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特開2023-27780異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法および異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法
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  • 特開-異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法および異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027780
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法および異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130196
(22)【出願日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2021133008
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克也
(72)【発明者】
【氏名】西田 教行
(72)【発明者】
【氏名】中垣 岳大
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB09
2G045DA36
(57)【要約】
【課題】頭髪の毛根または頭皮を用いて、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法、および異常型タンパク質の凝集に伴う神経変性疾患の診断を補助する方法を提供すること。
【解決手段】異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法であって、頭髪の毛根または頭皮中の異常型タンパク質をRT-QUIC法で検出することを特徴とする方法、および異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法であって、以下の工程(1)~(3)を含む方法:(1)被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質を抽出する工程、(2)本発明の検出方法を用いて異常型タンパク質を検出する工程、および(3)異常型タンパク質が検出された被験者を選択する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法であって、頭髪の毛根または頭皮中の異常型タンパク質をRT-QUIC法で検出することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患が、プリオン病、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、またはパーキンソン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RT-QUIC法の反応温度が、50℃以上65℃以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記RT-QUIC法において、反応溶液中の正常型組換えタンパク質の濃度が、100μg/mL以上150μg/mL以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記RT-QUIC法において、反応溶液中の塩化ナトリウムの濃度が、500mM以上650mM以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法であって、以下の工程(1)~(3)を含む方法:
(1)被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質を抽出する工程、
(2)請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を用いて異常型タンパク質を検出する工程、および
(3)異常型タンパク質が検出された被験者を選択する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法および異常型タンパク質の凝集に伴う神経変性疾患の診断を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリオン病は、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)およびその類縁疾患を含み、人獣共通感染症、遺伝性中枢神経変性疾患などの多面的な特徴を有する疾患群と総称されている。このCJDには、孤発性CJD、遺伝性CJD、CJDに汚染した硬膜(dura)移植を受けたことによる硬膜移植後CJDがある。これらの疾患の発症までの期間は、亜型によって数か月から数年と異なるものの、一度発症すると治療法がない疾患である。現在までにプリオン病の治療候補薬が複数発見されており、動物モデルにおいて有意な延命効果を示す一方(非特許文献1、2)、ヒトにおいて明らかな有効性を示す治療薬は見つかっていない。古典的プリオン病では、発症から3ヶ月程度で急速に悪化し無動無言に至るために、今後、古典的プリオン病に対する革新的な治療法が確立したとしても、ある程度の治療効果を期待するためには、発症後の超早期での迅速な診断が望ましい。
