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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027727
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】蓄電システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20230222BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20230222BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20230222BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20230222BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/3828
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H01M10/44 Q
G01R31/396
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133043
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】手塚 渉
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB04
2G216BA02
2G216BA26
2G216CA01
2G216CD03
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB01
5G503CA02
5G503CA10
5G503EA08
5G503GD06
5H030AA09
5H030AS20
5H030BB03
5H030FF42
(57)【要約】
【課題】 多並列蓄電池アレイの使用歴が長くなっても、各ストリングに含まれる蓄電池の劣化状態を判定することが可能な蓄電システムを提供する。
【解決手段】 蓄電システム1は、多並列蓄電アレイ4、蓄電池監視装置5、交直変換装置6およびブレーカ7を備えて構成される。蓄電池監視装置5を構成するユニットセンサ5cは、定電流または定電力で充電される際の充電電流の値を測定する測定部を構成する。蓄電池監視装置5を構成するBMU5aのMPUは、測定部で測定された充電電流値の時間変化率を各ストリングSt1~St10毎に算出する算出部と、算出部で算出された各ストリングストリングSt1~St10についての時間変化率に基づいて各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定する判定部として、機能する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蓄電池が直列に接続されたストリングが複数並列に接続されて構成される多並列蓄電池アレイを構成している各前記ストリングの状態を検知する蓄電システムにおいて、
各前記ストリングが定電流または定電力で充電される際の充電電流の値を測定する測定部と、前記測定部で測定された充電電流値の時間変化率を各前記ストリング毎に算出する算出部と、前記算出部で算出された各前記ストリングについての前記時間変化率に基づいて各前記ストリングに含まれる前記蓄電池の劣化状態を判定する判定部と
を備えることを特徴とする蓄電システム。
【請求項2】
前記判定部は、前記充電電流値の時間の経過に対する増加率が大きい前記時間変化率を有する前記ストリングほど、劣化が進んだ前記蓄電池を含むものと判定することを特徴とする請求項1に記載の蓄電システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記充電電流値の時間の経過に対する減少率が大きい前記時間変化率を有する前記ストリングほど、劣化が少ない前記蓄電池を含むものと判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蓄電システム。
【請求項4】
前記算出部で算出される前記時間変化率と前記ストリングの劣化度との関係を予め記憶する記憶部を備え、
前記判定部は、前記算出部で算出された前記時間変化率に基づいて前記記憶部に記憶される前記関係を参照して前記ストリングに含まれる前記蓄電池の劣化度を判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項5】
前記充電電流は前記多並列蓄電池アレイに対して行われる均等充電時におけるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項6】
前記充電電流値が時間の経過に対して増加する前記時間変化率を有する前記ストリングが前記判定部で検出された場合に劣化ストリング検出信号を出力する警告部を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多並列蓄電池アレイを構成するストリングの劣化状態を検出する機能を備える蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蓄電システムとしては、例えば、特許文献1に開示された、充放電監視制御システムによってストリングの劣化状態を検出するものがある。
【0003】
この充放電監視制御システムでは、並列接続されている各ストリング毎に放電電流I を測定する。そして、測定した放電電流I から求めた全ストリングの平均放電電流IAVEと特定ストリングの放電電流I との差(IAVE-I )が、予め設定した電流差dIよりも大きく、下記の(1)式が成立するか判断する。
(IAVE-I )>dI … (1)
【0004】
さらに、その差(IAVE-I )が、測定した放電電流から算出した標準偏差σに係数Aを乗じた数よりも大きくて、下記の(2)式が成立するか判断する。
(IAVE-I )>σ・A … (2)
【0005】
そして、(1)式および(2)式が成立するストリングは、劣化した鉛蓄電池を含む状態にあると診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5783116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の蓄電システムが備えるような充放電監視制御システムは、多並列蓄電池アレイの使用歴が浅く、ストリングの劣化度が小さい状態のときには、ストリングの劣化状態を上記の各式によって検出できるが、多並列蓄電池アレイの使用歴が長くなると、ストリングの劣化状態を上記の各式によって検出することは難しくなる。すなわち、多並列蓄電池アレイの使用歴が長くなって、複数のストリングにわたり複数の異なる劣化度の蓄電池が含まれる場合、各ストリングの放電電流は時間の経過に応じて増加と減少を繰り返すようになる。このため、各ストリングの放電電流を用いて演算する上記の各式によってストリングの劣化状態を診断することは難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
