(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027752
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20230222BHJP
C08G 59/10 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G59/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103499
(22)【出願日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021132801
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】羽後 治佳
(72)【発明者】
【氏名】桑原 裕典
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AD08
4J036AH01
4J036DA10
4J036FA02
4J036FA05
4J036FA06
4J036HA12
4J036JA08
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】
本発明は高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
下記の(A)~(D)成分を含み、硬化物の比重が1.50以下であり、かつ、熱伝導率が0.23W/(m・K)以上である熱伝導性樹脂組成物。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:潜在性硬化剤
(C)成分:中空無機粉体
(D)成分:非中空無機粉体
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(D)成分を含み、硬化物の比重が1.50以下であり、かつ、熱伝導率が0.23W/(m・K)以上である、熱伝導性樹脂組成物。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:潜在性硬化剤
(C)成分:中空無機粉体
(D)成分:非中空無機粉体
【請求項2】
前記(A)成分100質量部に対して、(C)成分を3~55質量部であり、(D)成分を35~200質量部含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)成分が、シリカアルミナである、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分が、見掛け密度0.2~2.5g/cm3である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、アダクト型潜在性硬化剤である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(B)成分が、エポキシアミンアダクト型潜在性硬化剤である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化することで得られる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品からの発熱を外部に放熱させる目的で、半導体などの電気電子部品の発熱体と放熱フィンなどの放熱部材との間に熱伝導性樹脂組成物が使用されている。熱伝導性樹脂組成物としては、具体的には、特許文献1にて開示されているように、接着性と熱伝導性とを両立できることからエポキシ樹脂系熱伝導性樹脂などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電気自動車に搭載されるバッテリー、パワーデバイス、照明の周辺には、熱伝導性樹脂組成物が使用されているが、燃費向上の観点から軽量化が求められている。しかしながら、熱伝導性樹脂組成物は、一般的に高い熱伝導性を発現させるためアルミナや窒化ホウ素を高充填させているため高比重となる傾向にあった。つまり、高い熱伝導性と低比重とを両立することは困難であった。
【0005】
本発明は、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の実施態様は、本発明は上述した従来の問題点を克服するものである。
【0007】
[1]下記の(A)~(D)成分を含み、硬化物の比重が1.50以下であり、かつ、熱伝導率が0.23W/(m・K)以上である熱伝導性樹脂組成物。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:潜在性硬化剤
(C)成分:中空無機粉体
(D)成分:非中空無機粉体
【0008】
[2]前記(A)成分100質量部に対して、(C)成分を3~55質量部であり、(D)成分を35~200質量部含む、[1]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0009】
[3]前記(C)成分が、シリカアルミナである、[1]又は[2]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0010】
[4]前記(C)成分が、見掛け密度0.2~2.5g/cm3である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0011】
[5]前記(A)成分が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0012】
[6]前記(A)成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0013】
[7]前記(B)成分が、アダクト型潜在性硬化剤である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0014】
[8]前記(B)成分が、エポキシアミンアダクト型潜在性硬化剤である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0015】
