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特開2023-27845蛍光画像分析方法、蛍光画像分析装置、蛍光画像分析プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027845
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】蛍光画像分析方法、蛍光画像分析装置、蛍光画像分析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230224BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230224BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230224BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230224BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230224BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230224BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N33/48 Z
G01N33/53 Y
G01N33/483 C
C12Q1/02
C12Q1/68
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133166
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲澤 譲治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 純也
(72)【発明者】
【氏名】木下 将希
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA03
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043GA01
2G043GA25
2G043GB21
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043JA02
2G043JA04
2G043LA03
2G043NA01
2G043NA05
2G045AA25
2G045BB24
2G045CB01
2G045DA80
2G045FA37
2G045FB12
2G045GB02
2G045JA06
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC03
4B029FA15
4B063QA17
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】細胞の単離を必要とせずに、陽性細胞の比率を出力する光画像分析装置等を提供する。
【解決手段】蛍光画像分析装置10は、染色体上の標的部位が蛍光色素により標識された試料中の複数の細胞について、細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、第1画像の細胞の標的部位を標識した蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像とを撮像する撮像部154を備える。蛍光画像分析装置10の処理部11が、少なくとも第1画像に基づいて、複数の細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定し、第2画像に基づいて少なくとも複数の検査細胞から蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出する。処理部11が、抽出した輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は染色体異常が生じていない細胞を特定し、染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、検査細胞に対する染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる複数の細胞に対して、染色体上の標的部位を蛍光色素により標識し、
前記試料中の複数の前記細胞について、前記細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、前記第1画像の細胞の前記標的部位を標識した前記蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像と、を撮像し、
少なくとも前記第1画像に基づいて、複数の前記細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定し、
前記第2画像に基づいて、少なくとも複数の前記検査細胞から、前記蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出し、
抽出した前記輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞を特定し、
前記染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する、蛍光画像分析方法。
【請求項2】
前記輝点の抽出において、輝点の抽出の対象となる細胞は、選定された複数の前記検査細胞である、請求項1に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項3】
前記検査細胞の選定において、前記第1画像から選定情報を取得し、取得した前記選定情報に基づいて、前記複数の検査細胞を選定する、請求項1又は2に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項4】
前記選定情報が、前記細胞の大きさに関する値、細胞の核の大きさに関する値、及び前記細胞内における核の偏在を表す値のうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項5】
前記選定情報が、前記細胞の大きさに関する値、および前記細胞内における核の偏在を表す値を含む、請求項3又は4に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項6】
前記選定情報が、前記細胞の大きさに関する値、および前記細胞の核の大きさに関する値を含む、請求項3又は4に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項7】
前記第1画像が、前記細胞を透過した光を検出して得られる明視野画像である、請求項1から6のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項8】
前記第1画像は、前記細胞の細胞質及び核を撮像対象に含む、請求項1から7のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項9】
前記第1画像と前記第2画像を撮像する前に前記複数の細胞の核を、前記蛍光色素とは出力波長が異なる第2の蛍光色素で標識し、
前記撮像において、前記第1画像の細胞の前記核を標識した前記第2の蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第3画像を更に撮像し、
前記検査細胞の選定において、少なくとも前記第1画像と前記第3画像と、に基づいて、前記複数の検査細胞を選定する、請求項1から8のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項10】
前記検査細胞の選定において、前記第1画像および前記第3画像から選定情報を取得し、取得した前記選定情報に基づいて、前記複数の検査細胞を選定する、請求項9に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項11】
前記第1画像が、前記細胞を透過した光を検出して得られる明視野画像であり、
前記選定情報は、前記第1画像から得られる細胞面積に関する値と、前記第1画像及び前記第3画像から得られる前記核の偏在を表す値とを含む、請求項10に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項12】
前記第1画像が、前記細胞を透過した光を検出して得られる明視野画像であり、
前記選定情報は、前記第1画像から得られる細胞面積に関する値と、前記第3画像から得られる前記核の面積に関する値とを含む、請求項10に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項13】
前記染色体異常が、染色体の転座、染色体の逆位、遺伝子の欠失、及び遺伝子増幅の少なくとも1つである、請求項1から12のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項14】
前記染色体異常が、多発性骨髄腫又は悪性リンパ種を原因とする遺伝子の転座である、請求項1から13のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項15】
前記染色体の転座により生じた融合遺伝子が、IGH/FGFR3融合遺伝子、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/MAF融合遺伝子、IGH/BCL2融合遺伝子、又はIGH/MYC融合遺伝子である、請求項14に記載の蛍光画像分析方法。
【請求項16】
前記比率に関する情報の生成において、前記輝点に基づく細胞の特定ができなかった前記検査細胞の数を前記検査細胞の数に含めずに前記比率に関する情報を生成する、請求項1から15のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項17】
前記比率に関する情報の生成において、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率を、
前記染色体異常が生じている細胞の数を、前記検査細胞として選定され、かつ、染色体異常が生じている細胞の数と、前記検査細胞として選定され、かつ、染色体異常が生じていない細胞の数との和で除算することにより生成する、請求項1から16のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項18】
前記試料が流動している状態で前記第1画像と前記第2画像を撮像する、請求項1から17のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項19】
前記第1画像および前記第2画像の撮像において、前記複数の細胞のそれぞれについて、前記第1画像および前記第2画像を撮像する、請求項1から18のいずれか1つに記載の蛍光画像分析方法。
【請求項20】
試料に含まれると共に、染色体上の標的部位が蛍光色素により標識された前記試料中の複数の細胞について、前記細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、前記第1画像の細胞の前記標的部位を標識した前記蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像と、を撮像する撮像部と、
処理部と、を備え、
前記処理部は、
少なくとも前記第1画像に基づいて、複数の前記細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定する処理と、
前記第2画像に基づいて、少なくとも複数の前記検査細胞から、前記蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出する処理と、
抽出した前記輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞を特定し、前記染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する処理と、
を実行する、蛍光画像分析装置。
【請求項21】
試料に含まれると共に、染色体上の標的部位が蛍光色素により標識された前記試料中の複数の細胞について、前記細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、前記第1画像の細胞の前記標的部位を標識した前記蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像とを、取得する処理と、
少なくとも前記第1画像に基づいて、複数の前記細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定する処理と、
前記第2画像に基づいて、少なくとも複数の前記検査細胞から、前記蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出する処理と、
