(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027862
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】光源装置およびフローサイトメータ用レーザ光源装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20230224BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01N15/14 D
G01N21/05
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133191
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】592163734
【氏名又は名称】京セラSOC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中尾 理史
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 正美
(72)【発明者】
【氏名】小原 健治
(72)【発明者】
【氏名】増川 勲
【テーマコード(参考)】
2G057
【Fターム(参考)】
2G057AA02
2G057AA03
2G057AA04
2G057AB04
2G057AB08
2G057AC06
2G057BA05
2G057BB01
2G057DB01
2G057DC07
(57)【要約】
【課題】管路において流通させた複数の粒子を測定、分析するフローサイトメータにおいて、粒子のダブルカウントを防止できる光源装置を得る。
【解決手段】レーザビームを発する半導体レーザ11と、半導体レーザ11から発散光状態で発せられたレーザビームLを平行光にするコリメートレンズ12と、平行光とされたレーザビームLを、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、管路20中で管路長さ方向とスロー軸方向とが揃う状態にするプリズム13、14からなる第1ビーム変換ユニットおよびプリズム16、17からなる第2ビーム変換ユニットと、これらのビーム変換ユニットを経たレーザビームLを管路20中で収束させる収束レンズ19とからフローサイトメータ用光源装置1を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路において複数の粒子を管路長さ方向に並んだ状態で流通させ、これらの粒子に対して流れの側方側からレーザビームを照射する構成を有するフローサイトメータにおいて、前記レーザビームを前記粒子に照射するための光源装置であって、
レーザビームを発する半導体レーザと、
前記半導体レーザから発散光状態で発せられたレーザビームを平行光にするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズによって平行光とされた前記レーザビームを、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、前記管路中で管路長さ方向とスロー軸方向とが揃う状態にするビーム変換ユニットと、
前記ビーム変換ユニットを経た前記レーザビームを、前記管路中で収束させる収束レンズと、
を備えたことを特徴とするフローサイトメータ用光源装置。
【請求項2】
管路において複数の粒子を管路長さ方向に並んだ状態で流通させ、これらの粒子に対して流れの側方側からレーザビームを照射する構成を有するフローサイトメータにおいて、前記レーザビームを前記粒子に照射するための光源装置であって、
互いに異なる波長のレーザビームを発する複数の半導体レーザと、
前記複数の半導体レーザから各々発散光状態で発せられたレーザビームを平行光にする複数のコリメートレンズと、
前記コリメートレンズによって平行光とされた前記レーザビームをそれぞれ、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、前記管路中で管路長さ方向とスロー軸方向とが揃う状態にする各波長用のビーム変換ユニットと、
前記各波長用のビーム変換ユニットを経た各レーザビームを1本に合波する合波器と、
前記合波器により合波されたレーザビームを前記管路中で収束させる収束レンズと、
を備えたことを特徴とするフローサイトメータ用光源装置。
【請求項3】
前記収束レンズが色消しレンズである請求項2に記載のフローサイトメータ用光源装置。
【請求項4】
前記ビーム変換ユニットが、平行光とされた前記互いに異なる波長のレーザビームを、波長分散機能により互いに角度をなして出射させるものである請求項2または3に記載のフローサイトメータ用光源装置。
【請求項5】
前記ビーム変換ユニットが、前記レーザビームをスロー軸方向および/またはファスト軸方向に偏向可能である請求項1から4のいずれか1項に記載のフローサイトメータ用光源装置。
【請求項6】
前記ビーム変換ユニットが、プリズムペアを回転させることによって前記偏向を行うものである請求項5に記載のフローサイトメータ用光源装置。
【請求項7】
前記ビーム変換ユニットが、前記レーザビームをスロー軸方向には、前記縮小されたファスト軸方向のビーム径より大径に拡大するものである請求項1から6のいずれか1項に記載のフローサイトメータ用光源装置。
【請求項8】
前記管路中の収束位置における前記レーザビームのスロー軸方向のビームウエスト径が、ファスト軸方向のビームウエスト径より小さくなっている請求項1から7のいずれか1項に記載のフローサイトメータ用光源装置。
【請求項9】
レーザビームを発する半導体レーザと、
前記半導体レーザから発散光状態で発せられたレーザビームを平行光にするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズによって平行光とされた前記レーザビームを、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、レーザビーム照射位置でスロー軸方向を所定の一方向と一致させるビーム変換ユニットと、
前記ビーム変換ユニットを経た前記レーザビームを収束させる収束レンズと、