複数の蓄電池が直列に接続されたストリングが複数並列に接続されて構成される多並列蓄電池アレイを構成している各ストリングの状態を検知する蓄電システムにおいて、
各ストリングが定電流または定電力で充電される際の充電電流の値を測定する測定部と、測定部で測定された充電電流値の時間変化率を各ストリング毎に算出する算出部と、算出部で算出された各ストリングについての時間変化率に基づいて各ストリングに含まれる蓄電池の劣化状態を判定する判定部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、多並列蓄電池アレイを構成する各ストリングが定電流または定電力で充電される際の充電電流値の時間変化率が算出部によって算出され、算出された各ストリングについての時間変化率に基づいて、各ストリングに含まれる蓄電池の劣化状態が判定部によって判定される。定電流または定電力で充電される際におけるストリングへの充電電流は、多並列蓄電池アレイの使用歴が長くなっても、放電電流のように、増加と減少を繰り返すような現象を呈さず、ストリングに含まれる蓄電池の劣化度に応じて増加減少する電流挙動を呈する。このため、多並列蓄電池アレイの使用歴が長くなっても、算出部で算出される、各ストリングへの充電電流値についての時間変化率に基づいて、各ストリングに含まれる蓄電池の劣化状態を判定部によって判定することができる。
【0010】
また、本発明は、判定部が、充電電流値の時間の経過に対する増加率が大きい時間変化率を有するストリングほど、劣化が進んだ蓄電池を含むものと判定することを特徴とする。
【0011】
劣化した蓄電池の内部抵抗は劣化の度合いが大きいほど大きくなり、定電流または定電力で行われるストリングへの充電電流は、充電当初、より劣化した蓄電池を含むストリングほど、その大きな内部抵抗によってより抑制される。したがって、本構成により、算出部で算出された複数の時間変化率のなかで、充電電流値の時間の経過に対する増加率が大きい時間変化率を有するストリングほど、劣化が進んだ蓄電池を含むものと判定部によって判定することができる。このため、充電電流値が時間の経過に対して増加する時間変化率を有するストリングについて、そのストリングに含まれる蓄電池の劣化の進行に順位付けをすることが可能になる。
【0012】
また、本発明は、判定部が、充電電流値の時間の経過に対する減少率が大きい時間変化率を有するストリングほど、劣化が少ない蓄電池を含むものと判定することを特徴とする。
【0013】
蓄電池の内部抵抗は劣化の度合いが小さいほど小さく、定電流または定電力で行われるストリングへの充電電流は、充電当初、より劣化の少ない蓄電池を含むストリングほど、その小さな内部抵抗によってより増大する。したがって、本構成により、算出部で算出された複数の時間変化率のなかで、充電電流値の時間の経過に対する減少率が大きい時間変化率を有するストリングほど、劣化が少ない蓄電池を含むものと判定部によって判定することができる。このため、充電電流値が時間の経過に対して減少する時間変化率を有するストリングについて、そのストリングに含まれる蓄電池の劣化の遅れに順位付けをすることが可能になる。
【0014】
また、本発明は、
算出部で算出される時間変化率とストリングの劣化度との関係を予め記憶する記憶部を備え、
判定部が、算出部で算出された時間変化率に基づいて記憶部に記憶される前記関係を参照してストリングの劣化度を判定することを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、各ストリングに含まれる蓄電池の劣化状態を判定することが可能になると共に、各ストリングの劣化度を判定することが可能になる。
【0016】
また、本発明は、充電電流が多並列蓄電池アレイに対して行われる均等充電時におけるものであることを特徴とする。
【0017】
均等充電は、多並列蓄電池アレイの運用開始の初期から寿命期に至るまで、長期にわたって定期的に実施されるため、各ストリングの特性を確実に捉えることが可能である。したがって、ストリングに含まれる蓄電池の劣化が進行する前に、ストリングに含まれる蓄電池の劣化の予兆を確実に捉えて、より早期にストリングの交換を行うことが可能であり、劣化した蓄電池が含まれるストリングが複数含まれる多並列蓄電池アレイにおいても、劣化を確実に捉えてストリングの交換を行うことで、多並列蓄電池アレイの寿命を延ばすことが可能になる。
【0018】
また、本発明は、充電電流値が時間の経過に対して増加する時間変化率を有するストリングが判定部で検出された場合に劣化ストリング検出信号を出力する警告部を更に備えることを特徴とする。
【0019】
本構成によれば、警告部が出力する劣化ストリング検出信号により、その劣化ストリングに含まれる蓄電池が著しく劣化する前に、多並列蓄電池アレイへの入出力電力の抑制などといったシステム運用条件を変更したり、劣化した蓄電池の適切な交換時期を判断したりして、ストリングの劣化進行を抑制する対処を早期にとることができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多並列蓄電池アレイの使用歴が長くなっても、各ストリングへの充電電流値についての時間変化率に基づいて、各ストリングに含まれる蓄電池の劣化状態を判定することが可能な蓄電システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態による蓄電システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示す蓄電システムの運用の初期における多並列蓄電アレイについて均等充電した際における各ストリングの充電電流値の時間変化を表すグラフである。
図3図1に示す蓄電システムが長期に運用されたときの多並列蓄電アレイについて均等充電した際における各ストリングの充電電流値の時間変化を表すグラフである。
図4図1に示す蓄電システムを構成する蓄電池監視装置によって行われる劣化ストリング検出処理の概略を表すフローチャートである。
図5】使用歴の長い多並列蓄電池アレイを構成する各ストリングの放電電流値の時間変化を表すグラフである。