【0003】
これまでの長年の研究により、プリオン病の補助診断法として、MRI拡散強調画像および髄液バイオマーカー検査の有用性が明らかになった(非特許文献1、3、4、5)。さらに早期診断という観点から症状が出現する前にプリオン病の補助診断法にて診断する必要性がある。髄液を用いる検査はプリオン病の診断に有効な診断法ではあるが、症例によっては髄液を用いる検査やMRI拡散強調画像による検査ができない。したがって髄液を用いる検査やMRI拡散強調画像による検査に代わる、採取の容易な生体試料を用いたプリオン病をはじめとする、神経系の異常タンパク質が異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患を診断する方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dong T and Satoh K. The Latest Research on RT-QuIC Assays-A Literature Review. Pathogens. 2021, 10(3), 305
【非特許文献2】Honda H, Mori S, Watanabe A, Sasagasako N, Sadashima S, Dong T, Satoh K, Nishida N, Iwaki T. Abnormal prion protein deposits with high seeding activities in the skeletal muscle, femoral nerve, and scalp of an autopsied case of sporadic Creutzfeldt-Jakob disease. Neuropathology. 2021, 41(2), 152-158
【非特許文献3】Ishibashi D, Homma T, Nakagaki T, Fuse T, Sano K, Satoh K, Mori T, Atarashi R, Nishida N. Type I interferon protects neurons from prions in in vivo models. Brain. 2019, 142(4), 1035-1050
【非特許文献4】Nakagaki T, Satoh K, Ishibashi D, Fuse T, Sano K, Kamatari YO, Kuwata K, Shigematsu K, Iwamaru Y, Takenouchi T, Kitani H, Nishida N, Atarashi R. FK506 reduces abnormal prion protein through the activation of autolysosomal degradation and prolongs survival in prion-infected mice. Autophagy. 2013, 9(9), 1386-1394
【非特許文献5】Nakagaki T, Ishibashi D, Mori T, Miyazaki Y, Takatsuki H, Tange H, Taguchi Y, Satoh K, Atarashi R, Nishida N. Administration of FK506 from Late Stage of Disease Prolongs Survival of Human Prion-Inoculated Mice. Neurotherapeutics. 2020, 17(4), 1850-1860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、頭髪の毛根または頭皮を用いて、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、頭髪の毛根または頭皮を用いて、異常型タンパク質の凝集に伴う神経変性疾患の診断を補助する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法であって、頭髪の毛根または頭皮中の異常型タンパク質をRT-QUIC法で検出することを特徴とする方法。
[2]前記異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患が、プリオン病、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、またはパーキンソン病である、前記[1]に記載の方法。
[3]前記RT-QUIC法の反応温度が、50℃以上65℃以下である、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記RT-QUIC法において、反応溶液中の正常型組換えタンパク質の濃度が、100μg/mL以上150μg/mL以下である、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記RT-QUIC法において、反応溶液中の塩化ナトリウムの濃度が、500mM以上650mM以下である、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法であって、以下の工程(1)~(3)を含む方法:
