(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027972
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】引抜成形体、および引抜成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/52 20060101AFI20230224BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B29C70/52
B29C70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133369
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】成沢 良輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀武
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AD16
4F205HA05
4F205HA14
4F205HA27
4F205HA33
4F205HA37
4F205HB02
4F205HC16
4F205HC17
4F205HK04
4F205HK05
4F205HT16
(57)【要約】
【課題】引抜成形時において引抜方向に対して直交する方向に配向された強化繊維の湾曲や蛇行を抑えることにより物性の低下を抑え、かつ製造コストを抑えることが可能な引抜成形体を提供する。
【解決手段】引抜成形体1は、引抜方向と同一の方向である0°方向に配向された複数の強化繊維4によって構成された0°層2と、引抜方向と直交する方向である90°方向に配向された複数の強化繊維5によって構成された90°層3とを備える。0°層2、90°層3、および0°層2の順に積層されて構成された少なくとも1つの層群が存在するように、複数の0°層2および90°層3が積層されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の方向に配向された強化繊維と当該強化繊維に含浸された樹脂とを含む複合体層が厚み方向に複数積層された引抜成形体であって、
前記複数の複合体層は、
前記強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層と、
前記強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層とを含み、
前記基本層、前記交差層、および前記基本層がこの順に積層された少なくとも1つの層群が存在するように、複数の前記複合体層が積層された、
ことを特徴とする引抜成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の引抜成形体において、
前記基本層は、前記交差層よりも多い、
ことを特徴とする引抜成形体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の引抜成形体において、
前記引抜成形体の最外層に前記基本層が存在する、
ことを特徴とする引抜成形体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の引抜成形体において、
前記基本層と前記交差層とが交互に積層されている、
ことを特徴とする引抜成形体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の引抜成形体において、
前記強化繊維は、炭素繊維またはガラス繊維である、
を特徴とする引抜成形体。
【請求項6】
一定の方向に配向された強化繊維が集合した繊維シートを厚み方向に複数積層する積層工程と、
複数の前記繊維シートに硬化前の樹脂を含浸させる含浸工程と、
樹脂が含浸された前記繊維シートの積層体を加熱された成形型に通すことにより、硬化した前記樹脂と前記強化繊維とを含む複合体層が複数積層されて一体化した引抜成形体を得る引抜工程とを含み、
前記強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層と、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層と、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された前記基本層とがこの順に積層された少なくとも1つの層群が前記引抜成形体に含まれるように、前記積層工程において前記繊維シート各々の前記強化繊維の配向方向を設定する