抽出した前記輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞を特定する処理と、
前記染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する処理と、
をコンピュータに行わせるための蛍光画像分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光画像分析方法、蛍光画像分析装置、蛍光画像分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、染色体の転座、染色体の逆位、遺伝子の欠失、又は遺伝子増幅などの染色体異常が生じている陽性細胞を検出する方法として、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション法(FISH法)を用いた方法が知られている。FISH法によれば、細胞中の検出対象のDNA配列領域に標識プローブをハイブリダイズさせる前処理により細胞を標識し、標識プローブに起因して生じた蛍光を検査者が蛍光顕微鏡で観察し、試料中に陽性細胞があるか否かを判定する。被検者の診断において、疾患によっては、判定対象の細胞に対する陽性細胞の比率が1%~数%あれば治療又は精密検査を要すると診断される。蛍光顕微鏡を用いて検査者が陽性細胞を判定する上記方法では、検査者が判定する細胞数は、一般的には1試料あたりせいぜい100~200である。従って、陽性細胞を見逃さないようにするため、生体試料から、特定の種類の細胞を抗体ビーズを用いて単離し、単離した細胞について検査することが行われている。しかし、生体試料から特定の種類の細胞を単離することは、検査者にとって煩雑な作業であった。このような煩雑な単離作業を必要としない方法として、特許文献1には、標識プローブを標識した検出細胞をフローセルに流し、フローセルを流れる検出細胞を撮像して得られた二次元の蛍光画像から、ソフトウェアにより、検出細胞ごとに輝点を抽出し、抽出した輝点に基づいて、各検出細胞が陽性細胞であるか否かを判定し、検出細胞に対する陽性細胞の比率を出力する蛍光画像の分析方法が開示されている。特許文献1に記載の分析方法によれば、蛍光顕微鏡を用いて検査者が陽性細胞を判定する上記方法と比較して、1試料あたり検出細胞数を数十倍~数万倍のオーダで増やすことができるため、生体試料から特定の種類の細胞を単離する必要はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-215311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の分析方法によると、例えば、撮像時のフローセル内の細胞の向きによっては、陰性細胞の蛍光画像において複数の輝点が重なってしまい、ソフトウェアが陰性細胞を陽性細胞であると判定してしまうおそれがある。このような判定が起きる確率は小さいため、一般的には、被検者の診断に影響を与えることはないが、判定対象の細胞に対する陽性細胞の比率が1%~数%あれば治療又は精密検査を要する疾患についての診断の場合には、上記判定の影響が大きくなり、診断が難しくなるという課題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、被検者の診断を容易にすることを可能とする、蛍光画像分析方法、蛍光画像分析装置、蛍光画像分析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蛍光画像分析方法は、試料に含まれる複数の細胞に対して、染色体上の標的部位を蛍光色素により標識し、前記試料中の複数の前記細胞について、前記細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、前記第1画像の細胞の前記標的部位を標識した前記蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像と、を撮像し、少なくとも前記第1画像に基づいて、複数の前記細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定し、前記第2画像に基づいて、少なくとも複数の前記検査細胞から、前記蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出し、抽出した前記輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞を特定し、前記染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する。
【0007】
本発明に係る蛍光画像分析装置は、試料に含まれると共に、染色体上の標的部位が蛍光色素により標識された前記試料中の複数の細胞について、前記細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、前記第1画像の細胞の前記標的部位を標識した前記蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像と、を撮像する撮像部と、処理部と、を備え、前記処理部は、少なくとも前記第1画像に基づいて、複数の前記細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定する処理と、前記第2画像に基づいて、少なくとも複数の前記検査細胞から、前記蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出する処理と、抽出した前記輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞を特定し、前記染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する処理と、を実行する。
【0008】
本発明に係る蛍光画像分析プログラムは、試料に含まれると共に、染色体上の標的部位が蛍光色素により標識された前記試料中の複数の細胞について、前記細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、前記第1画像の細胞の前記標的部位を標識した前記蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像とを、取得する処理と、少なくとも前記第1画像に基づいて、複数の前記細胞から、特定の形態的特徴を有し、検査の対象となる複数の検査細胞を選定する処理と、前記第2画像に基づいて、少なくとも複数の前記検査細胞から、前記蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出する処理と、抽出した前記輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞を特定する処理と、前記染色体異常が生じている細胞の数及び/又は前記染色体異常が生じていない細胞の数に基づいて、前記検査細胞に対する前記染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する処理と、をコンピュータに行わせる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検者の診断を容易にすることが可能とする、蛍光画像分析方法、蛍光画像分析装置、蛍光画像分析プログラムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の一例である蛍光画像分析装置の構成を模式的に示す図である。
図2】蛍光画像分析装置で取得される第1画像、2つの第2画像、第3画像、及び2つの第2画像の合成画像の一例を示す図である。
図3】第1画像と第3画像の模式合成画像であり、処理部による核偏在値の算出方法について説明する図である。
図4】核偏在値を横軸のパラメータとし細胞面積を縦軸のパラメータとする二次元座標に、1の検体の骨髄液から作成した試料に含まれる各細胞の核偏在値と細胞面積をプロットしたグラフである。
図5A】一般的な多発性骨髄腫細胞における、核画像(a)、明視野画像(b)、及びそれらの合成画像(c)を示す図である。
図5B】非多発性骨髄腫細胞における核画像(a)、明視野画像(b)、及びそれらの合成画像(c)を示す図である。
図6】フローセルを流れる試料の同じ領域から取得された、第3画像(a)、第1の第2画像(b)、第2の第2画像(c)を模式的に示すものである。
図7】処理部による輝点パターンに基づく細胞の分類について説明する図であり、単純化した輝点パターンを示す模式図である。
図8】処理部による輝点抽出・融合判定の方法を説明するための図である。
図9】処理部による融合判定の方法を説明するための図である。
図10】処理部で実行される蛍光画像分析処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図11図10のステップS2の分類処理の詳細手順の一例を示すフローチャートである。
図12図10のステップS3の分類処理の詳細手順の一例を示すフローチャートである。
図13】IGH転座を有している多発性骨髄腫患者の骨髄検体において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/FGFR3融合遺伝子、及びIGH/MAF融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を算出したときの算出結果を表すグラフである。
図14】IGH転座を有していない多発性骨髄腫患者の骨髄検体において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/FGFR3融合遺伝子、及びIGH/MAF融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を算出したときの算出結果を表すグラフである。
図15】IGH転座を有している濾胞性リンパ腫患者の脾臓組織検体から作製した試料に含まれる各細胞における核面積と細胞面積を、核面積を横軸のパラメータとし細胞面積を縦軸のパラメータとする二次元座標にプロットしたグラフである。
図16】上記濾胞性リンパ腫の患者の検体に関して、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/BCL2融合遺伝子、及びIGH/MYC融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を算出したときの算出結果を表すグラフである。
図17】IGH転座を有しているびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫患者のリンパ節検体から作製した試料に含まれる各細胞における核面積と細胞面積を、核面積を横軸のパラメータとし細胞面積を縦軸のパラメータとする二次元座標にプロットしたグラフである。
図18】上記びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の患者の検体に関して、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/BCL2融合遺伝子、及びIGH/MYC融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を算出したときの算出結果を表すグラフである。
図19図10のステップS3の分類処理の変形例を示すフローチャートである。
図20図10のステップS3の分類処理の変形例を示すフローチャートであれる。
図21】実施形態の他の一例である蛍光画像分析装置の概略図である。
図22】実施形態の他の一例である蛍光画像分析装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る蛍光画像表示方法及び蛍光画像分析装置の実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。なお、本発明は以下で説明する実施形態及び変形例に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、以下で説明する複数の実施形態及び変形例の各構成要素を選択的に組み合わせることは本開示の範囲内である。
【0012】
図1は、実施形態の一例である蛍光画像分析装置10の構成を模式的に示す図である。図1において、実線の両矢印は、信号線を示し、一点鎖線は、光の経路を示し、実線の片矢印は、光の進行方向を示す。図1に示すように、蛍光画像分析装置10は、標的部位を蛍光色素により標識した細胞(以下、「蛍光標識細胞」という場合がある)の蛍光画像と明視野画像とを細胞ごとに取得する撮像ユニット100と、試料20aを後述するフローセル110に供給するための流体回路部15と、撮像ユニット100及び流体回路部15等の各装置を制御するとともに、染色体の転座による遺伝子融合が生じている細胞の比率に関する情報を生成する処理部11とを備える。また、蛍光画像分析装置10は、処理部11と接続された記憶部12、表示部13、及び入力部14を備える。
【0013】