を備えたことを特徴とする光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフローサイトメータに用いられるレーザ光源装置に関し、特に詳細には、光源として半導体レーザが適用されたフローサイトメータ用レーザ光源装置に関するものである。また本発明は、フローサイトメータ用に限定しない、半導体レーザが適用された光源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞や細菌等の生体微小粒子や、その他の粒子を含む液をキャピラリー管等の管路中に流通させ、この流通する粒子の数、構造、性状等を測定、分析するフローサイトメトリーと呼ばれる手法が知られている。このフローサイトメトリーによって粒子を測定、分析する装置すなわちフローサイトメータも、例えば特許文献1~3に示されるように種々公知となっている。
【0003】
フローサイトメータにおいては、検体としての複数の粒子をキャピラリー管等からなる管路中で流れ方向に一列に整列させて流通させ、これらの粒子に対して流れの側方側からレーザビームを照射し、それにより生じた散乱光(前方散乱光や側方散乱光)や蛍光を光検出器で検出して電気信号を得、この電気信号に基づいて1つまたは集団としての粒子を測定、分析する。
【0004】
レーザビームを発する光源としては、例えば前記特許文献2にも示されているように、半導体レーザ(レーザダイオード)が適用されることも多く、特に、発振波長が相異なる複数の半導体レーザが用いられることもある。その場合は、各半導体レーザから発せられたレーザビームが収束レンズに通されて、管路中の略同じ位置で収束する。
【0005】
また、微小粒子に照射されるレーザビームのビームプロファイルは、粒子の流れ方向に関してはガウスビームであって、流れ方向に垂直な方向に関しては平坦なプロファイルとされることが多い(特許文献3参照)。また、上述したように複数の粒子を一列に整列させるために、多くのフローサイトメータにおいては、粒子を含む液をシース液中に含ませて流通させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013-527929号公報
【特許文献2】特開2017-062247号公報
【特許文献3】特開2020-073873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のフローサイトメータにおいては、複数の粒子を管路中で流れ方向に一列に整列させていても、粒子をダブルカウントする場合があることが認められている。つまり、ある1つの粒子に由来する散乱光あるいは蛍光を、別々の粒子に各々由来するものとして検出してしまうことがある。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、検体としての粒子をダブルカウントしてしまうことを防止できるフローサイトメータ用レーザ光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1のフローサイトメータ用レーザ光源装置は、
管路において複数の粒子を管路長さ方向に並んだ状態で流通させ、これらの粒子に対して流れの側方側からレーザビームを照射する構成を有するフローサイトメータにおいて、レーザビームを上記粒子に照射するための光源装置であって、
レーザビームを発する半導体レーザと、
この半導体レーザから発散光状態で発せられたレーザビームを平行光にするコリメートレンズと、
このコリメートレンズによって平行光とされたレーザビームを、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、上記管路中で管路長さ方向とスロー軸方向とが揃う状態にするビーム変換ユニットと、
上記ビーム変換ユニットを経たレーザビームを、上記管路中で収束させる収束レンズと、
を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による第2のフローサイトメータ用レーザ光源装置は、相異なる波長のレーザビームを粒子に照射可能としたもので、
管路において複数の粒子を管路長さ方向に並んだ状態で流通させ、これらの粒子に対して流れの側方側からレーザビームを照射する構成を有するフローサイトメータにおいて、レーザビームを上記粒子に照射するための光源装置であって、
互いに異なる波長のレーザビームを発する複数の半導体レーザと、
これら複数の半導体レーザから各々発散光状態で発せられたレーザビームを平行光にする複数のコリメートレンズと、
上記コリメートレンズによって平行光とされたレーザビームをそれぞれ、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、上記管路中で管路長さ方向とスロー軸方向とが揃う状態にする各波長用のビーム変換ユニットと、
上記各波長用のビーム変換ユニットを経た各レーザビームを1本に合波する合波器と、
上記合波器により合波されたレーザビームを上記管路中で収束させる収束レンズと、
を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
なお上記第2の第2のフローサイトメータ用レーザ光源装置において、収束レンズは色消しレンズが適用されることが望ましい。さらに、この第2のフローサイトメータ用レーザ光源装置においては、前記ビーム変換ユニットが、平行光とされた前記互いに異なる波長のレーザビームを、波長分散機能により互いに角度をなして出射させるものであることが望ましい。
【0012】
また、本発明によるフローサイトメータ用レーザ光源装置においては、前記ビーム変換ユニットが、レーザビームをスロー軸方向およびファスト軸方向に偏向可能であることが望ましい。
【0013】
そのように形成されるビーム変換ユニットは、プリズムペアを回転させることによって偏向を行うものであることが望ましい。
【0014】
また、本発明によるフローサイトメータ用レーザ光源装置においては、前記ビーム変換ユニットが、レーザビームをスロー軸方向には、前記縮小されたファスト軸方向のビーム径より大径に拡大するものであることが望ましい。さらに、本発明によるフローサイトメータ用レーザ光源装置においては、上記管路中の収束位置におけるレーザビームのスロー軸方向のビームウエスト径が、ファスト軸方向のビームウエスト径より小さくなっていることが望ましい。
【0015】
また本発明は、上記第1のフローサイトメータ用レーザ光源装置と主要部が共通していて、用途をフローサイトメータ用に限定しない光源装置を提供するものであり、この光源装置は、
