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  • 特開-クライストロン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027974
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】クライストロン
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/20 20060101AFI20230224BHJP
   H01J 23/22 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
H01J23/20 A
H01J23/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133372
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦方 弘人
(57)【要約】
【課題】 安定に動作できるクライストロンを提供する。
【解決手段】 同軸線上に隣り合わせに配置した複数の空胴共振器を備え、空胴共振器は、円筒体と、円筒体の両端側にそれぞれ設けた一方及び他方のドリフト管と、円筒体の各端でそれぞれドリフト管を支持する一方及び他方の支持体と、一方及び他方のドリフト管の間隔を調整する間隔調整手段とを備え、円筒体は、一端面から軸線と平行に突設する突起を備え、一方の支持体は、前記突起に当接して設けてあり、間隔調整手段は、一方の支持体を前記突起に向けて押圧することで、突起を塑性変形させて一方及び他方のドリフト管の間隔を調整するクライストロンである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸線上に隣り合わせに配置した複数の空胴共振器を備え、
前記空胴共振器は、円筒体と、前記円筒体の両端側にそれぞれ設けた一方及び他方のドリフト管と、前記円筒体の前記各端でそれぞれ前記ドリフト管を支持する一方及び他方の支持体と、前記一方及び他方のドリフト管の間隔を調整する間隔調整手段とを備え、
前記円筒体は、一端面から前記軸線と平行に突設する突起を備え、前記一方の支持体は、前記突起に当接して設けてあり、
前記間隔調整手段は、前記一方の支持体を前記突起に向けて押圧することで、前記突起を塑性変形させて前記一方及び他方のドリフト管の間隔を調整するクライストロン。
【請求項2】
前記間隔調整手段は、前記一方の支持体に当接する支持体当接部材と、前記支持体当接部材に螺合する螺合部材とを備え、前記螺合部材を螺進することで前記支持体当接部材が前記一方の支持体を前記突起に向けて押圧する請求項1に記載のクライストロン。
【請求項3】
前記支持体当接部材は、前記突起に対応する位置で前記一方の支持体に向けて突設する押圧部を有する請求項2に記載のクライストロン。
【請求項4】
前記円筒体の前記一端面は、前記突起の外周側で前記一方の支持体の外周面に対向する段部を備え、前記一方の支持体の前記外周面は前記段部に当接する当接片を備え、前記一方の支持体の前記外周面と前記円筒体の前記一端面との間に、前記突起と、前記段部と、前記当接片とで囲まれる気密空間を形成している請求項1に記載のクライストロン。
【請求項5】
前記突起には、前記円筒体の内側空間に連通する連通孔が形成されている請求項4に記載のクライストロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、クライストロンに関する。
【背景技術】
【0002】
クライストロンは、同軸線上に空胴共振器を複数配置しており、電子銃から取出した電子ビームをこの空胴共振器を通過させることで、電子ビームと空胴共振器の間で相互作用による直流電力から高周波電力への変換がおこなわれ、安定なマイクロ波の増幅をしている。そして、空胴共振器では、電子ビームと相互作用させるために適した共振周波数に調整されている。
一方、空胴共振器は、円筒体と、円筒体の両端側にそれぞれ設けたドリフト管と、円筒体の各端でそれぞれドリフト管を支持する円板(支持体)とで構成されているものがある。
係る空胴共振器では、互いに対向するドリフト管は所定の間隔で保持されているが、ドリフト管の間隔調整のために円板(支持体)にはドリフト管を囲むように薄肉部を設けて、ドリフト管を囲む薄肉部を塑性変形させることでドリフト管の位置調整できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-113498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空胴共振器では、通過する電子ビームが空胴共振器により速度変調を受けて密度変調される。このため、粗密のある電子ビームがドリフト管内を通過することで、ドリフト管内面壁に誘導された電流が流れる。
