IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図1
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図2
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図3
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図4
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図5
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図6
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図7
  • 特開-ナノ粒子の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027726
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/08 20060101AFI20230222BHJP
   B01J 13/22 20060101ALI20230222BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230222BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230222BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230222BHJP
【FI】
C01G49/08 A
B01J13/22
C01G49/00 H
C01B33/18 Z
A61K9/14
A61K47/04
A61K47/34
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133041
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】巨 陽
(72)【発明者】
【氏名】森田 康之
(72)【発明者】
【氏名】小林 耕大
【テーマコード(参考)】
4C076
4G002
4G005
4G072
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA95
4C076DD29A
4C076EE26
4G002AA04
4G002AA12
4G002AB05
4G002AD04
4G002AE02
4G005AA02
4G005AB09
4G005AB12
4G005BA12
4G005BB12
4G005DA04X
4G005DA05X
4G005DD35Z
4G005DD37Y
4G005DD37Z
4G005EA03
4G072AA25
4G072AA35
4G072AA38
4G072BB15
4G072BB20
4G072EE01
4G072EE10
4G072GG02
4G072HH30
4G072JJ26
4G072KK15
4G072LL06
4G072MM01
4G072MM23
4G072MM33
4G072MM36
4G072QQ06
4G072QQ07
4G072RR05
4G072RR12
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】コアを磁性粒子、シェルをメソポーラスシリカとし、シェルの表面にウレイド高分子を付加したナノ粒子について、その粒径を制御すること。
【解決手段】磁性粒子を界面活性剤およびシリカ源を含む溶液に混合し、シリカ源を縮重合させて磁性粒子を覆うシリカを形成し、その後シリカ中の界面活性剤を除去することによりメソポーラスシリカを形成する第1工程と、メソポーラスシリカの表面にアミノ基を修飾し、そのアミノ基をカルボキシ基に置換して活性化させた後、ウレイド高分子を含む溶液を加えてメソポーラスシリカの表面にウレイド高分子を付加する第2工程と、を有する。第1工程において磁性粒子の平均粒径を5~20nm、磁性粒子の濃度を0.2~0.3mg/mLとし、第2工程においてウレイド高分子の濃度を0.5~1mg/mLとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の磁性粒子と、前記磁性粒子を覆う球殻状のメソポーラスシリカと、前記メソポーラスシリカの表面に付加されたウレイド高分子と、を有したナノ粒子の製造方法において、