ことを特徴とする引抜成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂製の引抜成形体において、高い強度が要求される建築資材などに適用される場合には、強化繊維によって強化された成形体が一般的に用いられている。強化繊維を含む引抜成形体を製造する場合、特許文献1記載の製造方法のように、炭素繊維などの強化繊維に樹脂を含浸させ、含浸後の強化繊維を連続的に成形型に送り込みながら引抜成形を行う。このようにして製造された引抜成形体では、強化繊維は、成形体の引抜方向と同じ方向に配向(すなわち引抜方向に対して0°方向に配向)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、引抜成形体において引抜方向に対して垂直方向にも強度が要求される場合には、引抜方向に対して90°方向に配向された強化繊維が必要となる。90°方向に配向された強化繊維を成形型に送り込む場合には、例えば、90°方向に配向された複数の強化繊維をシート状に並べて固定した状態で成形型に送り込むことが考えられる。
【0005】
しかし、引抜成形時において、90°方向に配向された強化繊維を成形型に送り込むときに強化繊維に対して引抜方向と同一の方向に引張荷重が作用することにより、引抜方向に対して90°配向の強化繊維が湾曲や蛇行してしまい、強度などの必要な物性が得られないという問題がある。
【0006】
そのため、従来公知の製造方法では、引抜成形時の90°配向の強化繊維の湾曲や蛇行を抑制するために、NCFシート(Non Crimp Fabric シート:すなわち、強化繊維の配向が互いに異なる複数の強化繊維シートを積層してステッチ(糸止め)により層間を結合した積層シート)、またはクロス(すなわち、0°配向の繊維と90°配向の繊維とを組み合わせた織物)を使用する必要がある。
【0007】
しかし、NCFシートは強化繊維が単一方向に配向されたUDシートなどと比較して高価であるため、NCFシートを用いた場合には製造コストを抑えることが困難である。しかも、NCFシートを用いた場合、各軸の強化繊維を高目付の組み合わせにすると、含浸性の低下が起こり、物性が低下するという問題もある。
【0008】
また、クロスを用いて引抜成形をする場合、クロス内において0°配向の繊維と90°配向の繊維との組合せの際にこれら繊維がすでに屈曲しているため、各繊維軸の高目付が実現できないため、物性が低下するという問題がある。
【0009】
本発明はかかる問題を解消するためになされたものであり、引抜成形時において引抜方向に対して直交する方向に配向された強化繊維の湾曲や蛇行を抑えることにより物性の低下を抑え、かつ製造コストを抑えることが可能な引抜成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の引抜成形体は、一定の方向に配向された強化繊維と当該強化繊維に含浸された樹脂とを含む複合体層が厚み方向に複数積層された引抜成形体であって、前記複数の複合体層は、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層と、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層とを含み、前記基本層、前記交差層、および前記基本層がこの順に積層された少なくとも1つの層群が存在するように、複数の前記複合体層が積層された、ことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、上記の引抜成形体は、一定の方向に配向された強化繊維と当該強化繊維に含浸された樹脂とを含む複合体層が厚み方向に複数積層された構成を有する。複数の複合体層は、強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層と、強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層を含み、2つの基本層が交差層を挟むように積層された構造を有する。そのため、引抜成形時には交差層を挟む2つの基本層における引抜方向と同一方向に配向された強化繊維が引抜方向に作用する引張荷重を担い、交差層の引抜方向に直交する方向に配向された強化繊維への負荷を低減するので、交差層の強化繊維の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。また、この構造では、NCFシートなどの高価なシートを用いる必要がないので、製造コストを抑えることが可能である。
【0012】
上記の引抜成形体において、前記基本層は、前記交差層よりも多いのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、基本層は上述のように交差層よりも引抜成形時における引張荷重に対して強いので、引抜成形体の内部に基本層を交差層よりも多く含むことにより、引抜成形時において基本層における引抜方向と同一方向に配向された強化繊維が引張荷重を多く担い、交差層の引抜方向に直交する方向に配向された強化繊維への負荷をさらに低減する。その結果、交差層の強化繊維の湾曲や蛇行をさらに抑えることが可能である。
