
一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物、またはその医薬組成物を、投与前に凍結保存する。
【0032】
一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、またはその医薬組成物を、投与前に凍結保存する。
【0033】
一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液と組合せた脂肪組織由来細胞分泌物、またはその医薬組成物を、投与前に凍結保存する。一実施形態では、前記組合せ中の細胞分泌物は濃縮調製物である。一実施形態では、濃縮前の分泌物と比較して2倍と20倍の間で調製物を濃縮する。
【0034】
一実施形態では、方法は、レシピエント対象または動物への投与の前に、(i)凍結した脂肪組織由来細胞分泌物を解凍するステップ、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む凍結した脂肪組織由来細胞懸濁液を解凍するステップ、または(iii)凍結した脂肪組織由来細胞分泌物と、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを解凍するステップ、または(iv)(i)、(ii)もしくは(iii)のいずれかの凍結した医薬組成物を解凍するステップをさらに含む。
【0035】
一実施形態では、凍結した分泌物、細胞懸濁液、それらの組合せ、またはそれらの医薬組成物を、解凍直後、解凍後約10分以内、または解凍後約20分以内、または解凍後約30分以内、または解凍の約1時間以内、または解凍の約2時間以内などに、レシピエント対象または動物へ投与する。
【0036】
一実施形態では、方法は、レシピエント対象または動物に前記組合せを投与する前に、(i)脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物と、(ii)脂肪細胞を場合によっては含む凍結した脂肪組織由来細胞懸濁液とを組合せるステップをさらに含む。一実施形態では、前記投与の2時間前に前記組合せを行う。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物を含む前記組成物、および脂肪細胞を場合によっては含む前記脂肪組織由来細胞懸濁液の一方または両方を、前記組合せ前に凍結保存する。さらなる実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、および脂肪細胞を場合によっては含む前記脂肪組織由来細胞懸濁液を、組成物を凍結する前に一緒に混合する。
【0037】
一実施形態では、医薬組成物は獣医学用組成物であり、対象は非ヒト動物である。
【0038】
本発明の第四の態様では、哺乳動物対象における、炎症障害、靭帯損傷、および腱損傷からなる群から選択される状態の治療、または炎症障害、靭帯損傷もしくは腱損傷と関連した疼痛の軽減において使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、組成物が前記状態の部位から離れた前記対象の部位への投与に適している使用を提供する。
【0039】
第五の態様では、哺乳動物対象における、関節の疾患または状態の治療において使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、組成物が前記状態の部位から離れた前記対象の部位への投与に適している使用を提供する。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は細胞の凝集体を含む、および/または脂肪組織片を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を含む。
【0040】
本発明の第六の態様では、集約的飼育動物における疾患の治療または予防において使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、組成物が皮下注射または筋肉内注射に適している使用を提供する。
【0041】
本発明の第七の態様では、炎症障害、靭帯損傷、および腱損傷からなる群から選択される状態を治療するため、または炎症障害、靭帯損傷もしくは腱損傷と関連した疼痛を軽減するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む組成物であって、上記状態に冒された部位から離れた対象の部位に投与する組成物を提供する。一実施形態では、組成物は注射用組成物である。一実施形態では、投与は皮下注射または筋肉内注射による。
【0042】
本発明の第八の態様では、哺乳動物対象における関節の疾患または状態を治療するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む組成物であって、前記状態の部位から離れた前記対象の部位に投与する組成物を提供する。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は細胞の凝集体を含む、およびまたは脂肪組織片を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を含む。
【0043】
本発明の第九の態様では、集約的飼育動物における疾患の治療または予防のための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む組成物であって、前記治療または予防において皮下注射または筋肉内注射によって投与する組成物を提供する。
【0044】
本発明の第十の態様では、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントと一緒に、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む医薬組成物を提供する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物は脂肪細胞をさらに含む。一実施形態では、組成物は凍結組成物である。
【0045】
本発明の第十一の態様では、(a)(i)脂肪組織由来分泌物を含む組成物、(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物、および(iii)(i)と(ii)の組合せからなる群から選択される医薬組成物、ならびに(b)炎症障害、靭帯損傷、および腱損傷からなる群から選択される状態の治療、または炎症障害、靭帯損傷もしくは腱損傷と関連した疼痛の軽減においてキットを使用するための説明書を含むキットであって、前記治療が前記状態に冒された部位から離れた対象の部位への前記医薬組成物の投与を含むキットを提供する。
【0046】
本発明の第十二の態様では、(a)(i)脂肪組織由来分泌物を含む組成物、(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物、および(iii)(i)と(ii)の組合せからなる群から選択される医薬組成物、ならびに(b)哺乳動物対象における関節の疾患または状態の治療においてキットを使用するための説明書を含むキットであって、前記治療が関節の疾患または状態に冒された関節から離れた対象の部位への前記医薬組成物の投与を含むキットを提供する。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は細胞の凝集体を含む、および/または脂肪組織片を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を実質的に含まない。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を含む。
【0047】
本発明の第十三の態様では、(a)(i)脂肪組織由来分泌物を含む組成物、(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物、および(iii)(i)と(ii)の組合せからなる群から選択される医薬組成物、ならびに(b)集約的飼育動物における疾患の治療または予防においてキットを使用するための説明書を含むキットであって、前記治療または予防において皮下注射または筋肉内注射によって組成物を投与するキットを提供する。
【0048】
一実施形態では、キットは1つまたは複数の凍結組成物を含む。一実施形態では、キットは、組合せ組成物の投与の前に、脂肪組織由来分泌物を含む組成物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物とを組合せることに関する説明書を含む。一実施形態では、キットは、1つまたは複数のシリンジなどの、1つまたは複数の注射用デバイスをさらに含む。一実施形態では、注射用デバイスは組成物キットを含有する。
【0049】
本発明の第十四の態様では、哺乳動物対象における疼痛を軽減する方法であって、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む医薬組成物を対象に投与するステップを含み、前記対象への前記投与が、筋肉内注射または皮下注射または疼痛の部位またはその近辺への投与に適した形による方法を提供する。一実施形態では、疼痛は炎症障害、靭帯損傷、および腱損傷からなる群から選択される状態と関係がある。一実施形態では、疼痛は骨関節炎、後膝疾患、ウォブラー病、腱損傷および靭帯損傷と関係がある。一実施形態では、疼痛はアトピー性皮膚炎と関係がある。一実施形態では、疼痛は関節リウマチ、背部痛、または多発性硬化症と関係がある。一実施形態では、疼痛は脚部弱体化、跛行、関節炎、発育疾患および細菌感染からなる群から選択される状態と関係がある。一実施形態では、疼痛は骨軟骨炎(OCD)と関係がある。一実施形態では、疼痛は火傷障害と関係がある。一実施形態では、疼痛は頸部およびまたは肩の疼痛、鞭打ち症関連障害、または複合性局所疼痛症候群である。一実施形態では、疼痛は背部痛である。一実施形態では、疼痛は下部背部痛である。一実施形態では、疼痛は坐骨神経障害と関係がある。一実施形態では、治療は識別可能な原因となる臨床状態がない疼痛に関するものである。一実施形態では、治療は、対象が疼痛を経験する身体の一部または領域において、識別可能な原因となる臨床状態がない疼痛に関するものである。一実施形態では、疼痛は神経障害性疼痛である。一実施形態では、神経障害性疼痛は、識別可能な原因となる臨床状態がない疼痛である。一実施形態では、投与に適した形は注射である。一実施形態では、投与に適した形は局所施用である。神経障害性疼痛は身体の一領域に局在する可能性があり、または神経障害性疼痛は対象の身体の多数の部位で経験され得る。多数の部位で経験されるとき、疼痛の強度は多数の部位で同等である可能性があり、またはそれは多数の部位で異なる可能性がある。一実施形態では、神経障害性疼痛は顔面神経障害性疼痛である。一実施形態では、神経障害性疼痛は顔面神経障害性疼痛であり、前記対象への投与は下顎または歯肉への注射による。一実施形態では、下顎または歯肉への注射は疼痛の発生源の部位への注射である。一実施形態では、疼痛は関節疾患または関節障害に関するものであり、前記関節から離れた前記対象の部位に組成物を投与する。一実施形態では、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は細胞の凝集体を含む、およびまたは脂肪組織片を含む。
【0050】
本発明の第十五の態様では、哺乳動物対象における疼痛を軽減する際に使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、医薬組成物が、筋肉内注射もしくは皮下注射、または疼痛の部位またはその近辺への投与に適した形、局所投与などによる、前記対象への投与に適している使用を提供する。
【0051】
本発明の第十六の態様では、哺乳動物対象における疼痛を軽減するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む組成物であって、医薬組成物を、筋肉内注射または皮下注射または疼痛の部位またはその近辺への投与に適した形、局所投与などにより前記対象へ投与する組成物を提供する。
【0052】
本発明の第十七の態様では、(a)(i)脂肪組織由来分泌物を含む組成物、(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物、および(iii)(i)と(ii)の組合せからなる群から選択される医薬組成物、ならびに(b)哺乳動物対象における疼痛を軽減する際にキットを使用するための説明書を含むキットであって、医薬組成物を、筋肉内注射または皮下注射または疼痛の部位またはその近辺への投与に適した形、局所投与などにより前記対象へ投与するキットを提供する。
【0053】
さらなる態様では、本発明は、脂肪組織由来細胞および脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物を提供する。一実施形態では、細胞は接着細胞である。一実施形態では、細胞は間葉系幹細胞である。一実施形態では、組成物は凍結組成物である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は脂肪組織由来細胞の培養物由来の清澄化培地を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は、脂肪組織由来細胞の培養物由来の培地の濃縮調製物である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は2倍と20倍の間で濃縮された調製物である。一実施形態では、組成物は脂肪細胞をさらに含む。一実施形態では、細胞は脂肪組織由来細胞懸濁液の培養物由来の子孫細胞である。一実施形態では細胞は、脂肪組織由来細胞懸濁液の培養によって得た細胞系を含む。一実施形態では、子孫細胞は、脂肪組織由来細胞懸濁液由来の細胞の複数回継代に由来する。一実施形態では、複数回継代は5回以上の継代を含む。一実施形態では、複数回継代は10回以上の継代を含む。一実施形態では、組成物は複数回凍結した脂肪組織由来細胞系の細胞を含む。
【0054】
さらなる態様では、本発明は、保存細胞の低温保存のための方法であって、前記細胞と細胞分泌物を含む組成物とを組合せるステップ、および凍結状態で前記組合せを保存するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、方法は細胞系の低温保存用である。一実施形態では、前記保存の前に、組合せを最大1時間室温で保持する。一実施形態では、前記保存細胞は接着細胞である。一実施形態では、保存細胞は間葉系幹細胞である。一実施形態では、保存細胞は脂肪組織由来細胞である。一実施形態では、細胞系は脂肪組織由来細胞系である。一実施形態では、細胞分泌物を含む組成物は、脂肪組織由来細胞懸濁液の培養物由来の清澄化培地を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液の培養物は、脂肪組織由来細胞懸濁液の子孫細胞の培養物である。一実施形態では、細胞分泌物を含む組成物は、脂肪組織由来細胞懸濁液の培養物由来の濃縮培地を含む。一実施形態では、細胞分泌物を含む組成物は、2倍と20倍の間で濃縮された脂肪組織由来細胞懸濁液の培養物由来の培地を含む。一実施形態では、細胞系を複数回継代している。一実施形態では、細胞系を5回より多く継代している。一実施形態では、細胞系を10回より多く継代している。一実施形態では、細胞系を15回より多く継代している。一実施形態では、細胞系を複数回凍結している。
【0055】
本明細書に記載する実施形態は、本明細書に記載する本発明の任意および全ての態様に等しく適用すること、簡潔性のため本発明の各態様下でそれらを単に繰り返すわけではないことは理解される。
【0056】
前に記載した本発明の概要は限定的ではなく、本発明の他の特徴および利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】凍結後の細胞の増殖の図である。継代せず分泌物無し(左グラフ)および分泌物有り(右グラフ)で凍結した細胞を、増殖細胞を確認するClick-iT ERDアッセイで染色した。増殖細胞は右上の四分円に出現する。
図2】凍結後の細胞の回収の図である。約13回の累積細胞倍加に達するまで培養した細胞を分泌物無し(上図)および分泌物有り(下図)で凍結し、次いで解凍し72時間培養した。