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化することで得られる硬化物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、高い熱伝導性と低比重とを両立するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0018】
<(A)成分>
本発明の(A)成分であるエポキシ樹脂としては、1分子中にグリシジル基を2以上有する化合物であれば、特に限定なく使用することができる。(A)成分としては、例えば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂などが挙げられ、中でも、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂とを併用することで、より一層、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂とは、窒素原子に直接結合したグリシジル基を1以上有するエポキシ樹脂のことであり、すなわち、1分子中に1個以上のグリシジル基を有するアミン型エポキシ樹脂である。特に制限されないが、一実施形態において、グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有することが好ましく、エポキシ樹脂1分子中に2個のグリシジル基を有することがより好ましい。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、例えば、以下の構造を有する化合物などが挙げられる。
【0020】
【0021】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂とは、特に制限されないが、例えば、ジグリシジル-o-トルイジン、ジグリシジルアニリン、ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリンなどが挙げられ、中でも、ジグリシジル-o-トルイジン、ジグリシジルアニリンが好ましい。市販品としては、GOT、GAN(日本化薬株式会社製)、jER604、jER630(三菱ケミカル株式会社製)、スミエポキシELM-434、スミエポキシELM-100(住友化学株式会社製)、YH-404、YH-513、YH-523(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)などが挙げられる。これらグリシジルアミン型エポキシ樹脂は単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0022】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に制限されないが、例えば、50~250g/eqであり、より好ましくは100~200g/eqであり、さらに好ましくは105~180g/eqであり、特に好ましくは110~170g/eqであり、最も好ましくは120~150g/eqである。グリシジルアミン型エポキシ樹脂のエポキシ当量が上記範囲である場合、本発明の所期の効果がより一層発揮される。ここで、エポキシ当量は、JIS K7236:2001に準拠して測定される値である。
【0023】
グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂とは、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ビスフェノールE型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールE型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、水添クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水添フェノールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノールジグリシジルエーテル、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂などが挙げることができ、中でも、熱伝導性が優れる熱伝導性樹脂組成物が得られるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく用いられ、特に好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを併用することが好ましい。これらビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に制限されないが、例えば、70~300g/eqであり、より好ましくは110~200g/eqであり、さらに好ましくは120~195g/eqであり、特に好ましくは135~190g/eqであり、最も好ましくは150g/eqを超えて180g/eq以下である。グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂とのエポキシ当量が上記範囲である場合、本発明の所期の効果がより一層発揮される。ここで、エポキシ当量は、JIS K7236:2001に準拠して測定される値である。
【0025】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂とを併用する場合、グリシジルアミン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂のエポキシ当量よりも低いのが好ましい。例えば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂のエポキシ当量よりも10~50g/eq低いのが好ましく、15~45g/eq低いのがより好ましく、18~40g/eq低いのがさらに好ましく、20~35g/eq低いのが特に好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂とのエポキシ当量が上記の関係である場合、本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0026】
グリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂の市販品としては、例えばjER825、827、828、828EL、828US、828XA、834、806、806H、807(三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON840、840-S、850、850-S、850-LC、EXA-850CRP、830、830-S、835、EXA-830LVP、EXA-850CRP、EXA-835LV(DIC株式会社製)、EP4100、EP4000、EP4080、EP4085、EP4088、EP4100HF、EP4901HF、EP4000S、EP4000L、EP4003S、EP4010S、EP4010L(株式会社ADEKA製)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。
【0027】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂とを併用する場合、グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂との質量部比率は、好ましくは1:99~99:1であり、より好ましくは5:95~95:5であり、さらに好ましくは10:90~90:10であり、特に好ましくは10:90~50:50であり、最も好ましくは10:90~40:60である。一実施形態において、グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルアミンを有さないエポキシ樹脂との質量部比率は、10:90~30:70である。上記の範囲内であることでより一層、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。
【0028】
(A)成分は、ひとつの成分から構成されてもよく、複数の成分を混合して構成されていてもよい。(A)成分が複数の成分から構成される場合、(A)成分の含有量は、複数成分の合計量である。本発明において、(A)成分の含有量は、熱伝導性樹脂組成物の総質量に対して、20~70質量%であるのが好ましく、25~70質量%であるのがより好ましく、30~65質量%であるのがさらに好ましく、35~60質量%であるのが特に好ましく、38~55質量%最も好ましい。
【0029】
<(B)成分>
本発明に使用される(B)成分は、潜在性硬化剤であり、硬化剤として作用し、(A)成分を硬化させる働きをするものである。(B)成分とは、例えば、アダクト型潜在性硬化剤が挙げられる。ここで、アダクト型潜在性硬化剤とは、エポキシ樹脂とアミン化合物とが途中段階まで反応した化合物(エポキシアミンアダクト型潜在性硬化剤)などがあげられる。また、(B)成分の平均粒径は、特に制限されないが例えば、0.1~30.0μmであり、より好ましくは1.0~20.0μmであり、さらに好ましくは2.0~15.0μmであり、さらにより好ましくは2.5~12.0μmであり、特に好ましくは3.0~10.0μmであり、最も好ましくは5.0~9.0μmである。(B)成分の平均粒径が上記の範囲内であることで、より一層、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における累積体積比率50%での粒径(D50)である。
【0030】
(B)成分の市販品としては、特に限定されないが、例えば、エポキシアミンアダクト型潜在性硬化剤としては、フジキュアー(登録商標、以下同じ)FXE-1000、FXR-1020、FXR-1030、FXB-1050(以上、株式会社T&K TOKA製品)、アミキュア(登録商標、以下同じ)PN-23、アミキュアPN-H、アミキュアPN-31、アミキュアPN-40、アミキュアPN-50、アミキュアPN-F、アミキュアPN-23J、アミキュアPN-31J、アミキュアPN-40J、アミキュアMY-24、アミキュアMY-25、アミキュアMY-R、アミキュアPN-R(以上、味の素ファインテクノ株式会社製品)等が挙げられる。また、これらは単独あるいは混合で使用してもよい。
【0031】
(B)成分の配合量としては、(A)成分100質量部に対して、好ましくは5~50質量部であり、より好ましくは10~40質量部であり、さらにより好ましくは15~30質量部であり、特に好ましくは18~28質量部であり、最も好ましくは20~27質量部である。(B)成分の配合量が上記の範囲内であることで、より一層、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。
【0032】
<(C)成分>
本発明の(C)成分である中空無機粉体とは中空構造のフィラーであり、マイクロバルーンとも呼ばれる。(C)成分は、後述する(D)成分と併用することで、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。(C)成分の成分としては、特に制限されないが、例えば、アルミナ、シリカアルミナ、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。シリカアルミナとは、シリカとアルミナとの複合体であり、例えばゼオライトなどが挙げられる。(C)成分は、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、一実施形態において、シリカアルミナである。
【0033】
(C)成分の見掛け密度は、特に制限されないが、例えば、0.1~2.5g/cm3であり、好ましくは0.2~2.5g/cm3であり、より好ましくは0.2~2.0g/cm3であり、さらに好ましくは0.3~2.0g/cm3であり、特に好ましくは0.4~1.5g/cm3である。一実施形態において、(C)成分の見掛け密度は、0.5~1.2g/cm3、0.5~1.0g/cm3、0.6~1.0g/cm3の順に好ましい。上記見掛け密度は、QuantaChrome社の密度測定装置ULTRAPYC1200eを用いて測定した値である。(C)成分の見掛け密度が上記の範囲内であることで、より一層、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得ることができる。