レーザビームを発する半導体レーザと、
この半導体レーザから発散光状態で発せられたレーザビームを平行光にするコリメートレンズと、
このコリメートレンズによって平行光とされたレーザビームを、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、レーザビーム照射位置でスロー軸方向を所定の一方向と一致させるビーム変換ユニットと、
このビーム変換ユニットを経たレーザビームを収束させる収束レンズと、
を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフローサイトメータ用レーザ光源装置においては、平行光とされたレーザビームをビーム変換ユニットにより、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、管路中で管路長さ方向とスロー軸方向とが揃う状態にしているので、ダブルカウントを防止することができる。その詳しい理由は、後述する実施の形態に即して説明する。
【0017】
また本発明の光源装置においては、平行光とされたレーザビームをビーム変換ユニットにより、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、レーザビーム照射位置でスロー軸方向を所定の一方向と一致させているので、この所定の一方向をファスト軸方向と一致させた場合に生じる不具合を無くすことができる。その詳しい理由も、後述する実施の形態に即して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態によるフローサイトメータ用レーザ光源装置の全体形状を示す概略側面図(a)と概略平面図(b)
【
図3】半導体レーザが発するレーザビームのファスト軸方向のビームプロファイルを4例示す概略図
【
図4】
図1に示すフローサイトメータ用レーザ光源装置の一部を示す概略側面図
【
図5】本発明の第2実施形態によるフローサイトメータ用レーザ光源装置の全体形状を示す概略平面図
【
図6】
図5に示す光源装置の要部を示す概略側面図(a)と概略平面図(b)
【
図7】
図5に示す光源装置における要部の仕様を示す表
【
図8】
図5に示す光源装置における別の要部の仕様を示す表
【
図10】
図5に示す光源装置における波長640nmのレーザビームのビームプロファイルを示す図
【
図11】
図5に示す光源装置における波長488nmのレーザビームのビームプロファイルを示す図
【
図12】
図5に示す光源装置における波長405nmのレーザビームのビームプロファイルを示す図
【
図13】レーザビームを偏向させる機構の例を示す概略図
【
図14】レーザビームを偏向させる機構の別の例を示す概略図
【
図15】レーザビームを偏向させる機構の別の例を示す概略図
【
図16】レーザビームを偏向させる機構の別の例を示す概略図
【
図17】レーザビームを偏向させる機構の別の例を示す概略図
【
図18】本発明の第3実施形態による光源装置の作用を説明する概略図
【
図19】本発明の第4実施形態による光源装置の作用を説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は本発明の第1実施形態によるフローサイトメータ用レーザ光源装置1を示すものであり、(a)、(b)はそれぞれ本光源装置1の概略側面形状、概略平面形状を示している。この光源装置1においては光源として、1つの半導体レーザ11が適用されており、
図2にはこの半導体レーザ11の概略斜視形状を示している。半導体レーザ11は、一例として波長488nmのレーザビームLを発する出力60mWのものである。
【0020】
図2に示されている通り半導体レーザ11は、活性層11aから出射端面11b側にレーザビームLを発散光状態で発する。レーザビームLは、活性層11aと平行なスロー(Slow)軸方向には発散角θ//で、活性層11aに垂直な方向、つまり層の重なり方向であるファスト(Fast)軸方向には発散角θ⊥でレーザビームLを発する。なおθ//<θ⊥で、通常後者は前者の2~3倍程度である。
図1の(a)、(b)にそれぞれ示した側面形状、平面形状は、上記出射端面11bにおけるスロー軸方向を矢印Sで、ファスト軸方向を矢印Fで示すように、各々それらの軸に対して垂直な方向から光源装置1を見た状態を示している。
【0021】
本実施形態の光源装置1が適用されるフローサイトメータは、ガラス製キャピラリー等からなる微細な管路20を有し、この管路20において、検体としての複数の粒子21を管路長さ方向に一列に整列させて流通させる。そしてフローサイトメータは、これらの粒子21に対して流れの側方側からレーザビームLを照射し、それにより生じた散乱光(前方散乱光や側方散乱光)または蛍光を光検出器で検出して電気信号を得、この電気信号に基づいて1つまたは集団としての粒子21を測定、分析する。本実施形態によるフローサイトメータ用レーザ光源装置1は、管路20内を流れる粒子21に上述のようにレーザビームLを照射するために用いられたものである。
【0022】
図1に示されるように本実施形態の光源装置1は、半導体レーザ11から発散光状態で発せられたレーザビームLを平行光にするコリメートレンズ12と、平行光とされたレーザビームLを順次通過させるプリズム13、14、16、17と、プリズム17から出射したレーザビームLを管路20中で収束させる収束レンズ19とを有している。なお、コリメートレンズ12は、非球面レンズを用いている。球面レンズに比べて非球面レンズは、よりガウスビームに近いビームが得られるので、より効果的にダブルカウントを防止できる。
【0023】
プリズム13および14は、矢印R方向に回転され得る回転ステージ15の上に固定されて、いわゆるプリズムペアを構成している。プリズム16および17も同様に、矢印R方向に回転され得る回転ステージ18の上に固定されて、いわゆるプリズムペアを構成している。またプリズム13および14からなるプリズムペアは第1ビーム変換ユニットを構成し、プリズム16および17からなるプリズムペアは第2ビーム変換ユニットを構成している。なお本明細書で言う「ビーム変換ユニット」とは、レーザビームのビーム径を変換する機能および/またはレーザビームを偏向する機能を有する光学ユニットを指すものである。
【0024】