図3】SVF+脂肪細胞分泌物(■)または賦形剤対照(●)で筋肉内を治療したコラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)マウスモデルからの、脚部体積測定の図である。
図4】SVF+脂肪細胞分泌物(■)または賦形剤対照(●)で筋肉内を治療したコラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)マウスモデルからの、踝サイズ測定の図である。
図5】SVF+脂肪細胞分泌物(■)または賦形剤対照(●)で筋肉内を治療したコラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)マウスモデルからの、臨床的関節炎スコアの図である。
図6】細胞または細胞および濃縮分泌物で静脈内を治療したCAIAマウスからの、脚部体積測定の図である。細胞(■)、細胞および分泌物(●)。
図7】脚部体積のエリアアンダーザカーブは、細胞または細胞および濃縮分泌物で静脈内を治療したCAIAマウスから生じることを示す図である。
図8】細胞または細胞および濃縮分泌物で静脈内を治療したCAIAマウスからの、踝サイズ測定の図である。細胞(■)、細胞および分泌物(●)。
図9】踝サイズのエリアアンダーザカーブは、細胞または細胞および濃縮分泌物で静脈内を治療したCAIAマウスから生じることを示す図である。
図10】細胞または細胞および濃縮分泌物で静脈内を治療したCAIAマウスからの、臨床的関節炎スコアの図である。細胞(■)、細胞および分泌物(●)。
図11】臨床的関節炎スコアのエリアアンダーザカーブは、細胞または細胞および濃縮分泌物で静脈内を治療したCAIAマウスから生じることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
略語
DMEM ダルベッコ改変イーグル培地。
SVC 間質血管細胞。
SVF 間質血管細胞分画。
OCD 骨軟骨炎。
MSC 間葉系幹細胞(複数可)。
【0059】
定義
本発明の文脈では、「脂肪組織由来分泌物」を含む組成物の言及は、脂肪組織の細胞から放出される1つまたは複数の因子を含む組成物を意味すると理解される。分泌物を含む組成物の調製において使用する材料は脂肪細胞を含み得るか、または含み得ない。
【0060】
担体、希釈剤、低温保存剤などの本発明に関する様々な要素の文脈で、本明細書において使用する用語「薬学的に許容される」は、ヒト対象への投与に適したような要素だけでなく、非ヒト哺乳動物対象への投与に適した要素も包含するものとする。特定の実施形態では、薬学的に許容される要素は非ヒト哺乳動物対象への投与に適している。特定の実施形態では、薬学的に許容される要素はヒト対象への投与に適している。特定の実施形態では、薬学的に許容される要素は非ヒト哺乳動物対象への投与、およびヒト対象への投与に適している。
【0061】
本明細書の文脈での「治療する」、「治療」、「療法」などの用語は、集約的飼育動物の炎症障害、靭帯損傷、または腱損傷もしくは疾患などの状態または疾患の、症状および/または根本的原因の軽減を指す。特定の実施形態では、治療は、障害または障害もしくは損傷の症状の進行を鈍化、遅延または停止させる、または少なくとも一時的に障害もしくは損傷の進行を逆行させる。したがって、本発明の文脈では、語句「治療」または「治療する」などのその派生語は、治療用途に関して使用するとき、例えば、治療する状態と関連した疼痛の軽減、治療する状態の重傷度の軽減、治療する状態の1つまたは複数の症状の改善などの、療法の全ての態様を含む。語句「治療」またはその派生語の使用は、「治療する」対象が、任意の1つまたは複数の前述の利点を経験し得ることを意味すると理解される。
【0062】
疾患の「予防」の文脈での用語「予防する」などは、疾患の症状または根本的原因の進行の妨害を指す。治療する動物または対象において疾患が発生しないように、疾患の完全な予防を実施可能であることは理解される。同様に、この用語が、未治療動物または対象で観察される典型的状態に疾患が進行しないような、部分的予防を含むことは理解される。
【0063】
本明細書を通じて、文脈が他の事を決めない限り、「一つの」または「1つの」要素という言及は複数形を除外するものではない。同様に、「一実施形態」という言及は、文脈が他の事を決めない限り、記載する1つまたは複数の他の実施形態と組合せて適用する、記載するその実施形態の特徴を除外するものではない。
【0064】
本明細書において使用する用語「治療有効量」は、その意味の範囲内に、望ましい治療効果をもたらすため本発明中で使用するための、無毒ただし十分な量の化合物または組成物を含む。必要とされる正確な量は、治療する種、対象の年齢および一般的状態、同時罹患率、治療する状態の重傷度、投与する個々の作用物質、および投与の形式などの要因に応じて対象毎に変わる。したがって、任意の所与の場合に関して、当業者によりごく一般的な方法を使用して、適切な「有効量」を決定することができる。
【0065】
本明細書の文脈では、用語「comprising」は含むことを意味するが、必ずしも単に含むことを意味するわけではない。さらに、語句「comprising」、「comprise」および「comprises」などの変形は、相応じて変わる意味を有する。したがって、用語「comprising」およびその変形は、他の整数または特徴が組成物、方法などにおいて場合によっては存在する可能性があり、整数Aを含む、または整数AおよびBを含むなどとしてそれが記載されるように、除外的な意味ではなく包括的な意味で使用する。
【0066】
本明細書の文脈では、用語「約」は、当業者が所与の値と関連付ける通常の許容範囲を示すと理解される。
【0067】
本明細書の文脈では、パラメーターに関して範囲を言及する場合、そのパラメーターは、その範囲の言及する終点を含めた、言及する範囲内の全ての値を含むことは理解される。例えば、「5~10」の範囲が、値5、6、7、8、9、および10、ならびに言及する範囲内の任意の下位範囲を含み、例えば6~10、7~10、6~9、7~9などの下位範囲を含み、言及する範囲の文脈で妥当な整数間の任意の値および範囲、例えば5.5、6.5、7.5、5.5~8.5および6.5~9などを含むことは理解される。
【0068】
本明細書の文脈では、用語「複数」は1より大きい任意の数を意味する。
【0069】
治療または療法における本発明の方法および組成物の使用に対する本明細書の言及は、ヒト、および獣医学的用途などで非ヒトに適用可能であると理解されることを記さなければならない。したがって、他の事を示す場合以外、患者、対象または個体に対する言及は、ヒツジ科、ウシ科、ウマ科、ブタ科、ネコ科、イヌ科、霊長類、げっ歯類の分類のメンバー、特にヒツジ、ウシ、ウマ、ブタおよびイヌなどの分類の飼育または農業用メンバーだけには限られないが、これらを含めた、社会上、経済上、農業上または研究上重要な任意種の個体などの、ヒトまたは非ヒトを意味することは理解される。
【0070】
本発明の様々な実施形態または態様の例を本明細書で記載する場合、「など」または「例えば」または「~を含む」を含めた適切な用語を一般にそれらの前に置く。これらの例は、例示または理解の目的などで含まれる可能性があると記載され、文脈が他の事を示さない限り、限定的なものとして与えられるわけではないことは理解される。
【0071】
本明細書で言及する医薬組成物は、治療用途を意図するとき、医薬品を指すこともできる。したがって、医薬組成物の調製用、意図する治療目的で、記載する要素の組成物の使用を含むとして本発明を記載する場合、文脈が他の事を示さない限り、意図する治療目的で医薬品を調製するための使用を、記載が同様に意味することは理解される。
【0072】
それが許容される程度で、本明細書に引用する全ての参照文献はそれらの全容が参照により組み込まれる。
【0073】
本発明者らは、驚くことに、脂肪組織由来細胞懸濁液由来の分泌物を含む組成物の遠隔送達は、炎症障害、ならびに靭帯損傷および腱損傷を含めた、骨および関節障害を含めた様々な状態の治療において有効であり得ることを確認している。本発明者らは、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または脂肪組織由来分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せの遠隔送達は、このような状態の治療において有効であり得ることも、驚くことに確認している。このような状態の治療に関して以前に記載された方法は、関節疾患の場合は関節内注射などの直接施用により、疾患または疼痛の部位への治療剤の投与を記載している。したがって本発明は、必要性のある対象に、(i)脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物、または(iii)(i)と(ii)の組合せの遠隔投与による、このような状態の治療法に関する。本発明は、炎症障害、靭帯損傷、および腱損傷からなる群から選択される状態を治療するため、炎症障害、靭帯損傷、腱損傷、神経障害性疼痛、もしくは火傷障害と関連した疼痛を軽減するための医薬品を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、医薬品が対象への遠隔投与に適している使用も提供する。
【0074】
本明細書に記載するように、本発明者らは、このような治療剤の投与は必ずしも、関節などの疾患または罹患部位への作用物質の直接投与である必要はないことを、驚くことに確認している。皮下注射または筋肉内注射などによる治療剤の投与によって、本発明者らは、様々な疾患を治療または予防することができることを確認している。関節が罹患した疾患の場合、遠隔投与としての投与に関する本明細書の記載は、それを関節に直接投与するのではなく、典型的には皮下注射または筋肉内注射により投与することを単に意味する。したがって、皮下注射または筋肉内注射による投与の部位は、罹患した関節から非常に離れている可能性がある、または可能性がない。本発明はさらに、集約的飼育動物における疾患を治療または予防するための方法であって、(i)脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを皮下注射または筋肉内注射によって投与するステップを含む方法に関する。
【0075】
本発明者らは、同種異系および異種組成物を治療に使用することができることを確認しており、使用前に治療用組成物を凍結保存することができることをさらに確認している。一態様において、本明細書の本発明は、それらを使用可能であるか使用目的であり得る形式とは無関係に、このような組成物自体に関することが理解される。他の態様において本発明は、本明細書で開示する方法中での本発明の組成物の使用に関する。このように、患者自己由来の治療剤と比較して、供給、使用しやすさ、患者の不快感が少ないこと、および技術スキルがあまり必要とされないことなどの利点をもたらす、いわゆる「既製」または「容易に使用可能な」治療用製品が利用可能となり得る。したがって本発明は、患者との接触前の治療剤の調製を可能にし、したがって、脂肪組織由来細胞分泌物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む製品は、脂肪組織抽出のための対象または動物の麻酔を必要とせずに利用可能となり得る。同様に、治療剤が、脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せである場合、その組合せは事前に臨床医、獣医師、または農業従事者などのユーザーに利用可能となり得る、または細胞分泌物と細胞懸濁液の別の組成物をユーザーに提供し、次いで投与直前に組合せを調製することができる。本明細書に記載するように、細胞分泌物、細胞懸濁液、または組合せは、使用に必要とされるまで例えば-20℃で保存することができる。あるいは、細胞分泌物、細胞懸濁液、または組合せは、使用に必要とされるまで蒸気相または液相のいずれかで、フリーザー中または液体窒素保存容器中において、-70℃~-90℃などのさらに低い温度で保存することができる。細胞を含む組成物は、典型的には液体窒素中に保存する。好ましい実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを、液体窒素保存容器の液相に保存する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は濃縮調製物である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液またはその培養物から初期に採取した細胞分泌物と比較して、濃縮調製物を濃縮する。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は約2倍と約20倍の間で濃縮された調製物である。一実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物は約10倍濃縮された調製物である。
【0076】
提案される如何なる作用機構にも束縛されることを望まずに、脂肪組織由来細胞分泌物は、損傷もしくは疾患の発生源に移動し、そこで根本状態の改善をもたらす、またはその状態と関連した疼痛を軽減することができる、抗炎症性サイトカインなどのサイトカインを含むことが提案される。同様に、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、例えば集約的飼育動物において、皮下または筋肉内に注射すると、次いでサイトカインなどの様々な細胞因子を分泌するよう作用し、それらは臨床的または不顕性であれ損傷もしくは疾患の部位に移動し、それによって根本状態の改善をもたらす、または臨床症状発生を予防することができる。本明細書の実施例中に記載するように、方法は治療する個体の跛行を改善する際にも有効であり、治療する個体の改善された敏捷性および運動性によって実証されたように、性能向上の利点をもたらすことができる。
【0077】
脂肪組織
本発明の細胞分泌物は脂肪組織由来細胞分泌物である。本発明の細胞懸濁液は脂肪組織由来細胞懸濁液である。脂肪組織は、ヒト脂肪組織または哺乳動物脂肪組織であってよい。脂肪組織内に依然として生存状態の細胞が存在するという条件で、ヒトまたは動物は生存状態または死亡状態であってよい。脂肪組織は、「白色」脂肪組織、または「褐色」脂肪組織を含むことができる。
【0078】
脂肪組織は、アクセス可能である身体中の任意の供給源に由来してよい。例えば皮下脂肪は、ごく表面的な外傷で、または「鍵穴手術」技法の使用によって容易にアクセス可能である。例えば脂肪組織は、脂肪吸引技法を使用して回収した組織、またはオスもしくはメス動物を去勢したとき生殖組織と共に除去した脂肪組織であってよい。脂肪組織由来細胞懸濁液を作製する前に、脂肪組織を組織培養培地もしくは緩衝等張溶液で洗浄して接着血液細胞を除去することができ、調節または大まかに処理して巨大血管もしくは結合組織要素を除去することができる。
【0079】
脂肪組織は、成熟または若年動物に由来してよい。
【0080】
特定の実施形態では、哺乳動物は、コンパニオンアニマル、イヌ科もしくはネコ科飼育動物など、またはワーキングアニマルである。他の特定の実施形態では、哺乳動物は、ウマ、ロバ、ウサギウマ、畜牛、水牛、ヒツジ、ヤギ、ラクダまたはブタから選択されるファームアニマルまたはレーシングアニマルである。
【0081】
脂肪組織由来細胞懸濁液
脂肪組織由来細胞分泌物、したがってこのような分泌物を含む組成物は、脂肪組織由来細胞懸濁液を最初に入手または調製することによって調製することが好ましい。本明細書に記載するように、本発明の方法、キット、使用、および組成物は、脂肪組織由来細胞分泌物、脂肪組織由来細胞懸濁液、または細胞分泌物と細胞懸濁液の組合せを含み得る。脂肪組織由来細胞懸濁液は脂肪細胞を含む可能性がある、または含む可能性がない。
【0082】
本明細書で使用する用語「脂肪組織由来細胞懸濁液」は、脂肪組織、または小凝集体、または脂肪組織片、または単離細胞、小凝集体および脂肪組織片の二つ以上の混合物から単離した細胞を包含する。細胞懸濁液は、当技術分野で容易に利用可能な技法を使用して、脂肪組織を機械的に解離することによって得ることができる。例えば脂肪組織をブレードもしくはハサミで切り刻むこと、または組織を単離細胞、または脂肪組織の小片に切断するのに十分な孔径を有するスクリーンもしくはメッシュに脂肪組織を押し通すこと、またはこれらの技法の組合せによる、脂肪組織の機械的解離に適した任意の方法を使用することができる。例えば培地中での放置時に、解離した脂肪由来細胞が大きな構築体に再度会合するとき、脂肪組織の小凝集体が形成され得る。脂肪組織の小片または凝集体は、直径10ミリメートル未満、直径5ミリメートル未満、最大直径1ミリメートル未満、最大直径500μm未満、または最大直径250μm未満であってよい。