前記磁性粒子、界面活性剤およびシリカ源を混合し、前記シリカ源を縮重合させて前記磁性粒子を覆うシリカを形成し、その後前記シリカ中の前記界面活性剤を除去することにより前記メソポーラスシリカを形成する第1工程と、
前記メソポーラスシリカの表面にアミノ基を修飾し、そのアミノ基をカルボキシ基に置換して活性化させた後、前記ウレイド高分子を加えて前記メソポーラスシリカの表面に前記ウレイド高分子を付加する第2工程と、
を有し、
前記第1工程において前記磁性粒子の平均粒径を5~20nm、前記磁性粒子の濃度を0.2~0.3mg/mLとし、前記第2工程においてウレイド高分子の濃度を0.5~1mg/mLとする、
ことを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ウレイド高分子は、重量平均分子量が5000~100000のポリアミノ酸を含む溶液にシアン酸塩を加えて反応させることにより作製し、前記ポリアミノ酸の濃度を40~60mg/mL、反応温度を20~60℃、反応時間を12~48時間とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記磁性粒子の粒径の標準偏差は5nm以下である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程において前記シリカ源の濃度を2~6μg/mLとする、ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、球状の磁性粒子と、磁性粒子を覆う球殻状のメソポーラスシリカと、メソポーラスシリカの表面に付加されたウレイド高分子と、を有したナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子に薬剤を保持させ、ナノ粒子から薬剤を放出させるドラッグデリバリーシステム(DDS)が提案されている。特に、光や温度など外部からの刺激によって薬剤の放出を制御することが可能な粒子が注目されている。
【0003】
非特許文献1-3には、コアをマグネタイト、シェルをメソポーラスシリカとする磁性メソポーラスシリカ(MMS)のナノ粒子表面にウレイド高分子(PAU)を付加したナノ粒子(以下、MMS-PAUナノ粒子)をDDSに用いることが記載されている。ウレイド高分子は、温度が高くなると疎水性から親水性に相転移する材料である。
【0004】
MMS-PAUナノ粒子を用いた薬剤の放出制御は、次のようにして行う。メソポーラスシリカの細孔に薬剤を保持したMMS-PAUナノ粒子に対して交流磁場を印加し、MMS-PAUナノ粒子中のマグネタイトを発熱させる。その熱によってMMS-PAUナノ粒子中のPAUを疎水性から親水性に相転移させる。PAUを親水性とすることでミセル構造を崩壊させ、PAUによるメソポーラスシリカの細孔の蓋が開放され、細孔から薬剤が放出される。
【0005】
MMS-PAUナノ粒子をキャリアとして用いたDDSは、次のような利点がある。第1に、MMSは生体適合性が高い。第2に、メソポーラスシリカは無機材料で機械的強度が高いため薬剤の漏出の危険性が少ない。第3に、PAUは相転移温度をある程度自由に設定できるので、体内での薬剤保持、放出の制御が容易に設定できる。第4に、磁場による薬剤放出制御であり、磁場は体内深部まで到達させることが可能であるため、体内深部での薬剤放出制御が可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小林耕大、森田康之、徳悠葵、巨陽、”温度応答性高分子を応用した機能性DDSの開発”、日本機械学会 第32回バイオエンジニアリング講演会講演論文集
【非特許文献2】小林耕大、森田康之、脇本卓摩、徳悠葵、巨陽、”放出制御型DDSの目指したコアシェル型ナノ粒子への温度応答性高分子の利用”、日本機械学会 2018年度年次大会 講演論文集
【非特許文献3】小林耕大、森田康之、脇本卓摩、木村康裕、徳悠葵、巨陽、”温度応答性高分子を利用した放出制御型DDSキャリアの開発”、日本機械学会 M&M2019 材料力学カンファレンス 講演論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MMS-PAUナノ粒子をDDSに用いる場合、その粒径を制御し、所望の値とする必要がある。たとえば100nm以下とすることが望まれている。しかし、MMS-PAUナノ粒子は、マグネタイトからなるコア、メソポーラスシリカからなるシェル、シェル表面に付加されたPAUの3層構造であるため、粒径を制御するためのパラメータが非常に多数あり、粒径を制御することが難しかった。