詳しくは後述するが、本実施形態では、第1画像の一例としての明視野画像、第2画像の一例としての2つの蛍光輝点画像、及び第3画像の一例としての核染色画像に基づいて、ソフトウェアによる画像解析を行う。そして、試料に含まれる複数の細胞を、特定の形態的特徴を有する複数の検査細胞と、当該特定の形態的特徴を有しない複数の非検査細胞とに分類し、更に、複数の検査細胞を、判定不能細胞と陰性細胞と陽性細胞とに分類する。本明細書において、陽性細胞は、染色体異常が生じている細胞を意味し、陰性細胞は、染色体異常が生じていない細胞を意味する。染色体異常には、染色体の転座、染色体の逆位、遺伝子の欠失、又は遺伝子増幅などが含まれる。
【0014】
撮像ユニット100は、蛍光標識細胞に光を照射する光源121~124と、試料20aを流すためのフローセル110と、撮像部154とを備える。また、撮像ユニット100は、集光レンズ131~134,151,153と、ダイクロイックミラー141,142と、光学ユニット152とを備える。本実施形態では、撮像ユニット100には、出力する光の波長が互いに異なる4種類の光源121~124が設けられている。撮像部154によって、励起光及び出力する蛍光の波長が互いに異なる3種類の蛍光色素を用いた3種類の蛍光画像と、細胞の明視野画像が撮像される。なお、細胞の明視野画像とは、細胞全体に均一に光を照射し、該細胞を透過した光を検出して得られる画像である。
【0015】
本実施形態では、試料20aとして、第1蛍光色素及び第2蛍光色素により標識した異なる2種類の核酸プローブと核酸中の標的部位とをハイブリダイズさせる工程と、各細胞の核を第3蛍光色素としての核染色用色素により標識する核染色工程とを含む前処理により調製された骨髄液を用いる。そして、蛍光画像分析装置10を用いて、試料20aに含まれる複数の細胞から選定した複数の検査細胞に関して、陰性細胞の数と、陽性細胞の数とに基づく陽性細胞の比率に関する情報を算出する。
【0016】
なお、本実施形態では、陽性細胞が、IGH遺伝子又はFGFR3遺伝子が染色体転座により融合してIGH/FGFR3融合遺伝子を生成している多発性骨髄腫細胞(以下、単に骨髄種細胞という)であって、陰性細胞が、IGH/FGFR3融合遺伝子を含まない細胞である場合について説明する。なお、後の変形例でも説明するが、本発明に係る蛍光画像表示方法及び装置は、測定対象がIGH/FGFR3融合遺伝子を含む骨髄腫細胞に限定されず、測定対象は他の融合遺伝子を含む骨髄腫細胞でもよい。又は、測定対象は、形質細胞(骨髄種細胞)以外の細胞でもよく、有核細胞であればよい。なお、以下の説明において、IGH/FGFR3融合遺伝子を、t(4;14)と呼ぶことがある。ここで、本明細書において、「t」は、転座を意味し、t(x;y)と表記する場合の「x」及び「y」は、各遺伝子が存在する染色体番号を意味する。
【0017】
蛍光画像分析装置10では、前処理ユニット20で調製された試料20aを測定して試料20aに含まれる細胞の分類を行う。前処理ユニット20では、細胞の標的部位を蛍光色素により標識する工程と、細胞の核を核染色用色素により特異的に染色する工程とを含む前処理を行って試料20aを調製する。標的部位を蛍光色素により標識する工程において、蛍光色素で標識された核酸プローブと核酸中の標的部位とがハイブリダイズされる。
【0018】
IGH遺伝子とハイブリダイズする第1核酸プローブは、波長λ11の励起光が照射されることにより波長λ21の第1蛍光を発する第1蛍光色素によって標識されている。この第1核酸プローブとIGH遺伝子がハイブリダイズすることで、IGH遺伝子は第1蛍光色素によって標識される。FGFR3遺伝子とハイブリダイズする第2核酸プローブは、波長λ12の励起光が照射されることにより波長λ22の第2蛍光を発する第2蛍光色素によって標識されている。この第2核酸プローブとFGFR3遺伝子がハイブリダイズすることで、FGFR3遺伝子は第2蛍光色素によって標識される。核は、波長λ13の励起光が照射されることにより波長λ23の第3蛍光を発する核染色用色素によって染色される。なお、第1蛍光色素として、TexasRed(登録商標)が使用され、第2蛍光色素として、FITC(Fluorescein isothiocyanate)が使用され、核染色用色素としてHoechst(登録商標) 33342使用されるが、各色素は限定されない。
【0019】
フローセル110は、透光性の樹脂またはガラスで構成され、試料20aを流すための流路111を有する。フローセル110は、光源121~124の共通の光路に設けられている。撮像ユニット100において、光源121~124はフローセル110に光を照射し、撮像部154はフローセル110の流路111を流れる蛍光標識細胞の蛍光画像及び明視野画像を撮像するように構成されている。
【0020】
フローセル110を用いたFISH法(以下、「フローFISH法」と称する)によれば、蛍光標識された細胞を含む試料20aをフローセル110に流し、流体中の細胞を撮像することにより蛍光画像を取得する。このため、顕微鏡観察による従来のFISH法と比べて、分析の対象となる細胞の数を数十倍~数万倍のオーダで増やすことができ、高い検査精度が得られる。特に、陽性細胞数が少ない場合の再現性が向上する。
【0021】
撮像ユニット100は、上述のように、光源121~124から出射された光がフローセル110の流路111を流れる試料20aに照射されるように構成されている。光源121~123の一例は半導体レーザ光源であり、光源124の一例は白色LEDである。光源121は、第1蛍光色素を励起するための光源であって、波長λ11のレーザ光を出射する。光源122は、第2蛍光色素を励起するための光源であって、波長λ12のレーザ光を出射する。光源123は、第3蛍光色素としての核染色用色素を励起するための光源であって、波長λ13のレーザ光を出射する。光源124は、細胞の明視野画像を生成するための光、すなわち細胞を透過する白色光を出射する。本実施形態では、波長λ11は、592nmであり、波長λ12は、488nmであり、波長λ13は、405nmである。
【0022】
集光レンズ131~134は、それぞれ、光源121~124とフローセル110の間に配置され、光源121~124から出射された光をフローセル110に集光する。ダイクロイックミラー141は、波長λ11の光を透過させ、波長λ12の光を反射する。ダイクロイックミラー142は、波長λ11,λ12の光を透過させ、波長λ13の光を反射する。このような光学系を設けることにより、光源121~124の光がフローセル110の流路111に照射される。そして、流路111を流れる試料20aに波長λ11~λ13の光が照射されると、細胞を標識している蛍光色素が蛍光を発する。
【0023】
具体的には、波長λ11の光がIGH遺伝子を標識する第1蛍光色素に照射されると、第1蛍光色素から波長λ21の第1蛍光が生じる。波長λ12の光がFGFR3遺伝子を標識する第2蛍光色素に照射されると、第2蛍光色素から波長λ22の第2蛍光が生じる。波長λ13の光が核を染色する核染色用色素に照射されると、核染色用色素から波長λ23の第3蛍光が生じる。本実施形態では、第1蛍光色が赤色であり、第2蛍光色が緑色であり、第3蛍光色が青色である。また、試料20aに光源124の白色光が照射されると、この光の一部は細胞を透過し、明視野画像が得られる。なお、各光源の波長及び各蛍光色素は、上記のものに限定されず、検出対象の遺伝子によって適宜選択すればよい。
【0024】
フローセル110と撮像部154の間には、フローセル110側から、レーザ光の光路に沿って、集光レンズ151、光学ユニット152、集光レンズ153が順に配置されている。集光レンズ151は、試料20aから生じた第1~第3蛍光及び試料20aを透過した透過光を光学ユニット152に集光する。光学ユニット152は、4枚のダイクロイックミラーを積層して構成されている。4枚のダイクロイックミラーは、第1~第3蛍光を互いに僅かに異なる角度で反射し、撮像部154の受光面上において分離させる。集光レンズ153は、光学ユニット152で反射された光を撮像部154の受光面に集光する。
【0025】
撮像部154は、TDI(Time Delay Integration)カメラにより構成される。撮像部154は、第1~第3蛍光及び透過光によって形成される像を撮像して、第1~第3蛍光にそれぞれ対応した3種類の蛍光画像と、透過光に対応した明視野画像とを取得し、取得した画像を、処理部11の制御により後述する記憶部12に記憶する。
【0026】
明視野画像は、第1画像の一例であり、第1蛍光及び第2蛍光を撮像した画像の夫々は第2画像の一例であり、第3蛍光を撮像した核の画像は第3画像を構成する。以下、第1蛍光を撮像した画像を第1の第2画像と言及し、第2蛍光を撮像した画像を第2の第2画像と言及する。処理部11は、撮像部154から送られた各画像間で、被写体と画素の位置関係が一致するようソフトウェアによって各画像を補正する。2つの第2画像は、輝点の重なりを分析するため、互いに同じ大きさであることが好ましい。
【0027】
撮像部154を構成するTDIカメラは、フローセル110の流路111に沿った方向、すなわち試料20aが流れる方向に沿って複数列のラインセンサで細胞を繰り返し撮像し、試料の流れ方向に沿ってラインセンサの電荷を積算することで細胞の画像を得る。このため、試料20aの移動速度を落とすことなく、かつ露光時間を短くすることなく、高画質の細胞画像を得ることができる。なお、撮像ユニット100の構成は、上記のものに限定されず、ソフトウェアによる画像解析に必要な細胞画像が撮像できる限り、適宜変更してもよい。例えば、光学ユニット152として、プリズムを組み合わせた構成を採用してもよい。そのような光学ユニット152として、例えば、米国特許公開第2020-0271585号公報に記載の光学ブロックが使用でき、当該公報は参照により本明細書に組み込まれる。また、撮像部154として、CCDカメラを採用してもよい。
【0028】
流体回路部15は、試料20aを吸引する吸引管、吸引管とフローセル110とを接続する流路及びポンプを備え、処理部11の制御により、試料20aを吸引管により吸引し、フローセル110に供給する。
【0029】
処理部11は、後述する記憶部12に格納されたソフトウェアを実行することにより撮像ユニット100により取得された蛍光画像を画像解析して、蛍光画像に含まれる各細胞を、陰性細胞と、陽性細胞と、ソフトウェアによる陰性細胞又は陽性細胞への分類のための所定条件を満たさない蛍光画像の細胞である非判定細胞と、に分類する。処理部11は、CPUで構成され、蛍光画像の処理・解析に係る演算処理を実行する。処理部11は、記憶部12に記憶されたプログラムに基づいて、第1~第3画像の画像解析を含む種々の処理を実行する。処理部11は、撮像ユニット100、記憶部12、表示部13、入力部14、及び流体回路部15に接続されており、各装置から信号を受信して種々の情報を取得し、各装置に制御信号を出力して各装置を制御する。例えば、処理部11は、流体回路部15のポンプを制御することにより吸引管を介して試料20aを吸引し、吸引した試料20aをフローセル110に供給する。また処理部11は、光源121~124および撮像部154を制御することにより、フローセル110を流れる各細胞について、第1画像、2つの第2画像、及び第3画像を撮像する。
【0030】
記憶部12は、RAM、ROM、及びソリッドステートドライブ(SSD)等で構成されている。記憶部12には、第1~第3画像の画像解析のために処理部11が実行するソフトウェアが格納されている。表示部13は、液晶ディスプレイにより構成され、各細胞の分類結果、第1~第3画像、陽性細胞の比率に関する情報などを表示する。入力部14は、マウス及びキーボードにより構成され、検体ID等の情報の入力、表示画面の切り替え、第1~第3画像の選択などに使用される。なお、記憶部12、表示部13、及び入力部14の構成は特に限定されない。
【0031】
処理部11は、記憶部12に格納されたソフトウェアを実行することにより、撮像部154により撮像された第1~第3画像を処理して、第1画像から細胞の大きさ、2つの第2画像から2種類の蛍光に関する蛍光輝点、第3画像から核領域を抽出する。そして、処理部11は、抽出された、細胞の大きさ、2種類の蛍光輝点、及び核領域に基づいて解析を行い、試料20aに含まれる複数の細胞から、陰性細胞の数と、陽性細胞の数とに基づく陽性細胞の比率を算出する。
【0032】
処理部11は、先ず、第1画像及び第3画像を用いて試料20aに含まれる複数の細胞の内で、検査対象の形質細胞及びそれが癌化した骨髄腫細胞が他の領域と比較して高頻度に含まれている領域に属する細胞(以下、この領域に属する細胞を「検査細胞」という場合がある)を選定する。検査対象の形質細胞及びそれが癌化した骨髄腫細胞が他の領域と比較して高頻度に含まれている領域とは、試料20aに含まれる複数の細胞の分布図における領域であり、後に詳述する。続いて、処理部11は、選定した複数の検査細胞に対して、2つの第2画像を分析して、陽性細胞の数と、陰性細胞の数をカウントし、陽性細胞の比率に関する情報を算出する。
【0033】