【0083】
脂肪組織由来細胞懸濁液はメッシュもしくはスクリーンを介して濾過し、メッシュもしくはスクリーンの孔径を超える細胞凝集体または組織片を除去することができる。
【0084】
タンパク質分解酵素を使用して、脂肪組織由来細胞懸濁液への脂肪組織の解離を促進することができる。このような使用に適した酵素は当技術分野でよく知られており、トリプシン、およびコラゲナーゼだけには限られないが、これらを含む。脂肪組織由来細胞抽出物を使用する前に、タンパク質分解酵素を除去する、および/または他の場合不活性化することは普通である。これらの酵素は、望ましいin vivoでの細胞用途と適合しない可能性があるからである。タンパク質分解酵素を、脂肪組織の機械的解離に関する技法と組合せて使用して、脂肪組織由来細胞懸濁液を作製することができる。
【0085】
1つまたは複数のタンパク質分解酵素を使用せずに、機械的解離技法を使用することができる。このような形式で使用する技法を使用して、脂肪組織由来細胞懸濁液を迅速に作製することができる。
【0086】
細胞懸濁液は液体に懸濁することができる。脂肪組織の解離前、最中または後に、液体を脂肪組織に加えることができる。液体は、適切な培養条件下において、脂肪組織細胞を生存状態で少なくとも24時間維持することができる培地を含むことができる。液体は、脂肪組織細胞を生存状態で少なくとも1時間維持することができる、リン酸またはHEPES緩衝生理食塩水などの等張緩衝溶液を含むことができる。液体は、組織培養培地を含むことができる。液体は、細胞懸濁液中での脂肪組織細胞の生存を助長または延長する、血清または血清成分を含むことができる。血清または血清成分は、自己由来の血清または血清成分であってよい。
【0087】
幾つかの実施形態では、細胞懸濁液は加える液体を有していない可能性があるが、その代わりに細胞を液体に懸濁し、それは組織の解離中に形成される。
【0088】
脂肪組織由来細胞懸濁液の調製は、遠心分離ステップを含むことができる。培地などの液体に懸濁した、脂肪組織の単離細胞、または小凝集体もしくは小片の遠心分離は、約500gで10分間、または脂肪由来非脂肪細胞を含む細胞ペレットを生成するのに十分な時間および十分なg力であり、細胞ペレットの上は培地層であり、次いでその上に浮遊するのは生存脂肪細胞を含む層であり、上部に浮遊するのは破壊した脂肪細胞に由来する脂質の層である。遠心分離後、特定の実施形態では、脂質層と培地層を廃棄し、保持された細胞を混合し、生存脂肪細胞および脂肪由来非脂肪細胞を含む脂肪組織由来細胞懸濁液を残す。他の実施形態では、生存脂肪細胞を含む層のみを保持する。他の実施形態では、脂肪細胞を含む層を除去することができ、したがって脂肪組織由来細胞懸濁液中に含まれない可能性がある。脂肪細胞を実質的に含まない脂肪組織由来細胞懸濁液を調製するとき、これは典型的に起こる。脂肪細胞を実質的に含まないとして本明細書で言及する細胞懸濁液は、遠心分離後の脂肪細胞分画の除去などにより、細胞懸濁液が出発物質と比較して脂肪細胞を著しく欠いていることを意味する。細胞懸濁液に関して使用するとき、脂肪細胞を実質的に含まないことは、脂肪細胞の完全な不在を含み、物質中の脂肪細胞の最小保持が起こった状況も含むことは理解される。他の実施形態では、脂肪組織の脂肪細胞含有物部分のみを、脂肪組織由来細胞懸濁液の調製において除去することができる。この場合、生成する細胞懸濁液は、脂肪細胞を、出発物質における割合と比較して、幹細胞などの他の保持成分に対して低い割合ではあるが含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は少なくとも10体積%の脂肪細胞を含む。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は10体積%と30体積%の間の脂肪細胞を含む。
【0089】
一回遠心分離ステップまたは複数回遠心分離ステップを使用して、例えば追加的細胞分離ステップを与えることができる。他の実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液の調製は遠心分離ステップを含まない。
【0090】
脂肪組織由来細胞懸濁液は生存脂肪細胞を含む可能性がある、または含む可能性がない。存在時に、脂肪細胞はその細胞質内に検出可能な量の脂質を保持する可能性があり、脂質によりもたらされる異なる密度に基づいて、脂肪由来非脂肪細胞から分離することができる。位相差顕微鏡を含めた光学顕微鏡技法を使用して、またはオイルレッドOなどの脂肪親和性色素で細胞サンプルを染色することによって、脂質を検出することができる。その細胞質内に脂質を保持する脂肪細胞は他の脂肪由来細胞より相当脆弱であり、したがって生存脂肪細胞が組織を解離するのに望ましい損傷または殺傷する技法である場合、多大な割合の脂肪細胞は回避すべきである。脂肪組織の超音波による解離、または例えば脂肪組織を激しく振とうする技法が、多数の生存脂肪細胞を含有する細胞懸濁液をもたらす可能性は低い。LIVE/DEAD細胞生存率アッセイ(Molecular Probes)などの容易に利用可能な技法を使用して、脂肪細胞の生存率を容易に決定することができる。
【0091】
脂肪組織由来細胞懸濁液は、脂肪細胞と脂肪由来非脂肪細胞の両方を含むことができる。脂肪由来非脂肪細胞は、間葉系幹細胞を含めた間質血管細胞群の細胞を典型的に含む。間質血管細胞群の細胞は典型的に、本明細書に記載する脂肪組織由来細胞懸濁液の遠心分離条件でペレット状になる。
【0092】
脂肪細胞と脂肪由来非脂肪細胞の両方を含む実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は、脂肪細胞層とペレット状脂肪由来非脂肪細胞の両方を回収する、本明細書に記載する遠心分離ステップを含む方法によって都合よく調製することができる。あるいは、これらの実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液は、遠心分離ステップ無しで本明細書に記載する脂肪組織を解離することによって調製することができる。
【0093】
脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液は、適切な条件下において保存することができる。典型的には保存条件は、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、または95%超など、細胞懸濁液中の一部もしくは全細胞の細胞生存率の保持を可能にする。
【0094】
脂肪組織由来細胞懸濁液を凍結保存しなければならない場合、それは細胞の凍結に適した任意の液状担体中であってよい。限定的ではなく例示的な実施例として、凍結前に、DMEM、RPMI、最小必須培地などの血清含有もしくは無血清であってよい培養培地中、または血清中に、細胞を懸濁することができる。
【0095】
脂肪組織由来細胞懸濁液を凍結保存する場合、それは典型的には、5%~10%などの適切な濃度で、低温保存剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)またはグリセロールも含む。本明細書に記載するように、脂肪組織由来細胞懸濁液の細胞培養物から入手または誘導した細胞分泌物などの細胞分泌物を、細胞保存用の低温保存剤として使用することもできる。場合によっては清澄化、およびまたは場合によっては濃縮した、このような分泌物を、脂肪組織由来細胞懸濁液の培養から生じる細胞系を含めた、間葉系細胞など、脂肪組織由来細胞などの、凍結保存目的の細胞集団と組合せることができる。組合せは、分泌物と細胞の間の相互作用を可能にするのに適した任意の時間、最大約1時間または2時間など、例えば約10分、20分、30分、60分、90分または2時間、凍結前に、室温、例えば約18℃~25℃などの適切な温度で保持することができる。好ましい実施形態では、組合せを室温で約30分間保持する。
【0096】
液体培地および低温保存剤などの細胞懸濁液の構成成分は、典型的には使用する濃度で薬学的に許容される。これには、最小解凍後処理による解凍後レシピエント対象または動物に、脂肪組織由来細胞懸濁液を投与することができる利点がある。
【0097】
典型的には細胞懸濁液は、プログラム可能な凍結用デバイス中、または-70℃~-90℃フリーザー中の絶縁容器中に置くことなどにより、例えば典型的には約l℃/分の割合での低速凍結によって、細胞の損傷を最小にするよう制御した条件下で凍結する。保存のため、次いで凍結細胞を典型的には液体窒素保存容器に移す。
【0098】
脂肪組織由来細胞懸濁液の調製に使用することができる細胞処理法およびデバイスは、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、同時係属出願PCT/AU2012/000272中に記載される。
【0099】
ウシ科動物脂肪組織由来細胞懸濁液
脂肪組織由来細胞懸濁液、およびしたがって脂肪組織由来細胞分泌物は、任意の適切な供給源から誘導することができる。ウシ科動物脂肪組織は一つのこのような供給源である。本発明者らは以前に、ウシ科動物供給源から、特にウシ科動物尾部基底組織から、脂肪組織由来細胞懸濁液を調製するための本発明の方法を記載している。その材料は、ヒト、イヌ科動物、ウマ科動物、マウスおよびラットなどの、他の多くの脂肪組織の供給源に適した標準的な方法では処理しにくいことが分かったからである。これは、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、同時係属出願PCT/AU2012/000274中に記載される。
【0100】
例えば、本発明がウシ科動物脂肪組織由来の材料を利用する場合、治療用組成物として使用するため、または脂肪組織由来細胞分泌物の調製において使用するための、ウシ科動物脂肪組織由来細胞懸濁液は、
タンパク質分解酵素溶液にウシ科動物脂肪組織のサンプルを曝して細胞懸濁液を作製するステップ、
細胞懸濁液を遠心分離して細胞ペレット、脂肪細胞を含む浮遊細胞層上の遊離脂質層、および細胞ペレットと浮遊細胞層の間の中間層を形成するステップであって、前記中間層が細胞ペレットおよび浮遊細胞層と比較して細胞を欠くステップ、および
遊離脂質層および中間層を除去し、細胞ペレットと浮遊細胞層を混合して、脂肪細胞を含む脂肪組織由来細胞懸濁液を形成するステップ
を含む方法に従い調製することができる。
【0101】
脂肪細胞を含まない細胞懸濁液が望ましい、本発明の方法、使用および組成物では、脂肪細胞を含む浮遊細胞層を、前述の方法を実施する際に除去および廃棄することもできる。
【0102】
本明細書の他の箇所、特に「脂肪組織由来細胞懸濁液」という見出しの前のセクションで言及するように、方法は、脂肪組織由来細胞懸濁液の調製において追加ステップを含むことができる。これらの追加ステップは、例えば、組織の機械的解離、および培地またはバッファーなどを介した懸濁を含む。
【0103】
除去した中間層は保持することができる。それは典型的には脂肪組織由来細胞分泌物を含むからである。以下に記載するように、除去した中間層中の分泌物の濃度は、脂肪組織由来細胞懸濁液の後の細胞培養から生じる分泌物の濃度と比較して典型的には低いので、培養細胞から採取した細胞分泌物を、典型的には本発明の方法、使用および組成物において使用する。
【0104】
特定の実施形態では、タンパク質分解酵素溶液はコラゲナーゼを含む。典型的にはコラゲナーゼは、約0.2%w/vまたは約0.25%w/v以上の最終濃度で使用する。特定の実施形態では、タンパク質分解酵素へのウシ科動物脂肪組織の露出は、脂肪組織の不完全な消化をもたらす条件下で実施し、したがって相当量の完全脂肪組織の存在をもたらす。例えば典型的には、それらが消化される前と同じ大きさで存在し得る脂肪組織片があり得る。方法の幾つかの実施形態では、約20%と約80%の間のいずれかの脂肪組織が消化されない可能性がある。
【0105】
特定の実施形態では、細胞に例えば複数回遠心分離ステップまたは洗浄ステップを施して、過剰な遊離脂質を除去することができる。
【0106】
以下のセクションでさらに記載するように、本明細書で言及するような任意の種起源、例えばウシ科、ブタ科、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ヒトなどであってよい脂肪組織由来細胞懸濁液、またはそのアリコートを、脂肪組織由来細胞の分泌物を含む組成物の調製において使用することができる。
【0107】
脂肪組織由来分泌物を含む組成物
脂肪組織由来細胞由来の分泌物を含む組成物は、任意の適切な方法によって脂肪組織由来細胞懸濁液から調製することができる。本明細書に記すように、脂肪組織由来細胞懸濁液の調製中に形成される液体成分は典型的には脂肪組織由来分泌物を含み、したがってこのような分泌物を含む組成物の一実施形態となる。この形式では、脂肪組織由来分泌物を含む組成物は、脂肪組織由来材料の遠心分離後に、細胞ペレットと浮遊細胞層の間の中間液体層の回収などにより、細胞懸濁液調製中の任意の適切な段階で回収することができる。この実施形態では、分泌物を含む回収材料は脂肪細胞を含む可能性がある、または含む可能性がない。
【0108】
典型的には、脂肪細胞を含む脂肪組織由来細胞懸濁液に培地を曝すことによって、組成物を生成する。脂肪組織由来細胞懸濁液への培地の露出は、作業者により設定される任意の適切な時間および条件であってよい。脂肪組織由来細胞懸濁液への培地の露出は、基層への細胞接着を可能にする条件は必要としない。これらの実施形態では、脂肪組織由来分泌物を含む組成物は、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、または少なくとも12時間などの任意の適切な時間の間、脂肪組織由来細胞懸濁液に培地を曝し、次に培地から細胞懸濁液の除去、逆もまた然り、例えば遠心分離または濾過によって生成することができる。一実施形態では、脂肪組織由来細胞懸濁液を、酸素10%未満、酸素5%未満または酸素1%未満などの低酸素条件に曝すことができる。互いからの細胞懸濁液および培地の除去は、完全または不完全な細胞の除去をもたらす可能性がある。したがって、脂肪組織由来分泌物を含む培地は、細胞懸濁液の除去後に脂肪細胞を含む可能性がある、または含む可能性がない。特定の実施形態では、12時間を超えずに、18時間を超えずに、または24時間を超えずに、脂肪組織由来細胞懸濁液に培地を曝すことによって組成物を生成する。特定の実施形態では、さらに長い時間の間、例えば約1日と15日の間、例えば約1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日または15日などの任意の時間の間、脂肪組織由来細胞懸濁液に培地を曝すことによって組成物を生成することができる。典型的には、懸濁液は5~10日間インキュベーター中に保ち、次いで分泌物を回収する。細胞への培地の露出は、基層への細胞接着を可能にする条件下である可能性がある、または可能性がない。典型的には、細胞への培地の露出が約1日を超える場合、条件が基層への細胞接着を可能にする。
【0109】
組成物は、脂肪組織細胞の細胞死または破壊後に細胞から放出される、細胞由来分子を含むことができる。組成物は、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液の細胞分泌物を含むことができる。脂肪組織由来細胞懸濁液への培地の露出は、4℃~50℃の温度、より典型的には10℃~40℃の温度、および最も典型的には20℃~37℃の温度であってよい。
【0110】
典型的な脂肪組織由来細胞懸濁液に関して、5gの脂肪組織を、10%自己由来血清を含有する50mlのDMEM中に解離および懸濁させる。脂肪組織由来細胞懸濁液は、1グラムの脂肪組織供給源材料に関して100,000~1,000,000個の非脂肪細胞を典型的に含む。1グラムの脂肪組織供給源材料当たりの脂肪細胞の数は、典型的には100,000と5,000,000の間である。
【0111】