図6図1に示す蓄電システムにおいて、複数のストリングのうちの1つに劣化した鉛蓄電池セルが含まれる多並列蓄電アレイについて均等充電した際における各ストリングの充電電流値の時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の一実施の形態による蓄電システムを実施するための形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態による蓄電システム(ESS: Energy Storage System)1の概略構成を示すブロック図である。
【0024】
蓄電システム1は電力バックアップ用に多並列蓄電アレイ4を備え、負荷3へは、通常時、商用電源等の電力供給部2から電力が供給されるが、例えば停電発生時には、蓄電システム1の制御によって多並列蓄電アレイ4から電力が供給される。すなわち、電力供給部2の交流電力は、通常、負荷3へ給電されると共に、交直変換装置6によって直流電力に変換されて多並列蓄電アレイ4に供給され、多並列蓄電アレイ4が充電されている。しかし、例えば停電発生時には、交直変換装置6により、多並列蓄電アレイ4に蓄電された直流電力が放電させられ、或いは、交流電力に変換されて、負荷3へ給電される。
【0025】
多並列蓄電アレイ4は、ストリングStが複数並列に接続されて構成されている。ストリングStは、サイクルユースの複数の鉛蓄電池セル4aが直列に接続されて構成されている。本実施形態では、多並列蓄電アレイ4は10本のストリングSt1~St10が並列に接続され、各ストリングSt1~St10はそれぞれ36個の鉛蓄電池セル4aが直列に接続されて構成されている。
【0026】
蓄電システム1は、このような多並列蓄電アレイ4と、蓄電池監視装置5と、交直変換装置(PCS: Power Conditioning System)6と、回路保護用のブレーカ7とを備えて構成される。
【0027】
蓄電池監視装置5は、BMU(Battery Monitoring Unit)5aと、各鉛蓄電池セル4aに対応して設けられたセルセンサ5bと、各ストリングSt1~St10に対応して設けられたユニットセンサ5cとにより構成され、各ストリングSt1~St10の状態を検知する。各セルセンサ5bは、対応して設けられた鉛蓄電池セル4aの端子間電圧および温度を測定する。各ユニットセンサ5cは、対応して設けられたストリングSt1~St10それぞれの端子間電圧およびストリングSt1~St10それぞれを流れる電流を測定する。
【0028】
これらユニットセンサ5cは、各ストリングSt1~St10が定電流または定電力で充電される際の充電電流の値を測定する測定部を構成する。本実施形態では、測定部は、多並列蓄電池アレイ4に対して行われる均等充電時における定電流または定電力での充電電流値を測定する。多並列蓄電池アレイ4を備えた蓄電システム1においては、1週間に1回、長くても1か月に1回の均等充電を実施することが、蓄電システム1の長期運用を行う上で効果的であり、蓄電池の各製造業社は均等充電の推奨条件を定めている。この均等充電は、各ストリングSt1~St10を構成する複数個の鉛蓄電池セル4aの間に生じるセル電圧のバラツキを均等化する目的で行われるものであり、運用の開始初期から寿命期に至るまで、長期に亘って定期的に実施されるため、ストリングSt1~St10の特性の変化を観察するのに有効である。
【0029】
均等充電の方式には、定電流(CC: Constant Current)-定電圧(CV: Constant Voltage)充電方式や、定電力(CP: Constant Power)-定電圧(CV: Constant Voltage)充電方式などがあり、複数のステップの充電工程を経て充電が行われる。CC-CV充電方式では、充電初期に、定電流の大きな充電電流値で、各ストリングSt1~St10に充電が行われる。そして、各ストリングSt1~St10の端子間電圧が所定の電圧値になった際に、CV充電に切り替えられて定電圧で充電が行われ、最終的に各ストリングSt1~St10が満充電させられる。CP-CV充電方式では、充電初期に、定電力にて最大電力に合わせた大きな充電電流値で、各ストリングSt1~St10に充電が行われる。そして、各ストリングSt1~St10の端子間電圧が所定の電圧値になった際に、CV充電に切り替えられて定電圧で充電が行われ、最終的に各ストリングSt1~St10が満充電させられる。
【0030】
蓄電池監視装置5を構成するBMU5aは、マイクロプロセッサ(MPU)およびメモリを備えて構成され、複数並列に接続された各ストリングSt1~St10や、各ストリングSt1~St10を構成する鉛蓄電池セル4aを監視・管理する。メモリに記憶されるコンピュータプログラムの手順にしたがってMPUが動作することより、MPUは、算出部、判定部および警告部として、機能する。算出部は、測定部で測定された充電電流値の時間変化率を各ストリングSt1~St10毎に算出する。判定部は、算出部で算出された各ストリングSt1~St10についての時間変化率に基づいて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定する。警告部は、充電電流値が時間の経過に対して増加する時間変化率を有するいずれかのストリングSt1~St10が判定部で検出された場合に、劣化ストリング検出信号を出力する。なお、これら算出部、判定部および警告部は、コンピュータプログラムの手順にしたがったMPUの動作に限らず、電子回路のハードウエア構成によっても同様に実現することができる。
【0031】
判定部は、充電電流値の時間の経過に対する増加率が大きい時間変化率を有するストリングSt1~St10ほど、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むものと判定する。また、充電電流値の時間の経過に対する減少率が大きい時間変化率を有するストリングSt1~St10ほど、劣化が少ない蓄電池を含むものと判定する。この時間変化率は、ストリングStへの充電電流値が時間の経過に対して描く特性線の傾きとして、表される。また、本実施形態では、BMU5aは、算出部で時間変化率として算出される特性線の傾きとストリングStの劣化度(SOH[%])との関係を、テーブルとして予め記憶する記憶部を備え、判定部は、算出部で算出された特性線の傾きに基づいて、記憶部に記憶される、特性線の傾きとストリングStの劣化度との関係を参照して、ストリングStの劣化度を判定する。
【0032】
劣化度は、ストリングStの劣化状態を表す指標で、SOH(State Of Health)と呼ばれ、劣化時のストリングStの残容量と初期時のストリングStの満充電容量から次の(1)式に表される。
劣化度(SOH)[%]=劣化時の残容量[Ah]÷初期の満充電容量[Ah]×100
…(1)
【0033】