より詳しく説明すれば、プリズム13および14からなるプリズムペアは、コリメートレンズ12で平行光とされたレーザビームLを、スロー軸方向のビーム径dsはそのまま維持し、ファスト軸方向のビーム径dfは縮小して出射させる。またプリズム13および14からなるプリズムペアはレーザビームLを、ファスト軸を含む面内での進行方向を変えるように偏向して出射させる。
【0025】
一方、プリズム16および17からなるプリズムペアは、コリメートレンズ12を通過した後のスロー軸方向のビーム径dsがそのまま維持されてプリズム14から出射したレーザビームLを、スロー軸方向のビーム径を拡大し、ファスト軸方向のビーム径はそのまま維持して出射させる。またプリズム16および17からなるプリズムペアはレーザビームLを、スロー軸を含む面内での進行方向を変えるように偏向して出射させる。
【0026】
プリズム13、14、16および17は、それぞれ頂角が45°のものである。これらのプリズム13、14、16および17としては、例えば光学ガラスBK7からなるものを好適に用いることができるが、溶融石英等のその他の材料からなるものも適用可能である。
【0027】
プリズム17から出射した後、収束レンズ19により管路20中で収束したレーザビームLは、管路20において管路長さ方向に一列に整列して流れている複数の粒子21を照射する。それにより生じた散乱光(前方散乱光や側方散乱光)あるいは蛍光は、図示外の光検出器で検出される。フローサイトメータは、このとき光検出器が出力する電気的な検出信号に基づいて、1つまたは集団としての粒子21を測定、分析する。
【0028】
本実施形態のフローサイトメータ用レーザ光源装置1において、管路20中で収束するレーザビームLは、
図1の(a)に明示されるように、管路20の長さ方向(粒子21の流れ方向)とスロー軸とが揃う状態にして管路20内に照射される。それによりフローサイトメータにおいては、1つの粒子21をダブルカウントしてしまうことが防止される。以下、その点について詳しく説明する。
【0029】
管路20の中で流れ方向に一列に整列して流通している粒子21をダブルカウントしないためには、管路20の中の収束位置におけるレーザビームLのビームウエスト径が、流れ方向には十分小さいことが必要である。そうでないと、2個の粒子21が相近接して流れて来た際に、1個としてカウントしてしまうからである。それに対して、上記流れ方向に垂直な方向のビームウエスト径は、粒子21にレーザビームLが当たらないでカウント漏れが生じることを防止するために、ある程度大きいことが求められる。例えば、生体微小粒子を検体とする多くのフローサイトメータにおいては、前者のビームウエスト径は10μm以下程度、後者のビームウエスト径は60~100μm以上程度であることが求められる。
【0030】
他方、収束レンズ19によりレーザビームLを収束させる場合、上記ビームウエスト径は、収束レンズ19に入射する前のビーム径が大であるほど小さくなる。具体的に、波長λのレーザビームを焦点距離fのレンズで絞ったときのビーム径2ωは、2ω=4/π・fλ/Dとなる。
【0031】
以上のことに鑑みれば、前述した
図2から分かる通り、上記収束前のレーザビームLを、ファスト軸が粒子流れ方向と揃う状態に配するのが、光学系を簡素化できて望ましいことになる。しかし本発明者の研究によると、レーザビームのファスト軸方向のビームプロファイルはコブ等の乱れを持ったものとなり易く、それがダブルカウント発生につながっていることが判明した。
【0032】
このファスト軸方向のビームプロファイル例を、
図3に示す。同図(a)~(d)において横軸はファスト軸方向位置を示し、縦軸はビーム強度Iを示す。同図の(a)は理想的なガウスビーム状のビームプロファイルを示している。それに対して(b)、(c)、(d)はそれぞれ、プロファイル中央部を挟んで二つのコブが生じているビームプロファイルを、プロファイル端部にショルダーが生じているビームプロファイルを、プロファイル端部に1つのコブが生じているビームプロファイルを示している。
【0033】
このように、粒子21の流れ方向に沿ったレーザビームLのビームプロファイルにコブ等の乱れが生じていると、前述した散乱光や蛍光を検出する検出器の検出信号が、その乱れに起因して変動してしまう。そしてその変動が、実在しない粒子21に由来するものとして捕えられ、ダブルカウントを招いてしまうのである。例えばレーザビームLのビームプロファイルに2つのコブが生じている場合は、1つの粒子21を2つと判定することがある。このようなダブルカウントは、レーザビームLの本来のビーム強度Iに対して1~2%程度の強度のコブが生じている場合でも発生する。
【0034】
以上の知見に基づいて本実施形態では、プリズム13および14からなる第1ビーム変換ユニットおよび、プリズム16および17からなる第2ビーム変換ユニットにより、レーザビームLを、管路20中で管路長さ方向(粒子流れ方向)にスロー軸方向が揃う状態にしている。そこで、ファスト軸方向のビームプロファイルがコブ等の乱れを生じていることに起因するダブルカウントを防止可能となる。
【0035】
また本実施形態では、コリメートレンズ12によって平行光とされたレーザビームLを、上記第1ビーム変換ユニットおよび第2ビーム変換ユニットにより、ファスト軸方向にはビーム径を縮小しスロー軸方向にはビーム径を拡大した上で、収束レンズ19に通して管路20中で収束させている。具体的にスロー軸方向に関しては、コリメートレンズ12を通過後のレーザビームLのビーム径ds=0.56mmであり、このレーザビームLを入射角α=56°でプリズム16に入射させて、プリズム17からビーム径3mmにして出射させている(拡大率Ms=5.4)。なお、コリメートレンズ12を通過後のレーザビームLは、スロー軸方向に関しては第1ビーム変換ユニットに垂直入射しているから、該第1ビーム変換ユニットにおいて上記ビーム径ds=0.56mmは本質的にそのまま維持される。
【0036】
一方ファスト軸方向に関しては、コリメートレンズ12を通過後のレーザビームLのビーム径df=1.4mmであり、このレーザビームLを入射角β=23°でプリズム13に入射させて、プリズム14からビーム径0.5mmにして出射させている(拡大率Ms=0.36)。なお、プリズム14を通過後のレーザビームLは、ファスト軸方向に関しては上記第2ビーム変換ユニットに垂直入射しているから、該第2ビーム変換ユニットにおいて上記ビーム径=0.5mmは本質的にそのまま維持される。ここで、以上述べたビーム径および後述するビームウエスト径は、1/e2径で定義したものである。