詳しくは、撮像部154は、試料20aに含まれる複数の細胞(例えば、全ての細胞)に関して、細胞毎に、図2に示す第1~第3画像を撮像する。図2に示す第1画像、第3画像と、2つの第2画像と、それらの合成画像は、階調を反転させた後、色調をグレーに変更したものである。処理部11は、先ず、第1画像(明視野画像)に基づいて、試料20aに含まれる各細胞に関し、細胞の大きさを表す細胞面積を算出する。細胞面積は、処理部11が明視野画像において細胞の一部が写っている画素数をカウントすることで算出できる。
【0034】
本実施形態では、試料20aに含まれる複数の細胞から、検査対象の形質細胞及び骨髄腫細胞が他の領域と比較して高頻度に含まれている領域に属する複数の検査細胞を選定するのに、細胞の大きさと、次に説明する核偏在の尺度を表す核偏在値を用いる。細胞の大きさと、核偏在値とを用いた検査細胞の選定については、後で図4を用いて説明する。処理部11は、第1画像及び第3画像(核染色画像)に基づいて核偏在値を算出する。図3は、第1画像と第3画像の模式合成画像であり、処理部11における核偏在値の算出方法について説明する図である。図3において、外側の円f1の円周は、第1画像に基づいて処理部11が特定した細胞の外縁を示し、円f1の内側の斜線で示す円f2の円周は、第3画像に基づいて処理部11が特定した核の外縁を示す。二次元の合成画像には、互いに直交するX方向とY方向が設定されている。
【0035】
処理部11は、合成画像に基づいて、細胞が存在するX方向の範囲x1とY方向の範囲y1を特定し、X方向の範囲x1の中心線とY方向の範囲y1の中心線との交点を細胞の中心位置z1と特定し、細胞の中心位置z1の座標を算出する。また、処理部11は、合成画像に基づいて、核が存在するX方向の範囲x2とY方向の範囲y2を特定し、X方向の範囲x2の中心線とY方向の範囲y2の中心線との交点を核の中心位置z2と特定し、その中心位置z2の座標を算出する。処理部11は、細胞の中心位置z1の座標と核の中心位置z2の座標とを用いて、2つの中心位置z1,z2間の距離dで定義される核偏在値を算出する。
【0036】
なお、X方向又はY方向を、試料流の方向に一致させてもよい。また、説明の便宜上、第1画像と第3画像の合成画像を用いて処理部11における核偏在値の算出法について説明したが、第1画像における細胞の中心座標と第3画像における核の中心座標の距離が求められれば足り、合成画像の作成は必須ではない。
【0037】
図4は、核偏在値を横軸のパラメータとし細胞面積を縦軸のパラメータとする二次元座標に、1の検体(骨髄液)から作成した試料20aに含まれる各細胞の核偏在値と細胞面積をプロットしたグラフである。図4において、縦軸は、細胞の一部と判定された画素の数を示し、1画素は0.25μm2に一致する。また、横軸は、細胞の中心位置z1と核の中心位置z2との距離dを示し、単位はμmである。本実施形態では、図4において、細胞面積と核偏在値の両方ともが大きなPlasma Cell Gate(形質細胞ゲート)と示される検査領域に含まれる複数の細胞を検査細胞とし、2つの第2画像(FISH画像)における輝点分析は検査細胞のみで行われる。次にその理由について説明する。
【0038】
図5Aは、多発性骨髄腫細胞(癌化した形質細胞)における、核画像(a)、明視野画像(b)、それらの合成画像(c)を示す図である。また、図5Bは、非多発性骨髄腫細胞における核画像(a)、明視野画像(b)、それらの合成画像(c)を示す図である。なお、非多発性骨髄腫細胞は、形質細胞でなく、それが癌化した骨髄腫細胞でもない細胞である。また、図5A(c)の合成画像と図5B(c)の合成画像においては、核の領域を黒で示している。図5A(b)及び図5B(b)に示すように、多発性骨髄腫細胞は、非多発性骨髄腫細胞よりも大きいことが多い。
【0039】
また、図5A(c)及び図5B(c)に示すように、多発性骨髄腫細胞の核は、細胞の中心からずれた位置に存在するのに対し、非多発性骨髄腫細胞の核は、細胞の中心に存在するため、多発性骨髄腫細胞の核偏在値は、非多発性骨髄腫細胞の核偏在値よりも大きいことが多い。このように、多発性骨髄腫細胞は、非多発性骨髄腫細胞と比較して、細胞面積が大きく、かつ核偏在値が大きい細胞であることが多い。このことから、図4における二次元座標のグラフにおいて細胞面積と核偏在値の両方ともが大きなPlasma Cell Gateを検査領域として、検査領域内の細胞における輝点分析を行うことで多発性骨髄腫細胞の輝点分析を効率的に行うことができる。
【0040】
次に、図2に加えて、図6を参照しながら、蛍光輝点及び核領域の抽出方法について説明する。なお、図6(a)の第3画像、図6(b)の第1の第2画像、及び図6(c)の第2の第2画像は、フローセル110を流れる試料20aの同じ領域から取得された画像を模式的に示すものである。また、本実施形態において、蛍光輝点とは、核酸プローブの蛍光色素が発する蛍光の点であって、画像を構成する各画素の輝度(画素値)が周りの画素の輝度よりも高い領域を意味する。蛍光輝点は、後述の2値化処理により抽出される。
【0041】
図2に示す例において、第1の第2画像には、波長λ21の第1蛍光の輝点が3つ存在しており、第2の第2画像には、波長λ22の第2蛍光の輝点が3つ存在している。第3画像は、核の領域を示す波長λ23の第3蛍光に対応する蛍光画像である。合成画像は、2つの第2画像を重ね合わせた画像であって、後で説明する融合輝点を判定するための画像である。フローセル110の流路111において、試料20aは細胞が互いが間隔を空けて流れるため、これを撮像部154により撮像すると、図2に示すように、3つの蛍光画像及び明視野画像は細胞ごとに取得される。
【0042】
図6(a)に示す第3画像が取得されると、処理部11は、第3画像上の各画素における輝度に基づいて、図6(a)の中央に示すような輝度と度数のグラフを作成する。縦軸の度数は、画素の個数を示している。処理部11は、このグラフに基づいて核領域とバックグランドとの境界である輝度の閾値を設定する。そして、処理部11は、閾値以下の輝度を有する画素と、閾値よりも大きい輝度を有する画素とで第3画像を表す2値化処理を行い、閾値よりも大きい輝度を有する画素が分布する範囲を核領域として抽出する。図6(a)の右側の図において点線で描かれた円の円周は、抽出された核領域の外縁を示す。
【0043】
図6(b)に示す第1の第2画像が取得されると、処理部11は、第1画像上の各画素における輝度に基づいて、図6(b)の中央に示すような輝度と度数のグラフを作成する。処理部11は、第3画像の処理と同様に、このグラフにおいて、輝度の閾値を設定し、閾値よりも大きい輝度を有する画素が分布する範囲を蛍光輝点の領域として抽出する。図6(b)の右側の図において点線で描かれた円の円周は、抽出された蛍光輝点の領域の外縁を示す。
【0044】
図6(c)に示す第2の第2画像が取得されると、処理部11は、第2画像上の各画素における輝度に基づいて、図6(c)の中央に示すような輝度と度数のグラフを作成する。処理部11は、第3画像の処理と同様に、このグラフにおいて、輝度の閾値を設定し、閾値よりも大きい輝度を有する画素が分布する範囲を、蛍光輝点の領域として抽出する。図6(c)の右側の図において点線で描かれた円の円周は、抽出された蛍光輝点の領域の外縁を示す。
【0045】
処理部11は、図6(a)~(c)に示すようなグラフを作成することなく、上述の手順に沿って、演算により第3画像から核の領域を抽出し、第1画像及び第2画像から蛍光輝点の領域を抽出してもよい。処理部11は、第3画像から核の領域を抽出するが、明視野画像に基づいて核の領域を検出してもよい。その場合、第3画像の取得を省略することも可能である。
【0046】
次に、図7を参照しながら、処理部11による輝点パターンに基づく細胞の分類について説明する。なお、図7は、単純化した輝点パターンを示す模式図であり、この単純化した輝点パターンでは、細胞が陰性である場合、第1の第2画像に第1遺伝子に対応する2つの輝点が現れ、第2の第2画像に第2遺伝子に対応する2つの輝点が表れる。
【0047】
図7(a)は、染色体異常のない陰性細胞の蛍光輝点の配置例、すなわち陰性パターンであり、図7(b)~(d)は、染色体異常のある陽性細胞の蛍光輝点の配置例、すなわち陽性パターンである。図7の第1の第2画像及び第2の第2画像は、核領域を示す第3画像を重ね合わせたものであり、合成画像は2つの第2画像と第3画像を重ね合わせた画像を意味する。蛍光画像には、第1の第2画像と、第2の第2画像と、第3画像と、合成画像とが含まれる。以下では、第1の第2画像を構成する第1蛍光の輝点を「第1輝点」と称し、第2の第2画像を構成する第2蛍光の輝点を「第2輝点」と称する。
【0048】
図7には、蛍光輝点のパターンとして、「GRF」のアルファベットと「0~3」の数字を図示している。蛍光輝点パターンの「G」は合成画像における緑色の第1輝点を示し、「R」は合成画像における赤色の第2輝点を示す。また、「F」は合成画像における黄色の融合輝点を示す。G、R、Fの直後に続く数字は、それぞれ、合成画像に含まれるG、R、Fの輝点の数を示す。
【0049】
例えば、図7(a)に示す陰性パターン「G2R2F0」の場合、第1の第2画像における第1輝点が2つ、第2の第2画像における第2輝点が2つ、合成画像における融合輝点が0であることを示している。同様に、図7(b)の陽性パターン「G2R3F1」の場合、第1の第2画像における第1輝点が2つ、第2の第2画像における第2輝点が3つ、合成画像における融合輝点が1つであることを示している。
【0050】
図7(a)に示す例では、第1遺伝子座と第2遺伝子座の融合等の染色体異常が生じていない場合、それぞれの遺伝子は1つの核内に1対ずつ、各遺伝子が独立して存在する。ゆえに、第1の第2画像には第1輝点が1つの核領域内に2つ存在し、第2の第2画像には第2輝点が核領域内に2つ存在する。そして、同じ大きさで撮像された第1の第2画像と第2の第2画像を重ね合わせて合成すると、合成画像においては、2つの第1輝点と、2つの第2輝点が、1つの核領域内に重ならずに存在することになる。図7(a)に示すような核領域内に第1輝点と第2輝点が2つずつ重ならずに存在する蛍光輝点のパターンは、染色体異常が認められない陰性パターンである。
【0051】
図7(b)に示す例では、転座により第2遺伝子の一部が第1遺伝子と融合し、第1の第2画像に第1輝点が核内に2つ存在し、第2の第2画像には第2輝点が核内に3つ存在している。この場合に、第1の第2画像と第2の第2画像を合成すると、合成画像においては、1つの第1輝点と、2つの第2輝点と、第1輝点及び第2輝点が互いに重なった1つの融合輝点とが、1つの核内に存在することになる。図7(b)に示すような蛍光輝点のパターンは、染色体異常が認められる陽性パターンである。
【0052】
第1輝点と第2輝点が重なって生じる融合輝点は、合成画像では黄色に映る。融合輝点の有無は、蛍光輝点の数と共に、FISH検査において重要な分類指標となる。
【0053】
図7(c)に示す例では、転座により第1遺伝子の一部が第2遺伝子と融合すると共に第2遺伝子の一部も第1遺伝子と融合して、第1の第2画像に第1輝点が核内に3つ存在し、第2の第2画像に第2輝点が核内に3つ存在している。この場合に、第1の第2画像と第2の第2画像を合成すると、合成画像においては、1つの第1輝点と、1つの第2輝点と、第1輝点及び第2輝点が互いに重なった2つの融合輝点とが、1つの核内に存在することになる。図7(c)に示すような蛍光輝点のパターンは、染色体異常が認められる陽性パターンである。
【0054】
図7(d)に示す例では、転座により第2遺伝子の全部が第1遺伝子と融合して、第1の第2画像に第1輝点が核内に2つ存在し、第2の第2画像に第2輝点が核内に2つ存在している。この場合に、第1の第2画像と第2の第2画像を合成すると、合成画像においては、1つの第1輝点と、1つの第2輝点と、第1輝点及び第2輝点が互いに重なった1つの融合輝点とが、1つの核内に存在することになる。図7(d)に示すような蛍光輝点のパターンは、染色体異常が認められる陽性パターンである。
【0055】
FISH法によれば、上述のように、第1の第2画像と第2の第2画像の合成画像における赤と緑の各蛍光輝点の数と融合輝点の数に基づいて、細胞ごとに染色体異常を有する陽性細胞であるかどうかを判定することができる。処理部11は、各細胞の第1の第2画像における第1輝点の数と、第2の第2画像における第2輝点の数と、第1の第2画像と第2の第2画像を合成したときに第1輝点及び第2輝点が互いに重なる融合輝点の数とをカウントする。処理部11は、例えば、カウントした第1輝点の数(G)と、第2輝点の数(R)と、融合輝点の数(F)に基づいて、細胞を図7(a)~(d)のいずれかに分類することにより、その細胞が陽性細胞であるか陰性細胞であるかを判定する。
【0056】
本実施形態の場合では、第1遺伝子がIGH遺伝子であって第2遺伝子がFGFR3遺伝子である場合の複数の輝点パターンが、記憶部12に格納されている。より詳しくは、第1遺伝子がIGH遺伝子であり、第2遺伝子をFGFR3遺伝子である場合における、図7に例示した陰性パターン「G2R2F0」と、陽性パターン「G2R3F1」、「G3R3F2」及び「G2R2F1」とに対応する複数の輝点パターンが、記憶部12に格納されている。処理部11は、解析対象の細胞の第1の第2画像と、第2の第2画像と、2つの第2画像の合成画像と、から、第1輝点の数(G)と、第2輝点の数(R)と、融合輝点の数(F)とをカウントし、その結果を、記憶部12に格納された陰性パターン及び陽性パターンと、を比較し、カウントの結果が陽性パターンに該当すれば、その細胞は陽性細胞であると判定し、陰性パターンに該当すれば、その細胞は陰性細胞であると判定する。