【0008】
そこで本開示の目的は、コアを磁性粒子、シェルをメソポーラスシリカとし、シェルの表面にウレイド高分子を付加したナノ粒子について、その粒径を制御することが可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、球状の磁性粒子と、磁性粒子を覆う球殻状のメソポーラスシリカと、メソポーラスシリカの表面に付加されたウレイド高分子と、を有したナノ粒子の製造方法において、磁性粒子、界面活性剤およびシリカ源を混合し、シリカ源を縮重合させて磁性粒子を覆うシリカを形成し、その後シリカ中の界面活性剤を除去することによりメソポーラスシリカを形成する第1工程と、メソポーラスシリカの表面にアミノ基を修飾し、そのアミノ基をカルボキシ基に置換して活性化させた後、ウレイド高分子を加えてメソポーラスシリカの表面にウレイド高分子を付加する第2工程と、を有し、第1工程において磁性粒子の平均粒径を5~20nm、磁性粒子の濃度を0.2~0.3mg/mLとし、第2工程においてウレイド高分子の濃度を0.5~1mg/mLとする、ことを特徴とするナノ粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、コアを磁性粒子、シェルをメソポーラスシリカとし、シェルの表面にウレイド高分子を付加したナノ粒子について、その粒径を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係るMMS-PAUナノ粒子の構造を示した図。
図2】マグネタイトナノ粒子のTEM像。
図3】MMS粒子のTEM像。
図4】細孔4の容積と細孔4の半径の関係を示したグラフ。
図5】分散液を撮影した写真。
図6】温度と光透過度の関係を示したグラフ。
図7】MMS-PAUナノ粒子のTEM像。
図8】時間と薬剤放出率の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いるナノ粒子およびその製造方法に関するものである。まずナノ粒子の構造を説明する。
【0013】
第1実施形態に係るMMS-PAUナノ粒子は、図1に示すように、磁性体からなる球状のコア1と、メソポーラスシリカからなりコア1を覆う殻状のシェル2と、を有した磁性メソポーラスシリカ(MMS)ナノ粒子と、MMSナノ粒子のシェル2表面に付加されたウレイド高分子(PAU)3と、を有している。
【0014】
(コア1の構成)
コア1は、マグネタイト(Fe)からなり、交流磁場の印加によって発熱させるために用いるものである。コア1は、球状であり、その平均粒径は5~20nmである。平均粒径を5nm以上とすることで、コア1の発熱量を十分としている。また、平均粒径を20nm以下とすることで、MMS-PAUナノ粒子の粒径が100nm以下となるようにしている。
【0015】
ここで本明細書において粒径は、粒子の平面視の形状を楕円で近似し、その楕円の短径とする。たとえば、粒子のTEM像などの画像を取得し、その画像をImageJなどの画像解析ソフトを利用して解析することにより平均粒径を求めることができる。
【0016】
発熱効率の点やMMS-PAUナノ粒子の粒径を100nm以下とする点から、コア1の平均粒径は10~15nmがより好ましく、さらに好ましくは11~13nmである。また、コア1の粒径の標準偏差は、5nm以下とすることが好ましく、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは2nm以下である。
【0017】
コア1の材料は、マグネタイトの他にも強磁性体であれば任意の材料でよく、鉄、コバルト、ニッケル、酸化クロム、フェライト、などを用いることができる。発熱効率や製造の容易さの点からは、マグネタイト、フェライト、などが好ましい。
【0018】
効率的に発熱させる点から、コア1の形状はなるべく球に近いことが好ましい。たとえば、コア1の平面視の形状を楕円で近似したときに、短径に対する長径の比が1.1以下であることが好ましい。
【0019】
(シェル2の構成)
シェル2は、コア1を覆う球殻状の形状である。シェル2は、メソポーラスシリカからなる。メソポーラスシリカは、規則的に配列された細孔4を有したシリカ(二酸化ケイ素)である。細孔の直径は2~50nmである。この細孔4に薬剤を保持する。
【0020】