図2に示すグラフは、蓄電システム1の運用の初期における使用歴の浅い多並列蓄電アレイ4について、CC-CC-CV充電方式によって各ストリングSt1~St10を均等充電した際における充電電流値の時間変化を測定部によって測定した結果を表すグラフである。同グラフの横軸は時間[h]、縦軸はCレートで示す充電電流値[C10A]である。この充電電流値のCレート[C10A]は、各ストリングSt1~St10の10時間率容量に対する比である。充電電流値の測定は、10本並列に接続されたストリングSt1~St10に0.1[C10A]の定電流を4時間流して1回目のCC充電をし、引き続いて、0.04[C10A]の定電流を1時間流して2回目のCC充電をした後に、各ストリングSt1~St10が満充電になるまで定電圧でCV充電して、行った。
【0034】
多並列蓄電アレイ4は、使用歴が浅いことにより、全ストリングSt1~St10が同じ劣化度(SOH)100[%]の鉛蓄電池セル4aを含み、劣化が生じていない状態にある。
【0035】
同グラフに示されるように、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの間には劣化度のバラツキが無いため、1回目のCC充電時に各ストリングSt1~St10を流れる充電電流の挙動に大きな差は見られない。
【0036】
図3に示すグラフは、蓄電システム1が長期に運用されて使用歴が進んだ多並列蓄電アレイ4について、CC-CC-CV充電方式によって各ストリングSt1~St10を均等充電した際における充電電流値の時間変化を測定部によって測定した結果を表すグラフである。同グラフの横軸は時間[h]、縦軸はCレートで示す充電電流値[C10A]である。充電電流値の測定は、10本並列に接続されたストリングSt1~St10に0.1[C10A]の定電流を5時間流して1回目のCC充電をし、引き続いて、0.04[C10A]の定電流を1時間流して2回目のCC充電をした後に、各ストリングSt1~St10が満充電になるまで定電圧でCV充電して、行った。
【0037】
多並列蓄電アレイ4は、使用歴が進んだことにより、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度(SOH)の鉛蓄電池セル4aを含む。本実施形態では、ストリングSt1,St7およびSt9のそれぞれは劣化度が90[%]の鉛蓄電池セル4aを含み、ストリングSt2およびSt6のそれぞれは劣化度が80[%]の鉛蓄電池セル4a、ストリングSt3およびSt4のそれぞれは劣化度が70[%]の鉛蓄電池セル4a、ストリングSt8およびSt10のそれぞれは劣化度が50[%]の鉛蓄電池セル4a、ストリングSt5は劣化度が40[%]の鉛蓄電池セル4aを含む。
【0038】
ストリングSt3およびSt4のそれぞれが含む鉛蓄電池セル4aの劣化度70[%]は、全ストリングSt1~St10が含む各鉛蓄電池セル4aの劣化度の平均値に相当し、ストリングSt2およびSt6のそれぞれが含む鉛蓄電池セル4aの劣化度80[%]は、ストリングSt3およびSt4のそれぞれが含む鉛蓄電池セル4aの平均値の劣化度70[%]に比べて+10[%]の劣化度になっている。また、ストリングSt1,St7およびSt9のそれぞれが含む鉛蓄電池セル4aの劣化度90[%]は、平均値の劣化度70[%]に比べて+20[%]の劣化度、ストリングSt8およびSt10のそれぞれが含む鉛蓄電池セル4aの劣化度50[%]は、平均値の劣化度70[%]に比べて-20[%]の劣化度になっている。また、ストリングSt5の劣化度40[%]は、平均値の劣化度70[%]に比べて-30[%]の劣化度になっている。
【0039】
多並列蓄電アレイ4を備えた蓄電システム1において、SOC(State Of Charge)と呼ばれる充電率は、実際の充放電電流から次の(2)式によって算出される。
充電率(SOC)[%]=充電量[Ah]÷放電量[Ah]×100 …(2)
【0040】
この(2)式に実際の充放電によって測定された充電量および放電量を代入してストリングStの充電率を算出すると、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むストリングStと、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含まないストリングStとで、同じ充電率になる。例えば、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むストリングStの放電量および充電量が共に20[Ah]である場合、そのストリングStの充電率は次の(3)式から100[%]になる。
充電率(SOC)[%]=20[Ah]÷20[Ah]×100=100[%] …(3)
【0041】
また、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含まないストリングStの放電量および充電量が例えば共に70[Ah]である場合、そのストリングStの充電率は次の(4)式から100[%]になり、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含む上記のストリングStと同じになる。
充電率(SOC)[%]=70[Ah]÷70[Ah]×100=100[%] …(4)
【0042】
このように、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むストリングStと、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含まないストリングStとで、同じ充電率になるので、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むストリングStを流れる充電電流は小さくなり、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含まないストリングStを流れる充電電流は大きくなる。また、ストリングSt1~St10のなかで最も劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むストリングStを流れる充電電流は、その内部抵抗が最も大きいため、最も小さくなる。2番目に劣化した鉛蓄電池セル4aを含むストリングStを流れる充電電流は、その内部抵抗が2番目に大きいため、2番目に小さくなる。また、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含まないストリングStを流れる充電電流は、その内部抵抗も小さいため、大きくなる。
【0043】