(1)被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質を抽出する工程、
(2)前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法を用いて異常型タンパク質を検出する工程、および
(3)異常型タンパク質が検出された被験者を選択する工程。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、髄液を用いる代わりに、頭髪の毛根または頭皮を用いて、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法を提供することができる。また、本発明により、髄液を用いる代わりに、頭髪の毛根または頭皮を用いて、異常型タンパク質の凝集に伴う神経変性疾患の診断を補助する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、RT-QUIC反応溶液の組成および被験者の疾患の有無の違いによる異常型プリオンタンパク質の検出結果を示す図であり、(A)は組換えタンパク質濃度が80μg/mLかつNaCl濃度が500mMであり、(B)は組換えタンパク質濃度が150μg/mLかつNaCl濃度が650mMであり、(C)は組換えタンパク質濃度が125μg/mLかつNaCl濃度が600mMである場合における検出結果を示す図である。
図2図2は、毛根を含む頭髪を用いた場合の異常型α-シヌクレインタンパク質の検出結果を示す図であり、(A)は75歳男性のDN-DLB患者における検出結果、(B)は83歳男性のDN-DLB患者における検出結果を示す図である。
図3図3は、髄液を用いた場合の異常型α-シヌクレインタンパク質の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔異常型タンパク質を検出する方法〕
本発明は、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患における異常型タンパク質を検出する方法を提供する(以下「本発明の検出方法」と記す)。本発明の検出方法は、頭髪の毛根または頭皮中の異常型タンパク質をRT-QUIC法で検出することを含むものであればよい。
【0010】
本発明の検出方法における異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患としては、例えば、プリオン病、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、ピック病、筋委縮性側索硬化症、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺等が挙げられる。神経変性疾患を引き起こす理由は、特に限定されず、原因不明の特発性(孤発性)のもの、タンパク質遺伝子変異による遺伝性のもの、他の異常型タンパク質感染による獲得性のもの等であってもよい。
【0011】
検出対象の異常型タンパク質としては、例えば、神経変性疾患がプリオン病(CJD病)である場合には、異常型プリオンタンパク質を検出するものであってもよく、神経変性疾患がアルツハイマー病である場合には、異常型アミロイドβタンパク質を検出するものであってもよく、神経変性疾患がレビー小体型認知症、パーキンソン病または多系統萎縮症である場合には、異常型α-シヌクレインタンパク質を検出するものであってもよく、神経変性疾患がピック病または筋萎縮性側索硬化症である場合には、異常型TDP-43(TAR DNA-binding Protein of 43kDa)タンパク質を検出するものであってもよく、神経変性疾患が大脳皮質基底核変性症または進行性核上性麻痺である場合には、4リピートの異常型タウタンパク質を検出するものであってもよい。
【0012】
本発明におけるRT-QUIC法とは、Real-time Quanking-induced conversion法のことをいう。RT-QUIC法は、組換えタンパク質に対する異常型タンパク質のシード依存的凝集反応を元にした反応系であり、Atarashi R et al.、Nat Med、17: 175-178、2011年、Wilham JM et al.、PLos Pathog、6:e001217、2010年等で報告されている方法のことをいう。
【0013】
本発明の検出方法におけるRT-QUIC法のプロトコールとしては、脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)を使用してRT-QUIC法を行うことについて記載している、Sano K et al.、PLoS ONE、8(1)、e54915、2013年、Orru CD et al.、ASM Journals、mBio、Vol.6、No.1、p1-7、2015年等に記載されたプロトコールであってもよく、頭皮または毛根を含む頭髪を使用するために、当該文献に記載のプロトコールを一部変更したものであってもよい。例えば、Sano et al., (2013)に記載のプロトコールは、RT-QUIC反応溶液の最終濃度が、500mM NaCl、50mM PIPES(pH7.0)、1mM EDTA、10μMチオフラビンT(ThT)および50μg/mL組換えヒト正常型タンパク質を使用し、プレートリーダーで、最高速で回転振とう30秒、および振とうなし30秒で断続的に振とうを行い、2分間の休止を挟んで37℃でインキュベートし、440nmで励起し、485nmの蛍光を、10分毎に蛍光強度を測定することでフィブリル形成の動態をモニターするものである。ただし、これに限定されない。