ここで細孔4の直径は、NLDFT法によって求めた細孔4の直径分布におけるピーク値とする。細孔4の直径を2nm以上とすることで、薬剤の保持量を十分に高くすることができる。また、細孔4の直径を50nm以下とすることで、シェル2からの薬剤の漏れを抑制し、シェル2の物理的強度を十分とすることができる。より好ましい細孔4の直径の範囲は、3~40nm、さらに好ましくは3~30nmである。
【0021】
MMSナノ粒子の平均粒径は、20~80nmであることが好ましい。平均粒径を20nm以上とすることで、シェル2を十分に厚くすることができ、薬剤の保持量を十分に高めることができる。また、平均粒径を80nm以下とすることで、MMS-PAUナノ粒子の粒径を100nm以下とすることが容易となる。より好ましくは30~75nm、さらに好ましくは40~70nmである。また、MMSナノ粒子の粒径の標準偏差は、15nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは8nm以下である。
【0022】
(PAU3について)
PAU3は、シェル2の表面に付加されている。PAU3は、温度が上昇すると疎水性から親水性に相転移するウレイド高分子である。ウレイド高分子は、アミノ酸が重合したポリアミノ酸であって、その側鎖の一部にウレイド基が結合している(ウレイド化されている)物質である。PAU3が疎水性の場合、シェル2表面のPAU3はミセル構造を作り、シェル2の細孔4開口を覆って蓋をした状態となる。そのため、細孔4に保持された薬剤は外に拡散しない。一方、PAU3が親水性の場合、シェル2表面のPAU3のミセル構造は崩壊し、シェル2の細孔4開口は覆われない状態となる。そのため、細孔4に保持された薬剤は外に拡散する。
【0023】
PAU3の相転移温度は、ウレイド化率によって制御することができ、ウレイド化率が高いほど相転移温度を高くすることができる。DDSに用いる場合、生体深部の温度はおよそ37℃であることから、相転移温度が38℃以上となるようにウレイド化率を設定する。相転移温度は理想的には一意に決まるが、実際のPAU3では、各分子のウレイド化率にばらつきを有するため、相転移温度に幅を有する。そのため、ウレイド化率のばらつきをなるべく抑えることが好ましい。たとえば、相転移温度の幅が5℃以下となるようにすることが好ましい。より好ましくは4℃以下である。また、ウレイド化率の平均は、たとえば90~95%である。
【0024】
PAU3の重量平均分子量Mwは、たとえば5000~100000である。Mwが高いほどPAU3の相転移温度は高くなる。
【0025】
MMS-PAUナノ粒子の平均粒径は、100nm以下である。DDSのキャリアとして用いる場合、肝臓や脾臓などの細胞内皮系に属する臓器に捕獲されないようにする必要があり、またEPR効果を発現させるためである。EPR効果は、固形がん組織において高分子が長く保持される現象である。より好ましいMMS-PAUナノ粒子の平均粒径は、90nm以下である。また、MMS-PAUナノ粒子の粒径の標準偏差は、20nm以下が好ましく、より好ましくは15nm以下である。
【0026】
(薬剤の放出制御について)
MMS-PAUナノ粒子を用いた薬剤の放出制御について説明する。
【0027】
まず、MMS-PAUナノ粒子のシェル2の細孔4に薬剤を保持させる。PAU3の相転移温度未満の温度において、薬剤を含む溶液にMMS-PAUナノ粒子を混合して超音波処理することにより、細孔4に薬剤を含む溶液を充填する。振とうによってPAU3による細孔4の蓋を一時的に開放させ、その間に細孔4に薬剤を含む溶液を充填するものである。振とうを止めると細孔4は元通りにPAU3により蓋をされるため、薬剤を保持することができる。他の方法として、薬剤を含む溶液にMMS-PAUナノ粒子を混合してPAU3の相転移温度以上の温度に加熱し、その後に相転移温度未満の温度に冷却することで細孔4に薬剤を含む溶液を充填してもよい。
【0028】
MMS-PAUナノ粒子が保持する薬剤を放出するためには、MMS-PAUナノ粒子に交流磁場を印加する。交流磁場の印加によりコア1が発熱し、その熱がPAU3に伝導して相転移温度以上になると、PAU3は疎水性から親水性に相転移して細孔4の蓋が開放される。これにより、細孔4に保持された薬剤が外に拡散される。交流磁場の周波数を300kHz以上とすることで、コア1を効率的に発熱させることができる。また、磁場の印加による制御であるため、MMS-PAUナノ粒子が体内深部であっても薬剤を放出させることができる。
【0029】