本明細書で使用する用語「培地」は、脂肪組織由来細胞懸濁液において少なくとも1時間、少なくとも幾つかの細胞の生存を助長する組成物を包含するものとする。培地は、血清を場合によっては補充したDMEM、RPMI、または最小必須培地などの組織培養培地であってよい。培地は、培地が対象への投与に適しているという条件で、リン酸緩衝生理食塩水またはハンクス緩衝生理食塩水溶液などの緩衝等張溶液であってよい。培地は、脂肪組織の解離中に形成される液体であってよい。培地は、インスリン、プロゲステロンおよびセレン、または血清もしくは血清成分などの、細胞生存または接着および細胞分裂を促進する因子を、場合によっては補充することができる。特定の実施形態では、培地はin vivo用途に許容される医薬組成物に適していなければならない。このような培地は、ヒトまたは動物に有害であり得る、発熱物質または他の不純物を実質的に含まない。薬学的に許容される培地は市販されている。語句「薬学的に許容される」は、動物またはヒトへの投与時に、許容不能な悪反応、アレルギー反応、または他の望ましくない反応をもたらさない分子体および組成物を指す。
【0112】
脂肪組織由来分泌物を含む組成物の調製は、脂肪細胞を含む脂肪組織由来細胞懸濁液の溶解ステップを含むことができる。細胞分泌物を含む溶解物は、任意の適切な方法によって調製することができる。例示的な一実施形態では、前に記載したように、脂肪組織由来細胞懸濁液を培地に曝すことができる。次いで懸濁液の細胞は、機械的破壊(例えば、激しい振とうまたは攪拌)、超音波による破壊、凍結解凍、凍結乾燥、または細胞溶解/典型的には脂肪細胞溶解を誘導することができる1つまたは複数の作用物質の添加などによる、任意の適切な手段によって溶解することができる。このような溶解剤は当技術分野で知られており、尿素、ドデシル硫酸ナトリウムおよびTriton×100を含む。溶解ステップ後、調製物を遠心分離または濾過して細胞残骸の除去を促進することができ、またはこのような清澄化ステップ無しでそれを使用することができ、その場合、脂肪組織由来分泌物を含む組成物は細胞残骸を含む可能性もある。幾つかの場合、細胞溶解物は、細胞溶解物の沈降によって溶解剤から除去することができる。溶解ステップが不完全な細胞溶解をもたらす場合、脂肪組織由来分泌物を含む組成物は、脂肪細胞などの脂肪由来細胞を含む可能性もある。
【0113】
特定の実施形態では、脂肪組織由来分泌物の調製は、適切な条件下で脂肪細胞を含む細胞懸濁液を培養して、融合接着細胞培養物などの接着細胞培養物を形成するステップ、接着細胞培養物の上清を採取するステップ、および前記上清から細胞を除去して脂肪組織由来分泌物を含む組成物を形成するステップを含む。脂肪組織由来分泌物を含む組成物を残すための、上清からの細胞の除去は完全な除去である可能性があり、または部分的な除去である可能性がある。後者の場合、したがって脂肪組織由来分泌物を含む組成物は、脂肪細胞を含む可能性もある。
【0114】
細胞の培養を開始する前に、脂肪組織由来細胞懸濁液は、DMEM、RPMIまたは最小必須培地などの望ましい体積の適切なバッファーに再懸濁することができる。細胞懸濁液、またはそのアリコートは滅菌組織培養フラスコに加えることができ、典型的には接着細胞が融合状態に達するまで、適切な条件下でインキュベートすることができる。細胞培養物は、滅菌血清の存在下にあることが好ましい。培養中の血清の濃度は、例えば、約10%v/v、または約15%v/vもしくは約20%v/vなど約5%v/v~約30%v/vの範囲内など、脂肪組織由来細胞の培養を促進するのに適した任意の濃度であってよい。血清は、市販のウシ胎児血清などの、脂肪組織由来細胞を培養するのに適した任意の血清、または当技術分野で知られている方法などにより研究室で調製した血清であってよい。血清は、脂肪組織を得た同一個体から調製した自己由来であってよく、または、血清は同種異系であってよい。他の実施形態では、イヌ科動物供給源から得た脂肪組織由来細胞の培養におけるウシ胎児血清の使用など、血清は異種であってよい。典型的には、細胞は37℃および5%CO2で培養する。さらなる実施形態では、細胞は低酸素条件で培養する。
【0115】
培養中、脂肪組織由来細胞は、抗炎症性分子、炎症促進性分子、ケモカイン、増殖因子、および他の細胞シグナル伝達分子を含めたサイトカインを培地に分泌する。したがって培養中の上清は、脂肪組織由来分泌物を含む。
【0116】
特定の実施形態では、培養物を凍結および凍結乾燥し、細胞と分泌物を含む凍結乾燥調製物をもたらすことができる。凍結乾燥調製物の再水和は大部分の細胞を溶かし、他のサイトカインの放出をもたらす。典型的には再水和は、元の体積より約5倍~約20倍少ない液体体積、より典型的には10倍濃縮された組成物をもたらす脂肪組織由来細胞の元の体積より約10倍少ない液体体積などの、脂肪組織由来細胞の元の体積より少ない液体体積を使用して実施する。次いで組成物を濾過し細胞残骸を除去することができ、濃縮サイトカインを含有する組成物を生成する。これは、多量の濃縮分泌物を生成するのに好ましい方法をもたらす。
【0117】
他の特定の実施形態では、任意の適切な時間で培養物から上清を採取することができるが、ただし典型的には、接着細胞培養物に関しては、細胞が融合状態に達したとき、約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14日後などに、それを採取する。細胞、細胞残骸および任意の残存脂肪組織を、濾過などによって上清から除去することができる。一実施形態では、濾過は20ミクロンメッシュを介したものであってよい。望む場合、小メッシュサイズの2個以上のフィルターなどによって、複数の濾過ステップを実施することができる。生成した脂肪組織由来分泌物の調製物は、典型的には0.22ミクロンフィルターなどを介して濾過滅菌する。滅菌した組成物はすぐに使用することができ、または使用、もしくは保存用に等分することができる。典型的には、保存する場合、組成物は-20℃で凍結保存する。組成物は、脂肪組織由来細胞由来の分泌物を含有する。
【0118】
脂肪組織由来分泌物を含む組成物は、脂肪細胞を含む可能性もある。存在する場合、脂肪細胞は、分泌物の調製で使用した元の脂肪組織から残存した状態である可能性があり、またはそれらは、分泌物を含む組成物に加えることができる。
【0119】
前に記載したように、脂肪組織由来細胞分泌物の調製は、脂肪組織由来細胞懸濁液を培養し、およびその後、濾過滅菌、凍結乾燥および濃縮などの前に記載した追加ステップ有りまたは無しで、上清を採取し濾過することによって実施することができる。
【0120】
分泌物を含む採取した上清であってよい、分泌物を含む組成物は、例えば凍結乾燥し、その後望ましい体積の適切な液体中で再水和することができる。典型的には、適切な液体は薬学的に許容される。適切な液体は蒸留水であってよい。
【0121】
場合によっては、融合状態の脂肪組織由来細胞培養物を、上清の採取後に新たな組織培養フラスコに継代することができ、適切な条件下で再度融合状態まで培養することができる。脂肪組織由来細胞分泌物の調製のため、細胞の連続的な継代を実施することができる。例えば、任意の望ましい継代数でフラスコから、例えば継代数三から継代数五でフラスコから上清を採取することができる。採取した上清は必要に応じてプールして、例えば多量の分泌物を得ることができる。このようにして、濃縮ステップなどの追加ステップで、高濃度の脂肪組織由来細胞分泌物の調製物を調製することができる。
【0122】
本発明の医薬組成物および他の組成物
本発明の態様では、脂肪組織細胞の分泌物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含有する脂肪組織由来組成物を、医薬組成物の調製に使用する。一態様によれば、本発明は、対象における炎症障害、靭帯損傷および腱損傷からなる群から選択される状態の治療において使用するため、または炎症障害、靭帯損傷、腱損傷、神経障害性疼痛、もしくは火傷障害と関連した疼痛の軽減において使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む組成物であって、治療が対象への医薬組成物の遠隔投与を含む組成物を提供する。
【0123】
医薬組成物は医薬品と呼ぶこともできる。典型的には、遠隔投与は皮下投与または筋肉内投与である。典型的には、医薬組成物は1つまたは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントも含む。
【0124】
別の態様では、本発明は、集約的飼育動物における疾患の治療または予防において使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、医薬組成物が皮下注射または筋肉内注射に適している使用を提供する。
【0125】
別の態様では、本発明は、哺乳動物対象における、関節の疾患または状態の治療において使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、組成物が前記状態の部位から離れた前記対象の部位への投与に適している使用を提供する。
【0126】
別の態様では、本発明は、哺乳動物対象における疼痛を軽減する際に使用するための医薬組成物を調製するための、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せの使用であって、医薬組成物が、筋肉内注射もしくは皮下注射、または疼痛の部位またはその近辺への投与に適した形、局所投与などによる、前記対象への投与に適している使用を提供する。
【0127】
したがって本発明は、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む医薬組成物または医薬品を提供する。例えば医薬組成物は、例えば文書化した説明書などの目的とする治療において有用な他の構成要素を含む、キットの一部として提供することができ、または医薬組成物は、一回使用バイアルまたは組成物のアリコートなどの単品として提供することができる。
【0128】
さらなる態様では、本発明は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントと一緒に、脂肪組織由来細胞分泌物を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物は脂肪細胞をさらに含む。特定の実施形態では、組成物は無細胞である。特定の実施形態では、成熟脂肪細胞を含む可能性がある、または含む可能性がない脂肪組織由来細胞懸濁液に、培地または他の液体を曝すことによって組成物を調製する。医薬組成物には、対象における炎症障害、靭帯損傷および腱損傷からなる群から選択される状態の治療用の、または炎症障害、靭帯損傷、腱損傷、神経障害性疼痛および火傷障害からなる群から選択される状態と関連した疼痛の軽減用などの治療性がある。医薬組成物には、集約的飼育動物における疾患の治療または予防に適した治療性がある。このような疾患は、脚部弱体化、跛行、関節炎、発育疾患および細菌感染を含む。一実施形態では、発育疾患は骨軟骨炎(OCD)である。一実施形態では、発育疾患は骨嚢胞である。一実施形態では、発育疾患は整形発育疾患である。
【0129】
幾つかの実施形態では、脂肪組織は個々の対象から採取し、医薬組成物は同じ個体に投与し、したがって脂肪組織由来細胞分泌物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、またはそれらの組合せは、純粋に自己由来の調製物である。
【0130】
幾つかの実施形態では、脂肪組織は1つまたは複数の個体対象から採取し、医薬組成物は同種の異なる対象に投与し、したがって脂肪組織由来分泌物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、またはそれらの組合せは、同種異系の調製物である。幾つかの実施形態では、治療用組成物のレシピエントであると考えられるのと異なる種の個体から、脂肪組織を採取する。例えば、ウシ科動物組織から調製した分泌物または細胞または両方の組合せを含む組成物は、ヒト、ネコ科、ブタ科またはイヌ科などの、異なる種の個体への投与用であってよい。脂肪組織由来分泌物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液を含む組成物が、供給源材料と同種の異なる個体において使用するため、または供給源材料と異なる種の個体において使用するためのものである実施形態では、組成物は典型的に免疫系の細胞を欠き、組成物または移植片対宿主病に対する宿主(レシピエント)の免疫応答の可能性が最小になる可能性がある。
【0131】
幾つかの実施形態では、二つ以上の脂肪組織の供給源から、同じ個体から採取した異なる調製物から、または異なる個体から採取した異なる調製物などから、医薬組成物を調製する。プーリング(pooling)は、プール培養ステップなどにおいて多数の脂肪組織由来細胞懸濁液を組合せるステップを含むことができ、またはプーリングは、別個の培養もしくは露出ステップなどから得ることができる多数の脂肪組織由来細胞分泌物の組成物を、組合せるステップを含むことができる。
【0132】
医薬組成物は対象患者に、罹患した領域から遠隔の部位に投与することができる。本文脈中「遠隔」は、投与が、識別可能である治療する炎症または他の障害もしくは疾患の部位への、細胞分泌物または細胞懸濁液またはそれらの組合せの直接施用ではないことを意味する。一例として、関節炎患者の関節の治療の場合、当技術分野で以前に記載された投与は、罹患した関節への直接的な、脂肪組織由来細胞懸濁液または脂肪組織由来細胞分泌物の注射に関するものであった。このような投与は、適切な精度を確実にするため、治療の一部に内科医または臨床医の高度なスキルを必要とする。このような投与に必要な罹患状態の四肢または関節の処理は、それらがヒトであれまたは非ヒトであれ、患者が経験する苦痛も増大させる。脂肪組織由来細胞分泌物、または脂肪組織由来細胞懸濁液、またはそれらの組合せの遠隔投与を提供することによって、本発明は、このような疾患の治療に関して改善された方法、使用および組成物をもたらす。例えば遠隔投与は、治療する動物(例えばネコまたはイヌ)の頸部首筋などへの皮下注射による投与、または筋肉内注射による投与であってよい。さらなる一例として、筋肉内注射によるイヌへの投与はイヌの腿部であってよい。さらなる一例として、筋肉内注射によるウシ科動物への投与は尾部のヒダであってよい。
【0133】
本発明の治療用組成物を、集約的飼育動物の疾患を治療または予防するために投与する場合、投与は皮下注射または筋肉内注射による投与である。このような動物において治療する状態の性質のため、「遠隔」であるという投与の記載は適切ではない可能性がある。例えば、集約的飼育動物への本発明の治療用組成物の投与は、全身性もしくは局所脚部弱体化、骨軟骨炎を治療または予防するためであってよい。本明細書に記載するように、このような動物への治療用組成物の投与は、皮下注射または筋肉内注射による投与である。
【0134】
本発明の治療用組成物を、識別可能な臨床的原因がない疼痛、または識別可能な臨床的原因を有する可能性がある、もしくは可能性がない神経障害性疼痛を治療するために投与する場合、任意の適切な手段によって、注射または局所施用などにより対象に組成物を投与することができ、このような手段は疼痛の部位またはその近辺であってよく、または疼痛の部位から離れていてよい。神経障害性疼痛は、身体中の多数の部位で対象によって経験され得る。このような疼痛の治療は、対象によって経験される別の疼痛の部位から離れていてもよい、疼痛の源の部位などの一部位への投与による治療であってよい。一例では、疼痛は神経障害性疼痛である。神経障害性疼痛は身体の一領域に局在する可能性があり、またはそれは対象の身体の多数部位で経験され得る。多数部位で経験されるとき、疼痛の強度は多数部位で同等である可能性があり、またはそれは多数部位で異なる可能性がある。神経障害性疼痛の一例は顔面神経障害性疼痛である。本発明の方法中、対象における顔面神経障害性疼痛は、下顎または歯肉への注射による、対象への本発明の組成物の投与によって治療することができる。このような患者の下顎または歯肉への注射は疼痛の源の部位への投与を含むことができる、または二次的な疼痛の部位への投与であってよい。
【0135】
実施例中に示すように、本発明の組成物および方法は、火傷関連の疼痛および水疱を軽減する際にも有効である。本発明の組成物を火傷障害の治療のため、または皮膚の火傷関連の疼痛の軽減のために投与する場合、典型的には組成物は、クリーム、ゲル、またはローションなどの形で局所施用によって投与する。
【0136】