【0014】
本発明の検出方法において、異常型タンパク質は、蛍光強度の上昇により検出することができる。
【0015】
RT-QUIC法に用いる正常型組換えタンパク質には、検出しようとする異常型タンパク質に対応する正常型タンパク質が用いられる。すなわち、異常型プリオンタンパク質を検出する場合は正常型プリオンタンパク質が用いられ、異常型アミロイドβタンパク質を検出する場合は正常型アミロイドβタンパク質が用いられ、異常型α-シヌクレインタンパク質を検出する場合は正常型アミロイドβタンパク質が用いられる。これらの正常型組換えタンパク質は、公知の遺伝子組換え技術を用いることにより、作製することができる。本発明の検出方法の検出対象である異常型タンパク質に対応する正常型タンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列は、公知のデータベース(例えば、GenBank等)から取得することができる。例えば、ヒトの正常型プリオンタンパク質のアミノ酸配列のアクセッション番号はAAA60182.1、ヒトの正常型プリオンタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号はM13899.1である。ヒトの正常型アミロイドβタンパク質のアミノ酸配列のアクセッション番号はAAH65529.1、ヒトの正常型アミロイドβタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号はBC065529.1である。ヒトの正常型α-シヌクレインタンパク質のアミノ酸配列のアクセッション番号はAAL15443.1、ヒトの正常型α-シヌクレインタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号はAY049786.1である。
【0016】
頭皮または毛根を含む頭髪の採取の仕方は、特に限定されず、外科手術等の公知の方法により、意図的に採取されたものであってもよく、毛根を含む頭髪の場合、自然に、または日常生活(例えば、ブラッシング、洗髪等)で脱毛したものであってもよい。RT-QUIC法で用いられる、頭髪の毛根または頭皮といった検体の必要量は、特に限定されず、抽出後のタンパク質の量が、RT-QUIC法を少なくとも1回実施できる程度の量であってもよい。例えば、頭皮を使用する場合、0.01g~0.50gであってもよく、毛根を含む頭髪を使用する場合、1本~40本であってもよく、1本~20本であってもよく、5本以上であることが好ましく、10本以上であることがより好ましく、15本以上であることがさらに好ましい。RT-QUIC法には、頭髪の毛根または頭皮をそのまま使用してもよく、頭髪の毛根または頭皮からタンパク質を抽出したものを使用してもよい。頭髪の毛根または頭皮からタンパク質を抽出する方法は、特に限定されず、動物細胞からタンパク質を抽出する公知の方法(例えば、ホモジナイザーの使用、超音波破砕、凍結融解、酵素や界面活性剤の使用等により細胞を破砕し、細胞破砕液を遠心分離等により上清から可溶性タンパク質を回収する方法等)を利用することができる。
【0017】
本発明におけるRT-QUIC法の反応温度は、特に限定されず、例えば、25℃以上80℃以下、30℃以上75℃以下、40℃以上70℃以下等であってもよい。好ましくは50℃以上65℃以下である。
【0018】
本発明におけるRT-QUIC法で使用される反応溶液中の正常型組換えタンパク質の濃度は、特に限定されず、例えば、50μg/mL以上250μg/mL以下、75μg/mL以上200μg/mL以下等であってもよい。好ましくは100μg/mL以上150μg/mL以下である。
【0019】
本発明におけるRT-QUIC法で使用される反応溶液中の塩化ナトリウムの濃度は、特に限定されず、例えば、300mM以上800mM以下、350mM以上750mM以下、400mM以上700mM以下であってもよい。好ましくは500mM以上650mM以下である。
【0020】
本発明におけるRT-QUIC法で使用される反応溶液中の塩化ナトリウムの濃度が、650mM以上である場合、反応溶液中の正常型組換えタンパク質の濃度は、140μg/mL以下であることが好ましく、反応溶液中の塩化ナトリウムの濃度が、500mM以下である場合、反応溶液中の正常型組換えタンパク質の濃度は、90μg/mL以上であることが好ましい。
【0021】
〔異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法〕
本発明は、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断を補助する方法を提供する(以下「本発明の診断の補助方法」と記す)。本発明の診断の補助方法は、(1)被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質を抽出する工程、(2)本発明の検出方法を用いて異常型タンパク質を検出する工程、および(3)異常型タンパク質が検出された被験者を選択する工程を含むものであればよい。