図3に示すグラフを参照すると、1回目のCC充電において、ストリングSt1~St10のなかで平均値の劣化度70[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt3およびSt4を流れる充電電流値は、その特性線がほぼ平坦な傾きを有し、ほぼ設定値の0.1[C10A]を示している。また、ストリングSt1~St10のなかで2番目に劣化が少ない劣化度80[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt2およびSt6を流れる充電電流値は、充電当初2番目に大きい。そして、その特性線は負の傾きを呈し、充電電流値の減少する時間変化率は、平均値の劣化度70[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt3およびSt4の特性線のほぼ平坦な傾きより、絶対値において大きい。さらに、ストリングSt1~St10のなかで1番劣化が少ない劣化度90[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt1,St7およびSt9を流れる充電電流値は、充電当初1番大きい。そして、その特性線は負の傾きを呈し、劣化度80[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt2およびSt6の特性線の負の傾きより、絶対値において大きい。
【0044】
したがって、このことから、充電電流値の時間の経過に対する減少率が大きい時間変化率を有するストリングStほど、つまり、負の傾きが大きい特性線を有するストリングStほど、劣化が少ない鉛蓄電池セル4aを含むことが理解される。
【0045】
一方、1回目のCC充電において、ストリングSt1~St10のなかで2番目に劣化が進んだ劣化度50[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt8およびSt10を流れる充電電流値は、充電当初2番目に小さい。そして、その特性線は正の傾きを呈し、充電電流値の増加する時間変化率は、平均値の劣化度70[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt3およびSt4の特性線のほぼ平坦な傾きより、大きい。さらに、ストリングSt1~St10のなかで1番劣化が進んだ劣化度40[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt5を流れる充電電流値は、充電当初1番小さい。そして、その特性線は正の傾きを呈し、劣化度50[%]の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む各ストリングSt8およびSt10の特性線の正の傾きより、大きい。
【0046】
したがって、このことから、充電電流値の時間の経過に対する増加率が大きい時間変化率を有するストリングStほど、つまり、正の傾きが大きい特性線を有するストリングStほど、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むことが理解される。
【0047】
このため、例えば、複数のストリングStのそれぞれに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度について、1番劣化が少ない鉛蓄電池セル4aの劣化度SOH=90%、2番目に劣化が少ない鉛蓄電池セル4aの劣化度SOH=80%、…、平均値の劣化度を有する鉛蓄電池セル4aの劣化度SOH=70%、…、2番目に劣化している鉛蓄電池セル4aの劣化度SOH=60%、1番劣化している鉛蓄電池セル4aの劣化度SOH=50%としたとき、均等充電時の充電電流の挙動として現れる特性線の傾きの絶対値の大きさは、それぞれのストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度を指標として、次の(5)式の関係性になる。
SOH=50%>SOH=60%>SOH=70% …(5)
【0048】
ここで、劣化度SOH=65%の鉛蓄電池セル4aを含むストリングが複数のストリングStに含まれた場合、均等充電時の充電電流の挙動として現れる特性線の傾きの絶対値の大きさは、それぞれのストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度を指標として、次の(6)式の関係性になる。
SOH=50%>SOH=60%>SOH=65%>SOH=70% …(6)
【0049】
また、図3に示すグラフから、均等充電における第1ステップのCC充電工程では、後述する図5のグラフに示す放電電流のように、複数のストリングStのそれぞれを流れる充電電流の値が逆転する現象は発生せず、実質的に同じ充電電流の挙動として現れる特性線の傾きを保ったまま、次のステップの充電工程に移行することが理解される。このため、複数のストリングStにわたり複数の異なる劣化度の鉛蓄電池セル4aが含まれる多並列蓄電アレイ4において、ストリングStが含む劣化している鉛蓄電池セル4aの劣化度の判定が可能になる。
【0050】
さらに、平均値の劣化度70[%]に比べて+20[%]の劣化度の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む劣化度90[%]のストリングSt1,St7およびSt9と、平均値の劣化度70[%]に比べて-20[%]の劣化度の鉛蓄電池セル4aをそれぞれ含む劣化度50[%]のストリングSt8およびSt10とは、充電電流値の時間変化率である特性線の傾きの絶対値が実質的に同じであることが理解される。つまり、平均値の劣化度70[%]を有する鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt3,St4を基準とすると、±20[%]の劣化度を有する鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt1,St7およびSt9並びにストリングSt8およびSt10を流れる充電電流は、ほぼ同じ傾きの絶対値を示すことが確認される。そして、均等充電時の充電電流の挙動として現れる特性線の傾きには、劣化度に関して対称性が認められる。
【0051】
均等充電における第1ステップのCC充電工程またはCP充電工程では、多並列蓄電アレイ4を構成する各ストリングSt1~St10を流れる充電電流値は、理論的には並列数の10で等分されるが、実際には、上記のように、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度に応じて異なる。このため、均等充電時の第1ステップのCC充電工程またはCP充電工程における充電電流の挙動に着目することで、各ストリングSt1~St10が含む鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定することが可能になる。
【0052】