【0057】
次に、図8及び図9を参照しながら、処理部11による輝点抽出及び融合輝点の判定方法について説明する。図8(A)は、撮像部154によって得られる第1の第2画像及び第2の第2画像を示している。処理部11は、図8(B)に示すように蛍光画像(2つの第2画像)に対してノイズ除去を行う。蛍光画像には、一般的にノイズが存在するため、処理部11は、例えば、トップハットフィルタ等のノイズ除去手段を用いてノイズ除去の処理を実行する。
【0058】
処理部11は、ノイズ除去された蛍光画像に対して、図8(C)に示すように、2値化処理を行う。2値化処理における閾値の設定は図6を用いて説明した通りである。処理部11は、図8(D)に示すように、2値化処理により抽出された蛍光輝点の重心座標を算出する。重心座標は、蛍光輝点の幾何学的な重心の座標を意味し、所定の公式に基づいて算出できる。処理部11は、図8(E)に示すように、第1輝点と第2輝点の重心間距離Dから、近接した第1輝点と第2輝点が融合輝点であるか否かの融合判定を行う。図8(E)の合成画像に描いた円内に存在する第1輝点と第2輝点は、互いに近接しており、IGH遺伝子またはFGFR3遺伝子の転座に起因して発生した融合輝点として判定される。
【0059】
図9は、図8(E)の融合判定を詳細に説明するための模式図である。図9に示すように、処理部11は、第1輝点の重心座標C1と第2輝点の重心座標C2との重心間距離Dを算出し、重心間距離Dと閾値を比較する。閾値としては、標準的な蛍光輝点の1つ分の直径に相当する距離が用いられる。閾値は試料によらず固定の値が用いられる。なお、閾値は固定値でなく、試料によって閾値を可変に設定してもよい。例えば、試料20aに含まれる複数の細胞から抽出された複数の蛍光輝点の直径から、それらの代表値を算出し、その代表値を閾値に適用してもよい。代表値は、平均値、中央値、最頻値のいずれであってもよい。
【0060】
処理部11は、重心間距離Dが閾値以下である場合に、第1輝点と第2輝点は融合していると判定する。処理部11は、重心間距離Dが閾値より大きい場合には、この第1輝点と第2輝点は融合していないと判定する。処理部11は、核領域に存在する全ての第1輝点について、各第2輝点との重心間距離Dをそれぞれ算出し、閾値と比較して融合判定を行う。処理部11は、各細胞について融合輝点の数をカウントする。なお、図8(E)及び図9では、説明の便宜上、第1の第2画像と第2の第2画像の合成画像上において融合判定を行っているように図示しているが、処理部11による融合判定は第1の第2画像における各輝点の重心座標と第2の第2画像における各輝点の重心座標の距離が求められれば足り、合成画像の作成は必須ではない。
【0061】
第1輝点と第2輝点が重なっているか否かの融合判定は、重心間距離Dの代わりに、第1輝点の中心点と第2輝点の中心点との距離を用いて行ってもよい。本明細書において、中心点とは、蛍光輝点のうち最も輝度が高い点であって、最も輝度が高い画素を意味する。処理部11は、第1輝点と第2輝点の中心点間距離が所定の閾値以下である場合に、第1輝点と第2輝点は融合していると判定してもよく、中心点間距離が所定の閾値より大きい場合には、融合していないと判定してもよい。
【0062】
また、第1輝点と第2輝点の互いに重なる領域の割合、つまり第1輝点を構成する画素のうち、第2輝点を構成する画素と同じ位置(同じ座標)にある画素の割合を閾値と比較して融合判定を行うことも可能である。
【0063】
次に、図10図12を用いて、本実施形態において処理部11で実行される蛍光画像分析処理について説明する。図10は、処理部11で実行される蛍光画像分析処理の手順の一例を示すフローチャートである。処理部11のプロセッサが記憶部12に格納されたプログラムを実行することにより図10に示す処理が実行される。オペレータが前処理ユニット20を用いて前処理を行って得られた試料20aが蛍光画像分析装置10にセットされ、入力部14を介して測定開始の指示が与えられると、処理部11は一連の分析プロセスを開始する。
【0064】
ステップS1において、処理部11は、蛍光画像分析装置10の流体回路部15を制御してフローセル110に試料20aを流す。処理部11は、光源121~124を発光させる。これによってフローセル110を流れる試料20a中の細胞に光が照射される。処理部11は、撮像部154に細胞の蛍光画像と明視野画像を撮像させる。これによって細胞ごとに蛍光画像と明視野画像(第1画像)が取得される。蛍光画像として、第1蛍光に対応する第1の第2画像、第2蛍光に対応する第2の第2画像、及び第3蛍光に対応する第3画像(核染色画像)が撮像される。処理部11は、細胞ごとの3つの蛍光画像及び明視野画像を、各細胞を識別するために撮像順に付された細胞IDと対応付けて、記憶部12に格納する。
【0065】
ステップS2において、処理部11は、第1画像及び第3画像を画像解析し、試料20a中の複数の細胞(本実施形態では、試料20a中の全ての細胞)を、形質細胞及び骨髄腫細胞の割合が多い複数の検査細胞を選定する。処理部11がステップS2で行うより具体的な処理については、図11を用いて後で詳細に説明する。
【0066】
ステップS2が終了すると、ステップS3に移行する。ステップS3において、処理部11は、ステップS2で検査細胞に分類した複数の細胞に関して、蛍光画像(第1の第2画像、第2の第2画像)を画像解析し、蛍光画像中の細胞を、陽性細胞、陰性細胞、又は非判定細胞に分類する。
【0067】
ステップS3が終了すると、ステップS4に移行する。ステップS4において、処理部11は、ステップS3で取得した陽性細胞の数と陰性細胞の数に基づいて検査対象の遺伝子融合に関する陽性細胞率を次の(1)式を用いて算出する。陽性細胞率は、遺伝子融合が生じている細胞の比率に関する情報の一例である。
陽性細胞数/(陰性細胞数+陽性細胞数)・・・(1)
(1)式では、不鮮明な蛍光画像に対応する非判定細胞を排除して、陽性細胞率を陰性細胞数と陽性細胞数のみで算出する。このようにすることで、より精度の高い陽性細胞率を出力できる。
【0068】
次に、図10のステップS2及びS3の処理を詳細に説明する。図11は、図10のステップS2の分類処理の詳細手順の一例を示すフローチャートである。図11を参照して、検査細胞と非検査細胞の分類処理においては、先ず、ステップS11で、処理部11は、細胞IDをキーとして、試料中の複数の細胞からの分類前の1の細胞を選定し、選定した細胞に対応付けて記憶された第1画像及び第3画像を記憶部12から取得する(記憶部12から読み出す)。ここで、最初に選定する細胞は、最も早く撮像した画像に対応する細胞とするが、これに限定されない。
【0069】
次のステップS12では、処理部11が、選定した分類前の1の細胞に関して、細胞面積と核偏在値を算出する。具体的には、処理部11は明視野画像(第1画像)において細胞の一部が写っている画素数をカウントすることで細胞面積を算出する。また、処理部11は明視野画像と核染色画像(第3画像)に基づき図3を用いて説明した方法で核偏在値を算出する。
【0070】
次のステップS13では、処理部11が、算出した細胞面積が所定値(閾面積)よりも大きく、かつ、算出した核偏在値が所定値(閾核偏在値)よりも大きいか否かを判定する。図4に示す例では、閾面積が90画素の面積に設定され、閾核偏在値が1.2μmに設定されているが、閾面積や閾核偏在値はそれらの値に限定されない。また、図4に示す例では、ステップS13で肯定判定される条件として、細胞面積の上限値及び核偏在値の上限値が設定されているが、これらの上限値は設定しなくてもよい。
【0071】
ステップS13で肯定判定されると、ステップS15で、処理部11が、選定した1の細胞を検査細胞に分類する。具体的には、ステップS15において、処理部11は、選定した1の細胞の細胞IDに、検査細胞であることを示すラベルを対応付けて記憶部12に記憶する。ステップS15が終了するとステップS16に移行して、処理部11が試料中の全ての細胞の分類が終了したか否かを判定する。ステップS16で否定判定されると、ステップS11以下が繰り返され、ステップS16で肯定判定されると、ステップS2の処理が終了し、図10のステップS3の処理に戻る。
【0072】
一方、ステップS13で否定判定されると、ステップS14で、処理部11が、選定した1の細胞を非検査細胞に分類する。具体的には、ステップS14において、処理部11は、選定した1の細胞の細胞IDに、非検査細胞であることを示すラベルを対応付けて記憶部12に記憶する。ステップS14が終了するとステップS16に移行する。
【0073】
なお、ステップS11における細胞の選定に関し、細胞の選定の順番を、撮像順ではなく、記憶部12に記憶した順番としてもよい。また、図11のフローにおけるステップS11~ステップS16は、ステップS11で選定した細胞についてステップS16の処理が完了してから次の細胞を選定する必要はなく、複数の細胞を並行して処理してもよい。例えば、ステップS11で選定した細胞についてステップS12の処理を開始したタイミングで、次の細胞を選定してもよい。ステップS2では、処理部11は、試料20a中の全ての細胞を、検査細胞と非検査細胞に分類できる如何なる処理を行ってもよい。図5A及び図5B等を用いて説明したように、ステップS2は、形質細胞及び骨髄腫細胞を効率的に抽出するために行われる。
【0074】
図12は、図10のステップS3の分類処理の詳細手順の一例を示すフローチャートである。図12を参照して、陽性細胞、陰性細胞、非判定細胞の分類処理においては、先ず、ステップS20で、処理部11が、図10のステップS2で選定された複数の検査細胞から分類前の1の検査細胞を選定し、選定した細胞に対応付けて記憶された第2画像(第1の第2画像と第2の第2画像の両方)を記憶部12から取得する(記憶部12から読み出す)。なお、処理部11は、検査細胞であることを示すラベルが細胞IDに対応付けられている細胞を、検査細胞として特定することができる。
【0075】
処理部11は、ステップS21で、図6及び図8を参照して説明したように、撮像画像からノイズを除去し、2値化処理して蛍光輝点を抽出する。蛍光輝点として、2値化処理された第1の第2画像から第1輝点を、第2の第2画像から第2輝点を、夫々抽出する。そして、次のステップS22において、処理部11が、選定した1の検査細胞に関して、第2画像(第1の第2画像と第2の第2画像の両方)における輝点数の判定が可能か否かを判定する。ステップS22で処理部11が否定判定すると、ステップS23に移行して、処理部11は記憶部12に記憶されている非判定細胞のカウント数を1増やし、記憶部12に更新した非判定細胞の数を記憶させる。なお、図10のステップS3が開始される前において、記憶部12には、非判定細胞の数が0と記憶されている。
【0076】
処理部11は、輝点数の判定の可否を次のように行う。詳しくは、処理部11は、蛍光輝点の形が楕円形状等の真円から離れた形状である場合、ソフトウェアによる分類対象外と判定し、その蛍光画像を対象外に分類する。第1輝点と第2輝点は、通常、真円に近い形状であるが、楕円形状等の真円から離れた形状となることがある。これは、フローセル110の流路111を細胞が流れる移動速度とTDIカメラのラインセンサの電荷転送速度が合致せず、試料流の方向であるY方向に蛍光輝点が長く延びたり、あるいは縮んだりすることが一因として挙げられる。この場合、蛍光輝点の正確な重心座標を求めることが難しく、ソフトウェアによって誤った融合判定がなされ得るため、そのような蛍光画像に対応する細胞は、非判定細胞と判定する。
【0077】
この判定において、処理部11は、例えば、蛍光輝点の上記Y方向の長さと、Y方向に直交するX方向長さとの比(Y/X)が、所定の閾値を超える場合に、その細胞を対象外細胞に分類する。なお、長さの比(Y/X)の代わりに、蛍光輝点の円形度など、蛍光輝点の形状を表す別の指標を用いてもよい。
【0078】
また、処理部11は、蛍光輝点の大きさが所定の閾値を超える場合にソフトウェアによる分類対象外とし、その蛍光画像を対象外に分類する。第1輝点と第2輝点は、通常、同程度の大きさであるが、一部の蛍光輝点だけが大きく撮像される場合がある。この原因としては、TDIカメラの光軸に沿った奥行き方向に離れて細胞の蛍光標識部位が存在することが挙げられる。この場合、蛍光輝点の正確な重心座標を求めることが難しく、ソフトウェアによって誤った融合判定がなされ得るため、そのような蛍光画像は細胞分類の対象外とされる。処理部11は、例えば、蛍光輝点の面積が所定の閾値を超える場合に、その蛍光画像を対象外に分類する。
【0079】
更には、処理部11は、蛍光輝点の輝度が所定の閾値より低い場合にソフトウェアによる分類対象外とし、その蛍光画像を対象外に分類する。2つの第2画像における輝度値の最大値は、通常、同程度であるが、前処理の影響等により輝度が大きく下がることが考えられる。試料20aは、細胞の標的部位を蛍光標識する前処理により調製されるが、一般的に、全ての細胞について均質な前処理を行うことは難しく、目的とするレベルに蛍光標識されない所謂染色不良の細胞が発生し得る。処理部11は、例えば、第1の第2画像の輝度値の最大値及び第2の第2画像の輝点の最大値の少なくとも一方が所定の閾値未満である場合に、その蛍光画像を対象外に分類する。