本発明の医薬組成物は、凍結溶液としてユーザーに供給することができる。本明細書に記載するように、細胞分泌物、細胞懸濁液、または組合せは、使用に必要とされるまで例えば約-20℃で保存することができる。あるいは、細胞分泌物、細胞懸濁液、または組合せは、使用に必要とされるまで蒸気相または液相のいずれかで、例えばフリーザー中または液体窒素保存容器中において、-70℃~-90℃などのさらに低い温度で保存することができる。細胞を含む組成物は、典型的には液体窒素中に保存する。好ましい実施形態では、脂肪組織由来細胞分泌物を含む組成物、または脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを、液体窒素保存容器の液相に保存する。好ましい実施形態では、細胞を含む組成物を、脂肪組織由来細胞の培養から得た細胞分泌物と組合せて保存する。別の好ましい実施形態では、細胞を含む組成物は、脂肪組織由来細胞の培養由来の清澄化およびまたは濃縮培地を含む組成物中に保存する。脂肪組織由来細胞の培養は、脂肪組織から新たに得た細胞の培養、および事前の培養由来の子孫細胞または細胞系として生じた細胞の培養を含むと理解される。治療を行う内科医、臨床医、獣医師、技術者、アシスタント、または農業従事者などによる使用の際には、典型的には解凍後可能な限り速やかに、対象または動物に組成物を投与する。あるいは医薬組成物は、約2℃~5℃において解凍と投与の間の短時間、例えば氷上、または冷蔵庫中または冷凍パック中に保存することができる。本文脈において、短時間は典型的には、約30分を超えない、または約1時間を超えない、または約2時間を超えない時間などの、数時間を超えない時間であり得る。解凍状態で保った場合、凍結防止剤は典型的には細胞に対して毒性があり、生存能力の消失を引き起こす可能性があるので、組成物は、特にそれが生存細胞を含む場合、典型的には解凍後可能な限り速やかにレシピエント動物に注射する。
【0137】
間葉系幹細胞を含む保存(例えば凍結)懸濁液は、治療用設定で使用する前に、例えば細胞回収を助長するのに適した細胞培養条件下で、一定の時間を必要とすることは以前から考えられている。本発明者は驚くことに、脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液などの、事前に凍結した細胞懸濁液の培養は、治療用設定における細胞懸濁液の使用の前に必要とされないことを確認している。本明細書に記載するように、解凍後に細胞懸濁液を投与し細胞培養を妨害しないとき、このような細胞懸濁液の投与の利点は明らかである。本明細書の実施例中で実証するように、脂肪組織由来細胞分泌物の存在下での細胞の保存は、さらなる利点をもたらす。例えば、分泌物、場合によっては分泌物の清澄化およびまたは濃縮調製物の存在下で保存した凍結細胞は、保存状態からの回収後に利用すると、分泌物の不在下で保存した凍結細胞と比較して優れた治療有効性を示す。
【0138】
本発明の医薬組成物は、「容易に使用可能な」形で供給することができる。このような実施形態では、ユーザーは典型的に、組成物を投与する前に、投与に許容される温度への解凍のみを必要とする。このような実施形態では、組成物は予め測定した用量、例えば、レシピエント種に基づき、または大きいイヌ品種と比較した小さいイヌ品種、もしくは成体動物と比較した若年性動物などのレシピエント個体に基づき予め決定した用量、所与のレシピエント対象もしくは動物に適した予め測定もしくは予め決定した用量などで供給することができる。予め測定した用量は、代替的または追加的に、治療もしくは予防目的の疾患または状態に基づくものであってよい。容易に使用可能な形の組成物は、シリンジなどの注射用デバイスで、またはその中に供給される組成物を含むことができる。注射用デバイスは個々のレシピエントに一回施用送達することができ、または多数のレシピエントに一回もしくは複数回施用送達することができる。例えば一定範囲の異なる用量の送達を可能にするために、注射用デバイスを調節することができる。
【0139】
医薬組成物が、脂肪組織由来細胞分泌物と脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液との組合せを含む実施形態では、組合せとして、またはユーザーによって組合せるための別個の組成物として、組成物をユーザーに供給することができる。本文脈中の「ユーザー」という言及は、レシピエント対象もしくは動物に治療用組成物を実際に投与する個人を意味し、その投与に着手するチームもしくはグループのメンバーをさらに意味することは理解される。例えばユーザーは、臨床医、医師、獣医師、農業従事者、臨床看護士、動物看護士、技術アシスタント、または農場労働者などの、本発明の方法の適用を援助する任意の個人であってよい。
【0140】
炎症障害
医薬組成物は、対象において、炎症障害を治療するため、および/または炎症障害と関連した疼痛を軽減するために投与することができる。
【0141】
炎症は、物理的、化学的、または生物学的作用物質によって引き起こされる損傷または異常な刺激に対する応答として生じ得る。炎症反応は、局所反応、および結果として生じる損傷材料の形態変化、破壊もしくは除去、ならびに修復および治癒をもたらす応答を含むことができる。用語「炎症」は、障害を言及する際に使用するとき、不適切であるかまたは正常な形式で消散しない炎症によって引き起こされる、それから生じる、またはそれをもたらす病状プロセスを指す。炎症障害は全身性である可能性があり、または特定組織もしくは器官に局在する可能性がある。
【0142】
炎症は、全身性炎症反応(SIRS);アルツハイマー病(ならびに付随する状態および症状、例えば慢性神経炎症、グリア細胞活性化、小グリア細胞増加、神経炎症プラーク形成、および療法に対する反応など);筋萎縮性側策硬化症(ALS)、関節炎(ならびに付随する状態および症状、例えば急性関節炎、抗原誘導関節炎、慢性リンパ球性甲状腺炎を付随する関節炎、コラーゲン誘導関節炎、若年性関節炎、関節リウマチ、骨関節炎、予後および連鎖球菌誘導関節炎、脊椎障害、痛風性関節炎だけには限られないが、これらを含む)、喘息(ならびに付随する状態および症状、例えば気管支喘息;慢性閉塞性気道疾患;慢性閉塞性肺疾患、若年性喘息および職業性喘息など);心臓血管病(ならびに付随する状態および症状、例えばアテローム性動脈硬化症;自己免疫性心筋炎、慢性心筋低酸素症、うっ血性心不全、冠状動脈性心疾患など、心筋症および心筋細胞機能不全、例えば大動脈平滑筋細胞活性化;心筋細胞アポトーシス;および心筋細胞機能の免疫制御など、糖尿病および付随する状態、例えば自己免疫性糖尿病、インスリン依存性(1型)糖尿病、糖尿病性歯周炎、糖尿病性網膜症、および糖尿病性ニューロパチーなど);胃腸炎(ならびに関連する状態および症状、例えばセリアック病、関連するオステオペニア、慢性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患および潰瘍性大腸炎など);胃潰瘍;ウイルスおよび他の型の肝炎、コレステロール胆石および肝線維症などの肝性炎症、HIV感染および変性反応、神経変性反応、およびHIV関連ホジキン病を含めた関連状態、川崎病、ならびに粘膜皮膚リンパ節症候群、頸部リンパ節腫脹、冠状動脈病変、浮腫、熱、白血球増加、軽度の貧血、皮膚剥離、発疹、結合組織発赤、血小板増加症を含めた関連疾患および状態;アトピー性皮膚炎などの皮膚炎、および関連状態を含めた皮膚の炎症障害;多発性硬化症、腎症、ならびに糖尿病性ニューロパチー、末期段階腎臓病、急性および慢性子宮体腎炎、急性および慢性間質性腎炎、ループス腎炎、グッドパスチャー症候群、血液透析遺物および腎虚血再灌流障害を含めた関連疾患および状態、神経変性疾患、ならびに急性神経変性、老化および神経変性疾患におけるDL-Iの誘導、視床下部ニューロンのIL-I誘導可塑性、および慢性ストレス過剰応答を含めた関連疾患および状態、眼病、ならびに
糖尿病性網膜症、グレーブス眼症、およびブドウ膜炎を含めた関連疾患および状態、骨粗しょう症、ならびに肺胞、大腿骨、とう側、脊椎または手首関節骨消失または骨折発生、閉経後骨消失、塊、骨折発生または骨消失加速を含めた関連疾患および状態、中耳炎(成人または小児)、膵炎または膵臓嚢胞炎、歯周病、ならびに成人、初期発生および糖尿病を含めた関連疾患および状態、慢性肺疾患、慢性副鼻腔炎、ヒアリン膜症、SIDSにおける低酸素症および肺疾患を含めた肺疾患、冠状動脈または他の血管移植片の再狭窄、関節リウマチ、リウマチ性アショフ体、リウマチ疾患およびリウマチ性心筋炎を含めたリウマチ、慢性リンパ球性甲状腺炎を含めた甲状腺炎、慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群および尿石症を含めた尿路感染症、円形脱毛症、自己免疫性心筋炎などの自己免疫疾患を含めた免疫障害、グレーブス病、グレーブス眼症、硬化性苔癬、多発性硬化症、乾癬、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、甲状腺疾患(例えば、甲状腺腫およびリンパ腫性甲状腺腫(橋本甲状腺炎、リンパ節甲状腺腫)、睡眠障害および慢性疲労症候群および肥満症(非糖尿病性または糖尿病関連)、細菌、ウイルス(例えば、サイトメガロウイルス、脳炎、エプスタインバールウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス)または原生動物(例えば、プラスモジウムファルシパルム(Plasmodium falciparum)、トリパノソーマ)によって引き起こされる、リーシュマニア症、らい病、ライム病、ライム心臓炎、マラリア、大脳マラリア、髄膜炎、マラリアと関係がある尿細管間質性腎炎)などの感染疾患に対する耐性、(脳卒中および虚血、脳炎、エンセファロパシー、癲癇、周生期脳障害、長期熱性発作、SIDSおよびくも膜下出血を含めた)脳外傷を含めた外傷に対する応答、少ない出生時体重(例えば、脳性小児麻痺)、肺障害(急性出血性肺障害、グッドパスチャー症候群、急性虚血性再灌流)、職業的および環境汚染因子によって引き起こされる心筋機能不全(例えば、油中毒症状、珪肺症に対する易罹患性)、放射線外傷、(例えば、火傷または熱創傷、慢性創傷、外科手術による創傷および脊髄損傷に対する)創傷治癒反応の有効性、敗血症、甲状腺機能低下、酸素依存、頭部異常、早期閉経発症、移植に対する対象の反応(拒絶または許容)、急性期反応(例
えば、熱性反応)、一般的炎症反応、急性呼吸窮迫症候群、急性全身性炎症反応、創傷治癒、接着、免疫炎症反応、神経内分泌反応、熱発生および耐性、急性期反応、ストレス反応、疾患易罹患性、反復性運動ストレス、テニス肘、靭帯および腱の問題、ならびに疼痛に関する管理および反応だけには限られないが、これらを含めた、多くの障害において起こることが知られている。
【0143】
特定の実施形態では、炎症障害は、関節炎などの関節関連炎症障害である。
【0144】
本発明の方法および組成物は、靭帯損傷および腱損傷の治療、またはこのような損傷と関連した疼痛の軽減のために使用することができる。幾つかの型の靭帯損傷および腱損傷は、炎症障害として分類することができる。幾つかの靭帯損傷および腱損傷は、炎症障害と考えることができない。誤解を避けるため、本発明で企図する靭帯損傷および腱損傷は、炎症障害である、またはそれと関係がある、および炎症障害と考えることができないものであってよい。
【0145】
本発明の方法および組成物は、炎症疾患用の治療剤などの、他の治療剤と共に使用することができる。相互参照によりその全容を本明細書に組み込む、オーストラリア特許出願第2009201915号中、および国際公開第WO2010/020005号中で実証されたように、骨関節炎などの炎症疾患に冒された関節への直接の、脂肪組織由来細胞を含む組成物、脂肪細胞を含む組成物の投与は患者に治療利点をもたらし、関節の改善と関係がある。本発明は補助的治療をさらに与え、例えば、本発明の遠隔送達を利用する低侵襲性治療過程の後に、罹患した関節への脂肪組織由来細胞を含む組成物、脂肪細胞を含む組成物の投与によって、治療レジメを開始することができる。
【0146】
本発明はさらに、確立した治療と組合せた関節炎および他の炎症障害用の補助的治療として、利点をもたらすことができる。例えば、NSAIDSを利用する炎症状態の長期治療の副作用は腎不全である。本発明は、腎不全の兆候がある患者における、NSAIDSの連続使用の代替を与える。あるいは、NSAIDSと組合せた本発明の使用は、低用量でのNSAIDSの使用を可能にし、それによって腎不全の発症を遅らせることができる。
【0147】
本発明は、カルトロフェン、メタカム、プレビコックス、トラマドールのいずれかとの使用を含めて、炎症疾患用の任意の知られている療法剤と組合せて使用することができる。本発明の方法および組成物は、カノコソウ、ローズマリーオイルおよびユッカの葉などの薬効医薬品と共に使用することができる。
【0148】
本発明は、脂肪組織由来細胞分泌物を含む製品が、脂肪組織抽出のための対象の麻酔を必要とせずに利用可能となり得るように、事前の細胞分泌物の調製を可能にする。本発明は、治療に必要とされる前に、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む組成物の調製を可能にする。本明細書に記載するように、本発明の細胞分泌物または他の組成物は、使用に必要とされるまで例えば-20℃以下で保存することができる。
【0149】
集約的飼育動物
食肉用に飼育する動物(例えば、ブタおよびウシ)における急速な成長、多大な筋肉量および効率良い飼料変換、ならびに乳用動物における乳の質および量などの、望ましい形質のための、多世代にわたる農業用動物の集約的選択の結果として、現代の農業用動物品種は、野生型または集約性が低い飼育動物集団より、疾患ならびに急性および慢性状態に対する罹患の発生率がしばしば高い。このような疾患および状態の症状発現の発生率および重症度は、動物を飼育する形式によって悪化する可能性がある。密集状態の豚舎中または飼料供給ロット中などの集約的飼育条件下で飼育した動物は、放し飼いまたは放牧状態などの集約性が低い条件下で飼育した動物より、疾患の高い発生率およびおそらく有害な生育条件の影響を典型的には受けやすい。しかしながら前に記載したように、集約的選択のため、放し飼いまたは放牧作業で飼育した動物でさえ、有害な健康状態に対する高い感受性またはその発生率を依然として有する可能性がある。したがって本発明の文脈では、集約的飼育動物または集約的飼育条件という言及は、例えば個々の運動しやすさが限られた密集状態の作業で飼育することができる集約的繁殖動物を含み、個体を放し飼いまたは放牧しやすい低密集状態の作業における集約的繁殖動物も含むことは理解される。
【0150】
本発明の治療用組成物は皮下または筋肉内投与すると有効であるという、本発明者らによる確認は、飼育作業、および特に集約的動物飼育、ブタ、ウシ、ヒツジおよび家禽類などの集約的飼育において有益な影響がある本発明の方法および組成物の助けとなる。関節炎患者の関節など局所疾患の治療剤は、罹患した関節への関節内注射により投与することができるが、このような投与は作業者側の高度なスキルを必要とし、かつおそらく罹患した関節の処理により動物に疼痛を引き起こし、したがって治療する動物を拘束する必要がある。対照的に、作業者側のスキル要件が低い皮下注射または筋肉内注射は罹患した四肢の処理を一般に必要とせず、治療する動物の最小限の拘束のみを典型的には必要とする。例えば関節内注射と比較した高度な作業者スキルに関する要件の不在によって、本発明の組成物の投与は、通常の農業現場作業または予防プログラムの一部として実施することができる。このような手法では、他の状態に関して動物を治療するのと同時に、または予防接種、耳標識、タトゥー標識、断尾、または去勢などの、動物繁殖または生育計画と関係がある通常手順を動物に施すのと同時に、本発明の組成物を動物に投与することができる。
【0151】
望ましい形質のための特定種の選択的繁殖動物の作製は、集団における特定の望ましくない特性の発生の増大に貢献した。一例として、急速な成長、多大な筋肉量および効率良い飼料変換に関して、長年にわたりブタが選択されている。しかしながらこれは、野生型集団で見られるより、骨格、関節および軟骨に関する問題の一層高い発生率をもたらした。動物が動く余地が限られる農作業において、これらの問題は悪化する可能性がある。軟骨構造に関する変化は、脚部弱体化または骨軟骨炎(OCD)と呼ぶことができる。さらに用語「脚部弱体化」を時折使用して、脚の形状が良くないことを記載し、または跛行または硬直と関係がある臨床状態を記載する。それは、関節軟骨、および長さと直径の両方で骨の成長を担う骨端成長板(growth (epiphyseal) plates)の異常な変化が原因で生じる可能性がある。これらの変化を引き起こす正確な機構は、完全には理解されていない。それらは、これらの急速に成長する組織にかかる圧力およびせん断応力が原因で生じ、それにより酸素供給が低下し軟骨の異常な成長および軟化を引き起こすと考えられる。しかしながら、血管の不具合による血液供給の低下は、このような問題に貢献すると考えられる。軟骨に対する損傷は進行的および不可逆的である傾向があり、損傷した軟骨は線維組織に置き換わる。