(MMS-PAUナノ粒子の製造方法)
次に、MMS-PAUナノ粒子の製造方法について説明する。
【0030】
まず、平均粒径が5~20nmのマグネタイトからなる磁性粒子を用意する。このような磁性粒子は、たとえば熱分解法によって作製することができる。熱分解法は、有機溶媒中で金属錯体を熱分解することで金属ナノ粒子を生成する方法である。熱分解法では、金属錯体と配位子のモル比や、加熱温度などによって平均粒径を制御することができる。熱分解法を用いることにより、鉄のような遷移金属のナノ粒子を容易に作製することができる。
【0031】
金属錯体は、鉄-オレイン酸錯体などを用いることができる。
【0032】
次に、磁性粒子の表面に、テンプレート法を用いてメソポーラスシリカを形成して、コア1を磁性粒子、シェル2をメソポーラスシリカとするMMSナノ粒子を作製する。テンプレート法では、次のようにしてメソポーラスシリカを作製する。まず、磁性粒子を界面活性剤およびシリカ源を含む溶液に混合する。界面活性剤は磁性粒子の表面にミセルを形成する。このミセルを型として、シリカ源を縮重合させて磁性粒子を覆うシリカを形成する。その後、シリカ中の界面活性剤を除去して細孔4とすることにより、メソポーラスシリカを形成する。シリカ中の界面活性剤は、加熱により分解除去したり、塩酸などによりエッチングしたりすることで除去することができる。
【0033】
界面活性剤には、臭化セチルトリメチルアンモニウムなどを用いることができる。
【0034】
シリカ源には、テトラエチルオルトケイ酸(TEOS)、テトラメチルオルトケイ酸、テトラプロピルオルトケイ酸、などを用いることができる。
【0035】
ここで、磁性粒子の濃度(溶液に磁性粒子を混合した時点での濃度)は、0.2~0.3mg/mLとする。これにより、MMSナノ粒子の平均粒径を十分に小さく制御することができ、最終的なMMS-PAUナノ粒子の粒径を100nm以下に制御することができる。より好ましくは0.2~0.26mg/mLである。
【0036】
ここで、シリカ源の濃度(溶液に磁性粒子を混合した時点での濃度)は、2~6μg/mLとすることが好ましい。MMSナノ粒子の作製成功率を向上させることができる。より好ましくは、4~6μg/mLである。
【0037】
一方で、PAU3を作製する。PAU3は、ポリアミノ酸を含む溶液にシアン酸塩を加えてポリアミノ酸の側鎖の一部にウレイド基を導入する反応をさせることにより作製する。PAU3の相転移温度は、ウレイド化率によって制御することができ、37℃以上とすることができる。なお、側鎖の全部にウレイド基を導入すると、MMSナノ粒子の表面にPAU3を付加することができなくなるため、ウレイド化率は100%未満とする。好ましくは90~99%、さらに好ましくは95~98%である。
【0038】
ポリアミノ酸は、ポリアリルアミン(PAA)などである。
【0039】
ポリアミノ酸の重量平均分子量Mwは、5000~100000とする。この範囲とすることで、PAU3の相転移温度を37℃以上とすることが容易となる。より好ましくは7000~50000、さらに好ましくは8000~20000である。
【0040】
ポリアミノ酸の濃度(溶液にシアン酸塩を加えた時点での濃度)は40~60mg/mL、反応温度は20~60℃、反応時間は12~48時間とする。このようにポリアミノ酸の濃度を低くし、反応温度を低くして長時間反応させることにより、PAU3のウレイド化率を揃えることができ、相転移温度の幅を小さくすることができる。
【0041】
より好ましいポリアミノ酸の濃度は、45~59mg/mL、さらに好ましくは52~58.5mg/mLである。
【0042】
より好ましい反応温度は、40~60℃、さらに好ましくは50~60℃である。
【0043】
より好ましい反応時間は、24~48時間、さらに好ましくは36~48時間である。
【0044】
次に、MMSナノ粒子のシェル2表面に、PAU3をアミド結合させて付加する。PAU3の付加は、次のようにして行う。
【0045】
まず、シェル2の表面にアミノ基を修飾する。アミノ基の修飾は、アミノプロピルエトキシシラン(APTES)、アミノプロピルメトキシシラン、などのシランカップリング剤を混合した溶液に、MMSナノ粒子を混合することで行うことができる。
【0046】