【0080】
ステップ23が終了すると、ステップS27に移行して、処理部11は、複数の検査細胞の全ての分類が終了したか否かを判定する。処理部11は、ステップS27で肯定判定すると、図10のステップS3の処理を終了し、処理をステップS4に戻す。一方、処理部11は、ステップS27で否定判定すると、ステップS20に移行して、新たに1の分類前の検査細胞を選定し、その選定した1の検査細胞に関し、ステップS21以下の処理を行う。
【0081】
他方、ステップS22で肯定判定すると、ステップS24-1に移行して、処理部11が、第2画像(第1の第2画像と第2の第2画像の両方)の合成画像から、選定した1の検査細胞に遺伝子融合が生じているか否かを判定する。この融合判定は、図8及び図9を用いて説明した方法に基づいて行う。処理部11が、ステップS24-2で、選定した1の検査細胞について、第1輝点、第2輝点、及び融合輝点をカウントする。処理部11が、ステップS24-3で、ステップS24-2のカウント値が、記憶部12に記憶された陽性パターン又は陰性パターンのいずれかに該当するか否かを判定する。この判定は、図7を用いて説明した方法に基づいて行う。ステップS24-3で陽性パターンに該当すると判定すると、ステップS25に移行して、その細胞の細胞IDに、陽性細胞であることを示すラベルを対応付けて、記憶部12に記憶する。また、処理部11は記憶部12に記憶されている陽性細胞のカウント数を1増やし、記憶部12に更新した陽性細胞の数を記憶させる。なお、図10のステップS3が開始される前において、記憶部12には、陽性細胞の数が0と記憶されている。ステップS25が終了すると、ステップS27に移行する。
【0082】
一方、ステップS24-3で陽性パターンに該当すると判定すると、ステップS26に移行して、その細胞の細胞IDに、陰性細胞であることを示すラベルを対応付けて、記憶部12に記憶する。また、処理部11は記憶部12に記憶されている陰性細胞のカウント数を1増やし、記憶部12に更新した陰性細胞の数を記憶させる。なお、図10のステップS3が開始される前において、記憶部12には、陰性細胞の数が0と記憶されている。ステップS26が終了すると、ステップS27に移行する。なお、ステップS24-3における判定は、第1輝点、第2輝点、及び融合輝点のカウント値を、陽性パターン及び陰性パターンと比較する上記方法には限定されず、処理部11は、例えば、融合輝点をカウントし、融合輝点が1点以上存在する場合に陽性と判定し、融合輝点が存在しない場合に陰性と判定してもよい。
【0083】
図13は、IGH転座を有している多発性骨髄腫患者の骨髄検体(検体1)において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/FGFR3融合遺伝子、及びIGH/MAF融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を上記説明した本実施形態の方法を用いて算出したときの算出結果を表すグラフである。検体1に対して、形質細胞の単離は行っていない。検体1は、IGH/FGFR3融合遺伝子が生じている陽性検体である。検体1において、IGH/CCND1融合遺伝子及びIGH/MAF遺伝子融は生じていない。図14は、IGH転座を有していない多発性骨髄腫患者の骨髄検体(検体2)において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/FGFR3融合遺伝子、及びIGH/MAF融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を上記説明した本実施形態の方法を用いて算出したときの算出結果を表すグラフである。検体2に対して、形質細胞の単離は行っていない。検体2は、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/FGFR3融合遺伝子及びIGH/MAF融合遺伝子のいずれも生じていない陰性検体である。なお、図13及び図14には、比較例として、図10におけるステップS2を省略して、検査細胞を選定せずに、試料20aにおける全ての細胞に関して図10におけるステップS3、S4の処理を行って陽性細胞率を算出した算出結果も示している。図13及び図14において、本実施形態の方法による陽性細胞率は、ハッチング付きの棒グラフで表され、比較例の陽性細胞率は、ハッチング無しの棒グラフで表されている。なお、以下の説明において、IGH/CCND1融合遺伝子及びIGH/MAF融合遺伝子を、それぞれ、t(11;14)及びt(14;16)と呼ぶことがある。
【0084】
本実施形態の方法で算出した陽性細胞率について、IGH転座を有している検体である検体1と、IGH転座を有していない検体である検体2を比較すると、図13及び図14に示すように、IGH/FGFR3融合遺伝子に関して、検体1の陽性細胞率が71.84%であるのに対し、検体2の陽性細胞率が20.45%であり、陽性細胞率の差は50%を超えている。従って、20.45%と71.84%の間に閾値を設けることが可能になり、陽性細胞率を多発性骨髄腫の診断の指標として生成し、出力することにより、診断を容易にすることができる。
【0085】
一方、比較例の方法で算出した陽性細胞率について、検体1と検体2を比較すると、図13及び図14に示すように、IGH/FGFR3融合遺伝子に関して、検体1の陽性細胞率が28.36%であるのに対し、検体2の陽性細胞率が19.79%であり、陽性細胞率の差は9%を下回っている。このように、IGH転座を有している検体と、IGH転座を有していない検体との間で陽性細胞率の差が小さいと、陽性細胞率を多発性骨髄腫の診断の指標とすることができないことが多い。
【0086】
検体2のIGH/FGFR3融合遺伝子に関して、図14に示すように、本実施形態の方法で算出した陽性細胞率が20.45%であり、比較例の方法で算出した陽性細胞率が19.79%である。検体2は、IGH/FGFR3融合遺伝子を生じていない陰性検体であるため、本実施形態の方法及び比較例の方法の両方で、陰性細胞の約20%が、陽性細胞であると判定(以下、擬陽性判定とよぶ)されたと考えられる。ここから、検体1のIGH/FGFR3融合遺伝子に関して、本実施形態の方法で算出した陽性細胞率である71.84%及び、比較例の方法で算出した陽性細胞率である28.36%には、それぞれ約20%の擬陽性判定が含まれていると考えられる。ここで、検体1のIGH/FGFR3融合遺伝子に関して、本実施形態の方法で算出した陽性細胞率から20%を差し引いたとしても、陽性細胞率は50%を超えているのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率から20%を差し引くと、陽性細胞率が9%を下回っている。これは、本実施形態の方法では、擬陽性判定が多発性骨髄腫の診断に影響を与えることはなく、診断を容易にすることができるが、比較例の方法では、擬陽性判定が影響してしまい、多発性骨髄腫の診断が難しくなることを示す。
【0087】
検体1のIGH/FGFR3融合遺伝子に関して、図13に示すように、本実施形態の方法で算出した陽性細胞率が71.84%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が28.36%である。本実施形態の方法で算出した陽性細胞率(71.84%)の計算式における分子は574個であり、分母は799個である。一方、比較例の方法で算出した陽性細胞率(28.36%)の計算式における分子は3674個であり、分母は12954個である。これは、図4に示すPlasma Cell Gateを設定したことにより、陽性細胞率の計算式における分子については、3674個の細胞から574個の細胞が選定された、すなわち、選定率が15.6%であることを示し、分母については、12954個の細胞から799個に細胞が選定された、すなわち、選定率が6.2%であることを示す。このように、本実施形態の方法では、Plasma Cell Gateの設定により、陽性細胞率の計算式の分子における細胞の選定率が、分母における細胞の選定率よりも大きくなり、陽性細胞が効率的に抽出される。
【0088】
検体1のIGH/CCND1融合遺伝子については、図13に示すように、本実施形態の方法で算出した陽性細胞率が30.54%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が20.11%であり、陽性細胞率の差は11%を下回っている。検体1のIGH/MAF融合遺伝子については、図13に示すように、本実施形態の方法で算出した陽性細胞率が16.90%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が13.83%であり、陽性細胞率の差は4%を下回っている。このように、本実施形態の方法では、図4に示すPlasma Cell Gateを設定しても、IGH転座を有していない検体について、Plasma Cell Gateを設定しない場合と同等の精度で陽性細胞率を出力することができる。
【0089】
上記のとおり、本実施形態の方法では、IGH転座を有している検体における陽性細胞率と、IGH転座を有していない検体における陽性細胞率の差が大きくなり、陽性細胞率を多発性骨髄腫の診断の指標として出力ことができる。従って、被検者の診断を容易にすることができる。
【0090】
つまり、本実施形態によれば、蛍光画像分析装置10が、試料中の複数の細胞から検査対象の細胞(本実施形態では、形質細胞及び骨髄腫細胞)が高頻度に含まれる領域に属する複数の検査細胞を選定する処理をソフトウェアに基づいて自動的に行う。したがって、試料20aに含まれる全細胞に対する、検査対象となる形質細胞及び骨髄腫細胞の割合が小さい場合でも、それらの細胞を試料20aから単離させる処理を行うことなしに、陽性細胞率を出力することができる。
【0091】
[検査細胞の選定に関する変形例]
上記実施形態では、明視野画像である第1画像と、核染色画像である第3画像とを用いて、選定情報としての細胞面積及び核偏在値を算出し、それら2つの選定情報から検査細胞である形質細胞及び骨髄腫細胞を効率的に抽出した。しかし、検査細胞の選定に関する選定情報は、細胞面積及び核偏在値に限らず、細胞の特徴に関する他の如何なる情報でもよい。又は、試料中の複数の細胞から選定情報を用いずに複数の検査細胞を選定してもよい。次に、検査細胞の選定に関する変形例について説明する。
【0092】
<第1変形例>
選定情報を引き出す画像として、明視野画像である第1画像と、核染色の蛍光画像である第3画像とを用いてもよい。そして、選定情報として、第1画像から引き出した細胞面積と、第3画像から引き出した核面積を採用してもよい。
【0093】
次にIGH/BCL2融合遺伝子が生じている濾胞性リンパ腫(膵臓)の1の検体において選定情報として細胞面積と核面積を採用して陽性細胞率を算出した変形例1について説明する。
【0094】
この変形例1では、試料20aを、第1蛍光色素により標識した核酸プローブと核酸中の標的部位とをハイブリダイズさせる工程と、第2蛍光色素により標識した核酸プローブと核酸中の標的部位とをハイブリダイズさせる工程と、各細胞の核を第3蛍光色素としての核染色用色素により標識する核染色工程とを含む前処理を、上記1の検体の膵液に施して作製した。
【0095】
その試料20aに対して、上記実施形態と同様に撮像処理を行って、試料20a中の各細胞に関して、第1画像(明視野画像)、2つの第2画像、及び第3画像(核染色画像)を取得した。そして、各細胞に関して、第1画像から細胞面積を算出し、第3画像から核面積を算出した。細胞面積は、処理部11が明視野画像において細胞の一部が写っている画素数を特定することで算出できる。核面積は、処理部11が核染色画像において核の一部が写っている画素数を特定することで算出できる。
【0096】
図15は、核面積を横軸のパラメータとし細胞面積を縦軸のパラメータとする二次元座標に、当該試料20aに含まれる各細胞における核面積と細胞面積をプロットしたグラフである。図15において、縦軸は、細胞と判定された部位の画素数を示し、1画素は0.25μm2に一致する。また、横軸は、核と判定された部位の画素数を示し、1画素は0.25μm2に一致する。
【0097】
この変形例1では、図15のグラフにおいて、核面積が55画素未満でかつ細胞面積が80画素未満の領域を除く領域に存在する細胞を検査細胞とし、当該領域に存在する複数の検査細胞のみに輝点分析を行い、対象の遺伝子融合が1以上存在している細胞を陽性細胞とした。
【0098】