【0037】
つまり、焦点距離f=50mmである収束レンズ19に入射する前のレーザビームLは、そのビーム径がスロー軸方向には3mm、ファスト軸方向にはそれより小さい0.5mmとなっている。それにより、収束レンズ19によって絞られた後のレーザビームLの、管路20中の収束位置におけるビームウエスト径を、スロー軸方向には比較的小さい10μmとし、ファスト軸方向には比較的大きい60μmとしている。
【0038】
以上の通り本実施形態では、収束位置でのファスト軸方向のビームウエスト径を前述した60~100μm以上程度とし、スロー軸方向のビームウエスト径を前述した10μm以下程度とすることが容易に実現されている。そして、このような効果を奏し、また前述した通りダブルカウントを防止できる第1ビーム変換ユニットおよび第2ビーム変換ユニットは、それぞれ簡単なプリズムペアからなるものであるので、本実施形態においては光学系の設計、製造および調整も容易で、そのコストも低く抑えられる。
【0039】
光源として半導体レーザ以外のガスレーザ等が適用されて、ビーム断面形状がほぼ正円のレーザビームを管路20中で収束させる場合は、例えばシリンドリカルレンズを用いてレーザビームを絞ることにより、粒子流れ方向とそれに垂直な方向とでビームウエスト径を変えることも考えられる。しかし、シリンドリカルレンズは加工が困難で高価な上、使用に当たっては複雑な調整も必要となる。
【0040】
なお本実施形態において、第2ビーム変換ユニットとしてのプリズムペア(プリズム16および17)は回転ステージ18の上に固定されているので、回転ステージ18を矢印R方向に回転させることにより、この第2ビーム変換ユニットから出射するレーザビームLをスロー軸方向に偏向可能となっている。同様に第1ビーム変換ユニットとしてのプリズムペア(プリズム13および14)は回転ステージ15の上に固定されているので、回転ステージ15を矢印R方向に回転させることにより、この第1ビーム変換ユニットから出射するレーザビームLをファスト軸方向に偏向可能となっている。
【0041】
本実施形態では具体的に、
図4として示す概略図を参照して説明するが、回転ステージ18を矢印R方向に±1°回転させることにより、第2ビーム変換ユニットから出射するレーザビームLの向きが±0.2°変化するように(図中の破線表示)、レーザビームLをスロー軸方向に偏向可能である。これは、前述した回転ステージ15の回転量と、ファスト軸方向の偏向におけるレーザビームLの向きに関しても同様である。
【0042】
上記のようにレーザビームLをファスト軸方向に偏向させることにより、レーザビームLを、管路20の中心位置で収束するように調整することができる。また、レーザビームLをスロー軸方向に偏向させることにより、レーザビームLの粒子流れ方向の収束位置を調整することができる。以上の通りレーザビームLの収束位置を、粒子21の流れ方向についても、また、この方向を横切る方向についても調整可能とすることにより、粒子21に由来する散乱光や蛍光を高強度のものとすることができる。そこで、それらの光を検出する光検出器からの検出信号も高強度化できるので、フローサイトメータの個体間の信号バラツキも無くして、信頼性の高い検出信号を得ることが可能となる。なおレーザビームLを、スロー軸方向とファスト軸方向のいずれか一方向だけに偏向可能としてもよい。
【0043】
<第2の実施形態>
次に
図5~17を参照して、本発明の第2実施形態によるフローサイトメータ用レーザ光源装置2について説明する。なおこれらの図において、先に説明したものと同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は、特に必要の無い限り省略する。
【0044】
図5は本発明の第2実施形態によるフローサイトメータ用レーザ光源装置2の概略平面形状を示すものであり、
図6の(a)、(b)はそれぞれ本光源装置2の要部の概略側面形状、概略平面形状を示している。この光源装置2においては光源として、3つの半導体レーザ31、51および71が適用されている。半導体レーザ31は、一例として波長640nmのレーザビームL1を発する出力100mWのものである。半導体レーザ51は、第1の実施形態で用いられた半導体レーザ11と同様に、波長488nmのレーザビームL2を発する出力60mWのものである。半導体レーザ71は、一例として波長405nmのレーザビームL3を発する出力60mWのものである。
【0045】
半導体レーザ31から発散光状態で発せられたレーザビームL1は、コリメートレンズ32によって平行光とされ、平行光とされたレーザビームL1は順次、第1ビーム変換ユニット33、第2ビーム変換ユニット34、第3ビーム変換ユニット35および第4ビーム変換ユニット36に通される。同様に半導体レーザ51から発散光状態で発せられたレーザビームL2は、コリメートレンズ52によって平行光とされ、平行光とされたレーザビームL2は順次、第1ビーム変換ユニット53、第2ビーム変換ユニット54、第3ビーム変換ユニット55および第4ビーム変換ユニット56に通される。そして半導体レーザ71から発散光状態で発せられたレーザビームL3は、コリメートレンズ72によって平行光とされ、平行光とされたレーザビームL3は順次、第1ビーム変換ユニット73、第2ビーム変換ユニット74、第3ビーム変換ユニット75および第4ビーム変換ユニット76に通される。なお、コリメートレンズ32、52、72は、非球面レンズを用いている。球面レンズに比べて非球面レンズは、よりガウスビームに近いビームが得られるので、ダブルカウントを防止できる効果がより高い。
【0046】
図5では以上述べた12個のビーム変換ユニット33~76を全て概略的に示しているが、
図6にはそれらの中の特に第1ビーム変換ユニット53および第2ビーム変換ユニット54の構成を詳しく示している。この
図6に示されている通り第1ビーム変換ユニット53は、第1の実施形態におけるプリズム13および14からなる第1ビーム変換ユニットと同様に、プリズム53aおよび53bのプリズムペアから構成されたものである。同様に第2ビーム変換ユニット54も、第1の実施形態におけるプリズム16および17からなる第2ビーム変換ユニットと同様に、プリズム54aおよび54bのプリズムペアから構成されたものである。なお
図6では図示を省略しているが、プリズム53aおよび53bのプリズムペアは
図1に示す回転ステージ15と同様の回転ステージの上に固定され、またプリズム54aおよび54bのプリズムペアは