次に、MMSナノ粒子のシェル2表面に修飾されたアミノ基をカルボキシ基に置換して活性化させる。アミノ基のカルボキシ基への置換は、無水コハク酸、無水マレイン酸、などを溶解した溶液に、MMSナノ粒子を混合することで行うことができる。また、カルボキシ基の活性化は、1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ジヒドロキシコハク酸イミド(NHS)などの架橋剤を溶解した溶液に、カルボキシ基が修飾されたMMSナノ粒子を混合することで行うことができる。
【0047】
次に、カルボキシ基が修飾されたMMSナノ粒子を含む溶液に、PAU3を加える。これにより、MMSナノ粒子の表面に修飾されたカルボキシ基と、PAU3の側鎖のアミノ基をアミド結合させる。以上によりMMS-PAUナノ粒子が作製される。
【0048】
PAU3の濃度(溶液にPAU3を加えた時点での濃度))は、0.5~1mg/mLとする。PAU3の濃度によってMMS-PAUナノ粒子の粒径を制御することができ、濃度範囲を上記範囲とすることによりMMS-PAUナノ粒子の平均粒径を100nm以下に制御することができる。
【0049】
以上、第1実施形態によれば、MMS-PAUナノ粒子の粒径を制御することができ、平均粒径を100nm以下とすることができる。そのため、DDSのキャリアとしてMMS-PAUナノ粒子を利用することができる。なお、MMS-PAUナノ粒子は、DDSのキャリア以外に、温熱治療にも用いることができる。
【実施例0050】
1.マグネタイトナノ粒子の作製
まず、エタノール(80mL)、純水(60mL)、ヘキサン(140mL)を混合し、その溶液に塩化鉄(III)六水和物(10.8g)、オレイン酸ナトリウム(36.5g)を加えて溶解させた。次に、その溶液を450rpmで攪拌しながら70℃まで加熱し、その後、同温、同回転数で4時間攪拌した。次に、溶液の有機層を分液ロートにより回収し、純水で3回洗浄後、ロータリエボパレータを用いて90℃で減圧濃縮し、溶媒を除去した。さらに、残渣を70℃で一晩真空乾燥させて溶媒をさらに除去した。このようにして鉄-オレイン酸錯体を作製した。
【0051】
次に、1-オクタデセン(200g)、オレイン酸(5.7g)を混合し、その混合溶液に上記により作製した鉄-オレイン酸錯体(36g)を溶解させ、加熱攪拌した。攪拌の回転数は200rpm、昇温速度は3.3℃/minで320℃まで加熱し、その後は同温、同回転数で30分間攪拌した。その後、自然冷却により溶液を室温に戻し、ヘキサンとアセトンを1:5で混合した混合液を200mL添加してマグネタイトナノ粒子を析出させた。このナノ粒子を含む溶液を回転数8000rpmの遠心分離にかけて、溶液の上澄みを取り除き、マグネタイトナノ粒子を回収した。
【0052】
回収したナノ粒子をヘキサンとアセトンを1:5で混合した混合液(50mL)に加え、超音波洗浄機により洗浄後、遠心分離を行ってナノ粒子を回収した。この作業を3回繰り返し、不純物を取り除いた。
【0053】
得られたマグネタイトナノ粒子のTEM像を図2に示す。図2のように、マグネタイトナノ粒子は均一な粒径であることがわかった。TEM像を画像解析ソフトImageJによって解析し、粒径を求めた。具体的にはTEM像を二値化して粒子を楕円で近似し、その短軸の長さとして粒径を求めた。その結果、平均粒径は12.5nm、標準偏差は1.6nmであった。粒径10~15nmの粒子が約95%を占めており、粒径分布が非常に狭いことがわかった。また、粒子のアスペクト比(長径/短径)は全ての粒子が1.25以下であり、約80%の粒子が1.1以下であり、形状が球状に近いことがわかった。
【0054】
2.MMSナノ粒子の作製
純水を水酸化ナトリウム(NaOH)によってpH12に調製し、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を溶解させ、CTABの濃度を15mg/mLとし、70℃で1時間攪拌した。また一方で、上記により作製したマグネタイトナノ粒子を濃度23.4mg/mLとなるようにクロロホルム中に分散させ、1時間超音波処理した。次に、CATBの溶液に、マグネタイトナノ粒子を分散させた分散液1mLを30分かけて滴下し、その後温度を80℃まで上げて1時間攪拌した。これにより、マグネタイトナノ粒子表面にCTABを付加してミセル構造を生じさせた。
【0055】
次に、テトラエチルオルトケイ酸(TEOS)を0.15mL滴下して30分間攪拌し、さらにTEOSを0.75mL滴下して1.5時間攪拌した。次に、溶液を回転数8000rpmの遠心分離にかけて、溶液の上澄みを取り除いた。これにより、マグネタイトナノ粒子をコア1とし、そのコア1をシリカからなるシェル2が覆うナノ粒子を得た。次に得られたナノ粒子をエタノールに加え、超音波処理した後、遠心分離を行って上澄みを取り除いた。この作業を3回繰り返し、不純物を取り除いた。その後、真空乾燥させた。