【0152】
関節近辺および長骨の末端における骨の縮小および屈曲は、軟骨損傷に続き得る。弱体化した骨端板はさらに破損する傾向があり、関節表面を覆う軟骨は分裂し亀裂を形成する可能性がある。現在のブタ品種では、関節のこのような変化は2カ月齢もの初期から起こる。これらのおそらく有害な変化は、一般に初期段階では臨床上明らかではない。繁殖計画では、脚部弱体化および脚部奇形により20%~30%のオスブタとメスブタを選別することは一般的である。したがって、OCDを含めたこのような状態には、飼育計画に重要な経済的および倫理的結果の可能性がある。OCDに特異的な治療は現在存在しない。進行段階では、OCDが関節炎および持続的跛行につながる可能性もある。
【0153】
本発明の組成物は、骨ならびに軟骨の成長および修復および成熟において有効である。したがって本発明は、脚部弱体化またはOCDを含めた、動物中の骨および軟骨障害を治療または予防するための方法を提供する。罹患した動物においてOCDは関節炎につながる可能性があるので、本発明の方法および組成物は、関節炎のリスクがある動物における、関節炎の発生の予防、または関節炎の重症化もしくは発生率の低下においても有効であり得る。好ましい実施形態では、動物はブタである。前に記載したように、このような状態は早期の年齢で始まり、発達の初期段階では典型的には如何なる臨床症状とも関係がない。本発明の方法では、関節疾患の臨床症状を示す動物、または関節疾患の臨床症状を示さない動物に、治療用組成物を投与することができる。
【0154】
臨床症状は、若年性動物においてより一般的であり得る急激な運動、跛行、(膝および肘関節などの)急激な破損、異常な脚部形状、異常な歩行、硬直、疼痛と関連した、骨端板における骨の分離または破損(骨端線離開)を含むことができる。OCDの目に見える発症がある年齢は、例えば、農場に送られて三カ月以内のメスブタ、初回妊娠中、授乳期中、または離乳後最初の第2~第3週中で変わり得る。
【0155】
一実施形態では、本発明は、動物中のOCDの重症度を低下させるための方法であって、(i)脂肪組織由来細胞分泌物、または(ii)脂肪細胞を場合によっては含む脂肪組織由来細胞懸濁液、または(iii)(i)と(ii)の組合せを含む医薬組成物を前記動物に投与するステップを含み、投与が皮下注射または筋肉内注射による方法を提供する。好ましい実施形態では、動物はブタである。
【0156】
レシピエント動物への医薬組成物の投与は、動物が任意の適切な年齢であるとき行うことができる。ブタにおけるOCDの臨床症状の発症を予防するため、またはOCDの重症度を低下させるため、レシピエントは若い年齢で治療することが好ましい。例えば、ブタは離乳時、または離乳直後に治療することができ、これは典型的には、コブタが約2週齢と5週齢の間であるときブタ飼育作業で行う。約1カ月齢と6カ月齢の間、または約3カ月齢と6カ月齢の間の、若いブタを治療することができる。豚舎において、ブタは約12週齢~16週齢で急速な成長期を経る。一実施形態では、本発明の組成物の投与は、この成長期の最初、例えば約8週齢、または9週齢、または10週齢、または11週齢、または12週齢、または13週齢であることが想定される。
【0157】
動物には本発明の組成物の一回投与を施すことができ、または複数回投与、例えば2、3、4回またはそれより多くの投与などを施すことができる。組成物の複数回投与を実施する場合、若いブタへの投与の場合、投与は典型的には約1、2、3、または4カ月隔てる。
【0158】
本発明の方法は症候性OCDの治療においても有用である。このような場合、レシピエント動物は典型的には、6カ月齢より老齢の動物である。老齢の動物では、本発明の組成物の複数回投与は、約2~6週、または約1、2、3、または4カ月またはそれ以上隔てることができる。複数回投与のタイミングの選択は当業者によって決定することができ、例えばそれは、多数の重症の再出現、妊娠状態、離乳状態などに基づいてよい。
【0159】
前に記載したように、本発明の組成物および方法は、ブタにおけるOCDの発症の予防、ならびにブタにおけるOCDおよび他の整形発育疾患の重症度の低下において用途が見出される。ヒト、イヌ、ウシ、およびウマを含めた他の哺乳動物も、例えば環境およびまたは遺伝が原因の素因によって、OCDなどの整形発育疾患に罹患する可能性がある。本発明は、このような動物における、OCDなどの整形発育疾患の発症の予防、またはその重症度の低下、またはその治療においても用途が見出される。
【0160】
本明細書に記載するように、本発明の組成物は、罹患した動物において関節疾患、関節炎および炎症状態を治療することもできる。本発明の組成物は、哺乳動物対象における疼痛を軽減する際にも有用である。哺乳動物は、ヒト、飼育動物、農業用動物などの任意の哺乳動物、食肉もしくは乳製品生産用などの、種馬、繁殖用動物または発育盛りの動物などであってよい。臨床上関連がある関節炎の治療において、例えば農業用動物はブタであってよい。ブタは若いブタであってよく、または繁殖用メスブタであってよい。例えば、臨床上影響を受ける妊娠状態のメスブタを治療して、それらの分娩を得るのを手助けすることができる。
【0161】
疼痛の治療
本発明者らは、本発明の組成物は、疼痛を有する対象の治療において有用であることを確認している。以下の疼痛を含めた、様々な特異的な型の疼痛を本明細書中に記載する。
【0162】
関節炎以外の疼痛を伴う筋骨格状態。
疼痛を伴う筋骨格状態は約30%の罹患率で一般的である。関節炎以外の筋骨格状態に関しては、予後は一般に良好であり、大部分の人は症状発症後数週間以内に回復する。しかしながら、有意に少数の人は回復せず、3カ月より長く続く疼痛として定義される、長期間続くかまたは慢性的な疼痛を発症する。これらの患者に関しては、予後は悪く回復は遅い。現在の研究の主な焦点は、悪い結果のリスクが高い患者の初期同定である。この研究からの一般的な発見は、初期の高い疼痛の強度は、慢性的な疼痛の回復の遅れおよび発症に関する危険因子であることである。
【0163】
慢性的な筋骨格の疼痛の最も頻繁な原因は、下背部痛である。百万人を超えるオーストラリア人が、その背中に関する問題と関係がある身体障害を有しており、それはオーストラリア人が辞職する主な理由である。他の一般的であるが、あまり主要ではない慢性的な疼痛の状態には、頸部および肩の疼痛、鞭打ち症関連障害(WAD)および複合性局所疼痛症候群(CRPS)がある。
【0164】
背部痛は非常に一般的な、管理するのが難しい、費用のかさむ健康状態である。オーストラリアでは、背部痛は約90億ドル/年のコストと関連する。85%を超える下背部痛は「非特異的な」下背部痛(NSLBP)であり、したがって構造上の疼痛の発生源を確実に確認することはできない。考えられる治療標的は神経支配組織であり、椎間板、小関節面関節および仙腸骨関節を含むが、しかしながら、筋肉および靭帯などの他の組織も含み得る。最大15%の下背部痛は、背部および脚部の疼痛を含めた、神経根の衝撃が症状を引き起こす神経根障害である。神経根障害と関連した疼痛は、局所炎症プロセスと関係があると考えられる。神経根痛に関する治療は、活性状態を保つためのアドバイス、NSAIDSを含めた無痛法、硬膜外コルチコステロイド注射およびコルチコステロイドの変換型神経根周辺注射を含む。
【0165】
頸部および肩の疼痛
鞭打ち症関連障害(WAD)は、最も一般的には自動車事故が原因の、加速減速によるエネルギー移動によって引き起こされる頸部に対する損傷である。大部分の疼痛を伴う筋骨格状態と同様に、新たな損傷に関する予後は最初の数週間または数カ月は典型的には良好であるが、3カ月後には回復率は顕著に低下し、相当な割合の患者が慢性的な鞭打ち症関連障害(WAD)を発症する。高い疼痛の強度は、予測因子または悪い結果であることは知られている。鞭打ち症は、大部分が従来の治療に抵抗性がある。
【0166】
複合性局所疼痛症候群
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、一肢の不適切な疼痛、膨張、色および温度変化、および骨の脱ミネラル化により特徴付けられる、通常は一肢に対するわずかな外傷の合併症である。オーストラリアでは、平均5000人が毎年CRPSであると診断される。最も一般的で刺激の少ない外傷は手首の骨折である。手首骨折後のCRPSの発生率は5~7%である。予後は悪く、治療オプションは侵襲性が高いことが多く、相当な副作用プロファイルがあり、ごく適度に有効である。CRPSの主な原因は組織損傷に対する異常な炎症応答であると考えられ、この状態がない患者と比較して、炎症メディエーターのより炎症促進的なバランスがCRPSを有する患者によって示される。
【0167】
神経障害性疼痛
本発明者は、本発明の組成物は、識別可能な臨床的原因がない疼痛、幾つかの型の神経障害性疼痛などを有する対象の治療において有用であることを確認している。神経障害性疼痛は、末梢レベル、中枢レベル、または両方での神経系の機能不全または疾患が原因の疼痛によって特徴付けられる、一群の疼痛を伴う障害を指す。それは、経時的に数および強度が変動する、多くの症状および兆候がある複合症候群である。神経障害性疼痛の三個の一般的な構成要素は、持続的な神経痛、突発的自然発生的発作、および過敏症である。
【0168】
神経障害性疼痛は障害が大きく、重症で難治性であり、苦痛を引き起こし、感覚不全(dysaesthesia)および感覚異常(paraesthesia)を含めて、個体を苦しめる可能性がある。感覚の部分的または複合的消失などの、感覚障害も一般に見られる。さらに、生活の質の低下に貢献する、慢性神経障害性疼痛と関連した相当な心理的および社会的影響がある。
【0169】
神経障害性疼痛は、一般的な医療実務において非常によく見られる。幾つかの型において、神経障害性疼痛は如何なる識別可能な臨床的原因条件とも関係がない。一例として、本発明の組成物が、顔面神経障害性疼痛の軽減において有効であることを本明細書で実証する。幾つかの型において、神経障害性疼痛は識別可能な臨床条件と関係がある。三叉神経痛の罹患率は100,000人の集団当たり2.1~4.7人であり、I型糖尿病およびII型糖尿病の11%~16%において疼痛を伴う糖尿病性ニューロパチーが発生し、治療後神経痛は100,000人の集団当たり約34人において見られる。神経障害性疼痛の治療は容易ではない。神経障害性疼痛を有する患者は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの標準的な無痛法に常に応答するわけではなく、神経障害性疼痛は麻酔薬にある程度耐性がある。神経障害性疼痛の治療に関して、最も研究され最も長く使用されている薬理物質は抗うつ薬および痙攣抑制薬であり、これらはいずれも重大な副作用を有する可能性がある。
【0170】
このような疼痛を治療するため任意の適切な部位に、本発明の組成物を対象に投与することができる。典型的には、投与は適切な型の注射の使用であってよく、または投与は局所施用であってよい。例えば、注射は皮下、筋肉内、または疼痛の部位にアクセス可能な部位またはその近辺に直接であってよい。この型の疼痛、例えば下顎の疼痛および四肢もしくは肩の疼痛は、対象の身体の複数領域に現れる可能性があるので、投与は一箇所の疼痛の部位またはその近辺、疼痛に罹患した別の部位から離れた部位であってよい。典型的には、複数の疼痛の部位が患者中に存在する場合、投与は疼痛の発生源または主要部位と確認した部位またはその近辺である。この治療の例示として、本明細書の実施例は、対象への歯肉への注射による顔面神経障害性疼痛の治療を示す。治療する対象には、一回注射などの本発明の組成物の一回施用を施すことができ、または複数回注射などの複数回施用を施すことができる。
【0171】
ここで本発明を、以下の実施例に関して単なる例示により、さらに詳細に記載する。これらの実施例は本発明を例示することを目的とし、本明細書中の記載の開示の一般性を制限するものと解釈すべきではない。
【0172】
(実施例)
(実施例1.無細胞抽出物の調製)
脂肪組織の調製
10gの脂肪組織サンプルを、イヌの鼠径部脂肪パッドからの切除によって回収した。脂肪組織は生理食塩水ですすぎ、次いでハサミを使用して細かく切り刻み、20mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)と混合した。コラゲナーゼ(Sigma)を加えて0.05%w/vの最終濃度をもたらし、サンプルは37℃で30分インキュベートした。30分の最後に、脂肪組織は部分的に消化され、部分的に消化された脂肪粒子、遊離間質血管細胞(SVC)および遊離脂肪細胞の混合物からなっていた。次いでサンプルを500gで15分遠心分離した。四つの異なる層、表面上の小さな(2mm厚の)遊離脂質の層、その下に白色の20mm厚の脂肪組織と脂肪細胞の層、および次いでDMEMの大きな透明の層、および次いで脂肪組織由来非脂肪細胞のペレットを遠心分離サンプル内で見ることができた。小さな脂質の層はパスツールピペットで注意深く除去した。次いで新たなパスツールピペットを脂肪細胞に注意深く挿入し、透明なDMEMは浮遊脂肪組織、脂肪細胞またはペレット細胞を破壊せずに除去した。これによって、脂肪組織の浮遊片、および小体積のDMEMに懸濁した脂肪細胞、およびペレット細胞のみを含有するサンプルが生成した。脂肪組織片、および脂肪細胞、およびペレット細胞をパスツールピペットで軽く混合して、15mlの遠心分離チューブに移した。次いで以下のように、脂肪組織片と細胞をDMEM中で洗浄してコラゲナーゼを除去した。DMEMは14mlの最終体積まで加え、サンプルは500gで10分遠心分離した。これによって、三つの異なる層、脂肪組織と脂肪細胞の浮遊片、DMEMおよびペレット状脂肪組織由来非脂肪細胞が生成した。脂肪組織片、脂肪細胞またはペレット細胞を破壊しないよう気をつけながら、パスツールピペットを脂肪細胞に挿入することによりDMEMを注意深く除去した。
【0173】
組織培養
脂肪組織の浮遊片、および脂肪細胞、およびペレット細胞を10mlのDMEMに軽く再懸濁し、300mlの組織培養フラスコに移した。30ml体積のDMEMおよび10mlの自己由来滅菌血清を加え、次いでフラスコは37℃および5%CO2でインキュベートした。フラスコは一日一回顕微鏡で調べた。第3日と第6日の間に、細胞は接着状態になり線維芽細胞のような外見になった。接着した細胞は第5日と第10日の間に融合状態になった。
【0174】
無細胞細胞分泌物の採取
フラスコの底部で細胞が融合状態になった後、上清を採取し、懸濁した脂肪組織と細胞は20ミクロンメッシュを介した濾過によって除去した。溶液は0.22ミクロンフィルターを介して濾過滅菌し、次いで無菌状態で10mlバイアルに分配し、-20℃で凍結保存した。以下の実施例では、この材料は「無細胞」と呼ぶことができる。
【0175】
(実施例2.濃縮したイヌ科動物無細胞抽出物の生成)
実施例1中の(100ml)体積の凍結無細胞抽出物を、2日間Telstar Lyobeta凍結乾燥機中で凍結乾燥した。生成した凍結乾燥塊は10mlの蒸留水で再水和した。次いで濃縮サンプルを、20分間超音波処理用水浴中で超音波処理した。10ml体積がサイトカインの濃縮混合物を含有していた。
【0176】
(実施例3.関節炎状態のイヌへの、イヌ科動物脂肪組織由来の無細胞抽出物の皮下投与)
この実施例では、イヌでの骨関節炎の治療における、前の実施例1に従い調製したイヌ科動物細胞分泌物の皮下注射の安全性および有効性を調べた。五匹のイヌ各々に、0.3ml/体重10kgの割合で四週間にわたり週に一度、頸部のうなじに皮下注射を施した。この試験におけるイヌは、大部分は年齢が進行しており(10才を超える)、肘の骨関節炎、慢性的臀部形成不全、後膝疾患およびウォブラー病を含めて、一定範囲の関節およびまたは骨障害を有していた。この試験におけるイヌは各々個別に、その状態の治療のために一定範囲の投薬を施した(Table 1(表1))。試験を実施している間、現行の投薬を中止した。それらの通常の治療を行う獣医師によってイヌを評価し、かつ挙動、運動性の変化などの逸話記録変化、および疼痛の明らかな兆候に関してそれらの飼い主によって観察した。試験はTable 1(表1)中に要約する。
【0177】
【表1】
【0178】