図4は、BMU5aを構成するMPUによって多並列蓄電アレイ4の均等充電時に行われる劣化ストリングStの検出処理を示すフローチャートである。
【0053】
この劣化ストリングStの検出処理では、最初に、多並列蓄電池アレイ4が均等充電の実施状態にあるか否かが、MPUによって判断される(図4,ステップ101参照)。ステップ101の判断はその判断結果がYesになるまで行われる。多並列蓄電池アレイ4が均等充電の実施状態にあることがステップ101で判断され、各ストリングSt1~St10についてCC-CV充電またはCP-CV充電の第1ステップにおける定電流充電または定電力充電が開始されたことがMPUに認識されると、次に、測定部において、各ストリングSt1~St10への充電電流値が測定される(ステップ102参照)。次に、各ストリングSt1~St10への充電電流値の時間変化に対する特性線の傾きが、各充電電流値の時間変化率として算出部によって算出される(ステップ103参照)。
【0054】
次に、算出部によって算出された各ストリングSt1~St10への充電電流値の特性線の傾きに基づいて、記憶部にテーブルとして記憶された特性線の傾きとストリングStの劣化度(SOH[%])との間の関係が参照されて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度(SOH[%])が判定部によって判定される(ステップ104参照)。次に、算出部によって算出された各ストリングSt1~St10への充電電流値の特性線の傾きのなかで、正の極性の傾きを有する特性線のストリングStがあるか否か、つまり、充電電流値が時間の経過に対して増加する時間変化率を有するストリングStがあるか否か、判定部によって判断される(ステップ105参照)。
【0055】
このステップ105の判断結果がYesで、充電電流値の特性線の傾きの極性が正、つまり、充電電流値が時間の経過に対して増加する時間変化率を有するストリングStがある場合、次に、警告部によって劣化ストリング検出信号が交直変換装置6へ出力される(ステップ106参照)。劣化ストリング検出信号には、劣化した鉛蓄電池セル4aを含むいずれかのストリングSt1~St10の識別情報と、ステップ104で判定されたそのストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度の情報との組が含まれる。警告部が出力する劣化ストリング検出信号により、その劣化ストリングに含まれる蓄電池が著しく劣化する前に、ストリングの劣化進行を抑制する対処を早期にとることができるようになる。
【0056】
一方、ステップ105の判断結果がNoで、充電電流値の特性線の傾きが正のストリングStが無い場合、または、ステップ106の処理が終わると、MPUは、均等充電時に行う劣化ストリングStの検出処理を終了する。
【0057】
このような本実施形態による蓄電システム1によれば、多並列蓄電池アレイ4を構成する各ストリングSt1~St10が定電流または定電力で充電される際の充電電流値の時間変化率が算出部によって算出され、算出された各ストリングSt1~St10についての時間変化率に基づいて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態が判定部によって判定される。定電流または定電力で充電される際におけるストリングSt1~St10への充電電流は、多並列蓄電池アレイ4の使用歴が長くなっても、放電電流のように、増加と減少を繰り返すような現象を呈さず、図2および図3の各グラフに示すように、ストリングSt1~St10に含まれる蓄電池の劣化度に応じて増加減少する電流挙動を呈する。
【0058】
図5は、使用歴の長い多並列蓄電池アレイ4を構成する各ストリングSt1~St10の放電電流値の時間変化を測定部によって測定した結果を表すグラフである。同グラフの横軸は時間[h]、縦軸はCレートで示す放電電流値[C10A]である。放電電流値の測定は、10本並列に接続されたストリングSt1~St10から0.1[C10A]の電流を6時間放電させて行った。この6時間には、放電を停止する2時間弱の休止時間が途中に含まれている。
【0059】
多並列蓄電アレイ4は、使用歴が進んだことにより、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度(SOH)の鉛蓄電池セル4aを含む。本測定では、ストリングSt1,St2,St6,St7およびSt9のそれぞれは劣化度が80[%]の鉛蓄電池セル4aを含み、ストリングSt3は劣化度が70[%]の鉛蓄電池セル4a、ストリングSt4は劣化度が65[%]の鉛蓄電池セル4a、ストリングSt5は劣化度が40[%]の鉛蓄電池セル4a、ストリングSt8は劣化度が50[%]の鉛蓄電池セル4a、St10は劣化度が60[%]の鉛蓄電池セル4aを含む。
【0060】
同グラフに示される各ストリングSt1~St10の放電電流の挙動によれば、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度の鉛蓄電池セル4aが含まれる場合、各ストリングSt1~St10を流れる放電電流は大きく変動し、放電電流値の大小が入れ替わる特性を示すことが理解される。
【0061】
例えば、1番劣化が進んだ劣化度40[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt5は、放電開始から約1時間後に、放電電流値が減少している。その後、2番目に劣化が進んだ劣化度50[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt8の放電電流値が減少している。しかし、その後、1番劣化が進んだストリングSt5の放電電流値が増加し、2時間目付近で、ストリングSt5の放電電流値と、2番目に劣化が進んだストリングSt8の放電電流値との大きさが逆転して、ストリングSt8の放電電流値が1番小さくなっている。
【0062】
次いで、2.5時間目付近で、4番目に劣化が進んだ劣化度65[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt4の放電電流と、5番目に劣化が進んだ劣化度70[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt3の放電電流との間でも、ストリングSt5とストリングSt8との間に起きる上記の逆転現象と同様な逆転現象が生じている。
【0063】
2時間弱の放電休止が実施された後、放電が再開されると、3番目に劣化が進んだ劣化度60[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt10の放電電流値が、2番目に小さい放電電流値になっている。また、ストリングSt3の放電電流とストリングSt4の放電電流との間で、放電電流値の大きさが逆転する現象が継続している。