【0022】
本発明の診断の補助方法における(1)被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質を抽出する工程は、被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質の抽出を行う。
【0023】
本発明の診断の補助方法における被験者は、異常型タンパク質の凝集に伴う神経変性疾患が疑われる被験者であればよい。
【0024】
本発明の診断の補助方法に使用される頭皮または毛根を含む頭髪の採取の仕方は、特に限定されず、外科手術等の公知の方法により、意図的に採取されたものであってもよく、毛根を含む頭髪の場合、自然に、または日常生活(例えば、ブラッシング、洗髪等)で脱毛したものであってもよい。タンパク質の抽出に使用される、頭髪の毛根または頭皮の必要量は、特に限定されず、抽出後のタンパク質の量が、RT-QUIC法を少なくとも1回実施できる程度の量であってもよい。例えば、頭皮を使用する場合、0.01g~0.50gであってもよく、毛根を含む頭髪を使用する場合、1本~40本であってもよく、1本~20本であってもよく、5本以上であることが好ましく、10本以上であることがより好ましく、15本以上であることがさらに好ましい。被験者の頭皮または毛根を含む頭髪からタンパク質の抽出には、動物細胞からタンパク質を抽出する公知の方法(例えば、ホモジナイザーの使用、超音波破砕、凍結融解、酵素や界面活性剤の使用等により細胞を破砕し、細胞破砕液を遠心分離等により上清から可溶性タンパク質を回収する方法等)を利用することができる。
【0025】
毛根を含む頭髪は、頭髪のうち頭皮の内部に対応する部分が含まれていればよく、頭皮から脱毛した頭髪である場合には、毛幹部側(毛先)とは反対の他端に、公知の方法(例えば、目視、実体顕微鏡等)を利用して、例えば、白いゼリー状の部分、丸いふくらみ等の毛根に特有の形状を確認できるものであればよい。
【0026】
本発明の診断の補助方法における(2)本発明の検出方法を用いて異常型タンパク質を検出する工程は、前記本発明の検出方法に記載の方法を使用することができる。
【0027】
本発明の診断の補助方法における(3)異常型タンパク質が検出された被験者を選択する工程は、異常型タンパク質を検出する工程により、異常型タンパク質の検出が陽性と判断された検体の被験者を選択することを含むものであればよい。異常型タンパク質の検出における陽性とは、ネガティブコントロール(例えば健常者の検体)における蛍光強度の上昇に比べて、より高い蛍光強度が見られるものであってもよく、例えば、ネガティブコントロールを使用する場合に比べて、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上のより高い蛍光強度が見られるものであってもよい。偽陽性を低減する点から、ネガティブコントロールを使用する場合には、蛍光強度の上昇が見られないことが好ましい。
【0028】
本発明の検出方法および診断の補助方法は、侵襲の少ない検体を使用し、高感度かつ高い特異度で異常型タンパク質の検出および/または異常型タンパク質の蓄積に伴う神経変性疾患の診断を行うことができるので、神経変性疾患発症後の早期または超早期での迅速な診断に有用であり、発症後の早期または超早期から治療を開始することができる。
【0029】
本発明の検出方法および診断の補助方法における異常型タンパク質の検出の感度は、実際に異常型タンパク質の蓄積に伴う神経変性疾患に罹患している場合に、異常型タンパク質の検出により異常型タンパク質を検出される割合(%)を示す。異常型タンパク質の検出の感度は、異常型タンパク質の蓄積に伴う神経変性疾患患者の数に対する異常型タンパク質の検出が陽性である被験者の数の割合(%)により算出することができる。
【0030】
本発明の検出方法および診断の補助方法における異常型タンパク質の検出の特異度は、異常型タンパク質の蓄積に伴う神経変性疾患を罹患していない場合に、異常型タンパク質の検出により異常型タンパク質が検出されない割合(%)を示す。異常型タンパク質の検出の特異度は、異常型タンパク質の蓄積に伴う神経変性疾患ではない被験者の数に対する異常型タンパク質の検出が陰性である被験者の数の割合(%)により算出することができる。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
[材料と方法]
1 異常型プリオンタンパク質の検出
1-1 検査溶液の調製
(1)頭皮からのタンパク質の抽出
被験者から採取した頭皮組織(0.05g)に冷温の溶解緩衝液(PBS中に10mM HCl、10mM EDTA(pH7.4)、100mM NaCl、0.5% HEPES、0.5% NP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)を加え、ホモジナイザーパワーマッシャーII(株式会社ニッピ社製)で5分間処理した後、1,000rpm、3分で遠心分離した。遠心分離後の上清を回収して、検査溶液とした。
【0033】
(2)頭髪からのタンパク質の抽出