このように、クライストロンを動作させると、ドリフト管内壁は、誘起された電流により損失を生じ、熱に変換されて周囲に拡散する。
しかし、支持体に薄肉部が設けてある場合、ドリフト管内壁からの熱拡散が、薄肉部で阻害され、円板周囲方向への熱伝導が十分行えず、ドリフト管の温度が高温になる場合がある。ドリフト管の温度が大きく変化すると、熱膨張により寸法が変化して共振周波数が変化してしまう。結果として、空胴共振器と電子ビームの相互作用に影響し、クライストロンの動作が不安定になるという不都合があった。
【0005】
本実施形態は、安定に動作できるクライストロンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態は、同軸線上に隣り合わせに配置した複数の空胴共振器を備え、前記空胴共振器は、円筒体と、前記円筒体の両端側にそれぞれ設けた一方及び他方のドリフト管と、前記円筒体の前記各端でそれぞれ前記ドリフト管を支持する一方及び他方の支持体と、前記一方及び他方のドリフト管の間隔を調整する間隔調整手段とを備え、前記円筒体は、一端面から前記軸線と平行に突設する突起を備え、前記一方の支持体は、前記突起に当接して設けてあり、前記間隔調整手段は、前記一方の支持体を前記突起に向けて押圧することで、前記突起を塑性変形させて前記一方及び他方のドリフト管の間隔を調整するクライストロンである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係るクライストロンの概略構造を示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係るクライストロンに用いられる空胴共振器を一部破断して示す斜視図である。
図3図3は、図2に示す突起の部分を破断して示す斜視図である。
図4図4(a)(b)は、それぞれ突起の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
まず、図1図3を参照して、実施形態について説明する。
図1に示すように、実施形態に係るクライストロン1は、軸線Kに対して、同軸線上に、電子銃3、入力空胴5、出力空胴7、コレクタ9を備えており、入力空胴5と、出力空胴7との間には、本実施形態に係る空胴共振器11(図2参照)が軸線K上に隣り合わせに複数設けられている。
電子銃3には、カソード3aが設けてある。
入力空胴5には、高周波電力(RF)の入力窓5aが設けられており、出力空胴7には高周波電力(RF)の出力窓7aが設けられている。
各空胴5、7、11はそれぞれドリフト管13が軸線Kを一致させて配置されている。
そして、電子銃3から取出した電子ビームを、入力空胴5、複数の空胴共振器11(後述する)を通過させることで、電子ビームと空胴共振器11の間で相互作用による直流電力から高周波電力への変換がおこなわれた後、出力空胴7の出力窓7aから増幅された高周波電力(RF)が取出される。
【0010】
図2に示すように、空胴共振器11は、円筒体15と、円筒体15の一端側に設けた一方のドリフト管13aと、円筒体13の他端側に設けた他方のドリフト管13bと、一方のドリフト管13aを支持する一方の支持体17aと、他方のドリフト管13bを支持する他方の支持体17bと、間隔調整手段19とを備えている。
【0011】
円筒体15は、一端面15aから前記軸線Kと平行に外方に向けて突設する突起21を備えている。突起21は、円筒体15の内周面15cに連続して突出しており且つ円筒体15の周方向全体に連続している。
図3に示すように、突起21は縦断面が略四角形状を成している。
図2に示すように、円筒体15において、一端面15a側の外周には、フランジ23が周方向に亘って設けてある。
【0012】
一方のドリフト管13a及び他方のドリフト管13bは、それぞれ円筒形状を成し、端部を互いに対向しており、ドリフト管ギャップdの間隔をあけて配置されている。このドリフト管ギャップdを調整することで共振周波数を調整している。
一方のドリフト管13aを支持する一方の支持体17a及び他方のドリフト管13bを支持する他方の支持体17bは、それぞれ中央に孔が形成された円板状であり、円板は一様な厚みに形成されている。
一方の支持体17a及び他方の支持体17bの中央の孔には、対応する一方のドリフト管13a及び他方のドリフト管13bがそれぞれ挿通した状態で固定されている。
一方の支持体17aは、円筒体15の一端面15a側に設けてあり、外周部を突起21に当接して配置されている。
他方の支持体17bは、円筒体15の他端面15b側に設けてあり、外周部を他端面15bに密着してろう付け等により固定されている。
【0013】
ここで、円筒体15の一端面15aと一方の支持体17aの外周部について、更に詳しく説明する。