【0034】
(C)成分の平均粒径は、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られるとの観点から、0.01μm以上100μm未満が好ましく、0.1μm以上70μm以下がより好ましく、1μm以上50μm以下が特に好ましく、10μm以上45μm以下が最も好ましい。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における累積体積比率50%での粒径(D50)である。
【0035】
(C)成分の市販品としては、特に制限されないが、例えば、カイノスフィアーズ75、100、150、300、500(関西マテック株式会社製)などが挙げられる。
【0036】
(C)成分の添加量は特に制限されないが、例えば、(A)成分100質量部に対して、(C)成分が3~55質量部であるのが好ましく、より好ましくは5~50質量部であり、さらに好ましくは7~47質量部であり、特に好ましくは8~40質量部であり、最も好ましくは9~35質量部である。(C)成分の添加量が上記の範囲であることで、より一層に、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。本発明の熱伝導性樹脂組成物は、一実施形態において、(A)成分100質量部に対して、(C)成分を3~55質量部であり、(D)成分を35~200質量部で含む。
【0037】
<(D)成分>
本発明の(D)成分は、非中空無機粉体である。前述の(C)成分と併用することで、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。(D)成分は、アルミナ、酸化亜鉛および窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に、熱伝導性に優れることから、それぞれ独立して、アルミナおよび窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、特に好ましくはアルミナである。また、これらは単独あるいは混合で使用してもよい。
【0038】
(D)成分の平均粒径は、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られるとの観点から、0.01μm以上85μm未満が好ましく、0.1μm以上70μm以下がより好ましく、0.2μm以上50μm以下がさらにより好ましく、0.5μm以上30μm以下が特に好ましく、1μm以上10μm以下が最も好ましい。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における累積体積比率50%での粒径(D50)である。(D)成分の密度は特に制限されないが、例えば、好ましくは2.5g/cm3を超えるものであり、より好ましくは2.5g/cm3超え10g/cm3以下であり、さらに好ましくは3.0g/cm3以上8.0g/cm3以下であり、特に好ましくは3.2g/cm3以上6.0g/cm3以下であり、最も好ましくは3.5g/cm3以下5.0g/cm3以下である。(D)成分の密度は、一実施形態において、2.5g/cm3超え7g/cm3以下の範囲である。上記密度は、QuantaChrome社のULTRAPYCを使用して測定した値である。(D)成分の密度が上記の範囲内であることで、より一層、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得ることができる。
【0039】
(D)成分の形状は、特に制限されないが、例えば、球状または不定形が挙げられ、球状であることが好ましい。本明細書において、「球状」には、完全な球形のみではなく、ほぼ球形、楕円形などの形状が含まれる。より具体的に、「球状」とは、平均円形度が0.4以上であることをいう。本明細書において、「不定形」は、球形以外の角を有する形状(例えば、針状、繊維状、鱗片状、樹枝状、平板状、破砕形状等)を指す。より具体的に、「不定形」とは、平均円形度が0.4未満であることをいう。さらには、(D)成分が、球状熱伝導性粉体と不定形熱伝導性粉体とを含む混合物であると、熱伝導性がさらに向上した硬化物を得ることができる。
【0040】
(D)成分の市販品としては、特に制限されないが、例えば、昭和電工株式会社、日本軽金属株式会社、新日鉄住金ケミカル&マテリアルズ株式会社、デンカ株式会社などから入手することができる。
【0041】
(D)成分の添加量は特に制限されないが、例えば、(A)成分100質量部に対して、(D)成分が35~200質量部であるのが好ましく、より好ましくは38~100質量部であり、更に好ましくは40~90質量部であり、特に好ましくは42~88質量部であり、特に好ましくは45~85質量部であり、最も好ましくは55~83質量部である。(D)成分の添加量が上記の範囲であることで、より一層に、高い熱伝導性と低比重とを両立する熱伝導性樹脂組成物が得られる。
【0042】
<硬化物の比重>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、硬化物の比重が1.50以下であることを特徴とする。より好ましくは1.40以下であり、特に好ましくは1.30以下である。本発明の比重は、水中置換法にてJIS K 0061(2001)に準拠して比重を測定することで得られる。熱伝導性樹脂組成物を上記比重の範囲内とするためには、特に制限されないが、例えば、本発明の(C)成分と(D)成分とを組み合わせることで制御でき、更に好ましくは、本発明の(C)成分と(D)成分とを所定質量割合で含むことで制御することができる。具体的には、前記(A)成分100質量部に対して、(C)成分を3~55質量部であり、(D)成分を35~200質量部含むことなどが挙げられる。