反復注射で有害な反応は示されなかった。それらの現行の投薬を中止した場合でさえ、五匹のイヌはいずれも体調悪化しなかった。五匹のイヌの三匹が、それらの前の投薬で見られたより有意な改善を示した。
【0179】
(実施例4.関節炎状態のイヌへの、イヌ科動物脂肪組織由来の濃縮分泌物の皮下投与)
実施例3中に示す試験の結果は、本発明の方法に関連した有害な影響はないことを実証し、数匹の治療対象では、脂肪組織由来細胞分泌物の遠隔投与が、対象の活性の改善、運動性の改善または明らかに低度の疼痛と関連したことも実証した。本発明者は、高用量の脂肪組織由来細胞分泌物の投与は、さらなる利点をもたらすことができると理由付けした。
【0180】
実施例1および2中で記載したように生成した濃縮無細胞抽出物を使用して、9匹の関節炎状態のイヌを治療した。2ml体積の濃縮無細胞抽出物を、皮下注射により頸部のうなじに投与した。獣医師により10日後にイヌを再度調べた。結果はTable2(表2)中に示す。
【0181】
【表2】
【0182】
(実施例5.アトピー性皮膚炎を有するイヌへの、イヌ科動物脂肪組織由来の無細胞抽出物の皮下投与。)
実施例1中で記載したように調製した無細胞抽出物を、アトピー性皮膚炎を有する三匹のイヌに皮下注射によって投与した。3週間にわたり週に一回、3ml体積を頸部のうなじに注射した。治療後第2週と第4週の間で獣医師の診察によって評価したとき、三匹のイヌ全てが改善を示し、それらの状態は改善し、炎症の低下が主な結果であった(Table3(表3))。
【0183】
【表3】
【0184】
(実施例6.跛行状態のウマにおける、ウマ科動物脂肪組織由来の濃縮無細胞抽出物の皮下投与。)
ウマ科動物無細胞抽出物を、ウマの尾底骨部から回収した脂肪組織を使用して、実施例1中で記載したように調製した。イヌ科動物血清の代わりに自己由来ウマ科動物血清を組織培養フラスコに加えたこと以外、実施例1中で記載したのと全く同様に脂肪組織を処理した。無細胞抽出物は、実施例2中で記載したように凍結乾燥によって濃縮した。
【0185】
2ml体積の濃縮無細胞抽出物を、わずかに跛行状態であった競走馬の頸部に皮下注射によって投与した。ウマは以前にステロイドの関節内注射で治療されており、この治療にはもはや応答しなかった。
【0186】
無細胞抽出物の投与後二日で、ウマは顕著な跛行の減少を示した。
【0187】
(実施例7.ウマにおけるウマ科動物脂肪組織由来の濃縮無細胞抽出物の皮下投与。)
提索損傷または膝の初期段階骨関節炎の一方を有するウマを、レース二日前に頸部への皮下注射により、濃縮したウマ科動物分泌物(実施例6)で治療した。全てのウマが改善された運動性を示した(Table4(表4))。
【0188】
【表4】
【0189】
(実施例8.脂肪細胞を含む低温保存同種異系脂肪由来細胞の皮下注射による、イヌにおける骨関節炎の治療。)
脂肪組織の処理
10gの半月形脂肪組織サンプルを、通常の去勢手順中にメスイヌから回収した。脂肪組織は生理食塩水ですすぎ、次いでハサミを使用して細かく切り刻み、20mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)と混合した。コラゲナーゼ(Sigma)を0.05%(w/v)の最終濃度まで加え、サンプルは37℃で90分インキュベートした。インキュベーション中、15分毎に手作業によってサンプルを軽く攪拌した。
【0190】
コラゲナーゼ処理後、ステンレス鋼メッシュ(700ミクロン孔径)を介して、サンプルを無菌状態で濾過し、50mlの遠心分離チューブに移し、500gで15分遠心分離した。
【0191】
四つの異なる層、表面上の小さな(2mm厚の)遊離脂質の層、その下に白色の10mm厚の脂肪細胞の層、および次いでDMEMの大きな透明の層、および次いでSVF細胞のペレットを遠心分離サンプル内で見ることができた。小さな油の層はパスツールピペットで注意深く除去した。次いで新たなパスツールピペットを脂肪細胞に注意深く挿入し、透明なDMEMは浮遊脂肪細胞またはペレット状SVF細胞を破壊せずに除去した。これによって、浮遊脂肪細胞およびペレット状SVF細胞のみを含有するサンプルが生成した。浮遊細胞とペレット状細胞をパスツールピペットで軽く混合して、15mlの遠心分離チューブに移した。
【0192】
次いで細胞をDMEM中で洗浄して、コラゲナーゼを除去した。DMEMは14mlの最終体積まで加え、サンプルは500gで10分遠心分離した。これによって、三つの異なる層、浮遊脂肪細胞、DMEMおよびペレット状SVF細胞が生成した。脂肪細胞またはペレット状細胞を破壊しないよう気をつけながら、パスツールピペットを脂肪細胞に挿入することによりDMEMを注意深く除去した。
【0193】
浮遊細胞とペレット状細胞を4mlのDMEMに軽く再懸濁し、パスツールピペットで混合した。
【0194】
細胞の増量および低温保存
細胞懸濁液のアリコート(0.5ml)を、50mlのDMEMおよび10%イヌ科動物血清を含有するT175組織培養フラスコに移し、融合状態の細胞単層が存在するまで(6日間)、37℃においてCO2インキュベーター中でインキュベートした。浮遊細胞(脂肪細胞)は、この時点で依然健康状態の形状を有していた。
【0195】
細胞を3mlのTrypLE Express(Invitrogen)で剥離し、50mlの遠心分離チューブにデキャンタし、500gで10分遠心分離した。浮遊細胞とペレット状細胞を2mlのイヌ科動物血清および10%DMSOに再懸濁し、クリオバイアルに移した。クリオバイアルはMr Frosty低速凍結デバイス(Invitrogen)中、-80℃フリーザー中で24時間凍結し、次いで液体窒素用デュワー瓶に移した。
【0196】
イヌへの細胞の投与
骨関節炎を有する七匹のイヌに、頸部のうなじに細胞の一回皮下注射を施した。イヌ毎のクリオバイアルを室温で解凍し、細胞懸濁液はシリンジおよび皮下注射針で注入した。合計2mlの懸濁液を注射した。
【0197】
イヌのモニタリング
それらの飼い主により8週間の間にわたりイヌをモニタリングし、獣医師が診察した。七匹のイヌの六匹が、その運動性の顕著な改善、および明らかな疼痛の低減を示した。第七のイヌは改善を示さなかったが、ネガティブな応答は示さなかった。
【0198】
(実施例9.細胞分泌物と混合した細胞の皮下注射による、イヌにおける骨関節炎の治療。)
実施例8中で記載したように低温保存した細胞のバイアルを液体窒素から除去し、実施例1中と同様に調製した5mlの温かい(37℃の)イヌ科動物分泌物と混合した。次いで細胞と分泌物をシリンジに注入し、関節炎を有するイヌのうなじに皮下投与した。イヌはこの治療に十分応答し、運動性の急激な改善および疼痛の低減を示した。
【0199】
(実施例10.細胞分泌物と事前に混合し次いで凍結した脂肪由来細胞の調製。)
脂肪組織の処理
10gの半月形脂肪組織サンプルを、通常の去勢手順中にメスイヌから回収した。脂肪組織は生理食塩水ですすぎ、次いでハサミを使用して細かく切り刻み、20mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)と混合した。コラゲナーゼ(Sigma)を0.05%(w/v)の最終濃度まで加え、サンプルは37℃で90分インキュベートした。インキュベーション中、15分毎に手作業によってサンプルを軽く攪拌した。
【0200】
コラゲナーゼ処理後、ステンレス鋼メッシュ(700ミクロン孔径)を介して、サンプルを無菌状態で濾過し、50mlの遠心分離チューブに移し、500gで15分遠心分離した。
【0201】
浮遊細胞と懸濁液を廃棄し、ペレット状細胞をパスツールピペットで軽く混合して、15mlの遠心分離チューブに移した。
【0202】
次いで細胞をDMEM中で洗浄して、コラゲナーゼを除去した。DMEMは14mlの最終体積まで加え、サンプルは500gで10分遠心分離した。上清を廃棄し、ペレット状SVF細胞を4mlのDMEMに軽く再懸濁し、パスツールピペットで混合した。
【0203】
細胞の増量
細胞懸濁液のアリコート(0.5ml)を、DMEMおよび10%イヌ科動物血清を含有する組織培養フラスコに移し、融合状態の細胞単層が存在するまで(7~10日間)、37℃においてCO2インキュベーター中でインキュベートした。細胞を3mlのTrypLE Express(Invitrogen)で剥離し、50mlの遠心分離チューブにデキャンタし、500gで10分遠心分離した。細胞はこの時点で、実施例8中で記載したようにMr Frosty低速凍結デバイス中で低温保存し、または細胞を新たな組織培養フラスコ中に置き、それらが約8回または13回倍加するまでさらに継代した。継代した細胞は次いで剥離し、遠心分離した。
【0204】
細胞の低温保存
ペレット状細胞サンプル(継代無し、約8回倍加および約13回倍加)を二つのサンプルに各々分け、一つは濃縮分泌物と混合し、一方もう一つは混合しなかった。イヌ科動物血清、またはイヌ科動物血清と、実施例1に従い生成したが3kDaのAmicon遠心分離フィルターチューブ(Millipore)での遠心分離により10倍濃縮した濃縮イヌ科動物分泌物の混合物のいずれかに、細胞を再懸濁した。1対1、または濃縮分泌物1部と血清10部の割合のいずれかの割合で、濃縮分泌物をイヌ科動物血清と混合した。細胞懸濁液は血清および分泌物と混合し、次いで室温で30分保持して、分泌物を細胞と相互作用させた。次いで細胞懸濁液は、2mlアリコートでクリオバイアルに移した。
【0205】
DMSOを各々のクリオバイアルに移し、10%の最終濃度をもたらし、クリオバイアルはMr Frosty低速凍結デバイス(Invitrogen)中、-80℃フリーザー中で24時間凍結し、次いで長期保存用に液体窒素用デュワー瓶に移した。
【0206】
低温保存細胞の解凍および細胞生存率の分析
バイアルを液体窒素から除去し、放置して室温で解凍した。バイアルは軽く攪拌することによって混合し、次いで0.1ml体積を生存率測定用に除去した。0.1ml体積をフローサイトメーターチューブ中に置き、10μg/mLの濃度でヨウ化プロピジウム(Sigma Chemical Company,Louisville,USA)と1μg/mLの濃度でSyto11(Molecular Probes,Eugene,USA)を含有する0.9mlのIsoflow(Beckman Coulter)と混合した。サンプルはFACSCanフローサイトメーターで分析し、Syto11陽性(生存細胞)とヨウ化プロピジウム陽性(死細胞)の割合を記録した。
【0207】
低温保存細胞の培養
1ml体積の解凍サンプルを、DMEMおよび10%ウシ胎児血清を含むT175組織培養フラスコ中に置き、5日間37℃において5%CO2インキュベーター中でインキュベートした。次いでフラスコを、倒立顕微鏡を使用して毎日調べ、融合状態の割合を記録した。
【0208】
フラスコから組織培養培地のサンプルを除去し、ILRla、G-CSF、VEGFおよびEL-10に関してBio-Plex Pro Human 27-plexサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子アッセイ(Biorad,Hercules,USA)を使用して分析した。分泌物有りと分泌物無しの、新たな培地の対照サンプルを対照として含めた。
【0209】
低温保存後の細胞生存率の評価
分泌物と共に凍結した細胞の生存率は、分泌物無しで凍結した細胞より高かった(Table5(表5))。
【0210】
【表5】
【0211】
Click-iT EDUアッセイを使用した凍結後の増殖の評価
解凍細胞の増殖率を、Click-iT EDUアッセイ(Life Technologies)を使用して評価した。約500,000の細胞を含有する一定体積の解凍細胞懸濁液を、6ウエルプレートに移した。2ml体積のDMEMおよび10%イヌ科動物血清をウエルに加えた。EDU試薬をウエルに加えて、10μΜの最終濃度を作製した。プレートは、37℃において2時間、CO2インキュベーター中で37℃および5%CO2でインキュベートした。上清を回収し、接着細胞を剥離し、両者を組合せ、(PBSおよび1%ウシ血清アルブミン;Sigma中で)洗浄し、100μLのClick-iT固定液中に再懸濁し、室温で15分インキュベートして細胞を固定した。次いで細胞を洗浄し、100μLのClick-iT細胞浸透処理剤に再懸濁して細胞を浸透処理した。2.5μLのAlexaFluor488蛍光色素を含有するClick-iT反応カクテル(500μL)中でのインキュベーション(30分)によって、検出用に細胞を標識した。インキュベーション後、細胞はClick-iT浸透処理および洗浄試薬で洗浄し、フローサイトメトリーによって分析した。次いで細胞は、FACScanフローサイトメーターを使用して分析した。非増殖細胞と比較して、増殖細胞は緑色蛍光の増大を示した。
【0212】
細胞分析の結果は図1中に示す。細胞および分泌物として凍結保存したサンプルは、全細胞の16.8%に等しい増殖細胞の集団を示した。分泌物を含まない細胞として凍結保存したサンプルは、全細胞のわずか1.8%に等しい増殖細胞の集団を示した。
【0213】
凍結後の細胞回収
細胞凍結前の細胞への分泌物の添加によって、凍結プロセスを生き延びる細胞の能力、および解凍後に増殖する細胞の能力が改善した。それらを約8回の累積細胞倍加に達するまで培養し分泌物と共に凍結した細胞は、分泌物無しで凍結した同じ細胞より、急速に組織培養フラスコに接着し、急速に増殖することを観察した。24時間で、分泌物と共に凍結した細胞は90%の融合状態に達し、一方分泌物無しで凍結した細胞はわずか60%の融合状態に達した(Table6(表6))。
【0214】
【表6】
【0215】
分泌物有りおよび無しで凍結した細胞から生じたサイトカインの比較
約8回の累積細胞倍加によって培養し分泌物と共に凍結した細胞は、5日間の解凍後培養によって、分泌物無しで凍結した同じ細胞より、(両側t検定で)統計学的に有意な多量のサイトカインILr1a、IL-6、IL-8、IL-9、IL-12、DL-13、FGF塩基性、TNF-aおよびVEGFを生成した(Table7(表7))。
【0216】
【表7】
【0217】
これらのデータセットは、細胞凍結の前に分泌物と細胞を組み合わせることには、有益な影響があることを実証する。分泌物無しで凍結した細胞は、増殖しサイトカインを生成するそれらの能力を失った。凍結前に細胞と分泌物を含めることによって、増殖しサイトカインを生成する細胞の能力が保たれる。
【0218】
(実施例11.継代細胞からの分泌物の生成、および細胞を凍結するための分泌物の使用。)
イヌ科動物脂肪由来細胞を単離し、実施例10中に記載したように培養した。細胞が約13回の累積細胞倍加に達するまで、細胞を継代した。細胞由来の組織培養上清は、3kDaのAmicon遠心分離フィルターチューブ(Millipore)を使用して濃縮した。濃縮分泌物は1対1の割合で血清と混合した。細胞を剥離し、洗浄し、細胞ペレットは血清と分泌物の混合物に再懸濁し、次いで室温で30分保持して、分泌物を細胞と相互作用させた。次いで細胞懸濁液はクリオバイアルに移し、10%DMSOと混合し、実施例10中に記載したように凍結した。
【0219】
実施例10中に記載したように、低温保存細胞懸濁液を解凍し、組織培養フラスコ中で培養した。72時間で、分泌物と共に凍結した細胞は90%の融合状態に達し、一方分泌物無しで凍結した細胞はわずか20%の融合状態に達した(図2)。重要なことに、分泌物無しの細胞は老化状態になり、インキュベーション10日後でさえ20%を超える融合状態に達することはなかった。
【0220】
これは重要な発見である。組織培養中に間葉系幹細胞および他の細胞型を増量して、多数の細胞を生成することができる必要がある。しかしながら、間葉系幹細胞および他の細胞型は無限に培養することができるわけではない。数回の倍加後、細胞は老化状態になり、よりさらに増殖することはない。これは一回培養から生成することができる用量数を制限する。
【0221】
一回の初代培養から多数の細胞を生成するため、低温保存バイアルの細胞塊を設定することが必要である。通常、二層細胞塊を作製する。第一組の低温保存バイアルを作製し、これらのバイアルの一つを次いで解凍し、これを使用して第二組の低温保存バイアルを生成する。毎回生成物のバッチを生成し、これら第二組のバイアルの一つを解凍し、培養に置く。この細胞塊プロセスは、新たに単離した細胞ほど治療上有効ではない細胞を典型的にもたらす。凍結ステップ中に細胞と分泌物を組合せることによって、この問題を克服し、治療上有効な凍結生成物の生成を可能にする。
【0222】
(実施例12.自己脂肪由来細胞を用いた顔面神経障害性疼痛の治療。)