実体顕微鏡を用いて、被験者から採取した頭髪のうち毛根を含む頭髪をそれぞれ5~10本選択した。得られた毛根を含む頭髪に冷温の溶解緩衝液を加え、ホモジナイザーパワーマッシャーII(株式会社ニッピ社製)で5分間処理した後、頭髪を取り除き、1,000rpm、3分で遠心分離した。遠心分離後の上清を回収して、検査溶液とした。
【0034】
(3)脳組織からのタンパク質の抽出
被験者から採取した脳組織に冷温の溶解緩衝液を加え、10(w/v)%の脳組織となるように調製し、頭皮と同様に、ホモジネートおよび遠心分離を行い、遠心分離後の上清を回収し、検査溶液とした。孤発性CJD患者から採取した脳組織から調製した検査溶液をポジティブコントロールとし、交通事故で死亡した正常ヒトから採取した脳組織から調製した検査溶液をネガティブコントロールとした。
【0035】
1-2 組換えヒトプリオンタンパク質(rHuPrP)の発現および精製
ヒトプリオンタンパク質(HuPrP)(GenBankのアクセッション番号AAA60182.1)の23番目~231番目に相当する組換えHuPrP(コドン129M)に対するタンパク質の発現、可溶性の形態(rHuPrP-sen)へのリフォールディング、および精製を、Atarashi, R., et al.、Nature Methods、4、p645-650、2007年に記載の方法に準じて実施した。rHuPrP-senの濃度は、280nmにおける吸光度を測定して決定した。SDS-PAGE、免疫染色および液体クロマトグラフィー質量分析の結果、最終的なタンパク質調製物の純度は99%であった。円偏光二色性分析により、rHuPrP-senの構造は、α-ヘリックス構造を有することを確認した。精製後、タンパク質のアリコートを10mMリン酸緩衝液(pH6.8)中、-80℃で保存した。
【0036】
1-3 RT-QUIC
(1)RT-QUIC反応用バッファーの調製
コンタミネーションを避けるために、プリオンフリーの研究室において、生物学的安全キャビネット(BSC)中で非感染の材料を調製し、またエアロゾル耐性チップを使用した。他の記載がない限り、調製後のRT-QUIC反応溶液の最終濃度が、500mM NaCl、25mM PIPES(pH7.0)、1mM EDTA、10μMチオフラビンT(ThT)および140μg/mL組換えヒトプリオンタンパク質(rHuPrP-sen)となるように超純水で調製した。組換えヒトプリオンタンパク質(rHuPrP-sen)は、新しく解凍したもののみを用いた。検査溶液を添加した後に1ウェルあたり100μLとなるように、RT-QUIC反応用バッファーを96ウェル光学底プレートに添加した。
【0037】
(2)RT-QUICによるアッセイ
RT-QUIC用バッファーを添加したウェルに、検査溶液としてテストサンプル、ポジティブコントロールまたはネガティブコントロールを必要量添加した。頭皮から調製した検査溶液10μL、毛根を含む頭髪から調製した検査溶液10μLを使用し、髄液は、被験者から採取した髄液5μLをテストサンプルとした。ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールは、それぞれ10μL使用した。96ウェル光学底プレートをシーリングテープで覆い、目的とする反応温度に達した後に、プレートリーダーFLUOstar OPTIMA Microplate Reader(BMG LABTECH社製)の中にセットした。該96ウェル光学底プレートを蛍光測定の間を除いて、最高速で回転振とう(round shaking)30秒、および振とう(shaking)なし30秒で断続的に振とうする条件で、反応温度を55℃に設定してインキュベートした。モノクロメーターを用いて、440nmと485nmの発光波長において、10分ごとに基底の蛍光強度を読むことにより、線維形成のカイネティクスを48時間モニターした。
【0038】
〔実施例1:頭皮を用いた異常型タンパク質の検出〕
テストサンプルとして孤発性CJD患者7症例から採取した髄液または頭皮から調製した検査溶液を使用して、それ以外の条件は前記1-3 RT-QUICに記載の方法でアッセイを行った。孤発性CJD患者の症例の詳細および検査溶液ごとのプリオン活性の検出結果を表1に示す。表1中、罹病期間は、発症後の期間(月数)を示しており、WB typeは、脳組織の異常型プリオンタンパク質の大きさを示しており、WB typeにおける「1」はParchi分類でtype1、「2」はParchi分類でtype2、「1+2」はParchi分類でtype1およびtype2が混在していることを意味し、「V180I pattern」はParchi分類でtype1およびtype2にも当てはまらない遺伝子変異コドン180変異の遺伝性プリオン病のパターンであることを意味し、遺伝子変異は、ヒトプリオンタンパク質の全長アミノ酸配列(253残基)におけるアミノ酸変異の有無および変異箇所を示しており、「-」は変異なし、「V180I」は180番目のバリン(V)残基がイソロイシン(I)残基に置換していることを意味し、コドン129における「MM」は、プリオンタンパク質の129番目におけるメチオニンホモ接合体であることを意味する。また、表1中、髄液QUICおよび頭皮QUICにおける「+」は異常型プリオンタンパク質が検出されたこと、「-」は異常型プリオンタンパク質が検出されなかったことを意味する。
【0039】
【表1】
【0040】
[結果]