【0056】
次に、得られたナノ粒子を800℃で6時間加熱した。これにより、シェル2中に残るCTABを除去した。CTABの部分が細孔として残り、シェル2はメソポーラスシリカとなった。このようにして、MMSナノ粒子を作製した。
【0057】
得られたMMSナノ粒子のTEM像を図3に示す。図3のように、MMSナノ粒子は均一に分散しており、マグネタイトナノ粒子からなるコア1に均一な厚さのシェル2を有した構造であることがわかった。図3中、粒子の中心部の黒い点状の領域がマグネタイトからなるコア1であり、その周囲の部分がメソポーラスシリカからなるシェル2である。TEM像を画像解析ソフトImageJによって解析し、粒径を求めた。その結果、平均粒径は66.1nm、標準偏差は7.54nmであった。DDSのキャリアとして十分に適用できる大きさでなることが確認できた。
【0058】
MMSナノ粒子のシェル2の細孔の半径をNLDFT法によって測定した。図4は、細孔4の容積と細孔4の半径の関係を示したグラフである。図4のように、細孔4の半径のピークは2.6nmであり、MMSナノ粒子のシェル2は薬剤の保持に適した細孔4を有していることがわかった。
【0059】
3.PAUの作製
和光株式会社製のポリアリルアミン塩酸塩(Mw:15000)(1170mg)と純水20mLを混合した。また一方で、シアン酸カリウム(KOCN)(405mg)を純水1mLに溶解させた。そして、混合溶液にKOCNの溶液を少しずつ滴下した。そして、60℃に加熱して48時間攪拌し、これによりPAU3を生成した。その後、副生成物の塩化カリウムを透析チューブに24時間かけて除去した。さらに遠心分離を12000rpmで30分間行い、PAU3を得た。また、この際、PAU3が疎水性となるように、生理食塩水中、低温で行った。
【0060】
上記により作製したPAU3をリン酸緩衝食塩水(PBS)に分散させ、その分散液を観察した。図5は、分散液を撮影した写真であり、図5(a)は低温下、図5(b)は高温下である。図5のように、分散液は低温下では白濁、高温下では無色透明であった。これは、低温ではPAU3が疎水性となり吸光するためである。このように、PAU3は温度上昇によって疎水性から親水性に相転移することが確認できた。
【0061】
PAU3をPBSに分散させた分散液について、分光光度計を用いて光の透過度の測定を行った。図6は、温度と光透過度の関係を示したグラフである。光透過度は、PBSの透過度を100%として規格化した値である。透過度が高いほど、親水性のPAU3の割合が高い状態である。図6のように、作製したPAU3は、39~41℃で急激に疎水性から親水性に相転移していることがわかった。相転移温度は一意に決まるのが理想であるが、実際にはPAU3のウレイド基の導入率が一定でないため、相転移温度に幅が生じていると考えられる。作製したPAU3は相転移温度に幅を有するものの、体内に投与した時点では疎水性であることがわかった。
【0062】
4.MMS-PAUナノ粒子の作製
アミノプロピルエトキシシラン(APTES)(1mL)とエタノール(80mL)の混合溶液に、上記作製したMMSナノ粒子を加え、室温にて200rpmで24時間攪拌してMMSナノ粒子を分散させた。これにより、MMSナノ粒子の表面にアミノ基を導入した。以下、このナノ粒子をMMS-アミノ基ナノ粒子とする。
【0063】
その後、分散液に対して遠心分離を行い、上澄みを除去し、エタノール(50mL)を加え、超音波洗浄した。これを3回繰り返して余剰な物質を取り除いた。
【0064】
次に、ジメチルスルホキシド(DMF)(20mL)に無水コハク酸(3g)を溶解させ、その溶液に上記作製したMMS-アミノ基ナノ粒子を加え、室温にて200rpmで24時間攪拌し、MMS-アミノ基ナノ粒子を分散させた。これにより、MMS-アミノ基ナノ粒子中のアミノ基をカルボキシ基に置換した。以下、このナノ粒子をMMS-カルボキシル基ナノ粒子とする。
【0065】
その後、MMS-カルボキシ基ナノ粒子の分散液に対して遠心分離を行い、上澄みを除去してエタノール(50mL)を加え、超音波処理した。この作業を3回繰り返し、余剰な物質を取り除いてMMS-カルボキシ基ナノ粒子の純度を高めた。
【0066】