顔面神経障害性疼痛に罹患した四人のヒト患者を、間質血管細胞群および脂肪細胞からなる自己脂肪由来細胞懸濁液で治療した。
【0223】
脂肪吸引を使用して、各々の患者の腹部およびまたは大腿から約200グラムの脂肪組織を回収した。滅菌生理食塩水で洗浄し、次いで0.05%w/vの最終濃度まで滅菌コラゲナーゼの添加により消化することによって、脂肪吸引物を回収直後に処理した。サンプルは37℃で20分間インキュベートし、800ミクロンメッシュを介して濾過し、遠心分離チューブに移した。
【0224】
遠心分離チューブは400gで10分遠心分離し、浮遊脂肪細胞とペレット状細胞の間の層を除去した。細胞ペレットと浮遊脂肪細胞を組合せ、チューブが一杯になるまで濾過滅菌生理食塩水を加えた。サンプルを再度400gで10分遠心分離し、ペレット状細胞と浮遊脂肪細胞の間の層を除去した。生成した細胞調製物は滅菌生理食塩水で10ml体積に希釈し、滅菌シリンジに2ml体積で分配した。
【0225】
患者には、その歯肉の疼痛発生部位に、2mL体積を四回または五回注射した。
【0226】
患者を治療後第4週と第8週の間フォローアップし、その疼痛のレベルはビジュアルアナログスケールを使用して評価した(0=疼痛なし、10=考えられる最悪の疼痛)。これらの評価からの結果は以下のTable8(表8)中に記載する。
【0227】
【表8】
【0228】
(実施例13.ウシ科動物脂肪細胞由来細胞からの分泌物の局所施用による疼痛の治療。)
10gの脂肪組織サンプルを、1才のコウシの尾底骨部からの切除によって回収した。脂肪組織は生理食塩水ですすぎ、次いでハサミを使用して直径約5mmの小片に大まかに切り刻み、20mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)と混合した。コラゲナーゼ(Sigma)を加えて0.2%[w/v]の最終濃度をもたらし、サンプルは37℃で30分インキュベートした。30分の最後に、脂肪組織は部分的に消化され、部分的に消化された脂肪粒子、遊離間質血管細胞(SVC)および遊離脂肪細胞の混合物からなっていた。
【0229】
次いでサンプルを洗浄して、500gで15分の遠心分離によってコラゲナーゼを除去した。四つの異なる層、表面上の小さな(2mm厚の)遊離脂質の層、その下に白色の20mm厚の脂肪組織と脂肪細胞の層、および次いでDMEM/コラゲナーゼの大きな透明の層、および次いで脂肪組織由来非脂肪細胞のペレットを遠心分離サンプル内で見ることができた。小さな脂質の層はパスツールピペットで注意深く除去した。次いで新たなパスツールピペットを脂肪細胞に注意深く挿入し、透明なDMEMは浮遊脂肪組織、脂肪細胞またはペレット細胞を破壊せずに除去した。これによって、脂肪組織の浮遊片、および小体積のDMEMに懸濁した脂肪細胞、およびペレット細胞のみを含有するサンプルが生成した。脂肪組織片、および脂肪細胞、およびペレット細胞をパスツールピペットで軽く混合して、15mlの遠心分離チューブに移した。
【0230】
次いで以下のように、脂肪組織片と細胞をDMEM中で洗浄してコラゲナーゼを除去した。DMEMは14mlの最終体積まで加え、サンプルは500gで10分遠心分離した。これによって、三つの異なる層、脂肪組織と脂肪細胞の浮遊片、DMEMおよびペレット状脂肪組織由来非脂肪細胞が生成した。脂肪組織片、脂肪細胞またはペレット細胞を破壊しないよう気をつけながら、パスツールピペットを脂肪細胞に挿入することによりDMEMを注意深く除去した。
【0231】
組織培養
浮遊およびペレット細胞を10mlのDMEMに軽く再懸濁し、300mlの組織培養フラスコに移した。30ml体積のDMEMおよび10mlの滅菌ウシ胎児血清を加え、次いでフラスコは37℃および5%CO2でインキュベートした。フラスコは一日一回顕微鏡で調べた。第3日と第6日の間に、細胞は接着状態になり線維芽細胞のような外見になった。
【0232】
無細胞細胞分泌物の採取
6日後に上清を採取し、懸濁した脂肪組織と細胞は20ミクロンメッシュを介した濾過によって除去した。溶液は0.22ミクロンフィルターを介して濾過滅菌し、次いで無菌状態で10mlバイアルに分配し、-20℃で凍結保存した。
【0233】
ウシ科動物分泌物を含有するクリームとプラセボクリームの調製
ウシ科動物分泌物のバイアルを解凍し、等量の水性ベースクリームBPと混合し、プラスチックチューブに分配して、使用するまで4℃で保存した。
【0234】
ウシ科動物分泌物を含有しなかった第二ロットのクリームは、プラセボ対照として調製した。等量の水性ベースクリームBPとDMEMを混合し、プラスチックチューブに分配した。
【0235】
火傷が原因の疼痛の治療
その親指と中指に事故により軽度の火傷をした46才の男性に、1チューブの各クリームを与えた。チューブはクリーム1およびクリーム2として標識し、その男性は、どのクリームが分泌物を含有したか、またはどれがプラセボであったか知らなかった。男性には、火傷発生後約30分で、中指にクリーム1および親指にクリーム2を施した。10分後にその親指にもはや全く疼痛がなかったことを、男性は報告した。親指の疼痛が再発することはなかった。中指の疼痛は約6時間続いた。中指には水疱が形成されたが、親指に水疱は発生しなかった。
【0236】
クリーム1はプラセボであり中指に施した。クリーム2はウシ科動物分泌物を含有し親指に施した。
【0237】
(実施例14.コラーゲン抗体誘導関節炎があるマウスへのヒト脂肪由来細胞由来分泌物の筋肉内投与)
脂肪組織の調製
脂肪吸引を使用して、患者から約200グラムの脂肪組織を回収した。0.05%w/vの最終濃度まで滅菌コラゲナーゼを加えることにより脂肪吸引物を消化した。サンプルは37℃で30分間インキュベートし、800ミクロンメッシュを介して濾過し、遠心分離チューブに移した。チューブは1500gで5分遠心分離して、ペレット状細胞(間質血管細胞群;SVF)および浮遊脂肪細胞を得た。四つの異なる層、表面上の小さな遊離脂質の層、その下に脂肪組織と脂肪細胞の薄い層、および次いで生理食塩水の大きな透明の層、および脂肪組織由来非脂肪細胞(SVF)のペレットを遠心分離サンプル内で見ることができた。脂質層は吸引し廃棄した。脂肪細胞とSVF分画は遠心分離後に別々に回収した。分画は生理食塩水で別々に洗浄し、1500×gで5分間遠心分離した。SVFペレットは、10%ウシ胎児血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなる、10mLの細胞培養培地に軽く再懸濁した。
【0238】
SVFペレットの300μL部分を、35μmのナイロンメッシュトップチューブを介して濾過した。濾過サンプルの200μL部分を列挙し、FACScanフローサイトメーターを使用して、イソフロー(isoflow)、ヨウ化プロピジウム(10μg/mL)およびSyto11(1μΜ)を含有するTruCountチューブにおいて生存率を決定した。SVFペレットにおける生存核細胞の合計数を決定した。
【0239】
組織培養および分泌物の採取
T175cm2の培養フラスコに、約2千9百万個の生存SVF細胞と30mLの脂肪細胞を接種した。前に記載したような50mLの細胞培養培地もフラスコに加えた。フラスコは72時間37℃および5%CO2でインキュベートした。
【0240】
72時間のインキュベーション後、条件調整培地をフラスコから回収した。この条件調整培地サンプルを4980gで10分間遠心分離し、-80℃で保存した。この条件調整培地を解凍し、0.22μmのシリンジフィルターを使用して濾過滅菌し、等分し-80℃に凍結した。1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を補充したDMEMを含有する賦形剤対照も0.22μmのシリンジフィルターを使用して濾過滅菌し、等分し-80℃に凍結した。これらの等分サンプルにはコードネームを与え、ドライアイスに載せてTetraQに出荷し、そこでそれらをCAIAに罹患するマウスに投与した。
【0241】
コラーゲン抗体誘導関節炎マウスモデル
コラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)モデルは、関節炎と関連がある病的機構を調べるため、および潜在的治療候補をスクリーニングするために文献中で報告されている、関節炎の広く認められている動物モデルである。このモデルは、関節軟骨の主な構成成分の一つであるI型コラーゲンを標的とする。マウスにおいて、5つの抗II型コラーゲン抗体のカクテルの投与、次に三日後の多糖(LPS)注射によりCAIAを誘導する。抗体カクテル、その後のLPS投与によって、炎症促進性サイトカインの誘導および補体成分活性化により関節炎の重症度が増すだけでなく、このモデルにおいて関節炎を誘導するのに必要なモノクローナル抗体の量も低減する。これらのマウスにおいて発症する関節炎は、多核および単核細胞の浸潤による滑膜炎、パンヌス形成、線維軟骨変性および骨侵食を含めて、人間における関節リウマチと非常に似ている。相当な膨潤および発赤を、CAIAに罹患するマウスの脚部において観察する。脚部発赤および膨潤の臨床症状発現を評価して、CAIAモデルにおけるマウスに臨床的関節炎スコアを割り当てることができる。脚部体積、踝サイズおよび臨床的関節炎スコアの結果測定を使用して、このCAIAモデルにおいて関節炎の重症度を低減させる際の、治療の有効性を決定することができる。
【0242】
第0日に、各々のマウス(合計12匹)に1.5mg(150μL)の抗II型コラーゲン5クローン抗体カクテルを静脈内注射した。このカクテルは、様々な種のII型コラーゲンにおける保存エピトープを認識する5つのモノクローナル抗体:クローンA2-10(IgG2a)、F10-21(IgG2a)、D8-6(IgG2a)、D1-2G(IgG2b)、およびD2-112(IgG2b)を含有する。第3日に、マウスに80μLのLPSを腹腔内注射した(40μg/マウス)。この試験設計は2群の6匹のマウスからなっていた。マウスには、以下のように第6、8、10および12日に筋肉内(IM)経路を介して投与した50μL用量を与えた。群1にはSVF+脂肪細胞からのヒト分泌物を与え、群2には賦形剤対照を与えた。
【0243】
マウスは試験期間を通じて(2週間)モニタリングし、脚部体積、踝サイズおよび臨床的関節炎スコアの主な結果測定は第0日および第2~13日に行った。測定はコラーゲン抗体カクテル(第0日)およびLPS(第3日)の投与の前、および賦形剤とヒトSVF+脂肪細胞分泌物の投与の前に行った。脚部体積は、プレチスモメーターを使用して測定した。脚部サイズは、各脚部の小隆起(踝関節)にわたりマイクロキャリパーを使用して測定した。標準的なスケールを使用し、関節炎の重症度に関してマウスを評価しスコアをつけた(0-正常、1-踝または手首の軽い発赤、わずかな膨潤、個々の関節に限られた発赤および膨潤、2-踝または手首の適度な膨潤、二箇所以上の関節での発赤、3-数箇所の指、踝または脚を含めた重度の膨潤、4-多数の関節に関する最大膨潤および炎症)。
【0244】
データ解析
各々の主な結果測定値、脚部体積(cm3)、踝サイズ(mm)、および臨床的関節炎スコアの平均および標準偏差(SD)を、両群マウスの治療後に各々の時間地点に関して計算した。両側t検定を、治療後の各々の時間地点における主な結果測定値に関して実施して、SVF+脂肪細胞分泌物と賦形剤対照の影響を比較した。統計学的に有意な基準はP<0.05であった。
【0245】
結果
両群に関する脚部体積の結果は図3中に示す。第11日のデータの解析によって、賦形剤対照マウスと比較したとき、SVF+脂肪細胞分泌物で治療したマウスの脚部体積の有意な減少が明らかになった(p値=0.002)。
【0246】
両群に関する踝サイズの測定の結果は図4中に示す。第11日のデータの解析によって、賦形剤対照マウスと比較したとき、SVF+脂肪細胞分泌物で治療したマウスの踝サイズの有意な減少が明らかになった(p値=0.018)。
【0247】
両治療群に関する臨床的関節炎スコアは図5中に示す。第11日のデータの解析によって、賦形剤対照マウスと比較したとき、SVF+脂肪細胞分泌物で治療したマウスの臨床的関節炎スコアの有意な減少が明らかになった(p値=0.017)。
【0248】
データは、筋肉内注射による分泌物の投与は、CAIAマウスモデルにおいて治療効果があることを明らかに示す。注射部位は疾患の部位から離れている。
【0249】
(実施例15.コラーゲン抗体誘導関節炎があるマウスへの、標準低温保存剤で低温保存した脂肪由来細胞および濃縮分泌物と低温保存した細胞の静脈内投与)
脂肪組織の調製
イヌ科動物脂肪組織を実施例1中で記載したように処理して、イヌ科動物接着細胞を生成した。さらに、3kDaのAmicon遠心分離フィルターチューブを使用して、脂肪由来組織から10倍濃縮したイヌ科動物分泌物を、実施例1中で記載したように生成した。これらの細胞および分泌物から、以下の試験品をクリオバイアルにおいて調製し、Mr Frosty低速凍結デバイス(Invitrogen)中、-80℃フリーザー中で24時間凍結し、次いで液体窒素用デュワー瓶に移した:
1.90%イヌ科動物血清と10%DMSOで低温保存した70,000細胞
2.45%イヌ科動物分泌物(10倍濃縮)、45%イヌ科動物血清および10%DMSOで低温保存した70,000細胞。
【0250】
コラーゲン抗体誘導関節炎マウスモデル
実施例14中に記載したコラーゲン抗体誘導関節炎マウス(CAIA)モデルをさらに使用して、前に記載した試験品を投与した影響を調べた。実施例14中で記載したように、合計12匹のマウスでCAIAを誘導した。CAIA誘導後6日で、前に記載した低温保存試験品を注射直前に室温で解凍した。6匹のマウスに、標準低温保存剤で低温保存した140μLの細胞(70,000細胞に相当)をそれぞれ静脈内注射し、残りの6匹のマウスには、濃縮分泌物を含む低温保存剤混合物で低温保存した140μLの細胞(70,000細胞に相当)をそれぞれ静脈内注射した。
【0251】
実施例14中で記載したように、マウスは試験期間を通じてモニタリングし、脚部体積、踝サイズおよび臨床的関節炎スコアの主な結果測定は第0日および第2~12日に行った。
【0252】
データ解析
各々の主な結果測定値、脚部体積(cm3)、踝サイズ(mm)、および臨床的関節炎スコアの平均および標準偏差(SD)を、両群マウスの治療後に各々の時間地点に関して計算し、グラフ化した。デルタ(Δ)脚部体積、踝サイズおよび臨床的関節炎スコアを、CAIA誘導後スコアからCAIA誘導前スコアを引き、これを変化率として表すことによって計算した。脚部体積、踝サイズおよび臨床的関節炎スコアΔのエリアアンダーザカーブを各群に関して決定した。両側t検定を使用して、両群からのΔ脚部体積、踝サイズおよび臨床的関節炎スコアのエリアアンダーザカーブ(AUC)値を比較した。
【0253】
結果
両治療群に関する脚部体積の結果は図6中に示す。このデータのエリアアンダーザカーブ解析によって、細胞単独と比較したとき、細胞および濃縮分泌物で治療したマウスの脚部体積の有意な減少が明らかになった(図7)。
【0254】
両治療群に関する踝サイズの測定結果は図8中に示す。細胞および濃縮分泌物で治療したマウスの踝サイズの有意な減少を、細胞のみを与えたマウスと比較したとき観察した(図9)。
【0255】
両治療群に関する臨床的関節炎スコアは図10中に示す。細胞および分泌物で治療したマウスの臨床的関節炎スコアの有意な減少を、細胞のみを与えたマウスと比較したとき観察した(図11)。
【0256】
データは、細胞凍結前に細胞と分泌物を組合せることによる、治療効果の増大を示す。データは、細胞と分泌物を組合せた凍結生成物は、CAIAマウスモデルにおいて治療効果があることを明らかに示す。細胞単独で投与したとき、治療効果は無かった。これは、細胞が凍結プロセス中に損傷し、治療効果を引き起こすのに必要なサイトカインを損傷細胞が分泌しないためである。分泌物と細胞を凍結させることによって、細胞は凍結プロセスを生き延びることができ、完全に機能的であり、治療効果を引き起こすのに必要なサイトカインを分泌することができる。
【0257】
(実施例16.脂肪由来細胞の皮下投与によるイヌにおける疼痛の治療。)
実施例10に従い凍結細胞を調製した。細胞懸濁液を解凍し、坐骨神経痛に罹患していたイヌの頸部のうなじに皮下投与した。治療後一週間で、イヌは疼痛の兆候を示さなかった。
【0258】
第二のイヌは椎間板疾患に罹患しており、頸部のうなじに細胞の皮下注射を施した。治療後一週間で、イヌは疼痛の兆候を示さなかった。
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