円筒体15の一端面15aには外周面に連続して立ち上げて成り、一端面15aに対して段を形成する段部25が形成されている。
一方の支持体17aの外周部には、突起21との当接面27aに対して、反対側の面27bに連続して外周方向に突設して、段部25に当接する当接片29が設けてある。当接片29は、一方の支持体17aの周方向全体に亘って形成されている。
当接片29の外周端29aは、段部25の内周面に係止すると共にろう付け等により固定してある。
そして、一方の支持体17aの外周面31と円筒体15の一端面15aとの間に、突起21と、段部25と、前記当接片29とで囲まれる気密空間S1を形成している。
図3に示すように、突起21には、気密空間S1と円筒体15の内側空間S0に連通する連通孔33が周方向に所定間隔をあけて形成されている。
【0014】
間隔調整手段19は、一方の支持体17aを突起21に向けて押圧することで、突起21を塑性変形させて、ドリフト管ギャップdを調整するものである。
間隔調整手段19は、一方の支持体17aにおいて、突起21と反対側の面27bに当接する支持体当接部材35と、支持体当接部材35に螺合する螺合部材37とを備えている。
支持体当接部材35は、一方の支持体17aを押圧する押圧部35aと、螺合部材37が螺合される被螺合部35bとが形成されており、押圧部35aと被螺合部35bとで断面略L字形状をなしている。押圧部35aは、突起21に対応する位置に設けてあり、一方の支持体17aの外周部のみを押圧する。
螺合部材37は、ボルトであり、頭37aをフランジ23に係止し、軸37bをフランジ23に挿通して、支持体当接部材35に螺合している。
螺合部材37を螺進することで、支持体当接部材35の押圧部35aが一方の支持体17aを突起21に向けて押圧し、突起21が塑性変形することで一方の支持体17aが他方の支持体17b側に移動し、ドリフト管ギャップdを狭くする。
【0015】
次に、本実施形態に係るクライストロン1の作用効果について、説明する。
空胴共振器11において、ドリフト管ギャップdを小さくする場合には、螺合部材37を締め付けることにより、一方の支持体17aが支持体当接部材35の押圧部35aに押されて、円筒体15の突起21が塑性変形して潰れる。これにより、一方の支持体17aに固定されている一方のドリフト管13aが他方のドリフト管13bに近づくので、ドリフト管ギャップdを小さくできる。
【0016】
クライストロンを動作させると、ドリフト管13a、13bの内壁は、電圧変化により誘起された電流の損失が、熱に変換されて周囲に拡散する。
一方及び他方の支持体17a、17bは、一様な厚みであり従来技術のように薄肉部等がないため、一方及び他方のドリフト管13a、13bの熱拡散が妨げられることなく周囲方向へ一様に熱伝導され、一方及び他方の支持体17a、17b及び円筒体15の全体に拡散される。したがって、ドリフト管13a、13bの温度が高温なることを防止でき、熱膨張による寸法の変化を低減し、共振周波数が変化してしまうのを防止できるから、クライストロンの動作を安定にできる。
【0017】
間隔調整手段19は、支持体当接部材35と、支持体当接部材35に螺合する螺合部材37とにより構成しているから、簡易な構成である。また、螺合部材37の螺進により、容易にドリフト管ギャップの調整ができる。
支持体当接部材35は、押圧部35aと被螺合部35bとで断面略L字形状をなしているので小型でコンパクトな形状であり、押圧部35aは突起21に対応した位置にあるから、突起21を潰す力(塑性変形させる力)が伝わり易い。
【0018】
一方の支持体17aの外周面31と円筒体15の一端面15aとの間に、突起21と、段部25と、当接片29とで囲まれる気密空間S1を形成し、円筒体15内の内側空間S0と連通させているので、一方の支持体17aが変位した場合でも当接片29が塑性変形して追従できるから、気密空間S1の真空を保持することができる。
気密空間S1と内側空間S0は、突起21に形成した連通孔33により容易に連通できる。
【0019】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0020】
例えば、突起21の形状は、断面四角形状に限らず、図4(a)に示すような断面楔形状でも良いし、図4(b)に示すような断面半円形状であっても良い。
また、支持体当接部材35に設けた押圧部35aは、周方向に連続することに限らず、間隔をあけて設けても良い。
【符号の説明】
【0021】
1…クライストロン、11…空胴共振器、13a…一方のドリフト管、13b…他方のドリフト管、17a…一方の支持体、17b…他方の支持体、19…間隔調整手段、21…突起、25…段部、29…当接片、33…連通孔、35…支持体当接部材、35a…押圧部、37…螺合部材、d…ドリフト管の間隔(ドリフト管ギャップ)、K…軸線。
図1
図2
図3
図4