図1に示す回転ステージ18と同様の回転ステージの上に固定されている。そしてそれらの各回転ステージを回転させることにより、レーザビームL2はファスト軸方向にもスロー軸方向にも偏向可能となっている。
【0047】
また、これも
図6では図示を省略しているが、第2ビーム変換ユニット54に続く第3ビーム変換ユニット55(
図5参照)は、上記第1ビーム変換ユニット53と同様に2つのプリズムが配されてなるプリズムペアから構成され、第3ビーム変換ユニット55に続く第4ビーム変換ユニット56(
図5参照)は、上記第2ビーム変換ユニット54と同様に2つのプリズムが配されてなるプリズムペアから構成されている。そして第3ビーム変換ユニット55においても、また第4ビーム変換ユニット56においてもプリズムペアは上記と同様の回転ステージの上に固定され、それらの各回転ステージを回転させることにより、レーザビームL2はファスト軸方向にもスロー軸方向にも偏向可能となっている。
【0048】
第1の実施形態では第1および第2ビーム変換ユニットによってレーザビームLをファスト軸方向およびスロー軸方向に偏向可能としているのに対し、この第2の実施形態では第1および第3ビーム変換ユニットによってレーザビームL2を2段にファスト軸方向に偏向させ、第2および第4ビーム変換ユニットによってレーザビームL2を2段にスロー軸方向に偏向させている。このようにレーザビームL2を各軸方向に2段に偏向させることにより、1段に偏向させる場合と同じ偏向角を最終的に得るとするならば、各ビーム変換ユニットによる偏向角が小さくて済むようになる。
【0049】
これは、第1~4の各ビーム変換ユニットにおいて、そこから出射するレーザビームL2の向きの変化を、回転ステージの回転に対して緩くできることに繋がる。例えば第1の実施形態では前述した通り、回転ステージ18を矢印R方向に±1°回転させることにより、第2ビーム変換ユニットから出射するレーザビームLの向きが±0.2°変化するように第2ビーム変換ユニットを構成可能であったが、本第2の実施形態では、第1~4の各ビーム変換ユニットにおいて、各回転ステージを±1°回転させることにより、ビーム変換ユニットから出射するレーザビームL2の向きが±0.05°変化するようにビーム変換ユニットを構成することもできる。そうであれば、ビーム変換ユニットの製造時や使用時の調整を、より簡単で高精度なものとすることができる。
【0050】
上の説明では、波長488nmのレーザビームL2に対して設けられた第1ビーム変換ユニット53、第2ビーム変換ユニット54、第3ビーム変換ユニット55および第4ビーム変換ユニット56について述べたが、波長640nmのレーザビームL1に対して設けられた第1ビーム変換ユニット33、第2ビーム変換ユニット34、第3ビーム変換ユニット35および第4ビーム変換ユニット36も、それぞれ上記ビーム変換ユニット53、54、55および56と基本的に同様に構成されている。また波長405nmのレーザビームL3に対して設けられた第1ビーム変換ユニット73、第2ビーム変換ユニット74、第3ビーム変換ユニット75および第4ビーム変換ユニット76も、それぞれ上記ビーム変換ユニット53、54、55および56と基本的に同様に構成されている。
【0051】
ここで
図7に、波長640nmのレーザビームL1、波長488nmのレーザビームL2、波長405nmのレーザビームL3の各々について、第1ビーム変換ユニットへ入射する前のビーム径(コリメートビーム径)、第1、第2ビーム変換ユニットへの入射角、第2ビーム変換ユニットから出射する際の出射ビーム径、および該出射ビーム径の上記コリメートビーム径に対する比であるビーム径倍率を、スロー軸およびファスト軸方向に関してそれぞれ示す。
【0052】
また
図8に、同じく波長640nmのレーザビームL1、波長488nmのレーザビームL2、波長405nmのレーザビームL3の各々について、第3ビーム変換ユニットへ入射する際の入射ビーム径(これは、上記第2ビーム変換ユニットから出射する際の出射ビーム径である)、第3、第4ビーム変換ユニットへの入射角、第4ビーム変換ユニットから出射する際の出射ビーム径、および該出射ビーム径の上記入射ビーム径に対する比であるビーム径倍率を、スロー軸およびファスト軸方向に関してそれぞれ示す。
【0053】
図5に示されるように、第4ビーム変換ユニット36から出射したレーザビームL1は第1ミラー37で反射してから、第4ビーム変換ユニット56から出射したレーザビームL2と第1合波器57によって合波される。合波されたレーザビームL1、L2は、第4ビーム変換ユニット76から出射したレーザビームL3と第2合波器77によって合波される。合波されたレーザビームL1、L2、L3は、第5ビーム変換ユニット80に通されてから第2ミラー81で反射し、次いで第6ビーム変換ユニット82に通されてから収束レンズ83に通される。レーザビームL1、L2、L3は収束レンズ83により、管路20中で収束するように収束される。
【0054】
本実施形態でも、管路20中で収束したレーザビームL1、L2、L3は、管路20において管路長さ方向(粒子の流れ方向で、
図5では紙面と垂直な方向)に一列に整列して流れている複数の粒子を照射する。それにより生じた散乱光(前方散乱光や側方散乱光)あるいは蛍光は、図示外の光検出器で検出される。フローサイトメータは、このとき光検出器が出力する電気的な検出信号に基づいて、1つまたは集団としての粒子を測定、分析する。
【0055】
上述した第5ビーム変換ユニット80および第6ビーム変換ユニット82は、既述の各ビーム変換ユニットと同様にプリズムペアからなるものである。第2合波器77で合波された後に第5ビーム変換ユニット80に通されたレーザビームL1、L2、L3は、プリズムの波長分散により、波長488nmのレーザビームL2を中心として互いに一例として約0.2°の角度をなす状態に分離される。またその際、第5ビーム変換ユニット80によりレーザビームL1、L2、L3はいずれもビーム径が約3倍に拡大され、スロー軸方向のビーム径は約3mmとなる。
【0056】
以上のようにまとめてビーム径が拡大されたレーザビームL1、L2、L3は、第6ビーム変換ユニット82において、管路20の長さ方向(粒子21の流れ方向)に互いがなす角度が調整される。次いでレーザビームL1、L2、L3は、収束レンズ83に通されて、管路20中で収束する。本実施形態でもレーザビームL1、L2、L3は、スロー軸方向が管路20の長さ方向(粒子の流れ方向)と一致する状態とされる。それにより、第1の実施形態におけるのと同様の効果を得ることができる。