【0064】
このように、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度の鉛蓄電池セル4aが含まれる場合、各ストリングSt1~St10を流れる放電電流は増加と減少を交互に繰り返すため、放電電流が減少するストリングSt3,St4,St5,St8およびSt10には劣化した鉛蓄電池セル4aが含まれていることは特定できるものの、どのストリングStにどの程度劣化している鉛蓄電池セル4aが含まれているかを判定することは難しい。
【0065】
出願人は、特願2020-175045の特許出願において、劣化している蓄電池を含むストリングStを多並列蓄電アレイの運用の早期に発見する手法を提案している。この手法によれば、劣化している蓄電池の劣化度(SOH)が比較的高くても確実に蓄電池の劣化度を診断することができ、蓄電池の劣化の進行を抑制する対処を早期に促すことができ、さらに、種々の電池型式の蓄電池を含むストリングについて容易に劣化度を診断することができる。
【0066】
しかし、蓄電システム1の運用が長期に及び、多並列蓄電アレイ4の使用歴が長くなり、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度の鉛蓄電池セル4aが含まれるようになると、上記のように、どのストリングStにどの程度劣化している鉛蓄電池セル4aが含まれているかを判定することが難しくなる。
【0067】
蓄電システム1の実際の運用では、蓄電システム1のメンテナンスが1年に1回行われるが、本実施形態のように蓄電システム1の運転中における多並列蓄電アレイ4の挙動は把握されない。1年に1回のメンテナンスで、劣化が進行した鉛蓄電池セル4aの劣化度を判定するためには、ストリングStから鉛蓄電池セル4aを抜き取り、単電池セルの状態で容量試験を実施し、実容量を調査する必要がある。しかし、鉛蓄電池セル4aの抜き取り調査の実施には、多並列蓄電アレイ4の設置場所の問題や、蓄電システム1のシステム停止の許可の取得などといった種々の課題を解消しなければならず、現実には行えない場合がある。このため、劣化した鉛蓄電池セル4aを含むストリングStの発見が遅れる場合があり、また、発見できても、予算の関係から劣化した鉛蓄電池セル4aの全てを交換できず、交換可能な劣化鉛蓄電池セル4aの個数が制限されることもある。このような蓄電システム1の運用の継続により、鉛蓄電池セル4aの劣化が促進されるだけでなく、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度の鉛蓄電池セル4aが含まれる事態を発生させることとなる。
【0068】
しかし、本実施形態による蓄電システム1によれば、上記のように、多並列蓄電池アレイ4の使用歴が長くなっても、上記のように、図4に示すステップ103の処理において算出部で算出される、各ストリングSt1~St10への充電電流値についての時間変化率に基づいて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定部によって判定することができる。
【0069】
また、劣化した鉛蓄電池セル4aの内部抵抗は劣化の度合いが大きいほど大きくなり、定電流または定電力で行われるストリングSt1~St10への充電電流は、充電当初、より劣化した鉛蓄電池セル4aを含むストリングStほど、その大きな内部抵抗によってより抑制される。したがって、本実施形態による蓄電システム1によれば、算出部で算出された複数の時間変化率のなかで、充電電流値の時間の経過に対する増加率が大きい時間変化率を有するストリングほど、つまり、充電電流値の特性線の傾きが正の大きい極性を有するストリングほど、劣化が進んだ鉛蓄電池セル4aを含むものと判定部によって判定することができる。このため、充電電流値の特性線の傾きが正の極性を有するストリングStについて、そのストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化の進行に順位付けをすることが可能になる。
【0070】
例えば、図3に示すグラフに表される各充電電流値の特性線を有するストリングSt1~St10のうち、ストリングSt5,St8およびSt10はそれぞれ充電電流値の特性線の傾きが正の極性を有し、正の極性のその傾きの度合いは、ストリングSt5が最も大きく、次に、ストリングSt8およびSt10が続く。したがって、ストリングSt5の劣化の進行が最も進んでいて、次に、ストリングSt8およびSt10の劣化が進行していると、ストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化の進行に順位付けをすることができる。
【0071】
このため、劣化した鉛蓄電池セル4aを含むストリングStを発見できても、予算の関係から劣化した全ての鉛蓄電池セル4aの交換ができない場合、例えば、最も劣化が進行した鉛蓄電池セル4aを優先して新たな健全なものに交換する対処をすることも可能になる。このようにして蓄電システム1の運用を継続することで、限られた予算の中で、多並列蓄電アレイ4の劣化の進行を少しでも遅らせることが可能になり、蓄電システム1の安定かつ効率的な運用を図ることができる。
【0072】
また、鉛蓄電池セル4aの内部抵抗は劣化の度合いが小さいほど小さく、定電流または定電力で行われるストリングSt1~St10への充電電流は、充電当初、より劣化の少ない鉛蓄電池セル4aを含むストリングStほど、その小さな内部抵抗によってより増大する。したがって、本実施形態による蓄電システム1によれば、算出部で算出された複数の時間変化率のなかで、充電電流値の時間の経過に対する減少率が大きい時間変化率を有するストリングほど、つまり、充電電流値の特性線の傾きが負の大きい極性を有するストリングほど、劣化が少ない鉛蓄電池セル4aを含むものと判定部によって判定することができる。このため、充電電流値の特性線の傾きが負の極性を有するストリングについて、そのストリングに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化の遅れに順位付けをすることが可能になる。
【0073】
例えば、図3に示すグラフに表される各充電電流値の特性線を有するストリングSt1~St10のうち、ストリングSt1,St2,St6,St7およびSt9は、それぞれ充電電流値の特性線の傾きが負の極性を有し、負の極性のその傾きの度合いは、ストリングSt1,St7およびSt9が最も大きく、次に、ストリングSt2およびSt6が続く。したがって、ストリングSt1,St7およびSt9の劣化が最も少なく、次に、ストリングSt2およびSt6の劣化が少ないと、ストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化の遅れに順位付けをすることが可能になる。