【0043】
<硬化物の熱伝導率>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、硬化物の熱伝導率(25℃)が0.23W/(m・K)以上であることを特徴とする。硬化物の熱伝導率(25℃)は、0.23W/(m・K)を超えるのが好ましく、0.24W/(m・K)以上がより好ましく、0.25W/(m・K)以上が特に好ましい。硬化物は、熱伝導率が大きいほど、熱が伝わりやすいことから好ましい。上記下限値を満たす場合と満たさない場合とでは、電気電子部品からの発熱を外部に放熱する性能において顕著な差があると示唆される。本発明の熱伝導率(25℃)は、熱伝導計(京都電子工業株式会社製QTM-D3、非定常法)を用いて、試験片の硬化物が形成された面(60×125mm)の熱伝導率を25℃で測定する。具体的には、実施例に記載の方法で測定される。
【0044】
本発明の一態様は、(A)~(D)成分を含み、硬化物の比重が1.50以下であり、かつ、硬化物の熱伝導率(25℃)が0.23W/(m・K)である、熱伝導性樹脂組成物に関する。これにより、熱伝導性樹脂組成物は、高い熱伝導性と低比重とを両立することができる。
【0045】
本発明の他の一態様は、(A)~(D)成分;(A)成分:エポキシ樹脂;(B)成分:潜在性硬化剤;(C)成分:中空無機粉体;(D)成分:非中空無機粉体;を含み、前記(C)成分は、シリカアルミナであり、前記(C)成分は、前記(A)成分100質量部に対して、3~55質量部で含有される、熱伝導性樹脂組成物に関する。これにより、熱伝導性樹脂組成物は、高い熱伝導性と低比重とを両立することができる。本態様において、一実施形態としては、(C)成分が、見掛け密度0.2~2.5g/cm3である。また、本態様において、一実施形態としては、(D)成分を35~200質量部含む。本態様において、一実施形態としては、(A)成分が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含む。本態様において、一実施形態としては、(A)成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含む。本態様において、一実施形態としては、(B)成分が、アダクト型潜在性硬化剤である。本態様において、一実施形態としては、(B)成分が、エポキシアミンアダクト型潜在性硬化剤である。本態様において、一実施形態としては、上記形態のいずれかの熱伝導性樹脂組成物を硬化することで得られる硬化物である。
【0046】
本発明のさらに他の一態様は、(A)~(D)成分;(A)成分:エポキシ樹脂;(B)成分:潜在性硬化剤;(C)成分:中空無機粉体;(D)成分:非中空無機粉体;を含み、前記(C)成分が、見掛け密度0.2~2.5g/cm3であり、前記(C)成分は、前記(A)成分100質量部に対して、3~55質量部で含有される、熱伝導性樹脂組成物に関する。これにより、熱伝導性樹脂組成物は、高い熱伝導性と低比重とを両立することができる。本態様において、一実施形態としては、(C)成分が、シリカアルミナである。また、本態様において、一実施形態としては、(D)成分を35~200質量部含む。本態様において、一実施形態としては、(A)成分が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含む。本態様において、一実施形態としては、(A)成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含む。本態様において、一実施形態としては、(B)成分が、アダクト型潜在性硬化剤である。本態様において、一実施形態としては、(B)成分が、エポキシアミンアダクト型潜在性硬化剤である。本態様において、一実施形態としては、上記形態のいずれかの熱伝導性樹脂組成物を硬化することで得られる硬化物である。
【0047】
<任意成分>
本発明に対し、本発明の目的を損なわない範囲で、ホウ酸エステル、シランカップリング剤、スチレン系共重合体等の各種エラストマー、液状の硬化剤、酸化防止剤、光安定剤、重金属不活性剤、粘着付与剤、可塑剤、消泡剤、染料、顔料、防錆剤、レベリング剤、分散剤、レオロジー調整剤及び界面活性剤等の添加剤を使用することができる。
【0048】
ホウ酸エステルは、本発明の熱伝導性樹脂組成物に含有される成分((A)~(D)成分)と組み合わせることにより、硬化性と貯蔵安定性とを両立できる成分である。ホウ酸エステルは、具体的には、特に制限されないが、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリヘプチル、ホウ酸トリ-n-オクチル、ホウ酸トリデシル、ホウ酸トリヘキサデシル、ホウ酸トリオクタデシル、2,4,6-トリメトキシボロキシン、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ-o-トリル、2-エトキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン,2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、2-イソプロポキシ-4,4,6-トリメチル-1,3,2-ジオキサボリナン、2-メトキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、2,2’-オキシビス(5,5’-ジメチル-1,3,2-オキサボリナン)等が挙げられる。また、2種以上の混合物であっても良い。ホウ酸エステルの配合量は、特に制限されないが、例えば、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~20質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部であり、さらに好ましくは0.2~5質量部であり、特に好ましくは0.3~3質量部であり、最も好ましくは0.5~2質量部である。
【0049】