図16は、IGH転座を有している濾胞性リンパ腫患者の脾臓組織検体において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/BCL2融合遺伝子、及びIGH/MYC融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を上記説明した変形例1の方法を用いて算出したときの算出結果を表すグラフである。この検体は、IGH/BCL2融合遺伝子が生じている陽性検体である。この検体において、IGH/CCND1融合遺伝子及びIGH/MYC融合遺伝子は生じていない。なお、このグラフにおいても、図13,図14と同様に、比較例として、図10におけるステップS2を省略して、検査細胞を選定せずに、試料20aにおける全ての細胞に関して図10におけるステップS3、S4の処理を行って陽性細胞率を算出した算出結果も示している。図16において、本変形例1の方法による陽性細胞率は、ハッチング付きの棒グラフで表され、比較例の陽性細胞率は、ハッチング無しの棒グラフで表されている。なお、以下の説明において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/BCL2融合遺伝子、及びIGH/MYC融合遺伝子を、それぞれ、t(11;14) 、t(14;18)、及びt(8;14)と呼ぶことがある。
【0099】
この検体のIGH/BCL2融合遺伝子に関して、図16に示すように、本変形例1の方法で算出した陽性細胞率が79.6%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が53.3%である。本変形例1の方法で算出した陽性細胞率(79.6%)の計算式における分子は9944個であり、分母は12492個である。一方、比較例の方法で算出した陽性細胞率(53.3%)の計算式における分子は11238個であり、分母は21079個である。これは、図15に示す上記説明した領域を設定したことにより、陽性細胞率の計算式における分子については、11238個の細胞から9944個の細胞が選定された、すなわち、選定率が88.4%であることを示し、分母については、21079個の細胞から12492個に細胞が選定された、すなわち、選定率が59.3%であることを示す。このように、本変形例1の方法では、図15に示す上記説明した領域の設定により、陽性細胞率の計算式の分子における細胞の選定率が、分母における細胞の選定率よりも大きくなり、陽性細胞が効率的に抽出される。
【0100】
この検体のIGH/CCND1融合遺伝子については、図16に示すように、本変形例1の方法で算出した陽性細胞率が28.4%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が26.0%であり、陽性細胞率の差は3%を下回っている。この検体のIGH/MYC融合遺伝子については、図16に示すように、本変形例1の方法で算出した陽性細胞率が19.4%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が16.3%であり、陽性細胞率の差は4%を下回っている。このように、本変形例1の方法では、図15に示す上記説明した領域を設定しても、IGH転座を有していない検体について、図15に示す上記説明した領域を設定しない場合と同等の精度で陽性細胞率を出力することができる。
【0101】
上記のとおり、本変形例1の方法では、IGH転座を有している検体における陽性細胞率と、IGH転座を有していない検体における陽性細胞率の差が大きくなり、陽性細胞率を濾胞性リンパ腫の診断の指標として出力ことができる。従って、被検者の診断を容易にすることができる。
【0102】
次に、変形例1の方法を用いた他の例、詳しくは、IGH転座を有しているびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫患者のリンパ節検体において選定情報として細胞面積と核面積を採用して陽性細胞率を算出した例について説明する。
【0103】
この例では、試料20aを、第1蛍光色素により標識した核酸プローブと核酸中の標的部位とをハイブリダイズさせる工程と、第2蛍光色素により標識した核酸プローブと核酸中の標的部位とをハイブリダイズさせる工程と、各細胞の核を第3蛍光色素としての核染色用色素により標識する核染色工程とを含む前処理を、上記リンパ節検体に施して作製した。
【0104】
その試料20aに対して、撮像処理を行って、試料20a中の各細胞に関して、第1画像(明視野画像)、2つの第2画像、及び第3画像(核染色画像)を取得した。そして、各細胞に関して、第1画像から細胞面積を算出し、第3画像から核面積を算出した。
【0105】
図17は、核面積を横軸のパラメータとし細胞面積を縦軸のパラメータとする二次元座標に、当該試料20aに含まれる各細胞における核面積と細胞面積をプロットしたグラフである。図17において、縦軸は、細胞と判定された部位の画素数を示し、1画素は0.25μm2に一致する。また、横軸は、核と判定された部位の画素数を示し、1画素は0.25μm2に一致する。
【0106】
この例では、図17のグラフにおいて、核面積が55画素未満でかつ細胞面積が80画素未満の領域を除くに存在する細胞を検査細胞とし、当該領域に存在する複数の検査細胞のみに輝点分析を行い、対象の遺伝子融合が1以上存在している細胞を陽性細胞とした。
【0107】
図18は、IGH転座を有しているびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫患者のリンパ節検体において、IGH/CCND1融合遺伝子、IGH/BCL2融合遺伝子、及びIGH/MYC融合遺伝子の夫々の陽性細胞率を上記説明した変形例1の他の例の方法を用いて算出したときの算出結果を表すグラフである。この検体は、IGH/BCL2融合遺伝子が生じている陽性検体である。この検体において、IGH/CCND1融合遺伝子及びIGH/MYC融合遺伝子は生じていない。なお、このグラフにおいても、図13,図14と同様に、比較例として、図10におけるステップS2を省略して、検査細胞を選定せずに、試料20aにおける全ての細胞に関して図10におけるステップS3、S4の処理を行って陽性細胞率を算出した算出結果も示している。図18において、比較例の陽性細胞率は、本変形例1の他の例の方法による陽性細胞率は、ハッチング付きの棒グラフで表され、ハッチング無しの棒グラフで表されている。
【0108】
この検体のIGH/BCL2融合遺伝子に関して、図18に示すように、変形例1の他の方法で算出した陽性細胞率が63.6%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が29.0%である。変形例1の他の方法で算出した陽性細胞率(63.6%)の計算式における分子は1236個であり、分母は1944個である。一方、比較例の方法で算出した陽性細胞率(29.0%)の計算式における分子は4939個であり、分母は17058個である。これは、図17に示す上記説明した領域を設定したことにより、陽性細胞率の計算式における分子については、4939個の細胞から1236個の細胞が選定された、すなわち、選定率が25.0%であることを示し、分母については、17058個の細胞から1944個に細胞が選定された、すなわち、選定率が11.4%であることを示す。このように、変形例1の他の方法では、図17に示す上記説明した領域の設定により、陽性細胞率の計算式の分子における細胞の選定率が、分母における細胞の選定率よりも大きくなり、陽性細胞が効率的に抽出される。
【0109】
この検体のIGH/CCND1融合遺伝子については、図18に示すように、変形例1の他の方法で算出した陽性細胞率が18.1%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が24.1%であり、陽性細胞率の差は7%を下回っている。この検体のIGH/MYC融合遺伝子については、図18に示すように、変形例1の他の方法で算出した陽性細胞率が10.6%であるのに対し、比較例の方法で算出した陽性細胞率が12.3%であり、陽性細胞率の差は2%を下回っている。このように、変形例1の他の方法では、図17に示す上記説明した領域を設定しても、IGH転座を有していない検体について、図17に示す上記説明した領域を設定しない場合と同等の精度で陽性細胞率を出力することができる。
【0110】
上記のとおり、変形例1の他の方法では、IGH転座を有している検体における陽性細胞率と、IGH転座を有していない検体における陽性細胞率の差が大きくなり、陽性細胞率をびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の診断の指標として出力ことができる。従って、被検者の診断を容易にすることができる。
【0111】
<第2変形例>
選定情報を引き出す画像として、明視野画像である第1画像と、核染色の蛍光画像である第3画像とを用いてもよい。そして、選定情報が、第1画像から引き出した細胞面積以外の細胞の大きさに関する情報、例えば、細胞の径又は幅等を含んでいてもよい。また、選定情報が、第3画像から引き出した核面積以外の核の大きさに関する情報、例えば、核の径又は幅等を含んでいてもよい。
【0112】
<第3変形例>
選定情報を引き出す画像として、明視野画像である第1画像を用いてもよい。また、他の選定情報を、画像でなくて、信号から取得してもよい。具体的には、処理部11は細胞の大きさに関する情報、例えば、細胞面積を第1画像に基づいて算出してもよい。また、処理部11は、細胞に励起光を照射したときに生じる、核を標識した染色色素からの蛍光の強度を、選定情報としてもよい。なお、核を標識した染色色素からの蛍光の強度の大きさは、核の大きさを示す。
【0113】
<第4変形例>
選定条件を引き出す第1画像として、核染色の蛍光画像を採用してもよく、1以上の選定情報は処理部11が核染色の蛍光画像に基づいて算出した核に関する情報、例えば、核の面積でもよい。また、処理部11は、他の選定情報を、画像でなくて信号から取得してもよく、処理部11は、信号として散乱光(好ましくは、前方散乱光)の強度を、選定情報としてもよい。
【0114】
なお、前方散乱光は、低角度散乱光とも呼ばれ、レーザ光が細胞を照射したときに前方に散乱される光を示す。前方散乱光の大きさは、細胞の大きさに略比例する。
【0115】
<第5変形例>
選定情報を明視野画像を用いて取得した上記実施形態及び全ての変形例において、明視野画像の代わりに暗視野画像を用いてもよい。つまり、暗視野画像を第1画像として、処理部11が暗視野画像に基づいて選定情報を取得してもよい。暗視野画像は、細胞によって散乱された光に基づく画像である。暗視野画像を用いても、細胞の大きさに関する情報、例えば、細胞面積の情報を取得できる。
【0116】
<第6変形例>
上記実施形態では、試料20aに含まれる複数の細胞に関し、細胞の1つずつを撮像ユニット100で撮影し、各画像に細胞が1つずつ撮影されている場合について説明した。しかし、第1~第3画像のうちの1以上の画像に関して、各画像に複数の細胞が撮影されていてもよく、各画像の解析により複数の細胞に関する情報を取得してもよい。例えば、1つの明視野画像に複数の細胞が写っていてもよく、1つの第2画像に複数の細胞の輝点が写っていてもよい。又は、1つの核染色画像に複数の核が写っていてもよい。
【0117】
<第7変形例>
第1~第3画像のうちの1以上の画像に関して、各画像に細胞の一部のみが撮影されていてもよく、各画像の解析により複数の細胞に関する情報を所得してもよい。例えば、1つの核染色画像に、細胞全体が写っている必要はなく、核を含む細胞の一部のみが写っていてもよい。
【0118】
<第8変形例>
上述の全ての実施形態及び変形例では、少なくとも第1画像を用いて、選定情報を取得する場合について説明した。しかし、選定情報を取得しなくてもよい。具体的には、検査細胞に該当するか否かを、画像から抽出した画素データを、ニューラルネットワークを有する分類アルゴリズム(好ましくは、深層学習アルゴリズム)に入力することで判定してもよい。
【0119】
画像はデータであり、画像の各画素は、明るさの情報と、色相の情報と、を有している。この場合、画素データ、例えば、輝度の大きさの情報(明るさの情報)や、色相の情報等を、そのままニューラルネットワークを有する分類アルゴリズムに入力して、検査細胞に該当するか否かを当該分類アルゴリズムで判定する。
【0120】
具体的には、先ず、検査細胞の画像と、非検査細胞の画像を多数用意して、多数の画像を用いてューラルネットワークを有する分類アルゴリズムを訓練する。訓練した分類アルゴリズムは、検査細胞であるか否かをかなりの精度で、判定できるようになる。よって、閾値(例えば、80%)を設定して、分類アルゴリズムがその閾値以上の確率で検査細胞であると判定した細胞のみを検査細胞として抽出できる。
【0121】
[陽性細胞率の算出に関する変形例]
上記実施形態では、上述の(1)式を用いて陽性細胞率を算出した。しかし、他の式を用いて陽性細胞率を算出してもよい。以下、(1)式と異なる他を用いて陽性細胞率を算出する変形例について説明する。
【0122】
<第1変形例>
陽性細胞率は、次の(2)式を用いて算出してもよい。
陽性細胞率=陽性細胞数/(検査細胞数-未判定細胞数)・・・(2)
(2)式を用いた陽性細胞率の算出においても、(1)式を用いた陽性細胞率の算出と同様に、不鮮明である蛍光画像に対応する未判定細胞を排除して、陽性細胞率を陰性細胞数と陽性細胞数のみで算出する。このようにすることで、より精度の高い陽性細胞数の情報を出力できる。