純水に上記作製したMMS-カルボキシ基ナノ粒子を1mg/mLの濃度で分散させた。その分散液(30mL)に1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)(30mg)、N-ジヒドロキシコハク酸イミド(NHS)(9mg)を混合して30分間超音波処理し、その後、30分間攪拌した。これにより、MMS-カルボキシ基ナノ粒子のカルボキシ基を活性化した。
【0067】
次に、分散液にPAU3溶液(1mL)を加えて24時間振とうした。PAU3溶液は溶媒を純水とし、PAU3の濃度が20mg/mLとなるように調製した。これにより、MMSナノ粒子の表面にPAU3をアミド結合させて付加し、MMS-PAUナノ粒子を生成した。
【0068】
次に、MMS-PAUナノ粒子の分散液に対して遠心分離を行い、上澄みを除去し、純水(30mL)を加え、超音波処理した。さらにもう一度遠心分離を行い、MMS-PAUナノ粒子を回収した。
【0069】
作製したMMS-PAUナノ粒子のTEM像を図7に示す。図7のMMSナノ粒子に比べて全体的に粒子径が大きく、色も黒く曇っていることがわかった。これは、MMSにPAUが付加したためと考えられる。TEM像を画像解析ソフトImageJによって解析し、粒径を求めた。その結果、平均粒径は88.5nm、標準偏差は11.2nmであった。これは、DDSのキャリアとして十分に適用できる大きさ(100nm以下)であることが確認できた。
【0070】
次に、作製したMMS-PAUナノ粒子によって薬剤の放出を制御可能かどうか、実際に確認した。薬剤はドキソルビシン塩酸塩(DOX)とした。
【0071】
まず、DOXを純水に溶解させてその濃度を0.5mg/mLとした。この溶液に、MMS-PAUナノ粒子(30mg)を分散させた。そして、1時間超音波処理し、室温下で24時間振とうした。その後、分散液に対して8000rpmで遠心分離を行い、上澄みを除去した。これにより、シェル2の細孔4にDOXの溶液を保持させた。
【0072】
さらに、PBS(3mL)にMMS-PAUナノ粒子を分散させ、回転数8000rpmで遠心分離し、上澄みを除去した。この作業を4回繰り返して余剰な物質を取り除いた。
【0073】
MMS-PAUナノ粒子を分散させる前のDOX溶液の吸光度と、上澄み液、洗浄液の吸光度から、DOXを保持したMMS-PAUナノ粒子の薬剤充填量を測定したところ、MMS-PAUナノ粒子1mg当たり72μgのDOXを含むことがわかった。
【0074】
DOXを保持したMMS-PAUナノ粒子(15mg)をPBS(3mL)に分散させ、その分散液を透析チューブに入れた。さらに、その透析チューブをPBS(30mL)中に投入した。そして、37℃にて振とうしながら、透析チューブの外側のPBSの吸光度を測定した。吸光度が一定となった8時間後に、DOXを保持するMMS-PAUナノ粒子に磁場を印加した。磁場は周波数415kHz、磁場の強さ2.25kA/mの交流磁場で、印加時間は3分とした。磁場の印加後、再び37℃にて振とうしながら、透析チューブの外側のPBSの吸光度を測定した。
【0075】
求めた吸光度から薬剤放出率を求めた。図8は、時間と薬剤放出率の関係を示したグラフである。図8のように、磁場を印加していない状態では、5時間経過当たりまでは時間とともに薬剤放出率が約10%まで徐々に上昇するが、それ以降は薬剤放出率が一定となった。これは、37℃ではPAU3の相転移温度未満であるためPAU3が疎水性でミセル構造を作っており、MMS-PAUナノ粒子の細孔4に保持されたDOXがPAU3のミセル構造により蓋をされて外にほとんど拡散しないためであると考えられる。また、8時間後に磁場を印加すると、薬剤放出率が急激に上昇し、約75%に達していることがわかった。これは、磁場の印加によってMMS-PAUナノ粒子のコア1が発熱し、その熱が伝導してPAU3が加熱され、PAU3の相転移温度以上の温度に加熱されて親水性となり、ミセル構造が崩壊して細孔4に保持されていたDOXが外に拡散したためであると考えられる。以上の結果、実施例1により作製したMMS-PAUナノ粒子は、磁場の印加によって薬剤の放出制御が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本開示のナノ粒子は、ドラッグデリバリーシステムのキャリアとして利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:コア
2:シェル
3:PAU
4:細孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8