【0057】
また管路20中で収束するレーザビームL1、L2、L3のビームウエスト径は、スロー軸方向には比較的小さい10μmとし、この方向に垂直なファスト軸方向には比較的大きい60μmとする。
図5では管路20の右側、上側にそれぞれスロー軸方向、ファスト軸方向のビームプロファイルを概略的に示している。また
図9には、レーザビームL1、L2、L3が収束レンズ83を経て管路20中で収束する状態を、管路20の側方側から見て示す。
【0058】
波長が各々640nm、488nm、405nmであるレーザビームL1、L2、L3のビームプロファイルを上記収束位置において実測した結果をそれぞれ
図10、11、12に示す。各図において(a)に示すのがファスト軸方向、(b)に示すのがスロー軸方向のビームプロファイルである。なおこれらの
図10~12では、実測値をプロットし、そのプロットにフィットする理想的なガウスビームのプロファイルを曲線で示している。また収束位置におけるファスト軸方向とスロー軸方向の各ビームウエスト径は、レーザビームL1で42μmと9μm、レーザビームL2で64μmと9μm、レーザビームL3で63μmと8μmである。
【0059】
なお本実施形態においては、収束レンズ83として色消しレンズが適用されている。この色消しレンズは、波長640nm、488nm、405nmに対して色分散補正された、例えば張り合わせ3枚構成の焦点距離50mmのレンズである。このような収束レンズ83を通すことによりレーザビームL1、L2、L3を、波長の違いに依らずに管路20中で、管路径方向の同じ位置に収束させることができる。なお本実施形態において管路20の長さ方向には、レーザビームL1、L2、L3を互いにビーム中心間距離で170μm分離して、互いに一直線に並ぶ状態に収束させている。このようにレーザビームL1、L2、L3を互いに分離して収束させていれば、それぞれ異なる波長のレーザビームL1、L2、L3に由来する散乱光や蛍光を、互いに区別して的確に検出可能となる。
【0060】
なお、色消しレンズが適用されない場合は、上記3通りの波長のいずれかの波長のレーザビームが、ビームウエスト径が10μmよりも大となって収束することもある。また前述したように例えば張り合わせ3枚構成の色消しレンズは、その製造技術も従来確立されていて比較的容易に得ることができる。
【0061】
また、合波前のレーザビームL1は第1~第4ビーム変換ユニット(33~36)において、レーザビームL2も同じく第1~第4ビーム変換ユニット(53~56)において、レーザビームL3も同じく第1~第4ビーム変換ユニット(73~76)において、半導体レーザ毎に異なる発散角を調整して、それぞれ所望のビーム径としている。そうしてからレーザビームL1、L2、L3を上記第5ビーム変換ユニット80および第6ビーム変換ユニット82に入射させているので、レーザビームL1、L2、L3を管路20中で前述したように精度良く収束させることができ、また、そのためのビーム変換ユニットの調整も簡素化できる。
【0062】
以上説明した第2の実施形態では、波長が各々640nm、488nm、405nmであるレーザビームL1、L2、L3を発する3個の半導体レーザ31、51、71用いているが、本発明においては波長が互いに異なるレーザビームとして、それらの以外の波長のレーザビームをそれぞれ発する複数の半導体レーザが用いられてもよい。また、そのような複数の半導体レーザは、3個以外の個数であってもよい。
【0063】
ここで、レーザビームを偏向させる機構として、上記回転ステージを用いるもの以外の例を
図13~17を参照して説明する。これらの例示する機構は、特に相異なる波長の複数のレーザビームの各々を偏向させるためだけでなく、単一波長の1つのレーザビームを偏向させるためにも適用できるものである。
【0064】
図13に示す偏向機構は、レーザビームLを屈折させるプリズム90と、屈折したレーザビームLを一面(図中の下面)で反射させるミラー91とから構成されたもので、ミラー91は上記一面と平行な回転軸91cを中心に矢印R方向に回転可能とされている。そこで、ミラー91を上述のように回転させれば、反射するレーザビームLを図中破線で示すように偏向させることができる。
【0065】
次に
図14に示す偏向機構は、レーザビームLを屈折させるプリズム90と、屈折したレーザビームLを一面(図中の下面)で反射させるミラー91とから構成されたもので、この機構ではプリズム90がレーザビームLの長手方向と平行な回転軸90cを中心に矢印R方向に回転可能とされている。そこで、プリズム90を上述のように回転させれば、ミラー91で反射するレーザビームLを、図中破線で示すように偏向させることができる。この
図14や
図13に示したプリズム90は、前述したようなプリズムペアを構成する一方のプリズムであってもよいし、あるいは単独に設けられたものであってもよい。
【0066】
図15に示す偏向機構は、レーザビームLが入射する凹レンズ92と、この凹レンズ92を通過して発散光となったレーザビームLを略平行光化する凸レンズ93とから構成されたもので、凹レンズ92は光軸と垂直な方向に移動可能とされている。凹レンズ92が、その光軸がレーザビームLのビーム中心と一致する状態に配置されている場合、レーザビームLは凸レンズ93から矢印d0で示す方向に出射する。この状態から凹レンズ92を上記の方向に移動させることにより、凸レンズ93から出射するレーザビームLを矢印d1や矢印d2で示す方向に偏向させることができる。なおこの機構において、例えば凹レンズ92、凸レンズ93の焦点距離がそれぞれ10mm、20mmの場合、凹レンズ92に入射する前のレーザビームLのビーム径に対して、凸レンズ93から出射するレーザビームLのビーム径は2倍に拡大される。
【0067】
図16に示す偏向機構は、レーザビームLが入射する第1凸レンズ94と、この第1凸レンズ94を通過して収束した後に発散光となったレーザビームLを略平行光化する第2凸レンズ95とから構成されたもので、第1凸レンズ94は光軸と垂直な方向に移動可能とされている。第1凸レンズ94が、その光軸がレーザビームLのビーム中心と一致する状態に配置されている場合、レーザビームLは第2凸レンズ95から矢印d0で示す方向に出射する。この状態から第1凸レンズ94を上記の方向に移動させることにより、第2凸レンズ95から出射するレーザビームLを矢印d1や矢印d2で示す方向等に偏向させることができる。なおこの機構において、例えば第1凸レンズ94、第2凸レンズ95の焦点距離がそれぞれ10mm、20mmの場合、第1凸レンズ94に入射する前のレーザビームLのビーム径に対して、第2凸レンズ95から出射するレーザビームLのビーム径は2倍に拡大される。