テストサンプルとして頭皮から調製した検査溶液を使用した場合には、全ての測定サンプルにおいて、異常型プリオンタンパク質が検出された。一方、テストサンプルとして髄液を使用した場合には、7症例のうち2症例で、異常型プリオンタンパク質が検出されなかった。このことから、頭皮は、孤発性CJDといった異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断に有効に用いられることが示された。
【0041】
〔実施例2:毛根を含む頭髪を用いた異常型タンパク質の検出〕
テストサンプルとして孤発性CJD患者20症例から採取した髄液または毛根を含む頭髪から調製した検査溶液を使用して、それ以外の条件は前記1-3 RT-QUICに記載の方法でアッセイを行った。孤発性CJD患者の詳細および検査溶液ごとのプリオン活性の検出結果を表2に示す。表2中、髄液QUICおよび頭髪QUICにおける「+」は異常型プリオンタンパク質が検出されたこと、「-」は異常型プリオンタンパク質が検出されなかったことを意味する。
【0042】
【表2】
【0043】
[結果]
テストサンプルとして毛根を含む頭髪を使用した場合には、20症例中14症例で異常型プリオンタンパク質が検出できた。一方、テストサンプルとして髄液を使用した場合には、20症例中10症例で異常型プリオンタンパク質が検出された。このことから、毛根を含む頭髪は、孤発性CJDといった異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断に有効に用いられることが示され、異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断に髄液を使用する代わりに、毛根を含む頭髪を使用することが期待される。
【0044】
〔実施例3:非特異的反応を低減する条件の検討〕
調製後のRT-QUIC反応溶液におけるNaClの最終濃度を、500mM~700mMの範囲で、25mM刻みで変更、および/または調整後のRT-QUIC反応溶液における組換えヒトプリオンタンパク質(rHuPrP-sen)の最終濃度を、80μg/mL~150μg/mLの範囲で、5μg/mL刻みで変更し、100種類程度の組成の異なるRT-QUIC反応溶液を調製した。それ以外の条件は、前記1-3 RT-QUICに記載の方法でアッセイを行った。
【0045】
[結果]
図1(A)~(C)は、テストサンプルとしてCJD患者または健常人から採取した毛根を含む頭髪から調製した検査溶液を使用し、NaClおよびrHuPrP-senのRT-QUIC反応溶液における最終濃度の組み合わせが、それぞれ(A)は、500mM、80μg/mLであり、(B)は、650mM、150μg/mLであり、(C)は、600mM、125μg/mLである場合の結果を示す。RT-QUIC反応溶液の最終濃度が、500mM以下のNaCl、100μg/mL未満のrHuPrP-senである場合または650mM以上のNaCl、150μg/mL以上のrHuPrP-senである場合には、CJD患者だけでなく健常人の毛根を含む頭髪から調製したテストサンプルを用いたアッセイの一部でも、ThTの蛍光強度の上昇が見られた(図1(A)および(B))。一方、RT-QUIC反応溶液の最終濃度が、500mM以上650mM以下のNaCl、100μg/mL以上150μg/mL未満のrHuPrP-senである場合には、健常人の毛根を含む頭髪から調製したテストサンプルを用いても、ThTの蛍光の上昇が見られず、CJD患者の毛根を含む頭髪から調製したテストサンプルを用いた場合に顕著にThTの蛍光強度の上昇が見られた(図1(C))。このことから、RT-QUIC反応溶液中の最終濃度が、500mM以上650mM以下のNaCl、100μg/mL以上150μg/mL未満のrHuPrP-senであることが、CJD患者における異常型タンパク質の検出に適していることが示された。上記の最終濃度のRT-QUIC反応溶液を使用することで、異常型タンパク質の検出における偽陽性を低減できると考えられる。
【0046】
〔実施例4:異常型α-シヌクレインタンパク質の検出〕
2 異常型α-シヌクレインタンパク質の検出
2-1 検査溶液の調製
病理解剖のCJD患者から採取した脳組織から調製した検査溶液をポジティブコントロールとしたこと以外は、前記1-1と同様に検査溶液の調製を行った。
【0047】
2-2 組換えヒトα-シヌクレインタンパク質の発現および精製
N末端にHisタグを付加したヒト野生型α-シヌクレインタンパク質(α-Syn)の1番目~140番目に相当する組換えヒトα-シヌクレインタンパク質の発現、精製、Hisタグの除去および4量体の形成の確認を、Sano et al.、Mol Neurobiol、55、p.3916-3930、2019年に記載の方法に準じて実施した。組換えヒトα-シヌクレインタンパク質の濃度は、280nmにおける吸光度を測定して決定した。SDS-PAGE、免疫染色および非変性Blue Native PAGE(BN-PAGE)による分析の結果、最終的なタンパク質調製物の純度は99.9%以上であった。精製後、タンパク質のアリコートは、使用するまで-80℃で保存した。
【0048】
2-3 RT-QUIC
(1)RT-QUIC反応用バッファーの調製
組換えヒトプリオンタンパク質(rHuPrP-sen)の代わりに、組換えヒトα-シヌクレインタンパク質を使用したこと以外は、前記1-3(1)と同様にRT-QUIC反応用バッファーの調製を行った。