【0014】
上記の引抜成形体において、前記引抜成形体の最外層に前記基本層が存在するのが好ましい。
【0015】
引抜成形体の最外層を構成する部分は引抜成形時において最も引張荷重が大きくなる部位であるが、上記の構成では、最外層に引張荷重に対して強い基本層が存在するので、引抜成形時において最外層は引張荷重に対して強くなる。その結果、交差層の強化繊維の湾曲や蛇行をさらに抑えることが可能である。
【0016】
上記の引抜成形体において、前記基本層と前記交差層とが交互に積層されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、少ない基本層によってすべての交差層を挟むことが可能になり、製造コストをさらに抑えることが可能である。また、引抜成形体の全体が均等な積層構造になるので、均一な強度が得られる。
【0018】
上記の引抜成形体において、前記強化繊維は、炭素繊維またはガラス繊維であるのが好ましい。
【0019】
炭素繊維またはガラス繊維は引張強度が強いので、強化繊維としてこれら炭素繊維またはガラス繊維を用いることにより、高強度の引抜成形体が得られる。また、炭素繊維やガラス繊維は引抜成形時において引抜速度に差が生じると繊維同士の間でズレが生じ湾曲や蛇行してしまうが、上記の構成では、2つの基本層が交差層を挟んだ構造であるので、引抜成形時に基本層の引抜方向と同一方向に配向された強化繊維が引張荷重を担うことにより、交差層の引抜方向に直交する方向に配向された強化繊維への負荷を低減するので、当該交差層の繊維の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。したがって、炭素繊維またはガラス繊維を強化繊維として用いても交差層の強化繊維の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。
【0020】
本発明の引抜成形体の製造方法は、一定の方向に配向された強化繊維が集合した繊維シートを厚み方向に複数積層する積層工程と、複数の前記繊維シートに硬化前の樹脂を含浸させる含浸工程と、樹脂が含浸された前記繊維シートの積層体を加熱された成形型に通すことにより、硬化した前記樹脂と前記強化繊維とを含む複合体層が複数積層されて一体化した引抜成形体を得る引抜工程とを含み、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層と、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層と、前記強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層とがこの順に積層された少なくとも1つの層群が前記引抜成形体に含まれるように、前記積層工程において前記繊維シート各々の前記強化繊維の配向方向を設定することを特徴とする。
【0021】
かかる特徴によれば、繊維シートを厚み方向に複数積層する積層工程において、強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層と、強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層と、強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された基本層とがこの順に積層された少なくとも1つの層群が前記引抜成形体に含まれるように、繊維シート各々の強化繊維の配向方向を設定する。これにより、強化繊維の配向方向が引抜方向と同一に設定された2つの基本層が強化繊維の配向方向が引抜方向と直交する方向に設定された交差層を挟むように積層された状態で引抜成形が行われる。このため、引抜成形時において、交差層の両側に配置された基本層における引抜方向と同一方向に配向された強化繊維が引張荷重を担い、交差層の引抜方向に直交する方向に配向された強化繊維への負荷を低減するので、交差層の繊維の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。また、この製造方法では、NCFシートなどの高価なシートを用いる必要がないので、製造コストを抑えることが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の引抜成形体およびその製造方法によれば、引抜成形時において引抜方向に対して直交する方向に配向された強化繊維の湾曲や蛇行を抑えることにより物性の低下を抑え、かつ製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る引抜成形体の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の引抜成形体における基本層である0°層および交差層である90°層が交互に積層された構造を示す拡大斜視図である。