【0068】
図17に示す偏向機構は、
図16の機構におけるものと同様の第1凸レンズ94および第2凸レンズ95に加えて、第1凸レンズ94によるレーザビームLの略収束位置に配された透明な平行平板96を設けて構成されたものである。平行平板96は例えば光学ガラスBK7等から形成されたもので、略上記収束位置を中心として図中の矢印R方向に回転可能とされている。平行平板96が、レーザビームLが略垂直入射する状態に配置されている場合、レーザビームLは第2凸レンズ95から矢印d0で示す方向に出射する。この状態から平行平板96を上記矢印R方向に回転させることにより、第2凸レンズ95から出射するレーザビームLを矢印d1や矢印d2で示す方向等に偏向させることができる。
【0069】
<第3の実施形態>
この第3の実施形態は、用途をフローサイトメータに限定しない本発明の光源装置の実施形態である。この光源装置の構成は、
図1に示したフローサイトメータ用レーザ光源装置1の構成と同じであり、レーザビームLを照射する対象は
図1に示した管路20ではなく、一例として微細加工をするレーザ加工装置の加工部分である。
【0070】
このレーザ加工装置は、加工部分に対してレーザビームLを2次元走査させて微細加工を施すものである。
図18には加工部分の中の部分的な加工領域をApとして示すが、この加工領域Apに対してレーザビームLが、各々太い矢印X、Yで示す主走査方向および副走査方向に走査される。なお同図ではレーザビームLを、そのビームプロファイルによって概略的に示している。また同図の(a)、(b)に示す矢印F、SはそれぞれレーザビームLのファスト軸方向、スロー軸方向を示している。
【0071】
ある種のレーザ加工装置においては、同図(a)に示すようにファスト軸が主走査方向Xと揃う状態にして微細加工を行うと、副走査方向Yの走査の開始時に加工領域Apの一辺にダレが生じることがある。このダレは副走査の進行に伴って、図中Gで示すような線状の誤加工部となる。以上の不具合は、本発明者の研究によると、レーザビームLのファスト軸方向のビームプロファイルに前述のコブが有ることに起因すると考えられる。なぜなら、同図(b)に示すようにスロー軸が主走査方向Xと揃う状態にして微細加工を行えば、その不具合は発生しないからである。
【0072】
そこで本実施形態においては、
図1に示したプリズム13および14からなるプリズムペアを含む第1ビーム変換ユニット、および、プリズム16および17からなるプリズムペアを含む第2ビーム変換ユニットにより、スロー軸が主走査方向Xと揃う状態になり、かつ照射ビーム径が主走査方向Xに十分小となるように(つまり収束レンズ19に入射する前のビーム径が十分大となるように)レーザビームLの向きとビーム径を設定する。それにより、上述した不具合の発生を防止可能となる。
【0073】
なおレーザ加工装置の他に、レーザビームLを記録材料上で主、副走査させて画像記録を行う記録装置においても、記録材料によっては上記と同様の誤記録がなされることがある。そのような場合にも、この第3の実施形態におけるのと同様の対策を講じることにより、上記誤記録の発生を防止可能となる。
【0074】
<第4の実施形態>
この第4の実施形態も、用途をフローサイトメータに限定しない本発明の光源装置の実施形態である。この光源装置の構成は、
図1に示したフローサイトメータ用レーザ光源装置1の構成と同じであり、レーザビームLを照射する対象は
図1に示した管路20ではなく、情報を担持させるためのピットが形成される光ディスク等の記録媒体である。
【0075】
この記録媒体にピットを形成する記録装置は、光源装置から発せられたレーザビームLを記録媒体表面に2次元走査させてピットを形成する。すなわち
図19に概略的に示すように記録媒体表面に対してレーザビームLが、各々太い矢印X、Yで示す主走査方向および副走査方向に走査される。なお同図ではレーザビームLを、そのビームプロファイルによって概略的に示している。また同図に示す矢印Fは、レーザビームLのファスト軸方向を示している。
【0076】
ある種の記録媒体においては、同図に示すようにファスト軸が主走査方向Xと揃う状態にしてピットPを形成すると、ピットPに対して走査方向の後方側に余計な部分的ピットPfが形成されることがある。この部分的ピットPfは、記録媒体から正しいピットPを読み取る際に読取りエラーを招くこともある。本発明者の研究によると、部分的ピットPfの形成は、レーザビームLのファスト軸方向のビームプロファイルに前述のコブが有ることに起因すると考えられる。なぜなら、スロー軸が主走査方向Xと揃う状態にしてピットPを形成すれば、部分的ピットPfは形成されないからである。
【0077】
そこで本実施形態においては、
図1に示したプリズム13および14からなるプリズムペアを含む第1ビーム変換ユニット、および、プリズム16および17からなるプリズムペアを含む第2ビーム変換ユニットにより、スロー軸が主走査方向Xと揃う状態になり、かつ照射ビーム径が主走査方向Xに十分小となるように(つまり収束レンズ19に入射する前のビーム径が十分大となるように)レーザビームLの向きとビーム径を設定する。それにより、上述した部分的ピットPfの発生を防止可能となる。
【符号の説明】
【0078】
1、2 フローサイトメータ用レーザ光源装置
11、31、51、71 半導体レーザ
12、32、52、72 コリメートレンズ
13、14、16、17 プリズム
15、18 回転ステージ
19、83 収束レンズ
20 管路
21 粒子
33、53、73 第1ビーム変換ユニット
34、54、74 第2ビーム変換ユニット
35、55、75 第3ビーム変換ユニット
36、56、76 第4ビーム変換ユニット
37 第1ミラー
57 第1合波器
77 第2合波器
80 第5ビーム変換ユニット
81 第2ミラー
82 第6ビーム変換ユニット
90 プリズム
91 ミラー
92 凹レンズ
93 凸レンズ
94 第1凸レンズ
95 第2凸レンズ
96 平行平板
L、L1、L2、L3 レーザビーム