【0049】
(2)RT-QUICによるアッセイ
検査溶液として髄液を用いた場合には、蛍光強度を96時間モニターしたこと以外は、前記1-3(2)と同様にRT-QUICによるアッセイを行った。
【0050】
[結果]
図2(A)、(B)は、テストサンプルとして新皮質型レビー小体型認知症(DN-DLB)患者2症例(75歳、男性および83歳、男性)から採取した毛根を含む頭髪から調製した検査溶液を使用して、異常型α-シヌクレインタンパク質の測定をそれぞれ同じ検体からの検査溶液を同じ条件で実施した結果(A1~A2およびB1~B3)を示し、図3は、テストサンプルとしてDN-DLB患者5症例(#1~#5)の髄液を用いて異常型α-シヌクレインタンパク質の検出を行った結果を示す。CJD患者、脳卒中患者、肺がん患者および心肺停止患者の髄液を用いてアッセイを行ったところ、ThTの蛍光強度の上昇は見られなかった(データ示さず)。毛根を含む頭髪から調製したテストサンプルを用いた場合に、髄液を用いた場合と同様に、ThTの蛍光強度の上昇が見られた。毛根を含む頭髪は、DN-DLBといった異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断に髄液を使用する代わりに、有効に使用されることが示された。
【0051】
〔実施例5:毛根の有無の異なる頭髪を用いた異常型タンパク質の検出〕
テストサンプルとして孤発性CJD患者から表3に記載の本数の毛根を含む頭髪および毛根を含まない頭髪を採取し、採取したそれぞれの頭髪から調製した検査溶液を使用し、それ以外の条件は前記1-3 RT-QUICに記載の方法でアッセイを行った。異常型プリオンタンパク質の検出感度の算出結果を表3に示す。異常型プリオンタンパク質の検出感度は、孤発性CJD患者の数(表中症例数)に対する異常型プリオンタンパク質の検出が陽性である被験者の数の割合(%)により算出した。
【0052】
【表3】
【0053】
[結果]
テストサンプルとして毛根を含む頭髪を使用した場合には、使用する頭髪の本数に関わらず、44.4%~100%の高い感度で異常型プリオンタンパク質が検出された。一方、テストサンプルとして毛根を含まない頭髪を使用した場合には、使用する頭髪の本数に関わらず、0%~6.2%の低い感度でしか異常型プリオンタンパク質を検出できなかった。このことから、RT-QUICに頭髪を使用する場合、毛根を含んでいることが、CJD患者における異常型プリオンタンパク質の検出に重要であることが示された。
【0054】
〔実施例6:テストサンプルの違いによる検出の感度および特異度の比較〕
テストサンプルとしてプリオン病患者(孤発性CJD患者139症例、遺伝性CJD患者37症例、獲得性CJD患者1症例)合計177症例および非プリオン病の被験者23症例から採取した髄液または毛根を含む頭髪から調製した検査溶液を使用して、それ以外の条件は前記1-3 RT-QUICに記載の方法でアッセイを行った。また、採取した髄液中の14-3-3タンパク質および総タウタンパク質(t-tau)の検出は、特開2013-101047およびSatoh K et al., Laboratory and Investigation. 2010; 90: 1637-44に記載の方法でアッセイを行った。各テストサンプルおよび各標的タンパク質におけるアッセイでの検出の感度および特異度の算出結果を表4に示す。検出の感度は、プリオン病患者の数(177症例)に対する検出が陽性である被験者の数の割合(%)により算出した。検出の特異度は、非プリオン病の被験者の数(23症例)に対する検出が陰性である被験者の数の割合(%)により算出した。
【0055】
【表4】
【0056】
[結果]
テストサンプルとして毛根を含む頭髪を使用し、RT-QUICにより検出した場合には、従来法における検出の感度に比べて若干低いものの、従来法における検出の特異度と同等またはより高い、優れた特異度を示した。毛根を含む頭髪は、髄液に比べて採取が容易であるので、神経変性疾患発症後の早期または超早期での迅速な診断に有効に用いられることが期待される。
【0057】
〔実施例7:プリオン病の違いによる検出の感度の比較〕
テストサンプルとして孤発性CJD患者139症例、遺伝性CJD患者37症例、および獲得性CJD患者1症例から採取した髄液または毛根を含む頭髪から調製した検査溶液を使用して、それ以外の条件は前記1-3 RT-QUICに記載の方法でアッセイを行った。また、採取した髄液中の14-3-3タンパク質および総タウタンパク質(t-tau)の検出は、実施例6と同様にアッセイを行った。各テストサンプルおよび各標的タンパク質におけるアッセイでの検出の感度の算出結果を表5に示す。検出の感度は、各プリオン病患者の数(表中症例数)に対する異常型プリオンタンパク質の検出が陽性である被験者の数の割合(%)により算出した。
【0058】
【表5】
【0059】
[結果]
いずれのプリオン病症例の場合でも、毛根を含む頭髪を使用することで、37.8%~100%の感度で異常型プリオンタンパク質を検出した。特に、進行度の早い孤発性CJD患者では、56.1%の感度で異常型プリオンタンパク質を検出できた。このことから、髄液の代わりに、毛根を含む頭髪を使用することで、孤発性CJDといった異常型タンパク質の凝集を伴う神経変性疾患の診断に有効に用いられることが期待される。
図1
図2
図3