【
図3】
図1の0°層、90°層および0°層が積層された組を説明するための分解斜視図である。
【
図4】
図1の引抜成形体を製造するために用いられる成形装置の概略構成を示す図である。
【
図5】
図4の0°シートの一例を示す説明図である。
【
図6】
図4の90°シートの一例を示す説明図である。
【
図7】(a)は
図1の0°層、90°層および0°層が積層された組を示す拡大斜視図、(b)は0°層、90°層および0°層の組が引抜成形時に受ける引張荷重を示す図、(c)は中間層である90°層が引張荷重を受けても90°配向の繊維が曲がっていない状態を示す図である。
【
図8】(a)は比較例である0°層、90°層および90°層が積層された組を示す拡大斜視図、(b)は0°層、90°層および90°層の組が引抜成形時に受ける引張荷重を示す図、(c)は中間層である90°層が引張荷重を受けることにより90°配向の繊維が引抜方向に向かって凸になるようにくの字状に曲がっている(すなわち湾曲している)状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0025】
図1~3に示される引抜成形体1は、基本的には、一定の方向に配向された強化繊維4、5と当該強化繊維4、5に含浸されたマトリックス樹脂6とを含む複合体層が厚み方向に複数積層された構成を有する。複数の複合体層は、具体的には、強化繊維4の配向方向が引抜方向Aと同一方向(0°方向)に設定された基本層である0°層2と、強化繊維5の配向方向が引抜方向Aと直交する方向B(90°方向)に設定された交差層である90°層3とを含む。
【0026】
本発明の引抜成形体の一例として、
図1に示される引抜成形体1は、L字形断面を有する長尺な柱状の形状を有しているが、引抜成形可能な形状であれば他の形状であってもよい。
【0027】
本実施形態の引抜成形体1は、上述のように、互いに配向の異なる上記の強化繊維4、5によってそれぞれ構成された強化繊維製の層、すなわち、基本層である0°層2と交差層である90°層3とが交互に積層された構造を有する。
図1では、L字断面形状の引抜成形体1を形成するように、0°層2と90°層3とが互いにL字状に上下方向および幅方向に積層している。このような積層構造を有する引抜成形体1では、0°層2および90°層3の数を増やすことにより、断面積の大きい引抜成形体1を形成することが可能である。
【0028】
本実施形態の引抜成形体1では、0°層2、90°層3、および0°層2がこの順に積層された少なくとも1つの層群が存在するように積層されている。
図1~2に示される本例では、0°層2および90°層3が交互に積層することにより、0°層2、90°層3、および0°層2の組は多数存在している。
【0029】
また、
図1に示されるように、本実施形態の引抜成形体1では、当該引抜成形体1の最外層に0°層2が存在するように、0°層2が配置されている。具体的には、
図1では、引抜成形体1の最外層の全体が0°層2によって覆われている。
【0030】
強化繊維4、5は、炭素繊維またはガラス繊維などから選定された繊維材料で構成される。すなわち、強化繊維4、5としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維などの強化繊維を種々の形態、例えば、繊維束の形態(例えば、繊維を軽く撚り合わせたロービング状の形態)などが用いられるが、開繊した形態(すなわち、繊維束をばらして帯状に広げた形態)も用いることが可能である。とくに、炭素繊維束は、強度および耐腐食性などの点で好ましい。
【0031】
強化繊維4、5に含浸されるマトリックス樹脂6は、引抜成形体1の母材となる樹脂である。マトリックス樹脂6としては、種々の熱硬化性樹脂が採用され、例えば、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが使用される。また、難燃剤などの添加剤をマトリックス樹脂6中に加えても良い。
【0032】
なお、0°層2の強化繊維4および90°層3の強化繊維5は、互いに異なる材料や物性であってもよい。
【0033】
上記のように構成された本発明の引抜成形体は、建築資材、土木資材の他、電車などの車両の構造材などに用いることが可能である。
【0034】
(引抜成形体1の製造方法の説明)
上記のように構成された引抜成形体1を製造する場合、
図4に示される引抜き装置20を用いて引抜成形される。引抜き装置20は、シート送出ローラ21と、上流側ガイド22と、含浸槽23と、下流側ガイド26と、成形型27と、引取機28とを備える。
【0035】