【0074】
また、本実施形態による蓄電システム1では、上記のように、図4に示すステップ104の処理において、算出部によって算出された各ストリングSt1~St10への充電電流値の特性線の傾きに基づいて、記憶部にテーブルとして記憶された特性線の傾きとストリングStの劣化度(SOH[%])との間の関係が参照されて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度が判定部によって判定される。このため、本実施形態による蓄電システム1によれば、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定することが可能になると共に、各ストリングSt1~St10の劣化度(SOH[%])を判定することが可能になる。
【0075】
また、均等充電は、多並列蓄電池アレイ4の運用開始の初期から寿命期に至るまで、長期にわたって定期的に実施されるため、各ストリングSt1~St10の特性を確実に捉えることが可能である。したがって、本実施形態による蓄電システム1によれば、ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化が進行する前に、ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化の予兆を確実に捉えて、より早期にストリングSt1~St10の交換を行うことが可能であり、劣化した鉛蓄電池セル4aが含まれるストリングStが複数含まれる多並列蓄電池アレイ4においても、劣化を確実に捉えてストリングStの交換を行うことで、多並列蓄電池アレイ4の寿命を延ばすことが可能になる。
【0076】
また、本実施形態による蓄電システム1によれば、図4、ステップ106の処理において警告部が出力する劣化ストリング検出信号により、その劣化ストリングStに含まれる鉛蓄電池セル4aが著しく劣化する前に、多並列蓄電池アレイ4への入出力電力の抑制などといったシステム運用条件を変更したり、劣化した鉛蓄電池セル4aの適切な交換時期を判断したりして、ストリングSt1~St10の劣化進行を抑制する対処を早期にとることができるようになる。
【0077】
なお、上記の実施形態では、多並列蓄電アレイ4に、複数のストリングSt1~St10にわたり複数の異なる劣化度の鉛蓄電池セル4aが含まれる場合について、説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、複数のストリングSt1~St10のうちの1つに、劣化した鉛蓄電池セル4aが含まれる場合についても、同様に適用することができる。
【0078】
図6に示すグラフは、この場合における多並列蓄電アレイ4について、CC-CC-CV充電方式によって各ストリングSt1~St10を均等充電した際における充電電流値の時間変化を測定部によって測定した結果を表すグラフである。同グラフの横軸は時間[h]、縦軸はCレートで示す充電電流値[C10A]である。充電電流値の測定は、10本並列に接続されたストリングSt1~St10に0.1[C10A]の定電流を5時間流して1回目のCC充電をし、引き続いて、0.04[C10A]の定電流を1時間流して2回目のCC充電をした後に、各ストリングSt1~St10が満充電になるまで定電圧でCV充電して、行った。1回目のCC充電時には、1時間程度の休止期間、充電が停止されるため、2回目のCC充電は6時間後に開始される。
【0079】
多並列蓄電アレイ4は、複数のストリングSt1~St10のうちの1つに、劣化した鉛蓄電池セル4aを含む。本実施形態では、ストリングSt5を除くストリングSt1~St4およびストリングSt6~St10のそれぞれは劣化度が80[%]の鉛蓄電池セル4aを含み、ストリングSt5は劣化度が50[%]の鉛蓄電池セル4aを含む。なお、ストリングSt3およびSt4の特性線は、ストリングSt1,St2およびストリングSt6~St10の特性線に隠れて見えていない。
【0080】
同グラフを参照すると、劣化度が50[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt5だけ、異なる充電電流の挙動を示している。つまり、第1ステップのCC充電において、ストリングSt5を流れる充電電流値の特性線の正の傾きは、特に顕著に大きくなっている。また、このストリングSt5の充電電流値の特性線の傾きは、図3に示すグラフにおける劣化度が50[%]の鉛蓄電池セル4aを含むストリングSt8およびSt10の充電電流値の特性線の傾きと実質的に一致する。また、この場合も、図5のグラフに示す放電電流のように、複数のストリングStのそれぞれを流れる充電電流の値が逆転するような現象は見られない。
【0081】
したがって、複数のストリングSt1~St10のうちの1つに、劣化した鉛蓄電池セル4aが含まれる場合についても、上記の実施形態と同様に、図4に示すステップ103の処理において算出部で算出される、各ストリングSt1~St10への充電電流値についての時間変化率に基づいて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定部によって判定することができる。
【0082】
また、図4に示すステップ104の処理において、算出部によって算出された各ストリングSt1~St10への充電電流値の特性線の傾きに基づいて、記憶部にテーブルとして記憶された特性線の傾きとストリングStの劣化度(SOH[%])との間の関係が参照されて、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化度(SOH[%])が判定部によって判定される。
【0083】
なお、上記の実施形態では、均等充電時における定電流または定電力での充電電流値の時間変化率から、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定した場合について、説明した。しかし、本発明は、放電して容量が無くなった多並列蓄電アレイ4を充電する回復充電時における、定電流または定電力での充電電流値の時間変化率からも、同様にして、各ストリングSt1~St10に含まれる鉛蓄電池セル4aの劣化状態を判定することができる。
【符号の説明】
【0084】
1:蓄電システム(ESS)
2:電力供給部
3:負荷
4:多並列蓄電アレイ
4a:鉛蓄電池セル
5:鉛蓄電池監視装置
5a:BMU
5b:セルセンサ
5c:ユニットセンサ
6:交直変換装置(PCS)
7:ブレーカ
St1~St10:ストリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6