【0123】
<第2変形例>
上記実施形態及び第1変形例では、未判定細胞を考慮して陽性細胞率を算出したが、未判定細胞を考慮せず次の(3)式を用いて陽性細胞率を算出してもよい。
陽性細胞率=陽性細胞数/検査細胞数・・・(3)
【0124】
<第3変形例>
上記実施形態及び各変形例においては、陽性細胞の式内に、陽性細胞数、検査細胞数、及び未判定細胞数のうちの1以上の変数における一次の値しか現れなかった。しかし、陽性細胞率の式に、陽性細胞数、検査細胞数、及び未判定細胞数のうちの1以上を変数とする1次以外の関数が含まれもよい。例えば、陽性細胞率の式に、陽性細胞数、検査細胞数、及び未判定細胞数のうちの1以上の変数の2乗が含まれてもよく、1具体例では、陽性細胞率を、陽性細胞数の2乗を検査細胞数で割った数で算出してもよい。
【0125】
このように、陽性細胞率の式に、陽性細胞数、検査細胞数、及び未判定細胞数のうちの1以上を変数とする1次以外の関数(例えば、2次以上の高次の関数、指数関数、対数関数等)が含まれている場合にも、遺伝子融合が生じている細胞の比率に関する情報を算出している場合に該当する。
【0126】
<第4変形例>
上記実施形態及び各変形例の陽性細胞率において、陽性細胞数を、(検査細胞数-陰性細胞数)に置き換えて、陽性細胞率を算出してもよい。図19は、図10のステップS3における処理部11の画像処理の変形例を示すフローチャートである。図19に示すフローチャートは、上記実施形態のステップS3における処理部11の画像処理の手順を示す図12のフローチャートとの比較において、ステップS22及びステップS23を省略した点のみが異なる。
【0127】
図19に示すように、図10のステップS3において、複数の検査細胞に含まれる各細胞を必ず陽性細胞数又は陰性細胞のいずれかに分類してもよい。この場合、未判定細胞数が存在しないため、上記実施形態及び各変形例の陽性細胞率において、陽性細胞数を、(検査細胞数-陰性細胞数)に置き換えて、陽性細胞率を算出しても正確な判定を行うことができる。なお、未判定細胞数が存在する場合においても、上記実施形態及び各変形例の陽性細胞率において、陽性細胞数を(検査細胞数-陰性細胞数)に置き換えて、陽性細胞率を算出してもよい。
【0128】
[その他の変形例]
上記実施形態では、図11に示すステップS14で非検査細胞と分類した複数の細胞に関してそれより先の処理を行わなかった。しかし、ステップS14で非検査細胞と分類した複数の細胞に関してそれより先の処理を行ってもよい。
【0129】
より具体的には、図20に示すように、ステップS20’で、処理部11は、撮像された全ての細胞から、1の細胞を選定し、選定した細胞に対応付けて記憶された第2画像(第1の第2画像と第2の第2画像の両方)を記憶部12から取得する。ステップS21、ステップS22’、ステップ23~ステップS24-3の処理は、上記の実施形態のステップS21~ステップS24-3との比較において、ステップS22’で1の検査細胞を1の細胞に変更した点のみが異なる。ステップS21、ステップS22’、ステップ23~ステップS24-3の処理は、上記の実施形態のステップS21~ステップS24-3の処理と基本的に同じであるので、説明を省略する。処理部11は、ステップS25’で、その細胞の細胞IDに検査対象であることを示すラベルが付されていれば、陽性細胞であることを示すラベルを対応付けて、記憶部12に記憶するとともに、陽性細胞のカウント数を1増やし、記憶部12に更新した陽性細胞の数を記憶する。検査対象であることを示すラベルが付されていない場合は、陽性細胞のカウント数は変更されない。処理部11は、ステップS26’で、その細胞の細胞IDに検査対象であることを示すラベルが付されていれば、陰性細胞であることを示すラベルを対応付けて、記憶部12に記憶するとともに、陰性細胞のカウント数を1増やし、記憶部12に更新した陰性細胞の数を記憶する。検査対象であることを示すラベルが付されていない場合は、陽性細胞のカウント数は変更されない。ステップS27’で、処理部11は、撮像された全ての細胞についての処理が終了したか否かを判定する。処理部11は、ステップS27’が肯定判定であれば、処理を図10のステップS4に戻し、否定判定であれば、処理をステップS20’に戻す。
【0130】
上記実施形態及び変形例では、蛍光輝点の融合判定を行う場合について説明した。しかし、蛍光輝点の融合判定を行わず、蛍光輝点の数に基づいて画像に含まれる細胞を陽性細胞と陰性細胞に分類してもよい。分析の対象となる細胞、標的部位、測定項目、蛍光標識等によって、細胞の分類方法、すなわち分類に使用する指標が異なるため、分析の対象に合わせて適切な分類指標を使用する必要がある。
【0131】
また、図21に示すように、蛍光画像分析装置10は、装置内に前処理ユニット20を備えていてもよい。処理部11は、前処理ユニット20に接続され、前処理ユニット20を制御可能に構成されている。前処理ユニット20は、被検者から採取され遠心分離等の処理が行われた検体10aがセットされると、検体10aについて前処理を行い、標的部位が蛍光標識された細胞を含む試料20aを調製する。なお、他の構成については、図1に示す構成と同様である。図21に例示する形態のように、蛍光画像分析装置10が前処理ユニット20を備えていると、オペレータが検体10aを装置にセットするだけで、自動的に前処理が行われ、調製された試料20aが自動的に分析される。
【0132】
また、図22に示すように、蛍光画像分析装置の撮像ユニットとして、図1に例示する撮像ユニット100の代わりに、蛍光顕微鏡を含む撮像ユニット300を備えていてもよい。撮像ユニット300は、光源301~303と、ミラー304と、ダイクロイックミラー305、306と、シャッター311と、1/4波長板312と、ビームエキスパンダ313と、集光レンズ314と、ダイクロイックミラー315と、対物レンズ316と、ステージ320と、集光レンズ331と、撮像部332と、コントローラ341、342とを備える。
【0133】
ステージ320は、スライドガラス321が設置される支持台であって、コントローラ342により駆動される。ステージ320に設置されるスライドガラス321には、前処理ユニット20で調製された試料20aが載せられる。すなわち、撮像ユニット300では、スライドガラス321上の蛍光標識細胞が、撮像部332を備えた蛍光顕微鏡により撮像されて蛍光画像が取得される。
【0134】
光源301~303は、それぞれ、図1に示す光源121~123と同様である。ミラー304は、光源301からの光を反射する。ダイクロイックミラー305は、光源301からの光を透過し、光源302からの光を反射する。ダイクロイックミラー306は、光源301、302からの光を透過し、光源303からの光を反射する。光源301~303からの光の光軸は、ミラー304とダイクロイックミラー305、306により、互いに一致させられる。
【0135】
シャッター311は、コントローラ341により駆動され、光源301~303から出射された光を通過させる状態と、光源301~303から出射された光を遮断する状態とに切り替える。これにより、試料20aに対する光の照射時間が調整される。1/4波長板312は、光源301~303から出射された直線偏光の光を円偏光に変換する。核酸プローブに結合している蛍光色素は、所定の偏光方向の光に反応する。よって、光源301~303から出射された励起用の光を円偏光に変換することにより、励起用の光の偏光方向が、蛍光色素が反応する偏光方向に一致しやすくなる。これにより、蛍光色素を効率良く励起させることができる。
【0136】
ビームエキスパンダ313は、スライドガラス321上における光の照射領域を広げる。集光レンズ314は、対物レンズ316からスライドガラス321に平行光が照射されるよう光を集光する。ダイクロイックミラー315は、光源301~303から出射された光を反射し、試料20aから生じた蛍光を透過する。対物レンズ316は、ダイクロイックミラー315で反射された光を、スライドガラス321に導く。
【0137】
試料20aから生じた蛍光は、対物レンズ316を通り、ダイクロイックミラー315を透過する。集光レンズ331は、ダイクロイックミラー315を透過した蛍光を集光して、撮像部332の撮像面332aに導く。撮像部332は、撮像面332aに照射された蛍光の像を撮像し、蛍光画像を生成する。撮像部332は、例えば、CCD等により構成される。
【0138】
コントローラ341、342と撮像部332は、上述の処理部11に接続されている。処理部11は、コントローラ341、342と撮像部332を制御し、撮像部332により撮像された蛍光画像を受信する。なお、撮像部332により撮像される蛍光画像は、フローセル110を用いる場合と異なり、細胞が密接した状態となっている場合がある。このため、処理部11は、取得した蛍光画像を、細胞の核ごとに分割する処理、または蛍光画像において1つの細胞の核に対応する領域を設定する処理等を行う。
【0139】
撮像ユニット300を備えた蛍光画像分析装置においても、取得された蛍光画像に基づいて、検査細胞を分類し、検査細胞について、遺伝子融合の発生を判定し、陽性細胞率を算出する。これにより、特定の種類の細胞を単離せずに、陽性細胞の比率に関する情報を出力することができる。従って、被検者の診断を容易にすることができる。
【0140】
なお、本発明の蛍光画像分析方法を実施する際に、次の処理(a)~(e)をコンピュータに行わせる蛍光画像分析プログラムを用いてもよい。
(a) 試料に含まれると共に、染色体上の標的部位が蛍光色素により標識された試料中の複数の細胞について、細胞の少なくとも一部領域を撮像対象に含む第1画像と、第1画像の細胞の標的部位を標識した蛍光色素から生じた蛍光を撮像対象に含む第2画像とを取得する処理。
(b) 少なくとも第1画像に基づいて、複数の細胞から検査の対象となる複数の検査細胞を選定する処理。
(c) 第2画像に基づいて、少なくとも複数の検査細胞から、蛍光色素から生じた蛍光による輝点を抽出する処理。
(d) 抽出した輝点に基づいて、染色体異常が生じている細胞及び/又は染色体異常が生じていない細胞を特定する処理。
(e) 検査細胞の数と、染色体異常が生じている細胞の数及び/又は染色体異常が生じていない細胞の数と、に基づいて、染色体異常が生じている細胞の比率に関する情報を生成する処理。
【0141】
また、本開示の方法で検査可能な遺伝子融合は、上記実施形態での説明の際に用いた遺伝子融合に限定されず、その他の如何なる遺伝子融合でもよい。例えば、本開示の方法で、t(14;20), t(8;14), 又はIGH split(14q32)を検出してもよい。t(14;20), t(8;14), 及びIGH split(14q32)は、t(11;14), t(4;14), 及びt(14;16)と同様に、多発性骨髄腫の原因となる遺伝子の転座である。また、本開示の方法で、t(3;14), MYC split(8q24), BCL2 split(18q21),又はBCL6 split(3q27) を検出してもよい。t(3;14), MYC split(8q24), BCL2 split(18q21),及びBCL6 split(3q27)は、t(11;14), t(14;18), 及びt(8;14)と同様に、悪性リンパ腫の原因となる遺伝子の転座である。
【0142】
また、本開示の方法で、染色体の転座による遺伝子融合以外の染色体異常を検出してもよく、染色体異常として、染色体の逆位、遺伝子の欠失又は遺伝子増幅等を検出してもよい。遺伝子の欠失として、例えば、del(17p), del(13q), 又はdel(1p)を検出してもよく、遺伝子の増幅として、例えば、gain(1q21)を検出してもよい。ここで、delは欠失を意味し、gainは増幅を意味し、カッコ内の数値は、各遺伝子の遺伝子座を意味する。遺伝子の欠失を検出する場合、処理部11は、図12のステップS24-1の処理を省略し、ステップS24-3において、ステップS24-2でカウントした輝点数と、陰性細胞における当該遺伝子の数とを比較し、両者が同数であれば、処理をステップS26に進め、カウントした輝点数が陰性細胞における当該遺伝子の数より小さければ、処理をステップS25に進める。遺伝子の増幅を検出する場合、処理部11は、図12のステップS24-1の処理を省略し、ステップS24-3において、ステップS24-2でカウントした輝点数と、陰性細胞における当該遺伝子の数とを比較し、両者が同数であれば、処理をステップS26に進め、カウントした輝点数が陰性細胞における当該遺伝子の数より大きければ、処理をステップS25に進める。
【0143】
また、本開示の方法で検査可能な疾患が、上記実施形態及び変形例で言及した疾患に限定されないのも言うまでもない。
【符号の説明】
【0144】
10 蛍光画像分析装置
11 処理部
12 記憶部
13 表示部
14 入力部
20 前処理ユニット
20a 試料
100,300 撮像ユニット
110 フローセル
111 流路
121~124 光源
131~134,151,153 集光レンズ
141,142 ダイクロイックミラー
152 光学ユニット
154 撮像部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22