シート送出ローラ21は、0°層2の素材となる0°シート32および90°層3の素材となる90°シート33を下流側に送り出すローラである。上流側ガイド22は、0°シート32および90°シート33を集約しながら下流側へ案内し、0°シート32および90°シート33が交互に積層された積層体36を構成する。
【0036】
含浸槽23は、マトリックス樹脂6の硬化前の状態のマトリックス樹脂24が張られている。0°シート32および90°シート33の積層体36は、ガイドローラ25によって案内されながら含浸槽23を通って硬化前のマトリックス樹脂24が含浸される。
【0037】
成形型27では、含浸後の0°シート32および90°シート32の積層体36を受け入れて加熱および加圧を行う金型であり、所定の断面形状、例えば、
図1に示されるようなL字形断面形状に成形して下流側に排出する。
【0038】
引取機28は、成形型27から排出された引抜成形体1を引き取る構成を有する。具体的には、引取機28は、複数対のローラ28aと、上下方向に対応配置されかつローラ28aに掛け回された一対の無端ベルト28bとを備える。ローラ8aは、無端ベルト28bを介して引抜成形体1を上下から挟み込んだ状態で回転することにより、引抜成形体1を成形型27から排出させるとともに成形型27のさらに下流側に送り出す。
【0039】
引抜成形体1を製造する場合、上記のように構成された引抜き装置20を用いて以下の手順(i)~(iii)で製造される。
【0040】
(i)まず、一定の方向に配向された強化繊維が集合した繊維シートを厚み方向に複数積層する(積層工程)。
【0041】
具体的には、まず、0°層2の素材となる0°シート32(繊維シート)および90°層3の素材となる90°シート33(繊維シート)を準備する。
【0042】
0°シート32は、0°方向に配向された複数の強化繊維4をシート状に並べて固定することにより形成される。例えば、
図5に示されるように、開繊されていない繊維束である複数の0°配向の強化繊維4を糸34で互いにつなぎ合わせることにより形成される。
【0043】
90°シート33は、90°方向に配向された複数の強化繊維5をシート状に並べて固定することにより形成される。例えば、上記と同様に、
図6に示されるように、開繊されていない繊維束である複数の90°配向の強化繊維5を糸35で互いにつなぎ合わせることにより形成される。
【0044】
なお、90°シート33は、強化繊維5を糸35でつなぎ合わせる方法だけでなく、他の方法、例えば、複数の強化繊維5を接着剤で互いに固定する方法、複数の強化繊維5を一対のメッシュ材によって挟み込むことにより固定する方法、などによって形成することも可能である。
【0045】
また、90°シート33を形成するためのこれらの方法は、上記の0°シート32を形成することにも応用することが可能である。
【0046】
0°シート32および90°シート33は、上下方向に交互に並ぶように、シート送出ローラ21にセットされる。
【0047】
ついで、シート送出ローラ21から0°シート32および90°シート33を下流側に送り出し、上流側ガイド22を用いて0°シート32および90°シート33を積層することにより積層体36を構成する。この積層体32には、0°層2、90°層3、および0°層2がこの順に積層された複数の層群が含まれる。
【0048】
(ii)ついで、積層された0°シート32および90°シート33の積層体36を硬化前の状態のマトリックス樹脂24が張られた含浸槽23に通すことにより、0°シート32および90°シート33の強化繊維4、5をマトリックス樹脂24に含浸させる(含浸工程)。
【0049】
なお、上記の(i)積層工程と(ii)含浸工程の順番については、本発明ではとくに限定するものではなく、(ii)含浸工程を先に行ってから(i)積層工程を行ってもよい。
【0050】
(iii)含浸後の0°シート32および90°シート33の積層体36を加熱された成形型27に通してマトリックス樹脂24を硬化させ、マトリックス樹脂24の硬化により形成された引抜成形体1を成形型27から引取機28で引き取る(引抜工程)。
【0051】
以上のようにして0°層2および90°層3が交互に積層された引抜成形体1を引抜成形によって連続的に成形することが可能である。
【0052】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の引抜成形体1は、
図1~3に示されるように、一定の方向に配向された強化繊維4、5と当該強化繊維4、5に含浸されたマトリックス樹脂6とを含む複合体層(具体的には、0°層2、90°層3)が厚み方向に複数積層されることにより成形される。
【0053】