シランカップリング剤としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン,ヘキシルトリメトキシシランなどのアルキル基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのフェニル基含有シランカップリング剤;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシシリルトリエトキシシランなどのグリシジル基含有シランカップリング剤;3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;その他γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、スチリルシラン、ウレイドシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシラン等が挙げられる。中でも、アルキル基含有シランカップリング剤、フェニル基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、シランカップリング剤の添加量は、本発明の(A)成分100質量部に対して、0.05~100質量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.1~50質量部であり、特に好ましくは、1~30質量部の範囲である。
【0050】
本発明に対し液状の硬化剤を添加してもよい。液状の硬化剤としては例えば、ポリチオール化合物などが挙げられる。
【0051】
<用途>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、高い熱伝導性と低比重とを両立することから、自動車部品、電気電子部品、建材などの用途に用いられる。また、本発明の一態様である熱伝導性樹脂組成物は、電子基板の放熱;携帯電話、パソコンなどの電子機器の放熱;LED等の照明の放熱;光ピックアップモジュールの放熱;カメラモジュールの放熱;センシングデバイスの放熱;パワー半導体の放熱;自動車搭載インバーターの放熱;自動車搭載コンバーターの放熱;自動車搭載の電池などの放熱などの各種用途で使用可能である。
【0052】
<放熱方法>
本発明を用いた放熱方法は、本発明の一態様である熱伝導性樹脂組成物を電気電子部品に塗布することにより電気電子部品から発生した熱を外部へ放熱させるものなどが挙げられる。前記電気電子部品としては、電子基板;携帯電話;パソコンなどの電子機器;LED等の照明機器;光ピックアップモジュール;カメラモジュール;センシングデバイス;パワー半導体;インバーター;コンバーター;ECU部品などが挙げられる。
【実施例0053】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細な説明をするが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
<(A)成分>
a1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂50質量%と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂50質量%とからなるエポキシ当量165g/eqであるエポキシ樹脂組成物(DIC株式会社製EXA-835LV)
a2:エポキシ当量135g/eqであるジグリシジル-o-トルイジン(日本化薬株式会社製GOT)
<(B)成分>
b1:平均粒子径7μmのエポキシアミンアダクト系潜在性硬化剤(株式会社T&K TOKA製フジキュアーFXR-1030)
<(C)成分と比較成分>
c1:平均粒径が35μm、見掛け密度0.7g/cm3、シリカアルミナからなる中空無機粉体(関西マテック株式会社製カイノスフィアーズ75)
c’1:平均粒径が65μm、見掛け密度0.13g/cm3、ガラスからなる中空非無機粉体(3M製グラスバブルズK1)
<(D)成分>
d1:平均粒径3μm、密度3.7g/cm3、の球状アルミナ粉(新日鉄住金ケミカル&マテリアルズ株式会社製AX-3-32)
<その他>
ホウ酸エステル(四国化成工業株式会社製L-07N)。
【0055】
表1の実施例、比較例における試験方法は下記の通りである。なお、下記表1において「-」はその成分を包含しないことを示す。
【0056】
<(1)熱伝導性>
表1の実施例、比較例の各熱伝導性樹脂組成物を、厚さが0.5mmになるようにフッ素樹脂製板上に塗布し、80℃にて1時間加熱して組成物を硬化させ、試験片を作製した。熱伝導率の測定は熱伝導計(京都電子工業株式会社製QTM-D3、非定常法)を用いて、試験片の硬化物が形成された面(60×125mm)について、熱伝導率(W/(m・K))を25℃で測定した。結果を表1に示す。硬化物は、熱伝導率が大きいほど、熱が伝わりやすいことから好ましい。本発明において、硬化物の熱伝導性の観点から、硬化物の熱伝導率は0.23W/(m・K)以上である。特に、本発明において、硬化物の熱伝導性の観点から、硬化物の熱伝導率は0.25W/(m・K)以上であることが好ましい。上記下限値を満たす場合と満たさない場合とでは、電気電子部品からの発熱を外部に放熱する性能において顕著な差があると示唆される。
【0057】
<(2)硬化物の比重>
表1の実施例、比較例の各熱伝導性樹脂組成物を、フッ素樹脂製板上に塗布し、80℃にて1時間加熱して熱伝導性樹脂組成物を硬化させ、試験片を作製した。前記試験片を用いて、水中置換法にてJIS K 0061(2001)に準拠して比重を測定した。結果を表1に示す。本発明においては、比重は1.50以下であることが好ましい。
【0058】
【0059】
表1の実施例1~3の結果より、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、高い熱伝導性と低比重とを両立するものであることが確認できた。
【0060】
表1の比較例1は、本発明の(D)成分を含まない熱伝導性樹脂組成物であるが、熱伝導性が劣る結果であった。比較例2,3は、熱伝導性が劣る結果であった。また、比較例4は、本発明の(C)成分を含まない熱伝導性樹脂組成物であるが、比重が高いという結果であった。また、比較例5は、熱伝導性が劣る結果であった。