複数の複合体層は、強化繊維4の配向方向が引抜方向Aと同一方向である0°に設定された基本層である0°層2と、強化繊維5の配向方向が引抜方向Aと直交する方向Bである90°に設定された交差層である90°層3とを含む。0°層2、90°層3、および0°層2がこの順に積層された少なくとも1つの層群が存在するように、複数の複合体層が積層されている。
【0054】
かかる構成によれば、上記の引抜成形体1を構成する複数の複合体層は、2つの0°層2が90°層3を挟むように積層された構造を有する。そのため、引抜成形時には90°層3を挟む2つの0°層2における0°に配向された強化繊維4が引抜方向Aに作用する引張荷重を担い、90°層3の90°に配向された強化繊維5への負荷を低減するので、90°配向の強化繊維5の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。また、この構造では、NCFシートなどの高価なシートを用いる必要がないので、製造コストを抑えることが可能である。
【0055】
なお、本明細書でいう「湾曲」とは引抜方向に向かって凸になるようにくの字状に曲がる現象を言い、「蛇行」とは引抜方向に向かって複数の凸になる部分および凹になる部分が交互に生じるように引抜方向およびその反対方向に交互に連続して曲がる現象を言う。
【0056】
(2)
本実施形態の引抜成形体1では、0°層2は、90°層3よりも多い。この構成によれば、0°層2は上述のように90°層3よりも引抜成形時における引張荷重に対して強いので、引抜成形体1の内部に0°層2を90°層3よりも多く含むことにより、引抜成形時において0°層2における0°に配向された強化繊維4が引張荷重を多く担い、90°層3の90°に配向された強化繊維5への負荷をさらに低減する。複合体層における0°層2と90°層3の層数の割合は51:49~99:1程度が好ましい。その結果、90°配向の強化繊維5の湾曲や蛇行をさらに抑えることが可能である。
【0057】
(3)
本実施形態の引抜成形体1では、引抜成形体1の最外層に0°層2が存在する。
【0058】
引抜成形体1の最外層を構成する部分は引抜成形時において最も引張荷重が大きくなる部位であるが、上記の構成では、最外層の少なくとも一部に引張荷重に対して強い0°層2が存在するので、引抜成形時において最外層は引張荷重に対して強くなる。その結果、90°配向の強化繊維5の湾曲や蛇行をさらに抑えることが可能である。
【0059】
なお、本発明では、引抜成形体1の最外層の少なくとも一部に0°層2が存在することは必須ではなく、最外層が90°層3で構成されていてもよい。
【0060】
(4)
本実施形態の引抜成形体1では、0°層2と90°層3とが交互に積層されている。この構成によれば、少ない0°層2によってすべての90°層3を挟むことが可能になり、製造コストをさらに抑えることが可能である。また、引抜成形体1の全体が均等な積層構造になるので、均一な強度が得られる。
【0061】
なお、本発明では、0°層2、90°層3、および0°層2の順に積層されて構成された少なくとも1つの組が存在していればよく、0°層2と90°層3とが交互に積層されていることは必須ではない。したがって、0°層2、90°層3、および0°層2の組(すなわち、0/90/0の組)が存在していれば、交互に積層していない積層構造、例えば、0°層2、90°層3、および0°層2の組を2組足し合わせた構造、すなわち、0/90/0//0/90/0//・・・のような0°層2が一部連続している構造であってもよい。
【0062】
(5)
本実施形態の引抜成形体1では、強化繊維4、5は、炭素繊維またはガラス繊維である。
【0063】
炭素繊維またはガラス繊維は引張強度が強いので、強化繊維4、5としてこれら炭素繊維またはガラス繊維を用いることにより、高強度の引抜成形体1が得られる。また、炭素繊維やガラス繊維は引抜成形時において引抜速度に差が生じると繊維同士の間でズレが生じ湾曲や蛇行が生じてしまうが、上記の構成では、2つの0°層2が90°層3を挟んだ構造であるので、引抜成形時に0°層2の0°に配向された強化繊維4が引張荷重を担うことにより、90°層3の90°に配向された強化繊維5への負荷を低減するので、当該90°配向の繊維のズレおよび湾曲や蛇行を抑えることが可能である。したがって、炭素繊維またはガラス繊維を強化繊維4、5として用いても90°配向の強化繊維5の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。
【0064】
(6)
本実施形態の引抜成形体1の製造方法は、一定の方向に配向された強化繊維4、5が集合した繊維シートである0°シート32および90°シート33を厚み方向に複数積層する積層工程と、複数の0°シート32および90°シート33に硬化前の樹脂24を含浸させる含浸工程と、樹脂24が含浸された0°シート32および90°シート33の積層体36を加熱された成形型27に通すことにより、硬化した樹脂6と強化繊維4、5とを含む複合体層が複数積層されて一体化した引抜成形体1を得る引抜工程とを含む。
【0065】
上記の積層工程において、強化繊維4の配向方向が引抜方向Aと同一に設定された基本層である0°層2と、強化繊維5の配向方向が引抜方向Aと直交する方向Bに設定された交差層である90°層3と、強化繊維4の配向方向が引抜方向Aと同一に設定された基本層である0°層2とがこの順に積層された少なくとも1つの層群が引抜成形体1に含まれるように、0°シート32および90°シート33各々の強化繊維4、5の配向方向を設定する。
【0066】
かかる特徴によれば、繊維シートを厚み方向に複数積層する積層工程において、0°層2と、90°層3と、0°層2とがこの順に積層された少なくとも1つの層群が引抜成形体1に含まれるように、積層工程において0°シート32および90°シート33各々の強化繊維4、5の配向方向を設定する。これにより、2つの0°層2が90°層3を挟むように積層された状態で引抜成形が行われる。このため、引抜成形時において、90°層3を挟む2つの配置された0°層2における0°に配向された強化繊維4が引張荷重を担い、90°層3の90°に配向された強化繊維5への負荷を低減するので、90°配向の強化繊維5の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。また、この製造方法では、NCFシートなどの高価なシートを用いる必要がないので、製造コストを抑えることが可能である。
【0067】
(実施例)
つぎに、
図7~8を参照しながら、本発明の実施例に係る引抜成形体の構造(
図7(a))と、比較例の引抜成形体の構造(
図8(a))とを比較するとともに、それぞれの構造における引抜成形時の90°層3の強化繊維5の曲がりを検証する。
【0068】
図7(a)に示される本発明の実施例に係る引抜成形体は、0°層2、90°層3、および0°層2の順に積層された組(すなわち、0/90/0の構造)で構成されている。この実施例の引抜成形体は、上記実施形態と同様のL字形断面形状を有し(縦50mm、横50mm、厚み5mm)、強化繊維4と強化繊維5としてピッチ系炭素繊維が用いられ、マトリックス樹脂6としてビニルエステル樹脂が用いられる。
【0069】
この
図7(a)に示される本実施例の構造は、2つの0°層2が90°層3を挟むように積層された構造であるため、
図7(b)に示されるように、引抜成形時には90°層3を挟む2つの0°層2における0°に配向された強化繊維4が引抜方向Aに作用する引張荷重Fを担い、90°層3の90°に配向された強化繊維5への負荷を低減する。そのため、
図7(c)に示されるように、中間層である90°層3の90°配向の強化繊維5の湾曲や蛇行を抑えることが可能である。
【0070】
一方、
図8(a)に示される比較例の引抜成形体は、0°層2、90°層3、および90°層3の順に積層された組(すなわち、0/90/90の構造)で構成されている。ここで、中間層である90°層3を「3A」、第3層である90°層3を「3B」と区別する。
【0071】
この比較例の引抜成形体についても、上記実施例の引抜成形体と同様に、L字形断面形状を有し(縦50mm、横50mm、厚み5mm)、強化繊維4と強化繊維5としてピッチ系炭素繊維が用いられ、マトリックス樹脂6としてビニルエステル樹脂が用いられる。
【0072】
図8(a)に示される比較例の構造は、中間層である90°層3Aを0°層2および第3層である90°層3Bが挟むように積層された構造であるため、
図8(b)に示されるように、中間層である90°層3Aの片側しか0°層2が存在しないので、引抜成形時には片側の0°層2における0°に配向された強化繊維4だけでは引抜方向Aに作用する引張荷重Fを担うことは不十分であり、中間層である90°層3Aの90°に配向された強化繊維5への負荷が大きくなる。そのため、
図8(c)に示されるように、中間層である90°層3Aの90°配向の強化繊維5の湾曲(引抜方向Aに向かって凸になるようにくの字状に曲がっている現象)が生じており、さらに第三層の90°層3Bまで湾曲してしまい、抑制効果が生じていないことが分かる。
【0073】
上記の
図7~8を用いた検証結果を見れば、本実施例のように0°層2、90°層3、および0°層2の順に積層された組(すなわち、0/90/0の構造)の構造を採用することにより、中間層である90°層3の強化繊維5の湾曲や蛇行を抑制することが可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0074】
1 引抜成形体
2 0°層(基本層)
3 90°層(交差層)
4、5 強化繊維
6 マトリックス樹脂(樹脂)
20 成形装置
24 硬化前のマトリックス樹脂
27 成形型
28 引取機
32 0°シート(繊維シート)
33 90°シート(繊維シート)